説明

歪測定方法及び試料加工装置

【課題】減厚による歪緩和の影響を補正して、バルクの結晶中の歪を測定する。
【手段】結晶基材を含む被測定試料に集束イオンビームを照射して減厚し、被測定試料薄片とする減厚工程と、減厚工程途中の複数時点で、被測定試料薄片に集束電子線を照射して高角度散乱電子の電子線強度I1〜I3を測定する工程と、前記複数時点で、結晶基材の格子定数を電子線回折法により測定し、被測定試料薄片の歪E1〜E3を算出する工程と、散乱電子の電子線強度I1〜I3及び歪E1〜E3に基づき、散乱電子の電子線強度Iを変数とする歪の近似式E=E(I)を作成する工程と、減厚に伴い歪緩和が始まる臨界厚さに等しい厚さの結晶基材に、集束電子線を照射したとき測定される高角度散乱電子の臨界電子線強度Ioを予測する工程と、臨界電子線強度Ioを近似式E=E(I)に代入して、被測定試料の歪Eoを算出する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歪測定方法及び試料加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置、例えば電界効果トランジスタにおいて、チャネル等の結晶領域に加わる歪は半導体装置の特性に大きな影響を与える。このため、結晶領域の歪の評価は、半導体装置の開発、評価の重要な課題とされている。
【0003】
かかる歪の測定では、例えばゲート長が数十nmのゲート電極直下のチャネル内歪分布のように、極めて微小な領域の歪を測定する必要がある。従って、歪の測定には10nm程度の微小領域の測定が可能なナノ電子線回折(Nano−Beam Diffraction:NBD)又は集束電子線回折(Convergent−Beam Electron Diffraction:CBED)が広く用いられている
これらの歪測定方法では、被測定試料を、電子線が透過することができる厚さの薄片、例えば厚さ100nm〜300nm程度の薄片に加工して測定に供する。しかし、試料を薄片に減厚すると試料中の歪が緩和されるので、正確なバルク時の歪を測定することができない。また、試料間の相対的な歪の大小を比較する場合、試料の厚さにより歪緩和量が異なるため,全ての試料を精密に同じ厚さに加工しなければならない。
【0004】
従来、走査透過型電子顕微鏡(Scanning Transmissin Electron Microscopy:STEM)の試料の厚さは、SIM(Scanning Ion Microscope)又はSEM(Scanning Electron Microscope)により観測される画像を用いて測定していた。
【0005】
また、走査透過型電子顕微鏡の試料を、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)を用いて減厚し、減厚された試料の厚さを電子線の透過強度を用いて評価することで、所望の厚さの試料を作製する方法が知られている。
【0006】
さらに、均一な厚さの試料の一部に電子線を照射して透過強度から厚さの絶対値を求め、その後、構成元素が異なる2層からなる他の部分に集束電子線を照射して、高角度散乱する電子線の強度から2層のそれぞれの厚さを求める方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−249087号公報
【特許文献2】特開平08−005528号公報
【特許文献3】特開2007−193977号公報
【特許文献4】特開2009−052944号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】佐藤岳志、松本弘昭、佐藤高広、今野充、長沖巧、谷口佳史著、「ナノ回折法を用いた半導体デバイスの微小応力評価の検討」、第28回LSIテスティングシンポジウム(LSITS2008)H20.11.12−14、日本国、LSIテスティング学会、2008.11、269頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、試料を100nm〜300nmという薄い薄片に加工して、ナノ電子線回折あるいは集束電子線回折を用いて歪を測定する従来の歪測定方法では、試料の減厚過程で歪が緩和してしまい、バルクの試料の歪を測定することは難しい。
【0010】
また、複数の試料の歪を比較する場合、試料の厚さにより歪の緩和量が異なるため、正確に比較するには複数試料を精密に同じ厚さに加工する必要がある。しかし、SIM又はSEMを用いる従来の膜厚測定法では、エッジ効果が画面上での寸法測定の障害となり、精密な膜厚測定が難しい。
【0011】
さらに、透過電子線強度から膜厚を測定する従来の膜厚測定法では、透過電子線強度が結晶による回折効果の影響を受け易く、結晶基材を含む試料の厚さを精密に測定することは難しい。
【0012】
高角度散乱電子の電子線強度は、回折効果の影響が小さく、結晶基材の厚さの評価に適している。しかし、高角度散乱電子の電子線強度単独では、試料の厚さの絶対値を測定することができない。このため、従来の試料加工装置では、厚さの測定には用いられていない。
【0013】
本発明は、薄片に加工された試料の歪をナノ電子線回折あるいは集束電子線回折を用いて測定し、その測定結果に基づいてバルクの試料の歪を知得する歪測定方法、複数試料の歪を精密に比較する歪測定方法、又は、複数試料を精密に同一厚さの薄片に加工することができる試料加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、第1の観点によれば、結晶基材を含む被測定試料を準備する工程と、集束イオンビームの照射により前記被測定試料を減厚して、被測定試料薄片を作製する減厚工程と、前記減厚工程の途中の複数時点で、前記被測定試料薄片に集束電子線を照射して高角度散乱電子の電子線強度を測定する工程と、前記減厚工程の途中の前記複数時点で、前記結晶基材の格子定数を電子線回折法により測定し、測定された前記格子定数から前記被測定試料薄片の歪を算出する工程と、前記複数時点で測定された前記散乱電子の電子線強度及び前記複数時点で算出された前記被測定試料薄片の歪に基づき、散乱電子の電子線強度を変数とする前記被測定試料薄片の歪の近似式を作成する工程と、前記結晶基材の減厚に伴い前記結晶基材の歪緩和が始まる臨界厚さに等しい厚さを有する前記結晶基材に、前記集束電子線を照射したとき測定される高角度散乱電子の電子線強度を臨界電子線強度として予測する臨界電子線強度の予測工程と、予測された前記臨界電子線強度を前記近似式に代入して得られる歪を、前記被測定試料の歪として算出する工程と、を有する歪測定方法として提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、薄片に加工された試料の歪の測定値に基づいて、薄片に加工する前のバルクの試料の歪を知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態の歪み測定工程図(その1)
【図2】本発明の第1実施形態の歪み測定工程図(その2)
【図3】本発明の第1実施形態の被測定試料断面図
【図4】本発明の第1実施形態の被測定試料薄片の支持構造体斜視図
【図5】本発明の第1実施形態の試料加工装置断面図
【図6】本発明の第1実施形態の加工中の試料配置を表す図
【図7】高角度散乱電子の電子線強度の厚さ依存性を説明する図
【図8】本発明の第1実施形態の歪測定方法の説明図
【図9】本発明の第1実施形態の歪測定方法工程図(その1)
【図10】本発明の第1実施形態の歪測定方法工程図(その2)
【図11】本発明の第1実施形態の歪測定結果を表す図
【図12】本発明の第1実施形態の高角度散乱電子線強度Ioの算出工程図
【図13】本発明の第1実施形態の標準試料の作製工程断面図
【図14】本発明の第1実施形態の標準試料薄片の支持構造体斜視図
【図15】本発明の第1実施形態の標準試料薄片の歪み測定結果を表す図
【図16】本発明の第2実施形態の歪測定結果を表す図
【図17】本発明の第3実施形態の歪測定結果を表す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第1実施形態は、電界効果トランジスタのチャネル領域の減厚前のバルクの歪みを知得する歪測定方法に関する。
【0018】
図1は本発明の第1実施形態の歪み測定工程図(その1)であり、歪み測定方法の主要な工程を表している。
【0019】
図1を参照して、本第1実施形態では、まず、工程S1で、結晶基材の臨界電子線強度Ioを求める。本明細書中の臨界電子線強度Ioとは、上記結晶基材の減厚に伴い結晶基材中の歪が緩和し始まる厚さ(以下、「臨界厚さdo」という。)を有する結晶基材に、集束電子線を照射したときに測定される高角度散乱電子の電子線強度をいう。即ち、臨界電子線強度Ioを与える臨界厚さdo以上の厚さを有する結晶基材では、歪みは厚さに依存せず一定のバルクの結晶基材の歪みが保存される。他方、臨界電子線強度Ioを与える臨界厚さdo未満の厚さの結晶基材では、歪みは結晶基材の減厚と共に緩和され減少する。この工程S1の詳細については、後述する。
【0020】
次いで、工程S2で、被測定試料を減厚して被測定試料薄片とする。そして、この減圧工程の途中における厚さdi(iは自然数、1、2、3・・・を表す)の被測定試料薄片のそれぞれについて、歪みEi、及び、高角度散乱電子の電子線強度Iiを測定する。以下、工程S2の詳細を説明する。
【0021】
図2は本発明の第1実施形態の歪み測定工程図(その2)であり、図1中に示す工程S2の詳細な工程を表している。この工程S2は、被測定試料の裏面を加工する工程S220から始まり、工程S221〜工程S230の繰り返し工程を含んでいる。
【0022】
図2を参照して、工程S2では、まず工程S220で、被測定試料薄片の支持構造体を作製し、被測定試料薄片の裏面を仕上げ加工する。工程S220を説明する前に、まず、歪み測定に供された被測定試料と支持構造体とを説明する。
【0023】
図3は本発明の第1実施形態の被測定試料断面図であり、被測定試料1として準備された電界効果トランジスタの断面を表している。
【0024】
図3を参照して、本発明の第1実施形態では、被測定試料1として、ゲート長30nm、深さ10nmのLDD領域14a(低濃度不純物領域)を有する電界効果トランジスタを作製し、その被測定試料1のチャネル領域(測定領域10c)の歪を測定した。
【0025】
この電界効果トランジスタの製造では、まず、(001)シリコン基板11の上面に高誘電体膜を含むゲート絶縁膜12を介してゲート電極13を形成後、ゲート電極13の両側のシリコン基板11に不純物をイオン注入してLDD領域14aを形成した。次いで、ゲート電極13の両側面に酸化シリコンの側壁15aを形成し、その外側に不純物をイオン注入してソース・ドレイン領域14を形成した。さらに、ゲート電極13を完全に覆うシリコン酸化膜からなる絶縁膜15b(側壁15aと共に層間絶縁膜15を構成する。)を形成して、被測定試料1とした。なお、シリコン基板11は(001)基板を用い、シリコン基板11主面に垂直方向(z軸)を<001>、ゲート幅方向(y軸)を<−111>、ゲート長方向(x軸)を<110>とした。歪測定は、この被測定試料1のゲート電極13の中央直下のチャネル領域を測定領域10cとしてなされた。
【0026】
上述の被測定試料1は、L字型のブロック形状をなす支持構造体10に加工し歪み測定に供される。
【0027】
図4は本発明の第1実施形態の被測定試料薄片の支持構造体斜視図であり、薄片に加工された被測定試料薄片10Aを支持する支持構造体10の形状を表している。
【0028】
図4を参照して、支持構造体10は、L字型のyz断面を有するブロック状をなし、そのL字の垂直部の表裏面(y軸に垂直な面)に上端面(z軸方向から見た上端面)から穿たれた凹部10a、10bが形成されている。かかる凹部10a、10bは、周知の集束イオンビームを用いた研削方法により形成することができる。この凹部10a、10bに挟まれた支持構造体10のL字型の上端は、例えば厚さ100nm〜300nmの薄片に加工された被測定試料薄片10Aを構成する。
【0029】
この被測定試料薄片10Aは、例えば幅(x軸方向の長さ)が10μm、高さ(z軸方向の長さ)が8μmの矩形板状に形成される。また、被測定試料薄片10Aの主面をなす表面10A−a及び裏面10A−bに、ゲート電極13の下面近傍、ゲート絶縁膜12、チャネル領域及びチャネル領域に接するLDD領域14aの断面が表出するように被測定試料薄片10Aは作製される。
【0030】
次に、支持構造体10を作製するために用いた試料加工装置を説明する。
【0031】
図5は本発明の第1実施形態の試料加工装置断面図であり、集束イオンビームを用いて試料を作製する試料加工装置50の主要な構成を表している。
【0032】
図5を参照して、本第一実施形態で用いられた試料加工装置50は、真空容器51内に、集束イオンビーム52a(forcused Ion Beam)を生成するイオン光学系52と、集束電子線53aを生成する電子光学系53とを備える。このイオン光学系52及び電子光学系53は、集束イオンビーム52aと集束電子線53aとが互いに鋭角をなして交差するように、例えば52°±5°の角度範囲で交差するように配置される。さらに、真空容器51内に、支持構造体10を保持する支持台54を備える。
【0033】
支持台54は、支持台54上に保持する支持構造体10を、被測定試料薄片10Aの被測定領域10cを中心にx軸(図5の紙面に垂直方向)回りに回動するθ回転軸54aと、被測定領域10cを中心にz軸(図5の紙面内で被測定試料薄片10Aの表面10A−bに平行な方向)回りに回動するR回転軸54bとを備える。なお、集束イオンビーム52a及び集束電子線53aは、被測定試料薄片10A上の被測定領域10c近傍で交差するように配置される。
【0034】
試料加工装置50は、さらに、真空容器51内に、被測定試料薄片10Aを透過する電子線を投影するための投影光学系56と、被測定試料薄片10Aを透過した透過電子線53bを検出する透過電子線検出器57と、被測定試料薄片10Aを透過し、高角度、例えば50mrad〜200mradの範囲の散乱角で散乱される高角度散乱電子53cの電子線強度(以下「高角度散乱電子線強度」という。)を検出する環状検出器58とを備える。加えて、被測定試料薄片10Aを構成する結晶を透過し、結晶格子により50mrad未満の回折角で回折された回折パターンを拡大する拡大光学系56aと、拡大された回折パターンを検出する手段、例えば2次元電子線検出器57aを備える。
【0035】
工程S220では、まず、被測定試料1からL字型の支持構造体10を切り出す。この切り出された支持構造体10には、凹部10a、10bは未だ形成されていない。
【0036】
図6は本発明の第1実施形態の加工中の試料配置を表す図であり、図6(a)はシェービングオフ加工時の試料配置を、図6(b)は裏面10A−bの仕上げ加工時の試料配置を、及び、図6(c)は表面10A−aの仕上げ加工時の試料配置を表している。
【0037】
図2を参照して、工程S220では、初めに、被測定試料薄片10Aの裏面10A−b側の凹部10bをシェービングオフにより形成する。
【0038】
図6(a)を参照して、支持構造体10を保持する図5に示す支持台54をθ回転軸回りに回転して、被測定試料薄片10Aの表裏面10A−a、10A−bが集束イオンビーム52aの光軸に平行になるように、即ち、L字型の支持構造体10の上端面に垂直に集束イオンビーム52aが照射されるように配置する。
【0039】
次いで、加速電圧20KV〜30KVのGa集束イオンビーム52aを、支持構造体10の上端面に垂直に入射して、被測定試料薄片10Aの裏面10A−b側(図4に示す凹部10bが形成された側)を削除し、凹部10bを形成する。この集束イオンビーム52aによる凹部10bの形成は、集束イオンビーム52aを、被測定試料薄片10Aの裏面10A−bに平行に走査し、順次凹部10bの深さ方向(裏面10A−b側から表面10A−a側へ向く方向)へ走査を移動させて凹部10bを形成するいわゆるシェービングオフによりなされる。
【0040】
次いで、図6(b)を参照して、支持構造体10を図5に示すR回転軸54b回りに180°回転し、さらにθ回転軸54a回りに回転して、被測定試料薄片10Aの裏面10A−bが集束イオンビーム52aの光軸に対して38°で交差するように、即ち裏面10A−bの垂線と集束イオンビーム52aの光軸が52°で交差するように支持構造体10を配置する。
【0041】
次いで、シェービングオフより低加速電圧の集束イオンビーム52a、例えば加速電圧2KV〜5KVのGa集束イオンビーム52aを、シェービングオフにより形成された凹部10bの底面に照射し、被測定試料薄片10Aの裏面10A−b(凹部10bの底面)を仕上げ加工する。これにより、シェービングオフにより形成された例えば厚さ20〜30nmの加工のダメージ層を除去する。なお、集束イオンビーム52aの光軸を加工面(裏面10A−b)から傾けることで、集束イオンビーム52aの外周面が加工面に平行になる。その結果、加工面に平行に研削(減厚)が進行するので、裏面10A−bはxz面に平行に加工され、仕上げ加工で発生する裏面10A−bのxz面からの傾きを防止することができる。
【0042】
この裏面10A−bの仕上げ加工後、制御部59は工程S221を実行する。
工程S221で、制御部59(図5参照)は、内蔵するカウンタの値iを初期値1に設定する。制御部59には、予めi番目の厚さの目標値が、厚さdiとして、di>di+1の順に記憶されている。そして、カウンタの値iに従い、加工の目標厚さが厚さdiとして選択される。従って、カウンタを1に設定することで、厚さdiのうちの最大の厚さd1、例えばd1=300nmが仕上げ加工の目標厚さとして選択される。同様に、カウンタにi=2が設定された場合、2番目に厚い目標厚さd2(例えはd2=200nm)が選択される。
【0043】
工程S222では、試料構造体10を図5に示すR回転軸54b回りに180°回転し、さらにθ回転軸55a回りに回転して、再び試料構造体10を図6(a)に示す配置に保持する。即ち、被測定試料薄片10Aの表面10A−aを集束イオンビーム52aの光軸に平行に配置し、L字型の支持構造体10の上端面に垂直に集束イオンビーム52aが照射されるように配置する。
【0044】
次いで、加速電圧20KV〜30KVのGa集束イオンビーム52aを支持構造体10の上端面に垂直に照射して、シェービングオフにより被測定試料薄片10Aの表面10A−a側の凹部10aを形成する。このとき、制御部59は、凹部10aの深さを、凹部10a、10bで挟まれる被試料薄片10Aの厚さが、目標とする厚さd1に仕上げしろを加えた厚さになるように調整する。例えば、仕上がり厚さd1=300nmのとき、例えば100nmの仕上げしろを加えて、400nmを目標厚さとして加工する。
【0045】
次いで、図2の工程S223を参照して、集束イオンビーム52aを用いて試料構造体10の上端面のSIM(Scanning Ion Microscope)像を観察し、SIM像から被試料薄片10Aの厚さを測定する。そして、その測定された厚さが、工程S224で、目標とする厚さ(例えば、d1+100nm)より厚いと判定された場合は、再び工程S223を繰り返す。工程S224で、測定された厚さが目標とする厚さ以下と判定されたとき、制御部59は工程S225の仕上げ加工を実行する。
【0046】
工程S225では、図6(c)を参照して、θ回転軸54a回りに支持構造体10を回転し、被測定試料薄片10Aの表面10A−aが集束イオンビーム52aの光軸に対して38°で交差するように、即ち表面10A−aの垂線と集束イオンビーム52aの光軸が52°で交差するように支持構造体10を配置する。
【0047】
この配置で、シェービングオフより低加速電圧、例えば加速電圧が2kV〜3kVのGa集束イオンビーム52aを被測定試料薄片10Aの表面10A−aに照射して、ダメージ層を除去する仕上げ加工を行う。
【0048】
工程S225の仕上げ加工を所定時間行った後、工程S226の高角度散乱電子の電子線強度の測定を行う。工程S226では、集束イオンビーム52aの照射を停止し、集束電子線53aを被測定試料薄片10Aの表面10A−aに垂直に入射する。集束電子線53aの加速電圧は、被測定試料薄片10Aを高角度散乱電子が透過するように、例えば200kV〜300kVとした。また、集束半角度を10mrad〜15mradとした。なお、集束電子線53aの入射位置は、歪みを測定すべき被測定領域10cから1μm程度離して、被測定領域10c表面の汚染を防止した。
【0049】
そして、被測定試料薄片10A内で高角度散乱された、例えば50mrad〜200mradの角度範囲に散乱された電子を環状検出器58で検出し、電子線強度I(高角度散乱電子線強度I)を測定した。
【0050】
図7は高角度散乱電子の電子線強度の厚さ依存性を説明する図であり、被測定試料薄片の厚さdと高角度散乱電子の電子線強度Iとの関係を表している。
【0051】
図7を参照して、上述した範囲、例えば50mrad〜200mradの範囲の散乱角で散乱される高角度散乱電子の電子線強度Iは、周知のように、被測定試料薄片10Aの厚さd、被測定試料薄片10Aを構成する原子量Zの二乗及び密度ρに依存する。とくにこの角度範囲の散乱電子線強度は、結晶による回折の影響が、透過電子線53b強度に比べて著しく小さい。従って、この高角度散乱電子の電子線強度Iは、同一組成かつ同一結晶構造(即ち、原子密度が等しい)の試料間では、厚さのみを変数とする単調増加関数となり、厚さに対して一義に定まる。このため、高角度散乱電子の電子線強度Iは、被測定試料薄片10Aの相対的な厚さを正確に反映する。即ち、同一組成かつ同一結晶構造の試料に対して、高角度散乱電子の電子線強度Iが同一ならば、試料の厚さは同一としてよい。
【0052】
次いで、工程S227で、制御部59は、測定された高角度散乱電子線強度Iを、予め与えられた目標とする高角度散乱電子線強度Iiと比較する。そして、高角度散乱電子線強度Iが目標とする高角度散乱電子線強度Iiより小さいとき、再び仕上げ加工工程S226を繰り返す。この目標とする高角度散乱電子線強度Iiは、目標とする厚さdiを有する被測定試料薄片10Aで生ずべき高角度散乱電子線強度として予め与えられる。後述するように歪の測定精度は、高角度散乱電子線強度の相対値に依存し、その絶対値の精度には依存しない。従って、目標電子線強度Iiは、相対値の精度が高ければよく、その絶対値の精度はとくに必要とされない。高角度散乱電子線強度Iが目標とする高角度散乱電子線強度Ii以上のとき、目標とする厚さまで減圧加工されたとして、次の工程S228を行う。
【0053】
図8は本発明の第1実施形態の歪測定方法の説明図であり、被測定試料薄片10Aに入射する集束電子線53aと、工程S228で歪が測定される格子面との位置関係を表している。なお、図8中に、LDD領域14aの間に設定された、歪が測定されるべき被測定領域10cと、被測定試料薄片10Aの表面10A−a及び裏面10A−bに垂直かつ互いに直交する格子面間隔がLd1及びLd2の2つの格子面とが描かれている。後述するようにう、これら2つの格子面間隔を測定して歪を測定した。
【0054】
図8を参照して、工程S228では、被測定試料薄片10Aの歪を測定する。この歪測定工程では、被測定試料薄片10Aを、図6(c)に示す工程S226と同一位置に配置し、被測定領域10cに垂直に集束電子線53aを入射する。集束電子線53aの加速電圧は例えば200kV〜300kV、集束半角度は5mradとした。そして、被測定領域10cを通過及び回折する電子線を、拡大光学系56aを通して2次元電子線検出器57a上に拡大投影した。このとき、2次元電子線検出器57a上に投影され検出される菊地線のうち、互いに平行な欠損線と過剰線とからなる菊地線の組の欠損線と過剰線との距離を測定することで、被測定領域10cの格子定数を測定した。なお、予め歪のない標準結晶を被測定試料薄片10Aと同様に加工し、その菊地線の欠損線と過剰線との距離を求めておく。標準結晶として、シリコン基板11の歪みが小さい領域を用いることもできる。歪は、被測定試料薄片10Aと標準結晶との欠損線と過剰線との距離の比として測定される。
【0055】
図9は本発明の第1実施形態の歪測定方法工程図(その1)であり、(001)格子面間隔Ld1の測定工程を表している。図9中、K1〜K6を付した直線は菊地線を表している。なお、実線で描かれた菊地線K1〜K3は過剰線を表し、破線で描かれた菊地線K4〜K6は消失線を表している。また、符号K1〜K6に付した(hkl)は、菊地線K1〜K6を形成する回折格子の面指数を表している。
【0056】
図9(a)を参照して、(−110)面からなる被測定領域10cの表面10A−aに垂直に集束電子線53aを入射すると、2次元電子線検出器57aには、透過電子線53bを遮蔽する遮蔽ディスク57bを中心に、上下対象に互いに平行する004過剰線と004消失線が2次元電子線検出器57aに投影され検出される。
【0057】
次いで、図9(b)を参照して、被測定試料薄片10Aを<110>軸廻りに傾斜する。これにより、高次の菊地線、例えば0012過剰線と0012消失線が現れる。この傾斜角Δ1を調整して、0012消失線が遮蔽ディスク57bの中心にくるようにする。このとき、傾斜角Δ1は約3.5度であった。
【0058】
次いで、試料を菊地線に垂直な<001>軸廻りに、他の菊地線の影響が少なくなる傾斜角Δ2まで傾斜する。これにより、菊地線の間隔を測定する際、他の菊地線による測定誤差の発生を小さくすることができる。本第1実施形態では、傾斜角Δ2を約10度とした。この状態で、0012過剰線と0012消失線との間隔L1を測定し、予め測定された標準結晶との0012過剰線と0012消失線との間隔との比から被測定試料薄片10Aの歪を算出した。このように、菊地線の間隔を求めることで、10-3程度の歪を測定することができる。
【0059】
図10は本発明の第1実施形態の歪測定方法工程図(その2)であり、(110)格子面間隔Ld2の測定工程を表している。図9中、K7〜K10を付した直線は菊地線を表している。なお、実線で描かれた菊地線K7〜K8は過剰線を、破線で描かれた菊地線K9〜K10は消失線を表し、また符号K7〜K10に付した(hkl)は、菊地線K7〜K10を形成するの回折格子の面指数を表している。
【0060】
図10を参照して、上述した(001)格子面間隔Ld1の測定工程と同様にして、(110)格子面間隔Ld2を測定した。この(110)格子面間隔Ld2の測定では、まず、被測定領域10cに垂直に集束電子線53aを入射し、遮蔽ディスク57bを中心に上下対象に互いに平行する2−20過剰線と2−20消失線を投影する。ついで、被測定試料薄片10Aを<001>軸廻りに傾斜角Δ1傾け、8−80消失線を遮蔽ディスク57bの中心に持ちきたす。次いで、被測定試料薄片10Aを<110>軸廻りに傾斜角Δ2傾け、他の菊地線による妨害を小さくして、8−80消失線と8−80過剰線との間隔L2を測定し、歪の無い標準結晶の間隔と比較して歪を求めた。なお、傾斜角Δ1及び傾斜角Δ2は、それそれ3.2度及び7度であった。
【0061】
歪の測定工程S228後、工程S229では、制御部59はカウンターの内容iを予め定めた測定回数Nと比較する。カウンターの内容iがN未満であれば、工程S230でカウンターの内容に1を加えて、再び工程S222から工程S229を繰り返す。従って、i=1、2、・・・,N番目の加工と測定が順次実行される。即ち、i番目の加工、測定では、被測定試料薄片10Aは、目標とされる厚さdiに相当する高角度散乱電子線強度Iiを与える厚さに減厚加工され、その厚さにおける歪Eiが測定される。この加工、測定がN回繰り返される。他方、カウンターの内容iがNであれば、工程S2を終了し、図1に示す次の工程S3を実行する。
【0062】
図11は本発明の第1実施形態の歪測定結果を表す図であり、測定された歪と測定された高角度散乱電子線強度との関係を表している。なお、図11では、測定回数Nが3の場合を表している。
【0063】
図11を参照して、高角度散乱電子線強度I1、I2、I3が測定された各減厚段階で、それぞれ歪E1、E2、E3が測定された。なお歪E1、E2、E3として、(001)格子面間隔Ld1から求めた歪と(110)格子面間隔Ld2から求めた歪との平均値を用いた。また、高角度散乱電子線強度I1、I2、I3は、厚さd1=300nm、d2=200nm、d3=100nmを目標として減厚加工した後にそれぞれの厚さの被測定試料薄片10Aで測定された強度である。被測定試料薄片10Aの厚さに対して、ほぼ直線的に歪は増加している。これは、バルクの歪が減厚とともに緩和されたことを明らかにしている。
【0064】
工程S229で歪の全ての測定工程S228が終了したと判定されると、図1を参照して、工程S3で歪の近似式E(I)を算出する。図11を参照して、工程S3では、高角度散乱電子線強度Iを変数とし、高角度散乱電子線強度I1、I2、I3のときにそれぞれ測定された被測定試料薄片10Aの歪E1、E2、E3を、直線近似による最小自乗法を用いて近似する。図11中の直線E(I)は、算出された歪の近似式E(I)のグラフである。
【0065】
次いで、図1を参照して、工程S4でバルクの歪Eoを算出する。この工程S4では、バルクの歪Eoを、工程S3で算出した歪の近似式E(I)に変数I=Ioを代入した値E(Io)として求める。このIoは、既述のように、バルクの歪みEoが減厚と共に減少(緩和)し始める厚さdo(臨界厚do)を有する試料で測定される高角度散乱電子線強度Ioである(その知得方法は後述する)。従って、再び図11を参照して、被測定試料薄片10Aの高角度散乱電子線強度IがI=Ioとなる厚さdoまで、歪みEは近似式E(I)に従って増加する。他方、臨界厚do以上の厚さでは、厚さによらず一定のバルクの歪みEoになると推量される。即ち、E(Io)は、被測定試料薄片10Aのバルクにおける歪みEoの推定値を表している。本第1実施形態では,このE(Io)を被測定試料1のバルクでの歪として知得する。
【0066】
以下、図1の工程S1として示した、臨界電子線強度Io、即ち臨界厚さdoを有する試料で測定される高角度散乱電子線強度Ioの算出方法を説明する。
【0067】
図12は本発明の第1実施形態の高角度散乱電子線強度Ioの算出工程図であり,工程S1の詳細を表している。
【0068】
図12を参照して、工程S1では、まず、工程S330で、標準試料から作製された支持構造体の裏面を加工する。
【0069】
図13は本発明の第1実施形態の標準試料の作製工程断面図であり、標準試料2の断面を表している。
【0070】
図13(a)を参照して、標準試料2の作製では、まず、(001)シリコン基板11の主面上にエピタキシャルSiGe層21を形成する。次いで、SiGe層21上に、<−1、1、1>方向(y軸方向)に延在する幅500nmの開口22aを有するハードマスク22を形成する。その後、CVD法を用いて、ハードマスク22の開口22a内に選択的に例えば厚さ100nmのSi層23をエピタキャル成長により形成した。
【0071】
次いで、図13(b)を参照して、ハードマスク22を除去した後、Si層23を被覆する例えば厚さ1μmのエピタキシャルSiGe層24を形成した。次いで、X線回折法、例えば平行配置の2結晶法を用いて、シリコン基板11とSi層23の格子定数の差を測定し、これからからSi層23の歪みを算出した。このSi層23の歪みは、標準試料のバルクの歪みEoを表している。
【0072】
次いで、標準試料2をSi層23の延在方向に垂直に切り出し、標準試料薄片20Aを作製した。
【0073】
図14は本発明の第1実施形態の標準試料薄片の支持構造体斜視図であり、標準試料薄片20Aを支持する支持構造体20を表している。
【0074】
図14を参照して、支持構造体20は、既述した第1実施形態の被測定試料薄片10Aを支持する支持構造体10と同様の寸法及び外形を有する。説明を簡略にするため、以下、相違点を主として説明する。
【0075】
L字型の支持構造体20は、下部がシリコン基板11からなり、L字の垂直線の上部がSi層23を挟む2層のSiGe層21、24から構成されている。そして、L字の垂直線部分の上部の表裏面20A−a、20B−bに、それぞれ凹部20a、20bが形成され、凹部20a、20bに挟まれた部分が薄片状の標準試料薄片20Aを形成する。
【0076】
標準試料薄片20Aは、標準試料2のSi層23の延在方向に垂直に切り出される。従って、その表裏面20A−a、20B−bには、上下をSiGe層21、24に挟まれたSi層23の断面が表出する。標準試料2の歪みは、この表出するSi層23を被測定領域20cとして測定した。かかる標準試料薄片20Aは、既述の工程S220〜S229で説明した第1実施形態の被測定試料薄片10Aの支持構造体10の作製工程と同様の工程により、工程S330〜S339を経て作製される。なお、工程S330では、支持構造体20の裏面側に形成される凹部20bを形成する。この工程S330の加工工程は、既述の工程S220と同様になされる。
【0077】
次いで、工程S331で、制御部59はカウンタの内容iを1に初期設定する。次いで、工程S332〜S340で標準試料1を厚さd’iを目標として減厚し、標準試料薄片20Aに加工する。その際、目標とする厚さd’iごとに、歪みE’iを測定する。この工程S332〜S340は、被測定試料薄片10Aに代えて標準試料薄片20Aとした他は、図2を参照して説明した第1実施形態の被測定試料薄片10Aの減厚加工及び歪み測定の工程S222〜S230と同様である。この結果、厚さd’1〜d’Nの標準試料2について、それぞれ高角度散乱電子線強度I’1〜I’Nおよび歪E’1〜E’Nが測定される。
【0078】
工程S339でN番目の歪み測定、例えばN=4番目の歪み測定が終了したと判定されると、制御部59は、工程S241で標準試料2について歪みの近似式E’=E’(I)を算出する。
【0079】
図15は本発明の第1実施形態の標準試料薄片の歪み測定結果を表す図であり、標準試料2で測定された歪と測定された高角度散乱電子線強度との関係を表している。なお、図15は、測定回数N=4の場合を表している。
【0080】
図15を参照して、高角度散乱電子線強度I’1、I’2、I’3、I’4が測定された各減厚工程の段階で、それぞれ歪E’1、E’2、E’3、E’4が測定された。これらの歪E’1〜E’4の測定方法は、既述の被測定試料薄片10Aの歪みの測定方法と同様である。なお、高角度散乱電子線強度I’1〜I’4は、それぞれ加工目標を厚さd’1=320nm、d’2=240nm、d’3=160nm、d’4=80nmとしたときの各減厚段階での測定値である。
【0081】
歪は、80nm〜320nmの範囲で、標準試料薄片20Aの厚さとともにほぼ直線的に増加する。図15中の直線E’(I)は、最小自乗法により算出された歪E’の近似式E’=E’(I)のグラフを表している。この近似式は、高角度散乱電子線強度Iを変数とする直線近似により求めた。
【0082】
図15中の曲線60は、標準試料薄片20Aの歪み測定結果から実際の歪E’として推測される歪E’と、高角度散乱電子線強度I’との関係を表している。歪E’は、バルクの状態、即ち臨界厚さDo以上の厚さでは、厚さに依存しない一定の歪E’oとなる。この歪E’oは、既述のように例えばX線回折法により測定される。
【0083】
本第1実施形態では、工程S342で、近似式E’=E’(I)を用いて、歪E’がバルクの歪E’oと等しくなる高角度散乱電子線強度Ioを算出する。即ち、E’o=E’(Io)が成立する高角度散乱電子線強度Ioを求める。そして、この高角度散乱電子線強度Ioを、臨界厚さdoの標準試料薄片20Aで測定される高角度散乱電子線強度Ioとする。
【0084】
図15を参照して、この臨界厚さdoは、歪の直線近似が有効な範囲、即ち歪が高角度散乱電子線強度とともに直線的に増加すると近似できる上限を示している。即ち、歪E’は、臨界厚さdo以下では直線近似式E’=E’(I)により近似され、それ以上の厚さではE’=E’o(一定の歪)として近似される。
【0085】
本第1の実施形態では、異なる構造を有する試料間で、即ち標準試料薄片20Aと被測定試料薄片10Aとの間で、バルクの歪が緩和される臨界厚さdoが等しいと仮定する。図15中の曲線60を参照して、厚さに対して歪が直線的に変化しない場合、臨界厚さdoは、実際の臨界厚さDoと必ずしも一致しない。しかし、両試料についてそれぞれ直線近似として歪の近似式E=R(I)及びE’=E’(I)を用いた場合、これらの近似的が成立する上限として(即ち、直線近似式の屈折点として)、臨界厚さdoを両方の近似式に適用する。もちろん、より高次の近似式を用いて、より実際の臨界厚Doに近いd0を算出してもよい。
【0086】
減厚に起因する応力緩和は、結晶格子が膜厚方向に変形して面内応力を緩和することにより生ずるもので、物質固有の物理的特性に依存していると、本発明の発明者は考察する。本第1実施形態では、標準試料薄片20A及び被測定試料薄片10Aとも、歪の測定領域10c、20cは同一の結晶構造を有する同一方位のシリコン単結晶である。従って、かかる応力緩和が生ずる屈折点、即ち両試料間の臨界厚さははほぼ同一と考えられる。このため、標準試料薄片20Aから算出された臨界厚さdoを、被測定試料薄片10Aの臨界厚さとして適用することができる。
【0087】
また、本第1実施形態では、減厚加工工程において被加工物の厚さの制御は高角度散乱電子線強度を制御変数としてなされ、精密な厚さ測定は行われない。即ち、厚さの絶対値を測定しない。
【0088】
従来の減厚加工では、制御変数として制御変数被加工物の厚さの絶対値を測定し、これを目標値に等しくなるように制御していた。かかる被加工物の厚さは、SIM像の観測あるいはEELS(Electron Energy Loss Spectroscopy)を用いて測定されていた。しかし、SIMによる測定ではエッジ効果が障害となり、精密な厚さ測定は難しい。また、EELSは、結晶格子による散乱の影響を受け易く、結晶性試料の膜厚を精密に測定することは難しい。
【0089】
これに対して、本第1実施形態で制御変数として用いられる高角度散乱電子線強度は、結晶格子による回折の影響を殆ど受けない。このため、物質及び結晶構造が同一の試料に対して、高角度散乱電子線強度は試料の厚さを正確に反映する。従って、高角度散乱電子線強度を比較することで、結晶性の試料の厚さを精密に比較することができる。
【0090】
このように、高角度散乱電子線強度を比較することで、厚さの比較、即ち規格化された厚さを精密に比較することはできるが、他方、厚さの絶対値を知得することはできない。本第1実施形態では、歪の近似式を、規格化された厚さ、即ち高角度散乱電子線強度を変数として近似して、バルクの歪を算出する。このため、精密な測定が困難な厚さの絶対値を知得する必要がない。このように、バルクの歪は、精密な測定が容易な高角度散乱電子線強度に基づき導出された歪の近似式から算出されるので、精密に求められる。
【0091】
なお、本第1実施形態の工程S223及び工程S333において、SIMを用いて被加工物の厚さの絶対値を測定する。しかし、この工程S223及び工程S333は、おおよその目標値(例えば仕上げ加工の目標厚さより100nm以上厚い厚さ)まで減厚加工するいわゆる粗加工であり、20nm〜50nm程度の精度で測定できればよく、仕上げ加工で要求される高い精度、例えば2〜3nmの測定精度は要求されない。
【0092】
本発明の第2実施形態は、2つの被測定試料2間で歪の大きさを比較する歪測定方法に関する。
【0093】
図16は本発明の第2実施形態の歪測定結果を表す図であり、2つの被測定試料(本第2実施形態の説明では、以下「被測定試料10A」および「被測定試料10B」という。)で測定された歪と高角度散乱電子線強度との関係を表している。
【0094】
図16を参照して、本第2実施形態では、まず、基準とされる被測定試料薄片10Aを減厚加工して、途中の複数の、例えば2つの異なる厚さに加工した時点における、歪E’1、E’2および高角度散乱電子線強度I’1、I’2を測定する。そして、この測定結果に基づき、歪の近似式E’(I)を算出する。この歪並びに高角度散乱電子線強度の測定、及び歪の近似式の算出は、第1実施形態における被測定試料10A中の歪、高角度散乱電子線強度及び歪の近似式の測定及び算出と同様になされる。
【0095】
次いで、比較されるべき第2の被測定試料薄片10Bを減厚加工する。このとき、被測定試料薄片10Bで測定される高角度散乱電子線強度I3が、先に被測定試料薄片10Aで測定された高角度散乱電子線強度I’1とI’2との間の強度になる厚さに加工する。そして、この被測定試料薄片10Bの歪E3を測定する。測定方法は第1実施形態と同様である。
【0096】
次いで、基準とされた被測定試料薄片10Aの測定から算出された歪の近似式E’(I)に、第2の被測定試料薄片10Bで測定された高角度散乱電子線強度I3を代入し、歪E’3=E’(I3)を求める。次いで、このE’3を被測定試料薄片10Aの歪として、第2の被測定試料薄片10Bで測定された歪E3と比較する。即ち、被測定試料薄片10Bの歪を、被測定試料薄片10Aの歪で規格化して比較する。
【0097】
本第2実施形態の歪測定方法では、比較対象とされる被測定試料薄片10Bの厚さを、高角度散乱電子線強度I3がI1〜I3の範囲内になるように加工すればよい。このため、加工精度が低くても差し支えなく、試料の作製が容易である。また、比較すべき被測定試料薄片10Bの歪及び高角度散乱電子線強度は1回の測定で足りるから、多数の被測定試料薄片10Bの歪を少ない加工・測定工程で比較することができる。さらに、標準試料1を必要としないので、測定工程が簡易になる。なお、高角度散乱電子線強度I3がI1〜I3の範囲外にあるときでも、外挿して歪E’3を求めてもよい。
【0098】
本発明の第3実施形態は、歪の近似式を算出することなく、ほぼ等しい厚さに加工された複数の被測定試料薄片間で歪を比較する歪測定方法に関する。
【0099】
本第3実施形態では、まず、複数の被測定試料薄片、例えば3つの被測定試料薄片(本第3実施形態の説明では、以下「被測定試料10A」、「被測定試料10B」および「被測定試料10C」という。)を、高角度散乱電子線強度を制御変数として同じ電子線強度になるように減圧し、ほぼ同一厚さに加工する。次いで、加工された被測定試料薄片10A、10B、10Cについてそれぞれ,高角度散乱電子線強度I1、I2、I3及び歪E1、E2、E3を測定する。これらの加工及び歪の測定は、第1実施形態と同様にしてなされる。ただし、減厚加工は1段階(N=1)とする。
【0100】
図17は本発明の第3実施形態の歪測定結果を表す図であり、3つの被測定試料薄片10A、10B、10Cで測定された歪と高角度散乱電子線強度との関係を表している。
【0101】
図16を参照して、3つの被測定試料薄片10A、10B、10Cは同一の高角度散乱電子線強度を目標として減厚加工される。従って、これらの被測定試料薄片10A、10B、10Cで測定される高角度散乱電子線強度I1、I2、I3は、ほぼ等しく、例えば3%程度の加工精度の範囲でばらついている。
【0102】
かかる被測定試料薄片10A、10B、10Cは、第1実施形態で説明した試料加工装置50により作製される。この試料加工装置50は、高角度散乱電子線強度を制御変数として仕上げ加工を行う。高角度散乱電子線強度は、回折効果の影響が小さく、精密に例えば3%以下の誤差で測定することがてきる。このため、仕上げ加工の厚さのばらつきを、容易に例えば3nm以下にすることできる。
【0103】
本第3実施形態では、これらの高角度散乱電子線強度I1、I2、I3は等しいと見做して、即ち厚さは等しいと見做して、被測定試料薄片10A、10B、10Cで測定された歪E1、E2、E3を互いに直接比較する。被測定試料薄片10A〜10C間の厚さのばらつきは、高角度散乱電子線強度I1〜I3のばらつきの程度(例えば3%以下)であり、十分な精度で歪を比較することができる。
【0104】
本第3実施形態によると、各被測定試料薄片ごとに1回の加工、歪測定をすれば足りるから、第1及び第2実施形態に較べて測定工程がより簡素化される。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明を半導体装置の結晶性領域の歪の測定に適用することで、結晶中の微小領域の歪を精密に評価することができる。
【符号の説明】
【0106】
1 被測定試料
2 標準試料
10、20 支持構造体
10A、10B、10C 被測定試料薄片
10A−a、20A−a 表面
10A−b、20A−b 裏面
10a、10b、20a、20b 凹部
10c、20c 被測定領域
11 シリコン基板
12 ゲート絶縁膜
13 ゲート電極
14 ソース・ドレイン領域
14a LDD領域
15 層間絶縁膜
15a 側壁
15b 絶縁膜
20A 標準試料薄片
21、24 SiGe層
23 Si層
22 ハードマスク
22a 開口
50 試料加工装置
51 真空容器
52 イオン光学系
52a 集束イオンビーム
53 電子光学系
53a 集束電子線
53b 透過電子線
53c 高角度散乱電子
54 支持台
54a θ回転軸
54b R回転軸
55a θ回転方向
55b R回転方向
56 投影光学系
56a 拡大光学系
57 透過電子線検出器
57a 2次元電子線検出器
57b 遮蔽ディスク
58 環状検出器
59 制御部
Ld1、Ld2 格子面間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶基材を含む被測定試料を準備する工程と、
集束イオンビームの照射により前記被測定試料を減厚して、被測定試料薄片を作製する減厚工程と、
前記減厚工程の途中の複数時点で、前記被測定試料薄片に集束電子線を照射して高角度散乱電子の電子線強度を測定する工程と、
前記減厚工程の途中の前記複数時点で、前記結晶基材の格子定数を電子線回折法により測定し、測定された前記格子定数から前記被測定試料薄片の歪を算出する工程と、
前記複数時点で測定された前記散乱電子の電子線強度及び前記複数時点で算出された前記被測定試料薄片の歪に基づき、散乱電子の電子線強度を変数とする前記被測定試料薄片の歪の近似式を作成する工程と、
前記結晶基材の減厚に伴い前記結晶基材の歪緩和が始まる臨界厚さに等しい厚さを有する前記結晶基材に、前記集束電子線を照射したとき測定される高角度散乱電子の電子線強度を臨界電子線強度として予測する臨界電子線強度の予測工程と、
予測された前記臨界電子線強度を前記近似式に代入して得られる歪を、前記被測定試料の歪として算出する工程と、
を有する歪測定方法。
【請求項2】
前記臨界電子線強度の予測工程は、
既知の歪を有する前記結晶基材を含む標準試料を準備する工程と、
集束イオンビームの照射により前記標準試料を減厚して、標準試料薄片を作製する標準試料の減厚工程と、
前記標準試料の減厚工程の途中の複数時点で、前記標準試料薄片に集束電子線を照射して高角度散乱電子の電子線強度を測定する工程と、
前記標準試料の減厚工程の途中の前記複数時点で、前記結晶基材の格子定数を電子線回折法により測定し、測定された前記格子定数から前記標準試料薄片の歪を算出する工程と、
前記標準試料の減厚工程の途中の前記複数時点で測定された前記散乱電子の電子線強度及び前記標準試料の減厚工程の途中の前記複数時点で算出された前記標準試料薄片の歪に基づき、散乱電子の電子線強度を変数とする前記標準試料薄片の歪の近似式を作成する工程と、
前記標準試料薄片の歪の近似式が前記既知の歪に一致するときの高角度散乱電子の電子線強度を、前記臨界電子線強度として算出する工程と、
を有することを特徴とする請求項1記載の歪測定方法。
【請求項3】
前記臨界電子線強度の予測工程は、
既知の歪を有する前記結晶基材を含む標準試料を準備する工程と、
前記標準試料を、異なる厚さを有する複数の標準試料薄片に加工する工程と、
前記標準試料薄片に集束電子線を照射して、高角度散乱電子の電子線強度を各前記標準試料薄片ごとに測定する工程と、
前記標準試料薄片の前記結晶基材の格子定数を電子線回折法により測定し、測定された前記格子定数から各前記標準試料薄片の歪を算出する工程と、
各前記標準試料薄片の歪及び高角度散乱電子の電子線強度に基づき、高角度散乱電子の電子線強度を変数とする前記標準試料薄片の歪の近似式を算出する工程と、
前記標準試料薄片の歪の近似式が前記既知の歪に一致する高角度散乱電子の電子線強度を、前記臨界電子線強度として算出する工程と、
を有することを特徴とする請求項1記載の歪測定方法。
【請求項4】
結晶基材を含む第1及び第2の被測定試料を準備する工程と、
集束イオンビームの照射により前記第1及び第2の被測定試料を減厚して、第1及び第2の被測定試料薄片を作製する減厚工程と、
前記第1の被測定試料薄片を作成する減厚工程の途中の複数時点で、前記第1の被測定試料薄片に集束電子線を照射して高角度散乱電子の電子線強度を測定する工程と、
前記第1の被測定試料薄片を作成する前記減厚工程の途中の前記複数時点で、前記第1の被測定試料薄片の前記結晶基材の格子定数を電子線回折法により測定し、測定された前記格子定数から前記第1の被測定試料薄片の歪を算出する工程と、
前記複数時点で測定された前記散乱電子の電子線強度及び前記複数時点で算出された前記第1の被測定試料薄片の歪に基づき、散乱電子の電子線強度を変数とする前記第1の被測定試料薄片の歪の近似式を作成する工程と、
前記第2の被測定試料薄片に集束電子線を照射して高角度散乱電子の電子線強度を測定する工程と、
前記第2の被測定試料薄片の前記結晶基材の格子定数を電子線回折法により測定し、測定された前記格子定数から前記第2の被測定試料薄片の歪を算出する工程と、
前記歪の近似式に、前記第2の被測定試料薄片で測定された高角度散乱電子の電子線強度を代入して、前記第1の被測定試料薄片の歪を算出する工程と、
算出された前記第1及び第2の被測定試料薄片の歪を比較する工程と、
を有する歪測定方法。
【請求項5】
前記近似式は、直線近似式であり、最小自乗法を用いて算出されることを特徴とする請求高1〜4の何れかに記載の歪測定方法。
【請求項6】
試料表面に斜めに入射する集束イオンビームを発生するイオン光学系と、
前記試料表面に垂直に入射する集束電子線を発生する電子光学系と、
前記集束電子線が照射された前記試料から散乱される高角度散乱電子線の電子線強度を測定する環状検出器と、を備え、
前記高角度散乱電子線の電子線強度を制御変数として、前記集束イオンビームの照射により減厚される前記試料の厚さを制御する試料加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−132688(P2012−132688A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282525(P2010−282525)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】