説明

歪みセンサ

【課題】CNT膜の破損や異物混入等の発生を抑え、センサ機能の持続性を高めることができる歪みセンサを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、柔軟性を有する基板と、この基板の表面側に設けられ、一方向に配向する複数のCNT繊維からなるCNT膜と、このCNT膜の、上記CNT繊維の配向とは異なる方向の両端に配設される一対の電極とを備えた歪みセンサであって、上記CNT繊維表面の少なくとも一部と接触し、上記CNT膜を保護する樹脂製の保護部をさらに備えることを特徴とする。上記保護部がCNT膜の表面に積層されていることが好ましい。上記CNT膜を構成するCNT繊維の少なくとも一部に保護部が存在することも好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歪みセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
歪みを検出する歪みセンサは、歪み(伸縮)に対する抵抗体の抵抗変化から歪みを検出するよう構成されている。この抵抗体としては、一般的に金属や半導体が用いられている。しかし、金属や半導体は可逆的に伸縮可能な変形量が小さいため、歪みセンサの用途等に制限がある。
【0003】
そこで、上記抵抗体として、カーボンナノチューブ(CNT)を用いたデバイスが提案されている(特開2011−47702号公報、特開2010−281824号公報参照)。これらのデバイスにおいては、所定方向に配向させた複数のCNTからなるCNT膜等が用いられている。上記CNT膜はCNTの配向方向と垂直方向への比較的大きな伸縮が可能であるため、大きな歪みにも対応可能なセンサとして利用することができるとされている。しかし、上記デバイスにおいては、CNT膜が表面に露出した状態で配設されているため、不意の接触によるCNT膜の破損、CNT同士の隙間への異物混入、または湿気や浮遊ガス等のCNTへの付着等により抵抗変化に異常が生じうるなど、センサ機能の持続性(寿命)の点で不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−47702号公報
【特許文献2】特開2010−281824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、CNT膜の破損や異物混入等の発生を抑え、センサ機能の持続性を高めることができる歪みセンサを提供することを目的とする。
【0006】
上記課題を解決するためになされた発明は、
柔軟性を有する基板と、
この基板の表面側に設けられ、一方向に配向する複数のCNT繊維からなるCNT膜と、
このCNT膜の、上記CNT繊維の配向とは異なる方向の両端に配設される一対の電極と
を備えた歪みセンサであって、
上記CNT繊維表面の少なくとも一部と接触し、上記CNT膜を保護する樹脂製の保護部をさらに備えることを特徴とする。
【0007】
当該歪みセンサは、上記CNT繊維表面の少なくとも一部と接触し、上記CNT膜を保護する保護部を備えている。従って、当該歪みセンサによれば、このような保護部によりCNT膜の破損等を抑制し、センサ機能の持続性を高めることができる。
【0008】
上記保護部がCNT膜の表面に積層されていることが好ましい。このように、上記保護部をCNT膜の表面に積層させることで、不意の接触等によるCNT膜の破損、CNT繊維間の隙間への異物混入、または湿気や浮遊ガス等のCNT繊維への付着等を効果的に抑えることができ、保護部の保護機能を高めることができる。
【0009】
上記保護部が水性エマルジョンから形成されていることが好ましい。このように保護部の形成に水性エマルジョンを用いることで、例えば塗工や浸漬によりこの保護部を設けた場合、保護部を形成する樹脂がCNT膜に含浸せずにCNT膜表面に積層された状態とすることができる。このようにすることで、保護部を形成する樹脂がCNT膜へしみ込んでCNT膜の抵抗変化に影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0010】
上記保護部はCNT膜を構成するCNT繊維の隙間の少なくとも一部に存在することも好ましい。このように、保護部をCNT繊維の隙間の少なくとも一部に存在させることによっても、不意の接触等によるCNT膜の破損、CNT繊維間の隙間への異物混入、または湿気や浮遊ガス等のCNT繊維への付着等を抑えることができ、保護部として機能させることができる。なお、保護部はCNT繊維を包んだ状態で存在する部分があってもよい。加えて、このように保護部をCNT繊維の隙間に存在させることで、CNT膜が伸張した際にこの膜厚が小さくなりすぎ、複数のCNT繊維同士が基板の厚さ方向に接近することによって抵抗が低下することを抑えることができる。
【0011】
上記保護部が導電性添加剤を含むとよい。このように、保護部に導電性添加剤を含ませることで、保護部をCNT繊維の隙間の少なくとも一部に存在させることによるCNT膜の抵抗の上昇を抑えることができる。
【0012】
上記CNT膜がCNT繊維の配向方向に沿って開裂可能な部分を有するとよい。このように、上記CNT膜にCNT繊維の配向方向に沿って開裂可能な部分を形成することで、抵抗変化の過渡応答性が高まり、より大きな歪み(伸縮)に対しても優れたセンサ機能を発揮することができる。
【0013】
上記CNT繊維が、複数のCNT単繊維からなり、このCNT単繊維同士が長手方向に連結する連結部を有するとよい。このように、CNT単繊維同士が長手方向に連結したCNT繊維を用いることで、CNT繊維の配向方向に幅の広いCNT膜を形成することができ、その結果、CNT膜の抵抗値を下げ、かつ、この抵抗値のバラツキも低減することができる。
【0014】
上記複数のCNT繊維が網目構造を形成していることが好ましい。このようにすることで、CNT繊維同士が密接し、CNT膜の抵抗を下げることができる。また、このような網目構造を形成する際、CNT膜におけるCNT繊維の上記連結部分が主な基点となって近隣のCNT繊維と連結することによって、CNT繊維が両持ち梁構造として機能することができる。両持ち梁として機能するCNT繊維はバネ定数が大きくなる。そのため、このように網目状に連結したCNT繊維からなるCNT膜を有する歪みセンサは、CNT繊維の配向方向と垂直方向により強い剛性をもつことができ、歪みセンサ機能のリニアリティを高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明の歪みセンサによれば、CNT膜の破損等の発生を抑え、センサ機能の持続性を高めることができる。従って、当該歪みセンサは、圧力センサ、ロードセル、トルクセンサ、位置センサ等として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第一実施形態に係る歪みセンサの模式的断面図(a)及び模式的平面図(b)
【図2】図1の歪みセンサのCNT膜の一部を示す模式図
【図3】図1の歪みセンサのCNT膜を形成しているところを示す模式図
【図4】本発明の第二実施形態に係る歪みセンサの模式的断面図(a)及び模式的平面図(b)
【図5】実施例1においてCNT繊維を形成しているところを示すSEM写真
【図6】実施例2で得られた歪みセンサの抵抗変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の歪みセンサの実施の形態を、第一及び第二実施形態、並びにその他の実施形態として、適宜図面を参照にしつつ詳説する。
【0018】
<第一実施形態>
図1の歪みセンサ1は、基板2と、この基板2の表面側に設けられ、一方向に配向する複数のCNT繊維8からなるCNT膜4と、このCNT膜4の、上記CNT繊維8の配向方向とは異なる方向Aの両端に配設される一対の電極3と、上記CNT膜4を保護する保護部5とを主に備える。
【0019】
基板2は柔軟性を有する板状体である。基板2のサイズとしては特に限定されず、例えば厚みが10μm以上5mm以下、幅が1mm以上5cm以下、長さが1cm以上20cm以下とすることができる。
【0020】
基板2の材質としては、柔軟性を有する限り特に限定されず、例えば合成樹脂、ゴム、不織布、変形可能な形状又は材質の金属や金属化合物等を挙げることができる。基板2は絶縁体又は抵抗値の高い材質であればよいが、金属等の抵抗値の低い材料を用いる場合はその表面に絶縁層又は抵抗値の高い材料をコーティングすればよい。これらの中でも、合成樹脂及びゴムが好ましく、ゴムがさらに好ましい。ゴムを用いることで、基板2の柔軟性をより高めることができる。
【0021】
上記合成樹脂としては、例えばフェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(ユリア樹脂、UF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、アルキド樹脂、ポリウレタン(PUR)、熱硬化性ポリイミド(PI)、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS)、ポリメチルメタアクリル樹脂(PMMA)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、環状ポリオレフィン(COP)等を挙げることができる。
【0022】
上記ゴムとしては、例えば天然ゴム(NR)、ブチルゴム(IIR)、イソプレンゴム(IR)、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)、ブタジエンゴム(BR)、ウレタンゴム(U)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、シリコーンゴム(Q)、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、塩素化ポリエチレン(CM)、アクリルゴム(ACM)、エピクロルヒドリンゴム(CO,ECO)、フッ素ゴム(FKM)、PDMS等を挙げることができる。これらのゴムの中でも強度等の点から天然ゴムが好ましい。
【0023】
一対の電極3は、基板2の表面側の長手方向A(CNT繊維8の配向方向と略垂直な方向)の両端部分に配設されている。具体的には、各電極3は、基板2の表面の長手方向Aの両端部分に離間して配設される一対の第一導電層6の表面にそれぞれ配設されている。
【0024】
各第一導電層6は、電極3とCNT膜4との電気的な接続性を高めている。第一導電層6を形成する材料としては、導電性を有する限り特に限定されず、例えば導電性ゴム系接着剤等を用いることができる。第一導電層6としてこのように接着剤を用いることで、基板2、電極3及びCNT膜4の両端の固着性を高め、当該歪みセンサの持続性を高めることができる。
【0025】
電極3は、帯状形状を有している。一対の電極3は、基板2の幅方向に、互いに平行に配設されている。電極3を形成する材料としては、特に限定されず、例えば銅、銀、アルミニウム等の金属等を用いることができる。
【0026】
電極3の形状としては、特に限定されず、例えば膜状、板状、メッシュ状等とすることができるが、メッシュ状が好ましい。このようにメッシュ状の電極3を用いることで、第一導電層6や後述する第二導電層7との密着性及び固着性を高めることができる。このようなメッシュ状の電極3としては、金属メッシュや、不織布に金属を蒸着又はスパッタさせたものを用いることができる。なお、電極3としては、導電性接着剤の塗布等によって形成したものであってもよい。
【0027】
CNT膜4は、平面視矩形形状を有する。CNT膜4の長手方向Aの両端部分がそれぞれ電極3と接続している。また、このCNT膜4の長手方向Aの両端部分は、第一導電層6と第二導電層7とに挟持された状態で固定されている。
【0028】
各第二導電層7は、第一導電層6と同様、電極3とCNT膜4との電気的な接続性を高めている。第一導電層7を形成する材料としては、導電性を有する限り特に限定されず、例えば導電性ゴム系接着剤等を用いることができる。第一導電層7としてこのように接着剤を用いることで、電極3及びCNT膜4の両端の固着性を高め、当該歪みセンサの持続性を高めることができる。
【0029】
CNT膜4は、一方向(一対の電極3の対向方向Aと異なる方向)に配向する複数のCNT繊維8からなる。CNT繊維8がこのように配向していることにより一対の電極3が離れる方向(方向A)へ歪みが加わった場合に、CNT繊維8同士の接触具合に変化が起こり、歪みセンサをして抵抗変化を得ることができる。なお、より効率よく歪みを検出するには、CNT膜8は、一対の電極3の対向方向Aと略垂直方向、好ましくは垂直方向にCNT繊維8が配向されていることが望ましい。
【0030】
各CNT繊維8は、図2に示すように、複数のCNT単繊維9からなる。ここで、CNT単繊維9とは、1本の長尺のCNTをいう。また、CNT繊維8は、CNT単繊維9の端部同士が連結する連結部10を有する。CNT単繊維9同士は、これらのCNT単繊維9の長手方向Bに連結している。このように、CNT膜4において、CNT単繊維9同士がその長手方向Bに連結してなるCNT繊維8を用いることで、CNT繊維8の配向方向に幅の広いCNT膜4を形成することができ、その結果、CNT膜4の抵抗値を下げ、かつ、この抵抗値のバラツキも低減することができる。
【0031】
また、複数のCNT繊維8は、図2に示すように網目構造を形成している。具体的には、複数のCNT繊維8は連結部10等により網目状に連結又は接触している。この際、連結部10において、連結部10aのように3つ以上のCNT単繊維9の端部が結合していてもよいし、連結部10bのように2つのCNT単繊維9の端部と他のCNT単繊維9の中間部とが結合していてもよい。複数のCNT繊維8がこのような網目構造を形成することで、CNT繊維8同士が密接し、CNT膜4の抵抗を下げることができる。
【0032】
また、この際、上記連結部10a、10bが主な基点なって近隣のCNT繊維8同士が連結又は接触することによって、CNT繊維8が両持ち梁構造として機能することができる。CNT繊維同士の連結とは上記連結部10a、10b等とCNT繊維8が電気的に繋がることであり、CNT繊維8の連結部ではない部分同士が電気的に繋がった場合も連結に含まれる。CNT繊維同士の接触とは上記連結部10a、10b等とCNT繊維8が触れているが電気的に繋がっていないことであり、CNT繊維8の連結部ではない部分同士が触れているが電気的に繋がっていない場合も接触に含まれる。両持ち梁として機能するCNT繊維8はバネ定数が大きくなる。そのため、CNT繊維8は、この配向方向Bと垂直方向(CNT膜4の長手方向A)には伸縮しにくい構造となっている。従って、CNT膜4がCNT繊維8の配向方向Bと垂直方向(CNT膜4の長手方向A)に対して剛性が強くなり、当該歪みセンサ1によれば、CNT膜4の長手方向Aの歪みに対して、敏感に検知することができ、さらにリニアリティを高めることができる。なお、当該CNT繊維8の連結部10が主な基点となって、隣り合うCNT繊維8間に限らず、何本か飛び越えた場所のCNT繊維8と連結又は接触してもよい。このように、複雑な網目状のCNT繊維8からなるCNT膜4であれば、より抵抗値が低くなり、CNT繊維8と垂直な方向に剛性の強い歪みセンサすることができる。
【0033】
なお、CNT繊維8は、各CNT単繊維9が実質的にCNT繊維8の長手方向Bに配向され、撚糸されていない状態のものである。このようなCNT繊維8を用いることで、CNT膜4の均一性を高め、歪みセンサとしてのリニアリティを高めることができる。
【0034】
なお、上記連結部10において、各CNT単繊維9同士は分子間力により結合している。このため、複数のCNT繊維8が連結部10により網目状に連結した場合においても、連結部10の存在による抵抗の上昇が抑えられる。
【0035】
CNT膜4の幅の下限としては、1mmが好ましく、1cmがより好ましい。一方、CNT膜4の幅の上限としては、10cmが好ましく、5cmがより好ましい。このようにCNT膜4の幅を比較的大きくすることで、上述のようにCNT膜4の抵抗値を下げ、かつ、この抵抗値のバラツキも低減することができる。
【0036】
CNT膜4の厚みとしては、特に限定されない。例えば、CNT膜4の平均厚みの下限としては、1μmが好ましく、10μmがさらに好ましい。一方、CNT膜4の平均厚みの上限としては、5mmが好ましく、1mmがさらに好ましい。CNT膜4の平均厚みが上記下限未満の場合は、このような薄膜の形成が困難になるおそれや、抵抗が上昇しすぎるおそれがある。逆に、CNT膜4の平均厚みが上記上限を超える場合は、歪みに対する感受性が低下するおそれがある。
【0037】
なお、CNT膜4は、CNT繊維8を平面状に略平行に配置した単層構造からなってもよいし、多層構造からなってもよい。但し、ある程度の導電性を確保するためには、多層構造とすることが好ましい。
【0038】
CNT単繊維9(CNT)としては、単層のシングルウォールナノチューブ(SWNT)や、多層のマルチウォールナノチューブ(MWNT)のいずれも用いることができるが、導電性及び熱容量等の点から、MWNTが好ましく、直径1.5nm以上100nm以下のMWNTがさらに好ましい。
【0039】
上記CNT単繊維9(CNT)は、公知の方法で製造することができ、例えばCVD法、アーク法、レーザーアブレーション法、DIPS法、CoMoCAT法等により製造することができる。これらの中でも、所望するサイズのCNT(MWNT)を効率的に得ることができる点から、鉄を触媒とし、エチレンガスを用いたCVD法により製造することが好ましい。この場合、石英ガラス基板や酸化膜付きシリコン基板等の基板に、触媒となる鉄あるいはニッケル薄膜を成膜した上に、垂直配向成長した所望する長さのCNTの結晶を得ることができる。
【0040】
保護部5は膜状であり、CNT膜4の表面に積層されている。具体的には図1に示すように、保護部5は、CNT膜4及び一対の第二導電層7の表面並びに一対の電極3の表面の一部を被覆している。なお、一対の電極3の一部は、保護部5に被覆されず、露出している部分を有する。このように保護部5を積層することで、上記保護部5はCNT繊維8表面の少なくとも一部と接触し、CNT膜4を保護している。特に、当該歪みセンサ1によれば、上記保護部5をCNT膜4の表面に積層させていることで、不意の接触等によるCNT膜4の破損、CNT繊維8間の隙間への異物混入、または湿気や浮遊ガス等のCNT繊維8への付着等を抑えることができる。
【0041】
保護部5は、樹脂製である。この樹脂としては、基板2の材料として例示した合成樹脂やゴム等を挙げることができ、これらの中でもゴムが好ましい。ゴムを用いることで、大きな歪みに対しても十分な保護機能を発揮することができる。
【0042】
保護部5は、水性エマルジョンから形成されていることが好ましい。水性エマルジョンとは、分散媒の主成分が水であるエマルジョンをいう。CNTは疎水性が高い。そのため、上記保護部を水性エマルジョンから形成すると、例えば塗工や浸漬によりこの保護部を設けた場合、保護部5がCNT膜4に含浸せずにCNT膜4表面に積層された状態とすることができる。このようにすることで、保護部5を形成する樹脂がCNT膜4にしみ込んで、CNT膜4の抵抗変化に影響を及ぼすことを抑制し、保護部5の存在によるCNT膜4の歪み感受性の低下を抑えることができる。水性エマルジョンは乾燥工程を経ることによって、より安定した保護部5とすることができる。
【0043】
上記水性エマルジョンの分散媒の主成分は、水であるが、その他の例えばアルコール等の親水性分散媒が含有されていてもよい。また、上記エマルジョンの分散質としては、通常樹脂であり、上述したゴム、特には天然ゴムが好ましい。この好ましいエマルジョンは、分散媒を水とし、ゴムを分散質とするするいわゆるラテックスが挙げられ、天然ゴムラテックスが好ましい。天然ゴムラテックスを用いることで、薄くかつ強度のある保護膜を形成することができる。
【0044】
保護部5の厚みとしては、特に限定されず、例えば10μm以上3mm以下とすることができる。
【0045】
CNT膜4は、CNT繊維8の配向方向Bに沿って開裂可能な部分11を有する。このように、上記CNT膜4にCNT繊維8の配向方向Bに沿って開裂可能な部分11を形成することで、抵抗変化の過渡応答性が高まり、より大きな歪み(伸縮)に対しても優れたセンサ機能を発揮することができる。この場合、開裂可能な部分11に接触する保護部5は大きく変形し、一方開裂しない部分に接触する保護部5は変形が小さいこととなる。
【0046】
当該歪みセンサ1によれば、CNT膜4がこのように設けられていることで、基板2の歪みに応じて、CNT膜4が歪み(伸縮し)、CNT膜4の抵抗が変化するため、歪みを検知するセンサとして機能することができる。なお、基板2の歪みは、長手方向Aの伸縮のみではなく、基板2の法線方向の変形や、長手方向を軸としたねじれ等も含む。当該歪みセンサ1によれば、このような基板2の歪みも検知することができる。また、当該歪みセンサ1によれば、保護部5の存在によりCNT膜4の破損等を抑制し、センサ機能の持続性を高めることができる。
【0047】
(製造方法)
歪みセンサ1の製造方法としては、特に限定されないが、例えば以下の製造工程で製造することができる。
【0048】
(1−1)スライドガラスをラテックスや樹脂溶液に浸漬し、その後乾燥させる。このようにすることで、スライドガラス両面に樹脂製の平面視矩形状の基板2を形成することができる。なお、スライドガラス以外の他の板材を用いてもよい。
【0049】
(1−2)この基板2の長手方向両端部分に導電性ゴム系接着剤を塗布し、一対の第一導電層6を形成する。次いで、各第一導電層6の表面に電極3を積層させる。
【0050】
(1−3)次いで、図3に示すように、CNT繊維8をスライドガラス(基板2)上の電極3間に巻き付けていき、CNT膜4を形成する。このようにすることで、一方向(一対の電極3の対向方向と略垂直方向)に配向する複数のCNT繊維8からなるCNT膜4を得ることができる。この際、スライドガラス(基板2)の両端を一対の支持具13で挟持し、スライドガラス(基板2)の長手方向を軸に回転させることで、CNT繊維8を巻き付けることができる。なお、スライドガラスの幅方向両端部分をマスキングテープ12等によりマスクしておいてもよい。
【0051】
なお、上記CNT繊維8は、CVD法により基板上に垂直配向成長したCNT単繊維9(CNT)の結晶を撚糸せずにそのまま引き出すことで得ることができる(図5参照)。このようにして得られたCNT繊維8は、複数のCNT単繊維9からなり、このCNT短繊維9同士が長手方向に連結する連結部を有する構造となっている。
【0052】
また、直接スライドガラスにCNT繊維8を巻き付けずに、他の板材又は筒材等にCNT繊維8を巻き付けて形成したCNT膜4を用いることもできる。
【0053】
(1−4)CNT膜4形成後、例えばイソプロピルアルコールやエタノール等の溶媒をCNT膜4に噴霧するか、又はこの溶媒に浸した後、乾燥させることが好ましい。この工程を経ることで、CNT膜4と基板2との密着性を高めることができると共に、CNT膜4を構成するCNT繊維8を高密度化することができる。なお、このようにCNT繊維8を高密度化することによって、CNT繊維同士の接触面積をあらかじめ増やすことができ、CNT膜4の抵抗を下げて消費電力を下げる効果と、歪みを加えた時に抵抗変化の感度を高める効果を得ることができる。
【0054】
(1−5)このCNT膜4の長手方向両端部分に、電極3の一部を露出するように導電性ゴム系接着剤を塗布し、一対の第二導電層7を形成する。
【0055】
(1−6)次いで、スライドガラスも含めた全体をラテックスに浸漬するか、あるいはCNT膜4の表面にラテックスを塗布することで保護部5を形成する。このようにラテックスを用いることで、保護部5をCNT膜4表面に積層させることができる。なお、この際、電極3の一部は露出するように保護部5を形成する。ラテックスは上述のとおり水性エマルジョンであり、親水性を有する。
【0056】
(1−7)保護部5形成後、スライドガラスの両面からこれらの積層体を切り出すことで、少なくとも1対の歪みセンサ1を得ることができる。スライドガラスにおける幅方向両端部分は切り落としてもよい。また、長手方向に分断することで、片面から複数の歪みセンサ1を製造することもできる。なお、スライドガラスから切り出した後、歪みセンサを電極3の対向方向に伸張させて、CNT膜4や保護膜5に開裂可能な部分11を形成することができる。
【0057】
<第二実施形態>
図4の歪みセンサ21は、基板2、一対の電極13、CNT膜14、保護部15及び樹脂層16を主に備える。基板2は、図1の歪みセンサ1と同様であるので、同一番号を付して説明を省略する。
【0058】
CNT膜14は、基板2の表面に直接積層されている。また、このCNT膜14を構成するCNT繊維8の隙間のすくなくとも一部に、後に詳述する保護部15が存在している。このように、CNT膜14を構成するCNT繊維8の隙間の少なくとも一部に保護部15を配置しても、不意の接触等によるCNT膜14の破損、CNT繊維間の隙間への異物混入、または湿気や浮遊ガス等のCNTへの付着等を抑える効果を得ることができる。加えて、このように保護部をCNT繊維8の隙間に存在させることで、CNT膜14が伸張した際にCNT膜14の膜厚が小さくなり、複数のCNT繊維8同士が基板の厚さ方向に接近することによって抵抗が低下することを抑えることができる。
【0059】
CNT膜14は、CNT繊維8の配向方向Bに沿って開裂可能な部分17を有する。このように、上記CNT膜14にCNT繊維8の配向方向Bに沿って開裂可能な部分17を形成することで、抵抗変化の過渡応答性が高まり、より大きな歪み(伸縮)に対しても優れたセンサ機能を発揮することができる。
【0060】
CNT膜14における上記以外の点(形状、構造、材質等)は、図1の歪みセンサ1のものと同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0061】
保護部15は主に樹脂から構成され、この微粒子状の樹脂から形成されていることが好ましい。保護部15を形成する成分としては、疎水性の有機溶媒中で溶けずに微粒子として存在可能であることが好ましい。疎水性の有機溶媒に分散された微粒子はCNT膜14に含浸されやすくなる。この保護部15を構成する樹脂(微粒子)は、CNT膜14を構成するCNT繊維8の隙間の少なくとも一部に配置されている。すなわち、保護部15は、CNT膜14に含浸するようにCNT繊維8の隙間の少なくとも一部に配置される。さらに、CNT膜14の表面の少なくとも一部やCNT14の表面を構成するCNT繊維8の隙間の少なくとも一部にも保護部15は配置される。
【0062】
このような保護部15は、疎水性の有機溶媒を分散媒とし、樹脂等を分散質(微粒子)とて用いた油性エマルジョンを、CNT膜14表面に塗布又は浸漬させることにより好適に形成することができる。上記油性エマルジョンにおける微粒子の固形分濃度としては、1質量%以上20質量%以下が好ましく、5質量%以上10質量%以下がより好ましい。このように比較的低濃度の微粒子を含む油性エマルジョンを塗布又は浸漬させることで、保護部15をCNT膜14を構成するCNT繊維8の隙間へ配置することが可能になる。保護部15はCNT繊維8の隙間の少なくとも一部に配置されるので、CNT膜14の中に保護部15が存在していても、CNT膜14が歪みに対して歪みセンサとして抵抗変化をすることができる。
【0063】
上記疎水性の有機溶媒は、特に限定されないが、例えばトルエンを用いることができる。また、上記保護部15を構成する樹脂(微粒子)としては、上述した合成樹脂やゴムを挙げることができるが、ポリスチレンが好ましい。ポリスチレンは伸縮性を有する樹脂であるので歪みセンサに好適といえる。
【0064】
また、CNT膜14の抵抗値を下げたい場合の樹脂としては、導電性ゴム系接着剤等、導電性添加剤を含むものが好ましい。このようにすることで、保護部15に導電性添加剤を含ませることができ、保護部15をCNT膜14の中に存在させることによるCNT膜14の抵抗の上昇を抑え、センサ機能を維持することができる。
【0065】
上記導電性添加剤としては、特に限定されず、例えばカーボンブラックやカーボン繊維等の炭素系添加剤、金属(銀、銅、アルミニウム等)粉や金属繊維等の金属系添加剤などを挙げることができる。これらの中でも、CNTとの親和性に優れ、CNT膜14内で均一に分散することができる炭素系添加剤が好ましい。
【0066】
なお、保護部15にも、CNT膜14と同様に、CNT繊維8の配向方向に沿って開裂可能な部分17が形成されている。従って、当該歪みセンサ21においては、電極13の対向方向に対する伸張に対して、CNT膜14及び保護部15が一体的に伸張することができる。また、当該歪みセンサ21によれば、このように形成された保護部15によりCNT膜14の形状が記憶されていることで、優れた過渡応答性を発揮することができる。
【0067】
一対の電極13は、基板2及びCNT膜14の長手方向両端部分に形成されている。すなわち、一対の電極13は、CNT膜14におけるCNT繊維8の配向方向とは異なる方向(略垂直方向)の両端に配設されている。この一対の電極13は、CNT膜14の両端部分と電気的に接続している。
【0068】
電極13を形成する材料としては、導電性を有する限り特に限定されないが、導電性接着剤により形成することが好ましい。導電性接着剤を用いることで、基板2、CNT膜14及び保護部15の固着性を高めることができる。さらに、導電性接着剤を用いることで、CNT膜14表面に塗布した際、この導電性接着剤が含浸し、CNT膜14と接着剤(電極13)とを容易に接触させることができる。
【0069】
樹脂層16は、電極13とCNT膜14との接続部分表面に形成されている。歪みセンサ21が樹脂層16を備えることで、電極13とCNT膜14との接着性を高め、当該歪みセンサ21の持続性を高めることができる。樹脂層16を形成する樹脂としては、特に限定されず、上述した合成樹脂やゴム等を用いることができる。
【0070】
(製造方法)
歪みセンサ21の製造方法としては、特に限定されないが、例えば以下の製造工程で製造することができる。
【0071】
(2−1)第一実施形態と同様、スライドガラス等をラテックスや樹脂溶液に浸漬し、その後乾燥させる。このようにすることで、スライドガラス両面に樹脂製の平面視矩形状の基板2を形成することができる。
【0072】
(2−2)次いで、CNT繊維をスライドガラスの幅方向に巻き付けていき、CNT膜14を基板2上に形成する。または、別途形成したCNT膜14を基板2上に積層させてもよい。CNT膜14を形成後、第一実施形態と同様に、溶媒をCNT膜に噴霧又は浸漬させることが好ましい。この工程を経ることで、CNT膜14と基板2との密着性を高めることができると共に、CNT膜14を構成するCNT繊維8を高密度化することができる。このようにCNT繊維8を高密度化することによって、CNT繊維同士の接触面積をあらかじめ増やすことができ、CNT膜14の抵抗を下げて消費電力を下げる効果と、歪みを加えた時に抵抗変化の感度を高める効果を得ることができる。
【0073】
(2−3)CNT膜14の表面に油性エマルジョン(例えば、微粒子状の樹脂が分散されたトルエン)を塗布し、保護部15をCNT膜14に含浸させる。このようにすることで、CNT膜14を構成するCNT繊維8の少なくとも一部に微粒子状の樹脂が配置される。具体的には、上記エマルジョンをCNT膜14の表面に塗布することによって、CNT膜14の表面の少なくとも一部や、CNT膜14の表面を構成するCNT繊維8の隙間の少なくとも一部にも保護部15は配置され、CNT膜14の表面も保護する。また、保護部15はCNT繊維8を包んでいる場所があってもよい。また、この油性エマルジョンとしては、上述したように、導電性ゴム系接着剤をトルエンにて分散させたものを好適に用いてCNT膜14の抵抗値を下げることもできる。
【0074】
(2−4)保護部15形成後、保護部15の長手方向両端部分に導電性ゴム系接着剤等を塗布することで、電極13を形成する。
【0075】
(2−5)次いで、電極13とCNT膜14との接続部分に、例えば弾性接着剤やラテックスを塗布し、樹脂層16を形成する。
【0076】
(2−6)樹脂層16形成後、スライドガラスから上記積層体切り出すことで、両面から少なくとも1対の歪みセンサ21を得ることができる。なお、スライドガラスから切り出した後、歪みセンサを電極13の対向方向に伸張させて、CNT膜14や保護膜15に開裂可能な部分17を形成することができる。
【0077】
<その他の実施形態>
本発明の歪みセンサは上記実施形態に限定されるものではない。例えば、第一実施形態の製造工程中、工程(1−6)において水性エマルジョンの代わりに油性エマルジョンを用いることで、保護部がCNT膜を構成するCNT繊維の隙間の少なくとも一部に存在する歪みセンサとすることができる。逆に、第二実施形態の製造工程中、工程(2−3)において油性エマルジョンの代わりに水性エマルジョンを用いることで、保護部がCNT膜表面に積層された歪みセンサとすることができる。さらに、CNT膜表面に保護部を積層する際、樹脂フィルムをCNT膜表面に積層させてもよい。
【0078】
また、当該歪みセンサにおいて、保護部はCNT繊維表面の少なくとも一部と接触していればよく、例えばCNT膜の表面近傍のみ等、CNT膜の一部のみに保護膜を形成する樹脂が含浸しているものであってもよい。さらには、CNT繊維間の隙間の少なくとも一部に保護部を有しつつ、CNT膜に保護部が積層されている構成であってもよい。このような歪みセンサにおいても、保護部によりCNT膜が保護されるので、当該歪みセンサの持続性を高めることができる。
【0079】
また、基板は、完全な直方体からなる板状体に限定されるものではなく、変形させて用いることもできる。例えば、筒状や波状とすることで、当該歪みセンサの用途を広げることができる。CNT繊維としても、CNTを紡いで得られたCNTファイバー等を用いてもよい。さらには、CNT膜において、一対の電極の対向方向と垂直方向に対向するさらにもう一対の電極を設けてもよい。このように直交する2対の電極を設けることで、当該歪みセンサを二次元センサとして用いることもできる。また、当該歪みセンサの表面を粘着性を有する樹脂で被覆することによって、人体、構造物等の歪みを検出したい場所へ簡易に貼り付けて用いることもできる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
[実施例1]
(1−1)スライドガラスをラテックスに浸漬し、その後乾燥させた。上記ラテックスとしては、天然ゴムラテックスを用いた。この乾燥は、常温で8時間行った。このようにすることで、スライドガラス両面にゴム製の平面視矩形状の基板を形成した。
(1−2)次いで、基板の長手方向両端部分に導電性ゴム系接着剤を塗布し、一対の第一導電層を形成した。次いで、各第一導電層の表面に電極を積層した。上記電極としては、メッシュ状の電極を用いた。
(1−3)次いで、CNT繊維をスライドガラスの幅方向に巻き付けていき、CNT膜を形成した。この際、スライドガラスの幅方向両端部分をマスキングテープ等によりマスクして行った。
なお、上記CNT繊維は、CVD法により基板上に垂直配向成長したCNT分子の結晶を撚糸せずにそのまま引き出すことで形成した(図5参照)。
(1−4)CNT膜形成後、エタノールをCNT膜に噴霧し、ドライヤーにより乾燥させた。
(1−5)次いで、CNT膜の長手方向両端部分に、電極の一部を露出するように導電性ゴム系接着剤を塗布し、120℃で1時間乾燥させることで一対の第二導電層7を形成した。
(1−6)次いで、電極の一部を露出するように表面にラテックスを塗工し、その後、常温で8時間乾燥させることで、CNT膜表面に保護部を形成した。このラテックスとしては、天然ゴムラテックスを用いた。
(1−7)保護部形成後、スライドガラスから切り出すことで、両面からそれぞれ1つの実施例1の歪みセンサ(図1の形状の歪みセンサ)を得た。
【0082】
[実施例2]
上記工程(1−6)の代わりに、下記工程(1−6’)を行ったこと以外は、実施例1と同様の操作をして、実施例2の歪みセンサを得た。
(1−6’)CNT膜表面に、油性エマルジョン(分散媒としてのトルエンにて希釈した導電性ゴム系接着剤:固形分濃度8質量%)を塗布し、この接着剤をCNT膜中に含浸させた。この塗布は2回に分けて行った。塗布後常温で30分間乾燥させた。この方法で、保護部を形成し、CNT膜を構成するCNT繊維の隙間の少なくとも一部に保護部が存在するようにした。
【0083】
[実施例3]
(2−1)実施例1と同様の操作により、スライドガラス両面にゴム製の平面視矩形状の基板を形成した。
(2−2)次いで、CNT繊維をスライドガラスの幅方向に巻き付けていき、CNT膜を形成した。CNT膜形成後、エタノールをCNT膜に噴霧し、ドライヤーにより乾燥させた。
(2−3)CNT膜の表面に油性エマルジョンを塗布し、油性エマルジョン中の樹脂をCNT膜に含浸させることで、保護部を形成した。この油性エマルジョンとしては、分散媒としてのトルエンによって希釈した導電性ゴム系接着剤(固形分濃度8質量%)を用いた。この塗布は2回に分けて行った。塗布後常温で30分間乾燥させた。この方法で、保護部を形成し、保護部がCNT膜を構成するCNT繊維の隙間に存在するようにした。なお、この導電性ゴム系接着剤には、導電性添加剤として、カーボンブラックが含有されているものを用いた。
(2−4)保護部形成後、CNT膜の長手方向両端部分に導電性ゴム系接着剤を塗布し、電極を形成した。
(2−5)次いで、電極とCNT膜との接続部分に、弾性接着剤を塗布し、樹脂層を形成した。塗布後常温で8時間放置することで、接着剤を硬化させた。
(2−6)樹脂層形成後、スライドガラスから切り出し、両面からそれぞれ1つの歪みセンサを得た。この歪みセンサを電極の対向方向に伸張させて、CNT膜に開裂可能な部分を形成させ、実施例3の歪みセンサ(図4の形状の歪みセンサ)を得た。
【0084】
[実施例4]
上記工程(2−3)以降を、下記工程(2−3’)以降に替えたこと以外は、実施例3と同様の操作をして、実施例4の歪みセンサを得た。
(2−3’)CNT膜形成後、CNT膜の長手方向両端部分に導電性ゴム系接着剤を塗布し、電極を形成した。塗布後、常温で1時間乾燥させた。
(2−4’)次いで、電極の一部を露出するように表面にラテックスを塗工し、その後、常温で8時間乾燥させることで、CNT膜表面に膜状の保護部を形成した。このラテックスとしては、天然ゴムラテックスを用いた。
(2−5’)保護部形成後、スライドガラスから切り出し、両面からそれぞれ1つの歪みセンサを得た。この歪みセンサを電極の対向方向に伸張させて、CNT膜及び保護部に開裂可能な部分を形成させた。
【0085】
[評価]
実施例1〜4で得られた歪みセンサを用いてセンサ機能を確認した。いずれの歪みセンサも、伸張時には両電極間の抵抗値が上昇し、元の状態に戻した時には抵抗値が元の状態に戻った。
【0086】
実施例2で得られた歪みセンサについて、両電極間を約20%〜100%の間で伸張させ、抵抗値の変化を測定した。抵抗値は両電極間をデジタルマルチメーターで測定した。測定結果を図6に示す。このように、伸び率と抵抗との間には高いリニアリティがあることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上説明したように、本発明の歪みセンサは、CNT膜が保護部で保護されていることで持続性に優れ、また、センサとして十分に機能し、圧力センサ、ロードセル、トルクセンサ、位置センサ等として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1、21 歪みセンサ
2 基板
3、13 電極
4、14 CNT膜
5、15 保護部
6 第一導電層
7 第二導電層
8 CNT繊維
9 CNT単繊維
10、10a、10b 連結部
11、17 開裂可能な部分
12 マスキングテープ
13 支持具
16 樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性を有する基板と、
この基板の表面側に設けられ、一方向に配向する複数のCNT繊維からなるCNT膜と、
このCNT膜の、上記CNT繊維の配向とは異なる方向の両端に配設される一対の電極と
を備えた歪みセンサであって、
上記CNT繊維表面の少なくとも一部と接触し、上記CNT膜を保護する樹脂製の保護部をさらに備えることを特徴とする歪みセンサ。
【請求項2】
上記保護部がCNT膜の表面に積層されている請求項1に記載の歪みセンサ。
【請求項3】
上記保護部が水性エマルジョンから形成されている請求項2に記載の歪みセンサ。
【請求項4】
上記保護部がCNT膜を構成するCNT繊維の隙間の少なくとも一部に存在する請求項1に記載の歪みセンサ。
【請求項5】
上記保護部が導電性添加剤を含む請求項4に記載の歪みセンサ。
【請求項6】
上記CNT膜がCNT繊維の配向方向に沿って開裂可能な部分を有する請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の歪みセンサ。
【請求項7】
上記CNT繊維が複数のCNT単繊維からなり、このCNT単繊維同士が長手方向に連結する連結部を有する請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の歪みセンサ。
【請求項8】
上記複数のCNT繊維が網目構造を形成している請求項7に記載の歪みセンサ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−104796(P2013−104796A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249172(P2011−249172)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】