説明

歯科用歯面処理剤

【課題】液状の薬剤では困難だった部位への適用を容易にするゲルまたはペースト状の製剤でありながら、液状の薬剤と同等以上のスミア層の溶解除去能力を確保でき、かつ従来技術による歯科用歯面処理剤より優れた操作性を有する歯科用歯面処理剤を提供すること。
【解決手段】アミノカルボン酸からなるキレート化剤を15〜30質量%と、増粘剤としてアルギン酸プロピレングリコールエステルを1〜12質量%含有し、pH値を7.0以上、8.5未満とした歯科用歯面処理剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科における根管治療時、歯周病治療時、修復治療時等に適用され、器械的に歯質を削った際に象牙質の切削面に生成する切削屑、いわゆるスミア層を溶解除去するための歯科用歯面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療においては、感染した歯質、いわゆる虫歯や歯髄を器械的に切削し感染源を除去する治療が実施されている。
【0003】
この感染した歯質を切削除去し金属、セラミックス、樹脂などの人工物を詰める修復治療においても、また、感染が歯髄にまで及んだ場合に根管内の感染源や根管象牙質を切削拡大後、根管消毒、根管充填する根管治療においても、さらには、歯根面に固着した歯石を除去すべく歯面研磨する歯周病治療においても、何れの場合も象牙質面を切削研磨すると、その象牙質表面にはスミア層と呼ばれる切削屑が形成され、治療に際して種々の悪影響をもたらすることが知られている。(非特許文献1)
【0004】
まず、修復治療の場合、治療を必要とする歯牙は、硬組織に細菌感染に伴う軟化と崩壊が起こり、深達性、進行性の齲窩を形成する、いわゆる齲蝕と呼ばれる状態にある。この軟化と崩壊が歯牙のエナメル質−象牙質境に達し、さらに進行して象牙質が齲蝕に罹患すると象牙質齲蝕となり、その象牙質には細菌が存在した状態、すなわち齲蝕象牙質第一層になる。このような症状に対する適切な処置は、この細菌感染を受けた齲蝕象牙質第一層をバーやエキスカベーターなどを用いて器械的に削除し、窩洞内を無菌状態に保った状態で修復物を充填することである。しかしながら、この際の器械的な歯質削除によって窩洞壁面にはスミア層が形成される。このスミア層はその後の修復物の接着を妨げるだけでなく、スミア層に残留する細菌のため将来的に修復物の下から齲蝕を生じる、いわゆる二次齲蝕を引き起こす可能性が高くなり、再度治療を受けることを余儀なくされる場合もある。
【0005】
また、根管治療の場合、治療を必要とする歯牙の根管は、組織片、壊死片、細菌およびその産生毒素、腐敗産物で満たされており、さらには、根管壁象牙質も起炎性の刺激物で汚染されているため、これらの感染源を排除する必要がある。この根管治療の目的は、根管の無菌化と根尖周囲組織への再感染を防ぐことであり、その術式として根管の拡大、根管消毒、根管充填の3つの過程に大別される。中でも根管拡大は根管治療を成功に導く上で重要な術式である。そして、根管口を拡大した後は、ファイル、リーマーなどを用いて根管を器械的に清掃、拡大することにより感染源の排除が行われる。とくに感染根管の場合はスミア層の中に細菌が残留し、その直下の象牙細管内に細菌が侵入しているため、このスミア層を完全に取り除かなければ、次の殺菌洗浄液や根管消毒剤の浸透を妨げるなど、根管内の無菌化が達成できなくなり、予後に悪影響を及ぼす原因となる。
【0006】
さらに、歯周病治療の場合、治療を必要とする歯牙は、歯根部の表面(根面)と歯肉との間隙、いわゆる歯周ポケットが深くなった状態であり、ポケット内にはプラーク(歯垢)や歯石が滞留し、これらの中には多くの細菌が存在している。そのための処置としては、歯周ポケット内のプラークや歯石を、スケーラーを用いて器械的に清掃(SRP:スケーリング・ルートプレーニング)し、同時に原因菌を排除することである。その後は症状に応じて抗菌剤や炎症を鎮めるための抗炎症剤を歯周ポケット内に充填する。このときも同様にSRPを施した歯面にはスミア層が存在し、抗菌剤、抗炎症剤の患部への到達を妨げるだけでなく、スミア層内に残留する細菌による予後への影響が危惧される。
【0007】
このように、何れの歯科治療の際にも「スミア層は除去すべき」という考えが普及しており、そのための種々の薬剤や方法が検討されてきた。
【0008】
そして現在では、スミア層除去剤としては、特許文献1に開示されているように、エチレンジアミン−4酢酸(以下EDTAと称する)が、切削象牙質のカルシウムイオンと反応して溶解性のカルシウムキレートを形成するため、スミア層を溶解除去するのに好都合であるとして、汎用されている。
【0009】
ところが、このEDTAを用いたスミア層除去剤は治療上の問題があることが知られるようになった。
【0010】
このEDTA製剤は、修復治療および歯周病治療において適用する部位によっては、液状では流れ落ちて適用しにくいため、粘性を付与してチューブやシリンジ様の容器に充填し、採取しやすい形態にすることが好ましい。この場合、粘性を付与しても十分なスミア層溶解力を確保するためには、比較的高濃度のEDTAを含有させておく必要がある。加えて、すぐれた操作性を確保するため、得られた歯面処理剤は、均一でストレスなく患部に適用できる性状を安定に維持し、適用後は水洗によってすみやかに患部から除去できることが求められる。この意味から、すでに市販品の中にはEDTAにカーボワックス、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の増粘剤を配合したゲルまたはペースト状のものがあり、増粘させることでEDTAが歯面に作用するのに十分な間、歯の表面に滞留させることができるようにしているものがある。ところが、このような市販品は、増粘により適用時の効率が高まった一方で、増粘剤を配合したことによる問題も生じている。例えば、増粘剤にカーボワックスを用いた市販品では、根管の拡大形成中に根管内の複雑形態部位に押し込まれたカーボワックスが洗浄後も根管壁に取り残され、残存したカーボワックスが緊密な根管充填を阻害する可能性が指摘されている(非特許文献2)。また、増粘剤にカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体を選択した場合は、得られた歯面処理剤が経時変化を起こして固くなるため、チューブやシリンジのような収容容器からの押し出し易さを確保することができないといった増粘剤の乾燥に由来する不具合を抱えている。
【0011】
さらに、EDTAを増粘した例は他にも多数存在し、例えば、特許文献2にはエナメル質および象牙質への修復材の結合のためのエッチングによる歯窩洞形成時の状態調節の方法に用いる象牙部分のエッチング剤としてEDTAを含有する水性組成物が開示されている。また、特許文献3においては、生物的石灰化表面コンディショニング、とくに歯周の手術に伴って歯の後の連結を改善するための露出された歯根表面の部分の選択的除去による歯根コンディショニングに用いるための組成物として、活性物質として有効な量のEDTAを含む水性マトリックスまたは担体と組み合わせた組成物が開示されている。これらの組成物では、増粘剤として、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースおよびそれらの塩のようなセルロースならびにそれらの誘導体、ヒドロキシエチル化澱粉のような澱粉およびその誘導体、また、植物ガム、キサンタンガム、カードラン、プルラン、デキストランといった微生物莢膜多糖類、寒天、カラギーナン、アルギン酸という藻類多糖類が挙げられている。さらに、多糖類に代わって、蛋白質および糖蛋白質も提案されており、ゼラチン、変性構造蛋白質およびプロテオグリカンが含まれている。
【0012】
さらに、特許文献4には、歯科用エッチング組成物として、粘度改良剤を適用した酸によってエッチングに適した形態としたものが開示されている。その酸の一つとしてEDTAが選択され、前記粘度改良剤としてポリオキシアルキレンポリマーが選択されたものである。また、特許文献5には、EDTAを選択し、これを必要に応じてポリピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールなどの高分子化合物、高分散シリカなどの粘度調整材を配合する歯科用接着材キットが開示されている。
【0013】
このように、EDTAを増粘させる方法は数多く提案されているが、これらの増粘剤を選択して、比較的高濃度のEDTAを増粘させてゲルまたはペースト状の歯面処理剤を構成する場合、高濃度のEDTAに起因すると思われる製剤の分離が起こり、均一で安定な歯面処理剤となり得ない。加えて、とくにセルロースおよびその誘導体を増粘剤として選択した場合には、得られた歯面処理剤を例えばチューブやシリンジ様の容器に充填し、適量を採取できるような形態をとった場合、適量を採取してそのまま空気中で放置していると、容器先端部で製剤が乾燥して固化し、その後の採取ができなくなる問題がある。また、アルギン酸で増粘させたものは水洗性に乏しいため、その後の処置の成績に大きな影響を及ぼすことが問題となる。
【0014】
また、高分散シリカのような無機系増粘剤は、例えば、特許文献6の肌荒れ防止剤および化粧料において抗酸化剤としてのEDTAへの配合が開示されており、この増粘剤として示されているケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸アルミニウム、モンモリロン石、マグネシアンモンモリロ石、テツモンモリロン石、テツマグネシアンモンモリロン石、バイデライト、アルミニアンバイデライト、サポー石、アルミニアンサポー石、ベントナイト、ラポナイト、微粒子酸化ケイ素およびコロイダルアルミナ等もこれにあてはまる。これらを増粘剤として選択した場合、適用後に水洗しても増粘剤微粒子が窩壁や根管内に残る可能性が大きく、これもその後の処置の成績に大きな影響を及ぼすことが問題となる。
【0015】
また、増粘剤としてのアルギン酸の多価アルコールエステルに関する技術も数多く存在する。例えば、特許文献7に開示されるような結合を誘導する組成物において、活性成分であるエナメルマトリクスから得られるタンパク質画分に加える担体、稀釈剤または接着剤としてプロピレングリコールアルギネートを選択している。特許文献8には、アルギン酸プロピレングリコールエステルからなる徐放性製剤として、薬理薬効成分を数時間程度の時間をかけて徐々に放出することを目的とした製剤が開示されている。特許文献9には、歯周病治療薬として、歯周病の治療に有効な物質を、高分子粒子を基剤としてこれを分散させる目的で水溶性高分子が選択され、当該水溶性高分子にアルギン酸プロピレングリコールエステルが用いられている。また、特許文献10には、塩基性線維芽細胞増殖因子含有歯科用粘稠製剤が開示されており、当該有効成分に増粘剤を含有し、その増粘剤としてアルギン酸プロピレングリコールエステルが選択されている。さらに、特許文献11には、アルギン酸含有組成物が開示されており、これはアルギン酸誘導体とホウ酸および/またはその塩を含有し、生体由来の流体と接触したときに高粘度化を増強することを意図したものである。その他にも、特許文献12〜16にそれぞれ、増粘の目的でアルギン酸プロピレングリコールエステルが選択されている。
【0016】
しかしながら、これらはいずれも象牙質表面のスミア層の溶解を目的としたものでなく、歯面処理剤への適用は、本発明の目的でもあるスミア層除去能力の点から、不可能または困難である。
【特許文献1】特許第3463985号公報
【特許文献2】特表平10−511638号公報
【特許文献3】特表平10−505859号公報
【特許文献4】特表2002−529485号公報
【特許文献5】特許第3881431号公報
【特許文献6】特開2002−255728号公報
【特許文献7】特許2795667号公報
【特許文献8】特許2511577号公報
【特許文献9】特公平5−84282号公報
【特許文献10】国際公開第03/082321号パンプレット
【特許文献11】特開2006−348055号公報
【特許文献12】特表2002−504520号公報
【特許文献13】特表2002−538211号公報
【特許文献14】特開2007−112739号公報
【特許文献15】特開2006−76898号公報
【特許文献16】特開2006−176479号公報
【非特許文献1】ザ・クインテッセンス、第15巻、446〜448頁、1996年)
【非特許文献2】デンタルダイヤモンド、第24巻、第330号、42〜49頁、1999年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の課題は、液状の薬剤では困難だった部位への適用を容易にするゲルまたはペースト状の製剤でありながら、液状の薬剤と同等以上のスミア層の溶解除去能力を確保でき、かつ従来技術による歯科用歯面処理剤より優れた操作性を有する歯科用歯面処理剤を提供することにある。
【0018】
より具体的には、比較的高濃度のEDTA水溶液に増粘剤を配合して粘性を付与し、例えばチューブやシリンジ様の容器に充填するなどして採取しやすい形態とし、均一でストレスなく患部に適用できる性状を有し、その性状を安定に維持し、適用後は水洗されてすみやかに患部から除去できる歯科用歯面処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、歯科用歯面処理剤に選択される増粘剤について鋭意検討を重ねた結果、比較的高濃度のアミノカルボン酸をアルギン酸プロピレングリコールエステルで増粘させ、pHを中性領域に調整した組成物が、水洗性、操作性および性状安定性の点で優れていることを見いだし完成に至ったものである。
【0020】
すなわち、本発明の歯科用歯面処理剤は、アミノカルボン酸からなるキレート化剤を15〜30質量%とアルギン酸プロピレングリコールエステルを1〜12質量%含有し、pHを7.0以上、8.5未満に調整していることを特徴とする。
【0021】
アミノカルボン酸としては、エチレンジアミン−4酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチルイミノ−2酢酸(HIDA)、ニトリロ−3酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン−3酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン−5酢酸(DTPA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、トリエチレンテトラミン−6酢酸(TTHA)から選ばれた1つまたは2つ以上を使用することができる。
【0022】
本発明の歯科用歯面処理剤中のアミノカルボン酸の濃度は、スメア層除去能力の点から15〜30質量%が適当である。水溶液の状態であれば15質量%未満の濃度でも有効であるが、ペースト状で適用する場合には、歯面への濡れ性が低下するため15質量%以上の濃度が必要となる。また、一般にアミノカルボン酸類化合物はpHの値が大きいほど高い溶解度を示す。しかし、歯科用歯面処理剤を中性に保ちつつ結晶析出などの不具合を避けるには、アミノカルボン酸の濃度を規定する必要があり、その濃度は30質量%以下である。
【0023】
また、本発明の歯科用歯面処理剤に含有されるアルギン酸プロピレングリコールエステルは、食品添加物規格に合った製品が市販されており、このような製品を使用することができる。エステルとしては、全てのカルボキシル基がエステル化されていても良いし、一部がエステル化されていても良い。
【0024】
歯科用歯面処理剤中のアルギン酸プロピレングリコールエステルの濃度は、配合されるアミノカルボン酸の濃度やpHの値とともに最終的には得られる歯科用歯面処理剤の粘性に影響するが、基本的には所望の粘性を得るために適宜配合量を調整する。
【0025】
しかし、あまりに過剰な量のアルギン酸プロピレングリコールエステルの配合は、得られる歯科用歯面処理剤の操作性を損ねる結果となり好ましくなく、所望の粘性を付与し、かつ操作性のよい歯科用歯面処理剤を得るためには1〜12質量%が好ましい濃度である。
【0026】
そして、歯科用歯面処理剤のpHは、粘膜付着の危険性などを考慮し、中性領域に調整することが必要であり、具体的な値は7.0以上、8.5未満である。pHの調整は、アミノカルボン酸と反応し、かつアミノカルボン酸のキレート力を阻害しないものであれば何でもよいが、具体的にはアルカリ金属の水酸化物が好ましい。また、アミノカルボン酸のアルカリ金属塩を出発原料として用いてもよく、その際もpHを調整すれば同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の歯科用歯面処理剤は、比較的高濃度のEDTA水溶液に増粘剤を配合して粘性を付与し、例えばチューブやシリンジ様の容器に充填するなどして採取しやすい形態とし、均一でストレスなく患部に適用できる性状を有し、その性状を安定に維持し、適用後は水洗されてすみやかに患部から除去できるものである。その結果、液状の薬剤では困難だった部位への適用を容易にするゲルまたはペースト状でありながら、液状の薬剤と同等以上のスミア層の溶解除去能力を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の歯科用歯面処理剤を、修復治療に適用した例について説明する。
【0029】
常法に従い窩洞を形成後、歯科用歯面処理剤(以下単に「歯面処理剤」という。)をシリンジに充填し、これに注入針を装着して、形成した窩洞内に満たし、1分間放置後、水銃で水洗、エアーブローにて乾燥し、接着性修復材料などを用いた修復治療の術式に移行した。
【0030】
表1および表2は、それぞれ実施例1〜7および比較例1〜12の歯面処理剤の組成とpH値を示す。これらの調製された各歯面処理剤をシリンジに充填し、下記のような試験を行い評価した。
【0031】
(スミア層除去能力および操作性)
新鮮ヒト抜去永久歯の健全象牙質内に、直径約2.0mm、深さ約1.0mmの円柱窩洞を形成し、窩洞に各歯面処理剤を用いて60秒間コンディショニングし、水洗乾燥した。その後の歯面をアルコール脱水、臨界点乾燥、白金パラジウム蒸着を行い、日立社製S−4700を用いてSEM観察を行った。このとき、窩洞内に適用する際の「操作性」すなわち「窩洞への適用のしやすさ」についても評価した。
【0032】
(洗浄性)
ウシ前歯歯冠部に、注水下でボックス窩洞(概形:6mm×6mm×3mm)を形成し、これに、表1および表2に示す各歯面処理剤を適用し、60秒間放置後に水銃で10秒間水洗した。水洗後の歯冠部に形成された窩洞がすべて浸るようにして日本薬局方精製水中に1時間浸漬、その後窩洞内を水洗して洗液を浸漬液に合わせ、乾燥気流下ですべて蒸発させ、蒸発残渣の質量を測定し、洗浄性の指標とした。
【0033】
(性状安定性1:乾燥性)
シリンジに充填した表1および表2に示す各歯面処理剤を、注入針(先端径:約1.5mm)を装着して適量を採取した。 採取後のシリンジを、注入針を装着したまま室内(室温23±1℃、相対湿度50±5%)に3時間放置した後、続けて問題なく採取できるか否かを確認した。
【0034】
(性状安定性2:製剤維持性)
シリンジに充填した表1および表2に示す各歯面処理剤を、25℃、冷蔵、40℃の各保存条件で保管し、定期的に性状確認を行った。
【0035】
表3に各試験結果を示す。同表に示すように、実施例1〜7においては、窩壁のスミア層除去の状況は良好であり、同時に操作性、洗浄性、性状安定性(乾燥性および製剤維持性)についてすべて満足できるものであった。
【0036】
これに対して比較例10は、EDTAの配合量が少ないため、満足できるスミア層除去能力が得られなかった。増粘させたことで液状のものよりも歯面に対する接触機会が低下した結果と考えられる。
【0037】
また、比較例6も同様にスミア層除去能力について満足できる結果となっていない。同時に比較例6は糸を引くような粘稠性を持ち、滑らかな性状を有していないことで、良好な操作感が得られなかった。このような性状は選択された増粘剤の性質に基づくものであり、配合量を変えたとしても改善されないことがわかった。加えて比較例12のように、増粘剤としてアルギン酸プロピレングリコールエステルを選択したとしても、その配合量があまりに多いと、その操作性を損ねることもわかった。
【0038】
さらには、比較例2、3、7、8は、スミア層は、きちんと除去できているものの、水銃で水洗した後の歯面には残留していた。増粘剤の水に対する親和力や濡れ性が低い場合や、そもそも溶解しないものを含んでいる場合、所定の水洗操作の間でも歯面上の処理剤は流し落すことができず、このような結果となったものと考えられる。また、比較例1では、処理剤を放置していると乾燥し、その後の使用が困難となった。
【0039】
比較例1、9、11では、製剤を保存する際に経時変化を起こして硬く変化したり固液分離の発生、結晶の析出などが見られ、さらには比較例4、5では、製剤自体が成立せず、製剤としての不具合が確認された。
【0040】
このように各比較例で挙げた組成の歯面処理剤は、それぞれ本発明の実施例の場合のように、均一でストレスなく患部に適用できる性状を有し、その性状を安定に維持し、適用後は水洗されてすみやかに患部から除去できる歯面処理剤とは言い得ないものであった。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
象牙質面切削後のスミア層を除去するための歯科用歯面処理剤であって、アミノカルボン酸からなるキレート化剤を15〜30質量%およびアルギン酸プロピレングリコールエステルを1〜12質量%を含有し、pH値が7.0以上、8.5未満である歯科用歯面処理剤。
【請求項2】
アミノカルボン酸が、エチレンジアミン−4酢酸、ヒドロキシエチルイミノ−2酢酸、ニトリロ−3酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン−3酢酸、ジエチレントリアミン−5酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、トリエチレンテトラミン−6酢酸からなる群から選ばれた1つまたは2つ以上の何れかである請求項1に記載の歯科用歯面処理剤。
【請求項3】
pH調整剤としてアルカリ金属の水酸化物を使用した請求項1または請求項2に記載の歯科用歯面処理剤。

【公開番号】特開2009−114116(P2009−114116A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288236(P2007−288236)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(592150354)日本歯科薬品株式会社 (9)
【Fターム(参考)】