説明

歯科修復材

【課題】重合性樹脂と、実質的に半透明な構造フィラーと、100nm未満の平均粒径を有するナノフィラーと、少なくとも1種のレオロジー調整添加剤とを含む、歯科修復組成物を提供すること。
【解決手段】一実施形態では、構造フィラーは、重合性樹脂の屈折率と実質的に同様の屈折率と、粗粒分と、平均粒径が0.1μmより大きく粗粒分の平均粒径より小さい細粒分とを有する。粗粒分対細粒分の相対比は、体積で12:1から2:1の範囲内であり、各画分の粒径分布は本質的に単峰性であり、細粒分のD(90)は、粗粒分のD(10)以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
米国特許法施行規則1.78(a)(4)に従って、本出願は、2011年5月27日に出願された、先行して出願された同時係属中の仮出願第61/491,089号の利益および優先権を主張し、この仮出願は、参照により本明細書に明白に組み込まれている。
【0002】
本発明は、修復歯科学に使用するための樹脂系材料に関する。より詳細には、本発明は、乱されない状態ではペースト様粘度を示し、振動エネルギーを受けると液体様の流動性の粘度を示す、歯科医師による簡易化された配置に適した樹脂複合材に関する。
【背景技術】
【0003】
臼歯および前歯の修復は、典型的には、齲歯構造を切削し、生じた窩洞にペースト様の充填材料を充填し、次にそれを化学的または光化学的硬化方法によって固化することによって実現される。樹脂系歯科修復材は、望ましい審美性により、歯科医および患者から一般に好まれる材料になりつつある。歯の色をした樹脂系複合材は、重合性有機樹脂マトリックス中の無機フィラー粒子の分散体から通常構成される。最も一般的には、特に直接修復において、修復材は化学線に曝すことにより硬化する。
【0004】
臼歯の咬合面に関連するものなどの、耐応力性の修復物は、咀嚼から生ずる力に耐えるために、機械的に強く、高充填された修復材の使用を必要とする。かかる修復材は典型的には粘度が高く、それにより修復材の正確な配置が困難になり、また技法に高度に左右される。不注意にも窩洞が不十分に充填されることがあり、窩壁への修復材の適合が不完全なことがあると、修復物と歯牙構造との間に間隙が生じ、それにより感受性が上がり、流体および細菌が侵入することがあり、齲歯の継続および修復物の早期破損を招く恐れがある。それに対して、あまり高充填されていない流動性の修復材は、適正な適合を容易にするが、耐応力性の修復物のために必要とされる強度がない。さらに、こうしたあまり高充填されていない材料は、自重で流動しやすいので、当初の歯の解剖学的構造に一致させるように成形することができない。
【0005】
深い窩洞を修復するために、高充填された修復材を使用する場合、該材料は、典型的には薄層で追加的に配置される。重合収縮応力と低光透過深度との両方を抑制し、ひいては修復材の不完全な固化を抑制するために、各積層は、次の積層を配置する前に個々に硬化される。したがって、レイヤリング技法(layering technique)を使用して歯を修復することは比較的時間がかかり、層間の空隙を残す危険性も増加させ、これにより修復物が著しく弱化する恐れがある。
【0006】
したがって、外部刺激を使用することによって窩洞内に分注するときには液体様の流動性の稠度に低下することができ、かつ前記外部刺激を除去すると当初のペースト様粘度に戻って適正な外形に成形しやすい高い粘度を有する、高充填されたペースト様の修復材を提供することが望まれる。さらに、こうした材料は、修復される歯に低い重合収縮応力を及ぼし、かつ数は減少するが厚さが増す修復材の層を配置し適正に固化することができるのに十分な硬化深度を示すことが望まれる。理想的には、窩洞すべてを充填するのに必要なかかる修復材全体が、一括して配置され固化されよう。
【0007】
その歯科修復用複合体が例となる、固体含有量が高い微粒子分散体は、典型的にはずり減粘、および場合によってはチキソトロピー挙動を示し、これらの粘度は、音波または超音波振動を含めた振動の作用を通して低下させることができることが知られている。例えば、米国特許第5,244,933号は、粘度が高過ぎて意図される目的には実用不可能であるが、揺動に曝すことによって実用可能にすることができる歯科組成物を開示している。しかし、それ以外の場合は実用不可能なこうした材料は、歯の欠損を修復するために臨床的に使用するときに、各操作工程全体にわたって特殊な揺動機器の使用を必要とするので、これらの使用は厄介なものになり、よって医師にとって欠点となる。Herculite(登録商標)(Kerr Corp.、Orange、CA)などの汎用複合材を含めた従来技術のペースト様樹脂系修復材は、特殊な振動支援分注器の使用を通して、低減した粘度で分注することができる。例えば、米国特許第7,014,462号は、歯科充填材料を齲窩に導入するための方法および装置を開示しており、その中で該装置は、充填材料を窩洞に注入するときに充填材料を振動の作用にかける。しかし、音波または超音波振動の作用を通して所与の材料の粘度を低減する容易さおよび程度は変動し、材料の組成に大きく依存する。さらに、振動誘導性の液化は内部摩擦に起因する発熱を伴うので、効率を上げるために振動作用の力または持続時間を単純に増加させると、実質的な温度上昇を招く可能性があり、それにより歯を損傷する恐れがあり得る。こうした実用上の理由から、従来技術の歯科修復材の液化度は制限され、特に極めて高度に充填された材料には、流動性修復材の液体様挙動を実現するには不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,244,933号
【特許文献2】米国特許第7,014,462号
【特許文献3】米国特許第6,890,968号
【特許文献4】米国特許第6,121,344号
【特許文献5】米国特許第6,395,803号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
要約すれば、臨床的配置を大幅に簡易化するために、耐荷重性修復物のための高い強度、低重合収縮、および高硬化深度を与え、さらに振動エネルギーによる活性化を通して容易に流動性様の稠度に液化する、高充填された歯科修復材を提供することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
重合性樹脂と、実質的に半透明な構造フィラーと、100nm未満の平均粒径を有するナノフィラーと、少なくとも1種のレオロジー調整添加剤とを含む、歯科修復組成物が提供される。
【0011】
一実施形態では、構造フィラーは、重合性樹脂の屈折率と実質的に同様の屈折率を有し、かつ、第1の平均粒径を有する粗粒分と、0.1μmより大きく粗粒分の第1の平均粒径より小さい、第2の平均粒径を有する細粒分とを含む。粗粒分対細粒分の相対比は、体積で約12:1から約2:1の範囲内であり、粗粒分および細粒分のそれぞれの粒径分布は本質的に単峰性であり、細粒分のD(90)は、粗粒分のD(10)以下である。
【0012】
別の実施形態では、少なくとも1種のレオロジー調整添加剤は、約0.1から約5wt.%の量で存在し、構造フィラーおよび重合性樹脂はそれぞれ、RI(フィラー)-RI(樹脂)≦0.05であるような屈折率を有し、構造フィラーは、第1の平均粒径が約3μmより大きくD(10)≧1μmである、本質的に単峰性である分布を有する粗粒分と、第2の平均粒径が0.1μmより大きく約1μmより小さく、D(90)≦0.9μmである、本質的に単峰性である分布を有する細粒分とを含む。粗粒分対細粒分の相対比は、体積で約12:1から約2:1の範囲内であり、構造フィラー対ナノフィラーの比は、体積で約20:1から約10:1の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の組成物に使用する構造フィラーの粗粒分の粒径分布のグラフである。
【図2】本発明の組成物に使用する構造フィラーの細粒分の粒径分布のグラフである。
【図3】図1の粗粒分と図2の細粒分とを組み合わせた構造フィラーの、混成粒径分布のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、音波および/または超音波振動を含めた振動を受けると容易に液体様の流動性の粘度に低減する、乱されない状態ではペースト様の詰め込み可能な粘度を示し、かつ以下の特性:高充填率、耐荷重性修復物に適するのに十分な高機械的強度、低重合収縮、および、実質的により深い積層に医師が材料を配置し適正に固化することができるのに十分な高硬化深度の1つまたは複数を示す歯科修復材を提供する。有利には、本発明の材料は、大きい窩洞のほぼ全体を単一の積層で充填するのに使用することができ、それにより、従来技術の歯科用複合体に必要とされるような、修復材の複数層の配置および別々の固化を省略することができる。
【0015】
本発明の一実施形態によると、該修復材は、(1)重合性樹脂、(2)該重合性樹脂の屈折率と実質的に同様の屈折率を有する、実質的に半透明な構造フィラー、(3)ナノフィラー、(4)1種または複数のレオロジー調整添加剤、および任意選択により(5)重合開始剤、分散剤、安定剤、顔料などを含めた他の添加剤を含む。構造フィラー(2)は、粗粒分と、粗粒分より実質的に小さい平均粒径を有する細粒分とを含み、以降で定義する通りに、各画分は本質的に、小粒分のD(90)が大粒分のD(10)以下であるような分布を有する単峰性であり、体積で約12:1から約2:1の範囲内である粗粒分対細粒分の相対比を有する。
【0016】
本発明は、以下の特性、すなわち、乱されない状態では材料がペースト様粘度を示し、その粘度は、音波および/または超音波振動を含めた振動を受けると、温度を著しく上げることなく、容易に液体様粘度に低下することができること;耐荷重性修復物に適した高機械的強度;高フィラー充填率;低重合収縮および低重合収縮応力;ならびに、化学線を使用して重合するときの高硬化深度のうちの幾つかまたはすべてを有する、歯科修復用樹脂系複合材を提供する。ペースト様粘度とは、材料が自重で流動せず、歯科医師が容易に成形して自然な歯の解剖学的構造に倣うことができることを意味する。液体様粘度とは、材料が自重で流動する、すなわち材料が流動性歯科用複合体であることを意味し、流動性歯科用複合体はこの用語が当技術分野で理解される通り、材料と接触表面との間に空隙を残すことなく、これが適用される表面の外形に密接に一致するようなものである。本発明の材料は、歯科医師が、著しくより少ない操作工程を含む大幅に簡易化された臨床手順を使用して、齲窩を修復するために使用することができる。
【0017】
本発明の材料は、硬化性樹脂、好ましくは、メタクリレートモノマーを含有する重合性樹脂を含む。複合体の硬化は、触媒および促進剤をそれぞれ含有する2つのペースト状成分を混合することによって、または青色可視光線などの化学線に曝すと樹脂が硬化する光重合法によって実現することができる。本発明では、当業者であれば認識できる通りの、例えばカチオン光硬化性のオキシランなどの、メタクリレート以外のモノマーを含有する光重合性樹脂を使用することができる。
【0018】
所望のレオロジーを示す本発明の材料を提供するために、特に振動を受けたときに粘度の顕著な低減を実現させるために、該材料は、高度なずり減粘を示すことが有利である。理論に拘束されるものではないが、ずり減粘の程度は、本質的に均一にサイズを揃えた構造フィラーを採用することによって最大限にすることができる。当業者であれば認識できるように、かかる材料は、自重で流動しやすくなるなどのあまり望ましくない取扱特性を示し、そのために医師による成形が極めて難しいものになると思われる。また、均一にサイズを揃えたフィラーを使用することにより、フィラー粒子間に無充填の間隙体積が多く残るので、所望の高度な充填率を実現することができない。
【0019】
少なくとも1種のレオロジー調整添加剤を、重合性樹脂と本質的に単峰性の粒径分布を有する粗い構造フィラーとを含む組成物に添加すると、取扱特性が著しく向上して、ペースト様粘度が実現されるようになり、材料が自重で流動することなくその形状が維持され、よって容易に成形できるようになることが今や見出された。単峰性の粒径分布は、本明細書で使用される場合、粒径分布曲線(粒径に応じた粒子数)が単一の最大を表示し、粒径が対数目盛上にプロットされるときはほぼ対数正規分布を示す粒子の集まりを指す。粒径分布は、それだけには限らないが、動的光散乱法を含めた既知の方法で測定される。有利には、少なくとも1種のレオロジー調整添加剤を添加すると、複合体ペーストにチキソトロープ性を与え、それにより音波および超音波振動を受けたときに材料の流動が向上することを見出した。
【0020】
本質的に単峰性である分布を有し、細粒分のD(90)が粗粒分のD(10)以下であるように平均粒径が実質的に粗粒分より小さい、構造フィラーの細粒分と呼ばれる細粒フィラーを添加すると、間隙空間を埋めることによって、充填度が大幅に増加することをさらに見出した。D(90)は、分布内の90体積%の粒子がそれより小さい直径を有する直径として定義される。D(10)は、分布内の10体積%の粒子がそれより小さい直径を有する直径として定義される。図1は、平均粒径が約5.3μmであり、D(10)が約1.58μmであり、粒径の範囲が約0.15〜22μmである、代表的な粗粒分の粒子分布をグラフで示す。図2は、図1の粗粒分と共に使用することができる、代表的な細粒分の粒子分布をグラフで示し、該細粒分は、平均粒径が約0.52μmであり、D(90)が約0.75μmであり、粒径の範囲が約0.15〜1.5μmである。図3は、図1の粗粒分と図2の細粒分とを組み合わせた構造フィラーの、混成粒子の分布をグラフで示す。他の例では、平均粒径が約5μmであり、D(10)が約1μmであり、D(90)が約11μmであり、粒径の範囲が約0.13〜25μmである粗粒分を、図2の小粒分と共に使用することができる。
【0021】
充填率、すなわち固化性樹脂中に分散した固体の割合を、この混合物が固化する時に約1.8%未満の体積収縮を実現する程度にまで増加させることが有利である。一実施形態では、細粒分は、粗粒分対細粒分が体積で約12対1から約2対1である比で添加されるが、この理由は、この範囲であれば所望の高度なずり減粘が依然として生じるからである。粗粒分は、大きい方の平均粒径を有する粒径分布の範囲内に含まれるフィラー粒子の集まりを指し、いかなる特定の絶対的な粒径または範囲も暗示しない。細粒分は、小さい方の平均粒径を有する粒径分布の範囲内に含まれるフィラー粒子の集まりを指し、いかなる特定の絶対的な粒径または範囲も暗示しない。しかし、実用上の理由により、細粒分の平均粒径は0.1μmより大きい。粗粒分と細粒分との組合せを、本明細書では構造フィラーと呼ぶ。
【0022】
例としてのみであり限定するものではないが、粗粒分は約3μmより大きい平均粒径を有し、粒径分布は約1μm以上(すなわち、≧1μm)のD(10)を含むことができる。加えて、細粒分は約0.1μmより大きく約1μmより小さい平均粒径を有し、粒径分布は約0.9μm以下のD(90)を含むことができる。さらなる例として、構造フィラーは、粒径範囲が約4〜7μmの範囲内であり、粒径分布が約1.2μm以上のD(10)を含む粗粒分と、平均粒径が約0.3〜0.7μmであり、粒径分布が約0.9μm以下のD(90)を含む細粒分とを含むことができる。
【0023】
構造フィラーは、樹脂との相溶性を増大させるのに十分に疎水性であると同時に、粒子間の相互作用を最小限とする粒子表面を示す。特に有用であるのは、RI(フィラー)-RI(樹脂)≦約0.05でありフィラーが実質的に半透明であるように、構造フィラー粒子が重合性樹脂の屈折率と実質的に同様の屈折率を示すことである。RI(フィラー)およびRI(樹脂)は、フィラーおよび樹脂それぞれの屈折率である。フィラーの半透明性は、75重量部のフィラーを25重量部の固化性樹脂中(ここでは、RI(フィラー)-RI(樹脂)≦0.05である)に分散させ、このペーストを固化し、得られた混合物の不透明度を測定することによって決定する。実質的に半透明なフィラーを有するとは、記述の通りに調製した混合物が、45%未満不透明であることを意味する。いずれの特性も、青色可視光線を使用して該材料を固化するときに高い硬化深度をもたらす。
【0024】
粗粒分は、それらに限られないが、ホウケイ酸塩ガラス、バリウムマグネシウムアルミノケイ酸塩ガラス、バリウムアルミノケイ酸塩ガラス、非晶質シリカ、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸チタニウム、酸化バリウム、石英、アルミナ、および他の無機酸化物の粒子から選択することができる。フィラーを製造するために、化学的ゾルゲル法を使用することができ、または代表的な実施形態では、フィラーは、粉砕工程によってサイズ範囲に磨砕することができる。フィラー粗粒子は、γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、または、より好ましくは、以下の一般式を有する長鎖の重合性シランで表面処理することができる:
【0025】
【化1】

【0026】
式中、R1は、(メタ)アクリレート基で官能化された基であり;nは整数であり;Zは、-C(=O)-、-C(=S)-、-C(=O)-O-、-C(=O)-S-、-C(=S)-O-、-C(=S)-S-、-C(=O)-NR5-、-C(=S)-NR5-、および-C(R6)2-から選択され;Qは任意選択であり、アルキレンスペーサーを表し、ここで、連続した炭素原子は、N、O、またはSを含めたヘテロ原子により中断されてもよく;R2は、ハロゲンまたはアルコキシ基から選択され;R3、R4は独立に、水素、ハロゲン、アルキル、アリール、アルコキシ、およびアリールオキシから選択され;R5およびR6は独立に、水素、アルキルまたはアリール基である。
【0027】
粗粒分は、予備重合フィラーから選択することもできる。例えば、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第6,890,968号は、本発明に適した予備重合フィラー粒子の調製および使用を開示している。予備重合フィラー粒子は、無機フィラーを有機重合性樹脂と混合し、この混合物を硬化させることによって調製される。硬化混合物は、次に所望のサイズに粉砕される。粉砕済み予備重合フィラーをさらに分級して、多分散の粉砕済み予備重合フィラーから所望の粗粒分を分離して、本質的に単峰性の粒径分布を有する予備重合フィラーを得ることができる。例えば、'968号特許に開示されている通りに、粗粒分は、平均粒径が約30〜70μmでありD(15)が10μmであってもよい。任意選択により、分級された粉砕済み予備重合フィラーを、γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランまたは他の適したシランで表面処理することができる。
【0028】
細粒分は、それらに限られないが、ホウケイ酸塩ガラス、バリウムマグネシウムアルミノケイ酸塩ガラス、バリウムアルミノケイ酸塩ガラス、非晶質シリカ、ケイ酸ジルコニウム、ケイ酸チタニウム、酸化バリウム、石英、アルミナ、および他の無機酸化物の粒子から選択することができ、粗粒分と同じ材料であっても異なる材料であってもよい。化学的ゾルゲル法を使用してフィラーを製造することができ、または代表的な実施形態では、フィラーを広範な粉砕工程によって粉砕して、所望のサイズ範囲にすることができる。フィラー細粒は、γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理することができる。本発明に特に適した細粒フィラーの例は、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第6,121,344号に開示されている。例えば、細粒分は、該特許に開示されている方法Aによって調製される通りの0.62μmの平均粒径および0.82μmのD(90)、または該特許に開示されている方法Bによって調製される通りの0.47μmの平均粒径および0.76μmのD(90)、または該特許に開示されている方法Cによって調製される通りの0.36μmの平均粒径および0.61μmのD(90)を有することができる。
【0029】
充填率をさらに増加させ、材料強度を増大させるために、本発明の材料は、100nm未満の平均粒径を有するナノフィラーも含むことができる。概して、ナノフィラーの粒径分布は100nm未満であり、その最大粒子は、構造フィラーの細粒分の最小粒子より小さい。代表的な実施形態では、ナノフィラーは、構造フィラー対ナノフィラーが体積で約20対1から約10対1である比で添加される。構造フィラーは、粗粒分と細粒分との組合せを指す。代表的な実施形態では、ナノフィラーは、本質的に分離している非凝集粒子を含む。コロイドシリカが代表的である。ヒュームドシリカは、本明細書ではナノフィラーの範囲から除外される。
【0030】
レオロジー調整添加剤は、無機レオロジー調整剤、有機レオロジー調整剤、または、特に有利にはその両方の組合せを含むことができる。特に適した無機レオロジー調整剤の1つは、焼成(ヒュームド)シリカである。よって、ヒュームドシリカは、本発明の目的のためにレオロジー調整添加剤の範疇内に含まれ、ナノフィラーとは見なされない。代表的な有機レオロジー調整剤は、イオン結合または水素結合などの、強力な非共有結合性の分子間相互作用を形成できる小さい分子またはポリマーである。有機調整剤の具体的な例には、参照により本明細書に組み込まれている米国特許第6,395,803号に開示されているものが挙げられる。特に、該特許に開示されている通りのアルキルアミド化合物が本発明に有用である。概して、'803特許に記述される通りに、一般式RCONHR'(式中、Rはアルキルまたはアルキリジン(alkylidine)基であり、R'はアルキル基である)のアルキルアミドは、特にRまたはR'アルキル基が4個以上の炭素、好ましくは10個以上の炭素を有する場合に、歯科修復組成物におけるレオロジー調整添加剤として有用である。例えば、レオロジー調整添加剤は、以下のうちの1種または複数であってもよい:(1)ヒドロキシ官能性ポリカルボン酸アミド;(2)2つ以上のヒドロキシル基を含有し、かつ第3級アミンおよび第2級アミンのアミドからなる群から選択される炭素原子6〜40個のペンダント脂肪族基も含有する、約15〜75重量部の1種または複数の液体ポリアルコキシル化窒素含有化合物と、約8〜90重量部の1種または複数のポリカルボン酸と、約0.5〜20重量部の1種または複数の、分子量(重量平均)が約2000以下の液体ジアミンとの反応生成物、ここで該反応は、酸価が5〜14の範囲内になりアミン価が42〜84の範囲内になるまで継続される;(3)トリアルキルアミドシクロヘキサン、例えば、トリアルキルcis‐1,3,5‐シクロヘキサントリカルボキサミドなど;(4)カルボベンジルオキシ含有アルキルアミド、例えばN-カルボベンジルオキシ-L-イソロイシルアミノオクタデカンなど;(5)L-バリン含有ベンゼンジカルボニル誘導体、例えば、N,N'-テレフタロイル-ビス(L-バリルアミノドデカン)およびN,N'-テレフタロイル-ビス(L-バリルアミノオクタデカン);ならびに、trans-1,2-ジアミノシクロヘキサンの誘導体、例えば、trans-1,2-ビス(ドデシルアミド)シクロヘキサン、重合性誘導体(1R,2R)-trans-1,2-ビス(2-(メタクリロイルオキシ)エチルスクシンアミド)シクロヘキサン、およびtrans-1,2-ビス(ウレイド)シクロヘキサンなど。上の例(1)の種類のレオロジー調整剤は、BYK Chemie USA、Wallingford、CTからBYK(登録商標)-405という商標名で入手することができ、上の例(2)の種類のレオロジー調整剤は、Rheox Corporation、Hightstown、NJからThixatrol(登録商標)VF-10という商標名で入手することができると思われる。
【0031】
一実施形態では、レオロジー調整添加剤は、ペースト混合物全体の約0.1から約5重量パーセントの量で存在することができる。例としてであり限定するものではないが、レオロジー調整添加剤として、'803号特許に提供されている式(1)に従うヒドロキシ官能性ポリカルボン酸アミドを挙げることができ、それは、約0.1〜0.7重量パーセントの量で存在することができる。有機レオロジー調整剤に加えて、ヒュームドシリカを、例えば約1〜3wt.%の量で添加することができる。2種以上のヒュームドシリカ、例えば20nmのヒュームドシリカおよび40nmのヒュームドシリカなどのそれぞれ異なる平均粒径を有するもの、ならびに/または、親水性ヒュームドシリカと疎水性ヒュームドシリカとの組合せなどを使用することができる。
【0032】
本発明の歯科修復組成物は、例えば'803号特許に記載されている通りの分散剤を、さらに含むことができる。より詳細には、リン酸エステル(モノ-、ジ-、およびトリ-エステルを含めて)、例えば重合性リン酸ポリエステルなどを使用することができる。特に本発明に有用なリン酸エステルは、以下から選択される:a)カルボン酸エステル基およびエーテル基を含有するリン酸エステル、ならびにb)カルボン酸エステル基を含有し、エーテル基を含有しないリン酸エステル。本発明で使用するための分散剤の一例は、BYK Chemie USA、Wallingford、CTから、Disperbyk(登録商標)-111という商標名で入手することができる。他の例としては、例えば、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルメタクリレートホスフェート、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレートホスフェート、ポリカプロラクトン変性ポリプロピレングリコールメタクリレート(glycomethacrylate)ホスフェート、ポリカプロラクトン変性グリセロールジメタクリレートホスフェート、ポリカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレートホスフェート、およびポリカプロラクトン変性ポリエチレングリコールモノメタクリレートホスフェートなどの、ポリカプロラクトン変性メタクリレートモノホスフェートが挙げられる。例として、分散剤は、5重量パーセント以下、例えば0.5〜3.5重量パーセントなどの量で存在することができる。
【0033】
(実施例)
圧縮強さ(CS)試験
【0034】
ペースト状(単に「ペースト」と呼ぶ)の歯科修復組成物を圧縮して、4mm(直径)×3mm(高さ)の寸法のステンレス鋼金型に入れ、次にこのペーストをDemetron Optilux(商標)501硬化光(Kerr Corp.)を各側30秒間用いて、光硬化させることによって、試験片を調製した。硬化した円板を金型から取り出し、37℃の水中で24時間かけて状態を整えた後、Instron Universal Tester(4202型)を用いて、圧縮モード、0.50mm/分のクロスヘッド速度で機械的試験にかけた。試験片が破壊された最大負荷を使用して、MPa単位で表したCSを算出した。各処方ごとに6個の試験片を試験した。
【0035】
直径引張強さ(DTS)試験
【0036】
ペーストを、圧縮して6mm(直径)×3mm(高さ)の寸法のステンレス鋼金型中に入れ、次にこのペーストをDemetron Optilux(商標)501硬化光(Kerr Corp.)を各側30秒間用いて、光硬化させることによって、試験片を調製した。硬化した円板を金型から取り出し、37℃の水中で24時間かけて状態を整えた後、Instron Universal Tester(4202型)を用いて、圧縮モード、10mm/分のクロスヘッド速度で機械的試験にかけた。負荷を圧縮モードで直径方向に加えた。試験片が破壊された最大負荷を使用して、MPa単位で表されるDTSを算出した。各処方ごとに6個の試験片を試験した。
【0037】
曲げ強さ(FS)およびヤング率(E)試験
【0038】
FSおよびEを、ISO 4049規格に従って同じ曲げ試験から測定した。ペーストを、圧縮して2mm×2mm×25mmの寸法のステンレス鋼金型中に入れ、次に両側から光硬化させることによって、試験片を調製した。硬化した円板を金型から取り出し、37℃の水中で24時間かけて状態を整えた後、Instron Universal Tester(4202型)を用いて、3点曲げモード、0.5mm/分のクロスヘッド速度で機械的試験にかけた。試験片が破壊された最大負荷を使用して、MPa単位で表されるFSを算出した。Eは、最初の線形領域の応力-ひずみ曲線の傾きから得た。各処方ごとに5個の試験片を試験した。
【0039】
体積重合収縮(VPS)
【0040】
VPSを、Demetron Optilux(商標)501硬化光を60秒(各側30秒)用いた光硬化前後の材料の測定密度に基づいて算出した。密度を、脱イオン水中で浮力法を使用して測定した。
【0041】
複素粘性率(eta*)および損失正接(tanδ)
【0042】
プレート直径10mmおよび間隙1.0mm、定周波数1.0Hzのパラレルプレート構成において応力制御動的振動レオメータ(DSR-200、Rheometrics Scientific、Piscataway、NJ)を使用して、レオロジー特性を決定した。50Paの低応力を300秒間加えて、Pa・sでの複素粘性率(eta*)、および損失正接を記録した。これらの値は、乱されない状態での粘度を示す。試料を、続けて1000Paの高応力に30秒間かけ、複素粘性率および損失正接を記録した。これらの値は、音波または超音波振動が加えられたときの粘度を示す。1未満の損失正接は、組成物が自重で流動することなく、組成物を歯の解剖学的構造に成形するための、乱されない状態に望ましい固体特性または弾性特性を示す。1より大きい損失正接は、送達手段を通して組成物を流動させるのに望ましい液体様の特性を示す。
【0043】
すべての実施例で使用した材料の略号
【0044】
【表1】

【0045】
単一品、すなわち光硬化性修復材組成物を作製するためのすべての実施例において、最初に、すべてのモノマーを樹脂混合物に可溶な開始剤および添加剤と混合することによって、均質な樹脂混合物を作製した。樹脂の組成をTable 1(表2)に示す。次に、該樹脂混合物をさらに様々なフィラーと共に混ぜて、ペースト状の修復組成物を作製した。別段の指示がない限り、すべての実施例において、部および百分率はすべて重量基準である。
【0046】
【表2】

【0047】
すべての実施例に使用した組成物およびその試験結果を、Table 2(表3)に一覧表示する。
【0048】
【表3】

【0049】
実施例Aは、大粒分およびナノフィラーを有するが、小粒分がない組成物を表している。損失正接における反転に示されるように該組成物はずり減粘を起こすが、複素粘性率は、乱されない状態では、容易に操作することができず実際に有用であるには固過ぎると見なすことができるほど高く、また乱された状態では、所望の送達手段を通して容易に流動しない恐れがある、または容易に流動しないと見込まれるほど高い。
【0050】
実施例Bは実施例Aのものとほぼ同一な組成物を表すが、本発明に従って大粒分のうちの小部分を小粒分に置き換えた。損失正接の値は振動時のずり減粘を示し、複素粘性率は2つの状態で良好な成形性および流動性を示す。
【0051】
実施例Cは実施例Bと同様の組成物を表すが、総フィラー充填率が望ましくも若干高く、無機レオロジー調整剤の含有量を増加させることにより、充填率の増加が可能となっている。充填率の増加にもかかわらず、損失正接の値は振動時にずり減粘を示し、複素粘性率は2つの状態に関して良好な成形性および流動性を示す。加えて、低い体積収縮が得られている。
【0052】
実施例Dは実施例Bと同様の組成物を表すが、小粒分と大粒分との量が本質的に逆転している、すなわち、小粒分の量の方が多く、大粒分の量の方が少ない。該組成物は、皆無かそれに近いずり減粘を示した、すなわち、振動を加えた時に液体様の状態に遷移しなかった。
【0053】
実施例Eは、実施例Bと同様の組成物を表すが、ナノフィラー、すなわち、非凝集コロイドシリカがない。該組成物は、振動を加えた時に依然としてずり減粘を引き起こすが、複素粘性率は、該材料が乱されない状態で軟性であり過ぎることを示し、これは材料が自重で流動するようになり、成形が難しいと見込まれるほどである。
【0054】
実施例Fは、実施例Cと同様の高充填された組成物を表しているが、有機および無機レオロジー調整剤の両方がない。該材料は、乱されない状態では容認できないほど軟性であったが、これは材料が自重で流動し、実際には振動を加えるとずり増粘を起こすほどである。
【0055】
本発明を、1つまたは複数のその実施形態の記述によって説明し、また実施形態をかなり詳細に記述してきたが、これらは、添付の特許請求の範囲をかかる詳細に制限する、または如何なるようにも限定することを意図するものではない。付加的な利点および変更は、当業者であれば容易に思い浮かぶであろう。それゆえに、本発明はその広い態様において、示され記述された特定の詳細および方法および実例に限定されない。したがって、全般の発明の概念の範囲から逸脱することなく、かかる詳細から逸脱することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性樹脂と、
重合性樹脂の屈折率と実質的に同様の屈折率を有する、実質的に半透明な構造フィラーであって、
第1の平均粒径を有する粗粒分、および
0.1μmより大きく粗粒分の第1の平均粒径より小さい、第2の平均粒径を有する細粒分を含み、
粗粒分対細粒分の相対比が、体積で12:1から2:1の範囲内であり、粗粒分および細粒分のそれぞれの粒径分布が、本質的に単峰性であり、細粒分のD(90)が、粗粒分のD(10)以下である、構造フィラーと、
100nm未満の平均粒径を有するナノフィラーと、
少なくとも1種のレオロジー調整添加剤と
を含む、歯科修復組成物。
【請求項2】
少なくとも1種の前記レオロジー調整添加剤が、ヒュームドシリカ、および/または一般式RCONHR'(式中、Rはアルキルまたはアルキリジン基であり、R'はアルキル基である)のアルキルアミドである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記粗粒分に関して、第1の平均粒径が3μmより大きく、D(10)が≧1μmであり、前記細粒分に関して、第2の平均粒径が1μmより小さく、D(90)が≦0.9μmである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記粗粒分に関して、第1の平均粒径が4〜7μmの範囲内であり、D(10)が≧1.2μmであり、前記細粒分に関して、第2の平均粒径が0.3〜0.7μmの範囲内であり、D(90)が≦0.9μmである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
前記構造フィラー対ナノフィラーの比が、体積で20:1から10:1の範囲内である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項6】
乱されない状態では粘度がペースト様であり、組成物が音波および/または超音波振動を受けるとずり減粘を起こして粘度が液体様に低減する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項7】
硬化すると1.8%未満の体積収縮を示す、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項8】
屈折率RI(樹脂)を有する重合性樹脂と、
屈折率RI(フィラー)を有する、実質的に半透明な構造フィラーであって、
RI(フィラー)-RI(樹脂)≦0.05であり、
第1の平均粒径が3μmより大きくD(10)≧1μmである、本質的に単峰性の分布を有する粗粒分、および
第2の平均粒径が0.1μmより大きく1μmより小さくD(90)≦0.9μmである、本質的に単峰性の分布を有する細粒分を含み、
粗粒分対細粒分の相対比が、体積で12:1から2:1の範囲内である、構造フィラーと、
平均粒径が100nm未満であるナノフィラーであって、構造フィラー対ナノフィラーの比が、体積で20:1から10:1の範囲内である、ナノフィラーと、
0.1から5wt%の量の、少なくとも1種のレオロジー調整添加剤と
を含み、
乱されない状態では組成物の粘度がペースト様であり、組成物が音波および/または超音波振動を受けるとずり減粘を起こして粘度が液体様に低減し、硬化すると組成物が1.8%未満の体積収縮を示す、
歯科修復組成物。
【請求項9】
少なくとも1種の前記レオロジー調整添加剤が、ヒュームドシリカ、および/または、一般式RCONHR'(式中、Rはアルキルまたはアルキリジン基であり、R'はアルキル基である)のアルキルアミドである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記粗粒分に関して、第1の平均粒径が4〜7μmの範囲内であり、D(10)が≧1.2μmであり、前記細粒分に関して、第2の平均粒径が0.3〜0.7μmの範囲内であり、D(90)が≦0.9μmである、請求項8に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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