説明

歯科用複合硬化性組成物

【課題】重合硬化前のペースト状重合性組成物が歯科臨床医の取扱い易い優れた操作性を有し、フィラー濃度を高めることができることで重合硬化物の機械的強度が高く、さらに透明感のある、審美性・表面滑沢性に優れた低熱膨張係数である歯科用複合硬化性組成物を提供する。
【解決手段】本発明の歯科用複合硬化性組成物は、重合性単量体またはオリゴマーに対して1質量%〜95質量%の無機フィラー、および有効量の光重合開始剤を含んでなる歯科用複合硬化性組成物であって、該無機フィラーの形状が鱗片状である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用材料に有用な新規な複合重合性組成物に関する。さらに詳しくは、フィラー充填率を下げることなく該組成物に必要な操作性を付与できる複合重合性組成物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、歯牙欠損部の修復治療のために、重合性単量体またはオリゴマーに無機充填材を配合したコンポジットレジンが使用されている。無機充填材としては粒径数十μmの石英粉砕物や粒径10〜40nmのマイクロフィラー等が使用されている。しかしながら粒径数十μmの石英粉砕物を使用した場合、重合硬化前のペースト状重合性組成物の適度な操作性を得るのにその配合量を70重量部以上にするため、重合硬化後のコンポジットレジンは十分な機械的強度、表面硬さや低熱膨張係数は得られるが、重合性組成物が極めて粘稠になり操作性や歯面への適合性が低下する。また粒径10〜40nmのマイクロフィラーを使用したものは、重合硬化後のコンポジットレジンの審美性は得られるが、重合硬化前のペースト状重合性組成物の適度な操作性を得るのに配合量を60質量%以下にするため、重合硬化後の機械的強度が劣り、熱膨張係数が高くなってしまう。
【0003】
これらの問題点を改善するためバポライズド・メタル・コンバーション(Vaporized Metal Combustion)法により合成された合成石英真球フィラーを使用するコンポジットレジンが提案されている(特許文献1)。しかしながらこの合成石英真球フィラーを使用するコンポジットレジンは、重合硬化前のペースト状重合性組成物の粘着性が高いため、取り扱いの面で不十分であった。
【0004】
同様のガラス粉末は歯科における充填や修復物の接着に用いられるグラスアイオノマーセメントにも使用されており、機械的強度の向上などに寄与しているが、コンポジットレジンと同様にガラス粉末含有量の増加は機械的強度には寄与するが、操作性や歯面適合性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−087719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記問題点を解決した、硬化前のペースト状硬化性組成物が歯科臨床医の取扱い易い優れた操作性を有し、フィラー濃度を高めることができることで硬化物の機械的強度が高く、さらに透明感のある、審美性・表面滑沢性に優れた低熱膨張係数である歯科用複合硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、重合性単量体またはオリゴマーもしくは酸性水溶液に対して、1質量%〜95質量%の無機フィラーを含んでなる歯科用複合硬化性組成物であって、該無機フィラーの形状が鱗片状であることを特徴とする歯科用複合硬化性組成物である。
【発明の効果】
【0008】
鱗片状無機フィラーの表面は滑らかであるためその他のフィラーと比べてレジンおよび酸性水溶液と混合しやすく、複合硬化性組成物中のフィラー濃度を高めやすい。またフィラー含有状態での複合硬化性組成物の流動性が良く、辺縁部まで隙間なく充填させやすい。そのため、破砕型フィラー、マイクロフィラーや球状フィラーでは実現できなかった流動性を改善しながら高い硬さを実現することができる。さらに平板状フィラーであるため、曲げ強度の向上や重合収縮が抑制できる。
【0009】
また、破砕型フィラーに比べて透明性が高く、それゆえに光重合時に深くまで照射光が到達し、重合深度が従来品より深くなる。通常は1〜2mmより深く充填するには複数回の充填・光重合を繰り返して積層するが、透明性ゆえに光重合時に深くまで照射光が到達し、重合深度が従来品より深くなることで1回の光重合によって硬化させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の歯科用コンポジットレジンおよびグラスアイオノマーセメントには充填材として鱗片状無機フィラーを使用することが重要である。このような鱗片状無機フィラーを使用した歯科用コンポジットレジンの光照射により硬化させた硬化物の表面は、酸素の重合阻害によりできた表面未重合層をふき取った場合、表面にフィラーが露出しても表面滑沢性が損なわれず、特に研磨処理を行わなくても光沢があり審美性の高い表面が得られる。また、上記鱗片状無機フィラーを使用することにより良好な機械的強度を有する硬化体が得られる。
【0011】
無機フィラーの種類は特に限定されず、一般に歯科用複合材料に使用されている公知なものが使用できる。具体的に例示すると、シリカ、結晶石英、アルミナ、酸化チタン、アルミノシリケート、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、ストロンチウムガラス、結晶化ガラス等が挙げられる。鱗片状形状を実現するにはシリカ、アルミナ、酸化チタン、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、アルミノシリケート、およびバリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、ストロンチウムガラス、結晶化ガラス等のガラスであることが望ましい。
【0012】
なかでもX線造影性があるシリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、バリウムガラスやストロンチウムガラスが最も望ましく、さらに安全性を考慮するとストロンチウムガラスであることが望ましい。
【0013】
本発明のガラスフィラーに用いられるガラス組成物例(組成例1〜6)として、以下のガラス組成物が挙げられる。
(組成例1)SiOが60〜70質量%、Alが5〜10質量%、CaOが20〜30質量%、MgOが0〜6質量%、RO(RO=NaO+KO)が0〜2質量%、TiOが0〜2質量%のガラス組成物。
(組成例2)SiOが52〜56質量%、Alが12〜16質量%、CaOが16〜25質量%、MgOが0〜6質量%、Bが5〜13質量%、ROが0〜2質量%であるガラス組成物。
(組成例3)SiOが63〜72質量%、Alが1〜7質量%、CaOが4〜11質量%、MgOが0〜5質量%、Bが0〜8質量%、ROが9〜19質量%、ZnOが0〜6質量%であるガラス組成物。
(組成例4)SiOが45質量%以上65質量%以下、Alが5質量%以上15質量%以下、CaOが15質量%以下、MgOが10質量%以下、SrOが15質量%より多く35質量%以下であって(MgO+SrO)が18質量%より多く40質量%以下、ZrOが5質量%未満であるガラス組成物。
(組成例5)SiOが52質量%以上65質量%以下、Alが12質量以上16質量%以下、MgOが6質量%以下、CaOが16質量%より多く25質量%以下、Bが5質量%より多く13質量%以下、(NaO+KO)が1質量%以下であるガラス組成物。
(組成例6)SiOが65質量%以上72質量%以下、Alが1質量%以上7質量%以下、MgOが5質量%以下、CaOが4質量%より多く11質量%以下、Bが8質量%以下、(NaO+KO)が9質量%より多く17質量%以下、ZnOが6質量%未満であるガラス組成物。
【0014】
本発明に係る鱗片状ガラスの作製に適したガラス組成物の例として前記組成例1〜6を示したが、さらにガラスの強度や化学的耐久性を考慮すると前記組成例の4〜6が好適であり、またさらにX線造影性を考慮すると組成例4がさらに好適である。
【0015】
また、ガラス組成における酸化鉄は、ガラス中ではFe3とFeOの状態で存在する。複合重合性組成物の硬化を考慮した場合、Fe3に換算した全酸化鉄は、0.05質量%未満であることが好ましく、さらには0.01質量%以下であることが好ましい。0.05質量%以上では紫外線領域での吸収が大きくなり、深くまで照射光が到達し難くなってしまうからである。
【0016】
無機フィラーの大きさも特に限定されないが、歯科材料として用いるには平均厚さが0.01〜10.0μm、平均粒径が0.5〜1000μmの範囲にあることが好ましい。平均厚さが10.0μmを超えると表面に凹凸ができたり、突起状物等ができたりすることで、違和感や審美性に不具合を生じる場合がある。平均粒径も1000μmを超えると同様の理由で不具合を生じることがある。また、平均厚さが0.01μm未満である場合、材料の生産性が極端に悪くなる場合があり、現実的でない。さらに平均粒径が0.5μm未満である場合、寸法安定性や強度等の機械的特性が付与できない場合があるため好ましくない。さらに好ましくは平均厚さ0.05〜3.0μm、平均粒径1〜100μmである。なお、本明細書において、無機フィラーの平均厚さとは、少なくとも100枚のフレーク状ガラスを抜き取り、それらの無機フィラーについて走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて厚さを測定し、その厚さ合計を測定枚数で割った値をいう。また、本明細書において、無機フィラーの平均粒径とは、レーザー回折散乱法に基づいて測定された粒度分布において、累積質量百分率が50%に相当する粒径(D50)をいう。
【0017】
上記無機フィラーは単一の鱗片状である必要はなく、粒子状、破砕状など形状の異なる2つあるいはそれ以上の群からなる混合フィラー系で使用することができる。
【0018】
上記無機フィラーは、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理することが、重合性単量体またはオリゴマーとのなじみをよくし機械的強度や耐水性を向上させる上で望ましい。表面処理の方法は公知の方法で行えばよく、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられる。
【0019】
本発明に用いられる重合性単量体は特に限定的でなく、一般に歯科用モノマーとして使用される公知のものが使用できる。一般に好適に使用される代表的なものを例示すれば、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基を有する重合可能なモノマーである。具体的に例示すれば次の通りである。
【0020】
イ)単官能性ビニルモノマーメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリレート、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;あるいはアクリル酸、メタクリル酸、p−メタクリロイルオキシ安息香酸、N−2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル−N−フェニルグリシン、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸、およびその無水物、6−メタクリロイルオキシヘキサメチレンマロン酸、10−メタクリロイルオキシデカメチレンマロン酸、2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、10−メタクリロイルオキシデカメチレンジハイドロジェンフォスフェート、2−ヒドロキシエチルハイドロジェンフェニルフォスフォネート。
【0021】
ロ)ニ官能性ビニルモノマー
(1)芳香族化合物系のもの2,2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン(以下、bis−GMAと略記する)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(以下、D−26Eと略記する)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパンおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト。
(2)脂肪族化合物系のもの
エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(以下、3Gと略記する)、ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト;無水アクリル酸、無水メタクリル酸、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エチル、ジ(2−メタクリロイルオキシプロピル)フォスフェート。
【0022】
ハ)三官能性ビニルモノマートリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート等のメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート。
【0023】
ニ)四官能性ビニルモノマーペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートおよびジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物とグリシドールジメタクリレートとの付加から得られるジアダクト。
【0024】
これらの重合性単量体は単独で用いることもあるが、二種類以上を混合して使用することもできる。
【0025】
上記重合性単量体またはオリゴマーに対する前記無機フィラーの添加量は、重合性単量体またはオリゴマーに対して1〜95質量%、好ましくは30〜90質量%、さらに好ましくは50〜80質量%である。1質量%より少ないと歯科用複合硬化性組成物の機械的強度が低下し、95質量%より多い場合も同様に機械的強度が低下、場合によっては成形できなくなる。
【0026】
次に、本発明に用いる光重合開始剤は特に限定されず、光照射により上述のラジカル重合性単量体を重合し得る公知の光ラジカル重合開始剤が制限なく使用される。
【0027】
代表的な光重合開始剤としては、α−ジケトン類、アシルフォスフィンオキサイド類、チオキサントン類、α−アミノアセトフェノン類、アリールボレート類と光酸発生剤類等の光重合開始剤が挙げられる。
【0028】
上記有機過酸化物類を具体的に例示すると、α−ジケトン類としては、カンファーキノン、ベンジル、α−ナフチル、アセトナフテン、ナフトキノン、p,p'−ジメトキシベンジル、p,p'−ジクロロベンジルアセチル、1,2−フェナントレンキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン等が好適に使用できる。
【0029】
アシルフォスフィンオキサイド類としては、ベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0030】
チオキサントン類として2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン等が挙げられる。
【0031】
α−アミノアセトフェノン類として2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1等が挙げられる。
【0032】
更に硬化体の強度を向上させるために、上記した光重合開始剤に第三級アミン類を添加する事が好ましい。具体的に例示すると、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、p−ジメチルアミノスチルベン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2'−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等が挙げられる。
【0033】
アリールボレート類としてはテトラフェニルホウ素、テトラ(p−フルオロフェニル)ホウ素、テトラ(p−クロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p−フルオロフェニル)ホウ素、トリアルキル(3、5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、ジアルキルジフェニルホウ素、ジアルキルジ(p−クロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p−フルオロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(3、5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリ(p−クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−フルオロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(3、5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0034】
光酸発生剤としては、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メチルチオフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2,4−ジクロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−ブロモフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−n−プロピル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(α,α,β−トリクロロエチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−スチリル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(o−メトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−ブトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(3,4−ジメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(3,4,5−トリメトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等のハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体類や、ジフェニルヨードニウム、ビス(p−クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス(m−ニトロフェニル)ヨードニウム、p−tert−ブチルフェニルフェニルヨードニウム、メトキシフェニルフェニルヨードニウム、p−オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム等のクロリド、ブロミド、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセネート、ヘキサフルオロアンチモネート、トリフルオロメタンスルホネート等のジフェニルヨードニウム塩化合物類が例示される。
【0035】
また、上記光酸発生剤を増感分解させることができるクマリン系色素類の添加も好ましく、好適に使用されるクマリン系色素類を具体的に例示すると、3−チエノイルクマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイルクマリン、3−(4−シアノベンゾイル)クマリン、3−チエノイル−7−メトキシクマリン、7−メトキシ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−7−メトキシクマリン、3−(4−シアノベンゾイル)−7−メトキシクマリン、5,7−ジメトキシ−3−(4−メトシキベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−5,7−ジメトキシクマリン、3−(4−シアノベンゾイル)−5,7−ジメトキシクマリン、3−アセチル−7−ジメチルアミノクマリン、7−ジエチルアミノ−3−チエノイルクマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−7−ジエチルアミノクマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−シアノベンゾイル)クマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−ジメチルアミノベンゾイル)クマリン、3−シンナモイル−7−ジエチルアミノクマリン、3−(p−ジエチルアミノシンナモイル)−7−ジエチルアミノクマリン、3−アセチル−7−ジエチルアミノクマリン、3−カルボキシ−7−ジエチルアミノクマリン、3−(4−カルボキシベンゾイル)−7−ジエチルアミノクマリン、3,3'−カルボニルビスクマリン、3,3'−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、2,3,6,7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル−10−(ベンゾチアゾイル)−11−オキソ−1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]キノリジン、3,3'−カルボニルビス(5,7−ジメトキシ)−3,3'−ビスクマリン、3−(2'−ベンズイミダゾイル)−7−ジエチルアミノクマリン、3−(2'−ベンズオキサゾイル)−7−ジエチルアミノクマリン、3−(5'−フェニルチアジアゾイル−2')−7−ジエチルアミノクマリン、3−(2'−ベンズチアゾイル)−7−ジエチルアミノクマリン、3,3'カルボニルビス(4−シアノ−7−ジエチルアミノ)クマリン等を挙げることができる。
上記光重合開始剤の中でも生体に対して為害性の少ない可視光線重合開始剤を用いることが好ましい。
【0036】
上記光重合開始剤の配合量は、前記無機フィラー100重量部に対して0.003〜5重量部、好ましくは0.01〜1重量部の割合で使用される。0.003重量部より少ないと硬化時間が遅延され、5重量部より多いと歯科用硬化性組成物の保存安定性が低下し、重合開始剤によって歯科用コンポジットレジンが着色する恐れがある。
【0037】
本発明に関わる歯科用グラスアイオノマーセメント液については、特に限定されず一般に歯科用グラスアイオノマーセメント液として使用される公知のものが使用できる。具体的にはアクリル酸,メタクリル酸,2−クロロアクリ
ル酸,3−クロロアクリル酸,アコニット酸,メサコン酸,マレイン酸,イタコン酸,フマール酸,グルタコン酸,シトラコン酸の中から選ばれた1種以上を含む共重合体または単独重合体を挙げることができる。
【0038】
本発明は、重合性単量体またはオリゴマーもしくは酸性水溶液に対して1質量%〜95質量%の無機フィラーを混合してなる歯科用複合硬化性組成物であって、該無機フィラーの形状が鱗片状であることを特徴とする歯科用複合硬化性組成物である。
【0039】
以下に、実施例および比較例を示してこの発明をより詳細に説明するが、この発明の要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
ベースレジンとしてBis−GMA(Bis−glycisil Methacrylate)とTEGDMA(Triethyleneglycol−dimethacrylate)を重量比で1:1に混合し、重合開始材として過酸化ベンゾイル、カンファーキノンを各0.5質量%添加した。表1に記載した鱗片状ガラスフィラーを70質量%となるよう乳鉢を用いて前記レジンに混合し、直径6mmのテフロン(登録商標)型に填入、上下をカバーガラスで圧接して光重合(15分/面)後に100℃で加熱重合してフィラー含有樹脂の硬化体を作製した。
【実施例2】
【0041】
表1に実施例2として記載した鱗片状ガラスフィラーを用い、他については実施例1と同様にフィラー含有樹脂の硬化体を作製した。
【実施例3】
【0042】
表1に実施例3として記載した鱗片状ガラスフィラーを用い、他については実施例1と同様にフィラー含有樹脂の硬化体を作製した。
【実施例4】
【0043】
シランカップリング剤として、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM−903)0.25gとγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM−503)0.25gを準備し、イオン交換水49.5gに投入して攪拌し、加水分解させた。実施例1で用いた鱗片状ガラスフィラーについて各50gを精製水0.5Lに懸濁させ、そこに加水分解させたシランカップリング剤を添加した。30分攪拌した後、懸濁液を濾紙で濾過し、濾過固形物を取り出し120℃で2時間乾燥し実施例4〜6の鱗片状ガラスフィラーを作製した。この場合のシランカップリング剤添加量は約1質量%であった。
【0044】
鱗片状ガラスフィラーとしてシランカップリング剤を処理したものを用いた以外は、実施例1と同様にしてフィラー含有樹脂の硬化体を作製した。
【実施例5】
【0045】
鱗片状ガラスフィラーとして実施例2で用いたものを使用した以外は、実施例4と同様にフィラー含有樹脂の硬化体を作製した。
【実施例6】
【0046】
鱗片状ガラスフィラーとして実施例3で用いたものを使用した以外は、実施例4と同様にフィラー含有樹脂の硬化体を作製した。
【0047】
実施例1〜6に用いた鱗片状ガラスフィラーの組成とシランカップリング剤処理の有無を表1に示す。
【0048】
【表1】

【実施例7】
【0049】
実施例1で用いた鱗片状ガラスフィラーについて、添加量を75質量%とした以外は、実施例1と同様にしてフィラー含有樹脂の硬化体を作製した。
【実施例8】
【0050】
実施例1で用いた鱗片状ガラスフィラーについて、添加量を80質量%とした以外は、実施例1と同様にしてフィラー含有樹脂の硬化体を作製した。
【0051】
(比較例1)
実施例1〜3で用いたベースレジンBis−GMA(Bis−glycisil Methacrylate)とTEGDMA(Triethyleneglycol−dimethacrylate)を重量比で1:1に混合し、重合開始材として過酸化ベンゾイル、カンファーキノンを各0.5質量%添加した。前記レジンのみで直径6mmのテフロン(登録商標)型に填入、実施例と同様に上下をカバーガラスで圧接して光重合(15分/面)後に100℃で加熱重合した。
【0052】
(比較例2)
実施例1で用いた鱗片状ガラスフィラーを粉砕シリカフィラーに変更した以外は実施例1と同様にしてフィラー含有樹脂の硬化体を作製した。
【0053】
(比較例3〜4)
比較例2で用いた粉砕シリカフィラーについて、添加量を75質量%(比較例3)および80質量%(比較例4)とした以外は、比較例2と同様にしてフィラー含有樹脂の硬化体を作製した。
【0054】
(評価)
まずビッカース硬さについて、得られたフィラー含有樹脂の硬化体を微小硬さ計(松沢精機製MHT−1型)にてビッカース圧子を用いて、荷重100gf、荷重保持時間30秒で試験片にできたくぼみの対角線長さにより求めた。
また各樹脂について、透明性を株式会社島津製作所製分光光度計UV-3600を用いて550nmにおける透過率で評価した。各樹脂の厚さは1.5mmとした。
評価結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
実施例1〜6と比較例2から、鱗片状ガラスフィラーを用いた場合は、粉砕シリカフィラーを用いた場合と比較してビッカース硬さは遜色ない値を示すにも関わらず、透明性が向上していることがわかる。
【0057】
また実施例7〜8と比較例3〜4から、フィラー添加量を75%以上にした場合、粉砕シリカフィラーを用いたときには成形すらできないが、鱗片状ガラスフィラーを用いたときにはビッカース硬さは低下するものの成形可能であることがわかる。一般的にフィラーの粒度が大きいことはレジンとの混合性を悪くし、高濃度での添加を困難にする。しかしながら鱗片状ガラスフィラーを用いれば、フィラーの表面平滑性が高いため、レジンへの混合性が極めて良く、70質量%を越えて添加することが可能であることがわかる。
【0058】
以上の結果から明らかなように、鱗片状ガラスフィラーを用いれば、複合重合性組成物と混合しやすく、フィラー含有状態での流動性が良いため、フィラー濃度を高くすることができ、硬化体の硬さを高い値にすることができる。また透明性が高いことにより、光重合深度が深くなる。さらに鱗片状フィラーを用いることで、硬化後の複合重合性組成物の曲げ強度の向上や重合収縮が抑制でき、歯科用コンポジットレジンを始めとする歯科用材料を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
鱗片状ガラスフィラーは、複合重合性組成物と混合しやすく、フィラー含有状態での流動性が良いため、複合重合性組成物中のフィラー濃度を高くすることができ、硬化後の複合重合性組成物の硬さを大きくすることができる。また透明性が高いため、光重合深度が深くなる。さらに鱗片状フィラーを用いることにより、硬化後の複合重合性組成物の曲げ強度の向上や重合収縮が抑制でき、歯科用コンポジットレジンを始めとする歯科用材料に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体またはオリゴマーもしくは酸性水溶液に対して1質量%〜95質量%の無機フィラーおよび有効量の重合開始剤を含んでなる歯科用複合硬化性組成物であって、該無機フィラーの形状が鱗片状であることを特徴とする歯科用複合硬化性組成物。
【請求項2】
前記無機フィラーが鱗片状ガラスである、請求項1に記載の歯科用複合硬化性組成物。
【請求項3】
前記無機フィラーは、平均厚さが0.01〜10.0μmであり、平均粒径が0.5〜1000μmである請求項1または2の何れか1項に記載の歯科用複合硬化性組成物。
【請求項4】
前記無機フィラーが、質量%で表して、
45≦SiO≦65、
5≦Al≦15、
0<MgO≦10、
0<CaO≦15、
15<SrO≦35、
18<(MgO+SrO)≦40、
0≦ZrO<5、
の成分を含有し、
およびアルカリ金属酸化物を実質的に含有しないことを特徴とする無機フィラーである請求項1〜3の何れか1項に記載の歯科用複合硬化性組成物。
【請求項5】
前記無機フィラーが、質量%で表して、
52≦SiO≦65、
12≦Al≦16、
0<MgO≦6、
16<CaO≦25、
5<B≦13、
0<(NaO+KO)≦1、
の成分を含有することを特徴とする無機フィラーである請求項1〜3の何れか1項に記載の歯科用複合硬化性組成物。
【請求項6】
前記無機フィラーが、質量%で表して、
65≦SiO≦72、
1≦Al≦7、
0<MgO≦5、
4<CaO≦11、
0<B≦8、
9<(NaO+KO)≦17、
0≦ZnO<6
の成分を含有することを特徴とする無機フィラーである請求項1〜3の何れか1項に記載の歯科用複合硬化性組成物。

【公開番号】特開2010−202560(P2010−202560A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48681(P2009−48681)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本歯科理工学会、「歯科材料・機械」第27巻 第35号(第52回日本歯科理工学会学術講演会の予稿集特集号)、平成20年9月5日発行
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】