説明

歯科用硬化性材料のキット

【課題】 ラジカル重合性単量体、樹脂粉末、および化学重合型ラジカル重合開始剤を成分とする粉液型の歯科用硬化性材料において、発熱温度や硬化時間を、液過多の場合などの粉液比の違いによる影響を受けることなく、良好にコントロールすること。
【解決手段】 (I)樹脂粉末を含む粉材、(II)ラジカル重合性単量体を含む液材、および(III)ラジカル重合性単量体とラジカル連鎖移動剤を含むラジカル重合遅延用液からなり、上記(I)〜(III)の各部材に、化学重合型ラジカル重合開始剤を構成する2種以上の化合物が保存時にラジカルが発生しない態様で分けて含有されてなる歯科用硬化性材料のキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温重合レジン等として有用な歯科用硬化性材料のキットに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療の分野では、種々の硬化性材料が義歯床用材料、歯科用充填修復材料、歯科用接着剤等として使用されている。例えば常温重合レジンは、歯科の治療において、義歯床の修理や、暫間的なクラウンの作成に用いられる、幅広く用いることのできる材料である。
【0003】
常温重合レジンは、充填材および化学重合型ラジカル重合開始剤の一部の構成化合物からなる粉材と、ラジカル重合性単量体および化学重合型ラジカル重合開始剤の残部の構成化合物からなる液材とを混合することによってラジカル重合が開始して硬化する材料である。使用方法としては、ラバーカップ等の容器内で棒を用いて粉材と液材とを混合する練和法や、液材を筆に含ませ、その筆を粉材に付けて筆先に付着した粉材と筆から滲み出る液材とを馴染ませて用いる筆積み法等で粉材と液材とを混ぜ、得られるモチ状のレジン泥で大まかな形を作った後、硬化後にバー等で整形して用いるのが一般的である。
【0004】
このような常温重合レジンは、歯科の分野で広く利用されており、他に、同様の組成・包装形態の硬化性材料として、歯科用セメント等も使用されている。なお、化学重合型ラジカル重合開始剤とは、2種以上の化合物が接触することによりラジカルが発生するタイプの重合開始剤である。
【0005】
上記化学重合型ラジカル重合開始剤を用いた歯科材料は、一般に患者の口腔内で硬化させることが多いため、硬化時の発熱が小さいことが要求される。更に、組成物が硬化するまでの時間(硬化時間)を臨床の種類に応じてコントロールすることも重要である。発熱温度と硬化時間のコントロールのために、重合禁止剤を添加して硬化時間を遅延させる技術が提案されている(特許文献1参照)が、この方法で硬化時間をコントロールした場合、重合禁止剤が硬化時間遅延のために使い尽くされて消失した後には重合反応は一気に進行するため、硬化時の発熱の低減については効果がない。
【0006】
硬化時間および発熱の低減を両立させるための新たな解決法として、ラジカル連鎖移動剤を添加剤として加えることで、その硬化性や物性を損なうことなく、重合による発熱温度の低減と硬化時間の調節を達成できることが報告されている(特許文献2参照)。しかしながら、ラジカル連鎖移動剤を添加しても新たな問題が生じていた。すなわち、常温重合レジンは様々な粉液比で使用される材料であるため、例えば術者が印象材や石膏で作った型に常温重合レジンを流し込むことで硬化体を得る場合、通常の粉液比で混合したレジン泥は高粘度のために流し込み用途には適さず、液過多なレジン泥として低粘度で流し込み易い状態にして用いる。しかして、このような標準の粉液比から外れた条件(一般に、液過多な条件)でラジカル連鎖移動剤を含む液にすると、粉中に含まれる重合開始剤の量に対してラジカル連鎖移動剤の量が過多となり、術者の想定を超えて硬化時間が遅延する欠点が発生していた。この場合、術者はレジン泥が充分に硬化するまで長時間待つか、もしくは、固まりかけのレジン泥を加熱して硬化速度を速めるかのいずれかの方法でレジン泥を硬化させる必要があり、どちらも術者にとって面倒なことに変わりなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平9−67222号公報
【特許文献2】特開平11−71220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ラジカル重合性単量体、樹脂粉末、および化学重合型ラジカル重合開始剤を成分とする粉液型の歯科用硬化性材料において、発熱温度や硬化時間を、液過多の場合などの粉液比の違いによる影響を受けることなく、良好にコントロールすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、従来ではラジカル連鎖移動剤は、ラジカル重合性単量体と化学重合型ラジカル重合開始剤の一部の構成化合物とを含む液材にそのまま同一溶液として配合させていたところ、該液材を、ラジカル連鎖移動剤を含む液と含まない液に分割すれば、液過多な粉液比で混合しても、術者にとって好みの硬化性や硬化時間にコントロールすることが可能であることに想到した。そして、さらに、斯様に液材を分割した場合には、共存させる化学重合型ラジカル重合開始剤の構成化合物の種類によっては液の保存安定性を大きく向上できることも見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、a)ラジカル重合性単量体、b)樹脂粉末、c)2種以上の化合物を組合せてなる化学重合型ラジカル重合開始剤、およびd)ラジカル連鎖移動剤を含む歯科用硬化性材料のキットであって、(I)b)樹脂粉末を含む粉材、(II)a)ラジカル重合性単量体を含む液材、および(III)a)ラジカル重合性単量体とd)ラジカル連鎖移動剤を含むラジカル重合遅延用液に分割されてなり、前記c)化学重合型ラジカル重合開始剤を構成する各化合物は、保存時にラジカルが発生しない態様で上記(I)〜(III)のいずれかの部材に分けて含有されてなることを特徴とする歯科用硬化性材料のキットである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の歯科用硬化性材料キットは、低い発熱温度や硬化時間を所望の長さにコントロールすることができ、従来のキットに比べて粉液比の硬化反応に与える影響を低減させることが可能である。また、操作時間を大幅に短縮させることができるため、レジン泥を硬化させるために、わざわざ加熱する必要もない。さらに、化学重合型ラジカル重合開始剤として、過酸化物/アミンを組み合わせたもの、またはピリミジントリオン誘導体/有機金属化合物/有機ハロゲン化物を組み合わせたものを用いても、これらの特定のラジカル重合開始剤を用いた場合に顕著化する、(II)液材の保存安定性が低下する問題が良好に改善できる。
【0012】
したがって、本発明によれば、保存安定性が高く、硬化時間を任意にコントロールすることができ、液過多時においても硬化時間を遅延させることがない、歯科用硬化性材料の優れたキットが提供される。この性状は、術者が任意に粉液比を調節して使用可能な粉液型の歯科用硬化性材料、具体的には、硬質裏装材、歯科用セメントなどにおいて有利である。特に、常温重合レジンにおいて最も有利に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の歯科用硬化性材料キットにおいてb)樹脂粉末は、(I)粉材に使用される。こうした樹脂粉末としては、公知のものが制限なく使用できる。液材として使用するラジカル重合性単量体と馴染みの良いものが好ましい。具体的には、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体等があり、これらは1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0014】
その重量平均分子量は特に限定されないが、一般的には5000〜1000000のものが好ましい。また、該樹脂粉末が共重合体からなる場合には、各単量体単位の共重合比は特に制限されない。
【0015】
前記樹脂粉末の形状は特に限定されるものではなく、通常の粉砕により得られるような不定形粒子であってもよく、又、球状若しくは略球状の粒子であってもよい。樹脂粉末の平均粒子径は特に限定されないが、一般的には0.005〜200ミクロンの物が好ましい。
【0016】
本発明の歯科用硬化性材料キットにおいてa)ラジカル重合性単量体は、(II)液材と、(III)後述するd)ラジカル連鎖移動剤が含有されるラジカル重合遅延用液とに分けて配合される。上記ラジカル重合性単量体としては、公知の(メタ)アクリレート系重合性単量体が特に制限なく用いられる。具体的な例を示せば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロキシエチルプロピオネート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1.6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス((メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシフェニル)]プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級化物等があり、これらは1種又は2種以上を混合して使用してもよい。また、(II)液材と(III)遅延用液とにおいて、各々の部材に含有されるラジカル重合性単量体は、同じものであっても良いし、異なっていても構わない。
【0017】
本発明で使用するラジカル重合開始剤は、2種以上の化合物の組合せからなり、これらを接触させることによってラジカルが発生する化学重合型のものである。本発明の歯科用硬化性材料キットにおいて、該化学重合型ラジカル重合開始剤の各構成化合物は、保存時にラジカルが発生しない態様で、前記(I)粉材、(II)液材、および(III)ラジカル重合遅延用液のいずれに分けて含有される。
【0018】
このような化学重合型ラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化物を、硬化促進剤であるアミン化合物と組み合わせたものが挙げられる。具体的な例を示せば、過酸化物としては、ジベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。また、アミン化合物としては、アミンがアリール基に結合した第二級または第三級アミンなどが好ましく用いられる。例えば、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、p−トリルジエタノールアミン等を挙げることができる。前記の過酸化物と硬化促進剤との、硬化性材料中における配合比は、過酸化物1質量部に対してアミン化合物0.1〜5質量部の範囲が好適である。係る過酸化物とアミン化合物の組合せとして、過酸化物が(II)液材に含まれる場合、過酸化物の熱分解による(II)液材のゲル化や硬化が起こり易くなり保存安定性に欠けるものになるため、過酸化物は(I)粉材に含有させ、アミン化合物は(II)液材に含有させるのが好ましい。
【0019】
化学重合型ラジカル開始剤の別の例としては、ボレート化合物と酸との組み合わせが挙げられる。ボレート化合物としては、保存安定性の点から1分子中に少なくとも1個のホウ素−アリール結合を有するものが好ましい。
【0020】
好適に使用されるアリールボレート化合物を具体的に例示すると、1分子中に1個のアリール基を有するボレート化合物(以下、モノアリールボレートともいう。)としては、トリアルキルフェニルホウ素、トリアルキル(p−クロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−フロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素のナトリウム塩、カリウム塩、テトラブチルアンモウニム塩、エチルピリジニウム塩等を挙げることができる。ここで、アルキル基としては、n−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等が具体的に例示される。
【0021】
また、1分子中に2個のアリール基を有するボレート化合物としては、ジアルキルジフェニルホウ素、ジアルキルジ(p−クロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−フロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素のナトリウム塩、カリウム塩、テトラブチルアンモウニム塩、エチルピリジニウム塩等を挙げることができる。なお、これら化合物におけるアルキル基としては、モノアリールボレートにおけるアルキル基と同様のものが例示される。
【0022】
さらに、1分子中に3個のアリール基を有するボレート化合物としては、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリ(p−クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−フロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素のナトリウム塩、カリウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、エチルピリジニウム塩等を挙げることができる。なお、これら化合物におけるアルキル基としては、モノアリールボレートにおけるアルキル基と同様のものが例示される。
【0023】
1分子中に4個のアリール基を有するボレート化合物としては、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p−クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−フロロフェニルホウ素、テトラキス(p−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素、(m−ブチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(m−オクチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素のナトリウム塩、カリウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、エチルピリジニウム塩等を挙げることができる。
【0024】
これらのボレート化合物は、1種又は2種以上を混合して用いることも可能である。
【0025】
また酸は特に限定されず、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸、酢酸、マレイン酸、クエン酸、マロン酸、シュウ酸、プロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の有機酸を使用することができる。
【0026】
前記のボレート化合物と酸との、硬化性材料中における配合比は、ボレート化合物1質量部に対して0.5〜100質量部の範囲が好適である。係るボレート化合物と酸との組み合せは、開始ラジカル源であるボレート化合物がラジカル重合性単量体と共存されると保存安定性が悪くなるため、ボレート化合物は(I)粉材に含有させ、酸は(II)液材に含有させるのが好ましい。
【0027】
さらに、化学重合型ラジカル開始剤として特に好ましいものを例示すれば、ピリミジントリオン誘導体、有機金属化合物および有機ハロゲン化物との組み合せを挙げることができる。この化学重合型ラジカル開始剤は、硬化後の変色が起こり難く、本発明の硬化性組成物を歯科修復材料の目的に使用した場合の化学重合型ラジカル開始剤として特に好ましい。
【0028】
ピリミジントリオン誘導体としては、5−メチルピリミジントリオン、5−エチルピリミジントリオン、5−プロピルピリミジントリオン、5−ブチルピリミジントリオン、5−イソブチルピリミジントリオン、1,5−ジメチルピリミジントリオン、1,5−ジエチルピリミジントリオン、1−メチル−5−エチルピリミジントリオン、1−エチル−5−メチルピリミジントリオン、1−メチル−5−ブチルピリミジントリオン、1−エチル−5−ブチルピリミジントリオン、1−メチル−5−イソブチルピリミジントリオン、1−エチル−5−イソブチルピリミジントリオン、1−メチル−5−シクロヘキシルピリミジントリオン、1−エチル−5−シクロヘキシルピリミジントリオン、1−ベンジル−5−フェニルピリミジントリオン、1,3,5−トリメチルピリミジントリオン、1,3−ジメチル−5−エチルピリミジントリオン、1,3−ジメチル−5−ブチルピリミジントリオン、1,3−ジメチル−5−イソブチルピリミジントリオン、1,3,5−トリエチルピリミジントリオン、1,3−ジエチル−5−メチルピリミジントリオン、1,3−ジエチル−5−ブチルピリミジントリオン、1,3−ジエチル−5−イソブチルピリミジントリオン、1.3−ジメチル−5−フェニルピリミジントリオン、1.3−ジエチル−5−フェニルピリミジントリオン、1−エチル−3−メチル−5−ブチルピリミジントリオン、1−エチル−3−メチル−5−イソブチルピリミジントリオン、1−メチル−3−プロピル−5−エチルピリミジントリオン、1−エチル−3−プロピル−5−メチルピリミジントリオン、1−シクロヘキシル−5−メチルピリミジントリオン、1−シクロヘキシル−5−エチルピリミジントリオン、5−ブチル−1−シクロヘキシルピリミジントリオン、5−sec−ブチル−1−シクロヘキシルピリミジントリオン、1−シクロヘキシル−5−ヘキシルピリミジントリオン、1−シクロヘキシル−5−オクチルピリミジントリオン、1,5−ジシクロヘキシルピリミジントリオン等が挙げられる。これらの中でも、ラジカル重合性単量体への溶解性及びラジカル重合の活性の点から、窒素原子に結合した水素をアルキル基又はシクロアルキル基で置換したピリミジントリオン誘導体が特に好ましい。
【0029】
有機金属化合物として具体的には、アセチルアセトン銅、4−シクロヘキシル酪酸銅、酢酸第二銅、オレイン酸銅、アセチルアセトンマンガン、ナフテン酸マンガン、オクチル酸マンガン、アセチルアセトンコバルト、ナフテン酸コバルト、アセチルアセトンリチウム、酢酸リチウム、アセチルアセトン亜鉛、ナフテン酸亜鉛、アセチルアセトンニッケル、酢酸ニッケル、アセチルアセトンアルミニウム、アセチルアセトンカルシウム、アセチルアセトンクロム、アセチルアセトン鉄、ナフテン酸ナトリウム、レアアースオクトエート等が挙げられる。この有機金属化合物は単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0030】
有機ハロゲン化物としては、溶液中でハロゲン化物イオンを形成させる化合物であれば特に限定されず公知の化合物が使用できる。好適なハロゲンイオン形成化合物としては、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ジイソブチルアミンハイドロクロライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムクロライド、トリエチルアミンハイドロクロライド、トリメチルアミンハイドロクロライド、ジメチルアミンハイドロクロライド、ジエチルアミンハイドロクロライド、メチルアミンハイドロクロライド、エチルアミンハイドロクロライド、イソブチルアミンハイドロクロライド、トリエタノールアミンハイドロクロライド、β−フェニルエチルアミンハイドロクロライド、アセチルコリンクロライド、2−クロロトリメチルアミンハイドロクロライド、(2−クロロエチル)トリエチルアンモニウムクロライド、テトラ−デシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルセチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロマイド等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
化学重合型ラジカル開始剤として前記ピリミジントリオン誘導体、有機金属化合物及び有機ハロゲン化物からなるものを使用するとき、各成分の硬化性材料中における配合比は、ピリミジントリオン誘導体1モルに対する有機金属化合物及び有機ハロゲン化物のモル数で表して、それぞれ0.00001〜0.002モル及び0.001〜0.2モルの範囲が好適である。
【0032】
ピリミジントリオン誘導体および有機金属化合物は室温で固体状のものが多い。一方、有機ハロゲン化物は、汎用的なものについては室温で液状、ペースト状のものが多い。したがって、(I)粉材において、その粉体性状を良好に保つためには、該有機ハロゲン化物は(II)液材に含有させるのが好ましい。また、ピリミジントリオン誘導体、有機金属化合物及び有機ハロゲン化物から選ばれる2種は、何れの組合せにおいても(II)液材中に共存させるのは保存安定性の面から好ましくない。これらから、係るピリミジントリオン誘導体、有機金属化合物及び有機ハロゲン化物の組合せからなる化学重合型ラジカル開始剤は、ピリミジントリオン誘導体と有機金属化合物とは(I)粉材に含有させ、他方、有機ハロゲン化物は(II)液材に含有させるのが最も好適である。
【0033】
以上の化学重合型ラジカル開始剤は、(I)粉材、(II)液材、および(III)ラジカル重合遅延用液を混合して歯科用硬化性材料とした際に、該硬化性材料に含まれるラジカル重合性単量体100質量部に対して、化学重合型ラジカル重合開始剤の各構成化合物の総量として0.05〜15質量部、好ましくは0.1〜10質量部の範囲になるように使用するのが好ましい。そのため、各構成化合物は、配合される(I)〜(III)の各部材中において、これら各部材の混合比も考慮した上で、上記硬化性材料とした際の好適な含有量が達成される適切な濃度で配合させれば良い。
【0034】
本発明の歯科用硬化性材料キットでは、d)ラジカル連鎖移動剤を、前記したようにa)ラジカル重合性単量体に配合させて、(III)ラジカル重合遅延用液としてキット構成に加える。これにより、(I)粉材、(II)液材を混合する際に、この(III)ラジカル重合遅延用液も種々の量で混合することにより、得られる硬化性材料中の重合開始剤に対して、所望の発熱温度や硬化時間が得られる最適の濃度で、該ラジカル連鎖移動剤を作用させることが可能になる。
【0035】
上記ラジカル連鎖移動剤としては、公知のラジカル連鎖移動剤が特に制限なく用いられる。具体的な例を示せば、メルカプタン類、ハロゲン化炭化水素、フェニル含有モノオレフィン類が挙げられる。メルカプタン類は、1個のメルカプト基を有する化合物であってよい。メルカプタン類として、オクチルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、m−チオクレゾール、チオフェノール、チオグリコール(2−メルカプトエタノール)、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、β−ナフタレンチオール等が挙げられる。ハロゲン化炭化水素は、少なくとも1個のハロゲン原子(例えば、塩素、臭素、ヨウ素)で置換された炭化水素である。ハロゲン化炭化水素として、四塩化炭素、臭化エチレン等が挙げられる。
【0036】
なかでもフェニル基含有モノオレフィンが好ましく、2−フェニル−1−プロペン(α−メチルスチレン)、2−フェニル−1−ブテン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(α−メチルスチレンダイマー)、3,5−ジフェニル−5−メチル−2−へプテン、2,4,6−トリフェニル−4,6−ジメチル−1−へプテン、3,5,7−トリフェニル−5−エチル−7−メチル−2−ノネン、1,3−ジフェニル−1−ブテン、2,4−ジフェニル−4−メチル−2−ペンテン、3,5−ジフェニル−5−メチル−3−へプテン、1,1−ジフェニルエチレン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2−フェニル−1−プロペン、1,3−ジフェニル−1−ブテン等が挙げられ、これらラジカル連鎖移動剤は単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0037】
上記ラジカル連鎖移動剤の中でも、下記一般式(1) :
(式中、R およびRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3 のアルキル基である)
で表される化合物が特に好ましい。上記一般式(1)において、当該炭素数1〜3 のアルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基又はi−プロピル基である。本発明に用いるスチレン誘導体は、上記一般式(1)で表される限り特に制限はないが、入手のし易さの点で、RおよびRがともにメチル基である2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンであることが好ましい。また、必要に応じて、RやRが互いに異なる複数のスチレン誘導体を併用することもできる。
【0038】
本発明において上記ラジカル連鎖移動剤は、(I)粉材、(II)液材、および(III)ラジカル重合遅延用液を混合して歯科用硬化性材料とした際に、該硬化性材料に含まれるラジカル重合性単量体100質量部に対して0.01〜10質量部、さらに好ましくは0.05〜5質量部の範囲になるように使用するのが好ましい。硬化性材料を構成する各成分の種類や配合量により変動するため一概には決められないが、硬化性材料に含まれるラジカル重合性単量体100質量部に対するラジカル連鎖移動剤の配合量が上記範囲内とすることにより、得られる硬化性材料について、該ラジカル連鎖移動剤を全く配合しない場合に比較して、硬化時間を4〜300%、より確実には10〜150%の範囲で遅延させることが可能にでき、同様に、発熱温度を2〜50%、より確実には5〜35%の範囲で低減させることが可能である。
【0039】
これに対して、上記硬化性材料に含まれるラジカル重合性単量体100質量部に対するラジカル連鎖移動剤の配合量が0.01質量部未満の場合には、硬化発熱を低減効果が今一歩十分でなくなり、硬化時間をコントロールする効果も十分に発現させ難くなる。また、配合量が10質量部を超える場合には、硬化時間が過剰に遅延する虞や、硬化体の物性が低下する虞が生じる。これらから、ラジカル連鎖移動剤は、(III)ラジカル重合遅延用液中において、(I)〜(III)の各部材の混合比も考慮した上で、上記硬化性材料とした際に、係る好適な含有量が達成される適切な濃度で配合させれば良い。一般には、(III)ラジカル重合遅延用液中において、0.05〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%の濃度で配合させるのが良好である。
【0040】
本発明の歯科用硬化性材料のキットに含まれる歯科用硬化性組成物には、必要に応じて他の成分を添加することができる。具体例を挙げれば、(I)粉材には、操作性等調節のために無機充填剤として、石英粉末、アルミナ粉末、ガラス粉末、炭酸カルシウム、酸化チタン、乾式シリカ、湿式シリカ等を配合させることも可能であり、これらは1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0041】
また、(II)液材および(III)ラジカル重合遅延用液には、エタノール等の有機溶媒、ブチルヒドロキシトルエン、メトキシハイドロキノン等の重合禁止剤、4−メトキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−(2−ベンゾトリアゾール)−p−クレゾール等の紫外線吸収剤を配合させることも可能である。その他、色素、顔料、及び香料等のその他の種々の添加化剤を、それぞれの性状に応じて、前記(I)〜(III)の各部材における適切なものに配合させることができる。
【0042】
ところで、ラジカル連鎖移動剤が配合された歯科用硬化性材料キットにおいて、化学重合型ラジカル重合開始剤として、前記した過酸化物/アミン化合物を組み合わせたもの、またはピリミジントリオン誘導体/有機金属化合物/有機ハロゲン化物を組み合わせたものを用いた場合、本発明のようにラジカル連鎖移動剤を、(III)ラジカル重合遅延用液として、(II)液材と別部材に配合するようにしないと、該液材は保存中にゲル化し易くなり保存安定性が悪くなる。この原因は必ずしも明らかではないが、前記したように上記組合せの化学重合型ラジカル重合開始剤を用いた場合、(II)液材にはアミン化合物や有機ハロゲン化物が含有されることが好ましい態様になる。そして、この態様の液材に、さらに上記ラジカル連鎖移動剤が含有されると、保存中にラジカル(もしくは、イオン性開始剤)が発生し易くなり、最終的に液のゲル化が早い時間で生じてしまう。これに対して、本発明の歯科用硬化性材料キットのように、上記ラジカル連鎖移動剤が、(III)ラジカル重合遅延用液として、(II)液材と別配合されている場合には、該ラジカル連鎖移動剤は同一溶液中においてアミン化合物や有機ハロゲン化物と共存しなくなり、その結果、(II)液材の保存安定性が大きく改善される。
【0043】
以上の構成にある、本発明の歯科用硬化性材料キットは、使用に際して、(I)粉材、(II)液材、および(III)ラジカル重合遅延用液を、同時または任意の順序で混合して硬化性材料として使用すれば良い。(II)液材および(III)ラジカル重合遅延用液に含まれるラジカル重合性単量体と(I)粉材に含まれる樹脂粉末との混合比は、特に制限されるものではないが、操作性及び硬化体強度を考慮すると、前者のラジカル重合性単量体の合計100質量部に対して樹脂粉末が25〜400質量部の範囲が好適である。前述のように本発明の歯科用硬化性材料キットは、液過多なレジン泥として使用する態様において、ラジカル連鎖移動剤の量が過多となる問題を解消するものであるため、この効果を顕著に発揮させる観点から、上記ラジカル重合性単量体の合計100質量部に対して25〜150質量部の範囲となるように混合するのがより好ましい。このようなラジカル重合性単量体と樹脂粉末との好適な混合比、さらには前記した硬化性材料に含まれる、化学重合型ラジカル重合開始剤やラジカル連鎖移動剤の好適な含有量になるように、(I)〜(III)の各部材における各成分の含有量を調整すれば良い。
【0044】
一般に、操作性の良好さ等から、(I)粉材の1gに対して、(II)液材および(III)ラジカル重合遅延用液の合計容量が0.2g〜5gの比、より好ましくは0.4g〜5g、最も好ましくは0.475gになるように、(I)〜(III)の各部材を混合させるのが好ましい。また、こうした粉材と液材の混合操作が容易であることから、(I)粉材、(II)液材、および(III)ラジカル重合遅延用液は、先に、(II)液材、および(III)ラジカル重合遅延用液を混合し、得られた混合液と(I)粉材を混合させるのが効果的である。この場合、化学重合型ラジカル重合開始剤を構成する各化合物は、先に行われる(II)液材と(III)ラジカル重合遅延用液とを混合した際にラジカルが発生しない態様で、上記(I)〜(III)の各部材に分けて含有させるのが好ましい。
【0045】
(I)粉材と、(II)液材および(III)ラジカル重合遅延用液、さらにはこれらの混合液との混合は、筆積み法やスパチュラを用いた方法により実施すればよい。なお、(II)液材および(III)ラジカル重合遅延用液は点眼容器に収容し、(I)粉材との混合に夫々を供するのが効率的である。
【実施例】
【0046】
以下に本発明に関する実施例と比較例を示すが、本発明は該実施例に限定されるものではない。尚、評価は以下の方法で行った。
【0047】
(1)硬化発熱及び硬化時間の測定
最高温度及び硬化時間の評価は、サーミスタ温度計による発熱法によって行った。まず液材と遅延用液をx:10−Xの比率で混合し、粉材1.0±0.01gと得られた混合液0.48gとを混合し、20秒間練和した。次いで、2cm×2cm×1cmの中心に6mmφの孔の空いたポリアセタール製モールドに流し込んだ後、サーミスタ温度計を差し込み、記録計により最高温度を測定した。また、練和開始から最高温度を記録するまでの時間を同時に計測し、この時間を硬化時間とした。なお、測定は23℃の恒温室で行った。
【0048】
また、液過多条件での硬化時間測定は以下の方法で測定した。液過多の条件は、まず液材と遅延用液をx:10−Xの比率で混合し、粉材0.75±0.01gと得られた混合液0.71gとを混合し、この時の粉液の混合比を(粉液比1g/0.95g)とした。また、粉材0.5±0.01gと混合液0.95gとを混合したときの混合比を(粉液比1g/1.9g)、粉材0.4±0.01gと混合液1.14gとを混合したときの混合比を(粉液比1g/2.85g)とし、これらの粉液比で粉と液を20秒間練和した。次いで、2cm×2cm×1cmの中心に6mmφの孔の空いたポリアセタール製モールドに流し込んだ後、サーミスタ温度計を差し込み、記録計により最高温度を測定した。また、練和開始から最高温度を記録するまでの時間を同時に計測し、この時間を硬化時間とした。なお、測定は23℃の恒温室で行った。
【0049】
(2)保存安定性試験
保存安定性の試験は以下の方法で行った。まず、調製した液材および遅延用液それぞれ5mlを6ml褐色瓶に入れて密封し、60℃で加速試験を行い、6ヶ月後の液の状態を表1に示す評価基準に従って目視で評価した。
【0050】
【表1】

【0051】
本発明の実施例および比較例に使用した化合物の略称を表2に示した。
【0052】
【表2】

【0053】
今回行った実施例および比較例で用いた、(I)粉材の組成を表3に示し、(II)液材の組成を表4に示し、(III)ラジカル重合遅延用液の組成を表5に示した。
【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
【表5】

【0057】

実施例1〜7、比較例1〜4
表3、表4、表5に示した各組合せの、(I)粉材、(II)液材、(III)ラジカル重合遅延用液を用いて、それぞれ各部材の混合比で混合して得られる硬化性材料について、(1)硬化発熱及び硬化時間の測定を行った。その結果を、硬化性材料の組成と共に、表6〜表8に示した。
【0058】
【表6】

【0059】
【表7】

【0060】
【表8】

【0061】
実施例8〜18、比較例5〜7
前記表4に示した組成の(II)液材と、前記表5に示した組成の(III)ラジカル重合遅延用液について、(2)保存安定性試験を実施した。その結果を表9、表10に示した。
【0062】
【表9】

【0063】
【表10】

【0064】

実施例1〜6は、液材と遅延用液を5:5の比で混合したものである。比較例1〜3は化学重合型ラジカル重合開始剤およびラジカル連鎖移動剤を1つの液に添加したもので、比較例4はラジカル連鎖移動剤を含まないものである。
【0065】
実施例1に示すように、通常の粉液比〔粉液比2g/0.95g(粉材:液材:遅延用液比が0.68:0.16:0.16)〕で混合させた場合、最高温度40℃であり硬化時間370秒であるのに対して、液(液材と遅延用液との混合液)過多〔粉液比1g/1.9g〕にしても、遅延用液の配合量を調整(粉材:液材:遅延用液比が0.34:0.59:0.07)することにより、ほぼ同等の最高温度および硬化時間とすることができた。また、この実施例で使用した、液材および遅延用液の保存安定性は、共にスコア1(実施例8、14)で良好であった。これに対して、比較例1に示すように、重合開始剤と連鎖移動剤の両方を液材に添加したものは、通常の粉材と液材の混合物は同じ組成であるため、実施例1の場合と同じ最高温度および硬化時間であったが、液過多にすると連鎖移動剤の量が過剰になって、最高温度はほぼ同等であったものの、硬化時間は70秒遅延した。液の保存安定性はスコア2(比較例5)で、60℃、6ヶ月間の保存安定性試験では液のゲル化が観察された。同様に実施例2〜6でも、液過多にしても、最高温度および硬化時間はともに、通常の粉液比の場合とほぼ同等の値が維持できた。
【0066】
なお、実施例9〜18に示すように、重合開始剤と連鎖移動剤を液材と遅延用液に分けたものは保存安定性はいずれもスコア1で良好であったが、重合開始剤と連鎖移動剤が液中に共存している比較例5〜7に用いた液材ではゲル化が見られた。
【0067】
実施例4〜7は、それぞれ粉材、液材、ラジカル遅延用液の組成を変えたもので、硬化時間のコントロールが可能であったことを示している。
【0068】
実施例7は、粉材、液材、ラジカル重合遅延用液の組成が同じで、液材:遅延用液の比を9:1〜3:7に、および粉/液比を2/0.95〜1/2.85に変えて混合したものである。いずれの粉液比においても液材と遅延用液の比を変えることによって硬化時間のコントロールが可能であった。
【0069】
比較例4は、連鎖移動剤を含まない系を示しており、この系で硬化時間を遅らせる場合、粉液比を調整することでしか硬化時間を調節できず、更にこの状態では連鎖移動剤を含むときと比べて硬化時間のコントロール性も良くなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ラジカル重合性単量体、b)樹脂粉末、c)2種以上の化合物を組合せてなる化学重合型ラジカル重合開始剤、およびd)ラジカル連鎖移動剤を含む歯科用硬化性材料のキットであって、(I)b)樹脂粉末を含む粉材、(II)a)ラジカル重合性単量体を含む液材、および(III)a)ラジカル重合性単量体とd)ラジカル連鎖移動剤を含むラジカル重合遅延用液に分割されてなり、前記c)化学重合型ラジカル重合開始剤を構成する各化合物は、保存時にラジカルが発生しない態様で上記(I)〜(III)のいずれかの部材に分けて含有されてなることを特徴とする歯科用硬化性材料のキット。
【請求項2】
c)化学重合型ラジカル重合開始剤が、過酸化物とアミン化合物により構成されてなり、過酸化物は(I)粉材に含有されてなり、アミン化合物は(II)液材に含有されてなる請求項1記載の歯科用硬化性材料のキット。
【請求項3】
c)化学重合型ラジカル重合開始剤が、ピリミジントリオン誘導体、有機金属化合物、および有機ハロゲン化物により構成されてなり、ピリミジントリオン誘導体と有機金属化合物とは(I)粉材に含有されてなり、有機ハロゲン化物は(II)液材に含有されてなる請求項1記載の歯科用硬化性材料のキット。
【請求項4】
d)ラジカル連鎖移動剤が、下記一般式(1)
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜3 のアルキル基である)
で示される化合物を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科用硬化性材料のキット。

【公開番号】特開2009−227591(P2009−227591A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72323(P2008−72323)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】