説明

歩行型作業機

【課題】 機体後進状態でのデッドマン形式によるクラッチ入り作動を可能にする構造を簡単にし、操縦ハンドル周りをコンパクトに構成した歩行型作業機を提供する。
【解決手段】 作業クラッチ3におけるクラッチ入り作用領域を、クラッチレバー4の操作範囲内で、クラッチ入り位置からデッドポイントDPの存在位置を越えた切り位置側寄りの箇所にわたる範囲に設定し、クラッチレバー40のクラッチ切り位置では、後進変速操作にともなって、デッドポイントDPよりもクラッチ入り位置側へのクラッチレバー40の移動を阻止するようにクラッチレバー40の操作範囲を制限し、クラッチレバー40のクラッチ入り位置では、変速レバー50による後進変速を阻止するように制限する牽制手段を走行機体に装備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体から後方に延びる歩行作業者用の操縦ハンドルに、作業クラッチを入り切り操作するためのクラッチレバーを装備してあるとともに、走行機体には、走行方向を前進側と後進側とに切り換え操作する変速レバーを備えた歩行型作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
上記した歩行型作業機では、従来より下記[1]〜[3]に示す構造を備えたものが知られている。
[1] 走行機体の前進ではクラッチの入りを可能し、後進ではクラッチが入り操作されないように牽制するもの(特許文献1参照)
[2] 走行機体の後進時に、クラッチ入りが阻止される状態と、クラッチ操作入りが可能である状態とを切換られるようにしたもの(特許文献2参照)。
[3] 走行機体の後進でもクラッチ操作入りを可能にし、かつ、その後進でのクラッチ入り状態は、操縦者がクラッチレバーを握り操作している間だけクラッチ入り状態を維持し、手が離れるとただちにクラッチ切りとなるようにした、所謂デッドマン形式で用いことが可能であるように構成したもの(特許文献3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平6−328961号公報(段落〔0009〕、図1、図2、図3)
【特許文献2】特開平11−165552号公報(段落〔0044〕、図1、図5、図7)
【特許文献3】特開2004−116352号公報(段落〔0022〕、〔0023〕、図3、図4、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記[1]に記載のように、前進ではクラッチの入りを可能し、後進ではクラッチが入り操作されないように牽制する構造のものでは、万一、作業機から操縦者の手が離れた場合にでも、作業機が後進して後方の操縦者に衝突することを回避できる利点はあるものの、機体を後進させながらの作業を全く行うことができないので、常に前進状態でしか作業を行えない、という不具合がある。
【0005】
上記[2]に記載の構造のものでは、主クラッチとは別に設けた作業クラッチを備え、主クラッチの操作具は操縦ハンドルに設け、作業クラッチの操作具は走行機体に連結する作業装置側に設けることにより、主クラッチとは別に作業クラッチの入り切りを操作できるようにしている。そして、後進時に作業クラッチ入りが阻止される状態と、作業クラッチ操作入りが可能である状態とを切換られるようにした牽制機構を備えている。
このように構成したものでは、上述の機体後進状態での作業を可能にし得る利点があるものの、機体後進中に咄嗟に作業クラッチを切り操作したい場合には、次のような不具合を生じるおそれがある。つまり、咄嗟に操作したい場合に、操縦ハンドルや別のレバーを握っていた手を一旦離して、作業クラッチの存在位置を確認してから作業クラッチレバーを握り、その作業クラッチレバーの切り方向がどちらであるかを判断して切り側へ操作するという、操縦者の手の動きと、作業クラッチレバーの位置や操作方向の判断などを伴っての操作が必要であるため、咄嗟の場合に操作遅れが生じたり、誤操作を生じ易いという新たな問題がある。
【0006】
これに比べて、上記[3]に記載のように、後進でのクラッチ入りをデッドマン形式で行うことが可能であるように構成したものでは、操縦者がクラッチレバーを握り操作している間だけは後進作業を可能にするものであるから、操縦者の手が離れた場合の機体停止は、素早く、確実に行えるものでありながら、必要に応じて機体を後進させながらの作業を行うこともできる利点がある。
しかしながら、上記[3]に記載の従来構造のものでは、後進でのクラッチ入りをデッドマン形式で行うための構造として、前後進切り換えレバーの後進側への操作に伴って揺動操作される前後進連動プレートを用いて、クラッチレバーのクラッチ入り側への操作を機械的な接当により強制的に行うように構成している。つまり、クラッチレバーで揺動操作されるクラッチレバー基部プレートのクラッチ入り側への動きを前記前後進連動プレートの当たりによって牽制して、クラッチレバーが通常のクラッチ入り位置であるところの、デッドポイントを越えた入り側位置よりも、クラッチ切り側寄りの、デッドポイントは越えていないがクラッチは入り状態である位置に移動させている。
このようにクラッチレバーの操作位置やそのクラッチレバーに連係する部材の位置を変更する構造のものでは、機能的には後進状態でのデッドマン形式によるクラッチ入りを可能にして便利に用いることのできるものであるが、そのようなデッドマン形式による操作機構を操縦ハンドル部分に配設することにより、操縦ハンドルに多くの操作部材やカバー類が装着され、操縦ハンドル全体が大型化する不具合がある。
【0007】
本発明の目的は、機体後進状態でのデッドマン形式によるクラッチ入り作動を可能にするにあたって、その構造を簡単な構成によって実現し、操縦ハンドル周りをコンパクトに構成した歩行型作業機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔解決手段1〕
上記課題を解決するために本発明で講じた技術手段は、請求項1に記載のように、走行機体から後方に延びる歩行作業者用の操縦ハンドルに、作業クラッチを入り切り操作するためのクラッチレバーを揺動操作自在に装備してあるとともに、前記走行機体には、走行方向を前進側と後進側とに切り換え操作する変速レバーを備えた歩行型作業機において、
前記クラッチレバーを、デッドポイントを挟む両側に振り分け配置されたクラッチ入り位置と切り位置とに揺動操作で切り換え可能に構成するとともに、
前記作業クラッチにおけるクラッチ入り作用領域を、前記クラッチレバーの揺動操作範囲内で、クラッチ入り位置から前記デッドポイントの存在位置を越えた切り位置側寄りの箇所にわたる範囲に設定し、
前記クラッチレバーの操作を作業クラッチへ伝えるクラッチ系連係部材と、変速レバーの前後進変速操作を変速装置へ伝える変速操作部材と、前記クラッチ系連係部材と変速操作部材との動作を互いに関連付ける動作連係機構を装備し、
この動作連係機構は、クラッチレバーがクラッチ切り位置に操作されていると、前記変速レバーによる前後進変速を許容するとともに、変速レバーによる後進変速操作にともなって、デッドポイントよりもクラッチ入り位置側へのクラッチレバーの移動を阻止して、デッドポイントよりも切り位置側寄りに存在するクラッチ入り作用範囲への操作を許すようにクラッチレバーの操作範囲を制限し、かつクラッチレバーがクラッチ入り位置に操作されていると、変速レバーによる後進変速を阻止するように変速操作部材の作動を制限する牽制手段を走行機体に装備したことを特徴とする。
【0009】
〔作用及び効果〕
上記のように、解決手段1にかかる本発明の歩行型作業機では、クラッチレバーとして、デッドポイントを挟む両側に振り分け配置されたクラッチ入り位置と切り位置とに、クラッチレバーの揺動支点周りでの揺動操作で切り換え可能に構成されたものを採用しており、作業クラッチにおけるクラッチ入り作用領域は、クラッチレバーの操作範囲内で、クラッチ入り位置からデッドポイントの存在位置を越えた切り位置側寄りの箇所にわたる範囲に設定してある。
そして、クラッチレバーには、その操作を作業クラッチへ伝えるクラッチ系連係部材の他に、クラッチ系連係部材と変速操作部材との動作を互いに関連付ける動作連係機構も連係されており、この動作連係機構に装備された牽制手段が、クラッチレバーがクラッチ切り位置に操作されていると、変速レバーによる後進変速操作にともなって、デッドポイントよりもクラッチ入り位置側へのクラッチレバーの移動を阻止して、デッドポイントよりも切り位置側寄りに存在するクラッチ入り作用範囲への操作だけを許すようにクラッチレバーの操作範囲を制限し、かつクラッチレバーがクラッチ入り位置に操作されていると、変速レバーによる後進変速を阻止するように機能する。
【0010】
したがって、クラッチレバーとして、デッドポイントの両側にクラッチの入り位置と切り位置とを振り分け配置する形式の一般的な操作具を採用しながら、変速レバーが後進変速操作されると、デッドポイントよりも切り位置側寄りに存在するクラッチ入り作用範囲へ操作されたクラッチレバーは、手を離すとクラッチ切り側へ復帰付勢されており、手で操作している間だけクラッチ入り状態を保つことができる、所謂デッドマン形式のレバーとしての機能を有する。
また、クラッチレバーがクラッチ入り位置に操作されていると、変速レバーによる後進変速を阻止するように変速操作部材の作動を制限するので、後進での予期していない、あるいは、デッドマン形式で切り操作される状態ではないクラッチ入りの操作は確実に牽制することができる。
さらに、前記牽制手段は走行機体に装備されているので、設置スペースの少ない操縦ハンドル部分にこのような牽制手段を設ける場合に比べて、走行機体側の比較的空間上の余裕があるスペースを有効利用して、操縦ハンドル部分の構造の複雑化や大型化を避けて配設し易い。
【0011】
〔解決手段2〕
本発明の歩行型作業機における第2の解決手段では、請求項2の記載のように、クラッチ系連係部材は、作業クラッチ側に一端を連結された操作ワイヤーと、クラッチレバーに一端を連結された弦月杆とを連結して構成してあり、
変速操作部材は、変速レバーと、その変速レバーと一体的に操作される変速操作体とで構成してあり、
牽制手段は、変速用シフタを操作する前後進シフト軸の前後進変速操作に伴う作動領域に進入する状態と作動領域から外れる状態とに位置変更自在な牽制板と、その牽制板と前記弦月杆とを連結する連動部材とを備えて、後進変速位置に操作された前後進シフト軸に接当してクラッチレバーの作動範囲を制限し、かつ後進変速位置に操作されていない前後進シフト軸の後進変速側への作動空間に進入して前後進シフト軸の後進変速側への移動を阻止するように構成してある点に特徴がある。
【0012】
〔作用及び効果〕
上記のように構成された解決手段2にかかる本発明の歩行型作業機では、前記解決手段1にかかる発明と同等な作用効果の他に、次の作用効果をも奏する。
すなわち、弦月杆と操作ワイヤーを用いて、デッドポイントの両側に入り位置と切り位置とを備えるクラッチレバーのクラッチ系連係部材を簡単な構造で構成することができ、また、前後進シフト軸の後進変速側への移動を阻止する牽制板と連動部材とによって牽制手段を構成することにより、走行機体側において牽制手段を装備することができるとともに、その牽制手段の構成も構造簡単なもので構成することができる。
【0013】
〔解決手段3〕
本発明の歩行型作業機における第3の解決手段では、請求項3の記載のように、牽制板と前記弦月杆とを連結する連動部材を、作業クラッチ側に一端を連結された操作ワイヤーとは別の操作ワイヤーによって構成し、その別の操作ワイヤーを張り側へ引っ張るたわみ取りスプリングを牽制板に連結してある点に特徴がある。
【0014】
〔作用及び効果〕
上記のように構成された解決手段3にかかる本発明の歩行型作業機では、前記解決手段1及び2にかかる発明と同等な作用効果の他に、次の作用効果をも奏する。
すなわち、たわみ取りスプリングを牽制板に連結して別の操作ワイヤーの張り側へ引っ張るようにしたことにより、牽制板の基準の位置を前後進シフト軸の後進変速側への移動を阻止する位置から外れる方向への移動をスムーズに行えるように、かつ、その引っ張り作用がクラッチレバーの切り側への操作力としても機能する。
その結果、作業クラッチを切り側へ付勢するための付勢力や、牽制板を前後進シフト軸から外れる方向へ移動させるための付勢力のそれぞれはあまり強い付勢力でなくとも、クラッチレバーを切り側へ操作するための付勢力はそれらの合力となるので、比較的強いクラッチ切り側への操作力を得ることができ、デッドマン形式でクラッチを切り側へ移動させる場合の操作を確実に行うことができる。
【0015】
〔解決手段4〕
本発明の歩行型作業機における第4の解決手段では、請求項4の記載のように、クラッチレバーとは別に、操縦ハンドルの握り部を把持した手の指による押し下げ操作で作業クラッチを入り操作可能な指操作式クラッチレバーを設けてある点に特徴がある。
【0016】
〔作用及び効果〕
上記のように構成された解決手段4にかかる本発明の歩行型作業機では、前記解決手段1、2、または3にかかる発明と同等な作用効果の他に、次の作用効果をも奏する。
すなわち、機体姿勢が不安定である場合などに、操縦ハンドルを両手で把持したままの状態でも、その操縦ハンドルの握り部近くに指操作式クラッチレバーを配備しているので、手指によって作動クラッチを入り操作、あるいは、作動クラッチをデッドマン形式で作用する前述のクラッチ入り位置に保持して、手を離すことによりクラッチ切り位置に操作する、などの変速操作を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態の一例を図面の記載に基づいて説明する。
〔歩行型作業機の全体構成〕
図1は、本発明に係る歩行型作業機の一例である歩行型耕耘機を示し、走行機体1の機体後方側に向けて歩行作業者用の操縦ハンドル2を延出してある。
前記走行機体1は、エンジン搭載フレーム11とミッションケース12とを一体化して構成した車体枠部10にエンジン13を搭載し、ミッションケース12の下部から車体横向きに延出された駆動軸14に、正逆に回転方向を切り換え可能なロータリ耕耘装置15を装着して構成してある。この走行機体1の後方側には、前記車体枠部10の後部に設けたヒッチ16を介して抵抗棒17を装着してある。
【0018】
前記エンジン搭載フレーム11に支持されたエンジン13の出力軸13aから取り出された駆動力は、ベルトテンションクラッチで構成された作業クラッチ3を介してミッションケース12の入力軸12aに伝達される。ミッションケース12では、前記入力軸12aの駆動力をミッションケース12内に装備されているギヤトランスミッション(図示せず)を介して、減速して前記駆動軸14に伝達するように構成されている。
前記ミッションケース12内には、前述の作業クラッチ3とは別の、前記駆動軸14を左右各別に駆動する操向クラッチ(図外)も内装されており、操縦ハンドル2に設けた左右の操向レバー18の操作により前記操向クラッチを操作し、左右の駆動軸14を左右各別に駆動して走行機体1の操向操作を行うことができるようになっている。
【0019】
〔作業クラッチ〕
前記作業クラッチ3は、前記エンジン13の出力軸13aに設けられた出力プーリ13bとミッションケース12の入力軸12aに設けられた入力プーリ12bとにわたって掛張された伝動ベルト30と、その伝動ベルト30に対して図1及び図8に示すように圧接するクラッチ入り状態と、伝動ベルト30への圧接を解除されたクラッチ切り状態とに姿勢変更操作されるテンションプーリ31とを備えて構成されている。
【0020】
前記テンションプーリ31は、車体枠部10側に固定の揺動支点軸32に対して一端側を揺動自在に枢支された揺動アーム31aと、その揺動アーム31aの揺動自在な他端側に枢支されたテンション輪31bとを備えている。そして、このテンションプーリ31は、前記揺動支点軸32周りに巻回されたつる巻きバネ33によって前記揺動アーム31aが前記伝動ベルト30から離れる側へ揺動付勢され、自由状態では図9に示すようにクラッチ切り側に付勢されている。
そして、この揺動アーム31aは、後述するクラッチ操作機構4に備えたクラッチレバー40の操作により、人為的にテンションプーリ31を伝動ベルト30に圧接させたクラッチ入り姿勢と、テンションプーリ31を伝動ベルト30から離反させたクラッチ切り姿勢とに姿勢切り換え自在に構成されている。
【0021】
〔クラッチ操作機構〕
図2及び図3に示すように、作業クラッチ3を操作するためのクラッチ操作機構4は、操縦ハンドル2の左側のハンドル部分に設けたクラッチレバー40と、そのクラッチレバー40の揺動操作を作業クラッチ3に伝えるクラッチ系連係部材6とで構成されている。
【0022】
前記作業クラッチ3を入り切り操作するためのクラッチレバー40は、操縦ハンドル2のハンドル杆20に取り付けたブラケット21に対して、横軸心p0周りで揺動自在に枢支されている。つまり、前記ブラケット21に横向きに立設した横軸22に外嵌させたボス部41aを備えた揺動板41に、クラッチレバー40の握り杆42を固定し、その揺動端側に作業クラッチ3に対するクラッチ系連係部材6の弦月杆60を連結してある。
このクラッチレバー40は、前記握り杆42部分をガイドカバー23に形成されているガイド孔23aに挿通した状態で前後後方に揺動自在に取り付けてあり、前記横軸心p0周りでの揺動操作範囲E0は、ハンドル杆20に固定してあるストッパー20bによって規定される。すなわち、クラッチ切り位置では、図2に示すようにクラッチレバー40の握り杆42部分がストッパー20bに接当し、クラッチ入り位置では、図3及び図4に示すように、クラッチレバー40の揺動板41がストッパー20bに接当してクラッチレバー40の揺動作動限界を設定している。
【0023】
前記クラッチ系連係部材6は、前記クラッチレバー40に連結された弦月杆60と、その弦月杆60の他側に連結される操作ワイヤー61とで構成されている。
前記弦月杆60のクラッチレバー40との連結点p1、及び操作ワイヤー61との連結点p2は、図2に示すクラッチ切りの状態では、アウターワイヤ固定部24に固定された箇所の操作ワイヤー61とクラッチレバー40の枢支点である横軸心p0とを結ぶ線分であるデッドポイント線DLから下方に離れた位置にあり、作業クラッチ3の揺動アーム31aを切り側へ付勢するつる巻きバネ33の付勢力により、クラッチレバー40を切り姿勢側へ付勢する引っ張り作用を与えるように構成されている。
【0024】
そして、前記付勢力に抗してクラッチレバー40を入り側へ人為的に操作すると、前記連結点p1,p2は、図3及び図4に図示するように、前記デッドポイント線DLを越えて前記切り側における位置とは反対側の入り位置に位置するので、前記付勢力による引っ張り作用がクラッチレバー40を入り側に押しつけるように働き、そのクラッチレバー40の入り姿勢を安定的に維持することになる。
図2における符号DPは、クラッチレバー40の揺動操作範囲E0内におけるデットポイント位置を示しており、クラッチレバー4がこのデッドポイントDP位置に存在した状態で、前記連結点p1,p2がデッドポイント線DL上に位置するように構成されている。
【0025】
前記クラッチレバー40による揺動操作範囲E0のうち、前記作業クラッチ3がエンジン13側の動力をミッションケース12側へ伝達可能なクラッチ入り状態となるクラッチ入り作用領域E1と、前記動力の伝達が断たれるクラッチ切り作用領域E2とは、次のように設定されている。
すなわち、図2に示すように、クラッチレバー40のクラッチ入り位置から前記デッドポイントDPの存在位置を越えた切り位置側寄りの箇所にわたってクラッチ入り作用領域E1が設定されており、揺動操作範囲E0のうちの残りの領域がクラッチ切り作用領域E2となる。このように作用領域E1,E2を設定することにより、デッドポイントDP位置よりも切り側寄りの箇所に、切り側寄りでありながらクラッチ入り状態である制限伝動領域E3を確保している。
【0026】
〔指操作式クラッチレバー〕
操縦ハンドル2には、前記クラッチレバー40とは別に作業クラッチ3を操作することが可能な操作具として、図1乃至図6に示すように指操作式クラッチレバー44が設けられている。
この指操作式クラッチレバー44は、ハンドル杆20側の横軸心p3周りで揺動自在に、かつ、戻りバネ48で上方側へ復帰付勢して設けた操作杆45と、この操作杆45及び前記クラッチレバー40と連係作動するように設けた遊動板47と、この遊動板47と前記クラッチレバー40の揺動板41を連係作動させるために用いられる連動用バネ49とを備えて構成されている。
【0027】
前記操作杆45は、図5に示すように、ハンドル杆20の固定部に設けた横向き軸25に遊嵌する筒部45aを備えて、前記横向き軸25の横軸心p3周りで揺動自在に構成されており、かつ、ハンドル杆20の後端側の握り部20aに近い後端側端部に押し操作部45bを備え、中間部にカム機能を有した抜き孔46を備えて構成されている。
前記抜き孔46は、図7に示すように、揺動中心となる横軸心p3に近い側に、操作杆45の長手方向に沿う長円弧状のカム作用部46aを形成し、前記横軸心p3から遠い側に上方側に膨らむ融通空間46bを形成し、融通空間46bの下部相当箇所に段部46cを形成してある。
【0028】
前記遊動板47は、図5,6に示すように、クラッチレバー40のボス部41aが挿嵌された横軸22に対して挿嵌されるボス部47aを備え、前記クラッチレバー40の揺動軸心p0と同じ軸心周りで相対回動自在に横軸22に枢支されている。そして、この遊動板47には、クラッチレバー40の存在する側とは反端側に向けて横向きピン47bを突設してあり、この横向きピン47bに外嵌させたローラ43を前記操作杆45の抜き孔46内に挿入させてある。
また、図2乃至図6に示すように、遊動板47の外周部2カ所には、クラッチレバー40の揺動板41上に突設した横向きピン41bと係合する接当部47cを形成してあり、また、前記揺動板41の横向きピン41bの中心と、遊動板47の横向きピン47bの中心とを連結点p4,p5として、前記連動用バネ49が掛張されている。
【0029】
上記のように構成された指操作式クラッチレバー44の動作形態を説明する。
図2に示すように、クラッチレバー40が切り位置に操作されている状態で、操縦ハンドル2の握り部20aよりも上方側に位置している指操作式クラッチレバー44の操作杆45の押し操作部45bを押し下げ操作すると、図3に示すように、操作杆45の押し操作部45bは握り部20aの下方側へ押し下げられ、クラッチレバー40は前方側のクラッチ入り位置へ切換操作される。
この動作は、操作杆45の抜き孔46に挿入されている遊動板47のローラ43が、抜き孔46のカム作用部46aで下方側へ押され、これに伴って横軸心p0周りで回動する遊動板47の一方の接当部47cがクラッチレバー40の揺動板41に設けられた横向きピン41bを押圧し、揺動板41を図2中の反時計回りに回動操作することによって行われる。
【0030】
次に、図3に示す状態で、実線で記載されている操作杆45から手を離すと、戻しバネ48で上方側へ付勢されている操作杆45は、横軸心p3周りに揺動して、ハンドル杆20に固定されているストッパー20bに接当し、図4のように元の位置、つまり操縦ハンドル2の握り部20aよりも上方側に位置した状態に復帰する。
この動作は次のようにして行われる。つまり、操作杆45が戻しバネ48で上方側への押し上げ作用を受けると、操作杆45は横軸心p3周りで反時計回りに揺動しようとする。これに伴って操作杆45の抜き孔46に挿入されている遊動板47のローラ43が、抜き孔46のカム作用部46aで上方側への押し上げ作用を受ける。
このとき、クラッチレバー40はデッドポイントDPを越えて入り位置に安定的に操作されているので、前記連動用バネ49の一端を連結した揺動板41上の横向きピン41bによる連結点p4の位置は、図3および図4に示す一定位置にあって動かず、連動用バネ49の他端側の連結点p5である遊動板47上の横向きピン47bの位置が移動することになる。
したがって、遊動板47上の横向きピン47bに外嵌されているローラ43が遊動板47の回転運動に拘束されながら、前記連結点p5がデッドポイント線DLを越えるまでは、前記連動用バネ49に抗して遊動板47を少し横軸心p0周りで時計回りに回動させて、ローラ43を抜き孔46のカム作用部46a内で、前記揺動板41側の連結点p4から離れる側へ移動させる。
前記連結点p5がデッドポイント線DLを越えると、連動用バネ49の付勢力は遊動板47を横軸心p0周りで時計回りに回動させる方向に作用するので、遊動板47をさらに大きく時計回りに回動させローラ43を抜き孔46のカム作用部46a内で前記揺動板41側の連結点p4に近づく側に引き戻し、図4及び図7に示すように、ローラ43を段部46cに接当させた状態としておく。
【0031】
次に、図4に示す状態で、再度操作杆45を押し下げると、この操作は、クラッチレバー40の作動には影響を及ぼすことがないように構成されている。
つまり、図4に示す状態では、抜き孔46に挿通されたローラ43は、前記段部46cに接当する位置にあり、その上方側に融通空間46bを形成してあるので、操作杆45を押し下げ操作すると、前記ローラ43が融通空間46bの内部を単に上下移動するだけで、遊動板47も揺動板41も作動せず、クラッチレバー40はクラッチ入りの位置に維持されたままである。
【0032】
したがって、この指操作式クラッチレバー44において、操作杆45の押し操作部45bを下向きに押し操作する際に、操作杆45は、クラッチレバー40の操作位置が入り状態であるか切り状態であるかの如何を問わず、押し下げ状態でなければ常に、握り部20aの上側近く位置にあって、握り部20aを把持したままでの指操作によって押し下げ操作を行うことができ、その押し下げ操作は、切り状態のクラッチレバー40を入り操作するために用いられる。
【0033】
〔変速操作部材〕
図8、図9、及び図11、図12は、ミッションケース12に入力された動力を、ミッションケース12内のギヤミッションで前後進変速、あるいは高低変速して、駆動軸14から出力させるための操作を行う変速操作部材5を示しており、この変速操作部材5は、横軸心x周りで上下揺動操作自在に設けられた変速操作体51と、その変速操作体51に対して前記横軸心xに直交する方向の縦軸心y周りで左右揺動自在に装着された変速レバー50とで構成されている。
【0034】
前記変速操作体51は、変速レバー50が横軸心x周りで上下方向に揺動操作されると、図11及び図12に示すように、変速操作体51の前記横軸心xから離れた箇所に形成された前後進カム部51aが、横軸心x周りで上下方向に揺動する。
そして、前記前後進カム部51aには、ミッションケース12内の変速用シフタ(図外)を操作する前後進シフト軸55のミッションケース12外への突出部分に設けられたガイド片55aが係入しており、変速レバー50を上方側へ揺動させて後進側への変速操作を行うと、ガイド片55aが前後進カム部51aに案内されて前後進シフト軸55をミッションケース12の外方側へ引き出すように作用する。逆に、変速レバー50を下方側へ揺動させて前進側への変速操作を行うと、ガイド片55aが前後進カム部51aに案内されて前後進シフト軸55をミッションケース12の内奥側へ押し込むように作用する。
【0035】
前記変速操作体51に対して上下方向の縦軸心y周りで相対揺動自在に装着した変速レバー50には、前記前後進カム部51aが設けられた側とは横軸心xを挟んで反対側に向くように位置させて、高低変速用の操作アーム50aを一体的に取り付けてある。そして、ミッションケース12から機体の横側方へ突出させた高低変速用シフト軸56には、前記操作アーム50aの上下方向への相対揺動は許容し、左右方向への相対移動は制限するように操作アーム50aの先端部と係合する溝部分を有した係合体56aが一体的に設けられている。
【0036】
図11は、変速レバー50の操作位置を案内するためのガイド板52と変速レバー50との位置関係を示しており、変速レバー50を中立位置Nから左方へ揺動させて前進低速F1に操作すると、高低変速用シフト軸56がミッションケース12から機体の横側方の外方側へ引き出されて低速前進の駆動力によって駆動軸14を駆動する。逆に、変速レバー50を中立位置Nから右方へ揺動させて前進高速F2に操作すると、高低変速用シフト軸56がミッションケース12の内奥側へ押し込まれて、高速前進の駆動力によって駆動軸14を駆動するように構成されている。
【0037】
〔動作連係機構〕
前記変速機構5と、クラッチ操作機構4のクラッチ系連係部材6とは、動作連係機構7によって互いに連係作動するように構成されている。
上記動作連係機構7は、図8乃至図10に示すように、車体枠部10に固定の取り付け基板70に対して、その取り付け基板70の板面に沿って相対摺動自在に装着した牽制板71と、その牽制板71と前記クラッチ系連係部材6の弦月杆60とにわたって連結された連動部材の一例である操作ワイヤー72と、前記牽制板71を操作ワイヤー72の張り側へ移行させるように付勢するたわみ取りスプリング73とを備えて構成してある。
【0038】
前記牽制板71は、その移動方向に沿って形成された長孔71aに、取り付け基板70側から立設された規制ピン70aが挿入されていて、取り付け基板70に対しては、規制ピン70aが長孔71aの両端に接当する範囲で相対移動可能な状態で取り付けられているが、前後進シフト軸55の操作状態によっては、その移動範囲が変化する。
すなわち、変速レバー50が中立位置N、または前進低速F1、あるいは前進高速F2に操作されている状態、つまり後進位置Rに操作されていない状態では、図9及び図10(a)に示すように、前記規制ピン70aが長孔71aの両端に接当するまでの全範囲で牽制板71が取り付け基板70に対して相対移動可能である。そして、変速レバー50が後進位置Rに操作されていると、図8及び図10(b)に示すように、前後進シフト軸55が牽制板71の動作領域を遮るように突出するので、牽制板71のクラッチ入り側への作動範囲は、図9に仮想線で示す牽制位置Dまでが作動可能な領域となる。
【0039】
このように、牽制板71のクラッチ入り側への作動範囲が、牽制板71の動作領域に突出した前後進シフト軸55の存在によって制限されると、クラッチレバー40側では、操作ワイヤー72を介して弦月杆60の動作許容範囲がデッドポイント線DLを越えない範囲に制限される。このため、クラッチレバー40のクラッチ入り側への操作可能範囲も、図2に示すようにデッドポイントDPよりもクラッチ切り側の制限伝動領域E3となるように制限される。
つまり、変速レバー5が後進位置Rに操作された状態でのクラッチレバー40の揺動操作可能な範囲は、クラッチ切り側では通常のクラッチ切り位置であるが、クラッチ入り側では、前記制限伝動領域E3内で、前記牽制板71の牽制位置Dに対応して設定される位置であり、図2に示すレバー操作許容領域E4になる。
したがって、この状態では、後進しながら作業状態とすることが可能であるが、この後進での作業状態を継続するには、クラッチレバー40を人為的に入り位置に保持した状態を維持し続ける必要があり、所謂「デッドマン形式」のクラッチ操作形態が現出された状態となる。
【0040】
上述のように、通常のクラッチ操作機構4に加えて、牽制板71と、その牽制板71と前記クラッチ系連係部材6の弦月杆60とにわたって連結された連動部材の一例である操作ワイヤー72とを用いる程度の簡単な構造によって、かつ、前記牽制板71の作動範囲を変更してクラッチレバー40の操作範囲を制限するように機能させるための役割をも有することになる前後進シフト軸55、及びその前後進シフト軸55を介して変速レバー50の作動範囲を制限する役割を有することになる変速操作体51をも利用することにより、牽制手段が構成されている。
【0041】
〔別実施形態〕
[1] 上記実施の形態では、駆動軸14にロータリ耕耘装置15を装着して、ロータリ耕耘装置15の駆動による走行を行うように構成された歩行型作業機を示したが、本発明は、ミッションケース12の駆動軸に走行装置を備え、その走行装置とは別に、別の動力取り出し軸からの動力で駆動されるロータリ耕耘装置15などの作業装置を装着して、その作業装置の駆動を断続する作業クラッチ3を断続するようにしてもよい。
また、そのように走行装置とロータリ耕耘装置などの作業装置を別々に備える歩行型作業機に適用する作業クラッチ3としては、走行系と作業装置系との両方をともに断続する主クラッチによって構成してもよい。
【0042】
[2] 本発明は、歩行型耕耘機の他、歩行型田植機や歩行型芝刈り機など、各種の作業機にも適用できる。従って、これらの各種の歩行型の作業機を総称して歩行型作業機と呼称する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】歩行型作業機の全体側面図
【図2】クラッチ操作機構部分を示す側面図
【図3】クラッチ操作機構部分を示す側面図
【図4】クラッチ操作機構部分を示す側面図
【図5】クラッチ操作機構部分を示す平面図
【図6】クラッチ操作機構部分を示す断面図
【図7】指操作式クラッチレバーの一部を示す側面図
【図8】変速操作部材部分を示す側面図
【図9】変速操作部材部分を示す側面図
【図10】変速操作部材の一部を示す断面図
【図11】変速操作部材の一部を示す平面図
【図12】前後進カム部を示す説明図
【符号の説明】
【0044】
1 走行機体
2 操縦ハンドル
3 作業クラッチ
4 クラッチ操作機構
5 変速操作部材
6 クラッチ系連係部材
7 動作連係機構
40 クラッチレバー
50 変速レバー
60 弦月杆
61,72 操作ワイヤー
71 牽制板
DP デッドポイント
DL デッドポイント線
E3 制限伝動領域
E4 レバー操作許容領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体から後方に延びる歩行作業者用の操縦ハンドルに、作業クラッチを入り切り操作するためのクラッチレバーを揺動操作自在に装備してあるとともに、前記走行機体には、走行方向を前進側と後進側とに切り換え操作する変速レバーを備えた歩行型作業機であって、
前記クラッチレバーを、デッドポイントを挟む両側に振り分け配置されたクラッチ入り位置と切り位置とに揺動操作で切り換え可能に構成するとともに、
前記作業クラッチにおけるクラッチ入り作用領域を、前記クラッチレバーの揺動操作範囲内で、クラッチ入り位置から前記デッドポイントの存在位置を越えた切り位置側寄りの箇所にわたる範囲に設定し、
前記クラッチレバーの操作を作業クラッチへ伝えるクラッチ系連係部材と、変速レバーの前後進変速操作を変速装置へ伝える変速操作部材と、前記クラッチ系連係部材と変速操作部材との動作を互いに関連付ける動作連係機構を装備し、
この動作連係機構は、クラッチレバーがクラッチ切り位置に操作されていると、前記変速レバーによる前後進変速を許容するとともに、変速レバーによる後進変速操作にともなって、デッドポイントよりもクラッチ入り位置側へのクラッチレバーの移動を阻止して、デッドポイントよりも切り位置側寄りに存在するクラッチ入り作用範囲への操作を許すようにクラッチレバーの操作範囲を制限し、かつクラッチレバーがクラッチ入り位置に操作されていると、変速レバーによる後進変速を阻止するように変速操作部材の作動を制限する牽制手段を走行機体に装備したことを特徴とする歩行型作業機。
【請求項2】
クラッチ系連係部材は、作業クラッチ側に一端を連結された操作ワイヤーと、クラッチレバーに一端を連結された弦月杆とを連結して構成してあり、
変速操作部材は、変速レバーと、その変速レバーと一体的に操作される変速操作体とで構成してあり、
牽制手段は、変速用シフタを操作する前後進シフト軸の前後進変速操作に伴う作動領域に進入する状態と作動領域から外れる状態とに位置変更自在な牽制板と、その牽制板と前記弦月杆とを連結する連動部材とを備えて、後進変速位置に操作された前後進シフト軸に接当してクラッチレバーの作動範囲を制限し、かつ後進変速位置に操作されていない前後進シフト軸の後進変速側への作動空間に進入して前後進シフト軸の後進変速側への移動を阻止するように構成してある請求項1記載の歩行型作業機。
【請求項3】
牽制板と前記弦月杆とを連結する連動部材を、作業クラッチ側に一端を連結された操作ワイヤーとは別の操作ワイヤーによって構成し、その別の操作ワイヤーを張り側へ引っ張るたわみ取りスプリングを牽制板に連結してある請求項2記載の歩行型作業機。
【請求項4】
クラッチレバーとは別に、操縦ハンドルの握り部を把持した手の指による押し下げ操作で作業クラッチを入り操作可能な指操作式クラッチレバーを設けてある請求項1、2、または3記載の歩行型作業機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−220686(P2009−220686A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66457(P2008−66457)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【出願人】(596075314)オカネツ工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】