説明

歩行補助器

【課題】支柱の折り畳み動作とは別に前輪の向きをロックする。直進歩行の安定性と自立状態の安定性との両方を確保する。操作を簡単にする。
【解決手段】前輪4となるキャスタが取り付けられている左右一対の車輪フレーム6と、左右一対の車輪フレーム6に支持されるベースと、ベースに対して折り畳み可能に取り付けられた支柱と、前輪4の向きを固定するロック手段34とを備え、前輪4は、支柱を折り畳んで車輪フレーム6をその前端6aを接地させながら起立させた自立状態で地面に当たるように車輪フレーム6に取り付けられており、ロック手段34は、前輪4の向きを歩行状態における直進する向きに固定する直進ロック状態と自立状態で車輪フレーム6を支える向きに固定する自立ロック状態とを有すると共に、2つのロック状態を1つの操作手段30によって操作可能にしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老人や身体の不自由な人等の歩行を補助する歩行補助器に関する。更に詳しくは、本発明は、前輪がキャスタであり、支柱を折り畳んだ状態で車輪フレームを起立させて自立させることが可能な歩行補助器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前輪にキャスタを採用する歩行補助器として、支柱を折り畳んで自立させた状態の安定性を確保するために前輪の向きをロックするものがある(例えば、特許文献1)。この歩行補助器は、ハンドルが取り付けられた支柱を車輪フレームに支持されたベースに対して折り畳み可能とし、支柱の折り畳み動作に連動して前輪(キャスタ)の向きを自動的にロックするもので、わざわざ手動で前輪の向きをロックする必要がなく便利である。
【0003】
歩行補助器の高さは支柱を折り畳む(支柱を倒す)ことで低くなり、コンパクトにすることができる。そのため、支柱を折り畳んでそのまま邪魔にならない場所に置いておくこともできるし、支柱を折り畳んだ後、更に後輪を持ち上げるようにして起立させて左右の車輪フレーム前端(2点)と左右の前輪(2点)との4点支持で自立させることもできる。自立状態では更に狭い場所に置いておくことができる。
【0004】
なお、歩行補助器の前輪に使用されるロック機構の一般的なものとしては、例えば特許文献2に開示されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−237594号公報
【特許文献2】特開2010−18079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の歩行補助器では、自立時の前輪の向きのロックを使用者がわざわざ手動で操作する必要がないので便利ではあるが、その反面、支柱の折り畳み動作と前輪のロック動作とを切り離して別々に操作することができない。例えば、支柱を折り畳んでそのまま寝かせた状態で保管する場合等には前輪の向きをロックする必要がなく、物と物との間の低くて狭いスペース等に移動させて保管する場合にはむしろ前輪の向きが変わるようにした方が移動させ易くて扱い易いこともある。
【0007】
また、上述の歩行補助器は歩行時に前輪の向きをロックすることができず、直進安定性に劣る。ここで、前輪の向きをロックするロック機構として、自立安定性のためのロック機構の他に直進歩行用のロック機構を追加することも考えられるが、2つのロック機構を別々の操作手段によって操作するのでは操作が煩わしくなり使い勝手に劣る。
【0008】
本発明は、支柱の折り畳み動作とは別に前輪の向きをロックすることができると共に、直進歩行の安定性と自立状態の安定性との両方を確保することができ、且つ、操作が簡単な歩行補助器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、請求項1記載の歩行補助器は、前輪となるキャスタが取り付けられている左右一対の車輪フレームと、左右一対の車輪フレームに支持されるベースと、ベースに対して折り畳み可能に取り付けられた支柱と、前輪の向きを固定するロック手段とを備え、前輪は、支柱を折り畳んで車輪フレームをその前端を接地させながら起立させた自立状態で地面に当たるように車輪フレームに取り付けられており、ロック手段は、前輪の向きを歩行状態における直進する向きに固定する直進ロック状態と自立状態で車輪フレームを支える向きに固定する自立ロック状態とを有すると共に、2つのロック状態を1つの操作手段によって操作可能にしたものである。
【0010】
また、請求項2記載の歩行補助器は、直進ロック状態の前輪の向きと自立ロック状態の前輪の向きを同一にしている。
【0011】
また、請求項3記載の歩行補助器は、ロック手段を、車輪フレームと前輪のいずれか一方に設けられた凸部といずれか他方に設けられた凹部との嵌め合いによって前輪の向きを固定するようにしている。
【0012】
また、請求項4記載の歩行補助器は、操作手段が、凸部を凹部に挿入する方向に常時付勢するばねと、凸部に設けられたカムフォロアと、カムフォロアが移動するカム面が設けられたカムと、カムを移動させる操作部材とを備えており、カム面には、カムフォロアを凹部から離れる方向に移動させることでばねの力に抗して凹部から凸部を引き抜くロック解除位置が設けられており、ばねとカムフォロアとカムは車輪フレーム内に収容されているものである。
【0013】
さらに、請求項5記載の歩行補助器は、カム面には、カムフォロアのロック解除位置からの外れを防止する外れ防止部が設けられているものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、ロック手段の操作手段を操作して前輪の向きを前方に直進する向きに固定する、即ちロック手段を直進ロック状態にすることで、歩行時の振動や突起への乗り上げ等によって前輪の向きがふらつくのを防止することができ、歩行補助器の直進安定性を向上させることができる。また、折り畳み時にロック手段の操作手段を操作して前輪の向きを車輪フレームを支える向きに固定する、即ちロック手段を自立ロック状態にすることで、起立させた車輪フレームを前輪によってしっかりと支持することができ、自立時の安定性を向上させることができる。そして、直進ロック状態と自立ロック状態を1つの操作手段によって操作できるので、2系統の操作手段を設ける場合に比べて、部品点数の増加を抑えることができ、製造コストの増加を抑制することができると共に、操作が複雑で煩わしいものになるのを防止して使い勝手を向上させることができる。しかも、使用者によって操作される操作手段によってロック状態を操作するので、支柱の折り畳み動作とは別にロック手段を操作することができ、前輪の向きのロック・ロック解除を使用者の意志に応じたものにすることができる。
【0015】
また、請求項2記載の発明によれば、歩行時の直進安定性と自立時の安定性を確保できる前輪の向きが同一であるので、前輪の向きの固定位置が1つで足り、ロック手段の構造が簡単なものになり、製造コストの増加を抑えることができる。また、歩行時と自立時とでロック手段のロック状態を切り換える必要がなくなり、操作が煩わしいものになるのを防止して使い勝手をより一層向上させることができる。
【0016】
また、請求項3記載の発明によれば、ロック手段を凹凸の嵌め合いによって前輪の向きを固定する構造にしているので、ロック手段が簡単な構造となり、製造コストの増加を更に抑制することができる。
【0017】
また、請求項4記載の発明によれば、ロック手段の操作手段が簡単な構造となり、製造コストの増加を更に抑制することができると共に、信頼性の高い構造でもあるので確実にロックを行うことができる。また、ばね、カムフォロア、カムを車輪フレーム内に収容することでこれらを隠すことができ、外観の悪化を防いでデザイン性を向上させることができる。
【0018】
さらに、請求項5記載の発明によれば、振動等によるカムフォロアのロック解除位置からの外れをより一層確実に防止することができる。また、操作手段を操作している者にカムフォロアが凸状の外れ防止部を乗り越える際の抵抗感が伝わるので、カムフォロアがロック解除位置から外れたことを知ることができ、操作の感覚が良くなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の歩行補助器の実施形態の一例を示す斜視図である。
【図2】同歩行補助器の側面図である。
【図3】同歩行補助器の底面図である。
【図4】同歩行補助器の支柱を折り畳んだ状態を示す側面図である。
【図5】同歩行補助器を自立させた状態を示す斜視図である。
【図6】同歩行補助器の支柱を伸ばした状態を示す斜視図である。
【図7】前輪の向きを固定するロック手段を示し、ロックを解除している状態の縦断面図である。
【図8】前輪の向きを固定するロック手段を示し、ロックを解除している状態を拡大した横断面図である。
【図9】前輪の向きを固定するロック手段を示し、ロックしている状態を拡大した縦断面図である。
【図10】前輪の向きを固定するロック手段を示し、ロックしている状態を拡大した横断面図である。
【図11】ロックピンの大径部とホルダのガイド用円筒部の形状を示す断面図である。
【図12】支柱をベースに取り付ける様子を示し、支柱を立てた状態の断面図である。
【図13】支柱をベースに取り付ける様子を示し、支柱を寝かせた状態の断面図である。
【図14】支柱をベースに取り付ける様子を示す分解斜視図である。
【図15】ベースを車輪フレームに取り付ける様子を示す分解斜視図である。
【図16】支柱下端の円筒部の構造を示す分解斜視図である。
【図17A】ハンドルが最下位の位置でロックされている状態を後側から見た断面図である。
【図17B】ハンドルが最下位の位置でロックされている状態を左側から見た断面図である。
【図17C】図17A及び図17Bにおける高さ調整機構周囲の拡大図である。
【図18A】ハンドルが最下位の位置でロック解除されている状態を後側から見た断面図である。
【図18B】ハンドルが最下位の位置でロック解除されている状態を左側から見た断面図である。
【図18C】図18A及び図18Bにおける高さ調整機構周囲の拡大図である。
【図19A】ハンドルが最上位の位置でロック解除されている状態を後側から見た断面図である。
【図19B】ハンドルが最上位の位置でロック解除されている状態を左側から見た断面図である。
【図20A】ハンドルが最上位の位置でロックされている状態を後側から見た断面図である。
【図20B】ハンドルが最上位の位置でロックされている状態を左側から見た断面図である。
【図21】後輪のブレーキ構造を示す断面図である。
【図22】前輪の向きを固定するロック手段の他の実施形態を示し、ロックしている状態を拡大した横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成を図面に示す形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1〜図6に、本発明の歩行補助器の実施形態の一例を示す。この歩行補助器は、前輪4となるキャスタが取り付けられている左右一対の車輪フレーム6と、左右一対の車輪フレーム6に支持されるベース7と、ベース7に対して折り畳み可能に取り付けられた支柱3と、前輪4の向きを固定するロック手段34とを備えている。
【0022】
支柱3の上端にはハンドル1が取り付けられており、支柱3を立てることで通常歩行が困難な者の歩行補助に使用する歩行補助器の形態(図1〜図3)になると共に、支柱3を折り畳むことでコンパクトな形態(図4)になる。このコンパクトな形態では、左右の車輪フレーム6の前端6aと左右の前輪4とを接地させて自立させることができる(図5)。また、歩行補助器の形態では、支柱3を伸ばしてハンドル1の高さを調節することができる(図6)。
【0023】
本実施形態では、車輪フレーム6に前輪4の他に後輪5も取り付けているが、必ずしも前輪4と後輪5の両方を同じ車輪フレーム6に取り付ける必要はなく、車輪フレーム6とは別に後輪5用の車輪フレームを設けても良い。
【0024】
車輪フレーム6への前輪4の取付構造を図7〜図10に示す。なお、図7〜図10には右側の車輪フレーム6を記載している。左右の車輪フレーム6は左右対称になっている。また、左右の前輪4の取付構造は同じものである。車輪フレーム6は例えば緩やかに湾曲したパイプ状の部材で、前輪4は、支柱3を折り畳んで車輪フレーム6をその前端6aを接地させながら起立させた自立状態で地面に当たるように車輪フレーム6に取り付けられている。本実施形態では、前輪4は車輪フレーム6の前部底面に取り付けられている。また、後輪5は車輪フレーム6の後端に取り付けられている。
【0025】
前輪4はその向きを変えることができるキャスタになっている。即ち、前輪4を回転自在に支持するヨーク4aは、端部開口から車輪フレーム6内に嵌め込まれた脚キャップ24に車輪フレーム6の孔を貫通したねじ25とナット27によって取り付けられている。ヨーク4aと車輪フレーム6との間にはホルダ43が挟み込まれている。また、ヨーク4aとねじ25の間には2つのベアリング26が設けられており、ヨーク4aはねじ25に対して回転自在になっている。後輪5のヨーク5aは車輪フレーム6の後端に脱落しないように嵌め込まれている。
【0026】
ロック手段34は、前輪4の向きを歩行状態における直進する向きに固定する直進ロック状態と自立状態で車輪フレーム6を支える向きに固定する自立ロック状態とを有すると共に、2つのロック状態を1つの操作手段30によって操作可能にしている。ここで、直進ロック状態とは、前輪4の向きを歩行補助器が前方に直進する向きに固定しているロック手段34の状態をいい、自立ロック状態とは、前輪4の向きを歩行補助器の自立が最も安定する向きに固定しているロック手段34の状態をいう。
【0027】
本実施形態では、直進ロック状態の前輪4の向きと自立ロック状態の前輪4の向きを同一にしている。即ち、歩行補助器を前方に直進させる前輪4の向きと、歩行補助器の自立を最も安定化させる前輪4の向きとが同一となっており、ロック手段34によってロックされる前輪4の向きは1方向である。
【0028】
ロック手段34は、車輪フレーム6と前輪4のいずれか一方に設けられた凸部35といずれか他方に設けられた凹部36との嵌め合いによって前輪4の向きを固定する構造になっている。このようにロック手段34を凹凸の嵌め合いによって前輪4の向きを固定する構造にすることで、ロック手段34が簡単な構造となり、製造コストの増加を抑制することができると共に、信頼性の高い構造になる。本実施形態では、車輪フレーム6側に凸部35を、前輪4側に凹部36を設けているが、車輪フレーム6側に凹部36を、前輪4側に凸部35を設けても良い。また、本実施形態では、凸部35としてロックピン(以下、ロックピン35という)を使用すると共に、凹部36としてロックピン35の先端部の太さに対応した幅を有する溝をヨーク4aの上面に形成している。そのため、ロックピン35の先端部を凹部36に挿入することで前輪4の向きが固定(ロック)され、ロックピン35の先端部を凹部36から引き抜くことで前輪の向きの固定が解除(ロック解除)される。ロック手段34は左右の前輪4毎にそれぞれ設けられている。
【0029】
操作手段30は、ロックピン(凸部)35を凹部36に挿入する方向に常時付勢するばね39と、ロックピン35に設けられたカムフォロア37と、カムフォロア37が移動するカム面38aが設けられたカム38と、カム38を移動させる操作部材40とを備えている。ばね39とカムフォロア37とカム38は車輪フレーム6内に収容されている。ばね39は脚キャップ24とロックピン35の大径部35aとの間に設けられている。
【0030】
カム38は脚キャップ24に設けられたガイド溝24a内に摺動自在に嵌め込まれたスライダであり、ガイド溝24aに案内されて車輪フレーム6の長手方向に移動可能となっている。一方、ロックピン35は車輪フレーム6の底面に嵌め込まれたホルダ43のガイド用円筒部43a内に上から挿入され、その大径部35aがガイド用円筒部43aに案内されることで上下方向に移動可能になっている。ロックピン35にはカムフォロア37としての突出部が設けられており、ばね39によってロックピン35を凹部36に向けて付勢することでカムフォロア37がカム38のカム面38aに押し付けられている。
【0031】
カム面38aには、カムフォロア37を凹部36から離れる方向に移動させることでばね39の力に抗して凹部36からロックピン35を引き抜くロック解除位置46と、カムフォロア37を凹部36に近づけてロックピン35を凹部36に挿入するロック位置47とが設けられている。本実施形態では、車輪フレーム6内にカム38が収容されると共に前輪4のヨーク4aに凹部36が設けられていることから凹部36の上方にカム面38aが配置されており、ロック解除位置46は高い位置、ロック位置47はカム面38aの低い位置となっている。また、ロック解除位置46とロック位置47との間は傾斜面となっている。したがって、カム38を車輪フレーム6の長手方向(ほぼ水平方向)にスライドさせると、ロックピン35が上下に移動して凹部36に挿入され又は凹部36から引き抜かれる。
【0032】
また、本実施形態のカム面38aには、カムフォロア37のロック解除位置46からの外れを防止する凸状の外れ防止部48が設けられている。したがって、カムフォロア37をロック解除位置46から傾斜面へと又は傾斜面からロック解除位置46へと移動させるためにはばね39の付勢力に抗して外れ防止部48を乗り越える必要があり、カムフォロア37が歩行時の振動等によってロック解除位置46から意図せずに外れてしまうのをより一層確実に防止することができると共に、外れ防止部48を乗り越える際の小さな抵抗感の発生によって操作者が操作を確認できて操作感覚が良好になる。
【0033】
本実施形態ではカム38内にロックピン35の上端を挿入する空間49を設け、当該空間49の両脇の壁38bに孔を設けてカム面38aを形成している。空間49内に挿入されるロックピン35の上端近傍には両脇の壁38bの孔に突出するようにカムフォロア37が設けられている。このようにカム面38aとカムフォロア37の組み合わせを左右2組設け、各組の間にロックピン35を配置することで、ロックピン35を真っ直ぐ上下動させることができ、凹部36への挿入や凹部36からの引き抜きをスムーズなものにすることができる。ただし、カム面38aとカムフォロア37の構成はこれに限るものではない。
【0034】
また、本実施形態では、図11に示すように、ロックピン35の大径部35aの周面の一部に回り止め用の平面35bを形成すると共に、ガイド用円筒部43aの内周面の一部に平面43bを形成し、各平面35b,43bを突き合わせることでロックピン35の回転を防止してカム面38aからのカムフォロア37の脱落を防止している。
【0035】
カム38には使用者によって操作される操作部材40が取り付けられている。操作部材40の底面には係止片40aが設けられており、操作部材40を車輪フレーム6の上面に被せると共に、車輪フレーム6の上面に設けられた長孔6bに係止片40aを挿入してカム38の係止部38cに係止することで、車輪フレーム6の上面を挟んで操作部材40とカム38とを一体化させている。長孔6bは車輪フレーム6の長手方向に細長く形成されており、且つ、カムフォロア37がカム面38aのロック解除位置46からロック位置47まで移動できる長さに形成されている。したがって、使用者が操作部材40を車輪フレーム6の長手方向に移動させることで、カム38をスライドさせてロックピン35を操作することができる。
【0036】
本実施形態では、カム面38aの前部にロック解除位置46を、後部にロック位置47をそれぞれ設けている。したがって、使用者が操作部材40を後方にスライドさせると、カム38も後方にスライドしてカムフォロア37がカム面38a前部のロック解除位置46に移動するので、ばね39の付勢力に抗してロックピン35が持ち上げられ、ロックピン35の先端が車輪フレーム6内に引き込まれる。したがって、前輪4のヨーク4aの係止が解除(ロック解除)され、前輪4はキャスタとして機能する。
【0037】
この状態から使用者が操作部材40を前方にスライドさせると、カム38も前方にスライドしてカムフォロア37がカム面38a後部のロック位置47に移動するので、ロックピン35の下降が可能になる。このとき、ロックピン35の先端がヨーク4aの凹部36に対向していない場合には、ロックピン35の先端はヨーク4aの上面に当たり、ヨーク4aの係止が解除されている状態が続くので、前輪4の方向転換は可能である。そして、前輪4の方向転換によりヨーク4aに設けられた凹部36がロックピン35に対向すると、ばね39の付勢力によってロックピン35が押し出されて凹部36に嵌り込む。これによりヨーク4aが係止され、前輪4はその向きを変えることができなくなる(直進ロック状態及び自立ロック状態)。
【0038】
歩行補助器を使用する場合、左右の前輪4の向きをロックすることで、地面の凹凸等により前輪4の向きが変わるのを防止することができ、直進安定性を向上させることができる。一方、進行方向をこまめに変えたい場合等には前輪4の向きのロックを解除することで、旋回性を良好にすることができる。この場合、左右のロック手段34の操作手段30を別々に操作することができるので、左右両方の前輪4についてロックを解除しても良いし、片方の前輪4だけロックを解除しても良い。
【0039】
また、折り畳んだ歩行補助器を自立させる場合、左右の車輪フレーム6の前端6a(2点)と左右の前輪4(2点)を接地させる4点支持となるが、左右の前輪4の向きをロックしておくことで左右前輪4によってしっかりと支えることができ、自立状態の安定性を向上させることができる。
【0040】
このように、操作部材40のスライド操作によって前輪4の向きのロック・ロック解除を切り換えることができるので、操作が簡単であり且つ分かりやすく、使い勝手に大変優れている。
【0041】
また、使用者が操作する操作部材40によってロック手段34のロック状態を操作するので、支柱3の折り畳み動作とは別にロック手段34を操作することができ、前輪4の向きのロック・ロック解除を使用者の意志に応じたものにすることができる。例えば、支柱3を折り畳んでそのまま寝かせた状態で歩行補助器を保管する場合、前輪4の向きのロックを解除することで歩行補助器をその進行方向を変えながら保管場所に移動させることができるので、移動が容易になり、扱いやすさを向上させることができる。
【0042】
また、ロック手段34の直進ロック状態と自立ロック状態を同じ操作部材40によって操作できるので、2系統の操作手段を設ける場合に比べて、部品点数の増加を抑えることができて製造コストの増加を抑制することができると共に、操作が複雑で煩わしいものになるのを防止して使い勝手を向上させることができる。特に、本実施形態では、直進ロック状態の前輪4の向きと自立ロック状態の前輪4の向きを同一にしているので、歩行時の直進安定性と自立時の安定性を確保できる前輪4の向きが同一であり、前輪4の向きの固定位置が1つで足り、ロック手段34の構造が簡単なものになり、製造コストの増加をより一層抑えることができる。また、歩行時と自立時とでロック手段34のロック状態を切り換える必要がなくなり、操作が煩わしいものになるのをより一層防止して使い勝手をより一層向上させることができる。
【0043】
ロック手段34の操作手段30はカム機構を利用しており、構造をシンプルにでき、製造コストの増加を抑制することができると共に、操作の信頼性に優れている。また、操作手段30を小型化でき、ばね39、カムフォロア37、カム38を車輪フレーム6内に収容することができるので、これらの部材を隠すことができ、外観の悪化を防いでデザイン性を向上させることができる。
【0044】
また、左右の操作手段30は互いに独立しており、左右の操作手段30を連動させる場合に比べて構造をシンプルにでき、この点からも製造コストの増加を抑制することができると共に、操作の信頼性を向上させることができる。
【0045】
次に、支柱3のベース7への取付構造を図12〜図16に示す。ベース7は、支柱3の下端の円筒部10を収容し且つ底部が開口となっている本体7aと、本体7bの両脇に連結部7cによって連結された左右一対の車輪フレーム取付部7d,7dより構成されている。円筒部10は本体7bの左右の側壁7a,7aに第1の回転中心軸11を使用して回転自在に支持されている。本体7bには支柱3を延出させる開口7eが設けられている。本体7bの底部開口はベースカバー17によって塞がれている。ベースカバー17には折り畳みレバー16を取り付けるための左右一対のレバー支持部17aが設けられている。
【0046】
車輪フレーム取付部7dは横断面形状がU字形状を成しており、車輪フレーム6上に載せられ、下から取付部カバー21を嵌め合わせることで車輪フレーム6の周囲を囲み、この部分を上下に貫通するボルト及びナット(ともに図示省略)によって固定されている。支柱3を支持するベース7の車輪フレーム取付部7dを車輪フレーム6の上に載せるようにしているので、ベース7を左右の車輪フレーム6が下から支える構造となり、支柱3からの荷重を車輪フレーム6に効率よく伝えることができると共に、ベース7の車輪フレーム6への取付強度が大きくなる。
【0047】
連結部7cは本体7bの両脇に前後2本ずつ設けられている。前後の連結部7の間にはステーが設けられており、前後の連結部7の間に使用者の手足が入り込むのを防止している。
【0048】
支柱3の下端には円筒部10が設けられている。円筒部10は本体7b内に収容され、左右の側壁7aの軸孔7fと円筒部10の端板10aの軸孔10bに第1の回転中心軸11を貫通させることで、ベース7に対して円筒部10が回転自在に、換言するとベース7に対して支柱3が揺動自在に取り付けられている。ベース7に対して支柱3を揺動させることで、支柱3を折り畳んだり起立させたりすることができる。第1の回転中心軸11はその両端に嵌め込まれた抜け止め部材(図示省略)によってベース7と円筒部10からの抜け止めが図られている。円筒部10の左右の端板10aは周板10cに例えばねじ止めされている。周板10cには、所定の間隔をあけて2箇所にスリット13,14が設けられている。
【0049】
ベースカバー17の左右のレバー支持部17aには、折り畳みレバー16が揺動可能に取り付けられている。折り畳みレバー16には軸孔部16cが設けられており、軸孔部16cに通した第2の回転中心軸18の両端を左右のレバー支持部17aに例えばねじ止めすることで、折り畳みレバー16を揺動可能に取り付けている。折り畳みレバー16には円筒部10のスリット13,14に挿入される係止爪16aが設けられている。折り畳みレバー16の先端はベース7の切り欠き部7gから前方に突出しており、この突出部分が操作部分となっている。折り畳みレバー16の操作部分を前方に設けることで、支柱3を挟んで使用者側と反対側に操作部分を配置することができ、使用者が誤って踏む等の誤操作を防止することができる。折り畳みレバー16はリターンスプリング44によって上方に向けて、即ち係止爪16aがスリット13,14に挿入される方向に常時付勢されている。
【0050】
折り畳みレバー16の係止爪16aが円筒部10のスリット13,14のいずれかに挿入されている状態では、ベース7に対して円筒部10を回転させることができない。したがって、ベース7に対して支柱3はロックされている。2箇所のスリット13,14のうち、前側の第1のスリット13に係止爪16aが挿入されている状態では、図12に示すように、支柱3は起立しており、歩行補助器の使用時の形態になっている(図1)。また、後側の第2のスリット14に係止爪16aが挿入されている状態では、図4及び図13に示すように、支柱3は折り畳まれている。この状態で、後輪5を持ち上げるようにして車輪フレーム6を起立させることで、歩行補助器を自立させることができる(図5)。このように、折り畳みレバー16を操作して、即ち折り畳みレバー16の前端の突出部分を押し下げることでリターンスプリング44の付勢力に抗して折り畳みレバー16を揺動させてスリット13,14から係止爪16aを抜き、支柱3を揺動させて別のスリット13,14に係止爪16aを挿入することで支柱3の角度を2段階に変えて歩行補助器の形態を変えることができる。
【0051】
支柱3の円筒部10の左右の端板10aには、支柱3を使用時の形態になる角度まで起立させるとベース7のストッパ部7jに度当たりする第1のストッパ19と、支柱3を折り畳み状態になる角度まで寝かせるとベース7のストッパ部7iに度当たりする第2のストッパ20が設けられている。各スリット13,14に係止爪16aを挿入することで支柱3が回転し過ぎないようにしているが、ストッパ19,20を設けることで支柱3の回転し過ぎに対して2重の安全性が図られている。なお、図14及び図16では、ストッパ19,20の記載を省略している。
【0052】
ベース7の切り欠き部7gの両脇には折り畳みレバー16のベース7からの突出部分を保護する保護壁部7h,7hが設けられており、使用者の足が引っ掛かったり物が落下する等によって折り畳みレバー16が誤操作されるのを防止している。
【0053】
次に、ハンドル1の高さ調整機構80並びにブレーキ操作の伝達機構を図17〜図20に示す。ハンドル1は、ハンドル1に嵌め合わされて連接する中空の支柱ロッド3aと、支柱ロッド3aが摺動可能に出入り可能な筒状の支柱パイプ部3bとからなる支柱3によって支持されている。そして、支柱ロッド3aが支柱パイプ部3bに引き込まれたり支柱パイプ部3bから引き出されたりすることによってハンドル1の高さが調整される。
【0054】
具体的には、歩行補助器は、ハンドル1が上部に取り付けられた支柱3とブレーキ付き後輪5とを備え、支柱3が支柱ロッド3aと支柱ロッド3aが内部に摺動可能に挿入される支柱パイプ部3bとを有し、支柱ロッド3aと支柱パイプ部3bとの位置関係を固定すると共にハンドル1の高さ調整時には支柱ロッド3aを支柱パイプ部3bに対して摺動可能にする高さ調整機構80と、ハンドル1に取り付けられたブレーキレバー62の操作によるブレーキ操作を後輪5のブレーキに伝達するハンドル1側の第1の伝達部材64及びブレーキ側の第2の伝達部材66と、第1の伝達部材64と第2の伝達部材66との位置関係を固定すると共にハンドル1の高さ調整時には第1の伝達部材64と第2の伝達部材66との位置関係の固定を解除する連結機構65とを有している。
【0055】
ハンドル1はグリップ61及びブレーキレバー62を有する。なお、図17〜図20ではハンドル右側のグリップ61及びブレーキレバー62の記載を省略している。
【0056】
支柱ロッド3aの周壁には複数の貫通孔88が長手方向に一定の間隔で設けられている。本実施形態では、支柱ロッド3a周壁の左側面に5つの貫通孔88が設けられている。
【0057】
連結部材63と第1の伝達部材64と連結機構65と第2の伝達部材66とは、グリップ61とブレーキレバー62の握り部62aとが握り締められブレーキレバー62が操作された場合にこのブレーキ操作を伝達してブレーキ操作用ワイヤ71を引っ張るものである。
【0058】
ブレーキレバー62のグリップ61と反対側の端部、即ち使用者によってグリップ61と共に握り締められる握り部62aと反対側の端部には揺動支軸62bが設けられている。揺動支軸62bは、ハンドル1に固定され、ブレーキレバー62の握り部62aと反対側の端部に設けられた貫通孔を貫通してブレーキレバー62を回転可能に支持する軸である。
【0059】
ブレーキレバー62は、握り部62aと揺動支軸62bとの間であって支柱ロッド3a中空部の上方位置にブレーキレバー62の側面から突出する連結突起62cを有している。
【0060】
ブレーキレバー62には連結部材63が連結されている。連結部材63は、上端側に設けられた貫通孔63aが連結突起62cに回動可能に嵌め合わされてブレーキレバー62に連結されている。
【0061】
連結部材63の下端には第1の伝達部材64が連結されている。第1の伝達部材64は、連結部材63の下端側に設けられた長孔63bに、上端に形成されたフック64aが嵌め合わされて連結部材63に連結されている。
【0062】
第1の伝達部材64は、細長の板状に形成され、上端が湾曲してフック64aが形成されていると共に、フック64aの下から下端に亘って複数の貫通孔64bが設けられている。本実施形態では、5つの貫通孔64bが設けられている。この貫通孔64bの個数と間隔とは、支柱ロッド3aの周壁に設けられている貫通孔88の個数と間隔とに合わせられている。また、第1の伝達部材64は、貫通孔64bの開口が正面に向くように支柱ロッド3a内に配置されている。
【0063】
そして、連結機構65によって、ハンドル1の高さが調整された場合にも、即ち支柱ロッド3aと支柱パイプ部3bとの位置関係が変化した場合にも、ブレーキレバー62が操作された場合に連結部材63を介して第1の伝達部材64に伝達されるブレーキ操作が第2の伝達部材66に伝達される。
【0064】
連結機構65は支柱パイプ部3b上端の正面に固定して備えられている。連結機構65は、板状の第1の伝達部材64を摺動可能に貫通させる挟持部材65cと、挟持部材65cの前面に突出し固着して設けられて支柱パイプ部3bの周壁を貫通する雄ねじ65bと、雄ねじ65bと螺合する雌ねじを有する握り65aとを有する。
【0065】
また、第2の伝達部材66は、上部の連結部66aと、中間部の本体部66bと、下部のワイヤ連結部66dと、ワイヤ連結部66dの下端に設けられた係止部66eとが連結してなっている。
【0066】
連結部66aは、第1の伝達部材64を貫通させるための貫通孔を有し、貫通孔内周面の正面位置に孔内に突出する連結ピン66cを有している。
【0067】
第2の伝達部材66の本体部66bは、コ字形状に形成され、開口部を上に向けてコ字の凹部に第1の伝達部材64を左右から挟んで支柱パイプ部3b内に配置されている。ただし、第1の伝達部材64の左右の側面と第2の伝達部材本体部66b凹部の内側の側面との間には僅かな隙間が設けられており、相互に自由に動くことができる。なお、第2の伝達部材66の本体部66bは連結部66aの下面に上端がビス止めされて取り付けられている。
【0068】
第2の伝達部材66の本体部66b下端に連結している棒状のワイヤ連結部66dの下端には、係止部66eを介して左右両後輪5の即ち2本のブレーキ操作用ワイヤ71が連結されている。本実施形態では、ブレーキ操作用ワイヤ71の先端に係合球部71aが形成され、この係合球部71aが係止部66eに係止されている。
【0069】
そして、連結機構65の握り65aが回されて雄ねじ65bが握り65a内に引き込まれたときに、挟持部材65cに挟持される第1の伝達部材64の軸心が支柱パイプ部3bのほぼ軸心上に位置するように調整されている。そして、この状態で、第1の伝達部材64の貫通孔64bに第2の伝達部材66の連結ピン66cが嵌め合わされる。これにより、第1の伝達部材64と第2の伝達部材66との位置関係が固定されてブレーキ操作が伝達される。
【0070】
上述の構成により、ハンドル1のグリップ61とブレーキレバー62の握り部62aとが握り締められるとブレーキレバー62が引き上げられて揺動支軸62bを中心として揺動する。これにより、握り部62aと揺動支軸62bとの間にある連結突起62cが上方に移動し、連結突起62cで連結されている連結部材63が引き上げられる。そして、連結部材63と第1の伝達部材64と連結機構65と第2の伝達部材66とによってブレーキレバー62が操作された場合のブレーキ操作が伝達されて下端に連接されているブレーキ操作用ワイヤ71が引っ張られる。
【0071】
ブレーキ操作用ワイヤ71は、一端が支柱パイプ部3bの下端で第2の伝達部材66と連結し、支柱パイプ部3bの下端からベース7内に進入し、さらにベースカバー17に設けられている孔17cから一旦外に引き出された後、取付部カバー21に設けられている孔21a(図3)から車輪フレーム6に設けられている孔(図示省略)を通して車輪フレーム6内に引き込まれ、車輪フレーム6内を通過して車輪フレーム6の後端に設けられたブレーキシューホルダ75(図21)に連結されている。本実施形態では、左右の後輪5用に2本のブレーキ操作ワイヤ71を備えており、左側の後輪5用のブレーキ操作ワイヤ71は左側の取付部カバー21から左側の車輪フレーム6内へと通されて左後輪5用のブレーキシューホルダ75に、右側の後輪5用のブレーキ操作ワイヤ71は右側の取付部カバー21から右側の車輪フレーム6内へと通されて右後輪5用のブレーキシューホルダ75にそれぞれ連結されている。ブレーキ操作ワイヤ71は、保護チューブ76内に通されている。
【0072】
ブレーキシューホルダ75は、図21に示すように、車輪フレーム6後端の内周面に取り付けられたブレーキフレーム70に回転軸73を中心として回転可能に取り付けられている。ブレーキシューホルダ75には、ブレーキシュー72が取り付けられている。本実施形態では、ブレーキシュー72として形状が異なる2種のブレーキシュー、具体的には左側後輪5用のブレーキシュー72と右側後輪5用のブレーキシュー72が設けられている。ブレーキシューホルダ75及び2種類のブレーキシュー72は予めユニット化されている。図3等からも明らかなように、左右の車輪フレーム6は前端6aの間隔が後端の間隔よりも狭いハ字状に配置されているため、車輪フレーム6に対する後輪5の取付角度は左右で異なり、これに伴い後輪5に対するブレーキシューホルダ75の角度も左右で異なる。形状の異なる2種類のブレーキシュー72をユニット化(シューユニット)しておくことで、左右の後輪ブレーキに対して共通のシューユニットを使用することが可能になり、部品管理が容易になる。ブレーキ操作によってシューユニットがブレーキフレーム70に対して回転し、2種類のブレーキシュー72が同時に作動することになるが、左側の後輪ブレーキに使用したユニットでは、後輪5に対して左側後輪5用のブレーキシュー72は接触するが、右側後輪5用のブレーキシュー72は接触しない。また、右側の後輪ブレーキに使用したユニットでは、後輪5に対して右側後輪5用のブレーキシュー72は接触するが、左側後輪5用のブレーキシュー72は接触しない。ブレーキシューホルダ75にブレーキシュー72を取り付ける構造にすることで、消耗品であるブレーキシュー72のみの交換が可能になる。
【0073】
ブレーキシューホルダ75及び2種類のブレーキシュー72を一体化させたシューユニットは、リターンスプリング79によってブレーキシュー72を後輪5から離す方向に常時付勢されている。本実施形態では、リターンスプリング79としてねじりコイルばねを使用し、回転軸73に設けている。
【0074】
ブレーキシューホルダ75にはブレーキ操作用ワイヤ71が連結されている。本実施形態では、ブレーキ操作用ワイヤ71の先端に係合球部71bが形成され、この係合球部71bがブレーキシューホルダ75に係止されている。これにより、ブレーキレバー62の操作によってブレーキ操作用ワイヤ71が引っ張られるとブレーキシューホルダ75が回転してブレーキシュー72が後輪5に押し当てられてブレーキがかけられる。
【0075】
ここで、第2の伝達部材66下端の係止部66e上面と支柱パイプ部3bの下部に固定して設けられた仕切板67との間に付勢ばね68が介在している。そして、この付勢ばね68の働きによって係止部66eが下方に向けて付勢されることによりブレーキ操作用ワイヤ71が押し出される向きに付勢される。本実施形態では、付勢ばね68として、棒状のワイヤ連結部66dの周りに圧縮コイルばねが備えられている。
【0076】
また、ブレーキ操作用ワイヤ71の保護チューブ76のブレーキシューホルダ75側の先端にはキャップ71cが嵌め込まれている。ブレーキ操作ワイヤ71はキャップ71cの先端から延出している。さらに、ブレーキフレーム70には、ブレーキ操作用ワイヤ71を通し且つキャップ71cを通さないスリット74aが設けられているストッパ部材74がシャフト77によって取り付けられている。
【0077】
そして、ブレーキレバー62に負荷がかけられていないとき、即ちブレーキ操作を行っていないときには、第1の伝達部材64や第2の伝達部材66の自重、付勢ばね68及びリターンスプリング79の働きによって第2の伝達部材66下端の係止部66eが下方に向けて付勢され、キャップ71cがストッパ部材74に度当たりするまでブレーキ操作用ワイヤ71が後輪5側に押し出される。これにより、ブレーキシュー72が後輪5から離れる方向に付勢されることになり、後輪5から離れた状態が維持されるのでブレーキはかからない。
【0078】
ストッパ部材74はシャフト77を中心に回転可能となっており、アジャストスクリュウ78のねじ込み量を変えることでストッパ部材74の角度を調節することができる。ストッパ部材74の角度を調節することで、キャップ71cが度当たりする位置を調節してブレーキ操作を行っていない状態でのブレーキシュー72の位置を調節することができる。
【0079】
歩行補助器は、さらに、高さ調整機構80を有する。高さ調整機構80は、支柱ロッド3aの支柱パイプ部3bへの進入の程度を調整しながら支柱ロッド3aと支柱パイプ部3bとを固定するもの、すなわち、支柱3全体の長さを変化させながら両者を固定して使用者に合わせてハンドル1の高さ調整を可能にするものである。
【0080】
高さ調整機構80は、本実施形態では、支柱パイプ部3b上端の外周面に取り付けられている。また、高さ調整機構80は支柱ロッド3aの周壁の貫通孔88の位置に合わせて配置され、本実施形態では、支柱パイプ部3bの左側面に配置されている。
【0081】
高さ調整機構80は、揺動体81、ボタン82、捻りばね83、貫通ピン84、揺動体回転軸85、貫通ピン回転軸86から構成されている。そして、全体が高さ調整機構カバー87で覆われ、ボタン82だけが高さ調整機構カバー87の支柱パイプ部3bの周壁と対向する面を貫通して高さ調整機構カバー87から突出している。
【0082】
揺動体81は、中間部を貫通する揺動体回転軸85によって回転可能に高さ調整機構カバー87に固定されている。
【0083】
ボタン82は、高さ調整機構カバー87の支柱パイプ部3bの周壁と対向する面を貫通して高さ調整機構80に出入り可能に設けられている。そして、ボタン82の支柱3側の端部が揺動体81の上端寄りの部分と接しており、ボタン82が押し込まれた場合に揺動体81の上部を支柱3側に押し込む付勢力が与えられる。
【0084】
捻りばね83は揺動体回転軸85の周りに巻かれて設けられている。そして、捻りばね83は、高さ調整機構カバー87の支柱パイプ部3bの周壁と対向する面と揺動体81の下部との間に介在し、揺動体81の下部を支柱3側に押し込む付勢力を揺動体81に与える。
【0085】
貫通ピン84は、貫通ピン回転軸86によって揺動体81の下部に回転可能に固定されている。そして、貫通ピン84は、支柱3側に押し込まれた場合に支柱パイプ部3bの周壁に設けられた貫通孔89及び支柱ロッド3aの周壁の貫通孔88を貫通する。
【0086】
上述の構成により、図17(図17A〜図17C)及び図20(図20A,図20B)に示すように、ボタン82に負荷がかけられていないときは、捻りばね83の働きによって揺動体81の下部が支柱3側に向けて付勢される。これにより、揺動体81の下部に連結されている貫通ピン84が支柱パイプ部3bの周壁と支柱ロッド3aの周壁とを貫通するので両者が固定される。
【0087】
一方、ボタン82が押し込まれた場合は、図18(図18A〜図18C)及び図19(図19A,図19B)に示すように、ボタン82の支柱3側の端部によって揺動体81の上部に揺動体回転軸85を中心として回転する力が与えられる。これにより、捻りばね83によって働いている付勢力に逆らって揺動体81が揺動体回転軸85を中心として回転して貫通ピン84が支柱ロッド3aの周壁の貫通孔88から引き抜かれる。
【0088】
上述の連結機構65と高さ調整機構80とによって、支柱3全体の長さを調整すること即ちハンドル1の高さを調整することが可能になると共に、その上でブレーキを作動させることが可能となる。
【0089】
具体的には、図17A及び図17Cに示すように、高さ調整機構80のボタン82に押し込む力がかけられていないときは、貫通ピン84は支柱パイプ部3b周壁の貫通孔89と支柱ロッド3a周壁の貫通孔88とを貫通して両者の位置関係を固定している。すなわち、高さ調整機構80はハンドル1の高さをロックする効果を発揮している。なお、本実施形態の図17に示す状態は、支柱ロッド3aの周壁に設けられた5つの貫通孔88のうち一番上の貫通孔88を貫通ピン84が貫通して支柱ロッド3aと支柱パイプ部3bとの位置関係が固定されている。
【0090】
さらに、図17Bに示すように、連結機構65の握り65aが操作されて握り65a内に雄ねじ65bが引き込まれると、挟持部材65cが支柱パイプ部3bのほぼ軸心上に固定され、第1の伝達部材64の貫通孔64bに第2の伝達部材66の連結ピン66cが貫通して両者が固定される。すなわち、連結機構65はブレーキ操作の伝達部材64,66をロックする効果を発揮している。なお、本実施形態の図17に示す状態は、第1の伝達部材64の5つの貫通孔64bのうち一番上の貫通孔64bを連結ピン66cが貫通して第1の伝達部材64と第2の伝達部材66との位置関係が固定されている。
【0091】
このように、図17に示す状態では、支柱ロッド3aが支柱パイプ部3b内に最も引き込まれ支柱3全体の長さが最も短い状態で、支柱ロッド3aと支柱パイプ部3bとの位置関係が固定され、且つ、第1の伝達部材64と第2の伝達部材66との位置関係が固定されてブレーキレバー62の操作によりブレーキシュー72を作動させてブレーキをかけることができる。
【0092】
次に、図17に示す連結機構65と高さ調整機構80とがロック効果を発揮している状態から、図18Bに示すように、連結機構65の握り65aが操作されて握り65a内から雄ねじ65bが押し出されると、挟持部材65cが第1の伝達部材64を押し、貫通孔64bから第2の伝達部材66の連結ピン66cが抜ける。これにより、連結機構65による第1の伝達部材64と第2の伝達部材66との位置関係のロックが解除されて第2の伝達部材66に対して第1の伝達部材64を自由にスライドさせることができる。
【0093】
この状態で更に、図18A及び図18Cに示すように、高さ調整機構80のボタン82に押し込む力がかけられると、貫通ピン84が支柱ロッド3a周壁の貫通孔88から抜け、支柱ロッド3aと支柱パイプ部3bとの位置関係のロックが解除されて支柱ロッド3aを支柱パイプ部3bから自由に引き出すことが可能になる。
【0094】
したがって、図18に示す状態の場合には支柱パイプ部3bに対して支柱ロッド3a及び第1の伝達部材64を自由にスライドさせることができるので、ハンドル1の高さを調整することが可能になる。
【0095】
そして、図19に示すように支柱ロッド3aを支柱パイプ部3bから引き出した状態で、図20に示すように連結機構65及び高さ調整機構80のロック効果を発揮させることによって支柱3の長さを固定し且つブレーキ操作を伝達することが可能になる。
【0096】
具体的には、図20A及び図20Cに示すように、ハンドル1の高さ即ち支柱ロッド3aの引き出し具合を調整してからボタン82を押し込む力が解除されると、貫通ピン84が支柱パイプ部3b周壁の貫通孔89と支柱ロッド3a周壁の貫通孔88とを貫通して両者の位置関係が固定される。すなわち、高さ調整機構80がハンドル1の高さをロックする効果を発揮する。なお、本実施形態の図20に示す状態は、支柱ロッド3a周壁に設けられた5つの貫通孔88のうち一番下の貫通孔88を貫通ピン84が貫通して支柱ロッド3aと支柱パイプ部3bとの位置関係が固定されている。
【0097】
さらに、図20Bに示すように、連結機構65の握り65aが操作され握り65a内に雄ねじ65bが引き込まれると、挟持部材65cが支柱パイプ部3bのほぼ軸心上に固定され、第1の伝達部材64の貫通孔64bに第2の伝達部材66の連結ピン66cが貫通して両者が固定される。すなわち、連結機構65はブレーキ操作の伝達部材64,66の位置関係をロックする効果を発揮している。
【0098】
このように、図20に示す状態では、支柱ロッド3aが支柱パイプ部3b内に最も引き出され支柱3全体の長さが最も長い状態で、支柱ロッド3aと支柱パイプ部3bとの位置関係が固定され、且つ、第1の伝達部材64と第2の伝達部材66との位置関係が固定されてブレーキレバー62の操作によりブレーキシュー72を作動させてブレーキをかけることができる。
【0099】
以上のように構成されたハンドル1の高さ調整機構80並びにブレーキ操作の伝達機構によれば、支柱ロッド3aと支柱パイプ部3bとの位置関係の固定とその解除との切り替えを行ってハンドル1の高さ調整が可能になると共に、支柱ロッド3aと支柱パイプ部3bとの位置関係が変わった場合にもブレーキ操作の伝達を行うことが可能になる。しかも、支柱ロッド3aと支柱パイプ部3bとの位置関係の変化分をブレーキ操作の伝達機構で吸収するようにしているので、従来のように例えばブレーキケーブル等のブレーキ操作の伝達の仕組みが外部に大きく出てしまうことがない。したがって、例えばブレーキケーブルが撓んで邪魔になることを防止することができる。
【0100】
本実施形態では、ブレーキレバー62の握り部62の先端をグリップ61の先端よりも内側に引っ込めている(図1等)。そのため、歩行補助器が転倒した場合にグリップ61によってブレーキレバー62を保護することができ、ブレーキの破損防止を図っている。
【0101】
また、本実施形態では、ベース7及びブレーキフレーム70を樹脂によって形成し、歩行補助器を軽量化させている。
【0102】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0103】
例えば、上述の説明では、直進ロック状態の前輪4の向きと自立ロック状態の前輪4の向きが同一であったが、両者の前輪4の向きを異なるものとしても良い。例えば、自立ロック状態の前輪4の向きを若干内向き(上から見てハ字状)にした場合に歩行補助器の自立が最も安定するときには、自立ロック状態の前輪4の向きをその向きに合わせるようにする。両者の前輪4の向きを異なるものとした例を図22に示す。前輪4のヨーク4aには、直進ロック状態にするための凹部36(図中、符号36Aで示す)と自立ロック状態にするための凹部36(図中、符号36Bで示す)が設けられている。ロックピン35を凹部36Aに挿入させることで、前輪4の向きが、歩行補助器が前方に直進する向きに固定され、凹部36Bに挿入させることで、前輪4の向きが、歩行補助器の自立が最も安定する向きに固定される。
【0104】
また、上述の説明では、車輪フレーム6側に凸部(ロックピン)35を、前輪4側に凹部36を設けていたが、車輪フレーム6側に凹部36を、前輪4側に凸部35を設けても良い。この場合にも、前輪4の向きのロック・ロック解除が可能であり、歩行補助器の直進歩行の安定性と、自立時の安定性を確保することができる。なお、この場合には、例えば凸部35を常時突出させる方向に付勢すると共に、凹部36内に凸部35を押し戻すピストンを設けておき、ピストンの操作によってロック・ロック解除を行うことが考えられる。
【0105】
また、上述の説明では、カム面38aの前部にロック解除位置46を設けると共に後部にロック位置47を設け、前輪4の向きのロックを解除する場合には操作部材40を後方にスライドさせ、前輪4の向きをロックする場合には操作部材40を前方にスライドさせるようにしていたが、必ずしもこの構成に限られず、逆に、カム面38aの前部にロック位置47を設けると共に後部にロック解除位置46を設け、前輪4の向きのロックを解除する場合には操作部材40を前方にスライドさせ、前輪4の向きをロックする場合には操作部材40を後方にスライドさせるようにしても良い。
【0106】
また、上述の説明では、操作部材40として車輪フレーム6上をスライドする部材(スライダ)を使用していたが、必ずしもスライダに限られるものではなく、例えばリンク、ワイヤ等を使用してカム38をスライドさせるようにしても良い。さらに、カム38をスライドさせる電動モータを設け、ハンドル1付近に設けたスイッチの操作によってカム38をスライドさせるようにしても良い。
【0107】
また、上述の操作手段30は左右別々に動作する構成であったが、左右の操作手段30を連動させるようにしても良い。例えば、1つの操作レバーの動きを左右の操作手段30に同時に伝えることで左右の操作手段30を連動させるようにしても良いし、1つのスイッチ操作によって左右の操作手段30毎に設けた電動モータを同時に作動させることで左右の操作手段30を連動させるようにしても良い。これらの場合には、左右の操作手段30を別々に操作する必要がなくなり、1つのアクションで左右の前輪4の向きをロック・ロック解除することができるので、使い勝手が更に良くなる。
【0108】
また、上述の説明では、カム面38aにロック解除位置46とロック位置47の両方を設けていたが、ロック位置47を省略しても良い。例えば、ロックピン35が凹部36に挿入されている状態ではカムフォロア37がカム面38aから離れており、ロックピン35を凹部36から引き抜く場合にカム面38aがカムフォロア37に接触してこれを持ち上げるようにしても良い。この場合にも、カム38の移動によってロックピン35を上下動させて前輪4の向きのロック・ロック解除を操作することができる。
【符号の説明】
【0109】
3 支柱
4 前輪
6 車輪フレーム
6a 車輪フレームの前端
7 ベース
30 操作手段
34 ロック手段
35 凸部
36 凹部
37 カムフォロア
38 カム
38a カム面
39 ばね
40 操作部材
46 カム面38aのロック解除位置
48 カム面38aの外れ防止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪となるキャスタが取り付けられている左右一対の車輪フレームと、前記左右一対の車輪フレームに支持されるベースと、前記ベースに対して折り畳み可能に取り付けられた支柱と、前記前輪の向きを固定するロック手段とを備え、前記前輪は、前記支柱を折り畳んで前記車輪フレームをその前端を接地させながら起立させた自立状態で地面に当たるように前記車輪フレームに取り付けられており、前記ロック手段は、前記前輪の向きを歩行状態における直進する向きに固定する直進ロック状態と前記自立状態で前記車輪フレームを支える向きに固定する自立ロック状態とを有すると共に、前記2つのロック状態を1つの操作手段によって操作可能にしたことを特徴とする歩行補助器。
【請求項2】
前記直進ロック状態の前記前輪の向きと前記自立ロック状態の前記前輪の向きは同一であることを特徴とする請求項1記載の歩行補助器。
【請求項3】
前記ロック手段は、前記車輪フレームと前記前輪のいずれか一方に設けられた凸部といずれか他方に設けられた凹部との嵌め合いによって前記前輪の向きを固定することを特徴とする請求項1又は2記載の歩行補助器。
【請求項4】
前記操作手段は、前記凸部を前記凹部に挿入する方向に常時付勢するばねと、前記凸部に設けられたカムフォロアと、前記カムフォロアが移動するカム面が設けられたカムと、前記カムを移動させる操作部材とを備え、前記カム面には、前記カムフォロアを前記凹部から離れる方向に移動させることで前記ばねの力に抗して前記凹部から前記凸部を引き抜くロック解除位置が設けられており、前記ばねと前記カムフォロアと前記カムは前記車輪フレーム内に収容されていることを特徴とする請求項3記載の歩行補助器。
【請求項5】
前記カム面には、前記カムフォロアの前記ロック解除位置からの外れを防止する凸状の外れ防止部が設けられていることを特徴とする請求項4記載の歩行補助器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図17C】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20A】
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【図20B】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−78441(P2013−78441A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219496(P2011−219496)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000108627)タカノ株式会社 (250)