説明

歯周病原因菌の除菌用微生物及び当該微生物を含有する歯周病予防又は治療のための医薬組成物、食品又は食品添加物

【課題】う蝕性のある乳酸以外のメカニズムで歯周病菌を抑制することができるプロバイオティクス機能を有する微生物を開発することを課題とする。
【解決手段】ビタミンK要求性のビフィズス菌を用いて、P. gingivalisの生育因子であるビタミンKを競合させることにより、P. gingivalisの生育を抑制することができることを見出した。本願発明は、ビタミンK要求性のビフィズス菌を有効成分として含有する微生物を有効成分として含有する歯周病予防剤又は歯周病治療剤、及びビタミンK要求性のビフィズス菌を有効成分として含有する歯周病予防又は歯周病治療のための食品又は食品添加物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、歯周病予防及び歯周病治療の技術分野に属する。具体的には、本願発明は、歯周病予防及び歯周病治療に有用なビフィズス菌に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は、歯肉に炎症を起こす歯肉炎と、歯を支えている歯槽骨が破壊される歯周炎に分けられる。いわゆる歯槽膿漏は、成人性歯周炎に分類されている。歯肉炎は、歯肉縁上プラークにより引き起こされ、歯周炎は、歯肉縁下プラークにより引き起こされ、これらに関与する病原菌としては、Porphyromonas gingivalis (P.g.)、Prevotella intermedia (P.i.)、Tannerella forsythensis (T.f.)など、数種類の細菌があると言われている。そして、特に、Porphyromonas gingivalis (P.g.)が主要な原因であると言われている。
【0003】
Porphyromonas gingivalis (P.g.)の産生する種々の酵素の内、トリプシン様のシステインプロテアーゼ(ジンジパイン)は、触媒活性として強力なトリプシン様活性を有し、宿主タンパク質の分解や宿主細胞の傷害を引き起こし、歯周病に関連する様々な病態を生み出すと考えられている。そこで、歯周病を予防又は治療する手段として、ジンジパインプロテアーゼの作用を阻害することは非常に有効な手段と考えられる。植物抽出物を有効成分とすることを特徴とするプロテアーゼ阻害剤も報告されている(特許文献1:特開平6-25000号)。
【0004】
また、歯周病の予防効果を謳う乳酸菌による予防剤又は食品がある。例えば、乳酸菌(ラクトバチルス・サリバリウス)に属する菌体を有効成分として含有する、う歯を含む口腔疾患などの予防用/治療用組成物及びプロバイオテック製品(特許文献2:WO2002/016554号)、更に、乳酸菌又はそのろ過液若しくは処理物及び種々の糖/植物抽出液との組成物(特許文献3:WO2002/080946号)が開発されてきている。
【0005】
一方、特許文献4(特開2003-171292)には、歯周病予防効果のある乳酸菌及びこれらが資化できる糖類を含有する歯周病の予防又は治療剤が記載されている。
【0006】
また、特許文献5(特開2003-299480)には、虫歯(う蝕)予防効果のある乳酸菌(ロイテリ菌)を含む食品、及びヨーグルトを製造することが記載されている。又、ロイテリ菌は、抗生物質を産生することが知られている(特許文献6:米国特許第5,352,586号)。
【0007】
なお、プロバイオティクスとは、消化管内の細菌叢を改善し、宿主に有益な作用をもたらしうる有用な微生物と、それらの増殖促進物質のことを意味している。
【0008】
【特許文献1】特開平6-25000号
【特許文献2】WO2002/016554号
【特許文献3】WO2002/080946号
【特許文献4】特開2003-171292号
【特許文献5】特開2003-299480号
【特許文献6】米国特許第5,352,586号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
歯周病の予防効果を謳う乳酸菌による予防剤又は食品があるが、実際にはプロバイオティクス菌株が歯周病に有効であることを示した科学的なデータは殆どない。また、口腔内における乳酸菌の役割についても未だ不明な点が多く、健常な口腔に特異的な乳酸菌種のなども、まだ十分に解明されていない。現在までのところ、比較的基礎データが充実しているプロバイオティクスとしてLactobacillus salivarius TI2711があるが、本菌株の歯周病原菌抑制メカニズムは乳酸であり、大阪大学歯学部の研究によりprobiotic L. salivariusのう蝕性も報告されている。
【0010】
本願発明は、このような技術の現状に鑑み、う蝕の危険性(リスク)が懸念されている乳酸以外のメカニズムで歯周病菌を抑制できるプロバイオティクス機能を有する微生物を開発することを課題とする。また、本願発明は、う蝕(齲蝕)性のない又は少ない、歯周病の予防及び/又は治療に有用なプロバイオティクス機能を有する微生物を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者等は、ビタミンK要求性のビフィドバクテリウム属に属する微生物(ビフィズス菌)を用いて、P. gingivalisの生育因子であるビタミンKを競合させることにより、P. gingivalisの生育を抑制することができることを見出した。
【0012】
本願発明は、(1)ビタミンK要求性のビフィズス菌を有効成分として含有するP. gingivalisの生育を抑制する予防剤及び/又は治療剤などの医薬組成物及び(2)ビタミンK要求性のビフィズス菌を有効成分として含有するP. gingivalisの生育抑制効果のある食品又は食品添加物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本願発明は、う蝕(齲蝕)性がないか又は少なく、人体に対する安全性や有効性が確認されている微生物を用いて、歯周病の予防及び/又は治療ができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
1.はじめに
本願発明者等は、歯周病菌に対する抑制効果を有する菌を、歯周病菌と必須栄養素の競合する菌から見出そうとした。そこで、まず、正常な健康人と歯周病患者の口内細菌叢を解明、比較した。次に、歯周病の一因である微生物の中に、Porphyromonas属およびPrevotella属に属する菌種が知られており、それらの大半がビタミンK要求性の菌株であることから、ビフィズス菌によるビタミンKの競合の抑制を調べることとした。
【0015】
文献1(Glick, M. C., Zilliken, F. and Gyorgy, P., Supplementary growth promoting effect of 2-methyl-1,4-naphthoquinone on Lactobacillus bifidus var. pennsylvanicus, J. Bacteriol., 77, 230-236(1959))記載のビフィズス菌(旧名 : Lactobacillus bifidus var. pennsylvanicus)もビタミンK要求性であることは知られていたが、その他の菌種や菌株についてビタミンK要求性に関する情報は今までなかった。
【0016】
そこで、本願発明者等は、様々なBifidobacteriumのビタミンK要求性につき検討し、ヒトから分離されるビフィズス菌の中にも、ビタミンK要求性の菌株の存在を見出した。更に、本願発明者等は、ビタミンK要求性のBifidobacteriumが歯周病原菌のP. gingivalisの生育因子であるビタミンKを競合し、乳酸以外の作用機序により、P. gingivalisの生育を抑制できることを初めて見出した。
【0017】
2.健常人と歯周病患者の口内菌の分布
従来から、若い健常人には、StreptococcusとVeillonella ssp.が、歯周病患者よりも高く検出されると報告されている(Kumar, P. S., Griffen, A. L., Moeschberger, M. L. and Leys, E. J., Identification of candidate periodontal pathogens and beneficial species by quantitative 16S clonal analysis. J. Clin. Microbiol., 43, 3944-3955(2005))。
【0018】
本願発明者等は、プロバイオティクス機能を有する微生物として、腸内で有効であるラクトバチルス属の微生物とビフィドバクテリウム属の微生物に焦点を当て、若い健常人の群、元歯周病患者で現在は良く管理された口内環境である群及び歯周病患者群の口内細菌を比較した。
【0019】
ラクトバチルス属に属する微生物では、L.(Lactobacillus) salivarius、L. gasseri、L. fermentumの3菌種の検出者数が多かったが、いずれの菌種(3菌種)でも菌数や検出率に大きな違いはなかった。
【0020】
他方、ビフィドバクテリウム属に属する微生物では、B.(Bifidobacterium) adolescentis、B. longum、及びB. urinalisは、若い健常人群で検出者を確認したが、歯周病患者群では検出者を確認できなかった。
【0021】
3.健常人に存在する微生物の抗歯周病効果
本願発明者等は、若い健常者の口腔内で歯周病患者よりもビフィズス菌種が豊富なこと、歯周病患者のビフィズス菌数が最も少ないことなどから、ビフィズス菌が口腔内の有用菌ではないかと考えた。そして、主要な歯周病菌であるP. gingivalis(ジンジバリス菌)の増殖促進因子であるビタミンKを、ビフィドバクテリウム属に属する微生物が競合して消費することで、P. gingivalisの生育を抑制できるとの仮説を立てて実験的に検討した。
【0022】
具体的には、今まで詳細に検討されなかったビフィドバクテリウム属に属する微生物のビタミンK要求性を評価し、これらの微生物が菌種によってビタミンK要求性が異なること、さらに厳密には菌株によってもビタミンK要求性が異なることを見出した。
【0023】
また、Veillonella(ベイヨネラ菌)は、P. gingivalisにビタミンKを供給する微生物として考えられていた。これに対して、本願発明者等は、ベイヨネラ菌の培養上清がP. gingivalisとビフィドバクテリウム属に属する微生物の増殖を促進することを明らかにした。つまり、口腔内のP. gingivalisとビフィドバクテリウム属に属する微生物の増殖に必要なビタミンKを、Veillonellaが産生していることを示唆する現象を見出した。
【0024】
具体的には、Veillonellaの産生する主要なビタミンKであるメナキノン-7(MK-7)が、ビフィドバクテリウム属に属する微生物の増殖を促進すること、その際にビフィドバクテリウム属に属する微生物が培養液中のMK-7を消費することを実験的に検証した。この実験結果から、理論上、P. gingivalisの増殖に必要な環境(口腔内など)において、ビフィドバクテリウム属に属する微生物がMK-7(ビタミンK)を減らせることが分かった。
【0025】
次に、ビタミンK要求性が高く、ビタミンK消費能力も高かったビフィドバクテリウム属の代表的な菌株としてBifidobacterium adolescentis OLB6398を、P. gingivalisと共存させることにより、P. gingivalisの増殖を顕著に抑制させることを見出した。
【0026】
なお、本願発明で使用したB. adolescentis OLB6398は、下記の条件で寄託した。
(1)寄託機関名: 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター
(2)連絡先: 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8
電話番号0438-20-5580
(3)受領番号: NITE AP-294
(4)受託番号: NITE P-294
(5)識別のための表示:Bifidobacterium adolescentis OLB6398
(6)寄託日(受領日): 平成18年12月22日
【0027】
本菌株は、ベイヨネラ菌の培養上清を培地に1%(v/v)で添加した場合と、ベイヨネラ菌の培養上清を無添加の場合について、37℃、18時間で嫌気培養した後の波長600nmの吸光度(O.D.)の差が0.58であったものである。
【0028】
4.ビタミンK要求性のビフィズス菌を有効成分とする医薬組成物(歯周病予防剤及び治療剤)
本願発明者等の歯周病予防剤及び治療剤はビタミンK要求性のビフィズス菌を含有することを特徴とする。ビタミンK要求性のビフィズス菌としては、例えば、B. adolescentis、B. longum、B. breve、B. bifidum、B. urinalis及びB. lactisが挙げられる。更に、以下、「6.歯周病の予防又は治療に有用な微生物のスクリーニング方法」に説明するスクリーニング方法により選ばれたビフィズス菌が挙げられ、好適には、B. adolescentis、B. longum、及びB. bifidumが挙げられる。具体的には、例えば、上記したBifidobacterium adolescentis OLB6398(NITE P-294)が挙げられる。
【0029】
本願発明にかかる歯周病予防剤及び治療剤は、どのような形態をとっていてもよい。例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、ペースト剤、丸剤、チュアブル剤、含嗽剤、トローチ剤もしくはパッチ剤又はヨーグルト等が挙げられ、好適には、錠剤、散剤、顆粒剤、ペースト剤、チュアブル剤、含嗽剤、トローチ剤が用いられる。
【0030】
製剤化には、賦形剤、結合剤、崩壊剤及び滑沢剤など、製剤化のために常用される補助剤を添加することができる。賦形剤としては、例えば、デンプン、乳糖、白糖、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、リン酸水素カルシウム、合成ケイ酸アルミニウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、ハイドロキシプロピルスターチ(HPS)などがある。 また、結合剤としては、デンプン、微結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン(PVP)、アラビアゴム末、ゼラチン、ブドウ糖、白糖などの水溶液又はそれらの水・エタノール溶液などがある。崩壊剤としては、デンプン、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースカルシウム、微結晶セルロース、ハイドロキシプロピルスターチ、リン酸カルシウムなどがある。滑沢剤としては、カルナバロウ、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、天然ケイ酸アルミニウム、合成ケイ酸マグネシウム、硬化油、硬化植物油誘導体(ステロテックスHM)、ゴマ油、サラシミツロウ、酸化チタン、乾燥水酸化アルミニウム・ゲルステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、リン酸水素カルシウム、及びラウリル硫酸ナトリウムなどがある。
【0031】
5.ビタミンK要求性のビフィズス菌を有効成分とする歯周病予防用又は治療用の食品又は食品添加物
本願発明のビタミンK要求性のビフィズス菌を有効成分とする歯周病予防用又は治療用の食品は、固体状(粉末、顆粒状など)、ペースト状、液状ないし懸濁状のいずれでもよく、また、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤など、適宜の剤形のサプリメントとすることもできる。本願発明は、歯周病予防用食品、治療用食品、特別用途食品又は栄養補助食品を調製するための食品添加剤とすることもできる。
【0032】
6.歯周病の予防又は治療に有用な微生物のスクリーニング方法
本願発明は、更に、歯周病の予防又は治療に有用なビフィズス菌のスクリーニング方法を包含する。具体的には、本願発明には、ビタミンK、キノン類又はナフタレン類を10-6M〜10-2Mで培地に添加した場合と、ビタミンK、キノン類又はナフタレン類を培地に添加しない場合について、菌数を比較することでビタミンK要求性のビフィズス菌株を選抜する、歯周病の予防又は治療に有用な微生物のスクリーニング方法が包含される。ここで、菌数の比較は、実施に顕微鏡で菌数を計数して比較することもできるが、波長600nm程度の吸光度の差により計測することもできる。
【0033】
例えば、ビタミンK、キノン類又はナフタレン類を培地に添加又は添加せずに30〜45℃、12〜72時間で嫌気培養した後の菌数に差を示すビタミンK要求性微生物を選抜することができる。具体的には、36〜38℃、18〜20時間、好ましくは37℃、18時間で嫌気培養することが例示できる。そして、これらの条件で嫌気培養した後の菌数の差では、菌数の比率として好ましくは101以上、より好ましくは5×101以上、さらに好ましくは102以上が例示でき、波長600nmの吸光度の差として好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上が例示できる。つまり、これらの状態を示す微生物を選抜することで、ビタミンK要求性微生物をスクリーニングできることとなる。また、キノン類、ナフタレン類としては、例えば、α-ナフトキノン、2-ヒドロキシ-1, 4-ナフトキノン、2, 3-ジクロロ-1, 4-ナフトキノン、5-ヒドロキシ-1, 4-ナフトキノン、フィロキノン、メナキノン-n、メナジオン、4-アミノ-2-メチル-1-ナフトール、1-ナフトエ酸、2-ナフトエ酸、1, 4-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、1, 4-ナフタレンジカルボン酸、1-ナフチル酢酸、α-ナフチルアミン、α-ナフチルアルデヒド、β-ナフチルアルデヒドを用いることができる。
【実施例】
【0034】
[実施例1] 健常者と歯周病患者の口腔内での乳酸桿菌とビフィズス菌の菌種の構成
(被験者)
被験者は、実験の主旨に同意して頂いた、(1)19歳から27歳で口腔内衛生が良好な若い健常者16名(男性6名、女性10名)(以下、健常者群)、(2)37歳から70歳で歯周病患者16名(男性6名、女性10名)(以下、歯周病患者群)、(3)47歳から76歳で歯周病の治療後の元歯周病患者14名(男性4名、女性10名)(以下、メインテナンス群)とした。各被験者は、少なくとも試験1ヶ月以上前から抗生物質の投与を受けておらず、発酵乳や漬物などの乳酸桿菌やビフィズス菌(ビフィドバクテリウム)を含むような食品を摂取しないように指示された。各被験者について口腔の所見(歯垢付着量、歯肉の腫れ、歯周ポケットの深さなど)を、歯科医師により確認したところ、健常者群とメインテナンス群に比較して歯周病患者群で著しく悪く、健常者群とメインテナンス群で差はなかった。
【0035】
(乳酸桿菌とビフィズス菌の分離と同定)
朝の朝食前で歯磨き前に唾液を採取し、GAMブロス(日水製薬社)で適宜、希釈した。希釈液を乳酸桿菌の選択培地(LBS agar, BBL)、ビフィズス菌の選択培地(Beerens agar)に接種し、これらの培地を嫌気性のグローブボックス内(N2: CO2: O2 = 8: 1: 1)にて37℃、2日間で嫌気培養した。培養した後に、培地上に発育したコロニーを釣菌し、BL agar(日水製薬社)にて継代培養した。このようにして純粋培養した菌株について、グラム染色性、コロニーと菌体の形態を観察した後に、種特異的プライマーを用いたPCR法(Song, Y., Kato, N., Liu, C., Matsumiya, Y., Kato, H., and Watanabe, K., Rapid identification of 11 human intestinal Lactobacillus species by multiplex PCR assays using group - and species - specific primers derived from the 16S-23S rRNA intergenic spacer region and its flanking 23S rRNA. FEMS Micro biol. Lett., 187, 167-173(2000)とMatsuki, T., Watanabe, K., Tanaka, R., Fukuda, M., Takada, T. and Oyaizu, H., Distribution of bifidobacterial species in human intestinal microfrola examined with 16S rRNA - gene - targeted species - specific primers. Appl. Environ. Microbiol., 65, 4506-4512(1999)の方法)、又は16SrDNAの相同性解析により、菌種を同定した。なお、各分離株の16SrDNAの配列は、DNA Data Bank of Japanに登録してある菌種の配列と比較して、98%以上の類似性を有するものを同一種として同定した。
【0036】
(乳酸桿菌とビフィズス菌の菌種の構成)
各群の乳酸桿菌とビフィズス菌について菌種の構成を、それぞれ表1と表2に示す。表1に示した通り、ヒト口腔内から11菌種の乳酸桿菌が検出された。そして、ラクトバチルス属に属する微生物では、L. salivarius、L. gasseri、L. fermentumの3菌種で検出率が大きかったが、いずれの菌種(3菌種)でも、若い健常人群と歯周病患者群で菌数や検出者数に大きな違いはなかった。つまり、健常者群、歯周病患者群、メインテナンス群で特異的な菌種は見出せなかった。
【0037】
他方、表2に示した通り、ビフィドバクテリウム属に属する微生物では、B.(Bifidobacterium) dentiumの若い健常人群で検出者数が多かったが、歯周病患者群でも検出者数が多かった。ただし、B. adolescentis、B. longum、B. urinalisでは、若い健常人群で検出者を確認したが、歯周病患者群では検出者を確認できなかった。また、総ビフィズス菌数は、メインテナンス群に比較して、歯周病患者群で少なかった。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
[実施例2] ビタミンKとベイヨネラ菌の培養上清がビフィズス菌の増殖に及ぼす影響
ベイヨネラ菌(Veillonella parvula ATCC 17745)を、Brain Heart Infusion (BBL)にて37℃、24時間で嫌気培養した。この培養物を遠心分離した後に、上清を0.45μmのフィルターにて濾過除菌し、ベイヨネラ菌の培養上清を得た。なお、これらの菌株名にATCCと記載された菌株は、細胞・微生物・遺伝子バンクである American Type Culture Collection (ATCC)から入手した基準株である。
【0041】
Number 1培地(Kaneko et al., J. Dairy Sci., 77, 393-404(1994))を対照とした。そして、このNumber 1培地に、ビタミンK(メナジオン)を1μg/ml、又はベイヨネラ菌の培養上清を1%(v/v)となるように添加した培地を、それぞれ調製した。口腔から分離したビフィドバクテリウム属に属する微生物(ビフィズス菌)を上述した3種類の培地に接種し、37℃、18時間で嫌気培養(アネロパック、三菱ガス化学社)した。培養した後に、それぞれの培養液のO.D.(optical density、波長600nmの吸光度)を、分光光度計(U-2000、日立社)を用いて測定した。ビタミンKとベイヨネラ菌の培養上清がビフィズス菌の増殖に及ぼす影響は、それぞれの培養液のO.D.から、対照とした培養液のO.D.を減じた値(ΔA600nm)にて評価した。つまり、ΔA600nmが大きい程、ビフィズス菌の増殖促進効果が高いことを示す。具体的には、ΔA600nmが0.1で、ビフィズス菌の増殖促進効果が高いと考えられるが、ΔA600nmが0.2で、より効果が高く、ΔA600nmが0.3で、さらに効果が高いと言える。
【0042】
表3に示した通り、B. urinalisを除く、B. dentium、B. adolescentis、B. longumに属する微生物で、ビタミンKとベイヨネラ菌の培養上清により増殖が促進された。そして、図1に示した通り、ビタミンKとベイヨネラ菌の培養上清に対するビフィズス菌の感受性(ビタミンK要求性)は厳密には、菌株によっても異なっていた。なお、ビタミンKによる増殖促進効果と、ベイヨネラ菌の培養上清による増殖促進効果には正の相関(rs = 0.46、P < 0.01)が認められたことから、ビタミンKがベイヨネラ菌の培養上清に含まれるビフィズス菌の増殖促進物質であることが推察された。
【0043】
【表3】

【0044】
[実施例3] ビタミンKの濃度とビフィズス菌の増殖との関係
ベイヨネラ菌は、P. gingivalisにビタミンKを供給する微生物だと考えられており、ベイヨネラ菌の産生する主なビタミンKは、メナキノン-7(MK-7)である。そこで、前述した内容を検証するために、Number 1培地にMK-7(和光純薬社)を0〜10.0μg/ml(0〜1.5×10-4M(mol/l))で添加して、ビフィズス菌を培養し、その増殖(O.D.)を比較した。なお、賦活培養として、ビフィズス菌はGAM培地を用いて、37℃、18時間で嫌気培養し、試験系へ適宜、0.1〜1重量%で摂取した。特に断りのない限り、他の実施例でも同様に、ビフィズス菌を賦活培養した。今回の実験では、実施例2で用いたビフィドバクテリウム属に属する微生物(ビフィズス菌)から、作業の便宜上、B. adolescentis OLB6398(NITE P-294)のみを選抜した。また、ビフィズス菌の対照となる乳酸桿菌としてL. paracasei JCM 1181、歯周病菌としてP. gingivalis ATCC33277を用いた。なお、これらの菌株名にJCMと記載された菌株は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターの微生物材料開発室から入手した基準株である。
【0045】
図2や表4に示した通り、B. adolescentis OLB6398は、MK-7(ビタミンKの一種)の添加によって増殖が促進され、ビタミンKに依存して増殖していた。なお、前述したように、このB. adolescentis OLB6398は、メナジオン(ビタミンKの一種)とベイヨネラ菌の培養上清によっても増殖が促進されていた。また、P. gingivalisも、MK-7によって増殖が促進された。ただし、L. paracasei JCM 1181は、MK-7によって増殖が促進されず、乳酸桿菌はビタミンKに影響されないことが示唆された。
【0046】
【表4】

【0047】
[実施例4] ビフィズス菌のビタミンK消費能力に関する検討
Number 1培地にメナキノン-4(MK-4、和光純薬社)又はメナキノン-7(MK-7、和光純薬社)を5.0μg/mlになるように添加して、各種の菌株を培養し、培養上清のメナキノンの濃度を比較した。B. adolescentis OLB6398を含むビフィドバクテリウム属に属する微生物(B. adolescentisを61菌株、B. longumを9菌株、B. bifidumを1菌株)と、乳酸桿菌(Lactobacillus paracasei JCM1181)を、前述した培地を用いて、37℃、18時間で嫌気培養した。培養した後に、培養上清に残存するビタミンKの濃度を測定し、各種の菌株で比較した。ビタミンKの濃度は、小嶋らの方法(Kojima et al., Acta. Paediatr. 93, 457-463(2004))に準じて、HPLCを用いて測定した。
【0048】
P. gingivalisの生息する環境からビタミンKを減らすことができれば、P. gingivalisの増殖を抑制できると考えられる。したがって、ビフィズス菌のビタミンK消費能力(ビタミンK要求性)は、本願発明で極めて重要な因子である。そこで、ビフィズス菌を培養した後に残存するビタミンKの濃度を測定して評価した。
【0049】
その結果によると、今回の実験で用いた、いずれのビフィズス菌も乳酸桿菌に比較して、培地(培養上清)に残存するビタミンKの濃度が少なかった。B. adolescentis、B. longum、B. bifidumの培養上清に残存するMK-4の濃度は、それぞれ1.4±0.9μg/ml、2.0±1.2μg/ml、1.0μg/mlであり、当初の5.0μg/mlに比較して減少していた。そして、図3に示した通り、B. adolescentis OLB6398の培養上清に残存するMK-7の濃度は0.7μg/mlであり、当初の5.0μg/mlに比較して減少していた。このように、ビフィズス菌は、ビタミンK消費能力(ビタミンK要求性)が高かった。
【0050】
一方、乳酸桿菌(L. paracasei JCM1181)の培養上清に残存するMK-7の濃度は、当初の5.0μg/ml と変わらず、乳酸桿菌はビタミンK消費能力(ビタミンK要求性)がなかった。図2より、乳酸桿菌はビタミンKによって増殖が促進されず、図3より、乳酸桿菌はビタミンKを消費しないことが分かった。
【0051】
以上の検討から、ビフィドバクテリウム属に属する微生物はビタミンK要求性(ビタミンK消費能力)を有するため、P. gingivalisの増殖促進因子であるビタミンKを競合して消費でき、P. gingivalisの増殖を抑制できると考えられた。これに対して、乳酸桿菌はビタミンK要求性を有さないため、P. gingivalisの増殖促進因子であるビタミンKを競合して消費できず、P. gingivalisの増殖を抑制できないと考えられた。
【0052】
[実施例5] ビフィズス菌による歯周病菌の増殖抑制作用(1)
実施例2〜4に示した微生物のスクリーニング法の適性を検討した。つまり、ビタミンK要求性又はビタミンK消費能力を有する菌株のスクリーニング法で選抜されたビフィズス菌が実際に歯周病菌(P. gingivalis)の増殖を抑制するかを確認した。
【0053】
実施例2で用いた菌株の一つであるB. adolescentis OLB6398を、P. gingivalisと混合(共)培養し、P. gingivalisを単独培養した場合と増殖を比較した。中和培養装置(柴田科学社)に、GAM培地(日水製薬社)を入れて、オートクレーブで滅菌した。前述した滅菌済みの培地へ5.0μg/mlの濃度となるようにMK-7の溶液を無菌的に加えた。そして、B. adolescentis OLB6398とP. gingivalisを一緒に接種した場合と、P. gingivalisのみを接種した場合について、37℃、72時間で嫌気培養した。
【0054】
なお、この際に、B. adolescentis OLB6398によって産生される乳酸や酢酸によって培地のpHが低下し、P. gingivalisの増殖を抑制する可能性がある。そこで、4N-NaOHと2N-HClを用いて、培地のpHを6.8〜7.1の範囲で自動制御しながら培養した。そして、経時的にサンプリングし、各種の微生物の菌数を測定した。
【0055】
図4に示した通り、B. adolescentis OLB6398を、P. gingivalisと混合培養した場合には、P. gingivalisの最終菌数は4.7×107であった。これに対して、P. gingivalisを単独培養した場合には、P. gingivalisの最終菌数は2.4×1010であった。ビフィズス菌(B. adolescentis OLB6398)を、歯周病菌(P. gingivalis)と混合培養することで、ビフィズス菌が歯周病菌の増殖(生育)を抑制できた。なお、L. paracasei JCM1181を、P. gingivalisと混合培養した場合には、P. gingivalisの最終菌数は3.6×1010であった。したがって、乳酸桿菌(L. paracasei JCM1181)を、歯周病菌(P. gingivalis)と混合培養しても、乳酸桿菌が歯周病菌の増殖(生育)を抑制できなかった。
【0056】
[実施例6] ビフィズス菌による歯周病菌の増殖抑制作用(2)
ベイヨネラ菌は口腔内の優勢菌群であり、P. gingivalisにビタミンKを供給する微生物だと考えられている。本願発明者等は、実施例2において実際に、ベイヨネラ菌(Veillonella parvula ATCC17745)の培養上清がビフィズス菌の増殖を促進することを明らかにした。今回の実験では、前述したスクリーニング法で選抜されたビフィズス菌が実際に歯周病菌(P. gingivalis)の増殖を抑制するかを、ヒト口腔内の微生物の生態系に近い条件で確認した。
【0057】
連続培養が可能なように、実施例5と同じ中和培養装置の一部を改良して、ベイヨネラ菌(Veillonella parvula ATCC17745)、歯周病菌(P. gingivalis)、ビフィズス菌(B. adolescentis OLB6398)を混合培養した。今回の混合培養では連続培養しており、その希釈率を0.06h-1として、培地のpHを6.7〜7.1に制御した。そして、経時的にサンプリングし、各種の微生物の菌数を測定した。なお、連続培養とは一定の流量(速度)で培養系に新鮮な培地を供給しつつ、同時に同量の培養液を排出する培養法である。本願発明者等は、この培養法が常に唾液が流入・流失している口腔内に近いモデルだと考えた。
【0058】
図5(a)に示した通り、B. adolescentis OLB6398をP. gingivalisよりも先に接種した場合には、P. gingivalisの増殖が抑制された。具体的には、Veillonella parvula ATCC17745を単独で培養してから、B. adolescentis OLB6398を1日後に接種し、P. gingivalis を5日後に接種した。P. gingivalisは、健常者や歯科医師により定期的にメインテナンスを受けている患者の口腔からは分離されないか、又は分離されても著しく低い菌数であることが分っている。したがって、健常人やメインテナンスを受けている患者に、ビフィズス菌を投与すると、ビタミンK消費能力(ビタミンK要求性)の競合作用により、P. gingivalisの初期感染や再感染を予防できると考えられる。
【0059】
一方、図5(b)に示した通り、P. gingivalisをB. adolescentis OLB6398よりも先に接種した場合には、P. gingivalisの増殖が抑制されなかった。具体的には、Veillonella parvula ATCC17745を単独で培養してから、P. gingivalisを1日後に接種し、B. adolescentis OLB6398を5日後に接種した。したがって、ビフィズス菌を歯周病の治療に適用するには、ビフィズス菌の単独では十分な効果が得られない可能性もあり、通常の歯周病の治療と併用することが必要だと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本願発明は、歯周菌予防又は/及び治療の分野並びにそのための医薬又は食品製造の産業分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】ビタミンKとベイヨネラ菌の培養上清に対するビフィズス菌の感受性(ビタミンK要求性)を比較した結果を示す。
【図2】培地のビタミンK(MK-7)の濃度を変化させて、歯周病菌のP. gingivalis、 ビフィズス菌のB. adolescentis、乳酸桿菌のL. paracaseiの増殖(成長)を、O.D.で比較した結果を示す。
【図3】B. adolescentis OLB6398(寄託菌株NITE P-294)、L. paracasei JCM1181を嫌気培養し、残存するビタミンKの濃度を比較した結果を示す。バーは、3度の測定の標準偏差(±SD)を示す。
【図4】B. adlescentis OLB6398(寄託菌株NITE P-294)、P. gingivalisの混合中和培養を試みた結果を示す。横軸は、培養時間、縦軸は、生存細胞数(cfu/ml)を表す。
【図5】B. adlescentis OLB6398(寄託菌株NITE P-294)、P. gingivalis、V. parvula ATCC17745の混合連続培養を試みた結果を示す。横軸は、培養時間、縦軸は、生存細胞数(cfu/ml)を表す。(a)は、B. adolescentis OLB6398をP. gingivalisよりも先に接種した場合、(b)は、P. gingivalisをB. adolescentis OLB6398よりも先に接種した場合に混合連続培養を試みた結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンK要求性のビフィドバクテリウム属に属する微生物を有効成分として含有する歯周病予防剤又は歯周病治療剤。
【請求項2】
ビフィドバクテリウム属に属する微生物が、B. adolescentis、B. longum、B. breve、B. bifidum、B. urinalis及びB. lactisから選ばれる少なくとも一つを含有してなることを特徴とする請求項1記載の歯周病予防剤又は歯周病治療剤。
【請求項3】
ビフィドバクテリウム属に属する微生物が、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス(B. adolescentis) OLB6398(NITE P-294)である請求項1記載の歯周病予防剤又は歯周病治療剤。
【請求項4】
ビタミンK要求性のビフィドバクテリウム属に属する微生物を含有する歯周病予防又は歯周病治療のための食品又は食品添加物。
【請求項5】
ビフィドバクテリウム属に属する微生物が、B. adolescentis、B. longum、B. breve、B. bifidum、B. urinalis及びB. lactisから選ばれる少なくとも一つを含有してなることを特徴とする請求項4記載の食品又は食品添加物。
【請求項6】
ビフィドバクテリウム属に属する微生物が、ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス(B. adolescentis) OLB6398(NITE P-294)である請求項4記載の食品又は食品添加物。
【請求項7】
ビタミンK、キノン類又はナフタレン類を10-6M〜10-2Mで培地に添加した場合と、ビタミンK、キノン類又はナフタレン類を培地に添加しない場合について、菌数を比較することでビタミンK要求性のビフィズス菌株を選抜する、歯周病の予防又は治療に有用な微生物のスクリーニング方法。
【請求項8】
ビタミンK、キノン類又はナフタレン類を10-6M〜10-2Mで培地に添加した場合と、ビタミンK、キノン類又はナフタレン類を培地に添加しない場合について、30〜45℃、12〜72時間で嫌気培養した後の菌数に差を示す歯周病の予防又は治療に有用なビタミンK要求性を示すビフィドバクテリウム属に属する微生物。
【請求項9】
ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス(Bifidobacterium adolescentis)OLB6398(NITE P-294)。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−182931(P2008−182931A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18256(P2007−18256)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】