説明

歩行者保護装置

【課題】車両との干渉により歩行者が車両のフロントボディの側部上に倒れ込んだときに、その歩行者を適切に保護することのできる歩行者保護装置を提供する。
【解決手段】歩行者保護装置は、フロントボディ12の車幅方向についての両側部をフロントフェンダ15により構成し、両フロントフェンダ15の上端部15A間をフードパネル18により構成した車両11に適用される。歩行者保護装置は、フロントフェンダ15毎に設けられ、車両11の歩行者との干渉に応じ、同フロントフェンダ15の少なくとも上端部15Aをフードパネル18から外側方へ遠ざかるように移動させる移動機構20と、その移動機構20により移動させられたフロントフェンダ15及びフードパネル18間で歩行者を拘束するエアバッグ装置とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両との干渉により、その車両のフロントボディ上、特に側部上に倒れ込んだ歩行者を保護する歩行者保護装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両との干渉によりフロントボディ上に倒れ込んだ歩行者を保護する歩行者保護装置が従来から種々提案されている。例えば、特許文献1に記載された歩行者保護装置では、車両の歩行者との干渉に応じ、フロントボディの側部を構成するフロントフェンダが、リフト機構により、同フロントボディのフードパネルよりも高い位置まで持ち上げられる。この持ち上げにより、フロントフェンダ及びフードパネル間に形成された開口から、膨張用ガスにより膨張したエアバッグが突出してフードパネルの側部を上方から覆う。このエアバッグにより、フロントボディ上に倒れ込んだ歩行者がフードパネルの側部と直接干渉することが抑制される。また、フードパネルよりも高くなったフロントフェンダや、フードパネル上のエアバッグにより、歩行者がフロントボディの側部から落下することが抑制される。
【特許文献1】特開2006−182328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、フロントフェンダは、サイドメンバ等の硬質物質を覆っており、フードパネルよりも実質的に高い剛性を有している。そのため、歩行者がフロントボディの側部上に倒れ込んだときにフロントフェンダと直接接触することは望ましくない。
【0004】
この点、上記特許文献1に記載された歩行者保護装置は、車両との干渉により歩行者が専らフードパネル上に倒れ込むことを前提としており、フロントボディの側部に倒れ込むことまで考慮されていない。
【0005】
加えて、特許文献1に記載された歩行者保護装置では、上述したようにフードパネルよりも高い位置まで持ち上げられたフロントフェンダは硬質の突起物となる。そのため、フロントフェンダがこのように持ち上げられずフードパネルと同じ高さとなる場合よりも、倒れ込んだ歩行者に及ぼす影響が大きくなり、歩行者の適切な保護が困難となる。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、車両との干渉により歩行者が車両のフロントボディの側部上に倒れ込んだときに、その歩行者を適切に保護することのできる歩行者保護装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、フロントボディの車幅方向についての両側部をフロントフェンダにより構成し、前記両フロントフェンダの上端部間をフードパネルにより構成した車両に適用される歩行者保護装置であって、前記フロントフェンダ毎に設けられ、前記車両の歩行者との干渉に応じ、同フロントフェンダの少なくとも上端部を前記フードパネルから外側方へ遠ざかるように移動させる移動機構と、前記移動機構により移動させられた前記フロントフェンダ及び前記フードパネル間で歩行者を拘束する歩行者拘束手段とを備えることを要旨とする。
【0008】
ここで、「車両の歩行者との干渉」は、車両が走行中に前方の歩行者に接触することと同義である。また、「車両の歩行者との干渉に応じ」には、「車両が歩行者と干渉すると」だけでなく「車両の歩行者との干渉が予測されると」も含まれる。
【0009】
上記の構成によれば、車両の歩行者との干渉に応じ移動機構が作動すると、フロントフェンダの少なくとも上端部がフードパネルから外側方へ遠ざかるように移動させられる。この移動により、フードパネル及びフロントフェンダの上端部間に開口が生ずる。フロントボディの上部が実質的に拡幅された状態となり、こうした拡幅の行われない場合に比べ、フロントボディの側部上に倒れ込んだ歩行者の同側部からの落下が起こりにくくなる。
【0010】
また、上記移動機構の作動時には、フロントフェンダの上端部は外側方へ遠ざかるが上方へは遠ざからない。特許文献1とは異なり、フロントフェンダの上端部がフードパネルよりも高くなって突起物となることもない。歩行者がフロントボディの側部上に倒れ込んだとしても、フロントフェンダがその歩行者に及ぼす影響は、フロントフェンダの上端部がフードパネルよりも高くなる場合に比べ小さい。
【0011】
そして、上記のようにフロントボディの側部上に倒れ込んだ歩行者は、上記移動により生じたフロントフェンダ及びフードパネル間の開口において、歩行者拘束手段によって拘束される。この拘束により、歩行者が倒れ込んだときの衝撃が緩和される。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記フロントフェンダは、その下方側の部位において、車両前後方向に延びる回動軸により支持されており、前記移動機構は、前記フロントフェンダを、その上端部が前記フードパネルに接近した第1の位置から、同上端部が前記フードパネルから外側方に離間した第2の位置まで回動させるものであることを要旨とする。
【0013】
上記の構成によれば、車両の歩行者との非干渉時には、フロントフェンダは第1の位置に保持される。この第1の位置では、フロントフェンダは、下方側の部位において回動軸により支持されている。また、第1の位置ではフロントフェンダの上端部はフードパネルに接近している。
【0014】
これに対し、車両が歩行者と干渉するとき又は車両の歩行者との干渉が予測されるときには、フロントフェンダは移動機構により、回動軸を支点として第1の位置から第2の位置まで回動させられる。この第2の位置では、フロントフェンダの上端部がフードパネルから外側方へ離間する。
【0015】
このように、移動機構によるフロントフェンダの移動に際しては、同フロントフェンダの下方側の部位は移動しない。フロントフェンダの下方側の部位を移動させる機構が不要であり、その分、歩行者保護装置の構成を簡略化することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記移動機構は、前記フロントフェンダと、前記フロントボディの前記フロントフェンダとは異なる箇所とについて、その一方に連結されたシリンダと、他方に動力伝達可能に連結され、かつ前記シリンダに出没可能に設けられたピストンとを備えたアクチュエータを有し、前記ピストンを前記シリンダから突出させることにより、前記フロントフェンダの少なくとも上端部を前記フードパネルから外側方へ遠ざかるように移動させるものであることを要旨とする。
【0017】
上記の構成によれば、移動機構のアクチュエータは、シリンダに対しピストンが出没することにより伸縮する。このアクチュエータの伸縮により移動機構が作動し、フロントフェンダが駆動される。
【0018】
車両の歩行者との非干渉時には、ピストンがシリンダに没入させられることで、アクチュエータが収縮する。フロントフェンダの少なくとも上端部は、アクチュエータによってフードパネルから外側方へ遠ざかるように移動させられることはない。また、車両が歩行者と干渉するとき又は車両の歩行者との干渉が予測されるときには、ピストンがシリンダから突出させられることで、アクチュエータが伸長する。フロントフェンダは、この伸長するアクチュエータにより押されて、すなわちアクチュエータの動力がフロントフェンダに伝達されて、少なくとも上端部を、フードパネルから外側方へ遠ざかるように移動させられる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明において、前記歩行者拘束手段は、前記車両の前記歩行者との干渉に応じて膨張し、かつ前記移動機構により移動させられた前記フロントフェンダ及び前記フードパネル間の開口を塞ぐエアバッグを備えることを要旨とする。
【0020】
上記の構成によれば、車両の歩行者との干渉に応じ、移動機構によりフロントフェンダが移動させられるときには、歩行者拘束手段のエアバッグが膨張させられる。フロントフェンダの移動に伴い同フロントフェンダ及びフードパネル間に生じた開口が、上記膨張したエアバッグによって塞がれる。フロントボディの側部上に倒れ込んだ歩行者は、このエアバッグによって受け止められ、倒れ込んだときに歩行者の受ける衝撃が緩和される。また、上記開口に歩行者が入り込む現象も、同開口を塞ぐエアバッグによって抑制される。
【0021】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記エアバッグは、前記移動機構により移動させられた前記フロントフェンダの上端部よりも高い位置まで膨張するものであることを要旨とする。
【0022】
上記の構成によれば、車両の歩行者との干渉に応じ歩行者拘束手段のエアバッグが膨張するときには、その少なくとも一部が、移動機構により移動させられたフロントフェンダの上端部よりも高くなる。エアバッグにおいて、フロントフェンダの上端部よりも高い部分は、フロントボディの側部上に倒れ込んだ歩行者の外側方への移動を規制する機能を発揮する。従って、歩行者がフロントボディの側部から落下する現象をエアバッグによっても抑制することができる。
【0023】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明において、前記歩行者拘束手段は、網又は布帛からなり、かつ前記フードパネル及び前記フロントフェンダ間に架設され、前記移動機構による前記フロントフェンダの移動に応じて弛張する弛張架設部を備えることを要旨とする。
【0024】
上記の構成によれば、車両の歩行者との干渉に応じ、移動機構によりフロントフェンダが移動させられると、それに伴い歩行者拘束手段の弛張架設部(網又は布帛)が引っ張られ、フードパネル及びフロントフェンダ間において、それ以前よりも張られる。フロントボディの側部上に倒れ込んだ歩行者は弛張架設部によって受け止められ、倒れ込んだときに歩行者が受ける衝撃が緩和される。
【0025】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記弛張架設部は、前記フロントフェンダが前記移動機構により移動させられたとき、前記フードパネルと同フロントフェンダとの間でたるんだ状態となるように架設されていることを要旨とする。
【0026】
上記の構成によれば、車両の歩行者との干渉に応じフロントフェンダの上端部がフードパネルから遠ざけられるときには、弛張架設部がフードパネル及びフロントフェンダ間においてたるんだ状態で張られる。フロントボディの側部上に倒れ込んだ歩行者は、フードパネル及びフロントフェンダ間の開口に入り込んだ状態で、上記のようにたるんだ弛張架設部によって受け止められる。倒れ込んだときに歩行者が受ける衝撃がこの弛張架設部によって緩和される。また、歩行者は、上記開口に入り込んだ状態で拘束されることから、同歩行者がフロントボディの側部から落下しにくくなる。
【0027】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1つに記載の発明において、前記両フロントフェンダの一方に設けられた前記移動機構及び前記歩行者拘束手段は、他方に設けられた前記移動機構及び前記歩行者拘束手段から独立した状態で作動させられるものであることを要旨とする。
【0028】
上記の構成によれば、両フロントフェンダの一方の移動機構及び歩行者拘束手段を、他方の移動機構及び歩行者拘束手段から独立させた状態で作動させることにより、車両の歩行者との干渉に応じ、歩行者保護の必要な側のフロントフェンダのみを移動させることが可能となる。歩行者保護の必要のない側のフロントフェンダの不要な移動を防止することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の歩行者保護装置によれば、車両の歩行者との干渉に応じ、フロントフェンダの少なくとも上端部をフードパネルから外側方へ遠ざけるとともに、それらのフードパネル及びフロントフェンダ間で歩行者を拘束するようにしたため、フロントボディの側部上に倒れ込んだ歩行者を適切に保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態について、図1〜図5を参照して説明する。なお、以下の説明では、車両の前進方向を前方と記載し、それを基準に前、後、上、下、左、右を規定している。また、各図において、「前」は車両前側を、「後」は車両後側を、「内」は車両内側を、「外」は車両外側をそれぞれ示している。
【0031】
まず、第1実施形態の歩行者保護装置が搭載される車両の前部(フロントボディ)の構成について説明する。
図1及び図2の少なくとも一方に示すように、車両11のフロントボディ12の車幅方向についての両側部には、それぞれアッパサイドメンバ13及びロアサイドメンバ14が配設されている。各アッパサイドメンバ13は、四角環状の断面を有し、前後方向に延びている。また、各ロアサイドメンバ14は、四角環状状の断面を有し、上記アッパサイドメンバ13から下方へ離間した箇所において前後方向に延びている。各アッパサイドメンバ13及び各ロアサイドメンバ14は、フロントボディ12の車幅方向についての両側部に配置されたフロントフェンダ15によって、上側及び外側から覆われている。フロントフェンダ15自体の剛性はさほど高くないが、アッパサイドメンバ13及びロアサイドメンバ14といった硬質部材を覆っていることから、フロントフェンダ15の剛性は実質的に高くなっている。フロントフェンダ15の車内側の上部には、略鉛直方向に延びる内壁部16と、その内壁部16の下端から車内側へ屈曲する屈曲部17とが設けられている。
【0032】
左右の両フロントフェンダ15,15の上端部15A,15A間には、フロントボディ12の上部の車幅方向についての中間部分を構成するフードパネル18が配置されている。フードパネル18は、その後端部に設けられたヒンジ部(図示略)により、フロントボディ12に上下方向への傾動(前開き)可能に連結されている。
【0033】
さらに、車両11には、走行中の車両11が前方の歩行者Pと接触(干渉)して、その歩行者Pがフロントボディ12の側部上に倒れ込んだときに同歩行者Pを保護する歩行者保護装置が設けられている。
【0034】
歩行者保護装置は、左側のフロントフェンダ15に設けられた移動機構20及び歩行者拘束手段と、右側のフロントフェンダ15に設けられた移動機構20及び歩行者拘束手段とを備えて構成されている。左側の移動機構20と右側の移動機構20とは、それらの構成部材が左右対称となる関係で配置されている点を除き、互いに同様の構成を有している。歩行者拘束手段についても同様である。そのため、ここでは、運転席から見て左側に配設される移動機構20及び歩行者拘束手段を例に採って説明する。
【0035】
移動機構20は、車両11の歩行者Pとの干渉に応じ、フロントフェンダ15の少なくとも上端部15Aを、フードパネル18から外側方へ遠ざけるように移動させるためのものである。また、歩行者拘束手段は、前記移動機構20により移動させられたフロントフェンダ15及びフードパネル18間で歩行者Pを拘束するためのものである。次に、これらの移動機構20及び歩行者拘束手段のそれぞれについて説明する。
【0036】
<移動機構20>
ロアサイドメンバ14の前後方向についての複数箇所には、外側方へ突出する支持突部21がそれぞれ設けられている。これに対応して、フロントフェンダ15の下端部の前後方向についての複数箇所には、内側方へ突出する支持突部22がそれぞれ設けられている。これらの支持突部21,22は、前後方向に延びる回動軸23により連結されている。フロントフェンダ15は、この回動軸23を支点として回動可能である。
【0037】
上記回動軸23を支点として、フロントフェンダ15を「第1の位置(I)」と「第2の位置(II)」との間で回動させるために次の構成が採用されている。第1の位置(I)は、図2に示すように、フロントフェンダ15の上端部15Aがフードパネル18の側縁部18Aに接近した位置である。また、第2の位置(II)は、図4に示すように、フロントフェンダ15の上端部15Aが、フードパネル18の側縁部18Aから外側方へ大きく離間して、同側縁部18Aとの間に開口Aを生じさせる位置である。
【0038】
図2及び図4の少なくとも一方に示すように、アッパサイドメンバ13上には、フロントフェンダ15を第1の位置(I)に係止するための係止部24が固定されている。係止部24の上部には、外側面において開口し、かつ前後方向に延びる溝部25が形成されている。この溝部25は、フロントフェンダ15の屈曲部17の厚みと略同一の溝幅を有している。
【0039】
アッパサイドメンバ13の前後方向についての複数箇所には、外側方へ突出する支持突部26がそれぞれ設けられている。これに対応して、フロントフェンダ15の上部の前後方向についての複数箇所には、内側方へ突出する支持突部27がそれぞれ設けられている。支持突部26には第1リンク28の上端部が回動可能に連結されている。この第1リンク28の下端部及び支持突部27は第2リンク29によって連結されている。フロントフェンダ15が第1の位置(I)にあるときには、両リンク28,29は図2に示すようにV字状に屈曲する。表現を変えると、両リンク28,29がV字状に屈曲することで、フロントフェンダ15の第2の位置(II)から第1の位置(I)への回動が許容される。これに対し、フロントフェンダ15が第2の位置(II)にあるときには、図4に示すように両リンク28,29は一直線状となる。表現を変えると、フロントフェンダ15が第1の位置(I)から第2の位置(II)へ向けて回動すると、その回動に伴い両リンク28,29のなす角αが拡大する。フロントフェンダ15が第2の位置(II)まで回動したとき両リンク28,29が一直線状となり(角αが略180°となり)、フロントフェンダ15のそれ以上の外側方への回動が規制される。
【0040】
さらに、フロントフェンダ15を第1の位置(I)から第2の位置(II)へ向けて回動させる力を発生するためのアクチュエータ30としてマイクロガスジェネレータ(「MGG」)が用いられている。このアクチュエータ30は、シリンダ31と、そのシリンダ31に出没可能に収容されたピストン32とを備えている。このアクチュエータ30は、所定の駆動信号の入力に応じ点火してガスを発生し、そのガスによりピストン32をシリンダ31から突出させる。
【0041】
このアクチュエータ30では、フロントフェンダ15と、フロントボディ12のフロントフェンダ15とは異なる箇所とについて、その一方にシリンダ31が連結され、他方にピストン32が動力伝達可能に連結されている。ここでは、シリンダ31は、車幅方向に延びる状態で配置され、アッパサイドメンバ13の外側面13Aに固定されている。
【0042】
アクチュエータ30の非作動時には、ピストン32は図2に示すようにシリンダ31に没入する。また、アクチュエータ30が駆動信号の入力に応じて点火してガスを発生すると、ピストン32が図4に示すようにシリンダ31から突出して第2リンク29を介してフロントフェンダ15を外側方へ押圧する。なお、図4中の二点鎖線は、アクチュエータ30の非作動時におけるピストン32の位置を示している。
【0043】
上記移動機構20では、フロントフェンダ15をその下端部に設けた回動軸23を支点として回動させるようにしていることから、フロントフェンダ15の移動に際しては、同フロントフェンダ15の下方側の部位が移動しない。フロントフェンダ15の下方側の部位を移動させる機構は設けられていない。
【0044】
<歩行者拘束手段>
図3に示すように、歩行者拘束手段はエアバッグ装置40によって構成されている。エアバッグ装置40は、アッパサイドメンバ13の車外側近傍に配置されたエアバッグモジュールAMを備えている。エアバッグモジュールAMは、収納ケース41、エアバッグ48、及び膨張流体発生源としてのインフレータ49を備えて構成されている。
【0045】
収納ケース41は、ケース本体42及び蓋体43を備えて構成されており、その全体が、前後方向に細長い形状に形成されている。ケース本体42は、金属板により、上端に上端開口部42Aを有する有底の箱形状に形成されている。
【0046】
蓋体43は、ケース本体42とは異なり合成樹脂によって形成されている。蓋体43は、ケース本体42の上端開口部42Aに対応して前後方向に細長い長方形板状に形成されてその上端開口部42Aを塞ぎ得る扉部44と、その扉部44から垂下する内外一対の取付け壁部45,45とを備えて構成されている。蓋体43は、両取付け壁部45,45においてケース本体42に抜け落ち不能に取付けられている。これらの取付け壁部45,45の取付け構造は、エアバッグ48の膨張により大きな押上げ力が加わっても同取付け壁部45がケース本体42から外れないものであれば、特に限定されない。
【0047】
扉部44と一方の取付け壁部45との境界部分には、展開膨張するエアバッグ48により破断可能な破断予定部46が形成されている。破断予定部46は、上記境界部分が、蓋体43の他の箇所に比べ薄肉状に形成されることにより構成されている。なお、破断予定部46は上記とは異なる箇所に形成されてもよい。また、蓋体43には、破断予定部46が破断されて扉部44が開く際の回転中心となるヒンジ部47が形成されている。
【0048】
エアバッグ48は、ポリエステル糸、ポリアミド糸等からなる織布によって袋状に形成されており、ケース本体42内に折り畳まれた状態で収容されている。図3では、エアバッグ48は蛇腹状等に折り畳まれているが、これとは異なる態様で折り畳まれてもよい。
【0049】
インフレータ49は略円柱状をなしており、エアバッグ48内に収容されている。アッパサイドメンバ13にはブラケット50が固定されており、インフレータ49は、ボルト51及びナット52等の締結手段によって、エアバッグ48及びケース本体42と一緒にブラケット50に固定されている。
【0050】
インフレータ49の内部には、膨張流体としての膨張用ガスを発生するガス発生剤(図示略)が収容されている。このタイプ(パイロタイプ)のインフレータ49では、ガス発生剤の燃焼反応によってガスが生成される。なお、インフレータ49としては、上記ガス発生剤を用いたパイロタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断してガスを噴出させるタイプ(ハイブリッドタイプ)が用いられてもよい。
【0051】
上記エアバッグモジュールAMでは、エアバッグ48が、インフレータ49から噴出された膨張用ガスにより前後方向に細長い形状に展開膨張する(図1の二点鎖線参照)。この展開膨張したエアバッグ48は、上記移動機構20(図4参照)によりフードパネル18及びフロントフェンダ15間に生じた開口Aを塞ぐとともに、フードパネル18の側部及びフロントフェンダ15の上部を上方から覆う(図5参照)。
【0052】
図2及び図3の少なくとも一方に示すように、歩行者保護装置は、上記移動機構20及びエアバッグ装置40に加え衝撃センサ53及び制御装置54を備えている。衝撃センサ53は加速度センサ等からなり、車両11のフロントバンパ55(図1参照)における車幅方向についての複数箇所(例えば2箇所)に組み込まれている。これらの衝撃センサ53,53は、走行している車両11の歩行者Pとの接触を検出すべく、フロントバンパ55に前方から加わる衝撃を検出する。制御装置54は、各衝撃センサ53の検出結果に基づき、左右両側のアクチュエータ30及び左右両側のインフレータ49の各作動を制御する。
【0053】
次に、上記のようにして構成された第1実施形態の作用について説明する。
<車両11の歩行者Pとの非干渉時>
このときには、図2及び図3の少なくとも一方に示すように、ピストン32が後退してシリンダ31内に没入していて、アクチュエータ30が収縮している。ピストン32の先端部は第2リンク29に当接しているが、押圧はしていない。屈曲部17が係止部24の溝部25に嵌合していて、それらの間の摩擦によりフロントフェンダ15は第1の位置(I)に保持されている。この第1の位置(I)では、フロントフェンダ15の上端部15Aはフードパネル18の側縁部18Aに接近している。
【0054】
一方、エアバッグモジュールAMでは、インフレータ49からはガスは発生しておらず、エアバッグ48が折り畳まれた状態を維持している。ケース本体42の上端開口部42Aが蓋体43によって塞がれている。そのため、雨水、塵埃等が上記上端開口部42Aを通ってケース本体42内に侵入することが蓋体43により抑制される。
【0055】
<車両11の歩行者Pとの干渉時>
車両11が走行中に歩行者Pに接触(干渉)して、フロントバンパ55の車幅方向についてのいずれかの側部に対し所定値以上の衝撃が加わり、そのことがいずれかの衝撃センサ53によって検出されると、その検出信号に基づき制御装置54から、対応する側のアクチュエータ30に対し駆動信号が出力される。この駆動信号に応じアクチュエータ30では点火が行われてガスが発生され、このガスによりピストン32がシリンダ31から突出してアクチュエータ30が伸長し、第2リンク29を通じてフロントフェンダ15を外側方へ押圧する。すなわち、アクチュエータ30の動力(押圧力)がフロントフェンダ15に伝達される。このアクチュエータ30による押圧力が、係止部24における溝部25と屈曲部17との間の摩擦に打ち勝つと、溝部25から屈曲部17が外側方へ抜け出る。
【0056】
上記ピストン32の押圧により、フロントフェンダ15が回動軸23を支点として図2の時計回り方向へ回動する。この回動が進むにつれて第1リンク28及び第2リンク29のなす角αが拡大し、フロントフェンダ15の上端部15Aがフードパネル18の側縁部18Aから外側方へ遠ざかるように移動する。この移動により、フードパネル18の側縁部18A及びフロントフェンダ15の上端部15A間に開口Aが生ずる。フロントフェンダ15の上部が実質的に拡幅された状態となり、こうした拡幅の行われない場合に比べ、フロントボディ12の側部上に倒れ込んだ歩行者Pの同側部からの落下が起こりにくくなる。
【0057】
図4に示すように、フロントフェンダ15が第2の位置(II)まで回動すると、両リンク28,29が一直線状となり、それ以上の、すなわち第2の位置(II)を越えてのフロントフェンダ15の外側方への回動が規制される。この第2の位置(II)では、フロントフェンダ15の上端部15Aがフードパネル18の側縁部18Aから外側方へ大きく離間する。
【0058】
また、このときには、フロントフェンダ15の上端部15Aは外側方へ遠ざかるが上方へは遠ざからない。上述した特許文献1とは異なり、フロントフェンダ15の上端部15Aがフードパネル18よりも高くなって突起物となることもない。歩行者Pがフロントボディ12の側部上に倒れ込んだとしても、フロントフェンダ15がその歩行者Pに及ぼす影響は、フロントフェンダ15の上端部15Aがフードパネル18よりも高くなる場合に比べ小さい。
【0059】
なお、移動機構20によるフロントフェンダ15の上記移動に際しては、同フロントフェンダ15の下方側の部位は移動しない。
また、衝撃を検出していない衝撃センサ53に対応するアクチュエータ30へは制御装置54から駆動信号が出力されない。このアクチュエータ30では、ピストン32がシリンダ31内に没入し続ける。そのため、屈曲部17の溝部25に嵌合した状態が続き、フロントフェンダ15が第1の位置(I)に保持される。
【0060】
一方、上記のように車両11の歩行者Pとの接触に伴う衝撃がいずれかの衝撃センサ53によって検出されると、図3に示すように、その検出信号に基づき制御装置54から、衝撃を検出した衝撃センサ53に対応するインフレータ49に対し点火信号が出力される。この点火信号に応じインフレータ49から膨張用ガスが噴出され、同膨張用ガスがエアバッグ48に供給される。この膨張用ガスにより、エアバッグ48が折り状態を解消(展開)しながら膨張を開始する。この膨張を開始したエアバッグ48は蓋体43を上方へ押圧する。図5に示すように、エアバッグ48は蓋体43の破断予定部46を破断させ、ヒンジ部47を支点として扉部44を回動させる。このようにしてエアバッグ48は扉部44を押し開き、上端開口部42Aから上方に向かって突出する。エアバッグ48は、上記移動機構20によりフードパネル18及びフロントフェンダ15間に生じた開口Aを塞ぐとともに、フードパネル18の側部及びフロントフェンダ15の上部を上方から覆う。
【0061】
そのため、フロントボディ12の側部上に倒れ込んだ歩行者Pは、フロントフェンダ15及びフードパネル18間の開口Aにおいては、膨張したエアバッグ48によって受け止められる。このエアバッグ48の受け止めにより、倒れ込んだときに歩行者Pが受ける衝撃が緩和される。また、上記開口Aに歩行者Pが入り込む現象も、同開口Aを塞ぐエアバッグ48によって抑制される。
【0062】
さらに、膨張したエアバッグ48の一部は、移動機構20により移動させられたフロントフェンダ15の上端部15Aよりも高くなっている。この部分は、フードパネル18の側部上に倒れ込んだ歩行者Pの外側方への移動を規制する。従って、歩行者Pがフロントボディ12の側部から落下する現象がエアバッグ48によっても抑制される。また、倒れ込んだ歩行者Pが、アッパサイドメンバ13及びロアサイドメンバ14の配置により実質的に剛性の高くなったフロントフェンダ15に直接接触する現象は、エアバッグ48においてフロントフェンダ15を上側から覆う部分によって抑制される。
【0063】
なお、このとき、衝撃を検出していない衝撃センサ53に対応するインフレータ49に対しては制御装置54から点火信号が出力されない。インフレータ49からガスが噴出されず、エアバッグ48は展開膨張しない。
【0064】
以上詳述した第1実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)車両11の歩行者Pとの干渉に応じ、フロントフェンダ15の少なくとも上端部15Aを移動機構20によりフードパネル18から外側方へ遠ざけている(図4参照)。そのため、フロントボディ12の上部を実質的に拡幅された状態にし、フロントボディ12の側部上に倒れ込んだ歩行者Pの同側部からの落下を起こりにくくすることができる。また、フロントフェンダ15が突起物とならないようにし、倒れ込んだ歩行者Pに及ぼす影響を小さくすることができる。
【0065】
また、フロントボディ12の側部上に倒れ込んだ歩行者Pを、エアバッグ48によりフードパネル18及びフロントフェンダ15間で拘束するようにしている(図5参照)。そのため、歩行者Pが倒れ込んだときの衝撃をエアバッグ48によって緩和することができる。
【0066】
(2)フロントフェンダ15の下端部を回動軸23によりロアサイドメンバ14に支持している。そして、移動機構20により、フロントフェンダ15を、その上端部15Aがフードパネル18に接近した第1の位置(I)から、同上端部15Aがフードパネル18から外側方に離間した第2の位置(II)まで回動させるようにしている(図2、図4参照)。そのため、フロントフェンダ15の下方側の部位を移動させる機構を不要にし、その分、歩行者保護装置の構成を簡略化することができる。
【0067】
(3)歩行者拘束手段として、車両11の歩行者Pとの干渉に応じて膨張し、かつ移動機構20により移動させられたフロントフェンダ15及びフードパネル18間の開口Aを塞ぐエアバッグ48を用いている(図3、図5参照)。そのため、フロントボディ12の側部上に倒れ込んだ歩行者Pをエアバッグ48によって受け止めて衝撃を緩和することができる。また、開口Aに歩行者Pが入り込む現象をエアバッグ48によって抑制することができる。
【0068】
(4)エアバッグ48の一部を、移動機構20により移動させられたフロントフェンダ15の上端部15Aよりも高い位置まで膨張させるようにしている(図5参照)。そのため、倒れ込んだ歩行者Pがフロントボディ12の側部(フロントフェンダ15)から落下する現象をエアバッグ48によっても抑制することができる。
【0069】
(5)左右両フロントフェンダ15の一方に設けられた移動機構20及びエアバッグ装置40を、他方に設けられた移動機構20及びエアバッグ装置40から独立した状態で作動させるようにしている。そのため、車両11の歩行者Pとの干渉に応じ、歩行者保護の必要な側のフロントフェンダ15のみを移動させ、歩行者保護の必要のない側のフロントフェンダ15の不要な移動を防止することができる。
【0070】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態について、図6及び図7を参照して説明する。
第2実施形態では、歩行者拘束手段として、エアバッグ装置40に代え、網又は布帛からなる弛張架設部60が用いられている。弛張架設部60の一方の端部61は、フードパネル18の側縁部18Aに固定されている。弛張架設部60の他方の端部62は、フロントフェンダ15の上部(本実施形態では内壁部16)に固定されている。この弛張架設部60は、車幅方向については、フロントフェンダ15が第2の位置(II)まで回動したとき、同フロントフェンダ15の上端部15Aとフードパネル18の側縁部18Aとの間でたるんだ状態となる長さを有している。弛張架設部60は、車両11の歩行者Pとの非干渉時には、アッパサイドメンバ13及び係止部24よりも車内側に位置している。なお、弛張架設部60は、第1実施形態とは異なり、制御装置54による制御の対象とはなっていない。
【0071】
上述した以外の構成は第1実施形態と同様である。そのため、第1実施形態と同様の部材及び箇所については同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
上記構成を有する第2実施形態では、車両11の歩行者Pとの干渉時における歩行者拘束手段(弛張架設部60)による歩行者Pの拘束態様が上記第1実施形態と異なる。
【0072】
車両11の歩行者Pとの干渉に応じ、移動機構20によりフロントフェンダ15の上端部15Aがフードパネル18から外側方へ遠ざかるように移動させられると、それに伴って弛張架設部60が引っ張られる。フロントフェンダ15が第2の位置(II)まで回動したときには、弛張架設部60はフードパネル18及びフロントフェンダ15間であって、アッパサイドメンバ13及び係止部24から離間した箇所においてたるんだ状態となる。フロントボディ12の側部上に倒れ込んだ歩行者Pは、フードパネル18及びフロントフェンダ15間の開口Aに入り込んだ状態で、上記のようにたるんだ弛張架設部60によって受け止められる。倒れ込んだときに歩行者Pが受ける衝撃は、この弛張架設部60によって緩和される。また、歩行者Pは、上記開口Aに入り込んだ状態で拘束される。
【0073】
従って、第2実施形態によれば、第1実施形態における上記(1),(2),(5)と同様の効果が得られるほか、次の(6),(7)の効果も得られる。
(6)網又は布帛からなり、かつフードパネル18の側縁部18Aとフロントフェンダ15の上端部15Aとの間に架設された弛張架設部60を歩行者拘束手段としている。そのため、フロントボディ12の側部上に倒れ込んだ歩行者Pを弛張架設部60によって受け止め、倒れ込んだときに歩行者Pが受ける衝撃を緩和することができる。
【0074】
(7)弛張架設部60を、フロントフェンダ15が移動機構20により移動させられたとき、フードパネル18とフロントフェンダ15との間でたるんだ状態となるように架設している。そのため、倒れ込んだ歩行者Pを弛張架設部60によって受け止めて衝撃を緩和することができるだけでなく、歩行者Pを、開口Aに入り込んだ状態で拘束でき、フロントボディ12の側部から落下しにくくすることができる。
【0075】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
・エアバッグ48が展開膨張を完了したときの形態を、上記第1実施形態とは異なるものに変更してもよい。この形態は、最低限、移動機構20により移動させられたフロントフェンダ15とフードパネル18との間の開口Aを塞ぐものであればよい。従って、上記エアバッグ48の形態は、フードパネル18の側部、及びフロントフェンダ15の上部のいずれか一方、又は両方を覆わないものであってもよい。
【0076】
・第1実施形態におけるエアバッグ48は単一の膨張部によって構成されてもよいし、前後方向に配列された複数の膨張部によって構成されてもよい。後者の場合、複数の膨張部は互いに独立して設けられたものであってもよいし、エアバッグ48の内部空間が前後方向の複数箇所で仕切られたものであってもよい。
【0077】
・第1実施形態において、車両11の歩行者Pとの接触を衝撃センサ53によって検出した場合、全て(左右両方)の移動機構20及び全て(左右両方)のエアバッグ装置40を作動させるようにしてもよい。
【0078】
・第2実施形態において、フロントフェンダ15が移動機構20により移動させられたとき、弛張架設部60が緊張した状態となるように、同弛張架設部60を、フードパネル18及びフロントフェンダ15に取付けてもよい。
【0079】
・第2実施形態において、車両11の歩行者Pとの接触を衝撃センサ53によって検出した場合、全て(左右両方)の移動機構20を作動させるようにしてもよい。
・第2実施形態では、弛張架設部60の長さによっては、この弛張架設部60がフードパネル18の開閉を妨げるおそれがある。この場合には、例えば、弛張架設部60の一方の端部61をフードパネル18に脱着可能に取付ける、又は他方の端部62をフロントフェンダ15に脱着可能に取付ける。そして、エンジンルームの点検等のためにフードパネル18を開く際には、端部61をフードパネル18から取り外す、又は端部62をフロントフェンダ15から取り外す。また、フードパネル18を閉める際に、端部61をフードパネル18に取付ける、又は端部62をフロントフェンダ15に取付けるようにしてもよい。
【0080】
また、フードパネル18の開閉に連動して、弛張架設部60の端部61(又は62)をフードパネル18(又はフロントフェンダ15)に対し脱着する機構を設けてもよい。
・第1及び第2の両実施形態において、フロントフェンダ15は、その下方側の部位において、回動軸23により支持されていればよい。従って、フロントフェンダ15は、上記実施形態とは異なり、下端部よりも若干上側の部位において回動軸23により支持されてもよい。
【0081】
・第1及び第2の両実施形態において、移動機構20は、車両11の歩行者Pとの干渉に応じ、フロントフェンダ15の全体を、すなわち、上端部15Aだけでなく下端部も含めたフロントフェンダ15全体を、フードパネル18から外側方へ遠ざかるように移動(平行移動)させるものであってもよい。この場合にも、第1及び第2の両実施形態と同様、シリンダ31及びピストン32を備えたアクチュエータ30を用い、ピストン32をシリンダ31から突出させることにより、フロントフェンダ15の全体をフードパネル18から外側方へ遠ざかるように移動させてもよい。
【0082】
・アクチュエータ30を、第1及び第2の両実施形態とは異なる態様で配置してもよい。例えば、シリンダ31をフロントフェンダ15に連結(固定)し、ピストン32を、フロントボディ12のフロントフェンダ15とは異なる箇所、例えばアッパサイドメンバ13に動力伝達可能に連結してもよい。
【0083】
・第1及び第2の両実施形態において、衝撃センサ53に代えて干渉予測用センサを用いる。この干渉予測用センサの検出結果に基づき、車両11が走行中に歩行者Pと接触する可能性が高いことを予測したときに、すなわち、車両11の歩行者Pとの接触が不可避であると判断したときに、移動機構20によるフロントフェンダ15の移動及び歩行者拘束手段による歩行者Pの拘束を行うようにしてもよい。
【0084】
上記干渉予測用センサとしては、例えばミリ波レーダ等を用いることができる。ミリ波レーダは、数ミリメートルの波長を有する電波(ミリ波)を車両11(自車)の前方へ出射することで、同方向に位置する対象物、ここでは歩行者Pから反射してきた電波を受信し、伝搬時間やドップラー効果によって生じる周波数差等を基に、歩行者Pの位置や車両11(自車)との相対速度を測定する。従って、干渉予測用センサによる測定結果に基づき、車両11の歩行者Pとの接触を予測可能である。
【0085】
・本発明は、車両11の歩行者Pとの干渉に応じ、フードパネル18を跳ね上げるようにした車両11にも適用可能である。
このようにすると、第1実施形態では、跳ね上げに伴いフードパネル18とフロントフェンダ15との間の開口Aが拡大されるため、エアバッグ48をエンジンルームの外部へより容易に膨張展開させることが可能となる。
【0086】
・本発明は、前部に設けたヒンジを中心として上下方向へ傾動させるようにした、いわゆる後開きタイプのフードパネルが設けられた車両にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態において、歩行者保護装置が搭載された車両のフロントボディを示す部分平面図。
【図2】図1における2−2線に沿ったフロントボディ側部の断面構造を示す部分断面図。
【図3】図1における3−3線に沿ったフロントボディ側部の断面構造を示す部分断面図。
【図4】図2の状態から移動機構によりフロントフェンダが第2の位置まで回動させられた状態を示す部分断面図。
【図5】図3の状態からエアバッグが膨張させられた状態を示す部分断面図。
【図6】歩行者拘束手段としてエアバッグに代えて弛張架設部を用い、同弛張架設部をフードパネル及びフロントフェンダ間に架設した第2実施形態において、図3に対応する部分断面図。
【図7】図6の状態から移動機構によりフロントフェンダが回動させられて弛張架設部が張られた状態を示す部分断面図。
【符号の説明】
【0088】
11…車両、12…フロントボディ、15…フロントフェンダ、15A…上端部、18…フードパネル、20…移動機構、23…回動軸、30…アクチュエータ、31…シリンダ、32…ピストン、40…エアバッグ装置(歩行者拘束手段)、48…エアバッグ、60…弛張架設部(歩行者拘束手段)、A…開口、P…歩行者。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントボディの車幅方向についての両側部をフロントフェンダにより構成し、前記両フロントフェンダの上端部間をフードパネルにより構成した車両に適用される歩行者保護装置であって、
前記フロントフェンダ毎に設けられ、前記車両の歩行者との干渉に応じ、同フロントフェンダの少なくとも上端部を前記フードパネルから外側方へ遠ざかるように移動させる移動機構と、
前記移動機構により移動させられた前記フロントフェンダ及び前記フードパネル間で歩行者を拘束する歩行者拘束手段と
を備えることを特徴とする歩行者保護装置。
【請求項2】
前記フロントフェンダは、その下方側の部位において、車両前後方向に延びる回動軸により支持されており、
前記移動機構は、前記フロントフェンダを、その上端部が前記フードパネルに接近した第1の位置から、同上端部が前記フードパネルから外側方に離間した第2の位置まで回動させるものである請求項1に記載の歩行者保護装置。
【請求項3】
前記移動機構は、
前記フロントフェンダと、前記フロントボディの前記フロントフェンダとは異なる箇所とについて、その一方に連結されたシリンダと、他方に動力伝達可能に連結され、かつ前記シリンダに出没可能に設けられたピストンとを備えたアクチュエータを有し、
前記ピストンを前記シリンダから突出させることにより、前記フロントフェンダの少なくとも上端部を前記フードパネルから外側方へ遠ざかるように移動させるものである請求項1又は2に記載の歩行者保護装置。
【請求項4】
前記歩行者拘束手段は、前記車両の前記歩行者との干渉に応じて膨張し、かつ前記移動機構により移動させられた前記フロントフェンダ及び前記フードパネル間の開口を塞ぐエアバッグを備える請求項1〜3のいずれか1つに記載の歩行者保護装置。
【請求項5】
前記エアバッグは、前記移動機構により移動させられた前記フロントフェンダの上端部よりも高い位置まで膨張するものである請求項4に記載の歩行者保護装置。
【請求項6】
前記歩行者拘束手段は、網又は布帛からなり、かつ前記フードパネル及び前記フロントフェンダ間に架設され、前記移動機構による前記フロントフェンダの移動に応じて弛張する弛張架設部を備える請求項1〜3のいずれか1つに記載の歩行者保護装置。
【請求項7】
前記弛張架設部は、前記フロントフェンダが前記移動機構により移動させられたとき、前記フードパネルと同フロントフェンダとの間でたるんだ状態となるように架設されている請求項6に記載の歩行者保護装置。
【請求項8】
前記両フロントフェンダの一方に設けられた前記移動機構及び前記歩行者拘束手段は、他方に設けられた前記移動機構及び前記歩行者拘束手段から独立した状態で作動させられるものである請求項1〜7のいずれか1つに記載の歩行者保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−23492(P2009−23492A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188305(P2007−188305)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】