説明

歯磨剤

【課題】低温保存時の粘度上昇がなく、泡質が良好で、かつ糸曳き性が抑制された歯磨剤を提供する。
【解決手段】次の成分(A)〜(E):
(A)アニオン界面活性剤、
(B)カリウムイオン供給成分、
(C)キサンタンガム、
(D)エーテル化度が0.9以上2.0未満のカルボキシメチルセルロース又はそのナトリウム塩
(E)エーテル化度が0.5以上0.9未満のカルボキシメチルセルロース又はそのナトリウム塩
を含有し、成分(C)及び成分(D)の合計質量と成分(E)の含有質量との比[(C+D)/E]が0.3〜1.5である歯磨剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は使用性の良好な歯磨剤に関する。
【背景技術】
【0002】
歯磨剤には、十分な発泡力と十分な洗浄力の両方を付与するためにアニオン界面活性剤が広く使用されている。カリウムイオン供給化合物を含む歯磨剤を使用した場合、細胞外カリウムイオン濃度が上昇することで生じる感覚神経活性化作用を低下させることにより、感覚神経を鈍麻させ、知覚過敏による痛みを緩和し、象牙質知覚過敏症に効果があることが知られている。従って、アニオン界面活性剤とカリウムイオンとを配合した歯磨剤は、象牙質知覚過敏症を改善する歯磨剤として有用である。
【0003】
しかしながら、アニオン界面活性剤とカリウムイオンとを含有する歯磨剤は、低温保存時に著しい粘度上昇が起こり、チューブから押し出しにくくなるという問題が生じることが知られている。かかる問題を解決するため、これらの2成分に加えて、一定量のナトリウムイオンを配合した口腔用組成物(特許文献1)、非イオン界面活性剤を配合した口腔用組成物(特許文献2)、及び非イオン界面活性剤及びキサンタンガムを配合した口腔用組成物(特許文献3)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−244391号公報
【特許文献2】特開2005−162701号公報
【特許文献3】特開2006−69984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜3に記載の手段により低温条件下の粘度上昇を抑制する方法では、粘度上昇はある程度抑制できるものの、泡質が低下したり、糸曳き性が強くなり、歯磨剤のハブラシへの取りやすさや歯磨き時の良好な泡持ち、口腔内への広がり等の使用性の点で未だ十分満足できるものではなかった。
従って、本発明の課題は、低温保存時の粘度上昇がなく、泡質が良好で、かつ糸曳き性が抑制された歯磨剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者は、アニオン界面活性剤、カリウムイオン供給化合物に各種の粘結剤を配合して、上記項目を評価してきたところ、キサンタンガムに加えて、エーテル化度の異なるカルボキシメチルセルロースを一定の比率で配合することにより、低温保存時の粘度上昇がなく、泡質が良好で、かつ糸曳き性が抑制された使用性の良好な歯磨剤が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の成分(A)〜(E):
(A)アニオン界面活性剤、
(B)カリウムイオン供給成分、
(C)キサンタンガム、
(D)エーテル化度が0.9以上2.0未満のカルボキシメチルセルロース又はそのナトリウム塩
(E)エーテル化度が0.5以上0.9未満のカルボキシメチルセルロース又はそのナトリウム塩
を含有し、成分(C)及び成分(D)の合計質量と成分(E)の含有質量との比[(C+D)/E]が0.3〜1.5である歯磨剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の歯磨剤は、象牙質知覚過敏症の改善効果及び口腔内洗浄効果に優れ、また低温保存後のチューブからの押し出し性と、使用時の糸曳き性の抑制及び歯磨き時の泡持ち、口腔内での泡の広がり等の泡質による使用感との両立を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の歯磨剤に使用される(A)アニオン界面活性剤としては、アシルグルタミン酸ナトリウム、アシルサルコシンナトリウム等のアシルアミノ酸塩、アルキルリン酸ナトリウム等のアルキルリン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、高級脂肪酸スルホン化モノグリセリド塩、イセチオン酸の脂肪酸エステル塩、N−メチル長鎖アシルタウリンナトリウム塩、ポリオキシエチレンモノアルキルリン酸塩等が挙げられる。これらのアニオン界面活性剤の疎水基のアルキル基、アシル基は炭素数6〜18、特に10〜14のものが好ましく、また、ナトリウム塩が好ましい。このうち、発泡性が良く、また、安価に入手可能な点からアルキル硫酸エステル塩が特に好ましい。
(A)アニオン界面活性剤は、発泡性及び泡質の点から、本発明の歯磨剤中に0.1〜5質量%、特に0.1〜2質量%含有するのが好ましい。
【0010】
(B)カリウムイオン供給成分としては、口腔内で使用可能な物質であれば特に限定されず、様々な水溶性カリウム塩を用いることができる。例えば、水酸化カリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、リン酸カリウム、炭酸カリウム、リンゴ酸カリウム、クエン酸カリウム、酒石酸カリウム、メタリン酸カリウム、ピロリン酸カリウム、ソルビン酸カリウム、硝酸カリウム、アスパラギン酸カリウム、アルギン酸カリウム等が挙げられる。このうち、風味や保存安定性の点から、水酸化カリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、リンゴ酸カリウム、クエン酸カリウム、リン酸カリウムが好ましい。
【0011】
カリウムイオン供給成分の含有量は、知覚過敏症改善効果の点から、本発明の歯磨剤中にカリウム原子換算量として0.1〜3質量%、特に0.5〜2質量%が好ましい。
【0012】
(C)キサンタンガムは、特に制限はなく、粘度500〜3000mPa・s、特に1000〜2000mPa・sのものが、低温保存時の粘度上昇抑制効果、使用感の点から好ましい。ここで、キサンタンガムの粘度は、キサンタンガム3gと塩化カリウム3gを水294gに添加し、ブルックフィールド型粘度計(ローター3号)を用いて25℃、60回転/分の条件下で測定した値に20を乗じたものとした。
【0013】
(C)キサンタンガムの含有量は、低温保存時の粘度上昇抑制効果、使用感の点から、本発明の歯磨剤中に0.05〜1.0質量%、さらに0.1〜0.6質量%、特に0.1〜0.5質量%が好ましい。
【0014】
本発明の歯磨剤には、(C)キサンタンガムに加えて、(D)エーテル化度が0.9以上2.0未満のカルボキシメチルセルロース又はそのナトリウム塩及び(E)エーテル化度が0.5以上0.9未満のカルボキシメチルセルロース又はそのナトリウム塩を含有する。これらのエーテル化度が異なる2種のカルボキシメチルセルロースを組み合せて配合することにより、低温保存時の粘度上昇抑制に加えて、糸曳き性を抑制し泡質が改善される。
【0015】
通常粘結剤として用いられるカルボキシメチルセルロース又はそのナトリウム塩は、エーテル化度が0.5以上0.9未満のものであり、エーテル化度が0.9以上のものはほとんど用いられない。(D)エーテル化度が0.9以上2.0未満のカルボキシメチルセルロース又はそのナトリウム塩(以下、高エーテル化CMCともいう)のエーテル化度は、さらに1.0〜1.8、特に1.0〜1.5が好ましい。ここで、エーテル化度とは、カルボキシメチルセルロースにおけるグルコース単位あたりの平均のカルボキシメチル基数をいう。
【0016】
(E)エーテル化度が0.5以上0.9未満のカルボキシメチルセルロース又はそのナトリウム塩(以下、低エーテル化CMCともいう)のエーテル化度は、特に0.6〜0.8が好ましい。
【0017】
本発明の歯磨剤においては、成分(C)及び成分(D)の合計質量と成分(E)の含有質量との比[(C+D)/E]が0.3〜1.5の場合に、良好な低温保存時の粘度上昇抑制効果と、糸曳き性の抑制及び良好な泡質が得られる。当該比率[(C+D)/E]は、0.4〜1.2がより好ましく、さらに0.4〜0.9が好ましく、特に0.5〜0.9が好ましい。
【0018】
また本発明歯磨剤中の成分(D)と成分(E)の合計の含有量は、糸曳き性の抑制、泡質等の点で、0.1〜1.5質量%が好ましく、さらに0.3〜1.2質量%が好ましく、特に0.3〜0.75質量%であるのが好ましい。また、成分(D)の含有量は、0.02〜0.6質量%が好ましく、さらに0.03〜0.5質量%が好ましい。成分(E)の含有量は、0.08〜1.2質量%が好ましく、さらに0.2〜1.0質量%が好ましい。また、成分(D)と成分(E)の含有量の質量比(D/E)は、糸曳き性の抑制、泡質及び低温保存時の粘度上昇抑制の点から0.05〜1.0が好ましく、さらに0.05〜0.7が好ましく、特に0.05〜0.4が好ましい。
【0019】
本発明の歯磨剤には、さらに泡質を改善し、低温保存時の粘度上昇抑制の点から、(F)非イオン界面活性剤を含有するのが好ましい。(F)非イオン性界面活性剤は、例えばポリオキシアルキレン付加系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤、モノまたはジエタノールアミド系界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルを挙げることができる。この中でもソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルが好ましく、モノステアリン酸デカグリセリン、モノミリスチン酸ペンタグリセリン等のポリグリセリン脂肪酸エステルが特に好ましい。なお、これらの脂肪酸部分の炭素数は6〜18が好ましい。本発明ではこれらを1種以上用いることができる。
【0020】
(F)非イオン界面活性剤の含有量は、泡質の改善及び、低温保存時の粘度上昇抑制の点から、本発明の歯磨剤中に0.1〜3質量%、さらに0.2〜2.5質量%、特に0.2〜2質量%が好ましい。
【0021】
本発明の歯磨剤は、低温保存時の粘度上昇が抑制される。例えば本発明の歯磨剤は常温(25℃)における粘度が2000〜4500dPa・sであって、5℃で13日間保存しても粘度が25000dPa・s以下であるのが好ましく、さらに21000dPa・以下であるものが好ましい。
【0022】
本発明の歯磨剤には、前記成分に加えて、有機酸及び/又は無機酸や、フッ素イオン供給化合物を配合すると、歯のエナメル質層において光散乱層が形成され、エナメル質層下の内因性着色を遮蔽し、歯を白く見せることができ、高い美白効果が認められる。さらに、カリウムイオンの配合によって、光散乱層を形成する能力を低下させることなく、歯磨剤中の無機酸及び/又は有機酸の含有量を低減することができ、味覚にも優れる歯磨剤を得ることが可能である。
【0023】
本発明の歯磨剤に用いる有機酸及び/又は無機酸としては、口腔内で使用可能な物質であれば特に限定されない。有機酸及び無機酸の中でも、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、コハク酸及びリン酸から選ばれる1種又は2種以上を用いることが口腔用組成物の味・風味の改善、原料の入手しやすさ、コストの低減の点から好ましい。特に好ましくは、リンゴ酸、酒石酸である。
【0024】
有機酸及び無機酸は、本発明の歯磨剤中に0.1〜8質量%、特に0.5〜4質量%含有するのが好ましい。
歯磨剤に含有される有機酸及び/又は無機酸を適量配合すると、歯のエナメル質層内部に光散乱層を多量に形成するために、歯磨剤を適用した口腔内においてpHを3〜6に保つ緩衝系を形成できるものを用いることが好ましく、特に、pH4〜5.5が好ましい。
歯磨剤のpH測定の濃度は、本発明品の使用の実態によって適宜選択される。例えば、実使用濃度を30質量%水溶液と想定してpHを測定する。
【0025】
フッ素イオン供給成分としては、口腔内で使用可能な物質であれば特に限定されず、例えばフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化リチウム、モノフルオロホスフェイト(例えばモノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、モノフルオロリン酸アンモニウム等)等の無機性フッ化物、アミンフッ化物等の有機性フッ化物が挙げられる。中でも安全性、溶解性及び風味等の点からフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズ、フッ化リチウム、フッ化アンモニウムが好ましい。これらのフッ素イオン供給成分は、本発明歯磨剤中にフッ素イオン濃度に換算して0.02〜0.7質量%、さらに0.02〜0.2質量%含有するのが好ましい。
【0026】
本発明の歯磨剤には、前記成分の他、例えば発泡助剤、研磨剤、湿潤剤、他の粘結剤、増量剤、甘味剤、保存料、殺菌剤、薬効成分、顔料、色素、香料等を適宜含有させることができる。ここで研磨剤としては、研磨性シリカを用いるのが好ましい。
【0027】
本発明の歯磨剤は、例えばゲル状、ペースト状といった剤形に調製することができる。それらどの剤形においてもポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、ラクチトール、エリスリトール、トレハロース等を湿潤剤あるいは粘稠剤等の目的で含有させることができる。
【0028】
本発明の歯磨剤の粘度は、後述する評価法にて25℃保存時の粘度が2000〜4500dPa・sであることが好ましい。
【実施例】
【0029】
実施例1〜6及び比較例1〜8
<歯磨剤の調製>
表1及び表2に示す組成に従って、実施例1〜6及び比較例1〜8の練り歯磨きを調製した。表中の含有量は質量%である。
【0030】
<評価方法>
(1)粘度の測定方法
25℃で2週間保存したものと40℃に1日保存した後5℃に13日間保存したものについてそれぞれの粘度の測定を行った。
練り歯磨きの粘度を以下の測定条件で測定した。測定データ及び測定温度における粘度比を表1〜2に示す。
測定機器 :ヘリパス型粘度計 TVB−10(東機産業株式会社製)
測定ロータ :ロータF(5℃)
ロータC(25℃)
測定時間 :60秒
測定温度 :各保存温度条件にて測定
【0031】
(2)泡質の評価
専門パネル5名に、歯磨剤1gをハブラシにとり、ハミガキをしてもらい、泡質を泡立ち、泡持ち及び口腔内での広がりの点から総合的に評価した。
○:泡立ち、泡持ち及び口腔内での広がり良好。
×:泡立ち、泡持ち悪く、口腔内での広がりがよくない。
【0032】
(3)糸曳き
NEVA METER IMI−0501(株式会社石川鉄工所)を用い、歯磨剤0.06mLを一定速度で垂直に引いた時の歯磨剤の伸びを測定した。
○:0〜5mm未満
△:5〜8mm未満
×:8mm以上
【0033】
実施例1〜6及び比較例1〜8の組成及び評価結果を表1及び2に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
表1及び表2から明らかなように、本発明の歯磨剤は低温で保存しても粘度25000dPa・s以上の高粘度にならず、チューブからの押し出し性に支障はなかった。さらに、糸曳き性が抑制され、泡質が良好であり、歯磨剤としての使用感も良好であった。
これに対し、粘結剤としてキサンタンガム及び2種のカルボキシメチルセルロースを併用しない歯磨剤は、低温保存下で25000dPa・s以下とすることによるチューブからの押し出し性と、糸曳き性の抑制や泡質の向上といった使用感との両立に問題があった。また、キサンタンガム及び2種類のカルボキシメチルセルロースを併用していても、キサンタンガムと高エーテル化CMCの合計と低エーテル化CMCとの比((C+D)/E)が、0.3より小さい比較例4は低温保存下での粘度と泡質に問題があり、1.5より大きな比較例5は糸曳き性に問題があった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)〜(E):
(A)アニオン界面活性剤、
(B)カリウムイオン供給成分、
(C)キサンタンガム、
(D)エーテル化度が0.9以上2.0未満のカルボキシメチルセルロース又はそのナトリウム塩
(E)エーテル化度が0.5以上0.9未満のカルボキシメチルセルロース又はそのナトリウム塩
を含有し、成分(C)及び成分(D)の合計質量と成分(E)の含有質量との比[(C+D)/E]が0.3〜1.5である歯磨剤。
【請求項2】
成分(D)と成分(E)の含有質量比(D/E)が0.05〜1.0である請求項1記載の歯磨剤。
【請求項3】
さらに(F)非イオン界面活性剤を含有する請求項1又は2記載の歯磨剤。
【請求項4】
成分(A)を0.1〜5質量%、成分(B)をカリウム原子換算量として0.1〜3質量%、成分(C)を0.05〜1.0質量%、成分(D)及び成分(E)を合計で0.1〜1.5質量%含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の歯磨剤。

【公開番号】特開2011−11995(P2011−11995A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155692(P2009−155692)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】