説明

歯付部材の噛合案内面形成方法および形成装置

【課題】装置コストおよび装置設置スペースの増大を生じることなく、噛合案内面の形成を能率良く行うことができる方法および装置を得る。
【解決手段】工具回転装置12に保持されたハブスリーブに対して、回転工具94を所定の角度,位置に位置決めした状態で、ハブスリーブと回転工具94とを連続的にかつ互いに同期して回転させつつ、回転工具94をハブスリーブに切り込ませる。回転工具94はバイト98を1つ備え、その1回転のうちの一時期にバイト98がスプラインの角部を切削するが、残りの時期にはスプラインから外れ、回転工具94をスプラインに切り込む切削位置に位置させたままの状態で、ハブスリーブの回転により、次に切削されるスプラインを被切削位置へ移動させることができる。ハブスリーブの設定回数の回転および回転工具94の設定量の切込みにより、複数のスプラインの各一端部の一方の角部に噛合案内面が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプライン部材,歯車等、内周面と外周面との少なくとも一方に等角度間隔で形成された複数の歯を有し、軸方向に互いに相対移動させられることにより噛合状態と離脱状態とに切り換えられる2つの歯付部材の噛合案内面形成方法および形成装置に関するものであり、特に、形成能率の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯付部材の各歯の歯面と側面とにより画定される角部には、例えば、面取りが施され、あるいは2つの歯付部材の噛合わせを案内するための噛合案内面が形成される。歯の角部の面取りは、例えば、下記の特許文献1に記載されているように、砥石を用いて行われる。砥石は、歯車の回転軸線と直角に立体交差する軸線のまわりに回転可能に、かつ、歯車の回転軸線にほぼ平行な方向に揺動可能に設けられ、歯車の歯に当接させられた状態で砥石と歯車とがそれぞれ回転させられることにより、砥石は歯形に倣って揺動しつつ、全部の歯の各角部を研削し、面取りを施す。面取りの場合、歯の削り量が少ないため、砥石を歯形に倣って揺動させることにより、歯を設定量、研削することができる。
【0003】
それに対し、噛合案内面は、2つの歯車を軸方向に互いに相対移動させ、それぞれの歯を互いに噛み合わせる際の噛合いを案内する面であるため、歯形に倣った面取りではなく、各歯の側面のほぼ中央部にほぼ半径方向に延びる1本の稜線を生じさせる2つの平面であることが必要であり、上記のように歯の角部に面取りを施す場合より削り量が多く、同じ方法では形成することができない。そこで、従来は、歯付部材の間欠回転と、回転工具の歯付部材への切込み,離脱との組合わせにより、歯付部材の複数の歯の各々に噛合案内面を形成するようにされている。
【0004】
例えば、車両の手動変速機を構成するハブスリーブは内スプライン部材であり、その内周面に等角度間隔に形成された複数の歯であるスプラインの各々に噛合案内面を形成する場合、各歯の側面に対して傾斜した回転軸線のまわりに回転させられるエンドミルにより噛合案内面を1つずつ形成することが行われていた。ハブスリーブの回転を停止させた状態で、1つの歯の側面と歯面とにより画定される角部をエンドミルの先端により切削しつつ、エンドミルをそのエンドミルの回転軸線に平行な方向に送り、その角部の肉を切除して、1つの噛合案内面を形成する。次に、エンドミルを回転軸線に平行な方向に後退させて、ハブスリーブから離脱させ、離脱後、ハブスリーブを1歯分、割出回転させて隣接するスプラインを加工位置へ移動させる。再びエンドミルに送りを与えて次の歯に噛合案内面を形成する。ハブスリーブにおいて噛合案内面は、スプラインの、ハブスリーブの軸方向における両端部のそれぞれ、ハブスリーブの周方向における両角部に形成され、1つのスプラインについて4箇所ずつ形成される。そのため、全部のスプラインについてそれぞれ、軸方向の一端部の2箇所の角部のうちの一方に噛合案内面が形成されたならば、エンドミルがハブスリーブの直径方向に移動させられ、あるいはスプラインに対する向きが変えられて他方の角部に噛合案内面が形成される。この噛合案内面の形成も、ハブスリーブの間欠回転と、エンドミルのハブスリーブに対する切込み,離脱とにより1スプラインずつ行われる。全部のスプラインについて他方の角部に噛合案内面が形成されたならば、ハブスリーブが反転させられ、スプラインの軸方向の他端部の2箇所の角部についてそれぞれ、一端部の2箇所の角部と同様に噛合案内面が形成される。
【0005】
このようにハブスリーブの間欠回転とエンドミルの切込み,離脱とによって噛合案内面を形成すれば、加工に時間がかかり、特に、1つのスプラインについて噛合案内面が複数、形成される場合、加工時間が長くなり、噛合案内面形成装置が他のハブスリーブ加工装置と共にハブスリーブ生産ラインを構成する場合、ラインのネックとなり、ライン全体の生産能率を下げてしまうことになる。そのため、従来は、噛合案内面形成装置が少なくとも2台、もしくは生産量によっては2の複数倍の台数、設けられ、他のハブスリーブ加工装置による加工時間に合わせて、スプラインの各々に4つの噛合案内面が形成されたハブスリーブが得られるようにされていた。
【特許文献1】特開平5−269621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このように噛合案内面形成装置を少なくとも2台、もしくは生産量によっては2の複数倍の台数設ければ、装置コストが高くなり、また、装置の設置に広いスペースが必要となる。
この問題は、歯付部材の複数の歯の両端部の各々に2つの噛合案内面が形成される場合に限らず、歯の軸方向の一端部のみに噛合案内面が形成される場合等にも同様に生じる。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、装置コストおよび装置設置スペースの増大を生じることなく、噛合案内面の形成を能率良く行うことができる方法および装置を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、内周面と外周面との少なくとも一方に等角度間隔で形成された複数の歯を有し、軸方向に互いに相対移動させられることにより噛合状態と離脱状態とに切り換えられる2つの歯付部材の少なくとも一方の歯の側面に、前記離脱状態から前記噛合状態への移行時に2つの歯付部材の歯の噛合いを案内する噛合案内面を形成する方法を、少なくとも一方の歯付部材と、1つ以上の切削刃具を備えた回転工具とを、それら歯付部材と回転工具との各中心線のまわりにそれぞれ連続的にかつ互いに同期して回転させつつ、それら歯付部材と回転工具とを相対移動させることにより、歯付部材の各歯の歯面と側面とにより画定される角部を切除して噛合案内面を形成する方法とすることにより解決される。
軸方向に互いに相対移動させられることにより噛合状態と離脱状態とに切り換えられる2つの歯付部材は、変速機,クラッチ等に用いられ、特に、車両のマニュアル変速機において多く用いられる。
歯付部材には、例えば、スプライン部材や歯車がある。歯車は、例えば、円筒歯車あるいはかさ歯車でもよく、すぐば歯車あるいははすば歯車でもよい。
【0008】
また、前記課題は、内周面と外周面との少なくとも一方に等角度間隔で形成された複数の歯を有し、軸方向に互いに相対移動させられることにより噛合状態と離脱状態とに切り換えられる2つの歯付部材の少なくとも一方の歯の側面に、離脱状態から噛合状態への移行時に前記2つの歯付部材の歯の噛合いを案内する噛合案内面を形成する装置を、(a)少なくとも一方の歯付部材を保持して、その歯付部材をその歯付部材の中心線のまわりに連続的に回転させる歯付部材回転装置と、(b)1つ以上の切削刃具を備えた回転工具を、その回転工具の中心線のまわりに連続的に回転させる工具回転装置と、(c)それら歯付部材回転装置と工具回転装置とを相対移動させることにより、歯付部材と回転工具とを相対移動させる相対移動装置と、(d)歯付部材回転装置および工具回転装置の回転を同期制御することにより、1つ以上の切削刃具に、少なくとも一方の歯付部材の各歯の歯面と側面とにより画定される角部を切除させる回転制御部と、(e)相対移動装置を制御することにより、角部の切除を複数回の切削により行わせる相対移動制御部とを含む装置とすることにより解決される。
【発明の効果】
【0009】
切削刃具は、回転工具の回転軸線のまわりに旋回させられるが、切削刃具が設けられるのは、回転工具の周方向における一部であり、回転工具の1回転のうち、切削刃具が角部と干渉する時期に切削が行われるが、切削刃具が歯から離れている時期には切削が行われず、その間、回転工具を歯付部材に対して、角部を切削する切削位置に位置させたままの状態で(後退させることなく)、歯付部材の回転により、次に角部が切削されるべき歯を被切削位置へ移動させることができる。したがって、歯付部材と回転工具とをそれぞれ連続的に、かつ、回転工具の非加工時期中に切削されるべき歯が替わるように同期して回転させれば、回転工具を、歯付部材から離脱させることなく、複数の歯の各角部を順次、切削させることができる。角部は、歯付部材が1回転させられる毎に、歯付部材と回転工具との相対移動量(歯付部材の1回転当たりの送り量)によって決まる量ずつ切除され、歯付部材の複数回の回転により、歯の角部が設定量切除されて噛合案内面が形成される。回転工具が備える切削刃具が1つでも複数でも、回転工具が1つでも複数でも同じであり、歯付部材および回転工具の回転速度,回転工具が有する切削刃具の数および配置,回転工具の数の選定により、歯付部材の1回転の間に全部あるいは一部の歯について角部の一部が切除され、歯付部材の複数回の回転により、全部あるいは一部の歯について噛合案内面が形成される等、種々の態様で噛合案内面の形成を行うことができる。
いずれにしても、本発明に係る方法によれば、歯付部材および回転工具を連続して回転,相対移動させつつ噛合案内面を形成することができるため、従来のように、歯付部材の間欠回転と回転工具の歯への切込み,離脱とを繰り返し、1歯ずつ噛合案内面を形成する場合に比較して、短時間で噛合案内面を形成することができる。そのため、噛合案内面形成装置が他の歯付部材加工装置と共に歯付部材生産ラインを構成する場合でも、噛合案内面形成装置を従来より少ない台数(例えば1台)設けるのみで済み、装置コストおよび装置設置スペースの増大を抑制しつつ、生産能率を向上させることができる。
【0010】
本発明に係る装置は、本発明に係る方法の実施に好適であり、本発明に係る方法と同様の効果が得られる。
【発明の態様】
【0011】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載,従来技術等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0012】
なお、以下の各項において、(1)項が請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、(6)項が請求項4に、(10)項が請求項5に、(11)項が請求項6に、(12)項が請求項7に、それぞれ相当する。
【0013】
(1)内周面と外周面との少なくとも一方に等角度間隔で形成された複数の歯を有し、軸方向に互いに相対移動させられることにより噛合状態と離脱状態とに切り換えられる2つの歯付部材の少なくとも一方の歯の側面に、前記離脱状態から前記噛合状態への移行時に前記2つの歯付部材の歯の噛合いを案内する噛合案内面を形成する方法であって、
前記少なくとも一方の歯付部材と、1つ以上の切削刃具を備えた回転工具とを、それら歯付部材と回転工具との各中心線のまわりにそれぞれ連続的にかつ互いに同期して回転させつつ、それら歯付部材と回転工具とを相対移動させることにより、前記歯付部材の各歯の歯面と側面とにより画定される角部を切除して前記噛合案内面を形成する歯付部材の噛合案内面形成方法。
(2)前記歯付部材の回転速度と前記回転工具の回転速度とを、前記歯付部材の複数の歯の各々と前記1つ以上の切削刃具の各々との相対位置がすべての歯に関して同じ状態で切削が行われるように選定する(1)項に記載の歯付部材の噛合案内面形成方法。
歯付部材と回転工具との回転速度を本項の条件を満たすように選定すれば、歯付部材の複数の歯の噛合案内面が互いに同一形状,寸法で形成される効果が得られる。しかし、複数の歯の間で噛合案内面の形状が多少異なることが許容される場合には歯付部材と回転工具との回転速度が本項の条件を満たすことは不可欠ではなくなる。
本項の噛合案内面形成方法によれば、例えば、複数の切削刃具の各々により、異なる歯について噛合案内面が形成される場合でも、あるいは同じ歯に対する異なる段階の加工が行われる場合でも、全部の歯の各々に噛合案内面が同一形状,寸法で形成される。
(3)前記歯付部材の回転速度と前記回転工具の回転速度とを、互いに隣接する歯が、それらの並び順に、1つまたは複数の互いに隣接する切削刃具により順次切削されるように選定する(1)項または(2)項に記載の歯付部材の噛合案内面形成方法。
歯付部材と回転工具との回転速度を本項の要件を満たすように選定することが最も単純である。また、本発明の方法は、歯付部材と回転工具とを共に連続回転させるものであるため、噛合案内面は必然的に曲面となるが、歯付部材の回転速度に比較して回転工具の回転速度を大きくするほど平面に近い噛合案内面が得られる。そのためには、歯付部材の回転に伴う歯の周速を回転工具の回転に伴う切削刃具の周速に比較して小さくすることが望ましい。この観点からすれば、切削刃具の数を少なくするとともに、切削工具の旋回半径を大きくすることが有効である。一方、噛合案内面の形成を能率よく行う上では、切削刃具の数を多くすることが有効である。
ただし、歯付部材と回転工具との回転速度を本項の要件を満たすように選定することは不可欠ではなく、例えば、歯の数が奇数である場合に、1つの切削刃具により、1つおきの歯について順次切削が行われるようにすることも可能である。また、周方向において、複数の切削刃具が比較的小さい相対位相で集中的に設けられた領域と、切削刃具が設けられていない領域とを有する回転工具を使用し、複数の切削刃具により1つの歯が複数回引き続いて切削された後、切削刃具が設けられていない領域が歯付部材の近傍を通過している間に次の歯が切削される位置まで移動して来るようにすることも可能である。
(4)前記歯付部材の歯と前記回転工具の切削刃具との一方が偶数であり、他方が奇数である(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の歯付部材の噛合案内面形成方法。
切削刃具を1つ備えた回転工具を使用し、その1つの切削刃具により、複数の歯の互いに隣接するものを順次切削させる場合には、歯の数が偶数でも奇数でも実質的な違いは生じないが、例えば、1つの切削刃具により複数の歯の1つおきのものを切削させる場合には、歯の数が奇数であれば、歯付部材が1回転させられる毎に1つの切削刃具が切削を行う歯が変わることとなる。切削刃具を2つ備えた回転工具により奇数の歯を備えた歯付部材の切削を行う際や、切削刃具を3つ備えた回転工具により偶数の歯を備えた歯付部材の切削を行う際に、互いに隣接する切削刃具に互いに隣接する歯を順次切削させる場合にも同様である。
(5)前記歯の数が前記切削刃具の数の倍数である(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の歯付部材の噛合案内面形成方法。
本項の方法において、複数の切削刃具の互いに隣接するものにより、複数の歯の互いに隣接するものが順次切削される場合には、歯付部材が1回転させられても1つの歯について切削を行う切削刃具は変わらない。
(6)前記歯付部材と前記回転工具との前記相対移動の方向が、前記歯面と側面との交線にほぼ直角な方向である(1)項ないし(5)項のいずれかに記載の歯付部材の噛合案内面形成方法。
歯面と側面との交線が曲線である場合にも、交線上の1点において歯付部材と回転工具との相対移動の方向を交線に直角とすることは可能であるが、交線のあらゆる部分に対して直角とすることはできない。上記「ほぼ直角な方向」はこの場合を包含するが、それのみではなく、例えば、回転工具と歯付部材とが、刃具と歯以外の部分において互いに干渉を回避する等の目的で、上記の状態から、歯付部材と回転工具との相対移動方向が意図的に傾かされる場合をも含む。したがって、「歯付部材と回転工具との相対移動の方向が、歯面と側面との交線に平行な方向よりは、直角な方向に近い方向」と言い換えることもできる。
本項の方法による場合には、1つの切削刃具による連続した切削面により噛合案内面が形成されることとなり、滑らかな噛合案内面が得られる利点がある。
(7)前記歯付部材と前記回転工具との前記相対移動の方向が、歯面と側面との交線にほぼ平行な方向である(1)項ないし(5)項のいずれかに記載の歯付部材の噛合案内面形成方法。
本項の場合にも上記(6)項に関する説明が当てはまり、「歯付部材と回転工具との相対移動の方向が、歯面と側面との交線に直角な方向よりは、平行な方向に近い方向」と言い換えることもできる。
本項の方法による場合には、切削刃具による断続的な切削により形成される複数の切削痕の集合として噛合案内面が形成されることもある。
(8)前記歯付部材が内歯付部材である(1)項ないし(7)項のいずれかに記載の歯付部材の噛合案内面形成方法。
歯付部材がスプライン部材であれば、内歯付部材は内スプライン部材となり、歯車であれば、内歯歯車となる。
(9)前記歯付部材が外歯付部材である(1)項ないし(7)項のいずれかに記載の歯付部材の噛合案内面形成方法。
歯付部材がスプライン部材であれば、外歯付部材は外スプライン部材となり、歯車であれば、外歯歯車となる。
(10)前記回転工具が複数使用され、それら回転工具の各々により、前記歯付部材の周方向に隔たった複数の位置において並行して切削が行われる(1)項ないし(9)項のいずれかに記載の歯付部材の噛合案内面形成方法。
周方向に隔たった複数の位置において、各歯の同じ側の切削が並行して行われるようにしても、各歯の反対側の切削が並行して行われるようにしてもよい。前者の場合には、複数の位置における切削の総合により1つの噛合案内面が形成されることとなる。いずれの場合にも、複数の回転工具により同時に切削が行われることにより、噛合案内面が能率良く形成される。
前述のように、本発明の方法による場合には、噛合案内面は必然的に曲面となるが、歯付部材の回転速度に比較して回転工具の回転速度を大きくするほど平面に近い噛合案内面が得られる。したがって、回転工具における切削刃具の数を少なくし、複数の位置において並行して切削が行われるようにすることが、平面に近い噛合案内面を能率よく形成する上で有効である。
(11)前記回転工具が複数使用され、それら回転工具の各々により、前記歯付部材の互いに直径方向に隔たった2つの位置において並行して切削が行われる(1)項ないし(9)項のいずれかに記載の歯付部材の噛合案内面形成方法。
本項の方法によれば、歯付部材が内歯付部材である場合に、回転工具同士の干渉を避けつつ切削刃具の旋回半径を大きくすることが容易となる効果が得られる。また、本項が前記 (6)項に従属する場合に、歯付部材の互いに直径方向に隔たった2つの位置において、歯の互いに反対側の切削が行われるようにすれば、2つの回転工具の各々と歯付部材とを相対移動させる相対移動装置を兼用にすることが可能となる。
(12)内周面と外周面との少なくとも一方に等角度間隔で形成された複数の歯を有し、軸方向に互いに相対移動させられることにより噛合状態と離脱状態とに切り換えられる2つの歯付部材の少なくとも一方の歯の側面に、前記離脱状態から前記噛合状態への移行時に前記2つの歯付部材の歯の噛合いを案内する噛合案内面を形成する装置であって、
前記少なくとも一方の歯付部材を保持して、その歯付部材をその歯付部材の中心線のまわりに連続的に回転させる歯付部材回転装置と、
1つ以上の切削刃具を備えた回転工具を、その回転工具の中心線のまわりに連続的に回転させる工具回転装置と、
それら歯付部材回転装置と工具回転装置とを相対移動させることにより、前記歯付部材と前記回転工具とを相対移動させる相対移動装置と、
前記歯付部材回転装置および前記工具回転装置の回転を同期制御することにより、前記1つ以上の切削刃具に、前記少なくとも一方の歯付部材の各歯の歯面と側面とにより画定される角部を切除させる回転制御部と、
前記相対移動装置を制御することにより、前記角部の切除を複数回の切削により行わせる相対移動制御部と
を含む歯付部材の噛合案内面形成装置。
本項の装置は、(1)項の歯付部材の噛合案内面形成方法の実施に好適である。また、前記 (2)項ないし(11)項の各々に記載の特徴は本項の噛合案内面形成装置にも適用可能である。
【実施例】
【0014】
以下、請求可能発明のいくつかの実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、上記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更を施した態様で実施することができる。
【0015】
図1および図2に、請求可能発明の実施例としての噛合案内面形成装置を示す。この噛合案内面形成装置においては請求可能発明の一実施例としての噛合案内面形成方法が実施される。本噛合案内面形成装置は、歯付部材を回転させる歯付部材回転装置10,工具回転装置12,工具回転装置移動装置14および制御装置16を含む。歯付部材回転装置10はベース18上に設けられ、保持部20および保持部回転駆動装置22を含む。保持部20は、例えば、コレットチャックや三つ爪チャック等のチャックにより構成され、歯付部材を保持,解放する。保持部回転駆動装置22は、歯付部材回転用モータ24を駆動源とし、保持部20を一軸線、例えば、鉛直軸線まわりに正逆両方向に任意の角度回転させる。
【0016】
工具回転装置移動装置14は、工具回転装置12を、保持部20の回転軸線に直角な一平面、ここでは水平面内において互いに直交する2方向と、保持部20の回転軸線に平行な方向とに移動させるとともに、保持部20の回転軸線に直角な軸線まわりに回転させる。上記2方向のうちの一方であって、保持部20の回転軸線を含む一平面、本実施例では鉛直で、図1においては左右方向に延びる平面に平行な方向をX軸方向、他方であって、その鉛直な平面に直角で、図1においては紙面に直角な方向をY軸方向、保持部20の回転軸線に平行であって、X軸方向およびY軸方向と直交する方向をZ軸方向とすれば、工具回転装置移動装置14は、図1および図2に示すように、工具回転装置12をX軸、Y軸およびZ軸の各方向にそれぞれ移動させるX軸方向移動装置30,Y軸方向移動装置32,Z軸方向移動装置34およびY軸方向に平行な軸線まわりに回動させる工具回転装置回動装置36を含む。
【0017】
X軸方向移動装置30は、図1および図2に示すように、X軸スライド40と、X軸スライド駆動装置42とを含む。X軸スライド駆動装置42は、駆動源たるX軸移動用モータ44と、ボールねじ46およびナット47を含む送りねじ機構48とを含み、ボールねじ46をX軸移動用モータ44によって回転させることにより、X軸スライド40を、ベース18上に設けられ、案内装置を構成する一対のガイドレール50に案内させつつ、X軸方向において任意の位置へ移動させる。
【0018】
Y軸方向移動装置32は、図1および図2に示すように、X軸スライド40上に設けられ、Y軸スライド54およびY軸スライド駆動装置56を含む。Y軸スライド駆動装置56は、X軸スライド移動装置42と同様に構成され、Y軸移動用モータ58と、ボールねじ60およびナット61を含む送りねじ機構62とを含み、Y軸スライド54を、案内装置を構成する一対のガイドレール64に案内させつつ、Y軸方向において任意の位置へ移動させる。Z軸方向移動装置34は、Y軸スライド54上に設けられ、Z軸スライド66およびZ軸スライド駆動装置68を含む。Z軸スライド駆動装置68は、X軸スライド駆動装置42と同様に構成され、Z軸移動用モータ70と、ボールねじ72およびナット(図示省略)を含む送りねじ機構74とを含み、案内装置を構成する一対ガイドレール76に案内させつつ、Z軸スライド66をZ軸方向において任意の位置へ移動させる。
【0019】
工具回転装置回動装置36は、図1および図2に示すように、Z軸スライド66上に設けられ、回動盤80および回動盤駆動装置82を含む。回動盤80はZ軸スライド66に、前記Y軸方向に平行な回動軸線まわりに回動可能に保持されており、回動用モータ84を駆動源とする回動盤駆動装置82により、正逆両方向に任意の角度回動させられる。前記工具回転装置12は、装置本体86と、装置本体86により一軸線まわりに回転可能に保持された回転軸(図示省略)と、回転軸を回転させる工具回転用モータ88とを含み、回動盤80上に、回転軸の回転軸線が回動盤80の回動軸線と直交する姿勢で設けられている。工具回転装置12は、回動盤80の回動により、前記歯付部材回転装置10の保持部20の回転軸線と直角に立体交差する軸線であって、本実施例では水平な軸線まわりに回動させられ、その回動軸線と直交する軸線まわりに回転工具が回転させられる。保持部20の回転軸線に直角な一平面内において互いに直交する2方向のうち、回転工具の回転軸線を含む一平面であって、本実施例では鉛直な平面に平行な方向がX軸方向であり、その平面に直角な方向がY軸方向である。
【0020】
上記工具回転装置12の回転軸により回転工具94が着脱可能に保持され、自身の中心線であって、回動盤80の回動軸線と直交する軸線まわりに連続的に回転させられる。回転工具94は、図3に示すように、工具本体96と、工具本体96に保持された切削刃具としてのバイト98とを含む。工具本体96は、横断面形状が円形を成し、その先端部に嵌合孔100が、工具本体96の軸線と直角な方向に貫通して形成されている。嵌合孔100は、図4に示すように、横断面形状が長方形状を成し、バイト98のシャンク102が楔部材104と共に嵌合され、工具本体96に半径方向に形成された雌ねじ孔106に雄ねじ部材108が螺合されるとともに、その先端部が楔部材104に当接させられる。それにより、シャンク102と楔部材104とにそれぞれ設けられた傾斜面110,112の斜面の効果によって、シャンク102が嵌合孔100の互いに直角な2つの側面に押し付けられ、バイト98が工具本体96の軸線に直角な姿勢で強固に固定される。このようにバイト98が工具本体96に保持された状態では、刃部114は工具本体96から突出させられ、回転工具94の回転軸線のまわりに旋回させられる。
【0021】
前記制御装置16は、コンピュータを主体として構成され、駆動回路を介して前記モータ24,44,58,70,84,88等、本噛合案内面形成装置を構成する種々のアクチュエータを制御する。これらモータ24等は、電動回転モータの一種であるエンコーダ付サーボモータにより構成される。サーボモータは、回転角度の正確な制御が可能な電動モータであり、回転速度の制御も可能である。サーボモータに代えてステップモータを用いてもよい。なお、次に説明するように、歯付部材と回転工具94とは同期して回転させられ、回転工具94の歯付部材の歯への切込みは、歯付部材の回転速度に合わせた移動速度で行われるため、それら回転および切込みには、駆動源を、サーボモータのように速度制御が可能なものとすることが必要であるが、回転工具94の歯付部材に対するX軸,Y軸方向の位置決めおよび回転工具94の回転軸線の向きの調節(回動)は、同期の必要がないため、サーボモータを駆動源として行うことは不可欠ではなく、例えば、油圧シリンダ等の流体圧シリンダを使用するとともに、ストッパを使用し、例えば、ピストンあるいはX軸スライド40,Y軸スライド54,回動盤80をストッパに突き当てることにより位置決めし、向きを調節するようにしてもよい。あるいはねじまたはウォーム等を作業者が手で回転操作し、X軸スライド40等を移動,回動させて位置決めし、向きを調節するようにしてもよい。この場合、ロック装置を設け、位置決めあるいは向きの調節後、ねじまたはウォームが回転しないようにすることが望ましい。
【0022】
本噛合案内面形成装置により、例えば、図5に示すハブスリーブ120の複数のスプライン122にそれぞれ、噛合案内面124が形成される。ハブスリーブ120は、内歯付部材たる内スプライン部材の一種であり、自動車の手動変速機を構成する。歯の一種であるスプライン122は、ハブスリーブ120の内周面に等角度間隔に形成されるが、ハブスリーブ120には、一部、スプライン122が設けられていない箇所がある。ハブスリーブ120の内周面の等角度を隔てた箇所の全部にスプライン122が形成されると仮定した場合のスプライン122の数は、偶数であってもよく、奇数であってもよい。いずれにしても、スプライン122の数は、回転工具94のバイト98の数の倍数である。
【0023】
ハブスリーブ120は、軸方向の移動により、軸方向の両側にそれぞれ配設された外歯歯車と選択的に噛み合わされる。これら外歯歯車にはそれぞれ、外スプライン部が一体的に設けられ、ハブスリーブ120の軸方向の移動により、スプライン122がいずれか一方の外歯歯車の外スプライン部のスプラインと噛み合わされ、あるいは噛合から離脱させられて、ハブスリーブ120と外歯歯車とが噛合状態と離脱状態とに切り換えられる。そのため、ハブスリーブ120の複数のスプライン122にはそれぞれ、その幅方向(ハブスリーブ120の中心線に平行な方向)に隔たった両端部の各々に噛合案内面124が2つずつ形成される。図6にスプライン122の一端部を示すように、2つの噛合案内面124は、スプライン122の一対の歯面126と側面128とにより画定される2つの角部130をそれぞれ切除することにより形成される。これら噛合案内面124は、ハブスリーブ120の中心線まわりにおいて互いに逆向きである。
【0024】
噛合案内面124の形成時には、ハブスリーブ120は、歯付部材回転装置10の保持部20により、その中心線が鉛直に、かつ、保持部20の回転軸線と同心となる状態で保持され、歯付部材回転装置10により、自身の中心線のまわりに連続的に回転させられる。また、工具回転装置回動装置36の回動盤80が回動させられ、工具回転装置12により保持された回転工具94の回転軸線の向きが調節される。工具回転軸線が、スプライン122の2つの角部130のうちの一方について形成が予定された噛合案内面124に対して直角となる方向に調節されるのである。さらに、工具回転装置12は、X軸方向,Y軸方向の各移動装置30,32により移動させられ、ハブスリーブ120に対してX軸,Y軸方向においてそれぞれ所定の位置に位置決めされる。
【0025】
この状態で制御装置16により歯付部材回転用モータ24,Z軸移動用モータ70および工具回転用モータ88が制御され、ハブスリーブ120と回転工具94とがそれぞれ、各々の中心線のまわりに連続的にかつ同期して回転させられるとともに、工具回転装置12がZ軸方向において回転工具94が角部130に切り込む方向へ送られる。回転工具94に保持されたバイト98の刃部114は、回転工具94の回転軸線のまわりに旋回させられ、その旋回軌跡がスプライン122と干渉する位置において角部130を切削し、それ以外の箇所においてはスプライン122から抜け出し、切削を行わない。そのため、回転工具94をZ軸方向に後退させてハブスリーブ120から離脱させなくても、スプライン122の角部130を切削する切削位置に位置させたままの状態で、スプライン122と干渉しない状態が得られ、バイト98が非切削領域を旋回する間のハブスリーブ120の回転により、次に角部130が切削されるべきスプライン122を、角部130がバイト98により切削される被切削位置へ移動させることができる。
【0026】
ハブスリーブ120の回転速度および回転工具94の回転速度は、本実施例では、互いに隣接するスプライン122が、それらの並び順にバイト98によって順次切削されるように選定される。刃部114がハブスリーブ120から外れている間にハブスリーブ120が1スプライン分、回転するという条件を満たすように、バイト98の刃部114の旋回半径およびハブスリーブ120のスプライン122の数(ハブスリーブ120には、一部、スプライン122が設けられていない箇所があるが、ハブスリーブ120の内周面の等角度を隔てた箇所の全部にスプライン122が形成されると仮定した場合のスプライン122の数)に基づいてハブスリーブ120および回転工具94の各回転速度が設定されるのである。本実施例においては、歯付部材回転装置10により保持されたハブスリーブ120と、工具回転装置12により保持された回転工具94とは、それらの相対回転位相が設定された位相にセットされた状態で同時に回転を開始させられる。設定相対回転位相は、バイト98の切削領域における旋回時に、次に角部130が切削されるべきスプライン122が被切削位置にあって、バイト98により角部130が切削される相対回転位相であり、回転開始後、ハブスリーブ120および回転工具94の各回転速度は、ハブスリーブ120と回転工具94との相対回転位相が設定された位相に保たれる速度比で、選定された回転速度まで増大させられ、バイト98が角部130に切り込む際には、ハブスリーブ120と回転工具94とがそれぞれ、設定された相対回転位相および一定の回転速度で回転させられる状態が得られる。また、ハブスリーブ120の回転速度に合わせて、回転工具94のZ軸方向の移動速度、すなわちハブスリーブ120が1回転する間における角部130への切込量が設定される。それにより、回転工具94の1回転につき、スプライン122が1つずつ、角部130を切削されるとともに、ハブスリーブ120の1回転により、全部のスプライン122の各角部130が一部ずつ切除される。回転工具94は、その回転軸線が噛合案内面124に対して直角となるようにされ、Z軸方向においてハブスリーブ120側へ移動させられることにより、スプライン122の歯面126と側面128との交線に直角な方向に移動させられて角部130を切削する。バイト98による角部130の切削方向は、角部130を下から削り上げる方向でも、上から削り下げる方向でもよい。
【0027】
角部130は複数回に分けて切除されるのであり、最後に回転工具94のZ軸方向における送りが停止させられ、ハブスリーブ120が1回転以上させられれば、すべての角部130が設定量切除され、噛合案内面124が形成される。噛合案内面124の形成時には、ハブスリーブ120および回転工具94はそれぞれ、設定された相対回転位相および一定の回転速度で回転させられ、複数のスプライン122の各々とバイト98との相対位置がすべてのスプライン122に関して同じ状態で切削が行われる。ハブスリーブ120の内周面にはスプライン122が設けられていない部分があるが、その部分が被切削位置へ到達したときには、バイト98は切削を行うことなくハブスリーブ120を通過する。
【0028】
なお、ハブスリーブ120が連続的に回転させられ、刃部114による切削中も角部130が旋回するため、噛合案内面124は曲面となるが、ハブスリーブ120の回転速度(角部130の旋回速度)に比較して回転工具94の回転速度(バイト98の旋回速度)が極めて大きいため、曲がりは極めて僅かであり、実質的に平面と考えてよい噛合案内面124が得られる。
【0029】
噛合案内面124の形成後、回転工具94がZ軸方向に後退させられてハブスリーブ120から離間させられるとともに、回転工具94およびハブスリーブ120の回転が停止させられる。その後、回転工具94は、回転軸線の方向は変えることなく、Y軸方向移動装置32により、ハブスリーブ120の直径方向に隔たった位置へ移動させられる。そして、一方の角部130に対する噛合案内面124の形成時と同様に他方の角部130の形成が行われる。ハブスリーブ120と回転工具94とが同期して連続的に回転させられつつ、回転工具94がZ軸方向に送られて角部130に切り込まされ、全部のスプライン122の各一端部の他方の角部130に噛合案内面124が形成される。ハブスリーブ120および回転工具94の各回転速度および回転工具94のZ軸方向の移動速度は、一方の角部130についての噛合案内面124の形成時と同じであり、他方の角部130の切削は一方の角部130の切削と同様に行われる。ただし、ハブスリーブ120と回転工具94との相対回転位相は必要に応じて変えられる。また、バイト98による角部130の切削方向が変わる。一方の角部130の切削方向が下から削り上げる方向であったとすれば、他方の角部130の切削方向はと上から削り下げる方向に変わるのである。
【0030】
以上の切削加工により、各スプライン122の一端部には、図6(a)および(b)に示すように、2つの噛合案内面124が、ハブスリーブ120の周方向に関して互いに逆向きに、かつ対称に形成される。その結果、スプライン122の元の側には、ハブスリーブ120の軸線に直角な平面部が残るが、先端側であって、外スプライン部のスプラインと噛み合う部分には上記平面部を残すことなく噛合案内面124が形成され、図6(c)に示すように、2つの噛合案内面124の交線である稜線は、スプライン122の先端面132側に向かうに従ってハブスリーブ120の軸方向の中央側に近づく向きに傾斜させられる。このように2つの噛合案内面124が稜線を境として対称に形成されることにより、ハブスリーブ120のスプライン122が外スプライン部の同様な噛合案内面が形成されたスプラインと噛み合わされる際、その噛合いが良好に案内され、かつ、ハブスリーブ120と外スプライン部との噛み合い時における最大相対回転角度が小さくて済む。
【0031】
ハブスリーブ120の各スプライン122の一方の端部に2つの噛合案内面124が形成されたならば、ハブスリーブ120は、保持部20による保持姿勢が上下反転させられ、各スプライン122の他方の端部について2つの噛合案内面124が形成される。これら噛合案内面124の形成は、一方の端部についての噛合案内面124の形成と同様に行われる。ハブスリーブ120の反転は、例えば、作業者により行われる。反転装置を設け、ハブスリーブ120を自動的に反転させてもよい。
【0032】
本噛合案内面形成装置により、ハブスリーブ120の他、例えば、外スプライン部材、外歯歯車と一体的に設けられた外スプライン部,内周面と外周面との両方に複数のスプラインが等角度間隔に形成された内外スプライン部材のスプラインについて噛合案内面を形成することができる。
【0033】
以上の説明から明らかなように、本実施例においては、Z軸方向移動装置34が歯付部材と回転工具94とを相対移動させる相対移動装置を構成し、制御装置16の歯付部材回転用モータ24および工具回転用モータ88の回転を同期制御し、ハブスリーブ120と回転工具94とを同期して回転させる部分が回転制御部を構成し、Z軸移動用モータ70を制御し、Z軸方向移動装置34を制御してバイト98を設定量ずつスプライン122に切り込ませる部分が相対移動制御部を構成している。
【0034】
なお、ハブスリーブ120と回転工具94との相対回転位相は、回転開始時から合わせておくことは不可欠ではなく、回転開始後、回転工具94が角部130への切込みを開始するまでの間に設定された相対回転位相に合わされるようにしてもよい。
【0035】
別の実施例を図7に基づいて説明する。
本実施例の噛合案内面形成装置は、図7に概略的に示すように、外周面に偶数のスプライン150が等角度間隔に形成された外スプライン部材152のスプライン150の各々に、複数、例えば、2つの回転工具154により並行して噛合案内面を形成する装置である。これら回転工具154はそれぞれ、前記回転工具94と同様に、切削刃具としてのバイト156を1つ保持し、工具回転装置の装置本体158により、各々の中心線のまわりに回転可能に、かつ、回転軸線と直交する方向に距離を隔てて保持され、それぞれ専用の工具回転用モータ(図示省略)により回転させられる。2つの回転工具154は、互いに平行に設けられ、それらの間の距離は、外スプライン部材152が有する偶数のスプライン150のうち、直径方向に隔たった2つのスプライン150についてそれぞれ、同時に並行して噛合案内面を形成する距離とされている。本噛合案内面形成装置のその他の構成は、前記実施例の噛合案内面形成装置と同じである。
【0036】
本噛合案内面形成装置によって外スプライン部材152のスプライン150に噛合案内面を形成する場合にも、前記内スプライン部材たるハブスリーブ120のスプライン122に噛合案内面124を形成する場合と同様に、外スプライン部材152が歯付部材回転装置によって鉛直軸線まわりに回転可能に保持され、工具回転装置がX軸,Y軸方向の各移動装置および工具回転装置回動装置によって移動,回動させられることにより、2つの回転工具154がX軸,Y軸方向において外スプライン部材152に対して位置決めされるとともに、各回転軸線が、形成が予定された噛合案内面に対して直角となる姿勢に調節される。
【0037】
その状態で、2つの回転工具154と外スプライン部材152とがそれぞれ、連続的にかつ互いに同期して回転させられつつ、工具回転装置がZ軸方向に送られ、2つの回転工具154がそれぞれ、スプライン150の角部に切り込まされる。2つの回転工具154は、互いに逆向きに、かつ、同じ速度で回転させられ、切削は、外スプライン部材152の互いに直径方向に隔たった2つの位置において並行して行われ、複数のスプライン150の各々と2つの回転工具154の各バイト156との相対位置がすべてのスプライン150に対して同じ状態で行われる。そして、2つの回転工具154の一方により、スプライン150の一端部の2つの角部のうちの一方が切削され、他方の回転工具154により他方の角部が切削されて、それぞれ噛合案内面が形成される。この切削は、2つの回転工具154の各々により、外スプライン部材152の周方向に隔たった2つの位置において並行して行われる切削でもあり、外スプライン部材152が設定回数回転させられるとともに、2つの回転工具154が外スプライン部材152に設定量、切り込まされれば、全部のスプライン150の各一端部の各2つの角部について同時に噛合案内面が形成される。
【0038】
なお、図示は省略するが、内スプライン部材についても、外スプライン部材と同様に、回転工具を2つ備えた噛合案内面形成装置により、直径方向に隔たった2箇所において同時に切削が行われ、スプラインの一端部の2つの角部について同時に噛合案内面が形成されるようにしてもよい。
また、2つの回転工具間の距離を調節する位置調節装置を設け、噛合案内面形成装置を、2つの回転工具により、直径が異なる複数種類の外スプライン部材の直径方向に隔たった2つのスプラインに同時に噛合案内面を形成する汎用の噛合案内面形成装置としてもよい。この噛合案内面形成装置によれば、直径が異なる複数種類の内スプライン部材の直径方向に隔たった2つのスプラインについても同時に噛合案内面を形成することが可能であり、汎用性の高い噛合案内面形成装置が得られる。
【0039】
歯の数が奇数である歯付部材についても、複数の回転工具を有する噛合案内面形成装置により、複数の歯に並行して噛合案内面を形成することができる。例えば、2つの回転工具を有する噛合案内面形成装置において、それら回転工具をそれぞれ、それらの回転軸線の方向や刃具の位置を独立して調節可能に設け、それぞれ、歯の一端部の2つの角部のうち、異なる角部に形成が予定された噛合案内面に対して直角となり、かつ、共通のZ軸方向の送りにより同時に噛合案内面の切削を終了する相対位置に調節し、加工を行わせる。
【0040】
回転工具は、複数の切削刃具を周方向の一部の領域に集中的に備えたものしてもよい。例えば、図8に概略的に示す回転工具180は、それぞれ切削刃具であるバイト182を3つ、備えている。これらバイト182は、シャンク184が一体的に設けられ、工具本体186に、前記バイト98の工具本体96への固定と同様にして固定されている。3つのバイト182の各刃部188はそれぞれ、回転工具180の回転軸線上の点を中心とする円周の一部の領域内において等角度間隔に設けられ、各刃先が同一円周上に位置するとともに、回転軸線に平行な方向においては位置が異ならされ、回転方向において上流側のバイト182ほど切刃の位置が高くなるように、すなわち歯付部材側に位置するように設けられている。
【0041】
そのため、回転工具180が回転させられつつ、歯の角部に切り込まされるとき、回転方向において上流側のバイト182は、下流側のバイト182により削られた部分を更に削り、3つのバイト182により1つの角部が3回、引き続いて切削される。回転工具180の歯付部材に対する切込み方向の移動量は、バイトを1つ備えた回転工具によって噛合案内面を形成する場合の3倍とされ、歯付部材の1回転につき3倍の量、角部を削ることができ、噛合案内面を迅速に形成することができる。歯付部材と回転工具180とは連続的に同期して回転させられ、回転工具180の3つのバイト182が設けられていない領域が歯付部材の近傍を通過している間に、次に角部が切削されるべき歯が被切削位置まで移動させられる。
【0042】
なお、歯の一端部に噛合案内面を2つ形成する場合、それら噛合案内面は周方向において非対称に形成されてもよい。歯の一端部の2つの角部をそれぞれ切削する際の回転工具の角部に対する方向が、角部毎に設定され、所定の傾斜の噛合案内面が形成されるようにされる。
【0043】
また、噛合案内面は、歯の、歯付部材の軸方向に隔たった両端部のうちの一方のみに形成されてもよく、あるいは少なくとも一端部について1つのみ形成されてもよい。噛合案内面を、歯の一対の歯面の一方から他方に至るように形成するのである。
【0044】
さらに、複数の回転工具は、歯付部材の周方向に90度隔たった2つの位置において並行して切削が行われるように設けてもよい。
また、切削刃具としてバイトを使用する場合、刃部は、スローアウェイチップにより構成してもよい。
【0045】
さらに、噛合案内面は、歯付部材と回転工具とを、歯面の側面との交線にほぼ平行な方向に相対移動させることにより形成してもよい。この噛合案内面の形成は、例えば、図1〜図6に示す実施例の噛合案内面形成装置と同様の構成を備えた噛合案内面形成装置により行うことができる。この噛合案内面形成装置において噛合案内面の形成時には、回転工具は、その回転軸線の向きが、角部について形成が予定された噛合案内面に対して直角となる方向に調節されるとともに、X軸方向およびZ軸方向においてそれぞれ所定の位置に位置決めされ、相対移動制御部は、Y軸方向移動装置を制御し、回転工具をY軸方向において所定の速度で送り、歯の歯たけ方向に送って角部を切除させる制御部とされる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】請求可能発明の一実施例である噛合案内面形成装置を一部を切り欠いて示す正面図である。
【図2】図1に示す噛合案内面形成装置を示す側面図である。
【図3】図1に示す噛合案内面形成装置による噛合案内面の形成に使用される回転工具をバイトが固定された部分において示す側面断面図である。
【図4】図3に示す回転工具においてバイトの工具本体に固定された部分を、軸線に平行な切断面において切断して示す図である。
【図5】図1に示す噛合案内面形成装置により噛合案内面が形成されるハブスリーブを示す斜視図である。
【図6】図1に示す噛合案内面形成装置により、上記ハブスリーブのスプラインに形成された噛合案内面を示す図であり、図6(a)は正面図、図6(b)は平面図、図6(c)は側面図である。
【図7】別の実施例である噛合案内面形成装置を概略的に示す図である。
【図8】別の実施例である回転工具をバイトが固定された部分においてを示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0047】
10:歯付部材回転装置 12:工具回転装置 14:工具回転装置移動装置 16:制御装置 94:回転工具 98:バイト 120:ハブスリーブ 122:スプライン 124:噛合案内面 126:歯面 128:側面 130:角部 150:スプライン 152:外スプライン部材 154:回転工具 156:バイト 180:回転工具 182:バイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面と外周面との少なくとも一方に等角度間隔で形成された複数の歯を有し、軸方向に互いに相対移動させられることにより噛合状態と離脱状態とに切り換えられる2つの歯付部材の少なくとも一方の歯の側面に、前記離脱状態から前記噛合状態への移行時に前記2つの歯付部材の歯の噛合いを案内する噛合案内面を形成する方法であって、
前記少なくとも一方の歯付部材と、1つ以上の切削刃具を備えた回転工具とを、それら歯付部材と回転工具との各中心線のまわりにそれぞれ連続的にかつ互いに同期して回転させつつ、それら歯付部材と回転工具とを相対移動させることにより、前記歯付部材の各歯の歯面と側面とにより画定される角部を切除して前記噛合案内面を形成することを特徴とする歯付部材の噛合案内面形成方法。
【請求項2】
前記歯付部材の回転速度と前記回転工具の回転速度とを、前記歯付部材の複数の歯の各々と前記1つ以上の切削刃具の各々との相対位置がすべての歯に関して同じ状態で切削が行われるように選定する請求項1に記載の歯付部材の噛合案内面形成方法。
【請求項3】
前記歯付部材の回転速度と前記回転工具の回転速度とを、互いに隣接する歯が、それらの並び順に、1つまたは複数の互いに隣接する切削刃具により順次切削されるように選定する請求項1または2に記載の歯付部材の噛合案内面形成方法。
【請求項4】
前記歯付部材と前記回転工具との前記相対移動の方向が、前記歯面と側面との交線にほぼ直角な方向である請求項1ないし3のいずれかに記載の歯付部材の噛合案内面形成方法。
【請求項5】
前記回転工具が複数使用され、それら回転工具の各々により、前記歯付部材の周方向に隔たった複数の位置において並行して切削が行われる請求項1ないし4のいずれかに記載の歯付部材の噛合案内面形成方法。
【請求項6】
前記回転工具が複数使用され、それら回転工具の各々により、前記歯付部材の互いに直径方向に隔たった2つの位置において並行して切削が行われる請求項1ないし4のいずれかに記載の歯付部材の噛合案内面形成方法。
【請求項7】
内周面と外周面との少なくとも一方に等角度間隔で形成された複数の歯を有し、軸方向に互いに相対移動させられることにより噛合状態と離脱状態とに切り換えられる2つの歯付部材の少なくとも一方の歯の側面に、前記離脱状態から前記噛合状態への移行時に前記2つの歯付部材の歯の噛合いを案内する噛合案内面を形成する装置であって、
前記少なくとも一方の歯付部材を保持して、その歯付部材をその歯付部材の中心線のまわりに連続的に回転させる歯付部材回転装置と、
1つ以上の切削刃具を備えた回転工具を、その回転工具の中心線のまわりに連続的に回転させる工具回転装置と、
それら歯付部材回転装置と工具回転装置とを相対移動させることにより、前記歯付部材と前記回転工具とを相対移動させる相対移動装置と、
前記歯付部材回転装置および前記工具回転装置の回転を同期制御することにより、前記1つ以上の切削刃具に、前記少なくとも一方の歯付部材の各歯の歯面と側面とにより画定される角部を切除させる回転制御部と、
前記相対移動装置を制御することにより、前記角部の切除を複数回の切削により行わせる相対移動制御部と
を含む歯付部材の噛合案内面形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−95895(P2009−95895A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266924(P2007−266924)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(591092615)豊精密工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】