説明

歯科用シリコーン系適合試験材組成物

【課題】 皮膜厚さの微妙な差が確認ができ、皮膜の厚みの確認範囲が広い歯科用シリコーン系適合試験材組成物を提供する。
【解決手段】 1分子中に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有するオルガノポリシロキサン100部に、1分子中にけい素原子に直結した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを0.1〜30重量部と、シリコーン可溶性白金化合物を前記2成分の合計量に対して10ppm〜1重量部と、粉末状パラジウムを0.05〜20重量部と、無機充填材を10〜800重量部と、フタロシアニンブルー,コバルトブルー,ウルトラマリンから選ばれる顔料を0.01〜10重量部含有させたことを特徴とする歯科用シリコーン系適合試験材組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクラウン,インレー,義歯等の歯科補綴物の作製において、作製された歯科補綴物の適合状態を確認するために用いる適合試験材に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療では、クラウン,インレー,義歯等の歯科補綴物を作製してう蝕や抜歯等によって失われた口腔機能の回復処置が行われている。歯科補綴物の作製は歯牙や口腔粘膜の口腔内組織の印象を採得した後、この印象材に石膏を注入して口腔内の状態を再現した口腔内模型を作製し、この口腔内模型を元にしてロストワックス法で歯科補綴物が作製されることが一般的である。しかし、作製された歯科補綴物の寸法精度が低く支台歯に完全に適合しない場合が多い。また、近年では印象採得後に作製された模型を用いCAD/CAMシステムにより金属やセラミックス製のブロックを切削加工して歯科補綴物を作製する方法も広く行われている。この方法は鋳造を行わなずに歯科補綴物の作製ができるものの、歯科補綴物の寸法精度はロストワックス法よりも低下する。そのため、最終的に作製された歯科補綴物と支台歯の適合が悪い場合は、作製された歯科補綴物の内面や外部を僅かに研磨して適切な位置の戻るよう修正する必要が生じる。このときにどの部位をどのくらい研磨する必要があるのかを検査するために用いるものが適合試験材である。
【0003】
適合試験材の使用方法は、歯科補綴物内面に塗布し、その補綴物が装着される支台歯に装着された後、撤去される。このとき支台歯との間に接触不良が生じている場合には、歯科補綴物内面と支台歯とが部分的に強く接するので歯科補綴物内面の適合試験材の皮膜が他の部分より非常に薄くなる。この適合試験材が薄くなった部分を研磨することによって歯科補綴物の部分的な適合不良は改善される。
【0004】
従来の適合試験材としては、シリコーンオイル,流動パラフィン,ポリブテン,脂肪酸から成る群より選ばれる少なくとも1種の油性液体組成物及び金属酸化物,炭酸金属塩及び硫酸金属塩から成る群より選ばれ、白色で表面が撥水性を示す少なくとも1種の金属化合物の粉体を含有する義歯床用の隠蔽性が高く義歯床と粘膜の適合検査を行うための歯科用ペースト状組成物(例えば、特許文献1参照)や、所定重量割合範囲のジメチルポリシロキサン,メチルハイドロジェンポリシロキサン,メチルフェニルポリシロキサンから選ばれる1種または2種以上のポリシロキサンと、ケイ酸ジルコニウム,ケイ酸カルシウム,ケイ酸アルミニウム,ケイ酸マグネシウム,ケイ酸亜鉛から選ばれる1種または2種以上のケイ酸塩と、界面活性剤とで構成された義歯床適合試験用組成物(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。
【0005】
しかしながら、従来の適合試験材は、白色あるいは黒色であったために、近年のCAD/CAMで作製された白色系のセラミックス材料と同色となり厚さの差が分かり難く、また逆に色調差が大き過ぎても厚さの微妙な差の確認が正確に行ないという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平05−154168号公報
【特許文献2】特開平11−335224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、歯科補綴物がセラミックスであっても金属であっても、あるいは義歯床レジンであっても、皮膜厚さの微妙な差が確認ができ、皮膜の厚み適用範囲が広い歯科用シリコーン系適合試験材組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は前記課題を解決するために鋭意検討した結果、1分子中に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有するオルガノポリシロキサンに、1分子中にけい素原子に直結した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、シリコーン可溶性白金化合物と、粉末状パラジウムと、無機充填材と、フタロシアニンブルー,コバルトブルー,ウルトラマリンから選れる顔料を含有させることで前記課題が解決できることを見出して本発明を完成した。
【0009】
即ち本発明は、1分子中に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有するオルガノポリシロキサン100重量に、1分子中にけい素原子に直結した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを0.1〜30重量部と、シリコーン可溶性白金化合物を前記2成分の合計量に対して10ppm〜1重量部と、粉末状パラジウムを0.05〜20重量部と、無機充填材を10〜800重量部と、フタロシアニンブルー,コバルトブルー,ウルトラマリンから選ばれる顔料を0.01〜10重量部含有させたことを特徴とする歯科用シリコーン系適合試験材組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る歯科用シリコーン印象材組成物は、皮膜厚さの微妙な差が確認ができ、従来の適合試験材よりも目視による皮膜の厚みの確認範囲が広い歯科用シリコーン系適合試験材組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る歯科印象材組成物に用いる成分中の1分子中に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有するオルガノポリシロキサンは、通常の付加型シリコーン印象材に用いられるものと同様であり、1分子中に脂肪族不飽和基を少なくとも2個を有するオルガノポリシロキサンである。このオルガノポリシロキサンは好ましくは直鎖状で分子鎖両末端がビニルシリル基で封鎖されたものであるが、この末端ビニル基は複数個であっても良いし、ビニル基が鎖中に含まれていても良く、通常の付加型シリコーン印象材に用いられる成分と同様の成分である。
【0012】
1分子中にけい素原子に直結した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、その分子中にけい素原子に直結した水素原子を少なくとも3個有する必要があり架橋剤として作用する。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、前記1分子中に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有するオルガノポリシロキサン100重量部に対して0.1〜30重量部配合される。配合量が0.1重量部より少ないと硬化体の硬度が低下するばかりではなく硬化速度も緩慢となり、50重量部より多いと硬化体中に水素ガスによる気泡が多数存在し正確な適合性の確認ができなくなってしまう。最も好適に使用できる範囲としては、1〜20重量である。
【0013】
シリコーン可溶性白金化合物は、公知の付加反応触媒である塩化白金酸,アルコール変性塩化白金酸,塩化白金酸とオレフィンとの錯体等が挙げられる。特に好適には塩化白金酸のビニルシロキサン錯体が用いられる。これ等の添加量は、前記2成分の合計量に対して10ppm〜1重量部の範囲である。10ppmより少ないと硬化速度が遅く、またこの白金化合物の触媒能を阻害する物質が微量存在した場合に硬化が遅くなるなどの難点がある。1重量部より多い場合には硬化速度が速すぎると共に経済的な不利を生じる。この塩化白金酸のシリコーン可溶性白金化合物は、アルコール系,ケトン系,エーテル系,炭化水素系の溶剤やポリシロキサンオイル等に溶解して使用することが好ましい。
【0014】
粉末状パラジウムは、後述する特定顔料と共に用いることにより適合試験時に薄い薄膜になっても、どのような素材の歯科補綴物に対しても目視による適合性確認が容易になる。この粉末状パラジウムは、シリカ等の粉末に担持させたものであってもパラジウム本体の微粉末であっても良いが、シリカ等の粉末に担持させたものがより望ましい。この粉末状パラジウムの含有量は、1分子中に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有するオルガノポリシロキサン100重量部に対して0.05〜20重量部であり、0.05重量部より少ないと薄い皮膜になったときの適合性確認が十分できなくなってしまい、20重量部より多いと硬化体の色調が濃くなり過ぎ、目視による部分的な適合性の差異が判断できなくなる。好ましくは0.1〜5重量%である。
【0015】
無機充填材は、組成物に適度な堅さと操作性を与えるためのものであり、石英,クリストバライト,珪藻土,熔融石英,ガラス繊維,二酸化チタン,ヒュームドシリカ等が例示される。この無機充填材は、1分子中に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有するオルガノポリシロキサン100重量部に対して10〜800重量部配合される。10重量部より少ないと硬化体が脆いものとなり、800重量部より多いと組成物の粘度が高くなり過ぎて適合試験時に皮膜が厚くなってしまい、正確な適合試験が行なくなる。
【0016】
特定顔料であるフタロシアニンブルー,コバルトブルー,ウルトラマリンから選ばれる顔料は、粉末状パラジウムと共に用いることにより、目視による広範囲な厚み差の確認が容易になり、特に、セラミックスで作製された歯科補綴物の目視による適合性の確認が容易になる。特定顔料は1分子中に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有するオルガノポリシロキサン100重量部に対して0.01〜10重量部で配合する。0.01重量部より少ないと目視による皮膜の厚みの差が確認ができなくなってしまい、10重量部より多いと皮膜の非常に薄い部分しか確認できなくなってしまう。好ましくは0.5〜5重量部である。
【0017】
本発明に係る歯科用シリコーン系適合試験材組成物には、その特性を失わない範囲で更に各種のシリコーンレジン,非反応性のシリコーンオイル,脂肪族不飽和炭化水素を含有するポリエーテル,界面活性剤等を使用しても良い。
【実施例】
【0018】
本発明について実施例を挙げ詳細に説明するが、本発明はこれ等に限定されるものではない。
【0019】
<実施例1>
下記組成のベースペースト、キャタリストペーストを作製した。
(ベースペースト)
分子鎖両末端がメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
100重量部
メチルハイドロジェンシロキサン単位を45モル%含有する直鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン 6重量部
フタロシアニンブルー 0.5重量部
石英(平均粒径7μm) 30重量部

(キャタリストペースト)
分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシキで封鎖されたジメチルポリシロキサン
100重量部
1,3ジビニルテトラメチルジシロキサン−白金錯体0.8重量%含有シリコーンオイル溶液 1重量部
フタロシアニンブルー 0.5重量部
石英(平均粒径7μm) 25重量部
パラジウムの担持率が5重量%である平均粒径4μmの石英粉 0.5重量部
【0020】
<目視による皮膜の厚みの差の確認>
上記ベースペースト、キャタリストペーストを各々5g計量し練和後、ガラス板にて圧接して10μmの厚みの硬化皮膜を作製した。同様にして10μmごとに100μmまでの皮膜の硬化体を作製した。次に各皮膜を歯科用金属(商品名 キャストウェル,ジーシー社製)または歯科用セラミックス体(製品名 GN-セラム,ジーシー社製)で作製した板上に置き、10μm〜100μmまでの各皮膜の差異が目視にて明確に判別できるかを確認した。結果を表1に示す。
【0021】
<適合性の確認>
支台歯形成した臼歯部樹脂模型を印象採得し石膏模型を作製した後、前記キャストウェルまたはGN-セラムを用いてクラウンを作製した。適合が悪くクラウンが上記臼歯部樹脂模型に完全には適合しないことを確認した後、適合試験材組成物を用い適合試験を行った後、不適合と目視にて判断できる部分を研磨し再度臼歯部樹脂模型に装着した。適合修正後のクラウンのマージン部に浮き上がり等問題がないかを確認した。結果を表1に示す。
【0022】
<実施例2>
下記組成のベースペースト、キャタリストペーストを作製した。
(ベースペースト)
分子鎖両末端がメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
100重量部
メチルハイドロジェンシロキサン単位を45モル%含有する直鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン 1重量部
コバルトブルー 5重量部
石英(平均粒径7μm) 100重量部

(キャタリストペースト)
分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシキで封鎖されたジメチルポリシロキサン
100重量部
1,3ジビニルテトラメチルジシロキサンー白金錯体0.7重量%含有シリコーンオイル溶液 1重量部
コバルトブルー 8重量部
石英(平均粒径7μm) 100重量部
パラジウムの担持率が5重量%である平均粒径4μmの石英粉 0.1重量部
この組成物について実施例1と同様の試験を行った。
【0023】
実施例3
下記組成のベースペースト、キャタリストペーストを作製した。
(ベースペースト)
分子鎖両末端がメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
100重量部
メチルハイドロジェンシロキサン単位を10モル%含有する直鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン 10重量部
フタロシアニンブルー 1重量部
石英(平均粒径7μm) 200重量部
シリコーンレジン 20重量部
分子鎖両末端がビニル基で封鎖されたポリプロピレングリコールジアリルエーテル
5重量部

(キャタリストペースト)
分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシキで封鎖されたジメチルポリシロキサン
100重量部
1,3ジビニルテトラメチルジシロキサンー白金錯体0.7重量%含有シリコーンオイル溶液 2重量部
フタロシアニンブルー 1重量部
石英(平均粒径7μm) 200重量部
シリコーンレジン 20重量部
パラジウムの担持率が5重量%である平均粒径4μmの石英粉 5重量部
上記のペ−ストについて実施例1と同様の試験を行った。
【0024】
<比較例1>
市販の適合検査材(商品名 フィットチェッカー,ジーシー社製)を用い実施例と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0025】
<比較例2>
実施例1の組成物から粉末状パラジウム及び顔料を除去した組成物を作製し、実施例と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
(ベースペースト)
分子鎖両末端がメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
100重量部
メチルハイドロジェンシロキサン単位を45モル%含有する直鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン 6重量部
石英(平均粒径7μm) 30重量部

(キャタリスト)
分子鎖両末端がジメチルビニルシロキシキで封鎖されたジメチルポリシロキサン
100重量部
1,3ジビニルテトラメチルジシロキサン−白金錯体0.8重量%含有シリコーンオイル溶液 1重量部
石英(平均粒径7μm) 25重量部
【0026】
<表1>

【0027】
表1に示したように、実施例の歯科用シリコーン系適合試験材組成物は目視によりその皮膜厚さの差異が明確に判別できると共に、歯科用補綴物素材である金属またはセラミックスを問わず適合性の確認を高い精度で行うことができる。特に、比較例1の市販の適合試験材はセラミックスの適合検査を行うことがほぼ不可能であることが分かり、本発明による適合試験材が従来の問題点を大きく改善した適合試験材であるかが明確に分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有するオルガノポリシロキサン100重量部に、1分子中にけい素原子に直結した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを0.1〜30重量部と、シリコーン可溶性白金化合物を前記2成分の合計量に対して10ppm〜1重量部と、粉末状パラジウムを0.05〜20重量部と、無機充填材を10〜800重量部と、フタロシアニンブルー,コバルトブルー,ウルトラマリンから選ばれる顔料を0.01〜10重量部含有させたことを特徴とする歯科用シリコーン系適合試験材組成物。

【公開番号】特開2009−242322(P2009−242322A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92351(P2008−92351)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】