説明

歯科用成形体、及び歯科用樹脂材料

【課題】 人体に対して樹脂アレルギー反応もなく、またビスフェノールA等の溶出のない安全性に優れた義歯床、暫間被覆冠、人工歯、歯科矯正器具等の歯科用成形体、並びにその成形体を成形するための歯科用樹脂材料を提供する。
【解決手段】 口腔内に使用される所定形状を有した歯科用成形体、あるいは歯科用成形体を製造するための歯科用樹脂材料であって、その組成が重量比率でポリプロピレン65〜90%、ポリエチレン又はエチレンαオレフィンコポリマー7〜25%、ステアリン酸マグネシウム0.01〜2%、酸化チタンと酸化鉄の一方又は双方を0.001〜1%、顔料0.0001〜1%を含む共重合ポリプロピレン樹脂材料を主成分とするものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用成形体、及び歯科用樹脂材料に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用成形体として、義歯(入れ歯)の義歯床、暫間被覆冠、人工歯及び歯科矯正器具等が知られている。代表的なものとして義歯の義歯床は、従来、その樹脂材料として、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂等が使用されている。アクリル樹脂では、含水性が高く、雑菌が繁殖しやすい等の欠点がある。ポリカーボネート樹脂では、内分泌撹乱作用物質であるビスフェノールA等の溶出が生じる心配がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−224144号公報
【0004】
なお、文献1では、ポリプロピレンもしくはポリエチレンを義歯床又は歯科床矯正装置として使用する例が開示されているが、衝撃に弱く破損しやすいとの理由で実用化までには至っていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、歯科用成形体として使用に耐える曲げ強度、人体に対して適度な硬さを備え、従来のアクリル樹脂やポリカーボネート樹脂等とは異なる、雑菌が繁殖しにくく、人体に対する樹脂アレルギー反応がなく、又ビスフェノールA等の溶出のない安全性に優れた歯科用成形体及び歯科用樹脂材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
このような課題を解決するために本発明は、口腔内に使用される所定形状を有した歯科用成形体、あるいは歯科用成形体を製造するための歯科用樹脂材料であって、その組成は、重量比率でポリプロピレン65〜90%、ポリエチレン又はエチレンαオレフィンコポリマー7〜25%、ステアリン酸マグネシウム0.01〜2%、酸化チタンと酸化鉄の一方又は双方を0.001〜1%、顔料0.0001〜1%を含む共重合ポリプロピレン樹脂材料を主成分とするものであることを特徴とする。なお、本明細書で「主成分」とは90%以上の含有率を有する成分を言う。以下の「主成分」も同義である。
【0007】
また本発明は、口腔内で使用される所定形状を有した歯科用成形体、あるいは歯科用成形体を製造するための歯科用樹脂材料の更に望ましい発明として、その組成は、重量比率でポリプロピレン75〜85%、ポリエチレン又はエチレンαオレフィンコポリマー15〜20%、ステアリン酸マグネシウム0.03〜0.5%、酸化チタンと酸化鉄の一方又は双方を0.003〜0.1%、顔料0.001〜0.1%を含む共重合ポリプロピレン樹脂材料を主成分とするものであることを特徴とする。
【0008】
この発明の歯科用成形体、並びに本発明の歯科用樹脂により製造される歯科用成形体としては、例えば義歯の義歯床(ぎししょう)、暫間被覆冠(ざんかんひふくかん)、人工歯、歯科矯正器具等を例示することができる。義歯床は一般に歯肉の色に対応してピンク色に着色され、総義歯の義歯床、部分義歯の義歯床等があり、人工歯を支持するとともに、口腔内への装着部としての機能を果たす。更に詳しく言えば、針金(口腔内維持装置:クラスプとも言う)や金属を基本的に使用しない有床義歯(ノンクラスプデンチャー)の義歯床や、針金クラスプの存在する有床部分義歯の義歯床、さらには上記総義歯の義歯床を含む。
【0009】
暫間被覆冠は、長時間装着でなく一定の限られた時間(暫間)において使用する、例えばマウスピース、抜歯後に仮に装着する仮歯、インプラント施術後にそれが安定するまで被せる被覆冠等を包含する。人工歯は、義歯床と一体化されて義歯を構成するもの、口腔に直接的に植歯されるもの等がある。歯科矯正器具は、例えば上顎と下顎のかみ合わせの矯正、歯床の矯正、歯並びや歯の角度の矯正等のために口腔内に装着されるものである。
【0010】
このような歯科用成形体において、義歯床では歯肉の色に合わせてピンク色に着色(染色)されるのが普通で、その着色のために赤系顔料が用いられ、これに混ざり合う白系添加剤として酸化チタンが用いることができる。あるいは赤系顔料に対し、くすんだ色添加剤として酸化鉄を加え、実際の歯肉の色に近い自然な色を出すこともできる。要するに酸化チタン又は酸化鉄の機能のひとつは、赤系顔料と協働して歯肉に対応する赤系着色を施すことにある。
【0011】
人工歯の場合は、黄色から白色の中間的な色を着色するのが普通であり、その場合は黄系顔料を用い、これに白系の酸化チタンを加えることにより、樹脂に対し歯の色に近い「黄白系」の色付けが可能となる。暫間被覆冠や矯正器具の場合は、必ずしも歯肉の色に対応する赤系色に着色することは必須ではないが、その存在を目立ちにくくする等の目的がある場合は、義歯床と同様に歯肉に対応する着色を施すことができる。暫間被覆冠や矯正器具を歯肉の色に対応させない場合は、所望の色の顔料を酸化チタンや酸化鉄とともに用いて、適宜の色に着色すればよい。
【0012】
上記のような歯科用成形体を製造(代表的には射出成形)するための樹脂材料の形態としては、ペレット状、シート状、ブロック状をはじめ、その樹脂材料を溶融して成形するのに適した各種の形態を採用できる。
【0013】
本発明の歯科用成形体、及び歯科用樹脂材料の組成の意義について言えば、いずも重量比で、ポリプロピレンが65%未満であると、剥離破折が生じやすくなり、90%を超えると、樹脂体の膨張による口腔への不適合の問題が生ずるため、ポリプロピレンは65〜90%とされる。次に、ポリエチレン又はエチレンαオレフィンコポリマーが7%未満であると、ポリプロピレンの場合と同様に剥離破折が生じやすくなり、逆に25%を超えると、ポリプロピレンの場合と同様に樹脂体の膨張による口腔への不適合の問題があるので、ポリエチレン又はエチレンαオレフィンコポリマーは7〜25%の範囲であることが必要である。
【0014】
また、ステアリン酸マグネシウムは、顔料、酸化チタン(又は酸化鉄)及び樹脂の相互の撹拌性・混合性を向上させるが、0.01%未満であると、その効果(染色における撹拌性・混合性の向上効果)が期待できず、逆に2%を超えると、撹拌や混合自体が困難になるため、0.01〜2%の範囲での添加が必要である。
【0015】
ここで「染色性」とは、前述のように、例えば義歯床に用いる成形体では、口腔内の歯肉等の色に近づけるために樹脂をピンク色に染色するが、その意味での染色性ということである。顔料及び酸化チタン(又は酸化鉄)は色付け(発色)のために添加され、例えば実際の歯肉に近い色(ピンク色)を生じさせるには、赤系顔料と酸化チタン(白系)との混合比が調整される。酸化チタンの割合を増やせばピンク色の赤味が抑えられて白系が強いピンク色となり、酸化チタンの割合を減らせば赤系が強いピンク色となる。また酸化鉄は例えば赤系顔料に加えられることにより鮮明な赤色の彩度や明度を落として自然な歯肉の色に近づけ、さらに酸化チタンと酸化鉄の双方を所定の顔料に添加して所望の色に樹脂を染色することもできる。
【0016】
酸化チタン(又は酸化鉄)の含有量は顔料との関係で主に染色をどのようにするかによって定まり、上記ステアリン酸マグネシウムは、それら顔料及び酸化チタン(酸化鉄)と樹脂材料とを均一に混ぜる撹拌性、ひいてはまんべんなく均一に発色させる均一染色性に寄与するということができる。
【0017】
酸化チタンと酸化鉄の一方又は双方が、重量比で0.001%未満であると、顔料に対する色調整の役割が果たせず、他方、1%を超えると逆に色調整の機能を逸脱し、また樹脂材料の強度等の物性を阻害するため、0.001〜1%の範囲に設定される。
【0018】
顔料の組成については、重量比で0.0001%未満であると、染色効果が得られず、他方、1%を超えると却って目的とする染色性を損なうし、樹脂材料の物性上も好ましくないので、顔料の配合率は0.0001〜1%の範囲とする。
【0019】
さらに望ましい組成の前記歯科用成形体又は歯科用樹脂材料の発明において、重量比率でポリプロピレン75〜85%、ポリエチレン又はエチレンαオレフィンコポリマー15〜20%の範囲とすることにより、樹脂の剥離破折がさらに発生しにくくかつ樹脂の膨張も抑えられて、口腔内への歯科用成形体の寸法適合性・装着適合性が向上する。また、ステアリン酸マグネシウム0.03〜0.5%、酸化チタンと酸化鉄の一方又は双方を0.003〜0.1%、顔料0.001〜0.1%とすれば、まずステアリン酸マグネシウムの上記範囲の配合により、顔料・酸化チタン(酸化鉄)と樹脂とのいっそう良好な撹拌性、まんべんなく均一な染色性が得られ、さらに酸化チタンと酸化鉄の一方又は双方の配合量、並びに顔料の配合量を上記のとおり設定することにより、歯科用成形体又は歯科用樹脂材料に、上記ステアリン酸マグネシウムとの効果とも相まって、さらに良好な発色・染色効果を付与することができる。
【0020】
いずれにしても、上記の範囲の歯科用成形体とすることによって、例えば義歯床の曲げ強度、樹脂体の射出成形後の冷却時の膨張率を抑え、口腔内に対して精密に適合させることができ、人体に対して適度な硬さを持つ特性が得られた。
【0021】
本発明の組成を有しない、言い換えれば上記組成の配合範囲から外れると、歯科用成形体や歯科用樹脂材料の物性の観点から言えば、本発明が有する特有の曲げ強度が得られず、折曲げにより白く折り目がつきやすく、義歯床の破折を来たし、人体に不向きな非常に割れやすい特性となり、また射出成形後においても膨張率が高まり、口腔内に精密に適合できない状況を来たす結果となる。
【0022】
また、添加剤としてのステアリン酸マグネシウム及び酸化チタン(酸化鉄)の添加の効果について付言すれば、これらを添加することにより、例えば義歯床体にふさわしい顔料染色が可能となり、なおかつ射出成形時の樹脂の流動性が増し、細部成形再現度が向上する。その上、本発明に係る歯科用成形体を使用し、義歯床として口腔内で義歯床の着脱を試みた場合には、上述の添加剤によって残存組織や歯牙との摩擦による抵抗を軽減させ、すべりが良好となる結果も得られた。したがって、患者が使用する場合において、例えばその他の義歯床等(着脱型の樹脂材料)に比べて、装着や取外しが容易になる。また、本発明の歯科用成形体によれば、吸水性がきわめて低いため雑菌の繁殖が抑えられ、強度が高いから耐久性があり、比重が小さい(軽い)ため装着感がなく、結果的に患者が衛生的、なおかつ快適に、長期に渡り義歯床等を使用することが可能となった。
【0023】
本発明の歯科用樹脂材料を用いて歯科用成形体を製造する際には、この樹脂材料を溶融し、一般には射出成形によって所定の歯科用成形体を成形することになる。これによって、前述のように人体に対して樹脂アレルギーがなく、またビスフェノールA等の溶出のない安全性に優れた、義歯床、暫間被覆冠、人工歯、歯科矯正器具等の歯科用成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る歯科用成形体の一例としての部分義歯を示す図。
【図2】図1の義歯を人の口腔内に装着した例を示す図。
【図3】噛合わせ矯正装置の一例としての矯正器具を示す図。
【図4】図3の矯正器具を人の口腔内に装着した例を示す図。
【図5】本発明の歯科用成形体の一例としての人工歯の一例を示す図。
【図6】暫間被覆冠の一例であるマウスピースを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は本発明の歯科用成形体の一例である部分義歯1の義歯床1a(1bは人工歯である)、図2はその義歯1を人の口腔内に装着した例である。図3は噛合わせ矯正装置の一例である歯科矯正器具2、図4はその歯科矯正器具2を人の口腔内に装着した例を示している。さらに図5は人工歯3の例を、図6は暫間被覆冠の一例であるマウスピース4を示している。
【0026】
次に、このような各種の歯科用成形体の材料組成、つまりはその歯科用成形体を製造するための樹脂材料の実施例を説明する。
【0027】
歯科用樹脂材料として、重量比でポリプロピレン80%を主成分とし、これにエチレンαオレフィンコポリマー18%を共重合させて精製したポリプロピレンを得た。このポリプロピレンについては、重量比でポリプロピレンホモポリマー[CH−CH(CH)]mを80%、エチレンαオレフィンコポリマーとしてエチレンプロピレンコポリマー[CH−CH(CH)]m−[CH−CH]nを18%の割合で使用し、さらに添加剤として、ステアリン酸マグネシウム0.1%、酸化チタン0.03%、顔料(例えば法定色素であるアルミニウムレーキやベンガラ等、有機及び無機顔料等の中から1つの顔料を選択し、又は複数の顔料を選択・調合して使用する)0.03%となるように調整した。なお、酸化チタンに代えて酸化鉄を同量配合し、あるいは酸化チタンと酸化鉄を合計で0.03%となるように配合してもよい。また、エチレンαオレフィンコポリマーとして、エチレンプロピレンコポリマー以外に、例えばエチレンブテン1コポリマーを用いてもよいし、更には、エチレンαオレフィンコポリマーの代わりに、ポリエチレンを例えば18%含有してもよい。
【0028】
なお、上記以外の物質が2%以下の範囲で不可避的不純物として、又は所定の添加目的の添加剤として、あるいは不可避的不純物と所定の添加剤の合計として入るが、これは本発明の本質的要件及び効果とは関係なく、それらに影響しないものであるから無視してよい。
【0029】
そして、上記のプロピレンホモポリマー、エチレンプロピレンコポリマー、ステアリン酸マグネシウム、酸化チタン(酸化鉄)及び顔料を混合して共重合させ、精製することにより歯科用樹脂材料を得た。
【0030】
この歯科用樹脂材料により例えば図1〜図6に示した義歯床、歯科矯正器具、人工歯、暫間被覆冠等を成形する際には、射出成形法、コンプレッション成形法及び真空加圧成形法等のいずれでも、一般汎用成形機を使用して容易に加工が可能である。
【0031】
射出成形により本発明の歯科用成形体を製造する場合、本発明の歯科用樹脂材料は一般にはペレット状原料とされ、これを汎用樹脂成形機のバレルに入れ、ファーネス温度を180℃〜230℃に設定して原料を軟化・溶解させ射出成形を行う。本発明においては、添加剤としてステアリン酸マグネシウムが配合されているために、樹脂流動性が高く、成形体に対して細部に至るまで精密に再現することが可能である。
【0032】
このようにして得られた歯科用成形体は、次に列挙するように従来品に比べて極めて有利な特長・特性を備えている。
【0033】
1.人体での樹脂アレルギー反応が無い。
2.内分泌撹乱作用物質であるビスフェノールAの溶出がないため、人体に使用しても安全性が高い。
3.全ての添加剤に対して、この樹脂成分は口腔内での溶出がないため安全性が高く、また、添加剤、顔料についても安全面で心配はない(本発明の歯科用成形樹脂材料の融点は例えば180℃程度であるため)。
4.義歯床の審美的自然感を増すために、成形体中に人間の口腔内の血管を模した色に着色されたポリエステル繊維体が埋設されてもよい。
5.ステアリン酸マグネシウムを添加剤として配合することにより、樹脂染色時において顔料が全てにまんべんなく混ざり、染色性が非常に高まる。
6.ステアリン酸マグネシウムを配合することにより、樹脂自体の表面の滑沢度が増し、滑りが良くなるため、義歯床体の脱着に有効的である。
7.酸化チタン(酸化鉄)を添加剤として配合することにより、義歯床染色時において人体歯肉に合った自然観のある色合いを再現できる。
8.本発明の歯科用成形体によれば、従来から使用されている歯科用成形樹脂材料(ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル等)に比べ、機械的強度、曲げ強度、耐熱性に優れているため、義歯床の破折も生じにくく、かつ非常にコンパクトで口腔内での違和感のない義歯床製作が可能であり、吸水性も従来からの樹脂材料に比べ非常に低いため、吸水による雑菌の繁殖や樹脂物性劣化が極めて少ない。
9.さらに上述の組成の歯科用成形樹脂材料は、比重において他の樹脂よりも軽いため、例えば義歯床としての使用において口腔内組織への負担が少ない。
10.本発明の歯科成形樹脂材料は、従来の樹脂材料に比べ、空気中の水分を吸収しにくいため、常温での保管状態においても問題がなく、射出成形時においても水分を除去するために熱乾燥させる必要もなく、作業効率性においても優れている。
11.なお、本発明の歯科用成形樹脂材料はペレット状のものが一般的であるが、これに限定されるものではなく、シート状等のものであっても良い。
【0034】
以上のような本発明に係る歯科用成形樹脂材料により成形された歯科用成形体について評価試験を行い、その結果を表1に示した。
【0035】
【表1】

【0036】
評価結果はその表1に示すとおりである。例えば繰返し折曲げ試験においては、吸水前後を測定した結果、本発明品ではともに他の歯科用樹脂材料よりも優れた結果が得られた。例えば吸水前の繰返し折曲げ試験で、ポリカーボネートは5回で折れ、ポリエチレンテレフタレート(PET)+ポリエチレンの複合樹脂では14回で裂け目、38回で折れ、ポリアミドは47回で裂け目、129回で折れたが、本発明品では曲げている所が白くなるだけで、200回の折曲げでも裂け目や折損は生じなかった。
【0037】
また,吸水後の繰返し折曲げ試験では、ポリカーボネートは6回で折れ、PET+ポリエチレンは12回で裂け目、51回で折れ、ポリアミドは53回で裂け目、118回で折れたが、本発明品では曲げている所が白くなるだけで、200回で裂け目なしであった。また本発明の樹脂材料(成形体)においては曲げ強度が61.2MPa、伸度12mm以上、吸水率0.13wt%、溶解率0.1wt%であり、非常に良好な数値が得られた。その他、作業性、着色等の実験結果も、添付するように良好な結果が得られた。
【0038】
着色の試験に関して補足すれば、表1の下から2段目の「着色ΔEカレー」とは、カレー粉を溶解した湯中に37℃で1週間、試料としての樹脂片を浸漬し、その後試料の樹脂片を取り出して、専用の試験機でカレー粉溶液によってどれだけ着色されたかを検査し、その検査結果を数値化したものであり、数値が小さいほど着色の程度が低い、換言すれば変色が少ないことを意味する。また、「着色ΔEフクシン」とは、カレー粉の代わりに着色料のフクシンを用いて同様の検査を行ったものであり、検査数値が小さいほど変色が少ないことを意味する。これらの結果から明らかなように、本発明品では「着色ΔEカレー」の検査値が1.29、「着色ΔEフクシン」の検査値が5.19であって、ポリアミドやPET+ポリエチレン等の検査値に比べて充分小さく、変色しにくいことがわかる。
【0039】
さらに、耐熱試験も次のとおり行った。
本発明の樹脂材料を、射出成形により20mm×20mm×3mmのサイズの板材に製作し調整し、沸騰水(約100℃)中に1時間浸漬し、成形体の外観を確認した結果、面荒れ白濁等は見られなかった。したがって本発明材料を使用し製造された義歯床、暫間被覆冠、歯科矯正器具、人工歯等においても同様の結果が得られる。
【符号の説明】
【0040】
1 義歯
1a 義歯床
1b 人工歯
2 歯科矯正器具
3 人工歯
4 マウスピース(暫間被覆冠)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内に使用される所定形状を有した歯科用成形体であって、当該成形体が重量比率でポリプロピレン65〜90%、ポリエチレン又はエチレンαオレフィンコポリマー7〜25%、ステアリン酸マグネシウム0.01〜2%、酸化チタンと酸化鉄の一方又は双方を0.001〜1%、顔料0.0001〜1%を含む共重合ポリプロピレン樹脂材料を主成分とするものであることを特徴とする歯科用成形体。
【請求項2】
口腔内に使用される所定形状を有した歯科用成形体であって、当該成形体が重量比率でポリプロピレン75〜85%、ポリエチレン又はエチレンαオレフィンコポリマー15〜20%、ステアリン酸マグネシウム0.03〜0.5%、酸化チタンと酸化鉄の一方又は双方を0.003〜0.1%、顔料0.001〜0.1%を含む共重合ポリプロピレン樹脂材料を主成分とするものであることを特徴とする歯科用成形体。
【請求項3】
前記歯科用成形体が、義歯床、暫間被覆冠、人工歯及び歯科矯正器具から選ばれたいずれか1の形態を有するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯科用成形体。
【請求項4】
口腔内において使用される歯科用成形体を製造するために使用される樹脂材料であって、重量比率でポリプロピレン65〜90%、ポリエチレン又はエチレンαオレフィンコポリマー7〜25%、ステアリン酸マグネシウム0.01〜2%、酸化チタンと酸化鉄の一方又は双方を0.001〜1%、顔料0.0001〜1%を含む共重合ポリプロピレン樹脂材料を主成分とするものであることを特徴とする歯科用樹脂材料。
【請求項5】
口腔内において使用される歯科用成形体を製造するために使用される樹脂材料であって、重量比率でポリプロピレン75〜85%、ポリエチレン又はエチレンαオレフィンコポリマー15〜20%、ステアリン酸マグネシウム0.03〜0.5%、酸化チタンと酸化鉄の一方又は双方を0.003〜0.1%、顔料0.001〜0.1%を含む共重合ポリプロピレン樹脂材料を主成分とするものであることを特徴とする歯科用樹脂材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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