説明

歯車の損傷検出装置及び電動パワーステアリング装置

【課題】合成樹脂製のギヤ部を有する歯車を被検歯車としてその損傷を有無を監視することができる歯車の損傷検出装置を提供する。
【解決手段】損傷検出装置40は、多数の噛合歯を有し且つ合成樹脂材により形成されたギヤ部33を備えている被検歯車16に、当該ギヤ部33の損傷を検出するためのAEセンサ41を取り付けてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車の損傷検出装置及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、ドライバーのステアリング操作の労力を軽減するためにパワーステアリング装置が装備されており、近年、特に小型車両については燃費向上やクリーン化等のために油圧パワーステアリングから電動パワーステアリングへの移行が進んでいる。例えば、下記特許文献1には、操舵補助用の電動モータと、電動モータの回転力を減速して操舵軸に伝達する減速歯車機構とを備えた電動パワーステアリング装置が開示されており、ステアリングホイールの回転に応じた操舵軸の回転を電動モータの回転力により補助している。
また、上記減速歯車機構は、電動モータの出力軸に連結されたウォーム(駆動歯車)と、このウォームに噛み合うウォームホイール(従動歯車)とを備え、ウォームホイールは、操舵軸に一体回転可能に連結されている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−53006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において、減速歯車機構に用いられるウォームホイールには、多数の噛合歯を有し且つ合成樹脂材により形成されたギヤ部と、ギヤ部の内周側に設けられた金属製の芯材とからなるものが用いられている。これにより、ウォームホイールの軽量化や、ウォームとの噛み合い等によって生じる騒音の低減が図られている。
【0005】
しかし、合成樹脂製のギヤ部を有するウォームホイールは、金属製のギヤ部を有するウォームホイールと比べて強度及び耐久性が低くなるため、亀裂や摩耗等の損傷に対して如何に対応するかが重要な課題となる。万一、ウォームホイールが損傷すると動作不良やアシストトルクの低下等の不都合が生じる。
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、合成樹脂製のギヤ部を有する歯車を被検歯車としてその損傷の有無を監視することができる歯車の損傷検出装置及びこの損傷検出装置を備えた電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の歯車の損傷検出装置は、多数の噛合歯を有し且つ合成樹脂材により形成されたギヤ部を備えている被検歯車に、当該ギヤ部の損傷を検出するためのAEセンサを取り付けてなることを特徴とするものである。
また、本発明の電動パワーステアリング装置は、電動モータと、この電動モータによって駆動される駆動歯車と、駆動歯車に噛合し、舵取手段に連動連結される従動歯車と、この従動歯車を前記被検歯車とする上記損傷検出装置と、を備えていることを特徴とするものである。
【0008】
被検歯車には、アコースティックエミッション(AE)と呼ばれる弾性波が生じ、このAEは被検歯車の損傷に伴って変化する。そのため、本発明は、被検歯車にAEセンサを取り付けることにより、被検歯車に生じるAEを検出可能とし、このAEの変化から被検歯車の損傷を検出することができるようにしている。
一方、合成樹脂材の損傷に伴って発生するAEの変化は、一般に金属材の損傷に伴って発生するAEの変化よりも小さくなる。そのため、本発明では、被検歯車に直接AEセンサを取り付けることによって、確実にAEの変化を検出することができるようにしている。
【0009】
被検歯車は、他の歯車との噛み合いながら回転するため、実際にAEセンサを取り付けた箇所から周方向にずれた位置で損傷する場合もある。合成樹脂材は、金属材よりもAEが伝播し難いため、被検歯車の合成樹脂部分にAEセンサを取り付けると、当該AEセンサから離れた位置で損傷が生じたときに、当該損傷に伴うAEを検出し難くなる。そのため本発明では、被検歯車が、前記ギヤ部と、このギヤ部の内周側に設けられた金属材よりなる芯材とを有している場合には、この芯材にAEセンサを取り付ける。これによって、AEセンサから離れた位置で生じた損傷に伴うAEであっても芯材を介して伝播するので、当該AEセンサによって適切に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の実施形態にかかる電動パワーステアリング装置を示す断面図である。電動パワーステアリング装置10は、操舵補助用の電動モータ11と、この電動モータ11の出力軸の回転を減速する減速歯車機構12と、減速歯車機構12によって減速された回転動力が伝達される舵取手段13とを備えている。
また、減速歯車機構12は、電動モータ11の出力軸に接続されたウォーム(駆動歯車)15と、このウォーム15に噛合するウォームホイール(従動歯車;本発明の被検歯車)16とを備えている。
【0011】
舵取手段13は、上端部が図示しないステアリングハンドル(操舵部材)に接続される第1操舵軸18と、上端部が第1操舵軸18にピン19aを介して連結されたトーションバー20と、このトーションバー20の下部にピン19bを介して連結された第2操舵軸21とを有している。この第2操舵軸21は、ユニバーサルジョイント22を介してラックピニオン式の舵取機構(図示略)に連動連結されている。また、第1操舵軸18の外周側には、操舵トルクを検出するトルクセンサ23が設けられている。
【0012】
図2は、当該電動パワーステアリング装置の減速歯車機構12を拡大して示す断面図である。ウォーム15は、軸方向中央部にギヤ部25を備え、軸方向両側に軸部26を備えている。この軸部26は、減速歯車機構12のハウジング27に軸受28,29を介して回転自在に支持され、一方の軸部26は、電動モータ11の出力軸11aに継手30を介して一体回転可能に連結されている。
ウォームホイール16は、金属製の環状の芯材32の外周に、合成樹脂製のギヤ部33を設けたものであり、芯材32は、第2操舵軸21の外周面に一体回転可能に取り付けられている。ギヤ部33の外周面にはウォーム15に噛み合う多数の噛合歯が歯切りされている。なお、ギヤ部33に用いられる合成樹脂材としては、例えば、PA6,PA46,PA66,PA9T,PA6T,PPA等のポリアミド系材料や、PPS(ポリフェニレンサルファイド),POM(ポリアセタール),PBT(ポリブチレンテレフタレート)等が用いられる。
【0013】
芯材32についてより具体的に説明すると、図1に示すように、芯材32は、径方向内側に第2操舵軸21に外嵌される円筒状のボス部35を備え、径方向外側にギヤ部33が固着される円筒状の取付部36を備え、ボス部35と取付部36とは、軸方向の一端部において円環状の連結部37により一体的に連結されている。したがって、芯材32は、ボス部35、連結部37、取付部36とに囲まれた凹溝38を有する。
【0014】
図1及び図2に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置10は、ウォームホイール16の損傷を検出する損傷検出装置40を備えている。この損傷検出装置40は、ウォームホイール16に取り付けられたAE(アコースティックエミッション;弾性波)センサ41を有し、AEセンサ41は、ウォームホイール16のギヤ部33に生じるAEを検出することによって損傷が生じているか否かを判別するために用いられる。
このAEセンサ41は、ウォームホイール16の芯材32に取り付けられている。具体的には、ウォームホイール16の凹溝38内に配置された状態で、取付部36に接触するように取り付けられている。このAEセンサ41によって、ウォームホイール16のギヤ部33で発生し、芯材32に伝播されたAEを検出する。
【0015】
AEセンサ41は、芯材32に対して接着剤により固着することができる。また、図4に示すように、AEセンサ41は、芯材32の取付部36の内周面に形成された凹部47に一部を入り込ませるようにして取り付けることができる。この場合、凹部47を形成するために除去された芯材32の一部の重量とAEセンサ41の重量とを一致させることによって、ウォームホイール16の回転バランスを好適に維持することができる。
また、AEセンサ41は、芯材32に取り付けられた鉤型の留め具48によって固定することもできる。この留め具48としては、図5に示すものを用いることもできる。この場合、先端にフック48aを有する留め具48を連結部37にナット等により固定し、このフック48aをAEセンサ41に係合することによって取り付け状態を維持することができる。
【0016】
電動パワーステアリング装置10の使用中、ウォームホイール16のギヤ部33にはAEが発生し、また、ギヤ部33に損傷が生じると、AEに変化が生じる。しかし、一般に、合成樹脂材に発生するAEは、金属材に発生するAEに比べて小さく、その変化も微小であるため、AEセンサによって検出するのが困難となる。本願出願人は、ギヤ部33に用いられた合成樹脂材に発生するAEの変化を適切に検出するため、当該合成樹脂材に発生するAEの周波数特性について実験を行い、図3に示すようなAEのパワースペクトルを得た。
通常、合成樹脂材に発生するAEのパワーレベル(パワー値)は、低周波数で大きく、高周波数で小さくなるようになだらかに変化する。しかし、例えば合成樹脂材に使用されている無機充填材と母材との結合が破壊され、合成樹脂材に損傷が生じると、図3に点線円で示すように、130kHz付近の特定の周波数帯においてパワーレベルが上昇することが分かった。すなわち、本願出願人は、実験の結果、当該合成樹脂材に損傷が生じたときに特に大きな変化が生じる特定の周波数帯を知得するに至った。
【0017】
そのため、本実施形態の損傷検出装置は、AEセンサ41として、約130kHzの共振周波数を有するものが用いられ、このAEセンサ41によって当該周波数におけるAEを検出するとともに、その変化を監視することによってウォームホイール16のギヤ部33に対する損傷の有無を検出するように構成している。
【0018】
図6は、損傷検出装置40の機能構成を示すブロック図である。この損傷検出装置40は、AEセンサ41の他、車載コンピュータ等からなるデータ処理装置42を含む。車両走行中、AEセンサ41によって検出されたAE信号は、図示しない増幅器やA/D変換器を経た後データ処理装置42に送られ、データ処理装置42の信号処理部43において、波形処理、ヒット処理、FFT解析等の処理が行われる。そして、その処理結果はデータ処理部42の判定部44に送られる。判定部44では、AEのパワーレベルが所定の閾値と比較され、当該閾値よりも小さいときは、ウォームホイール16に損傷がないと判定され、大きいときはウォームホイール16に損傷があると判定される(損傷有り判定)。
【0019】
さらに、この判定結果は、データ処理装置42の動作制御部45に送られる。この動作制御部45は、電動モータ11の動作制御や、ドライバーに電動パワーステアリング装置10の異常を報知する警報装置46の動作制御を行うものであり、判定部44において損傷有り判定が出た場合は、電動モータ11を停止させるとともに、警報装置46を作動してドライバーに異常を伝える。これにより、電動パワーステアリング装置10の動作不良やアシストトルクの低下等が生じる前に電動パワーステアリング装置10を停止し、ドライバーにウォームホイール16の損傷を早期に認識させることができる。
【0020】
上記AEセンサ41は、ウォームホイール16を構成する金属製の芯材32に設けられているので、ギヤ部33のどの場所で損傷が生じても芯材32に伝播されたAEを検出することができる。すなわち、例えば、AEセンサ41がギヤ部33に直接的に取り付けられた場合、AEセンサ41から離れた位置で生じた損傷に伴うAEは、合成樹脂材中を伝播し難いために、AEセンサ41によって検出し難くなるが、AEの伝播し易い芯材32にAEセンサ41を設けることで、確実なAE検出が可能となる。
【0021】
前記AEセンサ41は、芯材32のうちギヤ部33に接触する取付部36に取り付けられているので、AEをより確実に検出することができる。また、AEセンサ41は、芯材32の凹溝38内に設けられているので、AEセンサ41を周囲の邪魔となることなくウォームホイール16に取り付けることができる。
【0022】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく適宜設計変更可能である。上記AEセンサ41は、有線タイプであってもよいし、無線タイプであってもよい。無線タイプのAEセンサ41の場合、例えば、特開2006−250236号公報等に開示されている技術を適用することができる。この場合、ウォームホイール16の芯材32に環状の送信コイルを設け、ハウジング27に、送信コイルに対向する配置で受信コイルを設け、送信コイルと受信コイルとの間で電磁誘導によってAE信号を送受信するように構成することができる。
【0023】
AEセンサ41の共振周波数は、ウォームホイール16に用いられる合成樹脂材に応じて適宜変更することができ、例えば、50kHz〜150kHzの範囲に含まれるものを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る電動パワーステアリング装置の断面図である。
【図2】電動パワーステアリング装置の減速歯車機構の拡大断面図である。
【図3】ウォームホイールを構成する合成樹脂材のパワースペクトルを示すグラフである。
【図4】ウォームホイールにAEセンサを取り付ける一例を示す正面図である。
【図5】ウォームホイールにAEセンサを取り付ける一例を示す断面図である。
【図6】損傷検出装置の機能構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0025】
10 電動パワーステアリング装置
11 電動モータ
12 減速歯車機構
13 舵取手段
15 ウォーム(駆動歯車)
16 ウォームホイール(従動歯車;被検歯車)
32 芯材
33 ギヤ部
40 損傷検出装置
41 AEセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の噛合歯を有し且つ合成樹脂材により形成されたギヤ部を備えている被検歯車に、当該ギヤ部の損傷を検出するためのAEセンサを取り付けてなることを特徴とする歯車の損傷検出装置。
【請求項2】
前記被検歯車が、前記ギヤ部と、このギヤ部の内周側に設けられた金属製の芯材とを有し、前記AEセンサが、前記芯材に取り付けられている請求項1記載の歯車の損傷検出装置。
【請求項3】
電動モータと、この電動モータによって駆動される駆動歯車と、この駆動歯車に噛合し、舵取手段に連動連結される従動歯車と、この従動歯車を前記被検歯車とする請求項1又は2に記載の損傷検出装置と、を備えていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−42151(P2009−42151A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209263(P2007−209263)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】