歯の製造方法、歯の集合体及び組織の製造方法
【課題】特有の細胞配置を保持した歯の製造方法及びこの方法によって製造された歯の集合体並びに歯周組織の製造方法を提供を提供する。
【解決手段】間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを、細胞の接触状態を保持可能な支持担体の内部に接触させて配置し、培養して、特有の細胞配置を有する歯を得る。
【解決手段】間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを、細胞の接触状態を保持可能な支持担体の内部に接触させて配置し、培養して、特有の細胞配置を有する歯を得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯の製造方法、歯の集合体及び組織の製造方法に関し、特に細胞を用いた歯の製造方法、歯の集合体及び組織の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯は、最外層にエナメル質、その内層に象牙質という硬組織を有し、さらにその内側に象牙質を産生する象牙芽細胞、中心部に歯髄を有し、齲蝕や歯周病等によって失われることがある器官である。一般に歯の損失については、生命に対する危惧が少ないと考えられているため、現在は主として入れ歯やインプラントにより補うことが多い。しかしながら、歯の有無は外見や食べ物の味覚に大きく影響し、また健康維持や質の高い生活を維持するという観点から歯の再生技術の開発への関心が高まって来た。
歯は、胎児期の発生過程の誘導によって形成され、複数の細胞種によって構築された機能単位であり、器官や臓器と同じであると考えられている。そのため歯は、成体内の造血幹細胞や間葉系幹細胞のような幹細胞から細胞種が発生する幹細胞システムによって発生するのではなく、現在、再生医療によって進められている幹細胞の移入のみ(幹細胞移入療法)では歯を再生することができない。また、歯の発生過程で特異的に発現する遺伝子を同定し、歯胚を人為的に誘導することによる歯の再生も考えられているが、遺伝子を特定しただけでは、歯の再生を完全に誘導することができない。
そこで、近年、単離された歯胚細胞を用いた歯胚を再構成させて、この再構成歯胚を移植することによる歯の再生を中心とした検討が行われている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、歯胚から単離された上皮系細胞や間葉系の歯嚢細胞などの細胞を、生体吸収性の担体と共にラットの腹腔内に移植することで歯様の組織が再生されることが開示されている。
また、非特許文献2には、継代された培養細胞による上皮−間葉相互作用が実現可能な系とし、コラーゲンゲルによる共培養が有効であると記載されている。
歯胚の再生方法としては、例えば、特許文献1には、歯胚細胞を、線維芽細胞増殖因子等の生理活性物質の存在下で培養することが記載されている。また、特許文献2には、歯胚細胞及びこれらの細胞に分化可能な細胞のうち少なくとも1種類を、フィブリンを含む担体と一緒に培養することが提案されており、ここでフィブリンを含む担体は、歯胚の目的形状のものを使用して、特有の形態を有する「歯」を形成すると記載されている。
【0004】
特許文献3及び4には、6ヶ月のブタの下顎骨から、象牙質を形成する歯髄由来の間葉系細胞とエナメル形成に寄与する上皮系細胞とを含む歯胚との細胞混合物を、ポリグリコール酸−ポリ酢酸共重合体からなる生分解性ポリマーを固化させた担体(Scafford)に播種して、動物の体内へ移植し、歯を形成する方法が開示されている。ここで担体は、歯胚の目的形状のものを使用して、特有の形態を有する「歯」を形成すると記載されている。
一方、特許文献5には、骨の欠損又は損傷を有する患者を治療するための歯の再生方法を開示している。この方法によれば、ポリグリコール酸メッシュ担体に間葉系細胞を播種した後に、上皮系細胞をコラーゲンと共に重層する又は上皮細胞シートで包むことによって、骨が形成される。なお、特許文献5では、骨の形状を構築するために担体を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−331557号公報
【特許文献2】特開2004−357567号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0119180号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0219489号公報
【特許文献5】国際公開第2005/014070号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Dent. Res., 2002, Vol.81(10), pp.695-700
【非特許文献2】「歯および歯胚由来細胞を用いた再生医療とその可能性」、再生医療 日本再生医療学会雑誌、2005年、Vol.4(1), pp.79-83
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、組織として機能するには、組織を構成する複数種の細胞が適切な相対位置に配置(細胞配置)され、組織としての方向性を有することが必須である。組織、例えば歯は、歯胚に由来する上皮系細胞と頭部神経堤細胞に由来する間葉系細胞が分化発生過程で相互作用して発生するひとつの「臓器」や「器官」であり、歯胚をそのまま移植すれば正常の歯を発生可能であるが、複数種類の細胞で構成されている歯胚細胞を、単に分離して培養しただけでは、歯という機能単位としての特徴的な細胞配置及び方向性を有する歯を再生することができない。
【0008】
上記技術はいずれも細胞や細胞因子等を用いて歯胚の再構築を行っているが、歯としての充分な機能を発現しうる特徴的な細胞配置や方向性を再現するものではない。
また、組織を構成している複数の細胞を単に単離して培養しただけでは、特有の細胞配置を備えた組織を再構築することが困難であった。
【0009】
従って、本発明の目的は、特有の細胞配置を保持した歯の製造方法及びこの方法によって製造された歯の集合体並びに歯周組織の製造方法を提供することである。
また、本発明の他の目的は、組織特有の細胞配置を保持した組織の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の歯の製造方法は、支持担体の内部に、少なくともいずれか一方が歯胚由来である間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること、前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養すること、を含むことを特徴としている。
【0011】
本発明の歯周組織の製造方法は、支持担体の内部に、少なくともいずれか一方が歯胚由来である間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること、前記第1及び第2の細胞集合体を、歯とこれに連続した歯周組織とを得るまで培養すること、前記培養によって得られた歯周組織を単離すること、を含むことを特徴としている。
【0012】
支持担体の内部に、少なくともいずれか一方が歯胚由来である間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること、前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養すること、によって得られた歯の集合体であることを特徴としている。
【0013】
前記両製造方法又は歯の集合体では、前記第1の細胞集合体及び第2の細胞集合体が、共に歯胚由来であることが好ましい。
またここで、前記第1の細胞集合体及び第2の細胞集合体が、共に単一細胞集合物であってもよい。
【0014】
また本発明の組織の製造方法は、間葉系細胞と上皮系細胞との相互作用により構築される組織の製造方法であって、支持担体の内部に、間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること、前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養すること、を含むことを特徴としている。
【0015】
上記組織の製造方法において、前記間葉系細胞及び上皮系細胞の少なくとも一方が目的となる組織に由来するものであることが好ましい。
また、上記組織は、歯、毛髪、腎臓、肺、肝臓からなる群より選択されたものであることを特徴としている。
【0016】
本発明では、間葉系細胞又は上皮系細胞のみから実質的になる細胞集合体を、互いに接触させて支持担体の内部に配置し、培養するので、細胞集合体同士が、他方の細胞集合体を構成する細胞と混じり合うことなく、支持担体中で互いに接触した状態を維持しながら成育する。これにより、組織を形成する際に必要な間葉系細胞と上皮系細胞との良好な相互作用を効果的に再現することができる。
この結果、目的とする組織に特有の細胞配置を有する組織を作製することができる。また、間葉系細胞及び上皮系細胞の少なくとも一方を歯胚由来とすることにより、外側にエナメル質を有し内側に象牙質を有するという特有の細胞配置を備えた歯及び歯の集合体を作製することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、特有の細胞配置を保持した歯の製造方法及びこの方法によって製造された歯の集合体並びに歯周組織の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、組織特有の細胞配置を保持した組織の製造方法を提供するができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】歯胚の形成を模式的に表した概念図である。
【図2】(A)〜(D)は、本発明の実施例にかかる、歯胚由来間葉系細胞と上皮系細胞を用いた歯胚再構築の手順を概念的に示した図である。
【図3】本発明の比較例1にかかる正常歯胚組織の位相差顕微鏡像及び染色像と、その正常歯胚を腎皮膜下移植して発生させた歯の経時的な染色像である。
【図4】本発明の実施例1にかかる歯胚由来上皮組織と歯胚由来間葉系細胞による再構成歯胚の位相差顕微鏡像と、その再構成歯胚を腎皮膜下移植して発生させた歯の経時的な染色像である。
【図5】本発明の実施例1にかかる歯胚由来上皮組織とGFPマウス由来歯胚由来間葉系細胞による再構成歯胚の位相差顕微鏡像と、その再構成歯胚を腎皮膜下移植して発生させた歯の14日目の染色像である。
【図6】本発明の実施例2にかかるGFPマウス由来歯胚由来上皮系細胞と歯胚由来間葉組織による再構成歯胚の位相差顕微鏡像と、その再構成歯胚を腎皮膜下移植して発生させた歯の14日目の染色像である。
【図7】本発明の実施例3にかかる歯胚由来上皮系細胞と歯胚由来間葉系細胞による再構成歯胚の位相差顕微鏡像と、その再構成歯胚を腎皮膜下移植して発生させた歯の14日目の染色像である。
【図8】本発明の比較例2にかかる歯胚由来上皮組織及び歯胚由来間葉組織の位相差顕微鏡像と、そのそれぞれを単独で腎皮膜下移植したときの14日目の染色像である。
【図9】本発明の比較例3にかかる歯胚由来上皮組織と歯胚由来間葉系細胞を用いた低密度再構成歯胚の位相差顕微鏡像と、その低密度再構成歯胚を腎皮膜下移植したときの20日目の染色像である。
【図10】本発明の比較例4にかかる歯胚由来上皮組織と歯胚由来間葉系細胞とを区画化することなく高密度に再構成したときの再構成歯胚の位相差顕微鏡像と、その低密度再構成歯胚を腎皮膜下移植したときの20日目の染色像である。
【図11】本発明の実施例1〜3にかかる再構成歯胚より発生させた歯の周囲にできた歯周組織である歯槽骨と歯根膜の染色像である。
【図12】本発明の実施例2(移植後17日目)と比較例1(移植後14日目)にかかる再構成歯胚より発生させた歯の周囲にできた歯周組織である歯根膜に特異的なぺリオスチンmRNAを検出した染色像である。
【図13】本発明の実施例4及び5と比較例5にかかる再構成歯胚作製後に培養工程を延長して、器官培養により発生させた歯の位相差顕微鏡像と染色像である。
【図14】本発明の実施例6にかかる歯胚由来上皮系細胞と歯胚由来間葉系細胞による再構成歯胚の位相差顕微鏡像と、その再構成歯胚を腎皮膜下移植して発生させた歯の14日目の染色像である。
【図15】(A)は本発明の比較例6にかかる非移植マウスの抜歯後14日目の染色像、(B)は(A)中の枠内拡大図である。
【図16】本発明の実施例6にかかる個別分離した歯胚の口腔内移植後14日目の染色像である。
【図17】本発明の実施例7にかかる個別分離した歯の口腔内移植後14日目の染色像である
【図18】本発明の実施例8にかかる毛胞組織由来上皮系細胞と毛胞組織由来間葉系細胞による再構成毛胞の位相差顕微鏡像と、その再構成毛胞を腎皮膜下移植して発生させた毛の14日目の染色像である。
【図19】本発明の実施例8にかかる毛胞組織由来上皮系細胞と毛胞組織由来間葉系細胞による再構成毛胞を腎皮膜下移植して発生させた毛胞の14日目の実態顕微鏡写真像である。
【図20】本発明の比較例7にかかる毛胞組織由来上皮系細胞と毛胞組織由来間葉系細胞による再構成毛胞の位相差顕微鏡像と、その再構成毛胞を腎皮膜下移植して発生させた毛胞の14日目の染色像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の歯の製造方法は、支持担体の内部に、少なくともいずれか一方が歯胚由来である間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること(配置工程)、前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養すること(培養工程)、を含むものである。
【0020】
本製造方法では、少なくともいずれか一方が歯胚由来である間葉系細胞と上皮系細胞とを細胞集合体として、支持担体の内部で接触させて成育させるので、緊密な接触状態によって細胞間相互作用を効果的に再現することができ、内側に象牙質、外側にエナメル質という歯に特有の細胞配置を有する歯を製造することができる。
【0021】
本発明において、「歯」とは、内側に象牙質及び外側にエナメル質の層を連続して備えた組織をいい、好ましくは、これらの層構造を備え且つ歯冠や歯根を有する方向性を備えた組織をいう。象牙質及びエナメル質は、当業者には、組織染色などによって形態的に容易に特定することができる。また、エナメル質は、エナメル芽細胞の存在によって特定することができ、エナメル芽細胞の存在は、アメロジェニンの有無によって確認することができる。一方、象牙質は、象牙芽細胞の存在によって特定することができ、象牙質芽細胞の存在は、デンチンシアロプロテインの有無によって確認することができる。アメロジェニン及びデンチンシアロプロテインの確認はこの分野で周知の方法によって容易に実施することができ、例えば、in situ ハイブリダイゼーション、抗体染色等をあげることができる。
また、歯の方向性は、歯冠や歯根の配置によって特定することができる。歯冠や歯根は、形状や組織染色などに基づいて目視にて確認することができる。
【0022】
また本発明において「歯周組織」とは、歯の主として外層の形成された歯槽骨及び歯根膜をいう。歯槽骨及び歯根膜は、当業者には、組織染色などによって形態的に容易に特定することができる。
なお、本発明において「間葉系細胞」とは、間葉組織由来の細胞を意味し、「上皮系細胞」とは上皮組織由来の細胞を意味する。
【0023】
本発明において「歯胚」及び「歯芽」は、後述する発生段階に基づいて区別されたものに特に言及する場合に用いられる表現である。この場合の「歯胚」とは、将来歯になることが決定付けられた歯の初期胚であり、歯の発生ステージで一般的に用いられる蕾状期(Bud stage)から鐘状期(Bell stage)までの段階であり、特に歯の硬組織としての特徴である象牙質、エナメル質の蓄積が認められない組織であり、「歯芽」とは本発明で用いられる「歯胚」の段階移行の、歯の硬組織の特徴である象牙質、エナメル質の蓄積が始まった段階から歯が歯肉から萌芽して一般的に歯としての機能を発現する前の段階の組織をいう。
【0024】
歯胚は、図1に示されるように個体発生の過程で、蕾状期、帽状期、鐘状前期及び後期の各ステージを経て行われる。ここで、蕾状期では、上皮系細胞が間葉系細胞を包むように陥入し(図1(A)及び(B)参照)、鐘状前期及び鐘状後期に至ると、上皮系細胞部分が外側のエナメル質となり、間葉系細胞部分が内部に象牙質を形成するようになる(図1(C)及び(D)参照)。従って、上皮系細胞と間葉系細胞との細胞間相互作用によって歯胚が形成する。
本発明における間葉系細胞及び上皮系細胞は、歯胚を形成する又は形成する可能性がある上記蕾状期から鐘状後期までのもの(以下、単に「歯胚」という)であればよく、細胞の分化段階の幼若性と均質性の観点から蕾状期から帽状期からのものであることが好ましい。
【0025】
また、「細胞集合体」とは、細胞が密集した状態をいい、組織の状態であっても、単一細胞の状態であってもよい。また「実質的になる」とは、対象となる細胞以外のものをできるだけ含まないことを意味する。各々の細胞集合体は、組織自体若しくはその一部、又は単一細胞の集合体とすることができるため、いずれか一方が単一細胞で構成された細胞集合体であってもよく、共に単一細胞で構成された細胞集合体であってもよいが、本発明によって組織の再構成を効率よく達成するためには、共に単一細胞で構成されていることが好ましい。
第1の細胞集合体第2の細胞集合体は、いずれが上皮系細胞及び間葉系細胞であってもよく、この細胞集合体を構成する細胞の数は、動物の種類や、支持担体の種類、硬さ及び大きさによって異なるが、細胞集合体1個あたり、一般に101〜108個、好ましくは103〜108個とすることができる。
【0026】
配置工程では、支持担体の内部に、第1の細胞集合体と第2の細胞集合体とを接触させて配置する。
本発明の製造方法における配置工程では、上記第1及び第2の細胞集合体を、細胞の接触状態を保持可能な支持担体の内部に配置するので、それぞれの細胞集合体を構成する細胞が、他方の細胞集合体を構成する細胞と混じり合うことがない。このように配置工程では、各細胞集合体を混合することなく配置するので、細胞集合体の間に境界線が形成される。このような配置形態を、本明細書中では適宜「区画化」と表現する。
【0027】
ここで、第1の細胞集合体と第2の細胞集合体は、間葉系細胞及び上皮系細胞から実質的に構成されるように、別個の調製工程(第1の細胞調製工程及び第2の細胞調製工程)によって調製される。
本製造方法で用いられる間葉系細胞及び上皮系細胞は、生体内での細胞配置を再現して特有の構造及び方向性を有する歯を効果的に形成するために、少なくともいずれか一方が歯胚に由来するものであればよいが、確実に歯を形成させるためには、間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれもが共に歯胚由来であることが最も好ましい。
【0028】
歯胚以外に由来する間葉系細胞としては、生体内の他の間葉系組織に由来する細胞であり、好ましくは、血液細胞を含まない骨髄細胞や間葉系幹細胞、さらに好ましくは口腔内間葉系細胞や顎骨の内部の骨髄細胞、頭部神経堤細胞に由来する間葉系細胞、前記間葉系細胞を生み出しうる間葉系前駆細胞やその幹細胞等を挙げることができる。
また、歯胚以外に由来する上皮系細胞としては、生体内の他の上皮系組織に由来する細胞であり、好ましくは、皮膚や口腔内の粘膜や歯肉の上皮系細胞、さらに好ましくは皮膚や粘膜などの分化した、例えば角化した、あるいは錯角化した上皮系細胞を生み出しうる未熟な上皮系前駆細胞、たとえば非角化上皮系細胞やその幹細胞等を挙げることができる。
【0029】
歯胚及び他の組織は、哺乳動物の霊長類、例えばヒト、サルなど、有蹄類、例えば豚、牛、馬など、小型哺乳類の齧歯類、例えばマウス、ラット、ウサギなどの種々の動物の顎骨等から採取することができる。歯胚及び組織の採取は、通常、組織の採取で用いられる条件をそのまま適用すればよく、無菌状態で取り出し、適当な保存液に保存すればよい。なお、ヒトの歯胚としては、第3大臼歯いわゆる親知らずの歯胚の他、胎児歯胚を挙げることができるが、自家組織の利用との観点から、親知らず歯胚を用いることが好ましい。
【0030】
この歯胚からの間葉系細胞及び上皮系細胞の調製は、まず周囲の組織から単離された歯胚を、形状に従って歯胚間葉組織及び歯胚上皮組織に分けることによって行われる。このとき、歯胚組織は顕微鏡下で構造的に見分けることが可能であるため、解剖用ハサミやピンセット等で切断、あるいは引き剥がすことによって容易に分離することができる。また、歯胚組織からの歯胚間葉組織及び歯胚上皮組織の分離は、その形状に従って注射針、タングステンニードル、ピンセット等で切断、あるいは引き剥がすことにより容易に行うことができる。
好ましくは、周囲組織から歯胚細胞を容易に分離するため及び/又は歯胚組織から上皮組織及び間葉組織を分離するために、酵素を用いてもよい。このような用途に用いられる酵素としては、ディスパーゼ、コラーゲナーゼ、トリプシン等を挙げることができる。
【0031】
間葉系細胞及び上皮系細胞は、それぞれ間葉組織及び上皮組織から単一細胞の状態に調製してもよい。調製工程では、単一の細胞に容易に分散可能とするために、酵素を用いてもよい。このような酵素としては、ディスパーゼ、コラーゲナーゼ、トリプシン等を挙げることができる。このとき、上皮組織からの上皮系細胞の分離にはコラーゲナーゼ処理後にトリプシン処理とDNase処理をすることが好ましい。他方、間葉組織からの間葉系細胞の分離には、コラーゲナーゼとトリプシンで同時に処理し、最終的にDNase処理をすることが好ましい。このときDNase処理を行うのは、酵素処理により一部の細胞がダメージをうけ、細胞膜が溶解したときに溶液中に放出されるDNAによって細胞が凝集し細胞の回収量が低下することすることを防ぐためである。
【0032】
なお、間葉系細胞及び上皮系細胞は、それぞれ充分な細胞数を得るために、配置工程に先立って予備的な培養を経たものであってもよい。間葉系細胞及び上皮系細胞の培養は、一般に動物細胞の培養に用いられる温度等の条件をそのまま用いることができる。
培養に用いられる培地としては、一般に動物細胞の培養に用いられる培地、例えばダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)等を用いることができ、細胞の増殖を促進するための血清を添加するか、あるいは血清に代替するものとして、例えばFGF、EGF、PDGF等の細胞増殖因子やトランスフェリン等の既知血清成分を添加してもよい。なお、血清を添加する場合の濃度は、そのときの培養状態によって適宜変更することができるが、通常10%とすることができる。細胞の培養には、通常の培養条件、例えば37℃の温度で5%CO2濃度のインキュベーター内での培養が適用される。また、適宜、ストレプトマイシン等の抗生物質を添加したものであってもよい。
【0033】
本発明で用いられる支持担体としては、細胞を内部で培養可能なものであればよく、好ましくは、上記培地との混合物である。このような支持担体としては、コラーゲン、フィブリン、ラミニン、細胞外マトリクス混合物、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)、セルマトリクス(商品名)、メビオールゲル(商品名)、マトリゲル(商品名)等を挙げることができる。これらの支持担体は、細胞を内部に配置したときに配置した位置をほぼ維持可能な程度な硬さを有するものであればよく、ゲル状、繊維状、固体状のものを挙げることができる。ここで、細胞の位置を維持可能な硬さとは、通常、三次元培養として適用される硬さ、即ち、細胞の配置を保持できると共に増殖による肥大化を阻害しない硬さであればよく、容易に決定することができる。例えば、コラーゲンの場合、最終濃度2.4mg/mlの濃度での使用が適切な硬さを提供する。
なお、ここで支持担体は、第1及び第2の細胞集合体が担体内部で成育することができる程度の厚みを有すればよく、目的とする組織の大きさ等によって適宜設定することができる。
【0034】
また、支持担体は、細胞の接触状態を保持可能であればよいが、ここでいう「接触状態」とは、各細胞集合体において、また細胞集合体間において、確実に細胞相互作用させるために高密度の状態であることが好ましい。
高密度の状態とは、組織を構成する際の密度と同等程度であることをいい、例えば、細胞集合体の場合、細胞配置時で5×107〜1×109個/ml、細胞の活性を損なわずに確実に細胞相互作用させるため好ましくは1×108〜1×109個/ml、最も好ましくは2×108〜8×108個/mlの密度をいう。このような細胞密度に細胞集合体を調製するには、細胞を遠心によって凝集させ沈殿化することが細胞の活性を損なわずに簡便に高密度化できるため好ましい。このような遠心は、細胞の生存を損ねない300〜1200×g、好ましくは500〜1000×gの遠心力に該当する回転数で3〜10分間おこなえばよい。300×gよりも低い遠心では、細胞の沈殿が不十分となって細胞密度が低くなる場合があり、一方、1200×gよりも高い遠心では細胞が損傷を受ける場合があるため、それぞれ好ましくない。
【0035】
遠心分離によって高密度の細胞を調製する場合には、通常、細胞遠心分離するために用いられるチューブ等の容器に単一細胞の懸濁液を調製した後に遠心分離し、沈殿物としての細胞を残して上清をできるだけ取り除けばよい。このときに使用されるチューブ等の容器は、上清を完全に除去する観点から、シリコーンコートされたものであることが好ましい。
【0036】
遠心分離による沈殿物とした場合には、沈殿物をそのまま支持担体の内部に配置すればよい。このとき、目的とする細胞以外の成分(例えば、培養液、緩衝液、支持担体等)は、細胞の容量と等量以下であることが好ましく、目的とする細胞以外の成分を含まないことを最も好ましい。このような高密度の細胞集合体では、細胞が緊密に接触しており、細胞間相互作用が効果的に発揮される。
【0037】
組織の状態で使用する場合には、酵素処理等を行って、対象となる細胞以外の結合組織等を除去することが好ましい。目的とする細胞以外の成分が多い場合、例えば細胞の容量と等量以上になると、細胞間相互作用が充分に発揮されないため、好ましくない。
【0038】
また、第1の細胞集合体と第2の細胞集合体の接触は密接であるほど好ましく、第1の細胞集合体に対して第2の細胞集合体を押し付けて配置することが特に好ましい。また、第1の細胞集合体と第2の細胞集合体との周囲を培養液、酸素透過を阻害しない固形物で包み込むことも、細胞集合体同士の接触を密接にするのに有効であり、粘度の異なる溶液に密度の高い細胞懸濁液を入れて配置させ、溶液をそのまま固化することも、細胞の接触の保持を容易に達成できるため、好ましい。このとき、第1の細胞集合体を歯胚間葉系細胞の単一細胞集合物とし、第2の細胞集合体を歯胚上皮組織とした場合には、歯胚上皮組織のエナメル結節が第1の細胞集合体に接触するように配置することが好ましいが、これに限定されない。
【0039】
支持担体がゲル状、あるいは溶液状等の場合には、配置工程の後に支持担体を固化する固化工程を設けてもよい。固化工程によって、支持担体内部に配置された細胞が支持担体内部に固定化される。支持担体の固化には、一般に用いた支持担体の固化条件をそのまま適用すればよい。例えば支持担体にコラーゲン等の固化可能な化合物を用いた場合には、通常適用される条件で、例えば培養温度下で数分〜数十分間静置させることにより、固化することができる。これにより、支持担体内部における細胞間の結合を固定化できると共に、強固なものにすることができる。
【0040】
本発明の製造方法における培養工程では、第1の細胞集合体及び第2の細胞集合体を支持担体内部で培養する。この培養工程では、互いに緊密に接触された第1の細胞集合体及び第2の細胞集合体によって細胞間相互作用が効果的に行われて、組織、即ち歯が再構成される。
培養工程は、支持担体によって第1の細胞集合体と第2の細胞集合体との接触状態が維持されて行われればよく、第1及び第2の細胞集合体を有する支持担体単独による培養であっても、他の動物細胞の存在下での培養であってもよい。
培養期間としては、支持担体内部に配置された細胞数及び細胞集合体の状態、更には培養工程の実施条件によって異なるが、一般に、1〜300日、エナメル質を外側に有し、象牙質を内側に有する歯を形成するためには、好ましくは1〜120日、迅速に提供可能とする観点からは、好ましくは1〜60日とすることができる。更に歯周組織を備えた歯とするためには、一般に1〜300日、好ましくは1〜60日とすることができる。
【0041】
支持担体のみによる培養とした場合には、動物細胞の培養に用いられる通常の条件下での培養とすることができる。ここでの培養は、一般に動物細胞での培養条件をそのまま適用すればよく、前述した条件をそのまま適用することができる。また培養には、哺乳動物由来の血清を添加してもよく、またこれらの細胞の増殖や分化に有効であることが既知の各種細胞因子を添加してもよい。このような細胞因子としては、FGF、BMP等を挙げることができる。
また、組織や細胞集合体のガス交換や栄養供給の観点から器官培養を用いることが好ましい。器官培養では、一般に、動物細胞の増殖に適した培地上に多孔性の膜をフロートさせ、その膜上に支持担体で包埋された細胞集合体を置いて培養を行う。ここで用いられる多孔性の膜には、0.3〜5μm程度の孔を多数有した膜であることが好ましく、具体的にはセルカルチャーインサート(商品名)、アイソポアフィルター(商品名)を挙げることができる。
【0042】
他の動物細胞の存在下での培養の場合には、動物細胞からの各種サイトカイン等の作用を受けて、早期に特有の細胞配置を有する歯を形成することができるので、好ましい。このような他の動物細胞の存在下での培養は、単離細胞や培養細胞を用いて生体外での培養によって行ってもよい。
【0043】
また、第1及び第2の細胞集合体を有する支持担体を生体へ移植して生体内で培養を行うことが、歯及び/又は歯周組織の形成を早期に行うことができるため、特に好ましい。この場合、支持担体と共に第1及び第2の細胞集合体が生体内へ移植される。
この用途に利用可能な動物は、哺乳動物、例えばヒト、豚、マウス等を好ましく挙げることができ、歯胚組織と同一の種に由来するものであることが更に好ましい。ヒト歯胚組織を移植する場合には、ヒト、又は免疫不全に改変したヒト以外の他の哺乳動物を用いることが好ましい。このような生体内成育に好適な生体部位としては、動物細胞の器官や組織をできる限り正常に発生させるためには、腎臓皮膜下、腸間膜、皮下移植等が好ましい。
移植による成育期間としては、移植時の大きさと発生させる歯の大きさによって異なるが、一般に、3〜400日とすることができる。例えば、腎臓皮膜下への移植期間は移植する培養物の大きさと再生させる歯の大きさによっても異なるが、歯の再生と移植先で発生させる歯の大きさの観点から7〜60日間であることが好ましい。
【0044】
生体への移植を行う前に、生体外での培養(前培養)を行ってもよい。この前培養によって細胞間の結合と第1及び第2の細胞集合体同士の結合を強固にして、細胞間相互作用をより強固にすることができるため好ましい。その結果、全体の成育期間を短縮することができる。
前培養の期間は短期であっても長期であってもよい。長期間、例えば3日以上、好ましくは7日以上とした場合には、歯胚から歯芽に発生させることができるので、移植後に歯ができるまでの期間を短縮することもできるため好ましい。前培養の期間としては、例えば腎臓皮膜下へ移植を行う場合の器官培養として、好ましくは1〜7日とすることが効率よく歯を再生するために好ましい。
【0045】
本発明の製造方法によって製造された歯は、内側に象牙質、外側にエナメル質という歯としての特有の細胞配置(構造)を有するものであり、また好ましくは、更に歯の先端(歯冠)と歯根という方向性も備えているものである。少なくともこのような特有の細胞配置、好ましくは細胞配置に加えて方向性を有することによって、歯としての機能も発揮できるものである。このため、歯の代替物として広く利用することが可能である。特に、自家の歯胚に由来した間葉系細胞及び上皮系細胞を用いた場合には、拒絶反応による問題を回避しつつ使用することができる。また一般に移植抗原が適合した他人の歯胚に由来する細胞を用いる場合にも拒絶反応による問題を回避することが可能である。
【0046】
さらに本発明では、培養期間を延長させることによって、歯そのものに加えて、歯を顎骨上で支持し、固定化する歯槽骨や歯根膜などの歯周組織も形成させることができる。この結果、移植後に実用可能な歯を提供することが可能である。
即ち、本発明の歯周組織の製造方法は、上記培養工程を、支持担体に内部で、前記第1及び第2の細胞集合体を、歯とこれに連続する歯周組織とを得るまで培養する工程(培養工程)とし、更に、前記培養によって得られた歯周組織を単離する工程と、を含むことを特徴としている。
この方法では、歯周組織が得られるまで延長された培養期間によって、歯に連続して歯周組織を形成させ、歯から分離することにより、歯周組織のみを得ることができる。歯周組織の単離は、培養工程の過程で形成された歯周組織と歯とを分離することができる如何なる方法によって行ってもよく、ピンセット等による分離や、酵素による部分消化等を挙げることができる。
なお上記歯の製造方法において説明した事項は、培養期間を制限しない限り、いずれも本歯周組織の製造方法にも適用することができる。
【0047】
本発明の上記歯の製造方法及び歯周組織の製造方法によって得られた歯及び歯周組織は、移植片として用いられる他、歯の発生過程を解明するための研究にも好ましく利用することができ、今後の歯に関連する組織発生のために有効なリサーチツールとして利用することができる。
なお、得られた歯又は歯周組織を移植片として用いる場合には、製造方法における培養工程を、他の動物細胞との接触がなく且つ全行程in vitroで調製することができる器官培養としたものであることが好ましい。
【0048】
本発明の歯の集合体は、上記歯の製造方法によって得られた歯特有の細胞配置を有する歯の集合体である。
このような歯の集合体は、歯特有の細胞配置を有する複数の歯で構成されているため、個々の歯を集合体から分離して、以下に述べるように1つの歯の移植片として用いることができる。このように本発明の歯の製造方法は、複数の歯を同時に作製した場合には、複数の歯で構成された歯の集合体としても歯を提供することができる。この結果、移植片としての歯を効率よく作製することができる。
【0049】
歯の集合体は、上記歯の製造方法をそのまま適用することにより、容易に得ることができる。特に、上記第1及び第2の細胞調製工程において第1及び第2の細胞集合体をそれぞれ調製し、配置工程において互いに接触させて支持担体内部に配置させるため、支持担体内部に、本来1つの歯を形成する細胞群から複数の歯を容易に形成することができる。
歯の集合体の製造方法において、第1及び第2の細胞集合体は、複数本の歯が発生するための歯胚の再誘導を容易にするために共に単一細胞により構成されていることが好ましい。なお、培養工程は、前記と同様に、器官培養であっても腎臓皮膜下での培養であってもよいが、得られた歯を移植片として用いる場合には、他の動物細胞との接触がなく且つ全行程in vitroで調製することができる器官培養とすることが好ましい。
【0050】
また、本発明には、歯の移植方法が含まれる。この移植方法では、上記歯の集合体を得る工程と、歯の集合体から個々の歯を分離する工程と、分離された歯を、移植部位での他の歯と同一の方向性となるように揃えて移植する工程とを含む。
これにより、歯の移植を、特有の細胞配置と方向性を備えた複数の歯を同時に得て、効率よく実施することができる。
【0051】
本発明による歯は、歯の欠損及び損傷を伴う各種症状、例えば、齲蝕、辺縁性歯周炎(歯槽膿漏)、歯周病による歯の欠損、事故などによる折損や脱落等の治療又は処置に適用することもできる。
即ち、本発明の治療方法は、本発明による製造方法によって得られた歯及び/又は歯周組織を、欠損及び/又は損傷部位へ移植することを含む。これにより、欠損及び/又は損傷部位の上記症状を治療及び/又は緩和することができる。
本発明の他の治療方法は、本発明における培養工程のみ、或いは、配置工程及び培養工程を、欠損及び/又は損傷部位において実施させることを含む。この場合、支持担体としては、上述したものに加えて、欠損及び/又は損傷部位の周囲組織そのものを支持担体として適用してもよい。これにより、生体内での周辺組織からのサイトカイン等によって、より迅速に欠損及び/又は損傷部位の治療等を行うことができる。
【0052】
本発明では、間葉系細胞及び上皮系細胞の細胞間相互作用に基づいて効果的に組織を再構成させることができるので、間葉系細胞と上皮系細胞との相互作用により構築される組織の製造方法も提供することができる。
即ち、本発明の組織の製造方法は、間葉系細胞と上皮系細胞との相互作用により構築される組織の製造方法であって、支持担体内部に、間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること、前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養すること、を含む。
なお上記歯の製造方法において説明した事項は、特記しない限り、いずれも本組織の製造方法にも同様に適用することができる。
【0053】
本組織の製造方法によって製造される組織としては、間葉系細胞及び上皮系細胞の細胞間相互作用により構築される組織が該当し、上述した歯に加えて、毛髪、腎臓、肺、肝臓等を挙げることができ、これらの組織全体であってもその一部であってもよい。
このとき、間葉系細胞と上皮系細胞の少なくとも一方は、目的とする組織に由来するものであることが好ましい。これにより、目的とする組織へ方向付けが既に行われている細胞を用いて容易に組織を形成することができる。また、より確実に目的とする組織を製造するには、共に目的とする組織に由来することが最も好ましい。
【0054】
間葉系細胞及び上皮系細胞からそれぞれ構成される細胞集合体を調製するために用いられる組織としては、歯の場合には、歯胚や歯髄細胞、歯根膜細胞、口腔内上皮・間葉細胞、毛髪の場合には、発生過程の毛胞器官原基や成体の毛胞組織、腎臓の場合には、発生過程の腎臓器官原基や成体の腎臓組織、肺の場合には、発生過程の肺器官原基や成体の肺組織、肝臓の場合には、発生過程の肝臓器官原基や成体の肝臓組織を挙げることができる。
これらから各細胞集合体を調製するには、前述したように、組織から間葉系細胞と上皮系細胞とを分離して前記同様にして第1及び第2細胞集合体を調製し、前記同様にして、支持担体内部へ配置し、培養及び/又は移植すればよい。
これにより、前述した歯と同様に、目的とする組織に特有の細胞配置を有する組織を得ることができる。
【0055】
以下に本発明の実施例について説明するが、これに限定されるものではない。また実施例中の%は、特に断らない限り、重量(質量)基準である。
【実施例】
【0056】
[実施例1〜3及び比較例1〜4]
(1)歯胚上皮系細胞と歯胚間葉系細胞の調製
歯の形成を行うために、歯胚の再構築を行った。この実験モデルとしてマウスを用いた。
C57BL/6Nマウス(日本クレアから購入)又はGreen Fluorescence Protein (EGFP) トランスジェニックマウスであるC57BL/6−TgN(act-EGFP)OsbC14-Y01-FM131(GFPマウス:理研バイオリソースセンター)の胎齢14.5日、胚仔から下顎切歯歯胚組織を顕微鏡下で常法により摘出した。下顎切歯歯胚組織をCa2+,Mg2+不含リン酸緩衝液(PBS(−))で洗浄し、PBS(−)に最終濃度1.2U/mlのDispase II (Roche, Mannheim, Germany)を添加した酵素液で室温にて12.5分間処理した後、10%FCS(JRH Biosciences, Lenexa, KS)を添加したDMEM(Sigma, St. Louis, MO)で3回洗浄した。さらにDNase I溶液 (Takara, Siga, Japan)を最終濃度70U/mlになるよう添加し歯胚組織を分散させ、25G注射針 (Terumo, Tokyo, Japan)を用いて外科的に歯胚上皮組織と歯胚間葉組織を分離した。
【0057】
歯胚上皮系細胞は、上記により得られた歯胚上皮組織をPBS(−)で3回洗浄し、PBS(−)に最終濃度100U/mlのCollagenase I(Worthington, Lakewood, NJ)を溶解した酵素液で37℃にて20分間の処理を2回繰り返した。遠心分離によって沈殿回収した細胞を、さらに0.25% Trypsin (Sigma)−PBS(−)で37℃、5分間処理した。10%FCS添加DMEMで、細胞を3回洗浄した後、細胞に最終濃度70U/mlのDNase I溶液を添加して、ピペッティングにより単一の歯胚上皮系細胞を得た。
一方、歯胚間葉系細胞は、歯胚間葉組織をPBS(−)で3回洗浄し、0.25%Trypsin (Sigma)、50U/mlのCollagenase I (Worthington)を含むPBS(−)で処理した。70U/mlのDNase I (Takara)を添加して、ピペッティングにより単一の歯胚間葉系細胞を得た。
【0058】
(2)再構成歯胚の作製
次に、上記で調製された歯胚上皮系細胞及び歯胚間葉系細胞を用いて、歯胚再構築を行った。
シリコングリースを塗布した1.5mLマイクロチューブ (Eppendorf, Hamburg, Germany)に、10%FCS(JRH Biosciences) 添加DMEM(Sigma)で懸濁した歯胚上皮系細胞、あるいは歯胚間葉系細胞を入れ、遠心分離(580×g)により細胞を沈殿として回収した。遠心後の培養液の上清をできる限り除去し、再度遠心操作を行い、実体顕微鏡で観察しながら細胞の沈殿周囲に残存する培養液を GELoader Tip 0,5−20μL (eppendorf) を用いて完全に除去し、再構成歯胚作製に用いる細胞を準備した。
シリコングリースを塗布したペトリディッシュに、2.4mg/mlの濃度に上記培養液で調製したCellmatrix type I-A (Nitta gelatin, Osaka, Japan) を30μL滴下してコラーゲンゲル溶液のドロップ(ゲルドロップ)を作製した。この溶液に、上記歯胚上皮系細胞、あるいは歯胚間葉系細胞の遠心後の沈殿を、0.1−10μLのピペットチップ (Quality Scientific plastics)を用いて、0.2−0.3μLアプライして、細胞集合体としての細胞凝集塊を作製した。
【0059】
これを、図2を参照して説明する。
ピペットチップ16で先にゲルドロップ10内に配置された細胞凝集塊12は、ゲルドロップ10内で球体を構成する(図2(B)参照)。この後に他方の細胞凝集塊14を押し込むことによって、球体の細胞凝集塊12がつぶされて、他方の細胞凝集塊14を包むようになることが多い(図2(C)参照)。その後にゲルドロップ10を固化させることにより、細胞間の結合が強固になる(図2(D)参照)。
【0060】
本実施例では、細胞集合体として、上皮系細胞又は間葉系細胞の単一細胞からなる細胞凝集塊と、歯胚のうち、上皮系細胞からなる部分組織及び間葉系細胞からなる部分組織とを、それぞれ調製して用いた。
本実施例において、細胞凝集塊と組織とによる再構成歯胚を組み合わせる場合(実施例1及び2)には、歯胚上皮系細胞、あるいは間葉系細胞から作製した細胞凝集塊に、上皮系細胞又は間葉系細胞からなる部分組織をゲルドロップ中に移した後、それぞれの組織の歯胚における組織境界面側を、タングステン針を用いて細胞凝集塊に密着させて再構成歯胚を作製した。
一方、単一細胞にした歯胚上皮系細胞と歯胚間葉系細胞を用いた再構成歯胚(実施例3)では、先に作製した歯胚間葉系細胞の細胞凝集塊に接するように、歯胚上皮系細胞を同様の方法によりアプライして細胞凝集塊を作製し、両者が互いに密接するようにして再構成歯胚を作製した。
【0061】
ゲルドロップ中で作製した再構成歯胚は、CO2インキュベーターに10分間静置してCellmatrix type I-A (Nitta Gelatin)を固化し、10%FCS(JRH) 添加DMEM(Sigma)にセルカルチャーインサート(ポアサイズが0.4ミクロンのPETメンブレン;BD, Franklin Lakes, NJ)が接するようにセットした培養容器のセルカルチャーインサートの膜上に、細胞凝集塊を支持担体である周囲のゲルと共に移して、18−24時間、器官培養した。培養後、周囲のゲルごと8週齢C57BL/6の腎皮膜下に移植して異所的な歯の発生を進行させるか、セルカルチャーインサート上での器官培養を継続し、歯の発生を解析した。
また比較例としては、歯胚組織をそのまま腎皮膜下に移植したもの(比較例1)と、歯胚から分離した上皮組織と間葉組織をそれぞれ単独で移植したもの(比較例2)、また細胞の容量と等量の培養液を含む低密度凝集塊を用いたもの(比較例3)と、歯胚から分離して上皮細胞と間葉細胞を混合して上皮細胞と間葉細胞を区画化することなく支持担体中で細胞凝集塊を形成させたもの(比較例4)とを、それぞれ上記と同様にして調製し、同様に解析した。なお、比較例4において、上皮細胞と間葉細胞との混合は、それぞれ1対1の比率で穏やか混合した後、実施例1〜3と同様にして、再構成歯胚作製に用いる1の細胞凝集塊として調製した。
【0062】
(3)組織学的解析
腎皮膜下に移植の場合には、移植後7日目、あるいは14日目に周囲の腎組織ごと再構成歯胚を摘出し、4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で6時間固定した後、4.5%のEDTA(pH7.2)で24時間脱灰し、常法によりパラフィン包埋して、10μmの切片を作製した。組織学的解析のためには常法に従い、ヘマトキシリン−エオジン染色を行った。
再構成歯胚にGFPマウス由来の歯胚を用いた場合は、50%(w/v)スクロース−4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で18時間固定した後、4.5%のEDTA(pH7.2)で24時間脱灰し、OCT compound(Miles Inc., Naperville, IL)に包埋して、クリオスタット (Leica, Wetzlar, Germany)で10μmの切片を作製し、蛍光顕微鏡(Zeiss社製)で観察した。
歯胚組織のまま培養した結果を図3に、本発明の製造方法に従って培養した結果を図4〜7に示す。
【0063】
摘出された歯胚のまま腎皮膜下移植を行った比較例1では、図3に示されるように、歯胚を構成している間葉系細胞と上皮系細胞との細胞間相互作用が損なわれないため、上皮系細胞に由来するエナメル質、間葉系細胞に由来する象牙質と歯髄が形成されており、エナメル質及び象牙質を所定の位置に配置すると共に、歯先端部と歯根を有する歯が形成された。
【0064】
一方、図4〜6に示されるように、本発明に従って、歯胚から調製された単一細胞形態を用いた場合、即ち、歯胚上皮組織に歯胚間葉系細胞を組み合わせて再構成した場合(実施例1、図4及び図5参照)と、歯胚上皮系細胞に歯胚間葉組織を組み合わせて再構成した場合(実施例2、図6参照)には、それぞれ、内側に象牙質及び外側にエナメル質を有する特有の細胞配置を備えた歯を、11〜14日の期間で腎皮膜下移植により発生させることができた。ここで得られた歯は、歯胚をそのまま培養して得られた正常発生のもの(図3)と同様の歯を再構成できることが示された。
【0065】
更に、図4に示されるように、本再構成と腎皮膜下移植によって、移植後11日目には、外側のエナメル質、エナメル芽細胞、エナメル芽細胞、象牙質、象牙芽細胞が容易に認められた。歯根部分も、正常発生と変わらず、歯根部分の外周には歯槽骨も認められた。また、経時観察によれば、移植後3日目には象牙質、象牙芽細胞が容易に認められ、組織配置上、歯の特徴的構造の形成が開始されていた。また7日目には象牙質の蓄積と、象牙芽細胞、エナメル芽細胞も存在しており、その後、歯の発生が進行した(データ示さず)。
またゲルドロップ内に配置された直後には、細胞凝集塊を構成する細胞が顕微鏡下で単独で存在することが認められるが、1日の短期の培養によって、摘出した正常歯胚と同様に、細胞の結合が強固になり、ひとつのまとまりのある組織へと変化した。このことから、移植前の短期の培養が歯の形成に有効であることが示された。
【0066】
また、GFPマウス由来の間葉系細胞を用いた場合には内側の間葉細胞由来の歯髄細胞と象牙芽細胞に局在しており(図5)、一方、GFPマウス由来の上皮系細胞を用いた場合には外側のエナメル芽細胞に局在していることが示され、使用した細胞種と蛍光とが一致していた(図6)。従って、正常発生と同様に細胞相互作用が行われて、発生における細胞の方向性が損なわれずに組織の再構成が行われたことが明らかであった。
【0067】
なお、腎皮膜下での移植を適用せず、器官培養を継続した場合であっても、培養開始から経時的に培養した再構成歯胚は次第に大きくなり、移植後16日目には、象牙質、象牙芽細胞が容易に認められ、組織配置上、歯の特徴的構造の形成が認められた(データ示さず)。このような器官培養による構築は、一方を組織として用いた場合のみならず、上皮系細胞及び間葉系細胞双方を用いた場合であっても同様に認められた。
【0068】
また、歯胚上皮系細胞及び歯胚間葉系細胞を用いた場合(実施例3)では、図7に示されるように、いずれか一方を組織として用いた場合と同様に、象牙質及びエナメル質の存在を確認することができた。歯胚上皮系細胞及び歯胚間葉系細胞を用いた場合には、しばしば1個の再構成歯胚より複数個の方向性と構造を有した歯が発生することが認められ、発生後の歯芽を分離することにより複数個の歯を発生させられる可能性が示唆された。特に、歯胚間葉系細胞を先にゲルドロップ内に配置して、その後から歯胚上皮系細胞を押し当てて配置した場合には、エナメル質及び象牙質がそれぞれ外側及び内側に配置された特徴的な構造をより明確に構築することができ、より歯の形態をとりやすく、歯の形成に有利である可能性が示された(データ示さず)。
【0069】
なお本発明により上皮系細胞と間葉系細胞を配置し再構成した歯胚を器官培養することにより複数の歯胚及び/又は歯芽の形成がしばしば認められた。このことは、これらの複数の歯胚及び/又は歯芽を外科的に分離することにより、ひとつの再構成歯胚より複数の歯を発生させられる可能性が示唆された。
【0070】
一方、上皮組織のみ又は間葉組織のみで培養した比較例2の場合では、図8に示されるように、上述したような特定構造の歯を構成することができなかった。従って、本発明の方法では、細胞相互作用が行われて特定構造を有する組織が再構成されていることが示唆された。
また、低密度の細胞凝集塊を用いた比較例3の場合では、図9に示されるように、コラーゲンゲルドロップ中での培養において既に単一細胞が分散し、腎臓皮膜下に移植しても、歯としての特定構造を再構成しなかった。このことは、細胞相互作用によって歯を再構成するには、可能な限り高密度の細胞凝集塊を用いることが好ましいことが示唆された。
更に、歯胚上皮系細胞と歯胚間葉系細胞とを事前に1対1で混合させ、高密度でこれら細胞を区画化することなく細胞凝集塊を形成させた比較例4の場合には、図10に示されるように、エナメル質や象牙質の硬組織は認められなかった。このことは、歯胚上皮系細胞の集合体と歯胚間葉系細胞の集合体とを別個に調製した後、区画化して細胞凝集塊を形成させることが重要であることが示された。
【0071】
(4)歯周組織の確認
次に、本方法によって形成された歯が歯周組織を備えているか確認した。歯周組織の確認は、上記のHE染色像による観察に加えて、下記のようなin situ ハイブリダイゼーションを用いた。
腎皮膜下移植した再構成歯胚を移植14日目に摘出し、常法によりパラフィン包埋して10μm厚に切片化した。キシレンとエタノール希釈系列に切片を浸してパラフィンを除去した。10μg/ml Protease K (Nacalai tesque, kyoto, Japan) in PBS(-)で3分間処理し、4%パラホルムアルデヒド (Nacalai tesque) リン酸緩衝液で15分間固定した。0.1% (v/v) TritonX-100 (Sigma) in PBS(-)で3分間処理し、PBS(−)で3分間洗浄した。0.2N HCl (Wako) で10分間処理し、PBS(−)とDEPC(ジエチルピロカーボネート)waterでそれぞれ5分間洗浄した。1.5% (v/v) トリエタノールアミン(nacalai tesque), 0.33N HCl (Wako), 0.25% (v/v) 無水酢酸 (Nacalai tesque) in DEPC waterで10分間処理した後、2×SSCで10分間、2回洗浄した。Periostin (Genbank accession no. NM#015784) プローブは、センスプライマー (-7; ggctgaagatggttcctctc、配列番号1)とアンチセンスプライマー (573; gtacattgaaggaataacca、配列番号2)を用いてPCRにより取得したcDNA断片を、DIG標識して用いた。定法に従ってin situ ハイブリダイゼーションを行い、抗DIG−AP Fabフラグメント(Roche)とNBT/BCIP Stock Solution(Roche)で発色させ、Axio Imager A.1 (Zeiss)とAxioCam MRc5 (Zeiss)で解析を行なった。
【0072】
上記実施例における歯周組織を、歯周組織の有無について詳細に観察したところ、実施例1〜3のいずれにおいても、図4から図7に示したように、移植後14日目の歯の周囲には、正常な歯胚を移植した比較例1(図3参照)と同様の歯槽骨が形成されていた。
【0073】
さらに図11で示されるように、単一細胞と組織との組み合わせの別に拘らず、実施例1〜3のいずれにおいても、得られた歯の周囲には、正常な歯胚を移植した比較例1と同様の歯槽骨及び歯根膜が形成された。また実施例2の歯において確認したところ、図12で示されるように、HE染色により歯根膜形成が認められた領域には、歯根膜特異的な遺伝子であるぺリオスチンmRNAの発現が認められた(実施例1及び3において同様)。
このことは、実施例1〜3により作製した歯胚は、歯槽骨や歯根膜といった歯周組織を形成することができることを示している。
【0074】
[実施例4及び5、比較例5]
上記と同様にして配置工程を終了した後に、培養工程として、一般に用いられる器官培養を14日間にわたって継続して実施し、歯の発生を解析した。歯胚由来上皮組織と間葉細胞との組み合わせを実施例4とし、歯胚由来上皮細胞と間葉細胞との組み合わせを実施例5とした。なお、正常歯胚を用いて器官培養した例を比較例5とした。結果を図13に示す。
図13に示されるように、実施例4及び5のいずれも、培養期間が長くなるにつれて歯胚の大きさが大きくなり、腎皮膜下移植を実施した場合とほぼ同様の特徴的な構造を有した歯の発生が認められた。
また実施例4及び5のいずれにおいても、器官培養によって得られた歯は、複数の歯で構成された集合体(例えば、間葉細胞と上皮細胞とを用いた場合には6個;図13最下段)を形成していた。
【0075】
[実施例6及び7、比較例6]
実施例5で示されるように、再構成歯胚から得られた歯は、1個の再構成歯胚から間葉細胞及び上皮細胞を調製したにも拘わらず、複数の歯へ再誘導された。このように再構成歯胚で同時に再誘導された個々の歯が1本の歯として成長しうるかどうかを解析した。
【0076】
(1)再構成歯胚から発生する複数の歯胚の分離と歯への発生能力の解析
1)複数発生させた歯胚の個別分離と器官培養
実施例3と同様にして得られた再構成歯胚を、2〜5日間器官培養し、1つの再構成歯胚から複数の歯胚を発生させた。その後、歯胚が複数発生している再構成歯胚を、器官培養2〜5日目に実体顕微鏡下で注射針とピンセットを用いて外科的に1個の歯胚に分離した。
シリコングリースを塗布したペトリディッシュに、実施例1と同様にして、Cellmatrix type I-A (Nitta gelatin, Osaka, Japan) を30μL滴下してゲルドロップを作製した。このゲルドロップに、上記個別分離歯胚を入れ、CO2インキュベーターに10分間静置してCellmatrix type I-A (Nitta Gelatin)を固形化し、10%FCS(JRH) 添加DMEM(Sigma)にセルカルチャーインサート(ポアサイズが0.4ミクロンのPETメンブレン;BD, Franklin Lakes, NJ)が接するようにセットした培養容器のセルカルチャーインサートの膜上に、個別分離歯胚を支持担体である周囲のゲルと共に移して、18−24時間、器官培養した。
2)組織学的解析
培養後、周囲のゲルごと8週齢C57BL/6の腎皮膜下に移植して14日目に周囲の腎組織ごと個別分離歯胚を摘出した。組織を、4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で6時間固定した後、常法によりパラフィン包埋して、10μmの切片を作製した。組織学的解析のためには常法に従い、ヘマトキシリン−エオジン染色を行った。
【0077】
3)結果
分離した歯胚を腎臓皮膜下へ移植して14日間発生させ、組織学的に解析した結果を、図14に示した。図14に示されるように、移植した分離歯胚は、それぞれがエナメル質と象牙質、歯髄、歯冠、歯根という特徴を有する1本の「歯」に発生した。また、得られた歯の歯冠部にはエナメル質と象牙質が存在すること(図14中段及び下段におけるa参照)及び歯根部では歯根の開口部が存在すること(図14中段におけるb参照)がそれぞれ確認できた。
これらのことは、正常発生した歯と同様に、歯冠部においてエナメル芽細胞と象牙芽細胞が存在し、また正常発生した歯と同一の形態を有することを示しており、歯の集合体として同時に発生した個々の歯が、いずれも正常発生した歯と細胞配置及び方向性において同一であることを示していた。
【0078】
(2)再構成歯胚の口腔内移植による歯の発生
1)個別分離歯胚と個別分離歯牙の作製
上記と同様にして、器官培養2〜5日目において歯胚が複数発生している再構成歯胚から、個別に分離した歯胚を作製した。一方、腎皮膜下移植して14日後に摘出した、再構成歯胚より複数発生した歯を、実体顕微鏡下で注射針とピンセットを用いて外科的に個別に分離した。
個別分離歯胚の場合、前記同様に、シリコングリースを塗布したペトリディッシュに、2.4mg/mlの濃度に上記培養液で調製したCellmatrix type I-A (Nitta gelatin, Osaka, Japan) を30μL滴下してゲルドロップを作製した。このゲルドロップに、上記個別分離歯胚を入れ、CO2インキュベーターに10分間静置してCellmatrix type I-A (Nitta Gelatin)を固化した。次いで、10%FCS(JRH) 添加DMEM(Sigma)にセルカルチャーインサート(ポアサイズが0.4ミクロンのPETメンブレン;BD, Franklin Lakes, NJ)が接するようにセットした培養容器のセルカルチャーインサートの膜上に、支持担体である周囲のゲルと共に個別分離歯胚を移して、18−24時間、器官培養した。
培養後、周囲のゲルを注射針とピンセットで外科的に除去し、8週齢C57BL/6の下顎切歯抜歯孔に移植し、実施例6とした。一方、腎臓皮膜下へ移植した再構成歯胚より個別に分離した歯の場合には、分離後ゲルに包まず、そのまま8週齢C57BL/6の下顎切歯抜歯孔に移植し、実施例7とした。
【0079】
2)切歯の抜歯と口腔内移植の方法
口腔内移植の3日前に、ジエチルエーテルで吸引麻酔した8週齢C57BL/6に、5mg/mlのペントバルビタールナトリウムを含む生理食塩水を、体重20gに対して200μlの割合で腹腔注射した。痛覚の麻痺したマウスの下顎切歯萌出部付近の下顎骨をメスで剥離し、顎骨に埋まっている切歯先端部を露出させた。ピンセットを用いて下顎から切歯を抜歯し、血液を脱脂綿で拭き取り止血した。食物摂取のために、抜歯は片側の下顎切歯のみとし、粉末状に砕いた飼育用の餌を毎日与えた。
【0080】
上記方法により抜歯した8週齢C57BL/6をジエチルエーテルで吸引麻酔し、5mg/mlのペントバルビタールナトリウムを含む生理食塩水を、体重20gに対して200μlの割合で腹腔注射した。痛覚の麻痺したマウスを、抜歯した側の顎を上にして解剖台に固定し、抜歯孔歯根部領域の頭部横面より皮膚と筋肉層を切開し、下顎骨を露出させた。メスを用いて抜歯孔歯根部領域を覆う下顎骨に、個別分離歯胚の場合は直径1mm、個別分離歯牙の場合は直径2mmの穴をあけ、そこから個別分離歯胚と個別分離歯牙を抜歯孔歯根部領域に移植した。移植する個別分離歯胚と個別分離歯の向きは、正常発生の歯の方向と一致させ、また成体マウス下顎切歯で見られるエナメル質、歯根膜の方向性とも一致させた。切開した筋肉層と皮膚を常法により縫合した。口腔内移植した8週齢C57BL/6には粉末状に砕いた飼育用の餌を毎日与えた。
なお、切歯抜歯後に移植をしなかったマウスを比較例6とした。
【0081】
3)組織学的解析
口腔内移植して14日目に、個別分離歯胚、並びに個別分離歯を移植した下顎骨を摘出した。4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で16時間固定した後、22.5%のギ酸で72時間脱灰し、常法によりパラフィン包埋して、10μmの切片を作製した。脱灰液は下顎骨2つにつき50mlとし、脱灰48時間目に全量を交換した。組織学的解析のためには常法に従い、ヘマトキシリン−エオジン染色を行った。
個別分離歯胚、並びに個別分離歯牙にC57BL/6−TgN(act−EGFP)OsbC14-Y01-FM131マウス由来の歯胚を用いた場合は、4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で16時間固定した後、22.5%のギ酸で72時間脱灰し、常法によりOCT compound(Miles Inc., Naperville, IL)に包埋して、クリオスタット (Leica, Wetzlar, Germany)で10μmの切片を作製し、蛍光顕微鏡(Zeiss社製)で観察した。
【0082】
4)結果
切歯抜歯後に移植をしなかった比較例6のマウスの抜歯後14日後の組織像を図15に、個別分離した歯胚(実施例6)、並びに歯(実施例7)を、切歯抜歯孔へ移植して14日後の組織像を、それぞれ図16及び図17に示した。
図15に示すように、比較例6の非移植マウスでは、切歯抜歯孔の移植部位に該当する位置に浸潤した細胞と発生した骨のみが認められ、硬組織を有する歯は認められなかった。
これに対して、図16に示すように、実施例6として個別分離した歯胚を移植した当該部位には、エナメル質を外側に、象牙質を内側に有する歯が発生した。発生した歯は、歯の先端と歯根が認められ、歯の方向性が存在し、正常発生する歯と同一の構造を有していた。
また、腎臓皮膜下へ移植して発生させた後に分離した歯を抜歯孔へ移植した実施例7のマウスでは、図17に示すように、当該部位にエナメル質を外側に、象牙質を内側に有する歯が発生した。発生した歯は、歯の先端と歯根を有しており、歯髄内部には血管が認められると共に、歯の周囲には歯根膜と歯槽骨を有しており、正常発生する歯と同一の構造を有していた。
【0083】
[実施例8及び比較例7]
(1)毛胞の再構成
本発明において開発した技術が、歯胚の発生に寄与するのみならず、他の器官形成にも有用な技術であることを示すために、毛胞の再構成を実施した。この実験モデルとしてマウスを用いた。
1)細胞の分離方法
C57BL/6Nマウス(日本クレアから購入)又はGreen Fluorescence Protein (EGFP) トランスジェニックマウスであるC57BL/6−TgN(act-EGFP)OsbC14-Y01-FM131(理研バイオリソースセンター)の胎齢14.5日、胚仔から上顎髭毛胞組織を顕微鏡下で常法により摘出した。上顎髭毛胞組織をCa2+,Mg2+不含リン酸緩衝液(PBS(−))で洗浄し、PBS(−)に最終濃度1.2U/mlのDispase II (Roche, Mannheim, Germany)を添加した酵素液で室温にて60分間処理した後、10%FCS(JRH Biosciences, Lenexa, KS)を添加したDMEM(Sigma, St. Louis, MO)で3回洗浄した。さらにDNase I溶液 (Takara, Siga, Japan)を最終濃度70U/mlになるよう添加し毛胞組織を分散させ、25G注射針 (Terumo, Tokyo, Japan)を用いて外科的に毛胞上皮組織と毛胞間葉組織を分離した。
【0084】
毛胞上皮系細胞は、上記により得られた毛胞上皮組織をPBS(−)で3回洗浄し、PBS(−)に最終濃度100U/mlのCollagenase I(Worthington, Lakewood, NJ)を溶解した酵素液で、37℃にて20分間の処理を2回繰り返した。遠心分離によって沈殿回収した細胞を、さらに0.25% Trypsin (Sigma)−PBS(−)で37℃、5分間処理した。10%FCS添加DMEMで、細胞を3回洗浄した後、細胞に最終濃度70U/mlのDNase I溶液を添加して、ピペッティングにより単一の毛胞上皮系細胞を得た。
一方、毛胞間葉系細胞は、毛胞間葉組織をPBS(−)で3回洗浄し、0.25%Trypsin (Sigma)、50U/mlのCollagenase I (Worthington)を含むPBS(−)で処理した。70U/mlのDNase I (Takara)を添加して、ピペッティングにより単一の毛胞間葉系細胞を得た。
【0085】
2)再構成毛胞の作製方法
次に、上記で調製された毛胞上皮系細胞及び毛胞間葉系細胞を用いた以外は実施例1と同様にして、再構成毛胞作製に用いる細胞を準備し、コラーゲンゲルドロップにそれぞれ0.2−0.3μLアプライしてそれぞれの細胞凝集塊を作製し、両者が互いに密接するようにして再構成毛胞を作製した。
3)腎皮膜下移植
ゲル中で作製した再構成毛胞は、実施例1と同様にして、培養容器のセルカルチャーインサートの膜上に、細胞塊を支持担体である周囲のゲルと共に移して、18−48時間、器官培養した。培養後、周囲のゲルごと8週齢C57BL/6の腎皮膜下に移植して異所的な毛の発生を進行させ、毛の発生を解析した。
一方、比較例7は、毛胞上皮系細胞及び毛胞間葉系細胞を用いた以外は、比較例4と同様にして、生体外で2種類の細胞を混合して1つの細胞凝集体を作製し、実施例8と同様にして腎皮膜下に移植した。
【0086】
4)組織学的解析
腎皮膜下に移植の場合には、移植後14日目に周囲の腎組織ごと再構成毛胞を摘出した。器官培養の場合には、同様の日数の培養後、細胞凝集塊を回収した。組織、あるいは細胞凝集塊を、4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で6時間固定した後、常法によりパラフィン包埋して、10μmの切片を作製した。組織学的解析のためには常法に従い、ヘマトキシリン−エオジン染色を行った。
【0087】
5)結果
実施例8に係る毛胞を、同系マウスの腎臓皮膜下へ移植した結果を図18に示す。図18に示されるように、再構成毛胞を移植すると初期毛胞を構成する上皮細胞と間葉細胞との細胞間相互作用が損なわれないため、毛胞の縦断面(切片A)では上皮細胞に由来する毛包や内毛根鞘、外毛根鞘、並びに間葉細胞に由来する毛乳頭の細胞が認められた。さらに切片Aでは、毛は組織染色時に溶解するものの、完全に溶解していない毛が認められた。横断面(切片B)では、上皮細胞が毛穴を取り囲むように、内毛根鞘や外毛根鞘等の細胞配置が認められた。毛は組織染色時に溶解するため、毛の溶解残存物が認められた。
また、図19に示されるように、再構成毛胞を腎臓皮膜下へ移植して14日後に摘出した移植片には、毛胞から生えた毛が認められた。
一方、上皮、並びに間葉細胞をあらかじめ混合して、支持担体中で再構成した比較例7の場合には、図20に示されるように、毛胞組織は認められなかった。
従って、実施例8によれば、実施例1〜7の歯胚を用いて歯を作製する場合と同様に、毛胞組織から毛を作製することができた。
【0088】
このように本発明によれば、歯や毛に限らず、上皮系細胞と間葉系細胞との細胞間相互作用が有効になされるように上皮組織・細胞及び間葉組織・細胞を別個に調製し、これらを区画化して高密度に接触させて培養することによって、細胞の分化を効果的に誘導することができ、組織に特有の細胞配置と方向性を備えた組織を作製することができることを示している。
従って、本発明によれば、細胞間相互作用を損なうことなく多種の単一細胞から組織を再構築できるので、細胞相互作用によって構築される組織を人為的に作製することができる。
【符号の説明】
【0089】
10 ゲルパック(支持担体)
12 細胞凝集塊(第1の細胞集合体)
14 細胞凝集塊(第2の細胞集合体)
16 ピペットチップ
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯の製造方法、歯の集合体及び組織の製造方法に関し、特に細胞を用いた歯の製造方法、歯の集合体及び組織の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯は、最外層にエナメル質、その内層に象牙質という硬組織を有し、さらにその内側に象牙質を産生する象牙芽細胞、中心部に歯髄を有し、齲蝕や歯周病等によって失われることがある器官である。一般に歯の損失については、生命に対する危惧が少ないと考えられているため、現在は主として入れ歯やインプラントにより補うことが多い。しかしながら、歯の有無は外見や食べ物の味覚に大きく影響し、また健康維持や質の高い生活を維持するという観点から歯の再生技術の開発への関心が高まって来た。
歯は、胎児期の発生過程の誘導によって形成され、複数の細胞種によって構築された機能単位であり、器官や臓器と同じであると考えられている。そのため歯は、成体内の造血幹細胞や間葉系幹細胞のような幹細胞から細胞種が発生する幹細胞システムによって発生するのではなく、現在、再生医療によって進められている幹細胞の移入のみ(幹細胞移入療法)では歯を再生することができない。また、歯の発生過程で特異的に発現する遺伝子を同定し、歯胚を人為的に誘導することによる歯の再生も考えられているが、遺伝子を特定しただけでは、歯の再生を完全に誘導することができない。
そこで、近年、単離された歯胚細胞を用いた歯胚を再構成させて、この再構成歯胚を移植することによる歯の再生を中心とした検討が行われている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、歯胚から単離された上皮系細胞や間葉系の歯嚢細胞などの細胞を、生体吸収性の担体と共にラットの腹腔内に移植することで歯様の組織が再生されることが開示されている。
また、非特許文献2には、継代された培養細胞による上皮−間葉相互作用が実現可能な系とし、コラーゲンゲルによる共培養が有効であると記載されている。
歯胚の再生方法としては、例えば、特許文献1には、歯胚細胞を、線維芽細胞増殖因子等の生理活性物質の存在下で培養することが記載されている。また、特許文献2には、歯胚細胞及びこれらの細胞に分化可能な細胞のうち少なくとも1種類を、フィブリンを含む担体と一緒に培養することが提案されており、ここでフィブリンを含む担体は、歯胚の目的形状のものを使用して、特有の形態を有する「歯」を形成すると記載されている。
【0004】
特許文献3及び4には、6ヶ月のブタの下顎骨から、象牙質を形成する歯髄由来の間葉系細胞とエナメル形成に寄与する上皮系細胞とを含む歯胚との細胞混合物を、ポリグリコール酸−ポリ酢酸共重合体からなる生分解性ポリマーを固化させた担体(Scafford)に播種して、動物の体内へ移植し、歯を形成する方法が開示されている。ここで担体は、歯胚の目的形状のものを使用して、特有の形態を有する「歯」を形成すると記載されている。
一方、特許文献5には、骨の欠損又は損傷を有する患者を治療するための歯の再生方法を開示している。この方法によれば、ポリグリコール酸メッシュ担体に間葉系細胞を播種した後に、上皮系細胞をコラーゲンと共に重層する又は上皮細胞シートで包むことによって、骨が形成される。なお、特許文献5では、骨の形状を構築するために担体を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−331557号公報
【特許文献2】特開2004−357567号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0119180号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0219489号公報
【特許文献5】国際公開第2005/014070号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Dent. Res., 2002, Vol.81(10), pp.695-700
【非特許文献2】「歯および歯胚由来細胞を用いた再生医療とその可能性」、再生医療 日本再生医療学会雑誌、2005年、Vol.4(1), pp.79-83
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、組織として機能するには、組織を構成する複数種の細胞が適切な相対位置に配置(細胞配置)され、組織としての方向性を有することが必須である。組織、例えば歯は、歯胚に由来する上皮系細胞と頭部神経堤細胞に由来する間葉系細胞が分化発生過程で相互作用して発生するひとつの「臓器」や「器官」であり、歯胚をそのまま移植すれば正常の歯を発生可能であるが、複数種類の細胞で構成されている歯胚細胞を、単に分離して培養しただけでは、歯という機能単位としての特徴的な細胞配置及び方向性を有する歯を再生することができない。
【0008】
上記技術はいずれも細胞や細胞因子等を用いて歯胚の再構築を行っているが、歯としての充分な機能を発現しうる特徴的な細胞配置や方向性を再現するものではない。
また、組織を構成している複数の細胞を単に単離して培養しただけでは、特有の細胞配置を備えた組織を再構築することが困難であった。
【0009】
従って、本発明の目的は、特有の細胞配置を保持した歯の製造方法及びこの方法によって製造された歯の集合体並びに歯周組織の製造方法を提供することである。
また、本発明の他の目的は、組織特有の細胞配置を保持した組織の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の歯の製造方法は、支持担体の内部に、少なくともいずれか一方が歯胚由来である間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること、前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養すること、を含むことを特徴としている。
【0011】
本発明の歯周組織の製造方法は、支持担体の内部に、少なくともいずれか一方が歯胚由来である間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること、前記第1及び第2の細胞集合体を、歯とこれに連続した歯周組織とを得るまで培養すること、前記培養によって得られた歯周組織を単離すること、を含むことを特徴としている。
【0012】
支持担体の内部に、少なくともいずれか一方が歯胚由来である間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること、前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養すること、によって得られた歯の集合体であることを特徴としている。
【0013】
前記両製造方法又は歯の集合体では、前記第1の細胞集合体及び第2の細胞集合体が、共に歯胚由来であることが好ましい。
またここで、前記第1の細胞集合体及び第2の細胞集合体が、共に単一細胞集合物であってもよい。
【0014】
また本発明の組織の製造方法は、間葉系細胞と上皮系細胞との相互作用により構築される組織の製造方法であって、支持担体の内部に、間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること、前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養すること、を含むことを特徴としている。
【0015】
上記組織の製造方法において、前記間葉系細胞及び上皮系細胞の少なくとも一方が目的となる組織に由来するものであることが好ましい。
また、上記組織は、歯、毛髪、腎臓、肺、肝臓からなる群より選択されたものであることを特徴としている。
【0016】
本発明では、間葉系細胞又は上皮系細胞のみから実質的になる細胞集合体を、互いに接触させて支持担体の内部に配置し、培養するので、細胞集合体同士が、他方の細胞集合体を構成する細胞と混じり合うことなく、支持担体中で互いに接触した状態を維持しながら成育する。これにより、組織を形成する際に必要な間葉系細胞と上皮系細胞との良好な相互作用を効果的に再現することができる。
この結果、目的とする組織に特有の細胞配置を有する組織を作製することができる。また、間葉系細胞及び上皮系細胞の少なくとも一方を歯胚由来とすることにより、外側にエナメル質を有し内側に象牙質を有するという特有の細胞配置を備えた歯及び歯の集合体を作製することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、特有の細胞配置を保持した歯の製造方法及びこの方法によって製造された歯の集合体並びに歯周組織の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、組織特有の細胞配置を保持した組織の製造方法を提供するができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】歯胚の形成を模式的に表した概念図である。
【図2】(A)〜(D)は、本発明の実施例にかかる、歯胚由来間葉系細胞と上皮系細胞を用いた歯胚再構築の手順を概念的に示した図である。
【図3】本発明の比較例1にかかる正常歯胚組織の位相差顕微鏡像及び染色像と、その正常歯胚を腎皮膜下移植して発生させた歯の経時的な染色像である。
【図4】本発明の実施例1にかかる歯胚由来上皮組織と歯胚由来間葉系細胞による再構成歯胚の位相差顕微鏡像と、その再構成歯胚を腎皮膜下移植して発生させた歯の経時的な染色像である。
【図5】本発明の実施例1にかかる歯胚由来上皮組織とGFPマウス由来歯胚由来間葉系細胞による再構成歯胚の位相差顕微鏡像と、その再構成歯胚を腎皮膜下移植して発生させた歯の14日目の染色像である。
【図6】本発明の実施例2にかかるGFPマウス由来歯胚由来上皮系細胞と歯胚由来間葉組織による再構成歯胚の位相差顕微鏡像と、その再構成歯胚を腎皮膜下移植して発生させた歯の14日目の染色像である。
【図7】本発明の実施例3にかかる歯胚由来上皮系細胞と歯胚由来間葉系細胞による再構成歯胚の位相差顕微鏡像と、その再構成歯胚を腎皮膜下移植して発生させた歯の14日目の染色像である。
【図8】本発明の比較例2にかかる歯胚由来上皮組織及び歯胚由来間葉組織の位相差顕微鏡像と、そのそれぞれを単独で腎皮膜下移植したときの14日目の染色像である。
【図9】本発明の比較例3にかかる歯胚由来上皮組織と歯胚由来間葉系細胞を用いた低密度再構成歯胚の位相差顕微鏡像と、その低密度再構成歯胚を腎皮膜下移植したときの20日目の染色像である。
【図10】本発明の比較例4にかかる歯胚由来上皮組織と歯胚由来間葉系細胞とを区画化することなく高密度に再構成したときの再構成歯胚の位相差顕微鏡像と、その低密度再構成歯胚を腎皮膜下移植したときの20日目の染色像である。
【図11】本発明の実施例1〜3にかかる再構成歯胚より発生させた歯の周囲にできた歯周組織である歯槽骨と歯根膜の染色像である。
【図12】本発明の実施例2(移植後17日目)と比較例1(移植後14日目)にかかる再構成歯胚より発生させた歯の周囲にできた歯周組織である歯根膜に特異的なぺリオスチンmRNAを検出した染色像である。
【図13】本発明の実施例4及び5と比較例5にかかる再構成歯胚作製後に培養工程を延長して、器官培養により発生させた歯の位相差顕微鏡像と染色像である。
【図14】本発明の実施例6にかかる歯胚由来上皮系細胞と歯胚由来間葉系細胞による再構成歯胚の位相差顕微鏡像と、その再構成歯胚を腎皮膜下移植して発生させた歯の14日目の染色像である。
【図15】(A)は本発明の比較例6にかかる非移植マウスの抜歯後14日目の染色像、(B)は(A)中の枠内拡大図である。
【図16】本発明の実施例6にかかる個別分離した歯胚の口腔内移植後14日目の染色像である。
【図17】本発明の実施例7にかかる個別分離した歯の口腔内移植後14日目の染色像である
【図18】本発明の実施例8にかかる毛胞組織由来上皮系細胞と毛胞組織由来間葉系細胞による再構成毛胞の位相差顕微鏡像と、その再構成毛胞を腎皮膜下移植して発生させた毛の14日目の染色像である。
【図19】本発明の実施例8にかかる毛胞組織由来上皮系細胞と毛胞組織由来間葉系細胞による再構成毛胞を腎皮膜下移植して発生させた毛胞の14日目の実態顕微鏡写真像である。
【図20】本発明の比較例7にかかる毛胞組織由来上皮系細胞と毛胞組織由来間葉系細胞による再構成毛胞の位相差顕微鏡像と、その再構成毛胞を腎皮膜下移植して発生させた毛胞の14日目の染色像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の歯の製造方法は、支持担体の内部に、少なくともいずれか一方が歯胚由来である間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること(配置工程)、前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養すること(培養工程)、を含むものである。
【0020】
本製造方法では、少なくともいずれか一方が歯胚由来である間葉系細胞と上皮系細胞とを細胞集合体として、支持担体の内部で接触させて成育させるので、緊密な接触状態によって細胞間相互作用を効果的に再現することができ、内側に象牙質、外側にエナメル質という歯に特有の細胞配置を有する歯を製造することができる。
【0021】
本発明において、「歯」とは、内側に象牙質及び外側にエナメル質の層を連続して備えた組織をいい、好ましくは、これらの層構造を備え且つ歯冠や歯根を有する方向性を備えた組織をいう。象牙質及びエナメル質は、当業者には、組織染色などによって形態的に容易に特定することができる。また、エナメル質は、エナメル芽細胞の存在によって特定することができ、エナメル芽細胞の存在は、アメロジェニンの有無によって確認することができる。一方、象牙質は、象牙芽細胞の存在によって特定することができ、象牙質芽細胞の存在は、デンチンシアロプロテインの有無によって確認することができる。アメロジェニン及びデンチンシアロプロテインの確認はこの分野で周知の方法によって容易に実施することができ、例えば、in situ ハイブリダイゼーション、抗体染色等をあげることができる。
また、歯の方向性は、歯冠や歯根の配置によって特定することができる。歯冠や歯根は、形状や組織染色などに基づいて目視にて確認することができる。
【0022】
また本発明において「歯周組織」とは、歯の主として外層の形成された歯槽骨及び歯根膜をいう。歯槽骨及び歯根膜は、当業者には、組織染色などによって形態的に容易に特定することができる。
なお、本発明において「間葉系細胞」とは、間葉組織由来の細胞を意味し、「上皮系細胞」とは上皮組織由来の細胞を意味する。
【0023】
本発明において「歯胚」及び「歯芽」は、後述する発生段階に基づいて区別されたものに特に言及する場合に用いられる表現である。この場合の「歯胚」とは、将来歯になることが決定付けられた歯の初期胚であり、歯の発生ステージで一般的に用いられる蕾状期(Bud stage)から鐘状期(Bell stage)までの段階であり、特に歯の硬組織としての特徴である象牙質、エナメル質の蓄積が認められない組織であり、「歯芽」とは本発明で用いられる「歯胚」の段階移行の、歯の硬組織の特徴である象牙質、エナメル質の蓄積が始まった段階から歯が歯肉から萌芽して一般的に歯としての機能を発現する前の段階の組織をいう。
【0024】
歯胚は、図1に示されるように個体発生の過程で、蕾状期、帽状期、鐘状前期及び後期の各ステージを経て行われる。ここで、蕾状期では、上皮系細胞が間葉系細胞を包むように陥入し(図1(A)及び(B)参照)、鐘状前期及び鐘状後期に至ると、上皮系細胞部分が外側のエナメル質となり、間葉系細胞部分が内部に象牙質を形成するようになる(図1(C)及び(D)参照)。従って、上皮系細胞と間葉系細胞との細胞間相互作用によって歯胚が形成する。
本発明における間葉系細胞及び上皮系細胞は、歯胚を形成する又は形成する可能性がある上記蕾状期から鐘状後期までのもの(以下、単に「歯胚」という)であればよく、細胞の分化段階の幼若性と均質性の観点から蕾状期から帽状期からのものであることが好ましい。
【0025】
また、「細胞集合体」とは、細胞が密集した状態をいい、組織の状態であっても、単一細胞の状態であってもよい。また「実質的になる」とは、対象となる細胞以外のものをできるだけ含まないことを意味する。各々の細胞集合体は、組織自体若しくはその一部、又は単一細胞の集合体とすることができるため、いずれか一方が単一細胞で構成された細胞集合体であってもよく、共に単一細胞で構成された細胞集合体であってもよいが、本発明によって組織の再構成を効率よく達成するためには、共に単一細胞で構成されていることが好ましい。
第1の細胞集合体第2の細胞集合体は、いずれが上皮系細胞及び間葉系細胞であってもよく、この細胞集合体を構成する細胞の数は、動物の種類や、支持担体の種類、硬さ及び大きさによって異なるが、細胞集合体1個あたり、一般に101〜108個、好ましくは103〜108個とすることができる。
【0026】
配置工程では、支持担体の内部に、第1の細胞集合体と第2の細胞集合体とを接触させて配置する。
本発明の製造方法における配置工程では、上記第1及び第2の細胞集合体を、細胞の接触状態を保持可能な支持担体の内部に配置するので、それぞれの細胞集合体を構成する細胞が、他方の細胞集合体を構成する細胞と混じり合うことがない。このように配置工程では、各細胞集合体を混合することなく配置するので、細胞集合体の間に境界線が形成される。このような配置形態を、本明細書中では適宜「区画化」と表現する。
【0027】
ここで、第1の細胞集合体と第2の細胞集合体は、間葉系細胞及び上皮系細胞から実質的に構成されるように、別個の調製工程(第1の細胞調製工程及び第2の細胞調製工程)によって調製される。
本製造方法で用いられる間葉系細胞及び上皮系細胞は、生体内での細胞配置を再現して特有の構造及び方向性を有する歯を効果的に形成するために、少なくともいずれか一方が歯胚に由来するものであればよいが、確実に歯を形成させるためには、間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれもが共に歯胚由来であることが最も好ましい。
【0028】
歯胚以外に由来する間葉系細胞としては、生体内の他の間葉系組織に由来する細胞であり、好ましくは、血液細胞を含まない骨髄細胞や間葉系幹細胞、さらに好ましくは口腔内間葉系細胞や顎骨の内部の骨髄細胞、頭部神経堤細胞に由来する間葉系細胞、前記間葉系細胞を生み出しうる間葉系前駆細胞やその幹細胞等を挙げることができる。
また、歯胚以外に由来する上皮系細胞としては、生体内の他の上皮系組織に由来する細胞であり、好ましくは、皮膚や口腔内の粘膜や歯肉の上皮系細胞、さらに好ましくは皮膚や粘膜などの分化した、例えば角化した、あるいは錯角化した上皮系細胞を生み出しうる未熟な上皮系前駆細胞、たとえば非角化上皮系細胞やその幹細胞等を挙げることができる。
【0029】
歯胚及び他の組織は、哺乳動物の霊長類、例えばヒト、サルなど、有蹄類、例えば豚、牛、馬など、小型哺乳類の齧歯類、例えばマウス、ラット、ウサギなどの種々の動物の顎骨等から採取することができる。歯胚及び組織の採取は、通常、組織の採取で用いられる条件をそのまま適用すればよく、無菌状態で取り出し、適当な保存液に保存すればよい。なお、ヒトの歯胚としては、第3大臼歯いわゆる親知らずの歯胚の他、胎児歯胚を挙げることができるが、自家組織の利用との観点から、親知らず歯胚を用いることが好ましい。
【0030】
この歯胚からの間葉系細胞及び上皮系細胞の調製は、まず周囲の組織から単離された歯胚を、形状に従って歯胚間葉組織及び歯胚上皮組織に分けることによって行われる。このとき、歯胚組織は顕微鏡下で構造的に見分けることが可能であるため、解剖用ハサミやピンセット等で切断、あるいは引き剥がすことによって容易に分離することができる。また、歯胚組織からの歯胚間葉組織及び歯胚上皮組織の分離は、その形状に従って注射針、タングステンニードル、ピンセット等で切断、あるいは引き剥がすことにより容易に行うことができる。
好ましくは、周囲組織から歯胚細胞を容易に分離するため及び/又は歯胚組織から上皮組織及び間葉組織を分離するために、酵素を用いてもよい。このような用途に用いられる酵素としては、ディスパーゼ、コラーゲナーゼ、トリプシン等を挙げることができる。
【0031】
間葉系細胞及び上皮系細胞は、それぞれ間葉組織及び上皮組織から単一細胞の状態に調製してもよい。調製工程では、単一の細胞に容易に分散可能とするために、酵素を用いてもよい。このような酵素としては、ディスパーゼ、コラーゲナーゼ、トリプシン等を挙げることができる。このとき、上皮組織からの上皮系細胞の分離にはコラーゲナーゼ処理後にトリプシン処理とDNase処理をすることが好ましい。他方、間葉組織からの間葉系細胞の分離には、コラーゲナーゼとトリプシンで同時に処理し、最終的にDNase処理をすることが好ましい。このときDNase処理を行うのは、酵素処理により一部の細胞がダメージをうけ、細胞膜が溶解したときに溶液中に放出されるDNAによって細胞が凝集し細胞の回収量が低下することすることを防ぐためである。
【0032】
なお、間葉系細胞及び上皮系細胞は、それぞれ充分な細胞数を得るために、配置工程に先立って予備的な培養を経たものであってもよい。間葉系細胞及び上皮系細胞の培養は、一般に動物細胞の培養に用いられる温度等の条件をそのまま用いることができる。
培養に用いられる培地としては、一般に動物細胞の培養に用いられる培地、例えばダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)等を用いることができ、細胞の増殖を促進するための血清を添加するか、あるいは血清に代替するものとして、例えばFGF、EGF、PDGF等の細胞増殖因子やトランスフェリン等の既知血清成分を添加してもよい。なお、血清を添加する場合の濃度は、そのときの培養状態によって適宜変更することができるが、通常10%とすることができる。細胞の培養には、通常の培養条件、例えば37℃の温度で5%CO2濃度のインキュベーター内での培養が適用される。また、適宜、ストレプトマイシン等の抗生物質を添加したものであってもよい。
【0033】
本発明で用いられる支持担体としては、細胞を内部で培養可能なものであればよく、好ましくは、上記培地との混合物である。このような支持担体としては、コラーゲン、フィブリン、ラミニン、細胞外マトリクス混合物、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)、セルマトリクス(商品名)、メビオールゲル(商品名)、マトリゲル(商品名)等を挙げることができる。これらの支持担体は、細胞を内部に配置したときに配置した位置をほぼ維持可能な程度な硬さを有するものであればよく、ゲル状、繊維状、固体状のものを挙げることができる。ここで、細胞の位置を維持可能な硬さとは、通常、三次元培養として適用される硬さ、即ち、細胞の配置を保持できると共に増殖による肥大化を阻害しない硬さであればよく、容易に決定することができる。例えば、コラーゲンの場合、最終濃度2.4mg/mlの濃度での使用が適切な硬さを提供する。
なお、ここで支持担体は、第1及び第2の細胞集合体が担体内部で成育することができる程度の厚みを有すればよく、目的とする組織の大きさ等によって適宜設定することができる。
【0034】
また、支持担体は、細胞の接触状態を保持可能であればよいが、ここでいう「接触状態」とは、各細胞集合体において、また細胞集合体間において、確実に細胞相互作用させるために高密度の状態であることが好ましい。
高密度の状態とは、組織を構成する際の密度と同等程度であることをいい、例えば、細胞集合体の場合、細胞配置時で5×107〜1×109個/ml、細胞の活性を損なわずに確実に細胞相互作用させるため好ましくは1×108〜1×109個/ml、最も好ましくは2×108〜8×108個/mlの密度をいう。このような細胞密度に細胞集合体を調製するには、細胞を遠心によって凝集させ沈殿化することが細胞の活性を損なわずに簡便に高密度化できるため好ましい。このような遠心は、細胞の生存を損ねない300〜1200×g、好ましくは500〜1000×gの遠心力に該当する回転数で3〜10分間おこなえばよい。300×gよりも低い遠心では、細胞の沈殿が不十分となって細胞密度が低くなる場合があり、一方、1200×gよりも高い遠心では細胞が損傷を受ける場合があるため、それぞれ好ましくない。
【0035】
遠心分離によって高密度の細胞を調製する場合には、通常、細胞遠心分離するために用いられるチューブ等の容器に単一細胞の懸濁液を調製した後に遠心分離し、沈殿物としての細胞を残して上清をできるだけ取り除けばよい。このときに使用されるチューブ等の容器は、上清を完全に除去する観点から、シリコーンコートされたものであることが好ましい。
【0036】
遠心分離による沈殿物とした場合には、沈殿物をそのまま支持担体の内部に配置すればよい。このとき、目的とする細胞以外の成分(例えば、培養液、緩衝液、支持担体等)は、細胞の容量と等量以下であることが好ましく、目的とする細胞以外の成分を含まないことを最も好ましい。このような高密度の細胞集合体では、細胞が緊密に接触しており、細胞間相互作用が効果的に発揮される。
【0037】
組織の状態で使用する場合には、酵素処理等を行って、対象となる細胞以外の結合組織等を除去することが好ましい。目的とする細胞以外の成分が多い場合、例えば細胞の容量と等量以上になると、細胞間相互作用が充分に発揮されないため、好ましくない。
【0038】
また、第1の細胞集合体と第2の細胞集合体の接触は密接であるほど好ましく、第1の細胞集合体に対して第2の細胞集合体を押し付けて配置することが特に好ましい。また、第1の細胞集合体と第2の細胞集合体との周囲を培養液、酸素透過を阻害しない固形物で包み込むことも、細胞集合体同士の接触を密接にするのに有効であり、粘度の異なる溶液に密度の高い細胞懸濁液を入れて配置させ、溶液をそのまま固化することも、細胞の接触の保持を容易に達成できるため、好ましい。このとき、第1の細胞集合体を歯胚間葉系細胞の単一細胞集合物とし、第2の細胞集合体を歯胚上皮組織とした場合には、歯胚上皮組織のエナメル結節が第1の細胞集合体に接触するように配置することが好ましいが、これに限定されない。
【0039】
支持担体がゲル状、あるいは溶液状等の場合には、配置工程の後に支持担体を固化する固化工程を設けてもよい。固化工程によって、支持担体内部に配置された細胞が支持担体内部に固定化される。支持担体の固化には、一般に用いた支持担体の固化条件をそのまま適用すればよい。例えば支持担体にコラーゲン等の固化可能な化合物を用いた場合には、通常適用される条件で、例えば培養温度下で数分〜数十分間静置させることにより、固化することができる。これにより、支持担体内部における細胞間の結合を固定化できると共に、強固なものにすることができる。
【0040】
本発明の製造方法における培養工程では、第1の細胞集合体及び第2の細胞集合体を支持担体内部で培養する。この培養工程では、互いに緊密に接触された第1の細胞集合体及び第2の細胞集合体によって細胞間相互作用が効果的に行われて、組織、即ち歯が再構成される。
培養工程は、支持担体によって第1の細胞集合体と第2の細胞集合体との接触状態が維持されて行われればよく、第1及び第2の細胞集合体を有する支持担体単独による培養であっても、他の動物細胞の存在下での培養であってもよい。
培養期間としては、支持担体内部に配置された細胞数及び細胞集合体の状態、更には培養工程の実施条件によって異なるが、一般に、1〜300日、エナメル質を外側に有し、象牙質を内側に有する歯を形成するためには、好ましくは1〜120日、迅速に提供可能とする観点からは、好ましくは1〜60日とすることができる。更に歯周組織を備えた歯とするためには、一般に1〜300日、好ましくは1〜60日とすることができる。
【0041】
支持担体のみによる培養とした場合には、動物細胞の培養に用いられる通常の条件下での培養とすることができる。ここでの培養は、一般に動物細胞での培養条件をそのまま適用すればよく、前述した条件をそのまま適用することができる。また培養には、哺乳動物由来の血清を添加してもよく、またこれらの細胞の増殖や分化に有効であることが既知の各種細胞因子を添加してもよい。このような細胞因子としては、FGF、BMP等を挙げることができる。
また、組織や細胞集合体のガス交換や栄養供給の観点から器官培養を用いることが好ましい。器官培養では、一般に、動物細胞の増殖に適した培地上に多孔性の膜をフロートさせ、その膜上に支持担体で包埋された細胞集合体を置いて培養を行う。ここで用いられる多孔性の膜には、0.3〜5μm程度の孔を多数有した膜であることが好ましく、具体的にはセルカルチャーインサート(商品名)、アイソポアフィルター(商品名)を挙げることができる。
【0042】
他の動物細胞の存在下での培養の場合には、動物細胞からの各種サイトカイン等の作用を受けて、早期に特有の細胞配置を有する歯を形成することができるので、好ましい。このような他の動物細胞の存在下での培養は、単離細胞や培養細胞を用いて生体外での培養によって行ってもよい。
【0043】
また、第1及び第2の細胞集合体を有する支持担体を生体へ移植して生体内で培養を行うことが、歯及び/又は歯周組織の形成を早期に行うことができるため、特に好ましい。この場合、支持担体と共に第1及び第2の細胞集合体が生体内へ移植される。
この用途に利用可能な動物は、哺乳動物、例えばヒト、豚、マウス等を好ましく挙げることができ、歯胚組織と同一の種に由来するものであることが更に好ましい。ヒト歯胚組織を移植する場合には、ヒト、又は免疫不全に改変したヒト以外の他の哺乳動物を用いることが好ましい。このような生体内成育に好適な生体部位としては、動物細胞の器官や組織をできる限り正常に発生させるためには、腎臓皮膜下、腸間膜、皮下移植等が好ましい。
移植による成育期間としては、移植時の大きさと発生させる歯の大きさによって異なるが、一般に、3〜400日とすることができる。例えば、腎臓皮膜下への移植期間は移植する培養物の大きさと再生させる歯の大きさによっても異なるが、歯の再生と移植先で発生させる歯の大きさの観点から7〜60日間であることが好ましい。
【0044】
生体への移植を行う前に、生体外での培養(前培養)を行ってもよい。この前培養によって細胞間の結合と第1及び第2の細胞集合体同士の結合を強固にして、細胞間相互作用をより強固にすることができるため好ましい。その結果、全体の成育期間を短縮することができる。
前培養の期間は短期であっても長期であってもよい。長期間、例えば3日以上、好ましくは7日以上とした場合には、歯胚から歯芽に発生させることができるので、移植後に歯ができるまでの期間を短縮することもできるため好ましい。前培養の期間としては、例えば腎臓皮膜下へ移植を行う場合の器官培養として、好ましくは1〜7日とすることが効率よく歯を再生するために好ましい。
【0045】
本発明の製造方法によって製造された歯は、内側に象牙質、外側にエナメル質という歯としての特有の細胞配置(構造)を有するものであり、また好ましくは、更に歯の先端(歯冠)と歯根という方向性も備えているものである。少なくともこのような特有の細胞配置、好ましくは細胞配置に加えて方向性を有することによって、歯としての機能も発揮できるものである。このため、歯の代替物として広く利用することが可能である。特に、自家の歯胚に由来した間葉系細胞及び上皮系細胞を用いた場合には、拒絶反応による問題を回避しつつ使用することができる。また一般に移植抗原が適合した他人の歯胚に由来する細胞を用いる場合にも拒絶反応による問題を回避することが可能である。
【0046】
さらに本発明では、培養期間を延長させることによって、歯そのものに加えて、歯を顎骨上で支持し、固定化する歯槽骨や歯根膜などの歯周組織も形成させることができる。この結果、移植後に実用可能な歯を提供することが可能である。
即ち、本発明の歯周組織の製造方法は、上記培養工程を、支持担体に内部で、前記第1及び第2の細胞集合体を、歯とこれに連続する歯周組織とを得るまで培養する工程(培養工程)とし、更に、前記培養によって得られた歯周組織を単離する工程と、を含むことを特徴としている。
この方法では、歯周組織が得られるまで延長された培養期間によって、歯に連続して歯周組織を形成させ、歯から分離することにより、歯周組織のみを得ることができる。歯周組織の単離は、培養工程の過程で形成された歯周組織と歯とを分離することができる如何なる方法によって行ってもよく、ピンセット等による分離や、酵素による部分消化等を挙げることができる。
なお上記歯の製造方法において説明した事項は、培養期間を制限しない限り、いずれも本歯周組織の製造方法にも適用することができる。
【0047】
本発明の上記歯の製造方法及び歯周組織の製造方法によって得られた歯及び歯周組織は、移植片として用いられる他、歯の発生過程を解明するための研究にも好ましく利用することができ、今後の歯に関連する組織発生のために有効なリサーチツールとして利用することができる。
なお、得られた歯又は歯周組織を移植片として用いる場合には、製造方法における培養工程を、他の動物細胞との接触がなく且つ全行程in vitroで調製することができる器官培養としたものであることが好ましい。
【0048】
本発明の歯の集合体は、上記歯の製造方法によって得られた歯特有の細胞配置を有する歯の集合体である。
このような歯の集合体は、歯特有の細胞配置を有する複数の歯で構成されているため、個々の歯を集合体から分離して、以下に述べるように1つの歯の移植片として用いることができる。このように本発明の歯の製造方法は、複数の歯を同時に作製した場合には、複数の歯で構成された歯の集合体としても歯を提供することができる。この結果、移植片としての歯を効率よく作製することができる。
【0049】
歯の集合体は、上記歯の製造方法をそのまま適用することにより、容易に得ることができる。特に、上記第1及び第2の細胞調製工程において第1及び第2の細胞集合体をそれぞれ調製し、配置工程において互いに接触させて支持担体内部に配置させるため、支持担体内部に、本来1つの歯を形成する細胞群から複数の歯を容易に形成することができる。
歯の集合体の製造方法において、第1及び第2の細胞集合体は、複数本の歯が発生するための歯胚の再誘導を容易にするために共に単一細胞により構成されていることが好ましい。なお、培養工程は、前記と同様に、器官培養であっても腎臓皮膜下での培養であってもよいが、得られた歯を移植片として用いる場合には、他の動物細胞との接触がなく且つ全行程in vitroで調製することができる器官培養とすることが好ましい。
【0050】
また、本発明には、歯の移植方法が含まれる。この移植方法では、上記歯の集合体を得る工程と、歯の集合体から個々の歯を分離する工程と、分離された歯を、移植部位での他の歯と同一の方向性となるように揃えて移植する工程とを含む。
これにより、歯の移植を、特有の細胞配置と方向性を備えた複数の歯を同時に得て、効率よく実施することができる。
【0051】
本発明による歯は、歯の欠損及び損傷を伴う各種症状、例えば、齲蝕、辺縁性歯周炎(歯槽膿漏)、歯周病による歯の欠損、事故などによる折損や脱落等の治療又は処置に適用することもできる。
即ち、本発明の治療方法は、本発明による製造方法によって得られた歯及び/又は歯周組織を、欠損及び/又は損傷部位へ移植することを含む。これにより、欠損及び/又は損傷部位の上記症状を治療及び/又は緩和することができる。
本発明の他の治療方法は、本発明における培養工程のみ、或いは、配置工程及び培養工程を、欠損及び/又は損傷部位において実施させることを含む。この場合、支持担体としては、上述したものに加えて、欠損及び/又は損傷部位の周囲組織そのものを支持担体として適用してもよい。これにより、生体内での周辺組織からのサイトカイン等によって、より迅速に欠損及び/又は損傷部位の治療等を行うことができる。
【0052】
本発明では、間葉系細胞及び上皮系細胞の細胞間相互作用に基づいて効果的に組織を再構成させることができるので、間葉系細胞と上皮系細胞との相互作用により構築される組織の製造方法も提供することができる。
即ち、本発明の組織の製造方法は、間葉系細胞と上皮系細胞との相互作用により構築される組織の製造方法であって、支持担体内部に、間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること、前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養すること、を含む。
なお上記歯の製造方法において説明した事項は、特記しない限り、いずれも本組織の製造方法にも同様に適用することができる。
【0053】
本組織の製造方法によって製造される組織としては、間葉系細胞及び上皮系細胞の細胞間相互作用により構築される組織が該当し、上述した歯に加えて、毛髪、腎臓、肺、肝臓等を挙げることができ、これらの組織全体であってもその一部であってもよい。
このとき、間葉系細胞と上皮系細胞の少なくとも一方は、目的とする組織に由来するものであることが好ましい。これにより、目的とする組織へ方向付けが既に行われている細胞を用いて容易に組織を形成することができる。また、より確実に目的とする組織を製造するには、共に目的とする組織に由来することが最も好ましい。
【0054】
間葉系細胞及び上皮系細胞からそれぞれ構成される細胞集合体を調製するために用いられる組織としては、歯の場合には、歯胚や歯髄細胞、歯根膜細胞、口腔内上皮・間葉細胞、毛髪の場合には、発生過程の毛胞器官原基や成体の毛胞組織、腎臓の場合には、発生過程の腎臓器官原基や成体の腎臓組織、肺の場合には、発生過程の肺器官原基や成体の肺組織、肝臓の場合には、発生過程の肝臓器官原基や成体の肝臓組織を挙げることができる。
これらから各細胞集合体を調製するには、前述したように、組織から間葉系細胞と上皮系細胞とを分離して前記同様にして第1及び第2細胞集合体を調製し、前記同様にして、支持担体内部へ配置し、培養及び/又は移植すればよい。
これにより、前述した歯と同様に、目的とする組織に特有の細胞配置を有する組織を得ることができる。
【0055】
以下に本発明の実施例について説明するが、これに限定されるものではない。また実施例中の%は、特に断らない限り、重量(質量)基準である。
【実施例】
【0056】
[実施例1〜3及び比較例1〜4]
(1)歯胚上皮系細胞と歯胚間葉系細胞の調製
歯の形成を行うために、歯胚の再構築を行った。この実験モデルとしてマウスを用いた。
C57BL/6Nマウス(日本クレアから購入)又はGreen Fluorescence Protein (EGFP) トランスジェニックマウスであるC57BL/6−TgN(act-EGFP)OsbC14-Y01-FM131(GFPマウス:理研バイオリソースセンター)の胎齢14.5日、胚仔から下顎切歯歯胚組織を顕微鏡下で常法により摘出した。下顎切歯歯胚組織をCa2+,Mg2+不含リン酸緩衝液(PBS(−))で洗浄し、PBS(−)に最終濃度1.2U/mlのDispase II (Roche, Mannheim, Germany)を添加した酵素液で室温にて12.5分間処理した後、10%FCS(JRH Biosciences, Lenexa, KS)を添加したDMEM(Sigma, St. Louis, MO)で3回洗浄した。さらにDNase I溶液 (Takara, Siga, Japan)を最終濃度70U/mlになるよう添加し歯胚組織を分散させ、25G注射針 (Terumo, Tokyo, Japan)を用いて外科的に歯胚上皮組織と歯胚間葉組織を分離した。
【0057】
歯胚上皮系細胞は、上記により得られた歯胚上皮組織をPBS(−)で3回洗浄し、PBS(−)に最終濃度100U/mlのCollagenase I(Worthington, Lakewood, NJ)を溶解した酵素液で37℃にて20分間の処理を2回繰り返した。遠心分離によって沈殿回収した細胞を、さらに0.25% Trypsin (Sigma)−PBS(−)で37℃、5分間処理した。10%FCS添加DMEMで、細胞を3回洗浄した後、細胞に最終濃度70U/mlのDNase I溶液を添加して、ピペッティングにより単一の歯胚上皮系細胞を得た。
一方、歯胚間葉系細胞は、歯胚間葉組織をPBS(−)で3回洗浄し、0.25%Trypsin (Sigma)、50U/mlのCollagenase I (Worthington)を含むPBS(−)で処理した。70U/mlのDNase I (Takara)を添加して、ピペッティングにより単一の歯胚間葉系細胞を得た。
【0058】
(2)再構成歯胚の作製
次に、上記で調製された歯胚上皮系細胞及び歯胚間葉系細胞を用いて、歯胚再構築を行った。
シリコングリースを塗布した1.5mLマイクロチューブ (Eppendorf, Hamburg, Germany)に、10%FCS(JRH Biosciences) 添加DMEM(Sigma)で懸濁した歯胚上皮系細胞、あるいは歯胚間葉系細胞を入れ、遠心分離(580×g)により細胞を沈殿として回収した。遠心後の培養液の上清をできる限り除去し、再度遠心操作を行い、実体顕微鏡で観察しながら細胞の沈殿周囲に残存する培養液を GELoader Tip 0,5−20μL (eppendorf) を用いて完全に除去し、再構成歯胚作製に用いる細胞を準備した。
シリコングリースを塗布したペトリディッシュに、2.4mg/mlの濃度に上記培養液で調製したCellmatrix type I-A (Nitta gelatin, Osaka, Japan) を30μL滴下してコラーゲンゲル溶液のドロップ(ゲルドロップ)を作製した。この溶液に、上記歯胚上皮系細胞、あるいは歯胚間葉系細胞の遠心後の沈殿を、0.1−10μLのピペットチップ (Quality Scientific plastics)を用いて、0.2−0.3μLアプライして、細胞集合体としての細胞凝集塊を作製した。
【0059】
これを、図2を参照して説明する。
ピペットチップ16で先にゲルドロップ10内に配置された細胞凝集塊12は、ゲルドロップ10内で球体を構成する(図2(B)参照)。この後に他方の細胞凝集塊14を押し込むことによって、球体の細胞凝集塊12がつぶされて、他方の細胞凝集塊14を包むようになることが多い(図2(C)参照)。その後にゲルドロップ10を固化させることにより、細胞間の結合が強固になる(図2(D)参照)。
【0060】
本実施例では、細胞集合体として、上皮系細胞又は間葉系細胞の単一細胞からなる細胞凝集塊と、歯胚のうち、上皮系細胞からなる部分組織及び間葉系細胞からなる部分組織とを、それぞれ調製して用いた。
本実施例において、細胞凝集塊と組織とによる再構成歯胚を組み合わせる場合(実施例1及び2)には、歯胚上皮系細胞、あるいは間葉系細胞から作製した細胞凝集塊に、上皮系細胞又は間葉系細胞からなる部分組織をゲルドロップ中に移した後、それぞれの組織の歯胚における組織境界面側を、タングステン針を用いて細胞凝集塊に密着させて再構成歯胚を作製した。
一方、単一細胞にした歯胚上皮系細胞と歯胚間葉系細胞を用いた再構成歯胚(実施例3)では、先に作製した歯胚間葉系細胞の細胞凝集塊に接するように、歯胚上皮系細胞を同様の方法によりアプライして細胞凝集塊を作製し、両者が互いに密接するようにして再構成歯胚を作製した。
【0061】
ゲルドロップ中で作製した再構成歯胚は、CO2インキュベーターに10分間静置してCellmatrix type I-A (Nitta Gelatin)を固化し、10%FCS(JRH) 添加DMEM(Sigma)にセルカルチャーインサート(ポアサイズが0.4ミクロンのPETメンブレン;BD, Franklin Lakes, NJ)が接するようにセットした培養容器のセルカルチャーインサートの膜上に、細胞凝集塊を支持担体である周囲のゲルと共に移して、18−24時間、器官培養した。培養後、周囲のゲルごと8週齢C57BL/6の腎皮膜下に移植して異所的な歯の発生を進行させるか、セルカルチャーインサート上での器官培養を継続し、歯の発生を解析した。
また比較例としては、歯胚組織をそのまま腎皮膜下に移植したもの(比較例1)と、歯胚から分離した上皮組織と間葉組織をそれぞれ単独で移植したもの(比較例2)、また細胞の容量と等量の培養液を含む低密度凝集塊を用いたもの(比較例3)と、歯胚から分離して上皮細胞と間葉細胞を混合して上皮細胞と間葉細胞を区画化することなく支持担体中で細胞凝集塊を形成させたもの(比較例4)とを、それぞれ上記と同様にして調製し、同様に解析した。なお、比較例4において、上皮細胞と間葉細胞との混合は、それぞれ1対1の比率で穏やか混合した後、実施例1〜3と同様にして、再構成歯胚作製に用いる1の細胞凝集塊として調製した。
【0062】
(3)組織学的解析
腎皮膜下に移植の場合には、移植後7日目、あるいは14日目に周囲の腎組織ごと再構成歯胚を摘出し、4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で6時間固定した後、4.5%のEDTA(pH7.2)で24時間脱灰し、常法によりパラフィン包埋して、10μmの切片を作製した。組織学的解析のためには常法に従い、ヘマトキシリン−エオジン染色を行った。
再構成歯胚にGFPマウス由来の歯胚を用いた場合は、50%(w/v)スクロース−4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で18時間固定した後、4.5%のEDTA(pH7.2)で24時間脱灰し、OCT compound(Miles Inc., Naperville, IL)に包埋して、クリオスタット (Leica, Wetzlar, Germany)で10μmの切片を作製し、蛍光顕微鏡(Zeiss社製)で観察した。
歯胚組織のまま培養した結果を図3に、本発明の製造方法に従って培養した結果を図4〜7に示す。
【0063】
摘出された歯胚のまま腎皮膜下移植を行った比較例1では、図3に示されるように、歯胚を構成している間葉系細胞と上皮系細胞との細胞間相互作用が損なわれないため、上皮系細胞に由来するエナメル質、間葉系細胞に由来する象牙質と歯髄が形成されており、エナメル質及び象牙質を所定の位置に配置すると共に、歯先端部と歯根を有する歯が形成された。
【0064】
一方、図4〜6に示されるように、本発明に従って、歯胚から調製された単一細胞形態を用いた場合、即ち、歯胚上皮組織に歯胚間葉系細胞を組み合わせて再構成した場合(実施例1、図4及び図5参照)と、歯胚上皮系細胞に歯胚間葉組織を組み合わせて再構成した場合(実施例2、図6参照)には、それぞれ、内側に象牙質及び外側にエナメル質を有する特有の細胞配置を備えた歯を、11〜14日の期間で腎皮膜下移植により発生させることができた。ここで得られた歯は、歯胚をそのまま培養して得られた正常発生のもの(図3)と同様の歯を再構成できることが示された。
【0065】
更に、図4に示されるように、本再構成と腎皮膜下移植によって、移植後11日目には、外側のエナメル質、エナメル芽細胞、エナメル芽細胞、象牙質、象牙芽細胞が容易に認められた。歯根部分も、正常発生と変わらず、歯根部分の外周には歯槽骨も認められた。また、経時観察によれば、移植後3日目には象牙質、象牙芽細胞が容易に認められ、組織配置上、歯の特徴的構造の形成が開始されていた。また7日目には象牙質の蓄積と、象牙芽細胞、エナメル芽細胞も存在しており、その後、歯の発生が進行した(データ示さず)。
またゲルドロップ内に配置された直後には、細胞凝集塊を構成する細胞が顕微鏡下で単独で存在することが認められるが、1日の短期の培養によって、摘出した正常歯胚と同様に、細胞の結合が強固になり、ひとつのまとまりのある組織へと変化した。このことから、移植前の短期の培養が歯の形成に有効であることが示された。
【0066】
また、GFPマウス由来の間葉系細胞を用いた場合には内側の間葉細胞由来の歯髄細胞と象牙芽細胞に局在しており(図5)、一方、GFPマウス由来の上皮系細胞を用いた場合には外側のエナメル芽細胞に局在していることが示され、使用した細胞種と蛍光とが一致していた(図6)。従って、正常発生と同様に細胞相互作用が行われて、発生における細胞の方向性が損なわれずに組織の再構成が行われたことが明らかであった。
【0067】
なお、腎皮膜下での移植を適用せず、器官培養を継続した場合であっても、培養開始から経時的に培養した再構成歯胚は次第に大きくなり、移植後16日目には、象牙質、象牙芽細胞が容易に認められ、組織配置上、歯の特徴的構造の形成が認められた(データ示さず)。このような器官培養による構築は、一方を組織として用いた場合のみならず、上皮系細胞及び間葉系細胞双方を用いた場合であっても同様に認められた。
【0068】
また、歯胚上皮系細胞及び歯胚間葉系細胞を用いた場合(実施例3)では、図7に示されるように、いずれか一方を組織として用いた場合と同様に、象牙質及びエナメル質の存在を確認することができた。歯胚上皮系細胞及び歯胚間葉系細胞を用いた場合には、しばしば1個の再構成歯胚より複数個の方向性と構造を有した歯が発生することが認められ、発生後の歯芽を分離することにより複数個の歯を発生させられる可能性が示唆された。特に、歯胚間葉系細胞を先にゲルドロップ内に配置して、その後から歯胚上皮系細胞を押し当てて配置した場合には、エナメル質及び象牙質がそれぞれ外側及び内側に配置された特徴的な構造をより明確に構築することができ、より歯の形態をとりやすく、歯の形成に有利である可能性が示された(データ示さず)。
【0069】
なお本発明により上皮系細胞と間葉系細胞を配置し再構成した歯胚を器官培養することにより複数の歯胚及び/又は歯芽の形成がしばしば認められた。このことは、これらの複数の歯胚及び/又は歯芽を外科的に分離することにより、ひとつの再構成歯胚より複数の歯を発生させられる可能性が示唆された。
【0070】
一方、上皮組織のみ又は間葉組織のみで培養した比較例2の場合では、図8に示されるように、上述したような特定構造の歯を構成することができなかった。従って、本発明の方法では、細胞相互作用が行われて特定構造を有する組織が再構成されていることが示唆された。
また、低密度の細胞凝集塊を用いた比較例3の場合では、図9に示されるように、コラーゲンゲルドロップ中での培養において既に単一細胞が分散し、腎臓皮膜下に移植しても、歯としての特定構造を再構成しなかった。このことは、細胞相互作用によって歯を再構成するには、可能な限り高密度の細胞凝集塊を用いることが好ましいことが示唆された。
更に、歯胚上皮系細胞と歯胚間葉系細胞とを事前に1対1で混合させ、高密度でこれら細胞を区画化することなく細胞凝集塊を形成させた比較例4の場合には、図10に示されるように、エナメル質や象牙質の硬組織は認められなかった。このことは、歯胚上皮系細胞の集合体と歯胚間葉系細胞の集合体とを別個に調製した後、区画化して細胞凝集塊を形成させることが重要であることが示された。
【0071】
(4)歯周組織の確認
次に、本方法によって形成された歯が歯周組織を備えているか確認した。歯周組織の確認は、上記のHE染色像による観察に加えて、下記のようなin situ ハイブリダイゼーションを用いた。
腎皮膜下移植した再構成歯胚を移植14日目に摘出し、常法によりパラフィン包埋して10μm厚に切片化した。キシレンとエタノール希釈系列に切片を浸してパラフィンを除去した。10μg/ml Protease K (Nacalai tesque, kyoto, Japan) in PBS(-)で3分間処理し、4%パラホルムアルデヒド (Nacalai tesque) リン酸緩衝液で15分間固定した。0.1% (v/v) TritonX-100 (Sigma) in PBS(-)で3分間処理し、PBS(−)で3分間洗浄した。0.2N HCl (Wako) で10分間処理し、PBS(−)とDEPC(ジエチルピロカーボネート)waterでそれぞれ5分間洗浄した。1.5% (v/v) トリエタノールアミン(nacalai tesque), 0.33N HCl (Wako), 0.25% (v/v) 無水酢酸 (Nacalai tesque) in DEPC waterで10分間処理した後、2×SSCで10分間、2回洗浄した。Periostin (Genbank accession no. NM#015784) プローブは、センスプライマー (-7; ggctgaagatggttcctctc、配列番号1)とアンチセンスプライマー (573; gtacattgaaggaataacca、配列番号2)を用いてPCRにより取得したcDNA断片を、DIG標識して用いた。定法に従ってin situ ハイブリダイゼーションを行い、抗DIG−AP Fabフラグメント(Roche)とNBT/BCIP Stock Solution(Roche)で発色させ、Axio Imager A.1 (Zeiss)とAxioCam MRc5 (Zeiss)で解析を行なった。
【0072】
上記実施例における歯周組織を、歯周組織の有無について詳細に観察したところ、実施例1〜3のいずれにおいても、図4から図7に示したように、移植後14日目の歯の周囲には、正常な歯胚を移植した比較例1(図3参照)と同様の歯槽骨が形成されていた。
【0073】
さらに図11で示されるように、単一細胞と組織との組み合わせの別に拘らず、実施例1〜3のいずれにおいても、得られた歯の周囲には、正常な歯胚を移植した比較例1と同様の歯槽骨及び歯根膜が形成された。また実施例2の歯において確認したところ、図12で示されるように、HE染色により歯根膜形成が認められた領域には、歯根膜特異的な遺伝子であるぺリオスチンmRNAの発現が認められた(実施例1及び3において同様)。
このことは、実施例1〜3により作製した歯胚は、歯槽骨や歯根膜といった歯周組織を形成することができることを示している。
【0074】
[実施例4及び5、比較例5]
上記と同様にして配置工程を終了した後に、培養工程として、一般に用いられる器官培養を14日間にわたって継続して実施し、歯の発生を解析した。歯胚由来上皮組織と間葉細胞との組み合わせを実施例4とし、歯胚由来上皮細胞と間葉細胞との組み合わせを実施例5とした。なお、正常歯胚を用いて器官培養した例を比較例5とした。結果を図13に示す。
図13に示されるように、実施例4及び5のいずれも、培養期間が長くなるにつれて歯胚の大きさが大きくなり、腎皮膜下移植を実施した場合とほぼ同様の特徴的な構造を有した歯の発生が認められた。
また実施例4及び5のいずれにおいても、器官培養によって得られた歯は、複数の歯で構成された集合体(例えば、間葉細胞と上皮細胞とを用いた場合には6個;図13最下段)を形成していた。
【0075】
[実施例6及び7、比較例6]
実施例5で示されるように、再構成歯胚から得られた歯は、1個の再構成歯胚から間葉細胞及び上皮細胞を調製したにも拘わらず、複数の歯へ再誘導された。このように再構成歯胚で同時に再誘導された個々の歯が1本の歯として成長しうるかどうかを解析した。
【0076】
(1)再構成歯胚から発生する複数の歯胚の分離と歯への発生能力の解析
1)複数発生させた歯胚の個別分離と器官培養
実施例3と同様にして得られた再構成歯胚を、2〜5日間器官培養し、1つの再構成歯胚から複数の歯胚を発生させた。その後、歯胚が複数発生している再構成歯胚を、器官培養2〜5日目に実体顕微鏡下で注射針とピンセットを用いて外科的に1個の歯胚に分離した。
シリコングリースを塗布したペトリディッシュに、実施例1と同様にして、Cellmatrix type I-A (Nitta gelatin, Osaka, Japan) を30μL滴下してゲルドロップを作製した。このゲルドロップに、上記個別分離歯胚を入れ、CO2インキュベーターに10分間静置してCellmatrix type I-A (Nitta Gelatin)を固形化し、10%FCS(JRH) 添加DMEM(Sigma)にセルカルチャーインサート(ポアサイズが0.4ミクロンのPETメンブレン;BD, Franklin Lakes, NJ)が接するようにセットした培養容器のセルカルチャーインサートの膜上に、個別分離歯胚を支持担体である周囲のゲルと共に移して、18−24時間、器官培養した。
2)組織学的解析
培養後、周囲のゲルごと8週齢C57BL/6の腎皮膜下に移植して14日目に周囲の腎組織ごと個別分離歯胚を摘出した。組織を、4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で6時間固定した後、常法によりパラフィン包埋して、10μmの切片を作製した。組織学的解析のためには常法に従い、ヘマトキシリン−エオジン染色を行った。
【0077】
3)結果
分離した歯胚を腎臓皮膜下へ移植して14日間発生させ、組織学的に解析した結果を、図14に示した。図14に示されるように、移植した分離歯胚は、それぞれがエナメル質と象牙質、歯髄、歯冠、歯根という特徴を有する1本の「歯」に発生した。また、得られた歯の歯冠部にはエナメル質と象牙質が存在すること(図14中段及び下段におけるa参照)及び歯根部では歯根の開口部が存在すること(図14中段におけるb参照)がそれぞれ確認できた。
これらのことは、正常発生した歯と同様に、歯冠部においてエナメル芽細胞と象牙芽細胞が存在し、また正常発生した歯と同一の形態を有することを示しており、歯の集合体として同時に発生した個々の歯が、いずれも正常発生した歯と細胞配置及び方向性において同一であることを示していた。
【0078】
(2)再構成歯胚の口腔内移植による歯の発生
1)個別分離歯胚と個別分離歯牙の作製
上記と同様にして、器官培養2〜5日目において歯胚が複数発生している再構成歯胚から、個別に分離した歯胚を作製した。一方、腎皮膜下移植して14日後に摘出した、再構成歯胚より複数発生した歯を、実体顕微鏡下で注射針とピンセットを用いて外科的に個別に分離した。
個別分離歯胚の場合、前記同様に、シリコングリースを塗布したペトリディッシュに、2.4mg/mlの濃度に上記培養液で調製したCellmatrix type I-A (Nitta gelatin, Osaka, Japan) を30μL滴下してゲルドロップを作製した。このゲルドロップに、上記個別分離歯胚を入れ、CO2インキュベーターに10分間静置してCellmatrix type I-A (Nitta Gelatin)を固化した。次いで、10%FCS(JRH) 添加DMEM(Sigma)にセルカルチャーインサート(ポアサイズが0.4ミクロンのPETメンブレン;BD, Franklin Lakes, NJ)が接するようにセットした培養容器のセルカルチャーインサートの膜上に、支持担体である周囲のゲルと共に個別分離歯胚を移して、18−24時間、器官培養した。
培養後、周囲のゲルを注射針とピンセットで外科的に除去し、8週齢C57BL/6の下顎切歯抜歯孔に移植し、実施例6とした。一方、腎臓皮膜下へ移植した再構成歯胚より個別に分離した歯の場合には、分離後ゲルに包まず、そのまま8週齢C57BL/6の下顎切歯抜歯孔に移植し、実施例7とした。
【0079】
2)切歯の抜歯と口腔内移植の方法
口腔内移植の3日前に、ジエチルエーテルで吸引麻酔した8週齢C57BL/6に、5mg/mlのペントバルビタールナトリウムを含む生理食塩水を、体重20gに対して200μlの割合で腹腔注射した。痛覚の麻痺したマウスの下顎切歯萌出部付近の下顎骨をメスで剥離し、顎骨に埋まっている切歯先端部を露出させた。ピンセットを用いて下顎から切歯を抜歯し、血液を脱脂綿で拭き取り止血した。食物摂取のために、抜歯は片側の下顎切歯のみとし、粉末状に砕いた飼育用の餌を毎日与えた。
【0080】
上記方法により抜歯した8週齢C57BL/6をジエチルエーテルで吸引麻酔し、5mg/mlのペントバルビタールナトリウムを含む生理食塩水を、体重20gに対して200μlの割合で腹腔注射した。痛覚の麻痺したマウスを、抜歯した側の顎を上にして解剖台に固定し、抜歯孔歯根部領域の頭部横面より皮膚と筋肉層を切開し、下顎骨を露出させた。メスを用いて抜歯孔歯根部領域を覆う下顎骨に、個別分離歯胚の場合は直径1mm、個別分離歯牙の場合は直径2mmの穴をあけ、そこから個別分離歯胚と個別分離歯牙を抜歯孔歯根部領域に移植した。移植する個別分離歯胚と個別分離歯の向きは、正常発生の歯の方向と一致させ、また成体マウス下顎切歯で見られるエナメル質、歯根膜の方向性とも一致させた。切開した筋肉層と皮膚を常法により縫合した。口腔内移植した8週齢C57BL/6には粉末状に砕いた飼育用の餌を毎日与えた。
なお、切歯抜歯後に移植をしなかったマウスを比較例6とした。
【0081】
3)組織学的解析
口腔内移植して14日目に、個別分離歯胚、並びに個別分離歯を移植した下顎骨を摘出した。4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で16時間固定した後、22.5%のギ酸で72時間脱灰し、常法によりパラフィン包埋して、10μmの切片を作製した。脱灰液は下顎骨2つにつき50mlとし、脱灰48時間目に全量を交換した。組織学的解析のためには常法に従い、ヘマトキシリン−エオジン染色を行った。
個別分離歯胚、並びに個別分離歯牙にC57BL/6−TgN(act−EGFP)OsbC14-Y01-FM131マウス由来の歯胚を用いた場合は、4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で16時間固定した後、22.5%のギ酸で72時間脱灰し、常法によりOCT compound(Miles Inc., Naperville, IL)に包埋して、クリオスタット (Leica, Wetzlar, Germany)で10μmの切片を作製し、蛍光顕微鏡(Zeiss社製)で観察した。
【0082】
4)結果
切歯抜歯後に移植をしなかった比較例6のマウスの抜歯後14日後の組織像を図15に、個別分離した歯胚(実施例6)、並びに歯(実施例7)を、切歯抜歯孔へ移植して14日後の組織像を、それぞれ図16及び図17に示した。
図15に示すように、比較例6の非移植マウスでは、切歯抜歯孔の移植部位に該当する位置に浸潤した細胞と発生した骨のみが認められ、硬組織を有する歯は認められなかった。
これに対して、図16に示すように、実施例6として個別分離した歯胚を移植した当該部位には、エナメル質を外側に、象牙質を内側に有する歯が発生した。発生した歯は、歯の先端と歯根が認められ、歯の方向性が存在し、正常発生する歯と同一の構造を有していた。
また、腎臓皮膜下へ移植して発生させた後に分離した歯を抜歯孔へ移植した実施例7のマウスでは、図17に示すように、当該部位にエナメル質を外側に、象牙質を内側に有する歯が発生した。発生した歯は、歯の先端と歯根を有しており、歯髄内部には血管が認められると共に、歯の周囲には歯根膜と歯槽骨を有しており、正常発生する歯と同一の構造を有していた。
【0083】
[実施例8及び比較例7]
(1)毛胞の再構成
本発明において開発した技術が、歯胚の発生に寄与するのみならず、他の器官形成にも有用な技術であることを示すために、毛胞の再構成を実施した。この実験モデルとしてマウスを用いた。
1)細胞の分離方法
C57BL/6Nマウス(日本クレアから購入)又はGreen Fluorescence Protein (EGFP) トランスジェニックマウスであるC57BL/6−TgN(act-EGFP)OsbC14-Y01-FM131(理研バイオリソースセンター)の胎齢14.5日、胚仔から上顎髭毛胞組織を顕微鏡下で常法により摘出した。上顎髭毛胞組織をCa2+,Mg2+不含リン酸緩衝液(PBS(−))で洗浄し、PBS(−)に最終濃度1.2U/mlのDispase II (Roche, Mannheim, Germany)を添加した酵素液で室温にて60分間処理した後、10%FCS(JRH Biosciences, Lenexa, KS)を添加したDMEM(Sigma, St. Louis, MO)で3回洗浄した。さらにDNase I溶液 (Takara, Siga, Japan)を最終濃度70U/mlになるよう添加し毛胞組織を分散させ、25G注射針 (Terumo, Tokyo, Japan)を用いて外科的に毛胞上皮組織と毛胞間葉組織を分離した。
【0084】
毛胞上皮系細胞は、上記により得られた毛胞上皮組織をPBS(−)で3回洗浄し、PBS(−)に最終濃度100U/mlのCollagenase I(Worthington, Lakewood, NJ)を溶解した酵素液で、37℃にて20分間の処理を2回繰り返した。遠心分離によって沈殿回収した細胞を、さらに0.25% Trypsin (Sigma)−PBS(−)で37℃、5分間処理した。10%FCS添加DMEMで、細胞を3回洗浄した後、細胞に最終濃度70U/mlのDNase I溶液を添加して、ピペッティングにより単一の毛胞上皮系細胞を得た。
一方、毛胞間葉系細胞は、毛胞間葉組織をPBS(−)で3回洗浄し、0.25%Trypsin (Sigma)、50U/mlのCollagenase I (Worthington)を含むPBS(−)で処理した。70U/mlのDNase I (Takara)を添加して、ピペッティングにより単一の毛胞間葉系細胞を得た。
【0085】
2)再構成毛胞の作製方法
次に、上記で調製された毛胞上皮系細胞及び毛胞間葉系細胞を用いた以外は実施例1と同様にして、再構成毛胞作製に用いる細胞を準備し、コラーゲンゲルドロップにそれぞれ0.2−0.3μLアプライしてそれぞれの細胞凝集塊を作製し、両者が互いに密接するようにして再構成毛胞を作製した。
3)腎皮膜下移植
ゲル中で作製した再構成毛胞は、実施例1と同様にして、培養容器のセルカルチャーインサートの膜上に、細胞塊を支持担体である周囲のゲルと共に移して、18−48時間、器官培養した。培養後、周囲のゲルごと8週齢C57BL/6の腎皮膜下に移植して異所的な毛の発生を進行させ、毛の発生を解析した。
一方、比較例7は、毛胞上皮系細胞及び毛胞間葉系細胞を用いた以外は、比較例4と同様にして、生体外で2種類の細胞を混合して1つの細胞凝集体を作製し、実施例8と同様にして腎皮膜下に移植した。
【0086】
4)組織学的解析
腎皮膜下に移植の場合には、移植後14日目に周囲の腎組織ごと再構成毛胞を摘出した。器官培養の場合には、同様の日数の培養後、細胞凝集塊を回収した。組織、あるいは細胞凝集塊を、4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液で6時間固定した後、常法によりパラフィン包埋して、10μmの切片を作製した。組織学的解析のためには常法に従い、ヘマトキシリン−エオジン染色を行った。
【0087】
5)結果
実施例8に係る毛胞を、同系マウスの腎臓皮膜下へ移植した結果を図18に示す。図18に示されるように、再構成毛胞を移植すると初期毛胞を構成する上皮細胞と間葉細胞との細胞間相互作用が損なわれないため、毛胞の縦断面(切片A)では上皮細胞に由来する毛包や内毛根鞘、外毛根鞘、並びに間葉細胞に由来する毛乳頭の細胞が認められた。さらに切片Aでは、毛は組織染色時に溶解するものの、完全に溶解していない毛が認められた。横断面(切片B)では、上皮細胞が毛穴を取り囲むように、内毛根鞘や外毛根鞘等の細胞配置が認められた。毛は組織染色時に溶解するため、毛の溶解残存物が認められた。
また、図19に示されるように、再構成毛胞を腎臓皮膜下へ移植して14日後に摘出した移植片には、毛胞から生えた毛が認められた。
一方、上皮、並びに間葉細胞をあらかじめ混合して、支持担体中で再構成した比較例7の場合には、図20に示されるように、毛胞組織は認められなかった。
従って、実施例8によれば、実施例1〜7の歯胚を用いて歯を作製する場合と同様に、毛胞組織から毛を作製することができた。
【0088】
このように本発明によれば、歯や毛に限らず、上皮系細胞と間葉系細胞との細胞間相互作用が有効になされるように上皮組織・細胞及び間葉組織・細胞を別個に調製し、これらを区画化して高密度に接触させて培養することによって、細胞の分化を効果的に誘導することができ、組織に特有の細胞配置と方向性を備えた組織を作製することができることを示している。
従って、本発明によれば、細胞間相互作用を損なうことなく多種の単一細胞から組織を再構築できるので、細胞相互作用によって構築される組織を人為的に作製することができる。
【符号の説明】
【0089】
10 ゲルパック(支持担体)
12 細胞凝集塊(第1の細胞集合体)
14 細胞凝集塊(第2の細胞集合体)
16 ピペットチップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持担体の内部に、少なくともいずれか一方が歯胚由来である間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること、
前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養すること、
を含む歯の製造方法。
【請求項2】
前記間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれもが共に歯胚由来である請求項1記載の歯の製造方法。
【請求項3】
第1の細胞集合体を調製する第1の調製工程と、第2の細胞集合体を調整する第2の調製工程とを、前記接触させて配置することの前に更に含む請求項1又は2記載の歯の製造方法。
【請求項4】
前記支持担体の内部での成育を他の動物細胞の存在下で行うことを含む請求項1〜3のいずれか1項記載の歯の製造方法。
【請求項5】
前記第1の細胞集合体及び前記第2の細胞集合体が共に単一細胞集合物である請求項1〜4のいずれか1項記載の歯の製造方法。
【請求項6】
前記培養を、歯周組織が形成されるまで継続することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の歯の製造方法。
【請求項7】
支持担体の内部に、少なくともいずれか一方が歯胚由来である間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること、
前記第1及び第2の細胞集合体を、前記支持担体の内部で、歯とこれに連続した歯周組織とを得るまで培養すること、
前記培養によって得られた歯周組織を単離すること
を含む歯周組織の製造方法。
【請求項8】
支持担体の内部に、少なくともいずれか一方が歯胚由来である間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること、前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養することによって得られた歯の集合体。
【請求項9】
前記間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれもが共に歯胚由来である請求項8記載の歯の集合体。
【請求項10】
間葉系細胞と上皮系細胞との相互作用により構築される組織の製造方法であって、
支持担体の内部に、間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること、
前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養すること、
を含む組織の製造方法。
【請求項11】
第1の細胞集合体を調製する第1の調製工程と、第2の細胞集合体を調整する第2の調製工程とを、前記接触させて配置することの前に更に含む請求項10記載の組織の製造方法。
【請求項12】
前記間葉系細胞及び上皮系細胞の少なくとも一方が、目的となる組織に由来する細胞であることを特徴とする請求項10又は11記載の組織の製造方法。
【請求項13】
前記組織が、歯、毛髪、腎臓、肺、肝臓からなる群より選択されたものであることを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項記載の組織の製造方法。
【請求項1】
支持担体の内部に、少なくともいずれか一方が歯胚由来である間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること、
前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養すること、
を含む歯の製造方法。
【請求項2】
前記間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれもが共に歯胚由来である請求項1記載の歯の製造方法。
【請求項3】
第1の細胞集合体を調製する第1の調製工程と、第2の細胞集合体を調整する第2の調製工程とを、前記接触させて配置することの前に更に含む請求項1又は2記載の歯の製造方法。
【請求項4】
前記支持担体の内部での成育を他の動物細胞の存在下で行うことを含む請求項1〜3のいずれか1項記載の歯の製造方法。
【請求項5】
前記第1の細胞集合体及び前記第2の細胞集合体が共に単一細胞集合物である請求項1〜4のいずれか1項記載の歯の製造方法。
【請求項6】
前記培養を、歯周組織が形成されるまで継続することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の歯の製造方法。
【請求項7】
支持担体の内部に、少なくともいずれか一方が歯胚由来である間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること、
前記第1及び第2の細胞集合体を、前記支持担体の内部で、歯とこれに連続した歯周組織とを得るまで培養すること、
前記培養によって得られた歯周組織を単離すること
を含む歯周組織の製造方法。
【請求項8】
支持担体の内部に、少なくともいずれか一方が歯胚由来である間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること、前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養することによって得られた歯の集合体。
【請求項9】
前記間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれもが共に歯胚由来である請求項8記載の歯の集合体。
【請求項10】
間葉系細胞と上皮系細胞との相互作用により構築される組織の製造方法であって、
支持担体の内部に、間葉系細胞及び上皮系細胞のいずれか一方のみから実質的になる第1の細胞集合体と、いずれか他方のみから実質的になる第2の細胞集合体とを接触させて配置すること、
前記第1及び第2の細胞集合体を前記支持担体の内部で培養すること、
を含む組織の製造方法。
【請求項11】
第1の細胞集合体を調製する第1の調製工程と、第2の細胞集合体を調整する第2の調製工程とを、前記接触させて配置することの前に更に含む請求項10記載の組織の製造方法。
【請求項12】
前記間葉系細胞及び上皮系細胞の少なくとも一方が、目的となる組織に由来する細胞であることを特徴とする請求項10又は11記載の組織の製造方法。
【請求項13】
前記組織が、歯、毛髪、腎臓、肺、肝臓からなる群より選択されたものであることを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項記載の組織の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−135313(P2012−135313A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−23529(P2012−23529)
【出願日】平成24年2月6日(2012.2.6)
【分割の表示】特願2007−519012(P2007−519012)の分割
【原出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(508253111)株式会社オーガンテクノロジーズ (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月6日(2012.2.6)
【分割の表示】特願2007−519012(P2007−519012)の分割
【原出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(508253111)株式会社オーガンテクノロジーズ (1)
【Fターム(参考)】
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