説明

歯科用軟質裏装材組成物

【課題】 切削,研磨性が良く、義歯床に対する接着耐久性が良好であるシリコーンゴム系の歯科用軟質裏装材組成物を提供する。
【解決手段】 1分子中にSiO単位を含み更に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を持つシリコーンレジン100部,1分子中に少なくとも3個のけい素原子に直結した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを0.1〜50重量部,シリコーン可溶性白金化合物を前記2成分の合計量に対して1ppm〜2重量部,無機充填材を1〜500重量部含む歯科用軟質裏装材組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は義歯床を装着している人の粘膜や顎堤の状態が悪く、義歯の装着時に粘膜に疼痛を伴う場合にこれを緩和する目的として義歯床の粘膜面に用いて症状を改善する歯科用軟質裏装材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
粘膜や顎堤の状態が悪く義歯床の装着時に粘膜に疼痛を伴う場合、義歯床そのものの設計だけではこの疼痛を改善できないことがある。それは、義歯床自体がアクリル樹脂を主とした硬質の樹脂であり顎堤の退縮が激しく粘膜が薄くなると、この硬質の材料が粘膜に通常より強く当たってしまうことで疼痛が発生するからである。この疼痛を改善するために義歯床の粘膜面に軟質裏装材と呼ばれている材料を接着させる方法がある。この軟質裏装材としては、アクリル樹脂を使用したものやシリコーンゴムが使用されている。特に軟性の状態が長期にわたって持続するシリコーンゴムを素材としたシリコーン系軟質裏装材が広く使用されている。
【0003】
従来の軟質裏装材は、アルケニル基を有すると共に特定構造と特定範囲内の粘度を有するオルガノポリシロキサンと、それとは異なる構造を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、シリコーン可溶性白金化合物と、特定範囲のBET比表面積を有する表面が疎水化された微粉末シリカと、特定範囲の平均粒径の熔融石英とが特定比率で構成されている義歯床用軟質裏装材組成物(例えば、特許文献1参照。)や、1分子中にけい素原子に結合したアルケニル基を少なくとも1個有するポリオルガノシロキサンと、2種類の特定構造を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとヒドロキシル化反応触媒と無機質充填材とで構成されている歯科用軟質裏装材組成物(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。
【0004】
しかしこのような従来のシリコーンゴム系の軟質裏装材は、硬化体がゴム状であるため切削や研磨が非常に行い難いという欠点があった。軟質裏装材を作製する場合、口腔内あるいは口腔外でペースト状態の製品を義歯床面に盛り上げて硬化させた後、患者の口腔内の形状に従って軟質裏装材の辺縁部分を切削し形態修正を行うと共に、表面を滑らかにするために研磨を行う。しかし、シリコーンゴム系の軟質裏装材は切削や研磨が行い難いため特殊な研削材を用いる必要がある。しかし、それでも充分な形態修正ができないことから、患者の口腔内への適合が不十分となり軟質裏装材としての充分な効果を得られないという問題が生じている。また、このシリコーンゴム系の軟質裏装材は専用の接着材を用いて接着させる必要があるが、従来の軟質裏装材は義歯床との接着が不十分であったため義歯床辺縁部においては軟質裏装材が剥離してしまう問題も生じていた。
【0005】
【特許文献1】特開平08−292017号公報
【特許文献2】特開平2002−060311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、切削,研磨性が良く、義歯床に対する接着耐久性が良好である新規なシリコーンゴム系の歯科用軟質裏装材組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は前記課題を解決するために鋭意検討した結果、1分子中にSiO単位を含み更に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を持つシリコーンレジン,1分子中に少なくとも3個のけい素原子に直結した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン,シリコーン可溶性白金化合物及び無機充填材を含有させ前記課題が解決できることを見出して本発明を完成した。
【0008】
即ち本発明は、1分子中にSiO単位を含み更に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を持つシリコーンレジン100部,1分子中に少なくとも3個のけい素原子に直結した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを0.1〜50重量部,シリコーン可溶性白金化合物を前記2成分の合計量に対して1ppm〜2重量部,無機充填材を1〜500重量部含む歯科用軟質裏装材組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る歯科用軟質裏装材組成物は、切削,研磨性が従来の軟質裏装材より優れ、接着耐久性も良好である歯科用軟質裏装材組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る歯科用軟質裏装材組成物に用いる1分子中にSiO単位を含み更に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を持つシリコーンレジンは、一般的に歯科用印象材,軟質裏装材に用いられる脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有するオルガノポリシロキサンとは異なる構造を有し、分子中にSiO単位を含む。このため、この分子は3次元網目構造を有し本発明の基本的な特性である切削,研磨性及び接着耐久性の向上に有効に作用する。本発明に用いられる1分子中にSiO単位を含み更に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を持つシリコーンレジンの代表的なものの構造を分子中の平均単位で示すとSiO単位とRSiO1/2単位(R一価単価水素基)を有するものがあるが、SiO単位のみでも良い。この分子中には、メチル基,エチル基等のアルキル基や、フェニル基を含んでも良いが中でもメチル基を含んだものが最適に使用される。また、本発明で用いられる1分子中にSiO単位を含み更に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を持つシリコーンレジンは脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有するが、この脂肪族不飽和炭化水素としては、ビニル基,プロペニル基,イソプロペニル基等が挙げられる。このうちビニル基を好適に使用することができる。1分子中にSiO単位を含み更に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を持つシリコーンレジンは、液状から固体状まで幅広く使用することができ、5000mPa・s以上であることが望ましい。
【0011】
1分子中にけい素原子に直結した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、その分子中にけい素原子に直結した水素原子を少なくとも3個有する必要があり架橋剤として作用する。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中にSiO単位を含み更に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を持つシリコーンレジン100重量部に対して0.1〜50重量部で使用される。配合量が0.1重量部より少ないと硬化体の硬度が低下するばかりでなく硬化速度も緩慢となり、50重量部より多いと硬化体中に水素ガスによる気泡が発生しやすく正確な適合性の確認ができない。最適に使用できる範囲としては、使用時の歯科用軟質裏装材組成物全体に対して1〜30重量である。
【0012】
シリコーン可溶性白金化合物は、公知の付加反応触媒である塩化白金酸,アルコール変性塩化白金酸,塩化白金酸とオレフィンとの錯体等が挙げられる。特に好適には塩化白金酸のビニルシロキサン錯体が用いられる。これ等の添加量は、前記2成分の使用時の合計量に対して1ppm〜2重量部の範囲である。1ppmより少ないと硬化速度が遅く、またこの白金化合物の触媒能を阻害する物質が微量存在した場合に硬化が遅くなるなどの難点がある。2重量部より多い場合には硬化速度が速すぎると共に経済的な不利を生じる。この塩化白金酸のシリコーン可溶性白金化合物は、アルコール系,ケトン系,エーテル系,炭化水素系の溶剤やポリシロキサンオイル等に溶解して使用することが好ましい。
【0013】
無機充填材は、1分子中にSiO単位を含み更に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を持つシリコーンレジンと共に用いれば、組成物の切削,研磨性を向上させ硬化体の脆さを改善する。この無機充填材としては、石英,クリストバライト,珪藻土,熔融石英,ガラス繊維,二酸化チタン,ヒュームドシリカ等が例示される。このうち熔融石英、ヒュームドシリカが最適に使用されるが、ヒュームドシリカを用いる場合、表面処理により疎水化したものを用いても良い。この無機充填材は、1分子中にSiO単位を含み更に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を持つシリコーンレジン100重量部に対して1〜500重量部配合され、1重量部より少ないと、硬化体の切削,研磨性が充分ではなく、500重量部より多いと組成物の粘度が高くなすぎ操作が困難になってしまう。
【0014】
本発明に係る歯科用軟質裏装材組成物には、その特性を失わない範囲で通常の付加反応に用いる脂肪族不付加基を有するオルガノポリシロキサン,非反応性のシリコーンオイル,有機及び/または無機着色剤や公知の抗菌材を含有しても良い。
【0015】
本発明について実施例を挙げ詳細に説明するが、本発明はこれ等に限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
<実施例1>
下記組成のベースペースト、キャタリストペーストを作製した。
(ベースペースト)
1分子中にSiO単位を含み更に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を持つシリコーンレジン 100g
(25℃における粘度:100000mP・s)
メチルハイドロジェンシロキサン単位を30モル%含有する直鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン 20g
熔融石英 30g
ヒュームドシリカ 3g
ベンガラ 0.2g

(キャタリストペースト)
1分子中にSiO単位を含み更に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を持つシリコーンレジン 100g
(25℃における粘度:100000mP・s)
1,3ジビニルテトラメチルジシロキサン−白金錯体0.8重量%含有シリコーンオイル溶液 1g
熔融石英 30g
ヒュームドシリカ 3g
【0017】
<切削,研磨性の確認>
実施例1中のベースペースト及びキャタリストペーストを等量計量し、30秒練和後、直径20mm,高さ8mmの金属リングに注入し37℃温水中に10分間浸漬した。硬化後に型から取り外した。硬化体の周辺及び中心部を技工用カーバイトバー(ジーシー社製)を用い、切削,研磨性を官能的に評価した。
【0018】
<接着耐久性の確認>
義歯床用レジン(製品名 ジーシーアクロン:ジーシー社製)にて60×60×2mmの平板を作製し、その1/3の部分にシリコーン系軟質裏装用プライマー(製品名 ジーシーリライン レジン用プライマー:ジーシー社製)を塗布し乾燥させた。実施例1中のベースペースト及びキャタリストペーストを等量計量し練和した後、上記アクロン版上全面に盛り、37℃温水中にて24時間放置及び28日間放置した。その後、幅10mmになるよう硬化体を切断し、プライマー塗布面と反対側の面から180度折り返し、万能試験機(商品名 オートグラフ:島津製作所製)にて引張試験を行った。24時間後及び28日後の試験結果を表1に示す。
【0019】
<実施例2>
下記組成のベースペースト、キャタリストペーストを作製した。
(ベースペースト)
1分子中にSiO単位を含み更に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を持つシリコーンレジン 100g
(25℃における粘度:100000mP・s)
メチルハイドロジェンシロキサン単位を30モル%含有する直鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン 2g
熔融石英 200g
ヒュームドシリカ 1g
ベンガラ 0.2g

(キャタリストペースト)
1分子中にSiO単位を含み更に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を持つシリコーンレジン 100g
(25℃における粘度:100000mP・s)
1,3ジビニルテトラメチルジシロキサン−白金錯体0.8重量%含有シリコーンオイル溶液 1g
熔融石英 200g
ヒュームドシリカ 1g

実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0020】
<実施例3>
下記組成のベースペースト,キャタリストペーストを作製した。
(ベースペースト)
1分子中にSiO単位を含み更に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を持つシリコーンレジン 100g
(25℃における粘度:100000mP・s)
メチルハイドロジェンシロキサン単位を30モル%含有する直鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン 6g
熔融石英 30g
ヒュームドシリカ 3g
ベンガラ 0.2g

(キャタリストペースト)
1分子中にSiO単位を含み更に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を持つシリコーンレジン 100g
(25℃における粘度:100000mP・s)
1,3ジビニルテトラメチルジシロキサン−白金錯体0.8重量%含有シリコーンオイル溶液 1g
熔融石英 30g
ヒュームドシリカ 3g

実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0021】
<比較例1>
市販の従来のシリコーン系軟質裏装材(商品名 ジーシーリライン エクストラソフト:ジーシー社製)を用い実施例と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0022】
<比較例2>
実施例3中のシリコーンレジンを特許文献1で使用されているビニル基を有するジメチルポリシロキサンに置き換えたもの作製した。
(ベースペースト)
分子鎖両末端がメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
(25℃における粘度:20000mP・s) 100g
メチルハイドロジェンシロキサン単位を30モル%含有する直鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン 6g
熔融石英 30g
ヒュームドシリカ 3g
ベンガラ 0.2g

(キャタリストペースト)
分子鎖両末端がメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン
(25℃における粘度:20000mP・s) 100g
1,3ジビニルテトラメチルジシロキサン−白金錯体0.8重量%含有シリコーンオイル溶液 1g
熔融石英 30g
ヒュームドシリカ 3g

実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0023】
<表1>

【0024】
表1に示したように本発明の歯科用軟質裏装材組成物は、比較例に示した市販の従来のシリコーン系軟質裏装材と比較して技工用カーバイトバーで容易に切削,研磨することができる。また義歯床材料との接着及び接着耐久性も本発明中の1分子中にSiO単位を含み更に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を持つシリコーンレジンを用いない比較例2と比べても接着性及び接着耐久性が28日後に低下することがない。これ等の点により、本発明に係る歯科用軟質裏装材組成物が、切削,研磨性が良好で接着耐久性においても優れており、本発明に係る歯科用軟質裏装材組成物が従来の問題点を大きく改善していることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中にSiO単位を含み更に脂肪族不飽和炭化水素を少なくとも2個を有する3次元網目構造を持つシリコーンレジン100部,1分子中に少なくとも3個のけい素原子に直結した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを0.1〜50重量部,シリコーン可溶性白金化合物を前記2成分の合計量に対して1ppm〜2重量部,無機充填材を1〜500重量部含む歯科用軟質裏装材組成物。

【公開番号】特開2010−229072(P2010−229072A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77953(P2009−77953)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】