説明

歩行者検知システム

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、歩行者を検知して歩行者事故の未然防止を図る歩行者検知システムに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、自動車の安全性向上の観点から、種々のセンサを取り付けて事故を未然に防止することが行われている。具体的には、自動車の特にドライバの死角となる箇所に超音波センサを取り付けて自動車周辺の障害物を検知するようにしたり、走行中における先行車両との車間距離を検出するレーザレーダを自動車に搭載し、車間距離が所定値にまで接近したときに警報を発するようにして追突を未然に防止するようにしたものなどがある。
【0003】ところが、これらは道路構造物や固定物、車両などを検知対象とし、歩行者を対象としていない。最近では、特に歩行者事故の防止に対する関心が高まっており、歩行者を検知するシステムが種々提案されている。具体的には、特開平9−328054号公報に記載のものがある。
【0004】この種の歩行者検知システムは、例えば図4R>4に示すように構成され、フレネルレンズ1と焦電型赤外線センサ2との組み合わせから成る赤外線検出手段3を自動車の車体に取り付け、フレネルレンズ1を介して赤外線センサ2の前方における対象物からの放射赤外線を検出し、赤外線センサ2の出力信号を信号処理手段4により処理してその対象物が歩行者であるかどうかを判断し、歩行者であると判断されるときに、ブザーや警告ランプ等の報知手段5により近辺における歩行者の存在を報知するようになっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記した従来の歩行者検知システムの場合、赤外線センサ2の前方を通過する対象物が歩行者であるか否かに関係なく、赤外線センサ2の出力信号が変化してその変化の周波数が所定範囲に入っていれば、その対象物を全て歩行者であると判断するため、信頼性に欠けるという問題がある。
【0006】この発明が解決しようとする課題は、信頼性の高い歩行者検知を行えるようにすることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】 上記した課題を解決するために、本発明は、フレネルレンズ及び赤外線センサの組み合わせから成り自動車の車体に取り付けられ前記フレネルレンズを介して扇子の骨状の検出エリアを有す前記赤外線センサ前方の対象物からの放射赤外線を検出する赤外線検出手段と、前記赤外線センサの出力信号を処理して前記対象物が歩行者であるかどうかを判断する信号処理手段とを備えた歩行者検知システムにおいて、前記信号処理手段は、前記赤外線センサの出力信号の周波数を検出して所定の周波数範囲で変化するかどうかを判定する信号周波数判定部と、前記赤外線センサの出力信号の波数を検出して所定数以上であるかどうかを判定する波数判定部とにより構成され、前記信号周波数判定部により前記赤外線センサの出力信号の周波数が所定の周波数範囲であると判定され、かつ前記波数判定部により前記赤外線センサの出力信号の波数が所定数以上であると判定されるときに、前記対象物が歩行者であると判断することを特徴としている。
【0008】このような構成によれば、フレネルレンズと赤外線センサとを組み合わせることで、センサの検出エリアは扇子の骨状になる。そのため、このような検出エリアを有する赤外線センサの前方を歩行者が横切ったときには、歩行者が検出エリア内に入ると赤外線センサの出力信号はハイレベル、歩行者が検出エリアと隣接する検出エリアとの間の非検出エリア内に入ると赤外線センサの出力信号はローレベルとなるため、歩行者の歩行速度に対応した周波数で赤外線センサの出力信号が変化する。このときの周波数は、ほぼ2〜5Hzの範囲に入る。
【0009】一方、自動車が赤外線センサの前方を横切ったときには、自動車のエンジンルーム周辺は高温であるため赤外線センサが反応する。そして、自動車の車体は、扇子の骨状に分布する赤外線センサの検出エリアのいくつかにまたがり、しかも歩行者の速度よりも高速で通過することから、変化する赤外線センサの出力信号の波数は歩行者の場合と比べて、遙かに少ない。そのため、自動車が横切ったときの赤外線センサの出力信号の周波数が、歩行者の場合と同じ2〜5Hzの範囲に入っても、赤外線センサの出力信号の波数が歩行者の場合と大きく異なる。
【0010】従って、赤外線センサの出力信号が予め定めた所定周波数の範囲で変化すること、及び赤外線センサの出力信号の波数が所定値以上であることを検出すれば、そのときの赤外線センサの出力が歩行者の通過によるものであると容易に判断でき、歩行者の検知を確実に行うことが可能になる。
【0011】また、本発明は、前記信号処理手段により前記対象物が歩行者であると判断されたときに、周辺での歩行者の存在を報知する報知手段を備えていることを特徴としている。
【0012】このようにすれば、報知手段の報知により容易に歩行者の存在を知ることができ、歩行者事故を未然に防止することが可能になる。
【0013】更に、本発明は、前記赤外線センサが、焦電型赤外線センサから成ることを特徴としている。
【0014】こうすると、焦電型赤外線センサが対象物の放射する赤外線の変化を検出できることから、フレネルレンズとの組み合わせによる赤外線検出手段を構成するのに好適である。
【0015】
【発明の実施の形態】この発明の一実施形態について図1R>1ないし図3を参照して説明する。但し、図1はブロック図、図2及び図3は動作説明図である。
【0016】図1において、11はフレネルレンズ、12は焦電型赤外線センサであり、フレネルレンズ11との組み合わせにより赤外線検出手段13を構成し、このような赤外線検出手段13が自動車の車体の所定箇所に取り付けられ、フレネルレンズ11を介して赤外線センサ12の前方における対象物からの放射赤外線を検出する。
【0017】更に図1において、14は赤外線センサ12からの信号が入力されこの赤外線センサ12の出力信号を処理してその対象物が歩行者であるかどうかを判断する信号処理手段、15は報知手段であり、ブザーや警告ランプ等から成り、信号処理手段14により対象物が歩行者であると判断されるときに、報知手段15が動作して近辺における歩行者の存在をドライバ等に報知するようになっている。
【0018】このとき、図2に示すように、フレネルレンズ11を用いたときの赤外線センサ12の検出エリアAは例えば扇子の骨状に広がって分布するため、各検出エリアAを歩行者が通過したときに赤外線センサ12からハイレベルの出力信号が出力され、隣接する検出エリアAの間を歩行者が通過するときには、赤外線センサ12の出力信号はローレベルとなる。従って、歩行者が赤外線センサ12の前方を横切ると、図2に示すように、ある周波数で変化する信号が赤外線センサ12から出力されることになる。このときの赤外線センサ12の出力信号の周波数は、ほぼ2〜5Hzの範囲に入る。
【0019】ところで、自動車が赤外線センサ12の前方を横切った場合には、自動車のエンジンルーム周辺は高温であるため、その放射赤外線を赤外線センサ12が検知して反応する。このように、自動車が赤外線センサ12の前方を横切ったときには、図3に示すように、自動車の車体が扇子の骨状に分布する赤外線センサ12の検出エリアAのいくつか(図3では3つ)にまたがり、しかも歩行者の速度よりも高速で通過することから、変化する赤外線センサ12の出力信号の波数は歩行者の場合と比べて、遙かに少ない。
【0020】そのため、自動車が横切ったときの赤外線センサ12の出力信号の周波数が、歩行者の場合と同じ2〜5Hzの範囲に入ったとしても、赤外線センサ12の出力信号の波数が歩行者の場合と大きく異なる。例えば、赤外線センサ12の検出エリアAを図2に示すように4個とすると、歩行者の場合の波数は検出エリアAの個数と同じ4個であるのに対して、自動車の場合にはせいぜい1〜2個となる。
【0021】そこで信号処理手段14は、赤外線センサ12の出力信号の周波数を検出して所定の周波数範囲(例えば2〜5Hz)で変化するかどうかを判定する信号周波数判定部14aと、赤外線センサ12の出力信号の波数を検出して所定数(例えば3個)以上であるかどうかを判定する波数判定部14bとにより構成され、信号周波数判定部14aにより赤外線センサ12の出力信号の周波数が所定周波数範囲であると判定され、かつ波数判定部14bにより赤外線センサ12の出力信号の波数が所定数以上であると判定されるときに、その対象物は歩行者であると判断するようになっている。
【0022】このとき、信号周波数判定部14aによる周波数の検出は、対象物が赤外線センサ12の最初の検出エリアAに入り始めてから最後の検出エリアAを出ていくまでの検出時間と、その間における出力信号のレベルの変化から算出することができる。この検出時間内における出力信号の例えばローレベルからハイレベル更にローレベルへの変化が1個の波数に相当する。
【0023】従って、上記した実施形態によれば、信号処理手段14の信号周波数判定部14aにより、赤外線センサ12の出力信号の周波数が所定周波数範囲であるか否かを判定し、信号処理手段14の波数判定部14bにより、赤外線センサ12の出力信号の波数が所定値以上であるか否かを判定するため、赤外線センサ12の出力信号の周波数が所定周波数範囲であり、かつ波数が所定値以上であると判定されるときの赤外線センサ12の出力が歩行者に起因するものであると容易に判断でき、周波数または波数のいずれかが条件を満たさないときは歩行者以外によるものであると判断できる。そのため、歩行者とそれ以外とを明確に区別して検知することができ、歩行者検知を確実に行うことが可能になる。
【0024】また、ドライバは報知手段15の報知により容易に歩行者の存在を知ることができ、歩行者事故を未然に防止することが可能になる。
【0025】なお、上記した実施形態では、赤外線センサを焦電型赤外線センサ12とした場合について説明したが、サーモパイル型赤外線センサを用いてもよい。この場合、サーモパイル型赤外線センサの出力のうち、人間の体温(36〜37℃)程度のしきい値以下を抽出することで、自動車のボンネットや白熱灯等の発熱体からの放射赤外線を除去して人体からの放射赤外線のみを効果的に処理することが可能になるが、自動車のボンネットの温度がしきい値以下で人間と区別できない場合であっても、サーモパイル型赤外線センサの出力信号の周波数及び波数を上記したように調べることで歩行者とそれ以外とを識別することができる。
【0026】更に、上記した実施形態では、歩行者を検出したときのみ報知手段15により報知するようにしたが、歩行者を検出したとき及びしないときの両方を区別して報知するようにしてもよいのは勿論であり、この場合ドライバは歩行者の有無を確実に把握することが可能になる。
【0027】また、信号処理手段14により歩行者が検出されるときに、例えばブレーキを強制作動させるなどの措置を採る発進規制手段を設け、ドライバが報知手段15の報知にもかかわらず誤って発進してしまうことを防止するようにしてもよいのは勿論である。
【0028】更に、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。
【0029】
【発明の効果】以上のように、請求項1に記載の発明によれば、赤外線センサの出力信号が予め定めた所定周波数の範囲で変化すること、及び赤外線センサの出力信号の波数が所定値以上であることを検出すれば、そのときの赤外線センサの出力が歩行者によるものであると容易に判断することができ、歩行者の検知を確実に行うことが可能になり、信頼性の高い歩行者検知を行うことができる。
【0030】また、請求項2に記載の発明によれば、報知手段の報知により容易に歩行者の存在を知ることができ、歩行者事故を未然に防止することが可能になる。
【0031】また、請求項3に記載の発明によれば、焦電型赤外線センサが対象物の放射する赤外線の変化を検出できることから、フレネルレンズとの組み合わせによる赤外線検出手段を構成するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施形態のブロック図である。
【図2】一実施形態の動作説明図である。
【図3】一実施形態の動作説明図である。
【図4】従来例のブロック図である。
【符号の説明】
11 フレネルレンズ
12 焦電型赤外線センサ
13 赤外線検知手段
14 信号処理手段
14a 信号周波数判定部
14b 波数判定部
15 報知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】 フレネルレンズ及び赤外線センサの組み合わせから成り自動車の車体に取り付けられ前記フレネルレンズを介して扇子の骨状の検出エリアを有する前記赤外線センサ前方の対象物からの放射赤外線を検出する赤外線検出手段と、前記赤外線センサの出力信号を処理して前記対象物が歩行者であるかどうかを判断する信号処理手段とを備えた歩行者検知システムにおいて、前記信号処理手段は、前記赤外線センサの出力信号の周波数を検出して所定の周波数範囲で変化するかどうかを判定する信号周波数判定部と、前記赤外線センサの出力信号の波数を検出して所定数以上であるかどうかを判定する波数判定部とにより構成され、前記信号周波数判定部により前記赤外線センサの出力信号の周波数が所定の周波数範囲であると判定され、かつ前記波数判定部により前記赤外線センサの出力信号の波数が所定数以上であると判定されるときに、前記対象物が歩行者であると判断することを特徴とする歩行者検知システム。
【請求項2】 前記信号処理手段により前記対象物が歩行者であると判断されたときに、周辺での歩行者の存在を報知する報知手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の歩行者検知システム。
【請求項3】 前記赤外線センサが、焦電型赤外線センサから成ることを特徴とする請求項1または2に記載の歩行者検知システム。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【特許番号】特許第3431498号(P3431498)
【登録日】平成15年5月23日(2003.5.23)
【発行日】平成15年7月28日(2003.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−163264
【出願日】平成10年6月11日(1998.6.11)
【公開番号】特開平11−353595
【公開日】平成11年12月24日(1999.12.24)
【審査請求日】平成13年3月14日(2001.3.14)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【参考文献】
【文献】特開 平9−328054(JP,A)
【文献】特開 平9−318765(JP,A)
【文献】特開 平9−73596(JP,A)
【文献】実開 昭58−12884(JP,U)