説明

歯付ベルト

【課題】反りを阻止しつつ、その駆動抵抗を小さくすることができる歯付ベルトを提供する。
【解決手段】ベルト本体1の内周面にベルト歯3を形成し、ベルト本体1に心線2を周方向に連続して埋設し、ベルト歯3を歯布4で被覆する。心線2よりも外周側に、歯付ベルトの反りを阻止する中間帆布5を埋設する。中間帆布5の空孔率を20%以上に設定して、中間帆布5の内外のゴムを一体にする。中間帆布5を心線2に外周側から接触させて、心線2の中心から中間帆布5までの距離を最小限にする。中間帆布5の伸びを抑え、さらにベルト厚さを薄くて歯付ベルトの曲げ剛性を極力小さくし、駆動抵抗を小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば搬送用ベルトとして使用され、その搬送面を平滑に保って搬送物の搬送能力を安定させる抗張体を埋設した歯付ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、搬送用ベルトとして使用される歯付ベルトは、ゴムからなるベルト本体に周方向に連続する心線を埋設すると共に、ベルト本体の内周面に形成されたベルト歯を歯布で被覆した構造とされる。この歯付ベルトは、歯ゴムの収縮を歯布が規制すると共に背ゴムがベルト幅方向に収縮することによってベルト幅方向に反りを生じさせ、搬送ベルトとしての搬送能力を低下させるおそれがある。
【0003】
このような歯付ベルトの反りを阻止するため、図3に示すように、ベルト歯101を歯布102で被覆すると共に、ベルト背部103に中間帆布(抗張体)104を埋設することがある(例えば特許文献1)。中間帆布104は、歯底付近に埋設された心線105よりも外周側に埋設され、ゴムの収縮による歯付ベルトの反りを阻止している。
【特許文献1】実用新案登録第3026320号公報(段落番号0003、段落番号0008、段落番号0022、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年の特に軽量物(コイン、紙幣、カードなど)を搬送する機械には、省エネルギーの観点から、より小出力のモータが使われており、歯付ベルト自体を駆動させる動力も無視できない。しかし、上記の歯付ベルトに埋設された中間帆布は、歯付ベルトがプーリに巻き付く際のベルト厚さ方向の曲げに抵抗するため、歯付ベルトの駆動抵抗を大きくしやすい。
【0005】
本発明は、ベルトの反りを阻止する抗張体を埋設し、さらに、その駆動抵抗も小さくすることができる歯付ベルトの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る歯付ベルトは、内周面にベルト歯が形成されたベルト本体と、ベルト本体に周方向に連続して埋設された心線と、ベルト歯を被覆する歯布とを備え、ベルト本体の心線よりも外周側に、ベルト幅方向に剛性を有する抗張体を埋設したものであり、その抗張体を心線に接触するようベルト厚さ方向の位置を設定したものである。
【0007】
この構成によれば、抗張体を埋設して反りを阻止すると共に、その抗張体を心線に接触させるので、心線の中心から抗張体までの距離を最小限にすることができる。心線の中心は、歯付ベルトがプーリに巻き付いたときの周方向の伸びがほぼゼロになる部位であり、この心線の中心から抗張体までの距離を短くすることにより、周方向における抗張体の伸びを抑えて歯付ベルトの曲げ抵抗を極力小さくし、その駆動抵抗を小さくすることができる。また、心線と抗張体との間に間隔を空けた構造よりもベルト厚さを薄くすることができるので、ベルト本体自体の曲げ抵抗による駆動抵抗をも小さくすることができる。
【0008】
抗張体は、ベルト本体を加硫成形する際に流動するゴムを通過させる程度の空孔率に設定する。そうすれば、抗張体の背面側から巻き付けた未加硫ゴムを抗張体を通して歯ゴム部分まで流動させて加硫することができ、抗張体の内外に別体のゴムを巻き付ける場合に比べて生産性が良好になる。
【0009】
流動するゴムを通過させるには、抗張体の空孔率を20%以上に設定すればよい。ここで、空孔率とは、抗張体のうちのゴムを通過させる隙間や開口の面積(a)と、抗張体の面積(A)との比率(a/A)のことである。空孔率は、20%以上であれば、100%未満までの間で適宜選定することができる。また、流動するゴムを均等に通過させるには、抗張体を略均等に空孔を有するように設定するのがよい。
【0010】
抗張体は、その材質により硬さも変化するので、要求される抗張力に合わせて材質と空孔率とを適宜選定する。抗張体としては、粗目の織物からなる中間帆布やスダレ、金属製のメッシュなどを例示でき、その他にも、ベルト幅方向に剛性を有するものであればよく、周方向の剛性が小さいものであればより好ましい。
【0011】
搬送用ベルトは、その搬送能力を低下させないように反りを阻止することが求められるものであり、上記の構成の歯付ベルトを搬送用ベルトとして使用すれば、本発明の好適な態様を提供することができる。
【0012】
また、本発明は、ベルト本体の内周面に形成されたベルト歯を歯布で被覆すると共に、ベルト本体に、周方向に連続する心線と、この心線に外周側から接触する抗張体とを埋設してなる歯付ベルトを製造する方法を提供する。
【0013】
具体的には、ベルト歯に対応する歯溝が形成された金型の外周面に歯布を被せて、その外側に心線を巻き付ける。次いで、その外側に抗張体を被せて又は巻き付けて、その外側に未加硫ゴムシートを巻き付ける。その後、未加硫ゴムシートの一部を抗張体の空孔と心線間の隙間とを通過させて金型の歯溝に流入させつつ加硫成形する。
【0014】
この構成によれば、抗張体の空孔を通過させることにより、抗張体の外側に巻き付けた未加硫ゴムの一部を金型の歯溝に流入させるので、抗張体の内側に歯ゴムに成形するための未加硫ゴムシートを巻き付ける工程を省略することができる。また、心線の外側に直接に抗張体を配置するので、ベルトの反りを規制しつつ、ベルト厚さが薄くて駆動抵抗の小さい歯付ベルトを製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のとおり、本発明によると、中間帆布などの抗張体を心線に接触させて埋設するので、歯付ベルトの反りを阻止しつつ、歯付ベルトの駆動抵抗を小さくすることができ、さらに、ベルト厚さを薄くして省スペース化を図ることができる。また、加硫成形する際に抗張体を通過させることにより、抗張体の内外の歯ゴムおよび背ゴムを一体に成形するので、その分、製造の工数を少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る歯付ベルトを実施するための最良の形態について、図面を用いて説明する。図1は本発明に係る歯付ベルトの断面図である。
【0017】
この歯付ベルトは、搬送用ベルトとして使用されるものであり、環状のベルト本体1と、ベルト本体1に周方向に連続して埋設された心線2と、ベルト本体1の内周面に形成されたベルト歯3を被覆する歯布4と、ベルト本体1に埋設された抗張体としての中間帆布5とを備え、その中間帆布5が心線2に外周側から接触するよう配置されている。
【0018】
ベルト本体1は、例えばクロロプレンゴムからなるゴム製とされ、その内周面のベルト歯3が歯付プーリのプーリ歯に噛み合うようになっている。心線2は、ガラス繊維を撚り合わせたガラス心線などであり、ベルト歯3の歯底付近に位置するようにベルト本体1に埋設され、歯付ベルトに作用する周方向の引張力を受け持つ。歯布4は、例えばナイロン製の布をゴム糊などに浸漬させてなり、ベルト歯3の表面を覆って補強する。
【0019】
中間帆布5は、例えばナイロン製の粗目の織物からなる布(表1では「粗め帆布」と記す)とされ、ベルト本体1を加硫成形する際に流動するゴムを通過させるように、その空孔率を20%以上に設定されている。この中間帆布5は、ベルト幅方向の剛性を歯付ベルトの反りを阻止する程度の大きさに設定されている。
【0020】
次に、本発明に係る歯付ベルトと従来の歯付ベルトとを比較した結果を説明する。まず、表1に比較する歯付ベルトのベルト仕様を示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1において、「比較例1」は、中間帆布を設けない従来の歯付ベルトであり、「比較例2」は、心線と間隔を空けて中間帆布を設けた従来の歯付ベルトであり、「本発明実施例」は、心線に接触させて中間帆布を設けた本発明に係る歯付ベルトである。
【0023】
いずれの歯付ベルトも歯布4にナイロン布を、心線2にガラス心線を採用している。また、いずれの歯付ベルトもベルト本体1にクロロプレンゴム(未加硫状態で厚さが0.8mmのゴムシート)を採用しているが、「比較例1」および「本発明実施例」は、ベルト本体1の歯ゴムおよび背ゴムを一体に成形し、「比較例2」は、ベルト本体1の歯ゴムおよび背ゴムを別体に形成している。「比較例2」の中間帆布5は、歯布4に用いるものと同じナイロン布であり、「本発明実施例」の中間帆布5は、空孔率が20%以上の粗め帆布である。
【0024】
表2に測定結果として、歯付ベルトのベルト反り、ベルト厚さ、駆動抵抗を示す。これらの項目を測定する歯付ベルトは、歯ピッチが2.032mm、歯数が334歯、ベルト幅が10mmである。歯付ベルトを掛巻するプーリは、駆動プーリおよび従動プーリの歯数が共に20歯、回転速度が530rpmであり、歯付ベルトの取付張力が12.4Nである。
【0025】
ベルト反りは、ベルト背面の任意の点からベルト背面の幅方向両縁を結ぶ直線までの距離(mm)のうちの最大値である。ベルト厚さは、ベルト背面からベルト歯先面までの厚さである。駆動抵抗は、駆動プーリのトルクと従動プーリのトルクの差である。
【0026】
また、図2は表2に示した測定結果をグラフ化したものであり、図2(a)は歯付ベルトのベルト反りを比較する図、図2(b)は歯付ベルトのベルト厚さを比較する図、図2(c)は歯付ベルトの駆動抵抗を比較する図である。
【0027】
【表2】

【0028】
表2および図2に示すように、ベルトの反りについては、「比較例1」が大きい値(0.85mm)を示し、「比較例2」および「本発明実施例」が小さい値(0.31mm、0.32mm)を示している。これは、「比較例1」では、収縮しようとするベルト本体1の内周面だけを歯布4が拘束するのに対し、「比較例2」および「本発明実施例」では、歯布4および中間帆布5がベルト本体1の二面を拘束してベルトの反りを抑えるからである。
【0029】
ベルト厚さについては、「比較例1」および「本発明実施例」が薄く(1.5mm)、「比較例2」が厚く(1.75mm)なっている。これは、「比較例2」では、心線2と中間帆布5との間に間隔を空けているからである。
【0030】
駆動抵抗については、「比較例2」で駆動抵抗が大きく(0.115N・cm)なっている。これは、「比較例2」では、周方向の伸びがほぼ0である心線2と中間帆布5との間に間隔を空けているので、中間帆布5が、歯付プーリに巻き付く際の歯付ベルトの曲げに抵抗し、さらに、ベルト厚さが厚い分、ベルト本体1の曲げ剛性も大きくなるからである。
【0031】
これに対し、「比較例1」および「本発明実施例」では駆動抵抗が小さく(0.103N・cm、0.106N・cm)なっている。これは、中間帆布5が存在しない、又は心線2の位置までの距離が極めて短いため、中間帆布5が、歯付ベルトの曲げ剛性に寄与しにくく、さらに、ベルト厚さが薄い分、ベルト本体1による曲げ剛性も小さくなるからである。
【0032】
このように、本発明に係る歯付ベルトは、中間帆布5によって反りを抑えつつ、ベルト厚さを薄くして駆動抵抗を小さくすることができる。
【0033】
次に、本発明に係る歯付ベルトの製造方法を説明する。まず、ベルト歯3に対応する歯溝が形成された金型の外周面に歯布4を巻き付けて、その外側に心線2をスパイラル状に巻き付ける。次いで、その外側に中間帆布5を巻き付けて、その外側にベルト本体1に成形するクロロプレンゴムの未加硫ゴムシートを巻き付ける。
【0034】
その後、未加硫ゴムシートの外側に、例えばゴム製で筒状のシェルバッグを被せて加硫釜内で加熱加圧することにより、未加硫ゴムシートを加硫成形する。このとき、未加硫ゴムシートは、その一部が中間帆布5の網目と心線2間の隙間とを通過し、歯布4を押し込むように金型の歯溝に流入してベルト歯3に形成される。
【0035】
これにより、ベルト本体1の内周面に形成されたベルト歯3を歯布4で被覆すると共に、ベルト本体1に、周方向に連続する心線2と、心線2に外周側から接触する中間帆布5とを埋設してなる歯付ベルトが構成される。これをシェルバッグおよび金型から取り外して背面研磨、印刷および所定幅への裁断を施して歯付ベルトの製造が完了する。
【0036】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、適宜変更を加えることができる。例えば、歯付ベルトは、搬送用ベルトとして使用するものに限定されず、他の用途に使用するものであってもよい。また、抗張体としては、織物からなる中間帆布に代えて、スダレや金属製のメッシュなどであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る歯付ベルトの断面図
【図2】歯付ベルトのベルト反り、ベルト厚さ、駆動抵抗を比較する図
【図3】従来の中間帆布を備えた歯付ベルトの断面図
【符号の説明】
【0038】
1 ベルト本体
2 心線
3 ベルト歯
4 歯布
5 中間帆布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面にベルト歯が形成されたベルト本体と、該ベルト本体に周方向に連続して埋設された心線と、前記ベルト歯を被覆する歯布とを備え、前記ベルト本体の心線よりも外周側に、ベルト幅方向に剛性を有する抗張体が埋設された歯付ベルトにおいて、前記抗張体は、前記心線に接触するようベルト厚さ方向の位置に設定されたことを特徴とする歯付ベルト。
【請求項2】
前記抗張体は、ベルト本体を加硫成形する際に流動するゴムを通過させる程度の空孔率に設定されたことを特徴とする請求項1に記載の歯付ベルト。
【請求項3】
前記抗張体は、その空孔率を20%以上に設定されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の歯付ベルト。
【請求項4】
前記抗張体は、略均等に空孔を有するように設定されたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の歯付ベルト。
【請求項5】
搬送用ベルトとして使用されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の歯付ベルト。
【請求項6】
ベルト本体の内周面に形成されたベルト歯を歯布で被覆すると共に、前記ベルト本体に、周方向に連続する心線と、該心線に外周側から接触する抗張体とを埋設してなる歯付ベルトを製造する方法であって、
前記ベルト歯に対応する歯溝が形成された金型の外周面に歯布を被せて、その外側に心線を巻き付け、次いで、その外側に抗張体を被せて又は巻き付けて、その外側に未加硫ゴムシートを巻き付け、その後、前記未加硫ゴムシートの一部を抗張体の空孔と心線間の隙間とを通過させて前記金型の歯溝に流入させつつ、該未加硫ゴムシートを加硫成形することを特徴とする歯付ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−70071(P2007−70071A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260011(P2005−260011)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)
【Fターム(参考)】