説明

歯科用インプラント用接着剤

【課題】歯科用インプラントと生体組織、特に歯肉上皮等の軟組織との結合性を強化する歯科用インプラント用接着剤を提供する。
【解決手段】細胞接着性人工ペプチド(P)を含有する歯科用インプラント用接着剤。該ペプチド(P)としては、細胞接着シグナルを表す最小アミノ酸配列を有し、特に、Arg Gly Asp配列、Tyr Ile Gly Ser Arg配列、及びIle Lys Val Ala Val配列より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。さらに、該接着剤には、シランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤を含有させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用インプラント(人工歯根)用接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、医科及び歯科領域において、人工関節、人工歯根など多くの金属製インプラントが臨床に用いられている。金属材料としては、その生体内安定性や生体適合性から、チタン及びチタン合金が、主に使用されている。チタン及びチタン合金は、元来、骨組織との結合性が良好であることが知られている。また、さらにその結合性を向上するために、サンドブラストや酸エッチングといった表面の粗化処理(特許文献1、2参照)や、ハイドロキシアパタイト等による被覆を施したインプラント(特許文献3)が開発されている。
【特許文献1】特開2004−337616号公報
【特許文献2】特表2006−501867号公報
【特許文献3】特開2005−034333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これまでのインプラントは、骨組織への結合強化を目的としたものがほとんどであり、軟組織への親和性を考慮したものではない。特に、歯科用インプラントでは、その一部が口腔内に露出していることから、その歯肉上皮組織との結合の脆弱性が、歯周病の原因となり、結果としてインプラントの長期維持が困難となる問題が多く、未だその問題を解決する有効な手段がないのが実状である。すなわち、本発明の目的は、歯科用インプラントと生体組織、特に歯肉上皮等の軟組織との結合性を強化する歯科用インプラント用接着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、鋭意研究を重ねてきた結果、特定の組成からなる接着剤を使用することにより上記目的を達成することを見いだし本発明に到達した。すなわち、本発明の歯科用インプラント用接着剤は、細胞接着性人工ペプチド(P)を含有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の歯科用インプラント用接着剤は、歯科用インプラントと生体組織、特に歯肉上皮等の軟組織との結合性に優れる。したがって、本発明の歯科用インプラント用接着剤は、歯周組織と強固に結合できるため、歯周病の原因となることがなく、埋入したインプラントの長期間の維持が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
細胞接着性人工ペプチド(P)は、細胞接着シグナルを現わす最小アミノ酸配列を含んでいる。なお、「細胞接着性」とは、特定の最小アミノ酸配列が細胞のインテグリンレセプターに認識され細胞が基材に接着しやすくなる性質を意味する(大阪府立母子医療センター雑誌、第8巻 第1号、58〜66頁、1992年)。
【0007】
細胞接着シグナルを現わす最小アミノ酸配列(X)としては、例えば、「病態生理、第9巻 第7号、527〜535頁、1990年」や「大阪府立母子医療センター雑誌、第8巻 第1号、58〜66頁、1992年」に記載されているもの等が用いられる。
【0008】
これらの最小アミノ酸配列(X)の中で、Arg Gly Asp配列、Leu Asp Val配列、Leu Arg Glu配列、His Ala Val配列、Arg Glu Asp Val配列(1)、Tyr Ile Gly Ser Arg配列(2)、Pro Asp Ser Gly Arg配列(3)、Arg Tyr Val Val Leu Pro Arg配列(4)、Leu Gly Thr Ile Pro Gly配列(5)、Arg Asn Ile Ala Glu Ile Ile Lys Asp Ile配列(6)、Ile Lys Val Ala Val配列(7)、Leu Arg Glu配列、Asp Gly Glu Ala 配列(8)、Gly Val Lys Gly Asp Lys Gly Asn Pro Gly Trp Pro Gly Ala Pro配列(9)、Gly Glu Phe Tyr Phe Asp Leu Arg Leu Lys Gly Asp Lys配列(10)、及びTyr Lys Leu Asn Val Asn Asp Ser配列(11)、Ala Lys Pro Ser Tyr Pro Pro Thr Tyr Lys配列(12)、Asn Arg Trp His Ser Ile Tyr Ile Thr Arg Phe Gly配列(13)、Thr Trp Tyr Lys Ile Ala Phe Gln Arg Asn Arg Lys配列(14)、Arg Lys Arg Leu Gln Val Gln Leu Ser Ile Arg Thr配列(15)及びPro His Ser Arg Asn配列(16)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、細胞接着性の観点等から、さらに好ましくはArg Gly Asp配列、Tyr Ile Gly Ser Arg配列(2)、Ile Lys Val Ala Val配列(7)、Arg Lys Arg Leu Gln Val Gln Leu Ser Ile Arg Thr(15)及びPro His Ser Arg Asn配列(16)からなる群より選ばれる少なくとも1種、特に好ましくはArg Gly Asp配列、Tyr Ile Gly Ser Arg配列(2)及びIle Lys Val Ala Val配列(7)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0009】
細胞接着性人工ペプチド(P)は、細胞接着性の観点から、前記最小アミノ酸配列(X)を1分子中に少なくとも1個有することが好ましく、さらに好ましくは1分子中に2〜50個、つぎにさらに好ましくは1分子中に3〜30個、特に好ましくは1分子中に5〜20個、最も好ましくは1分子中に13個である。
【0010】
(P)は、(P)の熱に対する安定性の観点から、細胞接着シグナルを現わす最小アミノ酸配列以外に、アミノ酸配列として、Gly Ala Gly Ala Gly Ser配列(Y)をさらに含んでなることが好ましい。(Y)を含んでなる場合、アミノ酸配列(Y)の含有量は、熱に対する安定性の観点から、(P)の1分子中に、2〜10,000個有するものが好ましく、さらに好ましくは1分子中に10〜3,000個、特に好ましくは1分子中に30〜1,000個である。また、熱的安定性の観点から、アミノ酸配列Gly Ala Gly Ala Gly Ser(Y)は、(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)a(aは任意の整数)のような連続した繰り返しの形で含まれることが好ましく、aの好ましい範囲は2〜33であり、さらに好ましくは3〜23、特に好ましくは4〜13である。
【0011】
(P)が(X)及び(Y)を含有する場合、(P)中の(X)と(Y)との個数の比率[(X)/(Y)]は、細胞接着性と熱に対する安定性の観点から、0.002〜10が好ましく、さらに好ましくは0.01〜2、特に好ましくは0.05〜0.5である。また、細胞接着性人工ペプチドがβターン構造を取りやすい観点から、アミノ酸配列Arg Gly Aspとアミノ酸配列(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)aとが交互に位置することが好ましい。
【0012】
細胞接着性人工ペプチド(P)は、人工的に製造されるものであり、有機合成法(酵素法、固相合成法及び液相合成法等)、及び遺伝子組み換え法等によって容易に製造できる。有機合成法に関しては、「生化学実験講座1、タンパク質の化学IV(1981年7月1日、日本生化学会編、株式会社東京化学同人発行)」又は「続生化学実験講座2、タンパク質の化学(下)(昭和62年5月20日、日本生化学会編、株式会社東京化学同人発行)」に記載されている方法等が適用できる。遺伝子組み換え法に関しては、特許第3338441号公報に記載されている方法等が適用できる。有機合成法及び遺伝子組み換え法とも、(P)を作製できるが、(P)のアミノ酸配列を容易に設計・変更でき、(P)を安価に大量生産できるという観点等から、遺伝子組み換え法が好ましい。
【0013】
(P)は、(P)のインプラント基材に対する結合性の観点から、細胞接着シグナルを現わす最小アミノ酸配列以外に、アミノ酸配列として、Arg Lys Leu Pro Asp Ala配列(17)(Z)をさらに含んでなることが好ましい。(P)がアミノ酸配列Arg Lys Leu Pro Asp Ala(Z)を有してなる場合、(P)の1分子中に少なくとも1個有すればよいが、インプラント基材に対する結合性の観点から、1分子中に2〜50個有するものが好ましく、さらに好ましくは1分子中に3〜30個、特に好ましくは1分子中に5〜20個有するものである。
【0014】
細胞接着性人工ペプチド(P)にアミノ酸配列Arg Lys Leu Pro Asp Ala(Z)を含有させる手段としては、遺伝子組み換えによる方法、及び反応性基{水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、並びに1級又は2級アミノ基等}を有するアミノ酸残基に対して化学結合{共有結合、イオン結合及び/又は水素結合等}させる方法がある。化学結合させる方法としては、公知の方法が適用でき、特開2007−51127号公報等に記載の方法が挙げられる。化学結合のうち、結合の強さの観点等から、共有結合が好ましい。これらの反応性基のうち、結合形成の容易さの観点から、水酸基、カルボキシル基及び1級アミノ基が好ましく、さらに好ましくは水酸基及びカルボキシル基、特に好ましくは水酸基である。化学結合形成反応には反応溶媒を使用してもよく、反応溶媒としては公知のものが使用でき、例えば、水、臭化リチウム水溶液、過塩素酸リチウム水溶液、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルアセトアミド及びテトラヒドロフランが挙げられる。
【0015】
細胞接着性人工ペプチド(P)の好適な例を以下に示す。
Arg Gly Asp配列の13個と(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)9配列(18)の12個とを有し、これらが交互に位置する構造を有するMn約11万のペプチド{「プロネクチンF」、プロネクチンは三洋化成工業(株)の登録商標(日本及び米国)である。三洋化成工業(株)製<以下同じ>};
Arg Gly Asp配列の5個と(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)3配列(19)の5個とを有しこれらが交互に位置する構造を有するMn約2万のペプチド(「プロネクチンF2」);
Arg Gly Asp配列の3個と(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)3配列の3個とを有しこれらが交互に位置する構造を有するMn約1万のペプチド(「プロネクチンF3」);
Arg Gly Asp配列の6個とArg Lys Leu Pro Asp Ala配列(17)の6個と(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)9配列(18)の12個とを有し、これらがArg Gly Asp配列、(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)9配列、Arg Lys Leu Pro Asp Ala配列、(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)9配列の順に交互に位置する構造を有するMn約11万のペプチド(「プロネクチンFT」);
「プロネクチンF」のSer残基に対してアミノ酸配列Arg Lys Leu Pro Asp Alaを化学結合したMn約12万のペプチド(「プロネクチンFT2」)等。
【0016】
(P)の数平均分子量は、細胞接着性、インプラント基材に対する結合性、熱に対する安定性の観点から、300〜3,000,000が好ましく、さらに好ましくは1,000〜1,000,000、特に好ましくは3,000〜300,000である。なお、(P)の数平均分子量は、SDS−PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)法で、(P)を分離し、泳動距離を標準物質と比較することによって求めるものである(以下、同じである)。
【0017】
本発明の歯科用インプラント用接着剤は、細胞接着性人工ペプチド(P)を含有する。(P)以外に、シランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤を含有することは、(P)のインプラント基材に対する結合性を強固にするために好ましい。
【0018】
シランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤としては、特開2006−282915号公報に記載の物質等が利用できる。細胞接着性人工ペプチド(P)との化学結合形成の観点から、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、チタンラクテート等を用いることが好ましい。
【0019】
シランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤を含有する場合、(1)(P)とシランカップリング剤とを単純に混合する、(2)(P)とシランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤との間の結合反応を行い側鎖にアルコキシシリル基を導入した細胞接着性人工ペプチドとする等のいずれでもよい。なお、(2)の場合、化学結合させる方法としては、公知の方法が適用でき、例えば、特開2007−51127号公報等に記載の方法が挙げられる。縮合反応には反応溶媒を使用してもよく、反応溶媒としては公知のものが使用でき、例えば、水、臭化リチウム水溶液、過塩素酸リチウム水溶液、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルアセトアミド及びテトラヒドロフランが挙げられる。
【0020】
また、(2)の場合、使用した(P)とシランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤との間に化学結合が形成されることが好ましいが、使用したすべての(P)がシランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤と化学結合する必要はなく、その一部分がシランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤と化学結合していてもよい。(P)をシランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤と化学的に結合させる場合、化学反応に関与する(P)の官能基としては、カルボキシル基、アミノ基及び水酸基等が挙げられる。
【0021】
また、本発明の接着剤は、シランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤を使用する場合、(P)とシランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤との化学結合形成を促進する観点から、公知の縮合剤(カルボニルジイミダゾール化合物、カルボジイミド化合物等)等を含んでいても良い。
【0022】
シランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤を含有する場合、その含有量は、インプラント基材に対する結合性の観点から、(P)の重量に基づいて、0.001μg/g〜1000g/gが好ましく、さらに好ましくは0.01μg/g〜100g/g、特に好ましくは0.1μg/g〜10g/g、最も好ましくは1μg/g〜1g/gである。
【0023】
本発明の歯科用インプラント用接着剤に含有される細胞接着性人工ペプチド(P)の含有量は、接着剤の全重量に基づいて、0.001μg/g〜1,000mg/gが好ましく、さらに好ましくは0.01μg/g〜100mg/g、特に好ましくは0.1μg/g〜10mg/g、最も好ましくは1μg/g〜1mg/gである。
【0024】
本発明の歯科用インプラント用接着剤は、(P)以外に、天然高分子材料(コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸、キチン、キトサン等)及び合成高分子材料(ポリエチレングリコール等)等を含有していても良い。
【0025】
また、性状としては、特に制限はなく、例えば、溶液(溶剤として例えば、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、エタノール等)、分散液(分散媒として例えば、水、PBS、エタノール等)、軟膏、ゲル、フィルム及びスポンジ等が挙げられる。
【0026】
本発明の歯科用インプラント用接着剤は、(P)以外にシランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤等を含有する場合、(P)とシランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤とを混合することにより製造できる。混合装置としては、マグネチックスタラー、ボルテックスミキサー、撹拌翼を備えた混合槽等の従来公知の装置が適用できる。混合する温度としては、10〜60℃が好ましい。
本発明の接着剤をゲル状にする場合、(P)単独の溶液、または(P)とその他の高分子材料(例えば、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸等)の混合溶液を、架橋処理することにより製造できる。架橋方法としては従来公知の方法が適用でき、熱脱水架橋、電子線架橋、縮合剤による化学架橋等が適用できる。
本発明の接着剤をフィルム状にする場合、(P)単独の溶液、または(P)とその他の高分子材料(例えば、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸等)の混合溶液を、キャストし、乾燥させることで製造できる。キャストする方法としては、従来公知のアプリケーター等が使用できる。乾燥温度としては、25℃〜100℃が好ましい。
本発明の接着剤をスポンジ状にする場合、(P)単独の溶液、または(P)とその他の高分子材料(例えば、コラーゲン、ゼラチン、アルギン酸等)の混合溶液を、凍結乾燥することにより製造できる。凍結乾燥する方法としては、従来公知の方法が適用でき、超低温槽中または液体窒素中で凍結させた試料を、真空ポンプによる減圧下で溶媒を昇華させる等の方法である。
【0027】
本発明の歯科用インプラント用接着剤は、必要に応じて滅菌処理を施してもよい。滅菌方法としては、放射線滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、プラズマ滅菌、γ線滅菌、アルコール滅菌、オートクレーブ滅菌及び乾熱滅菌等が挙げられる。
【0028】
本発明の歯科用インプラント用接着剤の使用方法としては、特に制限はなく、例えば、噴霧、浸漬、塗布等の方法によりインプラント基材の表面に被覆し使用する。
また、インプラント基材は、本発明の接着剤を被覆する前に、シランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤をインプラント基材に塗布してから使用しても良い。
【0029】
本発明の歯科用インプラント用接着剤を適用できる被接着細胞としては、哺乳動物細胞が特に適している。哺乳動物としては、有袋目(カンガルー等)、霊長目(サル、チンパンジー及びヒト等)、齧歯目(リス、ネズミ及びヤマアラシ等)、鯨目(イルカ、シャチ及びクジラ等)、食肉目(イヌ、キツネ、クマ、ネコ、ライオン及びトラ等)、奇蹄目(ウマ、ロバ及びサイ等)及び偶蹄目(イノシシ、ブタ、ラクダ、シカ、ウシ、ヤギ及びヒツジ等)等の「生物学辞典(岩波書店発行、1969年)」に記載されている哺乳動物が挙げられる。哺乳動物のうち、細胞との結合性の観点から、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ラット及びマウスが好ましく、さらに好ましくはヒトである。哺乳動物細胞としては、例えば、血管に関与する細胞(血管内皮細胞、平滑筋細胞及び線維芽細胞等)、筋肉に関与する細胞(筋肉細胞等)、脂肪に関与する細胞(脂肪細胞等)、神経に関与する細胞(神経細胞等)、肝臓に関与する細胞(肝実質細胞等)、膵臓に関与する細胞(膵ラ島細胞等)、腎臓に関与する細胞(腎上皮細胞、近位尿細管上皮細胞及びメサンギウム細胞等)、肺・気管支に関与する細胞(上皮細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞及び平滑筋細胞)、目に関与する細胞(視細胞、角膜上皮細胞及び角膜内皮細胞等)、前立腺に関与する細胞(上皮細胞、間質細胞及び平滑筋細胞)、骨に関与する細胞(骨芽細胞、骨細胞及び破骨細胞等)、軟骨に関与する細胞(軟骨芽細胞及び軟骨細胞等)、歯に関与する細胞(歯肉上皮細胞、歯肉線維芽細胞、歯根膜細胞及び骨芽細胞)、及びこれらの幹細胞が挙げられる。これらの細胞のうち、細胞との結合性の観点から、特に好ましくは、歯肉上皮細胞、歯肉線維芽細胞、歯根膜細胞、骨芽細胞、骨細胞及びこれらの幹細胞である。
【0030】
インプラント材料としては、例えば、金属材料、セラミックス材料、有機高分子材料及びこれらの二種以上を含む複合材料等が使用できる。
金属材料としては、例えば、チタン、アルミニウム、コバルト、クロム、モリブデン、鉄、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、タンタル及びこれらの二種以上を含む複合材料(「移植と人工臓器(株式会社岩波書店、発行岩波講座 現代医学の基礎14)」及び特開平7−88174号公報等に記載のもの)等が挙げられる。複合材料としては、チタン合金(Ti−6Al−4V及びTi−6Al−2Nb−1Ta等)及びコバルトクロム合金等が挙げられる。これらのうち、生体親和性、骨結合性の観点から、チタン及びチタン合金が好ましい。
【0031】
セラミックス材料としては、例えば、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム{リン酸三カルシウム(TCP)[s−リン酸三カルシウム(s−TCP)等]等}、バイオガラス(SiO2−CaO−Na2O−P25)[セラビタール(SiO2−CaO−Na2O−P25−K2O−MgO)等]、CPSA[CaO−P25−SiO2−Al23]ガラス線維複合材、アパタイト−ウォラストナイト(A−W)ガラスセラミックス[SiO2−CaO−MgO−P25]、アルミナ、ジルコニア、カーボン、チタニア、サファイア、炭化珪素、窒化珪素及びこれらの二種以上を含む複合材料(「移植と人工臓器(株式会社岩波書店、発行岩波講座 現代医学の基礎14)」及び特開平7−88174号公報等に記載のもの)等が挙げられる。これらのうち、生体親和性、骨結合性の観点から、ヒドロキシアパタイト、TCP、s−TCP、バイオガラス、セラビタール、CPSAガラス線維複合材、A−Wガラスセラミックス、アルミナ、及びジルコニアが好ましく、さらに好ましくはヒドロキシアパタイトである。
【0032】
有機高分子材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエチレン及びこれらの二種以上を含む複合材料(「移植と人工臓器(株式会社岩波書店、発行岩波講座 現代医学の基礎14)」及び特開平7−88174号公報等に記載のもの)等が挙げられる。これらのうち、生体内での安定性の観点から、ポリメチルメタクリレート及びポリエチレンが好ましい。有機高分子材料の重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法)は、生体内での安定性の観点から、0.5万〜2億5,000万が好ましく、さらに好ましくは2万〜5,000万、特に好ましくは10万〜1,000万である。
【0033】
これらの二種以上を含む複合材料としては、例えば、セラミック材料と金属材料との複合材料(例えば、ヒドロキシアパタイトとチタンとの複合材料、s−TCPとチタンとの複合材料及びA−Wガラスセラミックスとチタンとの複合材料等)、金属材料と有機高分子材料との複合材料(例えば、チタンとポリメチルメタクリレートとの複合材料、及びチタンとポリエチレンとの複合材料等)及びセラミック材料と金属材料と有機高分子材料との複合材料(例えば、ヒドロキシアパタイトとチタンとポリエチレンとの複合材料等)(「移植と人工臓器(株式会社岩波書店、発行岩波講座 現代医学の基礎14」及び特開平7−88174号公報等に記載のもの)等が挙げられる。
【0034】
これらのうち、生体親和性、骨結合性の観点から、金属材料、セラミックス材料及びセラミックス材料と金属材料との複合材料が好ましく、さらに好ましくは金属材料及びセラミックス材料と金属材料との複合材料、特に好ましくはチタン、チタン合金、ヒドロキシアパタイトとチタンとの複合材料、s−TCPとチタンとの複合材料及びA−Wガラスセラミックスとチタンとの複合材料である。
【0035】
本発明の歯科用インプラント用接着剤を用いて歯科用インプラント表面を被覆した時のインプラントにおける細胞接着性人工ペプチド(P)の含有量は、細胞接着性の観点から、インプラント材料の単位表面積あたり、0.1ng/cm2〜100mg/cm2が好ましく、さらに好ましくは1ng/cm2〜10mg/cm2、特に好ましくは10ng/cm2〜1mg/cm2、最も好ましくは100ng/cm2〜100μg/cm2である。単位表面積あたりの細胞接着性ペプチドの含有量の測定方法は特に限定されないが、例えば、免疫学的測定、ラジオアイソトープラベル化による測定等が利用できる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
<実施例1>
特表平3−502935号公報中の実施例記載の方法に準じて、Arg Gly Asp配列の13個と(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)9配列(18)の12個とを有し、これらが交互に位置する構造を有するMn約11万のペプチドを遺伝子組換え大腸菌により製造し、細胞接着性人工ペプチド(P1−0)を得た。
【0038】
細胞接着性人工ペプチド(P1−0)50mgと塩酸N,N−ジメチルアミノエチルクロリド(特級試薬)150mgとを4.5M過塩素酸リチウム水溶液1.5mLに20〜40℃で溶解した後、その溶液を20〜40℃で攪拌しながら、水酸化ナトリウム(特級試薬)100mgを溶解した4.5M過塩素酸リチウム水溶液1.325mLを45〜50秒間かけて一定速度で滴下し仕込んだ。室温(25℃)で1時間攪拌したのち、反応液を分画分子量12,000〜14,000の透析膜を用いて、脱イオン水10Lに対して48時間透析した。なお、最初の12時間は、4時間経過毎に脱イオン水を交換した。得られた水溶液を、−20℃、0.1kPa以下の条件で、24時間凍結乾燥して、水溶性の細胞接着性人工ペプチド(P1−1)を得た。
【0039】
細胞接着性人工ペプチド(P1−1)3mgをガラス試験管中で乾燥(100℃、30分)した後、モレキュラーシーブス(4A 1/8)にて24時間脱水処理したDMSO(ジメチルスルフォキシド)2mLに20〜40℃で溶解した。さらに、N,N’−カルボニルジイミダゾール(特級試薬)2mgを加え、20〜40℃で溶解した。Lys Arg Lys Leu Pro Asp Ala配列(Z)からなるペプチド(「生化学実験講座1、タンパク質の化学IV(1981年7月1日、日本生化学会編、株式会社東京化学同人発行)」又は「続生化学実験講座2、タンパク質の化学(下)(昭和62年5月20日、日本生化学会編、株式会社東京化学同人発行)」に記載されている方法に準じて、有機合成法により合成した)7mgを加え、20〜40℃で20時間攪拌した。得られた反応溶液を分画分子量12,000〜14,000の透析膜を用いて、脱イオン水10Lに対して48時間透析した。なお、最初の12時間は、4時間経過毎に脱イオン水を交換した。次いで、得られた水溶液を、−20℃、0.1kPa以下の条件で、24時間凍結乾燥して細胞接着性人工ペプチド(P1−2)を得た。導入されたアミノ酸配列(Z)の平均個数は16個であった{アミノ酸配列(Z)中のLys及びArg残基に由来する1級アミノ基量の増分を公知のトリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)法[「生化学実験講座1、タンパク質の化学IV(1981年7月1日、日本生化学会編、株式会社東京化学同人発行)等]により定量し、算出した}。
【0040】
細胞接着性人工ペプチド(P1−2)を、脱イオン水に対して、100μg/gの濃度で溶解し、本発明の歯科用インプラント用接着剤(A1)を得た。
【0041】
<実施例2>
「細胞接着性人工ペプチド(P1−0)」を「Arg Gly Asp配列の3個と(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)3配列(19)の3個とを有しこれらが交互に位置する構造を有するMn約1万のペプチド(P2−0){特表平3−502935号公報に記載の方法に準じて調製した}」に変更したこと以外、実施例1と同様にして(P2−1)、(P2−2)を得、さらに実施例1と同様にして本発明の歯科用インプラント用接着剤(A2)を得た。
(P2−2)において、導入されたアミノ酸配列(Z)の平均個数は1個であった{実施例1と同様にして算出した}。
【0042】
<実施例3>
「細胞接着性人工ペプチド(P1−0)」を「Arg Gly Asp配列の48個と(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)9配列の48個とを有しこれらが交互に位置する構造を有するMn約44万のペプチド(P3−0){特表平3−502935号公報に記載の方法に準じて調製した実施例1と同様にして調製した}」に変更したこと以外、実施例1と同様にして(P3−1)、(P3−2)を得、さらに実施例1と同様にして本発明の歯科用インプラント用接着剤(A3)を得た。(P3−2)において、導入されたアミノ酸配列(Z)の平均個数は48個であった{実施例1と同様にして算出した}。
【0043】
<実施例4>
細胞接着性人工ペプチド(P1−2)及び3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランを、各々200μg/gの濃度で脱イオン水に溶解した溶液を作成し、これらを等量混合することにより本発明の歯科用インプラント用接着剤(A4)を得た。
【0044】
<実施例5>
細胞接着性人工ペプチド(P1−2)及びチタンラクテートを、各々200μg/gの濃度で脱イオン水に溶解した溶液を作成し、これらを等量混合することにより本発明の歯科用インプラント用接着剤(A5)を得た。
【0045】
<実施例6>
細胞接着性人工ペプチド(P1−0)を、脱イオン水に対して、100μg/gの濃度で溶解し、本発明の歯科用インプラント用接着剤(A6)を得た。
【0046】
<実施例7>
細胞接着性人工ペプチド(P1−0)及び3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランを、各々200μg/gの濃度で脱イオン水に溶解した溶液を作成し、これらを等量混合することにより本発明の歯科用インプラント用接着剤(A7)を得た。
【0047】
<実施例8>
細胞接着性人工ペプチド(P1−0)及びチタンラクテートを、各々200μg/gの濃度で脱イオン水に溶解した溶液を作成し、これらを等量混合することにより本発明の歯科用インプラント用接着剤(A8)を得た。
【0048】
<実施例9>
「細胞接着性人工ペプチド(P1−0)」を「Tyr Ile Gly Ser Arg配列(2)の13個と(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)9配列(18)の12個とを有しこれらが交互に位置する構造を有するMn約11万のペプチド(P4−0){特表平3−502935号公報に記載の方法に準じて調製した実施例1と同様にして調製した}」に変更したこと以外、実施例1と同様にして細胞接着性ペプチド(P4−1)、(P4−2)及び、本発明の歯科用インプラント用接着剤(A9)を得た。(P4−2)において、導入されたアミノ酸配列(Z)の平均個数は17個であった{実施例1と同様にして算出した}。
【0049】
<実施例10>
細胞接着性人工ペプチド(P4−2)及び3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランを、各々200μg/gの濃度で脱イオン水に溶解した溶液を作成し、これらを等量混合することにより本発明の歯科用インプラント用接着剤(A10)を得た。
【0050】
<実施例11>
細胞接着性人工ペプチド(P4−2)及びチタンラクテートを、各々200μg/gの濃度で脱イオン水に溶解した溶液を作成し、これらを等量混合することにより本発明の歯科用インプラント用接着剤(A11)を得た。
【0051】
<実施例12>
「細胞接着性人工ペプチド(P1−0)」を「Ile Lys Val Ala Val配列(7)の13個と(Gly Ala Gly Ala Gly Ser)9配列(18)の12個とを有しこれらが交互に位置する構造を有するMn約11万のペプチド(P5−0){特表平3−502935号公報に記載の方法に準じて調製した実施例1と同様にして調製した}」に変更したこと以外、実施例1と同様にして細胞接着性ペプチド(P5−1)、(P5−2)及び、本発明の歯科用インプラント用接着剤(A12)を得た。(P5−2)において、導入されたアミノ酸配列(Z)の平均個数は15個であった{実施例1と同様にして算出した}。
【0052】
<実施例13>
細胞接着性人工ペプチド(P5−2)及び3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランを、各々200μg/gの濃度で脱イオン水に溶解した溶液を作成し、これらを等量混合することにより本発明の歯科用インプラント用接着剤(A13)を得た。
【0053】
<実施例14>
細胞接着性人工ペプチド(P5−2)及びチタンラクテートを、各々200μg/gの濃度で脱イオン水に溶解した溶液を作成し、これらを等量混合することにより本発明の歯科用インプラント用接着剤(A14)を得た。
【0054】
<実施例15>
細胞接着性人工ペプチド(P1−2)を、脱イオン水に対して、1,000,000μg/gの濃度で溶解し、本発明の歯科用インプラント用接着剤(A15)を得た。
【0055】
<実施例16>
細胞接着性人工ペプチド(P1−2)を、脱イオン水に対して、0.001μg/gの濃度で溶解し、本発明の歯科用インプラント用接着剤(A16)を得た。
【0056】
<実施例17>
細胞接着性人工ペプチド(P1−2)を200μg/gの濃度で脱イオン水に溶解した溶液と、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランを200,000μg/gの濃度で脱イオン水に溶解した溶液を作成し、これらを等量混合することにより本発明の歯科用インプラント用接着剤(A17)を得た。
【0057】
<実施例18>
細胞接着性人工ペプチド(P1−2)を200μg/gの濃度で脱イオン水に溶解した溶液と、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランを0.0000002μg/gの濃度で脱イオン水に溶解した溶液を作成し、これらを等量混合することにより本発明の歯科用インプラント用接着剤(A18)を得た。
【0058】
<比較例1>
ウシ血清アルブミン(BSA)を、脱イオン水に対して、100μg/gの濃度で溶解し、比較用の歯科用インプラント用接着剤(A19)を得た。
【0059】
<評価1>
(ポリスチレン製マルチウェルプレートでの歯肉上皮細胞接着性評価)
評価する接着剤をポリスチレン製96ウェルプレート(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製、Code.No.35−1172)の6穴に、100μL/穴で投入後、20〜30℃で2時間放置して表面被覆を行った。アスピレーターを用いて接着剤を除去した後、生理食塩水を100μL/穴で投入し直ぐに除去する操作を2度、さらに脱イオン水で同様の操作を1度行って洗浄を行った。マウス由来歯肉上皮細胞を5万個/穴で投入し、37℃、二酸化炭素濃度5容量%のインキュベーター中にて1時間放置して接着させた。細胞懸濁液調製および細胞培養に使用する培地としては、ウシ胎児血清(FCS)1%及び上皮細胞増殖因子(EGF)1ng/mLを添加したSFM−101培地(日水製薬株式会社製)を用いた。1時間経過後、アスピレーターを用いて培地を除去し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を細胞に直接当たらないように注意しながら100μL/穴で投入し直ぐに除去する操作を2度繰り返した。次に培地を100μL/穴で添加し、さらに生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク株式会社製)を10μL/穴で添加して、37℃、二酸化炭素濃度5容量%のインキュベーター中に3時間放置した。3時間後に、ホルマザン生成量を、450nm(対照波長630nm)の吸光度でプレートリーダー(コロナ電気株式会社製MTP−32)を用いて測定した。各々の接着剤について6穴の吸光度の測定を行い、この測定値の平均値を細胞接着活性とした。これらの結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
<評価2>
(チタンプレート上での歯肉上皮細胞接着性評価)
チタンプレート(10mm×10mm)を、各接着剤の2mL中に浸漬し、20〜30℃で2時間放置した。その後、チタンプレートを取り出し、脱イオン水5mLに浸漬し直ぐに取り出す洗浄操作を3回行い、次いで、60℃の順風乾燥機の中で2時間乾燥を行った。各チタンプレートを、ポリスチレン製24ウェルプレート(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製、Code.No.35−1147)のウェル中に設置し、その上からマウス由来歯肉上皮細胞を30万個/穴で投入し、37℃、二酸化炭素濃度5容量%のインキュベーター中にて1時間放置して接着させた。細胞懸濁液調製および細胞培養に使用する培地としては、ウシ胎児血清(FCS)1%及び上皮細胞増殖因子(EGF)1ng/mLを添加したSFM−101培地(日水製薬株式会社製)を用いた。1時間経過後、チタンプレートを取り出し、PBS中に静かに浸漬して、接着していない細胞を取り除いた後、新たなポリスチレン製24ウェルプレート中に静置し、培地を500μL/穴で添加し、さらに生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク株式会社製)を50μL/穴で添加して、37℃、二酸化炭素濃度5容量%のインキュベーター中に3時間放置した。3時間後に、上清100μLを96ウェルプレートに移し、ホルマザン生成量を、450nm(対照波長630nm)の吸光度でプレートリーダー(コロナ電気株式会社製MTP−32)を用いて測定した。各々の接着剤について各6枚のチタンプレートを用いて同様の測定を行い、この測定値の平均値を細胞接着活性とした。これらの結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
表1及び表2の結果から、本発明の歯科用インプラント用接着剤は、比較例に比べて細胞の接着活性が極めて高いことがわかる。特に、チタン表面への細胞接着活性を極めて高く保つことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の歯科用インプラント用接着剤は、チタン等のインプラント基材表面に対して、歯肉上皮細胞を極めて効率良く接着させることができる。従って、本発明の歯科用インプラント用接着剤は、歯科用インプラントと歯周組織との結合性を高めることができ、埋入された歯科用インプラントが長期間維持される等の効果を奏し、歯科用インプラント用接着剤として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞接着性人工ペプチド(P)を含有することを特徴とする、歯科用インプラント用接着剤。
【請求項2】
細胞接着性人工ペプチド(P)が、細胞接着シグナルを表す最小アミノ酸配列(X)を含んでなる請求項1に記載の接着剤。
【請求項3】
細胞接着シグナルを表す最小アミノ酸配列(X)がArg Gly Asp配列、Tyr Ile Gly Ser Arg配列(2)及びIle Lys Val Ala Val配列(7)より選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の接着剤。
【請求項4】
細胞接着性人工ペプチド(P)1分子中の細胞接着シグナルを表す最小アミノ酸配列(X)が、1〜50個である請求項2又は3に記載の接着剤。
【請求項5】
細胞接着性人工ペプチド(P)が、さらにGly Ala Gly Ala Gly Ser配列(Y)を含有させてなる請求項1〜4のいずれかに記載の接着剤。
【請求項6】
細胞接着シグナルを表す最小アミノ酸配列(X)とGly Ala Gly Ala Gly Ser配列(Y)との個数の比率[(X)/(Y)]が0.002〜10である請求項5に記載の接着剤。
【請求項7】
細胞接着性人工ペプチド(P)が、さらに最小アミノ酸配列Arg Lys Leu Pro Asp Ala(Z)を含有させてなる請求項1〜6のいずれかに記載の接着剤。
【請求項8】
細胞接着性人工ペプチド(P)が、1分子中に最小アミノ酸配列Arg Lys Leu Pro Asp Ala(Z)を1〜50個有する請求項7に記載の接着剤。
【請求項9】
さらに、シランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤を含有させてなる請求項1〜8のいずれかに記載の接着剤。
【請求項10】
シランカップリング剤及び/又はチタンカップリング剤の含有量が、細胞接着性人工ペプチド(P)の重量に基づいて、0.001μg/g〜1,000g/gである請求項9に記載の接着剤。
【請求項11】
細胞接着性人工ペプチド(P)の含有量が、接着剤の全重量に基づいて、0.001μg/g〜1,000mg/gである請求項1〜10のいずれかに記載の接着剤。
【請求項12】
歯肉上皮細胞、歯肉線維芽細胞及び骨細胞及び骨芽細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞を接着させるための請求項1〜11のいずれかに記載の接着剤。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の接着剤により表面を被覆された歯科用インプラント。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載の接着剤を用いて、インプラント基材の表面を噴霧、浸漬及び塗布からなる群から選ばれる少なくとも1種の方法によりインプラント基材の表面に被覆することを特徴とする歯科用インプラントの製造方法。

【公開番号】特開2009−7339(P2009−7339A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136456(P2008−136456)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】