説明

正極活物質

【課題】本発明は、電解質との界面抵抗を低減した正極活物質を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜からなることを特徴とする正極活物質を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばリチウム二次電池等に用いられる正極活物質に関し、より詳しくは、電解質との界面抵抗を低減した正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコン、ビデオカメラ、携帯電話等の小型化に伴い、情報関連機器、通信機器の分野では、これらの機器に用いる電源として、高エネルギー密度であるという理由から、リチウム二次電池が実用化され広く普及するに至っている。また一方で、自動車の分野においても、環境問題、資源問題から電気自動車の開発が急がれており、この電気自動車用の電源としても、リチウム二次電池が検討されている。
【0003】
現在、リチウム二次電池の高出力化に向けて、正極活物質の改良が盛んに行われている。例えば特許文献1においては、LiNi(但し、MはAl、Mn、Fe、Ni、Co、Cr、Ti、Zn、P、Bから選ばれる少なくとも一種の元素を表し、xは0<x≦1、yは0≦y<1である)で表される複合酸化物粒子の表面を、Co、Al、Mnの少なくともいずれかを含有する化合物によって被覆処理してなることを特徴とする正極活物質が開示されている。この技術は、リチウム含有複合酸化物を正極活物質として用いた場合に、その正極活物質と電解液との界面抵抗が経時的に増加するという問題を解決するものである。より具体的には、リチウム含有複合酸化物の表面近傍に、固体状態としてのCo、AlまたはMnのいずれかをNiに対して高濃度に存在させることにより、界面抵抗の経時的な増加を抑制するものである。
【0004】
一方、特許文献2においては、集電体と、活物質である単結晶二酸化マンガン粒子とからなる電池用正極であって、前記単結晶二酸化マンガン粒子のc軸方向が垂直に配向していることを特徴とする電池用正極が開示されている。この技術は、単結晶二酸化マンガン粒子のc軸方向を垂直に配向することで、正極活物質の内部におけるリチウムイオンの拡散性を向上させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−55210号公報
【特許文献2】特開2007−5281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウム二次電池の高出力化に向けて正極活物質の改良を行う場合、主に、正極活物質および電解質の界面抵抗を低減すること、および正極活物質の内部におけるリチウムイオン拡散性を向上させることが重要である。現在、正極活物質の内部におけるリチウムイオン拡散性については盛んに研究が行われているが、正極活物質と電解質との界面抵抗については、あまり研究が行われていないのが実情である。なお、上述した特許文献1では、界面抵抗の増加を抑制することは開示されているものの、界面抵抗自体を低減することについては記載も示唆もされていない。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、電解質との界面抵抗を低減した正極活物質を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明者等が鋭意検討を重ねた結果、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜を用いることで、電解質と正極活物質との界面抵抗が低減することを見出した。本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
【0009】
すなわち、本発明においては、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜からなることを特徴とする正極活物質を提供する。
【0010】
本発明によれば、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜を用いることで、リチウムイオン伝導性が向上し、電解質との界面抵抗を低減した正極活物質とすることができる。
【0011】
上記発明においては、上記LiMn系薄膜をXRD測定して得られるピーク強度比(111)/(440)が、3.0以上であることが好ましい。より効果的に界面抵抗を低減できるからである。
【0012】
上記発明においては、上記LiMn系薄膜の厚さが、20nm以上80nm以下の範囲内であることが好ましい。上記範囲内にあれば、安定的に界面抵抗を低くすることができるからである。
【0013】
上記発明においては、上記LiMn系薄膜が、PLD法により形成されたものであることが好ましい。粒界のほとんどない緻密なLiMn系薄膜を成膜することができ、より効果的に界面抵抗を低減できるからである。
【0014】
上記発明においては、LiMn系薄膜の組成が、LiMn(0<x≦2、1<y≦3)であることが好ましい。より安定なLiMn系薄膜とすることができるからである。
【0015】
また、本発明においては、粉末状の核部正極活物質と、上記核部正極活物質を被覆し、かつ、上述した正極活物質を用いてなる被覆部正極活物質と、を有することを特徴とする被覆型正極活物質粉末を提供する。
【0016】
本発明によれば、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜を用いて、核部正極活物質を被覆することで、リチウムイオン伝導性が向上し、電解質との界面抵抗を低減した被覆型正極活物質粉末とすることができる。
【0017】
また、本発明においては、正極集電体と、上記正極集電体上に形成された正極層とを有する正極体であって、上記正極層が、上述した正極活物質を用いてなる界面抵抗低減層を有することを特徴とする正極体を提供する。
【0018】
本発明によれば、上述した正極活物質を用いてなる界面抵抗低減層を設けることで、高出力時の電圧低下を抑制した正極体とすることができる。
【0019】
上記発明においては、上記正極層が、上記正極集電体および上記界面抵抗低減層の間に、上記正極活物質とは異なる正極活物質を用いてなる正極内部層を有することが好ましい。正極層の厚さを大きくすることができ、高容量化を図ることができるからである。
【0020】
また、本発明においては、正極集電体と、上記正極集電体上に形成された正極層とを有する正極体であって、上記正極層が、上述した被覆型正極活物質粉末を含有することを特徴とする正極体を提供する。
【0021】
本発明によれば、上述した被覆型正極活物質粉末を含有する正極層を設けることで、高出力時の電圧低下を抑制した正極体とすることができる。
【0022】
また、本発明においては、正極集電体および上記正極集電体上に形成された正極層を有する正極体と、負極集電体および上記負極集電体上に形成された負極層を有する負極体と、上記正極層および上記負極層の間に配置されたセパレータと、上記正極層および上記負極層の間でリチウムイオンの伝導を行う電解質とを有するリチウム二次電池であって、上記正極層に、上述した正極活物質を用いたことを特徴とするリチウム二次電池を提供する。
【0023】
本発明によれば、正極層に上述した正極活物質を用いることで、出力特性に優れたリチウム二次電池とすることができる。
【0024】
また、本発明においては、正極集電体および上記正極集電体上に形成された正極層を有する正極体と、負極集電体および上記負極集電体上に形成された負極層を有する負極体と、上記正極層および上記負極層の間に配置されたセパレータと、上記正極層および上記負極層の間でリチウムイオンの伝導を行う電解質とを有するリチウム二次電池であって、上記正極層が、上述した被覆型正極活物質粉末を含有することを特徴とするリチウム二次電池を提供する。
【0025】
本発明によれば、正極層に上述した被覆型正極活物質粉末を用いることで、出力特性に優れたリチウム二次電池とすることができる。
【0026】
また、本発明においては、PLD法により、処理部材の表面上に、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜からなる界面抵抗低減層を形成する界面抵抗低減層形成工程を有することを特徴とする正極体の製造方法を提供する。
【0027】
本発明によれば、PLD法を用いることで、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜からなる界面抵抗低減層を容易に形成することができる。さらに、その界面抵抗低減層を設けることで、高出力時の電圧低下を抑制した正極体を得ることができる。
【0028】
上記発明においては、上記処理部材が、正極集電体であることが好ましい。正極層が界面抵抗低減層のみからなる正極体を容易に得ることができるからである。
【0029】
上記発明においては、上記処理部材が、正極集電体と、上記正極集電体上に形成され、上記LiMn系薄膜とは異なる正極活物質を用いてなる正極内部層とを有するものであり、上記正極内部層の表面上に上記LiMn系薄膜を形成することが好ましい。正極層が界面抵抗低減層および正極内部層を有する正極体を容易に得ることができるからである。
【0030】
また、本発明においては、PLD法により、粉末状の核部正極活物質の表面を、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜からなる被覆部正極活物質で被覆し、被覆型正極活物質粉末を形成する被覆型正極活物質粉末形成工程と、上記被覆型正極活物質粉末を含有する正極層形成用組成物を、上記正極集電体に塗布することにより、正極層を形成する正極層形成工程と、を有することを特徴とする正極体の製造方法を提供する。
【0031】
本発明によれば、PLD法を用いることで、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜で被覆した被覆型正極活物質粉末を容易に形成することができる。さらに、その被覆型正極活物質粉末を含有する正極層を設けることで、高出力時の電圧低下を抑制した正極体を得ることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明においては、電解質との界面抵抗を低減した正極活物質を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の正極活物質の一例を説明する概略断面図である。
【図2】本発明の被覆型正極活物質粉末の一例を示す概略断面図である。
【図3】第一実施態様の正極体の一例を示す概略断面図である。
【図4】第一実施態様の正極体の他の例を示す概略断面図である。
【図5】第二実施態様の正極体の一例を示す概略断面図である。
【図6】第一実施態様のリチウム二次電池の発電要素の一例を示す概略断面図である。
【図7】第二実施態様のリチウム二次電池の発電要素の一例を示す概略断面図である。
【図8】第一実施態様の正極体の製造方法の一例を示す概略断面図である。
【図9】第二実施態様の正極体の製造方法の一例を示す概略断面図である。
【図10】定電流充放電試験による膜厚測定の結果を示すグラフである。
【図11】XRD測定の結果を示すグラフである。
【図12】本発明に用いられる等価回路モデルを説明する説明図である。
【図13】電位を3.9V、4.0V、4.1Vとした場合における、LiMn系薄膜の膜厚と、Cole−Coleプロットから得られるR3(界面抵抗の主成分)の値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の正極活物質、被覆型正極活物質粉末、正極体、リチウム二次電池および正極体の製造方法について、以下詳細に説明する。
【0035】
A.正極活物質
まず、本発明の正極活物質について説明する。本発明の正極活物質は、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜からなることを特徴とするものである。
【0036】
本発明によれば、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜を用いることで、リチウムイオン伝導性が向上し、電解質との界面抵抗を低減した正極活物質とすることができる。本発明におけるLiMn系薄膜は、(111)面が優先的に形成されているため、通常、結晶性および配向性が高い。そのため、従来のLiMn系薄膜と比較して、リチウムイオン伝導性に優れ、界面抵抗を低減させることができると考えられる。また、LiMn等のスピネル型化合物は、(111)面が安定面であることから、電解質との化学反応が抑制され、界面抵抗を低減させることができると考えられる。
【0037】
図1は、本発明の正極活物質の一例を説明する概略断面図である。図1に示される正極活物質1は、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜からなるものである。ここで、「(111)面が優先的に形成された」とは、結晶面の中で、(111)面が支配的な状態をいう。また、本発明におけるLiMn系薄膜とは、LiMnに代表されるリチウムマンガンスピネルの薄膜をいう。LiMn系薄膜の組成としては、例えばLiMn(0<x≦2、1<y≦3)を挙げることができる。ここで、上記xは、0.5以上が好ましく、0.8以上がより好ましい。同様に、上記xは、1.5以下が好ましく、1.2以下がより好ましい。一方、上記yは、1.5以上が好ましく、1.8以上がより好ましい。同様に、上記yは、2.5以下が好ましく、2.2以下がより好ましい。
【0038】
本発明におけるLiMn系薄膜をXRD(X-ray diffraction)で測定した場合、通常、(111)面のピーク強度が最も強く現れる。本発明において、(111)面のピーク強度は、その他の結晶面のピーク強度の中で最も高いピーク強度よりも3.0倍以上高いことが好ましく、5.0倍以上高いことがより好ましく、10.0倍以上高いことが特に好ましい。また、本発明においては上記LiMn系薄膜をXRD測定して得られるピーク強度比(111)/(440)が、3.0以上であることが好ましく、5.0以上であることがより好ましく、10.0以上であることが特に好ましい。特に、本発明においては、LiMn系薄膜をXRDで測定した場合に、実質的に(111)面のピークのみが検出されることが好ましい。より効果的に界面抵抗を低減できるからである。なお、「実質的に(111)面のピークのみが検出される」とは、(111)面以外の結晶面のピーク強度が、測定ノイズと同一視できる程度に小さいことをいう。
【0039】
上記LiMn系薄膜の厚さは、電解質との界面抵抗を低下することができる範囲であれば特に限定されるものではない。ここで、上記LiMn系薄膜の厚さは、例えば10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、30nm以上が特に好ましい。薄膜の厚さが薄すぎると、界面抵抗の低減効果が充分に発揮できない可能性があるからである。一方、上記LiMn系薄膜の厚さは、例えば120nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましく、70nm以下が特に好ましい。薄膜の厚さが厚すぎると、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜を形成することが困難になる可能性があるからである。
【0040】
本発明の正極活物質の形態は、上記LiMn系薄膜からなるものであれば特に限定されるものではない。本発明の正極活物質の形態の一例としては、後述する「C.正極体」に記載するように、正極集電体等の表面上の広範囲に上記LiMn系薄膜を形成したものを挙げることができる。一方、本発明の正極活物質の形態のさらに別の例としては、上記LiMn系薄膜を粉砕して、薄片状にしたものを挙げることができる。また、本発明の正極活物質は、後述する「B.被覆型正極活物質粉末」に記載するように、粉末状の核部正極活物質を被覆するために用いても良い。
【0041】
本発明の正極活物質を製造する方法は、上述した正極活物質を得ることができる方法であれば特に限定されるものではない。中でも、本発明においては、緻密なLiMn系薄膜を得ることができる方法であることが好ましい。仮にLiMn系薄膜が多孔質であると、電解液が正極活物質の内部にも浸透し、電解液が(111)面以外の結晶面と接触し、界面抵抗が増加するという可能性があるが、LiMn系薄膜が緻密であれば、このような界面抵抗の増加を抑制できるからである。特に、本発明においては、上記LiMn系薄膜が、PLD(Pulsed Laser Deposition)法により形成されたものであることが好ましい。粒界のほとんどない緻密なLiMn系薄膜を成膜することができ、より効果的に界面抵抗を低減できるからである。
【0042】
PLD法は、PVD(Physical Vapor Deposition)法の一種であり、一般的に、真空チャンバー内のターゲットにパルスレーザを断続的に照射することにより、ターゲットをアブレーションし、放出されるフラグメント(イオン、クラスタ、分子、原子)を処理基板上に堆積させる方法である。
【0043】
PLD法で用いられるレーザーの種類としては、特に限定されるものではないが、例えばNd−YAGレーザー(4HD、波長266nm)等のYAGレーザーを挙げることができる。レーザーのエネルギー密度は、例えば150mJ/cm〜1000mJ/cmの範囲内、中でも500mJ/cm〜1000mJ/cmの範囲内であることが好ましい。レーザーの繰り返し周波数は、例えば2Hz〜10Hzの範囲内、中でも5Hz〜10Hzの範囲内であることが好ましい。また、PLD法で用いられるターゲットとしては、例えばLiMn等を挙げることができる。成膜時における真空チャンバーの雰囲気は、例えば酸素(O)等を挙げることができる。さらに、成膜時における真空チャンバーの圧力は、例えば30Pa以下にすることが好ましい。また、成膜時における処理基板の加熱温度は、例えば500℃〜600℃の範囲内であることが好ましい。一般的に、成膜時間を制御することで、LiMn系薄膜の厚さを制御することができる。
【0044】
B.被覆型正極活物質粉末
次に、本発明の被覆型正極活物質粉末について説明する。本発明の被覆型正極活物質粉末は、粉末状の核部正極活物質と、上記核部正極活物質を被覆し、かつ、上述した正極活物質を用いてなる被覆部正極活物質と、を有することを特徴とするものである。
【0045】
本発明によれば、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜を用いて、核部正極活物質を被覆することで、リチウムイオン伝導性が向上し、電解質との界面抵抗を低減した被覆型正極活物質粉末とすることができる。
【0046】
図2は、本発明の被覆型正極活物質粉末の一例を示す概略断面図である。図2に示される被覆型正極活物質粉末10は、粉末状の核部正極活物質11と、核部正極活物質11を被覆し、かつ、上述した正極活物質を用いてなる被覆部正極活物質12と、を有するものである。
【0047】
本発明に用いられる粉末状の核部正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、一般的なリチウム二次電池の正極活物質に用いられる材料と同様のものを用いることができる。具体的にはLiMn等のスピネル型正極活物質;LiCoO、LiNiO等の層状正極活物質;LiCoPO、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型正極活物質等を挙げることができる。
【0048】
核部正極活物質の形状としては、例えば真球状および楕円球状等の球状を挙げることができ、中でも真球状が好ましい。核部正極活物質の平均粒径は、特に限定されるものではないが、例えば1μm〜50μmの範囲内、中でも1μm〜20μmの範囲内であることが好ましい。
【0049】
本発明に用いられる被覆部正極活物質は、核部正極活物質を被覆し、かつ、上述した正極活物質を用いてなるものである。本発明に用いられる正極活物質(すなわち、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜)について、並びに、被覆部正極活物質の厚さ等については、上述した「A.正極活物質」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。また、本発明において、被覆部正極活物質は、核部正極活物質の一部を被覆するものであっても良く、核部正極活物質の全部を覆うものであっても良いが、後者がより好ましい。より効果的に界面抵抗を低減できるからである。
【0050】
本発明の被覆型正極活物質粉末を製造する方法は、上述した被覆型正極活物質粉末を得ることができる方法であれば特に限定されるものではない。中でも、本発明においては、PLD法により、粉末状の核部正極活物質の表面を、被覆部正極活物質で被覆する方法が好ましい。粒界のほとんどない緻密な被覆部正極活物質を形成することができ、より効果的に界面抵抗を低減できるからである。
【0051】
C.正極体
次に、本発明の正極体について説明する。本発明の正極体は、通常、2つの実施態様に大別することができる。以下、本発明の正極体について、実施態様ごとに説明する。
【0052】
1.第一実施態様
本発明の正極体の第一実施態様について説明する。本実施態様の正極体は、正極集電体と、上記正極集電体上に形成された正極層とを有する正極体であって、上記正極層が、上述した正極活物質を用いてなる界面抵抗低減層を有することを特徴とするものである。
【0053】
本実施態様によれば、上述した正極活物質を用いてなる界面抵抗低減層を設けることで、高出力時の電圧低下を抑制した正極体とすることができる。
【0054】
図3は、本実施態様の正極体の一例を示す概略断面図である。図3に示される正極体は、正極集電体21と、正極集電体21上に形成され、上述した正極活物質を用いてなる正極層22(界面抵抗低減層23)とを有するものである。この正極体は、正極層22が界面抵抗低減層23のみからなる正極体である。
【0055】
図4は、本実施態様の正極体の他の例を示す概略断面図である。図4に示される正極体は、正極集電体21と、正極集電体21上に形成された正極層22とを有する正極体であって、正極層22が、セパレータ(図示せず)側に界面抵抗低減層23を有し、さらに、正極集電体21側に界面抵抗低減層23に用いられる正極活物質とは異なる正極活物質を用いてなる正極内部層24を有するものである。すなわち、この正極体は、正極層22が界面抵抗低減層23および正極内部層24を有する正極体である。
以下、本実施態様の正極体について、構成ごとに説明する。
【0056】
(1)界面抵抗低減層
本実施態様における界面抵抗低減層は、上述した正極活物質を用いてなる層である。本実施態様に用いられる正極活物質(すなわち、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜)について、並びに、界面抵抗低減層の厚さ等については、上記「A.正極活物質」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。また、本実施態様における界面抵抗低減層は、通常、正極層のセパレータ側表面(正極集電体側とは反対側の表面)に形成される。また、特に本実施態様においては、界面抵抗低減層がPLD法により形成されたものであることが好ましい。粒界のほとんどない緻密な界面抵抗低減層を形成することができ、より効果的に界面抵抗を低減できるからである。
【0057】
(2)正極内部層
本実施態様においては、正極層が、正極集電体および界面抵抗低減層の間に、上述した正極活物質とは異なる正極活物質を用いてなる正極内部層を有していても良い。正極内部層を設けることにより、正極層の厚さを大きくすることができ、高容量化を図ることができる。
【0058】
本実施態様における正極内部層は、上記「A.正極活物質」に記載した正極活物質(すなわち、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜)とは異なる正極活物質を用いてなるものであれば特に限定されるものではない。中でも、本実施態様においては、正極内部層が、正極活物質のみから構成される層であることが好ましい。より具体的には、正極内部層が、スパッタリング法等のPVD法またはゾルゲル法により形成されたものであることが好ましい。
【0059】
正極内部層に用いられる正極活物質は、特に限定されるものではないが、例えば、上記「B.被覆型正極活物質粉末」に記載したスピネル型正極活物質、層状正極活物質およびオリビン型正極活物質等を挙げることができる。
【0060】
本実施態様における正極内部層の厚さは、リチウム二次電池の用途等により異なるものであるが、例えば1μm〜50μmの範囲内、中でも1μm〜20μmの範囲内であることが好ましい。なお、本実施態様における正極層は、二以上の正極内部層を有していても良い。
【0061】
(3)正極集電体
本実施態様における正極集電体は、正極層の集電を行う機能を有するものである。正極集電体の材料としては、例えばアルミニウム、SUS、ニッケル、鉄およびチタン等を挙げることができ、中でもアルミニウムおよびSUSが好ましい。また、正極集電体の形状としては、例えば箔状、板状、メッシュ状等を挙げることができ、中でも箔状が好ましい。また、正極集電体の厚さは、正極集電体の形状に応じて適宜選択することが好ましい。
【0062】
(4)正極体の製造方法
本実施態様の正極体の製造方法は、上述した正極体を得ることができる方法であれば特に限定されるものではない。本実施態様の正極体の製造方法の一例については、後述する「E.正極体の製造方法 1.第一実施態様」で説明するので、ここでの記載は省略する。
【0063】
2.第二実施態様
次に、本発明の正極体の第二実施態様について説明する。本実施態様の正極体は、正極集電体と、上記正極集電体上に形成された正極層とを有する正極体であって、上記正極層が、上述した被覆型正極活物質粉末を含有することを特徴とするものである。
【0064】
本実施態様によれば、上述した被覆型正極活物質粉末を含有する正極層を設けることで、高出力時の電圧低下を抑制した正極体とすることができる。
【0065】
図5は、本実施態様の正極体の一例を示す概略断面図である。図5に示される正極体は、正極集電体21と、正極集電体21上に形成された正極層22とを有する正極体であって、正極層22が、上述した被覆型正極活物質粉末10を含有するものである。
以下、本実施態様の正極体について、構成ごとに説明する。
【0066】
(1)正極層
本実施態様における正極層について説明する。本実施態様における正極層は、正極集電体上に形成され、上述した被覆型正極活物質粉末を含有するものである。さらに、正極層は、必要に応じて導電化材および結着材等を含有していても良い。
【0067】
本実施態様に用いられる被覆型正極活物質粉末については、上記「B.被覆型正極活物質粉末」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。正極層における被覆型正極活物質粉末の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば60重量%〜97重量%の範囲内、中でも75重量%〜97重量%の範囲内、特に90重量%〜97重量部の範囲内であることが好ましい。
【0068】
本実施態様においては、正極層が導電化材を含有していても良い。上記導電化材としては、正極層の導電性を向上させることができれば特に限定されるものではないが、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等を挙げることができる。また、正極層における導電化材の含有量は、導電化材の種類によって異なるものであるが、例えば1重量%〜10重量%の範囲内である。
【0069】
本実施態様においては、正極層が結着材を含有していても良い。上記結着材としては、例えばポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。また、正極層における結着材の含有量は、被覆型正極活物質粉末等を固定化できる程度の量であれば良く、より少ないことが好ましい。結着材の含有量は、例えば1重量%〜10重量%の範囲内である。
【0070】
本実施態様における正極層の厚さは、リチウム二次電池の用途等により異なるものであるが、例えば10μm〜250μmの範囲内、中でも20μm〜200μmの範囲内、特に30μm〜150μmの範囲内であることが好ましい。
【0071】
(2)正極集電体
本実施態様における正極集電体については、上記「C.正極体 1.第一実施態様」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0072】
(3)正極体の製造方法
本実施態様の正極体の製造方法は、上述した正極体を得ることができる方法であれば特に限定されるものではない。本実施態様の正極体の製造方法の一例については、後述する「E.正極体の製造方法 2.第二実施態様」で説明するので、ここでの記載は省略する。
【0073】
D.リチウム二次電池
次に、本発明のリチウム二次電池について説明する。本発明のリチウム二次電池は、通常、2つの実施態様に大別することができる。以下、本発明のリチウム二次電池について、実施態様ごとに説明する。
【0074】
1.第一実施態様
本発明のリチウム二次電池の第一実施態様について説明する。本実施態様のリチウム二次電池は、正極集電体および上記正極集電体上に形成された正極層を有する正極体と、負極集電体および上記負極集電体上に形成された負極層を有する負極体と、上記正極層および上記負極層の間に配置されたセパレータと、上記正極層および上記負極層の間でリチウムイオンの伝導を行う電解質とを有するリチウム二次電池であって、上記正極層に、上述した正極活物質を用いたことを特徴とするものである。
【0075】
本実施態様によれば、正極層に上述した正極活物質を用いることで、出力特性に優れたリチウム二次電池とすることができる。
【0076】
図6は、本実施態様のリチウム二次電池の発電要素の一例を示す概略断面図である。図6に示されるリチウム二次電池の発電要素は、正極集電体21と、正極集電体21上に形成され、上述した正極活物質を用いてなる正極層22(界面抵抗低減層23)とを有する正極体30を備えるものである。さらに具体的には、この正極体30と、負極集電体31および負極集電体31上に形成された負極層32を有する負極体33と、正極層22および負極層32の間に配置されたセパレータ34と、正極層22および負極層32の間でリチウムイオンの伝導を行う電解質(図示せず)とを有する。
【0077】
本実施態様のリチウム二次電池は、正極層に、上記「A.正極活物質」に記載した正極活物質を用いたことを特徴とするものである。また、本実施態様のリチウム二次電池は、上記「C.正極体 1.第一実施態様」に記載した正極体を用いたものであっても良い。
以下、本実施態様に用いられる、正極活物質および正極体以外の構成部材について簡単に説明する。
【0078】
(1)電解質
本実施態様に用いられる電解質は、リチウムイオンを伝導できるものであれば特に限定されるものではない。上記電解質としては、例えば液体状電解質(電解液)、固体状電解質、ポリマー状電解質およびゲル状電解質等を挙げることができる。電解質が液状電解質である場合、電解質は、通常、リチウム塩および非水溶媒を含有する。
【0079】
上記リチウム塩としては、例えばLiPF、LiN(CFSO、LiCFSO、LiCSO、LiC(CFSOおよびLiClO等を挙げることができる。一方、非水溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等を挙げることができる。これらの非水溶媒は、一種のみ用いても良く、二種以上を混合して用いても良い。
【0080】
(2)負極体
本実施態様に用いられる負極体は、負極層および負極集電体を有する。さらに、負極層は、少なくとも負極活物質を有する。上記負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば金属リチウム、リチウム合金、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物およびグラファイト等の炭素材料等を挙げることができる。また、負極活物質は、粉末状であっても良く、薄膜状であっても良い。さらに、負極活物質が粉末状である場合は、負極層は結着材および導電化材等を含有していても良い。一方、負極集電体の材料としては、例えば銅、SUS、ニッケル等を挙げることができ、中でも銅が好ましい。負極集電体の形状としては、例えば箔状、板状、メッシュ状等を挙げることができる。
【0081】
(3)セパレータ
本実施態様に用いられるセパレータは、正極層および負極層の間に配置され、所望の絶縁性を有するものである。上記セパレータとしては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロースおよびポリアミド等の樹脂等を挙げることができる。
【0082】
(4)その他
本実施態様に用いられる電池ケースとしては、特に限定されるものではないが、具体的には円筒型、角型、コイン型およびラミネート型等を挙げることができる。また、本実施態様のリチウム二次電池は、一般的なリチウム二次電池の製造方法と同様の方法で製造することができる。
【0083】
2.第二実施態様
次に、本発明のリチウム二次電池の第二実施態様について説明する。本実施態様のリチウム二次電池は、正極集電体および上記正極集電体上に形成された正極層を有する正極体と、負極集電体および上記負極集電体上に形成された負極層を有する負極体と、上記正極層および上記負極層の間に配置されたセパレータと、上記正極層および上記負極層の間でリチウムイオンの伝導を行う電解質とを有するリチウム二次電池であって、上記正極層が、上述した被覆型正極活物質粉末を含有することを特徴とするものである。
【0084】
本実施態様によれば、正極層に上述した被覆型正極活物質粉末を用いることで、出力特性に優れたリチウム二次電池とすることができる。
【0085】
図7は、本実施態様のリチウム二次電池の発電要素の一例を示す概略断面図である。図7に示されるリチウム二次電池の発電要素は、正極集電体21と、正極集電体21上に形成され、上述した被覆型正極活物質粉末を用いてなる正極層22とを有する正極体30を備えるものである。さらに具体的には、この正極体30と、負極集電体31および負極集電体31上に形成された負極層32を有する負極体33と、正極層22および負極層32の間に配置されたセパレータ34と、正極層22および負極層32の間でリチウムイオンの伝導を行う電解質(図示せず)とを有する。
【0086】
本実施態様のリチウム二次電池は、正極層が、上記「B.被覆型正極活物質粉末」に記載した被覆型正極活物質粉末を含有することを特徴とするものである。また、本実施態様のリチウム二次電池は、上記「C.正極体 2.第二実施態様」に記載した正極体を用いたものであっても良い。
【0087】
なお、本実施態様に用いられる、正極活物質および正極体以外の構成部材については、上記「D.リチウム二次電池 1.第一実施態様」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0088】
E.正極体の製造方法
次に、本発明の正極体の製造方法について記載する。本発明の正極体の製造方法は、通常、2つの実施態様に大別することができる。以下、本発明の正極体の製造方法について、実施態様ごとに説明する。
【0089】
1.第一実施態様
本発明の正極体の製造方法の第一実施態様について説明する。本実施態様の正極体の製造方法は、PLD法により、処理部材の表面上に、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜からなる界面抵抗低減層を形成する界面抵抗低減層形成工程を有することを特徴とするものである。
【0090】
本実施態様によれば、PLD法を用いることで、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜からなる界面抵抗低減層を容易に形成することができる。さらに、その界面抵抗低減層を設けることで、高出力時の電圧低下を抑制した正極体を得ることができる。
【0091】
図8は、本実施態様の正極体の製造方法の一例を示す概略断面図である。図8に示される正極体の製造方法は、正極集電体21を用意し(図8(a))、その正極集電体21の表面上に、PLD法を用いて、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜からなる正極層22(界面抵抗低減層23)を形成する方法である。
【0092】
本実施態様における処理基板は、正極集電体、または正極集電体および正極内部層を有する部材であることが好ましい。ここで、処理基板が正極集電体である場合、図3および図8(b)に示したように、界面抵抗低減層23のみからなる正極層22が得られる。一方、処理基板が、正極集電体および正極内部層を有する部材である場合、図4に示したように、正極集電体21側から、正極内部層24および界面抵抗低減層23を有する正極層22が得られる。
【0093】
本実施態様に用いられる正極集電体および正極内部層、本実施態様で成膜するLiMn系薄膜、PLD法の各種条件、並びに本実施態様により得られる正極体等については、上記「A.正極活物質」および上記「C.正極体 1.第一実施態様」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0094】
2.第二実施態様
次に、本発明の正極体の製造方法の第二実施態様について説明する。本実施態様の正極体の製造方法は、PLD法により、粉末状の核部正極活物質の表面を、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜からなる被覆部正極活物質で被覆し、被覆型正極活物質粉末を形成する被覆型正極活物質粉末形成工程と、上記被覆型正極活物質粉末を含有する正極層形成用組成物を、上記正極集電体に塗布することにより、正極層を形成する正極層形成工程と、を有することを特徴とするものである。
【0095】
本実施態様によれば、PLD法を用いることで、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜で被覆した被覆型正極活物質粉末を容易に形成することができる。さらに、その被覆型正極活物質粉末を含有する正極層を設けることで、高出力時の電圧低下を抑制した正極体を得ることができる。
【0096】
図9は、本実施態様の正極体の製造方法の一例を示す概略断面図である。図9に示される正極体の製造方法においては、まず、PLD法により、粉末状の核部正極活物質11の表面を、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜からなる被覆部正極活物質12で被覆し、被覆型正極活物質粉末10を形成する(図9(a))。次に、正極集電体11を用意し(図9(b))、被覆型正極活物質粉末10を含有する正極層形成用組成物を、正極集電体11に塗布し乾燥することにより、正極層22を形成する(図9(c))。
【0097】
(1)被覆型正極活物質粉末形成工程
本実施態様における被覆型正極活物質粉末形成工程は、PLD法により、粉末状の核部正極活物質の表面を、(111)面が優先的に形成されたLiMn系薄膜からなる被覆部正極活物質で被覆し、被覆型正極活物質粉末を形成する工程である。本実施態様におけるPLD法の各種条件、核部正極活物質および被覆部正極活物質については、上記「B.被覆型正極活物質粉末」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0098】
(2)正極層形成工程
本実施態様における正極層形成工程は、被覆型正極活物質粉末を含有する正極層形成用組成物を、正極集電体に塗布することにより、正極層を形成する工程である。正極層形成用組成物は、少なくとも被覆型正極活物質粉末を含有し、必要に応じて、さらに導電化材、結着材および溶媒を含有する。通常は、正極層形成用組成物を正極集電体に塗布し、乾燥することにより、正極層を形成する。本実施態様により得られる正極体については、上記「C.正極体 2.第二実施態様」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0099】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0100】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0101】
[実施例1]
処理基板としてAu基板を用い、ターゲットとしてLiMnを用いて、PLD法により、Au基板上にLiMn系薄膜を成膜した。成膜条件を以下に示す。
(成膜条件)
・レーザー:YAGレーザー4倍波(波長266nm、出力1mJ/cm、10Hz)
・雰囲気:O、30Pa
・基板温度:600℃
・成膜時間:30分
【0102】
[実施例2]
成膜時間を180分に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてLiMn系薄膜を成膜した。
【0103】
[実施例3]
成膜時間を720分に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてLiMn系薄膜を成膜した。
【0104】
[比較例1]
処理基板としてAu基板を用い、ターゲットとしてLiMnを用いて、スパッタリング法により、Au基板上にLiMn系薄膜を成膜した。成膜条件を以下に示す。
(成膜条件)
・RF出力:50W
・雰囲気:Ar:O=7:3、0.4Pa
・基板温度:約200℃
・成膜時間:15分
なお、成膜後アニールを700℃、30分の条件で行った。
【0105】
[比較例2]
成膜時間を60分に変更したこと以外は、比較例1と同様にしてLiMn系薄膜を成膜した。
【0106】
[比較例3]
成膜時間を180分に変更したこと以外は、比較例1と同様にしてLiMn系薄膜を成膜した。
【0107】
[評価]
(1)定電流充放電試験による膜厚測定
実施例1〜3および比較例1〜3で得られたLiMn系薄膜の膜厚を、定電流充放電試験により測定した。測定条件を以下に示し、測定結果を図10に示す。なお、膜厚は充放電容量から換算して求めた。
(測定条件)
・作用極:実施例1〜3および比較例1〜3で得られたLiMn系薄膜
・対極および参照極:Liメタル
・電解液:1M LiPF/EC−DEC(7:3)
・充放電制御:10μA定電流充放電、4.2V−3.6Vカット
【0108】
(2)XRD解析
実施例1〜3および比較例で得られたLiMn系薄膜に対して、XRD測定を行った。その結果を図11に示す。図11を示された実施例1〜3のXRDチャートにおいて、38°付近、45°付近、65°付近にピークが確認されたが、これは下地のAu基板のピークであった。そのため、実施例1〜3で得られたLiMn系薄膜は、実質的に(111)面のみを有することが確認された。一方、図11に示された比較例(スパッタリング膜)のXRDチャートにおいては、(111)面のピーク強度が高く、二番目に高いピーク強度は(440)面であった。そこで、ピーク強度比(111)/(440)を測定したところ、3.0未満であった。
【0109】
(3)各電位におけるインピーダンス解析
実施例1〜3および比較例1〜3で得られたLiMn系薄膜のインピーダンス解析を行った。具体的には、上記(1)の電気化学評価系において、振幅10mV、周波数1MHz〜10mHzの範囲内でインピーダンス測定を行い、図12に示す等価回路モデルを用いて解析を行った。なお、Li拡散性に起因する抵抗は低周波領域に現れるが、界面抵抗を解析するため低周波領域は除外した。
【0110】
図13は、電位を3.9V、4.0V、4.1Vとした場合における、LiMn系薄膜の膜厚と、Cole−Coleプロットから得られるR3(界面抵抗の主成分)の値との関係を示すグラフである。図13に示されるように、実施例1〜3で得られたLiMn系薄膜は、比較例1〜3で得られたLiMn系薄膜と比較して、界面抵抗が低いことが確認できた。
【符号の説明】
【0111】
1 … 正極活物質
10 … 被覆型正極活物質粉末
11 … 核部正極活物質
12 … 被覆部正極活物質
21 … 正極集電体
22 … 正極層
23 … 界面抵抗低減層
24 … 正極内部層
30 … 正極体
31 … 負極集電体
32 … 負極層
33 … 負極体
34 … セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PLD法により、(111)面が優先的に形成され、LiMn(0<x≦2、1<y≦3)の組成を有し、10nm以上120nm以下の範囲内の厚さを有する薄膜からなる正極活物質を形成する工程を有することを特徴とする正極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記薄膜をXRD測定して得られるピーク強度比(111)/(440)が、3.0以上であることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項3】
PLD法により、粉末状の核部正極活物質の表面を、(111)面が優先的に形成され、LiMn(0<x≦2、1<y≦3)の組成を有し、10nm以上120nm以下の範囲内の厚さを有する薄膜からなる被覆部正極活物質で被覆する工程を有することを特徴とする被覆型正極活物質粉末の製造方法。
【請求項4】
前記薄膜をXRD測定して得られるピーク強度比(111)/(440)が、3.0以上であることを特徴とする請求項3に記載の被覆型正極活物質粉末の製造方法。
【請求項5】
PLD法により、処理部材の表面上に、(111)面が優先的に形成され、LiMn(0<x≦2、1<y≦3)の組成を有し、10nm以上120nm以下の範囲内の厚さを有する薄膜からなる界面抵抗低減層を形成する界面抵抗低減層形成工程を有することを特徴とする正極体の製造方法。
【請求項6】
PLD法により、粉末状の核部正極活物質の表面を、(111)面が優先的に形成され、LiMn(0<x≦2、1<y≦3)の組成を有し、10nm以上120nm以下の範囲内の厚さを有する薄膜からなる被覆部正極活物質で被覆し、被覆型正極活物質粉末を形成する被覆型正極活物質粉末形成工程と、
前記被覆型正極活物質粉末を含有する正極層形成用組成物を、前記正極集電体に塗布することにより、正極層を形成する正極層形成工程と、を有することを特徴とする正極体の製造方法。
【請求項7】
前記薄膜をXRD測定して得られるピーク強度比(111)/(440)が、3.0以上であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の正極体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−48112(P2013−48112A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−256447(P2012−256447)
【出願日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【分割の表示】特願2008−61733(P2008−61733)の分割
【原出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月12日 社団法人日本セラミックス協会発行の「第20回秋季シンポジウム講演予稿集」に発表
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(598014814)株式会社コンポン研究所 (24)
【Fターム(参考)】