説明

歯磨剤組成物

【課題】β−グリチルレチン酸の保存安定性に優れ、高い抗炎症効果を奏し、かつ使用後の異味や刺激が少なく、塩味が適度で、刷掃実感に優れた歯磨剤組成物を提供する。
【解決手段】β−グリチルレチン酸を含有する歯磨剤組成物に、塩化ナトリウムとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを、塩化ナトリウム/ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の質量比が5〜15の範囲で配合し、かつ重質炭酸カルシウム及びオウバクエキスを配合したことを特徴とする歯磨剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−グリチルレチン酸の安定性及び抗炎症効果に優れる上、使用後の異味や刺激が少なく、使用時の塩味や刷掃実感に優れ、良好な使用感を有する歯磨剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、抗炎症剤としてグリチルレチン酸やその誘導体を歯磨剤組成物に配合することが知られている(特許文献1:特公昭45−22436号公報、特許文献2:特開昭51−41447号公報)。
【0003】
しかし、上記歯磨剤組成物は、長期間保存するとグリチルレチン酸やその誘導体の残存量が減少してその薬効を十分に発揮し難くなるという問題が生じた。このため長期間保存してもグリチルレチン酸の残存率が高く、その薬効を有効に維持する歯磨剤組成物が望まれた。
【0004】
上記問題を解決する手段として、塩化ナトリウムを添加すると長期間保存してもグリチルレチン酸やその誘導体の残存率が高くなるという知見がある(特許文献3:特開昭63−35515号公報)。しかしながら、塩化ナトリウムを配合する場合、刺激が発生し、更にグリチルレチン酸やその誘導体の残存率が必ずしも高くならないという課題があった。
【0005】
一方、塩化ナトリウムを配合した際の香味を解決する手段として、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を添加すると後味が良く使用感に優れるという技術が提案されている(特許文献4:特開昭59−122417号公報)。しかしながら、この技術では塩化ナトリウム由来の刺激は緩和されるが、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を配合しても製剤の香味が必ずしも良くならないという課題があった。なお、この技術はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とアニオン活性剤とを併用することで香料や色素等の油溶性成分の分散可溶化力及び使用感を改善したもので、塩化ナトリウム配合系でも好適に使用できることを示すものである。このような技術から、グリチルレチン酸含有の歯磨剤組成物におけるグリチルレチン酸の安定性及び使用感の改善技術を予測することはできない。
【0006】
また、重質炭酸カルシウムは刷掃感に優れた研磨剤として歯磨剤等に広く用いられているが、一般に重質炭酸カルシウムを歯磨剤組成物の研磨剤として配合した際には味が泥臭くなる課題があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、歯磨剤組成物にβ−グリチルレチン酸を安定配合し、β−グリチルレチン酸の保存安定性に優れ高い抗炎症効果を奏すると共に、使用感も良好な、β−グリチルレチン酸を含有する歯磨剤組成物を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭45−22436号公報
【特許文献2】特開昭51−41447号公報
【特許文献3】特開昭63−35515号公報
【特許文献4】特開昭59−122417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、β−グリチルレチン酸の安定性に優れ、高い抗炎症効果を奏し、かつ使用後の異味や刺激が少なく、塩味が適度で、刷掃実感に優れた歯磨剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、β−グリチルレチン酸を含有する歯磨剤組成物に、塩化ナトリウムとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを、塩化ナトリウム/ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の質量比が5〜15の範囲で配合し、かつ重質炭酸カルシウム及びオウバクエキスを配合することにより、β−グリチルレチン酸の安定性に優れ、高い抗炎症効果が発揮される上、使用後の異味や刺激が少なく、塩味が適度で、かつ刷掃実感に優れた歯磨剤組成物が得られることを知見し、発明をなすに至った。
【0011】
歯磨剤組成物にグリチルレチン酸を配合すると、保存後に残存率が低下したり、異味が生じるという問題がある。上記したようにグリチルレチン酸に塩化ナトリウムを併用すると安定性が高まることは知られているが、本発明者らが更に検討した結果、この場合は刺激感が生じることがあり、また長期保存後のグリチルレチン酸の安定化を満足に改善できるとは言い難く、良好な使用感のもとでグリチルレチン酸を十分に安定化し高い抗炎症効果を発揮させ難く、更にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を配合しても、グリチルレチン酸の残存率低下を有効に防止し高い抗炎症効果を良好な使用感のもとで発揮させることは困難であった。これに対して、本発明によれば、β−グリチルレチン酸を含有する歯磨剤組成物に、塩化ナトリウムとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを適切な比率で配合すると共に、研磨剤として重質炭酸カルシウムを配合し、かつオウバクエキスを併用することで、意外にも上記課題を全て解消でき、β−グリチルレチン酸の安定性が満足に改善され、長期に亘って保存した後の残存率低下を効果的に抑制でき、かつ高い抗炎症効果が発揮され歯肉炎等を有効に改善できると共に、異味や刺激性がマスキングされ塩味も適度で、保存後の香味を良好に保つことができ、良好な刷掃感で使用感に優れた製剤を得ることができる。本発明組成物は、製剤中にβ−グリチルレチン酸が長期間安定化され、例えば60℃の高温で1ヶ月間保存しても残存率低下が抑えられて安定に維持され、高い抗炎症効果を奏する上、使用感も良好である。
なお、グリチルレチン酸を含有する歯磨剤組成物において、長期保存後のグリチルレチン酸残存量が低下するメカニズムについては明らかではないが、長期に亘って保存するとβ−グリチルレチン酸がポリエチレン容器に吸着することが要因となるものと推測される。本発明によれば、塩化ナトリウムにポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を特定の比率で併用することで可溶化状態が適正となり、更に重質炭酸カルシウムとオウバクエキスを配合することによって、β−グリチルレチン酸の安定性が高まり十分に安定化でき、かつ抗炎症効果もより高まると共に、良好な刷掃感が得られ、しかも、使用後の異味や刺激性がマスキングされ塩味も適度となり保存後の味を良好に保つことができ、上記目的を達成できるものと推測される。
【0012】
従って、本発明は下記の歯磨剤組成物を提供する。
請求項1:
β−グリチルレチン酸を含有する歯磨剤組成物に、塩化ナトリウムとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを、塩化ナトリウム/ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の質量比が5〜15の範囲で配合し、かつ重質炭酸カルシウム及びオウバクエキスを配合したことを特徴とする歯磨剤組成物。
請求項2:
塩化ナトリウムを5〜20質量%含有する請求項1記載の歯磨剤組成物。
請求項3:
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を0.8〜2.5質量%含有する請求項1又は2記載の歯磨剤組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、β−グリチルレチン酸の安定性に優れ、抗炎症効果が高く、使用後の異味や刺激が少なく、塩味が適度で、刷掃実感に優れる歯磨剤組成物を提供できる。本発明組成物は、歯肉炎等の歯周病の予防又は治療用として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の歯磨剤組成物は、β−グリチルレチン酸を含有する歯磨剤組成物に、塩化ナトリウムとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを適切な比率で配合し、かつ重質炭酸カルシウム及びオウバクエキスを配合したことを特徴とするものであり、(a)β−グリチルレチン酸、(b)塩化ナトリウム、(c)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、(d)重質炭酸カルシウム、(e)オウバクエキスを必須に含有する。
【0015】
(a)成分のβ−グリチルレチン酸は、β−グリチルレチン酸の誘導体として配合してもよく、具体的にはβ−グリチルレチン酸、β−グリチルレチン酸ステアリル、β−グリチルレチン酸ピリドキシン、β−グリチルレチン酸グリセリン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(a)成分のβ−グリチルレチン酸は、市販品を用いることができ、例えば丸善製薬(株)型のβ−グリチルレチン酸を使用することができる。β−グリチルレチン酸の配合量は、組成物全量に対して0.001〜1%(質量%、以下同様。)、特に抗炎症効果並びに香味の点から0.005〜0.5%が好ましい。0.001%未満では十分な薬効が期待できないことがあり、1%を超えると異味が生じることがある。
【0016】
(b)成分の塩化ナトリウムは、市販品を用いることができ、例えば(株)日本海水製のさぬき塩Aを使用することができる。
塩化ナトリウムの配合量は、組成物全量に対して5〜20%が好ましく、特にβ−グリチルレチン酸の安定性並びに香味の点から7〜20%、とりわけ10〜15%が好適である。5%未満ではβ−グリチルレチン酸の安定性が満足に向上しなかったり、適度な塩味が得られない場合があり、20%を超えると口腔粘膜に対して刺激を生じる場合がある。
【0017】
(c)成分のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては、特に制限されないが、酸化エチレンの平均付加モル数が10〜60モルであるものが、β−グリチルレチン酸の保存安定性の点で好ましく、特に20モルのものが好適に使用できる。付加モル数が10モル未満では、β−グリチルレチン酸の保存安定性の点で十分でない場合があり、60モルを超えるものはβ−グリチルレチン酸の保存安定性の点で不十分な場合がある。
【0018】
このようなポリオキシエチレン硬化ヒマシ油には、市販品を用いることができる。例えば、NIKKOL HCO−10(ポリオキシエチレン(10)硬化ヒマシ油、日光ケミカルズ株式会社製)、NIKKOL HCO−20(ポリオキシエチレン(20)硬化ヒマシ油、日光ケミカルズ株式会社製)、NIKKOL HCO−30(ポリオキシエチレン(30)硬化ヒマシ油、日光ケミカルズ株式会社製)、NIKKOL HCO−40(ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油、日光ケミカルズ株式会社製)、NIKKOL HCO−60(ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油、日光ケミカルズ株式会社製)などが挙げられる。
【0019】
(c)成分のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の配合量は、組成物全量に対して0.8〜2.5%、特に0.8〜2.2%、とりわけ1〜2%が好ましい。0.8%未満では口腔粘膜に対して刺激緩和効果が発揮されない場合があり、またβ−グリチルレチン酸の安定性に劣る場合があり、2.5%を超えると塩味を損なうとともに異味が生じる場合がある。
【0020】
(c)成分のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油に対する(b)成分の塩化ナトリウムの配合比率((b)/(c))は、質量比で5〜15であり、好ましくは7〜13である。5未満では塩味を損なうとともに異味が生じ、15を超えるとβ−グリチルレチン酸の安定性向上効果が満足に発揮されず、また口腔粘膜に対して刺激が生じる。
【0021】
(d)成分の重質炭酸カルシウムとしては、一般的に市販されている重質炭酸カルシウムが使用でき、製造業者、商品、及びグレードはこれに制限されるものではない。例えば備北粉化工業株式会社製の重質炭酸カルシウム(製品名:ソフトン1000、ソフトン1200、ソフトン1500、ソフトン1800)などが挙げられる。
【0022】
重質炭酸カルシウムの配合量は、組成物全量に対して10〜50%、刷掃感の点から好ましくは20〜40%である。10%未満では十分な刷掃感が期待できない場合があり、50%を超えると泥臭い異味が生じる場合がある。
【0023】
本発明で用いる(e)成分のオウバクエキスは、ミカン科植物のオウバクの溶媒抽出物として配合することができる。オウバクエキスは、抗炎症効果を有し、歯肉の炎症を改善する成分であり、また、有効成分のベルベリンに基づく苦味があり、歯磨組成物中の基材の異味をマスキングすることができる。
オウバクエキスとしては、抽出溶媒として、例えば水、エタノール等の炭素数1又は2の低級アルコールなどが挙げられ、特に水による抽出物が好適である。
上記オウバクエキスは、市販品を用いることができ、例えば粉末型の小城製薬株式会社製オウバクエキスを使用することができる。
【0024】
オウバクエキスの配合量は、組成物全量に対して0.005〜0.5%とすることができるが、ベルベリンの含有量が固形分換算で組成物全量に対して0.0003〜0.03%であることが望ましい。特に、抗炎症効果の点と異味のマスキングの点から、オウバクエキスの配合量が0.02〜0.2%で、ベルベリンの含有量が固形分換算で0.0012〜0.012%であることがより好ましい。オウバクエキスが0.005%未満であったり、ベルベリンが0.0003%未満では、十分な抗炎症効果と異味のマスキング効果が発揮されない場合があり、オウバクエキスが0.5%を超えたり、ベルベリンが0.03%を超えると苦味に基づく異味が発現する場合がある。
【0025】
本発明の歯磨剤組成物は、練歯磨剤、液体歯磨剤等、特に練歯磨剤として調製し適用することができ、その剤型に応じて、上記成分に加えてその他の適宜な公知成分を必要に応じて配合することができる。任意成分は、例えば湿潤剤、(d)重質炭酸カルシウム以外の研磨剤、(a)β−グリチルレチン酸及び(e)オウバクエキス以外の有効成分、(c)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油以外の界面活性剤、粘結剤、香料、pH調整剤、防腐剤、甘味剤、着色剤等が挙げられ、本発明の効果を妨げない範囲で配合することができる。本発明組成物は、これら成分と水とを混合し通常の方法で製造できる。
【0026】
湿潤剤としては、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、還元でんぷん糖化物等の糖アルコール、多価アルコールの1種又は2種以上を配合することができる。上記湿潤剤の配合量は組成全体に対して、練歯磨剤の場合は5〜50%が好ましい。
【0027】
研磨剤としては、シリカゲル、アルミノシリケート、ジルコノシリケート等のシリカ系研磨剤、第2リン酸カルシウム2水和物、第2リン酸カルシウム無水和物、ピロリン酸カルシウム等のリン酸系研磨剤、水酸化アルミニウム、アルミナ、2酸化チタン、結晶性ジルコニウムシリケート、ポリメチルメタアクリレート、不溶性メタリン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム、ゼオライト、ケイ酸ジルコニウム、ハイドロキシアパタイト、フルオロアパタイト、カルシウム欠損アパタイト、第3リン酸カルシウム、第4リン酸カルシウム、第8リン酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、合成樹脂系研磨剤などを、1種又は2種以上用いることができる。これら研磨剤の配合量は、(d)成分を含めた合計配合量が、練歯磨剤の場合は通常、組成物全量に対して10〜50%、特に20〜40%となる範囲が望ましい。
【0028】
各種有効成分としては、例えばフッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズなどのフッ素化合物、デキストラナーゼ、ムタナーゼなどの酵素、正リン酸のカリウム塩、ナトリウム塩等の水溶性リン酸化合物、トラネキサム酸、イプシロン−アミノカプロン酸、アラントイン、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、ヒノキチオール、ラウロイルサルコシンナトリウム、アスコルビン酸及びその塩、酢酸dl−α−トコフェロール、ニコチン酸dl−α−トコフェロール、ジヒドロコレステロール、α−ビサボロール、クロルヘキシジン塩類、アズレン、アズレンスルホン酸塩、グリチルリチン酸及びその塩、銅クロロフィリンナトリウム、クロロフィル、グリセロホスフェートなどのキレート性リン酸化合物、グルコン酸銅等の銅化合物、ヒドロキサム酸及びその誘導体、トリポリリン酸ナトリウム、ゼオライト、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体、ポリビニルピロリドン、エピジヒドロコレステリン、塩化セチルピリジウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、ジヒドロコレステロール、トリクロロカルバニリド、クエン酸亜鉛、トウキ軟エキス、カミツレ、チョウジ、ローズマリー、オウゴン、ベニバナ等の抽出物などが挙げられる。なお、これら有効成分の配合量は、本発明の効果を妨げない範囲で有効量とすることができる。
【0029】
界面活性剤としては、通常歯磨剤組成物に用いられる界面活性剤を配合することができる。例えばアニオン性界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、ミリストイルサルコシンナトリウム等のアシルサルコシン塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、水素添加ココナッツ脂肪酸モノグリセリドモノ硫酸ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、N−パルミトイルグルタミン酸ナトリウム等のN−アシルグルタミン酸塩、N−メチル−N−アシルタウリンナトリウム、N−メチル−N−アシルアラニンナトリウム、α−オレフィンスルフォン酸ナトリウムなどが挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、(c)成分のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油以外のもの、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ショ糖脂肪酸エステル、アルキロールアマイド、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、アルキルグルコシド、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が用いられる。
両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインや、N−ヤシ油脂肪酸アシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン等が用いられる。
これら界面活性剤の配合量は、(c)成分を含めた合計配合量が0.8〜5%となる範囲とすることができる。
【0030】
粘結剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、メチルセルロースなどのセルロース系粘結剤、キサンタンガム、カラギーナン、グアガム、アルギン酸ナトリウム、カチオン化セルロース、モンモリロナイト、ゼラチン、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を配合できる。配合量は通常、組成物全量に対して0.1〜5%である。
【0031】
香料としては、ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、グレープフルーツ油、柚子油、スウィーティー油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、オリガナム油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、パチュリ油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、ローズアブソリュート、オレンジフラワーアブソリュート、バニラアブソリュート、マンゴーアブソリュート、パチュリアブソリュート、ジンジャーオレオレジン、ペッパーオレオレジン、カプシカムオレオレジン、トウガラシ抽出物等の天然香料、及び、これら天然香料の加工処理(前溜部カット、後溜部カット、分留、液液抽出、エッセンス化、粉末香料化等) した香料、及び、メントール、カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、サリチル酸エチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、3−l−メントキシプロパン−1,2−ジオール、チモール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、メンチルラクテート、フェノキシエチルイソブチレート、メチルジャスモネート、N−置換−パラメンタン−3−カルボキサミド、ピネン、オクチルアルデヒド、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、エチルラクテート、ヘキシルアセテート、イソアミルアセテート、アリルヘキサノエート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルシンナメート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、バニリン、炭素数4〜12のガンマ及びデルタラクトン、ヨノン、キャロン、プロピルアルコール、ブタノール、ベンジルアルコール、マルトール、フェニルエチルアルコール、イソアミルアルコール、n−ヘキセノール、cis−3−ヘキセノール、cis−6−ノネノール、α−テルピネオール、アンブレットリド、ジメチルサルファイド、シクロテン、フラネオール、エチルシクロペンテノロン、フルフラール、トリメチルピラジン、2−メチルブチリックアシッド、プロピオニックアシッド、エチルチオアセテート、モノメンチルサクシネート、リナロールオキサイド、バニリルブチルエーテル、イソプレゴール、スピラントール等の単品香料、更に、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、ウメフレーバー、オレンジフレーバー、レモンフレーバー、フルーツミックスフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー、ティーフレーバー等の調合香料、及び、エチルアルコール、プロピレングリコール、トリアセチン、グリセリン脂肪酸エステル等の香料溶剤等、歯磨剤組成物に用いられる公知の香料素材を組み合わせて使用することができる。これらの香料素材の配合量は特に限定されないが、組成物中に0.000001〜1%使用するのが好ましい。また、上記香料素材を使用した賦香用香料としては、組成物中に0.1〜2.0%使用するのが好ましい。
【0032】
pH調整剤としては、フタル酸、リン酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、フマル酸、リンゴ酸、ピロリン酸、グリセロリン酸及び炭酸並びにそれらのカリウム塩、ナトリウム塩及びアンモニウム塩、リボ核酸及びその塩類、更に水酸化ナトリウムなどの1種又は2種以上を、本発明の効果を妨げない範囲で通常量添加することができる。
【0033】
防腐剤としては、ブチルパラベン、プロピルパラベン、エチルパラベン、メチルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム等の安息香酸又はその塩、ソルビン酸カリウム等が挙げられる。
【0034】
甘味剤としては、サッカリンナトリウム、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、ラクチトール、アスパルテーム、ネオテーム、ステビオサイド、スクラロース、モネリン、ネオヘスペリジン、ステビアエキス、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン等が挙げられる
【0035】
着色剤としては青色1号、黄色4号、赤色106号等の法定色素で規定されている色素の他、スピルリナ青色色素、クチナシブルー、カーサマスイエロー、クロチン、カーサマスレッド、ビートレッド、コチニール色素等の天然色素、群青、紺青、ベンガラ等の天然顔料等を使用できる。
なお、これら成分の配合量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0036】
容器としては、収容する容器の材質は特に制限されず、通常、練歯磨剤組成物、液状歯磨剤組成物に使用されるポリエチレン等の容器を使用できる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の歯磨剤組成物に該当する実施例と比較例を示して本発明の特徴及び効果を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。なお、以下の例において%は特に記載のない限りいずれも質量%である。
【0038】
〔実施例、比較例〕
表1〜3に示す組成の練歯磨剤組成物を下記製造法により調製した。なお、比較例は下記方法に準じて調製した。
製造法:
(1)精製水中にサッカリン、ソルビット液等の水溶性成分(粘結剤とプロピレングリコールを除く)を常温で混合溶解させたA相を調製した。
(2)プロピレングリコール中にオウバクエキスと粘結剤を常温で分散させたB相を調製した。
(3)攪拌中のA相の中にB相を添加混合し、C相を調製した。
(4)C相中に、香料、研磨剤、界面活性剤、β−グリチルレチン酸等の水溶性成分以外の成分を1.5Lのニーダー(石山商店製)を用い常温で混合し、減圧による脱泡(圧力4kPa)を行い、歯磨剤組成物1.5kgを得た。
【0039】
これらの歯磨剤組成物の調製には、オウバクエキスは小城製薬株式会社製、β−グリチルレチン酸は丸善製薬株式会社製、塩化ナトリウムは株式会社日本海水製のさぬき塩A、重質炭酸カルシウムは備北粉化工業株式会社製のソフトン1000、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は日光ケミカルズ株式会社製のNIKKOL HCO−20を用いた。その他、ラウリル硫酸ナトリウム、無水ケイ酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム、プロピレングリコール、サッカリンナトリウム、精製水は外原規(医薬部外品原料規格)規格品を用いた。ソルビットについて純分は70%のものを使用した。香料については表4に示す香料組成物A〜I(表5〜10に示すフレーバー組成を使用)を用い、配合した。
【0040】
調製した歯磨剤組成物は、最内層が直鎖状低密度ポリエチレンからなる直径26mm口部内径8mmのラミネートチューブ(LDPE55/PET12/LDPE20/白LDPE60/EMAA20/AL10/EMAA30/LDPE20/LLDPE30、厚み257μm(大日本印刷株式会社製))に50g充填した。
使用したラミネートチューブの層構成における略号と名称は以下の通りであり、略号に続く数字は各層の厚み(μm)を示したものである。
LDPE:低密度ポリエチレン
白LDPE:白色低密度ポリエチレン
LLDPE:直鎖状低密度ポリエチレン
AL:アルミニウム
PET:ポリエチレンテレフタレート
EMAA:エチレン・メタクリル酸の共重合体樹脂
【0041】
得られた歯磨剤組成物について、(1)β−グリチルレチン酸の安定性、(2)抗炎症効果、(3)使用後の異味のなさ、(4)使用後の刺激のなさ、(5)塩味、(6)刷掃感を以下の方法により評価した。結果を表1〜3に併記する。
【0042】
(1)β−グリチルレチン酸の安定性
歯磨剤組成物を調製直後(初期)と60℃で1ヶ月保存した後に、ラミネートチューブから5g押出し、それぞれのチューブでの製剤におけるβ−グリチルレチン酸の含量を下記方法で測定し残存率を求めた。
歯磨剤組成物に内標準溶液(フルオランテンのメタノール溶液)、及びメタノール/水/酢酸(100)混液(900:100:1)を加え、均一に分散した後、液体クロマトグラフィー用フィルター(0.45μm)を用いて濾過し、試料溶液とした。必要に応じて均一分散後に遠心分離してもかまわない。別に定量用β−グリチルレチン酸をメタノール/水/酢酸(100)混液(900:100:1)で希釈した後、内標準溶液を正確に加えて標準溶液とした。試料溶液及び標準溶液20μLにつき、次の条件で液体クロマトグラフィーにより試験を行い、QT(内標準物質のピーク面積に対する試料溶液のβ−グリチルレチン酸のピーク面積の比)及びQS(内標準物質のピーク面積に対する標準溶液のβ−グリチルレチン酸のピーク面積の比)を求めた。下記式によりβ−グリチルレチン酸含量を求め、β−グリチルレチン酸残存率を算出した。
【0043】
β−グリチルレチン酸の含量(%) = WS × QT/QS × 1/ WT
WS:定量用β−グリチルレチン酸の量(g)
WT:試料の量(g)
内標準物質 フルオランテンのメタノール溶液
操作条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:250nm)
カラム:ODSカラム
カラム温度:室温
移動相:メタノール/水/酢酸(100)混液=28/11/1
流量:β−グリチルレチン酸の保持時間が約25分となるように調整
【0044】
β−グリチルレチン酸残存率(%)=
〔(60℃、1ヶ月保存後のチューブ口元のβ−グリチルレチン酸含量)/(初期のβ−グリチルレチン酸含量)〕×100
【0045】
β−グリチルレチン酸の安定性を下記基準で評価した。
(評価基準)
◎:β−グリチルレチン酸残存率95%以上
○:β−グリチルレチン酸残存率90%以上95%未満
△:β−グリチルレチン酸残存率85%以上90%未満
×:β−グリチルレチン酸残存率85%未満
【0046】
(2)抗炎症効果
下記方法でODUラット(プラーク好付着性ラット)切歯部歯肉炎に対して歯磨剤組成物を精製水で4倍希釈した希釈液を投与して、歯肉炎改善効果の検証実験を実施し、抗炎症効果を評価した。
【0047】
ODUラットを1群10匹とし、生後5周齢で離乳し、MF粉末飼料(オリエンタル酵母社製)を3ヶ月間自由摂取させ、切歯部歯肉に歯肉炎を誘発させた。これらのラットの歯肉炎部分に希釈液を1日2回、2週間投与した。希釈液投与前と2週間後の歯肉を実態顕微鏡下で観察した。改善効果について下記の4段階で評価し、10匹の平均点を次の基準に従い、◎、○、△、×で表に示した。
【0048】
(評点)
4点:顕著に改善効果が見られる
3点:改善効果が見られる
2点:わずかに改善効果が見られる
1点:全く改善効果が見られない
(評価基準)
◎:3.5点以上〜4.0点以下
○:3.0点以上〜3.5点未満
△:2.0点以上〜3.0点未満
×:2.0点未満
【0049】
(3)使用後の異味のなさ
専門家パネラー10人を用いた官能試験により評価した。サンプルの歯磨剤組成物約1gを市販品歯ブラシにのせて3分間ブラッシングを行い、使用後に感じた異味について下記の4段階で評価し、10名の平均点を次の基準に従い、◎、○、△、×で表に示した。
【0050】
(評点)
4点:全く異味を感じない
3点:わずかに異味を感じる
2点:異味を感じる
1点:異味を非常に強く感じる
(評価基準)
◎:3.5点以上〜4.0点以下
○:3.0点以上〜3.5点未満
△:2.0点以上〜3.0点未満
×:2.0点未満
【0051】
(4)使用後の刺激のなさ
専門家パネラー10人を用いた官能試験により評価した。サンプルの歯磨剤組成物約1gを市販品歯ブラシにのせて3分間ブラッシングを行い、使用後に感じた刺激について下記の4段階で評価し、10名の平均点を次の基準に従い、◎、○、△、×で表に示した。
【0052】
(評点)
4点:全く刺激を感じない
3点:わずかに刺激を感じるが使用上問題ない
2点:刺激を感じる
1点:刺激を非常に強く感じる
(評価基準)
◎:3.5点以上〜4.0点以下
○:3.0点以上〜3.5点未満
△:2.0点以上〜3.0点未満
×:2.0点未満
【0053】
(5)使用中の塩味感
専門家パネラー10人を用いた官能試験により評価した。サンプルの歯磨剤組成物約1gを市販品歯ブラシにのせて3分間ブラッシングを行い、使用中に感じた塩味について下記の4段階で評価し、10名の平均点を次の基準に従い、◎、○、△、×で表に示した。
【0054】
(評点)
4点:歯磨きをしている間、塩味を適度に感じ、使用感が良い
3点:歯磨きをしている間、わずかに塩味を感じ、使用上問題がない
2点:歯磨きをしている間、ほとんど塩味を感じず、使用感が悪い
1点:歯磨きをしている間、全く塩味を感じず、非常に使用感が悪い
(評価基準)
◎:3.5点以上〜4.0点以下
○:3.0点以上〜3.5点未満
△:2.0点以上〜3.0点未満
×:2.0点未満
【0055】
(6)使用中の刷掃感
専門家パネラー10人を用いた官能試験により評価した。サンプルの歯磨剤組成物約1gを市販品歯ブラシにのせて3分間ブラッシングを行い、使用中に感じた刷掃感について下記の4段階で評価し、10名の平均点を次の基準に従い、◎、○、△、×で表に示した。
【0056】
(評点)
4点:歯磨きをしている間、刷掃感を非常に強く感じる
3点:歯磨きをしている間、刷掃感を感じる
2点:歯磨きをしている間、わずかに刷掃感を感じる
1点:歯磨きをしている間、全く刷掃感を感じない
(評価基準)
◎:3.5点以上〜4.0点以下
○:3.0点以上〜3.5点未満
△:2.0点以上〜3.0点未満
×:2.0点未満
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
表1〜3の結果から、(b)塩化ナトリウム、(c)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、(d)重質炭酸カルシウム、(e)オウバクエキスのいずれかを欠く場合や、(b)成分/(c)成分の比率が不適切であると(比較例)、β−グリチルレチン酸の保存安定性や抗炎症効果に劣ったり、味や刷掃感に劣るのに対して、本発明の歯磨剤組成物(実施例)は、β−グリチルレチン酸の安定性及び抗炎症効果に優れる上、使用後の異味及び刺激のなさ、使用中の塩味が適度で、刷掃実感に優れ、使用感も良好となり、これら優れた特性を兼ね備えることがわかった。
なお、香料組成物Aの代わりに香料組成物B〜Iを用いた場合も同様の効果が得られた。
【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

表中、部は質量部である(以下同様。)。
【0063】
【表6】

【0064】
【表7】

【0065】
【表8】

【0066】
【表9】

【0067】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−グリチルレチン酸を含有する歯磨剤組成物に、塩化ナトリウムとポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とを、塩化ナトリウム/ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の質量比が5〜15の範囲で配合し、かつ重質炭酸カルシウム及びオウバクエキスを配合したことを特徴とする歯磨剤組成物。
【請求項2】
塩化ナトリウムを5〜20質量%含有する請求項1記載の歯磨剤組成物。
【請求項3】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を0.8〜2.5質量%含有する請求項1又は2記載の歯磨剤組成物。

【公開番号】特開2012−148998(P2012−148998A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7938(P2011−7938)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】