説明

歯科用練板紙

【課題】 セメント材の練和を安定して行うことができ、積層部からの単葉の剥ぎ取りと積層部への補充を簡単に行うことができる歯科用使い捨て練板紙を提供する。
【解決手段】積層練板紙10を構成するそれぞれの単葉の練板紙1の下面に再剥離・再貼付接着剤2を塗布し、積層練板紙の最上面を練板として使用し破棄することによって、高さが低くなった積層練板紙10Aに、別に準備した積層練板紙10Bを補充することによって積層練板紙10を練和作業を続けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用セメント、歯周包帯材、印象材などの練和に用いられる紙製または樹脂製の使い捨て練板に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用セメントは、各種の粉末や液などを混ぜてペースト状に練ると固まる特性を利用して、硬組織欠損の成形修復、インレー、クラウン等の修復物の合着、各種の裏層、および、仮封に用いられる日常の臨床では不可欠の材料である。
【0003】
成形修復とは、窩洞に無機材料を素材とする充填用セメントを充填し、欠損部の形態と機能を回復する修復方法である。修復物(インレー、クラウン等)は切削した歯の表面を被覆するためのものであるので、使用に際してすぐ脱落しては役に立たない。
【0004】
このため、これらの修復物と歯の間に、唾液や食物が入り込まないようにするとともに、修復物を歯にしっかり固定して、修復物が歯から外れてこないようにする必要がある。この目的のために行われるのが合着である。
【0005】
また、裏層とは、レジン等の修復材の歯髄刺激作用を遮断するため、修復材と窩壁との間にセメントを一層介在させることである。
【0006】
さらに、仮封とは、窩洞や根管内への食片、唾液、細菌の侵入の防止、窩洞や根管内へ貼付した薬剤の口腔内漏洩の防止、咀嚼による加圧、吸引などの外来刺激から窩洞を保護するために、比較的除去しやすい材料により窩洞の填塞や形成歯の形態を回復することである。
【0007】
この日常の歯科臨床に用いるセメントとしては、2種類以上の薬剤を練板上に用意し、スパチュラ(へら状の器具)により練り合わせ、よく練和して泥状になったセメントが十分な流動性を有している間に修復物と対象歯の間に流し込む。また、歯を被覆するタイプの修復物を合着するときには、練和したセメントを冠の内側面に塗布し、これを対象歯に被せて冠の上から圧力を加える。さらに、インレーのように、歯に充填するタイプの修復物を合着するときには、一般にセメントを、対象とする窩洞に流し込み、その上に修復物を置いて加圧する。
【0008】
これらの操作により、セメントは対象歯面全体を被覆するよう流され、修復物と歯面との間に薄い被覆をつくる。セメントの稠度は、練和操作によっても大きく変化する。練和した後時間が経過したり、均一に練和されず練和むらのあるときは、セメントの稠度が大きくなり、口腔内適用が困難となる。したがって、修復物を対象歯に合着する際には、セメントの強さや溶解度を劣化させることなく、合着に適した稠度のセメントが得られるように、粉末と液の練和操作を的確に行わなければならない。そして、練和のための作業時間は、臨床のために、2、3分以内に限定されることが多いので、練和終了後ただちにセメントをまとめ、練板で術者に手渡すことが必要となる。
【0009】
この歯科用練板としては、大きく分けて、永久練板と練板紙との二種類がある。
【0010】
永久練板は、特許文献1に記載のように、スパチュラ(へら状の器具)によるセメントの安定した練り合わせが可能なように、底面に滑り止めを施した(ないものも存在する。)5mmから15mm厚みの陶磁器製、ガラス製、あるいは硬質プラスチック製のものである。その練板は、極端な摩耗が生じない限り、長期間にわたって使用できるが、練和後は、その表面にセメントが固着しないように手早くアルコールワッテやガーゼで拭き取り、次の使用のために練和面表面を洗浄しなければならないという煩わしさがある。
【0011】
これに対して使い捨て練板紙は、下記特許文献2〜4に記載のように、裏面にゴムのような非粘着性の滑り止め層を形成した台紙(ないものも存在する。)の上に、耐水、耐薬品処理を施した練板紙を積層し、積層した練板紙の隅部を除いて、側面全周に、または、二、三辺に接着層が設けられており、その積層した練板紙の最上面の練板紙上でセメントを練和し、使用後は、使用した最上面の練板紙を剥ぎ取って廃棄し、次のセメントの練和は、次段の練板紙上で行うものである。このように、使い捨て練板紙は、永久練板のように使用後の清掃作業がない分、後始末の手間が省けて、作業が効率的になるという利点がある。
【特許文献1】実公平1-33054号公報
【特許文献2】実開平6-23511号公報
【特許文献3】特開平9-00543号公報
【特許文献4】特開2004-242946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
練板を用いてセメントの練和を行う場合、練和操作は手早く、しかも、的確に行う必要がある。とくに、使い捨て練板紙の場合には、練和操作が安定して行うことができ、練和操作毎の練板紙の剥ぎ取りが簡単に且つ確実に行われる必要がある。
【0013】
積層型の使い捨て歯科用練板紙には、一方においては、セメントの練和操作を安定して行うには練和中に紙間のブレが発生しない強力な接着力が積層単葉紙の相互間に必要である。また、他方においては、使用済み単葉練板紙を剥ぎ取りやすくするには、積層単葉紙の相互間の剥離性が重要である。
【0014】
ところが、従来の使い捨て練板紙には係るニーズに対して、以下のような欠点がある。
【0015】
第1には、積層部分の側面に形成された接着剤層によって練板紙の単葉を積層し固定しているために、練和操作毎に発生する使用済み単葉練板紙を廃棄するための剥ぎ取りが破れたりして円滑に行われないことである。そして、剥ぎ取ると作業済み単葉練板紙の接着剤のバリが未使用の積層練板紙側に残り、これが練和時にセメントに混入することもある。
【0016】
その第2は、従来の使い捨て練板紙は未使用状態では練和がしやすい高さに設定してあるが、使用済み練板紙の除去により徐々に高さが低くなりスパチュラ(へら状の器具)による練和が次第に困難になることである。
【0017】
本願発明は、このような従来の積層使い捨て練板紙の欠点を解消して、セメント材の練和を安定して行うことができ、積層部からの単葉の剥ぎ取りと練和しやすい高さを維持するための積層上面への補給を簡単に行うことができる使い捨て練板紙を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、積層型の使い捨て歯科用練板紙に必要な単葉相互間の強固な接合と、剥離が容易であることの相反する条件を満たすため、市販の再剥離・再貼付可能な接着剤の利用を思い付き、その上、その塗着位置や塗着面積の最適条件を見出したものである。
【0019】
すなわち、本発明の使い捨て歯科用練板紙は、それぞれの単葉の練板紙の間を再剥離・再貼付可能な接着剤を介して積層したことによって、その課題を解決した。すなわち、下面に再剥離・再貼付タイプ接着剤を塗布した単葉の練板紙を多数積層した歯科用練板紙である。
【0020】
本発明にいう「再剥離・再貼付タイプ接着剤」(以下、再貼付可能接着剤と称する。)とは、被着体による粘着力の差、貼り付け後の粘着力の経時増加、再剥離の速度による粘着力の変化などが少なく、ラベルをきれいに剥がすことができ、また、ラベルを軽く押さえるだけで、しっかりと貼り付けることができる粘着剤を意味する。
【0021】
具体的には、それぞれの練板紙単葉の上面には、セメントの混和のために耐水、耐薬品処理が施されており、下面には再貼付可能接着剤が、例えば、10μm程度の厚みに塗布される。
【0022】
その接着剤の塗布に際しては、使用後の練板紙単葉の剥離、あるいは、使用によって低下した積層上面への補給のために、予備の積層練板紙からの複数枚の練板紙を剥離するのに便利なように、練板紙の隅部を含む端辺に接着剤を塗布しない部分を形成する。
【0023】
また、本発明の積層練板紙は、滑り止めを施した台座の上に形成することもできるが、積層練板紙の最下段の単葉の裏面にも、再貼付可能接着剤を塗布することによって、これが、作業台との滑り止めの作用を果たし、台座なしの積層練板紙として使用することができる。
【0024】
本発明の積層練板紙は、所定の大きさに裁断する紙材の一面の全面または所定の位置に、接着剤を浸透させた塗布ロールその他の手段によって塗布したのち、所定の大きさに裁断して、単葉の練板紙を積層して作製する。
【発明の効果】
【0025】
自在に再剥離と再貼付が可能な接着剤を介して、積層した練板紙の最上面の単葉紙の表面を練和作業面として使用するに際して、積層した単葉面の間に介在する接着剤層が最下段においては滑り止めとしても作用し、スパチュラによるセメントの安定した練り合わせが可能となる。
【0026】
積層練板紙の最上単葉紙の使用後の剥離と補充が簡単になり、低くなった積層練板紙への補充を術者自らが行い、高さを調整することができ、歯科用セメントの練り合わせ作業が能率化する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本願発明の実施の形態を添付図に示す実施例によって説明する。
【0028】
本発明の積層練板紙も、従来と同様に、下面にゴムのような滑り止めを施した台紙上に形成することができるが、下記実施例においては、積層練板紙の最下位を形成する単葉の練板紙の下面に設けた再貼付可能接着剤塗布層を滑り止めとして使用する例について説明する。
【実施例】
【0029】
図1は、本発明の積層練板紙の例10を示すもので、平面の大きさが75mm×75mmの単葉の練板紙1を100枚積層して、13mmの高さとしたものである。
【0030】
単葉の練板紙1は、練り合わせ作業に使用するセメント粉末や練和液などが裏に浸透したり、これらと反応を起さない紙材のほか、ポリプロピレンやポリ塩化ビニール,ポリエステル,ポリエチレン又はポリスチレン樹脂などを主原料とした合成紙あるいはこれらを上面のみにコーティングして、積層の最上面を練和作業面11として使用するものである。
【0031】
2は、それぞれの単葉の練板紙1の下面に塗布された再貼付可能接着剤を示す。この例の場合は、再貼付可能の接着剤は、単葉の練板紙1の一方向の両端縁から約7mm離れたそれぞれの巾が約10mmの平行な2条に塗布されたものである。
【0032】
このように、再貼付可能接着剤2は、それぞれの単葉の練板紙1の下面全体に塗布されていても、練和作業を行った後の最上段の単葉練板紙は、その側部を指先で軽く跳ね上げるだけで剥ぎ取ることができるが、図1に示すように、積層単葉練板紙のそれぞれの側縁に接着剤2を塗布しない箇所を存在させることによって、より簡単に剥ぎ取り破棄することができ、連続した練和作業をより効率的に行うことができる。
【0033】
図1は、再貼付可能接着剤2の塗布形態の一つとして、それぞれの単葉の練板紙1の下面に平行な2条状態に塗布した一形態を示すものであるが、図1に示す塗布の基本的な形態であるそれぞれの単葉の練板紙が動かず練和作業を行うことができ、しかも、使用後の積層部分からの剥ぎ取りをより簡単に行うことができる塗布形態を多く挙げることができる。図2は、本願発明の積層練板紙を構成するそれぞれの単葉練板紙の下面に塗布される再貼付可能接着剤の塗布形態を示す。
【0034】
同図において、粘着剤の塗布位置は、練和中に練板紙間のブレが発生しないように対向する2ヶ所以上(a〜c)、もしくは半分以上の面積(d-l)への塗布、中央部に塗布しない中空型(m-q)の塗布、またr、vのような塗布の仕方もある。また、塗布の方法もドット型(s)、ゼブラ型(t)、網目型(u)のように多岐にわたる。
【0035】
また、図3は、図1に示す初期の積層練板紙10の最上位の練板紙1を順次練和作業面11として使用したことによって、高さが低くなった積層練板紙10Aの上に別に準備した積層練板紙10Bを補充する状態を示す。
【0036】
このように、本願発明によって、使用した積層練板紙の補充も、術者によって任意に補充することができ、その補充のための処理も、別途用意した積層練板紙10Bから任意の枚数剥ぎ取って、使用中の積層練板紙10Aに追加することによって簡単に本来の厚みの積層練板紙10とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の積層練板紙を示す。
【図2】再貼付可能接着剤の塗布例を示す。
【図3】消費した練板紙の補充状態を示す。
【符号の説明】
【0038】
1 練板紙 11 練和作業面
2 再剥離・再貼付接着剤
10 本発明の積層練板紙
10A 使用後の積層練板紙
10B 補充積層練板紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単葉の練板紙を積層した歯科用使い捨て練板紙において、
それぞれ単葉の練板紙を再剥離・再貼付可能な接着剤を介して積層した歯科用練板紙。
【請求項2】
単葉の練板紙を再剥離・再貼付可能な接着剤を介しての積層が、それぞれの下面に接着剤を塗布した単葉の練板紙を積層したものである請求項1に記載の歯科用練板紙。
【請求項3】
それぞれの下面に接着剤を塗布した単葉の練板紙が、側部に接着剤を塗布しない箇所を形成した請求項2に記載の歯科用練板紙。
【請求項4】
積層練板紙の最上面を練板として使用し破棄したことによって、高さが低くなった積層練板紙に、別に準備した積層練板紙を補充することを可能にした請求項1から3の何れかに記載の歯科用練板紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−301884(P2008−301884A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−149282(P2007−149282)
【出願日】平成19年6月5日(2007.6.5)
【出願人】(592150354)日本歯科薬品株式会社 (9)