説明

歯科用アルジネート印象材組成物

【課題】
本発明は、アルジネート印象材の利点の一つである高い弾性歪みを維持したまま、印象材硬化体の強度(具体的には、破砕抗力及び引き裂き強度)の向上を実現した歯科用アルジネート印象材を提供することを課題とする。
【解決手段】
歯科用アルジネート印象材に対して、繊維状有機フィラー、好適にはフィブリル化する等して得た微細繊維状の有機フィラーを含有させた歯科用アルジネート印象材組成物であって、該繊維状有機フィラーの含有量は、アルジネート印象材組成物全体を100質量部として1〜20質量部であることを好適としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用アルジネート印象材組成物に関し、詳しくは、フィラー成分の少なくとも一部として繊維状有機フィラーを含有する歯科用アルジネート印象材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯牙等を修復するために、鋳造歯冠修復処理または欠損補綴処理等を必要とする際には、i)まず、支台歯等の型を取る、ii)次に、その採得された型を用いて、石膏製等の模型を作製する、iii)作製された模型を元に補綴物を作製し、作製された補綴物を支台歯等に装着することが行われる。この支台歯等の型を印象と称し、印象を採得するための硬化材料を印象材と呼んでいる。この印象材として、アルジネート印象材、寒天印象材、シリコーンゴム印象材、ポリサルファイドゴム印象材、あるいは、ポリエーテルゴム印象材等が用いられる。ここで、ここで、シリコーンゴム印象材、ポリサルファイドゴム印象材、ポリエーテルゴム印象材等などは高強度で弾性歪みや永久歪みが小さいという利点を有しているが、印象を採得する際に口腔内や歯列にアンダーカットを有する場合や広範囲の印象を採得する場合には、その硬化体の弾性歪みが小さいために、印象採得後の歯牙からの撤去が困難になり、場合によっては抜歯に至ることもある。そのため、動揺歯やアンダーカットを有する印象を採得する場合には、弾性歪みが大きく印象硬化体の撤去が容易なアルジネート印象材が好んで用いられる。
【0003】
アルジネート印象材を用いて印象を採得する作業は、以下の手順で行う。i)歯列を模した印象用トレーに、アルジネート印象材を構成する各成分を混練したものを盛り付ける。ii)口腔内の歯牙を包み込むように、印象材を盛り付けたトレーを歯牙に押し付ける。iii)アルジネート印象材が硬化した後に、アルジネート印象材とトレーとを一体として歯牙から外して、口腔外に撤去する。iV)撤去後、アルジネート印象材硬化体からなる歯牙の型枠に石膏を盛りつけ歯顎模型を作製する。
【0004】
アルジネート印象材は、アルギン酸塩と、石膏などのゲル化反応剤と、シリカフィラーや珪藻土などの充填材とから成り、この混合物に対して、大量の水を加えることで、石膏からカルシウムイオンを溶出させ、アルギン酸塩がカルシウムイオンと反応することで硬化する。
【0005】
しかしながら、アルジネート印象材は弾性歪みが大きく印象硬化体の撤去が容易な反面、印象硬化体が弱いといった欠点を有している。印象材硬化体の強度が不足すると、マージン部などの印象材が薄くなる部分において、硬化体のちぎれ、はがれなどが発生し正確に印象採得ができない場合があり、改良が求められていた。
【0006】
こうした中で、印象硬化体の強度や採得時の操作性等を向上させることを目的として、従来、珪藻土やシリカ、タルク、セピオライトなどの無機フィラーを含有させることが提案され用いられている(特許文献1、2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−139618号公報
【特許文献2】特開平10−194909号公報
【特許文献3】特開2000−53520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来技術には次のような問題がある。従来技術で提案されている珪藻土やシリカなどのフィラーを配合すると、印象材硬化体の強度は向上するが、その効果はマージン部などの印象材が薄くなる部分などにおいては、必ずしも十分ではなかった。十分な強度を得ようとすると、その配合量が多くなり、強度が向上すると共に、硬化体が硬くなり、弾性歪みが小さくなってしまう。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、従来の施策では難しかった、アルジネート印象材の利点の一つである高い弾性歪みを維持したまま、印象材硬化体の強度向上を実現した歯科用アルジネート印象材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、繊維状有機フィラーを配合した歯科用アルジネート印象材組成物とすることにより、上記問題点を解決するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、繊維状有機フィラーを含有してなることを特徴とする歯科用アルジネート印象材組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来のアルジネート印象材と比較して、高い弾性歪みを維持したまま、硬化体の強度が大幅に向上したアルジネート印象材組成物が提供できる。これにより、印象を採得する際に、口腔内や歯列にアンダーカットを有する場合や印象対象の歯牙に動揺歯が含まれる場合であっても、印象材硬化体を歯牙から撤去しやすく、マージン部などの印象材が薄くなる部分での印象材硬化体のちぎれやはがれ等が抑制され、精度の高い印象を採得することが可能となり、極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
−繊維状有機フィラー−
アルジネート印象材中に、繊維状有機フィラーを含有させることにより、アルジネート印象材の特徴である高い弾性歪みを維持したまま、硬化体の強度を大幅に向上させることができる。この理由は明らかではないが、繊維状有機フィラーは、アルジネート印象材を混練した際に、フィラー同士が互いに絡まり易い。すなわち、本発明の歯科用アルジネート印象材では、斯様な繊維の絡み合いの結果として硬化体の強度が予想以上に向上するものと思われる。さらに、繊維状有機フィラーは、粒状のフィラーと異なり柔軟性を有している為、弾性歪みに対しても悪影響を及ぼさないものと考えられる。
【0014】
ここで、同じ繊維状フィラーでも、同形状の無機フィラーを用いたのでは、一定の強度の向上は見られるものの、同時に弾性歪みが大きく低下してしまうため好ましくない。
【0015】
本発明で使用する繊維状有機フィラーは、その形状が繊維状を有する有機フィラーであれば、特に限定されること無く公知のものが使用できる。ここで上述した「繊維状」とは、繊維の平均長が繊維の平均径の50倍以上、好ましくは80〜3000倍のものを意味する。一般に、繊維の平均径は100μm以下であり、繊維の平均長は10mm以下であるのが好ましい。
【0016】
このような繊維状有機フィラーを具体的に例示すると、セルロース、ポリアミド、アラミド、ポリエステル、ポリアラミド、アクリル、ビニル、モダクリル、ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン等を挙げることができる。これらの繊維状有機フィラーは、2種類以上を混合して用いることができる。また、これらの中でも、強度の向上効果が高く、さらには生体安全性の観点及び、入手が容易であることから、セルロースが好適である。
【0017】
本発明において上述した繊維状有機フィラーは、微細繊維状のものが強度の向上効果が特に顕著であることから好ましい。具体的には、平均繊維径が0.005〜2μmの範囲、より好ましくは0.01〜1μmの範囲のものが好ましい。このような微細繊維状のものは、アルジネート印象材との接触面積が向上し、アンカー効果によって強度が更に向上するものと考えられる。こうした微細繊維状の有機フィラーは、繊維状有機フィラーを高圧ホモジナイザーなどの機械的せん断力により微細に粉砕して、所謂フィブリル化(ミクロフィブリル化)することにより得ることができる。
【0018】
このようなフィブリル化した繊維状有機フィラーは、例えばダイセル社製の「セリッシュ(製品名)」「ティアラ(製品名)」などの市販品を好適に使用することができる。
【0019】
なお、平均繊維径及び平均繊維長は、試料をレーザー顕微鏡で観察し、繊維長の全域にわたって焦点があっているものから任意に選択した100本の繊維の直径及び繊維長を計測し、その平均値を求めることで測定することができる。
【0020】
アルジネート印象材に対する上記繊維状有機フィラーの含有量は、特に限定されないが、アルジネート印象材組成物全体を100質量部として、1〜20質量部であることが好ましい。更に好ましくは、5〜10質量部である。繊維状有機フィラーの配合量が1質量部より少ないと、印象材硬化体強度が低下する傾向にあり、20質量部を超えて配合すると、ペーストの操作感に悪影響を及ぼす傾向にある。
【0021】
−アルジネート印象材−
本発明において、上記繊維状有機フィラーを含有させるアルジネート印象材としては、アルギン酸塩を主成分とする基材と、硫酸カルシウムを主成分とする硬化材とからなる公知のものが何ら制限されることなく用いられる。アルジネート印象材の具体的な種類として、アルギン酸塩および硫酸カルシウムを主成分とする粉体に水を混合して用いる粉末タイプ、あるいはアルギン酸塩を主成分とする基材ペーストと、硫酸カルシウムを主成分とする硬化材ペーストとを混合して用いるペーストタイプが挙げられる。
【0022】
さらに詳しく述べると、粉末タイプのアルジネート印象材は、アルギン酸カリウムやアルギン酸ナトリウムなどのアルギン酸塩;硫酸カルシウム2水塩(二水石膏)や硫酸カルシウム半水塩(半水石膏)、硫酸カルシウム無水塩(無水石膏)などのゲル化反応剤;さらに通常は、リン酸3ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムなどのゲル化調節剤;シリカ、珪藻土などのフィラー;酸化亜鉛、酸化マグネシウム、フッ化チタンカリウム等の無機化合物(硬化促進剤)、を主成分として配合した粉末混合体であり、使用直前に必要分だけ歯科医師、或いは歯科衛生士らが規定量の印象材粉末と水とを練和してペースト化して印象採得に用いるものである。上記粉末混合体は、前記の全成分が配合された保存形態であっても良いが、2包装以上に分包されており、使用時に混合されて該粉末混合体とされる保存形態であっても良い。
【0023】
一方、ペーストタイプの印象材は、上記アルギン酸塩、フィラー、水を混練することによって予め均一なペースト状とした基材ペーストと、ゲル化反応材とゲル化調節剤、充填材、無機化合物、とを疎水性溶媒を用いてペースト化した硬化材ペーストとからなり、使用直前に両者を規定量ずつ練和混合して均一なペーストとした後に印象採得に用いるものである。
【0024】
こうした粉末タイプおよびペーストタイプのうち、混練装置との併用により、混練作業の省力化・自動化が容易であることから、ペーストタイプであることが特に好ましい。斯様なペーストタイプの場合、繊維状有機フィラーは基材ペーストもしくは硬化材ペーストのどちらかまたはその両方に含有させることが可能である。そして、アルジネート印象材の使用に際しては、基材ペーストと硬化材ペーストとを混練して使用する。混練は手作業により実施することもできるが、上記したように混練作業の省力化・自動化の観点から専用の混練装置を用いて実施することが有利である。また、基材ペーストと硬化材ペーストとの混合比率は特に制限されるものではないが、通常は、硬化材ペーストが1質量部に対して、基材ペーストは1質量部〜4質量部の範囲内であることが好ましい。また、これら2種類のペーストは、保存性を確保するため、通常は、アルミパックなど包装袋や収納容器等の公知の収納部材を利用して密封保存される。
【0025】
また、粉末タイプの場合、繊維状有機フィラーは、前記粉末混合物、或いはその分包に、繊維状有機フィラーを含ませれば良い。斯様な粉末タイプのアルジネート印象材の使用に際しては、粉末と、水とを使用直前に混練して使用する。ここで、水は、アルジネート印象材を構成する粉末成分とは別包装として、製品パッケージに加えてもよいが、通常は、アルジネート印象材の利用者が・適宜調達することが好ましい。また、水の代わりに後述する各種の添加剤を溶解した水溶液を用いても良い。この場合、アルジネート印象材の製品パッケージには、粉末成分の他に添加剤水溶液が加えられることになる。繊維状有機フィラーは、こうした水や添加剤水溶液に分散させても良い。
【0026】
−添加剤−
本発明のアルジネート印象材には、以上に説明した各成分以外にも、必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、界面活性剤、アミノ酸化合物、不飽和カルボン酸重合体、香料、着色料、抗菌剤、防腐剤、pH調整剤等が挙げられる。これらの添加剤は、粉末タイプまたはペーストタイプのアルジネート印象材の、いずれの包装に配合しても良い。
【0027】
−製造方法−
本発明のアルジネート印象材の製造方法としては特に限定されず、アルジネート印象材が市場に提供される形態に応じて公知の製造方法が適宜選択できる。たとえば、アルジネート印象材が、粉宋タイプの場合、粉末を構成する各成分を任意の順番で混合・攪拌することで、均一かつムラの無い粉末を得ることができる。また、粉末タイプのアルジネート印象材が、粉末に加えて添加剤水溶液も有する場合、水中に、添加剤水溶液を構成する水以外の各添加剤成分を任意の順番で分散・溶解させることができる。
【0028】
また、本発明のアルジネート印象材が、ペーストタイプの場合、ペースト製造に利用できる公知の攪拌混合機を用いて、基材ペーストおよび硬化材ペーストを製造することができる。ここで、攪拌混合機としては、たとえば、ボールミルのような回転容器型混合混練機、リボンミキサー、コニーダー、インターナルミキサー、スクリュー二一ダー、ヘンシェルミキサー、万能ミキサー、レーディゲミキサー、バタフライミキサー、等の水平軸または垂直軸を有する固定容器型の混合混練機を利用することができる。さらに、基材ペーストや硬化材ペーストの製造に際しては、上述した各種の混合混練機を2種類以上組み合わせて利用することもできる。
【0029】
−アルジネート印象材の使用態様−
本発明のアルジネート印象材の使用に際しては、一般的に、少なくともアルジネート印象材から混練物を作製した後、この混練物を専用のトレーに盛りつける。そして、トレーに盛りつけられた混練物を歯牙等の目的物に圧接することで印象を採取する。その後、印象が採取された混練物が硬化して硬化物となった後、この硬化物を基に石膏模型を作製する等の後工程がさらに実施される。ここで、トレーとしては公知のトレーが制限なく利用できるが、一般的には金属製トレーまたはレジン製トレーが利用される。金属製トレーの材質としては、ステンレス、錫合金、アルミニウム、メッキ処理あるいは樹脂コーティングされた黄銅等が挙げられる。また、レジン製トレーの材質としてはポリメタクリル酸エステル等が挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下に本発明を、実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
<<原料の略称>>
後述する実施例および比較例のアルジネート印象材の作製に用いた各種原料の略称は以下の通りである。なお、平均繊維径および平均繊維長はレーザー顕微鏡(キーエンス社製「VK−9710」)を使用し、繊維長の全域にわたって焦点があっているものから任意に選択した100本を計測した平均値とした。
【0031】
1.繊維状有機フィラー
A:ポリアラミド 平均繊維径:90μm、平均繊維長:9.0mm
B:セルロースファイバー 平均繊維径:40μm、平均繊維長:4.0mm
C:フィブリル化セルロース 平均繊維径:0.9μm、平均繊維長:1.0mm
D:フィブリル化セルロース 平均繊維径:0.3μm、平均繊維長:0.5mm
E:フィブリル化セルロース 平均繊維径:0.05μm、平均繊維長:0.1mm
2.その他フィラー
F:珪藻土
G:ポリメチルメタクリレートフィラー:平均粒子径20μm、重量平均分子量=80万
H:セピオライト(繊維状無機フィラー):平均繊維径:0.4μm、平均繊維長:0.5mm
2.使用するアルジネート印象材
ペーストタイプアルジネート印象材:
二水石膏4g、無水石膏9g、酸化マグネシウム3.2g、流動パラフィン6g、界面活性剤(デカグリセリトリオレート)1g、リン酸3ナトリウム0.3g、珪藻土3gを量り取り、印象材用小型練和器「スピンクルII」(モリタ社製)を用いて混練し、表1に示す組成の硬化材ペーストを調整し使用した。さらにアルギン酸カリウム3.5g、精製水60g、珪藻土10gを量り取り、印象材用小型練和器を用いて混練し、表1に示す組成の基材ペーストを調整し使用した。
【0032】
【表1】

【0033】
粉末タイプアルジネート印象材:
粉材A:市販品A
粉材B:市販品B
粉材C:市販品C
<<評価方法および評価基準>>
後述する実施例および比較例のサンプルについての「弾性歪み」、「破砕抗力」及び「引き裂き強度」の評価方法および評価方法は、以下の通りである。
【0034】
(1)弾性歪み:
アクリル板の上に内径31mm、外径38mm、高さ16mmの円柱状モールドAを置き、その内部に印象材練和物を満たした後、その中へ内系13mm、外径25mm、高さ20mmの円柱状モールドBを挿入し、上面を別のアクリル板で圧接し、ストップウォッチをスタートさせた。14分経過後にモールドBから印象材硬化体サンプル(13mmφ×20mm)を取り外し、セイキ社製圧縮試験機(「PEACOCK」 製品名)にセットした。15分経過後に以下の手順で圧縮試験を開始した。まず、100gf/cmの荷重を加え、ストップウォッチをスタートし、30秒経過時のダイヤルゲージを読み取る(A)。60秒時に、総重量が1000gf/cmになるよう70秒時までの間に静かに荷重を加え、100秒時のダイヤルゲージを読み取る(B)。A、B値から弾性歪(εe)を次式から求めた。なお、同試験を3回行い、その平均値を弾性歪みとした。
【0035】
弾性歪(εe)=(A−B)/20×100(%)
(2)破砕抗力:
アクリル板の上に内径31mm、外径38mm、高さ16mmの円柱状モールドAを置き、その内部に印象材練和物を満たした後、その中へ内系13mm、外径25mm、高さ20mmの円柱状モールドBを挿入し、上面を別のアクリル板で圧接し、ストップウォッチをスタートさせた。4分後にモールドBから印象材硬化体サンプル(13mmφ×20mm)を取り外し、セイキ社製多様途型定荷重圧縮試験機にセットした。5分経過時に5Kgの荷重をかけて硬化体が破砕するかどうかを確認した。荷重を1Kg単位で増やすこと以外は同様の試験を繰り返し、印象材硬化体が破砕した時点で評価を終了した。印象材硬化体が破砕する直前の荷重を測定した。測定は3回行い、その平均値を破砕抗力とした。
【0036】
(3)引き裂き強度:
JIS K6253に規定されているJIS−3号ダンベル状モールドに印象材練和物を流し込み、アクリル板で圧接して、15分後に印象材硬化体をモールドから取り外し、試験片を5個作製した。島津社製オートグラフを用いて、ロードセル容量5Kgf、クロスヘッドスピード10mm/minで破断時の引き裂き強度を測定した。引き裂き強度は測定値の平均値とした。
【0037】
<ペーストタイプのアルジネート印象材の評価>
(実施例1)
表1に示した硬化材ペーストを22.5g、表1に示した基材ペーストを62.5g、繊維状有機フィラーAを15g量り取り、印象材用小型練和器を用いて混練した。この混練物を用いて硬化体の、弾性歪、破砕抗力及び引き裂き強度を評価した。印象材組成及び結果を表2に示したが、アルジネート印象材の高い弾性歪を維持したまま、良好な破砕抗力及び引き裂き強度が得られる結果であった。
【0038】
(実施例2〜実施例9)
表2に記載した組成の印象材を用いる以外は、実施例1と同等の方法で硬化体の弾性歪、破砕抗力及び引き裂き強度を評価した。結果を表2に示したが、いずれの場合においても、アルジネート印象材の高い弾性歪を維持したまま、比較例1と比較して大幅に破砕抗力及び引き裂き強度が向上した。
【0039】
【表2】

【0040】
(比較例1〜比較例4)
表3に記載した組成の印象材を用いる以外は、実施例1と同等の方法で硬化体の弾性歪、破砕抗力及び引き裂き強度を評価した。結果を表3に示した。
【0041】
【表3】

【0042】
比較例1は、実施例1の印象材において、本発明の要件である繊維状有機フィラーを配合しなかった例であるが、弾性歪みが良好な値を示す以外は、破砕抗力、及び引き裂き強度が低下した。
【0043】
比較例2は、実施例1の印象材において、本発明の要件である繊維状有機フィラーの代わりに、非繊維状の無機フィラーを配合した例であるが、硬化体は剛直なものが得られるものの、アルジネート印象材の特徴である柔らかさが失われ、弾性歪が大きく低下している。また、引き裂き強度も大きく低下した。
【0044】
比較例3は、実施例1の印象材において、本発明の要件である繊維状有機フィラーの代わりに、非繊維状無機フィラーを配合した例であるが、十分な硬化体強度が得られないどころか、引き裂き強度が大きく低下した。
【0045】
比較例4は、本発明の要件である繊維状有機フィラーの代わりに、繊維状無機フィラーを配合した例であるが、硬化体は剛直なものが得られるものの、アルジネート印象材の特徴である柔らかさが失われ、弾性歪が大きく低下している。また、引き裂き強度も大きく低下している。
【0046】
<粉末タイプのアルジネート印象材の評価>
(実施例10)
粉末タイプアルジネート印象材の粉材Aを30g、水を55g及び、繊維状有機フィラーDを15g量り取り、印象材用小型練和器「スピンクルII」(モリタ社製)を用いて混練した。得られた混練物を用いて硬化体の、弾性歪、破砕抗力及び引き裂き強度を評価した。印象材組成及び評価結果を表2に示すが、アルジネート印象材の高い弾性歪を維持したまま、比較例1と比較して大幅に破砕抗力及び引き裂き強度が向上する結果であった。
【0047】
(実施例11〜実施例12)
表2に記載した組成の印象材を用いる以外は、実施例10と同等の方法で硬化体の弾性歪、破砕抗力及び引き裂き強度を評価した。結果を表2に示すが、いずれの場合においても、アルジネート印象材の高い弾性歪を維持したまま、比較例1と比較して大幅に破砕抗力及び引き裂き強度が向上した。
(比較例5〜比較例10)
表3に記載した組成の印象材を用いる以外は、実施例10と同等の方法で硬化体の弾性歪、破砕抗力及び引き裂き強度を評価した。
【0048】
比較例5〜比較例10は、比較例1〜4と同様、本発明の要件を満たしていない場合であるが、何れの場合も所望の効果が得られない結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状有機フィラーを含有してなることを特徴とする歯科用アルジネート印象材組成物。
【請求項2】
繊維状有機フィラーが、平均繊維径が0.01〜1μmの微細繊維状である、請求項1記載の歯科用アルジネート印象材組成物。
【請求項3】
繊維状有機フィラーの材質がセルロースである、請求項1または請求項2記載の歯科用アルジネート印象材組成物。
【請求項4】
繊維状有機フィラーの含有量が、アルジネート印象材組成物全体を100質量部として1〜20質量部である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科用アルジネート印象材組成物。

【公開番号】特開2013−95665(P2013−95665A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236435(P2011−236435)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】