説明

歩幅推測方法及び歩幅推測装置

【課題】歩幅をより正確に推測するための歩幅推測方法及び歩幅推測装置を提案する。
【解決手段】歩幅推測装置は、ユーザーの歩行による上下動の加速度を検出する加速度検出部(加速度センサー)40と、加速度検出部40で検出された加速度からユーザーの一歩を検出する歩行検出部13と、歩行検出部13で検出された一歩の加速度の面積を算出する面積算出部14と、面積算出部14で算出された面積から、ユーザーの速度に基づいて変更される、面積が大きくなるほど歩幅を大きくする面積と歩幅との相関度合いを用いて、歩幅を推測する歩幅推測部15と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩幅推測方法及び歩幅推測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歩行時の歩幅を推測する歩幅推測装置として、加速度センサーを備え、この加速度センサーにより検出された加速度の時間変化分から、予め定められたテーブルを参照して歩幅を推測するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−152355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歩行時の歩幅は、歩行距離を算出したり、現在の歩行者の位置を算出して歩行者の移動軌跡を算出したりする際に必要不可欠な情報であるため、なるべく正確に推測する必要がある。しかし、歩幅は、歩行者の体格や歩き方等の要素によって変化する。そのため、固定的なテーブルを用いて歩幅を推測する特許文献1の技術では、歩幅を正確に推測することができないという虞があった。そこで、本発明は、歩幅をより正確に推測するための新たな手法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例に係る歩幅推測方法は、歩行時の上下動の加速度を検出する加速度検出工程と、前記加速度検出工程で検出された前記加速度から前記歩行の一歩を検出する歩行検出工程と、前記歩行検出工程で検出された前記一歩の前記加速度の面積を算出する面積算出工程と、前記面積算出工程で算出された前記面積から、前記歩行の速度に基づいて変更される、前記面積が大きくなるほど歩幅を大きくする該面積と歩幅との相関度合いを用いて、該歩幅を推測する歩幅推測工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
本適用例によれば、歩行時の一歩の上下動の加速度の面積が大きくなるほど歩幅を大きくする面積と歩幅との相関度合いを歩行の速度に基づいて変更して、加速度から算出された面積を用いて歩幅を推測する。詳細は後述するが、実験の結果、歩行時の一歩の上下動の加速度の面積と歩幅との間には正の相関があることがわかった。また、一歩の加速度の面積の変化に対する歩幅の変化の割合は、歩行の速度に応じて変化することがわかった。そのため、歩行の速度に基づいて一歩の加速度の面積と歩幅との相関度合いを変更することにより、歩行時の歩幅をより正確に推測することが可能となる。
【0008】
[適用例2]上記適用例に記載の歩幅推測方法において、前記歩幅推測工程の前記相関度合いは、前記歩行の速度が高速になるほど、前記面積の変化に対する前記歩幅の変化の割合を小さくするように変更されることを特徴とする。
【0009】
本適用例によれば、歩行の速度が高速になるほど、一歩の加速度の面積の変化に対する歩幅の変化の割合を小さくするように相関度合いを変更することで、歩行の速度に応じた適切な歩幅推測を実現することができる。
【0010】
[適用例3]上記適用例に記載の歩幅推測方法において、前記歩幅推測工程では、前記相関度合いを用いた前記面積と前記歩幅との相関モデル式を用いて該歩幅を推測することを特徴とする。
【0011】
本適用例によれば、歩行時の上下動の一歩の加速度の面積と歩幅との相関モデル式を用いることで、歩幅を簡易に求めることができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例に記載の歩幅推測方法において、前記加速度検出工程で検出された前記加速度から低周波成分を抽出する低周波成分抽出工程をさらに含み、前記歩幅推測工程は、抽出された前記低周波成分の前記加速度の前記面積を用いて前記歩幅を推測することを特徴とする。
【0013】
本適用例によれば、検出された歩行時の上下動の加速度から低周波成分を抽出し、抽出した低周波成分の一歩の加速度の面積を用いて歩幅を推測する。歩行時の上下動の加速度には、高周波のノイズ成分が含まれ得る。そのため、歩行時の上下動の加速度から低周波成分を抽出し、抽出した低周波成分の一歩の加速度の面積を用いて歩幅を推測することで、歩幅推測の正確性を向上させることができる。
【0014】
[適用例5]上記適用例に記載の歩幅推測方法において、前記低周波成分抽出工程では、前記歩行の速度に応じて、周波数帯域を変更することを特徴とする。
【0015】
本適用例によれば、歩行の速度に応じて、歩行時の上下動の加速度から抽出する周波数帯域を変更することで、歩幅推測の正確性が一層向上する。
【0016】
[適用例6]本適用例に係る歩幅推測装置は、ユーザーの歩行による上下動の加速度を検出する加速度検出部と、前記加速度検出部で検出された前記加速度から前記歩行の一歩を検出する歩行検出部と、前記歩行検出部で検出された前記一歩の前記加速度の面積を算出する面積算出部と、前記面積算出部で算出された前記面積から、前記歩行の速度に基づいて変更される、前記面積が大きくなるほど歩幅を大きくする該面積と歩幅との相関度合いを用いて、該歩幅を推測する歩幅推測部と、を備えることを特徴とする。
【0017】
本適用例によれば、歩行時の一歩の上下動の加速度の面積が大きくなるほど歩幅を大きくする当該面積と歩幅との相関度合いを歩行の速度に基づいて変更して、加速度から算出された面積を用いて歩幅を推測する。詳細は後述するが、実験の結果、歩行時の一歩の上下動の加速度の面積と歩幅との間には正の相関があることがわかった。また、一歩の加速度の面積の変化に対する歩幅の変化の割合は、歩行の速度に応じて変化することがわかった。そのため、歩行の速度に基づいて一歩の加速度の面積と歩幅との相関度合いを変更することにより、歩行時の歩幅をより正確に推測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態に係る携帯用電子機器の機能構成を示すブロック図。
【図2】本実施形態に係る処理部を機能ブロックで表したブロック図。
【図3】本実施形態に係る加速度の面積と歩幅との相関関係の一例を示す図。
【図4】本実施形態に係る加速度の面積と歩幅との相関関係の一例を示す図。
【図5】本実施形態に係る加速度の面積と歩幅との相関関係の一例を示す図。
【図6】本実施形態に係る歩行速度域選択用テーブルのテーブル構成の一例を示す図。
【図7】本実施形態に係る閾値周波数決定用テーブルのテーブル構成の一例を示す図。
【図8】本実施形態に係る相関モデル式データのデータ構成の一例を示す図。
【図9】本実施形態に係るセンサーデータのデータ構成の一例を示す図。
【図10】本実施形態に係る歩幅算出処理の流れを示すフローチャート。
【図11】本実施形態に係る加速度の面積の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る歩幅推測装置としての携帯用電子機器について説明する。ただし、本発明の実施形態が以下説明する実施形態に限定されるわけではない。
【0020】
1.機能構成
図1は、本実施形態に係る携帯用電子機器の機能構成を示すブロック図である。本実施形態に係る携帯用電子機器1は、処理部10と、操作部20と、表示部30と、加速度センサー(加速度検出部)40と、記憶部60とを備え、各部がバス70で接続されたコンピューターシステムである。
【0021】
処理部10は、記憶部60に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って携帯用電子機器1の各部を統括的に制御する機能部であり、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーにより実現される。本実施形態では、処理部10は、記憶部60に記憶されている歩幅算出処理(歩幅推測方法)(図10参照)として実行される歩幅算出プログラム601に従ってユーザーの歩幅、歩数、歩行距離を算出して、表示部30に表示させる。
【0022】
操作部20は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、押下されたキーやボタンの信号を処理部10に出力する。この操作部20の操作により、歩幅算出の開始指示操作や、リセット指示操作、電源切断指示操作等の各種指示入力がなされる。
【0023】
表示部30は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、処理部10から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部30には、歩幅、歩数、歩行距離や時刻情報等が表示される。
【0024】
加速度センサー40は、直交3軸の加速度を検出するセンサーであり、歪みゲージ式や圧電式のいずれであってもよく、またMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)センサーであってもよい。加速度センサー40の検出結果は、処理部10に随時出力される。
【0025】
本実施形態では、ユーザーから見て前後方向の前方向を「X軸の正方向」、左右方向の右方向を「Y軸の正方向」、上下方向(鉛直方向)の下方向を「Z軸の正方向」とする直交3軸の座標系として説明する。加速度センサー40の検出軸と、X軸、Y軸、Z軸の軸方向とは相対的な関係でユーザーに固定されるため、行列計算によって、加速度センサー40の検出結果から、X,Y,Zそれぞれの値を算出することができる。
【0026】
記憶部60は、例えばROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等のメモリーを備えた記憶装置であり、処理部10が携帯用電子機器1を制御するためのシステムプログラムや、歩幅算出機能を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している。また、処理部10により実行されるシステムプログラム、各種処理プログラム、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを形成している。
【0027】
図2は、本実施形態に係る処理部10を機能ブロックとして表した概念図である。処理部10には、加速度センサー40が接続され、処理部10は、歩行速度選択部11と、フィルター処理部12と、歩行検出部13と、面積算出部14と、歩幅推測部15とを備えて構成されている。各機能部は、それぞれを独立した回路として構成することも可能であるし、プロセッサーを用いてデジタル演算処理することでソフトウェア処理として構成することも可能である。
【0028】
歩行速度選択部11は、加速度センサー40により検出されたZ軸の加速度の振幅、及び、歩行検出部13により検出された一歩に要する時間に基づいて、ユーザーの歩行速度域を選択する機能部であり、選択した歩行速度域をフィルター処理部12に出力する。
【0029】
フィルター処理部12は、加速度センサー40により検出された加速度に対するフィルター処理を行って低周波成分を抽出する機能部である。フィルター処理部12は、歩行速度選択部11から出力された歩行速度域に応じて閾値周波数を可変に設定してフィルター処理を行う。
【0030】
歩行検出部13は、フィルター処理部12から出力されたZ軸の加速度の極大値と極小値を検出することでユーザーの歩行を検出する機能部である。
【0031】
面積算出部14は、歩行検出部13により一歩が検出された場合に、フィルター処理部12から出力された一歩のZ軸の加速度の面積を算出する機能部であり、算出した一歩のZ軸の加速度の面積を歩幅推測部15に出力する。
【0032】
歩幅推測部15は、面積算出部14から出力されたZ軸の加速度の面積を用いて、相関モデル式に従って歩幅を推測する機能部である。
【0033】
2.原理
2−1.歩数検出の原理
先ず、本実施形態における歩数検出の原理について説明する。歩数は、加速度センサー40により検出された直交3軸の加速度のうち、ユーザーの上下動の加速度であるZ軸の加速度に基づいて検出する。
【0034】
具体的には、Z軸の加速度の時系列変化において、加速度が極大値となった後に、加速度が極小値となった時点で、極大値から極小値までの時間を算出し、極大値から極小値までの時間を2倍して得られた時間を「一歩に要する時間」とする。そして、極小値の時刻から一歩に要する時間の1/4が経過した時刻において、一歩とカウントする。しかし、加速度センサー40により検出されるZ軸の加速度には、人の移動に伴う加速度とは直接関係しない高周波のノイズ成分が含まれ得る。そのため、一歩であると思って検出した加速度の極大値又は極小値が“真の”極大値又は極小値ではなく、単なるノイズ成分である“偽の”極大値又は極小値である場合があり、歩数のミスカウントに繋がるという問題がある。
【0035】
上述したZ軸の加速度に含まれるノイズは高周波の成分である。そこで、本実施形態では、Z軸の加速度に対してフィルター処理を行うことで、加速度センサー40により検出されるZ軸の加速度の低周波成分を抽出する。具体的には、歩行時の1歩1歩の周波数(1秒当たりの歩数)は、高く見積もっても5[Hz]程度であり、10[Hz]となることはないと言える。そのため、数[Hz]をカットオフ周波数(所定の閾値周波数)として、それよりも高い周波数成分をカットすることで、加速度の低周波成分、すなわち歩行時の加速度の成分を抽出する。そして、抽出した低周波成分の加速度の極大値と極小値とを検出して一歩を判定する。これにより、ユーザーの上下動の加速度から低周波成分を抽出し、抽出した低周波成分の一歩の加速度の面積を用いて歩幅を推測することで、歩幅推測の正確性を向上させることができる。
【0036】
さらに、本実施形態では、上述したフィルター処理を行う際の閾値周波数を、ユーザーの速度に応じて可変に設定する。本願発明者が実験を行った結果、ユーザーの速度によってZ軸の加速度に含まれる周波数成分が異なることがわかった。具体的には、ユーザーの速度が高速になるほど、Z軸の加速度の振幅は大きくなり、振動の周期は短くなる傾向がある。すなわち、ユーザーの速度が高速になるほど、より高周波の成分がノイズとしてZ軸の加速度に含まれる傾向がある。そこで、本実施形態では、ユーザーの速度が高速であるほど、閾値周波数を高く設定して加速度に対するフィルター処理を行う。これにより、ユーザーの速度に応じて、ユーザーの上下動の加速度から抽出する周波数帯域を変更することで、歩幅推測の正確性が一層向上する。
【0037】
2−2.歩幅推測の原理
次に、歩幅推測の原理について説明する。本実施形態では、一歩のZ軸の加速度の面積と歩幅との相関関係を表すモデル式として予め定められた歩幅推測モデル式に従って歩幅を推測する。本願発明者は、上述したフィルター処理を施した後の一歩のZ軸の加速度の面積と、ユーザーの歩幅との間には相関関係があることを発見した。
【0038】
図3〜5は、一歩のZ軸の本実施形態に係る加速度の面積と歩幅との相関関係を説明するための図である。ユーザーの歩行速度を「低速」、「中速」、「高速」の3つの歩行速度域に分類し、それぞれの歩行速度域について、フィルター処理を施した後の一歩のZ軸の加速度の面積と歩幅との関係を調べる実験を行った。図3は歩行速度域を「低速」とした場合の実験結果であり、図4は歩行速度域を「中速」とした場合の実験結果であり、図5は歩行速度域を「高速」とした場合の実験結果である。1つのプロットが1つの実験結果を表している。
【0039】
これらの図を見ると、いずれの歩行速度域においても、一歩のZ軸の加速度の面積が大きくなるほど、歩幅が大きくなっていることがわかる。つまり、一歩のZ軸の加速度の面積と歩幅との間には正の相関がある。本実施形態では、一歩のZ軸の加速度の面積と歩幅との相関関係を一次関数で近似した相関モデル式を用意しておき、当該相関モデル式に従ってユーザーの歩幅を推測する。これにより、ユーザーの上下動の一歩の加速度の面積と歩幅との相関モデル式を用いることで、歩幅を簡易に求めることができる。
【0040】
また、図3〜5を見ると、歩行速度域が低速から高速に近づくほど、一歩のZ軸の加速度の面積の変化に対する歩幅の変化の割合が小さくなり、相関モデル式を一次関数とした場合にはその傾きが小さくなっていくことがわかる。すなわち、ユーザーの歩行速度によって、一歩のZ軸の加速度の面積と歩幅との相関の度合いが異なることがわかる。そこで、本実施形態では、ユーザーの歩行速度域に応じた異なる相関モデル式を用意しておき、選択したユーザーの速度に対応する相関モデル式に従って歩幅を推測する。これにより、ユーザーの速度が高速になるほど、一歩の加速度の面積の変化に対する歩幅の変化の割合を小さくするように相関度合いを変更することで、ユーザーの速度に応じた適切な歩幅推測を実現することができる。
【0041】
3.データ構成
図1に示すように、記憶部60には、プログラムとして、処理部10により読み出され、歩幅算出処理(図10参照)として実行される歩幅算出プログラム601が記憶されている。また、予め定められたデータとして、歩行速度域選択用テーブル602と、閾値周波数決定用テーブル603と、相関モデル式データ604とが記憶されている。また、随時更新されるデータとして、センサーデータ605と、推測歩幅データ606と、歩数データ607と、歩行距離データ608とが記憶される。
【0042】
歩幅算出処理とは、処理部10が、加速度センサー40の検出結果に基づいて歩行検出及び歩幅推測を行うとともに、歩行検出から歩数をカウントし、推測した歩幅を積算することでユーザーの歩行距離を算出する処理である。歩幅算出処理については、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0043】
図6は、本実施形態に係る歩行速度域選択用テーブル602のテーブル構成の一例を示す図である。歩行速度域選択用テーブル602は、ユーザーの歩行速度のレベルを表す歩行速度域の選択用のテーブルであり、歩行速度域を選択するための選択条件6021と、「低速」、「中速」、「高速」の3段階に分類された歩行速度域6023とが対応付けて記憶されている。
【0044】
詳細には、「Z軸の加速度の振幅が5.0[m/s2]未満であるか、一歩に要する時間が0.6秒よりも長い」という選択条件6021に対しては、歩行速度域6023として「低速」が記憶されている。ユーザーの歩行速度が低速になるほど、Z軸の加速度の振幅は小さくなり、一歩に要する時間は長くなる傾向があるためである。
【0045】
また、「Z軸の加速度の振幅が10.0[m/s2]よりも大きいか、一歩に要する時間が0.5秒よりも短い」という選択条件6021に対しては、歩行速度域6023として「高速」が記憶されている。ユーザーの歩行速度が高速になるほど、Z軸の加速度の振幅は大きくなり、一歩に要する時間は短くなる傾向があるためである。
【0046】
また、上述した2つの選択条件のいずれにも該当しない場合の選択条件6021である「上記以外」に対しては、歩行速度域6023として「中速」が記憶されている。
【0047】
図7は、本実施形態に係る閾値周波数決定用テーブル603のテーブル構成の一例を示す図である。閾値周波数決定用テーブル603は、加速度及び角速度に対するフィルター処理を行う際の閾値周波数の決定用のテーブルであり、歩行速度域6031と、閾値周波数6033とが対応付けて記憶されている。歩行速度域6031が低速から高速になるほど、より高い閾値周波数6033が設定されている。
【0048】
詳細には、歩行速度域6031「低速」に対しては、閾値周波数6033として1.5[Hz]が記憶され、歩行速度域6031「中速」に対しては、閾値周波数6033として2.5[Hz]が記憶されている。また、歩行速度域6031「高速」に対しては、閾値周波数6033として4.0[Hz]が記憶されている。
【0049】
図8は、本実施形態に係る相関モデル式データ604のデータ構成の一例を示す図である。相関モデル式データ604は、ユーザーの歩幅を推測するための相関モデル式が定められたデータであり、歩行速度域6041と、歩幅推測モデル式6043とが対応付けて記憶されている。
【0050】
各歩行速度域6041に対して、一歩のZ軸の加速度の面積「x」を変数とし、歩幅「y」を関数値とする一次関数で近似された歩幅推測モデル式6043が一対一に対応付けて記憶されている。歩幅推測モデル式6043の傾きと切片の値は、歩行速度域6041に応じて異なる値が定められている。すなわち、歩行速度域が高速に近づくほど、Z軸の加速度の変化に対する歩幅の変化の割合が小さくなるように、一次関数の傾きとして小さな値が設定されている。尚、一次関数としたのは一例であって、歩幅推測モデル式を二次以上の関数で近似することとしてもよい。
【0051】
図9は、本実施形態に係るセンサーデータ605のデータ構成の一例を示す図である。センサーデータ605は、加速度センサー40の検出結果のデータであり、加速度センサー40の検出時刻6051(例えばミリ秒)と、加速度センサー40により検出された3軸の加速度6053とが対応付けて記憶される。
【0052】
推測歩幅データ606は、歩幅推測モデル式6043に従って推測されるユーザーの歩幅のデータである。歩数データ607は、歩行検出をカウントして得られる歩数のデータである。歩行距離データ608は、推測歩幅データ606を積算して得られるユーザーの歩行距離のデータである。
【0053】
4.処理の流れ
図10は、記憶部60に記憶されている歩幅算出プログラム601が処理部10により読み出されて実行されることで、携帯用電子機器1において実行される本実施形態に係る歩幅算出処理の流れを示すフローチャートである。歩幅算出処理は、処理部10が、操作部20を介してユーザーにより電源投入操作がなされたことを検出した場合に実行を開始する処理である。以下の歩幅算出処理においては、歩行時の上下動の加速度を検出する加速度検出工程で、加速度センサー40の検出結果が記憶部60のセンサーデータ605に随時更新・記憶されるものとして説明する。
【0054】
(低周波成分抽出工程)
先ず、処理部10は、初期設定を行う(ステップS1)。具体的には、フィルター処理の閾値周波数として所定値(例えば、1.5Hz)を設定するとともに、記憶部60の各種データに初期値を設定する。そして、フィルター処理部12は、現在設定されている閾値周波数で、加速度センサー40の各軸の出力値に対するフィルター処理を実行する(ステップS3)。
【0055】
(歩行検出工程)
次いで、歩行検出部13は、フィルター処理が施された後のZ軸の加速度から極大値と極小値とを検出したか否かを判定し(ステップS5)、極大値と極小値とを検出するまで待機する(ステップS5;No)。そして、極大値と極小値とを検出した場合は(ステップS5;Yes)、極大値から極小値までの時間を算出し、極大値から極小値までの時間を2倍して得られた時間を「一歩に要する時間」とする(ステップS7)。そして、歩行検出部13は、極小値の時刻から一歩に要する時間の1/4が経過した時刻において、一歩と判定して記憶部60の歩数データ607を更新する(ステップS9)。
【0056】
(面積算出工程)
次いで、面積算出部14は、フィルター処理が施された後の一歩のZ軸の加速度の面積を算出する(ステップS10)。
図11は、本実施形態に係る加速度の面積の一例を示す図である。具体的には、一歩の最初のZ軸の加速度を基準加速度とし、一歩の全てのセンサーデータにおいて、Z軸の加速度から基準加速度を引いて絶対値を取り積分する。
【0057】
次いで、歩行速度選択部11は、記憶部60に記憶されている歩行速度域選択用テーブル602を参照してユーザーの歩行速度域を選択する(ステップS11)。具体的には、加速度センサー40により検出されたZ軸の加速度の振幅と、ステップS9で算出した一歩に要する時間とを用いて、いずれの選択条件6021に該当するかを選択する。そして、該当した選択条件6021に対応する歩行速度域6023を読み出す。
【0058】
(歩幅推測工程)
次いで、歩幅推測部15は、記憶部60に記憶されている相関モデル式データ604を参照し、ステップS11で選択した歩行速度域6041に対応付けられた歩幅推測モデル式6043を選択する(ステップS13)。そして、歩幅推測部15は、選択した歩幅推測モデル式6043に従ってユーザーの歩幅を推測し、記憶部60の推測歩幅データ606を更新する(ステップS15)。
【0059】
その後、フィルター処理部12は、記憶部60に記憶されている閾値周波数決定用テーブル603を参照し、ステップS11で選択された歩行速度域6031に対応する閾値周波数6033を読み出して、閾値周波数を更新する(ステップS17)。
【0060】
そして、歩幅推測部15は、歩幅の算出を終了するか否かを判定する(ステップS33)。すなわち、操作部20を介して移動軌跡算出の終了指示操作がなされたか否かを判定する。そして、移動軌跡の算出をまだ終了しないと判定した場合は(ステップS33;No)、ステップS3に戻り、歩幅の算出を終了すると判定した場合は(ステップS33;Yes)、歩幅算出処理を終了する。
【0061】
5.作用効果
携帯用電子機器1において、加速度センサー40の検出結果に対するフィルター処理がフィルター処理部12により行われる。そして、歩行検出部13により、フィルター処理された後のZ軸の加速度の極大値と極小値とが検出されることで、ユーザーの歩行が検出される。そして、歩行検出部13により歩行が検出された場合に、フィルター処理された一歩のZ軸の加速度の面積を面積算出部14により算出し、ユーザーの歩行速度に応じて予め定められた歩幅推測モデル式に従って、ユーザーの歩幅が歩幅推測部15により推測される。
【0062】
原理で説明したように、ユーザーの一歩の上下動(Z軸)の加速度の面積とユーザーの歩幅との間には正の相関がある。また、加速度の変化に対する歩幅の変化の割合は、ユーザーの速度に応じて変化する。そのため、ユーザーの歩行速度に応じて、一歩の上下動の加速度の面積と歩幅との相関度合いを変えてユーザーの歩幅を推測することで、ユーザーの歩幅をより正確に推測することが可能となる。
【0063】
本実施形態では、ユーザーの一歩の上下動の加速度の面積と歩幅との相関が、相関モデル式としてユーザーの歩行速度域毎に定められている。相関モデル式は、一歩の上下動の加速度の面積を変数とし、歩幅を関数値とする一次関数で近似されたモデル式であり、歩行速度域が高速に近づくほど、相関モデル式の傾きとして小さな値が設定されている。一次関数といった単純な相関モデル式を用いることで歩幅の推測を簡易に行うことができるとともに、ユーザーの歩行速度に応じて相関モデル式のパラメーターを定めておくことで、歩幅の推測を適切に行うことができる。
【0064】
6.変形例
6−1.電子機器
本発明は、携帯用電子機器の他にも、歩幅推測装置を備えた電子機器であればいずれの電子機器にも適用可能である。例えば、歩数計や腕時計等についても同様に適用可能である。
【0065】
6−2.歩行速度域の選択
上述した実施形態では、歩行速度選択部11が、加速度センサー40により検出されたZ軸の加速度の振幅、及び、歩行検出部13により検出された一歩に要する時間に基づいて、ユーザーの歩行速度域を選択するものとして説明した。しかし、速度を直接算出して歩行速度域を選択することとしてもよい。
【0066】
具体的には、歩幅推測部15で推測された歩幅を、歩行検出部13で検出された一歩に要する時間で割ることで、今回のユーザーの歩行速度を算出する。そして、ユーザーの歩行速度に応じて、ユーザーの歩行速度域を「低速」、「中速」、「高速」の3段階に分類する。
【符号の説明】
【0067】
1…携帯用電子機器 10…処理部 11…歩行速度選択部 12…フィルター処理部 13…歩行検出部 14…面積算出部 15…歩幅推測部 20…操作部 30…表示部 40…加速度センサー(加速度検出部) 60…記憶部 70…バス 601…歩幅算出プログラム 602…歩行速度域選択用テーブル 603…閾値周波数決定用テーブル 604…相関モデル式データ 605…センサーデータ 606…推測歩幅データ 607…歩数データ 608…歩行距離データ 6021…選択条件 6023,6031,6041…歩行速度域 6033…閾値周波数 6043…歩幅推測モデル式 6051…検出時刻 6053…加速度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行時の上下動の加速度を検出する加速度検出工程と、
前記加速度検出工程で検出された前記加速度から前記歩行の一歩を検出する歩行検出工程と、
前記歩行検出工程で検出された前記一歩の前記加速度の面積を算出する面積算出工程と、
前記面積算出工程で算出された前記面積から、前記歩行の速度に基づいて変更される、前記面積が大きくなるほど歩幅を大きくする該面積と歩幅との相関度合いを用いて、該歩幅を推測する歩幅推測工程と、
を含むことを特徴とする歩幅推測方法。
【請求項2】
前記歩幅推測工程の前記相関度合いは、前記歩行の速度が高速になるほど、前記面積の変化に対する前記歩幅の変化の割合を小さくするように変更されることを特徴とする請求項1に記載の歩幅推測方法。
【請求項3】
前記歩幅推測工程では、前記相関度合いを用いた前記面積と前記歩幅との相関モデル式を用いて該歩幅を推測することを特徴とする請求項1に記載の歩幅推測方法。
【請求項4】
前記加速度検出工程で検出された前記加速度から低周波成分を抽出する低周波成分抽出工程をさらに含み、
前記歩幅推測工程は、抽出された前記低周波成分の前記加速度の前記面積を用いて前記歩幅を推測することを特徴とする請求項1に記載の歩幅推測方法。
【請求項5】
前記低周波成分抽出工程では、前記歩行の速度に応じて、周波数帯域を変更することを特徴とする請求項4に記載の歩幅推測方法。
【請求項6】
ユーザーの歩行による上下動の加速度を検出する加速度検出部と、
前記加速度検出部で検出された前記加速度から前記歩行の一歩を検出する歩行検出部と、
前記歩行検出部で検出された前記一歩の前記加速度の面積を算出する面積算出部と、
前記面積算出部で算出された前記面積から、前記歩行の速度に基づいて変更される、前記面積が大きくなるほど歩幅を大きくする該面積と歩幅との相関度合いを用いて、該歩幅を推測する歩幅推測部と、
を備えることを特徴とする歩幅推測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−233731(P2012−233731A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100841(P2011−100841)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】