説明

歯科用セメント液

【課題】 ポリカルボン酸液と反応しないフィラーを使用せず通常の歯科用セメント用の粉末が使用可能であり、仮着や仮封に適した歯科用セメントを得ることが可能な歯科用セメント液を提供する。
【解決手段】 5〜35重量%のα−β不飽和カルボン酸重合体と、1〜30重量%のセメント粉末と反応しない液成分と、残部である水とから成る歯科用セメント液とする。セメント粉末はグラスアイオノマーセメント用のフルオロアルミノシリケート粉末及び/またはカルボキシレートセメント用の酸化亜鉛粉末が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロアルミノシリケートガラスを主成分とする歯科用グラスアイオノマーセメント粉末や、酸化亜鉛粉末を主成分とする歯科用カルボキシレートセメント粉末と混合して用いる歯科用セメント液に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用セメントはフルオロアルミノシリケートガラスとα−β不飽和カルボン酸重合体とを水の存在下で反応させ硬化させて使用されるグラスアイオノマーセメントや、酸化亜鉛粉末とα−β不飽和カルボン酸重合体とを水の存在下で反応させ硬化させて使用されるカルボキシレートセメント等がある。これらの歯科用セメントは、生体に対する親和性が極めて良好であることや、特にグラスアイオノマーセメントは硬化体が半透明であり審美性に優れていること及び、エナメル質や象牙質などの歯質に対して優れた接着力を有していること、更にはグラスアイオノマーセメント用ガラス粉末であるフルオロアルミノシリケートガラス粉末中に含まれるフッ素による抗う蝕作用があることなどの種々の優れた特徴を有しているため広く用いられている。
【0003】
このような種々の優れた特徴を有している歯科用セメントは、う蝕窩洞の充填、クラウン,インレー,ブリッジや矯正用バンドの合着、窩洞の裏装、支台築造や予防填塞など歯科分野で幅広い用途に用いられている。歯科用セメントの形態としては、セメント粉末とα−β不飽和カルボン酸重合体水溶液とを使用直前に混合練和して治療部位に適用後硬化させて使用するものが一般的であるが、硬化体の物理的強度、特に曲げ強度の改善を目的として、重合性モノマーを配合したレジン強化型歯科用グラスアイオノマーセメント等も開発されている。
【0004】
しかしながら、従来の歯科用セメントの使用は、理想的には、歯科用補綴物が歯牙から脱落しない永久修復での用途を想定していた。特にグラスアイオノマーセメントには強い機械的強度が与えられ仮着や仮封の用途は考慮されていなかった。即ち、歯科用セメントを暫間的な歯科用補綴物の仮着や仮封の用途に用いた場合には、歯科用セメントの物性、即ち、接着力が歯科用補綴物を外す場合や仮封材を除去する場合に逆に障害となってしまうという問題があった。
【0005】
グラスアイオノマーセメントを仮着や仮封に使用するために、粉成分中にポリカルボン酸液と反応しないフィラーを用いたグラスアイオノマーセメントもある(例えば、特許文献1,2参照。)。しかしながら、このようなフルオロアルミノシリケート粉末と反応しないフィラーを加えた粉成分とポリカルボン酸水溶液からなる液とを混合する方法では、粉末成分と液成分とを混合する際の練和に時間を費やさざるを得ない欠点があり、練和のため時間を取られるので仮着のための操作時間が短くなってしまうという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2002−275017号公報
【特許文献2】特開2003−183111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、ポリカルボン酸液と反応しないフィラーを使用せず通常の歯科用セメント用の粉末が使用可能であり、仮着や仮封に適した歯科用セメントを得ることが可能な歯科用セメント液の提供を課題とする。
【0008】
即ち本発明は、5〜35重量%のα−β不飽和カルボン酸重合体と、1〜30重量%のセメント粉末とは反応しない液成分と、残部である水とから成る歯科用セメント液である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る歯科用セメント液は、従来のようなポリカルボン酸液と反応しないフィラーを使用せず通常の歯科用セメント用の粉末が使用可能なため操作性が悪化してしまう等の問題がない、仮着や仮封に最適な歯科用セメントを得ることが可能な優れた歯科用セメント液である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
α−β不飽和カルボン酸重合体は、α−β不飽和モノカルボン酸又はα−β不飽和ジカルボン酸の重合体であり、アクリル酸,メタクリル酸,2−クロロアクリル酸,3−クロロアクリル酸,アコニット酸,メサコン酸,マレイン酸,イタコン酸,フマール酸,グルタコン酸,シトラコン酸の中から選ばれた1種の単重合体または2種以上からなる共重合体であって、重合可能なエチレン性不飽和二重結合を含まない重量平均分子量5,000〜40,000の重合体であるものが好ましい。重量平均分子量が5,000未満の場合は硬化体の強度が低くなり易く、また歯質への接着力も低下する傾向があり、40,000を超える場合には、練和時の粘度が高過ぎて練和が難しくなる傾向がある。
このα−β不飽和カルボン酸重合体の配合量はセメント液中に5〜35重量%である。5重量%未満であると酸塩基反応が非常に遅くなり臨床操作に適した操作時間が得られず、35重量%を超えると硬化体の水に対する溶解度が増加し耐久性が悪化する。また、セメント粉末と混合した際に練和物が不均一になってしまう。
【0011】
セメント粉末と反応しない液成分は、歯科用セメントにおいて硬化反応を抑える働きがある。歯科用セメント粉末と反応しない液成分は水に対する溶解性があり生体に安全であれば特に限定されないが、保存性と操作性の面から、多価アルコール,アルコール,水溶性有機溶媒等の水に溶解性を有する物質であることが好ましい。中でも、効果,安全性及び操作性の面から特にグリセリンやジグリセリン等のポリグリセリンや、プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,ソルビトール,マンニトール,エチレングリコール,ジエチレングリコール,ポリエチレングリコール,モノメチルエーテル等の多価アルコールが最も好ましい。
【0012】
歯科用セメント液をフルオロアルミノシリケートガラスや酸化亜鉛粉末等のセメント粉末と混合して硬化させる反応は、水の存在下で進行するため、水は従来の歯科用セメント液と同様に必要不可欠な成分である。水の歯科用セメント液への配合量は大凡30〜70重量%となる。
【0013】
セメント粉末はグラスアイオノマーセメント用のフルオロアルミノシリケート粉末やカルボキシレートセメント用の酸化亜鉛粉末を使用することができる。
【0014】
さらに本発明に係る歯科用セメント液には、操作性に影響を及ぼさない範囲でその他の増粘剤,着色料,安定剤等を配合することも可能である。
【0015】
<実施例>
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0016】
『セメント粉末であるフルオロアルミノシリケートガラスの調整』
フルオロアルミノシリケートガラス粉末I,II及びIIIの配合を表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
フルオロアルミノシリケートガラス粉末I及びIIIについては、原料を充分混合し1200℃の高温電気炉中で5時間保持しガラスを溶融させた。溶融後冷却し、ボールミルを用いて10時間粉砕し、200メッシュ(ASTM)ふるいを通過させた後の粉末をフルオロアルミノシリケートガラス粉末とした。フルオロアルミノシリケートガラス粉末IIについては、1100℃で溶融した以外はフルオロアルミノシリケートガラス粉末I及びIIIと同様の操作を行った。
【0019】
『セメント粉末である酸化亜鉛を主成分とする金属酸化物粉末の調整』
歯科用リン酸亜鉛セメント粉末、歯科用カルボキシレートセメント粉末に使用されている酸化亜鉛を主成分とする粉末としてI及びIIの配合を表2に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
金属酸化物粉末Iについては、原料を充分混合し1000℃の高温電気炉中で5時間保持し焼結させた。焼結後冷却し、ボールミルを用いて10時間粉砕し、200メッシュ(ASTM)ふるいを通過させ酸化亜鉛を主成分とする金属酸化物粉末とした。同様に金属酸化物粉末IIについては900℃で焼結し、以後金属酸化物粉末Iと同様の操作を行い、酸化亜鉛を主成分とする金属酸化物粉末とした。
【0022】
『粉剤と液剤の調製』
各実施例及び比較に用いた粉剤と液剤との配合を表3に示す。液剤は、ポリアクリル酸と水とを室温で6時間混合した後、フルオロアルミノシリケート粉末と反応しない液成分を均一になるまで混合した。
【0023】
【表3】

【0024】
『圧縮強度』
グラスアイオノマーセメントやカルボキシレートセメントの合着力はセメント自体の強度に依存するため、圧縮強度を測定して合着力を評価した。JIS T6609-1:2005 8.4(圧縮強さ)に準拠して行った。練和した歯科用セメント組成物を内径4mm、長さ6mmの金属型に填入し、円柱型の硬化体を得た。得られた試験片を37℃の蒸留水中に24時間浸漬し、万能試験機(製品名:オートグラフ、島津製作所社製)にて、クロスヘッドスピード1.0mm/minにて圧縮試験を行った。
【0025】
<実施例1〜14>
それぞれの実施例において、粉剤2.0g、液剤1.0を練和し上に測り採り、スパチュラを用いて30秒間の練和操作を行うことで粉剤と液剤を均一に混合した。この歯科用セメント硬化体の圧縮強度を表3に示す。
【0026】
<比較例1>
従来の歯科用グラスアイオノマーセメント(製品名 フジI;ジーシー社製)を使用した。セメント粉末1.8gとセメント液1.0gとを練和紙上に測り採り、スパチュラを用いて実施例1〜17と同様の練和操作を行うことで、粉剤と液剤とを均一に混合した。実施例と同様の方法で圧縮強度を測定した。
【0027】
<比較例2>
従来の歯科用仮封材(製品名 カッパーシールセメント;ジーシー社製)を使用した。セメント粉末1.5gとセメント液0.5mLとをガラス練板上に測り採り、ステンレス製スパチュラを用いて1分〜1分30秒の練和操作を行うことで、粉剤と液剤とを均一に混合した。実施例と同様の方法で圧縮強度を測定した。
【0028】
表3から、実施例1〜14の歯科用セメントは、比較例1の歯科用セメントと比べて圧縮強度が小さく、比較例2の仮封または仮着用セメントと同様の圧縮強度を示しており、仮封又は仮着の用途に好適であることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5〜35重量%のα−β不飽和カルボン酸重合体と、1〜30重量%のセメント粉末とは反応しない液成分と、残部である水とから成る歯科用セメント液。
【請求項2】
セメント粉末がグラスアイオノマーセメント用のフルオロアルミノシリケート粉末及び/またはカルボキシレートセメント用の酸化亜鉛粉末である請求項1に記載の歯科用セメント液。

【公開番号】特開2010−30948(P2010−30948A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194236(P2008−194236)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】