説明

歯科修復物のためのイットリウム安定化ジルコニアの安定性を向上させる方法

歯科セラミックベニア材料でベニアされるイットリウム安定化ジルコニアを含む歯科修復物用のイットリウム安定化ジルコニアの安定性を向上させる方法であって、ベニアされるべきイットリウム安定化ジルコニアを含む前記歯科修復物を準備し;前記歯科セラミックベニア材料が、前記歯科セラミックベニア材料及び実質的に水を含まない噴射剤を含むエアロゾルによって、前記歯科修復物に塗布され;得られたアレンジメントを焼成し、ベニアされた歯科修復物を得る、前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科修復物のためのイットリウム安定化ジルコニアの安定性を向上させる方法、及びベニアされた歯科修復物の製造のための、実質的に水を含まないエアロゾルの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニアは、アルミナのようなその他の酸化物セラミックスと比較して、歯科修復材料において、独占的な地位を有している。それは、1970年代半ばに確認された転移強化(transformation toughening)の結果としての優れた機械的特性を理由とする。純粋なジルコニアは、温度によって3とおりの異なった結晶構造として存在し得る。室温から1170℃までにおいて、その対称(symmetry)は単斜晶であり、結晶は1170から2370℃の間では正方晶であり、2370℃を超えて融点までは立方晶である。冷却工程中の正方晶(t)から単斜晶(m)への転移は、体積の増加(約4%)及びせん断のゆがみ(shear distortion)を伴うが、これらは壊滅的な欠陥を引き起こすのに十分である。純粋なジルコニアをYのような安定化酸化物と合金化することによって、室温において準安定な(meta−stable)正方晶構造の保存が可能となり、これによって、応力により生じるt‐m転移の制御可能性を与え、亀裂拡大に対する抵抗を効果的に強化でき、アルミナよりも高い強靭性を得ることができる。
【0003】
正方晶のジルコニアの準安定性の結果として、応力発生表面処理、例えば、研削やサンドブラストは体積の増加と共にt→m転移を引き起こし得、表面圧縮応力の形成を導き、それによって曲げ強度が増加する。しかしながら、このような合金化は、材料の相一体性(phase integrity)をも変化させ、劣化に対する脆弱性を増加させる。ジルコニアの低温劣化(LTD)は、多くの文献に報告されている現象であり、水分と、少量の熱の存在に依存する。この劣化プロセスの結果は多面的であり、強度劣化の他にも粒子の引き抜き(grain pullout)や微小亀裂がある。LTDは、一連の整形外科の人工股関節の不具合に関連することが2001年に示されており、またLTDが起こる条件は確立されているにも関わらず、現在のところ、ジルコニアが歯科バイオセラミックとして用いられる場合における不具合の可能性とLTDとの間には明確な関連性はない。
【0004】
3Y−TZPは、歯科修復物の製造のために歯科業界(dentistry)で現在広く用いられており、主には部分焼結ブランクを機械加工した後に高温で焼結することによって加工される。3Y−TZPの物理的特性は、その粒子サイズに強く依存する。臨界サイズを越えると、Y−TZPはより小さい粒子サイズ(<1μm)よりもより不安定となり、自然発生的なt→m転移に対してより弱くなる。更に、ある粒子サイズ(約0.2μm)を下回ると、応力による転移が生じなくなり、破壊靱性の低下につながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的の一つは、従来技術の上記欠点、具体的には、ベニアされたイットリウム安定化ジルコニア修復物の製造時の正方晶から単斜晶状態への転移の発生、を回避する工程を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記課題は、歯科セラミックベニア材料でベニアされるイットリウム安定化ジルコニアを含む歯科修復物用のイットリウム安定化ジルコニアの安定性を向上させる方法であって、ベニアされるべきイットリウム安定化ジルコニアを含む前記歯科修復物を準備し;前記歯科セラミックベニア材料が、前記歯科セラミックベニア材料及び実質的に水を含まない噴射剤(propellant)を含むエアロゾルによって、前記歯科修復物に塗布され;得られたアレンジメントを焼成し、ベニアされた歯科修復物を得る、前記方法によって達成される。特に、前記歯科セラミックベニア材料は、歯科修復物の下部構造(framework)上に、エアロゾルによって、薄い層として塗布される。通常、前記層は、約0.01mm〜0.5mmの、具体的には約0.1mmの厚さを有する。
【0007】
本発明の方法は、前記ベニア材料が前記イットリウム安定化ジルコニア歯科修復物に塗布される際の水分の導入による前記イットリウム安定化ジルコニアの不安定化を回避する。
【0008】
本発明のある態様においては、前記イットリウム安定化ジルコニア歯科修復物は、二酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、及び所望により、酸化ハフニウム、酸化アルミニウム、及びシリカを有する組成物を含む。
【0009】
本発明のまた別の態様においては、前記歯科セラミックベニア材料は、SiO;Al;KO;NaO;B;所望により、BaO;TiO;CeO;ZrO;CaO;SnOを含む、組成物を含む。
【0010】
本発明のまた別の態様においては、前記歯科セラミックベニア材料が、微粒子の形態で存在する。
【0011】
通常、前記エアロゾルは、前記イットリウム安定化ジルコニア歯科修復物に対して噴きつけることによって塗布される。例えば、前記歯科セラミックベニア材料は、噴射剤によって容器から放出される。
【0012】
本発明の更に別の一つの態様は、ベニアされた歯科修復物を製造するための、実質的に水を含まないエアロゾルの使用であって、前記エアロゾルは前記歯科セラミックベニア材料でベニアされるべきイットリウム安定化ジルコニア歯科修復物に対して噴きつけるための、噴射剤及び歯科セラミックベニア材料を含む、前記使用である。
【0013】
本発明の方法は、前記ベニア材料が前記イットリウム安定化ジルコニア歯科修復物に塗布される際の水分の導入による前記イットリウム安定化ジルコニアの不安定化を回避する。
【0014】
本発明によれば、あらゆる種類のイットリウム安定化ジルコニア歯科修復物をベニアすることができる。具体的には、ブリッジ、クラウン、インレー、アンレー、及びベニアを製造することができる。
【発明の詳細な説明】
【0015】
前記イットリウム安定化ジルコニア歯科修復物は、約93から約97重量%の二酸化ジルコニウム、約3から約6重量%の酸化イットリウム、約0から約3重量%の酸化ハフニウム、約0から約1重量%の酸化アルミニウム、約0から約1重量%の酸化シリコン、を有する組成物を含む。
【0016】
前記イットリウム安定化ジルコニア歯科修復物は、約93から約95重量%の二酸化ジルコニウム、約4.8から約5.5重量%の酸化イットリウム、約0から約3重量%の酸化ハフニウム、約0から約0.4重量%の酸化アルミニウム、を有する組成物を、特に含む。
【0017】
本発明の別の態様において、前記歯科セラミックベニア材料は、約58から約70重量%のSiO;約10から約18重量%のAl;約6から約12重量%のKO;約3から約8重量%のNaO;約1から約6重量%のB;約0から約3重量%のBaO;約0から約2重量%のTiO;約0から約2重量%のCeO;約0から約2重量%のZrO;約0から約3重量%のCaO;約0から約2重量%のSnO、の組成物を含む。
【0018】
特に、前記歯科セラミックベニア材料は、約60から約64重量%のSiO;約13から約15重量%のAl;約7から約10重量%のKO;約4から約6重量%のNaO;約3から約5重量%のB;約1から約3重量%のBaO;約0から約0.5重量%のTiO;約0から約0.5重量%のCeO;約0から約1重量%のZrO;約1から約2重量%のCaO;約0から約0.5重量%のSnO、の組成物を含む。
【0019】
本発明のまた別の実施形態において、前記歯科セラミックベニア材料は粒子の形態で、特に約0.5μmから約150μmの粒子径、特に約0.5μmから約50μmの粒子径を有するパウダーの形態として存在する。
【0020】
通常、前記歯科セラミックベニア材料は噴射剤、特にヘプタフルオロプロパン系又はプロパン系、ブタン系又はそれらの混合物系のエアロゾルからなる群から選択される噴射剤によって、容器から放出される。
【0021】
本発明の更に別の一つの実施形態は、ベニアされた歯科修復物を製造するための、実質的に水を含まないエアロゾルの使用であって、前記エアロゾルは前記歯科セラミックベニア材料でベニアされるべきイットリウム安定化ジルコニア歯科修復物に対して噴きつけるための噴射剤及び歯科セラミックベニア材料を含む、前記使用である。
【0022】
スプレー方法による前記セラミックベニア材料の塗布では、第1のベニア工程中において水性液体により結晶が破壊(attack)されることはないため、前記下部構造の表面におけるジルコニア結晶のt→m転移が抑制又は回避される。更に、前記ジルコニア下部構造材料の表面は、塗布されたセラミックベニア材料の薄い層によって、後続のベニア工程や挿入後の唾液からも保護される。前記スプレーされたセラミック粉体の前記薄保護層が塗布されて焼成された後は、歯科技工士は、筆及び歯科セラミック粉体及び液体の混合物を用いることによって、歯科修復物に所望の形にベニア層を作ることができる。この技術は、下部構造上に歯科修復物を作る際の公知の技術である。前記粉体液体混合物の塗布の後、技工士は、前記歯科セラミック粉体の製造元が推奨する焼成スケジュールに従う。通常、象牙質焼成(dentin firing)及び光沢焼成(glaze firing)が必要である。
【0023】
フライス工程(milling process)の後、前記イットリア部分安定化ジルコニア材料は、前記歯科修復物の自然な外見を得るために、セラミック材料によってベニアされなければならない。従来技術によると、通常、歯科セラミックの粉体とモデリング液又は蒸留水を混合して泥漿(slip)を形成する。前記セラミック材料は、その後前記ジルコニア下部構造に、歯科技工士によって、筆で塗布される。予備加熱時間及び温度の後、前記修復物は700℃〜950℃よりも高い焼成終了温度で、約30℃〜60℃/分の加熱温度速度で焼成される。前記焼成工程中、前記液体又はその蒸気は、前記下部構造材料の表面上の前記イットリア部分安定化ジルコニアのt→mの転移プロセスを引き起こす。前記t→m転移は、前記ジルコニア結晶の体積増加に影響を与え、そのエネルギー衝撃により、下部構造材料に亀裂を引き起こし得る核生成プロセスが生じ、前記歯科修復物が不安定化する。
【0024】
本発明のスプレー方法による塗布では、第1の焼成工程の間に水性液体が前記下部構造材料に影響を与えることはないため、前記転移を回避又は最小限に抑制する。更に、陶材からなる薄い層は、通常の歯科液体粉体混合物及び筆を用いる後続のベニア工程において転移プロセスから下部構造を保護する。
【0025】
本発明を以下の実施例によって更に説明するが、これらは本発明の保護範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0026】
前記スプレー方法を用いた前記セラミックベニア粉体の塗布は、前記歯科セラミックベニア材料及び実質的に水を含まない噴射剤を含むエアロゾルによって実施することができる。前記イットリア安定化ジルコニア下部構造はフライス盤によって製造され、その後、例えば、1380℃又は1530℃で、前記下部材料の製造元の推奨に従って焼結された。
【0027】
前記下部構造から約20cm離れた場所から前記下部構造の外表面に歯科セラミックベニア粉体を噴きつけて、約0.1mmの薄い層を形成した。
【0028】
上記工程の後、完全に被覆された外表面を有する下部構造は、前記ベニアセラミックについて推奨される加熱スピード及び終了温度、推奨される予備加熱時間及び温度で、第1焼成ベニア工程において焼成される。この焼成工程の後、前記イットリア安定化ジルコニア材料の薄ベニア表面は、すばらしい光沢艶を呈する。水性液体媒体を使用しないため、前記イットリア安定化ジルコニアの表面においてt→mの転移プロセスが起こることはない。
【0029】
上記表面には、粉体及び液体の混合物を、筆を用いた方法によってベニアセラミックを塗布することができる。歯科技工士は、通常の方法で、前記歯科修復物を作ることができる。前記イットリア安定化ジルコニアの表面は前記水性液体の影響から保護されているため、後続するベニア工程においてジルコニア結晶の転移プロセスが起こることはない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科セラミックベニア材料でベニアされるイットリウム安定化ジルコニアを含む歯科修復物用のイットリウム安定化ジルコニアの安定性を向上させる方法であって、
ベニアされるべきイットリウム安定化ジルコニアを含む前記歯科修復物を準備し;
前記歯科セラミックベニア材料が、前記歯科セラミックベニア材料及び実質的に水を含まない噴射剤を含むエアロゾルによって、前記歯科修復物に塗布され;
得られたアレンジメントを焼成し、ベニアされた歯科修復物を得る、前記方法。
【請求項2】
前記イットリウム安定化ジルコニア歯科修復物が、
約93から約97重量%の二酸化ジルコニウム、
約3から約5重量%の酸化イットリウム、
約0から約3重量%の酸化ハフニウム、
約0から約1重量%の酸化アルミニウム、
約0から約1重量%の酸化シリコン、の組成物を含む、請求項1の方法。
【請求項3】
前記歯科セラミックベニア材料が、
約58から約70重量%のSiO
約10から約18重量%のAl
約6から約12重量%のKO、
約3から約8重量%のNaO、
約1から約6重量%のB
約0から約3重量%のBaO、
約0から約2重量%のTiO
約0から約2重量%のCeO
約0から約2重量%のZrO
約0から約3重量%のCaO、
約0から約2重量%のSnO、の組成物を含む、請求項1又は請求項2の方法。
【請求項4】
前記歯科セラミックベニア材料が、粒子の形態で、特に約0.5μmから約150μmの粒子径を有するパウダーの形態で存在する、請求項1〜請求項3のいずれか一つの方法。
【請求項5】
前記エアロゾルが、前記イットリウム安定化ジルコニア歯科修復物に対して噴きつけられることによって塗布される、請求項1〜請求項4のいずれか一つの方法。
【請求項6】
前記エアロゾルが、噴射剤によって容器から放出される、請求項1〜請求項5のいずれか一つの方法。
【請求項7】
前記噴射剤が、ヘプタフルオロプロパン系又はプロパン系、ブタン系又はそれらの混合物系のエアロゾルからなる群から選択される、請求項1〜請求項6のいずれか一つの方法。
【請求項8】
ベニアされた歯科修復物を製造するための、実質的に水を含まないエアロゾルの使用であって、前記エアロゾルは前記歯科セラミックベニア材料でベニアされるべきイットリウム安定化ジルコニア歯科修復物に対して噴きつけるための噴射剤及び歯科セラミックベニア材料を含む、前記使用。

【公表番号】特表2013−518916(P2013−518916A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552264(P2012−552264)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051547
【国際公開番号】WO2011/098115
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(512208394)ヴィタ ツァーンファブリーク ハー. ラオテル ゲーエムベーハー ウント コー カーゲー (1)
【Fターム(参考)】