説明

歯科用プライマー及び歯科用接着材セット

【課題】歯科医療分野において、種々の材料から作製された歯冠修復物を歯質に強固に接着するために予め塗布する歯科用プライマー及びこの歯科用プライマーと組み合わせて使用するとより高い歯質接着性を示すこの歯科用プライマーと歯科用接着材とから成る歯科用接着材セットを提供する。
【解決手段】歯科用プライマーを、酸基を有する(メタ)アクリレートと、水と、水溶性で揮発性の有機溶剤と、バナジウム化合物とを含み、更にフィラーや酸基を有さない(メタ)アクリレートも含むことがある組成とし、歯科用接着材セットを、この歯科用プライマーと、酸基を有する(メタ)アクリレート,酸基を有さない(メタ)アクリレート,重合開始剤としてヒドロペルオキシド,還元剤としてチオ尿素誘導体,重合促進剤としてバナジウム化合物を含み、更にフィラーも含むことがある組成にした歯科用接着材とで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科医療分野において、コンポジットレジン,金属,セラミックス等の材料から作製された歯冠修復物を歯質に強固に接着するために予め塗布する歯科用プライマー及びこの歯科用プライマーと組み合わせて使用するとより高い歯質接着性を示す歯科用接着材とこの歯科用プライマーとから成る歯科用接着材セットに関する。
【背景技術】
【0002】
歯の修復には、コンポジットレジン,金属,セラミックス等で作製された歯冠修復物を歯科用接着材により歯質に接着する方法が行われている。このような歯質と歯冠修復物とを接着するための歯科用接着材には、歯冠材料の種類に応じて光重合型接着材と、化学重合型接着材と、その両者を合わせたデュアルキュア型接着材とがある。光重合型コンポジットレジンを歯に直接充填して用いる修復では光重合型のボンディング材と呼ばれている歯科用接着材が使用され、金属鋳造物やセラミックスで作製された歯冠修復材を歯に接着する修復では化学重合型もしくはデュアルキュア型のレジンセメントと呼ばれている歯科用接着材が使用されている。
【0003】
歯科用接着材は、口腔内という環境下でも歯質と歯冠修復物とを強固に長期間接着させる性能が要求されるため、十分な歯質接着性や接着耐久性が必要とされている。接着耐久性が不足した場合には、歯冠修復物の脱落や、歯質と歯冠修復物との間に隙間が生じてその隙間から細菌が侵入することで二次齲蝕を起こす虞がある。
【0004】
従来から歯質接着性の向上を目的として歯科用接着材の適用に先立って歯の表面を前処理する方法が用いられてきた。この前処理材としては、歯の表面を脱灰する酸水溶液が一般的であり、リン酸,マレイン酸,クエン酸等の酸水溶液が用いられていた。しかしながら、露出したコラーゲン層への歯科用接着材の浸透は容易ではないため、更に歯科用プライマーと呼ばれる歯科用接着材の浸透促進材が用いられるようになったのであるが、この歯科用プライマーはエナメル質と象牙質との操作が別であったため治療が煩雑となっていた。
【0005】
そこで、エナメル質と象牙質とを同時に前処理することができる歯科用プライマーが検討されたが(例えば、特許文献1〜7参照。)、何れの歯科用プライマーもコンポジットレジン用のボンディング材等の光重合型の歯科用接着材を用いた場合なら確実に光重合するためエナメル質及び象牙質双方に充分な接着力が得られるものの、レジンセメント等の化学重合型もしくはデュアルキュア型の歯科用接着材を用いた場合には十分な歯質接着性は得られていなかった。特に2成分混合型の化学重合型の歯科用接着材は、一般的に光重合型接着材と比較して重合率が低いことから歯質接着性が悪いという問題があった。高い歯質接着性を得るために、触媒としての活性の高いトリアルキルホウ素(あるいはその部分酸化物)を用いた化学重合型の歯科用接着材もあるが、この触媒系は化学的に非常に不安定なため分包する必要があり、また取り扱いが大変であることから、却って操作が煩雑になるという問題があった。そこで、光重合型の歯科用接着材のみならず、化学重合型もしくはデュアルキュア型の歯科用接着材を用いた場合でも、優れた歯質接着強さが得られる前処理材(歯科用プライマー)及びそれと組み合わせた効果の高い歯科用接着材セットの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−240712号公報
【特許文献2】特開平4−8368号公報
【特許文献3】特開平6−192029号公報
【特許文献4】特開平6−192030号公報
【特許文献5】特開平7−82115号公報
【特許文献6】特開平7−89820号公報
【特許文献7】特開平7−97306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、化学重合型、デュアルキュア型あるいは光重合型の歯科用接着材に拘らず、1回の操作で、象牙質でもエナメル質でも高い接着性を得ることができる歯科用プライマー及びこの歯科用プライマーと組み合わせて使用するとより高い歯質接着性を示す歯科用接着材とこの歯科用プライマーとから成る歯科用接着材セットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、酸基を有する(メタ)アクリレートと水と水溶性で揮発性の有機溶媒とを含む組成物に、バナジウム化合物を添加することにより化学重合のみであっても十分な歯質接着性を得ることが可能になる歯科用プライマーが得られること及びこの歯科用プライマーは更にフィラーや酸基を有さない(メタ)アクリレートが添加されたものでもよいことを見出した。更にこの歯科用プライマーを、酸基を有する(メタ)アクリレート,酸基を有さない(メタ)アクリレート,重合開始剤としてヒドロペルオキシド,還元剤としてチオ尿素誘導体,重合促進剤としてバナジウム化合物を含み、更にフィラーも含むことがある歯科用接着材と共に用いることにより、より高い歯質接着性を得ることができることを見出して本発明を完成した。
【0009】
即ち本発明は、酸基を有する(メタ)アクリレートと、水と、水溶性で揮発性の有機溶剤と、バナジウム化合物とを含み、更にフィラーや酸基を有さない(メタ)アクリレートも含むことがある歯科用プライマー、及びこの歯科用プライマーと、酸基を有する(メタ)アクリレート,酸基を有さない(メタ)アクリレート,重合開始剤としてヒドロペルオキシド,還元剤としてチオ尿素誘導体,重合促進剤としてバナジウム化合物を含み、更にフィラーも含むことがある歯科用接着材とから構成される歯科用接着材セットである。
【0010】
より詳しくは、酸基を有する(メタ)アクリレート:3〜35重量%と、水:5〜70重量%と、水溶性で揮発性の有機溶剤:20〜80重量%と、バナジウム化合物:0.001〜1重量%とを含み、更にフィラー:0.5〜50重量%や酸基を有さない(メタ)アクリレート:5〜25重量%も含むことがある歯科用プライマー、及びこの歯科用プライマーと、酸基を有さない(メタ)アクリレート:7〜60重量%,酸基を有する(メタ)アクリレート:3〜30重量%,重合開始剤としてヒドロペルオキシド:0.01〜10重量%,還元剤としてチオ尿素誘導体:0.01〜10重量%,重合促進剤としてバナジウム化合物:0.001〜5重量%を含み、更にフィラー:0.5〜80重量%も含むことがある歯科用接着材とから構成される歯科用接着材セットである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る歯科用プライマー及び歯科用接着材セットは、歯質表面に適用し、化学重合型、デュアルキュア型あるいは光重合型接着材に拘らず、一回の操作で、象牙質,エナメル質の双方に高い接着性を与えることが可能な歯科用プライマー及び歯科用接着材セットである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの各種のモノマー,オリゴマー,プレポリマーを意味している。酸基を有する(メタ)アクリレートは、歯質への接着性を向上させる効果があり、リン酸基又はカルボキシル基を有する(メタ)アクリレートであることが好ましく、1分子中にリン酸基又はカルボキシル基を1個又は複数個有する(メタ)アクリレートを使用できる。リン酸基はカルボキシル基よりも強い酸性を示すことから、歯面のスメアー層の溶解や歯質脱灰の効果が高く、特にエナメル質に対して高い接着性の向上効果を発揮する。
【0013】
リン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]ハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニルハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルプロパン−2−ジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルプロパン−2−フェニルハイドロジェンホスフェート、ビス[5−{2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルヘプチル]ハイドロジェンホスフェート等が挙げられる。中でも10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートが接着性及び(メタ)アクリレート自体の安定性の点から特に好ましい。これらのリン酸基を有する(メタ)アクリレートは、単独あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートとしては、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸無水物、4−(メタ)アクリロキシデシルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロキシデシルトリメリット酸無水物、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシピロメリット酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸などが挙げられる。中でも4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸,4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸無水物が接着性の点から特に好ましい。
【0015】
この酸基を有する(メタ)アクリレートの歯科用プライマー及び歯科用接着材への配合量は、それぞれ3〜35重量%と3〜30重量%とであることが好ましく、3重量%未満では歯質への接着性が低下する傾向があり、歯科用プライマーへの配合量が35重量%を超えたり歯科用接着材への配合量が30重量%を超えると歯科用プライマーや歯科用接着材自体の硬化性が低下し接着力が低下する。なお、歯科用プライマーへの配合量は30重量%以下がより好ましい。また、複数成分から成る歯科用プライマーの場合には使用時の混合割合中の配合量で配合量が規定される。
【0016】
酸基を有さない(メタ)アクリレートとして具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレートが挙げられ、これらのモノマーあるいはオリゴマーあるいはプレポリマーが好適に使用できる。また、ウレタン結合を持つ(メタ)アクリレートとして、ジ−2−(メタ)アクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、1,3,5−トリス[1,3−ビス{(メタ)アクリロイルオキシ}−2−プロポキシカルボニルアミノヘキサン]−1,3,5−(1H,3H,5H)トリアジン−2,4,6−トリオン、2,2−ビス−4−(3−(メタ)アクリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−フェニルプロパン等があり、その他2,2’−ジ(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンと2−オキシパノンとヘキサメチレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとからなるウレタンオリゴマーの(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールとヘキサメチレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとからなるウレタンオリゴマーの(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0017】
この酸基を有さない(メタ)アクリレートの歯科用プライマー及び歯科用接着材への配合量は、それぞれ5〜25重量%と7〜60重量%とであることが好ましく、歯科用プライマーには配合されていなくてもよい。歯科用接着材へこの酸基を有する(メタ)アクリレートを配合するのは、歯冠修復物の材料であるジルコニア及びアルミナ等のセラミックス、又は貴金属を含む合金への接着性を向上させるためである。歯科用接着材へのこの酸基を有する(メタ)アクリレートの配合量が7重量%未満では十分な接着性が得られず、60重量%を超えると歯科用接着材の硬化性が低下する傾向がある。
【0018】
歯科用プライマーに配合される水は、前記酸基を有する(メタ)アクリレートと共に配合することにより、酸基を有する(メタ)アクリレートの酸基が解離しセルフエッチングプライマーとして機能するため、歯面のスメアー層の溶解や歯質脱灰、及び歯質への浸透性を向上させる効果があるので、リン酸エッチング液等による前処理なしでも使用することができる。また、予めリン酸エッチング液等により前処理を行った場合でも、歯質への浸透性がより向上し、接着強さが向上する。水の配合量は5〜70重量%であることが好ましく、5重量%未満では脱灰、浸透する能力が低下し、70重量%を越えると歯科用プライマーを均一化させることが難しくなる。
【0019】
バナジウム化合物はレドックス重合の重合促進剤であり、歯科用プライマーの後で用いる歯科用接着材中の還元剤と共に重合触媒として働く。このバナジウム化合物は(メタ)アクリレート中で比較的安定な物質であるため、(メタ)アクリレートにバナジウム化合物を配合すると1液性の歯科用プライマーを作製することが可能となる。バナジウム化合物は歯科用プライマー中及び歯科用接着材セットの歯科用接着材中に0.001〜1重量%配合されていることが好ましい。0.001重量%未満であると重合促進剤としての効果が不足する傾向にあり、1重量%より多いと歯科用プライマーが濃緑色に着色され、また歯科用プライマーを保管中に酸基を有する(メタ)アクリレートを重合させてしまう虞があるので好ましくない。バナジウム化合物としては、バナジウムアセチルアセトネート、バナジルアセチルアセトネート、バナジルステアレート、バナジウムナフテネート、バナジウムベンゾイルアセトネート等が使用でき、特にバナジウムアセチルアセトネート、バナジルアセチルアセトネートから選ばれる1種又は2種以上が好ましく使用できる。
【0020】
歯科用プライマー及び歯科用接着材にはバナジウム化合物の他に、必要により重合促進剤としてスルフィン酸又はその塩を配合してもよい。スルフィン酸又はその塩として具体的には、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム等が挙げられる。中でもベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウムが保存安定性の点から特に好ましい。
【0021】
歯科用プライマーにはプライマーを構成する組成物を相溶化させたり、酸基を有する(メタ)アクリレートを歯質内に浸透させる目的で水溶性で揮発性の有機溶剤を配合する。有機溶剤としては、アセトン、エタノール、メタノール、メチルエチルケトン、イソプロパノール等が挙げられる。これらの水溶性で揮発性の有機溶剤は単独或いは2種以上混合してもよく、中でもアセトンとエタノールが特に好ましい。有機溶剤は歯科用プライマー中に20〜80重量%配合されていることが好ましい。20重量%未満又は80重量%を超えて配合すると十分な接着力が得られない。
【0022】
本発明に係る歯科用プライマーには、更に粘度調整の目的でフィラーを配合してもよい。フィラーとしては無水ケイ酸,バリウムガラス,ストロンチウムガラス、アルミナガラス,カリウムガラス,フルオロアルミノシリケートガラス等のガラス類、合成ゼオライト、リン酸カルシウム、長石、ヒュームドシリカ,ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、含水ケイ酸、含水ケイ酸カルシウム、含水ケイ酸アルミニウム、石英等の粉末がある。これらのフィラーは(メタ)アクリレートと結合させるために、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン等のシランカップリング剤で表面処理されていてもよい。また、前記のフィラーを予めモノマーやオリゴマーと混合して硬化させた後、粉砕して作製した有機無機複合フィラーも使用することができる。これらのフィラーは単独または2種以上を混合して使用することができる。中でも、無水ケイ酸、含水ケイ酸、含水ケイ酸カルシウム、含水ケイ酸アルミニウムは、長期間保存した場合でも重合前の歯科用接着材がゲル化するのを防止する効果がある。フィラーは歯科用プライマー中に0.5〜50重量%配合されていることが好ましい。0.5重量%未満ではフィラーを配合する効果が得られず、50重量%を超えて配合すると歯面に塗布し難くなり操作性が悪化する。
【0023】
本発明に係る歯科用プライマー及び歯科用接着材の包装形態は保存安定性を考慮して便宜決定すればよく、特に制限されるものではない。例えば、スルフィン酸又はその塩のようにそれ自体で(メタ)アクリレートの重合触媒となる成分が含まれる場合には、この重合触媒と(メタ)アクリレートとを任意の組み合わせで2つに分割しておき、使用直前に混合すればよい。しかし、操作性を考慮すると1液であることが好ましい。
【0024】
本発明に係る歯科用プライマーは、従来からの歯科用ボンディング材やレジンセメント等の歯科用接着材と共に使用できる。特に歯科用接着材として、酸基を有する(メタ)アクリレート,酸基を有さない(メタ)アクリレート,重合開始剤としてヒドロペルオキシド,還元剤としてチオ尿素誘導体,重合促進剤としてバナジウム化合物を含む本発明に係る歯科用修復材セットの歯科用接着材を使用すると、より優れた歯質接着性を得ることが可能である。従って、本発明のもう一つの形態は酸基を有する(メタ)アクリレートと、水と、水溶性で揮発性の有機溶剤と、バナジウム化合物とを含み、更にフィラーや酸基を有さない(メタ)アクリレートも含むことがある歯科用プライマーと、酸基を有する(メタ)アクリレート,酸基を有さない(メタ)アクリレート,重合開始剤としてヒドロペルオキシド,還元剤としてチオ尿素誘導体,重合促進剤としてバナジウム化合物を含む歯科用接着材とから構成される歯科用修復材セットである。
【0025】
本発明に係る歯科用修復材セットに用いる重合反応は、歯科用接着材中の重合開始剤であるヒドロペルオキシドと還元剤としてのチオ尿素誘導体の酸化還元反応を歯科用プライマー及び歯科用接着材中のバナジウム化合物と共に利用する。
【0026】
ヒドロペルオキシドは歯科用接着材中に0.01〜10重量%配合されることが好ましく、0.01重量%未満ではレドックス重合開始剤としての機能が不足する傾向があり、10重量%を超えて配合すると歯科用接着材中の(メタ)アクリレートが重合し易くなってしまう傾向があり組成物の保存安定性が低下してしまう。ヒドロキシペルオキシドとしては、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ヒドロペルオキシ)ヘキサン、p−ジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド、p−メタンヒドロペルオキシド、ピナンヒドロペルオキシドを例示することができる。なかでもクメンヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシドが重合性と保存安定性の点で特に好ましい。
【0027】
チオ尿素誘導体はレドックス重合の還元性物質であり(メタ)アクリレート中で安定な物質である。チオ尿素誘導体は歯科用接着材中に0.01〜10重量%含有されていることが好ましく、0.01重量%未満では重合触媒としての能力が不十分であり、10重量%を超えると(メタ)アクリレートに溶解しない場合が多い。チオ尿素誘導体としては、エチレンチオ尿素,ジエチルチオ尿素,テトラメチルチオ尿素,N−アセチルチオ尿素,N−ベンゾイルチオ尿素,ジフェニルチオ尿素,ジシクロヘキシルチオ尿素から選ばれる1種又は2種以上が好ましく使用でき、特にN−アセチルチオ尿素,N−ベンゾイルチオ尿素が重合性の点で好ましい。
【0028】
本発明に係る歯科用接着材セット中の歯科用接着材には、更に粘度調整と硬化後の組成物の強度を高める目的でフィラーを配合してもよい。フィラーとしては無水ケイ酸,バリウムガラス,ストロンチウムガラス、アルミナガラス,カリウムガラス,フルオロアルミノシリケートガラス等のガラス類、合成ゼオライト、リン酸カルシウム、長石、ヒュームドシリカ,ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、含水ケイ酸、含水ケイ酸カルシウム、含水ケイ酸アルミニウム、石英等の粉末がある。これらのフィラーは(メタ)アクリレートと結合させるために、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン等のシランカップリング剤で表面処理されていてもよい。また、前記のフィラーを予めモノマーやオリゴマーと混合して硬化させた後、粉砕して作製した有機無機複合フィラーも使用することができる。これらのフィラーは単独または2種以上を混合して使用することができる。中でも、無水ケイ酸、含水ケイ酸、含水ケイ酸カルシウム、含水ケイ酸アルミニウムは、長期間保存した場合でも重合前の歯科用接着材がゲル化するのを防止する効果がある。このフィラーの配合割合は、0.5〜80重量%が好ましい。0.5重量%未満ではフィラーを配合する効果が得られず、80重量%を超えて配合すると歯面に塗布し難くなり操作性が悪化する。
【0029】
本発明に係る歯科用プライマー及び歯科用接着材セットの使用方法は、先ず歯面に歯科用プライマーを筆等で塗布しエアー乾燥させる。この際、リン酸エッチング液等で予め歯面を前処理しておいてもよい。また、複数成分から構成される歯科用プライマーの場合には塗布前に歯科用プライマーの複数成分を混合して使用する。歯科用接着材の練和方法は、術者がヘラと練和紙を用いて手動で練和してもよいし、ミキシングチップによるオートミキシングシステムを用いてもよい。その後、歯科用接着材を歯面と歯冠補綴物内面に塗布し修復箇所へ適用させてから押圧して固定する。歯冠補綴物が或る程度の光透過性を有する材質・形状で作製されている場合にはデュアルキュア型の歯科用接着材を用いてもよい。
【0030】
なお、本発明に係る重合性組成物には必要に応じて通常用いられる光重合触媒,重合禁止剤,抗菌剤,蛍光剤,顔料等を適宜配合することもできる。
【実施例】
【0031】
表1〜4に示した配合(重量%)によって歯科用プライマーを作製した。これらの歯科用プライマーと表5に示した配合(重量%)によって作製した歯科用接着材A〜F及び市販の歯科用接着材とを組み合わせて引張り接着試験を行った。なお、バナジウム化合物の配合されていない従来の歯科用プライマーとして、市販の歯科用プライマー(製品名:ジーシー リンクマックスセルフエッチングプライマー,株式会社ジーシー社製)を使用し、バナジウム化合物の配合されていない従来のベンゾイルパーオキサイドと3級アミン系重合触媒を利用したレジンセメントとして、市販のレジンセメント(商品名:ジーシー リンクマックス,株式会社ジーシー社製)を使用した。
【0032】
表1〜5中の略語はそれぞれ以下の通りである。
GDMA:2-ヒドロキシ-1,3-ジメタクリロキシプロパン
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
UDMA:ジ-2-メタクリロキシエチル-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート
Bis-GMA:2,2-ビス-4-(3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-フェニルプロパン
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート
4-MET:4-メタクリロキシエチルトリメリット酸
t-BHP:tert-ブチルヒドロペルオキシド
CHP:クメンヒドロペルオキシド
NATU:N-アセチルチオ尿素
NBTU:N-ベンゾイルチオ尿素
SiO2:二酸化ケイ素
アエロジル:ヒュームドシリカ(製品名 R812,日本アエロジル社製)
VO(C5H7O2)2:バナジルアセチルアセトネート
V(C5H7O2)3::バナジウムアセチルアセトネート
pTSNa:p-トルエンスルフィン酸ナトリウム
BSNa:ベンゼンスルフィン酸ナトリウム
IA:6-tert-ブチル-2,4-キシレノール
EPA:p-ジメチルアミノ安息香酸エチル
CQ:光重合開始剤(カンファーキノン)
重合禁止剤:2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール
【0033】
『引張り接着試験1』
牛歯歯冠部の唇面を#320の耐水研磨紙で注水下研磨し、エナメル質又は象牙質を露出させた。被着面に直径2.5mmの穴の開いたテフロン製テープを貼り、被着面積を規定した。表1及び表2の歯科用プライマーを(表2の歯科用プライマーは2液を混和した後)面積の規定された歯面に塗布し、20秒後にエアー乾燥させた。その後、表5の2ペーストの歯科用接着材を重量比1:1で練和し、乾燥させた歯科用プライマーの上に塗布し、ステンレス製ロッドを用いて圧接した。この際、光照射は一切行わず、化学重合のみでの接着試験とした。試験体を37℃の水中に24時間保管した後、引張り試験器(商品名:オートグラフ,島津製作所製)にてクロスヘッドスピード1mm/min.の条件で引張り接着試験を行った。
【0034】
『引張り接着試験2』
前記引張り接着試験1と同様にエナメル質又は象牙質を露出させ、歯科用プライマーの使用に先立ってリン酸エッチング液である歯面処理剤(商品名:ジーシー リンクマスターエッチャント,株式会社ジーシー社製)を用いて10秒間エッチングを行い、水洗、乾燥させた。その後、直径2.5mmの穴の開いたテフロン製テープを貼り被着面積を規定した。表3及び表4の歯科用プライマーを(表4の歯科用プライマーは2液を重量比1:1で混和した後)面積の規定された歯面に塗布し、20秒後にエアー乾燥させた。その後、表5の歯科用接着材を用いて前記引張り試験1と同条件で試験を行った。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
表1〜4から明らかなように、歯面にリン酸エッチング液による前処理を行った表3,4と前処理を行っていない表1,2の結果から、本発明に係る歯科用プライマーは化学重合のみでも従来にはない極めて高い引張り接着強さが得られることが確認できる。特に、酸基を有する(メタ)アクリレート,酸基を有さない(メタ)アクリレート,重合開始剤としてヒドロペルオキシド,還元剤としてチオ尿素誘導体,重合促進剤としてバナジウム化合物を含む歯科用接着材と組み合わせることによって最大の接着強さが得られたが、従来から用いられているレジンセメント等との組み合わせでも高い接着強さを持つことが確認できた。
【0041】
そして、各比較例から明らかなように、歯科用プライマーにバナジウム化合物が配合されていない場合(比較例1,2,5,6,8,9,10,11,14,17,18,19)や酸基を有する(メタ)アクリレートと水との組合せが配合されていない場合(比較例3,4,7,12,13,15,16)は、極端に接着強さが低下していることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸基を有する(メタ)アクリレートと、水と、水溶性で揮発性の有機溶剤と、バナジウム化合物とを含むことを特徴とする歯科用プライマー。
【請求項2】
酸基を有する(メタ)アクリレート:3〜35重量%と、水:5〜70重量%と、水溶性で揮発性の有機溶剤:20〜80重量%と、バナジウム化合物:0.001〜1重量%とを含む請求項1に記載の歯科用プライマー。
【請求項3】
更にフィラー及び/又は酸基を有さない(メタ)アクリレートも含む請求項1又は2に記載の歯科用プライマー。
【請求項4】
フィラーと酸基を有さない(メタ)アクリレートとの配合割合が、それぞれ0.5〜50重量%と5〜25重量%とである請求項3に記載の歯科用プライマー。
【請求項5】
バナジウム化合物が、バナジウムアセチルアセトネート,バナジルアセチルアセトネート,バナジルステアレート,バナジウムナフテネート,バナジウムベンゾイルアセトネートから選ばれる1種又は2種以上である請求項1から4のいずれか1項に記載の歯科用プライマー。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の歯科用プライマーと、
酸基を有する(メタ)アクリレート,酸基を有さない(メタ)アクリレート,重合開始剤としてヒドロペルオキシド,還元剤としてチオ尿素誘導体,重合促進剤としてバナジウム化合物を含む歯科用接着材と
から構成されていることを特徴とする歯科用修復材セット。
【請求項7】
歯科用接着材が、酸基を有さない(メタ)アクリレート:7〜60重量%,酸基を有する(メタ)アクリレート:3〜30重量%,重合開始剤としてヒドロペルオキシド:0.01〜10重量%,還元剤としてチオ尿素誘導体:0.01〜10重量%,重合促進剤としてバナジウム化合物:0.001〜5重量%を含む請求項6に記載歯科用接着材セット。
【請求項8】
歯科用接着材が、更にフィラーも含む請求項6又は7に記載歯科用接着材セット。
【請求項9】
歯科用接着材中のフィラーの配合割合が、0.5〜80重量%である請求項8に記載の歯科用接着材セット。
【請求項10】
歯科用接着材セット中のバナジウム化合物が、バナジウムアセチルアセトネート,バナジルアセチルアセトネート,バナジルステアレート,バナジウムナフテネート,バナジウムベンゾイルアセトネートから選ばれる1種又は2種以上である請求項6から9のいずれか1項に記載の歯科用接着材セット。

【公開番号】特開2010−280630(P2010−280630A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136374(P2009−136374)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】