説明

歯科用化学重合触媒及び該触媒組成物を含有する歯科用硬化性組成物

【解決すべき課題】アリールボレート化合物と酸性化合物との組み合わせを用いる歯科用化学重合触媒において、重合活性のみならず、保存安定性にも優れた化学重合触媒を提供する。
【解決手段】(A)アリールボレート化合物;(B)酸性化合物;(C)+IV価または+V価のバナジウム化合物;(D)下記一般式(1):
【化22】


式中、X,X及びXは、それぞれ、水素原子、または、水酸基、アル
コキシ基及びアルキル基からなる群より選択された置換基である、
で表されるフェノール系化合物;からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科医療分野において使用される化学重合触媒、及び該触媒が配合された歯科用硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
重合性単量体を重合触媒により硬化させる方法は、歯科の分野で広く利用されており、このような方法を利用した硬化性組成物としては、歯科用セメント、歯科用接着材、コンポジットレジン、歯科用常温重合レジン、歯科用前処理材等が挙げられる。
【0003】
これらの硬化性組成物においては、その組成、使用目的や要求性能に応じて重合触媒が使い分けされている。重合触媒としては、光重合触媒と化学重合触媒とがあるが、硬化性組成物中に光を透過し難いフィラー等が多く含まれていたり、光照射が困難な用途に使用したりする場合には化学重合触媒を用いる必要がある。また、歯科用接着剤や前処理材においては接着対象となる歯科材料の種類によって化学重合触媒を使用しなければならないことも多い。さらに、光重合触媒を用いた場合には専用の装置を用いて光照射をする必要があり、操作の簡略化の観点から化学重合触媒の使用が望まれることもある。
【0004】
ところで、光重合触媒は、光エネルギーを利用するため活性が高く、重合による硬化を迅速に進行させることができるが、化学重合触媒は、光などの外部エネルギーを利用しないため、活性が低いという問題がある。このため、最近では、活性が向上した化学重合触媒が種々提案されており、例えば特許文献1には、アリールボレート化合物と酸性化合物とからなる化学重合触媒が提案されており、さらに、特許文献2には、アリールボレート化合物と酸性化合物との系に有機化酸化物及び/または+IV価乃至+V価のバナジウム化合物を加えた化学重合触媒が提案されている。
【0005】
上記の特許文献1及び2で提案されている化学重合触媒は、下記式で示すように、アリールボレート化合物が酸性化合物と反応してトリフェニルボランを生成し、生成したトリフェニルボランからベンゾラジカルが発生し、ベンゾラジカルが開始剤となって重合反応を促進するもの考えられている。
【化2】

【0006】
即ち、上記の式から理解されるように、特許文献2の化学重合触媒は、有機過酸化物や+IV価乃至+V価のバナジウム化合物を加えることにより、トリフェニルボラン等のアリールボランからのベンゾラジカルの生成を促進させ、これにより、特許文献1に開示されている化学重合触媒の重合活性をさらに高めたものである。
【特許文献1】特開平9−227325号
【特許文献2】特開2002−187907号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような化学重合触媒では、特許文献1の化学重合触媒は勿論のこと、特許文献2の化学重合触媒においても、口腔内で重合硬化を行う場合の多い歯科医療の分野に用いるには重合活性が十分でなく、重合活性がさらに高められた化学重合触媒が求められているのが実情である。
【0008】
また、上記のような化学重合触媒においては、例えば+IV価乃至+V価のバナジウム化合物を増量することにより、重合活性を高めることができるのであるが、この場合には、保存安定性が著しく低下してしまうという問題がある。即ち、上記のような化学重合触媒は、通常、アリールボレート化合物と重合性単量体とを含む成分と、酸性化合物、バナジウム化合物及び重合性単量体とを含む成分とを、別の包装形態で保存しておき、使用に際して、両成分を混合してペーストを調製し、このペーストを所定の部位に充填し或いは所定の形状にペーストを調整して重合硬化が行われるのであるが、長期間保存後に混合して使用に供した場合には、ペーストのゲル化などを生じてしまい、例えば所定の部位への充填或いはペーストの形状調整が困難となってしまうため、実用性が損なわれるという根本的な問題がある。また、バナジウム化合物の増量は、硬化物の着色という不都合をももたらす。従って、バナジウム化合物の増量による重合活性の向上は期待できず、他の手段により重合活性を向上することが求められている。
【0009】
従って、本発明の目的は、特にアリールボレート化合物と酸性化合物との組み合わせを用いる歯科用化学重合触媒において、重合活性のみならず、保存安定性にも優れた化学重合触媒を提供することにある。
本発明の他の目的は、硬化体の着色の問題も有効に抑制された化学重合触媒を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、上記の化学重合触媒を含み、接着材、プライマー、コンポジットレジン、補綴物などの種々の用途に適用することができる歯科用硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、アリールボレート化合物と酸性化合物との組み合わせを用いる化学重合触媒系について鋭意検討を行った結果、立体障害性が抑制された化学構造を有するフェノール系化合物を+IV価乃至+V価のバナジウム化合物を併用するときには、保存安定性を損なわずに、しかも該バナジウム化合物の使用量を少量として硬化物の着色を生じさせずに重合活性を著しく向上させることが可能となるという新規知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、
(A)アリールボレート化合物;
(B)酸性化合物;
(C)+IV価または+V価のバナジウム化合物;
(D)下記一般式(1):
【化3】

式中、X,X及びXは、それぞれ、水素原子、または、水酸基、アル
コキシ基及びアルキル基からなる群より選択された置換基である、
で表されるフェノール系化合物;
からなることを特徴とする歯科用化学重合触媒が提供される。
【0012】
本発明の歯科用化学重合触媒においては、
(1)前記アリールボレート化合物(A)1モル当り、酸性化合物(B)を0.1〜100モル及び前記バナジウム化合物(C)を0.0005〜0.015モルの量で含有し、フェノール系化合物(D)を、前記バナジウム化合物(C)1モル当り、0.05〜200モルの量で含有してなること、
(2)さらに、(E)有機過酸化物を含有してなること、
(3)前記酸性化合物(B)が酸性基含有重合性単量体であること、
(4)前記フェノール系化合物(D)として、フェノール性水酸基を2個以上含有している化合物が使用されていること、
(5)前記フェノール系化合物(D)として、ハイドロキノンが使用されていること、
(6)前記アリールボレート化合物(A)は、前記酸性化合物(B)、バナジウム化合物(C)及びフェノール系化合物(D)とは別個の包装形態で保存され、使用時に、成分(A)〜(D)の全てが混合されること、
が好適である。
【0013】
本発明によれば、また、上記の歯科用化学重合触媒と、酸性基を有していない重合性単量体とを含有している歯科用硬化性組成物が提供される。
【0014】
上記の硬化性組成物においては、
(7)酸性基を含有していない重合性単量体100質量部当り、前記アリールボレート化合物(A)を0.01乃至10質量部の量で含有していること、
(8)さらに光重合開始剤を含有していること、
が好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の歯科用化学重合触媒は、特に前記一般式(1)で表されるフェノール系化合物(成分D)がバナジウム化合物(成分C)とともに、アリールボレート化合物(成分A)及び酸性化合物(成分B)の基本成分と併用されていることが重要な特徴であり、このような組成を有しているため、紫外線などの光照射を行うことなく優れた重合活性を示し、各触媒成分(A)〜(D)と共に重合性単量体成分を含む組成物を調製することにより短時間で重合硬化が進行し、流動性のない硬化体を形成する。例えば、後述する比較例1に示されているように、上記のフェノール系化合物を含まず、触媒成分(A)〜(C)と重合性単量体とを含む組成物は、この組成物調製直後から流動性のない硬化体を形成するまでの硬化時間(初期硬化時間)が300秒であるが、本発明に従って、上記のフェノール系化合物(成分D)をさらに含む組成物では、その初期硬化時間は、140秒〜260秒と著しく短縮されており(実施例1〜24)、重合活性が顕著に向上していることが判る。
【0016】
また、本発明の化学重合触媒は、上記のような重合活性を確保するために必要な+IV価乃至+V価のバナジウム化合物(成分C)の量は極めて少量でよく、このため、保存安定性が良好であり、さらには硬化体が着色するという不都合も有効に回避することができる。
【0017】
例えば、アリールボレート化合物(成分A)と酸性化合物(成分B)とを含む触媒は、両成分を別個の包装形態で、それぞれ液状の重合性単量体成分とともに保存され、使用に際して両成分及び重合性単量体成分を含む硬化性組成物が調製される。即ち、上記の成分(A)と成分(B)との両方が重合性単量体と共存すると、重合が開始してしまうからである。この場合、+IV価乃至+V価のバナジウム化合物(成分C)は、やはり重合開始を避けるため、アリールボレート化合物(成分A)とは別個に、酸性化合物(成分B)と混合した形態で保存される。
【0018】
しかるに、後述する実施例1の保存安定性試験では、酸性化合物(成分B)、バナジウム化合物(成分C)及びフェノール系化合物(成分D)を重合性単量体に加えた組成物A1と、アリールボレート化合物(成分A)に重合性単量体を加えた組成物B1を調製し、これらの組成物を37℃で1ヶ月保存した後に混合したペーストの硬化時間が185秒であることが示されている。即ち、この硬化時間は、組成物A1及びB1を調製後、直ちに両者を混合して重合硬化を行ったときの初期硬化時間(180秒)と比較すると、殆ど変化なく、優れた重合活性が保持されていることが判る。
【0019】
一方、後述する比較例2では、本発明において使用される一般式(1)のフェノール系化合物に代えて、重合禁止剤として知られているBHT(2,6−ジt−ブチルヒドロキシトルエン)が、酸性化合物(成分B)、バナジウム化合物(成分C)を含む組成物A2に加えられており、この組成物A2を用いた以外は実施例1と全く同様にして初期硬化時間及び37℃、1ヶ月保存後の硬化時間が測定されており、初期硬化時間は330秒であり、1ヶ月保存後の硬化時間は340秒となっている。即ち、重合禁止剤の使用では、長期保存による重合活性の低下を抑制できるものの、硬化時間が著しく長くなってしまい、初期の段階から重合活性が低下してしまうことが判る。
【0020】
さらに、後述する比較例3では、本発明において使用される一般式(1)のフェノール系化合物を使用せず、実施例1に比しての5倍量のバナジウム化合物(成分C)の量を用いてBHTと共に配合して酸性化合物含有の組成物A3が調製されており、この組成物A2を用いた以外は実施例1と全く同様にして初期硬化時間及び37℃、1ヶ月保存後の硬化時間が測定されている。このときの初期硬化時間は180秒であり、重合活性は、本発明と同程度に著しく向上しているものの、37℃、1ヶ月保存後では、組成物自体がゲル化してしまっており、保存安定性が著しく低下してしまっていることが判る。
【0021】
以上の実施例1及び比較例1〜3の実験結果から理解されるように、本発明にしたがって、一般式(1)のフェノール系化合物(成分D)を+IV価乃至+V価のバナジウム化合物(成分C)と併用した場合には、該バナジウム化合物を多量に使用することなく、保存安定性を維持しつつ、重合活性を著しく向上させることが可能となるのである。これに対して、一般式(1)で表されるものとは異なり、BHT等の重合禁止剤として使用されるフェノール系化合物を用いた場合には、保存安定性を確保することができても、重合活性を高めることはできず、また、重合活性を高めるためには、多量のバナジウム化合物を使用することが必要となってしまい、保存安定性が損なわれてしまうのである。
【0022】
本発明において、一般式(1)のフェノール系化合物(成分D)の使用が、保存安定性を損なうことなく、重合活性の著しい向上をもたらす理由は、正確に解明されたわけではないが、このフェノール系化合物が2位及び6位に置換基を有しておらず、立体障害性が低く、反応性の高いOH基を分子中に有していることから考えて、+IV価乃至+V価のバナジウム化合物の配位子を交換し、その活性を向上せしめ、トリフェニルボラン等のアリールボランからのベンゾラジカルの生成に選択的に寄与し、生成するラジカルをトラップするような作用を示さないためではないかと考えられる。即ち、BHT等のフェノール系化合物は、立体障害性が高く、OH基の活性が低いため、+IV価乃至+V価のバナジウム化合物の配位子交換による活性には寄与せず、生成するラジカルをトラップするという重合禁止剤としての機能を果たすに過ぎないため、保存安定性を向上させることはできても、重合活性を向上させることはできないものと考えられる。
【0023】
また、本発明の化学重合触媒は、酸性化合物(成分B)を含有しているため、エッチング効果を示す。このため、この化学重合触媒が配合された硬化性組成物を歯の損傷部位に施したときに、歯の象牙質にまで浸透し、この結果、歯質に対する接着性が向上するという利点もある。
【0024】
上述したように、本発明の化学重合触媒は、光照射せずに、口腔内環境で速やかに硬化せしめるほど重合活性が高く、しかも優れた保存安定性を有しているため、歯科医療の分野で有効に使用され、例えば、この化学重合触媒が配合された硬化性組成物は、コンポジットレジン等の損傷した歯の窩洞に充填する歯科修復材として、或いはこのような歯科修復材を歯質に固定するための歯科セメントなどの接着材として、或いはさらに、歯質に施して歯質と歯科修復材や歯科セメントなどとの接着性を向上させるためのプライマーとして好適に使用することができる。勿論、上記化学重合触媒を、アンレー、インレーなどの歯科補綴物としての用途に適用することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
<化学重合触媒>
本発明の化学重合触媒は、歯科医療分野に使用される各種硬化性組成物の重合触媒として使用されるものであり、(A)アリールボレート化合物、(B)酸性化合物、(C)+IV価乃至+V価のバナジウム化合物及び(D)フェノール系化合物を必須成分として含有し、重合活性をさらに高めるために、(E)有機化酸化物が適宜使用される。
以下、各触媒成分について説明する。
【0026】
(A)アリールボレート化合物;
本発明の化学重合触媒で使用するアリールボレート化合物は、分子中に少なくとも1個のホウ素−アリール結合を有しており、具体的には、下記一般式(2)で表される。
【化4】

上記式中、
、R及びRは、それぞれ、アルキル基、アリール基、アラルキル基、
またはアルケニル基であり、
及びRは、それぞれ、ハロゲン原子、アルキル基、またはフェニル基
であり、
は、金属陽イオン、4級アンモニウムイオン、4級ピリジニウムイオ
ン、4級キノリニウムイオン、またはホスホニウムイオンである。
【0027】
このアリールボレート化合物は、前述したアリールボレート化合物と酸性化合物とを含む触媒系の反応機構を示す式から理解されるように、重合開始のためのラジカル源となるものである。この場合、ホウ素−アリール結合を有していないボレート化合物も、ラジカル源となり得るが、保存安定性が悪いため、本発明においては、ラジカル源として使用することができない。即ち、歯科臨床では、化学重合触媒系の硬化反応を利用する材料は、触媒系の成分を別々に分割した包装形態で保存しておき、使用直前に混合乃至練和して硬化性組成物のペーストとして使用されるが、ホウ素−アリール結合を有していないボレート化合物は、空気中の酸素と容易に反応して分解してしまうため、包装された状態でも簡単に劣化してしまったり、混合や練和時においても硬化反応が直ちに進行しまい、硬化性組成物のペーストを歯の損傷部位に充填したり、或いは所定の形状に成形する作業時間の余裕がなくなってしまい、その使用が事実上困難になってしまうからである。一方、本発明において使用するアリールボレート化合物は、適度な安定性を有しているため、上記のような問題を生じることがない。
【0028】
アリールボレート化合物の構造を示す一般式(1)において、基R〜Rは、アルキル基、アリール基、アラルキル基またはアルケニル基であり、これらの基は、置換基を有していてもよい。
【0029】
これらの基のうち、アルキル基としては、直鎖或いは分岐状の何れのものでもよく、特に制限されるものではないが、好ましくは炭素数3〜30のアルキル基、より好ましくは炭素数4〜20の直鎖アルキル基、例えば、n−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基、n−ヘキサデシル基等である。また、当該アルキル基が有していてもよい置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、あるいはフェニル基、ニトロフェニル基、クロロフェニル基等の炭素数6〜10のアリール基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素数1〜5のアルコキシ基、アセチル基等の炭素数2〜5のアシル基等が例示される。また当該置換基の数及び位置も特に限定されない。
【0030】
アリール基も特に限定されるものではなく、また、置換基を有していてもよいが、好ましくは単環ないし2又は3つの環が縮合した炭素数6〜14(置換基の有する炭素原子を除く)のアリール基である。このアリール基が有していてもよい置換基としては、上記アルキル基の置換基として例示された基、ならびにメチル基、エチル基、ブチル基等の炭素数1〜5のアルキル基が例示される。このようなアリール基の具体例としては、フェニル基、1−又は2−ナフチル基、1−、2−又は9−アンスリル基、1−、2−、3−、4−又は9−フェナンスリル基、p−フルオロフェニル基、p−クロロフェニル基、(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニル基、3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル基、p−ニトロフェニル基、m−ニトロフェニル基、p−ブチルフェニル基、m−ブチルフェニル基、p−ブチルオキシフェニル基、m−ブチルオキシフェニル基、p−オクチルオキシフェニル基、m−オクチルオキシフェニル基等が例示される。
【0031】
また、アラルキル基としては特に限定されず、さらに置換基を有していてもよいが、一般的には、炭素数が7〜20のもの(置換基の炭素数を除く)、例えばベンジル基、フェネチル基、トリル基を例示することができる。また、置換基としては、上記アリール基で例示した置換基を挙げることができる。
【0032】
アルケニル基も特に限定されるものではなく、置換基を有していてもよく、炭素数4〜20のアルケニル基(置換基の炭素数を除く)、例えば、3−ヘキセニル基、7−オクチニル基等が好適である。またその置換基としては前記アルキル基の置換基として例示されたものが挙げられる。
【0033】
また、上記一般式(1)中、R及びRは、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、アルキル基、アルコキシ基、またはフェニル基である。
【0034】
このようなR及びRにおいて、アルキル基及びアルコキシ基は、特に限定されるものではなく、直鎖状でも分枝状でも良く、さらに置換基を有していてもよいが、好ましくは炭素数1〜10のもの(置換基の炭素数を除く)である。さらに、この置換基としては、前記の基R〜Rで示されるアルキル基の置換基として例示したものが挙げられる。このようなアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−又はi−プロピル基、n−,i−又はt−ブチル基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基、メトキシメチル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル基等が例示され、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、1−又は2−プロポキシ基、1−又は2−ブトキシ基、1−、2−又は3−オクチルオキシ基、クロロメトキシ基等が例示される。
【0035】
またR及びRにおけるフェニル基も置換基を有していてよく、この置換基としては、前記の基R〜Rのアリール基の置換基として例示したものが挙げられる。
【0036】
また、上記一般式(1)中、Lは、金属陽イオン、第3級又は第4級アンモニウムイオン、第4級ピリジニウムイオン、第4級キノリニウムイオン、または第4級ホスホニウムイオンである。
【0037】
上記の金属陽イオンとしては、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属陽イオン、マグネシウムイオン等のアルカリ土類金属陽イオン等が好ましく、第3級又は第4級アンモニウムイオンとしては、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、トリブチルアンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン等を挙げることができる。また、第4級ピリジニウムイオンとしては、メチルキノリニウムイオン、エチルキノリニウムイオン、ブチルキノリウムイオン等が代表的であり、さらに、第4級ホスホニウムイオンとしては、テトラブチルホスホニウムイオン、メチルトリフェニルホスホニウムイオン等を例示することができる。
【0038】
本発明において、上記式(1)で示されるアリールボレート化合物の好適例としては、1分子中に1個のアリール基を有するもの、1分子中に2個のアリール基を有するもの、1分子中に3個のアリール基を有するもの、及び1分子中に4個のアリール基を有するものを挙げることができる。
【0039】
1分子中に1個のアリール基を有するアリールボレート化合物の具体例としては、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p−クロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−フルオロフェニル)ホウ素、トリアルキル(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、トリアルキル[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、トリアルキル(p−ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素及びトリアルキル(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)の塩を挙げることができる。また、その塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリブチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等を挙げることができる。
【0040】
1分子中に2個のアリール基を有するボレート化合物としては、ジアルキルジフェニルホウ素、ジアルキルジ(p−クロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−フルオロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、ジアルキルジ[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、ジアルキル(p−ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素及びジアルキルジ(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)の塩を挙げることができる。その塩には、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリブチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等がある。
【0041】
1分子中に3個のアリール基を有するボレート化合物としては、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリス(p−クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p−フルオロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、モノアルキルトリス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリス(p−ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m−ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、及びモノアルキルトリス(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)の塩を挙げることができる。その塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリブチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等を挙げることができる。
【0042】
1分子中に4個のアリール基を有するボレート化合物としては、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p−クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、テトラキス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素及びテトラキス(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)の塩を挙げることができる。その塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリブチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等を挙げることができる。
【0043】
本発明においては、保存安定性の観点から、1分子中に3個または4個のアリール基を有するアリールボレート化合物を用いることが好ましく、さらには取り扱いの容易さや入手のし易さから、4個のアリール基を有するアリールボレート化合物が最も好ましい。上述したアリールボレート化合物は1種または2種以上を混合して用いることも可能である。
【0044】
(B)酸性化合物;
酸性化合物は、プロトン源として使用されるものであり、上記のアリールボレート化合物と反応して、アリールボランを生成させるために使用される成分である。
【0045】
このような酸性化合物としては、一般的にブレンステッド酸として知られている無機酸、有機酸や、酸性基と共に重合性基を含有しており、それ自身が重合可能な酸性基含有重合性単量体が使用される。
【0046】
このような酸性化合物において、無機酸の例としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等が代表的であり、有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、安息香酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸およびトリメリット酸等のカルボン酸類;p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸およびトリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸類;メチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジメチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸等のリン酸類;などが代表的である。また、フェノール類、チオール類の他、酸性イオン交換樹脂、酸性アルミナ等の固体酸も、本発明における酸性化合物として使用することができる。
【0047】
また、酸性基含有重合性単量体は、1分子中に少なくとも1つの酸性基と少なくとも1つの重合性不飽和基を持つ化合物であり、それ自身が重合し、重合硬化によって、酸性成分の溶出等のおそれがないため、本発明においては、酸性化合物として最も好適に使用される。このような酸性基含有重合性単量体が分子中に有している酸性基としては次に示すようなものを挙げることができる。
【0048】
酸性基の例;
【化5】

【0049】
また、酸性基含有重合性単量体が分子中に有している重合性不飽和基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基、アリル基、エチニル基、スチリル基のようなものを挙げることができる。
【0050】
本発明において、上記のような酸性基含有重合性単量体の具定例としては、下記式で表される化合物が代表的である。
【0051】
酸性基含有重合体の代表例;
【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

但し上記化合物中、Rは水素原子またはメチル基を表す。
【0052】
また、上記の化合物以外にも、ビニル基に直接ホスホン酸基が結合したビニルホスホン酸類や、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸等を酸性基含有重合性単量体、即ち(B)成分の酸性化合物として使用することができる。
【0053】
本発明においては、上記の酸性基含有重合性単量体の中でも、それ自身の重合硬化性が高いという点で、重合性不飽和基としてアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基を有する化合物であることが好適である。
【0054】
(C)+IV価乃至V価のバナジウム化合物;
本発明において使用する+IV価乃至V価のバナジウム化合物は、アリールボレート化合物と酸性化合物との反応により生成するトリフェニルボラン等のアリールボランの分解を促進させ、迅速にベンゾラジカルを生成せしめる分解促進剤として作用する成分であるが、この化合物は、後述する有機過酸化物(成分E)がアリールボランと共存したときに、特に効果的にアリールボランの分解を促進する。
【0055】
バナジウム化合物は、酸化数が−I価から+V価までとるが、本発明に使用されるバナジウム化合物は、+IV価又は+V価である。−I価から+I価では化合物の安定性が悪く、また+II価、+III価では活性が低くなり、上述した分解促進機能が不満足となり、重合活性を十分に向上させることが困難となってしまうからである。本発明において、成分(C)として使用される+IV価又は+V価のバナジウム化合物としては、特に制限されるものではないが、一般的には、四酸化二バナジウム(IV)、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)、等が、1種単独で或いは2種以上を組み合わせて使用される。
【0056】
(D)フェノール系化合物;
本発明において、(D)成分として使用されるフェノール系化合物は、既に述べたように、化学重合触媒の保存安定性を損なわずに重合活性を向上させる本発明の骨子となる成分であり、下記の一般式(1)で表される化合物である。
【化10】

上記の一般式(1)において、X,X及びXは、それぞれ、水素原子、または、水酸基、アルコキシ基及びアルキル基からなる群より選択された置換基である。
【0057】
上記の一般式(1)から理解されるように、このフェノール系化合物は、フェノール性水酸基に隣接する位置(2位及び6位)に置換基が存在しておらず、フェノール性水酸基に対する立体障害性が低いという点で、重合禁止剤として汎用されているBHTなどのヒンダードフェノール類と異なる。即ち、本発明では、フェノール性水酸基の立体障害性が希薄であるため、その活性が高く、従って、BHTなどのヒンダードフェノールを用いたときには全く認めらない重合活性の向上が発現するのである。かかる重合活性の向上は、先に述べたように、配位子交換などにより、上記(C)成分のバナジウム化合物の活性が高められ、トリフェニルボラン等のアリールボランのベンゾラジカルへの分解が促進されるためであると推定されている。
【0058】
かかるフェノール系化合物を示す一般式(1)において、X,X及びXは、それぞれ、水素原子、または置換基であり、かかる置換基は、水酸基、アルコキシ基或いはアルキル基である。これら置換基の内、アルコキシ基及びアルキル基は、立体障害性が少ないという観点から、炭素原子数が小さいもの、例えば炭素数が4以下のものであり、さらには直鎖状であることが好ましい。また、このようなアルコキシ基及びアルキル基は、前述したアリールボレート化合物の一般式(2)中のアルキル基で例示したような置換基をさらに有していてもよいが、やはり立体障害性の観点から、このような置換基は炭素数が小さいものが好ましく、特に、このような置換基を含めて、アルコキシ基及びアルキル基の炭素数が4以下であることが好ましい。本発明において、このようなアルコキシ基及びアルキル基として好適なものは、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、及びメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基であり、特にメトキシ基及びメチル基がよい。
【0059】
また、本発明において、特に好適なフェノール化合物では、上記の基X,X及びXは、水素原子、水酸基及びアルコキシ基が好ましく、特に、フェノール(X=X=X=H)、メトキシハイドロキノン(X=X=H,X=OCH)及びハイドロキノン(X=X=H,X=OH)であり、さらに好ましくはフェノール及びハイドロキノンであり、立体障害性のないフェノール性水酸基を2個有しているという観点から、ハイドロキノンが最適である。
【0060】
(E)有機過酸化物;
本発明においては、上述した(A)乃至(D)成分に加えて、有機過酸化物が配合されていてもよい。この有機過酸化物も、上述した(C)成分のバナジウム化合物と同様、アリールボレートから生成したアリールボランの分解を促進するものであり、このような有機過酸化物の使用により、触媒の重合活性をさらに高めることができる。
【0061】
本発明で使用できる代表的な有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリールパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネートに分類される各種有機過酸化物が挙げられ、これら有機過酸化物の具体例としては、次のようなものが挙げられる。
【0062】
ケトンパーオキサイド類:
メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド等。
【0063】
パーオキシケタール類:
1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル
4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等。
【0064】
ハイドロパーオキサイド類:
P−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等。
【0065】
ジアルキルパーオキサイド類:
α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等。
【0066】
ジアシルパーオキサイド類:
イソブチリルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアリルパーオキサイド、スクシニックアシッドパーオキサイド、m−トルオイルベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等。
【0067】
パーオキシジカーボネート類:
ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジー2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−2−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート等。
【0068】
パーオキシエステル類:
α,α−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−m−トルオイルベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス(t−ブチルパーオキシ)イソフタレート等。
【0069】
また、上述した有機過酸化物以外にも、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等が好適に使用できる。
【0070】
本発明において、上述した有機過酸化物の中でも、重合活性の観点から、ケトンパーオキサイド類、パーオキシエステル類、又はジアシルパーオキサイド類を使用するのが好ましく、これらの中でも、硬化性組成物としたときの保存安定性の点から10時間半減期温度が60℃以上の有機過酸化物を用いるのがさらに好ましい。
【0071】
化学重合触媒の組成;
本発明において、上述した(A)乃至(D)成分、及び適宜使用される(E)成分は、それぞれ、1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、各成分の使用量は、その種類によっても異なるが、優れた重合活性と良好な保存安定性を確保するという観点から、一般に、酸性化合物(B)は、アリールボレート化合物(A)1モル当り、0.1〜100モル、特に0.5〜50モルの量が好適であり、バナジウム化合物(C)は、アリールボレート化合物(A)1モル当り、0.0005〜0.015モル、特に0.001〜0.01モルの量が好適である。また、フェノール系化合物(D)は、バナジウム化合物(C)1モル当り、0.05〜200モル、特に0.1〜100モルの量が好ましい。さらに、有機過酸化物(E)は、アリールボレート化合物1モル当り0.1〜10モル、特に0.5〜5モルの量で使用されることが好ましい。特に、本発明の化学重合触媒は、フェノール化合物(D)の使用により、バナジウム化合物(C)の使用量が少ないにもかかわらず、極めて高い重合活性を示し、また、フェノール系化合物の使用と共に、バナジウム化合物(C)の使用量が少ないこともあり、保存安定性が極めて優れ、さらに硬化体を着色をしないという点でも優れている。
【0072】
化学重合触媒の保存形態;
本発明の化学重合触媒は、上述した各成分を分割し、それぞれ、適量の重合性単量体と混合した包装形態で保存され、使用時に各成分を重合性単量体とともに混合し、所定の硬化性組成物中で重合触媒としての機能を発揮し、歯科治療のために使用される。具体的には、アリールボレート化合物(A)と酸性化合物(B)とは別個の包装形態で保存され、バナジウム化合物(C)及びフェノール系化合物(D)は酸性化合物と混合されて重合性単量体と共に、密閉容器に保存され、アリールボレート化合物(A)は、重合性単量体と共に別の密閉容器に保存される。また、有機過酸化物(E)は、一般に、アリールボレート化合物(A)と同じ密閉容器に保存されることとなる。
【0073】
<硬化性組成物>
本発明において、上述した化学重合触媒は、各成分を上記の容器から取り出して互いに混合し、通常、液状、あるいはペースト状の硬化性組成物として使用に供される。この硬化性組成物は、光照射することなく重合硬化して着色のない硬化体を形成し、しかも、充填、成形などの作業のための適度な作業時間を有しているため、取り扱いやすいばかりか、従来公知の化学重合触媒が使用されている場合に比して短時間で重合硬化が完了するため、歯の損傷部に充填して歯の修復を行う歯科医療の分野に極めて好適である。
【0074】
即ち、上記の硬化性組成物は、前述した化学重合触媒に加えて、重合性単量体(この重合性単量体は、酸性基を含有していないものであり、化学重合触媒の触媒成分としての機能を有するものではない)を含み、さらに、この硬化性組成物の用途に応じて、光乃至熱重合開始剤やフィラーなどの成分を必要に応じて含んでいる。この場合、重合性単量体は、2つに分割して保存されている化学触媒成分のパッケージの両方に適宜の割合で混合されて保存され、必要により使用される他の成分は、保存中に重合が開始しないように、その種類に応じて、化学重合触媒成分(A)或いは(B)を含む何れかのパッケージ若しくは両方のパッケージに配合されて保存されるが、場合によっては、別個のパッケージに保存され、使用時に他のパッケージに保存されている成分と混合されることもある。
【0075】
1.重合性単量体;
化学重合触媒の各成分と混合され、硬化性組成物の調製に使用される重合性単量体は、一般に、この重合性単量体の総量(酸性基含有重合体を含まない)100質量部当り、化学重合触媒中のアリールボレート化合物(A)が0.01乃至10質量部、特に0.1乃至5質量部の量で使用される。このような重合性単量体としては、歯科分野で従来の歯科用化学重合触媒と組み合わせ使用可能な公知の重合性単量体が制限なく使用できるが、硬化速度の点から(メタ)アクリレート系単量体を用いるのが好適である。
【0076】
このような(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、以下のモノ(メタ)アクリレート単量体及び多官能(メタ)アクリレート系単量体を挙げることができ、これらは、1種単独で或いは2種以上の組み合わせで使用される。
【0077】
モノ(メタ)アクリレート単量体;
メチル(メタ)アクリレート、
エチル(メタ)アクリレート、
ブチル(メタ)アクリレート、
グリジジル(メタ)アクリレート、
2−シアノメチル(メタ)アクリレート、
ベンジルメタアクリレート、
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、
アリル(メタ)アクリレート、
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、
3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、
グリセリルモノ(メタ)アクリレート等。
【0078】
多官能(メタ)アクリレート系単量体;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、
2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、
2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、
2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシエトキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、
2,2’−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、
1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、
1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、
1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、
ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、
ウレタン(メタ)アクリレート、
エポキシ(メタ)アクリレート等。
【0079】
また、本発明の歯科用硬化性組成物においては、前記(メタ)アクリレート系単量体以外にも、硬化性組成物の粘度調節、あるいは硬化性組成物の用途に応じた物性調節のために、上記(メタ)アクリレート系単量体以外の他の重合性単量体を混合して重合することも可能である。ただし、全重合性単量体(触媒成分として使用される酸性基含有重合体を除く)中、前記(メタ)アクリレート系単量体の配合割合が、50重量%以上、好ましくは60重量%以上であるのがよい。50重量%未満であると、歯科臨床で必要な硬化速度が得られにくい傾向にある。
【0080】
上記のような(メタ)アクリレート系単量体と併用される他の重合性単量体として、例えば硫黄原子含有重合性単量体がある。この硫黄原子含有重合性単量体は、硫黄原子が金属原子と結合するため、損傷した歯の修復に使用される貴金属製歯科補綴物に対して有効な接着成分であることが知られている。即ち、硬化性組成物を歯科補綴物用の接着材或いはプライマーとして使用する場合には、この硫黄原子含有重合性単量体を(メタ)アクリレート系単量体と併用することが好適となる。
【0081】
上記のような硫黄原子含有重合性単量体には、例えば特開2000−248201号に開示されているもの、具体的には、下記一般式(3a)〜(3e)で表される互変異性によりメルカプト基(SH)を形成し得るラジカル重合性化合物、下記一般式(3f)〜(3i)で表されるラジカル重合性ジスルフィド化合物、下記一般式(3j)〜(3k)で表されるラジカル重合性チオエーテル化合物などが知られている。
【0082】
【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【0083】
尚、上記の式(3a)〜(3k)中、
は、水素原子またはメチル基であり、
は、炭素数1〜12のアルキレン基、−CH−C−CH基、
−(CH)p−Si(CH−(CH)q−基(但し、p及びqは1
〜5の整数)であり、
は、−O−CO−基、−OCH−基または−OCH−C−基
であり、
は、−O−CO−基、−C−基または結合手(基R2と不飽和炭
素とが直接結合していること)であり、
Yは、−S−、−O−または−N(R’)−である(但し、R’は、水素原
子または炭素数1〜5のアルキル基である)。
【0084】
また、粘度等の物性調節のために使用される他の重合性単量体としては、スチレン、p−クロロスチレン、p−ヒドロキシスチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン等のスチレンあるいはα−メチルスチレン誘導体;フマル酸モノメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物;ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシパーフルオロイソプロピル)シクロヘキサン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエーテル、o−フタル酸ジグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシパーフルオロイソプロピル)ジフェニルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルオキシラン、エチレングリコール−ビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)等のエポキシ化合物;3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(ナフトキシメチル)オキセタン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン等のオキセタン化合物;ビニル−2−クロロエチルエーテル、ビニル−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールエタントリビニルエーテル、ビニルグリシジルエーテル等のビニルエーテル化合物等を挙げることができる。
【0085】
なお、上記で例示した他の重合性単量体のうち、エポキシ化合物、オキセタン化合物、及びビニルエーテル化合物は、本発明の歯科用化学重合触媒の(B)成分である酸性化合物によって重合を開始することのできるカチオン重合性単量体である。上述した他の重合性単量体は単独で用いても、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0086】
2.重合開始剤;
上記の硬化性組成物には、前述した化学重合触媒の特性を損なわない限り、光重合開始剤や熱重合開始剤を配合することができ、このような重合開始剤を配合したときには、光照射や熱などにより重合硬化を行う場合、前述した本発明の化学重合開始剤が重合硬化を補足し、例えば光重合開始剤が併用されている場合には化学硬化および光硬化の両方が可能ないわゆるデュアルキュア型の硬化性組成物とすることができ、光照射が不十分な場合にも、迅速に重合硬化を行うことができる。
【0087】
このような熱重合開始剤としては、特に制限はないが、例えばアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が好適である。
【0088】
また、光重合開始剤は、紫外線または可視光線の照射により重合を開始させるものであり、例えば、ジアセチル、アセチルベンゾイル、ベンジル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4’−ジメトキシベンジル、4,4’−オキシベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα−ジケトン;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル;2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン誘導体;ベンゾフェノン、p−p’−ジメチルアミノベンゾフェノン、p、p’−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド誘導体等が代表的であり、特にα−ジケトンとアシルホスフィンオキサイドが好適である。
【0089】
また、色素と光酸発生剤の組み合わせも光重合開始剤として好適である。即ち、本発明の化学重合触媒には、アリールボレート化合物(A)が必須成分として含まれているため、アリールボレート/色素/光酸発生剤からなる系が光重合開始剤として好適に機能する。
【0090】
上記の色素としては、クマリン系の色素が挙げられる。特に好適なクマリン系色素としては、400〜500nmの可視光線域に最大吸収波長を有するものが、歯科用途に一般的に使用される照射器に対して感度が高いので好適である。代表的なクマリン系色素を具体的に例示すると、3−チエノイルクマリン、3,3‘−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3,3’−カルボニルビス(4−シアノ−7−ジエチルアミノクマリン等を挙げることができる。
【0091】
また、光酸発生剤は、光照射によってブレンステッド酸あるいはルイス酸を生成するものであり、色素によって可視光線照射下分解し、酸を発生するものならば公知のものが何ら制限なく使用できる。該光酸発生剤としては、上記クマリン系色素とエネルギー移動を行い、可視光線照射下によって高効率に酸を発生することから、ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、またはジフェニルヨードニウム塩化合物が特に好適である。以下に代表的なハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体及びジフェニルヨードニウム塩化合物を示す。
【0092】
ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体:
2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、
2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、
2−(2,4−ジクロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)
−s−トリアジン等。
ジフェニルヨードニウム塩化合物:
ジフェニルヨードニウム、
p−オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム、
テトラフルオロボレート、
ヘキサフルオロホスフェート、
ヘキサフルオロアンチモネート、
トリフルオロメタンスルホネート塩等。
【0093】
上記したような重合開始剤は、それぞれ単独で用いられるだけでなく、必要に応じて複数の種類を組み合わせて用いることもできる。これら重合開始剤の使用量は本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されないが、本発明の歯科用化学重合触媒のアリールボレート化合物100重量部に対して1〜1000重量部、特に10〜500重量部であるのが好適である。
【0094】
3.フィラー;
本発明の硬化性組成物には、その用途に応じて各種のフィラーを配合することができる。例えば、歯科用直接修復用接着材(ボンディング材)や歯科用間接修復用接着材等の歯科用接着材、及びコンポジットレジン等の歯科補綴物となる歯科用修復材として使用する場合には、無機フィラー、有機フィラー、又は有機無機複合フィラー等の充填材を配合するのが好適である。
【0095】
上記の無機フィラーとしては、例えば、石英、シリカ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−マグネシア、シリカ−カルシア、シリカ−バリウムオキサイド、シリカ−ストロンチウムオキサイド、シリカ−チタニア−ナトリウムオキサイド、シリカ−チタニア−カリウムオキサイド、チタニア、ジルコニア、アルミナ等が挙げられる。これらの無機フィラーは、必要により、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ε−メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤等で表面処理されて配合される。
【0096】
また、無機フィラーとしては、多価イオン溶出性フィラーも使用することができる。かかるフィラーを添加することにより、重合反応とともに酸性基含有重合性単量体と多価金属イオンとのキレート反応が進行し、硬化体の強度を向上させることができる。
【0097】
このような多価金属イオン溶出性フィラーとしては、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム等の水酸化物、酸化亜鉛、ケイ酸塩ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、バリウムガラス、ストロンチウム等が挙げられる。これらの中でも、硬化体の耐着色性の点でフルオロアルミノシリケートガラスが最も優れており、これを使用するのが好適である。該フルオロアルミノシリケートガラスは歯科用セメントとして使用される公知のものが使用できる。一般的に知られているフルオロアルミノシリケートガラスの組成は、イオン質量%で表して、下記の組成を有している。
珪素;10〜33%、特に15〜25%
アルミニウム;4〜30%、特に7〜20%
アルカリ土類金属;5〜36%、特に8〜28%
アルカリ金属;0〜10%、特に0〜10%
リン;0.2〜16%、特に0.5〜8%
フッ素;2〜40%、特に4〜40%
酸素;残量
【0098】
このような組成のものの他、上記アルカリ土類金属の一部または全部をマグネシウム、ストロンチウムまたはバリウムで置換したものガラスも使用できる。特にストロンチウムで置換したものは硬化体にX線不透過性と高い強度を与えるためしばしば好適に使用される。
【0099】
上記の多価金属イオン溶出性フィラーも、前述した無機フィラーと同様、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理して使用に供されても何ら差し支えはない。
【0100】
また、有機フィラーとしては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体、エチルメタクリレート−ブチルメタクリレート共重合体、メチルメタクリレート−トリメチロールプロパンメタクリレート共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、塩素化ポリエチレン、ナイロン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート等のポリマーが挙げられる。
【0101】
有機無機複合フィラーとしては、前述した無機酸化物(無機フィラー)とポリマー(有機フィラー)の複合体を粉砕したものを挙げることができる。
【0102】
上述した各種フィラーの粒子形状は特に限定されず、通常の粉砕により得られるような粉砕形粒子、あるいは球状粒子でもよい。また、これらフィラーの粒子径も特に限定されるものではないが、一般的には分散性等の観点から、100μm以下、特に30μm以下が好適である。
【0103】
上述したフィラーの添加量は、その種類によって異なるが、前述した多価金属イオン溶出性フィラーの場合には、その溶出したイオンによるイオン架橋による接着性向上効果を最大限に発揮するという観点から、全重合性単量体100質量部当り1〜20質量部、特に2〜15質量部の範囲とし、この範囲で他のフィラーと併用することが好ましい。また、このような多価金属イオン溶出性フィラーを含めて、フィラーの総量は、全重合性単量体量100質量部当り、50〜900質量部、特に100乃至800質量部の範囲とするのがよい。フィラーの配合量がこの範囲よりも少ない場合には、フィラー添加による硬化体の物理的強度の向上が不満足となり、上記範囲よりも多いと、硬化性組成物の流動性が低下し、操作性が低下し、硬化性組成物の所定部位への塗布乃至充填、或いは所定形状への成形などの作業が困難となるおそれがある。
【0104】
4.他の配合剤;
また、前述した本発明の化学重合触媒を含む硬化性組成物は、上記以外にも、その用途に応じた所望の物性を付与するために、それ自体公知の各種配合剤、例えば、水、有機溶媒を添加することが可能である。
【0105】
例えば水や有機溶媒は、コンポジットレジンや補綴物等の歯科修復材料と歯質との接着に使用される接着材或いは接着用プライマーとして使用する場合において、化学重合触媒中の酸性化合物の歯質への浸透(歯質の脱灰)を促進させ、さらには、前述した多価金属イオン溶出性フィラーからのイオンの溶出やイオン架橋を促進させ、歯質(特にエナメル質)に対する硬化体の接着強度を向上させることができる。
【0106】
上記の水としては、保存安定性、生体適合性および接着性に有害な不純物を実質的に含まないという観点から、脱イオン水、蒸留水等が好適に使用される。通常、水の添加量は、全重合性単量体の全量100質量部当り2〜30重量部、特に3〜20重量部の範囲がよい。特に、水を必要以上に多量に使用すると、保存安定性や硬化体の強度低下を生じたり、また硬化性組成物を所定部位に施したときに、エアーブローなどによる水の除去が困難となり、硬化性が低下したり、或いは接着強度の低下を生じてしまう。
【0107】
有機溶媒としては、水溶性有機溶媒或いは非水溶性有機溶媒を使用することができる。水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ブテンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、アリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシエトキシ)エタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、グリセリンエーテル等のアルコール類またはエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸、無水酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸類を使用することができる。また非水溶性有機溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、メチルエチルケトン、ペンタノン、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が使用できる。これらの中でも、生体に対する為害作用の少ないものが望ましく、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、グリセリンエーテル、アセトン、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等が好適であり、特にエタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロパンジオール、アセトン等が最も好適に使用される。かかる有機溶媒は、一般に、全重合性単量体100質量部当り20乃至300質量部、特に50乃至400質量部の量で使用するのがよい。
【0108】
その他、上記以外にも、それ自体公知の増粘剤、重合調製剤、染料、帯電防止剤、顔料および香料等を、重合活性や保存安定性を損なわない範囲で配合することができる。
【0109】
上述した各種配合剤は、その種類に応じて、重合性単量体と共に、化学重合触媒成分であるアリールボレート化合物(A)が配合されたパッケージ或いは酸性化合物(B)が配合されたパッケージの何れかに配合され、或いは両パッケージに適宜の量に分割されて配合される。
【0110】
本発明の化学重合触媒が配合された硬化性組成物は、これが分割保存される包装形態での保存安定性が高く、長期間保存後に各成分を混合して使用に供される場合にも優れた重合活性を示し、しかも光照射することなく重合が開始されるばかりか、歯質等に対しても優れた接着性を示し且つ硬化体の着色も有効に抑制されているため、破損した歯の修復に用いる歯科修復材、或いは歯科修復材を所定の部位に接着固定するための接着材乃至プライマーなどとして、歯科医療の分野に好適に使用される。
【0111】
例えば、歯科用直接修復用接着剤(ボンディング材)として、この硬化性組成物をスポンジあるいは小筆等を用いて歯面に塗布し、直ちに、あるいは数秒〜数分間放置した後、コンポジットレジン等の修復材を充填し重合硬化させることにより、修復材と歯質とを強固に接着することができる。また、歯科用間接修復用接着剤(歯科用セメント)においては、歯面および/または種々の修復物に、この硬化性組成物を直接、ヘラや小筆等を用いて塗布した後、両者を接触させ、次いで重合硬化させることができる。この際には、より強固な接着強度を得る目的で、歯面を予め酸水溶液や酸性基含有重合性単量体と水等を含む前処理材で処理した後、上記のように接着させる方法も採用することができる。
【実施例】
【0112】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に示すが、本発明はこれら実施例によって何等制限されるものではない。
【0113】
尚、実施例および比較例で使用した化合物とその略称を(1)に、硬化時間の測定法を(2)に、各種硬化体物性の測定法を(3)に、歯科用直接修復用接着材における接着強度測定方法を(4)に、歯科用間接修復用接着材における接着強度測定方法を(5)に示す。
【0114】
(1)略称及び構造
[アリールボレート化合物(A)]
PhBNa;テトラフェニルホウ素ナトリウム
PhBTEOA;テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩
PhBDMPT;テトラフェニルホウ素ジメチル−p−トルイジン塩
PhBDMBE;テトラフェニルホウ素ジメチルアミノ安息香酸エチル
FPhBNa;テトラキス(p−フルオロフェニル)ホウ素ナトリウム
PhBTEA;テトラフェニルホウ素トリエチルアミン塩
PhBDMEM;テトラフェニルホウ素ジメチルアミノエチルメタクリレート塩
BFPhBNa;ブチルトリ(p−フルオロフェニル)ホウ素ナトリウム
【0115】
[酸性基含有重合性単量体(B)]
PM;2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物
MAC−10;11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカンボン酸
4−META;4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物
MMPS;2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸
【0116】
[酸性基を含まない重合性単量体]
MMA;メチルメタクリレート
TMPT;トリメチロールプロパントリメタクリレート
Bis−GMA;2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル)プロパン
3G;トリエチレングリコールジメタクリレート
D26E;2,2−ビス[(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン]
HEMA;2−ヒドロキシエチルメタクリレート
MTU−6;6−メタクリロイルオキシヘキシル−2−チオウラシル−5−カルボキシレート
NPG;ネオペンチルグリコールジメタクリレート
【0117】
[バナジウム化合物(C)]
VOAA;酸化バナジウム(IV)アセチルアセトナート
V2O5;酸化バナジウム(V)
BMOV;ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)
【0118】
[フェノール系化合物(D)]
HQME;メトキシハイドロキノン
HQ;ハイドロキノン
Ph:フェノール
【0119】
[その他のフェノール系化合物]
BHT;2,6−ジt−ブチルヒドロキシトルエン
【0120】
[有機過酸化物(E)]
パークミルH;クメンハイドロパーオキサイド
パーオクタH;1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド
【0121】
[フィラー]
FASG;フルオロアルミノシリケートガラス粉末
3Si−Zr;
不定形シリカ−ジルコニアのγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメ
トキシシラン表面処理物
平均粒径3μm
0.3Si−Ti;
球状シリカ−チタニア(或いはその凝集体)のγ−メタクリロイルオキ
シプロピルトリメトキシシラン表面処理物
1次粒子の平均粒径0.3μm
F1;粒径0.02μmの非晶質シリカ(メチルトリクロロシラン処理物)
【0122】
(2)硬化時間の測定
硬化時間の測定は、サーミスタ温度計による発熱法によって行った。すなわち、酸性化合物を含む重合性単量体溶液5g(a)、およびアリールボレート化合物を含む重合性単量体溶液5g(b)を20秒間攪拌混合し均一溶液とした。ついで、2cm×2cm×1cmの中心に6mmφの孔の空いたテフロン(登録商標)製モールドに流し込んだ後、サーミスタ温度計を差し込み、混合開始から最高温度を記録するまでの時間を硬化時間とした。
尚、測定は23℃の恒温室で行った。
【0123】
(3)硬化性および表面のべとつきの評価
上記と同様に硬化性組成物を調製し、同じ型のモールドに流し込み23℃、15分間空気中で硬化させた。硬化体の硬さおよび表面のべとつきをそれぞれ5段階で評価した。
◎:十分な硬さを有し、表面のべとつきがない。
○:十分な硬さを有し、表面だけべとついている。
△:ゼリー状になり、表面に未重合単量体が残っている。
X:部分的にゼリー状になった。
XX:まったく硬化しなかった。
【0124】
(4)歯科用直接修復用接着材の接着強度測定方法
屠殺後24時間以内に牛下顎前歯を抜去し、注水下、#800のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質または象牙質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、この平面に直径3mmの孔のあいた両面テープを固定し、接着面積を規定した。次いで、8mmφの孔の開いた厚さ1mmのワックスを両面テープと同心円上になるように貼り付けて模擬窩洞を作製した。この模擬窩洞に使用直前に調製した直接修復用の歯科用接着材を塗布し、20秒間放置した。
【0125】
光硬化型コンポジットレジンを用いる場合には、この歯科用接着材を塗布した模擬窩洞内に光硬化型コンポジットレジン[エステライトシグマ、(株)トクヤマデンタル社製]を填入し、ポリプロピレン製シートで覆った上から、パワーライト[(株)トクヤマデンタル社製]を用いて30秒間光照射してコンポジットレジンを重合硬化させ試験片を作製した。また、化学硬化型コンポジットレジンを用いる場合には、同様に化学重合型コンポジットレジン[パルフィーク、(株)トクヤマデンタル社製]を填入、硬化させ試験片を作成した。
【0126】
上記の方法で作成した試験片を24時間37℃水中に浸漬した後、引張試験機(島津社製オートグラフAG5000)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/minの条件で引っ張り試験を行った。1試験当たり、8本の接着試験片を測定し、その平均値を接着強度とした。
【0127】
(7)間接修復用接着材の接着強度測定方法
前記直接修復用接着材の接着強度測定方法と同様にして接着面積を規定した。次に歯面処理材を薄く塗布し、20秒間放置した後、圧縮空気を約5秒間吹き付けて乾燥した。上記前処理をした歯面に対し、使用直前に調製した本発明の間接修復用接着材を塗布し、直径8mmφのステンレス製のアタッチメントを圧接して試験片を作製した。この試験片を37℃湿度100%の雰囲気下で1時間保った後、さらに37℃水中に24時間浸漬し、引張試験機(島津社製オートグラフAG5000)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにて引っ張り試験を行った。1試験当たり、8本の接着試験片を測定し、その平均値を接着強度とした。
【0128】
まず、本発明の化学重合触媒の、重合性開始能および得られる硬化体の基本的物性について評価した。
【0129】
<実施例1>
D26E/3G(50wt%/50wt%)溶液100質量部に対して、(B)成分である酸性化合物としてPMを5質量部、(C)成分であるバナジウム化合物としてBMOVを0.0025質量部、および(D)フェノール系化合物としてHQを0.1質量部加え均一溶液(組成物A)とした。別に、D26E/3G(50wt%/50wt%)溶液100質量部に対して、(A)成分であるアリールボレート化合物としてPhBNaを1質量部加え均一溶液(組成物B)とした。両液を1:1の質量比で均一になるまで混合した後、硬化時間(初期)および硬化性および表面のべとつきを評価した。また、該組成物AおよびBを37℃のインキュベーターで1ヶ月間保管した後に、同様に硬化時間(保存後)を測定した。その結果を表1に示した。
【0130】
<実施例2〜24および比較例1〜6>
表1、表2および表3に示す化学重合触媒を含むD26E/3G(50wt%/50wt%)溶液を調整し、実施例1方法で硬化させて各物性を評価した。その結果を表1、表2および表3に示した。
【0131】
【表1】

【0132】
【表2】

【0133】
【表3】

【0134】
実施例1〜24は、本発明の化学重合触媒を配合した硬化性組成物の硬化速度、硬化性を評価したものである。上記表1、表2から明らかなように、本発明の化学重合触媒を用いたすべての実施例において、良好な硬化性を示した。
【0135】
一方、比較例1では、本発明の化学重合触媒の必須成分である(D)フェノール系化合物を添加しない場合の結果であり、その硬化時間は添加した場合に比べて(実施例1)遅い結果であった。また、比較例2では、本発明において使用される一般式(1)のフェノール系化合物に代えて、重合禁止剤として知られているBHT(2,6−ジt−ブチルヒドロキシトルエン)を添加した場合の結果であり、その硬化時間は添加した場合に比べて(実施例1)遅い結果であった。さらに、比較例3では、本発明において使用される一般式(1)のフェノール系化合物を使用せず、実施例1に比しての5倍量のバナジウム化合物(成分C)の量を用いてBHTと共に配合場合の結果であり、このときの初期硬化時間は180秒であり、重合活性は、本発明と同程度に著しく向上しているものの、37℃、1ヶ月保存後では、組成物自体がゲル化してしまっており、保存安定性が著しく低下してしまっていることが判る。
【0136】
比較例4〜6は、それぞれ本発明の化学重合触媒の必須成分中のいずれか1成分を添加しない場合の結果である。アリールボレート化合物もしくは酸性化合物を含まない比較例4および5においては、組成物はまったく硬化しなかった。また、+IV価または+V価のバナジウム化合物を含まない比較例6においては1時間経過しても部分的にゲル状になっただけであり、極めて硬化性が悪かった。
【0137】
続いて、本発明の化学重合触媒組成物を含有する歯科用硬化性組成物の性能を評価した。
【0138】
<実施例25>
表4に示す第一液、第二液からなる組成の歯科用硬化性組成物A(歯科用直接修復用接着材A)を調製した。両液を使用直前に表4に記載の割合になるように混合し、この接着材を用いて、前記光硬化型コンポジットレジンを用いる場合の方法で接着強度を測定した(なお、表4における各構成成分の数値は質量部)。その結果(表5)、エナメル質に23.1MPa、象牙質に23.3MPa[但し、( )は標準偏差]の接着強度が得られた。
【0139】
<実施例26〜37および比較例7〜12>
表4に示す第一液、第二液からなる組成の歯科用直接修復用接着材B〜Mを調製し、これを使用直前に表4に記載の割合になるように混合して用い接着強度を測定した(なお、表4における各構成成分の数値は質量部)。使用したコンポジットレジンの種類、および接着強度測定の結果を表5に示した。
【0140】
【表4】

【0141】
【表5】

【0142】
上記表5から明らかなように、本発明の化学重合触媒を含む歯科用直接修復用接着材は、エナメル質、象牙質双方に対して一切の前処理なしでも高い接着強さを示した。
【0143】
一方、本発明の化学重合触媒の必須成分である(D)フェノール系化合物を添加しない場合(比較例7、比較例11)には、その接着強度は添加した場合に比べて(実施例25、実施例34)低い接着強度であった。また、アリールボレート化合物、酸性化合物またはバナジウム化合物のいずれかを含まない接着材は極めて接着強度が低かった。
【0144】
<実施例38>
表6に示す組成の第一ペーストと第二ペーストからなる歯科用硬化性組成物(歯科用間接修復用接着材)CR−1を調製した。
【0145】
一方、以下の組成の前処理材を、第一液、第二液に分けて調製しておき、これを使用直前に当質量ずつ混合して歯面を処理した。なお( )は質量部を示す。
第一液:PM(15)
MAC−10(5)
Bis−GMA(5)
アセトン(10)
イソプロピルアルコール(6)
第二液:水(38)
アセトン(19)
p−トルエンスルフィン酸ナトリウム(2)
続いて上記CR−1を構成する第一ペーストと第二ペーストを使用直前に当質量ずつ混合し、前記、間接修復用接着材の接着強度測定方法に従い接着強度を測定した。結果を表7に示す。
【0146】
<実施例39〜47>
表6に示す組成の第一ペーストと第二ペーストからなる間接修復用接着材CR−2〜CR−10を調製した。これを用いた以外は実施例38と同様の方法で接着強度を測定した。結果を表7に示した。
【0147】
【表6】

【0148】
【表7】

【0149】
上記表7から明らかなように、本発明の化学重合触媒を含む歯科用間接修復用接着材は、エナメル質、象牙質双方に対して高い接着強さを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アリールボレート化合物;
(B)酸性化合物;
(C)+IV価または+V価のバナジウム化合物;
(D)下記一般式(1):
【化1】

式中、X,X及びXは、それぞれ、水素原子、または、水酸基、アル
コキシ基及びアルキル基からなる群より選択された置換基である、
で表されるフェノール系化合物;
からなることを特徴とする歯科用化学重合触媒。
【請求項2】
前記アリールボレート化合物(A)1モル当り、酸性化合物(B)を0.1〜100モル及び前記バナジウム化合物(C)を0.0005〜0.015モルの量で含有し、フェノール系化合物(D)を、前記バナジウム化合物(C)1モル当り、0.05〜200モルの量で含有してなる請求項1に記載の歯科用化学重合触媒。
【請求項3】
さらに、(E)有機過酸化物を含有してなる請求項1または2に記載の化学重合触媒。
【請求項4】
前記酸性化合物(B)が酸性基含有重合性単量体である請求項1乃至3の何れかに記載の化学重合触媒。
【請求項5】
前記フェノール系化合物(D)として、フェノール性水酸基を2個以上含有している化合物が使用されている請求項1乃至4の何れかに記載の化学重合触媒。
【請求項6】
前記フェノール系化合物(D)として、ハイドロキノンが使用されている請求項5に記載の化学重合触媒。
【請求項7】
前記アリールボレート化合物(A)は、前記酸性化合物(B)、バナジウム化合物(C)及びフェノール系化合物(D)とは別個の包装形態で保存され、使用時に、成分(A)〜(D)の全てが混合される請求項1乃至6の何れかに記載の化学重合触媒。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかに記載の歯科用化学重合触媒と、酸性基を有していない重合性単量体とを含有している歯科用硬化性組成物。
【請求項9】
酸性基を含有していない重合性単量体100質量部当り、前記アリールボレート化合物(A)を0.01乃至10質量部の量で含有している請求項8に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項10】
さらに光重合開始剤を含有している請求項8または9に記載の歯科用硬化性組成物。

【公開番号】特開2009−127000(P2009−127000A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305858(P2007−305858)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】