説明

歯牙石灰化剤及びその製造方法

【課題】石灰化効果の高い歯牙石灰化剤を提供する。
【解決手段】水酸化カルシウム粒子(A)を25〜85重量%、リン酸のアルカリ金属塩(B)を0.2〜40重量%、及び水(C)を14〜70重量%含有する歯牙石灰化剤である。こうして得られた歯牙石灰化剤は、石灰化効果が高く、特にエナメル質表面に対する石灰化効果が高く、う蝕に罹患する前の初期う蝕の段階での治療が可能となるばかりでなく、健全歯質、特に健全エナメル質を更に強化することが可能となり、う蝕を予防する材料を提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯牙表面を石灰化させる歯牙石灰化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
80歳になっても20本以上自分の歯を保とうとする、いわゆる8020運動(口腔衛生の向上、歯質の保存(MI:Minimal Intervention))に伴い、う蝕に罹患する前の初期う蝕の段階で石灰化を行い健全な歯質に戻す石灰化治療が近年脚光を浴びている。この観点から、有効成分としてフッ素やカルシウム可溶化剤(CPP−ACP;Casein Phosphopeptide−Amorphous Calcium Phosphate、POs−Ca(登録商標);リン酸化オリゴ糖カルシウム)が配合された機能性ガム、歯磨材、歯面処理材が各社より発売されている。しかしながら、フッ素は歯の耐酸性を向上させて、歯質のミネラル分を強化する機能があるとされているが、大量に摂取することによる副作用の問題があった。また、カルシウム可溶化剤を配合した材料は歯質付近に高濃度のミネラル分を供給できる反面、可溶性が高いためミネラル分の沈着能力は低いという問題もあった。
【0003】
特許文献1には、合成水酸アパタイトに水酸化カルシウムを混合してなる粉状基材と、蒸留水に第2リン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム及びグリセリンを溶解せしめてなる液状助剤とによって構成される歯科用修復材料が記載されている。この歯科用修復材料は、微結晶質の水酸アパタイトが晶出することにより、窩洞内の象牙質表面に保護層を形成し、二次象牙質が形成されるとしている。しかしながら、特許文献1で得られる歯科用材料は、歯牙に対する石灰化効果が低いという問題点があった。
【0004】
また、特許文献2には、親水性の非水系ビヒクル中に、少なくとも1種の水溶性カルシウム塩と、水溶性リン酸塩に加えて、乾燥剤並びに安定化剤を含有する安定な一剤型の非水系ドライミックス製品が記載されている。前記水溶性カルシウム塩とは、20℃で100mlの水に少なくとも0.25g溶解する水溶性カルシウム化合物である。本発明によれば、歯のエナメル質の再石灰化または象牙質細管の石灰化により、う蝕または過敏症が阻止されると記載されている。しかしながら、石灰化の効果を向上させる目的で、水酸化カルシウム、リン酸のアルカリ金属塩及び水を組み合わせた構成とすることについては記載されていなかった。さらに、水溶性カルシウム塩と水溶性のリン酸塩とが主成分として使用されているため、晶出したヒドロキシアパタイト(以下、「HAp」と略称することがある)の沈着能力が低いという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−167607号公報
【特許文献2】特表平10−510550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、石灰化効果の高い歯牙石灰化剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、水酸化カルシウム粒子(A)を25〜85重量%、リン酸のアルカリ金属塩(B)を0.2〜40重量%、及び水(C)を14〜70重量%含有する歯牙石灰化剤を提供することによって解決される。このとき、更にフッ素化合物(D)を含有することが好適である。更にシリカ粒子(E)を含有することも好適である。
【0008】
歯牙石灰化剤からなるエナメル質石灰化剤であることが本発明の好適な実施態様である。本発明の好適な実施態様は、歯牙石灰化剤からなる歯磨材である。また、本発明の好適な実施態様は、歯牙石灰化剤からなる歯面処理材である。
【0009】
上記課題は、水酸化カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)、及び水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを混合する歯牙石灰化剤の製造方法であって、水酸化カルシウム粒子(A)を25〜85重量%、リン酸のアルカリ金属塩(B)を0.2〜40重量%、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを14〜70重量%配合することを特徴とする歯牙石灰化剤の製造方法を提供することによって解決される。
【0010】
このとき、水酸化カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを加えて混合することが好適であり、リン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とし水酸化カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合することが好適である。
【0011】
上記課題は、水酸化カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとからなる歯牙石灰化剤キットを提供することによって解決される。
【0012】
上記課題は、水酸化カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストと、リン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとからなる歯牙石灰化剤キットを提供することによって解決される。
【0013】
このとき、水酸化カルシウム粒子(A)の平均粒径が1〜10μmであり、リン酸のアルカリ金属塩(B)の平均粒径が1〜50μmであることが好適である。
【0014】
また、上記課題は、リン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とし水酸化カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストとからなる歯牙石灰化剤キットを提供することによっても解決される。このとき、リン酸のアルカリ金属塩(B)の平均粒径が1〜50μmであることが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、石灰化効果の高い歯牙石灰化剤が提供され、特にエナメル質表面に対する石灰化効果の高い歯牙石灰化剤が提供される。このことにより、初期う蝕の段階での治療が可能となるばかりでなく、健全歯質、特に健全エナメル質を更に強化することが可能となり、う蝕を予防する材料を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1において、エナメル質表層に作製した脱灰エナメル質(脱灰部分)のコンタクトマイクロラジオグラム像である。
【図2】実施例1において、エナメル質表層に作製した脱灰エナメル質を歯牙石灰化剤により短時間接触条件で石灰化したエナメル質(石灰化部分)のコンタクトマイクロラジオグラム像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の歯牙石灰化剤は、水酸化カルシウム粒子(A)を25〜85重量%、リン酸のアルカリ金属塩(B)を0.2〜40重量%、及び水(C)を14〜70重量%含有するものである。ここで、本発明で用いられる用語の「歯牙」には、「エナメル質」及び「象牙質」の両方が含まれる。本発明者らにより、水酸化カルシウム粒子(A)を25〜85重量%、リン酸のアルカリ金属塩(B)を0.2〜40重量%、および水(C)を14〜70重量%含有する歯牙石灰化剤を用いることにより、石灰化効果が高く、特にエナメル質表面に対する石灰化効果が高いことが明らかとなった。この理由については必ずしも明らかではないが、以下のようなメカニズムが推定される。
【0018】
すなわち、水酸化カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)、及び水(C)を一定量含有する歯牙石灰化剤を調製して用いた際に、水酸化カルシウム粒子(A)が溶解して得られるカルシウムイオン、リン酸のアルカリ金属塩(B)が溶解して得られるリン酸イオンとが歯質中に浸透した後、歯質内部で反応してエネルギー的に安定なヒドロキシアパタイトが析出するようである。その結果、エナメル質表層付近の脱灰エナメル質が石灰化されて、該エナメル質表面のミネラル成分が回復されるようである。このことにより、初期う蝕の段階での治療が可能となる。ここで本発明者等は、上記効果を奏するにはカルシウムイオンとリン酸イオンとが供給される速度のバランス、並びに液剤中でのこれらイオンの濃度が重要であると推察している。即ち、20℃の水100mlに0.2g以上の溶解度を示す水溶性カルシウム粒子を用いた場合には、水溶液中のカルシウムイオン濃度が高くなり過ぎ、歯質にこれらイオンが供給される前にヒドロキシアパタイトに転化することで石灰化効果が低くなると推察される。したがって、水酸化カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)、及び水(C)を一定量含有することで、カルシウムイオンとリン酸イオンとの供給バランス、並びに液剤中でのこれらイオンの濃度が適切となる本発明の構成を採用する意義が大きい。
【0019】
本発明で用いられる水酸化カルシウム粒子(A)の平均粒径は、0.1〜10μmであることが好ましい。平均粒径が0.1μm未満の場合、液剤への溶解が過多となるため液剤中のイオン濃度が高くなりすぎるおそれがある。更には液剤との混合により得られるペーストの粘度が高くなり過ぎるおそれがあり、より好適には0.3μm以上である。一方、平均粒径が10μmを超える場合、水酸化カルシウム粒子(A)が液剤へ溶解しにくくなるおそれがある。その結果、液剤中でのこれらイオン濃度が過少となることから歯質中でのヒドロキシアパタイトの析出が円滑でなくなり、石灰化効果が低下するおそれがある。水酸化カルシウム粒子(A)の平均粒径は、より好適には8.0μm以下である。水酸化カルシウム粒子(A)の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定し、算出したものである。
【0020】
このような平均粒径を有する水酸化カルシウム粒子(A)の製造方法は特に限定されず、市販品を入手できるのであればそれを使用してもよいが、市販品を更に粉砕することが好ましい場合が多い。その場合、ボールミル、ライカイ機、ジェットミルなどの粉砕装置を使用することができる。また、水酸化カルシウム原料粉体をアルコールなどの液体の媒体と共にライカイ機、ボールミル等を用いて粉砕してスラリーを調製し、得られたスラリーを乾燥させることにより水酸化カルシウム粒子(A)を得ることもできる。このときの粉砕装置としては、ボールミルを用いることが好ましく、そのポット及びボールの材質としては、好適にはアルミナやジルコニアが採用される。
【0021】
本発明の歯牙石灰化剤は、水酸化カルシウム粒子(A)を25〜85重量%含有することが必要である。水酸化カルシウム粒子(A)の含有量が25重量%未満の場合、HApの析出が阻害されて石灰化効果が得られないおそれがあり、28重量%以上であることが好ましい。一方、水酸化カルシウム粒子(A)の含有量が85重量%を超える場合、HApの析出が阻害されて石灰化効果が得られないおそれがあり、75重量%以下であることが好ましく、72重量%以下であることがより好ましく、70重量%以下であることが更に好ましい。
【0022】
本発明で用いられるリン酸のアルカリ金属塩(B)としては特に限定されず、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一リチウム、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、ならびにこれらの水和物等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上が用いられる。中でも、安全性や純度の高い原料が容易に入手できる観点から、リン酸のアルカリ金属塩(B)がリン酸一水素二ナトリウム及び/又はリン酸二水素一ナトリウムであることが好ましい。
【0023】
本発明の歯牙石灰化剤は、リン酸のアルカリ金属塩(B)を0.2〜40重量%含有することが必要である。リン酸のアルカリ金属塩(B)の配合量が0.2重量%未満の場合、HApの析出が阻害されて石灰化効果が得られないおそれがあり、0.3重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、1.5重量%以上であることが更に好ましい。一方、リン酸のアルカリ金属塩(B)の含有量が40重量%を超える場合、HApの析出が阻害されて石灰化効果が得られないおそれがあり、30重量%以下であることが好ましく、25重量%以下であることがより好ましい。
【0024】
さらに本発明で用いられるリン酸のアルカリ金属塩(B)は、粉体のまま加えて配合してもよいし、液剤として加えて混合してもよく、いずれの場合であっても石灰化効果を有する。ただし、リン酸のアルカリ金属塩(B)は、粉体のまま加えて配合した方が、リン酸イオンを高濃度で供給することができるとともに、カルシウムイオンとリン酸イオンとの供給バランスの関係がよくなり好ましい。また、石灰化を長時間行う場合、リン酸のアルカリ金属塩(B)を粉体のまま加えた方が石灰化率が高くなり好ましい。
【0025】
本発明で用いられるリン酸のアルカリ金属塩(B)の平均粒径は、0.1〜50μmであることが好ましい。平均粒径が0.1μm未満の場合、液剤への溶解が過多となるため液剤中のイオン濃度が高くなりすぎるおそれがある。更には液剤との混合により得られるペーストの粘度が高くなり過ぎるおそれがあり、より好適には0.3μm以上である。一方、平均粒径が50μmを超える場合、リン酸のアルカリ金属塩(B)が液剤へ溶解しにくくなるおそれがある。その結果、液剤中でのこれらイオン濃度が過少となることから歯質中でのヒドロキシアパタイトの析出が円滑でなくなり、石灰化効果が低下するおそれがある。リン酸のアルカリ金属塩(B)の平均粒径は、より好適には35μm以下であり、更に好適には10μm以下である。リン酸のアルカリ金属塩(B)の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定し、算出したものである。
【0026】
このような平均粒径を有するリン酸のアルカリ金属塩(B)の製造方法は、上述した水酸化カルシウム粒子(A)と同様に行うことができる。
【0027】
本発明の歯牙石灰化剤は、水酸化カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)に加えて、更に水(C)を14〜70重量%含有することが必要である。このことにより、石灰化効果が高く、特にエナメル質表面に対する石灰化効果が高い利点を有する。水(C)の配合量が14重量%未満の場合、HApの析出が阻害されて石灰化効果が得られないおそれがあり、20重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましい。一方、水(C)の配合量が70重量%を超える場合、HApの析出が阻害されて石灰化効果が得られないおそれがあり、65重量%以下であることが好ましく、60重量%以下であることがより好ましい。
【0028】
本発明の歯牙石灰化剤は、更にフッ素化合物(D)を含有することが好ましい。このことにより、歯質に耐酸性を付与させるとともに石灰化を促進させることが可能となる。本発明で用いられるフッ素化合物(D)としては特に限定されず、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化銅、フッ化ジルコニウム、フッ化アルミニウム、フッ化スズ、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、フッ化水素酸、フッ化チタンナトリウム、フッ化チタンカリウム、ヘキシルアミンハイドロフルオライド、ラウリルアミンハイドロフルオライド、グリシンハイドロフルオライド、アラニンハイドロフルオライド、フルオロシラン類、フッ化ジアミン銀等が挙げられる。中でも石灰化促進効果が高い観点からフッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズが好適に用いられる。
【0029】
本発明で用いられるフッ素化合物(D)の使用量は特に限定されず、フッ素化合物(D)の換算フッ化物イオンを0.01〜3重量%含むことが好ましい。フッ素化合物(D)の換算フッ化物イオンの使用量が0.01重量%未満の場合、石灰化を促進する効果が低下するおそれがあり、0.05重量%以上であることがより好ましい。一方、フッ素化合物(D)の換算フッ化物イオンの使用量が3重量%を超える場合、安全性が損なわれるおそれがあり、1重量%以下であることがより好ましい。
【0030】
本発明の歯牙石灰化剤は、更にシリカ粒子(E)を含有することが好ましい。これにより、得られる本発明の歯牙石灰化剤の操作性を向上させることができる。かかる操作性向上の観点から一次粒子径が0.001〜0.1μmのシリカ粒子(E)が好ましく使用される。市販品としては、「アエロジルOX50」、「アエロジル50」、「アエロジル200」、「アエロジル380」、「アエロジルR972」、「アエロジル130」(以上、いずれも日本アエロジル社製、商品名)が例示される。
【0031】
本発明で用いられるシリカ粒子(E)の使用量は特に限定されず、シリカ粒子(E)を0.1〜30重量%含むことが好ましい。シリカ粒子(E)の含有量が0.1重量%未満の場合、操作性が低下するおそれがある。一方、シリカ粒子(E)の含有量が30重量%を超える場合、粉剤のかさ密度が低下しすぎることで操作性が低下するばかりか、ペーストとした際の粘度が上昇するおそれがあり、10重量%以下であることがより好ましい。
【0032】
本発明の歯牙石灰化剤は、さらにシリカ粒子(E)以外のフィラーを配合してもよい。フィラーは、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。フィラーとしては、カオリン、クレー、雲母、マイカ等のシリカを基材とする鉱物;シリカを基材とし、Al23、B23、TiO2、ZrO2、BaO、La23、SrO、ZnO、CaO、P25、Li2O、Na2Oなどを含有するセラミックス及びガラス類が例示される。ガラス類としては、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ソーダガラス、リチウムボロシリケートガラス、亜鉛ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、バイオガラスが好適に用いられる。結晶石英、アルミナ、酸化チタン、酸化イットリウム、ジルコニア、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、フッ化イッテルビウムも好適に用いられる。
【0033】
本発明の歯牙石灰化剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で水酸化カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)、水(C)、フッ素化合物(B)及びシリカ粒子(E)以外の成分を含有しても構わない。例えば、必要に応じて増粘剤を配合することができる。増粘剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリグルタミン酸、ポリグルタミン酸塩、ポリアスパラギン酸、ポリアスパラギン酸塩、ポリLリジン、ポリLリジン塩、セルロース以外のデンプン、アルギン酸、アルギン酸塩、カラジーナン、グアーガム、キタンサンガム、セルロースガム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、ペクチン、ペクチン塩、キチン、キトサン等の多糖類、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の酸性多糖類エステル、またコラーゲン、ゼラチン及びこれらの誘導体などのタンパク質類等の高分子などから選択される1つ又は2つ以上が挙げられるが、水への溶解性及び粘性の面からはカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸、アルギン酸塩、キトサン、ポリグルタミン酸、ポリグルタミン酸塩から選択される少なくとも1つが好ましい。増粘剤は、粉体に配合してもよいし液剤に配合してもよく、また混合中のペーストに配合してもよい。
【0034】
また、必要に応じて、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジグリセリン等の多価アルコール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール等の糖アルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、カンゾウ抽出液、サッカリン、サッカリンナトリウム等の人工甘味料などを加えてもよい。更に、薬理学的に許容できるあらゆる薬剤等を配合することができる。セチルピリジニウムクロリド等に代表される抗菌剤、消毒剤、抗癌剤、抗生物質、アクトシン、PEG1などの血行改善薬、bFGF、PDGF、BMPなどの増殖因子、骨芽細胞、象牙芽細胞、さらに未分化な骨髄由来幹細胞、胚性幹(ES)細胞、線維芽細胞等の分化細胞を遺伝子導入により脱分化・作製した人工多能性幹(iPS:induced Pluripotent Stem)細胞ならびにこれらを分化させた細胞など硬組織形成を促進させる細胞などを配合させることができる。
【0035】
本発明では、水酸化カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)、及び水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを混合することにより、ペースト状の歯牙石灰化剤を得ることができる。水を含むこのペースト状の歯牙石灰化剤は、直ちにHApに転化する反応が起こり始めるため、医療現場で使用する直前に混合して調製することが好ましい。混合操作としては特に限定されず、手混合、スタティックミキサーを用いた混合等が好ましく採用される。
【0036】
本発明において、歯牙石灰化剤を得る方法は特に限定されない。水酸化カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを加えて混合することによってもペースト状の歯牙石灰化剤を得ることができる。水酸化カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストと、リン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとを混合することによってもペースト状の歯牙石灰化剤を得ることができる。リン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とし水酸化カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストとを混合することによってもペースト状の歯牙石灰化剤を得ることができる。水酸化カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分としリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む液体又は水系ペーストとを混合することによってもペースト状の歯牙石灰化剤を得ることができる。水(C)を主成分とし水酸化カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストと、水(C)を主成分としリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む液体又は水系ペーストとを混合することによってもペースト状の歯牙石灰化剤を得ることができる。
【0037】
ここで、組成物中のリン酸イオン濃度を高く維持し、石灰化効果のより高い歯牙石灰化剤を得ることができる観点から、水酸化カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを加えて混合することが好ましい。特に、石灰化を長時間行う際に好ましい実施態様である。また、リン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とし水酸化カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合することが好ましい。これらの方法は、使用直前に混合して調製する際の操作が簡便である。非水系ペーストに使用される水以外の溶媒としては特に限定されず、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジグリセリン等の多価アルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルなどが例示される。
【0038】
こうして得られた歯牙石灰化剤は、エナメル質表面に塗布等することにより好適に使用される。ここで、水を主成分とする液体とは、純水であっても、水を主成分とし他の成分を含有する液体であってもよく、また、水を主成分とする水系ペーストとは、水を主成分とし他の成分を含有するペースト状の液体を示す。他の成分としては特に限定されず、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジグリセリン等の多価アルコール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール等の糖アルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルなどが例示される。
【0039】
本発明の歯牙石灰化剤は、歯面処理材、歯磨材、又はチューイングガムの各種用途に好ましく用いられる。水の存在下では、水酸化カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)が速やかにHApに転化する反応が起こるため、歯磨材やチューイングガムなどのように使用時に適宜水分が供給されるような態様であってもよいが、水を一定量配合することでエナメル質表面を効率的に石灰化できる点から、歯面処理材などのように使用直前に液剤と適宜混合するような態様であることが好ましい。したがって、歯牙石灰化剤を含有する歯面処理材が本発明のより好適な実施態様である。
【0040】
また、水の存在下では、水酸化カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)が速やかにHApに転化する反応が起こるため、水酸化カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)と、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとを予め混合して保存しておくことができない。したがって、水酸化カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)を含有する粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとからなる歯牙石灰化剤キットであることが本発明の実施態様の一つである。水酸化カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストと、リン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとからなる歯牙石灰化剤キットであることも本発明の実施態様の一つである。また、リン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とし水酸化カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストとからなる歯牙石灰化剤キットであることも本発明の実施態様の一つである。こうして用いられる本発明の歯牙石灰化剤は、エナメル質表面に対する石灰化効果が高く、エナメル質石灰化剤であることが本発明の好適な実施態様である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。本実施例において水酸化カルシウム(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製「SALD−2100型」)を用いて測定し、測定の結果から算出されるメディアン径を平均粒径とした。
【0042】
[石灰化用牛歯の調製]
健全牛歯切歯の頬側中央を#80,#1000研磨紙を用いて回転研磨機により研磨し、エナメル質を露出させた。この牛歯研磨面をさらにラッピングフィルム(#1200,#3000,#8000,住友スリーエム社製)を用いて研磨し、平滑とした。この研磨エナメル質部分に歯に対して縦軸方向及び横軸方向に各7mm試験部分の窓を残し(以下、「エナメル質窓」と称する)、周りをマニキュアでマスキングし、1時間風乾した。この牛歯を、Reynoldsら(E. C. Reynolds, J. Dent. Res., 76(9), 1587−1595.)の手法に準じて人工脱灰液(0.1mol/L乳酸、0.5g/Lヒドロキシアパタイト、20g/Lポリアクリル酸(Mw:250kDa)、NaOH適量、pH4.8)中に5日間浸漬して脱灰を行った。人工脱灰液は毎日交換した。脱灰エナメル質窓の半分をマニキュアでマスキングし、1時間風乾することで石灰化に用いる牛歯を調製した。
【0043】
[擬似唾液の調製]
塩化ナトリウム(8.77g,150mmol)、リン酸二水素カリウム(122mg,0.9mmol)、塩化カルシウム(166mg,1.5mmol)、Hepes(4.77g,20mmol)をそれぞれ秤量皿に量り取り、約800mlの蒸留水を入れた2000mlビーカーに攪拌下に順次加えた。溶質が完全に溶解したことを確認した後、この溶液の酸性度をpHメータ(F55、堀場製作所製)で測定しながら、10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pH7.0とした。次にこの溶液を1000mlメスフラスコに加えてメスアップし、擬似唾液1000mlを得た。
【0044】
実施例1
[歯牙石灰化剤の調製]
(1)水酸化カルシウム(A)の調製
本実施例で使用する水酸化カルシウム粒子(A)(平均粒径1.0μm)は、市販の水酸化カルシウム粒子(河合石灰工業株式会社製)50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で15時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させることで得た。
平均粒径0.5μm、ならびに平均粒径5.0μmの水酸化カルシウム粒子(A)は、上記方法と同様にし、粉砕時間をそれぞれ、40時間、並びに7時間とすることにより得た。平均粒径10.0μmの水酸化カルシウム粒子(A)は、市販の水酸化カルシウム粒子(河合石灰工業株式会社製)をそのまま使用した。
【0045】
(2)リン酸のアルカリ金属塩(B)粒子の調製
リン酸のアルカリ金属塩(B)粒子の一例として本実施例で使用するリン酸一水素二ナトリウム(B)粒子(NaHPO、平均粒径1.0μm)は、市販のリン酸一水素二ナトリウム粒子(和光純薬工業株式会社製)50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で5時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間真空乾燥することで得た。
平均粒径0.5μmならびに平均粒径5.0μmのリン酸一水素二ナトリウム(B)は、上記方法と同様にし、粉砕時間をそれぞれ、10時間ならびに3時間とすることにより得た。平均粒径100μmのリン酸一水素二ナトリウム(B)は、市販のリン酸一水素二ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)をそのまま使用した。
【0046】
(3)歯牙石灰化剤用の粉剤の調製
上記で得た水酸化カルシウム粒子(A)(平均粒径5.0μm)80g、リン酸一水素二ナトリウム(B)粒子(平均粒径5.0μm)2.5gを高速回転ミル(アズワン株式会社製「SM−1」)中に加え、1000rpmの回転速度で3分間混合することで歯牙石灰化剤用の粉剤を得た。
【0047】
(4)歯牙石灰化剤の調製
上記(3)で得た粉剤0.4125gを精秤し、これに蒸留水0.0875gを加え混合することで歯牙石灰化剤を調製した。
【0048】
[短時間接触石灰化試験]
上記で調製した石灰化用牛歯を蒸留水に浸漬し、30分間静置した後、エナメル質窓に対してペースト状の歯牙石灰化剤を塗布し、37℃、100%RH条件下で3分間インキュベートし、石灰化を行った。その後、歯牙石灰化剤を蒸留水で洗い流した後、擬似唾液中37℃で保存した。歯牙石灰化剤塗布は1日毎に実施し、連続して20回実施した。歯牙石灰化剤の塗布・除去作業時間以外は常時擬似唾液中に浸漬した。また、擬似唾液は毎日交換した(n=5)。
【0049】
[長時間接触石灰化試験]
上記で調製した石灰化用牛歯を蒸留水に浸漬し、30分間静置した後、エナメル質窓に対してペースト状の歯牙石灰化剤を塗布し、37℃、100%RH条件下で15分間インキュベートし、石灰化を行った。その後、歯牙石灰化剤を蒸留水で洗い流した後、擬似唾液中37℃で保存した。歯牙石灰化剤塗布は1日毎に実施し、連続して10回実施した。歯牙石灰化剤の塗布・除去作業時間以外は常時擬似唾液中に浸漬した。また、擬似唾液は毎日交換した(n=5)。
【0050】
[形態学的評価]
(1)エポキシ樹脂の調製
エポキシ樹脂の調製はLuft法に準じて行い、エポキシ樹脂、硬化剤を均一に混合した後、加速剤を添加する方法を用いた。100mlディスポカップに、ルベアック812(エポキシ樹脂、ナカライテスク株式会社製)41ml、ルベアックMNA(硬化剤、ナカライテスク株式会社製)31ml、ルベアックDDSA(硬化剤、ナカライテスク株式会社製)10mlをそれぞれディスポシリンジを用いて量り取りディスポカップに加え、10分間攪拌した。これにディスポシリンジで量り取ったルベアックDMP−30(加速剤、ナカライテスク株式会社製)1.2mlを攪拌しながら徐々に滴下し、添加後さらに10分間攪拌することで調製した。
【0051】
(2)CMR撮影用サンプルの作製
擬似唾液から石灰化牛歯を取り出し、水洗した後、バイアル中の70%エタノール水溶液中に浸漬した。浸漬後、直ちにバイアルをデシケータ内に移し、10分間減圧条件下に置いた。この後、バイアルをデシケータから取り出し、低速攪拌機(TR−118,AS−ONE社製)に取り付け、約4rpmの回転速度で1時間攪拌した。同様の操作を、80%エタノール水溶液、90%エタノール水溶液、99%エタノール水溶液、100%エタノール(2回)を用いて行い、2回目の100%エタノールにはそのまま1晩浸漬した。翌日、プロピレンオキサイドとエタノールの1:1混合溶媒、プロピレンオキサイド100%(2回)についても順次同様の作業を行い、2回目のプロピレンオキサイドにそのまま1晩浸漬した。さらに、エポキシ樹脂:プロピレンオキサイド=1:1混合溶液、エポキシ樹脂:プロピレンオキサイド=4:1混合溶液、エポキシ樹脂100%(2回)についても同様の作業を行った。これらについては浸漬時間を2時間とした。最後にエポキシ樹脂を入れたポリ容器に牛歯サンプルを入れ、45℃にて1日間、60℃にて2日間硬化反応を行った。硬化終了後、ポリエチレン製容器とともに精密低速切断機(BUEHLER、ISOMET1000)により脱灰面・石灰化面に対して垂直方向に切断し、試験部分の断面を含む厚さ約1mmの切片を得た。この切片をラッピングフィルム(#1200,#3000,#8000,住友スリーエム社製)を用いて研磨し、切片厚さを80〜100μmとすることでCMR(Contact Micro Radiography;軟X線顕微鏡像)撮影用サンプルとした(n=5)。
【0052】
(3)CMR撮影
CMR撮影およびフィルム現像はすべて暗室中において行った。CMR撮影には、CMR−2(ソフテックス株式会社製)を使用した。上記で得たCMR撮影用サンプルを専用ガラス感板(HIGH PRECISION PHOTOPLATE,コニカミノルタ製)上に密着させた状態で置き、管電圧15kV、管電流2.6mA、X線照射時間30分の条件で各サンプルの軟X線透過像を撮影した。現像は現像液(ハイレンドール,富士フィルムメディカル社製)、定着液(ハイレンフィックス,富士フィルムメディカル社製)を用い、現像液に5分間浸漬した後30秒間水洗し、定着液に5分間浸漬した後1分間水洗、乾燥させ、軟X線写真フィルムを得た。得られた軟X線写真の透過像を光学顕微鏡(ECRIPSE 80i,Nikon社製)で対物レンズ40倍にて観察し、透過像を光学顕微鏡に接続したCCDカメラ(DS−Ri1,Nikon社製)を用いて写真画像データとして得た。得られた画像を画像解析コンピュータソフトScion Imageβ4.03(Scion社製)を用いて解析した。脱灰部分と石灰化部分のフィルム濃度(グレイ値)をエナメル表層から一定深さ位置(約30μm)で測定し、脱灰部分のフィルム濃度を0%、エナメル質表面から更に深部の未脱灰部分のフィルム濃度を100%としたときの換算値(%)により石灰化率を算出した。実施例1の歯牙石灰化剤により石灰化した脱灰エナメル質の短時間接触石灰化率は80%であり、長時間接触石灰化率は70%であった。
【0053】
(4)操作性
歯牙石灰化剤を、練和紙(85×115mm)上で歯科用練和棒にて20秒間混合し、そのペースト性状について塗布操作のしやすさの観点から、以下の評価基準に従って、操作性を評価した。
【0054】
[操作性の評価基準]
A:ペーストは滑らかで、歯科用練和棒でペーストを練和紙中央に集めた際、まとまりやすい。練和棒の形が残らない。
B:ペーストは滑らかではあるが、粉が少し残って見える。ペーストを練和紙中央に集めた際、まとまりやすい。練和棒の形が残らない。
C:流動性の高いペーストであり、ペーストを練和紙中央に集めた際、少し流れるがまとまる。練和棒の形は残らない。
D:粉っぽく、ボソボソしてまとまらず、練ることができない。
E:液状で練和紙上を流れてしまい、まとめることができない。
なお、A、B、Cが実使用レベルである。
【0055】
実施例2、3
歯牙石灰化剤の粉剤と液剤を表1に示す組成で調製し、実施例1と同様にして歯牙石灰化剤を調製し、形態学的評価、並びに操作性評価を行った。得られた評価結果を表1にまとめて示す。
【0056】
実施例4
リン酸一水素二ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.5gを蒸留水49.5gに溶解させることで歯牙石灰化剤用の液剤を得た。水酸化カルシウム(平均粒径5.0μm)50gに、上記で作成した液剤50gを加え混合することで歯牙石灰化剤を調製した。実施例1と同様にして、形態学的評価、並びに操作性評価を行った。得られた評価結果を表1にまとめて示す。
【0057】
実施例5
歯牙石灰化剤の粉剤と液剤を表1に示す組成で調製し、実施例4と同様にして歯牙石灰化剤を調製し、形態学的評価、並びに操作性評価を行った。得られた評価結果を表1にまとめて示す。
【0058】
実施例6
リン酸一水素二ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)2.5g、フッ化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.22gを蒸留水47.28gに溶解させることで歯牙石灰化剤用の液剤を得た。水酸化カルシウム(平均粒径5.0μm)50gに、上記で作成した液剤50gを加え混合することで歯牙石灰化剤を調製した。
実施例1と同様にして、形態学的評価、並びに操作性評価を行った。得られた評価結果を表1にまとめて示す。
【0059】
実施例7〜19
歯牙石灰化剤の粉剤と液剤を表1に示す組成で調製し、実施例6と同様にして歯牙石灰化剤を調製し、形態学的評価、並びに操作性評価を行った。得られた評価結果を表1にまとめて示す。
【0060】
実施例20
モノフルオロリン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.22gを蒸留水47.28gに溶解させることで歯牙石灰化剤用の液剤を得た。水酸化カルシウム(平均粒径5.0μm)50g、リン酸一水素二ナトリウム粒子(B)(平均粒径5.0μm)2.5gを、実施例1と同様の方法で混合し、歯牙石灰化剤用の粉剤を得た。上記で作製した液剤47.5gを加え混合することで歯牙石灰化剤を調製した。実施例1と同様にして、形態学的評価、並びに操作性評価を行った。得られた評価結果を表1にまとめて示す。
【0061】
実施例21
リン酸のアルカリ金属塩(B)粒子としてリン酸二水素一ナトリウム(B)粒子(NaHPO、平均粒径5.0μm)は、市販のリン酸二水素一ナトリウム粒子(和光純薬工業株式会社製)50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で5.5時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間真空乾燥することで得た。歯牙石灰化剤の粉剤と液剤を表1に示す組成で調製し、実施例6と同様にして歯牙石灰化剤を調製し、形態学的評価、並びに操作性評価を行った。得られた評価結果を表1にまとめて示す。
【0062】
比較例1〜5
歯牙石灰化剤の粉剤と液剤を表2に示す組成で調製し、実施例1と同様にして歯牙石灰化剤を調製し、形態学的評価、並びに操作性評価を行った。得られた評価結果を表2にまとめて示す。
【0063】
実施例22
水酸化カルシウム(平均粒径5.0μm)25g、リン酸一水素二ナトリウム(平均粒径5.0μm)2.5g、フッ化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.22g、シリカ(「Ar130」シリカ(平均粒径0.02μm)、日本アエロジル社製)0.5g、グリセリン(和光純薬工業株式会社製)14.73gを混合し、非水系ペーストを調製した。水酸化カルシウム(平均粒径5.0μm)25g、サッカリン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.5g、ポリエチレングリコール(マクロゴール400、三洋化成工業株式会社製)3g、グリセリン(和光純薬工業株式会社製)5.0g、プロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製)5.0g、セチルピリジニウムクロリド一水和物(和光純薬工業株式会社製)0.05g、シリカ(「Ar130」シリカ(平均粒径0.02μm)、日本アエロジル社製)3.5g、蒸留水15.0gを混合し、水系ペーストを調製した。上記で作製した非水系ペースト42.95gと水系ペースト57.05gを加え混合することで歯牙石灰化剤を調製した。実施例1と同様にして、形態学的評価、並びに操作性評価を行った。得られた評価結果を表3にまとめて示す。
【0064】
実施例23
水酸化カルシウム(平均粒径5.0μm)50g、リン酸一水素二ナトリウム(平均粒径5.0μm)2.5gを実施例1の方法で混合し、粉剤を調製した。フッ化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.22g、シリカ(「Ar130」シリカ(平均粒径0.02μm)、日本アエロジル社製)0.5g、グリセリン(和光純薬工業株式会社製)14.73gを混合し、非水系ペーストを調製した。サッカリン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.5g、ポリエチレングリコール(マクロゴール400、三洋化成工業株式会社製)3g、グリセリン(和光純薬工業株式会社製)5.0g、プロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製)5.0g、セチルピリジニウムクロリド一水和物(和光純薬工業株式会社製)0.05g、シリカ(「Ar130」シリカ(平均粒径0.02μm)、日本アエロジル社製)3.5g、蒸留水15.0gを混合し、水系ペーストを調製した。上記で作製した粉剤52.5g、非水系ペースト17.5gと水系ペースト30.0gを加え混合することで歯牙石灰化剤を調製した。実施例1と同様にして、形態学的評価、並びに操作性評価を行った。得られた評価結果を表3にまとめて示す。
【0065】
実施例24
リン酸一水素二ナトリウム(平均粒径5.0μm)2.5g、フッ化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.22g、シリカ(「Ar130」シリカ(平均粒径0.02μm)、日本アエロジル社製)0.5g、グリセリン(和光純薬工業株式会社製)4.73gを混合し、非水系ペーストを調製した。水酸化カルシウム(平均粒径5.0μm)50g、サッカリン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.5g、ポリエチレングリコール(マクロゴール400、三洋化成工業株式会社製)3g、グリセリン(和光純薬工業株式会社製)5.0g、プロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製)5.0g、セチルピリジニウムクロリド一水和物(和光純薬工業株式会社製)0.05g、シリカ(「Ar130」シリカ(平均粒径0.02μm)、日本アエロジル社製)3.5g、蒸留水25.0gを混合し、水系ペーストを調製した。上記で作製した非水系ペースト7.95gと水系ペースト92.05gを加え混合することで歯牙石灰化剤を調製した。実施例1と同様にして、形態学的評価、並びに操作性評価を行った。得られた評価結果を表3にまとめて示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【符号の説明】
【0069】
1 エナメル質脱灰部分
2 エナメル質深部未脱灰部分
3 エナメル質石灰化部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化カルシウム粒子(A)を25〜85重量%、リン酸のアルカリ金属塩(B)を0.2〜40重量%、及び水(C)を14〜70重量%含有する歯牙石灰化剤。
【請求項2】
更にフッ素化合物(D)を含有する請求項1記載の歯牙石灰化剤。
【請求項3】
更にシリカ粒子(E)を含有する請求項1又は2記載の歯牙石灰化剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の歯牙石灰化剤からなるエナメル質石灰化剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか記載の歯牙石灰化剤からなる歯磨材。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか記載の歯牙石灰化剤からなる歯面処理材。
【請求項7】
水酸化カルシウム粒子(A)、リン酸のアルカリ金属塩(B)、及び水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを混合する歯牙石灰化剤の製造方法であって、
水酸化カルシウム粒子(A)を25〜85重量%、リン酸のアルカリ金属塩(B)を0.2〜40重量%、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを14〜70重量%配合することを特徴とする歯牙石灰化剤の製造方法。
【請求項8】
水酸化カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを加えて混合する請求項7記載の歯牙石灰化剤の製造方法。
【請求項9】
リン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とし水酸化カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合する請求項7記載の歯牙石灰化剤の製造方法。
【請求項10】
水酸化カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとからなる歯牙石灰化剤キット。
【請求項11】
水酸化カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストと、リン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとからなる歯牙石灰化剤キット。
【請求項12】
水酸化カルシウム粒子(A)の平均粒径が1〜10μmであり、リン酸のアルカリ金属塩(B)の平均粒径が1〜50μmである請求項10又は11記載の歯牙石灰化剤キット。
【請求項13】
リン酸のアルカリ金属塩(B)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とし水酸化カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストとからなる歯牙石灰化剤キット。
【請求項14】
リン酸のアルカリ金属塩(B)の平均粒径が1〜50μmである請求項13記載の歯牙石灰化剤キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−77024(P2012−77024A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222953(P2010−222953)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(301069384)クラレメディカル株式会社 (110)
【Fターム(参考)】