説明

歯付ベルト

【課題】目視観察によってベルト寿命を確実に予測することができる歯付ベルトを提供する。
【解決手段】歯部1と、心線2が埋設されたベルト背部3が、ゴムを基材とするベルト本体4を備え、歯部1が歯布5で被覆されたゴム製の歯付ベルトに関する。ベルト本体4のベルト背部3の少なくとも一部に、インジケータ用ゴム層6が表面を露出した状態で埋設されている。このインジケータ用ゴム層6を形成するゴム組成物に配合される無機充填材の添加量は、ベルト本体4を形成するゴム組成物に配合される無機充填材に比べて、ゴム100質量部に対する無機充填材の添加量で、10〜50質量部多い。インジケータ用ゴム層6は無機充填材の添加量が多いのでベルト本体4より破断伸度が低く、ベルト寿命が近づくとベルト本体4に先だってインジケータ用ゴム層6にクラックが発生する。このため目視観察によってベルト寿命を予測することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジケータ機能を有するゴム製の歯付ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
動力伝動用などに用いられるゴム製の歯付ベルトにあって、長期間に亘って使用すると、ゴムの劣化等によってクラックが生じる。そしてベルト寿命が近くなると、このクラックが進行するので、歯付ベルトの噛み合いのズレ、ベルト伝動性の低下、さらにはベルト破断に至るおそれがある。このため、ベルト寿命が近いことを知らせるインジケータ機能を歯付ベルトに付与することが提案されている。
【0003】
例えば特許文献1では、歯付ベルトのプーリとの接触面に異物を埋設しておき、歯付ベルトのこの接触面に摩耗やクラックが生じるとこの異物が表面に露出し、歯付ベルトの走行時にこの異物がプーリと接触する際に異音が発生するようにしてある。従ってこのものでは、発生する異音を警告音として、ベルト寿命を予測することができるものである。
【0004】
また特許文献2では、歯付ベルトの歯部の表面に歯布を被覆して設けるにあたって、歯布の色を、歯部のゴム層と異なる色に着色するようにしてある。そしてこのものでは、歯布が摩耗すると、歯布と異なる色のゴム層が露出するので、目視観察で歯付ベルトの寿命を判別することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−138237号公報
【特許文献2】特開2005−036914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1のものにあって、自動車エンジンなど、振動音がある雰囲気で歯付ベルトを使用する場合、上記のような異音は振動音の影響で聞こえ難いものであり、異音を警告音として認識することができず、ベルト寿命を予測することができないことがある、という問題を有するものであった。
【0007】
また特許文献2のものにあって、歯部に被覆される歯布は歯付ベルト.の内周側に設けられているので、歯布が摩耗して異なる色が露出しても、歯付ベルトの外側からこの色の露出は見え難いものであり、歯付ベルトの寿命を見落とすことがあるという問題を有するものであった。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、目視観察によってベルト寿命を確実に予測することができる歯付ベルトを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る歯付ベルトは、ベルト長手方向に沿って所定間隔で配置された複数の歯部1と、心線2が埋設されたベルト背部3が、ゴムを基材として形成されるベルト本体4を備え、この複数の歯部1の表面が歯布5で被覆されたゴム製の歯付ベルトであって、前記ベルト本体4のベルト背部3の少なくとも一部に、インジケータ用ゴム層6が表面を露出した状態で埋設されていると共に、このインジケータ用ゴム層6を形成するゴム組成物に配合される無機充填材の添加量は、ベルト本体4を形成するゴム組成物に配合される無機充填材に比べて、ゴム100質量部に対する無機充填材の添加量で、10〜50質量部多いことを特徴とするものである。
【0010】
インジケータ用ゴム層6はこのように無機充填材の添加量が多いゴム組成物で形成されているので、ベルト本体4より破断伸度が低く、また熱老化がし易く、クラックの発生を起こし易くなっているものであり、ベルト寿命が近づくとベルト本体4に先だってインジケータ用ゴム層6にクラックが発生し、振動音の影響で異音が聞こえない雰囲気でも、クラックを目視観察することによってベルト寿命を確実に予測することができるものである。しかもインジケータ用ゴム層6は歯付ベルトの外周側のベルト背部3の表面に設けられているので、歯付ベルトの外方からクラックを視認することができるものであり、インジケータ用ゴム層6にクラックが発生したことを見落とすことがなく、確実にベルト寿命を予測することができるものである。
【0011】
また本発明において、ベルト本体4のベルト背部3への上記のインジケータ用ゴム層6の配置場所は、少なくとも、歯部1の歯底部7の裏側に対応する位置に設定されていることを特徴とするものである。
【0012】
歯付ベルトがプーリに噛み合って走行する際に、ベルト本体4のベルト背部3は、歯部1の歯底部7に対応する部分が他の部分より伸長され易いものであり、この部分にインジケータ用ゴム層6を配置しておくことによって、インジケータ用ゴム層6にクラックが発生し易くなり、ベルト寿命をいち早く確実に予測することができるものである。
【0013】
また本発明において、ベルト背部のゴムは、JIS−K−6251に準じて測定された破断伸度が450〜600%であり、且つJIS−K−6257に準じて測定された熱老化後(150℃×50日後)の破断伸度の保持率が50〜60%であり、インジケータ用ゴム層のゴムは、JIS−K−6257に準じて測定された熱老化後(150℃×50日後)の破断伸度の保持率がベルト背部に対して5〜70%の範囲で小さくなることを特徴とするものである。
【0014】
これにより、ベルト背部のゴムの熱老化によるクラック発生時間が遅くなり、ベルト寿命の長寿命化が期待できるものである。またインジケータ用ゴム層6ベルト背部のゴムの熱老化後EB保持率の差が5〜70%以内であるため、ベルト背部のゴムや歯部のゴムにクラックが入る前にインジケータ用ゴム層にクラックが発生するようになり、ベルト寿命前に交換時期を簡便に知ることが可能となるものである。
【0015】
また本発明において、上記の無機充填材は、少なくともシリカを含むことを特徴とするものである。
【0016】
シリカは、ゴムの補強効果が高いという利点を有する他、シリカを含むことによってインジケータ用ゴム層6の表面の色が淡色になるのでクラックの発生が視認し易くなり、ベルト寿命の予知がより確実になるものである。
【0017】
また本発明において、上記のインジケータ用ゴム層6は、表面がベルト本体4のベルト背部3の表面と面一になるようにベルト背部3に埋め込まれて設けられており、インジケータ用ゴム層6にクラックが発生したときにベルト背部3から脱落可能であることを特徴とするものである。
【0018】
インジケータ用ゴム層6に発生したクラックが大きくなってベルト背部3からインジケータ用ゴム層6の一部が脱落すると、ベルト背部3のこの部分が凹み11となって段差が生じ、ベルト背面3がアイドラープーリなどと接触して走行する際に異音が発生するものであり、ベルト寿命を音によっても知らせることができるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上記のように、インジケータ用ゴム層6は無機充填材の添加量がベルト本体4よりも10〜50質量部の範囲で多いゴム組成物で形成されているものであり、インジケータ用ゴム層6はベルト本体4より破断伸度が低く、また熱老化がし易く、クラックの発生を起こし易くなっているものである。このため、ベルト寿命が近づくとベルト本体4に先だってインジケータ用ゴム層6にクラックが発生し、振動音の影響で異音が聞こえない雰囲気でも、クラックを目視観察することによってベルト寿命を確実に予測することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示すものであり、(a)は一部の断面図、(b)は一部破断した斜視図である。
【図2】同上のクラック発生状態を示すものであり、(a)乃至(c)はそれぞれ一部破断した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
図1は歯付ベルトAの一例を示すものであり、ベルト長手方向に沿って心線2が複数本埋入されたベルト背部3の内周側に歯部1を設けてベルト本体4を形成し、このベルト本体4の歯部1の表面に歯布5を積層して設けることによって、歯付ベルトAを形成するようにしてある。歯部1はベルト長手方向に沿って所定の一定間隔で多数個が設けられているものであり、隣合う歯部1の間に歯底部7が形成されている。歯布5は歯部1の表面と歯底部7の表面とに積層されているものである。
【0023】
ベルト本体4を形成する上記のベルト背部3や歯部1は、ゴム組成物で形成されているものである。そしてこのベルト背部3には、インジケータ用ゴム層6が設けてある。このインジケータ用ゴム層6もゴム組成物で形成されるものであり、インジケータ用ゴム層6はその表面がベルト背部3の表面(外周面)と面一になるように、ベルト背部3に埋入して設けてある。
【0024】
上記のベルト背部3、歯部1、インジケータ用ゴム層6を形成するゴム組成物の組成は、特に限定されるものではないが、本発明ではそのゴム成分として、水素化ニトリルゴムを用いることができる。
【0025】
本発明で用いる水素化ニトリルゴム(H−NBR)としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリルからなるアクリロニトリル結合体10〜40質量%と、1,3−ブタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエンなどの共役ジエン90〜60重量%とからなる共重合体、および更にこれらのモノマーに加えて共重合可能なエチレン性不飽和モノマーを共重合させた多元共重合体が挙げられる。ニトリルゴム中の不飽和ニトリルの量が過少であると、硬度、モジュラス、耐油性が低下して伝動ベルトとしての機能を満足させることが難しくなり、また逆に過多であると、耐寒性の低下や硬度、モジュラス等の一般的物性が劣るなどの問題が生じるおそれがある。
【0026】
上記のエチレン性不飽和モノマーとしては、スチレン、クロロメチルスチレン、α−メチルスチレンなどのビニル芳香族化合物、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、エトキシエチルアクリレート、マレイン酸、イタコン酸、モノメチルマレイン酸エステル、ジメチルマレイン酸エステルなどの不飽和ジカルボン酸、これらの不飽和ジカルボン酸のモノエステルおよびジエステルなどが挙げられる。
【0027】
水素化ニトリルゴムの水素化の程度はヨウ素価で示すことができるが、ベルト背部3を形成するゴム組成物の水素化ニトリルゴムのヨウ素価は11mg/100mg以下であることが好ましく、より好ましくは10mg/100mg以下である。一方、インジケータ用ゴム層6を形成するゴム組成物の水素化ニトリルゴムのヨウ素価は11mg/100mg以下であることが好ましい。
【0028】
水素化ニトリルゴムは単独で用いることもできるが、例えば(イ)水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩とを配合した複合ポリマー体と、(ロ)水素化ニトリルゴムとを配合したものを用いることが、引張弾性率、硬度、切断伸度、そして引裂強度などの諸物性を高める上で好ましい。このような(イ)と(ロ)の配合構成にすることで、不飽和カルボン酸金属塩がポリマー分を高次構造にし、不飽和カルボン酸金属塩がポリマー分で微細に分散したフィラーを形成すると考えられ、当初から水素化ニトリルゴム全量分に不飽和カルボン酸金属塩を配合するよりも大きな引張り強さを与えることができるものである。
【0029】
そしてより望ましくは、ゴム成分は、(イ)水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩とを質量比30:70〜70:30で配合した複合ポリマー体と、(ロ)水素化ニトリルゴムとを、質量比10:90〜40:60で配合したものであることが、引張弾性率や切断伸度、さらに高い引き裂き強度や硬度などを確保する為に好ましい。
【0030】
上記の不飽和カルボン酸金属塩は、カルボキシル基を有する不飽和カルボン酸と金属とがイオン結合したものであり、不飽和カルボン酸としてはアクリル酸、メタクリル酸などのモノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのジカルボン酸が好ましく、金属としてはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、クロム、モリブデン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、錫、鉛、アンチモンなどを好ましく用いることができる。
【0031】
そしてゴム組成物には、シリカ、カーボンブラック、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化アルミニウムマグネシウム、酸化チタン、カオリン、パイロフィライト、ベントナイト、タルク、アタパルジャイト、ケイ酸マグネシウムカルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、結晶性アルミノケイ酸塩などの無機充填材が配合される。これらの中でも、シリカ、カーボンブラックが好ましく用いられ、特にシリカがインジケータ用ゴム層6を淡色にする点と、補強性効果の面で最も好ましい。
上記シリカの具体例としては、一般的に四塩化珪素を酸水素炎中で燃焼させて得られる乾式シリカ、珪酸アルカリを酸で中和することによって得られる湿式シリカ、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランなどの珪素のアルコキシドを酸性あるいはアルカリ性の含水有機溶媒中で加水分解することによって得られるゾル−ゲル法シリカ、珪酸アルカリ水溶液を電気透析により脱アルカリすることによって得られるコロイダルシリカなどが挙げられる。
ここで、本発明において無機充填材は、ゴムを機械的に補強するためにゴム組成物に配合されるものを意味するものであり、このような無機充填材は添加量を増加するとゴムの伸度が低下する。従って、酸化亜鉛のように加硫助剤としてゴム組成物に配合されるものは、本発明において無機充填材には含まれない。ゴム組成物中の無機充填材の配合量は、特に限定されるものではないが、ゴム成分100質量部に対して10〜80質量部の範囲が好ましい。無機充填材の配合量が10質量部未満であると、耐磨耗性の改善効果や、接着性の向上効果が乏しくなり、逆に80質量部を超えると、ゴムの剛性が高くなるためにベルトの屈曲性に問題が生じるおそれがある。
【0032】
無機充填材としては、上記したなかでもシリカを用いるのが好ましい。シリカはゴムを補強する効果が高いものであり、またゴム組成物にシリカを含むことによってクラックの発生が視認し易くなり、後述のようにインジケータ用ゴム層6のクラックでベルト寿命を予知することが容易になるものである。
【0033】
カーボンブラックは、ベルトの硬度やモジュラスといった物性を高く保つために配合するものであり、例えばHAF、MAF、EPC、SAF、ISAFなどが挙げられる。なかでも窒素吸着比表面積40〜120m/g、24M4DBP吸油量80〜130ml/100gのものが好ましく用いられる。
【0034】
さらにゴム組成物には、上記の各成分の他にも、必要に応じて種々の添加剤を配合することができる。例えば、可塑剤、短繊維、架橋剤、老化防止剤、耐熱剤、粘着付与剤、スコーチ防止剤、架橋促進剤、促進助剤、架橋遅延剤、着色剤、紫外線吸収剤、難燃剤、耐油性向上剤等が挙げられる。
【0035】
これらの中でも、架橋剤としては有機過酸化物を配合するのが望ましい。有機過酸化物としては、例えばジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−モノ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン等を挙げることができる。この有機過酸化物は、単独もしくは混合物として、ゴム(ポリマー)成分100質量部に対して1〜8質量部配合することが望ましく、より好ましくは1.5〜4質量部である。尚、有機過酸化物以外の公知の架橋剤を用いることも可能である。
【0036】
また短繊維としては、綿、ポリエステル、ポリアミド、アラミド、PBOなどの繊維からなる長さが1〜10mm程度の短繊維を用いることができる。短繊維として径が0.1〜2.0μmであり、長さが10μm〜1.0mmの範囲である特殊なサイズの極短繊維を用いると、分散性や均質性をよりレベルの高いものにすることができる。短繊維の混入量は、ゴム100質量部に対して1〜30質量部の範囲が好ましい。1質量部未満であると短繊維でのモジュラスを向上させる効果が十分に得られず、30質量部を超えると硬度が高くなりすぎるために好ましくない。
【0037】
ここで、本発明において、インジケータ用ゴム層6を形成するゴム組成物は、ベルト本体4(特にベルト背部3)を形成するゴム組成物よりも上記のシリカなどの無機充填材の配合量を多く設定し、インジケータ用ゴム層6の熱老化後の破断伸度(EB)がベルト本体4よりも低くなるように調整してある。すなわち、インジケータ用ゴム層6を形成するゴム組成物に配合される無機充填材の添加量は、ベルト本体4を形成するゴム組成物に配合される無機充填材に比べて、ゴム100質量部に対する無機充填材の添加量で、10〜50質量部多く設定されるものである。インジケータ用ゴム層6のゴム組成物の無機充填材の添加量をこのように設定することによって、インジケータ用ゴム層6の破断伸度がベルト本体4よりも低くなるように設定することができるものであり、インジケータ用ゴム層6にベルト本体4よりもクラックが発生し易くなるように調整し、後述のようにベルト寿命の予知が可能になるものである。インジケータ用ゴム層6とベルト本体4の無機充填材の添加量の差が10質量部未満であると、インジケータ用ゴム層6とベルト本体4にクラックが発生する時間差がなくなり、ベルト寿命を予知するインジケータとしての役割を果たすことができない。逆にインジケータ用ゴム層6の無機充填材の添加量が、ベルト本体4よりも50質量部を超えて多いと、インジケータ用ゴム層6の破断伸度が低くなり過ぎて、短期間でインジケータ用ゴム層6にクラックが発生してしまい、この場合もベルト寿命を予知するインジケータとしての役割を果たすことができない。
【0038】
ここで、ベルト背部3のゴムは、JIS−K−6251に準じて測定された破断伸度が450〜600%であり、且つJIS−K−6257に準じて測定された熱老化後(150℃×50日後)の破断伸度の保持率が50〜60%であることが望ましい。またインジケータ用ゴム層6のゴムは、JIS−K−6257に準じて測定された熱老化後(150℃×50日後)の破断伸度の保持率がベルト背部3に対して5〜70%の範囲で、好ましくは30〜40%の範囲で小さくなるよう、耐熱老化性がベルト背部3より劣るように調整するのが望ましい。インジケータ用ゴム層6のゴムの破断伸度の保持率がこの範囲で小さいと、ベルト背部3にクラックが入るベルト寿命の直前にインジケータ用ゴム層6にクラックが入り、ベルト寿命の予想の精度が高くなるものである。
【0039】
このような破断伸度の条件になるようにするため、ベルト背部3のゴム組成物は、水素化ニトリルゴムを含有するゴム成分とし、このゴム成分が(イ)ヨウ素価が11mg/100mg以下である水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩とを質量比30:70〜70:30で配合した複合ポリマー体と、(ロ)ヨウ素価が11mg/100mg以下である水素化ニトリルゴムとを、質量比が0:100〜40:60となるよう配合し、(ロ)の配合物100重量部に対してシリカが35重量部以下、カーボンブラックが5重量部以下配合されているものが望ましい。またインジケータ用ゴム層6のゴム組成物は、水素化ニトリルゴムを含有するゴム成分とし、ゴム成分が(イ)ヨウ素価が11mg/100mg以上である水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩とを質量比30:70〜70:30で配合した複合ポリマー体と、(ロ)ヨウ素価が11mg/100mg以上である水素化ニトリルゴムとを質量比が0:100〜80:20となるよう配合し、無機充填材が上記の範囲でベルト背部3よりも多く配合されているものが望ましい。
【0040】
また、ベルト背部3とインジケータ用ゴム層6の硬度差は、JIS−A硬度で3°以内であることが望ましい。ベルト背部3とインジケータ用ゴム層6の硬度差が大きいと、歯付ベルトを製造する際の背面研磨の工程で、ベルト背部3とインジケータ用ゴム層6の表面において摩耗量の差が生じ、ベルト背部3とインジケータ用ゴム層6の間に段差が発生するおそれがある。
【0041】
次に、本発明の歯付ベルトAに使用する心線2としては、例えばアラミド繊維、ガラス繊維、カーボン繊維などのコードを用いることができる。ガラス繊維の組成は、Eガラス、Sガラス(高強度ガラス)のいずれでもよく、フィラメントの太さ及びフィラメントの集束本数及びストランド本数に制限されない。
【0042】
また歯付ベルトAの歯部1の表面を被覆する歯布5としては、平織物、綾織物、朱子織物などからなる帆布が用いられる。
【0043】
これらの織物のベルト長手方向に配置される緯糸としては、例えば0.3〜1.2デニールのパラ系アラミド繊維のフィラメント原糸を収束したマルチフィラメント糸をベルト長手方向の緯糸全量の20〜80質量%含んだものが好ましい。すなわち、緯糸はパラ系アラミド繊維のマルチフィラメント糸を含んだ糸であり、このパラ系アラミド繊維のマルチフィラメント糸にメタ系アラミド繊維からなる糸を含めることができる。具体的な緯糸の構成は、パラ系アラミド繊維のマルチフィラメント糸、メタ系アラミド繊維からなる紡績糸、そしてウレタン弾性糸の3種の糸を合撚したものである。また他の具体的な緯糸の構成は、パラ系アラミド繊維のマルチフィラメント糸、脂肪族繊維糸(6ナイロン、66ナイロン、ポリエステル、ポリビニルアルコール等)、そしてウレタン弾性糸の3種の糸を合撚したものであってもよい。
【0044】
歯布5の経糸としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維からなるアラミド繊維のフィラメント糸、6ナイロン、66ナイロン、12ナイロン等のポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル等のフィラメント糸からなるものを用いることができる。好ましくは、アラミド繊維のフィラメント糸が緯糸5にパラ系アラミド繊維のフィラメント原糸を収束したマルチフィラメント糸であり、この糸を使用すれば、剛性のバランスが取れ、均一な厚みの歯布5を形成することができる。
【0045】
勿論、上記の経糸と緯糸の材質はこれらに限定されるものではなく、またその他の形態としてはコード、不織布、編布などが挙げられ、特に限定されるものではない。また歯布5には、ソーキング、スプレディング、コーチングなどにより接着ゴムを付着しておくのが望ましい。
【0046】
上記のように形成される本発明の歯付ベルトAにあって、長期間使用してベルト寿命に達すると、歯部1やベルト背部3からなるベルト本体4のゴムにクラックが生じるが、ベルト背部3に設けたインジケータ用ゴム層6は無機充填材の含有量を多くして破断伸度を低く設定してあるため、ベルト本体4(特にベルト背部3)にクラックが入る前に、インジケータ用ゴム層6にクラックが生じる。
【0047】
このとき、図2(a)のようにインジケータ用ゴム層6にクラック10が生じ始めたときは、クラック10は小さいので目視で判別することは難しいが、ベルト本体4にクラックが入り始める直前にまでなると、図2(b)のようにインジケータ用ゴム層6のクラック10は成長して大きくなり、インジケータ用ゴム層6にクラック10が発生していることを、目視観察で容易に判別することができる。このようにインジケータ用ゴム層6にクラック10が発生していることが目視観察で判別されれば、歯付ベルトAはベルト寿命に近いと予測することができるものであり、この時点で歯付ベルトAを新品と交換すれば、歯付ベルトAに噛み合いのズレ、ベルト伝動性の低下、さらにはベルト破断の発生を未然に防ぐことができるものである。そしてこのとき、インジケータ用ゴム層6は歯付ベルトAの外周面をなすベルト背部3に設けられているので、歯付ベルトAの外方からインジケータ用ゴム層6のクラック10を容易に見ることができ、クラック10の発生を目視観察してベルト寿命を予測することが容易になるものである。
【0048】
また、さらにインジケータ用ゴム層6のクラック10が成長して大きくなると、インジケータ用ゴム層6はクラック10で分断されて細切れの状態になる。そしてクラック10で分断されて細切れになったインジケータ用ゴム層6の小片が図2(c)のようにベルト背部3から脱落する。このようにインジケータ用ゴム層6の小片がベルト背部3から脱落すると、インジケータ用ゴム層6はベルト背部3の表面と面一に埋設されているので、インジケータ用ゴム層6の小片が脱落した跡に、ベルト背部3に凹み11が形成されることになり、ベルト背部3の表面に段差が生じる。従って、歯付ベルトAをプーリに懸架して走行させるにあたって、ベルト背面3がアイドラープーリやテンションプーリなどと接触する際にこの段差で異音が発生するものであり、ベルト寿命を音によっても知らせることができるものである。特に、インジケータ用ゴム層6が脱落してベルト背部3に凹み11からなる段差が生じるのは、ベルト寿命がほとんど尽きてきたときであるが、ベルト寿命が来たことを異音によって強制的に警報することができるものである。
【0049】
ここで、インジケータ用ゴム層6の厚みTは、0.1mm以上であることが望ましい。インジケータ用ゴム層6の厚みTが0.1mm以下であると、インジケータ用ゴム層6が剥がれ落ちても、ベルト背部3に形成される段差は小さいため、ベルト背部3がアイドラープーリやテンションプーリなどと接しても発生する異音が小さく、聴感で寿命を判別するのが難しくなる。またインジケータ用ゴム層6の幅は長さなどの寸法は特に限定されないが、ベルト背部3の面積の1/1000以上でかつ、1/10以下の面積であることが望ましい。
【0050】
尚、上記のインジケータ用ゴム層6のクラックを自動的に検出する機構を備えるようにしてもよい。例えば、高精度のレーザー変位計により、インジケータ用ゴム層6のクラックで生じるベルト背部3の凹凸を検出する機構が考えられる。また、インジケータ用ゴム層6とベルト背部3の色相を異ならせることにより、クラックの発生を色によって簡便に判別することができるものである。
【0051】
次に、本発明の歯付ベルトAの製造方法の一例を説明する。尚、歯付ベルトAの製造方法は以下に限定されるものではない。まず歯付ベルトAの歯部1に対応する複数のモールド溝部を有する円筒状モールドの外周に、歯布5を形成する帆布を巻き付ける。続いて、歯布5の上から円筒状モールドの外周に心線2を構成する抗張体を、円筒状モールドの長手方向(円周と直交する方向)に所定のピッチで巻き付ける。次に、心線2の上から歯部1を形成するゴムシートとベルト背部3を形成するゴムシートを巻き付けて、円筒状モールドの外周に未架橋ゴムのスリーブを形成する。このとき、インジケータ用ゴム層6を形成するゴムシートを、ベルト背部3を形成するゴムシートの外面の一部に重ねておく。そしてこの架橋ゴムのスリーブが巻き付けられた円筒状モールドを架橋缶内に移し、加熱・加圧することにより、上記のゴムシートをモールド溝部に圧入させて歯部1を形成すると共に、ゴムシートを架橋させる。この後、得られた架橋したスリーブ状の成形体を所定のカット幅にカッターで輪切りにすることにより、個々の歯付ベルトAを得ることができる。
【0052】
また、本発明の歯付ベルトAの製造方法の他の一例として予備成形法を説明する。まず歯付ベルトAの歯部1に対応する複数のモールド凹条を有する平坦なモールドの表面に、歯布5と、歯部1を形成するゴムシートを積層した後、プレスすることによって歯布5とゴムシートを型付けして歯部1を成形した予備成形体を作製する。続いて、歯付ベルトAの歯部1に対応する複数のモールド溝部を有する円筒状モールドにこの予備成形体を巻き付けた後、心線2を構成する抗張体を予備成形体の上から円筒状モールドの外周に長手方向に所定のピッチを有するように巻き付ける。次に、心線2の上からベルト背部3を形成するゴムシートを巻き付け、さらにその外側にインジケータ用ゴム層6を形成するゴムシートを重ね、未架橋スリーブを形成する。後は上記と同様に、加熱・加圧して架橋した後に、カッターで輪切りにすることにより、個々の歯付ベルトAを得ることができる。
【実施例】
【0053】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0054】
表1に示す「T−0」の配合で歯部1を形成するゴムシートを作製し、「B−1」〜「B−6」の配合でベルト背部3を形成するゴムシートを作製し、「I−1」〜「I−4」の配合でインジケータ用ゴム層6を形成するゴムシートを作製した。尚、表1においてシリカ、カーボンブラックが無機充填材に相当する。
【0055】
【表1】

【0056】
また歯布5として、織構成が2/2綾織であり、緯糸が66ナイロン、経糸が66ナイロンとスパンデックスからなる歯布を用い、心線2として構成が3/11、太さが1.1mmのガラス心線を用いた。そしてこれらの材料を用いて、上記した予備成形法で、実施例1〜8及び比較例1〜3の歯付ベルトAを作製した。
【0057】
歯付ベルトAのベルトサイズは105MY(ベルト歯数:105歯、歯型:MY、ベルト幅:19.1mm)であり、インジケータ用ゴム層6はベルト背部3の表面に、ベルト幅の全幅で且つベルト背部3の面積の1/50となるように設けてある。またベルト背部3厚みは0.8mmであり、インジケータ用ゴム層6の厚みは0.5mmである。
【0058】
上記のように作製した実施例1〜8及び比較例1〜3の歯付ベルトAについて、3軸高負荷走行試験機を用いた耐久試験を行なった。試験条件は、駆動プーリ歯数:21歯、従動プーリ歯数:42歯、テンションプーリ:フラットプーリ(φ52mm)、設定張力:147N、回転数:7200rpm、負荷:従動プーリに対して3.67kW、雰囲気温度:150℃である。
【0059】
そして、歯部1のゴムにクラックが発生するに至る時間、ベルト背部3にクラックが発生するに至る時間、インジケータ用ゴム層6にクラックが発生するに至る時間を測定した。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
表2にみられるように、各実施例のものは、インジケータ用ゴム層6にクラックが発生する時間は、ベルト背部3や歯部1にクラックが発生する時間よりも早く、またインジケータ用ゴム層6にクラックが発生する時間と、ベルト背部3や歯部1にクラックが発生する時間とは大きな差はないものであり、インジケータ用ゴム層6へのクラックの発生によってベルト寿命を予測することが有効であることが確認される。そして各実施例に用いられているベルト背部3のゴムはEBが450〜600%、熱老化後EB保持率が50〜60%であることから、ベルト背部3のゴムの熱老化によるクラック発生時間が遅くなり、ベルト寿命の長寿命化が期待できるものである。またインジケータ用ゴム層6とベルト背部3のゴムの熱老化後EB保持率の差が5〜70%以内であるため、ベルト背部3のゴムや歯部1のゴムにクラックが入る前にインジケータ用ゴム層6にクラックが発生するようになり、ベルト寿命前に交換時期を簡便に知ることが可能となるものである。
【0062】
一方、比較例1では、インジケータ用ゴム層6の無機充填材の添加量がベルト背部3の添加量よりも少ないために、ベルト背部3にクラックが発生した後に、インジケータ用ゴム層6にクラックが発生することになり、また比較例2では、インジケータ用ゴム層6の無機充填材の添加量がベルト背部3の添加量よりも多過ぎるために、インジケータ用ゴム層6にクラックが発生する時間と、ベルト背部3や歯部1にクラックが発生する時間との差が大きくなり、また比較例3では、インジケータ用ゴム層6の無機充填材の添加量が歯部1やベルト背部3の添加量よりも少ないために、歯部1やベルト背部3にクラックが発生した後に、インジケータ用ゴム層6にクラックが発生することになり、いずれも、インジケータ用ゴム層6へのクラックの発生によってベルト寿命を予測することはできないものであった。特に、比較例1ではベルト背部3のゴムのEBが450%未満、熱老化後EB保持率が50%未満であるため、早期にベルト背部のゴムがクラック入りとなり、ベルトの寿命が低下してしまうものであり、さらにはインジケータ用ゴム層6のクラック入り時間がベルト背部3のクラック入り時間より長くなってしまうため、インジケータ機能を果たせなくなってしまうものである。また比較例2ではベルト背部3のゴムとインジケータ用ゴム層6のゴムの熱老化後EB保持率の差が70%よりも大きいため、ベルト背部3にクラックが入る時間よりもかなり早い時間でインジケータ用ゴム層6にクラックが入ってしまい、インジケータとしての意味合いが薄れるものである。
【符号の説明】
【0063】
1:歯部
2:心線
3:ベルト背部
4:ベルト本体
5:歯布
6:インジケータ用ゴム層
7:歯底部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト長手方向に沿って所定間隔で配置された複数の歯部と、心線が埋設されたベルト背部が、ゴムを基材として形成されるベルト本体を備え、この複数の歯部の表面が歯布で被覆されたゴム製の歯付ベルトであって、前記ベルト本体のベルト背部の少なくとも一部に、インジケータ用ゴム層が表面を露出した状態で埋設されていると共に、このインジケータ用ゴム層を形成するゴム組成物に配合される無機充填材の添加量は、ベルト本体を形成するゴム組成物に配合される無機充填材に比べて、ゴム100質量部に対する無機充填材の添加量で、10〜50質量部多いことを特徴とする歯付ベルト。
【請求項2】
ベルト本体のベルト背部への上記のインジケータ用ゴム層の配置場所は、少なくとも、歯部の歯底部の裏側に対応する位置に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の歯付ベルト。
【請求項3】
ベルト背部のゴムは、JIS−K−6251に準じて測定された破断伸度が450〜600%であり、且つJIS−K−6257に準じて測定された熱老化後(150℃×50日後)の破断伸度の保持率が50〜60%であり、インジケータ用ゴム層のゴムは、JIS−K−6257に準じて測定された熱老化後(150℃×50日後)の破断伸度の保持率がベルト背部に対して5〜70%の範囲で小さくなることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯付ベルト。
【請求項4】
上記の無機充填材には、少なくともシリカを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の歯付ベルト。
【請求項5】
上記のインジケータ用ゴム層は、表面がベルト本体のベルト背部の表面と面一になるようにベルト背部に埋め込まれて設けられており、インジケータ用ゴム層にクラックが発生したときにベルト背部から脱落可能であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の歯付ベルト。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−21628(P2012−21628A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161708(P2010−161708)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)