説明

正極活物質の製造方法

【課題】乾式法での電磁波加熱を用いた正極活物質の製造方法において、被加熱物の温度履歴を均一化することができ、単相で高純度の正極活物質を得ることができる、正極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】電磁波加熱を用いる正極活物質の製造方法において、複数回の電磁波照射の間に、被加熱物を解砕および混合することを特徴とする電気デバイス用正極活物質の製造方法により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池やキャパシタなどの電気デバイスに用いられる正極活物質の製造方法及びその製造方法により得られた正極活物質、並びに該正極活物質を用いた電気デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るリチウムイオン二次電池などのモータ駆動用電気デバイスの開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用電気デバイスとしては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用電気デバイスと比較して極めて高い出力特性、および高いエネルギーを有することが求められている。したがって、全ての電気デバイスの中で比較的高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、一般に、正極活物質等を正極集電体の両面に塗布した正極と、負極活物質等を負極集電体の両面に塗布した負極とが、電解質を含むセパレータを介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。正極活物質としては、LiMn、LiNiO、LiCoO等に代表されるリチウム遷移金属複合酸化物が用いられている。
【0005】
なかでも、LiMnやLiMnのMnの一部が他の金属で置換されたもの(これらを総称して「リチウム−マンガン複合酸化物」と称する)については、構成元素であるマンガンが資源として比較的豊富に存在する。そのためマンガン酸リチウムは、原料が安価でかつ入手しやすく、環境に対する負荷も少ないという利点を有する。
【0006】
このような、リチウム遷移金属複合酸化物は、通常、前駆体(一例を挙げると、炭酸リチウムと遷移金属酸化物との混合物)を700〜1000℃程度の温度で焼成することによって得られる。そしてこの後、必要に応じて解砕工程などを経ることによって、正極活物質が製造される。
【0007】
従来、前駆体の焼成に用いられる加熱装置としては、電気炉などが使用されていた。しかしながら、加熱に要するコスト等を削減する観点から、近年、加熱装置として電磁波照射装置を使用することが提案されている。例えば、特許文献1では、水などの溶媒中で前駆体を混合してゲル状混合物を形成し、当該ゲル状混合物を乾燥・焼成することによってマンガン酸リチウムを製造している。そして、この乾燥・焼成にマイクロ波加熱を導入することにより、より短時間でマンガン酸リチウムを製造することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−152326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に記載された製造方法では、前駆体をゲル状とした後に焼成工程を行ういわゆる湿式法を採用している。しかしながら、作業工程の簡素化を考慮すれば、前駆体を固体のまま焼成し、固相反応によってリチウム遷移金属複合酸化物を得る、いわゆる乾式法の製造方法を採用することが望ましい。そこで、本発明者らは、固体状の前駆体に電磁波を照射することにより、焼成工程を行う方法を試みた。
【0010】
しかしながら、当該方法によって得られたリチウム遷移金属複合酸化物は、純度が低いため、十分な放電容量を有していないことが判明した。リチウム遷移金属複合酸化物の純度が低いということは、前駆体の反応が完結しておらず、未反応物あるいは反応中間物が残存していることを意味する。
【0011】
そこで、本発明は、乾式法での電磁波加熱を用いた正極活物質の製造方法において、被加熱物の温度履歴を均一化することができ、単相で高純度の正極活物質を得ることができる、正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、乾式法での電磁波加熱を用いて正極活物質を製造する方法に際し、複数回の電磁波照射による加熱を行うと共に、各照射と照射の間に被加熱物を解砕および混合する点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数回の電磁波加熱により、被加熱物の温度履歴を均一化することができるため、原料である前駆体をほぼ完全にリチウム遷移金属複合酸化物へと変換することができる結果、単相で高純度の正極活物質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1Aは、焼成容器に被加熱物を入れ、該被加熱物に1回目の電磁波照射した際に、被加熱物が電磁波により発熱する様子を模式的に表した図面である。図1Bは、図1Aで1回目の電磁波照射された被加熱物を解砕および混合した後に、焼成容器に被加熱物を入れ、該被加熱物に2回目の電磁波照射した際に、被加熱物が電磁波波により発熱する様子を模式的に表した図面である。
【図2】図2(1)は、正極活物質(二次粒子)を走査型電子顕微鏡(SEM)により拡大(倍率:1,000倍)して観察した写真を表す図面である。図2(2)は、図2(1)中に示す正極活物質(二次粒子)の中から適当にマーキングした4個の粒子A〜Dから、無作為に抽出した粒子BをSEMにより拡大(撮影倍率:10,000倍)して観察した写真を表す図面である。
【図3】電気デバイスの代表的な一実施形態である、扁平型(積層型)の非水電解質リチウムイオン二次電池の基本構成を示す断面概略図である。
【図4】二次電池の代表的な実施形態である扁平なリチウムイオン二次電池外観を表した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい形態を説明する。本発明の一実施形態(第1実施形態)は、電磁波加熱を用いる正極活物質の製造方法であって、複数回の電磁波照射の間に、被加熱物を解砕および混合することを特徴とするものである。
【0016】
本形態の製造方法により、乾式法での電磁波加熱を用いた正極活物質の製造方法であっても、高純度の正極活物質を得ることができる。これにより、湿式法での電磁波加熱や焼成工程に電気炉を用いる従来の方法と比較して、作業工程の簡素化および製造コストの削減を達成することができる。以下、本形態の製造方法を工程順に詳細に説明する。
【0017】
[正極活物質の製造方法]
本実施形態の正極活物質の製造方法は、電磁波加熱を用いる正極活物質の製造方法であって、複数回の電磁波照射の間に、被加熱物を解砕および混合することを特徴とするものである。本明細書では、電磁波を照射することによる加熱(より詳しくは被加熱物に電磁波を照射することにより被加熱物を加熱すること)を、単に「電磁波加熱」とも称する。
【0018】
図1Aは、焼成容器に被加熱物を入れ、該被加熱物に1回目の電磁波照射した際に、被加熱物が電磁波波により発熱する様子を模式的に表した図面である。図1Bは、図1Aで1回目の電磁波照射された被加熱物を解砕および混合した後に、焼成容器に被加熱物を入れ、該被加熱物に2回目の電磁波照射した際に、被加熱物が電磁波波により発熱する様子を模式的に表した図面である。
【0019】
図1Aに示すように、焼成容器(例えば、坩堝)1に被加熱物3を入れて1回目の電磁波(例えば、マイクロ波)照射(図示せず)した際には、電磁波により被加熱物3内部より発熱する(この際の発熱による温度の伝搬の様子を矢印5で表す)。この際に焼成容器1に接している部分および外部(雰囲気)に露出している(接している)部分の被加熱物は、温度が上がりにくく、外部雰囲気により逆に冷却される。そのため、従来の電磁波加熱を用いて得られた正極活物質では、電磁波加熱した際の焼成容器1内部の被加熱物3の温度履歴(温度分布)が均一ではなく、未反応物あるいは反応中間物3aが上記した焼成容器1及び外部に接する部分に近いほど多く残存していた。この点につき、本発明者らは、1回目の電磁波加熱によって正極活物質(リチウム遷移金属複合酸化物)が生成する状況を注意深く観察したところ、反応生成物中には2種類の形態の物質が混在することを見出した。すなわち、前駆体粒子が凝集したような塊状の生成物と、塊状ではないそれ以外の生成物(本明細書では、「残留物」とも称する)である。当該残留物は、実際には、前駆体粒子がそのままの形状で残ったような粒子状の形態を有する。これらの構造を分析したところ、塊状の生成物は目的物である正極活物質(リチウム遷移金属複合酸化物)の単相で構成されていたが、粒子状の生成物は、未反応の前駆体や反応が完結していない中間体(未反応物や反応中間物3a)から構成されていることが判った。このように前駆体や中間体3aが残留物として残るのは、乾式法での電磁波加熱は湿式法での電磁波加熱よりも温度履歴が不均一になりやすいことが理由(当該理由の原因は上記した通り)であると考えられる。なお、本明細書において、「塊状」とは、二次粒子が凝集体を形成している状態を意味する。ここで、二次粒子とは、一次粒子(単位粒子)が化学的な力または物理的な力(例えば、ファンデルワールス力)により複数個集合したものをいい、凝集体とは当該二次粒子が静電気力などの弱い力で接合して一定の形状をなすものをいう。一般に、凝集体は、溶媒(例えば、水やN−メチル−2−ピロリドン)などに入れて攪拌することにより解砕されて、二次粒子となる。よって、当該方法を用いることにより、塊状か否かを判定することが可能である。
【0020】
そこで、本実施形態では、複数回の電磁波照射を行うと共に、電磁波の照射と照射の間に、被加熱物3を解砕及び混合する。これにより、1回目の電磁波加熱によって塊状になった生成物を解砕及び混合により、粒子形態に戻した上で残留物の前駆体や中間体3a粒子を生成物粒子中に均一分散させる。次に、図1Bに示すように、焼成容器1内部に生成物粒子中に前駆体や中間体3a粒子が均一分散した状態の被加熱物3を入れ、2回目の電磁波照射を行う。これにより、焼成容器1内部の被加熱物3全体の温度履歴を均一化することができる。その結果、未反応物あるいは反応中間物3aの残存量を大幅に低減することができ、単相で高純度の正極活物質を得ることができるものである。即ち、2回目の電磁波加熱によって正極活物質(リチウム遷移金属複合酸化物)が生成する状況を注意深く観察したところ、焼成容器から取り出された反応生成物は塊状の生成物であることを見出した(表1の実施例1〜3の粉末X線回折測定結果参照のこと)。即ち、この時点で残留物は計測できないレベルにまで大幅に低減できている(ないしは残留していない)ことを見出したともいえるものである。これは、2回目(以降)の電磁波加熱によって未反応の前駆体や反応が完結していない中間体3aがリチウム遷移金属複合酸化物へと変換される。このように複数回の電磁波加熱により、原料である前駆体をほぼ完全にリチウム遷移金属複合酸化物へと変換することができるため、高純度の正極活物質を高収率で得ることが可能となる。本実施形態では、固形物への電磁波照射と、塊状生成物と残留物(共に固形物)の解砕及び混合とを繰り返し行うだけでよく、生成物と残留物を分離するなどの余分な操作を行うことなく、簡単な操作だけで高純度の正極活物質を得ることができるものである。
【0021】
以下、本実施形態の各構成要件について説明する。
【0022】
(被加熱物)
本実施形態の製造方法に用いられる電磁波加熱(照射)の対象物である被加熱物は、ペースト、ゲル状物質、ゲル状混合物、混合溶液などではなく、固体(=固形物)の被加熱物である。
【0023】
従って、本実施形態の正極活物質の製造方法は、電磁波加熱を用いて固体間の固相反応により得られてなる正極活物質の製造方法であって、複数回の電磁波照射の間に固体(=固形物)の被加熱物を解砕及び混合することを特徴とするものともいえる。本実施形態の製造方法によれば、電磁波加熱を用いて固体間の固相反応により得られてなる正極活物質の温度履歴を均一化することができ、単相で高純度の正極活物質を得ることができる。
【0024】
本実施形態では、被加熱物が上記のように固体(=固形物)である。かかる固体(=固形物)形態の被加熱物としては、例えば、実施例に示すように、各原料(Li源、Mn源、必要に応じて加えられる金属元素M源)を乾式混合し、粉砕した後の混合粉末(正極活物質前駆体)などが挙げられる。但し、これらに何ら制限されるものではない。
【0025】
上記した各原料(下記の正極活物質前駆体)の乾式混合、粉砕する方法としては、特に制限されるものではなく、例えば、乳鉢、粉砕メディアを使用する混合・粉砕器(例えば、ボールミル、遊星ボールミル)を使用することができる。但し、これらに何ら制限されるものではない。また、上記固体(=固形物)形態の被加熱物を得るための各原料の乾式混合と粉砕は、上記したような装置を用いて同時に行うのが望ましい。
【0026】
本実施形態では、初回(1回目)の電磁波加熱(照射)の対象物である被加熱物は、上記したような正極活物質前駆体である。2回目以降の電磁波加熱(照射)の対象物となる被加熱物は、正極活物質前駆体の未反応物あるいは反応中間物、更には生成物の正極活物質を含むものである。
【0027】
ここで、正極活物質前駆体(以下、単に「前駆体」とも称する)は、電磁波加熱によって正極活物質としての機能を有する化合物を生成する物質である。より詳しくは、リチウム遷移金属複合酸化物、リチウム遷移金属リン酸化合物、リチウム遷移金属硫酸化合物などの原料となる、リチウム金属化合物および遷移金属化合物などが正極活物質前駆体として挙げられる。以下、本明細書では、リチウム遷移金属複合酸化物から構成される正極活物質を製造する場合について主に説明する。
【0028】
リチウム遷移金属複合酸化物としては、リチウム−マンガン複合酸化物(マンガン酸リチウム)、リチウム−ニッケル複合酸化物、リチウム−コバルト複合酸化物、リチウム−鉄複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルト複合酸化物、リチウム−マンガン−コバルト複合酸化物、リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物などが例示される。また、これらの化合物中の遷移元素の一部は他の金属元素により置換されていてもよい。その場合の他の元素としては、Mn、Ni、Co、Fe、Al、Mg、B、Ga、In、Si、Zr、Nb、Mo、Y、Sn、Ti、V、Cr、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくは、Ni、Co、Fe、Al、Mg、Ga、Sn、Ti、V、Crが挙げられる。ただし、上記他の元素として、元の複合酸化物に含まれる遷移金属元素は除かれる。例えば、リチウム−マンガン複合酸化物(LiMn)において、一部のMnは、Ni、Co、Fe、Al、Mg、B、Ga、In、Si、Zr、Nb、Mo、Y、Sn、Ti、V、Cr、Cu、Ag、Znからなる群から選択される1または2以上の元素で置換されていてもよい。
【0029】
これらのリチウム遷移金属複合酸化物の前駆体としては、リチウム遷移金属複合酸化物に含有されている金属元素を有する化合物、例えば、当該金属元素の硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物などが挙げられる。
【0030】
具体的には、Li化合物としては、LiCO、Li(OH)、LiNO、CHCOOLi、LiO等を用いることができ、好ましくは吸湿性が低い点でLiCOを用いる。これらのLi化合物は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらのLi化合物は水和物の形態で使用してもよい。
【0031】
また、Mn化合物としては、Mn、MnO、Mn等のマンガン酸化物、MnSO、MnCO、Mn(NO、(CHCOO)Mn等を用いることができ、好ましくは経済性の面からMnOを用いる。これらのMn化合物は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらのMn化合物は水和物の形態で使用してもよい。
【0032】
上記前駆体の組み合わせは、特に制限されず、電磁波加熱に好適な誘電特性(磁性特性、導電特性)を有するものであればよい。Li化合物とMn化合物との好ましい組み合わせとしては、酸化リチウムおよび酸化マンガン(IV);炭酸リチウムおよび酸化マンガン(IV);水酸化リチウム(無水または一水和物)および酸化マンガン(IV);硝酸リチウムおよび酸化マンガン(IV);酸化リチウムおよび炭酸マンガン;炭酸リチウムおよび炭酸マンガン;水酸化リチウム(無水または一水和物)および炭酸マンガン;硝酸リチウムおよび炭酸マンガン;酸化リチウムおよび酸化マンガン(III);炭酸リチウムおよび酸化マンガン(III);水酸化リチウム(無水または一水和物)および酸化マンガン(III);硝酸リチウムおよび酸化マンガン(III);酸化リチウムおよび酸化マンガン(II、III);炭酸リチウムおよび酸化マンガン(II、III);水酸化リチウム(無水または一水和物)および酸化マンガン(II、III);硝酸リチウムおよび酸化マンガン(II、III)などを例示することができる。なお、Li化合物とMn化合物とを組み合わせた混合粉末中の酸化マンガンの二次粒子径が重要である。これは、焼成時に進行する反応では、リチウム化合物は溶融するために、マンガン化合物と比較して、焼成で得られるスピネルマンガンの粒子径に対する影響は小さいためである。よって、前駆体を混合、粉砕する際には、とりわけ酸化マンガンの粒子径が、以下に示す粒子径の範囲となるまで十分に粉砕するのが望ましいといえる。
【0033】
これらの各前駆体の形状は特に制限はないが、一般的には粒状の状態で入手および使用されうる。各前駆体の粒子径も特に制限はないが、好ましくは0.01〜2μmの範囲である。粒子径が0.01μm以上であると、各前駆体を十分な混合状態とすることが容易である。一方、粒子径が2μm以下であると、焼成によりリチウム遷移金属複合酸化物粒子の粒子径が2μmを超え、正極活物質の性能が低下するのを防ぐことができる。なお、ここでいう前駆体の粒子径は、平均粒子径を意味し、水溶液を分散媒としたレーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0034】
これらの前駆体は、複合酸化物における結晶をより均一なものとするために、所望のリチウム遷移金属複合酸化物の組成にしたがって所定量秤量し、十分に混合して混合物とした後、電磁波加熱に供されることが好ましい。
【0035】
また、前駆体(初回の電磁波加熱(照射)の対象物である被加熱物)は、混合後、さらに造粒を経て、電磁波加熱に供されることもまた好ましい。予め造粒することにより、前駆体中の空隙を低減させ、空隙に存在している空気によって熱伝導が阻害されるのを防ぐことかできる。前駆体混合物の造粒方法は特に制限はなく、公知の方法を適宜参照することにより行うことができる。一例を挙げると、粉末状の前駆体混合物を造粒装置に投入し、圧縮することによりペレット状等に造粒された前駆体混合物を調製することができる。また、前駆体混合物に少量の溶媒(例えば、エタノール)を滴下して、乳鉢でよく混練することにより造粒を行ってもよい。さらに、他の方法として、所定量秤量した前駆体と溶媒とを混合して混合物スラリーを調製し、当該混合物スラリーをスプレードライ法(噴霧造粒法)により造粒する方法を採用してもよい。なお、上記造粒では、若干“ウエット(wet)”な状態となるだけで実質的には粒子径はほぼ変化出ず、上記した各前駆体の粒子径の範囲内の造粒物が得られる。
【0036】
(電磁波加熱)
本実施形態では、被加熱物(初回の電磁波加熱(照射)の対象物の前駆体)を準備した後、被加熱物に複数回の電磁波を照射する。本形態の製造方法は、従来の、ペースト、ゲル状物質、ゲル状混合物、混合溶液の状態で電磁波照射を行う湿式法とは異なり、固形物である被加熱物(前駆体、その中間生成物及び生成物)にそのまま電磁波を照射する、いわゆる乾式法である点に特徴を有する。被加熱物は、複数回電磁波を照射されることにより加熱され、固体間の固相反応によりリチウム遷移金属複合酸化物(正極活物質)へと変換される。この照射と照射の間に被加熱物を解砕及び混合することで、全体の温度履歴を均一化することができる。そのため、こうして全体の温度履歴を均一化された被加熱物に2回目以降の電磁波を照射して加熱することで、未反応物あるいは反応中間物の残存量を大幅に低減することができ、単相で高純度の正極活物質を得ることができるものである。以下、電磁波加熱の好ましい条件(電磁波の周波数、加熱保持温度、保持時間、反応雰囲気、出力など)について説明する。
【0037】
上記電磁波の周波数は、特に制限はないが、好ましくは0.1〜100GHzである。周波数が0.1GHz以上であれば、十分な出力を確保することができる。一方、周波数が100GHz以下であれば、被加熱物(前駆体)への電磁波の侵入深さが小さくなりすぎるおそれがない。なお、電磁波の周波数は装置によりほぼ一定であるが、上記範囲の周波数であれば、後述の他の条件を適宜調節することで、所望の正極活物質を得ることができる。なお、複数回照射する電磁波の周波数は、全体の温度履歴を均一化することができればよく、上記範囲内であれば、各回照射ごとに、周波数を変化させてもよいし、同一周波数としてもよい。好ましくは、同一周波数である。マイクロ波などの電磁波照射装置では、通常、一定の周波数が使用されているためである(実施例参照)。
【0038】
電磁波加熱における加熱保持温度は、特に制限されないが、好ましくは700〜1000℃であり、より好ましくは800〜1000℃である。加熱保持温度が700℃以上であれば、反応(固体(=被加熱物粒子)間の固相反応)が良好に進行するしうる。一方、加熱保持温度が1000℃以下であれば、被加熱物(特に前駆体である原料成分)の一部が揮発して、組成ずれが起こるおそれがない。なお、本明細書において、加熱保持温度は、電磁波を反射するように測温部をライニングした熱電対を、被加熱物(前駆体)粉末中に挿入することにより測定できる。なお、複数回照射する電磁波加熱における加熱保持温度は、全体の温度履歴を均一化することができればよく、上記範囲内であれば、各回照射ごとに、加熱保持温度を変化させてもよいし(表1の実施例2参照)、同一加熱保持温度としてもよい(表1の実施例1、3参照)。
【0039】
電磁波加熱における保持時間は、特に制限されないが、好ましくは10〜1000分間であり、より好ましくは15〜600分間である。保持時間が10分間以上であれば、十分に反応(固体(=被加熱物粒子)間の固相反応)が進行しうる。一方、保持時間が1000分間以下であれば、生産性を極端に低下させるおそれもない。なお、複数回照射する電磁波加熱における保持時間は、全体の温度履歴を均一化することができればよく、上記範囲内であれば、各回照射ごとに、保持時間を変化させてもよいし、同一保持時間としてもよい(表1の実施例1〜3参照)。
【0040】
電磁波照射の反応雰囲気は、酸素含有雰囲気であることが好ましく、具体的には、空気雰囲気、酸素雰囲気等が挙げられる。コスト等の観点から、反応雰囲気は、空気雰囲気であることが好ましい。なお、Niを含有する前駆体(被加熱物)を使用する場合は、カチオンミキシングを除く観点から、反応雰囲気を酸素雰囲気とするのが望ましい。なお、複数回照射する電磁波加熱における反応雰囲気は、全体の温度履歴を均一化することができればよく、上記雰囲気内であれば、各回照射ごとに、反応雰囲気を変化させてもよいし、同一反応雰囲気としてもよい(実施例参照)。
【0041】
本形態で使用される電磁波照射装置は、発振管としてマグネトロン、クライストロンを用いたマイクロ波照射装置や、発振管としてジャイロトロンを用いた高出力サブミリ波発生装置などが例示される。またこれら以外の装置であっても、上記周波数、加熱保持温度、保持時間、反応雰囲気を達成することができる装置であれば使用可能である。なお、複数回照射する電磁波加熱に使用される電磁波照射装置は、全体の温度履歴を均一化することができればよく、上記装置は内であれば、各回照射ごとに、電磁波照射装置を変化させてもよいし、同一電磁波照射装置を使用してもよい(実施例参照)。
【0042】
上記電磁波照射装置の出力は、0.1〜1000kWの範囲であることが好ましい。電磁波照射装置の出力が0.1kW以上であれば、所望の加熱保持温度を維持でき、かつ適度な反応時間で反応を完結させることができる。一方、電磁波照射装置の出力が1000kWを超えると装置が非常に高価となってしまい、現実的でない。換言すると、1000kW以下の装置であれば、比較的安価で現実的に調達可能である。なお、複数回照射する電磁波加熱に使用される電磁波照射装置の出力は、全体の温度履歴を均一化することができればよく、上記範囲内であれば、各回照射ごとに、出力を変化させてもよいし、同一出力としてもよい。
【0043】
(焼成容器)
被加熱物に電磁波を照射させる際は、(1)電磁波照射装置に被加熱物のみを投入して電磁波を照射してもよいし、(2)焼成容器の中に被加熱物を入れて、焼成容器ごと電磁波照射装置に設置して電磁波を照射してもよい。また、(2)の方法を採用する場合、(i)坩堝のような焼成容器中で坩堝を静置させて電磁波を照射させてもよいし、(ii)ロータリーキルンのような可動式の焼成容器に被加熱物を投入し、被加熱物を流動させながら電磁波を照射してもよい。連続式のロータリーキルンでは炉壁自体が焼成容器の役割を担うことができるためである。このうち、被加熱物(前駆体)の温度履歴を一定にし、より高純度の単相のリチウム遷移金属複合酸化物を得る観点から、(ii)の方法を採用することが好ましい(実施例4参照)。
【0044】
また、上記焼成容器も電磁波を透過し、容器内の被加熱物に電磁波を照射可能なものであれば特に制限はない。好ましくは、電磁波をある程度(例えば、照射した電磁波のうち、0を超えて20%以下)吸収して、自身が穏やかに温度上昇する(例えば、20〜300℃/分)材料からなる焼成容器を用いることが好ましい。こにより、被加熱物のうち、焼成容器に接している箇所では、焼成容器自体により冷却される事象を抑制することができる。即ち、図1Aで説明したように、電磁波を照射した際に、焼成容器内部と該焼成容器に接している部分との温度差を小さくし、全体の温度履歴の均一化に寄与することができるものである。このような材料としては、アルミナ、ムライト(アルミナと二酸化ケイ素との複合化合物)、アルミナ−マグネシア質、マグネシア−マグネタイト質、さらには、これらと、Fe、Ti、Ca等の酸化物との複合体もなどが利用可能である。また、耐火布(例えば、セラミック製織布(アルミノシリケートファイバー))のような布状のものを焼成容器として使用しても構わない。
【0045】
(解砕及び混合)
次に、複数回の電磁波照射の間に、更には最後回の電磁波照射後に、得られた生成物(前駆体や中間体3aを含む場合もある)を解砕及び混合する。これにより、塊状の生成物(凝集体)を正極活物質(二次粒子)の状態にすることができるものである。さらに、残留物である前駆体や中間体3aを含む場合には、これらを二次粒子の状態に解砕された正極活物質中に均一に混合分散した状態にすることができる。なお、最後回の電磁波照射後に得られた生成物については、解砕だけでもよい。これは、残留物が殆どなく、上記したような残留物を二次粒子の状態に解砕された正極活物質中に均一に分散させる混合処理を行う必要がないためである。
【0046】
最後回の電磁波照射で得られた生成物を解砕(混合)した後の生成物(正極活物質)は、以下に規定する正極活物質と同じ特性(即ち、一次粒子径、二次粒子径及びBET比表面積等)を備えてなるものが得られるものである。よって、ここでの説明は省略する。
【0047】
また、複数回の電磁波照射の間に、更には最後回の電磁波照射後に、得られた生成物(前駆体や中間体3aを含む場合もある)を解砕及び混合する方法は、特に制限されず、公知の手法を適宜採用することができる。例えば、乳鉢、ボールミル、遊星ボールミル、ダイナミックミル、ビーズミル、ジェットミル、ハンマーミル、ディスクミル、ピンミルなどを用いることによって、容易に塊状物(凝集体)を二次粒子へと解砕し、残留物粒子を混合分散させることができる。また、上記解砕及び混合(処理)には、上記したような手法(装置)を用いて、解砕と混合を同時に行うのが望ましい。
【0048】
本実施形態では、複数回の電磁波照射の間に、被加熱物を解砕及び混合するものであるが、好適な電磁波照射の回数としては2〜3回が好ましい。照射回数が3回以内であれば繰り返し工程が長くのを抑制でき、コスト、および最終的な回収歩留まりの点で有利である。また、マイクロ波照射の回数が、2回以上であれば、粉末X線回折測定装置で測定される不純物相の残留を測定限界より少なく抑えることができ(実施例の表1参照)、初期放電容量が向上させることができる点で優れている。
【0049】
以上のように本実施形態に係る正極活物質の製造方法は、全体の温度履歴を均一化することができ、高純度の正極活物質を得ることができる。本発明者らは、乾式法にて電磁波加熱を用いて正極活物質を製造する場合、反応生成物中に、未反応の前駆体や、反応が完結していない中間体が粒子状の形態で残留してしまうということを見出し、当該知見に基づき上記製造方法を完成させた。本製造方法によると、正極活物質前駆体をほぼ完全にリチウム遷移金属複合酸化物へと変換することができるため、高純度の正極活物質を提供することが可能となる。また、乾式法にて電磁波加熱を行うため、湿式法と比較して簡素な作業工程で、かつ効率よく正極活物質を製造することも可能となる。
【0050】
本発明の他の実施形態(第2実施形態)は、電磁波加熱を用いる正極活物質の製造方法であって、被加熱物を流動させながら電磁波を照射することを特徴とするものである。
【0051】
本形態の製造方法により、乾式法での電磁波加熱を用いた正極活物質の製造方法であっても、高純度の正極活物質を得ることができる。これにより、湿式法での電磁波加熱や焼成工程に電気炉を用いる従来の方法と比較して、作業工程の簡素化および製造コストの削減を達成することができる。また、被加熱物を流動させながら電磁波を照射する方法では、電磁波照射と同時に、被加熱物の解砕及び混合を行うことができる点で優れている。
【0052】
但し、上記したように第1実施形態においても、被加熱物に電磁波を照射させる際に、本実施形態の被加熱物を流動させながら電磁波を照射する方法を適用してもよい。
【0053】
本実施形態において、被加熱物を流動させながら電磁波を照射する方法としては、被加熱物に電磁波を照射させる際に、ロータリーキルンのような可動式の焼成容器に被加熱物を投入し、被加熱物を流動させながら電磁波を照射する方法が挙げられる。これにより、電磁波照射と、解砕及び混合とを同時に行うことができるものである。即ち、可動式の焼成容器に被加熱物を投入し、被加熱物を流動させながら電磁波を照射することで、容器内部の被加熱物と、容器及び外部と接する部分の被加熱物とが随時、入れ替わりながら混合され、生成物も塊状化する前に解砕される。そのため、容器内の被加熱物の温度履歴を均一化することができるものである。そのため、複数回の電磁波照射を行わなくとも1回の電磁波照射を行うだけでよい。また、複数回の電磁波照射の間に、被加熱物を解砕及び混合する必要もない点でも優れている。
【0054】
尚、上記した以外の被加熱物や電磁波加熱については、第1実施形態で説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0055】
本実施形態に係る正極活物質の製造方法でも、全体の温度履歴を均一化することができ、高純度の正極活物質を得ることができる。本発明者らは、乾式法にて電磁波加熱を用いて正極活物質を製造する場合、反応生成物中に、未反応の前駆体や、反応が完結していない中間体が粒子状の形態で残留してしまうということを見出し、当該知見に基づき上記製造方法を完成させた。本製造方法によると、正極活物質前駆体をほぼ完全にリチウム遷移金属複合酸化物へと変換することができるため、高純度の正極活物質を提供することが可能となる。また、乾式法にて電磁波加熱を行うため、湿式法と比較して簡素な作業工程で、かつ効率よく正極活物質を製造することも可能となる。
質を製造することも可能となる。
【0056】
<正極活物質>
また、本発明者らの検討によると、上記製造方法により得られた正極活物質を用いて電気デバイスの一実施形態であるリチウムイオン二次電池を作製したところ、従来の正極活物質を用いた場合と比較して、放電容量が有意に向上することが判明した。その原因について調査したところ、上記製造方法により得られる正極活物質は、従来の正極活物質とは異なる、所定の範囲の粒径およびBET比表面積を有していることが判った。具体的には、一次粒子径が0.05〜2μmであり、二次粒子径が5μm以下であり、かつBET比表面積が0.1〜1.0m/gであった。
【0057】
このように粒径およびBET比表面積が所定の範囲であることによりリチウムイオン二次電池の性能が向上するメカニズムは確かではないが、本発明者らは以下のように推測している。すなわち、一次粒子径および二次粒子径が上記範囲内であると、Liイオンのスムーズな挿入・脱離が維持されうる。また、BET比表面積が上記範囲内であると、電極からの正極活物質の脱離が生じにくくなる。このような理由により、リチウムイオン二次電池の放電容量が向上するものと考えられた。
【0058】
したがって、かような優れた性能を有する正極活物質も、本発明の一形態として、本発明の技術的範囲に包含される。すなわち、本発明の他の一実施形態(第3実施形態)によると、一次粒子径が0.05〜2μmであり、二次粒子径が5μm以下であり、かつBET比表面積が0.1〜1.0m/gである、正極活物質が提供される。なお、本明細書において、「一次粒子径」および「二次粒子径」は、粒子径の平均値ではなく、全粒子に対して95質量%の粒子の粒度分布範囲を意味する。「一次粒子径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により、各一次粒子の粒子径を測定することにより求められる。その際、一次粒子は必ずしも球形ではない(多くは多面体非球状である;図2参照)ため、定方向径を取ることにより一次粒子径として算出するものとする。また、「二次粒子径」は、レーザー回折式粒度分布装置を用いることにより求めることができる。
【0059】
正極活物質の一次粒子径は、0.05〜2μmであり、好ましくは0.05〜1μmである。一次粒子径が0.05μm未満であると、正極を製造する際に、導電性を付与するために添加する導電助剤の量が多くなりすぎてしまうため、好ましくない。また、一次粒子径が2μmを超えると、電池容量が低下するおそれがある。
【0060】
正極活物質の二次粒子径は、5μm以下である。二次粒子が5μmを超えると、レート特性が悪化するおそれがある。一方、二次粒子径の下限値は特に制限されないが、正極を製造する際に、正極活物質と、導電助剤やバインダ等とを混合して作製するスラリーの粘度制御を容易にする観点から、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましい。
【0061】
正極活物質のBET比表面積は、0.1〜1.0m/gであり、好ましくは0.2〜0.6m/gである。BET比表面積が0.1m/g未満であると、単位時間あたりの正極活物質表面からリチウムイオンの挿入・脱離可能な量が少なくなり、高率充放電に追随することが難しく、効率よく充放電をすることが難しくなるため好ましくない。一方、BET比表面積が1.0m/gを超えると、高温時に、正極活物質が電解液へ溶出しやすくなるため、好ましくない。また、BET比表面積が上記範囲内にあると、十分な導電パス、活物質−バインダ間の結着点を確保でき、電極からの正極活物質の剥離を防止できる、という効果も得られる。
【0062】
本実施形態の正極活物質では、上記した各要件を満足することで、上記した効果が得られ、その結果としてに、高い放電容量を得ることができ、十分な高機能化を図ることができるものである。
【0063】
また、本形態の正極活物質は、一次粒子が多面体非球状の形状を有している点にも特徴を有する。図2は、正極活物質(二次粒子)を拡大して表した図面である。詳しくは、図2(1)は、正極活物質(二次粒子)を走査型電子顕微鏡(SEM)により拡大(倍率:1,000倍)して観察した写真を表す図面である。図2(2)は、図2(1)中に示す正極活物質(二次粒子)の中から適当にマーキングした4個の粒子A〜Dから、無作為に抽出した粒子BをSEMにより拡大(撮影倍率:10,000倍)して観察した写真を表す図面である。図2に示すように、正極活物質の一次粒子が多面体非球状である(好ましくは、一次粒子の90%以上が多面体非球状である)と、正極活物質層内での正極活物質の結着性が向上し、正極から脱離しにくくなる。但し、本実施形態では、正極活物質(二次粒子)を構成する一次粒子の90%以上が多面体非球状粒子でなくとも、上記した発明の効果を奏することができる範囲内であれば、多面体非球状粒子以外の他の形状の粒子が10%以上含まれていてもよいが、50%以下であるのが望ましい。一次粒子が多面体非球状であるか否かは、SEM観察により容易に判別することができる(後述の実施例、図2を参照)。
【0064】
本形態の正極活物質を構成する材料は、特に制限されないが、リチウム遷移金属複合酸化物であることが好ましく、リチウム−マンガン複合酸化物(マンガン酸リチウム)であることがより好ましい。ここで、上述の正極活物質の製造方法において説明したように、リチウム−マンガン複合酸化物中のマンガンの一部は他の金属元素(Ni、Co、Fe、Al、Mg、B、Ga、In、Si、Zr、Nb、Mo、Y、Sn、Ti、V、Cr、Cu、Ag、Zn)により置換されていてもよい。すなわち、本形態の正極活物質は、下記化学式1で表される組成式を有するリチウム−マンガン複合酸化物であることが好ましい。これらリチウム−マンガン複合酸化物(マンガン酸リチウム)は、構成元素であるマンガンが資源として多量に存在するため、原料が安価に入手しやすく、環境に対する負荷も少ないという利点を有する。また、以下の化学式1で表される組成式とすることで、Liイオンの脱挿入に対して強固な結晶構造を有することになる。
【0065】
【化1】

【0066】
式中、Mは、Ni、Co、Fe、Al、Mg、B、Ga、In、Si、Zr、Nb、Mo、Y、Sn、Ti、V、Cr、Cu、Ag、Znからなる群から選択される1または2以上の元素を表す。上記金属元素Mは、LiMnに固溶して、性能改善につながる元素である。かかる正極活物質の性能をより向上させる観点から、Mは、Ni、Co、Fe、Al、Mg、Ga、Sn、Ti、V、Crからなる群から選択される少なくとも1または2以上の元素であることが好ましい。
【0067】
式中、xは、−0.1<x<0.1であり、好ましくは0.01<x<0.06である。xが−0.1以下であると、カチオンミキシングや結晶歪みが生じる可能性が高くなり、高結晶質のスピネル型リチウム−マンガン複合酸化物が得られなくなるおそれがある。一方、xが0.1以上であると、結晶中にリチウムが入ることができずに、過剰のリチウムがリチウム化合物として存在する比率が多くなるため、好ましくない。
【0068】
式中、yは、0≦y<1である(ただし、Mが2以上の元素を表す場合は、yは各元素の組成比の合計を表す)。yが1以上であると、インターカレーションに関与するMnが減少するために、充放電容量が減少するおそれがある。
【0069】
式中、zは、0≦z<0.2であり、好ましくは0≦z<0.1である。zが0未満である(マイナスの)場合には、結晶中に過剰酸素が存在することにより、リチウムおよびマンガンが不足することになりサイクル耐久性が低下するおそれがある。一方、zが0.2以上であると、酸素欠損により、特に高温でのサイクル耐久性、保存特性に著しい影響が生じるおそれがある。
【0070】
以上説明した第3実施形態の正極活物質は、以下の効果を有する。
【0071】
第3実施形態の正極活物質によれば、一次粒子からのスムーズなLiイオンの脱挿入を達成することができ、更に十分な導電パス、活物質−バインダ間の結着点を確保でき、電極からの正極活物質の剥離を防止できる効果をも達成することができる。これらの結果として高い放電容量を得ることができるリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することができる。
【0072】
<電気デバイス>
上述の本形態の正極活物質は、放電特性に優れるため、様々な電気デバイスの好適に使用されうる。すなわち、本発明の一形態によると上記正極活物質を含む電気デバイスが提供される。かかる構成とすることで、十分な導電パス、活物質−バインダ間の結着点を確保でき、正極からの正極活物質の剥離を防止できる効果をも達成することができる。これらの結果として高い放電容量を得ることができるリチウムイオン二次電池などの電気デバイスを提供することができる。
【0073】
本形態の電気デバイスは、上記正極活物質を要するものであれば特に制限はなく、リチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等の二次電池、および電気二重層キャパシタなどが挙げられる。以下、電気デバイスの一例として、本形態の正極活物質を含む正極を具備したリチウムイオン二次電池について説明する。
【0074】
リチウムイオン二次電池の構造・形態で区別した場合には、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池など特に制限されず、従来公知のいずれの構造にも適用されうる。
【0075】
同様に、電解質の形態で区別した場合にも、特に制限はない。例えば、非水電解液をセパレータに含浸させた液体電解質型電池、ポリマー電池とも称される高分子ゲル電解質型電池および固体高分子電解質(全固体電解質)型電池のいずれにも適用されうる。本実施形態では、高分子ゲル電解質および固体高分子電解質に関しても、これら高分子ゲル電解質や固体高分子電解質をセパレータに含浸させたものを使用することができる。
【0076】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。以下の説明では、双極型でない(内部並列接続タイプ)リチウムイオン二次電池につき図面を用いて説明するが、決してこれらに制限されるべきものではない。
【0077】
図3に、本発明の電気デバイスの一実施形態(第4実施形態)に係る積層型のリチウムイオン二次電池の全体構造を模式的に表した概略図を示す。本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、電池外装材であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。詳しくは、高分子−金属複合ラミネートフィルムを電池外装材として用いて、その周辺部の全部を熱融着にて接合することにより、発電要素17を収納し密封した構成を有している。ここで、発電要素21は、正極と、電解質層17と、負極とを積層した構成を有している。正極は、正極集電体11の両面に正極活物質層13が配置された構造を有する。負極は、負極集電体12の両面に負極活物質層15が配置された構造を有する。具体的には、1つの正極活物質層13とこれに隣接する負極活物質層15とが、電解質層17を介して対向するようにして、負極、電解質層および正極がこの順に積層されている。
【0078】
これにより、隣接する正極、電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。なお、正極活物質層15は、上述の正極活物質を必須に含み、この他に正極活物質層15に導電性を付与するための導電助剤や、バインダ等の添加材が必要に応じて含まれうる。
【0079】
なお、発電要素21の両最外層に位置する最外層正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、図3とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層負極集電体が位置するようにし、該最外層負極集電体の片面または両面に負極活物質層が配置されているようにしてもよい。また、双極型のリチウムイオン二次電池では、単電池層の外周には、隣接する負極集電体11と正極集電体14との間を絶縁するためのシール部(絶縁層)(図示せず)が設けられていてもよい。
【0080】
正極集電体11および負極集電体12は、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板25および負極集電板27がそれぞれ取り付けられ、電池外装材29の端部に挟まれるようにして電池外装材29の外部に導出される構造を有している。正極集電板25および負極集電板27はそれぞれ、必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11および負極集電体12に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。ただし、負極集電体12が延長されて負極集電板27とされ、電池外装材29から導出されていてもよい。同様に、正極集電体11が延長されて正極集電板25とされ、同様に電池外装材29から導出される構造としてもよい。
【0081】
なお、リチウムイオン二次電池の他の形態としては、集電体の一方の面に負極活物質層が形成され、他方の面に正極活物質層が形成されてなる双極型電極が、電解質層を介して積層された双極型のリチウムイオン二次電池が挙げられる。上記積層型のリチウムイオン二次電池10と双極型のリチウムイオン二次電池とは双方の電池内の電気的な接続形態(電極構造)が異なることを除いては、基本的には同様である。
【0082】
以下、本形態に係るリチウムイオン二次電池を構成する部材について簡単に説明するが、下記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の形態も同様に採用されうる。
【0083】
[電極(正極および負極)]
正極および負極は、リチウムイオンの授受により電気エネルギーを生み出す機能を有する。正極は上述の正極活物質を必須に含み、負極は任意の負極活物質を含む。これらの電極構造は、積層型二次電池の場合、活物質を含む活物質層のみから構成されてもよいし、上記図1の形態のように集電体の表面に活物質を含む活物質層が形成されてなる構造であってもよい。一方、双極型二次電池の場合の電極(双極型電極)は、集電体の一方の面に正極活物質を含む正極活物質層が形成され、他方の面に負極活物質を含む負極活物質層が形成されてなる構造を有する。すなわち、集電体を介して正極(正極活物質層)および負極(負極活物質層)が一体化した形態を有する。なお、活物質層には、活物質以外にも必要に応じて導電助剤、バインダなどの添加剤が含まれうる。以下、正極活物質以外の部材について説明する。
【0084】
(負極活物質)
負極活物質は、放電時にリチウムイオンを放出し、充電時にリチウムイオンを吸蔵できる組成を有する。負極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵および放出できるものであれば特に制限されないが、負極活物質の例としては、SiやSnなどの金属、あるいはTiO、Ti、TiO、もしくはSiO、SiO、SnOなどの金属酸化物、Li4/3Ti5/3もしくはLiMnNなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物、Li−Pb系合金、Li−Al系合金、Li、または天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、もしくはハードカーボンなどの炭素材料などが好ましく挙げられる。このうち、リチウムと合金化する元素を用いることにより、従来の炭素系材料に比べて高いエネルギー密度を有する高容量および優れた出力特性の電池を得ることが可能となる。上記負極活物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。上記のリチウムと合金化する元素としては、以下に制限されることはないが、具体的には、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、Zn、H、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Cd、Hg、Ga、Tl、C、N、Sb、Bi、O、S、Se、Te、Cl等が挙げられる。
【0085】
上記活物質のうち、炭素材料、ならびに/またはSi、Ge、Sn、Pb、Al、In、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素を含むことが好ましく、炭素材料、Si、またはSnの元素を含むことがより好ましい。炭素材料のうち、リチウム対比放電電位が低い黒鉛を用いることがさらに好ましい。
【0086】
上記負極活物質を負極として使用する際には、負極活物質を含む負極活物質層を板状に成形しそのまま負極としてもよいし、集電体の表面に上記負極活物質粒子を含む負極活物質層を形成して負極としてもよい。後者の形態における負極活物質粒子の平均粒子径は、特に制限されないが、負極活物質の高容量化、反応性、サイクル耐久性の観点からは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜20μmである。このような範囲であれば、二次電池は、高出力条件下での充放電時における電池の内部抵抗の増大が抑制され、充分な電流を取り出しうる。なお、負極活物質が二次粒子である場合には該二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径が10nm〜1μmの範囲であるのが望ましいといえるが、本発明では、必ずしも上記範囲に制限されるものではない。ただし、製造方法にもよるが、負極活物質が凝集、塊状などにより二次粒子化したものでなくても良いことはいうまでもない。かかる負極活物質の粒径および一次粒子の粒径は、レーザー回折法を用いて得られたメディアン径を使用できる。なお、負極活物質粒子の形状は、その種類や製造方法等によって取り得る形状が異なり、例えば、球状(粉末状)、板状、針状、柱状、角状などが挙げられるがこれらに限定されるものではなく、いずれの形状であれ問題なく使用できる。好ましくは、充放電特性などの電池特性を向上し得る最適の形状を適宜選択するのが望ましい。
【0087】
(集電体)
集電体は導電性材料から構成され、その一方の面または両面に活物質層が配置される。集電体を構成する材料に特に制限はなく、例えば、金属や、導電性高分子材料または非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された導電性を有する樹脂が採用されうる。
【0088】
金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、あるいはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも導電性や電池作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス鋼、および銅が好ましい。
【0089】
また、導電性高分子材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、およびポリオキサジアゾールなどが挙げられる。かような導電性高分子材料は、導電性フィラーを添加しなくても十分な導電性を有するため、製造工程の容易化または集電体の軽量化の点において有利である。
【0090】
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE))、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、およびポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
【0091】
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限されないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、Sb、およびKからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限されないが、アセチレンブラック、バルカン、ブラックパール、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、5〜35質量%程度である。
【0092】
集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。集電体の厚さについても特に制限はないが、通常は1〜100μm程度である。
【0093】
[導電助剤]
導電助剤とは、活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、グラファイト等のカーボン粉末や、気相成長炭素繊維(VGCF;登録商標)等の種々の炭素繊維、膨張黒鉛などが挙げられる。しかし、導電助剤がこれらに限定されないことはいうまでもない。
【0094】
[バインダ]
バインダは、活物質層中の構成部材同士または活物質層と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で添加される。バインダとしては、特に制限されないが、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリイミド、PTFE、SBRなどの合成ゴム系バインダ等が挙げられる。しかし、バインダがこれらに限定されないことはいうまでもない。
【0095】
[電解質層]
電解質層は、正極と負極との間の空間的な隔壁(スペーサ)として機能する。また、これと併せて、充放電時における正負極間でのリチウムイオンの移動媒体である電解質を保持する機能をも有する。
【0096】
電解質層を構成する電解質に特に制限はなく、液体電解質、ならびに高分子ゲル電解質および高分子固体電解質などのポリマー電解質が適宜用いられうる。
【0097】
液体電解質は、有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)などのカーボネート類が挙げられる。また、支持塩(リチウム塩)としては、LiN(SO、LiN(SOCF、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiSOCFなどを用いることができる。
【0098】
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲル電解質と、電解液を含まない高分子固体電解質に分類される。
【0099】
ゲル電解質は、リチウムイオン伝導性を有するマトリックスポリマーに、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。リチウムイオン伝導性を有するマトリックスポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体などが挙げられる。かようなマトリックスポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
【0100】
なお、電解質層が液体電解質やゲル電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いてもよい。セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィンやポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HFP)等の炭化水素、ガラス繊維などからなる微多孔膜が挙げられる。
【0101】
高分子固体電解質は、上記のマトリックスポリマーに支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、有機溶媒を含まない。したがって、電解質層が高分子固体電解質から構成される場合には電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
【0102】
高分子ゲル電解質や高分子固体電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発揮しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合などの重合処理を施せばよい。なお、上記電解質は、電極の活物質層中に含まれていてもよい。
【0103】
[集電板(タブ)]
リチウムイオン二次電池においては、電池外部に電流を取り出す目的で、集電体に電気的に接続された集電板(タブ)が外装材であるラミネートフィルムの外部に取り出されている。
【0104】
集電板を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板(正極タブ)と負極集電板(負極タブ)とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0105】
[正極端子リードおよび負極端子リード]
図1に示す積層型二次電池10においては、負極端子リード20および正極端子リード21をそれぞれ介して、集電体は集電板と電気的に接続されている。
【0106】
負極および正極端子リードの材料は、公知の積層型二次電池で用いられるリードを用いることができる。なお、電池外装材から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
【0107】
[外装材]
外装材としては、従来公知の金属缶ケースを用いることができる。そのほか、図1に示すようなラミネートフィルム22を外装材として用いて、発電要素17をパックしてもよい。ラミネートフィルムは、例えば、ポリプロピレン、アルミニウム、ナイロンがこの順に積層されてなる3層構造として構成されうる。このようなラミネートフィルムを用いることにより、外装材の開封、容量回復材の添加、外装材の再封止を容易に行うことができる。
【0108】
[リチウムイオン二次電池の外観構成]
図4は、電極デバイスの代表的な実施形態である扁平な積層型のリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
【0109】
図4に示すように、扁平な積層型のリチウムイオン二次電池50では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極タブ58、負極タブ59が引き出されている。発電要素57は、リチウムイオン二次電池50の電池外装材52によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素57は、正極タブ58および負極タブ59を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素57は、先に説明した図3に示す積層型のリチウムイオン二次電池10の発電要素21に相当するものである。発電要素57は、正極、電解質層および負極で構成される単電池層(単セル)19が複数積層されたものである。
【0110】
なお、上記リチウムイオン二次電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型のリチウムイオン二次電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装材に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムラミネートフィルムで外装される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
【0111】
また、図9に示すタブ58、59の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極タブ58と負極タブ59とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極タブ58と負極タブ59をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図9に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
【0112】
このようにリチウムイオン二次電池に上述の正極活物質を用いることにより、高い放電容量、優れた耐久性を達成することが可能となる。したがって、本形態リチウムイオン二次電池は、高容量・高出力を要する電動車両等に好適に使用されうる。具体的には、電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの大容量電源として、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
【0113】
なお、上記実施形態は、電気デバイスとして、リチウムイオン電池を例示したが、これに制限されるわけではなく、他のタイプの二次電池、さらには、一次電池にも適用できる。また、電池だけではなく、上記正極活物質を用いたキャパシタにも適用できる。
【実施例】
【0114】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、特に明示しない限り、以下のマイクロ波加熱中の温度(加熱保持温度)測定は、マイクロ波を反射するように測温部をライニングした熱電対を、粉末(被加熱物)中に挿入することにより実施した。また、マイクロ波加熱装置には、発振管としてマグネトロンを使用した装置を用いた。
【0115】
(比較例1)
(1)リチウムイオン二次電池用正極活物質A−2の作製
炭酸リチウム(LiCO)と、酸化マンガン(MnO)とを、各金属元素のモル比がLi:Mn=1.02:2.00となるよう秤量して、乾式混合および解砕を行なうことにより、混合原料物A−1を得た。
【0116】
混合原料物A−1をムライト質焼成容器に入れて、焼成容器ごとマイクロ波加熱装置内に置いた。マイクロ波加熱条件は、周波数:2.45GHz、加熱保持温度:900℃、保持時間:25分間、空気雰囲気、とした。マイクロ波加熱を終了して、室温(25℃;以下同様)まで冷却後、マイクロ波加熱装置より焼成容器を取り出した。焼成容器内部の様子を観察したところ、サンプル形態はほぼ塊状となっていたが、上端部(外部雰囲気と接していた部分)および焼成容器に接していた部分は粉末状態であった。回収したサンプルを、全体が均一になるように乳鉢で解砕及び混合してリチウムイオン二次電池用正極活物質A−2を得た。
【0117】
(2)粉末X線回折の測定
上記(1)で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質A−2について、粉末X線回折の測定をした。測定には理学電機株式会社製のSmartLabを使用し、以下の条件で行った。
【0118】
測定角度範囲: 2θ=10°〜90°
電圧・電流: 45kV・200mA
X線波長: CuKα
観測されたピークは、LiMn、Mn、Mnと同定された。
【0119】
(3)リチウムイオン二次電池(コイン型2極式セル)の作製
上記(1)で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質A−2、導電助剤にアセチレンブラック、バインダにポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用し、正極活物質、導電助剤、バインダをそれぞれ90質量%、5質量%、5質量%の割合で配合した。得られた配合剤100質量部に対して100質量部のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)をスラリー粘度調整溶媒として添加し、混合して正極スラリーを調製した。Al箔(厚み:20μm)上に該正極スラリーを塗布して、乾燥させて正極を形成した。当該正極、対極(負極)としてLi金属、セパレータとしてガラス濾紙、及び、電解液として、1.0MのLiPFを含有するエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶液(5:5のモル比)を用いて、リチウムイオン二次電池(コイン型2極式セル)を作製した。
【0120】
(4)充放電試験
上記で得られたコイン型2極式セルについて、以下の条件で、定電流定電圧充電及び定電流放電による充放電試験を行った。
【0121】
充電:充電電圧4.3V、充電時間8時間、充電電流密度0.2mA/cm
放電:放電電圧3.0V、放電電流密度0.2mA/cm
得られた初期放電容量は68mAh/gであった。
【0122】
(5)粒子形態の観察
リチウムイオン二次電池用正極活物質A−2の一次粒子、二次粒子の形態、粒子径を観察するために、株式会社日立製作所製の電界放射型走査電子顕微鏡(型式:S−4000)を使用した。観察結果から、一次粒子は球状粒子と多面体非球状粒子が混在しており、一次粒子径、二次粒子径はそれぞれ0.03〜1.5μm、0.8〜20μmの範囲内であった。
【0123】
(6)BET比表面積の測定
リチウムイオン二次電池用正極活物質A−2のBET比表面積は、株式会社堀場製作所製のBET比表面積測定装置(型式:SA−9601)により実施した(BET一点法)。リチウムイオン二次電池用正極活物質A−2のBET比表面積は、1.4m/gであった。
【0124】
(実施例1)
(1)リチウムイオン二次電池用正極活物質B−3の作製
比較例1で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質A−2をムライト質焼成容器に入れて、焼成容器ごとマイクロ波加熱装置内に置いて、2回目のマイクロ波加熱に供した。2回目のマイクロ波加熱条件は、周波数:2.45GHz、加熱保持温度:900℃、保持時間:25分間、空気雰囲気、とした。2回目のマイクロ波加熱を終了して、室温まで冷却後、マイクロ波加熱装置より焼成容器を取り出した。焼成容器内部の様子を観察したところ、サンプル形態は塊状となっていた。またサンプル全体に色味の違いもなかった。回収したサンプルを、全体が均一になるように乳鉢で解砕及び混合してリチウムイオン二次電池用正極活物質B−3を得た。
【0125】
(2)粉末X線回折の測定
上記(1)で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質B−3について、比較例1と同様の方法で粉末X線回折の測定をしたところ、観測されたピークは、LiMnのみと同定された。
【0126】
(3)リチウムイオン二次電池(コイン型2極式セル)の作製
上記(1)で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質B−3、導電助剤にアセチレンブラック、バインダにPVDFを使用し、正極活物質、導電助剤、バインダをそれぞれ90質量%、5質量%、5質量%の割合で配合した。得られた配合剤100質量部に対して100質量部のNMPをスラリー粘度調整溶媒として添加し、混合して正極スラリーを調製した。Al箔(厚み:20μm)上に該正極スラリーを比較例1と同量塗布して、乾燥させて正極を形成した。当該正極、対極(負極)としてLi金属、セパレータとしてガラス濾紙、及び、電解液として、1.0MのLiPFを含有するECとDECとの混合溶液(5:5のモル比)を用いて、リチウムイオン二次電池(コイン型2極式セル)を作製した。
【0127】
(4)充放電試験
上記で得られたコイン型2極式セルについて、比較例1と同様の方法で定電流定電圧充電および定電流放電による充放電試験を行ったところ、得られた初期放電容量は95mAh/gであった。
【0128】
(5)粒子形態の観察
比較例1と同様の方法でリチウムイオン二次電池用正極活物質B−3を観察したところ、一次粒子は多面体非球状粒子のみが視認でき、一次粒子径、二次粒子径はそれぞれ0.3〜2.0μm、0.5〜4μmの範囲内であった。また、当該リチウムイオン二次電池用正極活物質B−3の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図2に示す。図2の写真からは、一次粒子の多面体非球状粒子における多面体は、概ね六面体以上であるといえる。
【0129】
(6)BET比表面積の測定
比較例1と同様の方法でBET比表面積を測定したところ、リチウムイオン二次電池用正極活物質B−3のBET比表面積は、0.78m/gであった。
【0130】
(比較例2)
(1)リチウムイオン二次電池用正極活物質C−2の作製
比較例1に記載の混合原料物A−1をムライト質焼成容器に入れて、焼成容器ごとマイクロ波加熱装置内に置いた。マイクロ波加熱条件は、周波数:2.45GHz、加熱保持温度:800℃、保持時間:25分間、空気雰囲気、とした。マイクロ波加熱を終了して、室温まで冷却後、マイクロ波加熱装置より焼成容器を取り出した。焼成容器内部の様子を観察したところ、サンプル形態はほぼ塊状となっていたが、上端部(外部雰囲気と接していた部分)および焼成容器に接していた部分は粉末状態であった。回収したサンプルを、全体が均一になるように乳鉢で解砕及び混合してリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子C−2を得た。
【0131】
(2)粉末X線回折の測定
上記(1)で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子C−2について、比較例1と同様の方法で粉末X線回折の測定をしたところ、観測されたピークは、LiMn、Mn、LiCOと同定された。
【0132】
(3)リチウムイオン二次電池(コイン型2極式セル)の作製
上記(1)で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子C−2、導電助剤にアセチレンブラック、バインダにPVDFを使用し、正極活物質、導電助剤、バインダをそれぞれ90質量%、5質量%、5質量%の割合で配合した。得られた配合剤100質量部に対して100質量部のNMPをスラリー粘度調整溶媒として添加し、混合して正極スラリーを調製した。Al箔(厚み:20μm)上に該正極スラリーを比較例1と同量塗布して、乾燥させて正極を形成した。当該用正極、対極(負極)としてLi金属、セパレータとしてガラス濾紙、及び、電解液として、1.0MのLiPFを含有するECとDECとの混合溶液(5:5のモル比)を用いて、リチウムイオン二次電池(コイン型2極式セル)を作製した。
【0133】
(4)充放電試験
上記で得られたコイン型2極式セルについて、比較例1と同様の方法で定電流定電圧充電および定電流放電による充放電試験を行ったところ、得られた初期放電容量は30mAh/gであった。
【0134】
(5)粒子形態の観察
比較例1と同様の方法でリチウムイオン二次電池用正極活物質C−2を観察したところ、一次粒子は球状粒子と多面体非球状粒子が混在しており、一次粒子径、二次粒子径はそれぞれ0.02〜1.0μm、0.4〜5μmの範囲内であった。
【0135】
(6)BET比表面積の測定
比較例1と同様の方法でBET比表面積を測定したところ、リチウムイオン二次電池用正極活物質C−2のBET比表面積は、22m/gであった。
【0136】
(比較例3)
(1)リチウムイオン二次電池用正極活物質D−2の作製
比較例1に記載の混合原料物A−1をムライト質焼成容器に入れて、焼成容器ごとマイクロ波加熱装置内に置いた。マイクロ波加熱条件は、周波数:2.45GHz、加熱保持温度:850℃、保持時間:25分間、空気雰囲気、とした。マイクロ波加熱を終了して、室温まで冷却後、マイクロ波加熱装置より焼成容器を取り出した。焼成容器内部の様子を観察したところ、サンプル形態はほぼ塊状となっていたが、上端部(外部雰囲気と接していた部分)および焼成容器に接していた部分は粉末状態であった。回収したサンプルを、全体が均一になるように乳鉢で解砕及び混合してリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子D−2を得た。
【0137】
(2)粉末X線回折の測定
上記(1)で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子D−2について、比較例1と同様の方法で粉末X線回折の測定をしたところ、観測されたピークは、LiMn、Mnと同定された。
【0138】
(3)リチウムイオン二次電池(コイン型2極式セル)の作製
上記(1)で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子D−2、導電助剤にアセチレンブラック、バインダにPVDFを使用し、正極活物質、導電助剤、バインダをそれぞれ90質量%、5質量%、5質量%の割合で配合した。得られた配合剤100質量部に対して100質量部のNMPをスラリー粘度調整溶媒として添加し、混合して正極スラリーを調製した。Al箔(厚み:20μm)上に該正極スラリーを比較例1と同量塗布して、乾燥させて正極を形成した。当該正極、対極(負極)としてLi金属、セパレータとしてガラス濾紙、及び、電解液として、1.0MのLiPFを含有するECとDECとの混合溶液(5:5のモル比)を用いて、リチウムイオン二次電池(コイン型2極式セル)を作製した。
【0139】
(4)充放電試験
上記で得られたコイン型2極式セルについて、比較例1と同様の方法で定電流定電圧充電および定電流放電による充放電試験を行ったところ、得られた初期放電容量は49mAh/gであった。
【0140】
(5)粒子形態の観察
比較例1と同様の方法でリチウムイオン二次電池用正極活物質D−2を観察したところ、一次粒子は球状粒子と多面体非球状粒子が混在しており、一次粒子径、二次粒子径はそれぞれ0.03〜1.0μm、0.7〜10μmの範囲内であった。
【0141】
(6)BET比表面積の測定
比較例1と同様の方法でBET比表面積を測定したところ、リチウムイオン二次電池用正極活物質D−2のBET比表面積は、7m/gであった。
【0142】
(比較例4)
(1)リチウムイオン二次電池用正極活物質E−2の作製
比較例1に記載の混合原料物A−1をムライト質焼成容器に入れて、焼成容器ごとマイクロ波加熱装置内に置いた。マイクロ波加熱条件は、周波数:2.45GHz、加熱保持温度:950℃、保持時間:25分間、空気雰囲気、とした。マイクロ波加熱を終了して、室温まで冷却後、マイクロ波加熱装置より焼成容器を取り出した。焼成容器内部の様子を観察したところ、サンプル形態はほぼ塊状となっていたが、上端部(外部雰囲気と接していた部分)および焼成容器に接していた部分は粉末状態であった。回収したサンプルを、全体が均一になるように乳鉢で解砕及び混合してリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子E−2を得た。
【0143】
(2)粉末X線回折の測定
上記(1)で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子E−2について、比較例1と同様の方法で粉末X線回折の測定をしたところ、観測されたピークは、LiMn、Mn、Mnと同定された。
【0144】
(3)リチウムイオン二次電池(コイン型2極式セル)の作製
上記(1)で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子E−2、導電助剤にアセチレンブラック、バインダにPVDFを使用し、正極活物質、導電助剤、バインダをそれぞれ90質量%、5質量%、5質量%の割合で配合した。得られた配合剤100質量部に対して100質量部のNMPをスラリー粘度調整溶媒として添加し、混合して正極スラリーを調製した。Al箔(厚み:20μm)上に該正極スラリーを比較例1と同量塗布して、乾燥させて正極を形成した。当該正極、対極(負極)としてLi金属、セパレータとしてガラス濾紙、及び、電解液として、1.0MのLiPFを含有するECとDECとの混合溶液(5:5のモル比)を用いて、リチウムイオン二次電池(コイン型2極式セル)を作製した。
【0145】
(4)充放電試験
上記で得られたコイン型2極式セルについて、比較例1と同様の方法で定電流定電圧充電および定電流放電による充放電試験を行ったところ、得られた初期放電容量は85mAh/gであった。
【0146】
(5)粒子形態の観察
比較例1と同様の方法でリチウムイオン二次電池用正極活物質E−2を観察したところ、一次粒子は球状粒子と多面体非球状粒子が混在しており、一次粒子径、二次粒子径はそれぞれ0.03〜1.5μm、1〜15μmの範囲内であった。
【0147】
(6)BET比表面積の測定
比較例1と同様の方法でBET比表面積を測定したところ、リチウムイオン二次電池用正極活物質E−2のBET比表面積は、1.3m/gであった。
【0148】
本比較例でのマイクロ波加熱後の焼成容器中の塊状物と粉末状態の部分とを分けて(篩分けで分級して)回収して、それぞれ粉末X線回折に供した。粉末状態の部分では、本比較例で得られた生成物(正極活物質E−2)として検出された化合物(LiMn、Mn、Mn)に加えて、MnOが検出された。
【0149】
(実施例2)
(1)リチウムイオン二次電池用正極活物質F−3の作製
比較例4で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子E−2をムライト質焼成容器に入れて、焼成容器ごとマイクロ波加熱装置内に置いて、2回目のマイクロ波加熱に供した。2回目のマイクロ波加熱条件は、周波数:2.45GHz、加熱保持温度:900℃、保持時間:25分間、空気雰囲気、とした。2回目のマイクロ波加熱を終了して、室温まで冷却後、マイクロ波加熱装置より焼成容器を取り出した。焼成容器内部の様子を観察したところ、サンプル形態は塊状となっていた。またサンプル全体に色味の違いもなかった。回収したサンプルを、全体が均一になるように乳鉢で解砕及び混合してリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子F−3を得た。
【0150】
(2)粉末X線回折の測定
上記(1)で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子F−3について、比較例1と同様の方法で粉末X線回折の測定をしたところ、観測されたピークは、LiMnのみと同定された。
【0151】
(3)リチウムイオン二次電池(コイン型2極式セル)の作製
上記(1)で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子F−3、導電助剤にアセチレンブラック、バインダにPVDFを使用し、正極活物質、導電助剤、バインダをそれぞれ90質量%、5質量%、5質量%の割合で配合した。得られた配合剤100質量部に対して100質量部のNMPをスラリー粘度調整溶媒として添加し、混合して正極スラリーを調製した。Al箔(厚み:20μm)上に該正極スラリーを比較例1と同量塗布して、乾燥させて正極を形成した。当該正極、対極(負極)としてLi金属、セパレータとしてガラス濾紙、及び、電解液として、1.0MのLiPFを含有するECとDECとの混合溶液(5:5のモル比)を用いて、リチウムイオン二次電池(コイン型2極式セル)を作製した。
【0152】
(4)充放電試験
上記で得られたコイン型2極式セルについて、比較例1と同様の方法で定電流定電圧充電および定電流放電による充放電試験を行ったところ、得られた初期放電容量は98mAh/gであった。
【0153】
(5)粒子形態の観察
比較例1と同様の方法でリチウムイオン二次電池用正極活物質F−3を観察したところ、一次粒子は、概ね多面体非球状粒子から構成されていた(詳しくは、90%以上が多面体非球状粒子から構成され、残りが球状粒子で構成されていた)。また、一次粒子径、二次粒子径はそれぞれ0.4〜2.0μm、0.6〜3μmの範囲内であった。
【0154】
(6)BET比表面積の測定
比較例1と同様の方法でBET比表面積を測定したところ、リチウムイオン二次電池用正極活物質F−3のBET比表面積は、0.68m/gであった。
【0155】
(実施例3)
(1)リチウムイオン二次電池用正極活物質G−3の作製
比較例4で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子E−2をムライト質焼成容器に入れて、焼成容器ごとマイクロ波加熱装置内に置いて、2回目のマイクロ波加熱に供した。2回目のマイクロ波加熱条件は、周波数:2.45GHz、加熱保持温度:950℃、保持時間:25分間、空気雰囲気、とした。2回目のマイクロ波加熱を終了して、室温まで冷却後、マイクロ波加熱装置より焼成容器を取り出した。焼成容器内部の様子を観察したところ、サンプル形態は塊状となっていた。またサンプル全体に色味の違いもなかった。回収したサンプルを、全体が均一になるように乳鉢で解砕及び混合してリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子G−3を得た。
【0156】
(2)粉末X線回折の測定
上記(1)で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子G−3について、比較例1と同様の方法で粉末X線回折の測定をしたところ、観測されたピークは、LiMnのみと同定された。
【0157】
(3)リチウムイオン二次電池(コイン型2極式セル)の作製
上記(1)で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子G−3、導電助剤にアセチレンブラック、バインダにPVDFを使用し、正極活物質、導電助剤、バインダをそれぞれ90質量%、5質量%、5質量%の割合で配合した。得られた配合剤100質量部に対して100質量部のNMPをスラリー粘度調整溶媒として添加し、混合して正極スラリーを調製した。Al箔(厚み:20μm)上に該正極スラリーを比較例1と同量塗布して、乾燥させて正極を形成した。当該正極、対極(負極)としてLi金属、セパレータとしてガラス濾紙、及び、電解液として、1.0MのLiPFを含有するECとDECとの混合溶液(5:5のモル比)を用いて、リチウムイオン二次電池(コイン型2極式セル)を作製した。
【0158】
(4)充放電試験
上記で得られたコイン型2極式セルについて、比較例1と同様の方法で定電流定電圧充電および定電流放電による充放電試験を行ったところ、得られた初期放電容量は96mAh/gであった。
【0159】
(5)粒子形態の観察
比較例1と同様の方法でリチウムイオン二次電池用正極活物質G−3を観察したところ、、概ね多面体非球状粒子から構成されていた(詳しくは、90%以上が多面体非球状粒子から構成され、残りが球状粒子で構成されていた)。また、一次粒子径、二次粒子径はそれぞれ0.5〜2.0μm、0.6〜3μmの範囲内であった。
【0160】
(6)BET比表面積の測定
比較例1と同様の方法でBET比表面積を測定したところ、リチウムイオン二次電池用正極活物質G−3のBET比表面積は、0.55m/gであった。
【0161】
(実施例4)
(1)リチウムイオン二次電池用正極活物質H−3の作製
比較例4で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質E−2をロータリーキルンタイプの焼成容器兼マイクロ波加熱装置に入れた。ロータリーキルン内で被加熱物の正極活物質E−2を流動させながら電磁波を照射して2回目のマイクロ波加熱に供した。2回目のマイクロ波加熱条件は、周波数:2.45GHz、加熱保持温度:900℃、保持時間:25分間、空気雰囲気、とした。2回目のマイクロ波加熱を終了して、室温まで冷却後、焼成容器兼マイクロ波加熱装置であるロータリーキルンタよりサンプルを取り出した。回収したサンプルの様子を観察したところ、サンプル形態は粉末形態となっていた。またサンプル全体に色味の違いもなかった。回収したサンプルは、乳鉢での混合、破砕は必要ないと視認されたものの、全体が均一になるように乳鉢で混合、破砕してリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子H−3を得た。
【0162】
(2)粉末X線回折の測定
上記(1)で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子H−3について、比較例1と同様の方法で粉末X線回折の測定をしたところ、観測されたピークは、LiMnのみと同定された。
【0163】
(3)リチウムイオン二次電池(コイン型2極式セル)の作製
上記(1)で得られたリチウムイオン二次電池用正極活物質粒子H−3、導電助剤にアセチレンブラック、バインダにPVDFを使用し、正極活物質、導電助剤、バインダをそれぞれ90質量%、5質量%、5質量%の割合で配合した。得られた配合剤100質量部に対して100質量部のNMPをスラリー粘度調整溶媒として添加し、混合して正極スラリーを調製した。Al箔(厚み:20μm)上に該正極スラリーを比較例1と同量塗布して、乾燥させて正極を形成した。当該正極、対極(負極)としてLi金属、セパレータとしてガラス濾紙、及び、電解液として、1.0MのLiPFを含有するECとDECとの混合溶液(5:5のモル比)を用いて、リチウムイオン二次電池(コイン型2極式セル)を作製した。
【0164】
(4)充放電試験
上記で得られたコイン型2極式セルについて、比較例1と同様の方法で定電流定電圧充電および定電流放電による充放電試験を行ったところ、得られた初期放電容量は94mAh/gであった。
【0165】
(5)粒子形態の観察
比較例1と同様の方法でリチウムイオン二次電池用正極活物質H−3を観察したところ、一次粒子は多面体非球状粒子のみが視認でき、一次粒子径、二次粒子径はそれぞれ0.5〜1.5μm、0.5〜3μmの範囲内であった。
【0166】
(6)BET比表面積の測定
比較例1と同様の方法でBET比表面積を測定したところ、リチウムイオン二次電池用正極活物質G−3のBET比表面積は、0.70m/gであった。
【0167】
下記表1に各例におけるマイクロ波加熱条件および正極活物質のX線回折測定結果を示す。なお、下記表1のX線回折測定結果において、○は化合物のピークが確認されたことを示す。
【0168】
【表1】

【0169】
また、下記表2に各例における初期放電容量、粒子径、およびBET比表面積の結果を示す。
【0170】
【表2】

【0171】
表1に示すように、本形態の製造方法を用いて製造された実施例1〜4の正極活物質は、LiMnの単相からなることが判った。また、表2に示すように、実施例1〜4の正極活物質は、いずれも粒子径のばらつきが小さく、またBET比表面積が比較的小さいものであることが確認された。
【0172】
一方、焼成工程において電磁波加熱を1回のみ行った比較例1〜4の正極活物質は、LiMn以外に、原料である未反応のLiCOや、反応中間体であるMn、Mnが検出され十分な純度を有していないことが判った。また、比較例1〜4の正極活物質は、実施例のものと比較して、一次粒子径、二次粒子径のばらつきが大きく、かつBET比表面積が大きいことが確認された。
【0173】
さらに、表2の充放電試験の結果より、実施例1〜4の正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池において、顕著な初回放電容量の向上が認められた。この放電容量向上効果は、実施例の正極活物質が所定の粒子径およびBET比表面積を有することによる、リチウムイオンの挿入・脱離能の向上や、正極活物質の結着性の向上によって生じるものであると考えられた。
【符号の説明】
【0174】
1 坩堝、
3 被加熱物、
3a 未反応の前駆体や反応が完結していない中間体(未反応物や反応中間物)、
5 温度の伝搬の様子を表す矢印、
10、50 リチウムイオン二次電池、
11 正極集電体、
12 負極集電体、
13 正極活物質層、
15 負極活物質層、
17 電解質層、
19 単電池層、
21、57 発電要素、
25 正極集電板、
27 負極集電板、
29、52 電池外装材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波加熱を用いる正極活物質の製造方法において、
複数回の電磁波照射の間に、被加熱物を解砕および混合することを特徴とする正極活物質の製造方法。
【請求項2】
被加熱物を流動させながら電磁波を照射することを特徴とする請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項3】
電磁波加熱を用いる正極活物質の製造方法において、
被加熱物を流動させながら電磁波を照射することを特徴とする正極活物質の製造方法。
【請求項4】
被加熱物を予め造粒することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項5】
一次粒子の粒子径が0.05〜2μmの範囲であって、一次粒子が、多面体非球状粒子から構成され、二次粒子の粒子径が5μm以下であり、かつBET比表面積が0.1〜1.0m/gであることを特徴とする正極活物質。
【請求項6】
組成式が、Li1+xMn2−y4−z(Mは、Ni、Co、Fe、Al、Mg、B、Ga、In、Si、Zr、Nb、Mo、Y、Sn、Ti、V、Cr、Cu、Ag、Znのうちの少なくとも1つ以上の元素であり、xは、−0.1<x<0.1であり、yは、0≦y<1であり、zは、0≦z<0.2である。ただし、Mが2以上の元素を表す場合は、yは各元素の組成比の合計を表す。)であることを特徴とする請求項5に記載の正極活物質。
【請求項7】
請求項1〜4に記載の製造方法により得られた正極活物質および請求項5〜6に記載の正極活物質の少なくとも1つを含む、電気デバイス。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−98047(P2013−98047A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240431(P2011−240431)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】