説明

歯ブラシ用毛材およびその製造方法、並びに歯ブラシ

【課題】毛材の色相変化により口内清掃が十分に達成されたことを確認できるインジケーター機能を有する歯ブラシ用毛材及びその製造方法、並びに歯ブラシを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂モノフィラメントのカットブリッスルからなる歯ブラシ用毛材であって、前記熱可塑性樹脂モノフィラメントの表面には温度変化に応じて色相が変化するサーモクロミック化合物を0.5〜20wt%含有する熱可塑性樹脂層が形成されていることを特徴とする歯ブラシ用毛材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は毛材の色相変化により口内清掃が十分に達成されたことを確認できるインジケーター機能を有する歯ブラシ用毛材及びその製造方法、並びに歯ブラシに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、成人や子供問わず、歯周病患者が増加傾向にある。そのため歯周病対策への関心が年々高まりつつあり、歯ブラシ用毛材にもその予防機能が求められるようになってきた。
【0003】
その一例としては、歯の隙間に入って異物を取り出す隙間清掃性機能を持ったテーパードブリッスル、断面形状を異形にしてそのエッジ部分で歯の表面汚れを書き落とす機能を持った異形断面ブリッスルなどが既に知られている。
【0004】
しかし、このような機能を持った歯ブラシが広まっているにも関わらず、歯周病患者は一向に減る傾向にないのが実情である。
【0005】
この原因についてさらに調査すると、こうした機能を持った歯ブラシを使用している人のうち歯周病患者の大半は、1回の歯磨き時間が平均的に短いという面白い結果が得られている。磨き方に個人差があるが、一般に歯磨きには3分以上の時間が必要と言われている。しかし、歯ブラシの機能やペーストの有効成分などを過信しているためか、歯周病患者の多くは、日頃の歯磨きに十分な時間を掛けていないようである。
【0006】
特に生え変わりしていない子供の歯は歯周病になりやすい。そのため特に歯磨き嫌いの子供には歯磨きの大切さと関心を幼児期からしっかりと持つように教育することが必要である。
【0007】
そこで歯磨きに関心を持ってもらうように、歯磨きが十分に行なわれたことを確認できるインジケーター機能を持った歯ブラシの開発が近年求められるようになり、インジケーター機能を持った歯ブラシとしては、水不溶性支持樹脂、着色剤および使用中に水に滲み出す物質を含んだ摩耗インジケータマトリックスを使用し、摩耗の度合いを知らしめる歯ブラシ(例えば、特許文献1参照)が知られているが、これは歯ブラシの交換時期を確認できるようにした技術であり、1回の適正な歯磨き時間を知らしめる機能をもったものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−52723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。
【0010】
したがって、本発明の目的は、毛材の色相変化により口内清掃が十分に達成されたことを確認できるインジケーター機能をもった歯ブラシ用毛材およびその製造方法、並びに歯ブラシを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明によれば、熱可塑性樹脂モノフィラメントのカットブリッスルからなる歯ブラシ用毛材であって、前記熱可塑性樹脂モノフィラメントの表面には温度変化に応じて色相が変化するサーモクロミック化合物を0.5〜20wt%含有する熱可塑性樹脂層が形成されていることを特徴とする歯ブラシ用毛材が提供される。
【0012】
なお、本発明の歯ブラシ用毛材においては、
前記サーモクロミック化合物を含有する熱可塑性樹脂層の厚さが0.5〜40μmであることがより好ましい条件として挙げられる。
【0013】
また、本発明の歯ブラシ用毛材の製造方法は、熱可塑性樹脂モノフィラメントの表面に、サーモクロミック化合物と、平均粒子径5μm以下、融点110℃〜180℃の熱可塑性樹脂とを含有する水系懸濁液を塗布した後、定長または弛緩条件下、150℃〜200℃の温度で熱処理することにより、熱可塑性樹脂モノフィラメントの表面にサーモクロミック化合物を含有する熱可塑性樹脂層を固着させ、次いで得られた熱可塑樹脂モノフィラメントを所望の長さにカットすることを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明の歯ブラシは、前記歯ブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下に説明するとおり、熱可塑性樹脂モノフィラメントの表面に温度により色相変化するサーモクロミック化合物を含有した熱可塑性樹脂層が形成されているため、毛材の色相変化により口内清掃が十分に達成されたことを確認できるインジケーター機能を持った歯ブラシ用毛材および歯ブラシが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0017】
本発明の歯ブラシ用毛材は、熱可塑性樹脂モノフィラメントのカットブリッスルからなる歯ブラシ用毛材であって、前記熱可塑性樹脂モノフィラメントの表面には温度変化に応じて色相が変化するサーモクロミック化合物を0.5〜20wt%含有する熱可塑性樹脂層が形成されていることを特徴とする。
【0018】
なお、本明細書において、熱可塑性樹脂層形成前の熱可塑性樹脂モノフィラメントと形成後の熱可塑性樹脂モノフィラメントとの区別するために、特に説明をしない限り、以後は形成前の熱可塑性樹脂モノフィラメントを単にモノフィラメントと称す。
【0019】
そして、モノフィラメントに使用する熱可塑性樹脂については特に限定されず、例えば、ポリアミド系樹脂においてはナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン56、ナイロンMDX6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6・66共重合体、さらにはこれらの中から2種以上をブレンドしたものを挙げることができる。
【0020】
また、ポリエステル系樹脂である場合においては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと言う)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリプロピレンナフタレートなどが挙げられる。
【0021】
本発明の歯ブラシ用毛材の熱可塑性樹脂層に含まれるサーモクロミック化合物の量は0.5〜20wt%が必要であり、好ましくは3〜15wt%の範囲である。
【0022】
サーモクロミック化合物の含有量が上記範囲を下回ると毛材の色相変化が分かりにくく、逆に上記範囲を上回ると色相変化が起こりやすくなり、適正な歯磨き時間前に色相が変化してしまう場合がある。
【0023】
また、熱可塑性樹脂層の厚さは0.5〜40μm、さらには0.5〜30μmが好ましい。これは熱可塑性樹脂層の厚さが上記範囲を上回ると熱可塑性樹脂層が肉厚となって線形斑の原因となり、物理特性がばらつきやすく、色相変化にも斑が生じやすくなり、逆に上記範囲を下回るとサーモクロミック化合物の含有量が少なくなって色相変化が分かりにくくなるばかりか、熱可塑性樹脂層が摩耗して無くなり、かえって色相変化が分かりにくくなる。
【0024】
本発明で使用するサーモクロミック化合物は温度に応じてその色が可逆的に変化し、無機物質または有機物質で構成されるものである。
【0025】
そして、本発明に使用する場合には、口内の温度で色相変化することが好ましく、例えば20〜37℃、さらには25〜35℃で色相変化が生じるようなサーモクロミック化合物が好ましく、色相については変化したと一目で分かるような色相であれば良く、特定はされない。
【0026】
例えば、本発明に使用する使用サーモクロミック化合物としては、電子供与体および電子受容体を含む色素、または酸反応性成分および酸性成分を含む色素からなるものを挙げることができる。
【0027】
電子供与体および電子受容体を基礎とするサーモクロミック色素としては、例えば、電子供与体の場合は、置換フェニルメタン、フルオラン類(例えば、3,3’−ジメトキシ−フルオラン、3−クロロ−6−フェニルアミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、3−ジエチル−7,8−ベンゾフルオラン、3,3’,3’’−トリス(p−ジ−メチルアミノフェニル)フタリド、3,3’−ビス(p−ジメチル−アミノフェニル)−7−フェニルアミノフルオランおよび3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−フェニルアミノ−フルオラン)、インドリルフタリド類、スピロピラン類およびクマリン類、ならびにこれらの物質の混合物が挙げられ、電子受容体の場合は、フェノール類、アゾール類、有機酸および有機酸のエステルならびに有機酸の塩が挙げられる。
【0028】
フェノール類としては、フェニルフェノール、ビスフェノールA、クレゾール、レゾルシノール、クロロルシノール(chlorolucinol)、フェノール、フェノールオリゴマー、β−ナフトール、1,5−ジヒドロキシナフタレン、ピロカテコール、ピロガロール、およびp−クロロフェノール ホルムアルデヒド縮合物の三量体が挙げられる。
【0029】
アゾール類としては、ベンゾ−トリアゾール(例えば、5−クロロベンゾトリアゾール、4−ラウリルアミノスルホ−ベンゾトリアゾール、5−ブチルベンゾトリアゾール、ジベンゾベンゾトリアゾール、2−オキシ−ベンゾトリアゾール、5−エトキシ−カルボニルベンゾトリアゾール、5,5’−メチレン−ビスベンゾトリアゾール)、イミダゾール(例えば、オキシベンズイミダゾール)およびテトラゾールが挙げられる。
【0030】
有機酸としては、例えば、芳香族カルボン酸、および脂肪族カルボン酸ならびにその置換された誘導体を含み、芳香族カルボン酸としては、サリチル酸、メチレンビスサリチル酸、β−レゾルシル酸、没食子酸、安息香酸、p−オキシ安息香酸(p−oxy−benzoic acid)、ピロメリト酸、β−ナフトエ酸、タンニン酸、トルイル酸、トリメリト酸、フタル酸、テレフタル酸およびアントラニル酸(anthranilic acid)、脂肪族カルボン酸としては、1〜20個の炭素原子、好ましくは3〜15個の炭素原子を有する酸(例えば、ステアリン酸、1,2−ヒドロキシステアリン酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、およびラウリン酸)、エステルとしては、アルキル基が1〜6個の炭素原子を含む芳香族カルボン酸のアルキルエステル(たとえば、没食子酸ブチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチルおよびサリチル酸メチル)が挙げられる。
【0031】
また上記有機酸の塩も利用することもでき、アンモニウム塩やリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、スズ塩、チタン塩およびニッケル塩などの金属塩も挙げることができる。
【0032】
さらに、酸反応性成分を含むサーモクロミック色素としては、トリフェニルメタンフタリド類、フタリド類、フタラン類、アシル−ロイコメチレンブルー化合物、フルオラン類、トリフェニルメタン類、ジフェニルメタン類、スピロピラン類およびこれらの物質の誘導体が挙げられ、具体的には、3,6−ジメトキシフルオラン、3,6−ジ−ブトキシフルオラン、3−ジエチルアミノ−6,8−ジメチルフルオラン、3−クロロ−6−フェニルアミノ−フルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−クロロ−フルオラン、3−ジエチル−アミノ−7,8−ベンゾフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−ジエチルアミノ−フルオラン、3,3’,3’’−トリス(p−ジメチルアミノ−フェニル)フタリド、3,3’−ビス(p−ジメチル−アミノフェニル)フタリド、3−ジエチルアミノ−7−フェニル−アミノフルオラン、3,3−ビス(p−ジエチルアミノ−フェニル)−6−ジメチルアミノ−フタリド、3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3−(4−ジエチルアミノ−2−メチル)フェニル−3−(1,2−ジメチルインドール−3−イル)フタリドおよび2’−(2−クロラニリノ)−6’−ジブチルアミノ−スピロ−[フタリド−3,9’−キサンテン]、また、酸性成分を含むサーモクロミック色素としては、1,2,3−ベンゾトリアゾール類、フェノール類、チオウレア類、オキソ芳香族カルボン酸類、およびこれらの物質の誘導体が挙げられ、具体的には、5−ブチルベンゾトリアゾール、ビスベンゾトリアゾール−5−メタン、フェノール、ノニルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、2,2’−ビフェノール、β−ナフトール、1,5−ジヒドロキシナフタレン、アルキル−p−ヒドロキシ安息香酸およびフェノール樹脂オリゴマーがある。
【0033】
上記の電子供与体および電子受容体を含む色素や酸反応性成分および酸性成分を含む色素からなるサーモクロミック化合物以外にも、液晶性コレステロール誘導体(例えば、コレステロールのアルカン酸(alkanic acid)エステルおよびアラルカン酸(aralkanic acid)エステル、コレステロールカーボネートのアルキルエステル)およびこれらの混合物も挙げることができる。
【0034】
特に、アルカン酸エステルやアラルカン酸エステルの場合は、炭素原子1〜24個のアルキル基およびアルカン酸基を有する誘導体が好ましく、さらには9〜22個の炭素原子を有するアルカン酸または安息香酸基およびアルキル部分に1〜3個の炭素原子を有するアラルカン酸基を含むコレステロールエステルおよびその誘導体が好ましく、コレステロールカーボネートのアルキルエステルの場合は、炭素原子1〜20個のアルキル基を有するコレステロールカーボネートエステルおよびその誘導体が好ましい。
【0035】
次に、本発明の歯ブラシ用毛材の製造方法について説明する。
【0036】
まず、モノフィラメントを製造するに際しては、公知の溶融紡糸方法を採用することができ、例えば1軸または2軸型エクストルーダーなどの溶融紡糸機やプレッシャーメルター型などの溶融紡糸機を使用することができる。
【0037】
そして予め乾燥した熱可塑性樹脂を溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機内で溶融混練した後、紡糸口金から溶融状態の熱可塑性樹脂を押し出す。
【0038】
次に、押し出された熱可塑性樹脂は、冷却媒体中に導かれて冷却固化される。なお、冷却媒体としては、例えば、水やポリエチレングリコールなどを挙げることができるが、熱可塑性樹脂の表面から容易に除去でき、化学的、物理的に本質的な変化を与えないものであれば特に限定はしない。
【0039】
そして、冷却固化された未延伸糸は、十分な強度を得るために加熱一段延伸または多段延伸され、さらに熱セットが施されてモノフィラメントとなる。
【0040】
なお、延伸および熱セットに使用する熱媒体についても、空気、温水、蒸気、ポリエチレングリコール、グリセリンおよびシリコーンオイルなどが挙げられるが、熱可塑性樹脂の表面から容易に除去でき、化学的、物理的に本質的な変化を与えないものであれば特に限定はしない。
【0041】
また、延伸条件については、使用する熱可塑性樹脂によって異なるが、温度範囲150〜300℃、トータル倍率3〜6倍で延伸することで十分な物理特性をもったモノフィラメントが得られる。
【0042】
また、モノフィラメントの断面形状は、その用途や目的に応じて円形、楕円形、扁平、正多角形または多角形であってもよく、さらには芯鞘複合構造や海島複合構造であってもよく、その直径についても特に限定はされないが、歯ブラシ用途としては0.1mm〜0.3mmの範囲が最もよく使用される。
【0043】
かくして得られたモノフィラメントの表面には、サーモクロミック化合物を含有する熱可塑性樹脂層が形成される。
【0044】
ここで、本発明においては、熱可塑性樹脂を分散させた水系サスペンジョンとサーモクロミック化合物とを混合した水系懸濁液を、例えばディップ法などによりモノフィラメント表面に塗布し、その後熱処理して熱可塑性樹脂層を固着する方法を採用する。
【0045】
熱可塑性樹脂を被覆するための一般的な溶剤としては炭化水素系、アルコール系、エステル系、ケトン系、エーテル系などの有機溶剤が挙げられるが、これらの有機溶剤を使用する場合は、熱可塑性樹脂層を固着するための熱処理において排気、防火、空気清浄設備等を整えなければならない。
【0046】
しかし、本発明のように水を溶媒とする水系混濁液を使用した場合は、熱処理において特別な排気、防火、空気清浄設備等を整える必要がなく、経済的にも有効である。
【0047】
また、モノフィラメントの表面にサーモクロミック化合物を含有する熱可塑性樹脂を形成する方法としては、サーモクロミック化合物をブレンドした熱可塑性樹脂混合物を鞘成分とした芯鞘複合紡糸方法があるが、この方法で行なうと紡糸機内で高温に晒されるためにサーモクロミック化合物の性能が失われて色調変化が生じなくなる恐れが高い。
【0048】
さらに、水系懸濁液に使用する熱可塑性樹脂は、モノフィラメントに使用の熱可塑性樹脂と同種のものを選ぶと熱可塑性樹脂層が固着しやすく、例えば、PBTなどのポリエステルモノフィラメントには共重合ポリエステル樹脂を、ポリアミドモノフィラメントには共重合ポリアミド樹脂を選択することが好ましい。
【0049】
なお、共重合ポリエステル樹脂の水系サスペンジョンとしては、例えば、エムスケミー・ジャパン株式会社製・商品名「Griltex D1377E Suspension」などを挙げることができる。
【0050】
また、本発明においては、水系懸濁液中の熱可塑性樹脂をレーザー回折散乱法で測定した際の平均粒子径(累積粒度分布率50%(D50))が5.0μm以下であることが必要であり、さらには2.0μm以下が好ましい。
【0051】
これは平均粒子径が上記範囲を上回ると水系懸濁液中の分散性が悪くなりやすく、熱可塑性樹脂層の厚みが不均一となって色相変化に斑が生じやすくなるためである。
【0052】
また、水系懸濁液中の熱可塑性樹脂の含有量は5〜40wt%であることが好ましく、熱可塑性樹脂の含有量が多いと水系懸濁液の流動性が低下して、モノフィラメントの表面に均一に固着されにくくなり、線形斑が大きくなって物理特性がばらつきやすく、色相変化にも斑が生じやすくなる。一方、熱可塑性樹脂の含有量が少ないとかえって熱可塑性樹脂層が均一に固着されにくくなり、色相斑の原因になりやすい。好ましくは線径斑2〜20%、さらには2〜10%が好ましい。
【0053】
なお、水系懸濁液中の熱可塑性樹脂の融点はモノフィラメントの構成素材の融点よりも低いことが好ましく、モノフィラメントの構成素材に応じて適宜選択できるが、融点が110〜180℃であることが好ましい。
【0054】
さらに、熱可塑性樹脂層を固着する熱処理温度は、水系懸濁液の溶媒が水であるために100℃以上であれば十分であるが、熱処理温度が低いと乾燥に時間が掛かるため生産性が悪いばかりか、熱処理時間が長くなるためにサーモクロミック化合物が熱の影響でその性能を失い色調変化に影響を及ぼしやすく、逆に熱処理温度が高いと水が急激に蒸発して表面に凹凸状の発泡傷が生じるために熱可塑性樹脂層が剥がれやすく、色相変化に影響を及ぼしやすいため、本発明においては150℃〜200℃で熱処理することが必要であり、さらには処理時間を考慮すれば150〜200℃で1.0〜5.0秒で熱処理することが好ましい。
【0055】
こうして表面にサーモクロミック化合物を含む熱可塑性樹脂が形成された熱可塑性樹脂モノフィラメントは、必要に応じて仕上げ油剤を付与して一旦巻き取られた後に必要長さにカットされてカットブリッスルとなり、さらに歯ブラシ用毛材として植毛されるが、さらに、カットブリッスルの片端もしくは両端にテーパー加工を施し、テーパードブリッスルとして、歯ブラシに使用することもできる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明のブラシ用毛材について、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
[サーモクロミック化合物]
0.2%のChromazone Red(登録商標)を以下a〜fに示すモノマー混合物に加えて分散剤で分散させた後、ケイ酸バリウムガラス粉末、フルオロケイ酸バリウムガラス粉末、火成シリカおよび三フッ化イッテルビウムで処理して均一なコンポジットを作製し、さらに400〜500nmの光を照射させて硬化させ、これを粉砕して平均粒子径0.5μmのサーモクロミック化合物粒子を得た。
【0058】
なお、このサーモクロミック化合物粒子は29℃以下では赤く発色し、29℃よりも高くなると赤い発色が消えて無色となる性質を持つ。
a:Bis−GMA/42.1wt%
b:7,7,9−トリメチル−4,13−ジオキソ−3,14−ジオキサ−5,12−ジアザヘキサデカン−1,16−ジオキシ−ジメタクリレート(ジウレタンジメタクリレート/37wt%
c:トリエチレングリコールジメタクリレート/20wt%
d:カンファーキノン/0.3wt%
e:ヒドロキノンモノエチルエーテル/0.1wt%
f:エチル−4−ジメチルアミノベンゾエート/0.5wt%
【0059】
[熱可塑性樹脂層の厚さ]
3本の歯ブラシ用毛材をミトクロームで厚さ15μmに輪切りにし、マイクロスコープ(KEEYENCE社製 デジタルHDマイクロスコープVH−7000)を使用して熱可塑性樹脂層の厚さを歯ブラシ用毛材1本につき4点測定し、合計12個(3本×4点)の測定値の平均を熱可塑性樹脂層の厚さとした。
【0060】
[線径斑]
熱可塑性樹脂モノフィラメントの直径(μm)を長さ方向に20箇所測定し、平均線径X(mean)、最大線径X(max)、最小線径X(min)から線径斑のバラツキR=X(max)−X(min)を求め、下記式(I)により線径斑(%)を算出した。
線径斑(%)=R/X(mean)×100・・・(I)
【0061】
[色相変化]
歯ブラシのブラシ部分をステンレス製の波板(波高1.5mm、波長2mm)に荷重500gをかけ、37℃の温水を滴下させながら、歯ブラシの長手方向に180回/分のスピードで摺動させながらブラシ部分の色相変化(赤色から無色)を確認した。
【0062】
なお、色相変化の確認はプレート状の色見本サンプルを用いて比較し、赤色が30%薄くなった時点の摺動時間を測定した。
【0063】
また、本試験の歯ブラシの仕様は次の通りである。
基台:ABS製(9mm×22mm)
植毛孔数:34箇
植毛本数:一つの孔につき20本
毛丈:10mm
【0064】
[色相斑]
色相変化評価に際して、歯ブラシの植毛部分全体の色相斑について目視で確認し、次の指標で表した。
A:色相斑はなかった、
B:色相斑は目立たない程度であった、
C:色相斑がはっきりと目立った。
【0065】
[モノフィラメント]
以下、実施例および比較例には直径0.190mmのPBTモノフィラメントを使用した。なおPBTモノフィラメントは以下の方法で製造したものである。
【0066】
予め乾燥したPBTペレット(東レ株式会社製 トレコン 1200S)をエクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、紡糸機内で溶融混練して紡糸口金から押出し、水中に導いて冷却固化した未延伸糸を温水浴および乾熱浴でトータル倍率4.5倍の2段延伸を行い、さらに熱セットを施して巻き取った。
【0067】
[実施例1]
平均粒子径3.0μmの共重合ポリエステル固体粒子20wt%とサーモクロミック化合物粒子0.5wt%との水系懸濁液を調整した。
【0068】
次にPBTモノフィラメントの表面に水系懸濁液をディップ法で塗布し、170℃の熱風炉内で3秒間熱処理することにより、厚さ10μmの熱可塑性樹脂層にサーモクロミック化合物を2.4wt%含有する熱可塑性樹脂モノフィラメントを得た。
【0069】
この熱可塑性樹脂モノフィラメントのカットブリッスルを歯ブラシ用毛材として評価を行った。
【0070】
[実施例2]
水懸濁液中のサーモクロミック化合物粒子を3wt%に変更し、実施例1と同じ方法で厚さ10μmの熱可塑性樹脂層にサーモクロミック化合物を13wt%含有する熱可塑性樹脂モノフィラメントを得た。そして、そのカットブリッスルを歯ブラシ用毛材として評価を行った。
【0071】
[実施例3]
熱可塑性樹脂層の厚さを3μmに変更したこと以外は実施例2と同じ方法で熱可塑性樹脂モノフィラメントを得た。そして、そのカットブリッスルを歯ブラシ用毛材として評価を行った。
【0072】
[実施例4]
熱可塑性樹脂層の厚さを42μmに変更したこと以外は実施例2と同じ方法で熱可塑性樹脂モノフィラメントを得た。そして、そのカットブリッスルを歯ブラシ用毛材として評価を行った。
【0073】
[実施例5]
水懸濁液中の共重合ポリエステル固体粒子の含有量を35wt%に変更したこと以外は実施例2と同じ方法で熱可塑性樹脂モノフィラメントを得た。そして、そのカットブリッスルを歯ブラシ用毛材として評価を行った。
【0074】
[実施例6]
共重合ポリエステル固体粒子の平均粒子径を1.5μmに変更したこと以外は実施例4と同じ方法で熱可塑性樹脂モノフィラメントを得た。そして、そのカットブリッスルを歯ブラシ用毛材として評価を行った。
【0075】
[比較例1]
水懸濁液中のサーモクロミック化合物粒子を0.05wt%に変更し、実施例1と同じ方法で厚さ10μmの熱可塑性樹脂層にサーモクロミック化合物を0.25wt%含有する熱可塑性樹脂モノフィラメントを得た。そして、そのカットブリッスルを歯ブラシ用毛材として評価を行った。
【0076】
[比較例2]
水懸濁液中のサーモクロミック化合物粒子を6wt%に変更し、実施例1と同じ方法で厚さ10μmの熱可塑性樹脂層にサーモクロミック化合物を23wt%含有する熱可塑性樹脂モノフィラメントを得た。そして、そのカットブリッスルを歯ブラシ用毛材として評価を行った。
【0077】
[比較例3]
共重合ポリエステル固体粒子の平均粒子径を7μmに変更したこと以外は実施例1と同じ方法で熱可塑性樹脂モノフィラメントを得た。そして、そのカットブリッスルを歯ブラシ用毛材として評価を行った。
【0078】
[比較例4]
熱可塑性樹脂層を形成する際の熱処理温度を220℃で行ったこと意外は実施例1と同じ方法で熱可塑性樹脂モノフィラメントを得た。そして、そのカットブリッスルを歯ブラシ用毛材として評価を行った。
【0079】
[比較例5]
予め乾燥したPBTペレット(東レ株式会社製 トレコン 1200S)88wt%とサーモクロミック化合物12wt%との混合物を2軸型の溶融混練押出機に供給し、口金からストランド状に押し出して水中に導き、冷却固化した未延伸糸をカットしてサーモクロミック化合物入りのPBTペレットを作製した。
【0080】
その後、PBTペレットを芯成分、カットしてサーモクロミック化合物入りのPBTペレットを鞘成分としてエクストルーダー型の複合溶融紡糸機に供給し、紡糸機内で溶融混練して紡糸口金から押出し、水中に導いて冷却固化した未延伸糸を温水浴および乾熱浴でトータル倍率4.5倍の2段延伸を行い、さらに熱セットを施して、鞘厚み10μmで鞘部にサーモクロミック化合物を12wt%含有する芯鞘複合構造の熱可塑性樹脂モノフィラメントを得た。そして、そのカットブリッスルを歯ブラシ用毛材として評価を行った。
【0081】
【表1】

【0082】
表1の結果から分かるように、本発明の歯ブラシ用毛材(実施例1〜5)は約2〜5分で色相が赤色から無色に変化し、歯磨きに必要な時間を適正に示すインジケーター機能を持つことが分かる。
【0083】
特に実施例2の歯ブラシ用毛材は、熱可塑性樹脂層内のサーモクロミック化合物量が少ない実施例1に比べて色相変化がはっきりと現れて視認しやすい。
【0084】
また、実施例3の歯ブラシ用毛材は、実施例1と同じぐらいの色相変化時間であったが、これは熱可塑性樹脂層が薄いために摩耗してしまい薄くなったとも考えられる。
【0085】
さらに、実施例4の歯ブラシ用毛材は熱可塑性樹脂層がやや厚いため、実施例5の歯ブラシ用毛材は水懸濁液中の共重合ポリエステル固体粒子の含有量が多いため、線形斑になって色相斑が生じたと考えられる。
【0086】
しかし、共重合ポリエステル固体粒子の平均粒子径を小さくすることで、水系懸濁液中の分散性が良くなって熱可塑性樹脂層の厚みが均一となり、色相斑が良くなったことが実施例6の歯ブラシ用毛材から分かる。
【0087】
しかし、サーモクロミック化合物の含有量が少ない比較例1の歯ブラシ用毛材は、変色前の色自体がもともと薄いために色相変化が分かりにくく、逆にサーモクロミック化合物の含有量が多い比較例2の歯ブラシ用毛材は、色相変化する時間が短くて、適正な歯磨き時間を示しにくい。
【0088】
また、水懸濁液中の共重合ポリエステル固体粒子の平均粒子径を大きくすると水系懸濁液中の分散性が悪くなって熱可塑性樹脂層の厚みが不均一となり、比較例3の歯ブラシ用毛材のように色相斑が生じやすくなる。
【0089】
さらに、比較例4の歯ブラシ用毛材のように、熱処理温度を高くした場合は、熱可塑性樹脂モノフィラメント表面に凹凸状の発泡傷が生じるために熱可塑性樹脂層が剥がれやすく、色相斑の原因となりやすい。
【0090】
さらにまた、比較例5の歯ブラシ用毛材は、その結果を表1には示さなかったが、溶融紡糸機内で高温に晒されたためにサーモクロミック化合物の性能が失われて色相変化が殆ど現れなかった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上、説明したように、本発明の歯ブラシ用毛材は、毛材の色相変化により口内清掃が十分に達成されたことを確認できるインジケーター機能を発揮するという、従来にない新規な性能を有することから、歯周病対策としてブラッシング時間の指標を決めることで、歯周病患者の拡大防止効果を期待することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂モノフィラメントのカットブリッスルからなる歯ブラシ用毛材であって、前記熱可塑性樹脂モノフィラメントの表面には温度変化に応じて色相が変化するサーモクロミック化合物を0.5〜20wt%含有する熱可塑性樹脂層が形成されていることを特徴とする歯ブラシ用毛材。
【請求項2】
前記サーモクロミック化合物を含有する熱可塑性樹脂層の厚さが10〜40μmであることを特徴とする請求項1に記載の歯ブラシ用毛材。
【請求項3】
熱可塑性樹脂モノフィラメントの表面に、サーモクロミック化合物と、平均粒子径5.0μm以下、融点110℃〜180℃の熱可塑性樹脂とを含有する水系懸濁液を塗布した後、定長または弛緩条件下、150℃〜200℃の温度で熱処理することにより、熱可塑性樹脂モノフィラメントの表面にサーモクロミック化合物を含有する熱可塑性樹脂層を固着させ、次いで得られた熱可塑樹脂モノフィラメントを所望の長さにカットすることを特徴とする請求項1または2に記載の歯ブラシ用毛材の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の歯ブラシ用毛材を毛材の少なくとも一部に使用したことを特徴とする歯ブラシ。

【公開番号】特開2012−229500(P2012−229500A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97134(P2011−97134)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】