説明

歯付ベルト

【課題】油剤の付着による劣化を抑制することができる歯付ベルトを提供する。
【解決手段】歯付ベルト10は、ベルト内周側にベルト長さ方向に並んだ複数の歯部11aを有する歯付ベルト本体11と、それに埋設されベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配されたアラミド繊維製の心線12と、歯付ベルト本体11の歯部側表面を被覆するようにNBR組成物又はH−NBR組成物で形成されたゴム糊層を介して設けられた歯部側補強布13と、を備える。歯付ベルト本体11は、上記ゴム糊層が接触する部分がNBR組成物又はH−NBR組成物で形成されており、歯部側補強布13は、NBRラテックス又はH−NBRラテックスをラテックス成分とし且つカーボンブラックを含有したRFL水溶液により形成されたRFL被膜で表面が被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯付ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
歯付ベルトとして、歯部表面が歯部側補強布で被覆された構成のものが公知である。このような歯付ベルトでは、製造時に歯部側補強布の織り目からゴムがしみ出し、使用時にそれが摩耗粉となって飛散するという問題がある。
【0003】
特許文献1には、エチレンプロピレンゴムで形成された歯付ベルト本体と、エポキシ化ポリエチレンラテックスのレゾルシン・ホルマリン・ラテックス水溶液(以下、「RFL水溶液」という。)による接着処理が施され且つエチレンプロピレンゴムのゴム糊で歯付ベルト本体側をコートする接着処理が施された歯部側補強布を備えた歯付ベルトが開示されている。
【0004】
特許文献2には、RFL固形分付着量が10〜50質量%となるようにRFL接着処理が施され且つエチレンプロピレンゴムのゴム糊で歯付ベルト本体側をコートする接着処理が施された歯部側補強布を備えた歯付ベルトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−343658号公報
【特許文献2】特開2002−137309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
送り運動手段として歯付ベルトが用いられる切削加工用の工作機械としては、例えば、旋盤、ボール盤、中ぐり盤、フライス盤、平削り盤、形削り盤、立削り盤、ブローチ盤、研削盤、マシニングセンタ等が挙げられる。また、このような工作機械において、切削加工を行うときには優れた潤滑性を得る目的や冷却の目的で切削油剤が使用されるが、かかる切削油剤としては、例えば、JIS K2241にA種として規定されている水溶性切削油剤、及びN種として規定されている不水溶性切削油剤が挙げられる。水溶性切削油剤は主として冷却の目的で用いられ、一方、不水溶性切削油剤は主として優れた潤滑性を得る目的で用いられる。
【0007】
ところで、切削加工用の工作機械の使用時には、切削油剤が歯付ベルトの表面に付着することがある。
【0008】
不水溶性切削油剤が表面に付着しても歯部表面の摩擦係数が高くなることはない。しかしながら、水溶性切削油剤が表面に付着すると、その状態で長期間にわたってベルトの稼動が行われない場合には、歯部表面が乾燥し、歯部表面の摩擦係数が高くことでプーリ噛み合い時のベルト摩擦係数が大きくなるためゴムが摩耗し、歯部表面に摩耗されたゴム粉が粘着・堆積する現象が起こる。しかも、長期間にわたってベルトの稼動が行われない場合には、歯部表面へのゴム粉の堆積がより助長されてしまうことになり、その結果として、歯付ベルトと歯付プーリとの噛み合いが悪化し、伝動不能(スキップ)の原因となる。
【0009】
本発明の目的は、油剤の付着による劣化を抑制することができる歯付ベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の歯付ベルトは、ベルト内周側にベルト長さ方向に並んだ複数の歯部を有する歯付ベルト本体と、該歯付ベルト本体に埋設されベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配されたアラミド繊維製の心線と、該歯付ベルト本体の歯部側表面を被覆するようにアクリロニトリルゴム組成物又は水素添加アクリロニトリルゴム組成物で形成されたゴム糊層を介して設けられた歯部側補強布と、を備え、
上記歯付ベルト本体は、上記ゴム糊層が接触する部分がアクリロニトリルゴム組成物又は水素添加アクリロニトリルゴム組成物で形成されており、
上記歯部側補強布は、アクリロニトリルゴムラテックス又は水素添加アクリロニトリルゴムラテックスをラテックス成分とし且つカーボンブラックを含有したRFL水溶液により形成されたRFL被膜で表面が被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、歯付ベルト本体の歯部側表面を被覆するようにゴム糊層を介して設けられた歯部側補強布を備え、その歯部側補強布はRFL被膜で表面が覆われているので、ゴム糊層が歯部のプーリ接触側表面にしみ出すのを抑制することができ、ゴム糊層が歯部のプーリ接触側表面に設けられておらずしかもしみ出しが抑制されることにより、ゴム糊が摩耗されてゴム粉となって歯部のプーリ接触側表面に堆積するのを抑制することができる。そして、結果として、歯部のプーリ接触側表面の摩擦係数を低い状態で維持することが可能となる。
【0012】
また、歯付ベルト本体はゴム糊層が接触する部分がアクリロニトリルゴム組成物又は水素添加アクリロニトリルゴム組成物で形成されており、ゴム糊層はアクリロニトリルゴム組成物又は水素添加アクリロニトリルゴム組成物で形成されており、歯部側補強布はアクリロニトリルゴムラテックス又は水素添加アクリロニトリルゴムラテックスをラテックス成分とし且つカーボンブラックを含有したRFL水溶液により形成されたRFL被膜で表面が被覆されて、さらに歯付ベルト本体にはベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するようにアラミド繊維製の心線が配されているので、優れた耐油性を得ることができると共に、カーボンブラックにより、補強性に優れた黒色の歯部側補強布を得ることができる。
【0013】
そして、本発明によれば、歯部のプーリ接触側表面の摩擦係数を低い状態で維持することができ、しかも、歯付ベルトが耐油性に優れているので、油剤の付着によって歯付ベルトが劣化するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】歯付ベルトの斜視図である。
【図2】マシニングセンタの割出装置部のベルト伝動装置のプーリレイアウトを示す。
【図3】摩擦係数測定試験機を示す図である。
【図4】ベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【図5】摩耗量の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(歯付ベルト)
図1は、実施形態にかかる歯付ベルト10を示す。
【0016】
この歯付ベルト10は、歯付ベルト本体11には心線12が埋設され、歯部側表面にはゴム糊層を介して歯部側補強布13が設けられた構成を有する。この歯付ベルト10は、例えば、工作機械を構成するベルト伝動装置に巻き掛けられて用いられる。特に、稼動時間が年間3〜120時間程度である工作機械の伝動用途に好適に用いられる。歯付ベルト10は、例えば、ベルト周長が500〜3000mm、ベルト幅が10〜200mm、及びベルト厚さが3〜20mmである。
【0017】
歯付ベルト本体11は、ベルト内周に、各々、間隔を置いて一定ピッチで設けられた複数の歯部11aを有する一方、ベルト外周が平坦な背面部11bに構成されている。
【0018】
歯部11aは、背面部11bのベルト内周側に、背面部11bと一体となるようにして、ベルト長さ方向に一定間隔で設けられている。歯部11aは、例えば、幅0.63〜16.46mm、歯ピッチ1.0〜31.75mm、及び歯高さ0.37〜9.6mmである。歯部11aは、側面視形状が台形である台形歯に形成されていても、また、半円形である丸歯に形成されていても、さらには、その他の形状に形成されていてもよい。歯部11aは、ベルト幅方向に延びるように設けられた構成であってもよく、また、ベルト幅方向に対して傾斜する方向に延びるように設けられたハス歯構成であってもよい。
【0019】
背面部11bは、横長平帯状に形成されている。背面部11bは、例えば、厚さ0.55〜6.20mmである。背面部11bの内周側層には、心線12がベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように埋設されている。
【0020】
歯付ベルト本体11は、原料ゴムに種々の配合剤が配合されたゴム組成物で形成されている。なお、このゴム組成物は、原料ゴムに配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物を加熱及び加圧して架橋剤により架橋させたものである。
【0021】
原料ゴムは、優れた耐油性の観点から、アクリロニトリルゴム(NBR)又は水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)である。原料ゴムとしては、単一種で構成されていても、また、複数種で構成されていても、いずれでもよい。原料ゴムが複数種で構成されている場合、アクリロニトリルゴム(NBR)や水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)以外のゴム成分を含んでいてもよいが、アクリロニトリルゴム(NBR)又は水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)のゴム成分が原料ゴム全体の50〜100質量%であることが好ましい。
【0022】
配合剤としては、例えば、架橋剤(例えば、硫黄、有機過酸化物)、老化防止剤、加工助剤、可塑剤、充填材、カーボンブラックやシリカや短繊維等の補強材等が挙げられる。各配合剤については、単一種で構成されていても、また、複数種で構成されていても、いずれでもよい。
【0023】
心線12は、優れた耐油性を有する長尺のアラミド繊維の撚り糸で構成されている。心線12を構成するアラミド繊維としては、メタアラミド繊維やパラアラミド繊維が挙げられる。心線12は、例えば径が0.4〜2.6mmである。心線12は、歯付ベルト本体11に対する接着性付与のために、例えば、成形加工前にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する接着処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理が行われている。心線12は、ベルト幅方向の補強のために、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配されている。
【0024】
歯付ベルト本体11は、歯部11a側表面にゴム糊層を介して歯部側補強布13が設けられている。
【0025】
歯部側補強布13は、繊維材料からなり、平織り、綾織り、朱子織などの織布、編み物、或いは、不織布等の布で構成されている。歯部側補強布13を構成する布は、歯部11aを被覆する作業が容易になる観点から、ベルト長さ方向に伸性を有することが好ましい。具体的には、歯部側補強布13を構成する布が織布の場合、ウーリー糸や、ベルト長さ方向に延びる糸としてポリウレタン糸を芯材としてそれに繊維材料をカバーリングした、或いは、ダブルカバーリングした糸を用いればよい。そして、歯部側補強布13の表面には、RFL水溶液によるRFL被膜が形成されている。
【0026】
歯部側補強布13を構成する繊維材料としては、例えば、6,6−ナイロンや4,6−ナイロンや6−ナイロン等のナイロン繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維等が挙げられる。歯部側補強布13は、例えば、厚さが0.4〜2.0mmである。
【0027】
RFL被膜は、歯部側補強布13の繊維表面に形成されている。RFL被膜は、歯部側補強布13に対する付着量が、歯部側補強布13の100質量部に対して5〜30質量部であることが好ましい。RFL被膜の付着量が5質量部未満のとき、歯部側補強布13の表面に歯ゴムがしみ出すのを防ぐ効果が低下し、しみ出した歯ゴムによりゴムの摩擦係数が大きくなり、それによって歯付ベルト10が粘着摩耗を起こして早期破損してしまう。また、RFL被膜の付着量が30質量部より多いとき、RFL被膜付着後の歯部側補強布13の伸縮性が低下し、歯付ベルト10の製造工程において歯部11aに歯部側補強布13を貼付するのが困難になる。
【0028】
RFL被膜は、歯部側補強布13を構成する繊維材料がRFL水溶液に浸漬された後に、それを加熱乾燥する処理が施されることによって形成される。なお、RFL水溶液は、レゾルシンとホルマリン(ホルムアルデヒド)との初期縮合物にラテックスを混合した混合液である。RFL被膜を形成するためのRFL水溶液にはカーボンブラックが含まれているので、RFL被膜は黒色である。
【0029】
RFL水溶液に混合されるラテックスは、少なくともアクリロニトリルゴム(NBR)ラテックス又は水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)ラテックスを含む。ラテックスについては、単一種で構成してもよく、また、複数種を混合して構成してもよい。また、ラテックスを複数種混合する場合、アクリロニトリルゴム(NBR)ラテックス又は水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)ラテックス以外のラテックスを混合してもよい。
【0030】
RFL水溶液に含まれるカーボンブラックは、カーボンブラック分散液としてRFL水溶液と混合されていることが好ましい。カーボンブラック分散液は、例えば、RFL水溶液の固形分100質量部に対してカーボンブラック固形分として1〜50質量部配合されている。
【0031】
なお、RFL水溶液は、例えば、固形分がRFL水溶液全体の質量に対して5〜30質量%である。レゾルシン(R)とホルマリン(F)とのモル比は、例えば1/0.8〜1/2.5である。レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物(RF)とラテックス(L)との質量比は、例えば、RF/L=1/5〜1/20である。
【0032】
ゴム糊層は、歯付ベルト本体11の歯部11a表面を覆うように歯部11aと歯部側補強布13との間に設けられている。ゴム糊層は、例えば厚さが50〜500μmである。ゴム糊層は、ゴム組成物をトルエンやメチルエチルケトン(MEK)等の溶媒に溶解して得られたゴム糊を、歯部側補強布13の歯付ベルト本体11接着側表面となる面に塗布することによって形成されている。なお、歯部側補強布13の歯付ベルト本体11への接着面とは反対側の面、つまり、プーリ接触部を構成する面にはゴム糊層は形成されず、歯部側補強布13を構成する繊維材料の表面を被覆するRFL被膜が露出している。なお、事前に繊維材料にエポキシ処理やイソシアネート処理等の接着処理を行ってもよい。また、RFL液にエポキシ樹脂やイソシアネート等を配合してもよい。
【0033】
ゴム糊層のゴム糊は、アクリロニトリルゴム又は水素添加アクリロニトリルゴムを原料ゴムとして種々の配合剤が配合されたゴム組成物で構成されている。このゴム組成物の原料ゴムについては、単一種で構成してもよく、また、複数種で構成してもよい。また、原料ゴムを複数種で構成する場合、アクリロニトリルゴム(NBR)と水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)とを併用してもよく、それら以外のゴム成分を混合してもよい。ゴム組成物に含まれる配合剤としては、例えば架橋剤、老化防止剤、加工助剤、可塑剤、充填材、カーボンブラック、短繊維等が挙げられる。また、H−NBRにメタクリル酸亜鉛を微分散させたポリマーアロイをゴム糊層のゴム糊としてもよい。このときに配合される架橋剤としては、硫黄架橋系であっても過酸化物架橋系であってもよい。
【0034】
なお、歯付ベルト本体11とゴム糊層との接着性の観点から、歯付ベルト本体11を形成するゴム組成物がアクリロニトリルゴム組成物(NBR)を原料ゴムとするときはゴム糊層を形成するゴム組成物がアクリロニトリルゴム組成物(NBR)を原料ゴムとすることが好ましい。また、歯付ベルト本体11を形成するゴム組成物が水素添加アクリロニトリルゴム組成物(H−NBR)を原料ゴムとするときはゴム糊層を形成するゴム組成物が水素添加アクリロニトリルゴム組成物(H−NBR)を原料ゴムとすることが好ましい。
【0035】
さらに、ゴム糊層と歯部側補強布13との接着性の観点から、ゴム糊層を形成するゴム組成物がアクリロニトリルゴム組成物(NBR)を原料ゴムとするときは歯部側補強布13に設けられたRFL被膜のラテックス成分がアクリロニトリルゴム(NBR)ラテックスを原料ゴムとすることが好ましい。また、ゴム糊層を形成するゴム組成物が水素添加アクリロニトリルゴム組成物(H−NBR)を原料ゴムとするときは歯部側補強布13に設けられたRFL被膜のラテックス成分が水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)ラテックスを原料ゴムとすることが好ましい。
【0036】
なお、歯付ベルト本体11の背面部11b表面に背面側補強布を設けてもよい。
【0037】
この歯付ベルト10は、例えば、年間の稼動時間が3〜120時間程度に短いマシニングセンタの割出装置部等のベルト伝動装置に巻き掛けられて使用される用途に好適であり、特に、切削油剤として水溶性切削油剤を使用する場合に好適である。
【0038】
図2は、マシニングセンタの割出装置部のベルト伝動装置20のプーリレイアウトの一例を示す。このベルト伝動装置20は、歯数が112歯の大径の歯付プーリ21と、その左側方に配された歯数が28歯の小径の歯付プーリ22と、からなる。両プーリ間の距離は292.3mmである。そして、歯付ベルト10は、歯部11a側が接触するように歯付プーリ21,22に巻き掛けられている。なお、歯付ベルト10は、例えば、歯ピッチが5mm、ベルト幅が350mm、及び周長さが950mmである。
(本実施形態の効果)
以上のような構成の歯付ベルト10によれば、歯付ベルト本体11の歯部側表面を被覆するようにゴム糊層を介して設けられた歯部側補強布13を備えている一方、歯部側補強布13のプーリ接触側表面はゴム糊が設けられていないので、ゴム糊層が摩耗されてゴム粉の発生の原因となるのを抑制することができる。そして、歯部側補強布13はRFL被膜で表面が被覆されているので、歯付ベルト本体11の歯部側表面と歯部側補強布13との間に設けられたゴム糊層がプーリ接触側表面にしみ出すのを防止することができ、この点からも、ゴム粉の発生を抑制することができる。
【0039】
また、歯付ベルト本体11はゴム糊層が接触する部分がアクリロニトリルゴム組成物又は水素添加アクリロニトリルゴム組成物で形成されており、ゴム糊層はアクリロニトリルゴム組成物又は水素添加アクリロニトリルゴム組成物で形成されており、歯部側補強布13はアクリロニトリルゴムラテックス又は水素添加アクリロニトリルゴムラテックスをラテックス成分としたRFL被膜で表面が被覆されており、しかも、心線がアラミド繊維製であるので、耐油性に優れた歯付ベルト10を得ることができる。
【0040】
加えて、歯部側補強布は、カーボンブラックを含有したRFL水溶液により形成されたRFL被膜で表面が被覆されているので、RFL被膜は黒色である。また、歯部側補強布は、カーボンブラックを含有したRFL水溶液によりRFL被膜が形成されていることにより、歯部側補強布表面の補強効果が得られる。
【0041】
(歯付ベルトの製造方法)
次に、上記歯付ベルト10の製造方法について説明する。この製造方法では、円筒金型と、それを内部に嵌めることが可能な加硫缶とが用いられる。なお、円筒金型の外周面には、歯部11aを成形するための溝が軸方向に延びるように周方向に等ピッチで設けられている。
【0042】
まず、歯部側補強布13となる繊維材料をRFL水溶液に浸漬した後にこれをロールで絞りにかけてRFL水溶液の付着量を調整し、さらにこれを加熱乾燥する接着処理を行う。このとき、例えば、浸漬時間は5〜30秒間、絞り圧力は0.5〜2MPa,乾燥時間は1〜5分間、及び乾燥温度は100〜180℃である。また、この一連の処理は複数回行ってもよい。これにより、繊維材料の表面にRFL被膜が形成される。このRFL被膜が形成された繊維材料の片面に、ナイフコーターやロールコーターを用いてゴム糊を塗布する処理を行う。そして、ゴム糊を塗布した面が外側となるように配置されるよう繊維材料を円筒状に成形する。
【0043】
また、別途、歯付ベルト本体11を形成するための未架橋ゴムシート、及び心線12を形成するための撚り糸を準備する。撚り糸には、予め、RFL水溶液に浸漬した後に加熱乾燥させる接着処理を行う。
【0044】
次に、円筒金型に繊維材料を被せ、その上から撚り糸を等ピッチで螺旋状に巻き付ける。さらに、その上から未加硫ゴム組成物シートを巻き付ける。このとき、円筒金型周面上には、金型側から順に繊維材料、撚り糸、そして未架橋ゴムシートが層を成してセットされた状態となっている。
【0045】
材料をセットした円筒金型を加硫缶の中に入れ、所定の温度と圧力をかける。このとき、未加硫ゴム組成物が流動し、円筒金型に設けられた溝に帆布を押しつけるようにして圧入され、これによって歯部11aが形成されることとなる。
【0046】
最後に、加硫缶から取り出した円筒金型から、その周面上に形成された円筒状のベルト前駆体を脱型し、これを所定幅に輪切りにすることにより歯付ベルト10を得る。
【0047】
なお、歯付ベルト10の製造方法は以上の方法に限定されるものではなく、他の方法により製造されていてもよい。
【実施例】
【0048】
歯付ベルトについて行った試験評価について説明する。
【0049】
(試験評価用ベルト)
以下の実施例1,2及び比較例1,2の歯付ベルトを作製した。それぞれの構成については表1にも示す。
【0050】
<実施例>
歯付ベルト本体を形成するゴム組成物として、H−NBR(日本ゼオン社製、商品名:Zetpol2020)を原料ゴムとして、この原料ゴム100質量部に対し、カーボンブラック(東海カーボン社製、商品名:シーストSO)50質量部、シリカ(日本シリカ工業社製、商品名:ニップシールVN3)5質量部、ステアリン酸(日油社製、商品名:ステアリン酸つばき)1質量部、老化防止剤(大内新興化学工業社製、商品名:ノクラック224)2質量部、酸化亜鉛(堺化学工業社製、商品名:酸化亜鉛2種)4質量部、加硫促進剤(大内新興化学工業社製、商品名:ノクセラーTET−G)3質量部、硫黄(日本乾溜工業社製、商品名:オイルサルファー)1.5質量部、及び、可塑剤(DIC社製、商品名:アジピン酸エステル)8質量部を配合して混練した未架橋ゴム組成物を調製した。
【0051】
歯部側補強布として、66ナイロン(旭化成社製、商品名:レオナ66)を経糸及び緯糸とする布を用いた。歯部側補強布は、太さが235dtex及び密度が5cmあたり170本の経糸と、太さが470dtex及び密度が5cmあたり130本の緯糸とを、2/2綾織したものであった。緯糸に予め仮撚り加工を行うことにより、織物を収縮加工後、緯糸の3cm間の破断伸びが100%となるようにすることができた。
【0052】
この歯部側補強布には、NBRラテックス(日本ゼオン社製、商品名:Nippol1562)をラテックス成分とするRFL水溶液(固形分濃度10.0質量部)に浸漬した後加熱して乾燥し、表面にRFL被膜を形成する接着処理を行った。RFL被膜は、歯部側補強布に対する付着量が該歯部側補強布100質量部に対して10質量部であった。RFL水溶液は、詳しくは、レゾルシン(住友化学社製)とホルマリン(広栄テクノ社製)とを1/1.5のモル比で配合したRF初期縮合物に、NBRラテックスが、RF/L=1/6となるように配合し、さらに、RFL水溶液の固形分量100質量部に対してカーボンブラック(富士色素社製、商品名:FUJI SPブラック203)が5質量部配合されて調製されたものであった。
【0053】
また、歯部側補強布と歯付ベルト本体の歯部との間には、H−NBRを原料ゴムとするゴム糊配合のゴム組成物で形成されたゴム糊層を設けた。ゴム糊配合のゴム組成物は、詳しくは、カーボンブラックの配合量を30質量部、シリカの配合量を20質量部、老化防止剤の配合量を3質量部、及び可塑剤の配合量を4質量部としたことを除いて歯ゴム配合のゴム組成物と同一の配合からなるゴム組成物であった。
【0054】
心線としてはアラミド繊維(帝人社製、商品名:テクノーラ)からなる撚り糸を用いた。
【0055】
以上の構成の歯付ベルトを5本作製した。これらのうち2本の歯付ベルトを実施例1A及び1Bとして、ベルト幅10mm、ベルト長さ950mm、及び歯ピッチ5mmに成形した。そして、残りの3本の歯付ベルトを実施例2A,2B及び2Cとして、ベルト幅35mm、ベルト長さ950mm、及び歯ピッチ5mmに成形した。
【0056】
<比較例>
歯付ベルト本体を形成するゴム組成物として、実施例の歯ゴム組成のゴム組成物と同一組成のものを調製した。
【0057】
また、歯部側補強布として実施例と同一の織布を準備し、これをゴム糊組成のゴム組成物(実施例と同一組成のもの)をメチルエチルケトン(MEK)に溶解して調製したゴム糊に10〜60秒間浸漬してロールで絞った後に80℃で乾燥する接着処理を行った。
【0058】
心線としては実施例1と同様に、アラミド繊維からなる撚り糸を用いた。
【0059】
また、歯ゴムの表面には、ゴム糊組成のゴム組成物(実施例と同一組成のもの)をメチルエチルケトン(MEK)に溶解して調製したゴム糊をナイフコーターを用いて塗布し、80℃で乾燥するコーティング処理を行った。
【0060】
以上の構成の歯付ベルトを5本作製した。これらのうち2本の歯付ベルトを比較例1A及び1Bとして、ベルト幅10mm、ベルト長さ950mm、及び歯ピッチ5mmに成形した。そして、残りの3本の歯付ベルトを比較例2A,2B及び2Cとして、ベルト幅35mm、ベルト長さ950mm、及び歯ピッチ5mmに成形した。
【0061】
【表1】

【0062】
(試験評価方法)
<摩擦係数測定試験>
図3は、摩擦係数測定装置30を示す。この摩擦係数測定装置30は、プーリ径60mmの平プーリ31とその側方に設けられたロードセル32とからなる。なお、ロードセル32は、後述の試験片が平プーリ31に向かって水平に延びた後に巻き掛けられる、つまり、巻き付け角度が90°となるように設けられている。この摩擦係数測定装置30のロードセル32に、各試験片(歯付ベルト)の一端を、歯部側が下側となるようにして固定し、歯部側が接触するように平プーリ31に巻き掛け、他端に1.75kgの分銅33を取り付けて吊した。それに続いて、分銅33を引き上げようとする方向に平プーリ31を43rpmの回転速度で回転させ、ロードセル32で試験片のロードセル22と平プーリ31との間の水平部分に負荷される張力T1を計測した。このとき、試験片の平プーリ31と分銅との垂直部分に負荷される張力T2は分銅の重さ分の17.15Nであった。そして、次式に基づいて摩擦係数μ’を算出した。なお、数1においてθ=90°である。
【0063】
【数1】

【0064】
試験片の歯付ベルトとしては、実施例1A,1B及び比較例1A,1Bを用いた。実施例1A及び比較例1Aの歯付ベルトは、常温下で水溶性切削油剤に24時間浸漬し、さらに、60℃の下で24時間放置して乾燥させた。実施例1B及び比較例1Bの歯付ベルトは、常温下で不水溶性切削油剤に24時間浸漬し、さらに、60℃の下で24時間放置して乾燥させた。そして、各歯付ベルトの切削油剤に浸漬する前、24時間浸漬後、24時間乾燥後の3つの時点において摩擦係数を測定した。
【0065】
なお、水溶性切削油剤としては、JIS K2241(2000)に準じて分類されるA1種の水溶性切削油剤(スギムラ化学工業社製、商品名:スギロットCS・58TR)を水に溶解したものを用いた。このときの希釈率は9%であった。
【0066】
また、不水溶性切削油剤としては、JIS K2241(2000)に準じて分類されるN1種の不水溶性切削油剤(ユシロ化学工業社製、商品名:ユシロンカットUB100)をを原液のまま用いた。
【0067】
<ベルト摩耗性試験>
図4は、ベルト摩耗性試験で用いたベルト走行試験機40のプーリレイアウトを示す。このベルト走行試験機40は、上下に配設されたプーリ径60mmの歯付プーリ(上側が駆動プーリ、下側が従動プーリ)41,42からなる。
【0068】
このベルト走行試験機40を用いて、実施例2及び比較例2の歯付ベルトのそれぞれについて、以下のベルト摩耗性試験を行った。
【0069】
歯付ベルトとしては、実施例2A,2B,2C及び比較例2A,2B,2Cを用いた。実施例2A,2B及び比較例2A,2Bには、予め、以下の処理を行った。実施例2A及び比較例2Aの歯付ベルトを常温下で24時間水溶性切削油剤に浸漬し、さらに、新聞紙の上で30分間放置して乾燥させた。実施例2B及び比較例2Bの歯付ベルトを常温下で24時間水溶性切削油剤に浸漬し、さらに、新聞紙の上で30分間放置して乾燥させた。このとき使用した水溶性切削油剤及び不水溶性切削油剤は、それぞれ、摩擦係数測定試験で使用した水溶性切削油剤及び不水溶性切削油剤と同じものであった。なお、実施例2C及び比較例2Cには切削油剤の処理は行わなかった。
【0070】
これらの歯付ベルトについてそれぞれの質量を測定した後、ベルト走行試験機40の歯付プーリ41及び42に巻き掛けると共に、588Nのデッドウェイトが負荷されるように歯付プーリ42を下方に引張り、常温の下で駆動プーリである上側の歯付プーリ41を回転数4800rpmで回転させて歯付ベルトを72時間走行させた。そして、走行後に再度質量を測定した。なお、実施例2A及び比較例2Aについては、歯付ベルト走行中、1回あたり10mlの水溶性切削油剤を一日あたり3回、歯付ベルトの歯部に塗布した。実施例2B及び比較例2Bについては、歯付ベルト走行中、1回あたり10mlの不水溶性切削油剤を一日あたり3回、歯付ベルトの歯部に塗布した。
【0071】
そして、ベルト走行前後での質量減量を摩耗量として算出した。また、各歯付ベルトについて、目視によって、走行後の歯付ベルトの歯部表面のゴムの付着の有無を観察した。
【0072】
(試験評価結果)
摩擦係数測定試験及びベルト摩耗性試験の結果を、表2及び表3に示す。また、摩耗量を測定した結果は図5にも示す。
【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
表2によれば、実施例1A及び1Bと比較例1A及び1Bとを比較すると、前者は後者よりも切削油剤浸漬前の摩擦係数が低い点で優れていることが分かる。
【0076】
実施例1Aと比較例1Aとを比較すると、前者は切削油剤浸漬後に乾燥しても摩擦係数の変化が小さいのに対し、後者は摩擦係数の増加が著しいことが分かる。
【0077】
表3によれば、実施例2A〜2Cと比較例2A〜2Cとを比較すると、前者は後者より摩耗量が少なく、耐摩耗性が優れていることが分かる。
【0078】
また、実施例2Aと比較例2Aとを比較すると、水溶性切削油剤がベルトのプーリ接触部分に付着する環境の下では摩耗粉の発生を抑制する効果が顕著に現れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上説明したように、本発明は歯付ベルトについて有用である。
【符号の説明】
【0080】
10 歯付ベルト
11 歯付ベルト本体
11a 歯部
11b 背面部
12 心線
13 歯部側補強布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト内周側にベルト長さ方向に並んだ複数の歯部を有する歯付ベルト本体と、該歯付ベルト本体に埋設されベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配されたアラミド繊維製の心線と、該歯付ベルト本体の歯部側表面を被覆するようにアクリロニトリルゴム組成物又は水素添加アクリロニトリルゴム組成物で形成されたゴム糊層を介して設けられた歯部側補強布と、を備えた歯付ベルトであって、
上記歯付ベルト本体は、上記ゴム糊層が接触する部分がアクリロニトリルゴム組成物又は水素添加アクリロニトリルゴム組成物で形成されており、
上記歯部側補強布は、アクリロニトリルゴムラテックス又は水素添加アクリロニトリルゴムラテックスをラテックス成分とし且つカーボンブラックを含有したレゾルシン・ホルマリン・ラテックス水溶液により形成されたRFL被膜で表面が被覆されていることを特徴とする歯付ベルト。
【請求項2】
請求項1に記載された歯付ベルトにおいて、
上記RFL被膜は、上記歯部側補強布に対する付着量が該歯部側補強布100質量部に対して5〜30質量部であることを特徴とする歯付ベルト。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された歯付ベルトにおいて、
用途が切削加工の工作機械用であることを特徴とする歯付ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−276081(P2010−276081A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127785(P2009−127785)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)