説明

歯科用カートリッジ式電動注射器における薬液注入速度制御方法及び装置

【課題】 麻酔液の初期注入を、「低速」の注入速度で開始し、その注入の任意の時点で、「低速」の注入速度から「中速」又は「高速」の注入速度に切り換えることができる歯科用カートリッジ式電動注射器における麻酔液の注入速度制御方法及び装置を提供する。
【解決手段】 モータの回転速度を低、中、高の三段階に切り換えられるようにし、モータを起動するスイッチを2段押しスイッチ(13)とし、カートリッジ(6)のプランジャーゴム(5)を押すプランジャーロッド(12)を最初「低速」の移動速度で移動させるため、スイッチの1段目押しにより、モータ(9)を低速で回転させ、引き続いて、プランジャーロッドを「低速」、「中速」、「高速」のいずれかの移動速度で移動させるため、スイッチの2段目押しにより、モータを、予め選択した低速、中速、高速のいずれかで回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用カートリッジ式電動注射器に関し、特に電動注射器における麻酔液のような薬液の注入速度を制御する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科の局麻注射は、歯肉切除、歯の切削、抜歯などに欠かせない。麻酔させるべき神経は、顎骨の中、歯の中を通っているため、麻酔液を神経に直接作用させることは通常行われない。多くの場合、神経の近くの骨、骨膜に針先を到達させ、麻酔液に圧力をかけて麻酔液を局所に注入し、麻酔液を局所に浸潤(染み渡らせること)させ、神経に麻酔液を作用させることによって麻酔する、所謂浸潤麻酔が主である。
【0003】
麻酔液はカートリッジに充填(1.0 mlと1.8 mlの二種類がある)されて市販されている。カートリッジは、伝統的な手動の注射器に装填され、カートリッジの先端をシールするゴムディスクを貫通して両頭注射針を注射器に装着し、麻酔液を注射針を通してカートリッジから押し出すためのプランジャーゴムがカートリッジの後端に嵌め込まれている。注射器のプランジャーを指で操作してプランジャーゴムを押すことによって麻酔液をカートリッジから押し出すための圧力が麻酔液に付与されることになる。このように、歯科局麻注射には相当な圧力を要するため、手動式注射器に代わって、近年、電動注射器が種々開発され、そして市販されている。
【0004】
電動注射器は、基本的には、モータの回転速度を減速機により減速してピニオン・ラックにより直線的に移動されるプランジャーロッドを含む。プランジャーロッドの移動速度を調整して麻酔液の注入速度(「1mlを注入するのに要する時間」と定義される)を選択出来ることが望ましいとの観点から、本出願人が開発し且つ販売している電動注射器では、麻酔液の注入速度について三段階(低(200秒/1ml)、中(100 秒/1ml)、高(60秒/1ml))が用意され、そのうちの任意所望の1つを選択することができるようになっている。注入速度の選択は、プランジャーロッドの移動速度を三段階(低(9.5mm/分)、中(14.5mm/分)、高(23.0mm/分))の何れか1つに調整すべくモータの回転速度を三段階のいずれか1つに調整することによって達成される。
【0005】
一方、歯科の局麻注射には痛みが伴うが、これは、針を歯肉に刺すときと、針を刺してから麻酔液を注射する初期段階のときの2回である。近年、針管の製造技術が進歩し、外径が細く、肉厚が薄く、内径が大きくなっているために、刺入時の痛みは軽減され、また注射し始めの痛みは、低速で注射することによって軽減されることが知られるようになった。上記の電動注射器において注入速度の低速設定はその趣旨から出たものである。したがって、注入速度を低速に設定して注射すれば、注射し始めの痛みは軽減されるが、注入速度を「中速」又は「高速」に設定して注射すると、注射に要する時間が短かくなるものの、先に述べた注射初期の痛みの問題は依然として残る。
【0006】
この問題を解決するものとして、注入速度を0から一定時間(低速の場合3秒、中速の場合7秒、高速の場合10秒)かけて穏やかに上昇させ、その後、予め医師が設定した、低速(例えば、180秒/1ml )、中速(例えば、97秒/1ml)、高速(例えば70秒/1ml)のいずれかに自動的に切り換わり、以後、その速度を維持するようにした自動制御装置を有する電動注射器が市販されている。この方式では、注射初期の痛みは確実に防止されるが、電動注射器の操作がプログラム化されているために、先に述べたように、「低速」、「中速」又は「高速」に切り替わるまでの初期注入時間を、歯科医が任意に調整することができない欠点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、麻酔液の初期注入を、「低速」の注入速度で開始し、その注入の任意の時点で、「低速」の注入速度から「中速」又は「高速」の注入速度に切り換えることができる歯科用カートリッジ式電動注射器における麻酔液の注入速度制御方法及び装置を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、麻酔液の初期注入から「低速」の注入速度を維持して注入を継続することもできる歯科用カートリッジ式電動注射器における麻酔液の注入速度制御方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記の目的は、モータの回転速度を減速してピニオン・ラックによりプランジャーロッドをゆっくり移動させ、カートリッジのプランジャーゴムを押して注射針を通して注射液を排出させるようにした、歯科用カートリッジ式電動注射器において、モータの回転速度を低、中、高の三段階に切り換えられるようにし、モータを起動するスイッチを2段押しスイッチとし、カートリッジのプランジャーゴムを押すプランジャーロッドを最初「低速」の移動速度で移動させるため、スイッチの1段目押しにより、モータを低速で回転させ、引き続いて、プランジャーロッドを「低速」、「中速」、「高速」のいずれかの移動速度で移動させるため、2段目押しにより、モータを、予め選択した低速、中速、高速のいずれかで回転させる、歯科用カートリッジ式注射装置における麻酔液の注入速度制御方法を提供することによって達成される。
【0010】
本発明の上記の目的は、ノーズ部分を有するハウジングと、ハウジングのノーズ部分に着脱自在に結合され、かつ麻酔液を封入するするためのゴム栓及びプランジャーゴムを有する麻酔液充填カートリッジを受け入れるための受け筒と、受け筒の先端に着脱自在に装置され、且つゴム栓に突き刺さるようになった両頭注射針と、モータの回転速度を減速機により減速してピニオン・ラックにより直線的に移動され、カートリッジ内の麻酔液を注射針を通して注射するために、前記プランジャーゴムを押すためのプランジャーロッドと、前記モータを起動するためのスイッチと、を含む、歯科用カートリッジ式電動注射器において、前記スイッチは、2段押しにより順次働く2つのスイッチからなり、モータの回転速度を「低速」、「中速」、「高速」のいずれかに予め選択するための速度設定スイッチと、一段目押しによるスイッチのオンにより、モータを低速で回転させ、前記速度設定スイッチが「低速回路」、「中速回路」、「高速回路」のいずれかに選択されているとき、2段目押しによるスイッチのオンにより、モータを、予め選択した低速、中速、高速のいずれかで回転させるための回転数変更制御回路及び回転数制御回路と、を更に含む、歯科用カートリッジ式注射装置における麻酔液の注入速度制御装置を提供することによって達成される。
【0011】
本発明の他の目的及び利点は、添付図面を参照して記載する下記の詳細な説明から容易に理解することができるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図面の図1を参照すると、本発明による歯科用カートリッジ式電動注射器1の外観が示されており、電動注射器は、図1及び2に示すように、ノーズ部分2を有するハウジング3と、ハウジング3のノーズ部分2に着脱自在に結合され、かつ麻酔液を封入するするためのゴム栓4及びプランジャーゴム5を有する麻酔液充填カートリッジ6を受け入れるための受け筒7と、受け筒7の先端に着脱自在に装置され、且つゴム栓4に突き刺さるようになった両頭注射針8と、ハウジング内に収容されたモータ9の回転速度を減速機10により減速してピニオン・ラック11により直線的に移動され、カートリッジ6内の麻酔液を注射針8を通して注射するために、前記プランジャーゴム5を押すためのプランジャーロッド12と、前記モータ9を起動するための起動スイッチ13と、起動スイッチを操作するためのボタン14と、を含む。起動スイッチ13は、2段押しにより順次働く2つのスイッチ15、16からなり、図4のブロック回路図により詳細に示されている。
【0013】
ブロック回路図において、17は電源であるバッテリー、18は、モータ9の回転速度を「低速L」、「中速M」、「高速H」のいずれかに歯科医が予め選択することができる速度設定スイッチであって、電動注射器のハウジング3にその外部から操作できるように配置されたスライドノブ19を有する。20は中央処理ユニットの回転数変更制御回路、21は回転数制御回路であり、両回路は線L,M,Hによって互いに接続されている。22は、プランジャーロッド12の前進ストロークを規制するため、モータ9の回転を止めるべく回路を開くリミットスイッチである。
【0014】
一段目押しによりスイッチ15をオンにすると、回転数変更制御回路20には線22、23を通してバッテリー17から電力が供給され、また回転数制御回路21には線24、25を通してバッテリー17から電力が供給される。回転数変更制御回路20から線Lを通して「低速」の信号が回転数制御回路21に送られ、それにより、電源17に線26、27を介して接続されたモータ9を低速で回転させる。速度設定スイッチ18がスライドノブ19の操作により「低速回路L」、「中速回路M」、「高速回路H」のいずれかに選択されているとき、2段目押しによるスイッチ16のオンにより、回転数変更制御回路20は低速L、中速M、高速Hのいずれかの信号を回転数制御回路21に送り、それによりモータ9を、予め選択した低速、中速、高速のいずれかで回転させる。いずれの場合にも、モータ9の回転速度を減速機10により減速してピニオン・ラック11によりプランジャーロッド12は直線的に移動され、プランジャーゴム5を押してカートリッジ6内の麻酔液を注射針8を通して排出させる。
【0015】
本発明によれば、スライドノブ19を操作して、速度設定スイッチ18を予め、「中速M」又は「高速H」に切り換えておけば、スイッチ13の一段押しに伴う低速での注入により麻酔が奏功したと歯科医が認めたら、歯科医は、スイッチ13の2段押しを行うことにより、麻酔液の注入を中速又は高速での注入に切り換えることができる。そのため、低速での注入時間を患者の状態に応じて任意に調整することができ、したがって、麻酔注射に要する時間を歯科医の裁量により長くしたり短くしたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による歯科用カートリッジ式電動注射器の斜視図である。
【図2】本発明による歯科用カートリッジ式電動注射器の断面側面図である。
【図3】図2の電動注射器の一部断面の平面図である。
【図4】本発明による電動注射器における麻酔液の注入速度を制御するためのブロック回路図である。
【符号の説明】
【0017】
1 歯科用カートリッジ式電動注射器
2 ノーズ部分
3 ハウジング
4 ゴム栓
5 プランジャーゴム
6 カートリッジ
7 受け筒
8 両頭注射針
9 モータ
10 減速機
11 ピニオン・ラック
12 プランジャーロッド
13 2段押しスイッチ
14 ボタン
15 スイッチ
16 スイッチ
17 バッテリー
18 速度設定スイッチ
19 スライドノブ
20 回転数変更制御回路
21 回転数制御回路
22 リミットスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転速度を減速してピニオン・ラックによりプランジャーロッドをゆっくり移動させ、カートリッジのプランジャーゴムを押して注射針を通して注射液を排出させるようにした、歯科用カートリッジ式電動注射器において、モータの回転速度を低、中、高の三段階に切り換えられるようにし、モータを起動するスイッチを2段押しスイッチとし、カートリッジのプランジャーゴムを押すプランジャーロッドを最初「低速」の移動速度で移動させるため、スイッチの1段目押しにより、モータを低速で回転させ、引き続いて、プランジャーロッドを「低速」、「中速」、「高速」のいずれかの移動速度で移動させるため、2段目押しにより、モータを、予め選択した低速、中速、高速のいずれかで回転させる、歯科用カートリッジ式注射装置における麻酔液の注入速度制御方法。
【請求項2】
ノーズ部分を有するハウジングと、ハウジングのノーズ部分に着脱自在に結合され、かつ麻酔液を封入するするためのゴム栓及びプランジャーゴムを有する麻酔液充填カートリッジを受け入れるための受け筒と、受け筒の先端に着脱自在に装置され、且つゴム栓に突き刺さるようになった両頭注射針と、モータの回転速度を減速機により減速してピニオン・ラックにより直線的に移動され、カートリッジ内の麻酔液を注射針を通して注射するために、前記プランジャーゴムを押すためのプランジャーロッドと、前記モータを起動するためのスイッチと、を含む、歯科用カートリッジ式電動注射器において、前記スイッチは、2段押しにより順次働く2つのスイッチからなり、モータの回転速度を「低速」、「中速」、「高速」のいずれかに予め選択するための速度設定スイッチと、一段目押しによる前記一方のスイッチのオンにより、モータを低速で回転させ、前記速度設定スイッチが「低速」、「中速」、「高速」のいずれかに選択されているとき、2段目押しによる前記もう1つのスイッチのオンにより、モータを、予め選択した低速、中速、高速のいずれかで回転させるための回転数変更制御回路及び回転数制御回路と、を更に含む、歯科用カートリッジ式注射装置における麻酔液の注入速度制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−230701(P2006−230701A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49233(P2005−49233)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000187220)昭和薬品化工株式会社 (16)
【Fターム(参考)】