説明

歯科用組成物吐出用ノズル部材及び収納容器キット

【課題】歯牙の微小欠損部に、容易且つ円滑に、余分な手間をかけずに歯科用組成物を充填することができる歯科用器具乃至はキットを提供すること。
【解決手段】ノズルの吐出口内径が0.5mm以下である歯科用組成物吐出用ノズル部材およびそれと歯科用組成物収納容器よりなる歯科用組成物収納容器キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科治療分野において特に歯牙の微小欠損部に充填し、重合硬化させる歯科用重合性充填材等の歯科用粘性材料を容易に吐出できるので歯牙の微小欠損部に充填する等に適用することができる歯科用組成物吐出用ノズル部材及びそれを備えた歯科用組成物収納容器キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、歯牙の欠損部を修復するのに歯科用感光性充填材等の歯科用粘性材料を注射器状の歯科用組成物収納容器に収納し、その先端に装着した歯科用組成物吐出用ノズル部材の先端に設けた細いノズルの先端から押し出して歯牙の欠損部に充填した後に活性光線を照射することによって歯科用感光性充填材を重合硬化させる治療方法が広く実施されている。
今日では、歯牙の最小侵襲(MI)が重視されてきている。即ち、歯牙を可能な限り切削せずに、本来の歯質を可能な限り保存し、軽々に補綴物にて代替しないという傾向が強まってきている。従って、歯面のう蝕の切削も最小限にする治療が奨められ、それにより、形成される歯牙の欠損箇所は極めて微小なものであり、所謂微小欠損部となる。このような治療方法において、1回の治療で使用する歯科用感光性充填材は微量であるが、歯科用組成物吐出用ノズル部材はその先端のノズルを患者の口腔内に挿入して使用されている。
ところが、歯科用組成物にて充填された微小欠損部と周囲の歯面との平面が整合されず、そのまま放置すれば歯面衛生や審美性の低下を招く原因となるので、充填後、硬化充填物の一部を研磨除去して平面整合性を調整する必要性がしばしば生じている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、前記した従来の歯牙の微小欠損部の治療における問題点を解消し、容易且つ円滑に歯科治療が行え、余分な手間をかけずに歯科用組成物を充填することができる歯科用器具乃至はキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。
例えば、微小であるというサイズ効果による表面張力と親和性のバランスの変化が原因ではないかと考え、歯面と歯科用組成物との馴染み易さを改善するための前処理剤の開発とその使用などを、様々試行した結果、意外なことに、歯科用組成物吐出用ノズル部材のノズル径を最適化することで解決出来ることが判明し本発明に到達した。
しかしながら、当該ノズル径を小さくすると、従来の歯科用組成物では、高粘度なため、ノズルの断面・内壁面の形状や素材を色々工夫しても、円滑に吐出させることがしばしば困難になるという問題が立ち塞がった。
一方、歯科用組成物を低粘度化すると、歯科用組成物が、欠損部から液垂れしてしまい、所定箇所に歯科用組成物を十分注入出来ないだけでなく、不要なところに歯科用組成物が付着してしまい、余計な除去作業を要するようになるだけでなく、場合によっては、歯肉にまで及び、軟組織に不必要な刺激を与えたり、不快感を引き起こすなどの問題を引き起こすことも知られていた。
【0005】
即ち、当該微小欠損部に歯科用組成物を適用するのに最適なノズル径、細いノズル径でも円滑に吐出可能な歯科用組成物の粘度、当該微小欠損部にて液垂れを起こす歯科用組成物の臨界粘度等を総合的に検証・実証を繰り返し、その結果、下記構成により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の[1]〜[5]を対象とする。
[1]ノズルの吐出口内径が0.5mm以下であることを特徴とする歯科用組成物吐出用ノズル部材。
[2]ガラス板垂れ評価値が2以上である歯科用組成物に用いる前記[1]に記載の歯科用組成物吐出用ノズル部材。
[3]ノズルが屈曲している前記[1]に記載の歯科用組成物吐出用ノズル部材。
[4]前記[1]に記載の歯科用組成物吐出用ノズル部材と歯科用組成物収納容器よりなることを特徴とする歯科用組成物収納容器キット。
[5]ガラス板垂れ評価値が2以上である歯科用組成物が歯科用組成物吐出容器に充填されている前記[4]に記載の歯科用組成物吐出容器キット。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、歯牙の微小欠損部の治療において、歯科用組成物にて充填された微小欠損部と周囲の歯面との平面とを極めて容易に整合できる、歯牙の治療を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る歯科用組成物吐出用ノズル部材の一実施例の拡大断面説明図である。
【図2】図1に示した本発明に係る歯科用組成物吐出用ノズル部材が歯科用組成物収納容器の先端に装着されている状態を示す断面説明図である。
【図3】牛歯エナメル質部に形成された、直径0.8〜0.85mmの窩洞(3個)のデジタルマイクロスコープによる測定画像。
【図4】牛歯エナメル質部に形成した、直径0.9〜0.95mmの窩洞(3個)のデジタルマイクロスコープによる測定画像。
【図5】図3の窩洞に充填した歯科用組成物の窩洞外に溢れた余剰量のデジタルマイクロスコープによる測定画像(横方向、直径)。
【図6】図4の窩洞に充填した歯科用組成物の窩洞外に溢れた余剰量のデジタルマイクロスコープによる測定画像(横方向、直径)。
【図7】図5と同じ余剰量のデジタルマイクロスコープによる測定画像(縦方向、高さ)。
【図8】図6と同じ余剰量のデジタルマイクロスコープによる測定画像(縦方向、高さ)。
【発明を実施するための形態】
【0008】
特に限定されるものではないが、図面に例示された本発明の歯科用組成物吐出用ノズル部材の一例を用いて、以下、本発明の内容を詳細に説明する。
図1は、本発明の歯科用組成物吐出用ノズル部材の一例であり、図2は前記ノズル部材を取り付けた歯科用組成物収納容器である。
まず、図1に基づいて説明する。
【0009】
本発明のノズル部材は、歯科用組成物を吐出するノズルの吐出口1を先端に持つパイプ状物2を有する。ノズルの吐出口の内径Aは0.5mm以下である必要があり、好ましくは0.4mm以下、より好ましくは0.37mm以下、さらに好ましくは0.3mm以下である。前記数値範囲を越えると、微小欠損部への適合性が悪くなり、歯科用組成物が欠損部からはみ出したりするので、術後の歯面衛生や審美性が低下する恐れがある。また、前記内径は、好ましくは0.15mm以上、より好ましくは0.2mm以上、さらに好ましくは0.25mm以上である。前記数値範囲を下回ると歯科用組成物の吐出が困難となり、また、容易に吐出させるために歯科用組成物の粘度を低下させると、歯面にて液垂れするなど好ましくない状態となる恐れがある。パイプ状物2のノズルの吐出口1の肉厚Bは好ましくは0.04〜0.18mm、より好ましくは0.07〜0.13mm、さらに好ましくは0.09〜0.115mmである。前記数値範囲の下限値を下回ると強度低下や当該部材作成が困難となり好ましくなく、一方、上限値を上回ると微小欠損部への適合性が悪くなったり、十分な大きさの内径の確保が困難になる恐れがあるなど、いずれも好ましくない。
パイプ状物2のノズルの吐出口1の外径は好ましくは0.3〜1.1mm、より好ましくは0.4〜0.8mm、さらに好ましくは0.5〜0.7mmである。前記数値範囲の下限値を下回ると歯科用組成物の吐出が困難となり、一方、上限値を上回ると微小欠損部への適合性が悪くなり、いずれも好ましくない。
【0010】
図1の例では、パイプ状物2はノズル基部6と接合され、パイプ状物接合部5を通じてパイプ状物内腔開口部7にて開口して、ノズル基部内腔8に導通している構造が図示されている。図1では、パイプ状物接合部5の構造物の内腔側端面が内腔内面と水準を一致させて整合しているが、歯科用組成物の吐出に何ら差し支えない限り、当該端面が内面に対して突き出ていても、あるいは少し引っ込んだ状態になっていても良い。ノズル基部から出てノズルの吐出口1に至るまでの長さC+Fは、好ましくは8〜35mm、より好ましくは12〜25mm、さらに好ましくは14〜20mmである。前記数値範囲の下限値を下回ると患部に届き難くなり、一方、上限値を上回ると長すぎて操作し難くなり、いずれも好ましくない。また、図1の例では、パイプ状物2は途中の屈曲部3にて屈曲して2aおよび2bを形成している。これにより口腔の奥部の臼歯部等へ到達し易くなるので好ましい。かかる効果が好適に達成される為には、曲げ角度Dは好ましくは30〜80度、より好ましくは37〜70度、さらに好ましくは40〜65度である。さらに、屈曲部3は直線的に曲げずに適度のアールEを付けておくことが好ましい。
【0011】
なお、パイプ状物2がノズル基部6から出ている部分は接着剤4にて止められている。これにより、パイプ状物接合部5とノズル基部6との接合が万一不十分であっても、歯科用組成物が液漏れするのを防止することができる。
また、内腔開口部外縁には、歯科用組成物収納容器と係留するための外部突起9を有することが好ましい。外部突起9は帽子のつばのように、環状に連続した形状であっても良いし、あるいは環状に一つ以上、部分的に欠落していて、疎らになった花びらのようになっていても良い。
【0012】
次に本発明のノズル部材10が、歯科用組成物収納容器20に組み込まれた様子の例を図2にて説明する。
歯科用組成物収納容器20には、内部突起11を設けて、ノズル部材10の外部突起9を係留することができる。図2では、内部突起11が外部突起9に適合するように、環状に欠落部分を有していることより、自在に脱着できる例を図示しているがこれに限定されるものではない。例えば、螺旋式を用いてもよい。
この例では、円筒形のシリンジ体12の内腔に歯科用組成物が収納されていて、先端に押し棒先端部13を有する押し棒14が当該シリンジ体12の内面を自在に摺動して、歯科用組成物がノズル部材側へ押し出される構成となっている。なお、押し棒の摺動は、シリンジ側取っ手15と押し棒側取っ手16に指をかけて軽く握力を掛けることにより容易に行える。押し棒先端部13はシリコーン樹脂などの弾性があり変質しにくい素材よりなることが好ましい。また、押し棒先端部13の形状は当接するノズル部材ないしはそこの接しているシリンジ体内面部分の形状とぴったり密着可能に形成されていると、歯科用組成物の残液が最小となり効率的であるが、特にこれに限定されるものではない。
歯科用組成物は予め無酸素状態および/または無菌的状態にて、収納容器内に充填されていることが好ましい。そして、使用前はノズル部材のパイプ状物先端のノズルの吐出口を封止しておくか、収納容器にノズル部材の代わりに封止プラグを取り付けておけばよい。
【0013】
本発明において好適な歯科用組成物としては、ガラス板垂れ評価値が好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2以上である。前記数値範囲を下回ると、ノズル部材から歯科用組成物が円滑に吐出され難い。ガラス板垂れ評価値とは、次のような評価方法による評価値である。室温(好ましくは23±2℃)にて評価対象組成物0.05mlを水平なガラス板上に直径5mmの円形になだらかに拡げた後、直ちに垂直に立て、2分後に前記円内から、垂れ落ちる長さを測定の評価値とするものである。なお、ガラス板垂れ評価値は好ましくは6mm以下、より好ましくは4mm以下、さらに好ましくは3mm以下である。前記数値範囲を上回ると、組成物の吐出が多すぎて、吐出の調整が困難となり、また、微小欠損部に十分留まれず、欠損部から液垂れしたりする恐れがある。
本発明において、好適な歯科用組成物としては、より具体的には、
〔A〕(a)ビス(メタ)アクロイルオキシアルコキシベンゼン10ないし70重量%および(b)その他の不飽和単量体30ないし90重量%からなるラジカル重合性単量体混合物、〔B〕重合開始剤、および〔C〕X線造影性無機充填剤としてのバリウムガラス、からなる硬化性組成物が挙げられる。
【0014】
本発明で好適に用いられる歯科用組成物のラジカル重合性単量体混合物〔A〕を構成するビス(メタ)アクリロイルオキシアルコキシベンゼン(a)は一般式〔I〕
C=CR−CO−O−(RO)−R−(OR−O−CO−RC=CH ・・・(I)
〔式中、Rは、ベンゼンなどの芳香環を示し、オルト、メタ、パラのいずれの置換体であっても良く、2つのRはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を示し、RとRはそれぞれ独立にメチレン、エチレン、プロピレン等のアルキレン基を示し、mおよびnは正の整数を示す〕で表わされる化合物であり、オルト置換体、メタ置換体およびパラ置換体のいずれであってもよい。
【0015】
該ビス(メタ)アクリロイルオキシアルコキシベンゼン(a)として具体的には、1,4−ビス(メタ)アクリロイルオキシエトキシベンゼン、1,3−ビス(メタ)アクリロイルオキシエトキシベンゼン、1,2−ビス(メタ)アクリロイルオキシエトキシベンゼン、1,4−ビス(メタ)アクリロイルオキシジエトキシベンゼン、1,3−ビス(メタ)アクリロイルオキシジエトキシベンゼン、1,2−ビス(メタ)アクリロイルオキシジエトキシベンゼン、1,4−ビス(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシベンゼン、1,3−ビス(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシベンゼンなどを例示することができる。これらの中では、1,3−ジメタトリロイルオキシエトキシベンゼンを用いると硬化性組成物の硬化性が優れるだけでなく硬化後の圧縮、曲げ強度、耐摩耗性などの機械的物性耐摩耗性などが向上するので好ましい。本発明で好適に用いられる歯科用組成物に使用されるその他の不飽和単量体(b)は、通常のラジカル重合性炭素・炭素不飽和単量体であり、さらに具体的には不飽和カルボン酸単量体、エステル系不飽和単量体、ニトリル系不飽和単量体、芳香族ビニル系化合物などを挙げることができる。該不飽和カルボン酸単量体としては、例えばアクリル酸、メタアクリル酸などを例示することができ、該エステル系不飽和単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸エステル系単量体、酢酸ビニル、酢酸アリルなどの低級脂肪族カルボン酸不飽和エステル単量体などを例示することができる。該ニトリル系不飽和単量体としては例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどを例示することができ、該芳香族ビニル系化合物としては例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、イソプロペニルトルエンなどを例示することができる。
【0016】
該(メタ)アクリル酸エステル系単量体としてさらに具体的には、アクリル酸またはメタクリル酸と1価ヒドロキシル化合物または多価ヒドロキシル化合物から形成された(メタ)アクリル酸エステル系化合物が挙げられる。さらに具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキシレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシシクロヘキシル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、2,2,4(2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート1モルと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート2モルの付加物などを例示することができる。
【0017】
本発明で好適に用いられる歯科用組成物に使用されるジ(メタ)アクリロイルオキシアルコキシベンゼン以外の不飽和の単量体のうちでは、1分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシル基を有するラジカル重合性多官能性(メタ)アクリレート系単量体または該ラジカル重合性多官能性(メタ)アクリレート系単量体を主成分とするラジカル重合性単量体混合物が特に好ましい。前記ラジカル重合性多官能性(メタ)アクリレート系単量体としては、例えばトリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2,4(2,2,4)−トリメチルヘキサメチレンジアミンジイソシアナート1モルと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート2モルの付加物のいずれか一方を使用することが好ましく、特に両者の混合物を使用することが好ましい。
【0018】
本発明で好適に用いられる歯科用組成物において、ラジカル重合性単量体混合物〔A〕は、該ビス(メタ)アクリロイルオキシアルコキシベンゼン(a)が10ないし70重量%、好ましくは15ないし60重量%、特に好ましくは20ないし55重量%および該その他の不飽和単量体(b)が30ないし90重量%、好ましくは40ないし85重量%、特に好ましくは45ないし80重量%の範囲から構成される。ここで、(a)成分および(b)成分の合計は100重量%である。本発明で好適に用いられる歯科用組成物に配合される重合開始剤〔B〕としては、通常のラジカル重合開始剤または光重合開始剤を使用することができる。
【0019】
ラジカル重合開始剤として具体的には、ジアセチルペルオキシド、ジプロピルペルオキシド、ジブチルペルオキシド、ジカプリルペルオキシド、ジラウリロイルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、p,p’−ジクロルベンゾイルペルオキシド、p,p’−ジメトキシベンゾイルペルオキシド、p,p’−ジメチルベンゾイルペルオキシド、p,p’−ジニトロジベンゾイルペルオキシドなどの有機過酸化物を例示することができる。これらのうちでは、ジベンゾイルペルオキシドが好ましい。該有機過酸化物を使用する場合には、必要に応じてN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチルトルイジン、N,N−ジエチルトルイジン、N,N−ジメチル−p−tert−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニシジン、N,N−ジメチル−p−クロルアニリンなどの芳香族アミン類を併用することもできるし、ベンゼンスルフイン酸、o−トルエンスルフイン酸、p−トルエンスルフイン酸、エチルベンゼンスルフイン酸、デシルベンゼンスルフイン酸、ドデシルベンゼンスルフイン酸、クロルベンゼンスルフイン酸、ナフタリンスルフイン酸などの芳香族スルフイン酸またはその塩類を併用することもできる。
ラジカル重合開始剤を用いる場合には、組成物は歯への施用後ラジカル重合反応の完結によつて硬化する。この硬化のために必要な時間は使用するポリ(メタ)アクリル酸エステルモノマーおよび重合開始剤の種類や反応温度などの条件によつて相違するが、例えば過酸化ベンゾイルとN,N−ジメチル−p−トルイジンとを用いる場合についてみれば、約10秒〜数分間の範囲の時間で実用上充分な強度の硬化組成物が得られる。
【0020】
光重合開始剤としては具体的には、ジアセチル、2,3−ペンタンジオン、ベンジル、ジメトキシベンジル、4,4’−ジクロルベンジル、カンファーキノンなどのα−ケトカルボニル化合物などを例示することができる。該α−ジケトカルボニル化合物を光重合開始剤として使用する場合には、必要に応じてトリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアニリン、N−メチルジフェニルアミン、4−ジメチルアミノベンズアルデヒド、4−(メチルヘキシルアミノ)ベンズアルデヒド、4−ジエチルアミノ安息香酸、4−ジエチルアミノ安息香酸、4−(メチルシクロヘキシルアミノ)安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸メチルなどのアミン類を併用することもできる。光重合開始剤を用いる場合には、光重合開始剤を配合した組成物を歯に適用したのち、これに光を照射する。照射する光としてはキセノンランプ光、水銀ランプ光、ハロゲンランプ光がある。この光照射によって光開始剤の分解によるラジカル開始剤の分解によるラジカル反応順序によって組成物が硬化する。この硬化に必要な時間は使用するポリ(メタ)アクリル酸エステルモノマーおよび光重合開始剤の種類や量および充填物が含まれる場合にはその量によっても、また使用する光源の種類によって相違するが、例えばカンファーキノンとN,N−ジエチルアミノ安息香酸とを用いる場合についてみれば、数秒〜数分間の範囲の時間で実用上充分な強度の硬化組成物が得られる。
【0021】
本発明で好適に用いられる歯科用組成物において、重合開始剤〔B〕として遊離基発生剤を使用する場合には、過酸化物の使用割合は該ラジカル重合性単量体混合物〔A〕100重量部に対して、好ましくは0.01ないし10重量部、より好ましくは0.01ないし5重量部、特に好ましくは0.02ないし3重量部の範囲にあり、該過酸化物と共にアミン類を併用する場合には、アミン類の使用割合は該ラジカル重合性単量体混合物〔A〕100重量部に対して、好ましくは0.01ないし10重量部、より好ましくは0.01ないし5重量部、特に好ましくは0.02ないし3重量部の範囲にある。
また、重合開始剤〔B〕として光重合開始剤を使用する場合には、α−ケトカルボニル化合物の使用割合は該ラジカル重合性単量体混合物〔A〕100重量部に対して、好ましくは0.01ないし10重量部、より好ましくは0.01ないし5重量部、特に好ましくは0.03ないし3重量部の範囲にあり、前記アミン使用割合は該ラジカル重合性単量体混合物〔A〕100重量部に対して、好ましくは0.01ないし10重量部、より好ましくは0.01ないし5重量部、特に好ましくは0.03ないし3重量部の範囲にある。
【0022】
本発明で好適に用いられる歯科用組成物において、重合開始剤として光重合開始剤を用いた光硬化性組成物は硬化時の操作性に優れているので好適である。
本発明で好適に用いられる歯科用組成物に配合されるX線造影性無機充填剤[C]としては、X線造影性金属原子としてバリウムを含むガラスすなわちバリウムガラスが用いられる。これらのX線造影性無機充填剤〔C〕中の上記X線造影性金属原子の含有率はとくに限定されるものではないが、X線造影性の観点からは高い方が好ましい。また本発明で好適に用いられる歯科用組成物を光硬化性組成物とする場合には光透過性の観点からは、好ましくは10ないし65重量%、より好ましくは10〜55重量%、特に好ましくは15ないし50重量%の範囲である。さらに、該X線造影性無機充填剤〔C〕の平均粒子径は、硬化組成物の表面平滑性、耐摩耗性および光硬化性組成物の硬化深度の観点から、好ましくは5ないし20μ、より好ましくは5ないし15μ、特に好ましくは5ないし12μの範囲である。
【0023】
該X線造影性無機充填剤〔C〕は単独で用いることもできるし、二種以上の混合成分として用いることもできる。また、該X線造影性無機充填剤〔C〕はX線造影性のない無機充填剤と共に併用することができる。該X線造影性のない充填剤としては、例えばシリカ、シリカアルミナ、アルミナ、石英、ホウケイ酸ガラス、クレー、雲母、などの無機充填剤や前記無機充填剤の表面をラジカル重合性多官能性(メタ)アクリレート系単量体で重合被覆処理した複合充填剤などを配合することができる。X線造影性のない充填剤としては平均粒径が10mμないし10mμの微粉末のシリカあるいは前記微粉末シリカとトリメチロールプロパントリメタクリレートを主成分とする平均粒径が1ないし20μの範囲の複合充填剤を前記X線造影性フィラーと併用して使用すると表面滑活性、耐摩耗性などが向上するので好ましい。
該X線造影性充填剤およびX線造影性のない無機充填剤はシラン系カップリング剤またはチタネート系カップリング剤で表面処理が施されているものの方が好適に使用される。
【0024】
本発明で好適に用いられる歯科用組成物に配合されるX線造影性無機充填剤〔C〕の配合割合は該ラジカル重合性単量体混合物〔A〕の100重量部に対して、好ましくは50ないし500重量部、より好ましくは75ないし400重量部、特に好ましく100ないし300重量部の範囲である。また、X線造影性のない無機充填剤を併用する場合に、その配合割合は該ラジカル重合性単量体混合物の100重量部に対して、好ましくは5ないし400重量部、より好ましくは10ないし300重量部、特に好ましくは20ないし200重量部の範囲である。
本発明で好適に用いられる歯科用組成物にはさらに必要に応じて、他の成分例えば顔料、重合調節剤、重合抑制剤、有機質重合体などを配合することができる。これらの成分の配合割合は適宜である。
【0025】
本発明で好適に用いられる歯科用組成物のうち光硬化性組成物の場合は光を照射することによつて重合が起こり、硬化する。光線としては自然光線であつても人工光源であってもよく、紫外領域から可視領域までの光線を採用することが可能である。人工光線としては、例えば高圧水銀灯、中圧水銀灯、低圧水銀灯、ハロゲンランプ、タングステンランプなどを使用することができる。光硬化の際の温度は、好ましくは0ないし80℃、より好ましくは5ないし50℃の範囲であり、光照射の時間は、好ましくは1秒ないし5分である。
【0026】
本発明において、好適に適用される歯牙の微小欠損部とは、歯牙、特に臼歯部の咬合面などに発生した初期う蝕のう蝕領域を幅0.5〜0.9mm程度のMIダイヤモンドバー等で切除した切除箇所が挙げられる。本発明において、好適に適用される歯牙の微小欠損部の切除幅は、好ましくは0.9mm以下、より好ましくは0.7mm以下、更に好ましくは0.6mm以下、特に好ましくは0.5mm以下である。前記数値範囲の上限を上回ると、歯科用組成物を十分に充填し難く、効率が低下する恐れがあり好ましくない。切除幅の下限値としては、好ましくは0.15mm以上、より好ましくは0.2mm以上、更に好ましくは0.3mm以上、特に好ましくは0.4mm以上である。前記数値範囲の下限を上回ると、歯科用組成物を周辺の歯面と整合させて充填し難く、術後の口腔衛生や審美性が低下する恐れがあるので、切削等の余分な負担を医師や患者に掛ける可能性があり好ましくない。
以下、実施例により本発明の効果を具体的に説明する。
【実施例】
【0027】
実施例1および比較例1、2
作製した歯科用組成物を図2に示した歯科用組成物収納容器に充填して、比較例2(内径0.67mm)、比較例1(内径0.57mm)、実施例1(内径0.37mm)の3種類の異なった内径を持つ歯科用組成物吐出用ノズル(SUS304製)を装着した。
次いで牛歯エナメル質部を耐水ペーパー#600→#2000の順で研磨し、平滑並びに滑沢な面に仕上げ、歯科用ダイアモンドバーを用いて直径が0.8〜0.85mm、0.9〜0.95mmとなるようにデジタルマイクロスコープVHX−900(キーエンス社製)で観察しながら2種類の窩洞をそれぞれ3個形成した。次いで、形成した2種類の窩洞に上記3種の内径の異なる歯科用組成物吐出用ノズルから歯科用組成物を充填し、充填した歯科用組成物の直径(横方向)、高さ(縦方向)をデジタルマイクロスコープVHX−900で観察し、各歯科用組成物吐出用ノズルを使用した時の各窩洞における歯科用組成物の余剰量(窩洞からのはみ出し幅=(充填直径−窩洞直径)/2)を測定した。
【0028】
デジタルマイクロスコープによる各窩洞の歯科用組成物充填前の測定画像を図3、4に示す。
図3、4中数表No.1〜6はそれぞれ、図中左側に位置する窩洞の横径と縦径、中央に位置する窩洞の横径と縦径、右側に位置する窩洞の横径と縦径である。なお、窩洞の深さ方向の形状は、窩洞の開口縁の略円形の中心付近に0.65〜0.7mmの最深部を有する略球面状凹面であった。
図3は、直径0.8〜0.85mmの窩洞についての画像であり、図4は直径0.9〜0.95mmの窩洞についての画像である。
【0029】
また、図5〜8には、各窩洞に歯科用組成物を充填した後の測定画像を示す。図5は直径0.8〜0.85mmの窩洞について充填した歯科用組成物の窩洞外に溢れた余剰量の窩洞外の拡がり(ほぼ直交する2方向の直径)を示している。
図6は直径0.9〜0.95mmの窩洞について充填した歯科用組成物の窩洞外に溢れた余剰量の窩洞外の拡がり(ほぼ直交する2方向の直径)を示している。これらの余剰量についての拡がりの直径(mm)をまとめて下記表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
これらの結果は次のようにまとめられる。
0.8〜0.85mm窩洞での横方向への歯科用組成物の余剰量は、実施例1で充填したした場合0.05mm以下の余剰であったのに対して、比較例2では0.45mm以上、比較例1では0.39mm以上であった。
0.9〜0.95mm窩洞での横方向への歯科用組成物の余剰量は、実施例1で充填した場合0.04mm以下の余剰であったのに対して、比較例2では0.25mm以上、比較例1では0.17mm以上であった。
【0032】
図7は図5の場合の余剰量の窩洞外の拡がり(高さ方向の拡がり)を示している。図8は、図6の場合の余剰量の窩洞外の拡がり(高さ方向の拡がり)を示している。これらの余剰量についての拡がりの高さ(mm)をまとめて下記表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
これらの結果は次のようにまとめられる。
0.8〜0.85mm窩洞での縦方向への歯科用組成物の余剰量は、実施例1で充填したした場合が0.0mmであったのに対して、比較例2では4.35mm、比較例1では2.19mmであった。
0.9〜0.95mm窩洞での縦方向への歯科用組成物の余剰量は、実施例1で充填した場合が0.0mmであったのに対して、比較例2では4.54mm、比較例1では2.46mmであった。
実施例1および比較例1、2に用いた歯科組成物に使用した化合物名及び略称を表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
(歯科用組成物)
2.6E/RDMA/3G/UDMA=55/23/14/8(wt%)のモノマーに対してCQ0.3wt%、DMABAE0.3wt%、BHT420ppm、MEHQ300ppmを溶解し、光重合用モノマーとした。このモノマー34gにR972(平均粒径0.016μmの疎水性コロイダルシリカ:日本アエロジル(株))0.7g、R812(平均粒径0.007μmの疎水性コロイダルシリカ:日本アエロジル(株))1.5gを混合し、次いで5重量%のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理したTCB−f(平均粒径1.2μm)3.5gを混合し、更に10重量%のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理したGM8235(平均粒径1.0μmのバリウムガラス:NECショット社製)60gを混合し歯科組成物を作製した。
【0037】
(複合ポリマ−の製造:TCB−f)
TMPT/CB−1=50/50(wt%)150gにGM−8235(平均粒径1.2μmの不定形型バリウムガラス:NECショット社製)350gを均一になるように混合し、次いでTest Mixing Roll(安田精機製作所社製)を使用して、BPO(過酸化ベンゾイル)2.5gを徐々に加えながら機械的に十分練り混んでペースト化した。このペ−ストを200mm×200mm×2mmの穴の開いた金型に入れ圧縮成型機(YSR−10:神藤金属工業社製)で50kgf/cm2 の加圧下、120℃で10分間重合した。重合体をハンマ−で約1cm角に砕いた後、擂潰機(石川工業社製)で60分以上、粉砕する。擂潰機で粉砕後、280メッシュの篩いを通過した粉体とGM−8235を10/90(wt%)の割合となるように広口T型瓶に入れて6時間混合し、歯科用充填組成物の複合ポリマ−の粉末(TCB−f)とした。TCB−fの平均粒径は1.2μmであった。
なお、ガラス板垂れ評価値は3.5であった。また、この組成物の重合収縮率は4.2%であり、実施例において、当該収縮は無視可能な程度なので、組成物の重合の実施は省略した。
【0038】
(ノズルの構成)
実施例1、比較例1、2で用いたノズル及びシリンジとしては、図1、2の図面の通りの構成を有するものを用いた。
寸法は、図1における記号に対応して、C=6.5mm、D=30度、E=R3.5mm、F=6.5mm、B=0.115mmである。
【0039】
以上のとおり、欠損部への適切な充填量を達成するには、欠損部の幅よりも小さい吐出口内径を有するノズルを用いれば、容易に解決されると思われたが、意外なことに実際には良好な結果を得られるものではなかった。例えば、0.8mm幅の窩洞に、これよりも約16%も小さい内径0.67mmのノズルを用いても、幅から明瞭にはみ出した上、大きな盛り上がりが確認された。
【符号の説明】
【0040】
1:ノズルの吐出口
2:パイプ状物
3:屈曲部
4:接着剤
5:パイプ状物接合部
6:ノズル基部
7:パイプ状物内腔開口部
8:ノズル基部内腔
9:外部突起
10:ノズル部材
11:内部突起
12:シリンジ体
13:押し棒先端部
14:押し棒
15:シリンジ側取っ手
16:押し棒側取っ手
20:歯科用組成物収納容器
A:ノズルの吐出口の内径
B:ノズルの吐出口の肉厚
C:屈曲前部のパイプ状物の長さ
D:曲げ角度
E:屈曲部
F:屈曲後部のパイプ状物の長さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルの吐出口内径が0.5mm以下であることを特徴とする歯科用組成物吐出用ノズル部材。
【請求項2】
ガラス板垂れ評価値が2以上である歯科用組成物に用いる請求項1に記載のノズル部材。
【請求項3】
ノズルが屈曲している請求項1に記載のノズル部材。
【請求項4】
請求項1に記載の歯科用組成物吐出用ノズル部材と歯科用組成物収納容器よりなることを特徴とする歯科用組成物収納容器キット。
【請求項5】
ガラス板垂れ評価値が2以上である歯科用組成物が歯科用組成物収納容器に充填されている請求項4に記載の歯科用組成物収納容器キット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−148070(P2012−148070A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−285061(P2011−285061)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(592093578)サンメディカル株式会社 (61)
【Fターム(参考)】