歩行者保護装置
【課題】簡便な構成として、車両の前部上側若しくは前部下側に移動する歩行者の衝突形態に対応して、歩行者を的確に保護可能な歩行者保護装置の提供。
【解決手段】歩行者保護装置S1は、車両Vの前部FPに搭載され、制御装置60と、制御装置に作動を制御される前進保持機構12と、歩行者の接触可能な接触体10と、を備える。制御装置60は、衝突予測センサ61からの信号に基づいて、歩行者の車両との衝突を予測した際に、前進保持機構12を作動させて接触体10を前進移動させ、前進移動した接触体10の歩行者との接触時における前進保持機構12の上方回転若しくは下方回転する際の回動センサ63の信号に基づいて、車両の前部上側に移動する歩行者MUと車両の前部下側に移動する歩行者MDとにそれぞれ対応させるように、拘束体30の作動を制御する。
【解決手段】歩行者保護装置S1は、車両Vの前部FPに搭載され、制御装置60と、制御装置に作動を制御される前進保持機構12と、歩行者の接触可能な接触体10と、を備える。制御装置60は、衝突予測センサ61からの信号に基づいて、歩行者の車両との衝突を予測した際に、前進保持機構12を作動させて接触体10を前進移動させ、前進移動した接触体10の歩行者との接触時における前進保持機構12の上方回転若しくは下方回転する際の回動センサ63の信号に基づいて、車両の前部上側に移動する歩行者MUと車両の前部下側に移動する歩行者MDとにそれぞれ対応させるように、拘束体30の作動を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部に搭載され、歩行者の車両と衝突する際に作動されて、車両の前部上側に移動する歩行者と車両の前部下側に移動する歩行者とにそれぞれ対応して保護可能に受け止める拘束体を、受止状態とするように配設させる構成の歩行者保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歩行者保護装置としては、歩行者を受け止める拘束体に、膨張用ガスを流入させて膨らむエアバッグを使用したり、あるいは、塑性変形して歩行者の運動エネルギーを吸収するものがあった。エアバッグを利用する歩行者保護装置では、車両の前部側上面に膨らんだエアバッグを配設させたり(例えば、特許文献1参照)、車両の前面側で、路面から大人の胸部付近までを受け止め可能な大きなエアバッグを配設させるものがあった(例えば、特許文献2参照)。また、塑性変形する拘束体を利用する歩行者保護装置では、車両の前部側上面にフードの前縁部位を立ち上げたり(例えば、特許文献3参照)、車両の前部側のバンパから上方に延びるように拘束体を立ち上げるものがあった(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2000−219094号公報
【特許文献2】特開2003−341451号公報
【特許文献3】特開2006−36120号公報
【特許文献4】特開2007−276503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、例えば、歩行者が小柄な子供であれば、衝突時に車両と路面との間に侵入する虞れがあり、従来の特許文献1,3,4の歩行者保護装置では、路面との間を塞ぐ部位を備えないことから、この点に課題があった。一方、特許文献2の歩行者保護装置では、エアバッグが、路面との間を塞ぐエリアを備えているものの、大人の胸部付近まで保護可能に上部側を高く伸ばしており、エアバッグの容積が大きくなって、膨張完了までの時間がかかり、また、エアバッグに膨張用ガスを供給するインフレーター等が大型化してしまい、軽量化の点に課題があった。
【0004】
これらの対処のため、歩行者の体格を検知するセンサを利用し、歩行者が大柄な場合には、車両との衝突時に、車両の上面側に乗り上げてくることを考慮し、車両の前部の上面側でエアバッグ等の拘束体を配置させ、また、歩行者が小柄な子供の場合には、車両との衝突時に、車両の下面側の路面との間に侵入し易いことを考慮し、車両の前部の下面側でエアバッグ等の拘束体を配置させることが考えられる。
【0005】
しかし、このような構成では、歩行者の体格が大柄であっても、その歩行者が車両の前部下側に侵入したり、あるいは、その逆に、歩行者の体格が小柄であっても、その歩行者が車両の前部上側に移動する場合の衝突形態に対しては、対処し難い。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、簡便な構成として、車両の前部上側若しくは前部下側に移動する歩行者の衝突形態に対応して、歩行者を的確に保護可能な歩行者保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る歩行者保護装置は、車両の前部に搭載され、歩行者の車両と衝突する際に作動されて、車両の前部上側に移動する歩行者と車両の前部下側に移動する歩行者とにそれぞれ対応して保護可能に受け止める拘束体を、受止状態とするように配設させる構成の歩行者保護装置であって、
作動時、車両の前面に収納された初期位置から前方側に突出されて、歩行者と接触する接触体と、
作動時に、接触体を前方側へ突出可能として、接触体を後側から保持する前進保持機構と、
前進移動した接触体の歩行者との接触時に、接触体の上部側若しくは下部側への押圧力の大きさに対応させて、前進保持機構を上方若しくは下方の一方側に回転させるように、前進保持機構の後部側を保持する回動保持機構と、
車両に配設されて、歩行者の車両との衝突を予測する衝突予測センサと、
前進保持機構の上下の回動を検知する回動センサと、
衝突予測センサ及び回動センサからの信号に基づいて、前進保持機構と拘束体との作動を制御する制御装置と、
を備えて構成され、
制御装置が、
衝突予測センサからの信号に基づいて、歩行者の車両との衝突を予測した際に、前進保持機構を作動させて接触体を前進移動させ、
前進移動した接触体の歩行者との接触時における前進保持機構の上方回転若しくは下方回転する際の回動センサの信号に基づいて、車両の前部上側に移動する歩行者と車両の前部下側に移動する歩行者とにそれぞれ対応させるように、拘束体の作動を制御していることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る歩行者保護装置では、制御装置が、衝突予測センサからの信号に基づいて、車両の歩行者との衝突を予測した際に、前進保持機構を作動させて、接触体を初期位置から歩行者と接触可能な前進位置まで前進移動させる。そして、歩行者が接触体に当たり、接触体の上部側若しくは下部側への押圧力の大きさに対応して、前進保持機構は、上方若しくは下方の一方側に回転する。
【0009】
そして、前進保持機構が上方回転若しくは下方回転すれば、制御装置が、回動センサからの信号に基づいて、拘束体を作動させて、車両の前部上側若しくは前部下側に移動してくる歩行者を保護可能に、拘束体が歩行者を受け止めることとなる。
【0010】
すなわち、本発明に係る歩行者保護装置では、機械的に動作する前進保持機構の上方回転若しくは下方回転によって、歩行者が車両の前部上側に移動するか、若しくは、歩行者が車両の前部下側に移動するかを判断でき、そして、歩行者の実際の車両との衝突形態に応じて、拘束体を、的確に、歩行者の受止状態とするように配設することができる。
【0011】
したがって、本発明に係る歩行者保護装置では、簡便な構成として、車両の前部上側若しくは前部下側に移動する歩行者の衝突形態に対応して、歩行者を的確に保護することができる。
【0012】
また、本発明に係る歩行者保護装置では、車両の前部上側に移動してくる歩行者若しくは車両の前部下側に移動してくる歩行者を、選別して保護可能に拘束体を作動させることから、拘束体を小さく構成できて、極力、軽量かつコンパクトに歩行者保護装置を構成することが可能となる。
【0013】
そして、本発明に係る歩行者保護装置では、前進保持機構を、
接触体の後面に連結されて後方に延びる連結支持材と、
連結支持材を保持して、制御装置からの作動信号により作動されて、接触体とともに連結支持材を前進移動させる駆動源と、
を設けて構成し、
回動保持機構を、
前進保持機構の後方側で、軸方向を左右方向に沿わせて配設させて、軸周り方向に回動可能な保持軸と、
前進保持機構の駆動源を保持軸に連結させる連結保持材と、
を設けて構成し、
前進保持機構と回動保持機構との少なくとも一部に、前進移動した接触体の歩行者との接触時における前進保持機構の上下に回動する際の歩行者の運動エネルギーを吸収可能に変形する変形部を、配設することが望ましい。
【0014】
このような構成では、前進保持機構と回動保持機構との少なくとも一部に配設した変形部が、接触体により歩行者を受け止めた状態での前進保持機構の上方回転時若しくは下方回転時に、塑性変形若しくは弾性変形して、歩行者の運動エネルギーを低減させることができ、歩行者のその後の拘束体との干渉をソフトにすることができ、歩行者に与える拘束体の反力を抑制することができる。
【0015】
また、本発明に係る歩行者保護装置では、制御装置が、前進保持機構を作動させて接触体を前進移動させた後、歩行者の車両との衝突の回避時に、接触体を初期位置に復帰させるように、前進保持機構を作動させるように構成されていれば、部品等を交換することなく、つぎの歩行者との衝突予測時に、再利用することができる。なお、歩行者の車両との衝突の回避は、制御装置が、衝突予測センサから衝突予測信号を入力して、一定時間経過しても、前進保持機構の上下の回動を検知する回動センサからの信号を入力しない場合に、衝突回避と判断する。あるいは、実際の車両の歩行者との衝突を検知する衝突検知センサを、車両に搭載して、制御装置が、衝突予測センサから衝突予測信号を入力して、一定時間経過しても、衝突検知センサから信号がない場合に、衝突回避と判断してもよい。
【0016】
さらに、本発明に係る歩行者保護装置では、車両の前部上側若しくは前部下側に移動する歩行者を受け止める拘束体としては、受止状態となる作動時に、膨張用ガスを流入させて収納部位から突出して膨らむエアバッグが例示できる。この場合には、拘束体としてのエアバッグが、歩行者をクッション性良く受け止めることができる。
【0017】
また、車両の前部上側に移動する歩行者を受け止める拘束体としては、フードパネルとして、受止状態となる作動時に、上昇移動させるように構成してもよい。この場合には、エンジンルーム上方に、下方へ変形できる変形スペースを大きくさせて、フードパネルを配置させることができ、歩行者は、フードパネルを塑性変形させて、運動エネルギーを吸収されて、フードパネルに受け止められることとなる。
【0018】
そしてまた、本発明に係る歩行者保護装置では、拘束体を、受止状態となる作動時に、膨張用ガスを流入させて膨らむ一つのエアバッグから構成し、
前進保持機構を、エアバッグと、エアバッグを突出可能な開口を有してエアバッグを収納して接触体の後面側に配置されるケースと、を保持させるように構成し、
前進保持機構の上方回転若しくは下方回転に連動させて、ケースにおけるエアバッグの突出する開口を上方側若しくは下方側に向ける連動機構を、配設し、
一つのエアバッグを、連動機構によるケースの開口の向きに応じて、作動時、車両の前部上側若しくは前部下側に移動する歩行者に対応して膨らませるように、配設してもよい。
【0019】
このような構成では、前進保持機構の上方回転若しくは下方回転する際に、連動機構によって、ケースにおけるエアバッグの突出する開口が上方側若しくは下方側に向き、所定の開口からエアバッグを突出させて、車両の前部上側若しくは前部下側で膨らませることができて、使用するエアバッグを一つとして構成できることから、エアバッグを収納するケースや、エアバッグに膨張用ガスを供給するガス供給機構も一つで済み、一層簡便に、歩行者保護装置を構成することができる。
【0020】
この場合、ケースは、上面側と下面側とに、それぞれ、エアバッグを突出可能な開口と、開き可能に各開口を覆うカバーと、を配設させ、
連動機構は、ケースの上面側と下面側との各カバーに対して、それぞれ、開き移動可能に連結される連結材を設けて構成して、
前進保持機構の上方回転若しくは下方回転する際に対応するカバーの開き移動を可能に、各連結材のカバーとの連結部位から離れる端部を、前進保持機構の回転中心付近で、相互に上下で反転させた位置に、保持させて、各連結材を配設させてもよい。
【0021】
このように構成されていれば、ケースを保持した前進保持機構の上方回転若しくは下方回転する際に、保持された端部からカバーへの連結部位までの連結材自体の長さより、回転移動中のカバーへの連結部位における端部からの長さが、長く必要となるように、前進保持機構やケースとともにカバーが回転しようとすれば、その長くなる分、逆に、連結材が、カバーを牽引する状態、すなわち、開口を形成するようにカバーを開き移動することとなる。すなわち、上記のような構成であれば、連結材を備えて構成される連動機構の機械的な動作で、前進保持機構の回動に伴って、所定の連結材の牽引によるカバーの開き移動により、一つのエアバッグを収納するケースにおけるエアバッグ突出用の開口を、上方側若しくは下方側に開口させることができて、その後の膨張用ガスの流入によって、エアバッグが、ケースの所定の開口から突出し、そして、車両の前部上側若しくは前部下側を覆うことができる。そのため、上記のような構成では、ケースに収納された一つのエアバッグにより、車両の前部上側若しくは前部下側を覆う構成の歩行者保護装置を、ケースにおけるエアバッグ突出用の開口を開口させるための駆動源を別途設けずに、一層、簡便な機構で構成することができる。
【0022】
同様に、ケースとして、接触体の後方側に配置された前端側に、エアバッグを突出可能な前端開口を設けるとともに、前端開口を上向き若しくは下向きに回転可能に前進保持機構に保持させ、
連動機構を、ケースにおける前進保持機構に対する回転中心より後方側部位を支持する支持材を設けて、構成し、
接触体と前端開口との間にエアバッグを突出可能な隙間を形成するように、回転時の前進保持機構に対してケースを相対回転可能に、支持材を、ケースの後部側部位を位置規制するように、ケースを前後に移動可能で、かつ、ケースの後部側部位を上下に移動不能に、配設させてもよい。
【0023】
このような構成でも、ケースを保持した前進保持機構の上方回転若しくは下方回転する際に、ケースが、支持材によりケースの後部側部位を位置規制された状態として、前進保持機構とともにケースの前進保持機構に対する回転中心を回転させることから、ケース自体は、接触体と前端開口との間にエアバッグを突出可能な隙間を形成するように、回転時の前進保持機構に対してケースを相対回転させて、前端開口をさらに上方側若しくは下方側に向けることとなる。すなわち、上記のような構成であれば、支持材を設けて構成される連動機構の機械的な動作で、前進保持機構の回動に伴って、支持材の位置規制によるケースの相対回転により、一つのエアバッグを収納するケースの前端開口を上方側若しくは下方側に向けて、接触体との間に隙間を設けて開口させることができる。そして、その後の膨張用ガスの流入によって、エアバッグが、ケースの前端開口から突出し、そして、車両の前部上側若しくは前部下側を覆うことができる。そのため、上記のような構成でも、ケースに収納された一つのエアバッグにより、車両の前部上側若しくは前部下側を覆う構成の歩行者保護装置を、ケースにおけるエアバッグ突出用の開口を開口させるための駆動源を別途設けずに、一層、簡便な機構で構成することができる。
【0024】
勿論、上記の点を考慮しなければ、拘束体を、車両の前部上側に配設される上側拘束体と車両の前部下側に配設される下側拘束体との二種類として配設し、
制御装置が、回動センサからの信号に基づき、上側拘束体若しくは下側拘束体を作動させて、前進保持機構の上方回転時に、下側拘束体を作動させずに、上側拘束体を、車両の前部上側を移動してくる歩行者の受止状態となるように、作動させ、前進保持機構の下方回転時に、上側拘束体を作動させずに、下側拘束体を、車両の前部下側を移動してくる歩行者の受止状態となるように、作動させてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明すると、第1実施形態の歩行者保護装置S1は、図1,2に示すように、車両Vの前部FPにおけるフロントグリル(以下、単にグリルとする)5の部位に搭載されている。なお、本明細書では、前後の方向は、車両Vの前後方向に沿う方向に対応し、左右の方向は、車両の後方側から前方側を見た際の左右の方向に対応している。
【0026】
第1実施形態の歩行者保護装置S1は、図1,2に示すように、接触体10、前進保持機構12、回動保持機構21、拘束体としてのエアバッグ30、エアバッグ30に膨張用ガスを供給するガス供給機構32、エアバッグ30を収納するケース35、及び、制御装置60、を備えて構成されている。
【0027】
接触体10は、図2〜5に示すように、車両Vのグリル5の前面に収納された湾曲した板状として、収納された初期位置P0から前進位置P1まで前方側に突出されて、歩行者を受け止めるように歩行者に接触(当接)することとなる。そしてさらに、接触体10は、歩行者と接触状態に応じて、上昇位置PU(図7のB、図8参照)や下降位置PD(図9のB、図10参照)に、前進保持機構12の上方回転や下方回転に伴って移動することとなる(図1参照)。
【0028】
前進保持機構12は、作動時に、接触体10を前方側へ突出可能として、接触体10を後側から保持するものであり、連結支持材13と駆動源15とを備えて構成されている。連結支持材13は、接触体10の左右両縁付近の後面に連結されて後方に延びるように、二本配設されている。駆動源15は、各連結支持材13を保持して、制御装置60からの作動信号により作動されて、接触体10とともに連結支持材13を前進移動させるものである。第1実施形態の場合、駆動源15は、可逆動作可能なものであり、水、油、空気等を作動用流体として、それらの水圧、油圧、エア圧等を利用したピストンシリンダタイプのアクチュエータ16として、作動時、ハウジング17から二段の作動ロッド18,19を突出させる構成としている。そして、第1実施形態の場合、先端の作動ロッド19を連結支持材13と兼用としている。
【0029】
回動保持機構21は、図2〜5に示すように、前進移動した接触体10の歩行者との接触時に、接触体10の上部10a側若しくは下部10b側への押圧力の大きさに対応させて、前進保持機構12を上方若しくは下方の一方側に回転させるように、前進保持機構12の後部側を保持するものであり、保持軸22、連結保持材25、及び、ストッパ27,28を備えて構成されている。保持軸22は、前進保持機構12の後方側で、軸方向を左右方向に沿わせて配設されて、軸周り方向に回動可能としている。
【0030】
第1実施形態の場合、保持軸22は、前進保持機構12の各アクチュエータ16のハウジング17を貫通して、左右両側の端部22aを支持板23に固定させている(図4参照)。支持板23は、車両のボディ1におけるサイドメンバ等の構造材に連結固定されている。そして、第1実施形態の場合、保持軸22が、前進保持機構12の上方回転時若しくは下方回転時に、ねじり塑性変形する変形部20を構成している。すなわち、この保持軸22は、鋼等の金属材から形成され、前進移動した接触体10の歩行者との接触時における前進保持機構12の上下に回動する際に、ねじり塑性変形する変形部20として、歩行者の運動エネルギーを吸収する。
【0031】
連結保持材25は、各アクチュエータ16のハウジング17に設けられて保持軸22を挿通させている円筒状のスリーブ17aを、保持軸22に固定するねじ材から構成されている。この連結保持材25は、締め付け時に保持軸22に先端を当接させるように、スリーブ17aに螺合させたり、あるいは、スリーブ17aを貫通させて、保持軸22自体に螺合させてもよい。そして、連結保持材25をスリーブ17aを貫通させて保持軸22自体に螺合させる構造の場合には、連結保持材25を、変形部を構成可能なシェアピンとして利用し、前進保持機構12の上方回転時若しくは下方回転時に破断させて、アクチュエータ16のハウジング17とともに、スリーブ17aを保持軸22周りで回転させるように構成してもよい。
【0032】
なお、ハウジング17の後端側に当接して所定以上の前進保持機構12の回転を規制できるように、ストッパ27,28は、保持軸22の後方側の上下に配設されている。
【0033】
エアバッグ30を収納するケース35は、図2〜6に示すように、エアバッグ30を突出可能な開口45,46(図6,8,10参照)を有して、接触体10の後面側に配置されている。第1実施形態のケース35は、上下で対向する上壁36及び下壁37、左右の側壁38,38、前後で対向する前壁39及び後壁40、を備えた略直方体の箱形状として、上壁36と下壁37との部位に、エアバッグ30の突出用の上向きの開口45と下向きの開口46とが配設されることとなる。すなわち、第1実施形態の場合には、上壁36自体が、開口45を開口させるカバー(上カバー)48とし、下壁37自体が、開口46を開口させるカバー(下カバー)49として、上カバー48と下カバー49とが、それぞれ、開口45,46を開口させるように連動機構51に連結されている。上カバー48と下カバー49とは、開口45,46を閉じている際に、側壁38や前壁39から延びる係止爪42,43により係止されて、ケース35から上下に離脱せず、後方への牽引に伴って、スライド移動して、開口45,46を開口させるように構成されている。
【0034】
連動機構51は、図2〜5に示すように、前進保持機構12の上方回転若しくは下方回転に連動させて、ケース35におけるエアバッグ30の突出する開口45,46を上方側若しくは下方側に向けて開口させるものである。そして、第1実施形態の場合、連動機構51は、二本の連結材52,53を備えて構成されている。各連結材52,53は、可撓性を有したワイヤ等の紐材から形成され、ケース35の上面側と下面側との上カバー48と下カバー49とに対して、それぞれ、開き移動可能に、前端の連結部位52a,53aを後縁48a,49aに連結させている。そして、各連結材52,53は、連結部位52a,53aから離れる後端側の端部52b,53bを、前進保持機構12の回転中心(保持軸22の中心)C0付近で、相互に上下で反転させた位置に配置された固定材55,56に保持させて、配設されている。各固定材55,56は、ボディ1側に連結固定されている。そして、各連結材52,53の連結部位52a,53aから端部52b,53bまでの長さ寸法Lは、ケース35が、前進保持機構12のアクチュエータ16の作動に伴って、前進移動した際に、伸長した状態となるように設定されている(図7のB参照)。そして、前進保持機構12が上方回転した際には、上カバー48の後縁48aを配置させていた後壁40の上端40a付近と固定材55との間の距離が、長さ寸法Lより長くなることから、連結材52が、上カバー48を開き移動するように後方へ牽引することとなる(図6のA参照)。また、前進保持機構12が下方回転した際には、下カバー49の後縁49aを配置させていた後壁40の下端40b付近と固定材56との間の距離が、長さ寸法Lより長くなることから、連結材53が、下カバー49を開き移動するように後方へ牽引することとなる(図6のB参照)。なお、連結材52,53の牽引量では、ケース35の上下の開口45,46の全域を開口できないものの、エアバッグ30が膨らめば、その膨らむ力により、上カバー48や下カバー49が後方側へ押されて、開口45,46の全域が開口されることとなる(図8,10参照)。
【0035】
そして、ケース35の内部には、図2,4に示すように、エアバッグ30とガス供給機構32としてのインフレーター33とが収納されている。エアバッグ30は、内部にインフレーター33を収納している。そして、インフレーター33は、所定の図示しない取付ボルトをエアバッグ30を貫通させて、ケース35の後壁40に取り付けており、その際、共締めして、エアバッグ30もケース35の後壁40に取り付けている。
【0036】
制御装置60は、衝突予測センサ61(図1参照)及び回動センサ63(図3参照)からの信号に基づいて、前進保持機構12のアクチュエータ16とインフレーター33との作動を制御することとなる。衝突予測センサ61は、歩行者の車両Vとの衝突を予測可能な超音波やレーダ等を利用して構成され、バンパ3の複数個所に配設されている。回動センサ63は、前進保持機構12の上下の回動を検知するものであり、第1実施形態の場合、ストッパ27,28の部位に配置されて、ハウジング17との接触時にオンされるマイクロスイッチ等から形成されている。なお、回動センサ63としては、保持軸22周りに配置させて、保持軸22自体の回動を検知可能な接触式や光学式等のものを利用してもよい。
【0037】
そして、この制御装置60は、衝突予測センサ61からの信号に基づいて、歩行者の車両Vとの衝突を予測した際に、前進保持機構12の各アクチュエータ16を作動させて接触体10を前進移動させ、その後、前進移動した接触体10の歩行者との接触時における前進保持機構12の上方回転若しくは下方回転する際の回動センサ63の信号に基づいて、拘束体としてのエアバッグ30を膨らませるように、インフレーター33を作動させる。そして、制御装置60は、各アクチュエータ16の作動後、一定時間経過しても、回動センサ63からの前進保持機構12の回転信号が無い場合には、歩行者の車両Vとの衝突が回避されたと判断して、接触体10を初期位置P0に復帰させるように、アクチュエータ16を作動させることとなる。
【0038】
すなわち、この第1実施形態の歩行者保護装置S1の作動について説明すると、車両Vが歩行者と衝突しようとする場合、制御装置60が、衝突予測センサ61からの信号に基づいて、車両Vの歩行者との衝突を予測することから、制御装置60は、まず、図3,4の二点鎖線に示すように、前進保持機構12の各アクチュエータ16を作動させて、接触体10を初期位置P0から歩行者と接触可能な前進位置P1まで前進移動させる。そして、歩行者が接触体10に当たり、接触体10の上部10a側若しくは下部10b側への押圧力の大きさに対応して、図7のA,Bや図9のA,Bに示すように、前進保持機構12は、上方若しくは下方の一方側に回転する。
【0039】
この時、第1実施形態の歩行者保護装置S1では、図6のA,Bに示すように、ケース35に連結された連動機構51により、前進保持機構12が上方回転した際には、上カバー48の後縁48aを配置させていた後壁40の上端40a付近と固定材55との間の距離が、長さ寸法Lより長くなることから、連結材52が、上カバー48を開き移動するように後方へ牽引することとなる。また、前進保持機構12が下方回転した際には、下カバー49の後縁49aを配置させていた後壁40の下端40b付近と固定材56との間の距離が、長さ寸法Lより長くなることから、連結材53が、下カバー49を開き移動するように後方へ牽引することとなる。
【0040】
そして、前進保持機構12が上方回転若しくは下方回転すれば、制御装置60が、回動センサ63からの信号に基づいて、エアバッグ30を膨らませるようにインフレーター33を作動させる。そのため、エアバッグ30が膨らめば、その膨らむ力により、上カバー48や下カバー49が後方側へ押されて、開口45,46の全域が開口されることとなる(図8,10参照)。そして、ケース35の下方側の開口46が閉じた状態で、ケース35の上方側の開口45が開口すれば、図8に示すように、エアバッグ30が、開口45から上方側へ突出し、フードパネル7の前部7aの上面側で膨らんで、車両Vの前部上側FUに移動してくる歩行者MUを保護可能に受け止めることとなる。また、ケース35の上方側の開口45が閉じた状態で、ケース35の下方側の開口46が開口すれば、図10に示すように、エアバッグ30が、開口46から下方側へ突出し、バンパ3の前面3a付近から路面Gまで膨らんで、車両Vの前部下側FDに移動してくる歩行者MDを保護可能に受け止めることとなる。
【0041】
すなわち、第1実施形態の歩行者保護装置S1では、機械的に動作する前進保持機構12の上方回転若しくは下方回転によって、歩行者MUが車両Vの前部上側FUに移動するか、若しくは、歩行者MDが車両Vの前部下側FDに移動するかを判断でき、そして、歩行者MU,MDの実際の車両Vとの衝突形態に応じて、拘束体としてのエアバッグ30を、的確に、歩行者MU,MDの受止状態に膨らませて配設することができる。付言すれば、通常、歩行者MAが大柄な場合には、図7,8に示すように、車両Vとの衝突時に、車両Vの前部上側FUに乗り上げてくる場合が多く、また、歩行者MCが小柄な子供の場合には、図9,10に示すように、車両との衝突時に、車両Vの前部下側FDの路面Gとの間に侵入し易い場合が多い。しかし、第1実施形態の場合には、図11のAに示すように、歩行者MDの体格が大柄であって、その歩行者MA,MDが車両Vの前部下側FDに侵入しても、あるいは、その逆に、歩行者MCの体格が小柄であって、その歩行者MC、MUが車両Vの前部上側FUに移動する場合であっても、それらの衝突形態に対応して、拘束体としてのエアバッグ30を、的確に、歩行者MU,MDの受止状態に膨らませて配設することができる。
【0042】
したがって、第1実施形態の歩行者保護装置S1では、簡便な構成として、車両Vの前部上側FU若しくは前部下側FDに移動する歩行者MU,MDの衝突形態に対応して、歩行者MU,MDを的確に保護することができる。
【0043】
そしてまた、第1実施形態の歩行者保護装置S1では、前進保持機構12が上方回転若しくは下方回転した際、変形部20としての保持軸22が、ねじり塑性変形することから、歩行者MU,MDの運動エネルギーを低減させることができ、歩行者MU,MDのその後の拘束体としてのエアバッグ30との干渉をソフトにすることができ、歩行者MU,MDに与えるエアバッグ30の反力を抑制することができる。
【0044】
なお、第1実施形態の歩行者保護装置S1では、前進保持機構12が、接触体10の後面に連結されて後方に延びる連結支持材13,13と、各連結支持材13を保持して、制御装置60からの作動信号により作動されて、接触体10とともに連結支持材13を前進移動させる駆動源15と、を備えて構成されている。また、回動保持機構21が、前進保持機構12の後方側で、軸方向を左右方向に沿わせて配設させて、軸周り方向に回動可能な保持軸22、前進保持機構12の駆動源15を保持軸22に連結させる連結保持材25、及び、前進保持機構12の回転を規制するためのストッパ27,28を備えて構成されている。そのため、保持軸22以外の連結保持材25、連結支持材13や駆動源15の作動ロッド19、あるいは、ストッパ27,28を、塑性変形若しくは弾性変形する変形部として、接触体10により歩行者MU、MDを受け止めた状態での前進保持機構12の上方回転時若しくは下方回転時に、変形部を塑性変形若しくは弾性変形させて、歩行者MU、MDの運動エネルギーを低減させるようにしてもよい。
【0045】
また、第1実施形態の歩行者保護装置S1では、前進保持機構12の駆動源15が、可逆的に作動できるアクチュエータ16を使用し、そして、制御装置60が、前進保持機構12のアクチュエータ16を作動させて接触体10を前進移動させた後、一定時間経過しても、回動センサ63からの信号を入力しない場合に、歩行者の車両との衝突を回避したと判断して、接触体10を初期位置P0に復帰させるように、前進保持機構12のアクチュエータ16を作動させるように構成されている。そのため、制御装置60が、前進保持機構12のアクチュエータ16を作動させて接触体10を前進移動させた後、歩行者の車両との衝突を回避していれば、接触体10を初期位置P0に復帰させることができ、部品等を交換することなく、つぎの歩行者との衝突予測時に、再利用することができる。なお、第1実施形態では、歩行者の車両との衝突回避の判断を、回動センサ63からの信号の有無により行っているが、他に、実際の車両Vの歩行者との衝突を検知する衝突検知センサを、車両Vに搭載して、制御装置60が、衝突予測センサ61から衝突予測信号を入力して、一定時間経過しても、衝突検知センサから信号がない場合に、衝突回避と判断してもよい。
【0046】
さらに、第1実施形態の歩行者保護装置S1では、拘束体を、受止状態となる作動時に、膨張用ガスを流入させて膨らむ一つのエアバッグ30から構成している。また、前進保持機構12が、エアバッグ30と、エアバッグ30を突出可能な開口45,46を有してエアバッグ30を収納して接触体10の後面側に配置されるケース35と、を保持する構成としている。そして、この歩行者保護装置S1では、前進保持機構12の上方回転若しくは下方回転に連動させて、ケース35におけるエアバッグ30の突出する開口45,46を上方側若しくは下方側に向ける連動機構51を、配設している。そのため、第1実施形態では、前進保持機構12の上方回転若しくは下方回転する際に、連動機構51によって、ケース35におけるエアバッグ30の突出する開口45,46が上方側若しくは下方側に向き、所定の開口45,46からエアバッグ30を突出させて、車両Vの前部上側FU若しくは前部下側FDで膨らませることができて、使用するエアバッグ30を一つとして構成できることから、エアバッグ30を収納するケース35や、エアバッグ30に膨張用ガスを供給するガス供給機構32のインフレーター33も一つで済み、一層簡便に、歩行者保護装置S1を構成することができる。
【0047】
特に、第1実施形態では、ケース35の上面側と下面側とに、それぞれ、エアバッグ30を突出可能な開口45,46と、開き可能に各開口45,46を覆う上カバー48及び下カバー49と、を配設させている。そして、連動機構51が、ケース35の上面側と下面側との上カバー48と下カバー49とに対して、それぞれ、開き移動可能に連結される連結材52,53を設けて構成されている。これらの連結材52,53は、前進保持機構12の上方回転若しくは下方回転する際に対応する上カバー48と下カバー49との開き移動を可能に、各連結材52,53のカバーとの連結部位52a,53aから離れる端部52b,53bを、前進保持機構12の回転中心C0付近で、相互に上下で反転させた位置に、保持させて、配設されている。そのため、ケース35を保持した前進保持機構12の上方回転若しくは下方回転する際に、保持された端部52b,53bから連結部位52a,53aまでの連結材52,53自体の長さ寸法Lより、回転移動中のカバーへの連結部位52a,53aにおける端部52b,53bからの長さが、長く必要となるように、前進保持機構12やケース35とともに上カバー48,下カバー49が回転しようとすれば、その長くなる分、逆に、連結材52,53が、図6のA,Bに示すように、上カバー48や下カバー49を牽引する状態、すなわち、開口45,46を形成するように上カバー48や下カバー49を開き移動することとなる。すなわち、第1実施形態のような構成であれば、連結材52,53を備えて構成される連動機構51の機械的な動作で、前進保持機構12の回動に伴って、所定の連結材52,53の牽引による上カバー48や下カバー49の開き移動により、一つのエアバッグ30を収納するケース35におけるエアバッグ30の突出用の開口45,46を、上方側若しくは下方側に開口させることができて、その後の膨張用ガスの流入によって、エアバッグ30が、ケース35の所定の開口45,46から突出し、そして、車両Vの前部上側FU若しくは前部下側FDを覆うことができる。そのため、第1実施形態では、ケース35に収納された一つのエアバッグ30により、車両Vの前部上側FU若しくは前部下側FDを覆う構成の歩行者保護装置S1を、ケース35におけるエアバッグ30の突出用の開口45,46を開口させるための駆動源を別途設けずに、一層、簡便な機構で構成することができる。
【0048】
上記の作用・効果は、図12,13に示す第2実施形態の歩行者保護装置S2でも得ることができる。この第2実施形態では、ケース65が、接触体10に覆われるように接触体10の後方位置に配置された前端側に、エアバッグ30を突出可能な前端開口71を設けるとともに、前端開口71を上向き若しくは下向きに回転可能に前進保持機構12に保持されている。ケース65は、前端開口71を備えた直方体の箱形状として、左右の側壁66の前後方向の中間部位に、前進保持機構12のケース65の左右両側に配置された連結支持材13Aから延びる回動軸68が連結されて、前端開口71を上向き若しくは下向きに回転可能に前進保持機構12に保持されている。また、ケース65の左右の側壁66の後縁には、左右方向の外側に突出する支持ピン69が配設されている。
【0049】
なお、ケース65内に異物等の侵入がないように、折り畳まれたエアバッグ30と図示しないインフレーターとの保護のために、ケース65の前端開口71は、膨張するエアバッグ30に容易に破断可能とした保護カバーにより、塞がれている。
【0050】
また、第2実施形態では、前進保持機構12の連結支持材13が回動軸68を備え、駆動源15のアクチュエータ16Aが、連結支持材13Aと兼用の作動ロッド18Aを一つだけとして構成されている点を、第1実施形態と相違させ、さらに、他にケース65と連動機構73との構成を異ならせている点を除いて、他の構成の接触体10、変形部20、回動保持機構21、エアバッグ30、インフレーター33、制御装置60、衝突予測センサ61、及び、回動センサ63は、第1実施形態と同様に構成されている。
【0051】
第2実施形態の連動機構73は、支持材としてのガイドレール74を備えて構成されている。ガイドレール74は、ボディ1側に連結保持されるものであり、ケース65の左右両側におけるケース65の後部側における前進保持機構12に対する回転中心C1より後方側部位となる支持ピン69を、上下で挟むように支持する上レール部74aと下レール部74bとから構成されている。なお、回動軸68は、ガイドレール74の上レール部74aと下レール部74bとの隙間H1を挿通できる直径として、構成され、上レール部74aと下レール部74bとは、回動軸68の前後移動を妨げないように、連結支持材13付近では、上方と下方とから支持ピン69側に侵入するように配設されている。
【0052】
そして、この支持材としてのガイドレール74は、接触体10と前端開口71との間にエアバッグ30を突出可能な隙間H0を形成するように、回転時の前進保持機構12に対してケース65を相対回転可能に、ケース65の後部側部位の支持ピン69を位置規制するように、ケース65や回動軸68を前後に移動可能で、かつ、ケース65の支持ピン69を上下に移動不能に、配設されている。
【0053】
この第2実施形態でも、車両Vが歩行者と衝突しようとする場合、制御装置60が、衝突予測センサ61からの信号に基づいて、車両Vの歩行者との衝突を予測することから、制御装置60は、まず、図12の二点鎖線や図14,16のA,Bに示すように、前進保持機構12の各アクチュエータ16Aを作動させて、接触体10を初期位置P0から歩行者と接触可能な前進位置P1まで前進移動させる。そして、歩行者が接触体10に当たり、接触体10の上部10a側若しくは下部10b側への押圧力の大きさに対応して、図13のA,Bに示すように、前進保持機構12は、上方若しくは下方の一方側に回転する。
【0054】
この時、第2実施形態の歩行者保護装置S2では、図13のA,Bに示すように、ケース65を保持した前進保持機構12の上方回転若しくは下方回転する際に、ケース65が、支持材としてのガイドレール74によりケース65の後部側部位の支持ピン69を位置規制された状態として、前進保持機構12とともにケース65の前進保持機構12に対する回転中心C1を回転させることから、ケース65自体は、接触体10と前端開口71との間にエアバッグ30を突出可能な隙間H1を形成するように、回転時の前進保持機構12に対してケース65を相対回転させて、前端開口71をさらに上方側若しくは下方側に向けることとなる。すなわち、第2実施形態の歩行者保護装置S1でも、ガイドレール74を設けて構成される連動機構73の機械的な動作で、前進保持機構12の回動に伴って、支持材としてのガイドレール74の位置規制によるケース65の相対回転により、一つのエアバッグ30を収納するケース65の前端開口71を上方側若しくは下方側に向けて、接触体10との間に隙間H0を設けて開口させることができる。
【0055】
そして、前進保持機構12が上方回転若しくは下方回転すれば、制御装置60が、回動センサ63からの信号に基づいて、エアバッグ30を膨らませるようにインフレーター33を作動させて、エアバッグ30が膨らむ。その際、前端開口71の向けられた方向における接触体10との間の隙間H0が、上方側であれば、図15に示すように、エアバッグ30が、上向きの前端開口71から上方側に突出し、フードパネル7の前部7aの上面側で膨らんで、車両Vの前部上側FUに移動してくる歩行者MUを保護可能に受け止めることとなる。また、前端開口71の向けられた方向における接触体10との間の隙間H0が、下方側であれば、図17に示すように、エアバッグ30が、下向きの前端開口71から下方側に突出し、バンパ3の前面3a付近から路面Gまで膨らんで、車両Vの前部下側FDに移動してくる歩行者MDを保護可能に受け止めることとなる。
【0056】
したがって、この第2実施形態の歩行者保護装置S2でも、第1実施形態と同様な作用・効果を得ることができて、ケース65に収納された一つのエアバッグ30により、車両Vの前部上側FU若しくは前部下側FDを覆う構成の歩行者保護装置S2を、ケース65におけるエアバッグ30の突出用の開口(前端開口)71を開口させるための駆動源を別途設けずに、簡便な機構で構成することができる。
【0057】
勿論、この第2実施形態の歩行者保護装置S2でも、制御装置60が、前進保持機構12のアクチュエータ16Aを作動させて接触体10を前進移動させた後、一定時間経過しても、回動センサ63からの信号を入力しない場合に、歩行者の車両との衝突を回避したと判断して、接触体10を初期位置P0に復帰させるように、前進保持機構12のアクチュエータ16Aを作動させる。
【0058】
また、歩行者保護装置としては、エアバッグ等の拘束体を、車両の前部上側に配設される上側拘束体と車両の前部下側に配設される下側拘束体との二種類として配設してもよい。図18,19に示す第3実施形態の歩行者保護装置S3では、作動時、車両Vの前部上側FUで膨らむ上側拘束体としての上側エアバッグ77と、車両Vの前部下側FDで膨らむ下側拘束体としての下側エアバッグ81と、を設けて構成している。第3実施形態の場合、上側エアバッグ77は、車両Vの前部上側FUにおけるフードパネル7の前部7aに配設されたケース78に収納され、ガス供給機構としてのインフレーター79の作動により、図19のAに示すように、膨張用ガスを流入させて膨張し、そして、カバー80を押し開いて上方側へ突出し、車両Vの前部上側FUにおけるフードパネル7の前部7aの上面側を覆う。また、下側エアバッグ81は、車両Vの前部下側FDにおけるバンパ3の下部に配設されたケース82に収納され、ガス供給機構としてのインフレーター83の作動により、図19のBに示すように、膨張用ガスを流入させて膨張し、そして、カバー84を押し開いて下方側へ突出し、バンパ3の前面3a付近から路面Gまで膨らむこととなる。
【0059】
なお、第3実施形態の接触体10、前進保持機構12、変形部20、回動保持機構21、制御装置60、衝突予測センサ61、及び、回動センサ63は、第1実施形態と同一のものが使用されている。
【0060】
そして、この第3実施形態の歩行者保護装置S3の作動時では、車両Vが歩行者と衝突しようとする場合、制御装置60が、衝突予測センサ61からの信号に基づいて、車両Vの歩行者との衝突を予測することから、制御装置60は、まず、図18のA,Bに示すように、前進保持機構12の各アクチュエータ16を作動させて、接触体10を初期位置P0から歩行者と接触可能な前進位置P1まで前進移動させる。そして、歩行者が接触体10に当たり、接触体10の上部10a側若しくは下部10b側への押圧力の大きさに対応して、図19のA,Bに示すように、前進保持機構12は、上方若しくは下方の一方側に回転する。そして、制御装置60が、回動センサ63からの信号に基づき、上側エアバッグ77若しくは下側エアバッグ81に膨張用ガスを供給するインフレーター79,83を作動させる。すなわち、この第3実施形態の歩行者保護装置S3では、前進保持機構12の上方回転時に、下側エアバッグ81を膨らませずに、ケース78から突出させるように上側エアバッグ77を膨らませて、上側エアバッグ77が、車両Vの前部上側FUに移動してくる歩行者MUを保護可能に受け止めることとなる。また、前進保持機構12の下方回転時には、上側エアバッグ77を膨らませずに、ケース82から突出させるように下側エアバッグ81を膨らませて、下側エアバッグ81が、バンパ3の前面3a付近から路面Gまで膨らんで、車両Vの前部下側FDに移動してくる歩行者MDを保護可能に受け止めることとなる。
【0061】
この第3実施形態でも、車両Vの前部上側FUに移動してくる歩行者MU若しくは車両Vの前部下側FDに移動してくる歩行者MDを、選別して保護可能に拘束体としてのエアバッグ(上側・下側)77,81を作動させることから、拘束体を小さく構成できて、極力、軽量かつコンパクトに歩行者保護装置S3を構成することが可能となる。
【0062】
なお、車両の前部上側や前部下側に移動する歩行者を受け止めるための拘束体は、歩行者を保護可能に受け止めることができれば、膨張用ガスを流入させて収納部位から突出して膨らむエアバッグに限られるものではない。例えば、図20,21に示す第4実施形態の歩行者保護装置S4のように、車両Vの前部上側FUに移動する歩行者MUを受け止める拘束体として、塑性変形可能なフードパネル7Aを利用してもよい。この第4実施形態の歩行者保護装置S4では、フードパネル7Aの後端7bを上昇させるピストンシリンダタイプのアクチュエータ86を、フードパネル7Aの後端7bの左右両縁付近の下方に配置させている。このアクチュエータ86は、衝突回避時に復帰させる接触体10の前後移動用のアクチュータと相違し、接触体10に歩行者が接触した後に作動されるものであって、復帰を考慮していないことから、点火して作動用流体を発生させるマイクロガスジェネレータ等を駆動源として利用してもよい。なお、アクチュエータ86の作動時には、ピストンロッド86aが上昇し、前開き構造のフードパネル7Aの後端側のヒンジ機構8のシェアピン8aを破断し、ヒンジ機構8の一部を変形させて、フードパネル7Aの後端7bを上昇させることとなる。
【0063】
また、この第4実施形態の車両Vの前部上側FUに移動する歩行者の拘束体としては、第3実施形態の下側エアバッグ81が配設されている。
【0064】
そして、この歩行者保護装置S4では、図示しない前進保持機構の上方回転に伴う回動センサ(図示せず)の信号により、制御装置60が、アクチュエータ86を作動させて、フードパネル7Aの後端7bを上昇させることとなる。この時、エンジンルームER上方に、下方へ変形できる変形スペースを大きくさせて、フードパネル7Aを配置させることができ、歩行者は、フードパネル7Aを塑性変形させて、運動エネルギーを吸収されて、フードパネル7Aに受け止められることとなる。
【0065】
なお、この第4実施形態の歩行者保護装置S4では、制御装置60が、図示しない前進保持機構の上方回転に伴う回動センサ(図示せず)の信号により、フロントピラー88の前面を覆えるエアバッグ89を、収納させたケース90から突出させるように膨らませており、このエアバッグ89を、車両Vの前部上側FUに移動する歩行者の拘束体としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1実施形態の歩行者保護装置を搭載した車両の斜視図である。
【図2】第1実施形態の歩行者保護装置の前方側から見た概略斜視図である。
【図3】第1実施形態の歩行者保護装置の概略側面図である。
【図4】第1実施形態の歩行者保護装置の概略平面図である。
【図5】第1実施形態の歩行者保護装置の後方側から見た概略斜視図である。
【図6】第1実施形態の歩行者保護装置のケースの上面側の開口と下面側の開口とをそれぞれ開口させる状態を説明する図である。
【図7】第1実施形態の歩行者保護装置における接触体と前進保持機構との上方回転する状態を説明する図である。
【図8】第1実施形態の歩行者保護装置における車両の前部上側に移動する歩行者をエアバッグが受け止める状態を示す図である。
【図9】第1実施形態の歩行者保護装置における接触体と前進保持機構との下方回転する状態を説明する図である。
【図10】第1実施形態の歩行者保護装置における車両の前部下側に移動する歩行者をエアバッグが受け止める状態を示す図である。
【図11】第1実施形態の歩行者保護装置における歩行者の保護形態の異なる場合を説明する図である。
【図12】第2実施形態の歩行者保護装置を示す概略側面図である。
【図13】第2実施形態の歩行者保護装置におけるケースの前端開口の上方側へ向く状態と下方側に向く状態とを説明する図である。
【図14】第2実施形態の歩行者保護装置における接触体と前進保持機構との上方回転する状態を説明する図である。
【図15】第2実施形態の歩行者保護装置における車両の前部上側に移動する歩行者をエアバッグが受け止める状態を示す図である。
【図16】第2実施形態の歩行者保護装置における接触体と前進保持機構との下方回転する状態を説明する図である。
【図17】第2実施形態の歩行者保護装置における車両の前部下側に移動する歩行者をエアバッグが受け止める状態を示す図である。
【図18】第3実施形態の歩行者保護装置を示す側面図であり、接触体の初期位置と前進位置に移動した状態とを示す。
【図19】第3実施形態の歩行者保護装置における車両の前部上側と前部下側とに移動する歩行者をそれぞれ受け止める状態を説明する図である。
【図20】第4実施形態の歩行者保護装置における車両の前部上側に移動する歩行者を受け止める拘束体を説明する図である。
【図21】第4実施形態の歩行者保護装置の搭載された車両の斜視図である。
【符号の説明】
【0067】
7A…(拘束体)フードパネル、
10…接触体、
10a…上部、
10b…下部、
12…前進保持機構、
13,13A…連結支持材、
15…駆動源、
20…変形部、
21…回動保持機構、
22…保持軸、
24…連結保持材、
30…(拘束体)エアバッグ、
35,65…ケース、
45,46…開口、
48…(上)カバー、
49…(下)カバー、
51,73…連動機構、
52,53…連結材、
60…制御装置、
61…衝突予測センサ、
63…回動センサ、
69…(ケースの後方側部位)支持ピン、
71…前端開口、
74…(支持材)ガイドレール、
P0…(接触体の)初期位置、
P1…(接触体の)前進位置、
V…車両、
FU…(車両の)前部上側、
FD…(車両の)前部下側、
MU…(車両の前部上側に移動する)歩行者、
MD…(車両の前部下側に移動する)歩行者、
S1,S2,S3,S4…歩行者保護装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部に搭載され、歩行者の車両と衝突する際に作動されて、車両の前部上側に移動する歩行者と車両の前部下側に移動する歩行者とにそれぞれ対応して保護可能に受け止める拘束体を、受止状態とするように配設させる構成の歩行者保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歩行者保護装置としては、歩行者を受け止める拘束体に、膨張用ガスを流入させて膨らむエアバッグを使用したり、あるいは、塑性変形して歩行者の運動エネルギーを吸収するものがあった。エアバッグを利用する歩行者保護装置では、車両の前部側上面に膨らんだエアバッグを配設させたり(例えば、特許文献1参照)、車両の前面側で、路面から大人の胸部付近までを受け止め可能な大きなエアバッグを配設させるものがあった(例えば、特許文献2参照)。また、塑性変形する拘束体を利用する歩行者保護装置では、車両の前部側上面にフードの前縁部位を立ち上げたり(例えば、特許文献3参照)、車両の前部側のバンパから上方に延びるように拘束体を立ち上げるものがあった(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2000−219094号公報
【特許文献2】特開2003−341451号公報
【特許文献3】特開2006−36120号公報
【特許文献4】特開2007−276503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、例えば、歩行者が小柄な子供であれば、衝突時に車両と路面との間に侵入する虞れがあり、従来の特許文献1,3,4の歩行者保護装置では、路面との間を塞ぐ部位を備えないことから、この点に課題があった。一方、特許文献2の歩行者保護装置では、エアバッグが、路面との間を塞ぐエリアを備えているものの、大人の胸部付近まで保護可能に上部側を高く伸ばしており、エアバッグの容積が大きくなって、膨張完了までの時間がかかり、また、エアバッグに膨張用ガスを供給するインフレーター等が大型化してしまい、軽量化の点に課題があった。
【0004】
これらの対処のため、歩行者の体格を検知するセンサを利用し、歩行者が大柄な場合には、車両との衝突時に、車両の上面側に乗り上げてくることを考慮し、車両の前部の上面側でエアバッグ等の拘束体を配置させ、また、歩行者が小柄な子供の場合には、車両との衝突時に、車両の下面側の路面との間に侵入し易いことを考慮し、車両の前部の下面側でエアバッグ等の拘束体を配置させることが考えられる。
【0005】
しかし、このような構成では、歩行者の体格が大柄であっても、その歩行者が車両の前部下側に侵入したり、あるいは、その逆に、歩行者の体格が小柄であっても、その歩行者が車両の前部上側に移動する場合の衝突形態に対しては、対処し難い。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、簡便な構成として、車両の前部上側若しくは前部下側に移動する歩行者の衝突形態に対応して、歩行者を的確に保護可能な歩行者保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る歩行者保護装置は、車両の前部に搭載され、歩行者の車両と衝突する際に作動されて、車両の前部上側に移動する歩行者と車両の前部下側に移動する歩行者とにそれぞれ対応して保護可能に受け止める拘束体を、受止状態とするように配設させる構成の歩行者保護装置であって、
作動時、車両の前面に収納された初期位置から前方側に突出されて、歩行者と接触する接触体と、
作動時に、接触体を前方側へ突出可能として、接触体を後側から保持する前進保持機構と、
前進移動した接触体の歩行者との接触時に、接触体の上部側若しくは下部側への押圧力の大きさに対応させて、前進保持機構を上方若しくは下方の一方側に回転させるように、前進保持機構の後部側を保持する回動保持機構と、
車両に配設されて、歩行者の車両との衝突を予測する衝突予測センサと、
前進保持機構の上下の回動を検知する回動センサと、
衝突予測センサ及び回動センサからの信号に基づいて、前進保持機構と拘束体との作動を制御する制御装置と、
を備えて構成され、
制御装置が、
衝突予測センサからの信号に基づいて、歩行者の車両との衝突を予測した際に、前進保持機構を作動させて接触体を前進移動させ、
前進移動した接触体の歩行者との接触時における前進保持機構の上方回転若しくは下方回転する際の回動センサの信号に基づいて、車両の前部上側に移動する歩行者と車両の前部下側に移動する歩行者とにそれぞれ対応させるように、拘束体の作動を制御していることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る歩行者保護装置では、制御装置が、衝突予測センサからの信号に基づいて、車両の歩行者との衝突を予測した際に、前進保持機構を作動させて、接触体を初期位置から歩行者と接触可能な前進位置まで前進移動させる。そして、歩行者が接触体に当たり、接触体の上部側若しくは下部側への押圧力の大きさに対応して、前進保持機構は、上方若しくは下方の一方側に回転する。
【0009】
そして、前進保持機構が上方回転若しくは下方回転すれば、制御装置が、回動センサからの信号に基づいて、拘束体を作動させて、車両の前部上側若しくは前部下側に移動してくる歩行者を保護可能に、拘束体が歩行者を受け止めることとなる。
【0010】
すなわち、本発明に係る歩行者保護装置では、機械的に動作する前進保持機構の上方回転若しくは下方回転によって、歩行者が車両の前部上側に移動するか、若しくは、歩行者が車両の前部下側に移動するかを判断でき、そして、歩行者の実際の車両との衝突形態に応じて、拘束体を、的確に、歩行者の受止状態とするように配設することができる。
【0011】
したがって、本発明に係る歩行者保護装置では、簡便な構成として、車両の前部上側若しくは前部下側に移動する歩行者の衝突形態に対応して、歩行者を的確に保護することができる。
【0012】
また、本発明に係る歩行者保護装置では、車両の前部上側に移動してくる歩行者若しくは車両の前部下側に移動してくる歩行者を、選別して保護可能に拘束体を作動させることから、拘束体を小さく構成できて、極力、軽量かつコンパクトに歩行者保護装置を構成することが可能となる。
【0013】
そして、本発明に係る歩行者保護装置では、前進保持機構を、
接触体の後面に連結されて後方に延びる連結支持材と、
連結支持材を保持して、制御装置からの作動信号により作動されて、接触体とともに連結支持材を前進移動させる駆動源と、
を設けて構成し、
回動保持機構を、
前進保持機構の後方側で、軸方向を左右方向に沿わせて配設させて、軸周り方向に回動可能な保持軸と、
前進保持機構の駆動源を保持軸に連結させる連結保持材と、
を設けて構成し、
前進保持機構と回動保持機構との少なくとも一部に、前進移動した接触体の歩行者との接触時における前進保持機構の上下に回動する際の歩行者の運動エネルギーを吸収可能に変形する変形部を、配設することが望ましい。
【0014】
このような構成では、前進保持機構と回動保持機構との少なくとも一部に配設した変形部が、接触体により歩行者を受け止めた状態での前進保持機構の上方回転時若しくは下方回転時に、塑性変形若しくは弾性変形して、歩行者の運動エネルギーを低減させることができ、歩行者のその後の拘束体との干渉をソフトにすることができ、歩行者に与える拘束体の反力を抑制することができる。
【0015】
また、本発明に係る歩行者保護装置では、制御装置が、前進保持機構を作動させて接触体を前進移動させた後、歩行者の車両との衝突の回避時に、接触体を初期位置に復帰させるように、前進保持機構を作動させるように構成されていれば、部品等を交換することなく、つぎの歩行者との衝突予測時に、再利用することができる。なお、歩行者の車両との衝突の回避は、制御装置が、衝突予測センサから衝突予測信号を入力して、一定時間経過しても、前進保持機構の上下の回動を検知する回動センサからの信号を入力しない場合に、衝突回避と判断する。あるいは、実際の車両の歩行者との衝突を検知する衝突検知センサを、車両に搭載して、制御装置が、衝突予測センサから衝突予測信号を入力して、一定時間経過しても、衝突検知センサから信号がない場合に、衝突回避と判断してもよい。
【0016】
さらに、本発明に係る歩行者保護装置では、車両の前部上側若しくは前部下側に移動する歩行者を受け止める拘束体としては、受止状態となる作動時に、膨張用ガスを流入させて収納部位から突出して膨らむエアバッグが例示できる。この場合には、拘束体としてのエアバッグが、歩行者をクッション性良く受け止めることができる。
【0017】
また、車両の前部上側に移動する歩行者を受け止める拘束体としては、フードパネルとして、受止状態となる作動時に、上昇移動させるように構成してもよい。この場合には、エンジンルーム上方に、下方へ変形できる変形スペースを大きくさせて、フードパネルを配置させることができ、歩行者は、フードパネルを塑性変形させて、運動エネルギーを吸収されて、フードパネルに受け止められることとなる。
【0018】
そしてまた、本発明に係る歩行者保護装置では、拘束体を、受止状態となる作動時に、膨張用ガスを流入させて膨らむ一つのエアバッグから構成し、
前進保持機構を、エアバッグと、エアバッグを突出可能な開口を有してエアバッグを収納して接触体の後面側に配置されるケースと、を保持させるように構成し、
前進保持機構の上方回転若しくは下方回転に連動させて、ケースにおけるエアバッグの突出する開口を上方側若しくは下方側に向ける連動機構を、配設し、
一つのエアバッグを、連動機構によるケースの開口の向きに応じて、作動時、車両の前部上側若しくは前部下側に移動する歩行者に対応して膨らませるように、配設してもよい。
【0019】
このような構成では、前進保持機構の上方回転若しくは下方回転する際に、連動機構によって、ケースにおけるエアバッグの突出する開口が上方側若しくは下方側に向き、所定の開口からエアバッグを突出させて、車両の前部上側若しくは前部下側で膨らませることができて、使用するエアバッグを一つとして構成できることから、エアバッグを収納するケースや、エアバッグに膨張用ガスを供給するガス供給機構も一つで済み、一層簡便に、歩行者保護装置を構成することができる。
【0020】
この場合、ケースは、上面側と下面側とに、それぞれ、エアバッグを突出可能な開口と、開き可能に各開口を覆うカバーと、を配設させ、
連動機構は、ケースの上面側と下面側との各カバーに対して、それぞれ、開き移動可能に連結される連結材を設けて構成して、
前進保持機構の上方回転若しくは下方回転する際に対応するカバーの開き移動を可能に、各連結材のカバーとの連結部位から離れる端部を、前進保持機構の回転中心付近で、相互に上下で反転させた位置に、保持させて、各連結材を配設させてもよい。
【0021】
このように構成されていれば、ケースを保持した前進保持機構の上方回転若しくは下方回転する際に、保持された端部からカバーへの連結部位までの連結材自体の長さより、回転移動中のカバーへの連結部位における端部からの長さが、長く必要となるように、前進保持機構やケースとともにカバーが回転しようとすれば、その長くなる分、逆に、連結材が、カバーを牽引する状態、すなわち、開口を形成するようにカバーを開き移動することとなる。すなわち、上記のような構成であれば、連結材を備えて構成される連動機構の機械的な動作で、前進保持機構の回動に伴って、所定の連結材の牽引によるカバーの開き移動により、一つのエアバッグを収納するケースにおけるエアバッグ突出用の開口を、上方側若しくは下方側に開口させることができて、その後の膨張用ガスの流入によって、エアバッグが、ケースの所定の開口から突出し、そして、車両の前部上側若しくは前部下側を覆うことができる。そのため、上記のような構成では、ケースに収納された一つのエアバッグにより、車両の前部上側若しくは前部下側を覆う構成の歩行者保護装置を、ケースにおけるエアバッグ突出用の開口を開口させるための駆動源を別途設けずに、一層、簡便な機構で構成することができる。
【0022】
同様に、ケースとして、接触体の後方側に配置された前端側に、エアバッグを突出可能な前端開口を設けるとともに、前端開口を上向き若しくは下向きに回転可能に前進保持機構に保持させ、
連動機構を、ケースにおける前進保持機構に対する回転中心より後方側部位を支持する支持材を設けて、構成し、
接触体と前端開口との間にエアバッグを突出可能な隙間を形成するように、回転時の前進保持機構に対してケースを相対回転可能に、支持材を、ケースの後部側部位を位置規制するように、ケースを前後に移動可能で、かつ、ケースの後部側部位を上下に移動不能に、配設させてもよい。
【0023】
このような構成でも、ケースを保持した前進保持機構の上方回転若しくは下方回転する際に、ケースが、支持材によりケースの後部側部位を位置規制された状態として、前進保持機構とともにケースの前進保持機構に対する回転中心を回転させることから、ケース自体は、接触体と前端開口との間にエアバッグを突出可能な隙間を形成するように、回転時の前進保持機構に対してケースを相対回転させて、前端開口をさらに上方側若しくは下方側に向けることとなる。すなわち、上記のような構成であれば、支持材を設けて構成される連動機構の機械的な動作で、前進保持機構の回動に伴って、支持材の位置規制によるケースの相対回転により、一つのエアバッグを収納するケースの前端開口を上方側若しくは下方側に向けて、接触体との間に隙間を設けて開口させることができる。そして、その後の膨張用ガスの流入によって、エアバッグが、ケースの前端開口から突出し、そして、車両の前部上側若しくは前部下側を覆うことができる。そのため、上記のような構成でも、ケースに収納された一つのエアバッグにより、車両の前部上側若しくは前部下側を覆う構成の歩行者保護装置を、ケースにおけるエアバッグ突出用の開口を開口させるための駆動源を別途設けずに、一層、簡便な機構で構成することができる。
【0024】
勿論、上記の点を考慮しなければ、拘束体を、車両の前部上側に配設される上側拘束体と車両の前部下側に配設される下側拘束体との二種類として配設し、
制御装置が、回動センサからの信号に基づき、上側拘束体若しくは下側拘束体を作動させて、前進保持機構の上方回転時に、下側拘束体を作動させずに、上側拘束体を、車両の前部上側を移動してくる歩行者の受止状態となるように、作動させ、前進保持機構の下方回転時に、上側拘束体を作動させずに、下側拘束体を、車両の前部下側を移動してくる歩行者の受止状態となるように、作動させてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明すると、第1実施形態の歩行者保護装置S1は、図1,2に示すように、車両Vの前部FPにおけるフロントグリル(以下、単にグリルとする)5の部位に搭載されている。なお、本明細書では、前後の方向は、車両Vの前後方向に沿う方向に対応し、左右の方向は、車両の後方側から前方側を見た際の左右の方向に対応している。
【0026】
第1実施形態の歩行者保護装置S1は、図1,2に示すように、接触体10、前進保持機構12、回動保持機構21、拘束体としてのエアバッグ30、エアバッグ30に膨張用ガスを供給するガス供給機構32、エアバッグ30を収納するケース35、及び、制御装置60、を備えて構成されている。
【0027】
接触体10は、図2〜5に示すように、車両Vのグリル5の前面に収納された湾曲した板状として、収納された初期位置P0から前進位置P1まで前方側に突出されて、歩行者を受け止めるように歩行者に接触(当接)することとなる。そしてさらに、接触体10は、歩行者と接触状態に応じて、上昇位置PU(図7のB、図8参照)や下降位置PD(図9のB、図10参照)に、前進保持機構12の上方回転や下方回転に伴って移動することとなる(図1参照)。
【0028】
前進保持機構12は、作動時に、接触体10を前方側へ突出可能として、接触体10を後側から保持するものであり、連結支持材13と駆動源15とを備えて構成されている。連結支持材13は、接触体10の左右両縁付近の後面に連結されて後方に延びるように、二本配設されている。駆動源15は、各連結支持材13を保持して、制御装置60からの作動信号により作動されて、接触体10とともに連結支持材13を前進移動させるものである。第1実施形態の場合、駆動源15は、可逆動作可能なものであり、水、油、空気等を作動用流体として、それらの水圧、油圧、エア圧等を利用したピストンシリンダタイプのアクチュエータ16として、作動時、ハウジング17から二段の作動ロッド18,19を突出させる構成としている。そして、第1実施形態の場合、先端の作動ロッド19を連結支持材13と兼用としている。
【0029】
回動保持機構21は、図2〜5に示すように、前進移動した接触体10の歩行者との接触時に、接触体10の上部10a側若しくは下部10b側への押圧力の大きさに対応させて、前進保持機構12を上方若しくは下方の一方側に回転させるように、前進保持機構12の後部側を保持するものであり、保持軸22、連結保持材25、及び、ストッパ27,28を備えて構成されている。保持軸22は、前進保持機構12の後方側で、軸方向を左右方向に沿わせて配設されて、軸周り方向に回動可能としている。
【0030】
第1実施形態の場合、保持軸22は、前進保持機構12の各アクチュエータ16のハウジング17を貫通して、左右両側の端部22aを支持板23に固定させている(図4参照)。支持板23は、車両のボディ1におけるサイドメンバ等の構造材に連結固定されている。そして、第1実施形態の場合、保持軸22が、前進保持機構12の上方回転時若しくは下方回転時に、ねじり塑性変形する変形部20を構成している。すなわち、この保持軸22は、鋼等の金属材から形成され、前進移動した接触体10の歩行者との接触時における前進保持機構12の上下に回動する際に、ねじり塑性変形する変形部20として、歩行者の運動エネルギーを吸収する。
【0031】
連結保持材25は、各アクチュエータ16のハウジング17に設けられて保持軸22を挿通させている円筒状のスリーブ17aを、保持軸22に固定するねじ材から構成されている。この連結保持材25は、締め付け時に保持軸22に先端を当接させるように、スリーブ17aに螺合させたり、あるいは、スリーブ17aを貫通させて、保持軸22自体に螺合させてもよい。そして、連結保持材25をスリーブ17aを貫通させて保持軸22自体に螺合させる構造の場合には、連結保持材25を、変形部を構成可能なシェアピンとして利用し、前進保持機構12の上方回転時若しくは下方回転時に破断させて、アクチュエータ16のハウジング17とともに、スリーブ17aを保持軸22周りで回転させるように構成してもよい。
【0032】
なお、ハウジング17の後端側に当接して所定以上の前進保持機構12の回転を規制できるように、ストッパ27,28は、保持軸22の後方側の上下に配設されている。
【0033】
エアバッグ30を収納するケース35は、図2〜6に示すように、エアバッグ30を突出可能な開口45,46(図6,8,10参照)を有して、接触体10の後面側に配置されている。第1実施形態のケース35は、上下で対向する上壁36及び下壁37、左右の側壁38,38、前後で対向する前壁39及び後壁40、を備えた略直方体の箱形状として、上壁36と下壁37との部位に、エアバッグ30の突出用の上向きの開口45と下向きの開口46とが配設されることとなる。すなわち、第1実施形態の場合には、上壁36自体が、開口45を開口させるカバー(上カバー)48とし、下壁37自体が、開口46を開口させるカバー(下カバー)49として、上カバー48と下カバー49とが、それぞれ、開口45,46を開口させるように連動機構51に連結されている。上カバー48と下カバー49とは、開口45,46を閉じている際に、側壁38や前壁39から延びる係止爪42,43により係止されて、ケース35から上下に離脱せず、後方への牽引に伴って、スライド移動して、開口45,46を開口させるように構成されている。
【0034】
連動機構51は、図2〜5に示すように、前進保持機構12の上方回転若しくは下方回転に連動させて、ケース35におけるエアバッグ30の突出する開口45,46を上方側若しくは下方側に向けて開口させるものである。そして、第1実施形態の場合、連動機構51は、二本の連結材52,53を備えて構成されている。各連結材52,53は、可撓性を有したワイヤ等の紐材から形成され、ケース35の上面側と下面側との上カバー48と下カバー49とに対して、それぞれ、開き移動可能に、前端の連結部位52a,53aを後縁48a,49aに連結させている。そして、各連結材52,53は、連結部位52a,53aから離れる後端側の端部52b,53bを、前進保持機構12の回転中心(保持軸22の中心)C0付近で、相互に上下で反転させた位置に配置された固定材55,56に保持させて、配設されている。各固定材55,56は、ボディ1側に連結固定されている。そして、各連結材52,53の連結部位52a,53aから端部52b,53bまでの長さ寸法Lは、ケース35が、前進保持機構12のアクチュエータ16の作動に伴って、前進移動した際に、伸長した状態となるように設定されている(図7のB参照)。そして、前進保持機構12が上方回転した際には、上カバー48の後縁48aを配置させていた後壁40の上端40a付近と固定材55との間の距離が、長さ寸法Lより長くなることから、連結材52が、上カバー48を開き移動するように後方へ牽引することとなる(図6のA参照)。また、前進保持機構12が下方回転した際には、下カバー49の後縁49aを配置させていた後壁40の下端40b付近と固定材56との間の距離が、長さ寸法Lより長くなることから、連結材53が、下カバー49を開き移動するように後方へ牽引することとなる(図6のB参照)。なお、連結材52,53の牽引量では、ケース35の上下の開口45,46の全域を開口できないものの、エアバッグ30が膨らめば、その膨らむ力により、上カバー48や下カバー49が後方側へ押されて、開口45,46の全域が開口されることとなる(図8,10参照)。
【0035】
そして、ケース35の内部には、図2,4に示すように、エアバッグ30とガス供給機構32としてのインフレーター33とが収納されている。エアバッグ30は、内部にインフレーター33を収納している。そして、インフレーター33は、所定の図示しない取付ボルトをエアバッグ30を貫通させて、ケース35の後壁40に取り付けており、その際、共締めして、エアバッグ30もケース35の後壁40に取り付けている。
【0036】
制御装置60は、衝突予測センサ61(図1参照)及び回動センサ63(図3参照)からの信号に基づいて、前進保持機構12のアクチュエータ16とインフレーター33との作動を制御することとなる。衝突予測センサ61は、歩行者の車両Vとの衝突を予測可能な超音波やレーダ等を利用して構成され、バンパ3の複数個所に配設されている。回動センサ63は、前進保持機構12の上下の回動を検知するものであり、第1実施形態の場合、ストッパ27,28の部位に配置されて、ハウジング17との接触時にオンされるマイクロスイッチ等から形成されている。なお、回動センサ63としては、保持軸22周りに配置させて、保持軸22自体の回動を検知可能な接触式や光学式等のものを利用してもよい。
【0037】
そして、この制御装置60は、衝突予測センサ61からの信号に基づいて、歩行者の車両Vとの衝突を予測した際に、前進保持機構12の各アクチュエータ16を作動させて接触体10を前進移動させ、その後、前進移動した接触体10の歩行者との接触時における前進保持機構12の上方回転若しくは下方回転する際の回動センサ63の信号に基づいて、拘束体としてのエアバッグ30を膨らませるように、インフレーター33を作動させる。そして、制御装置60は、各アクチュエータ16の作動後、一定時間経過しても、回動センサ63からの前進保持機構12の回転信号が無い場合には、歩行者の車両Vとの衝突が回避されたと判断して、接触体10を初期位置P0に復帰させるように、アクチュエータ16を作動させることとなる。
【0038】
すなわち、この第1実施形態の歩行者保護装置S1の作動について説明すると、車両Vが歩行者と衝突しようとする場合、制御装置60が、衝突予測センサ61からの信号に基づいて、車両Vの歩行者との衝突を予測することから、制御装置60は、まず、図3,4の二点鎖線に示すように、前進保持機構12の各アクチュエータ16を作動させて、接触体10を初期位置P0から歩行者と接触可能な前進位置P1まで前進移動させる。そして、歩行者が接触体10に当たり、接触体10の上部10a側若しくは下部10b側への押圧力の大きさに対応して、図7のA,Bや図9のA,Bに示すように、前進保持機構12は、上方若しくは下方の一方側に回転する。
【0039】
この時、第1実施形態の歩行者保護装置S1では、図6のA,Bに示すように、ケース35に連結された連動機構51により、前進保持機構12が上方回転した際には、上カバー48の後縁48aを配置させていた後壁40の上端40a付近と固定材55との間の距離が、長さ寸法Lより長くなることから、連結材52が、上カバー48を開き移動するように後方へ牽引することとなる。また、前進保持機構12が下方回転した際には、下カバー49の後縁49aを配置させていた後壁40の下端40b付近と固定材56との間の距離が、長さ寸法Lより長くなることから、連結材53が、下カバー49を開き移動するように後方へ牽引することとなる。
【0040】
そして、前進保持機構12が上方回転若しくは下方回転すれば、制御装置60が、回動センサ63からの信号に基づいて、エアバッグ30を膨らませるようにインフレーター33を作動させる。そのため、エアバッグ30が膨らめば、その膨らむ力により、上カバー48や下カバー49が後方側へ押されて、開口45,46の全域が開口されることとなる(図8,10参照)。そして、ケース35の下方側の開口46が閉じた状態で、ケース35の上方側の開口45が開口すれば、図8に示すように、エアバッグ30が、開口45から上方側へ突出し、フードパネル7の前部7aの上面側で膨らんで、車両Vの前部上側FUに移動してくる歩行者MUを保護可能に受け止めることとなる。また、ケース35の上方側の開口45が閉じた状態で、ケース35の下方側の開口46が開口すれば、図10に示すように、エアバッグ30が、開口46から下方側へ突出し、バンパ3の前面3a付近から路面Gまで膨らんで、車両Vの前部下側FDに移動してくる歩行者MDを保護可能に受け止めることとなる。
【0041】
すなわち、第1実施形態の歩行者保護装置S1では、機械的に動作する前進保持機構12の上方回転若しくは下方回転によって、歩行者MUが車両Vの前部上側FUに移動するか、若しくは、歩行者MDが車両Vの前部下側FDに移動するかを判断でき、そして、歩行者MU,MDの実際の車両Vとの衝突形態に応じて、拘束体としてのエアバッグ30を、的確に、歩行者MU,MDの受止状態に膨らませて配設することができる。付言すれば、通常、歩行者MAが大柄な場合には、図7,8に示すように、車両Vとの衝突時に、車両Vの前部上側FUに乗り上げてくる場合が多く、また、歩行者MCが小柄な子供の場合には、図9,10に示すように、車両との衝突時に、車両Vの前部下側FDの路面Gとの間に侵入し易い場合が多い。しかし、第1実施形態の場合には、図11のAに示すように、歩行者MDの体格が大柄であって、その歩行者MA,MDが車両Vの前部下側FDに侵入しても、あるいは、その逆に、歩行者MCの体格が小柄であって、その歩行者MC、MUが車両Vの前部上側FUに移動する場合であっても、それらの衝突形態に対応して、拘束体としてのエアバッグ30を、的確に、歩行者MU,MDの受止状態に膨らませて配設することができる。
【0042】
したがって、第1実施形態の歩行者保護装置S1では、簡便な構成として、車両Vの前部上側FU若しくは前部下側FDに移動する歩行者MU,MDの衝突形態に対応して、歩行者MU,MDを的確に保護することができる。
【0043】
そしてまた、第1実施形態の歩行者保護装置S1では、前進保持機構12が上方回転若しくは下方回転した際、変形部20としての保持軸22が、ねじり塑性変形することから、歩行者MU,MDの運動エネルギーを低減させることができ、歩行者MU,MDのその後の拘束体としてのエアバッグ30との干渉をソフトにすることができ、歩行者MU,MDに与えるエアバッグ30の反力を抑制することができる。
【0044】
なお、第1実施形態の歩行者保護装置S1では、前進保持機構12が、接触体10の後面に連結されて後方に延びる連結支持材13,13と、各連結支持材13を保持して、制御装置60からの作動信号により作動されて、接触体10とともに連結支持材13を前進移動させる駆動源15と、を備えて構成されている。また、回動保持機構21が、前進保持機構12の後方側で、軸方向を左右方向に沿わせて配設させて、軸周り方向に回動可能な保持軸22、前進保持機構12の駆動源15を保持軸22に連結させる連結保持材25、及び、前進保持機構12の回転を規制するためのストッパ27,28を備えて構成されている。そのため、保持軸22以外の連結保持材25、連結支持材13や駆動源15の作動ロッド19、あるいは、ストッパ27,28を、塑性変形若しくは弾性変形する変形部として、接触体10により歩行者MU、MDを受け止めた状態での前進保持機構12の上方回転時若しくは下方回転時に、変形部を塑性変形若しくは弾性変形させて、歩行者MU、MDの運動エネルギーを低減させるようにしてもよい。
【0045】
また、第1実施形態の歩行者保護装置S1では、前進保持機構12の駆動源15が、可逆的に作動できるアクチュエータ16を使用し、そして、制御装置60が、前進保持機構12のアクチュエータ16を作動させて接触体10を前進移動させた後、一定時間経過しても、回動センサ63からの信号を入力しない場合に、歩行者の車両との衝突を回避したと判断して、接触体10を初期位置P0に復帰させるように、前進保持機構12のアクチュエータ16を作動させるように構成されている。そのため、制御装置60が、前進保持機構12のアクチュエータ16を作動させて接触体10を前進移動させた後、歩行者の車両との衝突を回避していれば、接触体10を初期位置P0に復帰させることができ、部品等を交換することなく、つぎの歩行者との衝突予測時に、再利用することができる。なお、第1実施形態では、歩行者の車両との衝突回避の判断を、回動センサ63からの信号の有無により行っているが、他に、実際の車両Vの歩行者との衝突を検知する衝突検知センサを、車両Vに搭載して、制御装置60が、衝突予測センサ61から衝突予測信号を入力して、一定時間経過しても、衝突検知センサから信号がない場合に、衝突回避と判断してもよい。
【0046】
さらに、第1実施形態の歩行者保護装置S1では、拘束体を、受止状態となる作動時に、膨張用ガスを流入させて膨らむ一つのエアバッグ30から構成している。また、前進保持機構12が、エアバッグ30と、エアバッグ30を突出可能な開口45,46を有してエアバッグ30を収納して接触体10の後面側に配置されるケース35と、を保持する構成としている。そして、この歩行者保護装置S1では、前進保持機構12の上方回転若しくは下方回転に連動させて、ケース35におけるエアバッグ30の突出する開口45,46を上方側若しくは下方側に向ける連動機構51を、配設している。そのため、第1実施形態では、前進保持機構12の上方回転若しくは下方回転する際に、連動機構51によって、ケース35におけるエアバッグ30の突出する開口45,46が上方側若しくは下方側に向き、所定の開口45,46からエアバッグ30を突出させて、車両Vの前部上側FU若しくは前部下側FDで膨らませることができて、使用するエアバッグ30を一つとして構成できることから、エアバッグ30を収納するケース35や、エアバッグ30に膨張用ガスを供給するガス供給機構32のインフレーター33も一つで済み、一層簡便に、歩行者保護装置S1を構成することができる。
【0047】
特に、第1実施形態では、ケース35の上面側と下面側とに、それぞれ、エアバッグ30を突出可能な開口45,46と、開き可能に各開口45,46を覆う上カバー48及び下カバー49と、を配設させている。そして、連動機構51が、ケース35の上面側と下面側との上カバー48と下カバー49とに対して、それぞれ、開き移動可能に連結される連結材52,53を設けて構成されている。これらの連結材52,53は、前進保持機構12の上方回転若しくは下方回転する際に対応する上カバー48と下カバー49との開き移動を可能に、各連結材52,53のカバーとの連結部位52a,53aから離れる端部52b,53bを、前進保持機構12の回転中心C0付近で、相互に上下で反転させた位置に、保持させて、配設されている。そのため、ケース35を保持した前進保持機構12の上方回転若しくは下方回転する際に、保持された端部52b,53bから連結部位52a,53aまでの連結材52,53自体の長さ寸法Lより、回転移動中のカバーへの連結部位52a,53aにおける端部52b,53bからの長さが、長く必要となるように、前進保持機構12やケース35とともに上カバー48,下カバー49が回転しようとすれば、その長くなる分、逆に、連結材52,53が、図6のA,Bに示すように、上カバー48や下カバー49を牽引する状態、すなわち、開口45,46を形成するように上カバー48や下カバー49を開き移動することとなる。すなわち、第1実施形態のような構成であれば、連結材52,53を備えて構成される連動機構51の機械的な動作で、前進保持機構12の回動に伴って、所定の連結材52,53の牽引による上カバー48や下カバー49の開き移動により、一つのエアバッグ30を収納するケース35におけるエアバッグ30の突出用の開口45,46を、上方側若しくは下方側に開口させることができて、その後の膨張用ガスの流入によって、エアバッグ30が、ケース35の所定の開口45,46から突出し、そして、車両Vの前部上側FU若しくは前部下側FDを覆うことができる。そのため、第1実施形態では、ケース35に収納された一つのエアバッグ30により、車両Vの前部上側FU若しくは前部下側FDを覆う構成の歩行者保護装置S1を、ケース35におけるエアバッグ30の突出用の開口45,46を開口させるための駆動源を別途設けずに、一層、簡便な機構で構成することができる。
【0048】
上記の作用・効果は、図12,13に示す第2実施形態の歩行者保護装置S2でも得ることができる。この第2実施形態では、ケース65が、接触体10に覆われるように接触体10の後方位置に配置された前端側に、エアバッグ30を突出可能な前端開口71を設けるとともに、前端開口71を上向き若しくは下向きに回転可能に前進保持機構12に保持されている。ケース65は、前端開口71を備えた直方体の箱形状として、左右の側壁66の前後方向の中間部位に、前進保持機構12のケース65の左右両側に配置された連結支持材13Aから延びる回動軸68が連結されて、前端開口71を上向き若しくは下向きに回転可能に前進保持機構12に保持されている。また、ケース65の左右の側壁66の後縁には、左右方向の外側に突出する支持ピン69が配設されている。
【0049】
なお、ケース65内に異物等の侵入がないように、折り畳まれたエアバッグ30と図示しないインフレーターとの保護のために、ケース65の前端開口71は、膨張するエアバッグ30に容易に破断可能とした保護カバーにより、塞がれている。
【0050】
また、第2実施形態では、前進保持機構12の連結支持材13が回動軸68を備え、駆動源15のアクチュエータ16Aが、連結支持材13Aと兼用の作動ロッド18Aを一つだけとして構成されている点を、第1実施形態と相違させ、さらに、他にケース65と連動機構73との構成を異ならせている点を除いて、他の構成の接触体10、変形部20、回動保持機構21、エアバッグ30、インフレーター33、制御装置60、衝突予測センサ61、及び、回動センサ63は、第1実施形態と同様に構成されている。
【0051】
第2実施形態の連動機構73は、支持材としてのガイドレール74を備えて構成されている。ガイドレール74は、ボディ1側に連結保持されるものであり、ケース65の左右両側におけるケース65の後部側における前進保持機構12に対する回転中心C1より後方側部位となる支持ピン69を、上下で挟むように支持する上レール部74aと下レール部74bとから構成されている。なお、回動軸68は、ガイドレール74の上レール部74aと下レール部74bとの隙間H1を挿通できる直径として、構成され、上レール部74aと下レール部74bとは、回動軸68の前後移動を妨げないように、連結支持材13付近では、上方と下方とから支持ピン69側に侵入するように配設されている。
【0052】
そして、この支持材としてのガイドレール74は、接触体10と前端開口71との間にエアバッグ30を突出可能な隙間H0を形成するように、回転時の前進保持機構12に対してケース65を相対回転可能に、ケース65の後部側部位の支持ピン69を位置規制するように、ケース65や回動軸68を前後に移動可能で、かつ、ケース65の支持ピン69を上下に移動不能に、配設されている。
【0053】
この第2実施形態でも、車両Vが歩行者と衝突しようとする場合、制御装置60が、衝突予測センサ61からの信号に基づいて、車両Vの歩行者との衝突を予測することから、制御装置60は、まず、図12の二点鎖線や図14,16のA,Bに示すように、前進保持機構12の各アクチュエータ16Aを作動させて、接触体10を初期位置P0から歩行者と接触可能な前進位置P1まで前進移動させる。そして、歩行者が接触体10に当たり、接触体10の上部10a側若しくは下部10b側への押圧力の大きさに対応して、図13のA,Bに示すように、前進保持機構12は、上方若しくは下方の一方側に回転する。
【0054】
この時、第2実施形態の歩行者保護装置S2では、図13のA,Bに示すように、ケース65を保持した前進保持機構12の上方回転若しくは下方回転する際に、ケース65が、支持材としてのガイドレール74によりケース65の後部側部位の支持ピン69を位置規制された状態として、前進保持機構12とともにケース65の前進保持機構12に対する回転中心C1を回転させることから、ケース65自体は、接触体10と前端開口71との間にエアバッグ30を突出可能な隙間H1を形成するように、回転時の前進保持機構12に対してケース65を相対回転させて、前端開口71をさらに上方側若しくは下方側に向けることとなる。すなわち、第2実施形態の歩行者保護装置S1でも、ガイドレール74を設けて構成される連動機構73の機械的な動作で、前進保持機構12の回動に伴って、支持材としてのガイドレール74の位置規制によるケース65の相対回転により、一つのエアバッグ30を収納するケース65の前端開口71を上方側若しくは下方側に向けて、接触体10との間に隙間H0を設けて開口させることができる。
【0055】
そして、前進保持機構12が上方回転若しくは下方回転すれば、制御装置60が、回動センサ63からの信号に基づいて、エアバッグ30を膨らませるようにインフレーター33を作動させて、エアバッグ30が膨らむ。その際、前端開口71の向けられた方向における接触体10との間の隙間H0が、上方側であれば、図15に示すように、エアバッグ30が、上向きの前端開口71から上方側に突出し、フードパネル7の前部7aの上面側で膨らんで、車両Vの前部上側FUに移動してくる歩行者MUを保護可能に受け止めることとなる。また、前端開口71の向けられた方向における接触体10との間の隙間H0が、下方側であれば、図17に示すように、エアバッグ30が、下向きの前端開口71から下方側に突出し、バンパ3の前面3a付近から路面Gまで膨らんで、車両Vの前部下側FDに移動してくる歩行者MDを保護可能に受け止めることとなる。
【0056】
したがって、この第2実施形態の歩行者保護装置S2でも、第1実施形態と同様な作用・効果を得ることができて、ケース65に収納された一つのエアバッグ30により、車両Vの前部上側FU若しくは前部下側FDを覆う構成の歩行者保護装置S2を、ケース65におけるエアバッグ30の突出用の開口(前端開口)71を開口させるための駆動源を別途設けずに、簡便な機構で構成することができる。
【0057】
勿論、この第2実施形態の歩行者保護装置S2でも、制御装置60が、前進保持機構12のアクチュエータ16Aを作動させて接触体10を前進移動させた後、一定時間経過しても、回動センサ63からの信号を入力しない場合に、歩行者の車両との衝突を回避したと判断して、接触体10を初期位置P0に復帰させるように、前進保持機構12のアクチュエータ16Aを作動させる。
【0058】
また、歩行者保護装置としては、エアバッグ等の拘束体を、車両の前部上側に配設される上側拘束体と車両の前部下側に配設される下側拘束体との二種類として配設してもよい。図18,19に示す第3実施形態の歩行者保護装置S3では、作動時、車両Vの前部上側FUで膨らむ上側拘束体としての上側エアバッグ77と、車両Vの前部下側FDで膨らむ下側拘束体としての下側エアバッグ81と、を設けて構成している。第3実施形態の場合、上側エアバッグ77は、車両Vの前部上側FUにおけるフードパネル7の前部7aに配設されたケース78に収納され、ガス供給機構としてのインフレーター79の作動により、図19のAに示すように、膨張用ガスを流入させて膨張し、そして、カバー80を押し開いて上方側へ突出し、車両Vの前部上側FUにおけるフードパネル7の前部7aの上面側を覆う。また、下側エアバッグ81は、車両Vの前部下側FDにおけるバンパ3の下部に配設されたケース82に収納され、ガス供給機構としてのインフレーター83の作動により、図19のBに示すように、膨張用ガスを流入させて膨張し、そして、カバー84を押し開いて下方側へ突出し、バンパ3の前面3a付近から路面Gまで膨らむこととなる。
【0059】
なお、第3実施形態の接触体10、前進保持機構12、変形部20、回動保持機構21、制御装置60、衝突予測センサ61、及び、回動センサ63は、第1実施形態と同一のものが使用されている。
【0060】
そして、この第3実施形態の歩行者保護装置S3の作動時では、車両Vが歩行者と衝突しようとする場合、制御装置60が、衝突予測センサ61からの信号に基づいて、車両Vの歩行者との衝突を予測することから、制御装置60は、まず、図18のA,Bに示すように、前進保持機構12の各アクチュエータ16を作動させて、接触体10を初期位置P0から歩行者と接触可能な前進位置P1まで前進移動させる。そして、歩行者が接触体10に当たり、接触体10の上部10a側若しくは下部10b側への押圧力の大きさに対応して、図19のA,Bに示すように、前進保持機構12は、上方若しくは下方の一方側に回転する。そして、制御装置60が、回動センサ63からの信号に基づき、上側エアバッグ77若しくは下側エアバッグ81に膨張用ガスを供給するインフレーター79,83を作動させる。すなわち、この第3実施形態の歩行者保護装置S3では、前進保持機構12の上方回転時に、下側エアバッグ81を膨らませずに、ケース78から突出させるように上側エアバッグ77を膨らませて、上側エアバッグ77が、車両Vの前部上側FUに移動してくる歩行者MUを保護可能に受け止めることとなる。また、前進保持機構12の下方回転時には、上側エアバッグ77を膨らませずに、ケース82から突出させるように下側エアバッグ81を膨らませて、下側エアバッグ81が、バンパ3の前面3a付近から路面Gまで膨らんで、車両Vの前部下側FDに移動してくる歩行者MDを保護可能に受け止めることとなる。
【0061】
この第3実施形態でも、車両Vの前部上側FUに移動してくる歩行者MU若しくは車両Vの前部下側FDに移動してくる歩行者MDを、選別して保護可能に拘束体としてのエアバッグ(上側・下側)77,81を作動させることから、拘束体を小さく構成できて、極力、軽量かつコンパクトに歩行者保護装置S3を構成することが可能となる。
【0062】
なお、車両の前部上側や前部下側に移動する歩行者を受け止めるための拘束体は、歩行者を保護可能に受け止めることができれば、膨張用ガスを流入させて収納部位から突出して膨らむエアバッグに限られるものではない。例えば、図20,21に示す第4実施形態の歩行者保護装置S4のように、車両Vの前部上側FUに移動する歩行者MUを受け止める拘束体として、塑性変形可能なフードパネル7Aを利用してもよい。この第4実施形態の歩行者保護装置S4では、フードパネル7Aの後端7bを上昇させるピストンシリンダタイプのアクチュエータ86を、フードパネル7Aの後端7bの左右両縁付近の下方に配置させている。このアクチュエータ86は、衝突回避時に復帰させる接触体10の前後移動用のアクチュータと相違し、接触体10に歩行者が接触した後に作動されるものであって、復帰を考慮していないことから、点火して作動用流体を発生させるマイクロガスジェネレータ等を駆動源として利用してもよい。なお、アクチュエータ86の作動時には、ピストンロッド86aが上昇し、前開き構造のフードパネル7Aの後端側のヒンジ機構8のシェアピン8aを破断し、ヒンジ機構8の一部を変形させて、フードパネル7Aの後端7bを上昇させることとなる。
【0063】
また、この第4実施形態の車両Vの前部上側FUに移動する歩行者の拘束体としては、第3実施形態の下側エアバッグ81が配設されている。
【0064】
そして、この歩行者保護装置S4では、図示しない前進保持機構の上方回転に伴う回動センサ(図示せず)の信号により、制御装置60が、アクチュエータ86を作動させて、フードパネル7Aの後端7bを上昇させることとなる。この時、エンジンルームER上方に、下方へ変形できる変形スペースを大きくさせて、フードパネル7Aを配置させることができ、歩行者は、フードパネル7Aを塑性変形させて、運動エネルギーを吸収されて、フードパネル7Aに受け止められることとなる。
【0065】
なお、この第4実施形態の歩行者保護装置S4では、制御装置60が、図示しない前進保持機構の上方回転に伴う回動センサ(図示せず)の信号により、フロントピラー88の前面を覆えるエアバッグ89を、収納させたケース90から突出させるように膨らませており、このエアバッグ89を、車両Vの前部上側FUに移動する歩行者の拘束体としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1実施形態の歩行者保護装置を搭載した車両の斜視図である。
【図2】第1実施形態の歩行者保護装置の前方側から見た概略斜視図である。
【図3】第1実施形態の歩行者保護装置の概略側面図である。
【図4】第1実施形態の歩行者保護装置の概略平面図である。
【図5】第1実施形態の歩行者保護装置の後方側から見た概略斜視図である。
【図6】第1実施形態の歩行者保護装置のケースの上面側の開口と下面側の開口とをそれぞれ開口させる状態を説明する図である。
【図7】第1実施形態の歩行者保護装置における接触体と前進保持機構との上方回転する状態を説明する図である。
【図8】第1実施形態の歩行者保護装置における車両の前部上側に移動する歩行者をエアバッグが受け止める状態を示す図である。
【図9】第1実施形態の歩行者保護装置における接触体と前進保持機構との下方回転する状態を説明する図である。
【図10】第1実施形態の歩行者保護装置における車両の前部下側に移動する歩行者をエアバッグが受け止める状態を示す図である。
【図11】第1実施形態の歩行者保護装置における歩行者の保護形態の異なる場合を説明する図である。
【図12】第2実施形態の歩行者保護装置を示す概略側面図である。
【図13】第2実施形態の歩行者保護装置におけるケースの前端開口の上方側へ向く状態と下方側に向く状態とを説明する図である。
【図14】第2実施形態の歩行者保護装置における接触体と前進保持機構との上方回転する状態を説明する図である。
【図15】第2実施形態の歩行者保護装置における車両の前部上側に移動する歩行者をエアバッグが受け止める状態を示す図である。
【図16】第2実施形態の歩行者保護装置における接触体と前進保持機構との下方回転する状態を説明する図である。
【図17】第2実施形態の歩行者保護装置における車両の前部下側に移動する歩行者をエアバッグが受け止める状態を示す図である。
【図18】第3実施形態の歩行者保護装置を示す側面図であり、接触体の初期位置と前進位置に移動した状態とを示す。
【図19】第3実施形態の歩行者保護装置における車両の前部上側と前部下側とに移動する歩行者をそれぞれ受け止める状態を説明する図である。
【図20】第4実施形態の歩行者保護装置における車両の前部上側に移動する歩行者を受け止める拘束体を説明する図である。
【図21】第4実施形態の歩行者保護装置の搭載された車両の斜視図である。
【符号の説明】
【0067】
7A…(拘束体)フードパネル、
10…接触体、
10a…上部、
10b…下部、
12…前進保持機構、
13,13A…連結支持材、
15…駆動源、
20…変形部、
21…回動保持機構、
22…保持軸、
24…連結保持材、
30…(拘束体)エアバッグ、
35,65…ケース、
45,46…開口、
48…(上)カバー、
49…(下)カバー、
51,73…連動機構、
52,53…連結材、
60…制御装置、
61…衝突予測センサ、
63…回動センサ、
69…(ケースの後方側部位)支持ピン、
71…前端開口、
74…(支持材)ガイドレール、
P0…(接触体の)初期位置、
P1…(接触体の)前進位置、
V…車両、
FU…(車両の)前部上側、
FD…(車両の)前部下側、
MU…(車両の前部上側に移動する)歩行者、
MD…(車両の前部下側に移動する)歩行者、
S1,S2,S3,S4…歩行者保護装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部に搭載され、歩行者の車両と衝突する際に作動されて、車両の前部上側に移動する歩行者と車両の前部下側に移動する歩行者とにそれぞれ対応して保護可能に受け止める拘束体を、受止状態とするように配設させる構成の歩行者保護装置であって、
作動時、車両の前面に収納された初期位置から前方側に突出されて、歩行者と接触する接触体と、
作動時に、前記接触体を前方側へ突出可能として、前記接触体を後側から保持する前進保持機構と、
前進移動した前記接触体の歩行者との接触時に、前記接触体の上部側若しくは下部側への押圧力の大きさに対応させて、前記前進保持機構を上方若しくは下方の一方側に回転させるように、前記前進保持機構の後部側を保持する回動保持機構と、
車両に配設されて、歩行者の車両との衝突を予測する衝突予測センサと、
前記前進保持機構の上下の回動を検知する回動センサと、
前記衝突予測センサ及び前記回動センサからの信号に基づいて、前記前進保持機構と前記拘束体との作動を制御する制御装置と、
を備えて構成され、
前記制御装置が、
前記衝突予測センサからの信号に基づいて、歩行者の車両との衝突を予測した際に、前記前進保持機構を作動させて前記接触体を前進移動させ、
前進移動した前記接触体の歩行者との接触時における前記前進保持機構の上方回転若しくは下方回転する際の前記回動センサの信号に基づいて、車両の前部上側に移動する歩行者と車両の前部下側に移動する歩行者とにそれぞれ対応させるように、前記拘束体の作動を制御していることを特徴とする歩行者保護装置。
【請求項2】
前記前進保持機構が、
前記接触体の後面に連結されて後方に延びる連結支持材と、
該連結支持材を保持して、前記制御装置からの作動信号により作動されて、前記接触体とともに前記連結支持材を前進移動させる駆動源と、
を備えて構成され、
前記回動保持機構が、
前記前進保持機構の後方側で、軸方向を左右方向に沿わせて配設されて、軸周り方向に回動可能な保持軸と、
前記前進保持機構の駆動源を前記保持軸に連結させる連結保持材と、
を備えて構成され、
前記前進保持機構と前記回動保持機構との少なくとも一部に、前進移動した前記接触体の歩行者との接触時における前記前進保持機構の上下に回動する際の歩行者の運動エネルギーを吸収可能に変形する変形部が、配設されていることを特徴とする請求項1に記載の歩行者保護装置。
【請求項3】
前記制御装置が、前記前進保持機構を作動させて前記接触体を前進移動させた後、歩行者の車両との衝突の回避時に、前記接触体を初期位置に復帰させるように、前記前進保持機構を作動させることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の歩行者保護装置。
【請求項4】
車両の前部下側に移動する歩行者を受け止める前記拘束体が、受止状態となる作動時に、膨張用ガスを流入させて収納部位から突出して膨らむエアバッグ、としていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の歩行者保護装置。
【請求項5】
車両の前部上側に移動する歩行者を受け止める前記拘束体が、受止状態となる作動時に、膨張用ガスを流入させて収納部位から突出して膨らむエアバッグ、としていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の歩行者保護装置。
【請求項6】
車両の前部上側に移動する歩行者を受け止める前記拘束体が、フードパネルとして、受止状態となる作動時に、上昇移動されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の歩行者保護装置。
【請求項7】
前記拘束体が、受止状態となる作動時に、膨張用ガスを流入させて膨らむ一つのエアバッグから構成され、
前記前進保持機構が、前記エアバッグと、前記エアバッグを突出可能な開口を有して前記エアバッグを収納して前記接触体の後面側に配置されるケースと、を保持する構成とし、
前記前進保持機構の上方回転若しくは下方回転に連動させて、前記ケースにおける前記エアバッグの突出する開口を上方側若しくは下方側に向ける連動機構が、配設されて、
一つの前記エアバッグが、前記連動機構による前記ケースの開口の向きに応じて、作動時、車両の前部上側若しくは前部下側に移動する歩行者に対応して膨らむように、配設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の歩行者保護装置。
【請求項8】
前記ケースが、上面側と下面側とに、それぞれ、前記エアバッグを突出可能な開口と、開き可能に前記各開口を覆うカバーと、を配設させ、
前記連動機構が、前記ケースの上面側と下面側との前記各カバーに対して、それぞれ、開き移動可能に連結される連結材を備えて構成されて、
前記前進保持機構の上方回転若しくは下方回転する際に対応する前記カバーの開き移動を可能に、前記各連結材が、前記カバーとの連結部位から離れる端部を、前記前進保持機構の回転中心付近で、相互に上下で反転させた位置に、保持させて、配設されていることを特徴とする請求項7に記載の歩行者保護装置。
【請求項9】
前記ケースが、前記接触体の後方位置に配置された前端側に、前記エアバッグを突出可能な前端開口を備えるとともに、前記前端開口を上向き若しくは下向きに回転可能に前記前進保持機構に保持され、
前記連動機構が、前記ケースにおける前記前進保持機構に対する回転中心より後方側部位を支持する支持材を備えて構成され、
前記接触体と前記前端開口との間に前記エアバッグを突出可能な隙間を形成するように、回転時の前記前進保持機構に対して前記ケースを相対回転可能に、前記支持材が、前記ケースの後部側部位を位置規制するように、前記ケースを前後に移動可能で、かつ、前記ケースの後部側部位を上下に移動不能に、配設されていることを特徴とする請求項7に記載の歩行者保護装置。
【請求項1】
車両の前部に搭載され、歩行者の車両と衝突する際に作動されて、車両の前部上側に移動する歩行者と車両の前部下側に移動する歩行者とにそれぞれ対応して保護可能に受け止める拘束体を、受止状態とするように配設させる構成の歩行者保護装置であって、
作動時、車両の前面に収納された初期位置から前方側に突出されて、歩行者と接触する接触体と、
作動時に、前記接触体を前方側へ突出可能として、前記接触体を後側から保持する前進保持機構と、
前進移動した前記接触体の歩行者との接触時に、前記接触体の上部側若しくは下部側への押圧力の大きさに対応させて、前記前進保持機構を上方若しくは下方の一方側に回転させるように、前記前進保持機構の後部側を保持する回動保持機構と、
車両に配設されて、歩行者の車両との衝突を予測する衝突予測センサと、
前記前進保持機構の上下の回動を検知する回動センサと、
前記衝突予測センサ及び前記回動センサからの信号に基づいて、前記前進保持機構と前記拘束体との作動を制御する制御装置と、
を備えて構成され、
前記制御装置が、
前記衝突予測センサからの信号に基づいて、歩行者の車両との衝突を予測した際に、前記前進保持機構を作動させて前記接触体を前進移動させ、
前進移動した前記接触体の歩行者との接触時における前記前進保持機構の上方回転若しくは下方回転する際の前記回動センサの信号に基づいて、車両の前部上側に移動する歩行者と車両の前部下側に移動する歩行者とにそれぞれ対応させるように、前記拘束体の作動を制御していることを特徴とする歩行者保護装置。
【請求項2】
前記前進保持機構が、
前記接触体の後面に連結されて後方に延びる連結支持材と、
該連結支持材を保持して、前記制御装置からの作動信号により作動されて、前記接触体とともに前記連結支持材を前進移動させる駆動源と、
を備えて構成され、
前記回動保持機構が、
前記前進保持機構の後方側で、軸方向を左右方向に沿わせて配設されて、軸周り方向に回動可能な保持軸と、
前記前進保持機構の駆動源を前記保持軸に連結させる連結保持材と、
を備えて構成され、
前記前進保持機構と前記回動保持機構との少なくとも一部に、前進移動した前記接触体の歩行者との接触時における前記前進保持機構の上下に回動する際の歩行者の運動エネルギーを吸収可能に変形する変形部が、配設されていることを特徴とする請求項1に記載の歩行者保護装置。
【請求項3】
前記制御装置が、前記前進保持機構を作動させて前記接触体を前進移動させた後、歩行者の車両との衝突の回避時に、前記接触体を初期位置に復帰させるように、前記前進保持機構を作動させることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載の歩行者保護装置。
【請求項4】
車両の前部下側に移動する歩行者を受け止める前記拘束体が、受止状態となる作動時に、膨張用ガスを流入させて収納部位から突出して膨らむエアバッグ、としていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の歩行者保護装置。
【請求項5】
車両の前部上側に移動する歩行者を受け止める前記拘束体が、受止状態となる作動時に、膨張用ガスを流入させて収納部位から突出して膨らむエアバッグ、としていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の歩行者保護装置。
【請求項6】
車両の前部上側に移動する歩行者を受け止める前記拘束体が、フードパネルとして、受止状態となる作動時に、上昇移動されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の歩行者保護装置。
【請求項7】
前記拘束体が、受止状態となる作動時に、膨張用ガスを流入させて膨らむ一つのエアバッグから構成され、
前記前進保持機構が、前記エアバッグと、前記エアバッグを突出可能な開口を有して前記エアバッグを収納して前記接触体の後面側に配置されるケースと、を保持する構成とし、
前記前進保持機構の上方回転若しくは下方回転に連動させて、前記ケースにおける前記エアバッグの突出する開口を上方側若しくは下方側に向ける連動機構が、配設されて、
一つの前記エアバッグが、前記連動機構による前記ケースの開口の向きに応じて、作動時、車両の前部上側若しくは前部下側に移動する歩行者に対応して膨らむように、配設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の歩行者保護装置。
【請求項8】
前記ケースが、上面側と下面側とに、それぞれ、前記エアバッグを突出可能な開口と、開き可能に前記各開口を覆うカバーと、を配設させ、
前記連動機構が、前記ケースの上面側と下面側との前記各カバーに対して、それぞれ、開き移動可能に連結される連結材を備えて構成されて、
前記前進保持機構の上方回転若しくは下方回転する際に対応する前記カバーの開き移動を可能に、前記各連結材が、前記カバーとの連結部位から離れる端部を、前記前進保持機構の回転中心付近で、相互に上下で反転させた位置に、保持させて、配設されていることを特徴とする請求項7に記載の歩行者保護装置。
【請求項9】
前記ケースが、前記接触体の後方位置に配置された前端側に、前記エアバッグを突出可能な前端開口を備えるとともに、前記前端開口を上向き若しくは下向きに回転可能に前記前進保持機構に保持され、
前記連動機構が、前記ケースにおける前記前進保持機構に対する回転中心より後方側部位を支持する支持材を備えて構成され、
前記接触体と前記前端開口との間に前記エアバッグを突出可能な隙間を形成するように、回転時の前記前進保持機構に対して前記ケースを相対回転可能に、前記支持材が、前記ケースの後部側部位を位置規制するように、前記ケースを前後に移動可能で、かつ、前記ケースの後部側部位を上下に移動不能に、配設されていることを特徴とする請求項7に記載の歩行者保護装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
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【図16】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2009−234462(P2009−234462A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84326(P2008−84326)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】
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