説明

歯科用合金

【課題】従来の陶材築盛法ばかりかプレス成形法にも安定して使用できる歯科用合金を提供する。
【解決手段】Au:30〜46mass%、Ag:5〜11mass%、Pd:30〜50mass%、Ir:0.05〜0.5mass%、Sn:5〜8mass%、In:0〜2mass%及びGa:0〜1mass%(ただし、Sn、In及びGaの合計量は10 mass%まで)からなり、プレス成形法に適用できることを特長とする歯科用合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用合金に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において修復物作製に用いられる歯科用合金は、精密鋳造により所望の形状付与が可能であり、歯牙との適合に優れる長所を備える反面、色調が金属色であるため、白色のレジン材料やセラミック材料に比べて、審美性が劣っている。
【0003】
歯科用合金の審美性を補うために、臨床ではメタルセラミック修復が用いられる。メタルセラミック修復では、鋳造やミリング加工によって作製した金属フレーム上に、セラミック粉末からなる歯科用陶材を築盛、乾燥、焼成して修復物を製作する。陶材は天然歯に近い色調を有するため、金属を用いても審美的に優れた修復物とすることができる。
【0004】
金属フレームは、歯科用陶材築盛以前に熱処理して、合金表面に酸化物層を形成させ、歯科用陶材との接合を確実にする。また、歯科用陶材には、金属フレーム上に直接築盛するオペーク陶材、オペーク陶材焼成後に築盛するデンティン陶材、さらにデンティン陶材焼成後に築盛するエナメル、トランスルーセント陶材など複数種あり、それぞれの粉末を築盛、乾燥、焼成するため多くの技工工程を必要とする。
【0005】
最近では、鋳造後オペーク処理した金属フレームを再度鋳型内に埋入し、セラミックインゴットを加熱しながら圧入して、金属フレーム上にセラミック層を形成するプレス成形法と呼ばれる方法も利用されつつある。この方法は、圧入されたセラミックスによって、修復物の最終形態に近い状態まで作製できるため、多層で築盛する従来法よりも技工操作が簡便になる。また、従来法のように歯科用陶材の寸法収縮を考慮する必要がないため、正確な形態の修復物とすることができる。
【0006】
プレス成形法に使用する合金は、陶材の着色を防止するため、AgやCuの含有量を抑制する必要がある。また、セラミック圧入工程時における高温下での圧力に耐えうる強度が必要になる上、以降の陶材クラックを防止するため、合金の熱膨張係数の調整が必要になる。このように、プレスタイプに適用する合金設計は、従来の陶材築盛に用いる合金の場合よりも制約が多い。
【0007】
プレス成形法による歯科修復物に関する先行技術として、特許文献1には、0.01〜0.05mass%Zn、0.01〜0.05mass%In、0.01〜0.05mass%Ag、0.01〜0.05mass%Mnを含み、残部がAuである合金が開示されている。この合金は金の含有量が非常に多いため、ブリッジ等の大型の補綴物に用いるには強度不足であり、実用上のメリットは小さい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2007−527955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来の陶材築盛法ばかりかプレス成形法にも安定して使用できる歯科用合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、歯科用合金の組成を次のようにすることにより、発明を完成するに至った。
すなわち、Au:30〜46mass%、Ag:5〜11mass%、Pd:30〜50mass%、Ir:0.05〜0.5mass%、Sn:5〜8mass%、In:0〜2mass%及びGa:0〜1mass%(ただし、Sn、In及びGaの合計量は10 mass%まで)とする。
【0011】
したがって、上述した本発明の目的は、Au:30〜46mass%、Ag:5〜11mass%、Pd:30〜50mass%、Ir:0.05〜0.5mass%及びSn:5〜8mass% からなる歯科用合金によって達成される。また、Au:30〜46mass%、Ag:5〜11mass%、Pd:30〜50mass%、Ir:0.05〜0.5mass%、Sn:5〜8mass%、In:〜2mass%及びGa:〜1mass%(ただし、Sn、In及びGaの合計量は10 mass%まで)からなる歯科用合金によって達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の歯科用合金によれば、陶材築盛法及びプレス成形法の双方に用いることができる。次に、その理由を説明する。
【0013】
本発明は、Au:30〜46mass%、Ag:5〜11mass%、Pd:30〜50mass%、Ir:0.05〜0.5mass%、Sn:5〜8mass%、In:0〜2mass%及びGa:0〜1mass%(ただし、Sn、In及びGaの合計量は10 mass%まで)を含む。
【0014】
Au及びPdの含有量は本発明の要である。Au:30〜46mass%及びPd:30〜50mass%とすることにより、市販の歯科用鋳造機で鋳造できる範囲で溶融温度が高くなり、耐熱性が向上する。また、近年価格高騰が続いているAuの使用量を減らすことができ、安価な歯科用合金とすることができる。より好ましくは、Au:32〜38mass%及びPd:42〜48mass%とするとよい。
【0015】
Agの含有量は5〜11mass%とすることにより、陶材の着色が防止できる。また、合金の液相点及び固相点を低くすることができるが、熱膨張係数が過度に高くなるのを抑制することができる。より好ましくは、8〜11mass%とする。
【0016】
Irの含有量は、0.05〜0.5mass%とすることにより、合金の結晶粒を微細化でき、かつ、均質な合金とすることができる。より好ましくは、0.1〜0.3mass%とする。
【0017】
Snの含有量は、5〜8mass%とすることにより、プレス成形に適した熱膨張係数(13.8〜14.2×10-6K-1)とすることができ、かつ、強度を向上させることができる。Snがこの範囲より少量の場合には、熱膨張係数、強度とも低下し、反対に多量の場合には、靭性が低下して加工性及び伸びが悪化する。
【0018】
Inを2mass%以下含有させると、さらに強度を高めることができる。
【0019】
Gaを1mass%以下含有させると、合金の液相点及び固相点を低くすることができ、鋳造性を向上させることができる。しかし、含有量が1mass%より多くなると、固相点の低下が著しくなり、また、靭性が低下して加工性及び伸びが悪化する。より好ましくは、0.5〜0.9mass%とするとよい。
【0020】
Sn、In及びGaは、総じて合金の強度を増し、液相点及び固相点を低下させるが、多量に含むと合金を脆化させるばかりか、過度な固相点低下を招き、耐熱性が悪化する。よって、その合計で10mass%が適する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】金属フレームにセラミックインゴットをプレス成形した後の断面。
【実施例】
【0022】
本発明の実施例の組成及び比較例の組成を表1に示す。
【0023】
合計50gとなるように各成分の原材料を秤量し、アルゴンアーク溶解法にて溶解・混合した。このインゴットは、概ね30%の加工率で冷間圧延し、アルゴン中1100℃、1時間熱処理して焼鈍した。同様の圧延、焼鈍を繰返し厚さ0.5mmの圧延板とした。
【0024】
溶融範囲(固相点-液相点)は、圧延板より試験片を切り出し、示差熱分析装置にて測定した。
【0025】
硬さは、圧延板を歯科精密鋳造により厚さ1.2×幅15×長さ10mmに鋳造し、大気中1000℃、10分間の熱処理後、樹脂包埋、粗研磨、バフ研磨を経て鏡面の試験片とし、マイクロビッカース硬さ試験機を用いて荷重200gf、10秒の条件で測定した。
【0026】
熱膨張係数は、圧延板を歯科精密鋳造により直径4×長さ25mmに鋳造し、大気中930℃、15分間の熱処理後、最終的に直径3.5×長さ20mmに成形して、熱機械分析装置を用いて昇温速度5℃/分の測定条件で測定し、50℃〜500℃の平均熱膨張係数を算出した。
【0027】
0.2%耐力及び伸びは、前記と同様の鋳造方法で直径2×長さ50mmのダンベル形の試験片に鋳造し、930℃で15分間、大気中で熱処理した。その後、引張試験機にて0.2%耐力及び伸びを測定した。
【0028】
歯科修復物の作製は、プレス成形法用セラミックスとして、(株)ノリタケデンタルサプライ製「スーパーポーセレンEX-3プレス」を組み合わせ使用した。最初に合金によるフレーム形状を歯科精密鋳造し、研削と表面処理を行った。次に不透明陶材であるオペークをフレーム上面に塗布焼成の後、上層に歯科用ワックスを用い修復物としての歯冠を作製し、鋳型材で包埋する工程を経て鋳型を850℃で加熱した。鋳型焼成によってワックス相当部分の空洞を得た後、歯科技工用セラミックス加熱加圧成形器を用いセラミックインゴットを鋳型に圧入成形した。なお、圧入条件は、最高温度950℃、圧力値0.35MPaとした。最終的に、鋳型より掘り出し、合金フレームと一体化したセラミック外形の歯冠修復物を得た。出来上がった歯冠修復物にステイン陶材を築盛し、陶材変色の有無を評価した。
【0029】
(結果)
実施例の合金の硬さは、265〜303HVと比較例の合金よりも大きく、耐力も641〜660MPaと比較例合金よりも高い値を示しながら、伸びも9〜11%であり、優れた機械的性質を有していた。熱膨張係数は、13.8〜14.2×10-6K-1であり、プレス成形法に適するとされる範囲内であった。プレス成形後の状態は、いずれもクラックは見られず、かつ、フレームとしての変形も確認されず、プレス成形法として十分適合した。さらに、陶材変色も認められなかった。
【0030】
なお、(株)ノリタケデンタルサプライ製「スーパーポーセレン AAA」を使用して、従来法による修復物を作製した結果、すべての実施例合金においてなんらの問題も生じなかった。
【0031】
比較例1の合金は、SnよりもInを多く添加したため、溶融範囲は高く、一方で熱膨張係数は低い値を示した。比較例2及び比較例3の合金は、Agの含有量が高いため、熱膨張係数が高く、強度は、実施例に比べて小さくなった。比較例のプレス成形後の状態は、いずれも熱膨張係数の乖離によってクラックが発生し、比較例1の合金は、強度不足により変形したためプレス成形適合性は不適であった。また、比較例2及び比較例3の合金は、Agの含有量が高いため、陶材変色が生じ不適であった。
【0032】
上記の実験的検証によって、本発明の合金はいずれもプレス成形適合性を満足し、更に従来の陶材築盛法でも使用可能であることが明らかになった。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Au:30〜46mass%、Ag:5〜11mass%、Pd:30〜50mass%、Ir:0.05〜0.5mass%、Sn:5〜8mass%、In:0〜2mass%及びGa:0〜1mass%(ただし、Sn、In及びGaの合計量は10 mass%まで)からなり、プレス成形法に適用できることを特長とする歯科用合金。

【図1】
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【公開番号】特開2012−136479(P2012−136479A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290607(P2010−290607)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(511220957)株式会社ノリタケデンタルサプライ (1)
【出願人】(000198709)石福金属興業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】