説明

歯科用製剤におけるオステオポンチンの使用

【課題】歯のエナメル質上の歯垢の細菌の増殖を抑制する。
【解決手段】歯のエナメル質上の歯垢の細菌の増殖を抑制するためのオステオポンチンの使用、およびオステオポンチンを含有する歯科用製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用製剤に関する。特に、本発明は、歯のエナメル質上の歯垢の細菌の増殖を顕著に低減するためのオステオポンチン(OPN)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
歯のケアに関しては、歯垢の形成、歯垢中の細菌の増殖、虫歯、歯石、歯周病、および歯の脱灰などの、美容上および治療上多くの問題がある。
【0003】
歯垢は、口腔内の硬組織(歯)上に堆積する複雑なバイオフィルムである。500種を超える細菌腫が歯垢を構成するが、コロニーの形成は、最初のコロニー形成菌がエナメル質の唾液薄膜に付着し続いて第2のコロニー形成菌が付着するという、細菌の付着を介する組織化されたパターンに従う。一連の連鎖球菌種が、この初期のコロニー形成菌に属することは広く知られている。従って、これらの菌の付着を制御することが重要である。種々の付着因子および分子間相互作用が、付着相互作用の根底にあり、歯垢の発達に寄与し、最終的には虫歯および歯周病などの疾患の原因となる。
【0004】
歯のエナメル質は、ヒドロキシアパタイトを含む。口内では、自然な平衡が存在している。この平衡の一方では、ヒドロキシアパタイトが歯のエナメル質から溶出され、他方では、唾液中に自然に存在する物質から、ヒドロキシアパタイトが歯の中または歯の表面で形成される。この平衡が、ヒドロキシアパタイトが溶解されるような状態にあると、脱灰と称される、齲蝕原性状態が生じる。
【0005】
エナメル質にフッ化物イオンを組み入れるとそのエナメル質が脱灰から保護されることはかなり以前から知られている。したがって、フッ化物を練り歯磨きに組み入れることが多い。しかし、特に、例えば小児でよくあるように、患者が練り歯磨き、他の歯磨剤、または口腔衛生製品を飲み込んでいる場合、フッ化物はフッ素中毒を起こす可能性がある。これは、飲料水中の比較的高濃度のフッ化物の分野でも問題となる。
【0006】
本特許出願の目的は、既存の乳タンパク質であるオステオポンチンの使用を提案することである。ここでは、オステオポンチンを、歯の表面上の細菌の増殖を制御または阻止するために歯科用製剤に加え、それによって歯垢の形成および虫歯を予防または抑制する。
【0007】
乳タンパク質の画分の使用が記載された2〜3の特許がある。すなわち、エナメル質への損傷の治療のための、カゼインの加水分解物、カゼインホスホペプチド(CPP)、およびミルクのレンネットからのグリコマクロペプチド(GMP)の使用が、これらがエナメル質にアモルファスリン酸カルシウムを供給する働きをするという仮説とともに記載されている。
【0008】
国際公開第03/059304号は、フッ化物イオン源とCPP画分とを含有する口腔ケア用の組成物を提案している。この製剤は、口腔用製剤に加えたリン酸カルシウムをアモルファス型に安定化し、同時に、その製剤中のフッ化物濃度を安定化する。
【0009】
国際公開第00/07454号は、ミルクをベースとする特有の食品製剤に加えるとラットで虫歯予防(抗齲蝕原性の)効果を有するGMPについて記載している。
【0010】
CPPペプチドおよびGMPペプチドと対照的に、OPNは、それがエナメル質への口腔の微生物の付着に生理的に活性な影響を及ぼし、したがって虫歯の発達に悪影響を及ぼす可能性によって、口腔内に新たな次元を導入する。CPPおよびGMPのように、OPNも、歯の修復に利用可能な唾液中のアモルファスリン酸カルシウム濃度に影響を及ぼす。
【0011】
このように、OPNは歯科治療に関していくつかの機能を有している。
【0012】
例えば練り歯磨きや洗口剤(マウス・ウォッシュ)にOPNを使用する大きな利点は、OPNがウシのミルク中の天然のタンパク質成分であり、したがって臨床試験の必要性がわずかであることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第03/059304号パンフレット
【特許文献2】国際公開第00/07454号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
驚くべきことに、歯科用製剤中に使用されたオステオポンチンが、エナメル質表面上の細菌の付着および増殖を抑制することが明らかになった。
【0015】
本発明は、オステオポンチンを含有する口腔用の組成物に関し、この組成物には、練り歯磨き、洗口剤、およびチューインガム、ならびに関連のある組成物が含まれる。
【0016】
精巧に研磨したヒドロキシアパタイト(HA)ディスクからなる歯の類似物を使ったin vitroでの研究では、OPNの希釈溶液に浸した歯の類似物のHA表面上に、水で洗い流すことができないOPNの被膜が生じる。このような処理をしたディスクをヒトの唾液に接触させると、驚くべきことに、OPNの被膜が歯の類似物の表面上の細菌の付着および増殖を顕著に抑制し、歯垢の形成を顕著に抑制する結果となることを見出した。この試みは、種々の年齢および口腔内細菌叢の患者グループからの唾液サンプルを使って行った。これらの結果は、練り歯磨きおよび洗口剤などの口腔用製剤へのOPNの使用可能性を示唆し、チューインガム中の成分としてのOPNの使用可能性をも示唆する。
【0017】
したがって、本発明は、歯のエナメル質上の歯垢の細菌の増殖を抑制するためのオステオポンチンの使用、およびオステオポンチンを含有する歯科用製剤に関する。
【0018】
本明細書で使用したように、用語「オステオポンチン」または「OPN」は、ミルクから得られたオステオポンチンを意味し、OPNに由来してミルク中のタンパク質分解により天然に生じるフラグメントまたはペプチド、ならびに、国際公開第01/49741で提案されている方法から得られるような遺伝子組み換え技術、リン酸化反応、またはグリコシル化反応による変異体を包含する。ミルクは、ウシ、ラクダ、ヤギ、ヒツジ、ヒトコブラクダ、およびラマ等のような乳を産生するいずれの動物からのミルクであってもよい。しかし、ウシのミルクからのOPNが、入手可能性の理由から好ましい。その量はすべて天然のウシのミルクのOPNに基づいているが、OPNの活性画分または別の供給源からのOPNに基づく対応する量に容易に修正することができる。OPNまたはその誘導体は、遺伝子工学的に調製することもできる。
【0019】
歯科用製剤は、例えば、歯磨き粉、歯磨きゲル、歯科用洗口剤、口腔スプレー、またはチューインガムなどの、歯磨剤または関連する口腔衛生関連製品のいずれであってもよい。オステオポンチン(OPN)は、酸性の、高度にリン酸化された、シアル酸が豊富なカルシウム結合タンパク質である。OPNは、1モルにつき、28モルのリン酸塩および約50モルのカルシウムに結合する。OPNの等電点は約3.0である。このタンパク質は体内の多くの組織に存在し、シグナル伝達タンパク質および制御タンパク質としての役割を果たす。このタンパク質は、生体内鉱質形成プロセスにおける活性タンパク質である。OPNは、骨細胞、平滑筋細胞、および上皮細胞を含む多くの細胞型で発現される。
【0020】
OPNは、ウシのミルク中に存在する。典型的な濃度は、1Lにつき20mgである。
【0021】
OPNは、国際公開第01/497741(A2)号の特許または国際公開第01/28413号に記載されているように、例えば、pH4.5の酸性の乳漿から、陰イオンクロマトグラフィーで比較的簡単に単離することができる。90〜95%までの純度のものを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、エリプソメトリーにより異なる温度で測定した、ヒドロキシアパタイトディスク上へのOPNの吸着を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
オステオポンチンの量は、通常、歯科用製剤1kg当たりオステオポンチン約50mg〜約1500mgの間である。しかし、これより少ない量でも効果がある。これより多い量を使用することもできるが、効果は実質的には増加しないであろう。実用的な量は、1kg当たりOPN100〜1000mgであり、200〜500mgが好ましく、最も好適には約350mgである。これより多量としてもより良い結果が得られないと推定され、したがって推奨しない。OPNは比較的高価な含有物だからである。
【0024】
本発明の好ましい組成物は、既に言及したように、練り歯磨き、歯磨きゲル、および歯磨き粉の形態である。このような練り歯磨きおよび歯磨きゲルの成分として、以下のうち1種またはそれ以上が挙げられる。歯科用研磨剤(約10%から約50%まで)、界面活性剤(約0.5%から約10%まで)、増粘剤(約0.04%から約0.5%まで)、湿潤剤(約0.1%から約3%まで)、風味料(約0.04%から約2%まで)、甘味料(約0.1%から約3%まで)、着色料(約0.01%から約0.5%まで)、および、水(約2%から約45%まで)。抗齲蝕性剤は、約0.001%から約1%までのOPNを含有する。抗歯石剤は、約0.1%から約13%までのOPNを含有する。
【0025】
歯磨き粉は、言うまでもなく、実質的に液体成分を含まない。
【0026】
その他の本発明の好ましい組成物は、口腔スプレーを含む、歯科用洗口剤である。このような洗口剤および口腔スプレーの成分として、通常、以下のうち1種またはそれ以上が挙げられる。水(約45%から約95%まで)、エタノール(約0%から約25%まで)、湿潤剤(約0%から約50%まで)、界面活性剤(約0.01%から約7%まで)、風味料(約0.004%から約2%まで)、甘味料(約0.1%から約3%まで)、および、着色料(約0.001%から約0.5%まで)。抗齲蝕性剤は、約0.001%から約1%までのOPNを含有する。抗歯石剤は、約0.1%から約13%までのOPNを含有する。
【0027】
第3の応用分野は、概括的な言葉で言うと、多様な配合のチューインガム製剤である。
【0028】
本発明を、さらに以下の実施例および実験により説明する。
【実施例】
【0029】
〔背景〕本研究の目的は、OPNがヒドロキシアパタイト表面に安定な状態で結合することと、このOPNの被膜が水または緩衝液で洗い流すことによっては除去できないこととの2つを立証することである。
【0030】
OPNは、歯の類似物の表面上の細菌の付着に影響を与える。
【0031】
OPNがin vitroで歯垢の増加を妨げる能力は、本研究では、歯のエナメル質のモデルの役割を果たすヒドロキシアパタイト(HA)ディスクで研究した。このディスクを、OPN溶液に浸し、浸した後のディスクを唾液と共にインキュベートした。この其質上の増殖は、Malmo大学(スウェーデン)の歯科学部で、異なる歯垢形成細菌の菌株の細菌数により調べた。
【0032】
OPNを被覆したHA表面の対照として、被覆せずBSA(ウシ血清アルブミン)処理をしたHAディスクを使用した。
【0033】
本研究は、以下に記載するように、その特性が詳細に明らかにされた6名のドナーからの唾液サンプルで行った。
【0034】
〔材料および方法〕(化学物質)
オステオポンチン(OPN)は、アルラ・フーズambaが、クロマトグラフィーによる純度で約95%に調製した。ウシ血清アルブミン(BSA)は、シグマ−アルドリッチから購入した。ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)は、シグマ(St. Louis, MO, USA, L-6026)から入手した。その他の化学物質はいずれも分析用であり、使用した水はミリQ品質(Milli-Q quality)であった。其質の前処理および吸着実験は、0.01Mのリン酸塩および0.05Mの塩化ナトリウムを含有するリン酸緩衝液中、pH7で行った。緩衝剤のみならず、ガラス製品およびピペットチップ等はいずれもオートクレーブで殺菌した。実験に使用するタンパク質溶液は、ろ過により殺菌した(カットオフ値0.22μm)。
【0035】
(唾液サンプル)
実験のための刺激により生じた唾液を、パラフィン片を噛んだ後に採集した。刺激唾液サンプルのドナーの概括を表1に示す。採集に先立つ2時間は食物および飲料の摂取を禁止した。
【0036】
(其質)
直径10mmのヒドロキシアパタイト(HA)ディスクをスウェーデンセラミック研究所(Goteborg)から購入した。走査型電子顕微鏡(SEM)観察に用いるディスクは、両面を研磨して、超音波で洗浄できるようにした。実験を始める前に、其質(ディスク)をマイルドな洗剤溶液で処理し、十分に水で洗浄した。最終的に、ディスクはエタノールと水とで洗浄した。其質は、70%エタノール中で使用するまで貯蔵し、使用時には水で洗浄し窒素気流下で乾燥した。乾燥後、エリプソメトリー(偏光解析法)測定に用いる其質は、高周波グロー放電プラズマ装置(Harrick PDC 3XG, Harrick Scientific社、ニューヨーク州Ossining)を使用して低圧残留空気(10〜30Pa)中でプラズマ洗浄した。
【0037】
(細菌被膜の形成)
其質表面は、タンパク質溶液中、37℃で1時間プレインキュベートした。その後、其質を緩衝液で洗浄し、37℃で40時間インキュベートした。本実験では、プレインキュベートおよびインキュベートの間中、攪拌下に置いた。インキュベート後、HAディスクを緩衝液で洗浄した。
【0038】
(エリプソメトリー)
OPNとHA其質上の唾液タンパク質との相互作用は、エリプソメトリー(偏光解析法)により追跡した。エリプソメトリーとは、表面での反射後の偏光の変化を測定する光学的方法である(3)。使用した装置は、ルドルフ薄膜エリプソメーター(タイプ436)(ルドルフリサーチ社、ニュージャージー州Fairfield)であり、4015Åまでフィルターをかけたキセノンランプが装備されていて、LandgrenとJonssonとによる記載(1993年)の設定で操作した。
偏光角度(ΔおよびΨ)を決めるために、未処理の其質に対して強度が最小の配置を確立した。吸着後のΔおよびΨの変化から、吸着したタンパク質被膜の膜厚と屈折率を、McCrackinらの方法(4)に従って、表面被膜が均質であると仮定して計算した。吸着質量Γ(mg/m2)は、Cuypersらの方法(5)に従って計算した。これらの著者らにより示されたように、吸着質量は、低い表面被覆率では膜厚および屈折率より正確に測定できる。このため、吸着質量をここで提示した。分子量とモル屈折率の比の値と、使用した部分比容の値は、それぞれ4.1g/mlおよび0.75ml/gであった。これらの値は、タンパク質のために一般に使われており、これまでに唾液成分の吸着に関する多くの研究で適用されている((6、7)を参照されたい)。
【0039】
上記其質の部で説明したように調製した表面を、緩衝液が入ったエリプソメーターキュベット中に置いた。このキュベットは特に記載しない限り37℃に自動調節されており、溶液はマグネチックスターラーで攪拌した。偏光角度が安定すると、唾液を添加して最終的に10%(v/v)の濃度とした。吸着を1時間測定し、その後続けて、連続的に緩衝液を流す(12ml/min)ことによりキュベットを洗浄した。脱離はその後さらに25分間行った。これが菌膜形成の標準的な手順である。菌膜の凝集性の指標を得るために、本実験では特にSDSを最後に添加した。標準的な実験では、17mMの濃度(水中のcmc濃度(臨界ミセル濃度)の2倍であって、緩衝液中のcmc濃度の約9倍)を添加し、その後、SDS添加の5分後に緩衝液での最後の洗浄を行った。
【0040】
〔細菌学的分析法〕(培地)
微生物の分離のために採用した基本的な寒天培地は、血液寒天培地(8)、ミティス・サリバリウス寒天培地(Difco Lab社)(MSA:Mitis Salivarius ager)、ミティス・サリバリウス・バシトラシン(MSB:Mitis Salivarius-bacitracin)寒天培地(9)、Nickersonによるカンジダ選択寒天培地(Merck社)、マッコンキー培地(Difco Lab社)、およびブドウ球菌培地No.110(Difco Lab社)である。
【0041】
(唾液サンプルの培養手順)
唾液サンプルを従来型のVMGII(生存率保持)培地に移し、採集後24時間以内にボルテックスで攪拌し、希釈し、血液寒天培地、MSA培地、およびMSB培地に接種した。血液寒天培地は嫌気性のチャンバー(窒素中に水素10%、二酸化炭素10%)中で4日間インキュベートし、MSA培地は二酸化炭素5%の空気雰囲気下で2日間インキュベートした。寒天プレート上のコロニー形成単位(CFU)の総数は、立体顕微鏡を用いて数えた。
【0042】
(ディスクからの微生物の除去)
ディスクに付着した微生物を、マイクロチップを使用し、Sonics Vibracell中、1秒のパルス10回で超音波処理することにより除去した。超音波処理による細胞の除去の有効性は、微生物の増殖が観察できないことにより確認した。
【0043】
(脱離サンプル培養手順)
脱離サンプルをボルテックスで攪拌し、希釈し、以下の培地、すなわち、血液寒天培地、MSA、カンジダ選択寒天培地、マッコンキー培地、およびブドウ球菌培地No.110に接種した。血液寒天培地は嫌気性のチャンバー(窒素中に水素10%、二酸化炭素10%)中で5日間インキュベートし、MSA培地は二酸化炭素5%の空気雰囲気下で2日間インキュベートした、カンジダ選択寒天培地、マッコンキー培地、およびブドウ球菌培地No.110は好気的に2日間インキュベートした。培地上のCFUの総数は、立体顕微鏡を用いて計数した。MSA上のCFUの総数は、異なるコロニータイプの形態、大きさ、数に特に注意を払って分析した。各形態タイプの代表的なコロニーからの細胞をグラム染色し、後で同定するために血液寒天培地に接種した。将来のキャラクタリゼーションのために、MSA上で培養している分離株を、脱脂乳(蒸留水中10%(w/v)の脱脂乳、Oxoid Lab社のL31、Hampshire、英国)中−79℃で保存した。
【0044】
(連鎖球菌の分離株の同定)
グラム陽性でカタラーゼ陰性の連鎖した球菌は、連鎖球菌と考えられ、これらの分離株は以前に記載された特徴(10)に基づいた種および亜種レベルに同定される。
【0045】
〔結果と考察〕(タンパク質相互作用の研究)
OPNとHAとの間、およびOPNと唾液との間の相互作用を調べるために、エリプソメトリー研究をした。
図1に、吸着温度の影響を示す。この図から、HA表面上のOPNの吸着は、ほぼ瞬間的に起こることがわかる。より高い温度(37℃)ではより多量のOPNが吸着されるが、洗浄すると、37℃で安定な表面付着物が1mg/mまで多少脱離する結果となった。歯磨き中のSDSの化学効果をシミュレートするため、SDSをキュベットに5分間添加し、その後緩衝液で洗浄した。本洗浄ステップの後、吸着量とこの2つの温度との間には顕著な相違はない。
【0046】
得られた結果は、OPNがHAディスクの表面被覆を生じさせ、その被覆は水による洗浄後およびSDS処理後に膜厚が低減するとはいえ安定であることを示す。
【0047】
〔細菌被膜の形成〕
表1および表2に示した、マイルドな超音波処理により脱離した細菌数は、それぞれ0.1mg/mlおよび1mg/mlの濃度のOPN溶液で処理したHAディスクの細菌の付着への顕著な影響を、全ての唾液ドナーについて、血液寒天培地およびMSA培地双方のプレート上の細菌総数で示している。BSAまたは唾液で処理したHAディスクは表面に細菌をより多く呈した。微生物の総数はOPC被覆ディスクが対照ディスク(唾液またはBSA被覆)の10〜1000分の1であった。刺激唾液サンプルは、唾液中の細菌叢の共通の特徴であると考えられている高度に多様な細菌の構成を呈した。対照ディスクより有意に少ない連鎖球菌がOPN被覆ディスクにコロニー形成したという発見は興味深いものであった。
【0048】
〔表1〕
両側面を研磨し、異なる前処理後に刺激唾液中でインキュベートした全ディスクの細菌分析。嫌気的にインキュベートした血液寒天プレート上の総数(CFU)。
【0049】
【表1】

【0050】
〔表2〕
両側面を研磨し、異なる前処理後に刺激唾液中でインキュベートした全ディスクの細菌分析。通性嫌気的にインキュベートしたミティス・サリバリウス寒天培地(MSA)上の総数。
【0051】
【表2】

【0052】
〔まとめ〕
これらの結果は、HAディスクのOPN前処理が刺激唾液中でのインキュベーション後の細菌量に明らかな効果を及ぼすことを示す。抗付着効果は、調査した0.1〜1mg/mlの範囲で、歯の類似物を浸すためのOPN溶液の濃度にほとんど依存しないようである。
【0053】
単一層の被覆のためには、OPNの量は少なくてよい。
【0054】
対照ディスクと比較して、有意に少ない連鎖球菌しかOPN被覆ディスクに付着しなかったことは興味深い。
【0055】
(参考文献)
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯のエナメル質上での歯垢細菌の増殖を抑制または予防するための、オステオポンチンの使用。
【請求項2】
虫歯を抑制または予防するための、請求項1に記載のオステオポンチンの使用。
【請求項3】
歯石を抑制または予防するための、請求項1に記載のオステオポンチンの使用。
【請求項4】
歯周病を抑制または予防するための、請求項1に記載のオステオポンチンの使用。
【請求項5】
歯の脱灰を抑制または予防するための、請求項1に記載のオステオポンチンの使用。
【請求項6】
製剤1kgにつきオステオポンチンを約5mgから約1500mg含有する、歯科用製剤。
【請求項7】
練り歯磨き、歯磨き粉、歯磨きゲル、歯科用洗口剤、口腔スプレー、またはチューインガムの形態の、請求項6に記載の歯科用製剤。
【請求項8】
製剤1kgにつきオステオポンチンを約100mgから約1000mg含む、請求項7に記載の歯科用製剤。
【請求項9】
製剤1kgにつきオステオポンチンを約200mgから約500mg含む、請求項8に記載の歯科用製剤。
【請求項10】
製剤1kgにつきオステオポンチンを約350mg含む、請求項9に記載の歯科用製剤。
【請求項11】
虫歯、歯石、または歯周病の治療または予防のための歯科用製剤を製造するための、オステオポンチンの使用。
【請求項12】
有効な量のオステオポンチンを口中に投与することによる、歯のエナメル質上の歯垢細菌の増殖の予防または阻止方法。
【請求項13】
有効な量のオステオポンチンを虫歯、歯石、または歯周病の治療または予防の必要がある患者に経口投与することによる、虫歯、歯石、または歯周病の治療または予防方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−211195(P2012−211195A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−171840(P2012−171840)
【出願日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【分割の表示】特願2006−541800(P2006−541800)の分割
【原出願日】平成16年12月1日(2004.12.1)
【出願人】(501295969)アルラ・フーズ・エイ・エム・ビィ・エイ (11)
【Fターム(参考)】