説明

歯磨剤組成物

【課題】トリクロサンの容器への吸着を抑制し、使用時にトリクロサンを口腔内で十分に作用させることができ、且つ、使用感の良好な歯磨剤組成物を提供すること。
【解決手段】 次の成分(A)、(B)、(C)及び(D):
(A)トリクロサン 0.005〜2質量%、
(B)ラウリル硫酸塩、N−アシルアミノ酸塩及びN−メチル−N−アシルタウリン塩から選ばれる1種以上のアニオン性界面活性剤 0.5〜2.5質量%、
(C)カリウムイオン供給化合物をカリウムイオン換算量で0.5〜5.5質量%、
(D)水 20〜60質量%
を含有し、
成分(C)と(B)の質量比(C/B)が0.75〜11、
成分(C)と(A)の質量比(C/A)が20〜200であって、
(B)を除く界面活性剤を含有しないか、又は含有量が質量比で(B)の0.02未満である歯磨剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリクロサンを含有する歯磨剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯磨剤組成物には、むし歯、歯肉炎、歯槽膿漏等の歯周病の原因物質である歯垢を抑制し、又は歯垢中の各種口腔細菌を低レベルに抑制する目的で、殺菌剤が配合される。その中でも、抗菌スペクトルが広く殺菌作用も強いトリクロサンを配合した組成物は多い。
しかし、トリクロサンは、充填された容器内表面に吸着し、長期間保存すると歯磨剤組成物中の濃度が低下してしまうという問題が従来から知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この問題に対して、容器の最内層部分に特殊なポリマーを用いてトリクロサンの容器への吸着を改善する技術が提案されている。例えば、特許文献1では、エチレンビニルアルコールを内層に使用することが提案されている。しかし、特殊なポリマーを用いると、容器の製造性が低下する等の製造上の問題とコストアップするという経済上の問題がある。
【0004】
一方、組成面でトリクロサンの容器への吸着を抑える技術としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を配合することでトリクロサンを安定化した歯磨剤組成物(特許文献2)、アニオン界面活性剤と非イオン界面活性剤を特定比率で配合し、水分量を40%以下とすることでトリクロサンを安定配合した口腔用組成物(特許文献3)、グリセリン等のポリオールを配合し、ポリオールに対する水分の割合を重量割合で0.4以下とすることにより非水溶性有効成分を安定に配合した口腔用組成物(特許文献4)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とカチオン性殺菌剤を含有することでトリクロサンを安定配合しつつ殺菌作用を向上させた歯磨剤組成物(特許文献5)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−279248号
【特許文献2】特開2004−250381号
【特許文献3】特開平11−322554号
【特許文献4】特開2001−199854号
【特許文献5】特開2005−179266号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献3、4に記載された歯磨剤組成物のようにグリセリン等を多く含有することによって水分含有量を低くした場合、粘稠性が増加し、口腔内における歯磨剤組成物の分散性が悪くなり、使用感を損なう場合がある。また、グリセリン等は苦味があり、使用感だけでなく味にも影響を与える。一方、特許文献2に記載のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有する歯磨剤組成物では、特許文献5に記載のように、トリクロサンの容器への吸着防止は可能になるが、トリクロサンが安定可溶化された結果、殺菌力が低下していることがわかった。これを解決すべく、特許文献5に記載の歯磨剤組成物は、トリクロサンとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油に、さらにカチオン性殺菌剤を配合しており、トリクロサンの殺菌効果の低下をカチオン性殺菌剤で補っている。
従って、本発明の課題は、トリクロサンの容器への吸着を抑制し、使用時にトリクロサンを口腔内で十分に作用させることができ、且つ、使用感の良好な歯磨剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、使用感の良好なトリクロサン含有歯磨剤組成物を得るべく、水を20質量%以上含有し、アニオン性界面活性剤を含有する歯磨剤組成物を検討したところ、アニオン性界面活性剤は、トリクロサンの容器への付着を促進することがわかった。さらに、トリクロサンの容器への吸着抑制と使用感の両立を図る歯磨剤組成物を得るべく種々検討したところ、特定のアニオン性界面活性剤とトリクロサンを含有し、カリウムイオンを供給する化合物を、特定のアニオン性界面活性剤とトリクロサンに対して所定量配合することにより、トリクロサンの容器への吸着を効果的に防止し、しかも泡立ち及び使用感の良い歯磨剤組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の成分(A)、(B)、(C)及び(D):
(A)トリクロサン 0.005〜2質量%、
(B)ラウリル硫酸塩、N−アシルアミノ酸塩及びN−メチル−N−アシルタウリン塩から選ばれる1種以上のアニオン性界面活性剤 0.5〜2.5質量%、
(C)カリウムイオン供給化合物をカリウムオン換算量で 0.5〜5.5質量%、
(D)水 20〜60質量%
を含有し、成分(C)と(B)の質量比(C/B)が0.75〜11であって、成分(C)と(A)の質量比(C/A)が20〜200であって、(B)を除く界面活性剤を含有しないか、含有量が質量比で(B)の0.02未満である歯磨剤組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のトリクロサン含有歯磨剤組成物は、トリクロサンの容器への吸着を抑制し、その効果を持続しつつ容器内に保存が可能であり、しかも、泡立ち及び使用感が良い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例12と比較例7の歯磨剤、食塩水の比較例8の殺菌評価の結果を示す 。
【0011】
本発明の歯磨剤組成物は、成分(A)トリクロサンを0.005〜2質量%、成分(B)ラウリル硫酸塩、N−アシルアミノ酸塩及びN−メチル−N−アシルタウリン塩から選ばれる1種以上のアニオン性界面活性剤(以下「(B)特定のアニオン性界面活性剤」という)を0.5〜2.5質量%、成分(C)カリウムイオン供給化合物をカリウムイオン換算量で0.5〜5.5質量%、成分(D)水を20〜60質量%含有する。(A)トリクロサンは、広範囲な抗菌スペクトルをもつハロゲン化ジフェニルエーテル型の殺菌剤であり、化学名は2’,4,4’−トリクロロ−2−ヒドロキシジフェニルエーテルであって、例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社からイルガケアMPの商品名で販売されている。
本発明の歯磨剤組成物における(A)トリクロサンの含有量は、殺菌効果、歯垢抑制効果の観点から、0.005〜2質量%であり、好ましくは0.01〜1質量%であり、さらに0.01〜0.5質量%が好ましい。
【0012】
本発明の歯磨剤組成物に用いられる(B)特定のアニオン性界面活性剤は、ラウリル硫酸塩、N−アシルアミノ酸塩及びN−メチル−N−アシルタウリン塩から選ばれる1種以上であり、ナトリウム塩が好ましい。ラウリル硫酸塩としては、ラウリル硫酸ナトリウムが好ましい。N−アシルアミノ酸塩としては、N−アシルザルコシン酸ナトリウム、N−アシルグルタミン酸ナトリウム、N−アシルアラニンナトリウム等が挙げられ、具体的にはN−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、N−ミリストイルザルコシン酸ナトリウム等のN−C10-16アシルザルコシン酸ナトリウム;N−ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、N−ミリストイルグルタミン酸ナトリウム、N−パルミトイルグルタミン酸ナトリウム等のN−C10-16アシルグルタミン酸ナトリウム;N−ラウロイルアラニンナトリウム、N−ミリストイルアラニンナトリウム等のN−C10-16アシルアラニンナトリウム等が挙げられる。N−メチル−N−アシルタウリン塩としては、N−メチル−N−C10-16アシルタウリンナトリウム、例えばN−メチル−N−ラウロイルタウリンナトリウム、N−メチル−N−ミリストイルタウリンナトリウム等が挙げられる。このうち、泡立ち、使用感の点でラウリル硫酸ナトリウムが特に好ましい。
上記の(B)特定のアニオン性界面活性剤の含有量は、トリクロサンの容器への吸着防止効果とカリウムイオンの存在下でも泡立ちを確保する点から、0.5〜2.5質量%であり、さらに泡立ちを向上する点から0.7質量%以上が好ましく、さらに0.75質量%以上が好ましく、トリクロサンの容器への吸着防止効果をさらに向上する点から、好ましくは2.2質量%以下であって、さらに2.0質量%以下が好ましい。
【0013】
本発明は、(B)特定のアニオン性界面活性剤にさらに(C)カリウムイオン供給化合物を含有することにより、歯磨剤組成物中の(A)トリクロサンの溶解性を低下させ、トリクロサンの容器への吸着を防止することができる。即ち、本発明はトリクロサンの溶解性を低下させることによって、容器内におけるトリクロサンの拡散を抑え、トリクロサンの容器への吸着を防止することができる。(C)カリウムイオン供給化合物は、水に溶けてカリウムイオンを放出しうる化合物であり口腔内に適用可能なものであれば特に制限されず、水酸化カリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、リンゴ酸カリウム、クエン酸カリウム、酒石酸カリウム、メタリン酸カリウム、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸カリウム、ソルビン酸カリウム、硝酸カリウム、アスパラギン酸カリウム、アルギン酸カリウム等が挙げられる。このうち、硝酸カリウム、リン酸水素カリウム、塩化カリウム、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸カリウム、炭酸水素カリウムが好ましく、さらに味や使用感、安定性の点から硝酸カリウム、リン酸水素カリウム、炭酸水素カリウムが好ましい。本発明では、これらを1種以上用いることができる。
本発明の(C)カリウムイオン供給化合物のカリウムイオン換算量(以下「カリウムイオン」ともいう)は、カリウムイオン供給化合物を(B)特定のアニオン性界面活性剤とともに含有して(A)トリクロサンの容器への吸着を防止する点から、(C)カリウムイオンの含有量は、0.5〜5.5質量%であって、好ましくは1.2〜5.0質量%、さらに好ましくは1.5〜5.0質量%である。
【0014】
本発明の(C)カリウムイオンと(B)特定のアニオン性界面活性剤との質量比(C/B)は、トリクロサンの溶解性及び容器への吸着を防止する点から0.75〜11であって、泡質とトリクロサンの容器への吸着防止のバランスの点から0.75〜5が好ましく、さらに1〜3が好ましい。
【0015】
本発明の(C)カリウムイオンと(A)トリクロサンの質量比(C/A)は、トリクロサンの容器への吸着を防止する点から20〜200であって、好ましくは20〜150、さらに好ましくは20〜100である。
【0016】
本発明の歯磨剤組成物は、(D)水を20〜60質量%含有する。この範囲の水を含有することにより、ハブラシにのせたときの保型性や口の中での分散性、容器からの出しやすさが良好な、使用感に優れた歯磨剤組成物を得つつ、トリクロサンの容器への吸着を防止することができる。(D)水の含有量は、使用感をさらに向上する点から20〜50質量%が好ましく、さらに30〜50質量%が好ましい。なお、歯磨剤組成物中の水分量は、配合した水の量及び配合した成分中の水分量から計算によって算出することもできるが、例えばカールフィッシャー水分計で測定することができる。カールフィッシャー水分計としては、例えば、微量水分測定装置(平沼産業)を用いることができる。この装置では、歯磨剤組成物を5gとり、無水メタノール25gにより懸濁させ、この懸濁液0.02gを分取して水分量を測定することができる。
【0017】
本発明の歯磨剤組成物は、(B)特定のアニオン性界面活性剤を除く他の界面活性剤(E)を含有することはできるが、(C)カリウムイオンと(B)特定のアニオン性界面活性剤により泡立ちと(A)トリクロサンの殺菌力低下防止の点から、(B)特定のアニオン性界面活性剤を除く他の界面活性剤(E)は含有しないか、(B)特定のアニオン性界面活性剤との質量比(E/B)が0.02未満の含有量とする。この質量比(E/B)は、トリクロサンの容器への吸着を防止する点から、さらに0.018以下であることが好ましい。なお、(B)特定のアニオン性界面活性剤を除く他の界面活性剤(E)としては、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン性界面活性剤が挙げられる。
【0018】
本発明の歯磨剤組成物のpHは、トリクロサンの安定性の点から5〜10が好ましく、さらに5〜9が好ましく、特に6〜9が好ましい。なお、本発明の歯磨剤組成物のpHは、歯磨剤組成物を10%に希釈し、20℃において測定したものである。
【0019】
また、本発明の歯磨剤組成物は、上記成分以外に、例えば研磨剤、湿潤剤、粘結剤、pH調整剤、甘味剤、トリクロサン以外の殺菌剤、色素、香料等を配合することができる。
【0020】
研磨剤としては、歯磨剤組成物の研磨剤として一般に配合されるもの、例えば第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、研磨性シリカ、水酸化アルミニウム、リン酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、ゼオライト、複合アルミノケイ酸塩、炭酸マグネシウム等が挙げられる。このうち、清掃効果が高いこと、また取り扱いのしやすさや汎用性の点から、炭酸カルシウム、研磨性シリカ、水酸化アルミニウム、ゼオライトが好ましく、研磨性シリカが特に好ましい。これらの研磨剤のうち、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等のアルカリ金属を含む研磨剤を含有する場合には、pHを調整する点から増粘性シリカを含有することが好ましく、この場合の歯磨剤組成物における増粘性シリカの含有量は1〜10質量%が好ましく、さらに1〜8質量%が好ましい。
【0021】
本発明の歯磨剤組成物における研磨剤の含有量は、1〜40質量%が好ましく、さらに5〜30質量%が好ましく、特に7〜25質量%が好ましい。研磨剤としてアルカリ金属を含む研磨剤を含有する場合には、アルカリ金属を含む研磨剤の含有量は1〜30質量%が好ましく、特に7〜25質量%が好ましい。
【0022】
上記の研磨性シリカは、シリカの吸油量が50〜150mL/100g、増粘性シリカは、シリカの吸油量が200〜400mL/100gのものが一般的に用いられている。ここで吸油量とは、シリカが担持できる油量を示したものであり、測定方法はJIS K5101−13−2に準ずる方法により、吸収される煮あまに油の量により特定する。
【0023】
本発明の歯磨剤組成物は、トリクロサン以外の殺菌剤を含有することができるが、トリクロサンの容器への吸着を防止する点から、トリクロサン以外のノニオン性殺菌剤の含有量は0.01質量%以下が好ましく、さらに0.005質量%未満が好ましく、特に0.001質量%以下が好ましく、また、トリクロサン以外のノニオン性殺菌剤はトリクロサンより含有量が少ないことが好ましく、特に含有しないことが好ましい。トリクロサン以外のノニオン性殺菌剤としては、イソプロピルメチルフェノール、チモール、フェノキシエタノール、トリクロロカルバニリド、ヒノキチオール等が挙げられる。
【0024】
本発明の歯磨剤組成物は、上記成分を混合して、容器に充填して製造することができる。容器は、少なくとも最内層が合成樹脂である容器又は合成樹脂の容器にも充填することができる。容器は合成樹脂によるブローチューブ、合成樹脂の単層又は合成樹脂層を含む積層フィルムで形成されたチューブ容器のように歯磨剤組成物用として通常使用される各種容器の他、合成樹脂性の容器にポンプ式吐出装置や泡吐出装置を取着したポンプ容器、泡吐出容器などが挙げられる。容器の材質は合成樹脂が好ましく、積層フィルムを用いる場合には中間層に紙、アルミニウム等の金属層を含めることもできる。
これらの容器の中で、押圧により容器内に充填された歯磨剤組成物を吐出させるチューブ容器が一般的によく用いられる。これらの容器本体に歯磨剤組成物が充填され、容器本体の歯磨剤組成物と接触する最内層は、ポリエチレン等のトリクロサンと親和性の高い合成樹脂で構成されているが、さらに、容器本体だけでなく、例えばチューブ容器の吐出口を構成する頭部、吐出口を封止する蓋部、中栓、吐出装置のディップチューブ、吐出装置本体等の吐出時に歯磨剤組成物と接触する部材も、トリクロサンと親和性の高い合成樹脂で構成されていても良い。トリクロサンと親和性の高い合成樹脂としては、ポリエチレン、ナイロン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられ、特にポリエチレンとの親和性が高い。そして、一般的によく用いられるチューブ容器の最内層は、容器の製造において直鎖状低密度ポリエチレンがシーラント層として一般に採用され、チューブ容器に充填された歯磨剤組成物が接触するものとなる。本発明の歯磨剤組成物は、これらのトリクロサンと親和性の高い合成樹脂と接触する容器に充填する場合にもトリクロサンの容器の内層への吸着を抑制することができる。
【0025】
本発明の歯磨剤組成物においては、トリクロサンの容器への吸着が抑制されるメカニズムは明らかではないが、以下の如くと考えられる。すなわち、(C)カリウムイオンを十分に含有しない場合、歯磨剤組成物に配合される特定のアニオン性界面活性剤が水不溶性のトリクロサンを水溶化させ、水に溶けたトリクロサンが経時で歯磨剤組成物中に拡散し、容器の内表面に到着し、吸着すると考えられる。特定のアニオン性界面活性剤を配合しなければトリクロサンは水に溶解しないため、水を介して拡散することを抑制し安定化するが、泡立ちや使用感が損なわれる。これに対して、カリウムイオンを含有する場合は、特定のアニオン性界面活性剤によるトリクロサンの溶解性を低下させ、容器の内表面への吸着を効果的に抑制するものと考えられる。
【実施例】
【0026】
次に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。例中の%は、特記しない限り質量%である。
【0027】
表1に示す実施例1〜11及び比較例1〜6の歯磨剤を製造し、一端側にある吐出口が蓋により封止されたチューブ容器の容器胴部の他端側の開口部から充填し、充填後に開口部を融着して密封し、この密封状態で50℃の保存庫で1ヶ月(30日)保存した。
保存試験に用いたチューブ容器の容器胴部は、開口部を融着前は筒状であり、最内層が直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)であって、外側に印刷層(ニスを含む)を備え、印刷層/低密度ポリエチレン(LDPE)/接着剤/高密度ポリエチレン(HDPE)/接着剤/アルミニウム/接着剤/ポリエチレンテレフタレート(PET)/接着剤/LLDPE100μmからなる。そして、チューブ容器の容器胴部は、吐出口を一体に備える肩部に連続し、吐出口と肩部はポリエチレンからなる。
【0028】
保存前及び保存後の歯磨剤を、チューブ容器より搾り出し、以下の方法によりトリクロサンの含有量を測定した。表中の値は、保存前を100%としたときの保存後のトリクロサンの検出量である。
トリクロサンの含有量の測定方法を以下に示す。保存後の歯磨剤の各々をチューブ容器から2.0gとり、移動相となる0.1w/v%リン酸含有メタノール水混液(メタノール:水=7:3)を加えて100mlとし、これを十分に攪拌することによりトリクロサンを抽出した。そして、この液の一部をろ過し、ろ液について高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によりトリクロサンの吸光度を測定した。トリクロサンの標準液は、トリクロサン0.05gをメタノールを加えて100mlとし、さらにメタノールで容量比で10倍に希釈した液を、0.1w/v%リン酸含有メタノール水溶液(メタノール:水=7:3)により容量比で10倍に希釈したものを用いた。
(HPLCの測定条件)
装置:日立高速液体クロマトグラム La chrom Elite
カラム:LiChroCART 125-4 Superspher100 RP−8 Endcapped(Merck)
カラム温度:40℃
移動層:0.1w/v%リン酸含有メタノール水溶液(メタノール:水=7:3)
流量:1.0ml/min
サンプル注入量:20μl
測定波長:254nm
【0029】
HPLCにより測定されたトリクロサンの吸光度のピーク面積から、以下の式により試験溶液のトリクロサン含有量を求め、保存前のトリクロサン含有量を100%としたときの保存後のトリクロサンの含有量の比率を求めた。結果を表1に示す。
トリクロサンの含有量=(Y1×X2)/(X1×Y2)
X1:標準溶液の吸光度から得られたトリクロサンのピーク面積
Y1:試験溶液から得られたトリクロサンのピーク面積。
X2:トリクロサン標準品の採取量(g)
Y2:歯磨剤の採取量(g)
【0030】
表1に示す実施例1〜11及び比較例1〜6の歯磨剤の泡立ちを評価した。評価は、3名により保存後の歯磨剤を用いたブラッシングにより行い、評価基準は「◎泡立ちが良い、○泡立ちがやや悪い、×泡立ちが悪い」の3つとし、3名の協議により評価した。評価結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示すように、本発明の歯磨剤は、最内層がポリエチレンの容器内で50℃、1ヶ月保存した後であっても、トリクロサンは保存前の90%以上の量が検出された。これに対して、カリウムイオン供給化合物を含有しない比較例1、比較例2、両性界面活性剤を含有する比較例3〜6は、保存後のトリクロサン検出量が70%以下まで減少していることが認められた。
【0033】
次に、(A)トリクロサンと(C)カリウムイオン及び界面活性剤の組合せによるトリクロサンの溶解性について確認した。表2に示す試験例1〜11の試験液を用意した。試験液1は透明であるが、試験液2〜11は白濁し、白濁部分と上清部分ができる。試験液1は透明液について、試験液2〜11は上清部分のトリクロサン溶解量を前述のトリクロサン含有量の測定方法により測定し、全含有量に対する比率を求めた。上清部分のトリクロサン溶解量の比率の結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
表2に示すように、本発明の(A)トリクロサン、(B)特定のアニオン性界面活性剤、(C)カリウムイオンの組合せの範囲である試験例2の上清液からは、トリクロサンは検出されていない。また、本発明の(B)特定のアニオン性界面活性剤に対してその他の界面活性剤(E)を質量比で0.02未満の量とした試験例5、8の上清液からも、トリクロサンは検出されていない。これに対して、カリウムイオン供給化合物を含有しない試験例1の試験液、及び(B)特定のアニオン性界面活性剤に対してその他の界面活性剤(E)を質量比での0.02以上含有する試験例3、4、6、7の試験液の上清液からは、トリクロサンが検出された。さらに、(C)カリウムイオンに対して(B)特定のアニオン性界面活性剤を多く含み(C/B)が0.75未満である試験例9、11、及び(C)カリウムイオンに対して(A)トリクロサンを多く含有し(C/A)が20未満である試験例10、11の試験液の上清液からもトリクロサンが検出された。
【0036】
さらに、表3に示す比較例7、実施例12の歯磨剤を製造し、実施例1〜11、比較例1〜6と同じチューブ容器に同様に充填、密封し、密封状態で50℃の保存庫で1ヶ月(30日)保存した。保存後、チューブ容器より歯磨剤を搾り出し、後述する方法により殺菌力の評価を行った。測定結果の菌数を図1に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
殺菌力の評価方法を説明する。菌液としては、健常な男性が蒸留水10mLを1分間含嗽した後に吐き出したものを用いた。試験液は、実施例12、比較例7の歯磨剤を絞りだし8倍に希釈した液を用い、比較例8として生理食塩水を用いた。容器は0.6mLのチューブ(アシストチューブ、株式会社アシスト製)を用い、試験液400μL、菌液100μLをVoltex Mixer(AS ONE製Tube Mixer Trio HM−1、日本ジェネティクス株式会社)で30秒間攪拌した後、以下に示す希釈を行った。希釈は、上述の試験液と菌液の混合液50μLとSCDLP液体培地(Soybean−Casein DigestBroth with Lecithin & Polysorbate、日本製薬株式会社製)450μLをVoltex Mixerで30秒間攪拌し、この混合液50μLとSCDLP液体培地450μLとを混合して同様に攪拌することを5回繰り返した。希釈した菌液を寒天培地プレート(ニッスイプレート、変法GAM寒天培地)に50μL/dish添加し、アネロパックによる嫌気的条件下(N280%、CO220%)、37℃、48時間培養した。培養後、シャーレ内に形成されたコロニー数をカウントし、このコロニー数に希釈した倍率である6×106をかけて1mLあたりの菌数を求めた。
【0039】
図1に示すように、生理食塩水で培養した場合の比較例8の菌数に比べて、トリクロサンを含有する比較例7は菌数が少ないが、さらに硝酸カリウムを含む実施例12は、比較例7よりも検出された菌数が少なく、殺菌力が向上していることが認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)、(C)及び(D):
(A)トリクロサン 0.005〜2質量%、
(B)ラウリル硫酸塩、N−アシルアミノ酸塩及びN−メチル−N−アシルタウリン塩から選ばれる1種以上のアニオン性界面活性剤 0.5〜2.5質量%、
(C)カリウムイオン供給化合物をカリウムイオン換算量で0.5〜5.5質量%、
(D)水 20〜60質量%
を含有し、
成分(C)と(B)の質量比(C/B)が0.75〜11、
成分(C)と(A)の質量比(C/A)が20〜200であって、
(B)を除く界面活性剤を含有しないか、又は含有量が質量比で(B)の0.02未満である歯磨剤組成物。
【請求項2】
pHが5〜10である請求項1記載の歯磨剤組成物。
【請求項3】
(A)成分以外のノニオン性殺菌剤の含有量が0.01質量%以下である請求項1又は2記載の歯磨剤組成物。
【請求項4】
(C)カリウムイオン供給化合物が硝酸カリウム、リン酸カリウム、塩化カリウム、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸カリウム及び炭酸水素カリウムから選ばれる1種以上である請求項1〜3のいずれか1項記載の歯磨剤組成物。
【請求項5】
少なくとも最内層が合成樹脂である容器又は合成樹脂の容器に充填されたものである請求項1〜4のいずれか1項記載の歯磨剤組成物。
【請求項6】
前記最内層の合成樹脂又は容器を構成する合成樹脂がポリエチレンである請求項5記載の歯磨剤組成物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−136446(P2012−136446A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288116(P2010−288116)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】