説明

歯車の歯面形状の測定装置、測定方法、その方法を実現させるプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体

【課題】歯車のかみ合い進行方向に沿う歯面形状を高精度に測定できる測定方法を提供する。
【解決手段】歯車のかみ合い進行方向に沿って歯面形状を測定する方法であって、かみ合い進行方向に沿って歯面形状の実測値を測定する工程(S60)と、実測値に以下の式で求められる補正値Ccompを乗じて歯面形状を算出する工程(S70)とを備える。


ただし、CCVは歯形方向の機械精度誤差に対する補正値、CLDは歯すじ方向の機械精度誤差に対する補正値、αは歯形方向とかみ合い進行方向とによって形成される角度、βは歯車の基礎円筒上ねじれ角を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車の歯面形状の測定装置、測定方法、その方法を実現させるプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体に関し、特に、はすば歯車の歯面形状の測定に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用の動力伝達装置は変速機を備えており、変速機に入力された回転速度が所定の回転速度に変換されて出力される。この変速機には歯車式の変速機構が多用されており、歯車同士の噛み合いにより生じたギヤノイズや振動が、空気伝播あるいは固体伝播により重畳されて騒音を引き起こす可能性がある。このようなギヤノイズや振動が発生する原因としては、歯車の精度による影響が大きいことが確認されている。
【0003】
ギヤノイズや振動を低減させるための方法としては、歯車の歯面形状を正確に測定し、この測定結果に基づいて各歯の歯面形状を管理・評価することが挙げられる。従来の歯車の歯面形状の測定に関し、歯面の同時接触線方向あるいはかみ合い進行方向に沿った歯形形状の誤差を検出する技術が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。また、検定用マスタの形状偏差の影響を受けない歯形測定器の検定法が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−5009号公報
【特許文献2】特開2004−101247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歯車のかみ合い性能と対応のとれる歯車断面形状として、かみ合い進行方向断面形状が上げられる。歯車のギヤノイズ性能を保証するためには、歯車のかみ合い進行方向断面の測定を高精度に行なう必要がある。
【0006】
特許文献1に、歯形方向および歯すじ方向の検出結果からかみ合い進行方向の歯形を理論的に求めることの記載はあるが、歯形方向および歯すじ方向の検出結果を用いて機械精度誤差に対する補正量を求めることについての開示はされていない。
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされてものであり、その主たる目的は、歯車のかみ合い進行方向に沿う歯面形状を高精度に測定できる測定装置、測定方法、その方法を実現させるプログラムおよびそのプログラムを記録した記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の局面に係る歯車の歯面形状の測定装置は、歯車のかみ合い進行方向に沿って歯面形状を測定する装置であって、歯面形状を測定する測定部と、測定部の動作を制御する制御部とを備える。制御部は、測定部により測定されたかみ合い進行方向に沿う歯面形状の実測値に、以下の式で求められる補正値Ccompを乗じて歯面形状を算出する。
【0009】
【数1】

【0010】
ただし、CCVは歯形方向の機械精度誤差に対する補正値、CLDは歯すじ方向の機械精度誤差に対する補正値、αは歯形方向とかみ合い進行方向とによって形成される角度、βは歯車の基礎円筒上ねじれ角を表す。
【0011】
本発明の他の局面に係る歯車の歯面形状の測定方法は、歯車のかみ合い進行方向に沿って歯面形状を測定する方法であって、かみ合い進行方向に沿って歯面形状の実測値を測定する工程と、実測値に以下の式で求められる補正値Ccompを乗じて歯面形状を算出する工程とを備える。
【0012】
【数2】

【0013】
ただし、CCVは歯形方向の機械精度誤差に対する補正値、CLDは歯すじ方向の機械精度誤差に対する補正値、αは歯形方向とかみ合い進行方向とによって形成される角度、βは歯車の基礎円筒上ねじれ角を表す。
【0014】
本発明のさらに他の局面に係るプログラムは、上記の歯車の歯面形状の測定方法をコンピュータに実現させる。
【0015】
本発明のさらに他の局面に係るコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、上記の歯車の歯面形状の測定方法をコンピュータに実現させるプログラムを記録する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の測定方法によると、歯車の各歯毎のかみ合い進行方向に沿う歯面形状を正確に管理・評価することができ、各歯の歯面形状の精度の向上に寄与できる。したがって、歯車同士の噛み合いによるギヤノイズや振動が低減されて騒音を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態の歯車の歯面形状の測定装置を示す斜視図である。
【図2】図1に示す測定装置の制御系統を説明するためのブロック図である。
【図3】本実施の形態に係る測定装置および測定方法により歯面形状を測定されるはすば歯車の一部を拡大して示す第一の斜視図である。
【図4】本実施の形態に係る測定装置および測定方法により歯面形状を測定されるはすば歯車の一部を拡大して示す第二の斜視図である。
【図5】図4に示すはすば歯車の歯面形状の測定方法を示す流れ図である。
【図6】かみ合い進行方向における機差補正値Ccompの導出方法を示す模式図である。
【図7】かみ合い進行方向に沿う歯面の形状の実測値と補正後の値との差を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0019】
なお、以下に説明する実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。また、以下の実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、上記個数などは例示であり、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。
【0020】
図1は、本実施の形態の歯車の歯面形状の測定装置60を示す斜視図である。図1に示すように、この測定装置60では、歯車を装着するための回転軸30がベッド31上に上下方向に向けて設けられており、歯車の他方の軸端を支えるピン32が、回転軸30の上方に回転軸30と対向して配置されている。
【0021】
またベッド31上にコラム33が、回転軸30に接近・離隔する方向(X方向)に往復動可能に配置されている。このコラム33の回転軸30側の正面には、回転軸30の中心軸線と平行な方向すなわち上下方向(Z方向)に往復動するZ軸ヘッド34が取付けられている。さらにこのZ軸ヘッド34の正面には、回転軸30に対して左右方向(Y方向)に往復動するY軸ヘッド35が取付けられている。このY軸ヘッド35の回転軸30側の正面に、触針36がその変位を検出する検出器37を介して取付けられている。触針36は、歯車の歯面と接触しながら歯面形状を測定する。
【0022】
上記の回転軸30およびコラム33ならびに各軸のヘッド34,35は、数値制御(NC;Numerical Control)されて、回転および駆動されるようになっている。図2は、図1に示す測定装置60の制御系統を説明するためのブロック図である。図2に示すように、回転軸30を駆動するサーボモータ38は、回転コントローラ39によって制御される。サーボモータ38の回転量を検出するロータリエンコーダ40が、フィードバック信号を回転コントローラ39に入力するよう接続されている。
【0023】
Y軸ヘッド35を左右方向に駆動するサーボモータ41は、Y軸コントローラ42によって制御される。Y軸ヘッド35のX方向の移動量を検出するリニアエンコーダ43が、フィードバック信号をY軸コントローラ42に入力するよう接続されている。
【0024】
Z軸ヘッド34を上下方向に直線的に移動させるサーボモータ44は、Z軸コントローラ45によって制御される。Z軸ヘッド34の移動量を検出するリニアエンコーダ46が、フィードバック信号をZ軸コントローラ45に入力するように接続されている。
【0025】
コラム33を直線的に往復動させるサーボモータ47は、X軸コントローラ48によって制御される。コラム33の移動量を検出するリニアエンコーダ49が、フィードバック信号をX軸コントローラ48に入力するよう接続されている。
【0026】
これらのコントローラ39,42,45,48に制御信号を出力する制御部50が設けられている。この制御部50には、検出器37が接続される一方、制御内容あるいは検出結果を出力する出力装置51が接続されている。制御部50は、コントローラ39,42,45,48を介して、触針36の動作を制御する。ロータリエンコーダ40およびリニアエンコーダ43,46,49のフィードバック信号は、制御部50にも取り込まれて、制御指令を作成するとともに誤差演算に用いられる。なお、回転軸30の回転および触針36の移動方向は、図1に+,−の符号で示すように設定されている。歯車の歯面形状を測定する測定部としての触針36が、X、Y、Z軸方向に同時に移動することができるように、測定装置60は構成されている。
【0027】
図3および図4は、本実施の形態に係る測定装置および測定方法により歯面形状を測定されるはすば歯車の一部を拡大して示す斜視図である。図中には、左ねじれのはすば歯車1の、一つの歯10が示されている。図3および図4に示すように、はすば歯車1は、歯10の歯先14側に形成された歯先面11と、歯先14と歯元15とを結ぶように形成された歯面12とを有する。歯面12は、矢印4に示す歯形方向に延びる端辺18および19と、歯先14側および歯元15側のそれぞれで、矢印6に示す歯すじ方向に延びる端辺16および17とに囲まれた、略矩形形状に形成されている。端辺18と端辺19とは、歯すじ方向に向い合って互いに平行に延びている。端辺16と端辺17とは、歯形方向に向い合って互いに平行に延びている。
【0028】
図4において歯面12には、矢印8に示すかみ合い進行方向が示されている。はすば歯車1と図示しない相手歯車との間では、各瞬間ごとに所定の接触幅(これを同時接触線と称する)によってかみ合いが生じる。かみ合い進行方向とは、はすば歯車1の歯面12における同時接触線が、はすば歯車1の回転に伴って移動する方向を示している。かみ合い進行方向は、歯すじ方向および歯形方向の双方に対して斜めに延びている。かみ合い進行方向を示す矢印8の延びる方向は、歯面12における各同時接触線上において、歯面12が最も高くなる位置を結んで得られる。なお、歯面12の高さとは、はすば歯車1の設計基準歯面、たとえば、インボリュート歯形の基準歯面から歯面12までの距離を指す。
【0029】
以下、本実施の形態に係るはすば歯車1の歯面12の形状を測定する方法について説明する。図5は、図4に示すはすば歯車1の歯面形状の測定方法を示す流れ図である。なお、本実施の形態に係るはすば歯車1の歯面12の形状の測定方法は、図5に示す各工程を順次実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体、たとえば、ハードディスクやROM(Read-Only Memory)を有するコンピュータにより自動的に行なわれる。ここでいう「コンピュータ」とは、本実施の形態に係る制御部50を構成するものをいう。
【0030】
本実施の形態のはすば歯車1の歯面12の測定方法では、図5に示すように、まず工程(S10)において、歯形方向における機械精度誤差に対する補正値CCVを決定する。具体的には、図1に示す測定装置60を用いて、マスターギヤの歯形方向に沿う歯面形状を測定し、測定された実測値に補正値CCVを乗じることで実測値をマスターギヤの所定の精度に合わせられるように、補正値CCVを決定する。
【0031】
次に工程(S20)において、歯すじ方向における機械精度誤差に対する補正値CLDを決定する。具体的には、図1に示す測定装置60を用いて、マスターギヤの歯すじ方向に沿う歯面形状を測定し、測定された実測値に補正値CLDを乗じることで実測値をマスターギヤの所定の精度に合わせられるように、補正値CLDを決定する。
【0032】
次に工程(S30)において、はすば歯車1のモジュールや、基礎円筒上ねじれ角βなどの歯車諸元を、キーボードなどの入力装置を用いてコンピュータに入力する。なお、インボリュート歯形(歯面)が作られる基礎となる円筒を基礎円筒という。つまり、基礎円筒に巻きつけた糸を緊張した状態で巻き戻したときに、その先端が描く曲線が、インボリュート歯車の歯形を形成する。また、基礎円筒上ねじれ角βとは、基礎円筒の軸方向に対し歯10の歯すじ方向が傾斜する角度を示す。
【0033】
次に工程(S40)において、かみ合い進行方向を設定する。具体的には、工程(S30)において入力された情報に基づいて、歯面12上に複数の同時接触線を設定し、これら複数の同時接触線に交差する方向にかみ合い進行方向を設定する。たとえば、特開平11−118407号公報に記載されている手法を用いてかみ合い進行方向を設定することができる。
【0034】
次に工程(S50)において、かみ合い進行方向における機械精度誤差に対する補正値Ccompを決定する。図6は、かみ合い進行方向における機差補正値Ccompの導出方法を示す模式図である。図6(a)は、図3および図4に示す歯10の歯面12を平面展開した作用面13を示す。作用面13は、その四辺が歯10の端辺16,17,18,19により構成される矩形で表される。図6(b)は、はすば歯車1の外周面における歯10および歯10に隣接する他の歯20の配置を示す図である。図6(b)にはまた、測定子としての触針36がかみ合い進行方向に沿った歯面12の形状を測定するときの、歯すじ方向に展開した触針36の動きが模式的に図示されている。図6(c)は、触針36がかみ合い進行方向に沿った歯面12の形状を測定するときの、歯面法線方向に展開した触針36の動きを模式的に示す図である。
【0035】
図6(a)に示す作用面13上において、矢印4に示す歯形方向と、矢印8に示すかみ合い進行方向とは、角度αを形成するように交差している。作用面13において、かみ合い進行方向は、歯形方向に対し角度α分傾斜している。作用面13が形成する矩形の、歯形方向に延びる端辺18,19の寸法は、図6(a)に示すlで示される。lは、はすば歯車1の歯10の歯面12の形状をかみ合い進行方向に沿って測定するときに、かみ合い進行方向に沿う歯面12形状の歯形方向成分を測るために必要となるはすば歯車1の回転量を示す。換言すると、はすば歯車1を停止させた状態において、かみ合い進行方向に沿う歯面12形状の歯形方向成分を図るために必要な、はすば歯車1に対する触針36の歯面法線方向の相対的な移動量が、寸法lである。
【0036】
一方、はすば歯車1の歯10の歯面12の形状をかみ合い進行方向に沿って測定するときに、かみ合い進行方向に沿う歯面12の形状の歯すじ方向成分を測るために必要となるはすば歯車1の回転量は、図6(c)に示す寸法lTAで表される。はすば歯車1には、基礎円筒上ねじれ角βを有するように歯10が形成されているために、かみ合い進行方向に沿う歯面12の歯すじ方向成分を測定するためには、歯すじ方向だけでなく歯面法線方向への移動も複合して考慮する必要がある。つまり、はすば歯車1の歯10に対して、歯すじ方向に加えて歯面法線方向にも触針36を相対的に移動させ、歯面12および触針36を同期させる必要がある。その場合の触針36の、停止させた状態のはすば歯車1に対する歯面法線方向の相対的な移動量が、寸法lTAである。
【0037】
つまり、かみ合い進行方向に沿う歯面12の形状を測定するときに必要とされる、はすば歯車1の回転量(または、停止状態のはすば歯車1に対する触針36の歯面法線方向の移動量)lは、以下の式で表すことができる。
【0038】
【数3】

【0039】
上述したように、lTAは、かみ合い進行方向に沿う歯面12の形状の歯すじ方向成分を測るために必要となる、停止させた状態のはすば歯車1に対する歯面法線方向の相対的な移動量である。図6(b)に示す、かみ合い進行方向に沿う歯面12の形状の歯すじ方向成分を測る場合の触針36の歯すじ方向の移動量lAXを用いて、lTAは、以下のように表される。
【0040】
【数4】

【0041】
ここで図6(a)を参照して、l、lAXおよび角度αの関係は、
【0042】
【数5】

【0043】
のように表すことができるので、結局lTAは、寸法lを用いて以下のように表される。
【0044】
【数6】

【0045】
したがって、触針36の歯形方向および歯すじ方向における移動量への寄与率を考慮すると、歯形方向には1倍の補正、歯すじ方向にはtanαtanβ倍の補正をする必要があることになる。そのため、かみ合い進行方向における機械精度誤差に対する補正値Ccompは、次式で表されることになる。
【0046】
【数7】

【0047】
このようにして、工程(S10)において決定した歯形方向における機械精度誤差に対する補正値CCV、および、工程(S20)において決定した歯すじ方向における機械精度誤差に対する補正値CLDを用い、CCVおよびCLDを変換して、かみ合い進行方向における機械精度誤差に対する補正値Ccompを決定することができる。
【0048】
図5に戻って、次に工程(S60)において、触針36を歯面12に接触させ、かみ合い進行方向に沿って歯面12を走査するように移動させることにより、歯10のかみ合い進行方向に沿った歯面12の形状の測定を行なう。続いて工程(S70)において、工程(S50)で求めたかみ合い進行方向の機差補正値Ccompを用いて、かみ合い進行方向に沿った歯面12の形状を補正する。具体的には、工程(S60)で測定された歯面12の形状の実測値に、補正値Ccompを乗じることにより、補正後の歯面12の形状を算出する。
【0049】
図7は、かみ合い進行方向に沿う歯面12の形状の実測値と補正後の値との差を模式的に示すグラフである。図7中に破線で示す実測値に対し、上述した補正値Ccompを用いて実測値に対して掛ける値(倍率)を決定することにより、図7中に実線で示す補正後の歯面12の形状が求められる。この補正後の歯面12の形状が、はすば歯車1について許容できる精度誤差の範囲にあることを確認して、歯面12を測定した各はすば歯車1が製品に適用可能であるか否かを判断する。
【0050】
はすば歯車1の歯面12の形状を測定する測定装置60には、たとえば温度環境の変動に伴って発生する材料の膨張または収縮などを原因として、歯車を装着する回転軸30の中心のずれ、コラム33の鉛直方向に対する傾斜など、機械精度の誤差が発生する場合がある。このような誤差の発生に対して、かみ合い進行方向に沿う歯面12の形状の実測値に対する補正値とし補正値Ccompを用いることにより、かみ合い進行方向に沿う歯面12の形状をより精度よく求めることができる。
【0051】
補正後、すなわち機械精度誤差を除いた状態において、歯面12の形状が許容できる誤差範囲を外れている場合、このような歯面12を有するはすば歯車1を製品に使用して回転させるとギヤノイズが発生する。このような場合には、許容誤差範囲を外れた歯面12の形状を有するはすば歯車1を製造ラインから除き、一方、歯面12のマスタ精度に対する精度のずれを、はすば歯車1の製造工程にフィードバックすることができる。その結果、各はすば歯車1の歯面12の形状を調整でき、歯面12の精度のずれを低減することができるので、ギヤノイズを低減することができる。
【0052】
以上説明したように、本実施の形態のはすば歯車1の歯面12の形状の測定方法では、はすば歯車1のかみ合い進行方向に沿って歯面12の形状の実測値を測定する工程(S60)と、当該実測値に上記のかみ合い進行方向の機械精度誤差の補正値Ccompを乗じて歯面12の形状を算出する工程(S70)とを備える。
【0053】
このようにすれば、歯面12をかみ合い進行方向に沿って測定する測定装置60(図1参照)の機械精度誤差を、的確に補正することができる。すなわち、かみ合い進行方向に沿う歯面12の形状の実測値に対し、的確な補正値Ccompを算出することができる。そのため、はすば歯車1の各歯10のかみ合い進行方向に沿う歯面12の形状の測定精度を向上することができるので、各歯10毎のかみ合い進行方向に沿う歯面12の形状を正確に管理・評価することができる。したがって、はすば歯車1同士の噛み合いによるギヤノイズや振動が低減されて、騒音を抑制することが可能になる。
【0054】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0055】
1 はすば歯車、10,20 歯、12 歯面、13 作用面、14 歯先、15 歯元、16,17,18,19 端辺、36 触針、50 制御部、60 測定装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車のかみ合い進行方向に沿って歯面形状を測定する、歯車の歯面形状の測定装置であって、
前記歯面形状を測定する測定部と、
前記測定部の動作を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記測定部により測定された前記かみ合い進行方向に沿う前記歯面形状の実測値に、以下の式で求められる補正値Ccompを乗じて前記歯面形状を算出する、歯車の歯面形状の測定装置。
【数8】

ただし、CCVは歯形方向の機械精度誤差に対する補正値、CLDは歯すじ方向の機械精度誤差に対する補正値、αは前記歯形方向と前記かみ合い進行方向とによって形成される角度、βは前記歯車の基礎円筒上ねじれ角を表す。
【請求項2】
歯車のかみ合い進行方向に沿って歯面形状を測定する、歯車の歯面形状の測定方法であって、
前記かみ合い進行方向に沿って前記歯面形状の実測値を測定する工程と、
前記実測値に以下の式で求められる補正値Ccompを乗じて前記歯面形状を算出する工程とを備える、歯車の歯面形状の測定方法。
【数9】

ただし、CCVは歯形方向の機械精度誤差に対する補正値、CLDは歯すじ方向の機械精度誤差に対する補正値、αは前記歯形方向と前記かみ合い進行方向とによって形成される角度、βは前記歯車の基礎円筒上ねじれ角を表す。
【請求項3】
請求項2に記載の歯車の歯面形状の測定方法をコンピュータに実現させるプログラム。
【請求項4】
請求項2に記載の歯車の歯面形状の測定方法をコンピュータに実現させるプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−160072(P2010−160072A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2833(P2009−2833)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000205568)大阪精密機械株式会社 (1)
【Fターム(参考)】