説明

歯磨剤組成物

【課題】研磨剤無配合の歯磨剤組成物において、カチオン性殺菌剤の保存安定性に優れ、高い殺菌効果が発揮される上、高温保存後の外観安定性が良好に保たれ、泡立ちが適度で、曳糸性がなく使用感のよい歯磨剤組成物を提供する。
【解決手段】研磨剤を配合しない歯磨剤組成物に、(A)カチオン性殺菌剤を配合すると共に、(B)カラギーナン、(C)アルギン酸ナトリウム、及び(D)脂肪酸アミドプロピルベタインを配合したことを特徴とする歯磨剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨剤を配合しない歯磨剤組成物において、カチオン性殺菌剤の経時保存安定性に優れ、口腔内細菌への殺菌効果が高く、高温保存後の外観の悪化がなく、泡立ちが適度で、曳糸性がなく使用感の良い歯磨剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯磨剤組成物には、歯垢清掃力を確保するため、研磨剤が配合されている。しかし、研磨剤は歯牙及び口腔粘膜への為害作用が懸念されており、特に歯の萌出期、矯正治療中、歯根面露出など、う蝕に対してハイリスクである使用者には特に懸念があると考えられている。そこで、そのようなう蝕ハイリスク者向けに好適な歯牙及び口腔粘膜にマイルドな歯磨剤組成物を得るため、出願人は、研磨剤を減量したり無配合とする口腔用組成物の開発を行い提案してきた(特許文献1〜3参照)。
【0003】
出願人は、これまでに、低粘度に設定した研磨剤を含まない電動歯ブラシ用歯磨剤組成物を提案した(特許文献1参照)。しかしながら、研磨剤無配合の歯磨剤組成物は、研磨剤配合の歯磨剤組成物に比較して清掃力が低下するため、歯垢除去効果が高いとされている電動歯ブラシを使用する場合は問題ないが、通常の歯ブラシにて使用する場合は、歯垢除去効果が不十分であった。
【0004】
更に、出願人は、クエン酸又はその塩、水溶性ポリリン酸又はその塩、及び非イオン性界面活性剤を配合した研磨剤無配合の口腔用組成物を提案した(特許文献2参照)。この場合、クエン酸塩及び水溶性ポリリン酸塩を配合することによりステインなどの歯牙着色物に対しては高い清掃効果が得られるが、歯垢に対する清掃力は十分ではなく、歯垢除去効果に改善の余地があった。
【0005】
また、出願人は、殺菌剤を配合し、研磨剤を配合しないう蝕予防用塗布剤組成物を提案した(特許文献3参照)。特許文献3は、殺菌剤の配合によりう蝕原因菌を殺菌し、う蝕予防効果を向上させた組成を示している。しかし、出願人が更に検討したところ、研磨剤を配合しない歯磨組成物にカチオン性殺菌剤を配合した場合、長期保存におけるカチオン性殺菌剤の安定性が十分とは言い難く、殺菌剤の安定性について更なる改善が望まれる。更に、カチオン性殺菌剤はアニオン性界面活性剤と併用した場合、アニオン性界面活性剤と静電的コンプレックスを形成して、殺菌活性が低下し、十分な殺菌効果を得ることが難しく、殺菌効果の点にも改善の余地があった。
【0006】
一方、カチオン性殺菌剤を配合した口腔用組成物は数多く提案されている(特許文献4〜6参照)。出願人は、カチオン性殺菌剤の殺菌力を高める手段として、アニオン性界面活性剤を無配合にし、特定の粘結剤・両性界面活性剤などで殺菌力と泡立ちを確保した歯磨組成物を提案した(特許文献4参照)。しかしながら、いずれの組成においても研磨剤が配合されており、う蝕ハイリスク者にとっては使用し難いものであった。
【0007】
更に、特許文献5では、塩化セチルピリジニウムなどのカチオン性殺菌剤と和種ハッカ抽出物を配合した清涼感の高い口腔用組成物が提案されている。実施例19では塩化ベンザルコニウム及びカラギーナン及びヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン液を配合した液状歯磨剤が提案されているが、研磨剤を配合しており、う蝕ハイリスク者にとっては使用し難いものであった。
【0008】
特許文献6では、カチオン性殺菌剤に結晶セルロースを配合することで歯面滞留効果が向上した口腔用組成物が提案されている。実施例2には、塩化セチルピリジニウム及びヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインが配合された口腔用組成物が提案されているが、これは研磨剤が配合された組成であり、う蝕ハイリスク者にとっては使用し難い。また、実施例7には、塩化セチルピリジニウム及びヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインが配合された研磨剤を含有しない練歯磨が記載され、実施例8には塩化セチルピリジニウムを配合した口腔用組成物(ジェル)が記載されているが、この組成では殺菌剤の安定性及び外観安定性に課題があった。いずれにしても、これら技術から、カチオン性殺菌剤にカラギーナン及びアルギン酸塩と脂肪酸アミドプロピルベタインを併用することによる、研磨剤を含有しない歯磨剤組成物における殺菌剤の安定性の改善技術は予測し難い。
【0009】
つまり、カチオン性殺菌剤の保存安定性に優れ、口腔内細菌への殺菌効果が高い上、高温保存後の外観の悪化がなく、泡立ちが適度で、曳糸性がなく使用感のよい、研磨剤無配合の歯磨剤組成物はいまだ提案されておらず、開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−217609号公報
【特許文献2】特開平7−126131号公報
【特許文献3】特開2005−187333号公報
【特許文献4】国際公開第2007/066497号パンフレット
【特許文献5】特開2007−84471号公報
【特許文献6】特開2002−179541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記したように、研磨剤を配合しない歯磨剤組成物においてカチオン性殺菌剤を安定配合し、保存安定性に優れ、高い殺菌効果を奏すると共に、適度な泡立ちを有し、外観安定性や使用感といった一般特性も良い製剤を得ることは難しく、上記した課題を克服した歯磨剤組成物の開発が望まれる。
【0012】
本発明はかかる要望に応えるべくなされたもので、研磨剤を配合しない歯磨剤組成物において、カチオン性殺菌剤の安定性に優れ、口腔内細菌への高い殺菌効果が発揮される上、高温保存後の外観安定性が良好に保たれ、泡立ちが適度で、曳糸性がなく使用感のよい歯磨剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、研磨剤無配合の歯磨剤組成物に、(A)カチオン性殺菌剤を配合すると共に、(B)カラギーナン、(C)アルギン酸ナトリウム、及び(D)脂肪酸アミドプロピルベタインを組み合わせて配合することにより、カチオン性殺菌剤の安定性を有効に改善でき、カチオン性殺菌剤の保存安定性に優れ、かつ高い殺菌効果が発揮されると共に、高温保存後の外観の悪化がなく外観保存安定性が良好で、泡立ちが適度であり、曳糸性がなく使用感もよい歯磨剤組成物が得られることを知見した。
【0014】
研磨剤を配合しない歯磨剤組成物においては、カチオン性殺菌剤が十分安定配合できず殺菌力が十分得られなかった。これに対して、本発明では、研磨剤無配合のジェル状等の歯磨剤組成物において、カチオン性殺菌剤にカラギーナンを組み合わせて配合すること、好ましくはカチオン性殺菌剤に対してカラギーナンを適切な配合比で配合することで、カラギーナン分子内の硫酸基によりカチオン性殺菌剤の安定性が向上し、保存安定性が改善すると推測され、更にアルギン酸ナトリウムを併用し、かつ脂肪酸アミドプロピルベタインを配合することで、う蝕原因菌や歯周病原因菌等の口腔内細菌への殺菌効果が効果的に改善する上、高温保存後の外観の悪化がなく外観保存安定性がよく、泡立ちが適度であり、曳糸性が無く使用感も良好となる。カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、脂肪酸アミドプロピルベタインは、それぞれ歯磨剤組成物の配合成分としては公知成分であるが、本発明によれば、カチオン性殺菌剤と共にこれら成分を組み合わせて配合することで、意外にもかかる殺菌剤の安定性を上記製剤特性も良好に保って効果的に改善でき、研磨剤無配合の歯磨剤組成物にカチオン性殺菌剤を安定配合できる。
【0015】
従って、本発明は下記の歯磨剤組成物を提供する。
請求項1:
研磨剤無配合の歯磨剤組成物に、(A)カチオン性殺菌剤を配合すると共に、(B)カラギーナン、(C)アルギン酸ナトリウム、及び(D)脂肪酸アミドプロピルベタインを配合したことを特徴とする歯磨剤組成物。
請求項2:
カチオン性殺菌剤が第四級アンモニウム塩であることを特徴とする請求項1記載の歯磨剤組成物。
請求項3:
(B)成分/(A)成分の質量比が3〜100であることを特徴とする請求項1又は2記載の歯磨剤組成物。
請求項4:
(B)成分/(C)成分の質量比が0.2〜10であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の歯磨剤組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、研磨剤無配合である歯磨剤組成物にカチオン性殺菌剤を安定に配合でき、カチオン性殺菌剤の保存安定性に優れ、口腔内細菌への殺菌効果が高く、かつ高温保存後の外観の悪化がなく、泡立ちが適度であり、曳糸性がなく、更には苦味もなく使用感のよい前記歯磨剤組成物を提供できる。本発明組成物は、歯牙や口腔粘膜への為害性がないので、う蝕ハイリスク者でも使用し易く、う蝕又は歯周病の予防又は治療用として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明につき更に詳細に説明すると、本発明の歯磨剤組成物は、研磨剤を配合しない歯磨剤組成物であって、(A)カチオン性殺菌剤、(B)カラギーナン、(C)アルギン酸ナトリウム、及び(D)脂肪酸アミドプロピルベタインを含有する。
【0018】
(A)成分のカチオン性殺菌剤は、特に制限はされないが、第四級アンモニウム塩が好ましい。具体的には、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等の第四級アンモニウム塩を配合することができる。中でも、歯磨剤組成物への配合のし易さから、塩化セチルピリジニウムが最も好ましい。塩化セチルピリジニウムは、市販品、例えば和光純薬(株)製のものを使用できる。
【0019】
カチオン性殺菌剤の配合量は、殺菌剤の殺菌力に応じて設定することができ、通常は、組成物全体に対して(以下、配合量について特に断らない限りは同様に組成物全体に対する量である。)0.005〜0.1%(質量%、以下同様。)、特に0.02〜0.05%が好ましい。0.005%未満では、十分な殺菌効果が得られない場合があり、0.1%を超えると独特の苦味が生じ使用感の面から好ましくない場合がある。
【0020】
(B)成分のカラギーナンは、(A)成分の安定化、特に保存後の安定化に効果がある。カラギーナンは、一般的に紅藻類海藻から抽出、精製される天然高分子物質であり、D−ガラクトースや3,6−アンヒドロ−D−ガラクトースを主成分とする多糖類であり、分子内に硫酸基を含有するアニオン性高分子化合物である。カラギーナンは、原料とする海藻の種類の違いから糖構造に違いがあり、κ(カッパ)−カラギーナン、ι(イオタ)−カラギーナン、λ(ラムダ)−カラギーナンがあるが、本発明では、κ−カラギーナン、ι−カラギーナンを好適に使用することができ、1種単独でも2種を併用しても良い。
このようなカラギーナンとしては、三昌(株)から販売されているものを使用することができる。
【0021】
カラギーナンの配合量は0.1〜2%、特に0.3〜1.0%が好ましい。0.1%未満であるとカチオン性殺菌剤の保存による安定性が低下したり、泡立ちに劣る場合があり、また、2%を超えると高温保存後の外観や泡立ちに劣る場合がある。
【0022】
また、本発明では、研磨剤無配合の歯磨剤組成物においてカチオン性殺菌剤を安定的に配合し、かつ高温保存後の外観の悪化のない歯磨剤組成物を得る点で、(B)成分/(A)成分を質量比で3〜100、特に10〜70、とりわけ10〜30で配合することが好ましい。(B)成分/(A)成分が3未満ではカチオン性殺菌剤の安定性が十分に改善しない場合があり、また、100を超えると高温保存後に外観が悪化する場合がある。
【0023】
(C)成分のアルギン酸ナトリウムは、高温保存後の外観の悪化を抑制する効果があり、本発明では、(B)成分のカラギーナンだけでは高温保存後の外観安定性に劣ったり、殺菌力、更に泡立ちを満足に改善できないが、(B)成分と共に(C)成分及び(D)成分を配合することで、カチオン性殺菌剤の保存安定性及び殺菌力を十分に改善しつつ、泡立ち、製剤の安定性及び使用感も良好となる。
アルギン酸ナトリウムとしては、1質量%水溶液の粘度が20〜1,100mPa・s、特に80〜400mPa・sであることが好ましい、粘度が20mPa・s未満では、曳糸性が生じ使用感が悪化する場合があり、1,100mPa・sを超えると高温保存後の外観の悪化を抑制できない場合がある。
なお、上記粘度は、B型粘度計、特にBM型ブルックフィールド粘度計、ローターNo.2、20回転、20℃、測定時間1分による値である。
このようなアルギン酸ナトリウムとしては、(株)キミカから販売されているキミカアルギンIシリーズ等を使用することができる。
【0024】
アルギン酸ナトリウムの配合量は0.1〜2%、特に0.3〜1.0%が好ましい。0.1%未満であると高温保存後の外観が悪化したり泡立ちに劣る場合があり、また、2%を超えると泡立ちに劣ったり、曳糸性が生じ使用感が悪化する場合がある。
【0025】
また、本発明では、(B)成分/(C)成分の質量比は限定されないが、特に研磨剤無配合の歯磨剤組成物において、高温保存後の外観の悪化を抑制し、かつ歯磨き時に適度な泡立ちが生じ曳糸性のない歯磨剤組成物を得る点で、(B)成分/(C)成分が質量比で0.2〜10、とりわけ1〜3の範囲が好ましい。(B)成分/(C)成分が0.2未満では歯磨き時の泡立ちが少なかったり、曳糸性が生じ使用感が悪化する場合があり、また、10を超えると高温保存後に外観が悪化したり、歯磨き時に適度な泡立ちが得られない場合がある。
【0026】
(D)成分である脂肪酸アミドプロピルベタインとしては、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン等が好適に使用でき、1種単独でも2種を併用しても良い。(D)成分を、上記(B)及び(C)成分と共に配合することで、泡立ちを確保しつつ、カチオン性殺菌剤の安定性を改善でき優れた保存安定性及び殺菌力が得られる。
ラウリン酸アミドプロピルベタインは、主としてラウリン酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸からなり、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインは、主としてヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸からなる。中でも、泡立ちの点からヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸が好ましい。
【0027】
これらの脂肪酸アミドプロピルベタインとしては市販品を使用することができ、ラウリン酸アミドプロピルベタインとしては、例えばアンヒトール20AB(花王(株))、ソフタゾリンLPB(川研ファインケミカル(株))等が使用できる。ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタインとしては、例えばTEGO BETAIN CK(EVONIK社)、アンヒトール55AB(花王(株))NIKKOL AM−3130N(日光ケミカルズ(株))等の商品名で入手可能な市販品を使用できる。
【0028】
脂肪酸アミドプロピルベタインの配合量は、0.1〜3%、特に0.3〜2.0%が好ましい。0.1%未満であると適度な泡立ちが得られない場合があり、また、3%を超えると苦味が生じ使用感が悪化する場合がある。
【0029】
本発明の歯磨剤組成物は、練歯磨、液状歯磨、液体歯磨等の歯磨剤として通常の方法で調製できる。特に、う蝕ハイリスク者が使用する場合、歯面への歯磨剤の滞留性を向上し、う蝕予防効果をより高く発揮させることができることから、その形状はジェル状が望ましく、ジェル状歯磨剤として好適に調製できる。
また、本発明組成物には、その剤型に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、上記必須成分に加えて下記のような成分を任意に配合できる。例えば液状歯磨の場合は、粘稠剤、粘結剤、界面活性剤、更には必要に応じて甘味剤、色素、防腐剤、香料、各種有効成分等を配合でき、これら成分と水とを混合し、常法に従って製造できる。
本発明の歯磨剤組成物は研磨剤を配合しないもので、研磨剤は含有しない。
【0030】
粘結剤としては、(B)成分のカラギーナン及び(C)成分のアルギン酸ナトリウム以外の粘結剤を、本発明の効果を妨げない範囲で配合することができる。具体的には、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、メチルセルロース、カチオン化セルロース等のセルロース系粘結剤、キサンタンガム、グアガム、モンモリロナイト、トラガントガム、カラヤガム、アラビヤガム、ローカストビーンガム、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、カーボポール、シリカゲル、アルミニウムシリカゲル、ビーガム、ラポナイト等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を配合することができる。これら粘結剤の配合量は本発明組成物の形態、使用目的等に応じ適宜選択されるが、配合する場合は、(B)成分及び(C)成分との合計配合量は、組成物全量に対して0.2〜3%が好ましい。
【0031】
発泡剤(界面活性剤)としては、(D)成分の脂肪酸アミドプロピルベタインに加えて、通常歯磨剤組成物に配合される他の界面活性剤を配合することができ、上記脂肪酸アミドプロピルベタイン以外の両性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤を配合できる。アニオン性界面活性剤は配合しないことが好ましい。上記したように、本発明では、カチオン性殺菌剤を配合しており、カチオン性殺菌剤はアニオン性界面活性剤と併用した場合、アニオン性界面活性剤と静電的コンプレックスを形成して、殺菌活性が低下し、十分な殺菌効果が得られないことがあるため、一般的な歯磨剤組成物に配合されるラウリル硫酸ナトリウムやラウロイルサルコシンナトリウムなどのアニオン性界面活性剤は配合しないことが好ましい。
従って、界面活性剤を配合する場合は、ノニオン性界面活性剤を配合することが好ましく、例えば、アルキル基の炭素数が16〜18のポリオキシエチレンアルキルエーテル、エチレンオキシドの付加モル数が40〜80のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキルグリコシド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0032】
これら界面活性剤は1種又は2種以上を使用でき、配合する場合は、本発明組成物の形態、使用目的等に応じ適宜選択されるが、(D)成分との合計配合量は0.1〜4%の範囲であることが好ましい。
【0033】
粘稠剤としては、ソルビット、キシリトール、マルチトール、ラクチトール等の糖アルコール、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の多価アルコール、エタノール、変性エタノール、糖アルコール還元でんぷん糖化物等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を配合することができる。配合量は通常5.0〜60%である。
【0034】
また、これらの成分以外にも薬効成分あるいは有効成分として、上記(A)成分であるカチオン性殺菌剤に加えて、その他の薬効又は有効成分を本発明の効果を妨げない範囲で有効量配合することができる。具体的には、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム等のアルカリ金属モノフルオロフォスフェート、フッ化第1スズ等のフッ素化合物、正リン酸のカリウム塩、ナトリウム塩等の水溶性リン酸化合物、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテナーゼ、ムタナーゼ等の酵素、トラネキサム酸、イプシロン−アミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシアラントイン、ヒノキチオール、アスコルビン酸、酢酸dl−トコフェロール、ジヒドロコレステロール、α−ビサボロール、クロルヘキシジン塩類、アズレン、銅クロロフィリンナトリウム、クロロフィル、グリセロホスフェート等のキレート性リン酸化合物、グルコン酸銅等の銅化合物、乳酸アルミニウム、塩化ストロンチウム、硝酸カリウム、ベルベリン、ヒドロキサム酸及びその誘導体、グリチルリチン酸及びその塩、グリチルレチン酸無水マレイン酸共重合体、ポリビニルピロリドン、エピジヒドロコレステリン、トリクロサン、塩化リゾチーム等の殺菌剤、ポリリン酸塩類、ゼオライト等の歯石予防剤を配合できる。
【0035】
香料は、ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、アブソリュートローズ、オレンジフラワー等の天然香料、及び、これらの天然香料の加工処理(前溜部カット、後溜部カット、分留、液液抽出、エッセンス化、粉末香料化等)した香料、及び、メントール、カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、3−1−メントキシプロパン−1,2−ジオール、チモール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、N−置換−パラメンタン−3−カルボキサミド、ピネン、オクチルアセデヒド、シトラール、プレゴン、カルビートアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルファイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、メチルラクテート、エチルチオアセテート等の単品香料、更に、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、フルーツミックスフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー等の調合香料等、歯磨剤組成物に用いられる公知の香料素材を使用することができ、実施例の香料に限定されない。
【0036】
また、香料の配合量は特に限定されないが、上記の香料素材は、製剤組成中に0.000001〜1%使用することが好ましい。また、上記香料素材を使用した賦香用香料としては、製剤組成中に0.05〜2.0%使用することが好ましい。
【0037】
甘味剤としては、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビオサイド、ステビアエキス、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルヒドロカルコン、ペルラルチン、ソーマチン、アスパラチルフェニルアラニンメチルエステル等が挙げられる。
【0038】
着色剤としては、赤色2号、赤色3号、赤色225号、赤色226号、黄色4号、黄色5号、黄色205号、青色1号、青色2号、青色201号、青色204号、緑色3号、酸化チタン等が挙げられる。
【0039】
防腐剤としては、ブチルパラベン、メチルパラベン、エチルパラベン等のパラベン類、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
【0040】
なお、甘味剤、着色剤、防腐剤の配合量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0041】
本発明の歯磨剤組成物を収容する容器の材質は特に制限されず、通常、歯磨剤組成物に使用される容器を使用できる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンなどのプラスチック容器等が使用できる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、表中の%は特に断らない限り質量%であり、表中のソルビットは純分70%、その他の成分は純分100%のものを使用し、表中の配合量は純分換算した値を示した。
アルギン酸ナトリウムの粘度は、BM型ブルックフィールド粘度計、ローターNo.2、20回転、20℃、測定時間1分による値である。
【0043】
〔実施例、比較例〕
表1,2に示す組成の歯磨剤組成物(ジェル状歯磨剤組成物)を下記に示す製造法により調製した。得られた歯磨剤組成物について、カチオン性殺菌剤の保存後の安定性、殺菌力、高温保存後の歯磨剤の外観安定性、歯磨ブラッシング時の泡立ち、歯磨ブラッシング時の使用感(曳糸性)、更には苦味の無さを下記方法により評価した。結果を表1,2に示す。
【0044】
試験歯磨剤組成物の調製:
(i)精製水中に水溶成分(粘結剤、プロピレングリコール等を除く)を常温で混合溶解させたA相を調製した。
(ii)プロピレングリコール中に粘結剤及び防腐剤を常温で分散させたB相を調製した。
(iii)攪拌中のA相の中にB相を添加混合し、C相を調製した。
(iv)C相中に、香料、界面活性剤等の水溶性成分以外の成分を、5kg真空乳化装置(みづほ工業株式会社製)を用い常温で混合し、減圧(2,666Pa)による脱泡を行い、歯磨剤組成物5kgを得た。
【0045】
(1)カチオン性殺菌剤の保存後の安定性の評価方法
歯磨剤組成物を調製後、容器に充填し、充填直後の組成物中のカチオン性殺菌剤(塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム)を定量(%)した値を初期値とし、40℃の恒温槽に1ヶ月間保存した後の各カチオン性殺菌剤の組成中濃度を評価サンプル値(%)とし、下記の式にて残存率を計算した。90%以上の残存率を示すものを保存安定性に問題ないと判断した。
なお、カチオン性殺菌剤の定量は、歯磨剤組成物を2.5g分取し(チューブからの押し出した最初の2.5gを使用)、分散溶液10mlを加え、均一に分散した後、エタノール30mlを加え、更に均一に分散後、遠心分離を行い、上清を0.45μmの液体クロマトグラフ用フィルターでろ過した後、試料溶液とした。なお、分散溶液は、無水過塩素酸ナトリウムとリン酸の混合液を用いた。別に、各カチオン性殺菌剤の標準品を上記の分散溶液に溶かした後、組成物の濃度にあわせて希釈し、標準溶液とした。試料溶液及び標準溶液50μLにつき、次の条件で液体クロマトグラフ法により試験を行い、絶対検量線法により測定した。
【0046】
・測定条件及び使用機器
カラム温度:35℃
移動相:メタノール/無水過塩素酸ナトリウム溶液
測定波長:紫外吸光光度(波長265nm)
流量:1.0ml/分
ポンプ:PU−980(日本分光(株))
試料導入部:AS−950(日本分光(株))
検出器:UV−970(日本分光(株))
記録装置:Chromatocoder21J(システムインスツルメント(株))
カラム恒温槽:CO−966(日本分光(株))
カラム:CAPCELL PAK SCX UG80
(4.6mmφ×150mm)((株)資生堂)
【0047】
各カチオン性殺菌剤の残存率(%)=
[評価サンプル値(質量%)/初期値(質量%)]×100
【0048】
40℃の恒温槽に1ヶ月間保存した後の各カチオン性殺菌剤の残存率を元に、下記の基準により保存安定性を評価した。
◎:残存率が95%以上
○:残存率が90%以上95%未満
△:残存率が85%以上90%未満
×:残存率が85%未満
【0049】
(2)殺菌力の評価方法
凍結保存してあったポルフィロモーナス ジンジバリス培養液40μLをそれぞれ5mg/Lヘミン(Sigma社製)及び1mg/LビタミンK(和光純薬工業社製)を含むトッドへーウィットブロース(Becton and Dickinson社製)培養液(THBHM)4mLに添加し、37℃で二晩嫌気培養(80vol%窒素、10vol二酸化炭素、10vol%水素)し菌液とした。歯磨剤組成物1gにTHBHM培地49mLを加え攪拌した後、更にTHBHM培地を加え、歯磨剤組成物の希釈倍率として400〜2400倍となるように各々の歯磨剤組成物の希釈培地を作成した。各々の歯磨剤組成物の希釈培地3mLに菌液50μLを添加し、37℃で10日間嫌気培養後、菌の生育の有無を、外観、におい、顕微鏡を用いて判定した。
殺菌力は、菌の生育が見られなかった最高希釈度を元に、下記の基準により評価した。
◎:希釈度が1,600倍以上
○:希釈度が1,200倍以上1,600倍未満
△:希釈度が800倍以上1,200倍未満
×:希釈度が800倍未満
【0050】
(3)高温保存後における歯磨剤組成物の外観安定性の評価方法
歯磨剤組成物をブローチューブに60g充填し、各組成3本を50℃で1ヶ月保存し、室温(25℃)に戻して1日放置した後、わら半紙上に直ちに歯磨剤を15cm押出した場合の歯磨剤組成物の表面状態を以下の基準で評価した。
評価基準:
4点:表面状態に艶があり、しわなどが無く、均一で滑らかな表面である。
3点:表面状態にわずかにしわが認められるが、ほぼ均一で滑らかな表面である。
2点:表面状態にしわが認められ、表面の均一性が無い。
1点:表面状態に著しくしわが認められ、表面が不均一で連続性が無い。
各歯磨剤組成物の3本の評価点の平均値を求め、以下の基準で外観安定性を評価した。
◎:表面状態の平均点が3.5点以上4.0点以下
○:表面状態の平均点が3.0点以上3.5点未満
△:表面状態の平均点が2.0点以上3.0点未満
×:表面状態の平均点が2.0点未満
【0051】
(4)歯磨き時の泡立ちの評価方法
被験者10名を用い、歯磨剤組成物約1gを歯ブラシにとり、3分間歯磨きを行った際の泡立ちについて、以下の基準で評価した。
評価基準:
4点:適度に泡が立ち磨きやすい
3点:わずかに泡が立ち磨きやすい
2点:泡立ちが少なく磨きにくい
1点:泡が立たず磨きにくい
10名の評価結果を平均し、以下の基準で泡立ち感を評価した。
◎:泡立ち評価の平均点が3.5点以上4.0点以下
○:泡立ち評価の平均点が3.0点以上3.5点未満
△:泡立ち評価の平均点が2.0点以上3.0点未満
×:泡立ち評価の平均点が2.0点未満
【0052】
(5)歯磨剤組成物の使用感(曳糸性)の評価方法
歯磨剤組成物をブローチューブに60g充填し、更紙上に1cm歯磨剤組成物を出した後、チューブ口元を押し付け、垂直に上へと引き上げた時の糸の引いた高さを曳糸性評価として以下の基準で評価した。
◎:糸の高さが1.0cm未満
○:糸の高さが1.0cm以上2.0cm未満
△:糸の高さが2.0cm以上3.0cm未満
×:糸の高さが3.0cm以上
【0053】
(6)歯磨剤組成物の使用感(苦味の無さ)の評価方法
被験者10名を用い、歯磨剤組成物約1gを歯ブラシにとり、3分間歯磨きを行った際の使用中に感じた苦味を、以下の基準で評価した。
評価基準:
3点:苦味を感じない
2点:苦味をやや感じる
1点:苦味を感じる
10名の評価結果を平均し、以下の基準で使用感(苦味の無さ)を評価した。
◎:苦味の評価の平均点が2.5点以上3.0点以下
○:苦味の評価の平均点が2.0点以上2.5点未満
△:苦味の評価の平均点が1.5点以上2.0点未満
×:苦味の評価の平均点が1.0点以上1.5点未満
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
使用原料の詳細を下記に示す。
塩化セチルピリジニウム:和光純薬工業(株)製
塩化ベンザルコニウム:日油(株)製
塩化ベンゼトニウム:和光純薬工業(株)製
カラギーナン:ι−カラギーナン 三昌(株)製
アルギン酸ナトリウム:
粘度(1%水溶液、20℃) 290mPa・s (株)キミカ製
ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン:
EVONIK社製(商品名:TEGO BETAIN CK(30%水溶液))
ラウリン酸アミドプロピルベタイン:
花王(株)製(商品名:アンヒトール20AB(30%水溶液))
他成分については、いずれも医薬部外品原料規格2006に適合したものを用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨剤無配合の歯磨剤組成物に、(A)カチオン性殺菌剤を配合すると共に、(B)カラギーナン、(C)アルギン酸ナトリウム、及び(D)脂肪酸アミドプロピルベタインを配合したことを特徴とする歯磨剤組成物。
【請求項2】
カチオン性殺菌剤が第四級アンモニウム塩であることを特徴とする請求項1記載の歯磨剤組成物。
【請求項3】
(B)成分/(A)成分の質量比が3〜100であることを特徴とする請求項1又は2記載の歯磨剤組成物。
【請求項4】
(B)成分/(C)成分の質量比が0.2〜10であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の歯磨剤組成物。

【公開番号】特開2012−77031(P2012−77031A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223667(P2010−223667)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】