説明

歯型模型製作方法

【課題】歯科模型の製作における作業工程の短縮のため、印象材の硬化時間、消毒滅菌工程と、長時間を要する石膏の硬化時間の短縮可能な、簡単でコストのかからない歯型模型の製作方法を提供する。
【解決手段】簡単でコストのかからない歯型模型の製作方法を実現するために、上記目的のために、歯型模型作製で使用される材料を、ミョウバン水を用いて練和することを特徴としている。ミョウバン水は、印象材や石膏の硬化時間を促進するだけでなく、その滅菌作用や収斂作用により、大幅な作業工程の短縮を図ることができる。ミョウバン水で練和する印象材の対象は、主にアルギン酸塩の可溶性塩を主成分とする印象材組成物であり、歯科用の石膏一般に効果がある。ミョウバン水は、ミョウバンを0.01〜5wt%とする水溶液が好適な濃度である。ミョウバン水の濃度は、印象材や石膏の種類、すなわち特性によって調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用歯型模型の製作方法に係り、印象材や石膏の硬化時間を制御して短時間での効率よい歯型模型の製作に関する。
【背景技術】
【0002】
歯型模型は、義歯や鋳造冠の製作、矯正治療等を目的としている。例えば、抜歯などで歯牙が欠損した場合には、咀嚼機能や審美性を回復するために義歯を装着する必要があり、このような義歯は、最初に患者の口腔内を歯科用印象材により印象採得し、この採得した印象に基づいて、石膏製の歯型模型を作成する作業工程から成っている。
【0003】
この歯型石膏模型は、患者の歯肉部分と、この歯肉部分から延びる残存歯牙部分と、抜歯などによる歯牙欠損部の歯肉部とを極めて忠実に印象して再現しなければならず、作業工程も短時間での作業とする必要がある。この歯型石膏模型に基づいて、例えば、患者の欠損歯牙部分を補綴する義歯を作成する。歯の鋳造冠等を作成する場合には、鋳造冠等の歯との嵌合状態を調べながら作成作業を行なう必要があるため、鋳造冠等を作成する周辺の歯が作業の邪魔にならないように、対象の歯の補綴部位だけを他の歯から分割して取り出して作業を行っている。
【0004】
このような作業を行うために、従来、患者の口腔からとった印象材による歯型陰型によって石膏で印象した歯型模型を形成し、この歯型模型の歯列を削り、孔をあけてピンを挿入して固着し、予め水と練和してペースト状とした石膏を充填した基台用型に入れて、石膏が硬化した後、脱型して作業模型を作製し、補綴物を作製するための成形型用歯形ブロックを作業模型から切り出すような作業が行われる。
【0005】
しかしながら、患者から口腔内印象を採得したり石膏により歯型模型としたり、さらに補綴物作成のための作業模型を作成するためには、印象材や石膏を水で溶解してペースト状として使用することになるが、印象材や石膏の硬化に長時間を要し、2時間から長い場合には24時間もの時間を必要としているため、作業効率の低下を招いている。
【0006】
また、印象採得は口腔内に直接印象材を当てるため、印象材そのものの衛生面での管理とともに、印象採得後には印象に付着した口腔内にある細菌を滅菌消毒する必要もある。
【0007】
従来印象材の硬化時間は、印象材の組成成分により行われており、印象材の特性によって、例えば、ファーストセット、ノーマルセット、スローセットといった種類があり、メーカ指定の標準混水量で30秒から40秒間練和し、練和した印象材をトレイに盛り、表面を平らにした後、口腔内で圧接し、1分30秒〜2分程度保持して硬化を確認した後に、取り外して印象を採得する。印象材の硬化時間は、印象材の組成に依存しているため、硬化時間を制御するのは印象材の選択に頼らざるを得なかった。
【0008】
印象材は歯科用アルギン酸塩組成物が広く用いられている。この歯科用アルギン酸塩組成物は、通常、アルギン酸塩,ゲル化反応材,ゲル化調整材及び充填材を主成分とする粉末で提供され、使用時に水と練和・混合することによって硬化するものと、主材ペーストと硬化材ペーストとの2種類のペーストで提供され、使用時にこれらのペーストを混合・練和することにより硬化させるものとがある。印象材の硬化時間は、ゲル化調整材によって調整されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0009】
印象採得後には、滅菌消毒を行うが、消毒用溶液には石膏の硬化時間に影響を与える成分が含まれているため、石膏を流し込んでの歯型模型作製の際に、石膏の表面荒れや印象収縮等による安定性の問題がある。これに対して、例えば特許文献2において、印象材を用いて採得した印象を消毒し、その印象から得られる石膏模型表面を滑沢化させるための印象用調整材の提示がされている。調整剤は、特定のアルコール類、特定の陽イオン界面活性剤、クロルヘキシジン、トリクロサン(イルガサンDP300)、ポピドンヨード、グルタールアルデヒド中の1種以上を消毒剤とし、20℃に於ける溶解度が0.2以上の特定の金属塩を固定材として併用することにより、効果が得られるとしている。
【0010】
歯型模型を製作する際に、最も多くの待ち時間を要する作業工程は、石膏の硬化工程である。このため、石膏には硬化促進剤を配合している。硬化促進剤としては、例えば、既存の石膏模型を湿式トリーマーで削って水溶液としたスラリーウォーターを石膏の水和反応の核として硬化を促進させたり、硫酸カリウムを添加したりする方法がある。
【0011】
石膏の硬化時間に関しては、石膏の成分を調整する方法が例えば特許文献2により開示されている。副生α半水石膏を洗浄し乾燥させたのち無機アルカリを添加して得られたα半水石膏に対し、粒径が0〜425μのβ半水石膏を加え、その混合比が石膏全体量を100重量部とした場合、β半水石膏が1〜50重量部である副生α半水石膏の硬化時間調整方法。および前記副生α半水石膏とβ半水石膏の混合物に充填剤、軽量骨材、接着性付与剤、粘度調整剤、硬化遅延剤、防カビ剤のうち1もしくはそれ以上を混入してなる石膏の提示である。
【0012】
また、製作プロセスを改良して硬化時間を短縮さる方法も特許文献3には開示されている。ここでは義歯製造において、石膏の硬化時間を少なくし、特に、患者の通院期間における石膏の硬化時間をなくしている。顎印象採取工程で、歯科用歯型トレイの一方側の面に印象材を盛り、歯肉部の形状を転写し、顎印象部材を得て、ロウ堤形成工程で、歯科用歯型トレイの他方側の面にロウを盛り、咬合器装着工程で、顎印象部材とロウ堤とを保持した歯科用歯型トレイを、咬合器に装着する。そして、人工歯植設工程で、顎印象部材とロウ堤とを保持した歯科用歯型トレイを、咬合器に装着した状態で、ロウ堤に人工歯を順次植設し、咬合器を用い、上顎用人工歯と下顎用人工歯とが、適切な咬み合わせとなるよう、順次調整を行う。これにより、義歯の製作が短期間で行えるようにした。
【0013】
印象の消毒滅菌に関しては、特許文献4により、消毒液の成分による石膏表面の荒れ防止効果を含んだ消毒用の印象材調整液の提案がされている。提案された印象材調整液は、特定のアルコール類、特定の陽イオン界面活性剤、クロルヘキシジン、トリクロサン(イルガサンDP300)、ポピドンヨード、グルタールアルデヒド中の1種以上を消毒剤とし、20℃に於ける溶解度が0.2以上の特定の金属塩を固定材として併用した印象用調整材である。
【0014】
歯型模型の製作においては、その寸法精度も重要な要素であり、患者に適合した義歯を作製するためには十〜数十ミクロンの精度が要求されるが、印象材は収縮性があり、これに対して石膏は膨張性を有している。このため、使用材料に依存して精度が微妙に異なり、義歯製作後の寸法調整が余儀なくされる。このために、例えば特許文献5においては、石膏の膨張率調整を目的とした石膏組成も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平06−056620号公報
【特許文献2】特開平10−316420号公報
【特許文献3】特開2003−159261号公報
【特許文献4】特開平07−33620号公報
【特許文献5】特表2004−532062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
歯型模型の製作においては、作業工程の短縮による効率化が望まれているが、その作業プロセスの中でも印象材の硬化時間、消毒滅菌工程と、長時間を要する石膏の硬化時間の短縮が重要な点となる。しかも、作業性や模型精度を悪化させないことも重要な要素である。
【0017】
従来は、主にその材料組成に注力された改良がなされてきたが、特に硬化時間は温度にも影響され、その使用環境に合わせた調整が必要となっている。また、歯科医師や歯科技工士の経験や技量から来る作業時間や、作業目的に合わせた硬化時間の調整も現場では必要とされる場合もある。
【0018】
本発明は、このような要求に対処するために、簡単でコストのかからない歯型模型の製作方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、簡単でコストのかからない歯型模型の製作方法を実現するために、上記目的のために、歯型模型製作で使用される材料を、ミョウバン水を用いて練和することを特徴としている。ミョウバン水は、印象材や石膏の硬化時間を促進するだけでなく、その滅菌作用や収斂作用により、大幅な作業工程の短縮を図ることができる。滅菌作用は、印象採得後の消毒工程をなくし、収斂作用は、皮膚や顎部の形成しているたんぱく質を変質させ、緻密な保護膜を作って肌を引き締める効果であり、印象の円滑な表面形成により石膏の表面形成にも好影響を与える。
【0020】
ミョウバン水で練和する印象材の対象は、主にアルギン酸塩の可溶性塩を主成分とする印象材組成物であり、歯科用の石膏一般に効果がある。
【0021】
ミョウバン水は、ミョウバンを0.01〜5wt%とする水溶液が好適な濃度である。ミョウバン水の濃度は、印象材や石膏の種類、すなわち特性によって調整される。石膏に対しては、比較的低濃度でよく、0.3〜0.6wt%の水溶液が好ましい。
【0022】
ミョウバン水は、焼ミョウバンと水の水溶液として作られる。水に対するミョウバンの飽和濃度近くでの原液を作製し、材料にあわせて水で希釈して使用する方法としてもよい。歯型模型材の練和後の粘度と硬化時間との関係から、濃度は適切に調整される。ミョウバンは温度によって著しく溶解度が異なるが、常温で約4wt%であり、2〜4wt%の濃度でミョウバン水原液としての保存を行う。焼きミョウバンは安価であり市販されているため容易に入手できる。焼きミョウバンは溶解するまでの時間が長く、2〜3日放置しておくが、ミョウバン水原液で保存して、使用時に材料や目的に合わせてその濃度を適切な濃度に自由に調整可能とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、歯型模型作製で使用される材料である印象材と石膏を、ミョウバン水を用いて練和することを特徴とする歯型模型製作方法であり、ミョウバン水による硬化時間の促進及びミョウバン濃度による硬化時間のコントロールの他、ミョウバン水の殺菌作用や収斂作用を利用して、作業性がよく短時間で高精度の歯型模型の製作が可能となる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による歯型模型製作方法の概要を示すフローチャート。
【図2】ミョウバンの溶解度
【図3】ミョウバン水原液の作り方のフローチャート。
【図4】本発明による印象採得のフローチャート
【図5】本発明による石膏の歯型模型作製のフローチャート
【図6】製作した歯型模型の例
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、本発明の歯型模型の製作方法を実施する場合に使用される材料とその特性について説明する。
【0026】
印象材は、口腔内印象を採得するための材料であり、寒天印象材、アルギン酸塩の可溶性塩を主成分として硫酸カリウムをゲル化反応材とするアルジネート印象材やシリコンゴムを原料とするシリコンラバー印象材があるが、本発明での対象とする印象材はアルジネート印象材である。アルジネート印象材は、例えば、アルギン酸ナトリウムと珪藻土に、ゲル化反応材として硫酸カリウムを加えた組成成分と成っている。また、硬化時間の調整のためにさらにアルギン酸カリウムを加え、着色のための着色材や、流動パラフィンや香料等の添加されたものもある。
【0027】
歯科用石膏は、硫酸カルシウム半水和物である三方晶系の半水石膏であり、α石膏を主な原材料とする歯科用硬質石膏と、β石膏を主な原材料とする歯科用焼石膏とがある。半水石膏は、水と化学反応して水和し、二水石膏に変化して硬化する。石膏の硬化は長時間を要し、通常30分程度で終結するが、完全に水和が完了するには、2時間程度必要である。
【0028】
石膏の硬化時間を促進するためには、塩化ナトリウムや硫酸ナトリウムを3〜4wt%添加したり、硫酸カリウムを添加したりしている。また、既存の石膏模型を湿式トリーマーで一部削った液、すなわち、スラリーウォーターを石膏の水和反応の核として硬化促進を図る方法もある。
【0029】
本発明は、上記のように印象材のゲル化反応と石膏の硬化促進剤として使用されている硫酸カリウムに着目して鋭意研究してなされたものであり、硫酸カリウムと硫酸アルミニウムから生成されるミョウバンの水溶液で練和することを新規な特徴としている。
【0030】
ミョウバン類の代表的なものはカリウムアルミニウムミョウバン、あるいはカリウムミョウバンといわれている硫酸カリウムアルミニウムである。硫酸カリウムと硫酸アルミニウムの酸性水溶液を濃縮、冷却すると得られる。または、明礬石KAl(SO)2(OH)を粉砕し、硫酸に溶かして冷却しても得られる。無色の結晶で水に溶ける。カリウムアルミニウムミョウバンの固体を160℃以下で穏やかに熱すると無水塩が得られ、これは焼きミョウバンあるいは枯礬(こばん)といわれている。主な用途は、医薬品(湿布、防腐)、染色、食品添加剤、水の清澄剤などである。
【0031】
代表的なミョウバンである硫酸カリウムアルミニウムは、印象材のゲル化や石膏の硬化を促進する。また、水に溶かしたミョウバン水は酸性になるため、酸性の環境では細菌は繁殖できず、滅菌消毒効果を備えている。さらに、弱酸性のためアルカリ性であるアンモニアなどを中和して消臭効果も備えている。
【0032】
また、ミョウバン水は収斂作用を備えている。皮膚の最外部層の表皮角層の角質はケチナミンというタンパク質であり、ミョウバンが作用すると硬くすべすべしたケラチナミンに変死する収斂作用が働く。このため、皮膚の持つ働きの一つである防壁性が高まり、外の刺激から内部組織を守る働きが強くなる。
【0033】
このような特性を有するミョウバン水で印象材や石膏を練和することで、主として印象材の滅菌作用と石膏の硬化時間の促進が図れる。ミョウバン自体は固体物であっても、印象材や石膏に分案角添加物として使用するより、水に溶かして水溶液としての使用により、従来に無い新たな作用、効果を奏することができる。
【0034】
次に、具体的な実施について説明する。
【0035】
図1は本発明の実施につき、その概要を示した歯型模型製作方法のフローチャートである。
【0036】
まずステップS1で使用する印象材を必要量秤量する。次にステップS2において、本発明によるミョウバン水を必要量加えて練和する。加えるミョウバン水の濃度と量は、印象材の標準推奨値の混水比に対して、作業者の経験や環境の温度等を加味して決定される。ミョウバン水の濃度が高ければゲル化速度は速くなる。ミョウバン水の量が多ければ印象材の練和後の粘度が低くなり、口腔内の歯形に沿って流れやすくなるため、精巧な印象採得ができる。ただし、ゲル化速度は遅くなる。この場合、通常の水を同量加えた場合よりはミョウバン水によりゲル化速度は速くなるから、精巧な間接模型となる印象が得られる。
【0037】
ミョウバン水と練和した印象材は、ステップS3で歯科用トレイに盛られ、トレイに盛られた印象材を口腔内で歯と顎に圧接する。次に、ステップS4で、印象材が適切にゲル化してから、トレイを口腔内から取り外してミョウバン水で洗浄する。ミョウバン水は殺菌効果や収斂効果があり、口腔内への接触において衛生的で安全である。収斂効果は、印象の表面も円滑となるという結果も得られた。このミョウバン水での効果により、殺菌消毒工程は簡単となり大幅に作業工数を短縮できる。ミョウバン水で印象材を練和しているため、印象材自身で殺菌効果を有しているため、ミョウバン水に変えて水洗いでも殺菌効果は維持される。
【0038】
次にステップS5で必要量の石膏を秤量して、ステップS6でミョウバン水と練和する。この場合のミョウバン水の濃度と量は、使用する石膏の特性に依存して、作業者が適切に設定することができる。すなわち、ミョウバン水の濃度を高くして練和後の粘度を下げて印象により忠実な流動性を持たせながらも、硬化速度を促進するように任意に設定できる。ステップ7で練和した石膏を印象に流し込む。硬化促進効果により低粘度とすることができるので、口腔内部の間接模型である印象に忠実な石膏模型が可能である。ステップ8で石膏の硬化後に印象から石膏を取り出す。そして乾燥工程であるステップS9をへて、歯型模型が完成する。
【0039】
石膏の硬化は遅く、通常30分から60分経過してからの取り出しとなる。混水量は少ない方が硬化時間は早く、強度の高い、表面の滑沢な石膏模型が得られるが、粘度が高く、練和および流し込みに影響を与え、精度の低下は避けられない。本発明により、これらの問題点は解決され、高精度の石膏模型が短時間で完成させることができるようになった。
【0040】
次に具体的な実施例の詳細について説明する。
【0041】
(実施例1:ミョウバン水原液)
まず、ミョウバン水原液の作製について述べる。ミョウバン水原液を作るのは、歯科用模型原材料に対応して任意の濃度にコントロールしたミョウバン水を作るためである。
【0042】
ミョウバンは、水対して可溶性であるが、溶解度は温度に対する依存性が高い。図2に、ミョウバンの水に対する溶解度を示す。20℃で5.6wt%であるが、10℃では3.7wt%となり、また、40℃では10.5wt%の溶解度である。従って、常温保存を考慮した場合は、3wt%前後であることが望ましく、2〜4%が適切である。
【0043】
図3は、上記の点を考慮して、ミョウバン水原液の作製方法についてのフローチャートを示したものである。ミョウバンは、大成薬品製「焼きミョウバン」を用意した。ステップS11で焼きミョウバンを30g秤量する。次に、ステップS12で水750mlを秤量し、ステップS13で容器にいれた水750mlに、ミョウバン30gを加える。焼きミョウバンは水溶性ではあってもすぐには溶けず、通常2〜3日を要する(ステップS14)。焼きミョウバンが溶解したかどうかは、焼きミョウバンにより白濁した水が、透明化したかどうかで判断する(ステップS15)。目視観察により、透明化が確認されたら、ミョウバン水原液の完成である(ステップS16)。ミョウバンの濃度が3.8wt%のミョウバン水原液である。
【0044】
このミョウバン水原液を目的に合わせて希釈して、実作業が行われることになる。
【0045】
(実施例2:印象採得)
歯型模型の口腔内間接模型である印象の採得について説明する。
【0046】
ここでは、印象材として、歯科用アルギン酸塩印象材である商品名「アルジュースーパー」(株式会社ユーデント製)のスローセットを使用した。組成成分は、アルギン酸カリウム、アルギン酸ナトリウム、ケイソウ土、硫酸カリウム、流動パラフィンに着色剤と香料等が添加されており、硫酸カリウムとアルギン酸塩とのゲル化反応で硬化する。
【0047】
図4は、印象採得のフローチャートを示している。
【0048】
ます、印象材の粉末を42g秤量する(ステップ21)。次に、実施例1で作製したミョウバン原液を約100倍に希釈して、ミョウバン濃度0.04gのミョバン水を作る(ステップ22)。そして、印象材の混水量はメーカ推奨値では粉末14gに対して水33mlあるが、練和後の粘度を低くしてもゲル化時間は早くなるミョウバン水の量として110mlとして、容器内で20〜30秒間ヘラを使って練和する(ステップ24)。そして次のステップS25で、歯科用トレイに練和した印象材を盛って、表面を平らにしてから、口腔内に圧接する(ステップS26)。そして、印象材が固まるまで約1分待つ(ステップ27)。メーカ推奨値での混水比においての硬化時間は約1分30秒〜2分であるが、本発明により、低粘度とした練和でも、ゲル化促進により作業時間の短縮となる。固まったら口腔内から印象材を取り出す(ステップS28)。
【0049】
取り出した印象は、ミョウバン水で洗浄する(ステップS29)。ここでも、ミョウバン水の殺菌効果を利用できるので、簡単な工程でよく、特に、その後に行う石膏もミョウバン水で練和しているので、従来のように洗浄水をきれいに無くす必要が無く、残っていてもよいからである。洗浄は、殺菌作用は既に発揮されているため、水でもよい。
【0050】
(実施例3:石膏模型)
図5は、採得した印象から石膏模型を製作する場合のフローチャートを示している。
【0051】
歯科用石膏は、半水塩石膏でありここでは、商品名「ユーデント普通石こう」(株式会社ユーデント製)である。組成成分は、硫酸カルシウム半水塩である。
【0052】
まずステップS31で、ミョウバン水原液を水で希釈して溶解度が0.6wt%のミョウバン水とするために、水850mlにミョウバン水原液150gを加える。次に必要量の石膏を秤量する(ステップS32)。ここでは、石膏を200g秤量した。そして、容器に石膏と希釈したミョウバン水120gを入れ(ステップS33)、ヘラで30〜60秒練和する(ステップ34)。
【0053】
練和したら、ステップ35で石膏を印象に流し込む。メーカ推奨の標準混水量は、石膏粉末100gに対して水45〜50mlであり、本発明ではこれより多めの混水比とした。印象に流し込む石膏の粘度下げて流動性を良くして高精度の石膏模型を製作するためである。このようにしても、ミョウバン水使用による効果で、石膏の硬化が促進され、約10〜20分待って取り出せる(ステップS36)。歯型模型はこの段階で完成となる(ステップ38)。メーカ推奨仕様での完全硬化時間は40〜60分であり、本発明による、その硬化時間は50%以上の短縮効果である。
【0054】
石膏の硬化時間は、歯型模型を製作する上でもっとも短縮化が望まれており、寸法精度的にも一般的に印象材は収縮硬化であり、石膏は膨張硬化であることから、石膏の硬化時間の短縮が高精度な歯型模型の製作にも関係していたが、本発明により、ミョウバン水のミョウバン濃度は、ミョウバン水原液から希釈して、任意に選択できるため、作業者の経験や環境温度を考慮した使用が可能である。さらに、印象をミョウバン水で洗浄しているので、印象に洗浄後のミョウバン水が残っていても、それは石膏の硬化促進剤として作用するため、石膏の表面が荒れることなく滑沢な表面が得られる。さらに、石膏の性質にも依存するが、ミョウバン水の濃度を上げると、石膏との混水比を大きくしても滑沢な表面が得られている。
【0055】
以上、本発明について説明したが、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、上記の実施形態よる限定は受けない。
【符号の説明】
【0056】
10 ミョウバンの溶解度
20 石膏硬化後の歯型模型の例(表面)
22 石膏硬化後の歯型模型の例(裏面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯型模型製作で使用される材料を、
ミョウバン水を用いて練和すること、
を特徴とする歯型模型製作方法。
【請求項2】
請求項1において、
歯型模型材料は、口腔内部の間接模型を製作するためのアルギン酸塩の可溶性塩を主成分とする印象材組成物であること、
を特徴とする歯型模型製作方法。
【請求項3】
請求項2において、
口腔内部の間接模型を製作したアルギン酸塩の可溶性塩を主成分とする印象材組成物である印象材をミョウバン水で洗浄すること、
を特徴とする歯型模型製作方法。
【請求項4】
請求項1において、
歯型模型材料は、歯型印象を転写する歯科用の石膏であること、
を特徴とする歯型模型製作方法。
【請求項5】
請求項1において、
ミョウバン水は、ミョウバンを0.01〜5wt%とする水溶液であること
を特徴とする歯型模型製作方法。
【請求項6】
請求項4において、
前記石膏と練和するミョウバン水は、ミョウバンを0.3〜0.6wt%の水溶液であること、
を特徴とする歯型模型製作方法。
【請求項7】
請求項1において、
ミョウバン水は、焼ミョウバンと水の水溶液であること、
を特徴とする歯型模型製作方法。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の範囲において、
ミョウバン水は、ミョウバンを溶かした原液に、歯型模型材の特性との関係で水を加えて使用すること、
を特徴とする歯型模型製作方法。
【請求項9】
請求項6において、
歯型模型材の特性との関係は、歯型模型材の練和後の粘度と硬化時間との関係であること、
を特徴とする歯型模型製作方法。
【請求項10】
請求項6において、
ミョウバン水の原液は、溶解度が2〜4wt%のミョウバン水であること、
を特徴とする歯型模型製作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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