説明

歯科材料用表面改質材

【課題】貴金属合金等の歯科材料と歯科用合着材または接着材との接着性の改善と、耐水性および耐久性の改善を付与することができ、さらに簡便に歯科材料の表面処理が可能な歯科材料用表面改質材を提供すること。
【解決手段】本発明の歯科材料用表面改質材は、歯科材料への衝突および/または摩擦により、トライボケミカル反応を引き起こす歯科材料用表面改質材であり、当該トライボケミカル反応によって、前記歯科材料表面の原子と結合する官能基(a1)および、当該歯科材料表面の接着性を向上させる官能基(a2)を有する改質化合物(A)が、担体粒子(B)に担持されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科材料表面を改質するための歯科材料用改質材に関し、特に金属製の歯科材料表面を改質して、この歯科材料表面とレジン系接着材等の歯科用接着材との接着性を向上させるための歯科材料用改質材に関する。
【背景技術】
【0002】
義歯を作製する際あるいはインレー、クラウン等の修復物(補綴物)を歯に固定する際に、歯科用接着材が用いられる。特に、義歯や修復物などの歯科材料が金属製である場合、材料表面と接着材との間に十分な接着性が得られない場合がある。そのために、材料表面と接着材との間に、強く、かつ、より高い耐久性がある接着を付与すべく、該材料表面の接着材被着面には表面処理が施される。
【0003】
このような表面処理法として、材料表面を、サンドブラスト処理する方法、超音波洗浄する方法、スズでメッキする方法、加熱する方法、プライマーを塗布する方法等が提案されている。
【0004】
一般的には、材料表面に対して、アルミナなどのセラミックス微粒子を噴射するサンドブラスト処理の後、金属接着性単量体を含有するプライマーを筆やスポンジを使って、あるいは被着体である歯科材料表面に直接滴下することによって塗布する方法が一般的である。
【0005】
サンドブラスト処理は、歯科材料表面に付着している接着阻害物質を取り除く点、材料表面を極めて僅かに削り取り微細な凹凸を形成する点、材料表面の実質的な表面積を増やす点など、いずれも接着に寄与する効果を発揮することができる。
【0006】
一方、プライマーとして、改質される対象物の材質ごとに適した種々のプライマー組成物が提案されている。
例えば、特許文献1〜3では、コバルト、クロム、銅、チタン、スズ、鉄、ニッケル、アルミニウムなどの非貴金属製あるいはその合金製の対象物用のプライマーが開示されている。
【0007】
具体的には、トリメリット酸誘導体(特許文献1)や、カルボン酸基(特許文献1)、リン酸基(特許文献2)、ホスホン酸基(特許文献3)を有する(メタ)アクリル系の接着性重合性単量体が挙げられる。
【0008】
さらに、特許文献4〜10では、金、白金、パラジウム、銀などの貴金属製とその合金製の対象物用のプライマーが開示されている。
具体的には、チオリン酸基含有化合物(特許文献4)、チオリン酸クロリド基含有化合物(特許文献5)、トリアジンジチオン誘導体(特許文献6)、チオウラシル誘導体(特許文献7〜9)、チオクト酸誘導体(特許文献10)などを有する接着性重合性単量体が挙げられる。
【0009】
このような、プライマー、特に従来の貴金属合金用プライマーの多くは、硫黄を成分として分子中に持つ接着性重合性単量体であり、対象物の金属元素と直接結合することによって接着力を発現する。
【0010】
しかしながら、従来のサンドブラスト処理によっても、対象物表面の金属元素は一時的に外界に露出するものの、大気中において、露出した金属元素は数秒後には水酸基、酸化膜、水分子などによって覆われてしまう。そのために、サンドブラスト処理後にプライマーを塗布したとしても、硫黄を成分として分子中に持つ接着性重合性単量体と金属元素とが直接接触することは困難であり、接着性の向上(表面改質)には限界があった。
【0011】
ところで、固体と固体を摩擦すると発熱し、摩擦接触点近傍からマイクロプラズマが発生し、さらに、この摩擦中において、電子、イオン、光子などのエネルギー性粒子の放出される現象(triboemission)が知られている。また、摩擦後であっても、周囲気体の放電により生じたマイクロプラズマによって、電子や光子が放出されるが、経時的に減弱する(post−emission)。このような現象は、摩擦電磁気現象(triboelectromagnetic phenomena)と呼ばれ、大気中、各種ガス中、油中で観察されている。そして、この摩擦接触点近傍に発生するマイクロプラズマによって、単に摩擦発熱の温度上昇だけでは機構を説明できない特異な化学反応(トライボケミカル反応(tribochemical reaction))が発見されている。(例えば、非特許文献1参照。)
例えば、特許文献11に開示されているように、上記トライボケミカル反応を利用してセラミックス表面に有機ケイ素化合物被膜を形成させる方法が試みられている。
【0012】
しかしながら、この特許文献12に開示された方法は、内燃機関のシリンダライナに使用されるセラミック製摺動部材の摺動面における潤滑性を向上させるためにトライボケミカル反応を利用している。すなわち、特許文献12には、歯科用途として実用的な適用はおろか、金属製等の歯科材料表面の接着性を改質する課題は一切記載も示唆もされていない。
【0013】
さらに、非特許文献2には、対象物(金属、セラミック)へ衝突させて、トライボケミカル反応を誘導し、この反応により対象物表面にシリカ層を形成するためのシリカ被覆アルミナ砂が開示されている。このシリカ層は微細な凹凸を有しており、歯科用接着材の塗布面の表面積が大きくなるために、接着性が改善されるものの、さらなる接着性を実用レベルまでに向上させるには、別途、シリカ層にプライマー処理をしなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9−25433号公報
【特許文献2】特開昭58−21687号公報
【特許文献3】特公昭60−42222号公報
【特許文献4】特開平1−138282号公報
【特許文献5】特開平5−117595号公報
【特許文献6】特開昭64−83254号公報
【特許文献7】特開平10−1473号公報
【特許文献8】特開2007−246479号公報
【特許文献9】特開2008−56649号公報
【特許文献10】特開平7−258248号公報
【特許文献11】特開平5−246779号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】真空49、(2006)、618〜623(中山景次 著)
【非特許文献2】表面技術、Vol. 58 (2007)、No.12、733〜738
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述のように、上記表面処理と接着材を用いた歯科材料の接着において、接着力あるいは耐水性、耐久性に関しては、歯科の臨床に用いる上で充分に満足のいくものではなく、依然として改善の余地があった。さらに、溶液中で接着性重合性単量体は不安定であるために、これを含むプライマーや接着材の保存安定性が悪く、接着力が接着性重合性単量体の濃度に影響されるなど、種々の問題点を有している。さらに、上記接着性重合性単量体の効果は貴金属あるいは非貴金属のどちらか一方において強く発現し、他方においては比較的弱い接着力しか発現しないために、プライマー組成物の選択性は著しく制限されている。
【0017】
そこで、本発明では、貴金属合金等の歯科材料と歯科用接着材等との接着性の改善と、耐水性および耐久性の改善を付与することができ、さらに簡便に歯科材料の表面処理が可能な歯科材料用表面改質材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定の改質材を表面処理に用いた場合、改質材により引き起こされたトライボケミカル反応により歯科材料表面に改質化合物が結合されて、貴金属合金製等の歯科材料と歯科用接着材等との接着性を向上させ、優れた耐水性および耐久性を付与することができ、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明に係る歯科材料用表面改質材は、以下のとおりである。
【0019】
本発明の歯科材料用表面改質材は、歯科材料への衝突および/または摩擦により、トライボケミカル反応を引き起こす歯科材料用表面改質材であり、当該トライボケミカル反応によって、前記歯科材料表面の原子と結合する官能基(a1)および、当該歯科材料表面と歯科用合着材または接着材との接着性を向上させる官能基(a2)を有する改質化合物(A)が、担体粒子(B)に担持されてなることを特徴とする。
【0020】
担体粒子(B)は、セラミックスであることが好ましく、アルミナであることがより好ましい。
本発明の歯科材料用表面改質材において、担体粒子(B)の重量平均粒径は、1〜500μmであることが好ましい。
【0021】
本発明の歯科材料用表面改質材において、改質化合物(A)は、チオリン酸系化合物、チオリン酸クロリド系化合物、トリアジンジチオン誘導体、チオウラシル誘導体およびチオクト酸誘導体からなる群から選択される化合物であることが好ましい。
【0022】
本発明の歯科材料用表面改質材において、改質化合物(A)は、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、トリメリット酸誘導体系化合物、カルボン酸系化合物およびリン酸系化合物からなる群から選択される化合物であることが好ましい。
【0023】
本発明の歯科材料用表面改質材において、改質化合物(A)は、無機粒子(B)に、0.0005〜10μmの平均厚さで担持されていることが好ましい。
本発明の歯科材料用表面改質材において、改質化合物(A)と担体粒子(B)との重量比((A)/(B))は、0.001/99.999〜50/50であることが好ましい。
【0024】
本発明の歯科材料用表面改質材は、金属製歯科材料への衝突および/または摩擦が気相中にて行われるために使用されることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の歯科材料用表面改質材は、歯科材料の表面処理に使用した場合、改質材の衝突および/または摩擦によって物理的に微細凹凸を歯科材料表面に形成するとともに、トライボケミカル反応により該表面に、改質化合物を高密度に結合させることができる。この表面改質は、以下の(1)〜(3)のような特性を有する。
【0026】
(1)歯科材料に含有されている貴金属元素等が、改質材の衝突および/または摩擦により、外界に露出するとほぼ同時に改質化合物と貴金属元素等が直接接触する。そして、歯科材料表面と歯科用接着材等との接着性を向上させることができ、従来のプライマー処理において問題となっていたように、歯科材料表面に生成する水酸基、酸化膜、吸着する水分子などの影響を受けにくく、歯科材料表面に改質化合物を高密度で結合させることができる。
【0027】
(2)トライボケミカル反応は、非常に高いエネルギーを発するので、歯科材料表面が貴金属と非貴金属のいずれの金属およびその合金からできたものであっても、表面に存在する原子の種類にかかわらず、該表面に改質化合物を結合させることができる。
【0028】
(3)歯科材料用表面改質材を使用した表面処理は、短時間かつ簡便に行われるので、例えば、実験室や技工室のみならず、歯科診療室のチェアサイドで完了することができる。
【0029】
このように、本発明の歯科材料用表面改質材は、歯科材料の表面処理に使用することで、該表面に物理的かつ化学的な表面改質を施すことができる。そのため、この対象物表面と、歯科材料表面の元素種の関係なく、レジン系接着材等の歯科用接着材等との接着性を改善させて、高い接着耐久性・耐水性を発揮することができる。
【0030】
具体的には、歯科治療において、修復物、補綴装置、インプラント上部構造等の歯科材料を、本発明の歯科材料用表面改質材を使用して表面処理すると、歯科用接着材等と歯科材料との間の接着性を強固にすることができ、接着材からが歯科材料が脱離しにくくなるとともに、歯科材料が破損しにくくなる。さらに、本発明の歯科材料用表面改質材を使用して表面処理すると、破損した歯科材料を修理した場合も、歯科用接着材等の被着面が小さくても、強力かつ耐久性のある接着が可能となるために、歯科材料の耐久性が改善され、歯科治療のために切削する歯質の量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明に係る歯科材料用表面改質材を、噴射して、歯科材料へ吹き付け、衝突および/または摩擦させて、トライケミカル反応を発生させるための装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る歯科材料用表面改質材は、歯科材料への衝突および/または摩擦により、トライボケミカル反応を引き起こす歯科材料用表面改質材であり、当該トライボケミカル反応によって、前記歯科材料表面の原子と結合する官能基(a1)および、当該歯科材料表面と歯科用合着材または接着材との接着性を向上させる官能基(a2)を有する改質化合物(A)が、担体粒子(B)に担持されてなることを特徴とする。以下、本発明に係る歯科材料用表面改質材について具体的に説明する。
【0033】
まず、本発明の歯科材料用表面改質材の用途は、歯科材料表面の改質であるが、ここで歯科材料とは、歯牙の硬組織における病的な欠損に対しての機能回復を目的とした材料、あるいは審美性の回復・向上を目的とした材料を指し、例えば、ポーセレン製等のラミネートベニヤ、レジン床や金属床の有床義歯、硬質レジン前装冠や硬質レジンジャケット冠等のクラウン、コーピング材、DBS(ダイレクトボンディングシステム)の矯正用ブラケット、保定装置、床型矯正装置、金属製やセラミック製のインレーやアンレー、ブリッジなどの、通常の歯科治療で使用される補綴物や非補綴物が挙げられる。
【0034】
なお、これらの歯科材料の材質としては、金属、セラミックス、およびこれらの複合材料が挙げられる。さらに、歯科材料の材質としては、上記金属、セラミックスなどをフィラーとして含むレジン系複合材料も使用できる。上記金属としては、金、白金、銀、パラジウム、コバルト、クロム、ニッケル、チタン、鉄、スズ、亜鉛、銅等の純金属およびこれらの合金が挙げられる。上記セラミックスとしては、シリカ、ジルコニアセラミック、アルミナセラミック、ジルコニアセラミックと酸化イットリウムとを含む複合セラミック(部分安定化ジルコニア)、リューサイト結晶やアパタイト結晶などを含むガラスセラミック、およびこれらのセラミックスと金属酸化物および/またはP25とを含む複合セラミックスなどが挙げられる。ここで、複合セラミックスに含まれる金属酸化物としては、例えば、BaO、Na2O、Al23、TiO2、La23、MgO、CaO等が挙げられる。
【0035】
上述のレジン系複合材料としては、具体的には、硬質レジン、ハイブリッドセラミックス、コンポジットレジンなどが挙げられる。
本発明の担体粒子に担持される改質化合物(A)は、歯科材料への衝突および/または摩擦により、トライボケミカル反応が引き起こされた際に、このトライボケミカル反応によって歯科材料表面の原子と結合する官能基(a1)および、歯科材料表面と歯科用合着材または接着材との接着性を向上させる官能基(a2)を有する。
【0036】
ここで、官能基(a1)としては、歯科材料の材質により適宜選択することができる。具体的には、歯科材料表面が金属、または、フィラーとして金属粉(チタン等)を含む支台築造用コンポジットレジン等のような、金属を含むレジン系複合材料である場合、加水分解性アルコキシ基、チオリン酸基、チオリン酸クロリド基、トリアジンジチオン基、チオウラシルチオクト酸基、チオクト酸基などが挙げられる。また、歯科材料表面がセラミックス、またはセラミックスを含むレジン系複合材料である場合、官能基(a1)としては、加水分解性アルコキシ基、トリメリット酸基、カルボン酸基、リン酸基等が挙げられる。
【0037】
また、官能基(a2)としては、歯科用合着材または歯科用接着材を構成する高分子と、または重合時にその単量体と化学的に結合(共有結合)し得る官能基(a2−1)または、歯科用合着材または歯科用接着材との親和性を向上させて、接着性を向上させる官能基(a2−2)である。
【0038】
官能基(a2−1)としては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、エポキシ基(グリシジル基)、メルカプト基、イソシアネート基、ウレイド(カルバミド)基、ハロゲン基などが挙げられる。これらの官能基は、歯科用合着材または歯科用接着材を構成する高分子と、またはその単量体と重合時に、結合し得るものである。なお、官能基(a2−1)と上記高分子との結合、または単量体との重合時における結合は、例えば、加熱や光照射等によって生じる酸、塩基、ラジカル等による化学反応によって生じる。
【0039】
官能基(a2−2)としては、エチレングリコール基、水酸基、ジスルフィド基等が挙げられる。
改質化合物(A)は、上記官能基(a1)および官能基(a2)を有する限り特に限定されるものではない。
【0040】
歯科材料表面がセラミックス、またはセラミックスを含むレジン系複合材料である場合、改質化合物(A)は、シラン系、チタン系、アルミニウム系のカップリング剤であることが好ましい。このようなシラン系カップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリ(トリメチルシロキシ)シラン、ω−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルペンタメチルジシロキサン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。
【0041】
また、上記チタン系カップリング剤としては、例えば、プロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート等が挙げられる。
【0042】
上記アルミニウム系カップリング剤としては、例えば、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
また、歯科材料表面がセラミックス、またはセラミックスを含むレジン系複合材料である場合、改質化合物(A)として、上記カップリング剤の他にも、トリメリット酸誘導体系化合物、カルボン酸系化合物、リン酸系化合物、ホスホン酸系化合物が例示される。なお、トリメリット酸誘導体系化合物、カルボン酸系化合物、リン酸系化合物とは、官能基(a1)として、それぞれ、トリメリット酸基、カルボン酸基、リン酸基を有する化合物である。
【0043】
上記トリメリット酸誘導体系化合物としては、例えば、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸(4−MET)やその無水物(4−META)が挙げられる。
また、上記[カルボン酸系化合物としては、11−(メタ)アクリロイルオキシー1,1−ウンデカンジカルボン酸(MAC−10)が挙げられる。
【0044】
リン酸系化合物としては、2−メタアクリロイルオキシエチルアシドホスフェート(PM1)、ビス(2−メタアクリロイルオキシエチル)ホスフェート(PM2)、10−メタクリロキシデシルジハイドロジェンフォスフェート(MDP)、6―メタクリロキシヘキシルホスホノアセテートなどが挙げられる。
【0045】
ところで、審美性の回復・向上を目的として、ジルコニア、ジルコニアに酸化イットリウム等を添加して安定化させた部分安定化ジルコニアなどのジルコニア系セラミックスがジャケット冠のコ−ピング材や、セラミックスインレ−やアンレ−等のフレーム材に適用されている。これらを、支台に接着する際に、γ−メタクリロキシプロピルメトキシシラン等のシランカップリング剤の溶液と酸性基含有重合性単量体の溶液を分包し、使用する直前に混合して、該歯科材料にプライミングして、両者の接着性を向上させている。しかし、このカップリング剤は水酸基が表面に多く残存するシリカ等の無機酸化物には効果的であるが、水酸基が表面に極端に少ないか皆無なジルコニア系セラミックス製歯科材料に対しては、カップリング剤とジルコニアとが相互作用しにくい。そのために、その表面に歯科用接着材が十分に接着しなかったり、長期間水中に浸漬すると接着力が低下し、耐久性が劣ったりする。このような問題を解決する観点から、改質化合物(A)として、ジルコニアと反応可能な、ネオペンチル(ジアリル)オキシトリメタクリロイルジルコネ−ト、10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェ−ト等が使用されることが好ましい。
【0046】
また、歯科材料表面が金属、または金属を含むレジン系複合材料である場合、改質化合物(A)は、チオリン酸基含有化合物、チオリン酸クロリド基含有化合物、トリアジンジチオン誘導体、チオウラシル誘導体、チオクト酸誘導体であることが好ましい。
【0047】
上記チオリン酸基含有化合物とは、官能基(a1)として、リン酸基のリン原子に直接結合する4つの酸素原子の少なくとも1つが硫黄原子に置換された官能基(チオリン酸基)を有するとともに、官能基(a2)を有するリン酸誘導体である。
【0048】
該チオリン酸基において、リン原子と、酸素もしくは硫黄原子を含んでいてもよい炭素鎖、酸素あるいは硫黄原子を介して、官能基(a2)とが少なくとも1つ結合したものでもよく、官能基(a2)は、直接、該リン原子と結合していても良い。ここで、リン原子と、酸素または硫黄原子を含んでいてもよい炭素鎖を介しての、官能基(a2)との結合において、該官能基(a2)は、炭素鎖の炭素原子を介して結合していてもよく、炭素鎖に酸素または硫黄原子が含まれる場合は、酸素または硫黄原子を介して結合していてもよい。
【0049】
チオリン酸基含有化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表わされることが好ましい。
【0050】
【化1】

また、上記チオリン酸クロリド基含有化合物とは、官能基(a1)として、上記チオリン酸基中の水酸基のうち少なくとも一つが塩素原子に置換された基(チオリン酸クロリド基)を有するとともに、官能基(a2)を有する化合物である。上記のチオリン酸基含有化合物と同様に、チオリン酸クロリド基において、リン原子と、酸素または硫黄原子を介して、官能基(a2)とが少なくとも1つ結合したものが好ましいが、官能基(a2)は、直接、該リン原子と結合していても良い。このようなチオリン酸クロリド基含有化合物としては、例えば、下記一般式(2)で表わされる。
【0051】
【化2】

上記トリアジンジチオン誘導体とは、官能基(a1)としてトリアジンジチオン基を有するとともに、官能基(a2)を有する化合物である。上記トリアジンジチオン誘導体は、好ましくは1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオンであり、さらに好ましくは、トリアジン環の6位にて、官能基(a2)を有するものである。
【0052】
上記チオウラシル誘導体とは、官能基(a1)としてチオウラシル基を有するとともに、官能基(a2)を有する化合物である。
上記チオクト酸誘導体とは、官能基(a1)としてチオクト基を有するとともに、官能基(a2)を有する化合物である。例えば、チオクト酸誘導体としては、このチオクト酸の末尾7、8位炭素にジスルフィドが結合した複素五員環を有するものが挙げられる。このようなチオクト酸誘導体は、そのカルボン酸にて官能基(a2)を有するものが好ましい。
【0053】
上述の改質化合物(A)の中でも、官能基(a2)としてビニル基を有するトリアジンジチオン誘導体が特に好ましい。このようなビニル基を有するトリアジンジチオン誘誘導体としては、6−(4−ビニルベンジル−n−プロピル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオン(VBATDT)等が好適な例として例示される。
【0054】
なお、改質化合物(A)として、官能基(a1)、(a2)を有する限り、通常の金属製歯科材料の接着に用いられるプライマーに含有されている接着性重合性単量体(機能性モノマー)が好適に用いることが出来る。つまり、常法において、プライマー性能を有するものは、改質化合物(A)として性能を発揮すると見なして良い。
【0055】
改質化合物(A)の分子量が過度に大きい場合、1分子あたりの官能基(a1)数が大きくなるものの、官能基(a1)の活性を殆ど失わせない状態で改質化合物(A)を生成することは困難であることがある。その上、比較的低分子ならば各官能基がトライボケミカル反応にて歯科材料表面の原子と結合しやすいが、改質化合物(A)の分子量が過度に大きい場合、実際上、高い結合性能は期待し難いことがある。したがって、改質化合物(A)の分子量は、過度に高いことは好ましくなく、低分子量であることが好ましい。具体的な分子量は、特に限定されるものではないが、好ましくは10000以下、より好ましくは3000以下、更に好ましくは1000以下である。
【0056】
本発明の歯科材料用表面改質材を構成する担体粒子(B)は、歯科材料表面に改質材を衝突および/または摩擦させた場合に、トライボケミカル反応を引き起こす機能を有し、少なくとも摩擦を起こせる材料である必要があるが、この反応を引き起こすことが可能ならば特に限定されるものではない。
【0057】
担体粒子(B)の具体的な材料としては、強いトライボケミカル反応を引き起こす材料(反応可能材料)が好ましく、例えば金属や合金(鉄、タングステン、チタン、ニッケル、コバルト等)、半導体元素、セラミックス(アルミナ、シリカ、ジルコニア等)やその他の無機化合物(窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等)、ポリカーボネート等の硬質プラスチックス、ガラス、あるいはそれらの混合物や複合物等が挙げられる。
【0058】
これらの中でも、硬さ、安定性、保存性、低為害性の観点から、セラミックスが好ましく、特にアルミナが好ましい。
場合によっては、トライボケミカル反応性が低い(上述の材料に比べて摩擦性が低い)材料(低反応性材料)で構成されたマトリクス中に、上述のような、トライボケミカル反応を引き起こす材料(反応可能材料)のドメインが散在していたり、低反応性材料のコアの表面が反応可能材料のクラッドで被覆されていたりしても良い。なお、低反応性材料としては、軟質ポリエチレン、軟質ポリアクリルアミド、シリコン樹脂等の軟質樹脂が挙げられる。
【0059】
ただし、歯科材料用表面改質材に十分なトライボケミカル反応性を付与するためには、改質化合物(A)も含めた表面改質材全体(上記低反応性材料を含む場合もある。)を100重量%とした場合において、当該担体粒子(B)に、反応可能材料が、好ましくは10重量%以上、より好ましくは50重量%以上、更に好ましくは70重量%以上含まれる。
【0060】
改質化合物(A)を、担体粒子(B)に担持して、歯科材料用表面改質材を調製する手段は特に限定されるものではない。例えば、改質化合物(A)を含む溶液に担体粒子(B)を浸漬した後に取り出し、乾燥させて溶媒を除去して、粒子表面にコーティングしてもよく、改質化合物(A)を含む溶液を担体粒子(B)に噴霧してもよく、改質化合物(A)の原料(A´)を担体粒子(B)表面において化学反応させて、原料(A´)から改質化合物(A)を生成して、担体粒子(B)表面に堆積させてもよい。
【0061】
なお、粒子同士の凝集は、粒子の表面設計や当該化合物の溶媒などの媒体種類や濃度、乾燥雰囲気や温度、粒子間の距離等を調節することにより、抑制可能ではあるが、担持工程または乾燥工程において、適度な振動を与えたり、篩にかけたり、超音波をかけるなど、表面改質材からなる凝集体を積極的に分解する操作を含む工程を採用してもよい。
【0062】
但し、改質材を調製するにあたり、特に改質化合物を担体粒子(B)に含浸させる態様においては、改質化合物(A)が中心部に局在して表層部での分布が少ないことは好ましくない。
【0063】
あるいは、担体粒子(B)の表面形状を多孔質にするなどの、改質化合物(A)が有効に含浸し得る構造に形成しておいて、改質化合物(A)を含浸させるという担持形態であっても良い。
【0064】
特に含浸させる形態においては、改質化合物(A)は、液体または粘性体のような流動体(溶液、分散体)の状態にて担持することが可能である。そのような場合などにおいては、極薄い封止材を最外層に配しても良い。また、当該化合物のみにて、担持されていても良いが、必要に応じて、溶剤やその他の助剤を若干含ませることにて、改質化合物(A)の担持を補助しても良い。
【0065】
また、歯科材料用表面改質材は、改質化合物(A)を最外層において、輸送の際の振動程度では剥落しない程度の保持力にて担持していることが好ましい。
歯科材料用表面改質材の平均粒径は、好ましくは1〜500μm、より好ましくは10〜200μm、更に好ましくは25〜125μmである。歯科材料用表面改質材の平均粒径が1μm未満であると、改質化合物(A)そのものが歯科材料表面に付着し、積層され、その結果、歯科材料への接着が弱くなるおそれがある。一方、歯科材料用表面改質材の平均粒径が500μmを超えると、該表面処理によって生じる歯科材料表面の微小な凹凸が少なくなり、これに伴って、歯科材料表面へ塗布される接着材の実質的な表面積が減少してしまう恐れがある。
【0066】
また、本発明の歯科材料用表面改質材で、歯科材料に表面処理を施し、この歯科材料を接着材で接着し、室温に1時間、37℃の水道水中に24時間浸漬した後、500サイクルの水温4℃と60℃の水中に交互に浸漬する熱サイクル操作を行った後、万能試験機(株式会社島津製作所社製;商品名「AGS−10kNG」、剥離速度:0.5mm/min)を用いて、求められるせん断接着強さ(MPa)を(F1)とする。一方、改質化合物(A)を担持していない担体粒子(B)で、歯科材料に表面処理を施し、さらに同様の改質化合物(A)でプライマー処理したこと以外は同様にして求められるせん断接着強さ(MPa)を(F2)とする。この場合、上記(F1)と(F2)とは、以下の関係にあることが好ましい。
【0067】
まず、せん断接着強さの強度比((F1)/(F2))は、好ましくは1.2、より好ましくは1.4、更に好ましくは2以上である。
また、せん断接着強さの強度差((F1)−(F2)は、好ましくは5MPa以上、より好ましくは7MPa以上、更に好ましくは10MPa以上である。
【0068】
歯科材料用表面改質材において、担体粒子(B)に担持される改質化合物(A)の平均厚さとしては、好ましくは0.0005〜10μm、より好ましくは0.001〜1μm、更に好ましくは0.005〜0.2μmである。
【0069】
上記平均厚さが0.0005μm未満であると、担体粒子に改質化合物(A)が十分に担持されない場合があり、一方、上記平均厚さが10μmを超えると、調製の際に、粒子が凝集して操作性が悪くなりやすく、保存安定性が低下することとなる。したがって、上記平均厚さが上記範囲にある場合、改質材の調製の際に、粒子状である表面改質材が凝集して操作性が悪くなったり、保存安定性が低下したりすることがなく、十分に改質化合物(A)を担体粒子(B)に担持させることができる。
【0070】
なお、前記平均厚さではなくて、歯科材料用表面改質材全体を100重量%とした場合、改質化合物(A)の重量%を調節しても、改質材の調製の際に、粒子が凝集して操作性が悪くなったり、保存安定性が低下したりすることがなく、十分に改質化合物(A)を担体粒子(B)に担持させることができる。このような観点から、改質化合物(A)と前記担体粒子(B)との重量比((A)/(B))が、0.001/99.999〜50/50であることが好ましく、0.01/99.99〜10/90であることがより好ましく、0.1/99.9〜1/99であることがさらに好ましい。
【0071】
また、歯科材料用表面改質材の重量平均粒径は、好ましくは1〜500μm、より好ましくは10〜200μm、更に好ましくは25〜125μmである。ここで、重量平均粒径は、LA−910(HORIBA社製粒度分析計)を用いてレーザー光回折散乱法(測定波長632.8nm)により求めた値である。
【0072】
表面改質材を歯科材料に衝突および/または摩擦させて、トライボケミカル反応を引き起こす態様としては、特に限定されるものではないが、例えば、必要に応じて、対象箇所を洗浄、風乾してから、表面改質材を乾燥空気などの気体媒体にて、高速に加速して、対象箇所に吹き付けるといった通常の歯科用サンドブラスト処置を準用することで上記反応を引き起こすことが可能である。このトライボケミカル反応は、通常、液体媒体中で行われるのではなく、室温の空気中のような気体雰囲気中にて行われるものであり、本発明の表面改質材は、歯科材料に対して、通常、歯科材料への衝突が気相中にて行われるために使用され、この衝突は、例えば、図1に示されるような噴射装置10を用いて行われる。
【0073】
具体的には、本発明の表面改質材11を、圧縮空気12により圧力をかけて、表面改質材11をノズル13から被着体(歯科材料)の表面に噴射して、歯科材料表面が改質される。この噴射により、歯科材料のごく表層が破壊される。そして、破壊された表層には、歯科材料に含有されている金属やシリカ等が露出するとともに、この部分に局所的かつ急激なエネルギーが発生し、活性化状態が出現する。この活性化状態下で、該表面に露出した金属やシリカ等と改質化合物(A)とは、官能基(a1)を介して結合する。また、歯科材料表面には、改質化合物(A)に含まれる官能基(a2)が存在するために、歯科材料と歯科用合着材または接着材との間の接着性は向上される。
【0074】
本発明の表面改質材を用いたトライボケミカル処理(表面改質処理)は、単独で、対象物である歯科材料表面を改質して、いずれの貴金属とその合金に対しても充分な接着力、優れた耐水性および耐久性などの効果を発揮する。
【0075】
さらに、本発明の表面改質材を用いたトライボケミカル処理は、単独でもよいが、この処理の後に公知のプライマーを塗布したり、接着性重合性単量体を含有するレジン系材料と組み合わせて使用したりすることもできる。このように使用することで、本発明の改質材とその他の処理等との相乗効果により、歯科材料として、非貴金属、貴金属、合金の金属種類を問わずに、さらに歯科材料と歯科用合着材または接着材との接着性を向上させることができるとともに、良好な耐水性および耐久性も発揮することができる。
【0076】
改質材の噴射処理の程度を示すパラメータP(g/mm2)は、処理時間と噴射量率(時間当たりに噴射される粒子量)の積である噴射された粒子量W(g)に比例し、処理すべき材料の面積S(mm2)に反比例し、下記式にて表わされる。
【0077】
【数1】

前記パラメータPは、好ましくは0.002〜0.3g/mm2、より好ましくは0.007〜0.1g/mm2、更に好ましくは0.01〜0.05g/mm2である。前記パラメータPが0.002g/mm2未満であると、十分なトライボケミカル反応が発生せず、接着不良の原因となる恐れがあり、一方、前記パラメータPが0.3g/mm2を超えると、歯科材料表面を過度に痛め、適合が悪くなり、処理時間が長くなりすぎる等のデメリットが問題となる。
【0078】
また、十分な効果が得られるトライボケミカル反応を発生させるためには、噴射速度も重要である。簡易な速度の定量方法として以下の方法を例示する。即ち、床から5cmの高さに噴射装置の噴射口を水平に向けて設置する。そして、空気中において、その噴射口から、重量平均粒径50μmのアルミナ粒子を水平方向に噴射して、水平方向に噴射口から計測した前記粒子の落下位置を測定する。落下した粒子が最も多い落下位置を平均落下位置Fとする。前記Fは噴射速度と比例するものであるから、前記噴射装置の噴射速度を評価するパラメータとして用いることが可能である。噴射ノズルから被照射物までの間隔を1 cmとした場合、前記Fは、好ましくは0.2〜10m、より好ましくは0.4〜5m、更に好ましくは0.7〜2.4mである。前記Fが0.2m未満であると、十分なトライボケミカル反応が発生せず、接着不良の原因となる恐れがあり、一方、前記Fが10mを超えると、歯科材料表面を過度に痛める等のデメリットが発生する恐れがある。
【0079】
また、歯科用合着材または接着材としては、通常の歯科材料を接着・固定する合着材または接着材であり、上記官能基(a2)と結合性あるいは親和性を有する限り、特に限定されない。なお、上記官能基(a2)と重合性のある炭素2重結合を含むモノマーおよび重合開始剤を成分として含有する重合硬化型の歯科用合着材または接着材(レジン材料やレジンコンポジット材料)を上記接着材として適用すると、より強固な接着性を発揮することができる。このような歯科用の合着材や接着材は、トリアルキルホウ素(TBB等)あるいはその部分酸化物(TBBO等)および(メタ)アクリレート系モノマーからなることが好ましい。この(メタ)アクリレート系モノマーとしては、メチルメタクリレート(MMA)および4−メタクリロキシエチルトリメリット酸無水物(4−META)などを挙げることができる。
【0080】
なお、この硬化性組成物には、本発明の改質材の特性を損なわない範囲内で、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)粉末のような他の成分が配合されていてもよい。すなわち、この硬化性組成物の代表的な例としては、「スーパーボンドC&B」、「スーパーボンドモノマー液」、「スーパーボンドポリマー粉末クリア」(いずれもサンメディカル社製)を好適に使用することができる。
【実施例】
【0081】
以下実施例により本発明の歯科材料用表面改質材を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0082】
[歯科材料用表面改質材(S微粒子)]
重量平均粒径50μmのアルミナ微粒子 10gを、2重量%VBATDT(6−(4−ビニルベンジルプロピル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオン)アセトン溶液(V−プライマー(サンメディカル社製)) 2g中に1時間浸漬した。その後、浸漬されたアルミナ微粒子を取り出し、大気中で24時間乾燥して、アルミナ微粒子を100重量部に対して、表面改質材として、0.4重量部のVBATDTが担持された表面改質材(以下、S微粒子と称する)を得た。
なお、アルミナ微粒子の重量平均粒径を、LA−910(HORIBA社製粒度分析計)を用いてレーザー光回折散乱法(測定波長632.8nm)により求めた。
【0083】
[歯科用接着材組成物(試験用接着材)]
まず、5重量% 4−META(4−メタクリロキシエチルトリメリット酸無水物)のMMA(メチルメタクリレート)溶液を調製した。次いで、このMMA溶液に、重合開始剤として10重量%TBB部分酸化物(TBB 1モルに対して酸素原子1モルを付加)を添加してポリメチルメタクリレートを生成して、試験用接着材(4−META/MMA−TBBレジン)を得た。なお、この接着材組成物において、液と固形分との重量比率は、液:固形分=5:3であった。
【0084】
[実施例1]
鋳造した直径10mm、厚さ2.5mmの金銀パラジウム合金(重量比Ag:Cu:Pd:Au:その他の金属元素(Zn,Ir,In)=46:20:20:12:2)製円板の平坦な表面を600番の耐水研磨紙で研削して、水洗、乾燥して、試験金属板を得た。その後、S微粒子を図1に示される装置(モリタ社製アドアブレーダープラス)に入れ、4.5kgf/cm2の圧力を加え、ノズル(F値1.3m)から1cmの距離に位置する試験金属片表面に10秒間噴射した(サンドブラスト処理)。その後、試験金属板に圧縮空気を吹き付けてS微粒子を吹き飛ばした。
【0085】
次いで、試験金属板に、マスキングテープを貼布して、直径5 mmの円形の被着面を形成した。さらに、この被着面に試験用接着材を塗布し、この接着材上に直径8mm、長さ5mmのアクリル製の棒を圧接して、試験片を作製した。
【0086】
この試験片を大気中で室温に1時間放置し、さらに37℃の水道水中に24時間浸漬した。その後、試験片に、水温4℃と60℃の水中に交互に浸漬する熱サイクル操作を500回行った。この熱サイクル操作を経た試験片を、せん断接着試験に供した。このせん断接着試験にて、万能試験機(株式会社島津製作所社製;商品名「AGS−10kNG」)を用いて、剥離速度:0.5mm/minの条件で、試験片が破断した時の値から接着強さを求め、試験片6個における結果の平均値を算出した。
【0087】
[比較例1]
S微粒子の代わりに、表面改質材を担持していない重量平均粒径50μmのアルミナ微粒子を使用したこと以外は、実施例1と同様に試験片を作製し、この試験片についてせん断接着試験を行った。結果を表1に示す。
【0088】
[比較例2]
S微粒子の代わりに、表面改質材を担持していない重量平均粒径50μmのアルミナ微粒子を試験金属板に吹き付け、その後、金属表面に2重量%VBATDTアセトン溶液をプライマー塗布したこと以外は、実施例1と同様に試験片を作製し、この試験片についてせん断接着試験を行った。結果を表1に示す。
【0089】
[実施例2]
試験用接着材として、4−META/MMA−TBBレジンの代わりに、4−METAを含有しない接着材(MMA−TBBレジン)を用いたこと以外は、実施例1と同様に試験片を作製し、この試験片についてせん断接着試験を行った。結果を表1に示す。
【0090】
ここで使用されたMMA−TBBレジンは、4−METAを含有しないこと以外は4−META/MMA−TBBレジンと同じ組成であり、同様に調製された。なお、4−METAは、表面接着性を改質する性質を有する。
【0091】
[比較例3]
S微粒子の代わりに、表面改質材を担持していない重量平均粒径50μmのアルミナ微粒子を使用したこと以外は、実施例2と同様に試験片を作製し、この試験片についてせん断接着試験を行った。結果を表1に示す。
【0092】
[比較例4]
S微粒子の代わりに、表面改質材を担持していない重量平均粒径50μmのアルミナ微粒子を試験金属板に吹き付け、その後、金属表面に2重量%VBATDTアセトン溶液をプライマー塗布したこと以外は、実施例2と同様に試験片を作製し、この試験片についてせん断接着試験を行った。結果を表1に示す。
【0093】
【表1】

表1によると、表面改質材を担持するアルミナ微粒子を用いたサンドブラスト処理を施された試験片では、比較例1〜4の場合と比べて、接着強さの平均値は著しく高かった。
【0094】
一方、表面改質材を担持していないアルミナ微粒子によるサンドブラスト処理の場合(比較例1、比較例3)、接着強さの平均値は著しく低くかった。さらに、表面改質材を担持していないアルミナ微粒子単独によるサンドブラスト処理後に、表面改質材と同一成分であるプライマーを塗布した場合(比較例2、比較例4)であっても、比較例1や比較例3の場合と比べては、接着強さの平均値は、若干改善されたものの、実施例1,2の場合と比べては著しく低い値であった。
【0095】
このような結果から、歯科材料にブラスト処理をして表面接着性を改善するにあたって、表面改質材を担持したアルミナ微粒子は、アルミナ微粒子単独の場合はもとより、アルミナ微粒子単独でブラスト処理した後でプライマー処理した場合にも見られない、相乗的な表面改質効果を発揮することが確認された。
【0096】
さらに、表面接着性を改質する性質を有する4−METAを含む接着材(4−META/MMA−TBBレジン)を使用した場合(実施例1)、接着強さの平均値は、MMA−TBBレジンを使用した場合に比べて、良好な結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科材料への衝突および/または摩擦により、トライボケミカル反応を引き起こす歯科材料用表面改質材であり、
当該トライボケミカル反応によって、前記歯科材料表面の原子と結合する官能基(a1)および、当該歯科材料表面と歯科用合着材または接着材との接着性を向上させる官能基(a2)を有する改質化合物(A)が、担体粒子(B)に担持されてなることを特徴とする歯科材料用表面改質材。
【請求項2】
前記担体粒子(B)が、セラミックスであることを特徴とする請求項1に記載の歯科材料用表面改質材。
【請求項3】
前記担体粒子(B)が、アルミナであることを特徴とする請求項2に記載の歯科材料用表面改質材。
【請求項4】
前記担体粒子(B)の重量平均粒径が、1〜500μmであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の歯科材料用表面改質材。
【請求項5】
前記改質化合物(A)が、チオリン酸系化合物、チオリン酸クロリド系化合物、トリアジンジチオン誘導体、チオウラシル誘導体およびチオクト酸誘導体からなる群から選択される化合物であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の歯科材料用表面改質材。
【請求項6】
前記改質化合物(A)が、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、トリメリット酸誘導体系化合物、カルボン酸系化合物およびリン酸系化合物からなる群から選択される化合物であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の歯科材料用表面改質材。
【請求項7】
前記改質化合物(A)が、無機粒子(B)に、0.0005〜10μmの平均厚さで担持されていることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の歯科材料用表面改質材。
【請求項8】
前記改質化合物(A)と前記担体粒子(B)との重量比((A)/(B))が、
0.001/99.999〜50/50であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の歯科材料用表面改質材。
【請求項9】
前記金属製歯科材料への衝突および/または摩擦が気相中にて行われるために使用されることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の歯科材料用表面改質材。

【図1】
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【公開番号】特開2010−235541(P2010−235541A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87081(P2009−87081)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(592093578)サンメディカル株式会社 (61)
【Fターム(参考)】