説明

歯科用組成物及びそれを用いた歯科用接着性材料

【課題】歯科用接着性材料に適用した場合に、良好な歯質との接着性と、優れた接着耐久性を付与する歯科用組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるジアミン化合物(A)を含む歯科用組成物。
〔式中、R1〜R5はそれぞれ独立して、炭素数1〜20の有機基を示し、R6〜R9はそれぞれ独立して、水酸基又は特定の重合性基を示し、R6〜R9の少なくとも1つは水酸基であり、かつ少なくとも1つは重合性基である。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用材料に特に好適な、重合性のジアミン化合物を含む歯科用組成物に関する。本発明はまた、プライマー、ボンディング材、自己接着性コンポジットレジン、自己接着性セメント等の歯科用接着性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
歯の欠損部に修復物を充填又は被覆する際には、通常、歯科用接着材が用いられる。
【0003】
歯質に対して歯科用接着材を作用させる場合には、歯質表面を酸性成分で溶かす脱灰作用、モノマー成分が歯質、特に象牙質のコラーゲン層に浸透する浸透作用、及び浸透したモノマー成分が固まってコラーゲンとのハイブリッド層(以下、「樹脂含浸層」と呼ぶことがある)を形成する硬化作用を有することが重要である。
【0004】
現在までに上記脱灰作用、上記浸透作用、及び上記硬化作用を順に適用する3液3ステップ型から、上記脱灰作用と上記浸透作用を統一した2液2ステップ型、さらに上記脱灰作用、上記浸透作用、及び上記硬化作用を全て集約した1液1ステップ型へと歯科用接着材の使用態様を簡略化する検討が行われている。さらに近年では、歯科用セメントや歯科用充填材料そのものに接着性能を付与した自己接着性セメントや自己接着性修復材料の検討も行われている。これまで、このような使用態様において接着性に優れる歯科用組成物を得ることを目的として、様々な組成物の検討がなされており、例えば、アミン化合物等の塩基性化合物を含有する組成物が提案されている。
【0005】
特許文献1には、塩基性化合物を配合した1液型の歯科用接着材組成物が開示されている。塩基性化合物としては、酸性基を有する疎水性の重合性単量体と反応して水溶性の塩を形成することのできるアミン化合物が挙げられており、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートのような重合性のアミンが例示されている。この特許文献1には、塩基性化合物を配合することによって、酸性基を有する疎水性の重合性単量体の歯質への浸透性が高まり、接着性が向上すること、また、組成物の酸性が低下することで重合性単量体の加水分解が抑制されるため、貯蔵安定性も向上することが記載されている。
【0006】
また、特許文献1に記載されているアミン化合物に類似した化合物の使用例として、特許文献2には、重合性基と水酸基を有する特定の第三級アミンを含む光硬化性組成物が開示されている。光重合開始剤の還元剤としてこの特定の第三級アミンを用いることにより、光照射して重合させる場合に、空気中の酸素によって生じる未硬化部分を少なくできるとの記載がある。
【0007】
また、特許文献3には、ビニル基を有する脂肪族第三級アミンを含む光重合性組成物が開示されている。光重合開始剤の還元剤として、4−ジメチルアミノ安息香酸エステルとビニル基を有する脂肪族第三級アミンを組み合わせて用いることにより、蛍光灯等の環境光には安定で、光照射器の光では重合硬化し、硬化深度が深く、変色が起こりにくい組成物が得られるとの記載がある。
【0008】
また、特許文献4には、分子内に2個以上の重合性基を有する非芳香族第三級アミンを、光重合開始剤の還元剤として含む光重合性組成物が開示されている。この特許文献4に開示された組成物は、還元剤として重合性基を有する非芳香族第三級アミンを配合することにより、色調安定性が高く、還元剤の溶出が少なく、機械的強度に優れた硬化物を得ることができるとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2005/060920号パンフレット
【特許文献2】特開平3−179002号公報
【特許文献3】特開平8−143614号公報
【特許文献4】特開平9−143021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の歯科用接着性組成物には、初期接着性に関することは記載されているが、実際の治療において二次齲蝕を防止する観点からも重要な接着耐久性に関する記載や示唆はない。また、本発明者が、これらの組成物の接着耐久性を評価したところ、決して満足できるものではなく、さらなる改善の余地があった。
【0011】
また、特許文献2〜4に記載の組成物は、歯科用修復材料としての利用を想定しており、硬化特性や硬化物の物性に関することは記載されている。しかし、接着性に関する記載や示唆はなく、歯科用接着性材料として利用するためには、さらなる改善の余地があった。
【0012】
本発明は、歯科用接着性材料に適用した場合に、良好な歯質との接着性と、優れた接着耐久性を付与する歯科用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記一般式(1)で表されるジアミン化合物(A)を含む歯科用組成物である。
【0014】
【化1】

【0015】
〔式中、R1〜R5はそれぞれ独立して、炭素数1〜20の有機基を示し、R6〜R9はそれぞれ独立して、水酸基又は下記一般式(2)で表される重合性基を示し、R6〜R9の少なくとも1つは水酸基であり、かつ少なくとも1つは下記一般式(2)で表される重合性基である。〕
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、R10〜R12はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Aは、−COO−、−CONH−、−OCO−、−O−、−S−、−CH2O−、−CH2S−、−C64O−、−C64CONH−、−C64NHCO−、−C64COO−、−C64OCO−、及び−CONHCO−からなる群から選択される1種を示す。)
【0018】
一般式(1)においては、R1〜R5がそれぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキレン基であることが好ましく、炭素数2〜3のアルキレン基であることがより好ましい。一般式(2)においては、R10及びR11が水素原子であり、R12が水素原子又はメチル基であり、Aが−COO−又は−CONH−であることが好ましい。
【0019】
本発明の歯科用組成物は、酸性基を有する重合性単量体(B)をさらに含むことが好ましい。このとき、前記ジアミン化合物(A)と前記酸性基を有する重合性単量体(B)のモル比が(A):(B)=1:3〜1:100であることが好ましい。本発明の歯科用組成物は、前記酸性基を有する重合性単量体(B)以外の重合性単量体(C)をさらに含むことが好ましい。前記重合性単量体(C)は、1個の重合性官能基と1個以上の水酸基とを有する重合性単量体(c−1)、及び/又は架橋性の重合性単量体(c−2)であることが好ましい。
【0020】
本発明はまた、上記の歯科用組成物を用いた歯科用接着性材料である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の歯科用組成物を歯科用接着性材料に適用した場合には、歯質との良好な接着性を示し、さらに、優れた接着耐久性を示す。よって、本発明の歯科用組成物は、プライマー、ボンディング材、自己接着性コンポジットレジン、自己接着性セメント等の歯科用接着性材料に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ジアミン化合物(A)
本発明に用いられるジアミン化合物(A)は、上記式(1)で表されるものであり、ジアミンの2つの窒素原子に、スペーサーを介して水酸基又は重合性基が結合している構造を有する。
【0023】
ジアミン化合物(A)は、2つのアミノ窒素を有するため、その還元性により、組成物中の酸性化合物と塩を生成し酸性を抑える効果、およびラジカル重合を促進する効果を有する。また、ジアミン化合物(A)は、少なくとも1つの水酸基を有するため、高い親水性を有し、その結果、歯質の深部まで浸透することが可能となり、樹脂含浸層を強化することができる。また、ジアミン化合物(A)は、少なくとも1つの重合性基を有するため、ジアミン化合物(A)自身も重合により重合性単量体成分と共有結合し、硬化物からのジアミン化合物(A)の溶出が抑えられ、接着界面の耐水性が向上する。これらの結果、ジアミン化合物(A)を含む歯科用組成物は、歯質に対する接着耐久性に優れたものとなる。
【0024】
式(1)において、R1〜R5はそれぞれ独立して、2価の炭素数1〜20の有機基を示す。有機基は、脂肪族であっても芳香族であってもよく、また飽和又は不飽和であってよい。また、直鎖状でも分岐鎖状でも環状であってもよい。有機基は、炭化水素に限られず、炭化水素の主鎖にカルボニル炭素、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挿入されていてもよい。R1〜R5としては、ジアミン化合物(A)を製造するための原料が容易に得られることから、炭素数1〜10のアルキレン基(例、メチレン基、エチレン基、メチルメチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、デシレン基等)が好ましく、炭素数2〜3のアルキレン基がより好ましい。
【0025】
6〜R9はそれぞれ独立して、水酸基又は上記一般式(2)で表される重合性基を示し、R6〜R9の少なくとも1つは水酸基であり、かつ少なくとも1つは上記一般式(2)で表される重合性基である。
【0026】
上記一般式(2)において、R10〜R12はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示す。当該炭化水素基は、脂肪族であっても芳香族であってもよく、また飽和又は不飽和であってよく、例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキルアリールアルキル基、アルケニルアリール基等が挙げられる。
【0027】
アルキル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、シクロヘプタニル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロオクタニル基、n−ノニル基、シクロノナニル基、n−デシル基等が挙げられる。
【0028】
アルケニル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、例としては、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0029】
アルキニル基は、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、例としては、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、1−メチル−2−プロピニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−ペンチニル基、1−エチル−2−プロピニル基、2−ペンチニル基、3−ペンチニル基、1−メチル−2−ブチニル基、4−ペンチニル基、1−メチル−3−ブチニル基、2−メチル−3−ブチニル基、1−ヘキシニル基、2−ヘキシニル基、1−エチル−2−ブチニル基、3−ヘキシニル基、1−メチル−2−ペンチニル基、1−メチル−3−ペンチニル基、4−メチル−1−ペンチニル基、3−メチル−1−ペンチニル基、5−ヘキシニル基、1−エチル−3−ブチニル基等が挙げられる。
【0030】
アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
【0031】
アルキルアリール基の例としては、低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)で置換されたアリール基が挙げられ、具体的には、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ジブチルフェニル基、メチルナフチル基等が挙げられる。
【0032】
アリールアルキル基の例としては、アリール基で置換された低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)が挙げられ、具体的にはベンジル基等が挙げられる。
【0033】
アルキルアリールアルキル基の例としては、低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)で置換されたアリール基を置換基として有する低級アルキル基(特に、炭素数1〜6のアルキル基)が挙げられ、具体的には、メチルベンジル基等が挙げられる。
【0034】
アルケニルアリール基の例としては、低級アルケニル基(特に、炭素数1〜6のアルケニル基)で置換されたアリール基が挙げられ、具体的には、スチリル基、アリルフェニル基等が挙げられる。
【0035】
10及びR11は、結合しているビニル基の重合性の観点から、水素原子であることが好ましい。R12は、結合しているビニル基の重合性の観点から水素原子又はメチル基であることが好ましく、加水分解等によりジアミン化合物(A)の重合性部位が脱離した場合の生体に対する刺激性の観点から、メチル基がより好ましい。
【0036】
Aは、−COO−、−CONH−、−OCO−、−O−、−S−、−CH2O−、−CH2S−、−C64O−、−C64CONH−、−C64NHCO−、−C64COO−、−C64OCO−、及び−CONHCO−からなる群から選択される1種を示し、結合しているビニル基の重合性の観点から、−COO−又は−CONH−が好ましく、−COO−がより好ましい。
【0037】
一般式(2)で表される重合性基は、ラジカル重合性の観点からは、(メタ)アクリロイルオキシ基又は(メタ)アクリルアミド基であることが好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基であることがより好ましい。従って、R10〜R12及びAの組み合わせに関し、R10及びR11が水素原子であり、R12が水素原子又はメチル基であり、Aが−COO−又は−CONH−であることが好ましく、Aが−COO−であることがより好ましい。また、重合性基が加水分解等により脱離した場合の生体に対する刺激性の観点から、R12がメチル基であることがより好ましい。
【0038】
ジアミン化合物(A)は、公知方法に従い製造することができる。例えば、下記一般式(3)で表されるジアミン化合物と、下記一般式(4)で表される化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0039】
【化3】

【0040】
【化4】

【0041】
上記式においてR1〜R5及びR10〜R12は、前記と同義であり、Z1〜Z4はYと反応可能な官能基又は水酸基であり、YとZ1〜Z4が反応する場合には、前記Aが生成する。
【0042】
上記一般式(3)で表されるジアミン化合物は、公知方法に従い、製造することができる(例えば、ハロゲン化アルキルとアミンを反応させてアルキルアミンを得る方法を応用できる)。
【0043】
官能基Yと官能基Z1〜Z4が反応する場合に関し、官能基Y及び官能基Z1〜Z4は、これらの反応により−COO−、−CONH−、−OCO−、−O−、−S−、−CH2O−、−CH2S−、−C64O−、−C64CONH−、−C64NHCO−、−C64COO−、−C64OCO−、及び−CONHCO−からなる群から選択される1種の結合が生成するように選ばれる。これらの結合を生成させる官能基Y及び官能基Z1〜Z4ならびにその反応方法は、当業者に周知である。例えば、−COO−結合を形成させる場合には、Yとして、−COOH、−COOR’(R’は脂肪族炭化水素基を示す)、又は−COClを選択し、Z1〜Z4として−OHを選択し、公知方法に従いエステル化反応させればよい。また、例えば、−CONH−結合を形成させる場合には、Yとして−COOHを選択し、Z1〜Z4として−NH2を選択し、公知方法に従い脱水縮合反応させればよい。また、例えば、−O−結合を形成させる場合には、Y及びZ1〜Z4の一方を、ハロゲン原子とし、他方を−ONaとしてエーテル化反応(Williamson合成)を行えばよい。また、例えば、−S−結合を形成させる場合には、Y及びZ1〜Z4の一方をハロゲン原子とし、他方を−SHとしてアルカリ条件下でカップリング反応させればよい。
【0044】
本発明の歯科用組成物は、ジアミン化合物(A)自体が重合性を有するものであるが、好ましくは、ジアミン化合物(A)とは別に、重合性単量体成分を含んでなる。重合性単量体成分として好適には、酸性基を有する重合性単量体(B)が挙げられる。本発明の歯科用組成物は、組成物の諸特性を向上させるために、酸性基を有する重合性単量体(B)以外の重合性単量体(C)を含んでいてもよい。
【0045】
酸性基を有する重合性単量体(B)
酸性基を有する重合性単量体(B)としては、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を少なくとも1個有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合性基を少なくとも1個有する重合性単量体が挙げられる。酸性基を有する重合性単量体(B)は、被着体との親和性を有するとともに、歯質に対しては脱灰作用を有する。また、組成物が硬化した際に、酸性基がジアミン化合物(A)のアミノ部位と相互作用することによって、硬化物中の重合体同士が結びついたネットワーク構造をとることができ、接着耐久性向上に寄与すると考えられる。酸性基を有する重合性単量体(B)は、硬化性の観点から好ましくは、(メタ)アクリレート類又は(メタ)アクリルアミド類である。以下、酸性基を有する重合性単量体(B)の具体例を下記する。なお、本明細書において、(メタ)アクリルなる記載はメタクリルとアクリルとの総称である。
【0046】
リン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシ−(1−ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
【0047】
ピロリン酸基含有重合性単量体としては、ピロリン酸ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
【0048】
チオリン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンチオホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンチオホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンチオホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンチオホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
【0049】
ホスホン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−3−ホスホノアセテート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル−3−ホスホノアセテート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
【0050】
スルホン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレートが例示される。
【0051】
カルボン酸基含有重合性単量体としては、分子内に1つのカルボキシル基を有する重合性単量体と、分子内に複数のカルボキシル基を有する重合性単量体とが挙げられる。
【0052】
分子内に1つのカルボキシル基を有する重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−o−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート及びこれらの酸ハロゲン化物が例示される。
【0053】
分子内に複数のカルボキシル基を有する重合性単量体としては、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、9−(メタ)アクリロイルオキシノナン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、13−(メタ)アクリロイルオキシトリデカン−1,1−ジカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−(メタ)アクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート及びこれらの酸無水物又は酸ハロゲン化物が例示される。
【0054】
上記の酸性基を有する重合性単量体(B)は、一種類単独を用いてもよく、複数種類を併用してもよい。これらの酸性基を有する重合性単量体(B)の中でも、歯質との接着強さが大きい点で、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸が好ましい。
【0055】
酸性基を有する重合性単量体(B)の配合量に関し、ジアミン化合物(A)と酸性基を有する重合性単量体(B)のモル比が(A):(B)=1:3〜1:100であることが好ましく、(A):(B)=1:3〜1:60であることがより好ましい。ジアミン化合物(A)の配合量が少なすぎると、接着耐久性向上効果が十分に得られないおそれがあり、ジアミン化合物(A)の配合量が多すぎると、組成物の酸性が低くなるため、歯質脱灰作用が不十分となり、接着性が低下する恐れがある。
【0056】
また、本発明の歯科用組成物の重合性単量体成分中における、酸性基を有する重合性単量体(B)の配合量は、重合性単量体成分の全量100重量部中において、1〜90重量部が好ましく、2〜80重量部がより好ましい。酸性基を有する重合性単量体(B)の配合量が1重量部より少ないと、脱灰効果を十分に得られず接着強さが低下するおそれがある。一方、酸性基を有する重合性単量体(B)の配合量が90重量部より多いと、十分な硬化性が得られずに接着強さが低下するおそれがある。
【0057】
なお、本発明において、重合性単量体成分の全量とは、重合性単量体(B)及び重合性単量体(C)の合計量のことをいう。
【0058】
前記酸性基を有する重合性単量体(B)以外の重合性単量体(C)としては、1個の重合性官能基と1個以上の水酸基とを有する重合性単量体(c−1)及び架橋性の重合性単量体(c−2)が挙げられる。重合性単量体(c−1)及び重合性単量体(c−2)は併用することもできる。なお、以下の説明において、「一官能性」、「二官能性」及び「三官能性」という用語を使用するが、「一官能性」、「二官能性」及び「三官能性」とは、1分子中に重合性基を1個、2個及び3個有することをそれぞれ表わす。
【0059】
1個の重合性官能基と1個以上の水酸基とを有する重合性単量体(c−1)
重合性単量体(c−1)は、水酸基を1個以上有するため親水性が良好であり、かつ重合性基を1個有する一官能性重合体単量体であるため、本発明の歯科用組成物に配合した場合には、象牙質のコラーゲン層への浸透性により優れ、接着強さがより高くなる。重合性単量体(c−1)は、ラジカル重合が容易である観点から、(メタ)アクリレート類又は(メタ)アクリルアミド類であることが好ましい。
【0060】
重合性単量体(c−1)は、単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用することができる。重合性単量体(c−1)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド等が挙げられるが、これらの中でも、象牙質のコラーゲン層への浸透性の改善の観点からは、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレートが好ましく、特に好ましくは2−ヒドロキシエチルメタクリレートである。
【0061】
前記重合性単量体(c−1)の配合量は、実施態様に応じて適宜決定すればよく、概して、重合性単量体成分の全量100重量部中、1〜90重量部が好ましく、3〜80重量部がより好ましい。重合性単量体(c−1)の配合量が1重量部より少ないと、重合性単量体(c−1)による象牙質のコラーゲン層への浸透効果が十分に得られず接着強さが低下するおそれがある。一方、重合性単量体(c−1)の配合量が90重量部より多いと、十分な硬化性が得られずに接着強さが低下するおそれがある。
【0062】
架橋性の重合性単量体(c−2)
本発明の歯科用組成物に架橋性の重合性単量体(c−2)を配合した場合には、接着強さがさらに向上する等の利点を有する。
【0063】
架橋性の重合性単量体(c−2)は、単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用することができる。架橋性の重合性単量体(c−2)としては、特に限定されないが、芳香族化合物系の二官能性重合性単量体、脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体、三官能性以上の重合性単量体などが挙げられる。架橋性の重合性単量体(c−2)は、硬化性の観点から好ましくは、(メタ)アクリレート類又は(メタ)アクリルアミド類である。
【0064】
芳香族化合物系の二官能性重合性単量体の例としては、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン(通称「Bis−GMA」)、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテートなどが挙げられる。
【0065】
脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体の例としては、エリスリトールジ(メタ)アクリレート、ソルビトールジ(メタ)アクリレート、マンニトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン及び2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)等が挙げられる。
【0066】
三官能性以上の重合性単量体の例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、N,N−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、及び1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタン等が挙げられる。
【0067】
架橋性の重合性単量体(c−2)の配合量は、実施態様に応じて適宜決定すればよく、概して、重合性単量体成分の全量100重量部中、1〜90重量部が好ましく、2〜80重量部がより好ましい。重合性単量体(c−2)の配合量が1重量部より少ないと、重合性単量体(c−2)による接着強さ向上効果を十分に得られないおそれがある。一方、重合性単量体(c−2)の配合量が90重量部より多いと、組成物の象牙質のコラーゲン層への浸透が不十分となり、高い接着強さが得られなくなるおそれがある。
【0068】
本発明の歯科用組成物は、その実施態様に応じて、その他の成分として、溶媒(D)、重合開始剤(E)、重合促進剤(F)、フィラー(G)などを含んでいてもよい。
【0069】
溶媒(D)
本発明の歯科用組成物は、その具体的な実施態様によっては、溶媒(D)を含むことが好ましい。溶媒としては、水、有機溶媒、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0070】
本発明の歯科用組成物が水を含む場合には、優れた接着強さを示すとともに優れた接着耐久性を示す。水の含有量としては、重合性単量体成分の全量100重量部に対して1〜2000重量部が好ましい。水の含有量が1重量部未満の場合、歯面の脱灰が不十分となり、接着強さが低下するおそれがある。一方、水の含有量が2000重量部を超える場合、モノマーの重合性が低下し、接着強さが低下するとともに接着耐久性が低下するおそれがある。水の含有量は、5重量部以上であることがより好ましく、10重量部以上であることがさらに好ましい。また、水の含有量は、1500重量部以下であることがより好ましい。水は、悪影響を及ぼすような不純物を含有していないことが好ましく、蒸留水又はイオン交換水が好ましい。
【0071】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ヘキサン、トルエン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。これらの中でも、生体に対する安全性と、揮発性に基づく除去の容易さの双方を勘案した場合、有機溶媒が水溶性有機溶媒であることが好ましく、具体的には、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、アセトン、及びテトラヒドロフランが好ましく用いられる。前記有機溶媒の含有量は特に限定されず、実施態様によっては前記有機溶媒の配合を必要としないものもある。前記有機溶媒を用いる実施態様においては、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、有機溶媒を1〜2000重量部含有してなることが好ましい。溶媒(D)の好適な配合量は、用いられる実施態様によって大幅に異なるので、後述する本発明の歯科用組成物の具体的な実施態様の説明と併せて、各実施態様に応じた溶媒の好適な配合量を示すこととする。
【0072】
重合開始剤(E)
本発明の歯科用組成物は、硬化性の観点から、重合開始剤(E)を含むことが好ましい。本発明に用いられる重合開始剤(E)は、一般工業界で使用されている重合開始剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に用いられている重合開始剤が好ましく用いられる。特に、光重合及び化学重合の重合開始剤が、単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用される。
【0073】
光重合開始剤としては、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類、水溶性アシルホスフィンオキサイド類、チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩、ケタール類、α−ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物類、α−アミノケトン系化合物などが挙げられる。
【0074】
上記光重合開始剤として用いられる(ビス)アシルホスフィンオキサイド類及び水溶性アシルホスフィンオキサイド類としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドナトリウム塩等を好適に用いることができ、この他国際公開第2008/087977号パンフレットに記載の(ビス)アシルホスフィンオキサイド類及び水溶性アシルホスフィンオキサイド類を用いることができる。
【0075】
上記光重合開始剤として用いられるチオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩としては、2−クロルチオキサンセン−9−オン、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライド等を好適に用いることができ、この他国際公開第2008/087977号パンフレットに記載のチオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩を用いることができる。
【0076】
上記光重合開始剤として用いられるケタール類の例としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等が挙げられる。
【0077】
上記光重合開始剤として用いられるα−ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ジベンジル、カンファーキノン、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、4,4’−オキシベンジル、アセナフテンキノン等が挙げられる。この中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、カンファーキノンが特に好ましい。
【0078】
上記光重合開始剤として用いられるクマリン化合物としては、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノクマリン)、3,3’−カルボニルビス(7−ジブチルアミノクマリン)等を好適に用いることができ、この他国際公開第2008/087977号パンフレットに記載のクマリン化合物を用いることができる。
【0079】
上記光重合開始剤として用いられるアントラキノン類の例としては、アントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1−ブロモアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、1−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ヒドロキシアントラキノンなどが挙げられる。
【0080】
上記光重合開始剤として用いられるベンゾインアルキルエーテル類の例としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。
【0081】
上記光重合開始剤として用いられるα−アミノケトン類の例としては、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0082】
これらの光重合開始剤の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類及びその塩、α−ジケトン類、及びクマリン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す歯科用組成物が得られる。
【0083】
本発明に用いられる重合開始剤(E)のうち化学重合開始剤としては、有機過酸化物が好ましく用いられる。上記の化学重合開始剤に使用される有機過酸化物は特に限定されず、公知のものを使用することができる。代表的な有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0084】
上記化学重合開始剤として用いられるハイドロパーオキサイドとしては、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド及び1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0085】
上記化学重合開始剤として用いられるジアシルパーオキサイドとしては、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド及びラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0086】
上記化学重合開始剤として用いられるジアルキルパーオキサイドとしては、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン及び2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシン等が挙げられる。
【0087】
上記化学重合開始剤として用いられるケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネートとしては、国際公開第2008/087977号パンフレットに記載されたものが例示できる。
【0088】
これらの有機過酸化物の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルパーオキサイドが好ましく用いられ、その中でもベンゾイルパーオキサイドが特に好ましく用いられる。
【0089】
本発明に用いられる重合開始剤(E)の配合量は特に限定されないが、得られる組成物の硬化性等の観点からは、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、重合開始剤(E)を0.001〜30重量部含有してなることが好ましい。重合開始剤(E)の配合量が0.001重量部未満の場合、重合が十分に進行せず、接着力の低下を招くおそれがあり、より好適には0.05重量部以上である。一方、重合開始剤(E)の配合量が30重量部を超える場合、重合開始剤自体の重合性能が低い場合には、十分な接着強さが得られなくなるおそれがあり、さらには組成物からの析出を招くおそれがあるため、より好適には20重量部以下である。
【0090】
重合促進剤(F)
本発明においては、ジアミン化合物(A)が重合促進剤として機能するが、本発明の歯科用組成物の硬化性をより向上させるために、重合促進剤(F)をさらに配合してもよい。本発明に用いられる重合促進剤(F)としては、アミン類、スルフィン酸及びその塩、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ尿素化合物などが挙げられる。これらの具体例としては、国際公開第2008/087977号パンフレットに記載されたものが挙げられる。
【0091】
本発明に用いられる重合促進剤(F)の配合量は特に限定されないが、得られる組成物の硬化性等の観点からは、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、重合促進剤(F)を0.001〜20重量部含有してなることが好ましい。重合促進剤(F)の配合量が0.001重量部未満の場合、重合が十分に進行せず、接着力の低下を招くおそれがあり、より好適には0.05重量部以上である。一方、重合促進剤(F)の配合量が20重量部を超える場合、重合開始剤自体の重合性能が低い場合には、十分な接着強さが得られなくなるおそれがあり、さらには組成物からの析出を招くおそれがあるため、より好適には10重量部以下である。
【0092】
フィラー(G)
本発明の歯科用組成物に、実施態様によっては、さらにフィラー(G)を配合することが好ましい。このようなフィラーは、通常、有機フィラー、無機フィラー及び有機−無機複合フィラーに大別される。有機フィラーの素材としては、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上の混合物として用いることができる。有機フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる組成物のハンドリング性及び機械強度などの観点から、前記有機フィラーの平均粒子径は、0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。
【0093】
無機フィラーの素材としては、石英、シリカ、アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス等が挙げられる。これらもまた、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。無機フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる組成物のハンドリング性及び機械強度などの観点から、前記無機フィラーの平均粒子径は0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。
【0094】
無機フィラーの形状としては、不定形フィラー及び球状フィラーが挙げられる。組成物の機械強度を向上させる観点からは、前記無機フィラーとして球状フィラーを用いることが好ましい。さらに、前記球状フィラーを用いた場合、本発明の歯科用組成物を歯科用コンポジットレジンとして用いた場合に、表面滑沢性に優れたコンポジットレジンが得られるという利点もある。ここで球状フィラーとは、走査型電子顕微鏡(以下、SEMと略す)でフィラーの写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子が丸みをおびており、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で割った平均均斉度が0.6以上であるフィラーである。前記球状フィラーの平均粒子径は好ましくは0.1〜5μmである。平均粒子径が0.1μm未満の場合、組成物中の球状フィラーの充填率が低下し、機械的強度が低くなるおそれがある。一方、平均粒子径が5μmを超える場合、前記球状フィラーの表面積が低下し、高い機械的強度を有する硬化体が得られないおそれがある。
【0095】
前記無機フィラーは、組成物の流動性を調整するため、必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。かかる表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0096】
本発明で用いられる有機−無機複合フィラーとは、上述の無機フィラーにモノマー化合物を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものである。前記有機−無機複合フィラーとしては、例えば、TMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などを用いることができる。前記有機−無機複合フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる組成物のハンドリング性及び機械強度などの観点から、前記有機−無機複合フィラーの平均粒子径は、0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。
【0097】
本発明に用いられるフィラー(G)の配合量は特に限定されず、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、フィラー(G)を1〜2000重量部が好ましい。フィラー(G)の好適な配合量は、用いられる実施態様によって大幅に異なるので、後述する本発明の歯科用組成物の具体的な実施態様の説明と併せて、各実施態様に応じたフィラー(G)の好適な配合量を示すこととする。
【0098】
この他、本発明の歯科用組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲でpH調整剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、増粘剤、着色剤、抗菌剤、香料等を配合してもよい。
【0099】
本発明の歯科用組成物は、歯科用接着性材料として用いることができる。本発明の歯科用組成物を用いた歯科用接着性材料は、良好な歯質との接着性と、優れた接着耐久性を有する。歯科用接着性材料としては、プライマー、ボンディング材、接着性コンポジットレジン、及び接着性セメント等が挙げられる。
【0100】
歯科用プライマー
歯科用材料の接着システムは、歯質表面を酸性成分で溶かす脱灰工程、モノマー成分が象牙質のコラーゲン層に浸透する浸透工程、浸透したモノマー成分が固まってコラーゲンとのハイブリッド層(樹脂含浸層)を形成する硬化工程を含む。基本的には、浸透工程に用いられる製品がプライマーである。プライマーとしては、近年前記脱灰工程と前記浸透工程とを併せて一段階で行うセルフエッチングプライマーもある。
【0101】
本発明の歯科用組成物を用いたセルフエッチングプライマーの構成例を示すと、当該セルフエッチングプライマーには、重合性単量体成分の全量100重量部中において、重合性単量体(B)1〜80重量部、重合性単量体(c−1)0〜80重量部、及び重合性単量体(c−2)0〜80重量部が配合され、好ましくは、重合性単量体(B)2〜80重量部、重合性単量体(c−1)5〜80重量部、及び重合性単量体(c−2)1〜70重量部が配合される。また、ジアミン化合物(A)を、ジアミン化合物(A)と重合性単量体(B)のモル比が、1:3〜1:100となるように含み、1:3〜1:60モルとなるよう含むことが好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、溶媒(D)を6〜2000重量部含むことが好ましく、7〜1000重量部含むことがより好ましい。また、溶媒(D)としては水を含むことが好ましい。重合性単量体成分の全量100重量部に対し、重合開始剤(E)0.001〜20重量部及び重合促進剤(F)0.001〜20重量部を含むことが好ましく、重合開始剤(E)0.001〜10重量部及び重合促進剤(F)0.05〜10重量部を含むことがより好ましい。
【0102】
歯科用ボンディング材
上記の硬化工程に用いられる製品がボンディング材である。近年では、浸透工程、脱灰工程、及び硬化工程を併せて一段階で行う1ステップ型のボンディング材も開発されている。また、ボンディング材は、2剤を使用直前に混和して用いる2液型と、1剤をそのまま使用可能な1液型とに分かれるが、現在は1液型が主流である。
【0103】
本発明の歯科用組成物を用いた2ステップ型の1液型ボンディング材の構成例を示すと、当該ボンディング材には、重合性単量体成分の全量100重量部中において、重合性単量体(B)0〜80重量部、重合性単量体(c−1)0〜80重量部、及び重合性単量体(c−2)1〜80重量部が配合され、好ましくは、重合性単量体(B)2〜60重量部、重合性単量体(c−1)2〜60重量部、及び重合性単量体(c−2)5〜80重量部が配合される。また、ジアミン化合物(A)を、重合性単量体成分の全量100重量部に対して0.05〜10重量部含むことが好ましく、0.1〜5重量部含むことがより好ましい。また、重合性単量体(B)を含む場合には、ジアミン化合物(A)と重合性単量体(B)のモル比が、1:3〜1:100となるように含み、1:3〜1:60モルとなるよう含むことが好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、重合開始剤(E)0.001〜20重量部及び重合促進剤(F)0.001〜20重量部を含むことが好ましく、重合開始剤(E)0.001〜15重量部含及び重合促進剤(F)0.05〜10重量部を含むことがより好ましい。重合性単量体成分の全量100重量部に対し、フィラー(G)を0〜30重量部含むことが好ましく、1〜20重量部含むことがより好ましい。
【0104】
本発明の歯科用組成物を用いた1ステップ型の1液型ボンディング材の構成例を示すと、当該ボンディング材には、重合性単量体成分の全量100重量部中において、重合性単量体(B)1〜80重量部、重合性単量体(c−1)0〜80重量部、及び重合性単量体(c−2)1〜80重量部が配合され、好ましくは、重合性単量体(B)2〜60重量部、重合性単量体(c−1)2〜70重量部、及び重合性単量体(c−2)3〜70重量部が配合される。また、ジアミン化合物(A)を、ジアミン化合物(A)と重合性単量体(B)のモル比が、1:3〜1:100となるように含み、1:3〜1:60モルとなるよう含むことが好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、溶媒(D)を1〜1000重量部含むことが好ましく、5〜500重量部含むことがより好ましい。また、溶媒(D)としては水を含むことが好ましい。重合性単量体成分の全量100重量部に対し、重合開始剤(E)0.001〜30重量部及び重合促進剤(F)0.001〜20重量部を含むことが好ましく、重合開始剤(E)0.05〜20重量部含及び重合促進剤(F)0.05〜10重量部を含むことがより好ましい。重合性単量体成分の全量100重量部に対し、フィラー(G)を0〜30重量部含むことが好ましく、1〜20重量部含むことがより好ましい。
【0105】
自己接着性コンポジットレジン
コンポジットレジンは、通常、う蝕発生部位を切削し窩洞を形成した後に、前記窩洞に充填される形態で用いられる歯科用材料である。自己接着性コンポジットレジンは、上記の浸透作用、脱灰作用、及び硬化作用を有するコンポジットレジンであり、ボンディング材等を用いなくても充填修復が可能な材料である。
【0106】
本発明の歯科用組成物を用いた自己接着性コンポジットレジンの構成例を示すと、当該自己接着性コンポジットレジンには、重合性単量体成分の全量100重量部中において、重合性単量体(B)1〜80重量部、重合性単量体(c−1)0〜80重量部、及び重合性単量体(c−2)1〜99重量部が配合され、好ましくは、重合性単量体(B)2〜60重量部、重合性単量体(c−1)3〜70重量部、及び重合性単量体(c−2)5〜95重量部が配合される。また、ジアミン化合物(A)を、ジアミン化合物(A)と重合性単量体(B)のモル比が、1:3〜1:100となるように含み、1:3〜1:60モルとなるよう含むことが好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、溶媒(D)を0〜20重量部含むことが好ましく、0〜10重量部含むことがより好ましい。重合性単量体成分の全量100重量部に対し、重合開始剤(E)0.001〜10重量部及び重合促進剤(F)0.001〜20重量部重量部を含むことが好ましく、重合開始剤(E)0.05〜5重量部及び重合促進剤(F)0.05〜10重量部を含むことがより好ましい。重合性単量体成分の全量100重量部に対し、フィラー(G)を50〜2000重量部含むことが好ましく、100〜1500重量部含むことがより好ましい。
【0107】
自己接着性セメント
セメントは、通常、インレーやクラウンと呼ばれる金属やセラミックス製の歯冠用修復材料を歯牙に固定する際の合着材として用いられる歯科用材料である。自己接着性セメントは、上記の浸透作用、脱灰作用、及び硬化作用を有するセメントであり、セルフエッチングプライマー等を用いることなく合着を行える材料である。
【0108】
本発明の歯科用組成物を用いた自己接着性セメントの構成例を示すと、当該自己接着性セメントには、重合性単量体成分の全量100重量部中において、重合性単量体(B)1〜80重量部、重合性単量体(c−1)0〜80重量部、及び重合性単量体(c−2)1〜99重量部が配合され、好ましくは、重合性単量体(B)2〜60重量部、重合性単量体(c−1)3〜70重量部、及び重合性単量体(c−2)1〜95重量部が配合される。また、ジアミン化合物(A)を、ジアミン化合物(A)と重合性単量体(B)のモル比が、1:3〜1:100となるように含み、1:3〜1:60モルとなるよう含むことが好ましい。また、重合性単量体成分の全量100重量部に対し、溶媒(D)を0〜20重量部含むことが好ましく、0〜10重量部含むことがより好ましい。重合性単量体成分の全量100重量部に対し、重合開始剤(E)0.001〜20重量部及び重合促進剤(F)0.001〜20重量部を含むことが好ましく、重合開始剤(E)0.05〜15重量部及び重合促進剤(F)0.05〜10重量部を含むことがより好ましい。重合性単量体成分の全量100重量部に対し、フィラー(G)を50〜2000重量部含むことが好ましく、100〜1500重量部含むことがより好ましい。
【0109】
上記セメントにおいては、重合開始剤(E)として化学重合開始剤を用いることが好ましく、重合促進剤(F)として、アミン類及び/又はスルフィン酸及びその塩を用いることが好ましい。セメントにおいては、保存安定性の観点から、重合性単量体(B)及び重合開始剤(E)と、重合促進剤(F)とを、それぞれ別々の容器に保存する2剤型とすることが好ましい。
【0110】
また、本発明の歯科用組成物は、グラスアイオノマーセメントとして用いることが好ましく、より好ましくはレジン強化型グラスアイオノマーセメントとして用いられる。グラスアイオノマーセメントは、典型的にはフルオロアルミノシリケートガラスのような無機フィラーと、ポリアクリル酸のようなポリアルケン酸とが酸−塩基反応によって反応、硬化するものである。そして、前記ポリアクリル酸と歯質を構成するハイドロキシアパタイト中のカルシウムとが相互作用することにより、接着機能が発現すると考えられている。本発明の歯科用組成物をグラスアイオノマーセメント、特に好ましくはレジン強化型グラスアイオノマーセメントとして用いる場合は、前記組成物が(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)及びポリアルケン酸を含む組成物であることが好ましい。
【0111】
用いられる1個の重合性基と1個以上の水酸基とを有する重合性単量体(c−1)としては特に限定されない。後述するように、酸−塩基反応を円滑に進行させることができる観点から、溶媒(D)が水を含んでいることが好ましい。このため、前記(c−1)として水との親和性が高い単量体を用いることが、組成物の均一性を保ち、安定した性能を得る観点からより好ましい。このような水との親和性が高い単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレートが好ましく、特に好ましくは2−ヒドロキシエチルメタクリレートである。
【0112】
用いられる架橋性の重合性単量体(c−2)としては特に限定されないが、上述の通り、前記(c−2)として水との親和性が高い単量体を用いることが、組成物の均一性を保ち、安定した性能を得る観点からより好ましい。このような水との親和性と、硬化物の機械強度の兼ね合いから、前記(c−2)としては、脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体が好ましく、エリスリトールジ(メタ)アクリレート、ソルビトールジ(メタ)アクリレート、マンニトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン及び2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)がより好ましい。
【0113】
前記ポリアルケン酸とは、不飽和モノカルボン酸あるいは不飽和ジカルボン酸の重合体である。前記ポリアルケン酸の具体的な例示としては、アクリル酸、メタクリル酸、2−クロロアクリル酸、2−シアノアクリル酸、アコニチン酸、メサコン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、グルタコン酸、シトラコン酸、ウトラコン酸等の単独重合体、あるいはこれらの不飽和カルボン酸と共重合可能な単量体との共重合体を挙げることができる。共重合体の場合には、不飽和カルボン酸単位の割合は、全構造単位に対して50モル%以上であることが好ましい。共重合可能な単量体としてはエチレン性不飽和重合性単量体が好ましく、例えばスチレン、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、アクリル酸塩類、塩化ビニル、塩化アリル、酢酸ビニル、1,1,6−トリメチルヘキサメチレンジメタクリレートエステルなどを挙げることができる。これらポリアルケン酸の中でも、アクリル酸又はマレイン酸の単独重合体又は共重合体が好ましい。これらのポリアルケン酸は、重量平均分子量が5,000未満の場合には、歯科用セメント組成物の硬化物の強度が低くなり、耐久性が劣る場合がある。一方、重量平均分子量が40,000を超える場合には、歯科用セメント組成物の練和時の稠度が硬くなり、操作性が低下する場合がある。したがって、好ましいポリアルケン酸の重量平均分子量は、5,000〜40,000である。
【0114】
用いられるフィラー(G)としては、酸−塩基反応における硬化性及び組成物のフッ素徐放性の観点から、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス及びストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラスからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、フルオロアルミノシリケートガラス及び/又はバリウムフルオロアルミノシリケートガラスを用いることがより好ましい。
【0115】
また、用いられる溶媒(D)は特に限定されないが、酸−塩基反応を円滑に進行させることができる観点から、水を含んでいることが好ましい。溶媒(D)として水と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合は、前記混合溶媒中の水の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。酸−塩基反応の進行を特に重視する実施態様では、溶媒(D)が実質的に水のみからなることが特に好ましい。
【0116】
本発明の歯科用組成物をグラスアイオノマーセメント、特に好ましくはレジン強化型グラスアイオノマーセメントとして用いる場合の各成分の配合量としては特に限定されない。組成物が(c−1)を含む場合は、重合性単量体成分の全量100重量部中において、(B)を1〜50重量部及び(c−1)を1〜99重量部含むことが好ましく、(B)を1〜30重量部及び(c−1)を5〜98重量部含むことがより好ましい。組成物が(c−2)を含む場合は、重合性単量体成分の全量100重量部中において、(B)を1〜50重量部及び(c−2)を1〜99重量部含むことが好ましく、(B)を1〜30重量部及び(c−2)を5〜98重量部含むことがより好ましい。そして、組成物が(c−1)及び(c−2)を含む場合は、重合性単量体成分の全量100重量部中において、(B)を1〜50重量部、(c−1)を1〜98重量部及び(c−2)1〜98重量部含むことが好ましく、(B)を1〜30重量部、(c−1)を5〜93重量部及び(c−2)を5〜93重量部含むことがより好ましい。また、ジアミン化合物(A)を、ジアミン化合物(A)と重合性単量体(B)のモル比が、1:3〜1:100となるように含み、1:3〜1:60モルとなるよう含むことが好ましい。
【0117】
また、前記(E)及び前記(F)の配合量としては、適切な硬化時間が得られることを考慮した場合、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、(E)を0.001〜20重量部、(F)を0.001〜20重量部含むことが好ましく、(E)を0.05〜15重量部、(F)を0.05〜10重量部含むことがより好ましい。さらに、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、(G)を30〜2000重量部含むことが好ましく、50〜1500重量部含むことがより好ましい。(G)の含有量が30重量部未満の場合は、硬化物の機械強度が不充分となるおそれがある。一方、(G)の含有量が2000重量部を超える場合は、組成物ペーストの流動性が低下して充分な混和を行うことが困難となるため、酸−塩基反応が円滑に進行しなくなる場合がある。その結果、硬化物の強度が低下するおそれがある。
【0118】
また、重合性単量体成分の全量100重量部に対して、溶媒(D)を7〜500重量部含むことが好ましく、10〜300重量部含むことがより好ましく、20〜100重量部含むことがさらに好ましい。溶媒(D)をかかる範囲で含有することで、酸−塩基反応を円滑に進行させることができ、かつ、得られる硬化物の機械強度及び歯質への接着性が良好なものとなる。
【0119】
重合性単量体成分の全量100重量部に対して、前記ポリアルケン酸を1〜200重量部含むことが好ましく、5〜100重量部含むことがより好ましく、10〜50重量部含むことがさらに好ましい。ポリアルケン酸をかかる範囲で含有することで、酸−塩基反応による硬化が円滑に進行し、かつ、得られる硬化物の口腔内での加水分解などによる崩壊を小さくすることができる。
【0120】
上述の通り、グラスアイオノマーセメントでは酸−塩基反応の進行により硬化が起こるため、保存安定性の観点からは、塩基性のフィラー(G)とポリアルケン酸とが別々の容器に包装され、使用直前に混和されて用いられることが好ましい。製品の形態としては、いわゆる粉−液型の製品形態も好ましく用いられるが、ハンドリング性を向上させる観点から、2種類のペーストを含むいわゆる2ペースト型グラスアイオノマーセメントの形態をとることがより好ましい。2ペースト型の製品形態の場合は、上述の2つのペーストをそれぞれAペースト及びBペーストと称した場合、前記Aペーストが(B)、(D)、(E)、(G)及びポリアルケン酸を含み、前記Bペーストが、(A)、(C)及び(G)を含む実施態様が好ましい。この他、前記Aペーストが、(B)、(C)、(E)、(G)及びポリアルケン酸を含み、前記Bペーストが(A)、(C)、(D)、(F)及び(G)を含む実施態様も好ましく用いられる。いずれの実施態様においても、前記Aペースト側にポリアルケン酸を含有するため、前記Bペーストに含まれるフィラー(G)として、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス及びストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラスからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、フルオロアルミノシリケートガラス及び/又はバリウムフルオロアルミノシリケートガラスを用いることがより好ましい。一方、前記Aペーストに含まれるフィラー(G)としては、ポリアルケン酸に対して反応性を示さないものを用いることが好ましく、石英が特に好ましく用いられる。
【実施例】
【0121】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0122】
実施例1 ジアミン化合物(A)を含む歯科用組成物の1ステップ接着システムへの適用(1液型ボンディング材)
(1)1液型ボンディング材の作製
ジアミン化合物(A)を含む歯科用組成物を用いた1液型ボンディング材を、表1に記載の各成分を混合することにより作製した。その組成を表1に示す。
【0123】
【表1】

【0124】
なお、表中の略号は、以下の通りである。
HAMM:N,N,N’−トリス(β−ヒドロキシエチル)−N’−(β−メタクリロイロキシエチル)エチレンジアミン
HADM:N,N−ビス(β−ヒドロキシエチル)−N’,N’−ビス(β−メタクリロイロキシエチル)エチレンジアミンとN,N’−ビス(β−ヒドロキシエチル)−N,N’−ビス(β−メタクリロイロキシエチル)エチレンジアミンの混合物
DMAEMA:2−ジメチルアミノエチルメタクリレート
HA:N,N,N’,N’,−テトラキス(β−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン
TTA:トリエタノールアミン
MDP:10−メタクリロイロキシデシルジハイドロジェンホスフェート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
Bis−GMA:2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン
GDMA:グリセロールジメタクリレート
TMDPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
BAPO:ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド
CQ:カンファーキノン
DBB:4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチルエステル
PDE:4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル
無機フィラー1:日本アエロジル社製「R972」
【0125】
なお、HAMM、HADMは、以下の方法により合成した。
【0126】
参考例1 HAMMの合成
HA5.05g(21.4mmol)、テトラヒドロフラン107mlを300ml丸底フラスコにとって窒素置換した後、0℃に冷却した。0℃に保ちながらメタクリル酸クロリド6.71g(64.2mmol)を25分かけて滴下した後、0℃にて5時間撹拌を続けた。得られたスラリー状の反応液を室温に戻して減圧濾過し、濾別された白色固体をアセトンで洗浄した。得られた白色固体を水酸化ナトリウム水溶液に溶解し、クロロホルムで抽出した。クロロホルム溶液を濃縮後、シリカゲルカラムで精製し、濃縮してHAMM0.75g(2.45mmol、収率11.5%)を得た。
【0127】
参考例2 HADMの合成
HA3.13g(13.2mmol)、テトラヒドロフラン44ml、ジメチルアミノピリジン10.0mg、トリエチルアミン5.35gを200ml丸底フラスコにとって窒素置換した後、0℃に冷却した。0℃に保ちながらメタクリル酸クロリド2.77g(26.5mmol)を12分かけて滴下した後、0℃にて2時間撹拌を続けた。得られた反応液に水酸化ナトリウム水溶液を加え、室温に戻した後、クロロホルムで抽出した。クロロホルム溶液を濃縮後、シリカゲルカラムで精製し、濃縮してHADM0.93g(2.49mmol、収率18.8%)を得た。
【0128】
(2)牛歯象牙質との接着評価方法
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にて#80シリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)で研磨して、象牙質の平坦面を露出させたサンプルを得た。得られたサンプルを流水下にて#1000のシリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)でさらに研磨した。研磨終了後、表面の水をエアブローすることで乾燥した。乾燥後の平滑面に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着し、接着面積を規定した。
【0129】
上記作製した1液型ボンディング材を上記の丸穴内に筆を用いて塗布し、10秒間放置した後、表面をエアブローすることで、塗布した1液型ボンディング材の流動性が無くなるまで乾燥した。続いて、歯科用可視光線照射器「JETライト3000」(J.Morita USA社製)にて10秒間光照射することにより、塗布した1液型ボンディング材を硬化させた。
【0130】
得られた1液型ボンディング材の硬化物の表面に歯科充填用コンポジットレジン(クラレメディカル社製、商品名「クリアフィルAP−X」(登録商標))を充填し、離型フィルム(ポリエステル)で被覆した。次いで、その離型フィルムの上にスライドガラスを載置して押しつけることで、前記コンポジットレジンの塗布面を平滑にした。続いて、前記離型フィルムを介して、前記コンポジットレジンに対して前記照射器「JETライト3000」を用いて20秒間光照射を行い、前記コンポジットレジンを硬化させた。
【0131】
得られた歯科充填用コンポジットレジンの硬化物の表面に対して、市販の歯科用レジンセメント(クラレメディカル社製、商品名「パナビア21」)を用いてステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)を接着した。接着後、当該サンプルを30分間室温で静置した後、蒸留水に浸漬した。接着試験供試サンプルは計10個作製し、37℃に保持した恒温器内に24時間静置した。10個のサンプルのうち5個については、接着初期の接着力を評価するため、24時間静置後ただちに接着強さを測定した。残りの5個については、接着耐久性を評価するため、さらに4℃の冷水と60℃の温水に交互に1分間浸漬する工程を1サイクルとする熱サイクルを4000サイクル行った後に接着強さを測定した。
【0132】
(3)接着評価試験(接着強さの評価)
上記の接着試験供試サンプルの引張接着強さを、万能試験機(島津製作所社製)にてクロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定し、平均値を引張接着強さとした。
【0133】
以上の評価結果を表1に示す。表1より、実施例の歯科用組成物は、歯質との良好な初期接着性を有していることがわかる。さらに、熱サイクル後の接着強さが高くなっており、接着耐久性に優れていることがわかる。一方、比較例の歯科用組成物は、歯質との良好な初期接着性を示したが、熱サイクル後の接着強さの値が低く、接着耐久性に劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明の歯科用組成物は、プライマー、ボンディング材、自己接着性コンポジットレジン、及び自己接着性セメント等の歯科用接着性材料として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるジアミン化合物(A)を含む歯科用組成物。
【化1】

〔式中、R1〜R5はそれぞれ独立して、炭素数1〜20の有機基を示し、R6〜R9はそれぞれ独立して、水酸基又は下記一般式(2)で表される重合性基を示し、R6〜R9の少なくとも1つは水酸基であり、かつ少なくとも1つは下記一般式(2)で表される重合性基である。〕
【化2】

(式中、R10〜R12はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Aは、−COO−、−CONH−、−OCO−、−O−、−S−、−CH2O−、−CH2S−、−C64O−、−C64CONH−、−C64NHCO−、−C64COO−、−C64OCO−、及び−CONHCO−からなる群から選択される1種を示す。)
【請求項2】
1〜R5がそれぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキレン基である請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
1〜R5がそれぞれ独立して、炭素数2〜3のアルキレン基である請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
10及びR11が水素原子であり、R12が水素原子又はメチル基であり、Aが−COO−又は−CONH−である請求項1〜3のいずれかに記載の歯科用組成物。
【請求項5】
酸性基を有する重合性単量体(B)をさらに含む請求項1〜4のいずれかに記載の歯科用組成物。
【請求項6】
前記ジアミン化合物(A)と前記酸性基を有する重合性単量体(B)のモル比が(A):(B)=1:3〜1:100である請求項5に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
前記酸性基を有する重合性単量体(B)以外の重合性単量体(C)をさらに含む請求項1〜6のいずれかに記載の歯科用組成物。
【請求項8】
前記重合性単量体(C)が、1個の重合性官能基と1個以上の水酸基とを有する重合性単量体(c−1)、及び/又は架橋性の重合性単量体(c−2)である請求項7に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の歯科用組成物を用いた歯科用接着性材料。