説明

歯科用石膏

【課題】歯科用の模型材であって適度な隠蔽性を有し、スキャン精度を向上させ、なおかつ線硬化膨張が少なく、高強度の石膏の提供。
【解決手段】硫酸カルシウム半水塩100重量部に対して屈折率が1.70以上の高屈折率材を12〜40重量部含む歯科用石膏。粉材に添加する高屈折率材は、硫酸法ルチル型酸化チタン、塩素法ルチル型酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛、塩基性炭酸塩、塩基性炭酸銅、鉛白、チタン酸鉛、テルル化亜鉛、黄鉛、酸化クロム、アルミニウム、酸化カドミウム、グラファイト、タングステン、酸化第二鉄、酸化水酸化鉄、三酸化二鉄、酸化銅、硫酸銅、アンチモン、チタン酸バリウム、シリコン、ゲルマニウム、炭化ケイ素が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科分野において作業用模型の形状データを取得する際の模型材である歯科用石膏に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科分野における補綴物は、口腔内の修復部位の印象型に対し印象採得し、その印象を基に模型材を用いて修復部位の模型を作製し、模型の上に補綴材料を用いて作製する。模型は口腔内の環境と同じ状況を再現している。歯科技工士は模型を用いて、口腔内の補綴物を作製する。臨床例に合わせて模型は支台歯模型や顎堤模型などと、歯科では呼ばれている。
模型材で最も良く使用されるものが、市販の歯科用石膏(硫酸カルシウム二水和物等)である。石膏で作製された模型を石膏模型という。
【0003】
近年、CAD/CAM技術が進んでおり、CAD/CAM技術を用いて補綴物を作製される様になってきた。CAD処理するために、模型の形状データを電子化することが行なわれてきた。形状データを電子化する行為をスキャンという。
模型の形状を電子化する技術は以下のものが考えられる。
接触法としては印象材や石膏の表面を接触式プローブでなぞって位置情報を取得する方法が考えられる。
間接法としてはレーザー光等で模型をスキャンして形状データを取得する方法や、印象材や模型に可視光線パターンを投影して濃淡模様を生成させこれをカメラで読み取って印象材や模型の形状を数値化することで形状を電子化する。
これらの電子化情報を元に補綴物形状を設計して、切削や研削、積層造形等の方法を用いて加工するものである。
石膏模型の形状読み取りは直接法ではなく、レーザーを用いた間接法で行うものが主流である。
【0004】
口腔内の情報を得るためには、寸法精度が重要である。まず、口腔内の陰型を印象材で取得する。印象材が口腔内の形状、寸法を正確に再現している必要がある。次の工程として印象材に石膏を流し込んで石膏模型を作製する。
石膏模型を作製するための石膏としては、焼石膏や硬石膏があり、口腔内の情報を正確に再現するという点からは硬石膏が用いられ、特に硬石膏には超硬質タイプと呼ばれる低膨張の石膏があり、更に正確な石膏模型を作製できる。
低膨張とは理想的には線膨張で0.20%以内であるが、0.10%以内であれば、さらに好ましい。さらには、印象材から模型を外す際に、強度が弱いと模型の破折などの問題があるため、高強度で低膨張の石膏が臨床的に望まれている。
【0005】
次に、このCAD/CAM技術を用いて補綴物を作製する場合は、模型の形状をスキャンして数値化する必要がある。先に示した印象材、模型には高い形状再現精度が求められるのと同様に、模型をスキャンして数値化する場合にも精度の高い形状データが必要とされる。
【0006】
しかし、現在一般的に使用されている石膏模型をレーザー光でスキャンした場合、スキャン精度を低下させる種々の問題が日常的に起こっている。
具体的には石膏模型の表面に生じる不規則性の凹凸によって起こるレーザー光線の乱反射、石膏模型が針状結晶からなっているために生じる微細な空隙の存在によるレーザー光線の乱反射、特に石膏模型の先端部等の薄い部分やマージンライン部分等で石膏模型の隠蔽性不足によって起こるレーザー光線の透過等により、精度の高い形状データを取得することができなかった。
【0007】
石膏模型の色とレーザー光の色の組み合わせによっては反射光の検出感度の低下が発生し、石膏模型は明度が高くハレーションを起こすことにより、精度の高い形状データを取得することができなかった。
また、石膏模型の形状に起因する問題としてマージンラインから支台歯に移行する部分等で二次反射が起こることもよく知られ、精度の高い形状データを取得することができなかった。
【0008】
特許文献1には石膏材料100重量部と酸化チタン0.1〜10重量部とを混合し成形してなることを特徴とする抗菌性石膏模型が開示されている。酸化チタンを配合することにより、抗菌性を示しているが、レーザー光の乱反射等を緩和することはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001-231793
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
石膏模型をレーザー光でスキャンした場合、スキャン精度を低下させる種々の問題が発生している。
石膏模型の表面に生じる不規則性の凹凸によって起こるレーザー光線の乱反射、石膏模型が針状結晶からなっているために生じる微細な空隙の存在によるレーザー光線の乱反射、特に石膏模型の先端部等の薄い部分やマージンライン部分等で石膏模型の隠蔽性不足によって起こるレーザー光線の透過、石膏模型は明度が高くハレーションを起こす、マージンラインから支台歯に移行する部分等で二次反射等により、精度の高い形状データを取得することができなかった。
従来の石膏材では適度な隠蔽性を有し、スキャン精度を向上させ、なおかつ、線硬化膨張が少なく、高強度の石膏模型を作製することはできなかった。
【0011】
従来の石膏に単純に隠蔽性向上材だけを加えた場合、一定量以上を配合すれば、練和直後から粘度が高くなる傾向にあって印象材に流しにくく、形状面に気泡が出来やすくなったりして作業性が著しく損なわれる事が多い。さらには練和後の流動性を有する状態から大変短い時間で硬化状態になることも多く、印象材に流し石膏模型を形成するのに必要な時間的余裕がとれず実用にならなかった。
【0012】
いままでの石膏模型はこれらの問題があり、スキャンして得られた形状データは精度が低く、元の印象材ないしは石膏模型の形状を正確に再現されないため、この形状データをもとに加工された歯科補綴物が患者の口腔内に装着されても良好な適合性が得られないことが多かった。
この適合性が悪い歯科補綴物を利用するために歯科技工士、あるいは歯科医師が長時間かけて調整する作業を強いられることも多く、治療時間、患者に与える苦痛、術者の負担の増加をもたらす結果になることが多かった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、歯科用の模型材であって、適度な隠蔽性を有し、スキャン精度を向上させ、なおかつ、線硬化膨張が少なく、高強度の石膏を提供する。
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討の結果、硫酸カルシウム半水塩100重量部に対して屈折率が1.70以上の高屈折率材を12〜40重量部含む歯科用石膏を開発した。
粉材に添加する屈折率が1.70以上の高屈折率材は、硫酸法ルチル型酸化チタン、塩素法ルチル型酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛、塩基性炭酸塩、塩基性炭酸銅、鉛白、チタン酸鉛、テルル化亜鉛、黄鉛、酸化クロム、アルミニウム、酸化カドミウム、グラファイト、タングステン、酸化第二鉄、酸化水酸化鉄、三酸化二鉄、酸化銅、硫酸銅、アンチモン、チタン酸バリウム、シリコン、ゲルマニウム、炭化ケイ素が好ましい。
驚くべきことに、塩素法ルチル型酸化チタンの場合は配合量が1〜40重量部にて本発明の効果が現れることを見出した。
酸化チタンの製造法には湿式法があり、溶媒中で化学反応を経て製造する方法であり、主な製造法としては硫酸法と塩素法がある。硫酸法は下記の反応が液相で進み、不溶性の含水酸化チタンとなる。
FeTiO3 +2H2 SO4 →FeSO4 +TiOSO4 +2H2 OTiOSO4 +2H2 O→TiO(OH)2 +H2 SO4
また、塩素法は、まず四塩化チタンを水に溶解させる。この際、水溶液は塩酸水溶液になる。次いで、苛性ソーダ等の強塩基を投入して水酸化チタンTi(OH)4 を生成させ、水酸化チタンを析出させる。含水酸化チタンも水酸化チタンも、その後焼成工程を経て、酸化チタン微粒子となる。
念のため記載するが、硫酸法ルチル型酸化チタンの場合は12〜40重量部含むことで本発明を発現する。
【発明の効果】
【0014】
本発明による歯科用石膏を用いて作製された石膏模型は、レーザースキャニングにおいて、実際の模型を確実に、高精度にスキャンでき、なおかつ線硬化膨張が少なく、圧縮強さが低下することがない。
本発明によれば低線膨張率で実用上十分な圧縮強さを持っているので、印象材の形状を高精度に転写することができる。また本発明に係る石膏は適切な隠蔽性を有するため、先行表面の乱反射や抜けによる誤差の発生を減少させることができ、その結果高精度のレーザースキャンデータを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は液材及び粉材から構成される歯科用石膏である。
本発明に用いる粉材の主成分は硫酸カルシウム半水塩であり、歯科用に用いる焼石膏、硬石膏であれば、すべて用いることができる。ただし、焼石膏は一般的には強度が低く、硬石膏が望ましい。本発明でいう硬石膏とはα―石膏のことであり、焼石膏とはβ―石膏のことである。α―石膏にβ―石膏を1〜10重量%、ブレンドして用いても良い。
粉材に添加する屈折率が1.70以上の高屈折率材は、硫酸法ルチル型酸化チタン、塩素法ルチル型酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛、鉛白、チタン酸鉛、テルル化亜鉛、黄鉛、酸化クロム、アルミニウム、酸化カドミウム、グラファイト、タングステン、酸化第二鉄、三酸化二鉄、酸化銅、硫酸銅、アンチモン、チタン酸バリウム、シリコン、ゲルマニウム、炭化ケイ素が好ましい。更に好ましくは、塩素法ルチル型酸化チタンである。
高屈折率材の配合量は硫酸カルシウム半水塩100重量部に対して12〜40重量部、粉材に配合する場合は12〜40重量部が好ましい。液材に配合する場合は水100重量部に対して10〜30重量部が好ましい。
高屈折率材が塩素法ルチル型酸化チタンの場合は、1〜40重量部が好ましい。更に好ましくは12〜40重量部である。
【0016】
また、本発明に用いる石膏には硬化遅延剤、硬化促進剤、減水剤を粉材、液材の添加することで、硬化や膨張を調整することができる。硬化遅延剤として、リン酸化合物、カルボン酸化合物、ヘキサメタ燐酸塩、でんぷん、カルボキシメチルセルロースなどを用いることができる。硬化遅延剤の配合量は硫酸カルシウム半水塩100重量部に対して0.01〜5重量部である。
【0017】
硬化促進剤として、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムを用いることができる。硬化促進剤の配合量は硫酸カルシウム半水塩100重量部に対して0.01〜5重量部である。
【0018】
また、本発明では減水剤を用いることが好ましく、例えばナフタレンスルホネートとホルムアルデヒド重縮合生成物、アルキルスルホネートなどが用いられる。減水剤の配合量は硫酸カルシウム半水塩100重量に対して0.01〜5重量部である。
本発明に用いる屈折率の高い液材であるが、溶媒を除く固形分の屈折率が1.70以上あれば良い。好ましくはアルミナゾル、イットリアゾル、ジルコニアゾルがあり、固形分は10〜50重量%が好ましい。また、分散媒は水が好ましい。さらに、このゾル化合物の1次体積粒子径は20nm〜100nmが好ましい。
【0019】
本発明に用いる液材であるが、石膏と練和する場合の混水量(100gの石膏に対して練和する液材の質量)はできるだけ少ない方が良い。水のみでも実施できる。粉材と液材との混合比は粉材100gに対して18〜40gの液材であり、18〜30gの液材が好ましい。屈折率の高い液材を用いる場合は10〜40gの液材が好ましい。
また本発明の屈折率の高い無機化合物は粉材のみに適用しても良く、液材のみにゾル化合物として適用しても良く、組み合わせて使用しても良い。
【実施例】
【0020】
以下に実施例により本発明をより詳細に、且つ具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
松風モデルストーン、及び硫酸法ルチル型酸化チタン、塩素法ルチル型酸化チタン、ケイ酸ジルコニウム、ジルコニアゾルを用いて下記の組成にて硬石膏を調合した。粉の調合比については表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
これらの石膏を規格に従って試験体形状とし、それぞれの線硬化膨張および圧縮強さを測定した。規格番号はISO 6873「歯科用石こう製品」であり、の硬化線膨張及び圧縮強さを評価した。評価結果を表2に示す。また、混水比は下記表の中に示す。なお、液は水である。
【0023】
【表2】

【0024】
また、CADを用いて支台歯形状を作成し、支台歯形状を基にアルミ合金材を切削加工し、支台歯形状をした基準形状を作製した。基準形状のシリコーン型をシリコーン印象材で作成した。調整された石膏をシリコーン型に流し込んで硬化させて、図1に示すような同じ形状の試験模型を作製し、これらの試験模型を3shape社製歯科用レーザースキャナD700でスキャンしてデータを得た。
【0025】
スキャンデータの精度比較は各スキャンデータをCADソフトウェアに読み込み、CADを用いて設計した支台歯形状と共に、各データを重ね合わせ、図1に示した一点鎖線の断面線の位置(2)での断面図を得た。
図2の測定イメージ図の通り、最もスキャンデータの精度が現れ難い歯頚部マージン部分の角(3)から、スキャンデータ中の歯頚部マージン部分の角に最も近いデータ位置のまでの距離を精度距離として比較した。
【0026】
【表3】

【0027】
各断面線を見ると、実施例2、3、4、6,7,8の組成からなる石膏模型のスキャンデータから抽出した断面線が支台歯形状をした基準形状を作成したCADデータの断面線との差異がもっとも少なく、スキャンデータの形状再現性が優れていた。
【0028】
実施例1、5の組成からなる石膏模型のスキャンデータから抽出した断面線、および実施例3の組成からなる石膏模型のスキャンデータから抽出した断面線も石膏模型の形状との差異が少なく、実用上問題のない形状再現性を示した。実施例6,7,8の石こう模型スキャンデータが最も高い形状再現性を示した。
【0029】
比較例1の組成からなる石膏模型のスキャンデータから抽出した断面線は特に高さ方向で石膏模型の形状との差が大きく、補綴物の適合精度に大きく影響するマージンラインでその誤差が大きい。また頂点部分でも実際の形状よりも大幅に低く再現されており、このデータをもとにして補綴物を製作すると患者の口腔内に装着しようとしても支台歯の先端に当たってしまいそのままでは装着できないほどの差異であった。
【0030】
比較例2の組成からなる石膏模型のスキャンデータから抽出した断面線においても、比較例1と同様の結果を示した。
比較例3の組成からなる石膏模型のスキャンデータから抽出した断面線においては、形状再現性の高いスキャンデータを得られるものの、材料物性が低い為に使用には不向きであった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
作業用模型の形状データを取得する際の模型材として利用できる
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】石膏模型の説明図
【図2】スキャンデータをCADソフトウェアに読み込み、CADを用いて設計した支台歯形状と共に、各データを重ね合わせ図1に示した一点鎖線の断面線の位置(2)での断面を示し、最もスキャンデータの精度の差が出やすい歯頚部マージン部分の角の部分を拡大して示しており、歯頚部マージン部分の角の位置とスキャンデータ中の歯頚部マージン部分の角に最も近いデータ位置を示す概念図
【符号の説明】
【0033】
1 石膏模型
2 断面線の位置
3 歯頚部マージン部分の角
4 スキャンデータ中の歯頚部マージン部分の角に最も近いデータ位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉材と液材を混合して用いられる歯科用石膏であって、
粉材は硫酸カルシウム半水塩を含み、液材は水を含み、
粉材もしくは液材の一方以上に屈折率が1.70以上の高屈折率材を配合することを特徴とする歯科用石膏。
【請求項2】
硫酸カルシウム半水塩100重量部に対して高屈折率材が12〜40重量部を含むことを特徴とする請求項1記載の歯科用石膏。
【請求項3】
屈折率が1.70以上の高屈折率材が硫酸法ルチル型酸化チタン、塩素法ルチル型酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛、塩基性炭酸塩、塩基性炭酸銅、鉛白、チタン酸鉛、テルル化亜鉛、黄鉛、酸化クロム、アルミニウム、酸化カドミウム、グラファイト、タングステン、酸化第二鉄、酸化水酸化鉄、三酸化二鉄、酸化銅、硫酸銅、アンチモン、チタン酸バリウム、シリコン、ゲルマニウム、炭化ケイ素、アルミナゾル、イットリアゾル、ジルコニアゾルのうちの1つ以上を含むことを特徴とする請求項2記載の歯科用石膏。
【請求項4】
硫酸カルシウム半水塩100重量部に対して塩素法ルチル型酸化チタンが1〜40重量部を含むことを特徴とする請求項1記載の歯科用石膏。


【図1】
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【図2】
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