説明

正極活物質の製造方法および正極活物質

【課題】サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を与える正極活物質を提供する。
【解決手段】リチウム元素と、M1(M1は、周期表第5族元素および第6族元素から選ばれる1種以上の遷移金属元素である。)と、M2(M2は、M1を除く遷移金属元素から選ばれる1種以上の遷移金属元素である。)とを水に溶解させて水溶液を得る工程、および該水溶液の水分を噴霧乾燥により除去する工程を有することを特徴とする正極活物質の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質の製造方法および正極活物質に関する。特に、非水電解質二次電池に用いられる正極活物質の製造方法および正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池用正極活物質、とりわけリチウム二次電池用正極活物質としてリチウム複合金属酸化物が用いられている。リチウム二次電池は、既に携帯電話用途やノートパソコン用途等の小型電源として実用化されており、更に自動車用途や電力貯蔵用途等の中・大型電源においても、適用が試みられている。
【0003】
従来のリチウム複合金属酸化物として、特許文献1には、層状構造を有するリチウム−ニッケル−マンガン複合酸化物が記載されている。ここでは、該化合物は、共沈法で得た遷移金属複合酸化物と水酸化リチウムとを混合し、900℃・12時間・空気中で焼成して得られている。
また、特許文献2にはリチウム−ニッケル−マンガン複合酸化物、リチウム−コバルト−マンガン複合酸化物が記載されており、ここでの製造方法としては、噴霧乾燥法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−187282号公報
【特許文献2】国際公開第98/29915号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなリチウム複合金属酸化物を正極活物質として用いた非水電解質二次電池は、サイクル特性において十分なものではない。また、サイクル特性等の電池特性の向上には周期表第5族元素および/または第6族元素をドープすることが有効であると考えられるが、特許文献1に記載のような製造方法では、周期表第5族元素および/または第6族元素をドープすることが困難であった。本発明の目的は、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を与える正極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々検討した結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、下記の発明を提供する。
<1>リチウム元素と、M1(M1は、周期表第5族元素および第6族元素から選ばれる1種以上の遷移金属元素である。)と、M2(M2は、M1を除く遷移金属元素から選ばれる1種以上の遷移金属元素である。)とを水に溶解させて水溶液を得る工程、および該水溶液の水分を噴霧乾燥により除去する工程を有する正極活物質の製造方法。
<2>前記水分を除去した後に得られる乾燥物に熱処理をする工程をさらに有する前記<1>に記載の正極活物質の製造方法。
<3>前記熱処理温度が、100〜1000℃である前記<1>または<2>に記載の正極活物質の製造方法。
<4>前記水溶液が有機酸をさらに含む前記<1>〜<3>のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。
<5>前記<1>〜<4>のいずれかに記載の方法により得られる正極活物質。
<6>前記<5>に記載の正極活物質を有する正極。
<7>前記<6>に記載の正極を有する非水電解質二次電池。
<8>下記式(I)で示され、BET比表面積が5m2/gより大きく15m2/g以下である正極活物質。
Lix1y31-y2 (I)
(ここで、M1は、周期表第5族元素および第6族元素から選ばれる1種以上の遷移金属元素であり、M3は、M1以外の元素であり、かつFeを除く遷移金属元素から選ばれる1種以上の遷移金属元素であり、xは0.9以上1.3以下であり、yは0を超え1未満である。)
<9>M1が、V(バナジウム)である前記<5>または<8>に記載の正極活物質。
<10>M3が、Ni、CoおよびMnからなる群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素である前記<8>または<9>に記載の正極活物質。
<11>yが0を超え0.03以下である前記<8>〜<10>のいずれかに記載の正極活物質。
<12>yが0を超え0.01以下である前記<8>〜<11>のいずれかに記載の正極活物質。
<13>前記<8>〜<12>のいずれかに記載の正極活物質を有する正極。
<14>前記<13>に記載の正極を有する非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を与える正極活物質を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の正極活物質は、リチウム元素と、M1(M1は、周期表第5族元素および第6族元素から選ばれる1種以上の遷移金属元素である。)と、M2(M2は、M1を除く遷移金属元素から選ばれる1種以上の遷移金属元素である。)とを水に溶解させて水溶液を得る工程、および該水溶液の水分を噴霧乾燥により除去する工程を有する製造方法から得られることを特徴とする。
【0010】
前記水溶液は主として水を溶媒とし、リチウム元素とM1とM2とを溶解させて得ることができる。前記水溶液中には沈殿物のような固形分は存在せず、スラリーではない。
【0011】
本発明において、噴霧乾燥の雰囲気温度は20〜400℃の範囲が好ましい。結晶水の残留や吸湿がより低くなることから、80℃以上がより好ましく、100℃以上がさらにより好ましい。また、より均一性に優れた正極活物質が得られることから、380℃以下が好ましく、350℃以下がさらにより好ましい。
【0012】
本発明において、水分を除去した後に得られる乾燥物に熱処理をする工程をさらに有することが好ましい。該熱処理は、高結晶性が得られ、サイクル特性に優れる観点から、100〜1000℃の温度範囲で加熱することが好ましく、600〜900℃の温度範囲がより好ましい。また、該熱処理温度で保持する時間は、通常0.1〜20時間であり、好ましくは0.5〜8時間である。熱処理温度までの昇温速度は、通常50〜400℃/時間であり、処理温度から室温までの降温速度は、通常10〜400℃/時間である。また、100〜200℃の範囲で熱処理した後にこれより高い温度で再び熱処理をおこなっても良い。また、熱処理の雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴンまたはそれらの混合ガスを用いることができるが、大気雰囲気が好ましい。
【0013】
また、熱処理後において、正極活物質を、ボールミルやジェットミルなどを用いて粉砕してもよいし、粉砕と焼成とを2回以上繰り返してもよい。また、必要に応じて正極活物質を洗浄あるいは分級することもできる。
【0014】
前記M1は、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWからなる群より選ばれる1種以上の遷移金属元素が好ましく、得られる非水電解質二次電池の放電容量を高めるために、V、Nb、Cr、MoおよびWからなる群より選ばれる1種以上の遷移金属元素がより好ましく、Vがさらにより好ましい。
【0015】
前記M2は、前記M1を除く遷移金属元素から選ばれる1種以上の遷移金属元素であり、Mn、CoおよびNiからなる群より選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
【0016】
本発明におけるリチウム元素の原料としては、水酸化リチウム、水酸化リチウム一水和物、炭酸リチウムが好ましく用いられ、M1およびM2の原料としては、酸化物、水酸化物(オキシ水酸化物も含む。以下同じ。)、塩化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩などを挙げることができる。これらはそれぞれ2種以上混合してもよい。また、原料が水に溶解し難い場合には、酸性水溶液などに溶解させて、水溶液を製造してもよい。また、本発明における水溶液としては有機酸をさらに含むことが好ましい。
【0017】
本発明において、有機酸は、リチウム元素および遷移金属元素と錯体を形成し、水に溶解する酸であれば特に限定されないが、シュウ酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸およびマレイン酸のうち1種以上を用いることが好ましい。これにより錯体を容易に得ることができ、量産性よく合成することが可能になる。
【0018】
本発明の正極活物質は、下記式(I)で示され、BET比表面積が5m2/gより大きく15m2/g以下であることを特徴とする。
Lix1y31-y2 (I)
ここで、M1は、周期表第5族元素および第6族元素から選ばれる1種以上の遷移金属元素であり、M3は、M1以外の元素であり、かつFeを除く遷移金属元素から選ばれる1種以上の遷移金属元素であり、xは0.9以上1.3以下であり、yは0を超え1未満である。
【0019】
前記M1は、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびWからなる群より選ばれる1種以上の遷移金属元素が好ましく、得られる非水電解質二次電池の放電容量を高めるために、V、Nb、Cr、MoおよびWからなる群より選ばれる1種以上の遷移金属元素がより好ましく、Vがさらにより好ましい。
【0020】
前記M3は、M1以外の元素であり、かつFeを除く遷移金属元素から選ばれる1種以上の遷移金属元素であり、正極活物質の、単位重量あたりの放電容量の観点で、Mn、CoおよびNiからなる群より選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
【0021】
また、前記BET比表面積はより高いサイクル特性が得られることから、6m2/g以上13m2/g以下であることが好ましい。BET比表面積が、5以下の場合は、高い電流レートにおける出力性能の観点で好ましくなく、15を超える場合は、正極活物質の充填性の観点で好ましくない。
【0022】
前記yはより高いサイクル特性が得られる0を超え0.03以下であることが好ましく、さらに好ましくは0を超え0.01以下である。
【0023】
また、本発明の正極活物質において、本発明の効果を損なわない範囲で、前記遷移金属元素の一部を、他元素で置換してもよい。ここで、他元素としては、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Mg等の元素を挙げることができる。
【0024】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明における正極活物質の粒子表面に、該活物質とは異なる化合物を付着させてもよい。該化合物としては、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Mgおよび遷移金属元素からなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する化合物、好ましくはB、Al、Mg、Ga、InおよびSnからなる群より選ばれる1種以上の元素を含有する化合物、より好ましくはAlの化合物を挙げることができ、化合物として具体的には、前記元素の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硝酸塩および有機酸塩を挙げることができ、好ましくは、酸化物、水酸化物またはオキシ水酸化物である。また、これらの化合物を混合して用いてもよい。これら化合物の中でも、特に好ましい化合物はアルミナである。また、付着後に加熱を行ってもよい。
【0025】
正極活物質のサイズおよび形状は、前記水溶液を噴霧乾燥する際の条件をコントロールすることにより制御することができ、さらに、必要に応じて熱処理することにより、非水電解質二次電池に有用な正極活物質を得ることができる。例えば、噴霧乾燥時の雰囲気温度を上記のようにコントロールすることも有用である。
【0026】
上記の正極活物質は、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池に有用となる。
【0027】
上記正極活物質を用いて、正極を製造する方法として、非水電解質二次電池用の正極を製造する場合を例に挙げて、次に説明する。
【0028】
正極は、正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極合剤を正極集電体に担持させて製造する。前記導電材としては炭素材料を用いることができ、炭素材料として黒鉛粉末、アセチレンブラック等のカーボンブラック、繊維状炭素材料などを挙げることができる。また、これらを2種以上混合して使用してもよい。アセチレンブラック等のカーボンブラックは、微粒で表面積が大きいため、少量正極合剤中に添加することにより正極内部の導電性を高め、充放電効率およびレート特性を向上させることができるが、多く入れすぎると正極合剤と正極集電体とのバインダーによる結着性を低下させ、かえって内部抵抗を増加させる原因となる。通常、正極合剤中の導電材の割合は、正極活物質100重量部に対して5〜20重量部である。導電材として黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素材料を用いる場合には、この割合を下げることも可能である。
【0029】
前記バインダーとしては、熱可塑性樹脂を用いることができ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂等が挙げられる。また、これらの2種以上を混合して用いてもよい。また、バインダーとしてフッ素樹脂およびポリオレフィン樹脂を用い、正極合剤に対する該フッ素樹脂の割合が1〜10重量%、該ポリオレフィン樹脂の割合が0.1〜2重量%となるように含有させることによって、正極集電体との結着性に優れた正極合剤を得ることができる。
【0030】
前記正極集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどを用いることができるが、薄膜に加工しやすく、安価であるという点でAlが好ましい。正極集電体に正極合剤を担持させる方法としては、加圧成型する方法、または有機溶媒などを用いてペースト化し、正極集電体上に塗布、乾燥後プレスするなどして固着する方法が挙げられる。ペースト化する場合、正極活物質、導電材、バインダー、有機溶媒からなるスラリーを作製する。有機溶媒としては、N,N―ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン等のアミン系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸メチル等のエステル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒等が挙げられる。
【0031】
正極合剤を正極集電体へ塗布する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法、静電スプレー法等が挙げられる。以上に挙げた方法により、非水電解質二次電池用正極を製造することができる。
【0032】
上記の正極を用いて、非水電解質二次電池を製造する方法として、リチウム二次電池を製造する場合を例に挙げて、次に説明する。すなわち、セパレータ、負極および上記の正極を、積層および巻回することにより得られる電極群を、電池ケース内に収納した後、電解液を含浸させて製造することができる。
【0033】
前記の電極群の形状としては、例えば、該電極群を巻回の軸と垂直方向に切断したときの断面が、円、楕円、長方形、角がとれたような長方形等となるような形状を挙げることができる。また、電池の形状としては、例えば、ペーパー型、コイン型、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0034】
前記負極は、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能であればよく、負極材料を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、または負極材料単独からなる電極を挙げることができる。負極材料としては、炭素材料、カルコゲン化合物(酸化物、硫化物など)、窒化物、金属または合金で、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープかつ脱ドープが可能な材料が挙げられる。また、これらの負極材料を混合して用いてもよい。
【0035】
前記の負極材料につき、以下に例示する。前記炭素材料として、具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体などを挙げることができる。前記酸化物として、具体的には、SiO2、SiOなど式SiOx(ここで、xは正の実数)で表されるケイ素の酸化物;TiO2、TiOなど式TiOx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの酸化物;V25、VO2など式VOx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの酸化物;Fe34、Fe23、FeOなど式FeOx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の酸化物;SnO2、SnOなど式SnOx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの酸化物;WO3、WO2など一般式WOx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの酸化物;Li4Ti512、LiVO2(Li1.10.92を含む)などのリチウムとチタンおよび/またはバナジウムとを含有する複合金属酸化物などを挙げることができる。前記硫化物として、具体的には、Ti23、TiS2、TiSなど式TiSx(ここで、xは正の実数)で表されるチタンの硫化物;V34、VS2、VSなど式VSx(ここで、xは正の実数)で表されるバナジウムの硫化物;Fe34、FeS2、FeSなど式FeSx(ここで、xは正の実数)で表される鉄の硫化物;Mo23、MoS2など式MoSx(ここで、xは正の実数)で表されるモリブデンの硫化物;SnS2、SnSなど式SnSx(ここで、xは正の実数)で表されるスズの硫化物;WS2など式WSx(ここで、xは正の実数)で表されるタングステンの硫化物;Sb23など式SbSx(ここで、xは正の実数)で表されるアンチモンの硫化物;Se53、SeS2、SeSなど式SeSx(ここで、xは正の実数)で表されるセレンの硫化物などを挙げることができる。前記窒化物として、具体的には、Li3N、Li3-xxN(ここで、AはNiおよび/またはCoであり、0<x<3である。)などのリチウム含有窒化物を挙げることができる。これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、併用して用いてもよく、結晶質または非晶質のいずれでもよい。また、これらの炭素材料、酸化物、硫化物、窒化物は、主に、負極集電体に担持して、電極として用いられる。
【0036】
また、前記金属として、具体的には、リチウム金属、シリコン金属、スズ金属が挙げられる。また、前記合金としては、Li−Al、Li−Ni、Li−Siなどのリチウム合金;Si−Znなどのシリコン合金;Sn−Mn、Sn−Co、Sn−Ni、Sn−Cu、Sn−Laなどのスズ合金のほか;Cu2Sb、La3Ni2Sn7などの合金を挙げることもできる。これらの金属、合金は、主に、単独で電極として用いられる(例えば箔状で用いられる。)。
【0037】
上記負極材料の中で、電位平坦性が高い、平均放電電位が低い、サイクル特性が良いなどの観点からは、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましく用いられる。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、または微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
【0038】
前記の負極合剤は、必要に応じて、バインダーを含有してもよい。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、PVdF、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを挙げることができる。
【0039】
前記の負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどを挙げることができ、リチウムと合金を作り難い点、薄膜に加工しやすいという点で、Cuを用いればよい。該負極集電体に負極合剤を担持させる方法としては、正極の場合と同様であり、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し負極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法等が挙げられる。
【0040】
前記セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材質からなる、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する材料を用いることができ、また、前記の材質を2種以上用いてセパレータとしてもよいし、前記の材料が積層されていてもよい。セパレータとしては、例えば特開2000−30686号公報、特開平10−324758号公報等に記載のセパレータを挙げることができる。セパレータの厚みは電池の体積エネルギー密度が上がり、内部抵抗が小さくなるという点で、機械的強度が保たれる限り薄くした方がよく、通常5〜200μm程度、好ましくは5〜40μm程度である。
【0041】
セパレータは、好ましくは、熱可塑性樹脂を含有する多孔質フィルムを有する。非水電解質二次電池においては、通常、正極−負極間の短絡等が原因で電池内に異常電流が流れた際に、電流を遮断して、過大電流が流れることを阻止(シャットダウン)する機能を有することが好ましい。ここで、シャットダウンは、通常の使用温度を越えた場合に、セパレータにおける多孔質フィルムの微細孔を閉塞することによりなされる。そしてシャットダウンした後、ある程度の高温まで電池内の温度が上昇しても、その温度により破膜することなく、シャットダウンした状態を維持することが好ましい。かかるセパレータとしては、耐熱多孔層と多孔質フィルムとが積層されてなる積層フィルムが挙げられ、該フィルムをセパレータとして用いることにより、本発明における二次電池の耐熱性をより高めることが可能となる。ここで、耐熱多孔層は、多孔質フィルムの両面に積層されていてもよい。
【0042】
以下、前記の耐熱多孔層と多孔質フィルムとが積層されてなる積層フィルムについて説明する。
【0043】
前記積層フィルムにおいて、耐熱多孔層は、多孔質フィルムよりも耐熱性の高い層であり、該耐熱多孔層は、無機粉末から形成されていてもよいし、耐熱樹脂を含有していてもよい。耐熱多孔層が、耐熱樹脂を含有することにより、塗工などの容易な手法で、耐熱多孔層を形成することができる。耐熱樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、芳香族ポリエステル、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミドを挙げることができ、耐熱性をより高める観点で、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミドが好ましく、より好ましくは、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドである。さらにより好ましくは、芳香族ポリアミド(パラ配向芳香族ポリアミド、メタ配向芳香族ポリアミド)、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド等の含窒素芳香族重合体であり、とりわけ好ましくは芳香族ポリアミド、製造面で、特に好ましいのは、パラ配向芳香族ポリアミド(以下、パラアラミドということがある。)である。また、耐熱樹脂として、ポリ−4−メチルペンテン−1、環状オレフィン系重合体を挙げることもできる。これらの耐熱樹脂を用いることにより、積層フィルムの耐熱性、すなわち、積層フィルムの熱破膜温度をより高めることができる。これらの耐熱樹脂のうち、含窒素芳香族重合体を用いる場合には、その分子内の極性によるためか、電解液との相性、すなわち、耐熱多孔層における保液性も向上する場合があり、非水電解質二次電池製造時における電解液の含浸の速度も高く、非水電解質二次電池の放電容量もより高まる。
【0044】
かかる積層フィルムの熱破膜温度は、耐熱樹脂の種類に依存し、使用場面、使用目的に応じ、選択使用される。より具体的には、耐熱樹脂として、上記含窒素芳香族重合体を用いる場合は400℃程度に、また、ポリ−4−メチルペンテン−1を用いる場合は250℃程度に、環状オレフィン系重合体を用いる場合は300℃程度に、夫々、熱破膜温度をコントロールすることができる。また、耐熱多孔層が、無機粉末からなる場合には、熱破膜温度を、例えば、500℃以上にコントロールすることも可能である。
【0045】
上記パラアラミドは、パラ配向芳香族ジアミンおよびパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドの縮合重合により得られるものであり、アミド結合が芳香族環のパラ位またはそれに準じた配向位(例えば、4,4’−ビフェニレン、1,5−ナフタレン、2,6−ナフタレン等のような反対方向に同軸または平行に延びる配向位)で結合される繰り返し単位から実質的になるものである。具体的には、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロ−パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等のパラ配向型またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが例示される。
【0046】
前記の芳香族ポリイミドとしては、芳香族の二酸無水物およびジアミンの縮重合で製造される全芳香族ポリイミドが好ましい。該二酸無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4―ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。該ジアミンの具体例としては、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン、3,3’−メチレンジアニリン、3,3’−ジアミノベンソフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5−ナフタレンジアミンなどが挙げられる。また、溶媒に可溶なポリイミドが好適に使用できる。このようなポリイミドとしては、例えば、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重縮合物のポリイミドが挙げられる。
【0047】
前記の芳香族ポリアミドイミドとしては、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られるもの、芳香族二酸無水物および芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られるものが挙げられる。芳香族ジカルボン酸の具体例としてはイソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。また芳香族二酸無水物の具体例としては無水トリメリット酸などが挙げられる。芳香族ジイソシアネートの具体例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、オルソトリランジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0048】
また、イオン透過性をより高めるためには、耐熱多孔層の厚みは、1〜10μm、さらには1〜5μm、特に1〜4μmという薄い耐熱多孔層であることが好ましい。また、耐熱多孔層は微細孔を有し、その孔のサイズ(直径)は通常3μm以下、好ましくは1μm以下である。また、耐熱多孔層が、耐熱樹脂を含有する場合には、さらに、耐熱多孔層は、後述のフィラーを含有することもできる。
【0049】
前記積層フィルムにおいて、多孔質フィルムは、微細孔を有し、シャットダウン機能を有することが好ましい。この場合、多孔質フィルムは、熱可塑性樹脂を含有する。多孔質フィルムにおける微細孔のサイズは通常3μm以下、好ましくは1μm以下である。多孔質フィルムの空孔率は、通常30〜80体積%、好ましくは40〜70体積%である。非水電解質二次電池において、通常の使用温度を越えた場合には、熱可塑性樹脂を含有する多孔質フィルムは、それを構成する熱可塑性樹脂の軟化により、微細孔を閉塞することができる。
【0050】
前記熱可塑性樹脂は、非水電解質二次電池における電解液に溶解しないものを選択すればよい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂を挙げることができ、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。より低温で軟化してシャットダウンさせるために、ポリエチレンを含有することが好ましい。ポリエチレンとして、具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン等のポリエチレンを挙げることができ、分子量が100万以上の超高分子量ポリエチレンを挙げることもできる。多孔質フィルムの突刺し強度をより高めるために、該フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、少なくとも超高分子量ポリエチレンを含有することが好ましい。また、多孔質フィルムの製造面において、熱可塑性樹脂は、低分子量(重量平均分子量1万以下)のポリオレフィンからなるワックスを含有することが好ましい場合もある。
【0051】
また、積層フィルムにおける多孔質フィルムの厚みは、通常3〜30μmであり、好ましくは3〜25μmである。また、本発明において、積層フィルムの厚みとしては、通常40μm以下、好ましくは30μm以下である。また、耐熱多孔層の厚みをA(μm)、多孔質フィルムの厚みをB(μm)としたときには、A/Bの値が、0.1以上1以下であることが好ましい。
【0052】
また、耐熱多孔層が、耐熱樹脂を含有する場合には、耐熱多孔層は、1種以上のフィラーを含有していてもよい。フィラーは、その材質として、有機粉末、無機粉末またはこれらの混合物のいずれから選ばれるものであってもよい。フィラーを構成する粒子は、その平均粒子径が、0.01〜1μmであることが好ましい。
【0053】
前記有機粉末としては、例えば、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単独あるいは2種類以上の共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリオレフィン;ポリメタクリレート等の有機物からなる粉末が挙げられる。該有機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの有機粉末の中でも、化学的安定性の点で、ポリテトラフルオロエチレン粉末が好ましい。
【0054】
前記無機粉末としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸塩等の無機物からなる粉末が挙げられ、これらの中でも、導電性の低い無機物からなる粉末が好ましく用いられる。具体的に例示すると、アルミナ、シリカ、二酸化チタンまたは炭酸カルシウム等からなる粉末が挙げられる。該無機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの無機粉末の中でも、化学的安定性の点で、アルミナ粉末が好ましい。ここで、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子であることがより好ましく、さらにより好ましいのは、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子であり、その一部または全部が略球状のアルミナ粒子である実施形態である。ちなみに、耐熱多孔層が、無機粉末から形成される場合には、上記例示の無機粉末を用いればよく、必要に応じてバインダーと混ぜて用いればよい。
【0055】
耐熱多孔層が耐熱樹脂を含有する場合のフィラーの含有量としては、フィラーの材質の比重にもよるが、例えば、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子である場合には、耐熱多孔層の総重量を100としたとき、フィラーの重量は、通常5以上95以下であり、20以上95以下であることが好ましく、より好ましくは30以上90以下である。これらの範囲は、フィラーの材質の比重により、適宜設定できる。
【0056】
フィラーの形状については、略球状、板状、柱状、針状、ウィスカー状、繊維状等が挙げられ、いずれの粒子も用いることができるが、均一な孔を形成しやすいことから、略球状粒子であることが好ましい。略球状粒子としては、粒子のアスペクト比(粒子の長径/粒子の短径)が1以上1.5以下である粒子が挙げられる。粒子のアスペクト比は、電子顕微鏡写真により測定することができる。
【0057】
本発明において、セパレータは、イオン透過性との観点から、ガーレー法による透気度において、透気度が50〜300秒/100ccであることが好ましく、50〜200秒/100ccであることがさらに好ましい。また、セパレータの空孔率は、通常30〜80体積%、好ましくは40〜70体積%である。セパレータは空孔率の異なるセパレータを積層したものであってもよい。
【0058】
二次電池において、電解液は、通常、電解質および有機溶媒を含有する。電解質としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LIBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(COCF3)、Li(C49SO3)、LiC(SO2CF33、Li210Cl10、LiBOB(ここで、BOBとは、bis(oxalato)borateのことである。)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などのリチウム塩が挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用し
てもよい。リチウム塩として、通常、これらの中でもフッ素を含むLiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32およびLiC(SO2CF33からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものを用いる。
【0059】
また前記電解液において、有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、または上記の有機溶媒にさらにフッ素置換基を導入したものを用いることができるが、通常はこれらのうちの2種以上を混合して用いる。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒、または環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、動作温度範囲が広く、負荷特性に優れ、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという点で、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。また、LiPF6等のフッ素を含むリチウム塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル等のフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、大電流放電特性にも優れており、さらに好ましい。
【0060】
上記の電解液の代わりに固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖もしくはポリオキシアルキレン鎖の少なくとも1種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。またLi2S−SiS2、Li2S−GeS2、Li2S−P25、Li2S−B23、Li2S−SiS2−Li3PO4、Li2S−SiS2−Li2SO4などの硫化物を含む無機系固体電解質を用いてもよい。また、本発明の非水電解質二次電池において、固体電解質を用いる場合には、固体電解質がセパレータの役割を果たす場合もあり、その場合には、セパレータを必要としないこともある。
【実施例】
【0061】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。尚、正極活物質の評価、充放電試験、サイクル試験は、次のようにして行った。
【0062】
1.充放電試験
正極活物質と導電材(アセチレンブラックと黒鉛とを9:1で混合したもの)との混合物に、バインダーであるPVdFをN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPということがある。)に溶かした溶液を、活物質:導電材:バインダー=87:10:3(重量比)の組成となるように加えて混練することによりペーストとし、集電体となる厚さ40μmのAl箔に該ペーストを塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、正極を得た。
【0063】
1−1.25℃試験
得られた正極に、電解液(エチレンカーボネート(以下、ECということがある。)とジメチルカーボネート(以下、DMCということがある。)とエチルメチルカーボネート(以下、EMCということがある。)の30:35:35(体積比)混合液にLiPF6を1モル/リットルとなるように溶解したもの(以下、LiPF6/EC+DMC+EMCと表すことがある。))を注入して、セパレータとしてポリプロピレン多孔質膜を、また、負極として金属リチウムを組み合わせてコイン型電池(R2032)を作製した。
【0064】
上記のコイン型電池を用いて、25℃保持下、以下に示す条件でサイクル試験を実施した。サイクル特性は、以下に従い、放電容量維持率を計算することで比較した。
<25℃サイクル試験>
充電最大電圧4.3V、放電最小電圧を2.5Vとし、50サイクルし、1、10、20、50サイクル目を0.2Cレートで、その他は1Cレートとして試験をおこなった。
<25℃放電容量維持率>
放電容量維持率(25℃)(%)=(25℃条件下での50サイクル目の放電容量)/(25℃条件下での初回放電容量)×100
【0065】
1−2.60℃試験
得られた正極に、電解液としてエチレンカーボネート(以下、ECということがある。
)およびエチルメチルカーボネート(以下、EMCということがある。)の50:50(体積比)混合液にLiPF6を1モル/リットルとなるように溶解したもの(以下、LiPF6/EC+EMCと表すことがある。)、セパレータとしてポリプロピレン多孔質膜を、また、負極として金属リチウムを組み合わせてコイン型電池(R2032)を作製した。
【0066】
上記のコイン型電池を用いて、60℃保持下、以下に示す条件でサイクル試験を実施した。サイクル特性は、以下に従い、放電容量維持率を計算することで比較した。
<60℃サイクル試験>
充電最大電圧4.3V、放電最小電圧を3.0Vとし、0.2Cレートで試験をおこなった。
<60℃放電容量維持率>
放電容量維持率(60℃)(%)=(60℃条件下での50サイクル目の放電容量)/(60℃条件下での初回放電容量)×100
【0067】
2.正極活物質の組成分析
粉末を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析法(株式会社エスアイアイ・ナノテクノロジー製SPS3000、以下ICP−AESと呼ぶことがある)を用いて測定した。
【0068】
3.正極活物質の粉末X線回折測定
正極活物質の粉末X線回折測定は株式会社リガク製RINT2500TTR型を用いて行った。測定は、正極活物質を専用のホルダーに充填し、CuKα線源を用いて、回折角2θ=10〜90°の範囲にて行い、粉末X線回折図形を得た。
【0069】
4.BET比表面積測定
粉末約0.2gを窒素雰囲気中150℃、15分間乾燥した後、マイクロメリティックス製フローソーブII2300を用いて測定した。
【0070】
実施例1
ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水50mlに、硝酸リチウム3.62g、硝酸ニッケル(II)六水和物7.12g、硝酸マンガン(II)六水和物7.18g、硫酸バナジルn水和物(n=2〜4)0.217gを完全に溶解させて水溶液を得た。
【0071】
次いで、得られた水溶液をヤマト科学株式会社製スプレードライヤADL310を用い、空気雰囲気・90℃で噴霧乾燥をおこなった。
【0072】
得られた噴霧乾燥品を100℃で熱処理した後、アルミナ製焼成容器に入れ、電気炉を用いて大気雰囲気中800℃で6時間保持して熱処理を行った。次いで、これを水洗して正極活物質S1を得た。前記正極活物質S1のBET比表面積は13.7m2/gであった。
【0073】
正極活物質S1の組成分析の結果、Li:Ni:Mn:Vのモル比は、1.05:0.48:0.51:0.01であった。また、粉末X線回折測定の結果、正極活物質S1の結晶構造は、R−3mの空間群に帰属する層状構造であることがわかった。よって、正極活物質S1は、式(I)で表されることがわかった。
【0074】
正極活物質S1を用いてコイン型電池を作製し、60℃サイクル試験を行ったところ、放電容量維持率(60℃)(%)は、90.6であった。これらは、後述比較例1におけるR1を用いてコイン型電池を作製した場合の放電容量維持率(60℃)よりも高かった。
【0075】
正極活物質S1を用いてコイン型電池を作製し、25℃サイクル試験を行ったところ、放電容量維持率(25℃)(%)は、92.7であった。これらは、後述比較例1におけるR1を用いてコイン型電池を作製した場合の放電容量維持率(25℃)よりも高かった。
【0076】
実施例2
ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水37mlに、炭酸リチウム1.50g、クエン酸15.1gを完全に溶解させて水溶液W1を得た。さらに、ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水37mlに、硝酸ニッケル(II)六水和物5.48g、硝酸マンガン(II)六水和物5.52g、硫酸バナジルn水和物(n=2〜4)0.04gを完全に溶解させて水溶液W2を得、W1と混合した。
【0077】
次いで、得られた水溶液をヤマト科学株式会社製スプレードライヤADL310を用い、空気雰囲気・95℃で噴霧乾燥をおこなった。
【0078】
得られた噴霧乾燥品をアルミナ製焼成容器に入れ、電気炉を用いて大気雰囲気中900℃で6時間保持して熱処理を行い、正極活物質S2を得た。前記正極活物質S2のBET比表面積は8.7m2/gであった。
【0079】
正極活物質S2の組成分析の結果、Li:Ni:Mn:Vのモル比は、1.05:0.50:0.50:0.006であった。また、粉末X線回折測定の結果、正極活物質S2の結晶構造は、R−3mの空間群に帰属する層状構造であることがわかった。よって、正極活物質S2は、式(I)で表されることがわかった。
【0080】
正極活物質S2を用いてコイン型電池を作製し、25℃サイクル試験を行ったところ、放電容量維持率(25℃)(%)は、94.6であった。これらは、後述比較例1におけるR1を用いてコイン型電池を作製した場合の放電容量維持率(25℃)よりも高かった。
【0081】
実施例3
実施例2で得られた正極活物質S2を水洗後、100℃で乾燥を行い、正極活物質S3を得た。前記正極活物質S3のBET比表面積は9.3m2/gであった。
【0082】
正極活物質S3の組成分析の結果、Li:Ni:Mn:Vのモル比は、1.02:0.50:0.50:0.002であった。また、粉末X線回折測定の結果、正極活物質S3の結晶構造は、R−3mの空間群に帰属する層状構造であることがわかった。よって、正極活物質S3は、式(I)で表されることがわかった。
【0083】
正極活物質S3を用いてコイン型電池を作製し、25℃サイクル試験を行ったところ、放電容量維持率(25℃)(%)は、93.8であった。これらは、後述比較例1におけるR1を用いてコイン型電池を作製した場合の放電容量維持率(25℃)よりも高かった。
【0084】
実施例4
ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水37mlに、炭酸リチウム1.50g、クエン酸15.1gを完全に溶解させて水溶液W3を得た。さらに、ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水37mlに、硝酸ニッケル(II)六水和物5.49g、硝酸マンガン(II)六水和物5.53g、硫酸バナジルn水和物(n=2〜4)0.025gを完全に溶解させて水溶液W4を得、W3と混合した以外、実施例2と同様にして正極活物質S4を得た。前記正極活物質S4のBET比表面積は5.6m2/gであった。
【0085】
正極活物質S4の組成分析の結果、Li:Ni:Mn:Vのモル比は、1.07:0.50:0.50:0.004であった。また、粉末X線回折測定の結果、正極活物質S4の結晶構造は、R−3mの空間群に帰属する層状構造であることがわかった。よって、正極活物質S4は、式(I)で表されることがわかった。
【0086】
正極活物質S4を用いてコイン型電池を作製し、25℃サイクル試験を行ったところ、放電容量維持率(25℃)(%)は、92.3であった。これらは、後述比較例1におけるR1を用いてコイン型電池を作製した場合の放電容量維持率(25℃)よりも高かった。
【0087】
実施例5
ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水37mlに、炭酸リチウム1.50g、クエン酸15.1gを完全に溶解させて水溶液W5を得た。さらに、ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水37mlに、硝酸ニッケル(II)六水和物5.34g、硝酸マンガン(II)六水和物5.38g、硫酸バナジルn水和物(n=2〜4)0.245gを完全に溶解させて水溶液W6を得、W5と混合した以外、実施例2と同様にして正極活物質S5を得た。前記正極活物質S5のBET比表面積は5.2m2/gであった。
【0088】
正極活物質S5の組成分析の結果、Li:Ni:Mn:Vのモル比は、1.00:0.48:0.49:0.03であった。また、粉末X線回折測定の結果、正極活物質S5の結晶構造は、R−3mの空間群に帰属する層状構造であることがわかった。よって、正極活物質S5は、式(I)で表されることがわかった。
【0089】
正極活物質S5を用いてコイン型電池を作製し、25℃サイクル試験を行ったところ、放電容量維持率(25℃)(%)は、87.3であった。これらは、後述比較例1におけるR1を用いてコイン型電池を作製した場合の放電容量維持率(25℃)よりも高かった。
【0090】
実施例6
ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水37mlに、炭酸リチウム1.50g、クエン酸15.1gを完全に溶解させて水溶液W7を得た。さらに、ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水37mlに、硝酸ニッケル(II)六水和物5.56g、硝酸マンガン(II)六水和物5.49gを完全に溶解させて水溶液W8を得た。
分散媒としてイオン交換水4kgに、酸化タングステン粒子(日本無機化学工業(株) 製)1kgを加えて混合して混合物を得た。この混合物を、湿式媒体撹拌ミルを用いて分散処理することにより、酸化タングステン粒子分散液W10を得た。W10100質量部中に含まれる固形分(酸化タングステン粒子の量)は、20.0質量部(固形分濃度20.0質量%)であった。W10を350℃の亜臨界条件下(20MPa)で30秒間加熱した。このときの分散液の温度は340℃であった。加熱後、分散液を20℃で冷却し、分散液の温度を室温として、酸化タングステン粒子分散液W9を得た。W9はゾル状であった。
7とW8と0.669gのW9を混合した。上記以外は、実施例2と同様にして正極活物質S7を得た。前記正極活物質S6のBET比表面積は11.7m2/gであった。
【0091】
正極活物質S6の組成分析の結果、Li:Ni:Mn:Wのモル比は、1.03:0.51:0.48:0.006であった。また、粉末X線回折測定の結果、正極活物質S6の結晶構造は、R−3mの空間群に帰属する層状構造であることがわかった。よって、正極活物質S6は、式(I)で表されることがわかった。
正極活物質S6を用いてコイン型電池を作製し、25℃サイクル試験を行ったところ、放電容量維持率(25℃)(%)は、89.8であった。これは、後述比較例1におけるR1を用いてコイン型電池を作製した場合の放電容量維持率(25℃)よりも高かった。
【0092】
比較例1
ポリプロピレン製ビーカー内で、蒸留水600mlに、水酸化カリウム40.4gを添加、攪拌により溶解し、水酸化カリウムを完全に溶解させ、水酸化カリウム水溶液(アルカリ水溶液)を調製した。また、ガラス製ビーカー内で、蒸留水250mlに、塩化ニッケル(II)六水和物14.3g、塩化マンガン(II)四水和物12.1gおよび硫酸バナジル三水和物0.814gを添加、攪拌により溶解し、ニッケル−マンガン−バナジウム混合水溶液を得た。前記水酸化カリウム水溶液を攪拌しながら、これに前記ニッケル−マンガン−バナジウム混合水溶液を滴下することにより、共沈物が生成し、共沈物スラリーを得た。
【0093】
次いで、共沈物スラリーについて、ろ過・蒸留水洗浄を行い、100℃で乾燥させて共沈物を得た。前記共沈物4.00gと炭酸リチウム2.01gをメノウ乳鉢を用いて乾式混合して混合物を得た。次いで、該混合物をアルミナ製焼成容器に入れ、電気炉を用いて大気雰囲気中800℃で6時間保持して焼成を行い、室温まで冷却し、焼成品を得て、これを粉砕して粉末状の正極活物質R1を得た。前記正極活物質R1のBET比表面積は4.8m2/gであった。
【0094】
前記R1の組成分析の結果、Li:Ni:Mn:Vのモル比は、1.07:0.48:0.49:0.03であった。また、粉末X線回折測定の結果、前記R1の結晶構造は、R−3mの空間群に帰属する層状酸化物の他に、Li欠損型の層状酸化物やLi3VO4などの不純物が観測された。
【0095】
前記R1を用いてコイン型電池を作製し、60℃サイクル試験を行ったところ、放電容量維持率(60℃)(%)は、83.6であった。
【0096】
前記R1を用いてコイン型電池を作製し、25℃サイクル試験を行ったところ、放電容量維持率(25℃)(%)は、76.6であった。
【0097】
製造例1(積層フィルムの製造)
(1)塗工液の製造
NMP4200gに塩化カルシウム272.7gを溶解した後、パラフェニレンジアミン132.9gを添加して完全に溶解させた。得られた溶液に、テレフタル酸ジクロライド243.3gを徐々に添加して重合し、パラアラミドを得て、さらにNMPで希釈して、濃度2.0重量%のパラアラミド溶液(A)を得た。得られたパラアラミド溶液100gに、アルミナ粉末(a)2g(日本アエロジル社製、アルミナC、平均粒子径0.02μm)とアルミナ粉末(b)2g(住友化学株式会社製、スミコランダム、AA03、平均粒子径0.3μm)とをフィラーとして計4g添加して混合し、ナノマイザーで3回処理し、さらに1000メッシュの金網で濾過、減圧下で脱泡して、スラリー状塗工液(B)を製造した。パラアラミドおよびアルミナ粉末の合計重量に対するアルミナ粉末(フィラー)の重量は、67重量%となる。
【0098】
(2)積層フィルムの製造および評価
多孔質フィルムとしては、ポリエチレン製多孔質膜(膜厚12μm、透気度140秒/100cc、平均孔径0.1μm、空孔率50%)を用いた。厚み100μmのPETフィルムの上に上記ポリエチレン製多孔質膜を固定し、テスター産業株式会社製バーコーターにより、該多孔質膜の上にスラリー状塗工液(B)を塗工した。PETフィルム上の塗工された該多孔質膜を一体にしたまま、貧溶媒である水中に浸漬させ、パラアラミド多孔質膜(耐熱多孔層)を析出させた後、溶媒を乾燥させて、耐熱多孔層と多孔質フィルムとが積層された積層フィルムを得た。積層フィルムの厚みは16μmであり、パラアラミド多孔質膜(耐熱多孔層)の厚みは4μmであった。積層フィルムの透気度は180秒/100cc、空孔率は50%であった。積層フィルムにおける耐熱多孔層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察をしたところ、0.03〜0.06μm程度の比較的小さな微細孔と0.1〜1μm程度の比較的大きな微細孔とを有することがわかった。尚、積層フィルムの評価は以下の方法で行った。
【0099】
<積層フィルムの評価>
(A)厚み測定
積層フィルムの厚み、多孔質フィルムの厚みは、JIS規格(K7130−1992)に従い、測定した。また、耐熱多孔層の厚みとしては、積層フィルムの厚みから多孔質フィルムの厚みを差し引いた値を用いた。
(B)ガーレー法による透気度の測定
積層フィルムの透気度は、JIS P8117に基づいて、株式会社安田精機製作所製のデジタルタイマー式ガーレー式デンソメータで測定した。
(C)空孔率
得られた積層フィルムのサンプルを一辺の長さ10cmの正方形に切り取り、重量W(g)と厚みD(cm)を測定した。サンプル中のそれぞれの層の重量(Wi(g))(i=1〜n)を求め、Wiとそれぞれの層の材質の真比重(真比重i(g/cm3))とから、それぞれの層の体積を求めて、次式より空孔率(体積%)を求めた。
空孔率(体積%)=100×{1−(W1/真比重1+W2/真比重2+・・+Wn/真比重n)/(10×10×D)}
【0100】
上記実施例のそれぞれにおいて、セパレータとして、製造例1により得られた積層多孔質フィルムを用いれば、熱破膜温度をより高めることのできるリチウム二次電池を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム元素と、M1(M1は、周期表第5族元素および第6族元素から選ばれる1種以上の遷移金属元素である。)と、M2(M2は、M1を除く遷移金属元素から選ばれる1種以上の遷移金属元素である。)とを水に溶解させて水溶液を得る工程、および該水溶液の水分を噴霧乾燥により除去する工程を有する正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記水分を除去した後に得られる乾燥物に熱処理をする工程をさらに有する請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理温度が、100〜1000℃である請求項1または2に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記水溶液が有機酸をさらに含む請求項1〜3のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法により得られる正極活物質。
【請求項6】
請求項5に記載の正極活物質を有する正極。
【請求項7】
請求項6に記載の正極を有する非水電解質二次電池。
【請求項8】
下記式(I)で示され、BET比表面積が5m2/gより大きく15m2/g以下である正極活物質。
Lix1y31-y2 (I)
(ここで、M1は、周期表第5族元素および第6族元素から選ばれる1種以上の遷移金属元素であり、M3は、M1以外の元素であり、かつFeを除く遷移金属元素から選ばれる1種以上の遷移金属元素であり、xは0.9以上1.3以下であり、yは0を超え1未満である。)
【請求項9】
1が、V(バナジウム)である請求項5または8に記載の正極活物質。
【請求項10】
3が、Ni、CoおよびMnからなる群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素である請求項8または9に記載の正極活物質。
【請求項11】
yが0を超え0.03以下である請求項8〜10のいずれかに記載の正極活物質。
【請求項12】
yが0を超え0.01以下である請求項8〜11のいずれかに記載の正極活物質。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれかに記載の正極活物質を有する正極。
【請求項14】
請求項13に記載の正極を有する非水電解質二次電池。

【公開番号】特開2013−33698(P2013−33698A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185761(P2011−185761)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】