説明

歯科用治療装置

【課題】 医師による治療技術の差があっても、安定した治療を行うことができる歯科用治療装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の歯科用治療装置1は、波長範囲400nm〜410nmに含まれる中心波長を有する光P1を出力する第1の光源10と、第1の光源10から出力された光P1を入射端に入力して導波し、導波された光P1を出射端16wから出力し、出力された光P1を被治療領域20に照射する光ファイバ16と、光ファイバ16による光P1の照射により被治療領域20から発生した光P3を受光するフォトダイオード40及び42と、フォトダイオード40及び42により受光された光q2及び光q3を解析する解析部50と、解析部50により解析された解析結果を表示するモニタ60と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会の進展により歯周病患者が増加している。歯周病は、歯を失う最大の原因であり老後の生活の質を低下させる他、全身疾患との関わりをもつことについても近年報告されている。そのため、歯周病を効果的に治療する治療法の確立は重要である。
【0003】
一方、光、特にレーザ光を用いた治療は色々な分野において適用されており(例えば、非特許文献1)、歯科分野における治療においてもレーザ光等の光が用いられている。
【非特許文献1】J.STEPHEN GUFFEY and JAY WILBORN,”In Vitro Bactericidal Effects of405-nm and 470-nm Blue Light”,Photomedicine and Laser Surgery(2006), Vol.24,Num. 6,2006.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、レーザ光等の光を利用した治療においては、同一の治療であっても、医師間の治療技術の差により同一の治療効果が得られなかった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、医師による治療技術の差があっても、安定した治療を行うことができる歯科用治療装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の歯科用治療装置は、波長範囲400nm〜410nmに含まれる中心波長を有する第1の光を出力する第1の光源と、第1の光源から出力された第1の光を入射端に入力して導波し、導波された第1の光を出射端から出力し、出力された第1の光を被治療領域に照射する光導波体と、光導波体による第1の光の照射により被治療領域から発生した光を受光する受光部と、受光部により受光された光を解析する解析手段と、解析手段により解析された解析結果を表示する表示手段と、を備える。
【0007】
本発明の歯科用治療装置では、波長範囲400nm〜410nmに含まれる中心波長を有する第1の光を光導波体により被治療領域に照射して歯科治療を行う。この第1の光は歯周病の病原菌による吸収が大きいため、効率よく殺菌効果を得ることができる。その結果、有効に歯科治療を行うことができる。
【0008】
また、本発明の歯科用治療装置では、受光部により受光された被治療領域から発生した光を解析する解析手段と、解析手段により解析された解析結果を表示する表示手段と、を備える。これにより、歯科用治療装置を利用する医師がその解析結果を参照しながら、治療を行うことができる。従って、本発明に係る歯科用治療装置によれば、医師による治療技術の差があっても、安定した治療を行うことができる。
【0009】
このとき、第1の光源が半導体レーザ光源であることが好適である。これにより、第1の光のパワー密度を高め、殺菌効果を向上させることができる。また、歯科用治療装置の小型化及び軽量化を図ることができる。
【0010】
また、光導波体の出射端付近が、第1の光が照射されると活性酸素を発生する材料でコーティングされていることが好適である。これにより、被治療領域の殺菌効果を向上させ、治療効果の向上を図ることができる。
【0011】
また、本発明の歯科用治療装置は第1の光のパワーを変調する変調手段を更に備え、解析手段が、変調手段による第1の光のパワー変調に同期して受光部により受光された光を解析することが好適である。これにより、S/N比の向上を図ることができる。
【0012】
また、本発明の歯科用治療装置は、波長範囲800nm〜970nmに含まれる中心波長を有する第2の光を出力する第2の光源を更に備え、第1の光に加えて第2の光をも被治療領域に照射することが好適である。これにより、熱的な痛みを抑制することができ、患者の不快感を抑制することが可能となる。
【0013】
また、被治療領域に照射される第1の光のパワーが100mW以上400mW以下であることが好適である。ことにより、殺菌効果を高めることができる。また、生体組織に光熱作用による損傷を与える危険性を抑えることができる。
【0014】
また、光導波体が光ファイバであることが好適である。自由に曲げられる光ファイバを光導波体として用いることにより、優れた利便性を確保することができる。更に、歯科用治療装置と被治療領域とがある程度離れている場合でも、有効に治療を行うことができる。
【0015】
また、光ファイバのコアが純石英からなることが好適である。純石英は、400nm〜410nmの範囲に中心波長を有する光の吸収が少ない。従って、純石英からなるコアを有する光ファイバを用いることでパワー損失を効果的に抑制させることがきる。
【0016】
また、光ファイバの外径が800μm以下であることが好適である。これにより、治療において、光ファイバを歯周ポケット、歯幹に挿入しやすくなり、不快感及び痛みを少なくすることができる。
【0017】
また、光ファイバのコーティング被覆がシリコーンを含むことが好適である。シリコーン材料は、400nm〜410nmの範囲に中心波長を有する光の吸収が小さいため、光ファイバからの発熱及びそれによる損傷を抑制することができる。
【0018】
また、光ファイバの開口数は0.2以上であることが好適である。これにより、光の広がり角を大きくすることができ、広範囲の被治療領域に一括して光を照射することができる。その結果、効率的に治療を行うことができる。
【0019】
また、本発明の歯科用治療装置は、光ファイバの出射端側に着脱自在に設けられる光散乱部を更に備えることが好適である。これにより、光を出射端で散乱させて、出射端の側方からも光を照射することができる。その結果、本発明に係る歯科用治療装置は、歯周ポケット内の殺菌等において、実用的に利用され得る。
【0020】
また、本発明の歯科用治療装置は、解析手段により解析された解析結果に基づいて第1の光源の第1の光のパワーを制御する制御手段を更に備えることが好適である。これにより、医師間の治療技術の差を更に狭めることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、医師による治療技術の差があっても、安定した治療を行うことができる歯科用治療装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するにあたり最良と思われる形態について詳細に説明する。なお、同一又は同等の要素については同一の符号を付し、説明が重複する場合にはその説明を省略する。
【0023】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る歯科用治療装置1を模式的に示した図である。歯科用治療装置1は、口腔内に繁殖する歯周病の病原菌(例えば、Porphinomas gingivalis (P.gingivalis))にレーザ光を照射して殺菌する歯周病予防及び治療のための歯科用治療装置である。図1に示すように、歯科用治療装置1は、第1の光源10、第2の光源14、光ファイバ16,17a,17b,17c,17d、スターカプラ18、光フィルタ30,32、フォトダイオード40,42、解析部50及びモニタ60を備える。
【0024】
第1の光源10は、波長範囲400nm〜410nmに含まれる中心波長を有する第1の光P1を出力するものであり、例えば半導体レーザである。第1の光源10は、駆動部(変調手段)12を有しており、駆動部12により駆動電流を変調することで第1の光源10の出力光P1のパワーを変調する。
【0025】
第2の光源14は、波長範囲800nm〜970nmに含まれる中心波長を有する第2の光P2を出力するものであり、例えば半導体レーザである。
【0026】
光ファイバ16,17a,17b,17c及び17dは、光導波体であってそれぞれコア、クラッド及び被覆層(コーティング被覆層)を有する。光ファイバ16と光ファイバ17a,17b,17c及び17dとはスターカプラ18を介してそれぞれ光学的に結合されている。
【0027】
光ファイバ17a,17b及び16は、P.gingivalis等の歯周病の病原菌を殺菌する波長を含む光を外部から入力して歯周ポケット又は歯根等の被治療領域20近傍まで伝搬させ、伝搬された光を被治療領域20に照射し、被治療領域20の中のP.gingivalis等を殺菌することによって治療する歯科治療に好適に利用されるものである。
【0028】
また、光ファイバ16、17c及び17dは、上述の被治療領域20への光照射により被治療領域20から発生する光を入力及び導波し、導波された光を受信部であるフォトダイオード40,42側に出力するために用いられるものである。
【0029】
より具体的に、光ファイバ16,17a,17b,17c及び17dについて、以下説明する。光ファイバ17aは、第1の光源10からの光P1を入射端に入力して導波する。また、光ファイバ17bは、第2の光源14からの光P2を入射端に入力して導波する。光ファイバ17a,17bは、純石英からなるコアを有することが好ましい。
【0030】
スターカプラ18は、光P1及び光P2を合波して光P3とし、その合波された光P3を光ファイバ16に出力する。光ファイバ16は、スターカプラ18により出力された光P3を入力して導波し、導波された光P3をその出射端から出力し、出力された光P3を被治療領域20に照射する。被治療領域20に照射される光P3の中、光P1のパワーが100mW以上400mW以下である。被治療領域20に照射される光P3の中、光P2成分のパワーは500mW以下である。
【0031】
図2は、光ファイバ16の出射端16w付近(図1の点線領域)を表す図である。図2を参照すると、光ファイバ16は、コア部16pと、クラッド部16qと、被覆層16sとを備える。クラッド部16qは、コア部16pの屈折率より低い屈折率を有する。コア部16pは純石英からなり、被複層16sはアクリレート樹脂又はシリコーンを含む。
【0032】
光ファイバ16の被覆層16sの外径d1、すなわち、光ファイバ16の直径は800μm以下であり、光ファイバ16の開口数は0.2以上である。また、光ファイバ16は、その出射端を含み出射端付近を覆うコーティング層16bを有する。コーティング層16bは、光P1が照射されると活性酸素を発生する材料(例えば、ポリフィンを含む光感受性物質又は二酸化チタン)を含む。
【0033】
光ファイバ16は、光P3の被治療領域20への照射により、被治療領域20から発生する光Q1をその出射端から入力して、導波する。スターカプラ18は、光ファイバ16により導波された光Q1を4分岐して、そのうち一つの光Q2を光ファイバ17cに出力し、別の光Q3を光ファイバ17dに出力する。
【0034】
光ファイバ17cは、スターカプラ18により出力された光Q2を入力して導波し、導波された光Q2をその出射端から出力する。光フィルタ30は、被治療領域20に照射される光P1の波長成分を透過させる一方で、被治療領域20から発生する蛍光の波長成分を透過させない性質を有する光学フィルタである。従って、光フィルタ30は、光ファイバ17cから出力された光Q2を入力して、光Q2のうち被治療領域20により反射又は散乱された光P1の波長成分を透過させる一方で、蛍光の波長成分を除去して得られた光q2を出力する。
【0035】
光ファイバ17dは、スターカプラ18により出力された光Q3を入力して導波し、導波された光Q3をその出射端から出力する。光フィルタ32は、被治療領域20から発生する蛍光の波長成分を透過させる一方で、被治療領域20に照射される光P1の波長成分を透過させない性質を有する光学フィルタである。従って、光フィルタ32は、光ファイバ17dから出力された光Q3を入力して、光Q3のうち被治療領域20から発生する蛍光の波長成分を透過させる一方で、被治療領域20により反射・散乱された光P1の波長成分を除去して得られた光q3を出力する。
【0036】
フォトダイオード(受光部)40は、光フィルタ30から出力された光q2を入力して光q2の強度に応じた量の電荷を発生させる光電変換素子であり、その発生させた電荷量を出力信号S1として解析部50へ出力する。フォトダイオード(受光部)42は、光フィルタ32から出力された光q3を入力して、その入射光の強度に応じた量の電荷を発生させる光電変換素子であり、その発生させた電荷量を出力信号S2として解析部50へ出力する。
【0037】
解析部50は、データベース52及び制御部54,56を有する。解析部50は、第1の光源10の駆動部12の駆動電流の変調による第1の光P1のパワー変調の周波数でフォトダイオード40,42からの出力信号S1及び出力信号S2を受け、出力信号S1及び出力信号S2に基づいてフォトダイオード40及び42が受光した光を同期検出する。出力信号S1は蛍光の波長成分が除外されており、被治療領域20から反射又は散乱される光P1に基づく出力信号である。また、炎症度を反映するヘモグロビンは光P1を吸収するため、ヘモグロビンの量が多いと反射又は散乱される光量は少なくなる。そのため、解析部50は、予めデータベース52に格納されている出力信号と炎症度との関係に基づいて出力信号S1から炎症度を推測する。このとき、解析部50は、患者の個人差があるため患者の正常な組織からの反射及び散乱光を測定して、その値を基準として炎症度を推測することが好ましい。
【0038】
また、解析部50は、予めデータベース52に格納されている出力信号と生菌率との関係に基づいて出力信号S2から生菌率を推測する。データベース52には、解析部50により推測された炎症度に対応付けられた最適な光P1のパワーが予め組み込まれている。
【0039】
制御部(制御手段)54は、光P1のパワーが、入力される出力信号S1から推測された炎症度に基づいて予め対応付けられた最適なパワーになるように第1の光源10の駆動部12の駆動電流を調整する。具体的には、炎症度の推定値が高い場合には、被治療領域20に照射される光P1のパワーが300mW〜600mWになるように制御し、炎症度の推定値が更に高い場合には被治療領域20に照射される光P1のパワーが600mW以上となるように駆動部12を制御する。このように、歯科用治療装置1が光P1のパワーを自動的に制御することにより、医者間の治療技術の差を更に狭めることが期待される。
【0040】
制御部56は、演算処理等の際にデータベース52に格納されたデータを読み書きするために用いられるものであり、例えば、CPUと接続された入出力ポート(図示せず)を有する。
【0041】
この入出力ポートには、モニタ60に接続されている。従って、モニタ(表示手段)60は、入出力ポートを介して制御部56のCPUが行う演算処理によって生成された炎症度及び生菌率等の各種信号等を受け、その各種信号を表示する。
【0042】
歯科用治療装置1では、第1の光源10から出力された光P1は、光ファイバ17aの入射端に入力され導波される。また第2の光源14から出力された光P2は、光ファイバ17bの入射端に入力され導波される。この光P1及び光P2はスターカプラ18により合波されて光P3となり、光P3は光ファイバ16に入力されて光ファイバ16により導波される。光ファイバ16により導波された光P3は、光ファイバ16の出射端16wから出力され被治療領域20に照射される。被治療領域20に照射された光P3は、被治療領域20により反射又は散乱され、或いは蛍光に変換される。これにより、被治療領域20から光P1の波長成分と蛍光の波長成分を含む光Q1が発生して、光Q1は光ファイバ16の出射端16wに入力されて導波される。光ファイバ16により導波された光Q1は、スターカプラ18により4分岐されて、その4分岐された光のうち光Q2及び光Q3がそれぞれ光ファイバ17c及び17dに入力される。
【0043】
光ファイバ17cに入力された光Q2は、光ファイバ17cにより導波され、光ファイバ17cの出射端から出力される。光ファイバ17cから出力された光Q2は、光フィルタ30に入力され、光Q2のうち蛍光の波長成分が除去され光q2となり、その光q2が光フィルタ30から出力される。一方、光ファイバ17dに入力された光Q3は、光ファイバ17dにより導波され、光ファイバ17dの出射端から出力される。光ファイバ17dから出力された光Q3は、光フィルタ32に入力され、光Q3のうち光P1の波長成分が除去され光q3となり、その光q3が光フィルタ32から出力される。
【0044】
光フィルタ30から出力された光q2は、フォトダイオード40に入力され、フォトダイオード40により光q2の強度に応じた量の電荷に変換される。この光q2の強度に応じて変換された電荷量は、出力信号S1として解析部50に出力される。光フィルタ32から出力された光q3は、フォトダイオード42に入力され、フォトダイオード42により光q3の強度に応じた量の電荷に変換される。この光q3の強度に応じて変換された電荷量は、出力信号S2として解析部50に出力される。
【0045】
解析部50により、予めデータベース52に格納されている出力信号と炎症度との関係に基づいて、出力信号S1から炎症度が推測される。また、解析部50により、予めデータベース52に格納されている出力信号と生菌率との関係に基づいて、出力信号S2から歯周病の病原菌の生菌率が推測される。制御部54により、光P1のパワーが、出力信号S1から推測された炎症度に基づいて予め対応付けられた最適なパワーになるように第1の光源10の駆動部12の駆動電流が調整される。また、炎症度及び生菌率等の各種信号は、制御部56の入出力ポートを介して表示手段であるモニタ60により表示される。
【0046】
図3は、本実施形態に係る歯科用治療装置1の適用例を示す図である。P.gingivalisは嫌気性細菌であり、空気が届きにくい歯周ポケット又は歯根部に繁殖する。しかし、本実施形態に係る歯科用治療装置1を用いて、図3(a)〜図3(b)に示されるように、光ファイバ16の出射端16w付近を歯周ポケット又は歯根部に挿入し光P3を照射することにより、歯周ポケット又は歯根部に繁殖するP.gingivalisを効率的に殺菌することができる。かかる場合、図3(c)のように、歯の表面にバイオフィルムが形成されてそれにより歯周病の病原菌が覆われていても、照射される光P3がそのバイオフィルムを透過できるレーザ光であるため、有効に殺菌することができる。
【0047】
本実施形態に係る歯科用治療装置1では、波長範囲400nm〜410nmに含まれる中心波長を有する光P1を光ファイバ16により被治療領域20に照射して歯科治療を行う。光P1はP.gingivalisによる吸収が大きいため、効率よく殺菌効果を得ることができる。その結果、有効に歯科治療を行うことができる。
【0048】
また、フォトダイオード40及び42により受光された被治療領域20から発生した光P3を解析する解析部50と、解析部50により解析された解析結果を表示するモニタ60と、を備える。これにより、歯科用治療装置1を利用する医師がその解析結果を参照しながら、治療を行うことができる。従って、歯科用治療装置1によれば、医師による治療技術の差があっても、安定した治療を行うことができる。
【0049】
また、第1の光源10が半導体レーザ光源である。これにより、光P3の中の光P1のパワー密度を高め、殺菌効果を向上させることができる。これに加えて歯科用治療装置1の小型化及び軽量化を図ることができる。
【0050】
また、光ファイバ16の出射端16w付近が、コーティング層16bを有しており、そのコーティング層16bがポリフィンを含む光感受性物質又は二酸化チタンを含む。ポリフィンを含む光感受性物質又は二酸化チタンは、光P1を照射されると活性酸素を発生する材料である。そのため、歯科用治療装置1によれば、被治療領域20の殺菌効果が向上され、治療効果の向上を図ることができる。
【0051】
また、歯科用治療装置1が、光P1のパワーを変調する駆動部12を備えており、解析部50が駆動部12による光P1のパワー変調の周波数でフォトダイオード40及び42により受光された光を同期検出する。これにより、S/N比の向上を図ることができる。
【0052】
また、歯科用治療装置1では、波長範囲800nm〜970nmに含まれる中心波長を有する光P2を出力する第2の光源14を更に備え、光P1に加えて光P2をも被治療領域20に照射する。これにより、熱的な痛みを抑制することができ、患者の不快感を抑制することができる。また、光P2は水による吸収が少なく組織深達性が高ため、治療効果を向上させることができる。
【0053】
また、被治療領域20に照射される光P3の中、光P1のパワーが100mW以上400mW以下である。これにより、殺菌効果を高めることができ、また、生体組織に光熱作用により損傷を与える危険性を抑えることができる。また、被治療領域20に照射される光P3の中、光P2の成分のパワーは500mW以下である。これにより、組織深達性が高い光P3の高パワー照射による被害を抑制することができる。
【0054】
また、歯科用治療装置1では、光導波体として光ファイバ16,17a,17b,17c及び17dが用いられている。自由に曲げられる光ファイバを光導波体として用いることにより、優れた利便性を確保することができる。更に、歯科用治療装置1と被治療領域20とがある程度離れている場合でも、有効に治療を行うことができる。
【0055】
また、光ファイバ17a,17b及び16のコアは純石英からなる。純石英は、400nm〜410nmの範囲に中心波長を有する光P1の吸収が少ない。従って、純石英からなるコアを有する光ファイバ17a,17b及び16を用いることでパワー損失を効果的に抑制させることがきる。また、光ファイバ16の外径が800μm以下であるため、治療において、光ファイバ16を歯周ポケット、歯幹に挿入しやすくなり、不快感及び痛みを少なくすることができる。
【0056】
また、被複層16sがアクリレート樹脂又はシリコーンシリコーンを含む。シリコーンは、光P1の吸収が小さいため、光ファイバ16の発熱及びそれによる損傷を抑制することができる。また、アクリレート樹脂又はシリコーン樹脂は透明な樹脂であるため、光ファイバ16の先端からの光P1の散乱光を被覆層16sの表面まで到達させることができる。また、被覆層16sの表面まで到達した光P1は、コーティング層16bから活性酸素を発生されるため、殺菌効果が向上され、治療効果の向上を図ることができる。
【0057】
また、光ファイバ16の開口数は0.2以上であるため、光P3の広がり角を大きくすることができ、広範囲の被治療領域20に一括して光P3を照射することができる。そのため、効率的に治療を行うことができる。
【0058】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る歯科用治療装置2は、光ファイバ16の出射端16w側に着脱自在に設けられる光散乱部80を更に備える点、及び歯科用治療装置1において光ファイバ16を覆うように設けられているコーティング層16bが後述のチューブ81を覆うように設けられている点において歯科用治療装置1と相違する。図4は、第2実施形態に係る歯科用治療装置2の光ファイバ16の出射端16w側の付近を示す図である。同図を参照すると、光ファイバ16の出射端16w側には、固定部16aが設けられている。また、固定部16aに対して嵌合されており、光ファイバ16の出射端16wを覆うように光ファイバの軸方向(長手方向)に延びた光散乱部80が設けられている。光散乱部80は、光ファイバ16の出射端16wから出力される光P3を散乱させて、光散乱部80の側方に出力するためのものであり、光ファイバ16の光軸方向に延在した管状のチューブ81を有する。
【0059】
チューブ81は、シリコーンを含んでおり、出射端から出力される光P3に対して透過性を有する。また、チューブ81は、光ファイバ16の外径d1とほぼ同じ又は光ファイバ16の外径d1より大きい内径を有する。チューブ81の外径d2は、800μm以下であることが好ましい。固定部16aに対して光散乱部80が着脱自在に嵌合されている。
【0060】
また、光ファイバ16の出射端16w側をチューブ81に挿入すると、光ファイバ16の出射端16wとチューブ81とにより空間82が形成される。空間82には、シリコーンゲル84bが媒体として存在しており、光ファイバ16の出射端16w側からの出射光を散乱させるための散乱体としてのシリカ微粒子84aがシリコーンゲル84b中に分散されている。また、チューブ81には、それを覆うコーティング層16bが設けられている。
【0061】
歯科用治療装置2では、光ファイバ16の出射端16wから出力される光P3は、空間82に入射して、シリカ微粒子84aにより散乱される。散乱された光P3は、チューブ81の側方からも出力されて、被治療領域20に照射される。
【0062】
本実施形態に係る歯科用治療装置2では、光ファイバ16の出射端16w側に着脱自在に設けられる光散乱部80が設けられている。これにより、光P3を出射端で散乱させて、出射端の側方からも光P3を照射することができる。そのため、歯科用治療装置2は、歯周ポケット内の殺菌等において実用的に利用することができる。
【0063】
また、チューブ81はシリコーンを含んでいる。シリコーンは光P1の吸収が少ないため、発熱及び発熱による損傷を抑制することができる。また、チューブ81には、それを覆うコーティング層16bが設けられているため、被治療領域20の殺菌効果が向上され、治療効果の向上を図ることができる。
【0064】
続いて、上記実施形態に係る第1の光P1を用いた場合のP.gingivalisの殺菌効果を示す実施例について説明する。
【実施例】
【0065】
(血液寒天培地上でのP.gingivalis培養)
まず、P.gingivalis33277株を嫌気ボックスに入れ、血液寒天培地上で所定の条件の下(例えば、37℃で3日間)で、培養を行った。
【0066】
(PY培養液での培養)
次に、その血液寒天培地上からコロニーを1つ取り出し、液体PY培地(Peptone-Yeast Extract Medium)に入れて希釈して3日間嫌気培養を行った。このとき、培養時の細菌濃度(濁度)がOD660=0.4になるように調節した。
【0067】
(新しい血液寒天培地でのP.gingivalis培養)
次に、液体PY培養液をコントロール群は10倍に、レーザ照射群A~Hは10倍に生理食塩水で希釈して、その希釈されたPY培養液を血液寒天培地に1μLだけ滴下して、新しいP.gingvalisを培養した。
【0068】
(400nm〜410nm波長のレーザ光照射)
次に、レーザ光P1を照射した。光P1のビーム径は5mmΦで、スキャン速度は1mm/sであった。レーザ光P1の照射は、それぞれの培地に異なる条件で行った。図5は、その条件をまとめたものである。図5の条件の下でのレーザ光P1の照射後、100μLのPBS溶液を寒天培地上に滴下しコンラージ棒で均一に伸ばして7日間嫌気培養を行った。
【0069】
(コロニー数カウント)
次に、培養したP.gingivalisの量をコロニーカウント法で測定した。このような実験を10回反復して行った。図6は、図5に示す各照射条件で10回(実験1〜実験10)反復して、それぞれの実験におけるコロニー数をグラフにしたものである。同図を参照すると、照射エネルギーが大きいほどコロニー数が少なくなる傾向が見られる。図7は、レーザ光P1の照射による殺菌効果を定量的に測るため下記の式(1)で生菌率を計算してまとめたものであり、実験1〜実験10の結果を示している。
【0070】
生菌率[%]=(各レーザ照射群のコロニー数平均値)
÷(コントロール群のコロニー数平均値)×100・・・(1)
【0071】
図7に示した結果から明らかなように、最も照射エネルギーの少ないA群での生菌率は28.5%、照射エネルギーが最も大きなH群での生菌率は1.4%であった。このように、本実験結果からレーザ光P1の照射によるP.gingivalisの殺菌結果を確認することができ、また照射条件と生菌率との関係を定量的に把握することができた。すなわち、実施形態1〜2に係る歯科用治療装置1及び2を用いて、P.gingivalisを殺菌することができることが確認された。特に、本実験結果から、P.gingivalisを効率的に殺菌するための照射パワーは、300〜400mWであることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】第1実施形態に係る歯科用治療装置を示す模式図である。
【図2】第1実施形態に係る歯科用治療装置の光ファイバの出射端付近を示す断面図である。
【図3】図1の歯科用治療装置の適用例を示す図である。
【図4】第2実施形態に係る歯科用治療装置の光ファイバの出射端付近を示す模式図である。
【図5】実施例のレーザ光照射の条件をまとめた図表である。
【図6】実施例の実験結果を表す図である。
【図7】実施例の実験結果を表す図である。
【符号の説明】
【0073】
1,2…歯科用治療装置、10…第1の光源、12…駆動部、14…第2の光源、16,17a,17b,17c,17d…光ファイバ、18…スターカプラ、16a…固定部、16b…コーティング層、16p…コア、16q…クラッド、16s…被覆層、16w…出射端、30,32…光フィルタ、40,42…フォトダイオード、50…解析部、52…データベース、54,56…制御部、60…モニタ、80…光散乱部、81…チューブ、82…空間、84a…シリカ微粒子、84b…シリコーンゲル、d1,d2…外径。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長範囲400nm〜410nmに含まれる中心波長を有する第1の光を出力する第1の光源と、
前記第1の光源から出力された前記第1の光を入射端に入力して導波し、導波された前記第1の光を出射端から出力し、出力された前記第1の光を被治療領域に照射する光導波体と、
前記光導波体による前記第1の光の照射により前記被治療領域から発生した光を受光する受光部と、
前記受光部により受光された光を解析する解析手段と、
前記解析手段により解析された解析結果を表示する表示手段と、
を備える歯科用治療装置。
【請求項2】
前記第1の光源が半導体レーザ光源である請求項1に記載の歯科用治療装置。
【請求項3】
前記光導波体の出射端付近が、第1の光が照射されると活性酸素を発生する材料でコーティングされている請求項1又は請求項2に記載の歯科用治療装置。
【請求項4】
前記第1の光のパワーを変調する変調手段を更に備え、
前記解析手段が、前記変調手段による前記第1の光のパワー変調に同期して前記受光部により受光された光を解析する請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科用治療装置。
【請求項5】
波長範囲800nm〜970nmに含まれる中心波長を有する第2の光を出力する第2の光源を更に備え、
前記第1の光に加えて前記第2の光をも前記被治療領域に照射する請求項1〜4のいずれか一項に記載の歯科用治療装置。
【請求項6】
前記被治療領域に照射される前記第1の光のパワーが100mW以上400mW以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載の歯科用治療装置。
【請求項7】
前記光導波体が光ファイバである請求項1〜6のいずれか一項に記載の歯科用治療装置。
【請求項8】
前記光ファイバのコアが純石英からなる請求項7に記載の歯科用治療装置。
【請求項9】
前記光ファイバの外径が800μm以下である請求項7又は請求項8に記載の歯科用治療装置。
【請求項10】
前記光ファイバのコーティング被覆がシリコーンを含む請求項7〜9のいずれか一項に記載の歯科用治療装置。
【請求項11】
前記光ファイバの開口数は0.2以上である請求項7〜10のいずれか一項に記載の歯科用治療装置。
【請求項12】
前記光ファイバの前記出射端側に着脱自在に設けられる光散乱部を更に備える請求項7〜11のいずれか一項に記載の歯科用治療装置。
【請求項13】
前記解析手段により解析された前記解析結果に基づいて前記第1の光源の第1の光のパワーを制御する制御手段を更に備える請求項1〜12のいずれか一項に記載の歯科用治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−172051(P2009−172051A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11736(P2008−11736)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】