説明

歯の美白剤又は光沢剤のスクリーニング方法

【課題】歯に優れた美白効果を与え、光沢を付与できる美白剤又は光沢剤をスクリーニングする方法を提供する。
【解決手段】被検成分の、(A)X線回折による(300)面の半価幅が0.45°以上の低結晶性ヒドロキシアパタイトに対する溶解性と、(B)X線回折による(300)面の半価幅が当該低結晶性ヒドロキシアパタイトの半価幅より0.1°以上小さい高結晶性ヒドロキシアパタイトに対する溶解性とを測定し、(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトに対する溶解性が(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトに対する溶解性の1.6倍以上である成分を選択する、歯の美白剤又は歯の光沢剤のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯を白くみせる美白剤及び歯の光沢を向上させる歯の光沢剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人の歯が着色する原因は、主に歯石や歯垢、表面に種々の着色物が付着することによって生じる。このような歯の表面の着色原因を除去する手段としては、種々の物理的又は化学的方法が報告されている。物理的方法としては研磨除去による他に、n−ブチルエーテルやブチルブチレート等を用いて着色物を除去する方法(特許文献1、2)、或いは、セラミックベニヤ等を用いて歯を被覆し色調を改善する方法がある。化学的方法としては、ヒドロキシアパタイトを配合した口腔用組成物により再石灰化を促進する方法(特許文献3、4)、過酸化物を用いて酸化漂白する方法(特許文献5)、過酸化物に自己硬化性リン酸カルシウム化合物及びフッ素化合物等を配合した歯美白組成物を用いる方法(特許文献6)、液状化リン酸カルシウム系化合物を含有する口腔用組成物によりエナメル質の再石灰化を促進する方法(特許文献7)等が知られている。また、多価金属陽イオンとポリリン酸とを併用し歯石と汚れを防止する口腔用組成物(特許文献8)が知られている。しかし、ヒドロキシアパタイト等のリン酸カルシウム系化合物を用いて歯の再石灰化を促進する方法は、主に、エナメル質表面をアパタイトにより補修することにより歯を健常化するものであり、美白効果については充分といえない。また、ポリリン酸と多価金属陽イオンを併用した場合も充分な美白効果があるとはいえない。そして、これらの従来の口腔用組成物や処理方法は、歯そのものに光沢を付与するものではない。
【0003】
また、セラミックベニヤ等を用いる方法は歯質を削除する必要があり、この方法の使用には歯科医による指導や処置が必要である。過酸化物を用いて酸化漂白する方法は、歯の酸化漂白が可能な高濃度の過酸化物を用いる必要があるため、専門家の指導に従って慎重に行う必要があるし、歯は白くなるものの光沢は低下する。さらに、専門家の指導の下でも、過酸化物により歯と歯ぐきへのダメージや知覚過敏を発生する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−203316号公報
【特許文献2】特開平1−104004号公報
【特許文献3】特開平1−305020号公報
【特許文献4】特開平9−202718号公報
【特許文献5】特表2005−526853号公報
【特許文献6】特開平11−116421号公報
【特許文献7】特開平8―319224号公報
【特許文献8】特開昭52―108029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のように、歯を白くみせ、しかも歯の光沢を向上させる成分の探索が切望されているものの、当該探索手段は全く知られていない。
従って、本発明の第1の課題は、歯に優れた美白効果を与え、光沢を付与できる美白剤及び光沢剤をスクリーニングする方法を提供することにある。
また、従来は、例えば特許文献5は被験者(ヒトの歯)に適用して、L値を測定することで歯の美白効果を確認しており、特許文献6では人の抜去歯に適用して目視で美白効果を確認しているが、ヒトの歯に適用する場合は数に限界があるし、また見た目の白さの評価だけでなく歯へのダメージや光沢の向上効果の評価も必要である。従って、本発明の第2の課題は、歯に優れた美白効果を与え、光沢を付与できる美白剤及び光沢剤をヒトの歯を用いずに且つ効率よくスクリーニングする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
歯のエナメル質は、エナメル小柱と呼ばれるヒドロキシアパタイトの多結晶で構成された柱状物が集まって構成されている。一般的には若年期において、このエナメル質のエナメル小柱とエナメル小柱の間に空間(隙間)、すなわち、小柱間隙が存在し、水や唾液成分等で満たされている。この様な歯においては、エナメル質への入射光はエナメル小柱と小柱間隙の空間との大きな屈折率の差により散乱し、歯は白く見える。
しかし、例えば加齢等により歯のエナメル質表層の小柱間隙に唾液中に溶けた物質が沈積し続けると、この小柱間隙は埋まり、その結果、エナメル小柱と小柱間隙の屈折率の差が小さくなるため、エナメル質は透明性が上り入射光がエナメル質の深部に位置する黄色ないし褐色である象牙質まで達しやすくなり、歯は黄色く見えるようになる。
そこで、本発明者等は、歯のエナメル質表層の小柱間隙に存在する物質(以下「小柱間隙物質」という)を小柱間隙から選択的に取り除くことによって、エナメル質を形成しているエナメル小柱そのものへのダメージを抑えつつ小柱間隙を再形成し、小柱間隙の空間による光散乱によってエナメル質の内部からの反射光を増加させると、自然な白い歯を得ることができると考えた。
また、本発明者等は、この小柱間隙物質は、エナメル小柱を形成している高結晶性のヒドロキシアパタイトとは異なり、結晶性の低い、低結晶性のヒドロキシアパタイトが主成分であることを見出した。さらに、歯表面の微小な固形生成物は、厚みが200nm以下、好ましくは100nm以下のナノレベルの固形生成物の堆積物であり、これらのナノレベルの固形生成物についても、低結晶性のヒドロキシアパタイトを主成分とするカルシウム、リン等の成分の沈着物が堆積して形成されていることを見出した。さらに、エナメル小柱を形成している高結晶性ヒドロキシアパタイトと、小柱間隙物質を形成している低結晶性ヒドロキシアパタイトとは、粉末X線回折法による(300)面の半価幅により区別できることも見出した。
本発明者等は、このヒドロキシアパタイトの結晶性の違いに着目し、低結晶性ヒドロキシアパタイトに対する溶解性が高結晶性ヒドロキシアパタイトに対する溶解性よりも高い成分、つまり、小柱間隙物質及び歯表面の微小な固形生成物を選択的に溶解し、除去できる成分を選択することによって、エナメル質の小柱間隙へのダメージを抑えつつ小柱間隙を再形成する美白剤、及び歯表面の微小な固形生成物を選択的に除去する光沢剤がスクリーニングできることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、被検成分の、(A)CuKα線を用いた粉末X線回折法におけるヒドロキシアパタイト結晶の(300)面の半価幅が0.45°以上の低結晶性ヒドロキシアパタイトに対する溶解性と、(B)CuKα線を用いた粉末X線回折法におけるヒドロキシアパタイト結晶の(300)面の半価幅が0.45°以下であって、かつ当該低結晶性ヒドロキシアパタイトの半価幅より0.1°以上小さい高結晶性ヒドロキシアパタイトに対する溶解性とを測定し、(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトに対する溶解性が(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトに対する溶解性の1.6倍以上である成分を選択する、歯の美白剤又は歯の光沢剤のスクリーニング方法を提供するものである。以下、CuKα線を用いた粉末X線回折法におけるヒドロキシアパタイト結晶の(300)面を、X線回折による(300)面と略して記載する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、小柱間隙へのダメージを抑えつつ、歯に優れた美白効果及び光沢を付与できる成分をスクリーニングすることができる。
小柱間隙物質や歯表面のナノレベルの固形生成物を選択的に除去できる成分を確認するためには、小柱間隙に小柱間隙物質が埋まった未処理のヒトの抜去歯を入手し、被検成分を適用して走査型電子顕微鏡等によって小柱間隙部や歯表面の観察することでスクリーニングしうると考えられるが、電子顕微鏡等による観察の工程が必要となり、未処理のヒトの抜去歯を得る数にも制限がある。これに対し、本発明によれば、結晶性の相違する2種類のヒドロキシアパタイトを準備すれば簡便かつ大量に歯の美白剤及び光沢剤をスクリーニングできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】太平化学HAP−100(a)及び太平化学HAP−200(b)のSEM写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のスクリーニング方法に用いる結晶性の相違する2種のヒドロキシアパタイトは、(A)X線回折による(300)面の半価幅が0.45°以上の低結晶性ヒドロキシアパタイトと、(B)X線回折による(300)面の半価幅が0.45°以下であって、かつ(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトの半価幅より0.1°以上小さい高結晶性ヒドロキシアパタイトである。
【0011】
半価幅とは、X線回折強度曲線のピーク強度の1/2強度における回折強度曲線の幅であり、X線回折において測定した結晶の面の規則性、すなわち結晶度の尺度として知られている。すなわち、半価幅が大きければ結晶度が低く、半価幅が小さければ結晶度が高いと判断される。
また、本発明におけるX線回折は、以下の条件で測定する。
装置は、リガク社製RINT−2500を用い、下記の測定条件でX線回折測定を行う。
測定条件は、X線源にCuKα(λ=1.541Å)を用い、電圧;40kV,電流;120mAで、スキャンスピード10°/min、サンプリング幅0.01°、発散スリット1°、発散縦スリット10mm、受光スリット0.3mmで測定する。
2θ−強度のX線回折プロファイルを描き、装置搭載の解析ソフトJade5.0を用いて2θ=20°〜45°の範囲でピーク分離フィッティングを行い、ヒドロキシアパタイト六方晶系の(002)面、(102)面、(210)面、(211)面、(112)面、(300)面、(202)面などの回折ピークを得る。このうち(300)面の回折ピークの半価幅を指標とする。
【0012】
本発明に用いる(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトは、X線回折による(300)面の半価幅が0.45°以上のものであり、より好ましくは0.46°以上のものである。当該半価幅の上限は0.9°が好ましい。市販品としては、例えば大平化学社製のHAP−100が挙げられる。
【0013】
本発明に用いられる(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトは、例えば(a)グリセロリン酸カルシウム、(b)リン酸水素二カリウム及び(c)フッ素イオン供化合給物から合成することができる。(c)フッ素イオン供給化合物としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム等が挙げられ、フッ化ナトリウムが好ましい。具体的にはリン酸水素二カリウムとフッ化ナトリウムの混合溶液にグリセロリン酸カルシウム溶液を混合することにより合成することができる。このグリセロリン酸カルシウム含有混合液中に板体を設置すれば膜状の(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトが得られる。実際の歯の表面を想定して白色アクリル製の板体をグリセロリン酸カルシウム含有混合液中に設置して膜を形成することが好ましい。
なお、(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトは粉末状として得ることもでき、当該粉末状のものを用いることもできる。
(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトを合成する混合液は、(a)グリセロリン酸カルシウムを0.005〜0.5M含有するものが好ましく、さらに0.01〜0.2M含有するものが好ましい。(b)リン酸水素ニカリウムは、0.005〜0.5M含有するものが好ましく、さらに0.01〜0.2M含有するものが好ましい。(c)フッ素イオン供給化合物は、0.001〜0.2M含有するものが好ましく、さらに0.002〜0.1M含有するものが好ましい。(a)成分又は(b)成分の(c)成分に対するモル比[(a又はb):c]は、1:1〜10:1が好ましく、さらに2:1〜6:1が好ましい。
【0014】
本発明に用いる(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトは、X線回折による(300)面の半価幅が0.45°以下であって、(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトよりも0.1°以上小さいものであるが、0.15°以上小さいものがより好ましい。X線回折による(300)面の半価幅は0.4°以下が好ましく、さらに0.35°以下が好ましく、特に0.3°以下のものが好ましい。また、当該半価幅の下限は0.10°が好ましい。ヒトの歯のエナメル質の(300)面における半価幅は、年齢、歯のダメージ等によって異なるが、0.184〜0.284°の間である。また、市販品としては、例えば大平化学社製のHAP−200が挙げられ、ヒトの歯に近いヒドロキシアパタイトと考えられている。
【0015】
本発明に用いられる(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトは、例えば(d)塩化カルシウム又は乳酸カルシウム、(b)リン酸水素二カリウム及び(c)フッ素イオン供給化合物から合成できる。具体的には、リン酸水素二カリウムとフッ化ナトリウムの混合溶液に塩化カルシウムの溶液を混合することにより合成することができる。この塩化カルシウム含有混合液中に板体を設置すれば膜状の(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトが得られる。実際の歯の表面を想定して白色のアクリル製の板体を塩化カルシウム含有混合液中に設置して膜を形成することが好ましい。
なお、(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトは、粉末状として得ることもでき、当該粉末状のものも使用できる。
(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトを合成する混合液は、(d)塩化カルシウム又は乳酸カルシウムを0.005〜0.5M含有するものが好ましく、さらに0.01〜0.2M含有するものが好ましい。(b)リン酸水素ニカリウムは、0.005〜0.5M含有するものが好ましく、さらに0.01〜0.2M含有するものが好ましい。(c)フッ素イオン供給化合物は、0.001〜0.2M含有するものが好ましく、さらに0.002〜0.1M含有するものが好ましい。(d)成分又は(b)成分の(c)成分に対するモル比[(d又はb):c]は、1:1〜10:1が好ましく、さらに2:1〜6:1が好ましい。
【0016】
図1(a)に、大平化学社製のHAP−100(低結晶性ヒドロキシアパタイトの例)のSEM(電子顕微鏡:日立S−4800)による写真を示し、図1(b)に大平化学社製のHAP−200(高結晶性ヒドロキシアパタイトの例)のSEMによる写真を示す。当該SEM写真により、結晶性の差がわかる。
【0017】
本発明のスクリーニング方法は、被検成分の、(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトに対する溶解性と、(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトに対する溶解性とを測定し、その溶解性の比(A/B)が1.6倍以上、好ましくは2倍以上、更に好ましくは2.5倍以上である成分を選択することにより行われる。ここで溶解性の測定手段は、特に限定されないが、(A)低結晶性ヒドロキシアパタイト及び(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトの溶解後の残存量を測定しても良いし、又は当該ヒドロキシアパタイトからのカルシウムイオン溶出量の測定のいずれでもよい。
【0018】
ヒドロキシアパタイトの溶解性を溶解後のヒドロキシアパタイトの残存量の測定により求めることができる。例えば、被検成分含有液に、ヒドロキシアパタイト膜を一定期間接触させることによって適用する。接触方法は、被検成分含有液にヒドロキシアパタイト膜を浸漬したり、被検成分含有液を含浸させた多孔部材をヒドロキシアパタイト膜に塗布することにより行う。接触時間は、例えば好ましくは5秒〜3分間、さらに好ましくは10秒〜1分間である。そして、接触又は浸漬後にはイオン交換水で1〜3秒すすぎ乾燥する。被検成分への接触前と、接触して乾燥後の表面反射率を測定し、膜の溶解前後の膜の量を測定することで、溶解性を評価しスクリーニングすることができる。これらの膜の溶解性によるスクリーニングは、膜の除去率(溶解度)を基準に行い、(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトの膜の除去率と(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトの膜の除去率の比(A/B)が1.6倍以上、好ましくは2倍以上、更に好ましくは2.5倍以上、特に好ましくは3倍以上の成分を選択することにより行う。例えば、被検成分含有液にヒドロキシアパタイト膜を10秒間浸漬させた(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトの膜の除去率が50%未満、好適には25%以下、さらに好適には20%以下である成分をスクリーニングすることができる。また、被検成分含有液にヒドロキシアパタイト膜を10秒間浸漬させた(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトの膜の除去率が55%以上、好適には80%以上、さらに好適には90%以上である成分をスクリーニングすることができる。スクリーニングされた成分は、歯のエナメル質の小柱間隙及び歯のエナメル質表面へのダメージを抑えつつ、小柱間隙を再形成するため歯を白くし、かつ歯表面の微小な固形生成物を選択的に除去するため光沢を向上する効果が認められる。
【0019】
ヒドロキシアパタイトからのカルシウム溶出量を測定する場合は、被検成分含有液で、ヒドロキシアパタイトを一定時間適用した後に、ヒドロキシアパタイトからのカルシウム溶出量を測定する。本発明の歯の美白剤及び歯の光沢剤の選択は、被検成分の(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトと(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトのカルシウム溶出量の比(A/B)が1.6倍以上、好ましくは2倍以上、更に好ましくは2.5倍以上の成分を選択する。
【0020】
例えば、(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトとして太平化学社製のHAP−200、(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトとして太平化学社製のHAP−100を用いた場合には、被検成分含有液にHAP−200、HAP−100の粉末を好ましくは1分〜1時間、さらに好ましくは10分〜40分間浸漬し、各々の粉末のカルシウム溶解量を測定することでスクリーニングをすることができる。カルシウム溶解量は1kgの被検成分含有液に対する溶解量としてmg/kgで表す。HAP−200とHAP−100の粉末の溶解量によってスクリーニングする場合には、HAP−200の粉末1g、HAP−100の粉末1gに各々被検成分含有液50mLを30分間適用した場合に、HAP−200からのカルシウム溶出量が250mg/kg以下、好適には100mg/kg以下、さらに好適には80mg/kg以下であって、HAP−100からのカルシウム溶出量が100mg/kg以上、好適には150mg/kg以上である成分をスクリーニングすることができる。スクリーニングされた成分は、歯のエナメル質の小柱間隙及び歯のエナメル質表面へのダメージを抑えつつ、小柱間隙を再形成し歯表面の微小な固形生成物を除去するため、歯を白くし、かつ光沢を向上する効果が認められる。
【実施例】
【0021】
「低結晶性のヒドロキシアパタイトの膜、高結晶性ヒドロキシアパタイの膜の作製」
(1)低結晶性のヒドロキシアパタイトの膜(GPCa膜):200mLビーカーに白色アクリル板を入れ、そこに0.1Mのリン酸水素二カリウム溶液30mLと0.05Mのフッ化ナトリウム溶液10mLを入れて攪拌混合した後、0.05Mのグリセロリン酸カルシウム溶液50mLを攪拌混合し、その後1時間攪拌混合を続けた。形成されたグリセロリン酸カルシウム含有混合液による膜は、X線回折による(300)面における半価幅が0.64〜0.82°であることを確認した。
(2)高結晶性のヒドロキシアパタイトの膜(CaCl2膜):200mLビーカーに白色アクリル板を入れ、そこに0.05Mのリン酸水素二カリウム溶液30mLと0.05Mのフッ化ナトリウム溶液10mLを入れて攪拌混合した後、0.05Mの塩化カルシウム溶液50mLを攪拌混合し、その後1時間攪拌混合を続けた。形成された塩化カルシウム含有混合液による膜は、X線回折による(300)面における半価幅が0.346°であることを確認した。
【0022】
「低結晶性のヒドロキシアパタイトの膜、高結晶性ヒドロキシアパタイの膜の溶解性の測定」
(1)処理:スクリーニング対象の被検成分を1質量%含有しNaOHでpH調製を行った試験溶液に低結晶性あるいは高結晶性のヒドロキシアパタイトの膜が付いた白色アクリル板を10秒間浸漬し、1〜2秒イオン交換水ですすいで乾燥させた。
(2)相対反射率測定による膜の溶解性評価:以下(3)に示す相対反射率の測定をヒドロキシアパタイトの膜の作製後と処理後で行い、膜作製後の相対反射率の低下分(100−膜作製後の相対反射率)と処理後の相対反射率から膜除去率を計算し、膜の溶解性を表した。
膜除去率(%)=(処理後の相対反射率−膜作製後の相対反射率)/(100−膜作製後の相対反射率)×100
(3)相対反射率の測定方法:偏光を利用した画像解析から表面反射光強度を測定する方法を用いた。評価用画像を撮影する装置として、カメラはデジタル一眼レフカメラNikon D70、レンズはAi AFマイクロ・ニッコール105mm F2.8D、ストロボ発光はワイヤレス・リモート・スピードライトSB−R200(いずれもニコン製)を組合せて設置したものを用いた。スピードライトの発光部及びレンズの前にプラスチック偏光板(エドモンド製)を透過軸が30度交差するように配置して撮影した。撮影画像はAdobe Photoshop CS3(アドビシステム製)を用いてハイライト部分の平均輝度を求めた。また、白色アクリル板からの輝度も求め、白色アクリル板の画像輝度を100として相対反射率を求めた。
【0023】
「低結晶性のヒドロキシアパタイトの粉末、高結晶性ヒドロキシアパタイの粉末のカルシウム溶解量の測定」
低結晶性のヒドロキシアパタイト及び高結晶性のヒドロキシアパタイトの粉末として太平化学産業株式会社製のHAP−100及びHAP−200を用いた。
このHAP-100のX線回折による(300)面における半価幅は0.460〜0.467°の間であり、HAP−200のX線回折による(300)面における半価幅は0.182〜0.197°の間であった。下記に記載するカルシウム溶解量の測定により、この2種類のヒドロキシアパタイトを用いてスクリーニング対象の被検成分を含有する溶液への溶解量を求めた。各ヒドロキシアパタイト粉末のカルシウム溶解量の値を比較することでスクリーニングを行った。
各ヒドロキシアパタイト粉末1gを精秤し、各スクリーニング対象の被検成分を1質量%含有する試験溶液50mLに浸漬後30分間撹拌し、その懸濁液を細孔径0.45μmφのメンブランフィルターによりろ過を行い、ろ液中に溶出したCaイオンをICP−AES(装置:ICP発光分析装置 堀場製作所製 JY238ULTRACE)により定量を行い、試験溶液中のCaイオン量をmg/kgで示し、被検成分のカルシウム溶解量とした。
【0024】
「色差と光沢の評価」
表に各被検成分(スクリーニング対象の成分)1質量%の水溶液を試験溶液とし、ヒト歯を48時間浸漬した際の浸漬前後のb*値の変化Δb*と光沢を評価し、ヒドロキシアパタイト膜の評価、ヒドロキシアパタイト粉末によるカルシウム溶解量の評価結果を示す。なお、pHの調整はNaOH溶液で行った。
試験に用いるヒト歯は、Δb*及び光沢を評価するエナメル質の表面を残してそれ以外
の部分を蝋で被覆したサンプルである。
各試験溶液にヒト歯を室温48時間浸漬した際の浸漬前後のb*値の変化Δb*は、浸
漬前と浸漬後のb*値を測定し、(浸漬後のb*−浸漬前のb*)から求めた。
このb*値は、デジタルカメラD1x(ニコン製)と白色フラッシュ光源(コニカミノルタ製)を用いて撮影された画像をAdobe Photoshop(アドビシステムズ製)を用いてL***表色系で表し、求めた。b*の値は0に近いほど、黄色味が少なく白さが増すことを意味し、−Δb*(Δb*絶対値)が大きいほど白さが増すことを意味する。
歯の光沢は、デジタルカメラD1x(ニコン製)と白色フラッシュ光源(コニカミノルタ製)を用いて撮影された画像により評価し、さらに歯の光沢がない場合には歯の表面状態の凸凹をルーペ(倍率10倍)により肉眼で観察し、以下の基準により評価した。
−:変化なし
5:全面に光沢が出た
4:一部を除き光沢がでた
3:一部に光沢がでた
2:一部に凸凹が形成された
1:全体に凸凹が形成された
【0025】
表1に示すように、ヒト歯の試験でΔb*の絶対値が1.5以下であり、光沢にも変化がみられなかった試験例1は、HAP−100とHAP−200のCa溶出量、GPa膜とCaCl2膜の膜除去率の全てが低く、Ca溶出量比(HAP−100/HAP−200)及び膜除去比(GPa膜/CaCl2膜)も1.6未満であった。また、ヒト歯の試験でΔb*の絶対値が1.5以上3未満で光沢に変化が認められなかった試験例2、7、8についてもCa溶出量、膜除去率は低く、Ca溶出量比(HAP−100/HAP−200)及び膜除去比(GPa膜/CaCl2膜)は1.6未満であった。さらに、ヒト歯の試験でΔb*の絶対値が3以上であったものの歯の表面に凸凹が形成された試験例9、11は、低結晶性アパタイトのHAP−100のCa溶出量とGPa膜の除去率は高いが、これと同程度に高結晶性アパタイトのHAP−200のCa溶出量とCaCl2膜の除去率も高く、Ca溶出量比、膜除去比のいずれも1.6未満であった。
これに対して、Ca溶出量及び膜除去比とも1.6以上の高い結果が得られた試験例3〜5、10、12、13は、ヒト歯の試験においてもΔb*の絶対値が3以上であり光沢
も得られた。
【表1】

【0026】
表1より、本発明の方法により(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトに対するCa溶出量及び膜除去量が(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトに対するCa溶出量及び膜除去量に対して1.6以上の高い結果が得られた試験例3〜5、10、12、13を選択することにより、ヒト歯に適用した場合であっても歯にダメージを与えずに光沢を付与し、かつ、歯の色差(Δb*)の絶対値が3以上となる美白効果を奏する光沢剤を選択することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検成分の、(A)CuKα線を用いた粉末X線回折法におけるヒドロキシアパタイト結晶の(300)面の半価幅が0.45°以上の低結晶性ヒドロキシアパタイトに対する溶解性と、(B)CuKα線を用いた粉末X線回折法におけるヒドロキシアパタイト結晶の(300)面の半価幅が0.45°以下で、かつ当該低結晶性ヒドロキシアパタイトの半価幅より0.1°以上小さい高結晶性ヒドロキシアパタイトに対する溶解性とを測定し、(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトに対する溶解性が(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトに対する溶解性の1.6倍以上である成分を選択する、歯の光沢剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトが、(a)グリセロリン酸カルシウム、(b)リン酸水素二カリウム及び(c)フッ素イオン供給化合物から合成されるものであり、(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトが、(d)塩化カルシウム又は乳酸カルシウム、(b)リン酸水素二カリウム及び(c)フッ素イオン供給化合物から合成されるものである請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
(A)低結晶性ヒドロキシアパタイト及び(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトが、膜状又は粉末状である請求項1又は2記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
溶解性の測定手段が、(A)低結晶性ヒドロキシアパタイト及び(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトの溶解後に残存するヒドロキシアパタイトの測定である請求項1〜3のいずれか1項記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
溶解性の測定手段が、(A)低結晶性ヒドロキシアパタイト及び(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトからのカルシウムイオン溶出量の測定である請求項1〜3のいずれか1項記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトのX線回折による(300)面の半価幅が0.45°以上であり、(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトのX線回折による(300)面の半価幅が0.30°以下である請求項1〜5のいずれか1項記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
(A)低結晶性ヒドロキシアパタイトに対する溶解性が(B)高結晶性ヒドロキシアパタイトに対する溶解性の2倍以上である成分を選択する請求項1〜6のいずれか1項記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−47729(P2011−47729A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195082(P2009−195082)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】