説明

歯科オゾン処置の後処理用組成物

【課題】口腔内酸化剤処置特に歯科オゾン処置後に歯科用接着材にて歯科用修復物の歯質への接着の際に、簡便な操作で強固に且つ確実に歯科用修復物を歯質に接着させることのできる、特に象牙質に対して優れた接着性を発揮できる歯科オゾン処置の後処理用組成物を提供すること。
【解決手段】(A)還元剤、(B)有機溶媒および(C)水を含有し、場合によっては更に(D)重合性単量体を含有する、歯科オゾン処置の後処理用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内酸化剤処置特に歯科オゾン処置の後処理用組成物に関する。更に詳細には、漂白処置や歯科オゾン処置後、歯の象牙質またはエナメル質に、ボンディング剤を介してコンポジットレジンを接着させる際に、あるいは接着性レジンセメントを介して金属、矯正用ブラケットなどを接着させる際に、歯の象牙質またはエナメル質の表面処理のために用いる歯科オゾン処置の後処理用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯質の漂白や殺菌を目的として、酸化剤による処置が行われるようになってきた。例えば、過酸化水素などによる歯質表面の漂白処置や、次亜塩素酸ナトリウム水溶液による根管清掃および、特許文献1記載のようなオゾンの高い殺菌力(細菌に対して塩素の7倍)を利用した歯科オゾン処置による、歯科の齲蝕治療と齲蝕予防及び根管治療、齲窩や根管内の殺菌などである(オゾンを照射した歯面はその後唾液中のカルシウムによる再石灰化が促進される)。
特に、特許文献2記載のオゾン処理に関しては、当該処置を行うための装置システムも研究され始めており、例えば、ヒールオゾン(ドイツ、カボ社)が知られている。
【0003】
齲窩に前記ヒールオゾンを照射することにより、10秒の照射で99%の細菌が殺菌できる。オゾンが効果を及ぼすのは表面から2mmの範囲である。殺菌作用以外に、オゾンの強力な酸化作用による化学反応で、軟化象牙質のpHを酸性からアルカリ性に換え、歯質を固くすることができ、それを基質にしてフッ素、リカルデント等を併用して象牙質の再石灰化が促進する。ヒールオゾンの照射で軟化象牙質は照射前と比べて削除しやすくなる。齲窩の深さが2mmに達しないごく初期の齲蝕(フィッシャーカリエス、ピットカリエス)の場合、歯質の削除を行わず治療を完了できる。また、齲窩が深い場合は、可能な限り齲蝕部分のみを削り取りヒールオゾンで消毒、歯質強化したのちに充填する。削除量が少ないために多くの場合麻酔が不要である。治療コンセプトはMI(Minimal Intervention)である。また、齲蝕の治療だけでなく予防にも応用が可能である。根管治療に対しても、高い殺菌力により応用できるとされている。さまざまな応用治療が期待されている。
利点としては、殺菌することで齲窩の自然治癒を期待するという治療法は従来の治療より生体に優しく、麻酔や削合がないため歯科不安の患者でも楽に治療を受けられ、さらにヒールオゾン治療で大幅な治療時間の短縮とコストの削減が可能になる、等を挙げられる。
【0004】
また、オゾンは、分解しても、有害な化学物質が発生することが少なく、特に口腔内では、様々な有機物や分解酵素が存在するので、オゾン自体は秒単位の半減期にて消失すると考えられている。
しかしながら、上記のような漂白処置や次亜塩素酸ナトリウム水溶液処置および、オゾン処置などの酸化剤処置後に歯科用接着材を適用した場合、残留した過酸化物等の影響で十分な接着性が発揮されないという問題点が明らかとなってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−517453号公報
【特許文献2】特表2005−514320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、口腔内酸化剤処置特に歯科オゾン処置後に歯科用接着材にて歯科用修復物の歯質への接着の際に、前述した如く十分な接着性が発揮されないという問題点を解消して、未だ臨床的に満足できる接着強度が得られていない前記従来技術の欠点を解消し、より簡便な操作で強固に且つ確実に歯科用修復物を歯質に接着させることのできる、特に象牙質に対して優れた接着性を発揮できる歯科オゾン処置の後処理用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは鋭意検討した結果、下記組成物により上記目的を達成しうることを見いだした。すなわち、本発明は、
(A)還元剤
(B)有機溶媒 および
(C)水
を含有し、場合によっては更に(D)重合性単量体を含有することを特徴とする歯科オゾン処置の後処理用組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の歯科用組成物について詳述する。以下、特に記載のない限り「部」および「%」は重量基準を示す。
【0009】
本発明の歯科オゾン処置の後処理用組成物において、(A)成分は還元剤である。この還元剤は、次亜塩素酸、過酸化水素およびオゾン等の歯科用酸化剤を還元する能力のある還元剤であり、具体的には、有機還元剤および無機還元剤がある。
上記有機還元剤の例としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン(DMPT)、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジエタノール−p−トルイジン(DEPT)、N,N−ジメチル−p−tert−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニシジン、N,N−ジメチル−p−クロルアニリン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル、N,N−ジエチルアミノ安息香酸(DEABA)およびそのアルキルエステル、N,N−ジメチルアミノベンツアルデヒド(DMABAd)などの芳香族アミン;N−フェニルグリシン(NPG)、N−トリルグリシン(NTG)、N,N−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)フェニルグリシン(NPG−GMA)などアミン化合物、アミノ酸化合物およびそれらの塩;ならびにアスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、シュウ酸、ギ酸、ベンゼンスルフィン酸、o−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、クロルベンゼンスルフィン酸、ナフタリンスルフィン酸などの有機酸またはそれらの塩を挙げることができる。これらの有機還元剤は、単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0010】
また、無機還元剤の例としては、亜硫酸、重亜硫酸、メタ亜硫酸、メタ重亜硫酸、ピロ亜硫酸、チオ硫酸、亜二チオン酸、二チオン酸、次亜硫酸、ヒドロ亜硫酸およびこれらの塩、チオ硫酸ナトリウムなど、硫黄を含有する無機還元剤、フッ化ジアンミン銀等のアンミン錯塩および、塩化第二鉄、ナトリウムアマルガム、亜鉛アマルガムなどの金属化合物を挙げることができる。これらの無機還元剤は、単独で、もしくは2種以上組み合わせて用いることができる。また、有機還元剤と無機還元剤とを併用することもできる。
上記アンミン錯塩は中心金属にアンモニウム分子が配位した錯塩であり、このようなアンミン錯塩の例としては以下に記載する化合物を挙げることができる。なお、以下の式において「M」は金属原子、「X」は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、好ましくは塩素原子および/またはフッ素原子を表し、「R」は、それぞれ独立にアルキル基等の有機基を表す。
【0011】
【化1】

【0012】
これらのアンミン錯塩の中でも、Mが銀(Ag)、鉄(Fe)、銅(Cu)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)等の金属原子であり、Xが、フッ素、塩素等のハロゲン原子である化合物が好ましく、これらの中でもフッ化ジアンミン銀、ジフッ化テトラアンミンカルシウムが特に好ましい。これらの還元剤は通常は水溶液として用いられる。
【0013】
本発明の歯科オゾン処置の後処理用組成物において、特に好ましい(A)成分は、硫黄を含有する還元剤である。かかる還元剤としては、水などの媒体中でラジカル重合性単量体を重合させる際にレドックス重合開始剤として使用される、硫黄を含有する還元剤が好ましく用いられる。例えば亜硫酸、重亜硫酸、メタ亜硫酸、メタ重亜硫酸、ピロ亜硫酸、チオ硫酸、亜二チオン酸、二チオン酸、次亜硫酸、ヒドロ亜硫酸およびこれらの塩が挙げられる。このうち亜硫酸塩が好ましく用いられ、特に亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムが好ましい。
これらの無機還元剤は単独でもしくは組み合わせて使用できる。
上記(A)成分は、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計重量に基づいて、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.3〜8重量%、更に好ましくは0.5〜5重量%の範囲内において含有される。前記数値範囲の下限値を下回ると接着性が悪化し、一方、上限値を上回ると安定性が悪くなり、いずれも好ましくない。
【0014】
本発明の歯科オゾン処置の後処理用組成物において、(B)成分は有機溶媒である。かかる有機溶媒としては、溶媒として通常用いられていて、歯科用などに問題なく使用可能である顕著な有害性を有しない有機溶媒であれば、特に限定されるものではないが、水溶性であることが好ましく、水と自由な比率にて相溶するものがより好ましい。アルキル基を有するケトン化合物やアルコールなどが特に好適に用いられる。具体例としては、アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、エチルプロピルケトン、ジプロピルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。これらのうち、蒸発しやすく、単量体や水との相溶性が良好で、顕著な有害性も認められないアセトンやエタノールが就中、好ましい。
上記(B)成分は、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計重量に基づいて、好ましくは5〜70重量%、より好ましくは10〜60重量%、更に好ましくは15〜50重量%の範囲内において含有される。前記数値範囲の下限値を下回ると不均一となり、一方、上限値を上回るとやはり溶解性が不良となり、いずれも好ましくない。
【0015】
本発明の歯科オゾン処置の後処理用組成物において、(C)成分は水である。ここで使用できる水としては、例えば蒸留水、イオン交換水または生理食塩水などが挙げられる。ここでは蒸留水およびイオン交換水が好ましく用いられる。
上記(C)成分は、好ましくは25〜75重量%、より好ましくは25〜70重量%、更に好ましくは30〜65重量%の範囲内において含有される。前記数値範囲の下限値を下回ると接着性が悪化し、一方、上限値を上回ると不均一となり、いずれも好ましくない。
【0016】
本発明の歯科オゾン処置の後処理用組成物において、(D)成分は重合性単量体である。かかる単量体の重合性基としては、例えばアクリロイル基、メタクリロイル基(以下、アクリロイル基とメタクリロイル基の総称として(メタ)アクリロイル基ということがある)、スチリル基、ビニル基、アリル基などのラジカル重合可能な不飽和基を挙げることができる。かかる重合性基は1分子中に少なくとも1個含有していればよい。1分子中に上記重合性基が1個、2個および3個含有する重合性単量体として、それぞれ単官能単量体、2官能単量体および3官能単量体が好ましく用いられる。さらに、これらの重合性単量体は、分子内に少なくとも1個のカルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸などの酸性基、それらの酸無水物基あるいはそれらが塩となった基や、水酸基、アミノ基、グリシジル基などのその他の官能基を含有することができる。
以下に、かかる重合性単量体の具体例を示すが、なんらそれらに限定されるものではなく、一般的に歯科用途として用いられる重合性単量体であれば、用いることができる。
【0017】
(D)成分として使用できる重合性単量体として、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸の脂肪族エステル;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2または3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキプロピル(メタ)アクリレート、1モルのビスフェノールAと2モルのグリシジル(メタ)アクリレートの付加物などの水酸基含有の(メタ)アクリレート;メチロール(メタ)アクリルアミドなどの水酸基含有の(メタ)アクリルアミド;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート;プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート;上記のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートのどちらか一方の(メタ)アクリロイル基がメチル基およびエチル基などに置換されたモノ(メタ)アクリレート;
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートまたは2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートまたは1,3,5−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの付加物などのウレタン結合を有する(メタ)アクリレート;
ビスフェノールAにオキシエチレンを付加させた生成物にさらに(メタ)アクリル酸縮合させた2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパンなどを挙げることができる。これらの重合性単量体は単独でもしくは組み合わせて使用できる。
【0018】
また、(D)成分として使用できる1分子中に少なくとも1個のカルボキシル基を有する重合性単量体としては、例えばモノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸およびテトラカルボン酸またはこれらの誘導体を挙げることができる。例えば(メタ)アクリル酸、マレイン酸、p−ビニル安息香酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸(MAC−10)、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルピロメリット酸、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメリット酸およびその酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸およびその酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸およびその酸無水物、4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシ]ブチルトリメリット酸およびその酸無水物、2,3−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレート、N,O−ジ(メタ)アクリロイルオキシチロシン、O−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−O−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸、2または3または4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとピロメリット酸二無水物の付加生成物(PMDM)、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと無水マレイン酸または3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)または3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の付加反応物、2−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)−1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン、N−フェニルグリシンまたはN−トリルグリシンとグリシジル(メタ)アクリレートとの付加物、4−[(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸、3または4−[N−メチル−N−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸などを挙げることができる。このうち、11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸(MAC−10)、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸(4−MET)や4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物(4−META)等の4−(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメリット酸系化合物やその酸無水物、および−N−メタクリロイル5−アミノサリチル酸(5−MASA)が好ましく用いられる。これらのうち特に好ましいものは、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸(4−MET)である。4−METを(A)〜(D)成分の合計重量(100重量%)に対して30重量%以下の範囲で含有させることにより熱安定性が良好な組成物が得られる。
これらのカルボキシル基を有する重合性単量体は単独または組み合わせて使用できる。
【0019】
1分子中に少なくとも1個のリン酸基を有する重合性単量体としては、例えば2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェート、2または3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシドホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルアシドホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルアシドホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルアシドホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルアシドホスフェート、ビス{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}アシドホスフェートやビス{2または3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル}アシドホスフェート等のビス{(メタ)アクリロイルオキシアルキル}アシドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−p−メトキシフェニルアシドホスフェートなどを挙げることができる。これらの化合物におけるリン酸基は、チオリン酸基に置き換えることができる。このうち、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェートが好ましく用いられる。これらのリン酸基を有する重合性単量体は単独または組み合わせて使用できる。
【0020】
1分子中に少なくとも1個のスルホン酸基を有する重合性単量体としては、例えば2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2または1−スルホ−1または2−プロピル(メタ)アクリレート、1または3−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート、3−ブロモ−2−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシ−1−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、1,1−ジメチル−2−スルホエチル(メタ)アクリルアミドなどを挙げることができる。このうち、2−メチル−2−(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸を好ましく用いられる。これらのスルホン酸基を有する重合性単量体は単独または組み合わせて使用できる。
【0021】
1分子中に少なくとも1個のピロリン酸基を有する重合性単量体としては、例えばピロリン酸ジ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)などのピロリン酸ジ(2−(メタ)アクリロイルオキシアルキル)およびこれらの塩などが挙げられる。
【0022】
1分子中に少なくとも1個のチオリン酸基を有する重合性単量体としては、例えば2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンジチオホスフェートなどの2−(メタ)アクリロイルオキシアルキルハイドロジェンジチオホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルハイドロジェンチオホスフェートなどのn−(メタ)アクリロイルオキシアルキルハイドロジェンチオホスフェート(nはアルキル炭素数)およびこれらの塩などが挙げられる。
【0023】
1分子中に少なくとも1個のホスホン酸基を有する重合性単量体としては、例えばN−(メタ)アクリロイル−1−アミノ−1−ベンジルホスホン酸(N−メタクリロイル−1−フェニル−1−アミノホスホン酸)、N−メタクリロイル1−トルイル−1−アミノホスホン酸、N−メタクリロイル−1−メチル−1−アミノホスホン酸、N−メタクリロイル−1−エチル−1−アミノホスホン酸、N−メタクリロイル−1−ブチル−1−アミノホスホン酸、N−メタクリロイル−1−イソブチル−1−アミノホスホン酸、N−メタクリロイル−1−プロピル−1−アミノホスホン酸、N−メタクリロイル−1−イソプロピル−1−アミノホスホン酸、N−メタクリロイル−1−ペンチル−1−アミノホスホン酸、N−メタクリロイル−1−イソペンチル−1−アミノホスホン酸、N−メタクリロイル−1−ヘキシル−1−アミノホスホン酸、N−メタクリロイル1−デシル−1−アミノホスホン酸、N−(メタ)アクリロイル−1−アミノ−1−ベンジルホスホン酸、N−メタクリロイル−1−メチル−1−アミノホスホン酸、N−メタクリロイル−1−エチル−1−アミノホスホン酸、N−メタクリロイル−1−ブチル−1−アミノホスホン酸、5−(N−メタクリロイル)ペンチル−1−アミノメチルホスホン酸、6−(N−メタクリロイル)ヘキシル−1−アミノメチルホスホン酸、10−(N−メタクリロイル)デシル−1−アミノメチルホスホン酸、6−(N−メタクリロイル)ヘキシル−1−アミノプロピルホスホン酸、6−(N−メタクリロイル)ヘキシル−2−アミノプロピルホスホン酸、10−(N−メタクリロイル)デシル−2−アミノプロピルホスホン酸およびこれらの塩などが挙げられる。
【0024】
(D)成分としては、上記の重合性単量体をそれぞれ単独で使用でき、また組み合わせて使用することもできる。特に、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸などの酸性基を分子内に少なくとも1個を有する重合性単量体が好ましく、その中でも、4−(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメリット酸その酸無水物、それらの塩とビス{(メタ)アクリロイルオキシアルキル}アシドホスフェートが特に好ましく、熱安定性、歯質浸透性、接着力等が良好である。
また、(D)成分中において、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸などの酸性基を分子内に少なくとも1個を有する重合性単量体は、好ましくは5〜70重量%、より好ましくは10〜50重量%、更に好ましくは15〜35重量%含まれるものである。好ましい上限値が70重量%である理由は歯質への単量体の浸透性を促進するためにそれ以外のより親水性が高い単量体を併用することも好ましいからである。また、過度の脱灰を抑制するためにも好ましい。
上記(D)成分は、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分の合計重量に基づいて、好ましくは1〜40重量%、より好ましくは3〜35重量%、更に好ましくは4〜30重量%の範囲内において含有される。前記数値範囲の下限値を下回ると接着性が悪化し、一方、上限値を上回ると安定性が悪くなり、いずれも好ましくない。
【0025】
本発明の歯科オゾン処置の後処理用組成物において、上記各成分を混合した状態における保存安定性は、好ましくは65℃で2時間以上である。より好ましくは65℃で4時間以上、さらに好ましくは65℃で8時間以上である。保存安定性がある、とは、65℃において、当該組成物がゲル化乃至は粘調化するなどの変異を生じないことである。この保存安定性は、65℃に曝された後の当該組成物をプライマーとして使用して、処方に従ってスーパーボンド(登録商標、サンメディカル(株)製)にて歯質を接着した際、牛歯象牙質に対して15MPa以上の引っ張り接着試験に耐えられる強度を発現できることで確認される。前記処方も含めた典型的な接着試験方法は以下の通りである。即ち、牛歯象牙質を、注水、指圧下にて耐水エメリー紙180番で研削し、平滑な面を得た後、気銃にて水分を除去する。研削面に、試験対象となるプライマー組成物を塗布して20秒静置し気銃にて3秒乾燥する。このプライマー処理された面に、接着面積を直径4.8mmとなるように規定してスーパーボンド(登録商標、サンメディカル(株)製)の混和泥を盛り付けてポリアクリル製円柱(以下、アクリル棒又はアクリルと略記する)を5秒間指圧下にて圧着する。その1時間後に37℃水中に16時間浸漬後、引っ張り接着試験(クロスヘッドスピード2mm/min)を行う。
【0026】
本発明の歯科オゾン処置の後処理用組成物は、上記(A)、(B)、(C)および(D)成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で過酸化ベンゾイル(BPO)、ラウリルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシドおよびt−ブチルハイドロパーオキシドなどの有機過酸化物または過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、塩素酸カリウム、臭素酸カリウムおよび過リン酸カリウムなどの無機過酸化物;ホルムアルデヒドやグルタルアルデヒドなどのアルデヒドの如きタンパク架橋剤;ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ヒドロキシメトキシベンゾキノンまたはブチル化したヒドロキシトルエンなどの貯蔵安定剤、重合体による増粘剤、および無機および有機の充填材などを含有することができる。
【0027】
本発明の歯科オゾン処置の後処理用組成物が、好適に適用される歯科オゾン処置は、歯科治療に有効であり、かつ、人体に深刻な悪影響を与えない、歯科治療に実用的な処方であるならば、何ら、限定されるものではない。用いられるオゾンとしては、純粋なオゾン、空気などの気体に希釈されているオゾン、水性溶媒などに溶解しているオゾン、その他の有効な作用を有する添加剤が混合されたオゾン、若しくは、オゾンを発生する成分や、オゾンを放出する成分、あるいはこれらを組み合わせたり、時系列的に複合させた処方であって良い。空気中に混合させる場合には、オゾンの体積分率は好ましくは、500〜10,000ppm、より好ましくは1,000〜4,000ppm、さらに好ましくは1,500〜2,500ppmである。オゾン処理時間は、好ましくは5〜100秒より好ましくは10〜40秒、さらに好ましくは15〜25秒である。オゾン処理量(オゾン濃度*オゾン処理時間)は、好ましくは10,000〜200,000ppm・秒、より好ましくは20,000〜80,000ppm・秒、さらに好ましくは30,000〜50,000ppm・秒である。なお、オゾンは、目や鼻、呼吸器官に対して刺激的であるので、オゾンを患部に適用する際は、カップリング具乃至はシーラント材にて密閉して、適用対象外に漏洩しないように処置するのが好ましい。さらには、当該密閉系は外部よりも陰圧にして、気密性が損なわれても漏れ出さないようにしておくことがよい。気体などを供給と排出を平行して行う場合も同様に注意すべきである。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
(略号の説明)
以下の実施例および比較例で表記の略号の意味は下記のとおりである。
P2M:ビス(メタアクリロイルオキシエチル)アシドホスフェート、
4−MET:4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸、
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート、
p−TSNa:p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、
BBA:バルツビール酸
BSNa:ベンゼンスルフィン酸ナトリウム
NaSO:亜硫酸ナトリウム
EtOH:エタノール、
DW:精製水。
【0030】
(オゾン処置)
新鮮なウシ下顎前歯を抜去し、水中で凍結し保存したものを歯質サンプルとして使用した。解凍した牛歯を、回転式研磨機ECOMET-III(BUEHLER製)で注水、指圧下で耐水エメリー紙180番まで研削し、象牙質の平滑な面を得た。研削した牛歯から気銃にて水分を除去した。研削面に対して、KaVo社製歯科用オゾン処理装置「HealOzone2130C」を用いて、オゾン濃度2100ppmで20秒間オゾン処置を行った。
【0031】
(引張り接着試験)
上記のオゾン処置後の牛歯処置面に、下記実施例または比較例の組成物を塗布して20秒静置し気銃にて3秒乾燥することで処置面の表面処理を行った。この上に、接着面積を規定するため、直径4.8mmの円孔のあいた厚さ0.15mmの規定紙を置いて固定した。この穴に、硬化性樹脂組成物として、スーパーボンド(登録商標、サンメディカル(株)製)を処方に従って、充填し、アクリル棒を接着して15分間静置して試験体を作成した。
これらの試験体を、37℃の水中に16時間浸漬後、または、55℃温水浴と5℃冷水浴に交互に浸漬することを5,000回繰り返した(TC5,000回)後、引っ張り接着試験(クロスヘッドスピード2mm/min)を行った。
以下に実施例および、比較例の組成を示す。
【0032】
〔実施例1〕EtOH/DW/p−TSNa=50/49/1(重量%比)
〔実施例2〕EtOH/DW/p−TSNa=50/47/3(重量%比)
〔実施例3〕EtOH/DW/BBA=50/49/1(重量%比)
〔実施例4〕EtOH/DW/BSNa=50/49/1(重量%比)
〔実施例5〕4−MET/Acetone/DW/NaSO=30/30/37.5/2.5(重量%比)
〔実施例6〕P2M/Acetone/DW/NaSO=10/30/57.5/2.5(重量%比)
〔実施例7〕4−MET/HEMA/Acetone/DW/NaSO=25/5/30/37.5/2.5(重量%比)
〔比較例1〕EtOH/DW=50/50(重量%比)
〔比較例2〕4−MET/P2M/Acetone/DW=20/10/30/40(重量%比)
下記表1に引張り接着試験の結果を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
各評価結果から、歯質に対するオゾン処置などの酸化剤処置後に、本発明の組成物を適用することで、歯質の接着強さが回復することがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)還元剤、(B)有機溶媒、および(C)水を含有することを特徴とする歯科オゾン処置の後処理用組成物。
【請求項2】
(D)重合性単量体をさらに含有する請求項1に記載の歯科オゾン処置の後処理用組成物。
【請求項3】
(A)成分が硫黄を有する還元性無機化合物である請求項1または2に記載の歯科オゾン処置の後処理用組成物。
【請求項4】
(D)成分がカルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸から選ばれる少なくとも1種の酸性基を有する重合性単量体および/またはそれらの酸無水物および/またはそれらの塩である請求項2に記載の歯科オゾン処置の後処理用組成物。
【請求項5】
(D)成分が4−(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメリット酸、ビス{(メタ)アクリロイルオキシアルキル}アシドホスフェート、それらの酸無水物、およびそれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体である請求項2または4に記載の歯科オゾン処置の後処理用組成物。
【請求項6】
(A)成分が亜硫酸および/またはその塩である請求項1〜5のいずれかに記載の歯科オゾン処置の後処理用組成物。
【請求項7】
(B)成分がアセトンおよび/またはエタノールである請求項1〜6のいずれかに記載の歯科オゾン処置の後処理用組成物。
【請求項8】
(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計重量に基づいて、(A)成分が0.1〜10重量%、(B)成分が5〜70重量%、および(C)成分が25〜75重量%の範囲にある請求項1〜7のいずれかに記載の歯科オゾン処置の後処理用組成物。
【請求項9】
(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計重量に基づいて、(A)成分が0.1〜10重量%、(B)成分が5〜70重量%、および(C)成分が25〜75重量%、(D)成分が1〜40重量%の範囲にある請求項2〜8のいずれかに記載の歯科オゾン処置の後処理用組成物。


【公開番号】特開2011−132172(P2011−132172A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292957(P2009−292957)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(592093578)サンメディカル株式会社 (61)
【Fターム(参考)】